(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】金属表面処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/48 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
C23C22/48
(21)【出願番号】P 2019115615
(22)【出願日】2019-06-21
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000232656
【氏名又は名称】日本表面化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長沢 壮平
(72)【発明者】
【氏名】香取 光臣
(72)【発明者】
【氏名】保坂 美沙子
(72)【発明者】
【氏名】瓜田 侑己
(72)【発明者】
【氏名】荒 亮多
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-144225(JP,A)
【文献】特開2010-215936(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第02150143(DE,A1)
【文献】特開2007-077450(JP,A)
【文献】特開2006-233327(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1567331(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩を含む
pH8~13の金属表面処理液
に、アルミニウムまたはアルミニウム合金を10℃~80℃で10秒~20分間浸漬することで、前記アルミニウムまたはアルミニウム合金に対して灰色系の色調に着色を行う工程を
含む金属表面処理方法。
【請求項2】
前記テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩が、一酸化テルル、二酸化テルル、三酸化テルル、亜テルル酸、テルル酸、四塩化テルル、テルル化ジメチル、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせである請求項1に記載の金属表面処理方法。
【請求項3】
前記テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩の合計含有量が、0.5~100g/Lである請求項1又は2に記載の金属表面処理方法。
【請求項4】
更に、無機
酸の塩を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の金属表面処理方法。
【請求項5】
前記無機
酸の塩が、硫酸、硝酸、塩酸
またはリン
酸の塩、又はこれらの組み合わせである請求項4に記載の金属表面処理方法。
【請求項6】
前記無機
酸の塩の合計含有量が、1~200g/Lである請求項4又は5に記載の金属表面処理方法。
【請求項7】
更に、有機硫黄化合物若しくはその塩を含む請求項1~6のいずれか一項に記載の金属表面処理方法。
【請求項8】
前記有機硫黄化合物若しくはその塩が、チオ尿素、二酸化チオ尿素、チオジグリコール、ジメチルチオ尿素、チオリンゴ酸、ジチオジグリコール酸、ジメチルスルホキシド、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、チオシアン酸、システイン、メチオニン、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせである請求項7に記載の金属表面処理方法。
【請求項9】
前記有機硫黄化合物若しくはその塩の合計含有量が、0.1~50g/Lである請求項7又は8に記載の金属表面処理方法。
【請求項10】
更に、カルボン酸
の塩若しくはヒドロキシカルボン
酸の塩を含む請求項1~9のいずれか一項に記載の金属表面処理方法。
【請求項11】
前記カルボン酸
の塩若しくはヒドロキシカルボン
酸の塩が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、グルコン酸、マロン酸、コハク酸、安息香酸、ピルビン酸、グリオキシル酸、ニトリロ三酢酸
またはエチレンジアミン四酢
酸の塩、又はこれらの組み合わせである請求項10に記載の金属表面処理方法。
【請求項12】
前記カルボン酸
の塩若しくはヒドロキシカルボン
酸の塩の合計含有量が、0.5~100g/Lである請求項10又は11に記載の金属表面処理方法。
【請求項13】
更に、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、臭素酸、炭酸
またはホウ
酸の塩、又はこれらの組み合わせである、オキソ
酸の塩を含む請求項1~12のいずれか一項に記載の金属表面処理方法。
【請求項14】
前記オキソ
酸の塩の合計含有量が、0.5~100g/Lである請求項13に記載の金属表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面処理液及び金属表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の金属、特にアルミニウム又はアルミニウム合金の着色において、灰色系の色調を得るには陽極酸化や陽極酸化皮膜に染料を吸着させる方法が一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウム又はアルミニウム合金の素地表面に形成した電解発色又は自然発色による発色被膜を、電解着色可能な皮膜構造とした後、電解着色を行って、色を重ね合わせて新たな色調の皮膜を得ることを特徴とするアルミニウム及びアルミニウム合金の電解着色方法が開示されている。そして、このような構成によれば、従来の電解着色方法では得られない様々な中間色を含む種々の色調を得ることができる電解着色方法を提供することができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、金属表面を灰色系の色調に着色するには、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金であればアルマイトを利用する必要があった。すなわち、金属表面を灰色系の色調に着色するには、酸化膜を表面に有する金属を利用する必要があり、処理工程が多く、処理効率の改善が望まれている。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑み、良好な処理効率で金属表面を灰色系の色調に着色することが可能な金属表面処理液及び金属表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩を含む金属表面処理液により処理を行うことで、良好な処理効率で金属表面を灰色系の色調に着色することが可能となることを見出した。
【0008】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩を含む金属表面処理液である。
【0009】
本発明の金属表面処理液は一実施形態において、前記テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩が、一酸化テルル、二酸化テルル、三酸化テルル、亜テルル酸、テルル酸、四塩化テルル、テルル化ジメチル、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせである。
【0010】
本発明の金属表面処理液は別の一実施形態において、前記テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩の合計含有量が、0.5~100g/Lである。
【0011】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、更に、無機酸若しくはその塩を含む。
【0012】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、前記無機酸若しくはその塩が、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせである。
【0013】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、前記無機酸若しくはその塩の合計含有量が、1~200g/Lである。
【0014】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、更に、有機硫黄化合物若しくはその塩を含む。
【0015】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、前記有機硫黄化合物若しくはその塩が、チオ尿素、二酸化チオ尿素、チオジグリコール、ジメチルチオ尿素、チオリンゴ酸、ジチオジグリコール酸、ジメチルスルホキシド、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、チオシアン酸、システイン、メチオニン、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせである。
【0016】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、前記有機硫黄化合物若しくはその塩の合計含有量が、0.1~50g/Lである。
【0017】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、更に、カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩を含む。
【0018】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、前記カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、グルコン酸、マロン酸、コハク酸、安息香酸、ピルビン酸、グリオキシル酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせである。
【0019】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、前記カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩の合計含有量が、0.5~100g/Lである。
【0020】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、更に、オキソ酸若しくはその塩を含む。
【0021】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、前記オキソ酸若しくはその塩が、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、臭素酸、炭酸、ホウ酸、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせである。
【0022】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、前記オキソ酸若しくはその塩の合計含有量が、0.5~100g/Lである。
【0023】
本発明の金属表面処理液は更に別の一実施形態において、処理対象の金属が、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、鉄、鉄合金、亜鉛、亜鉛合金、ニッケル、ニッケル合金、マグネシウム、及びマグネシウム合金からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0024】
本発明は別の一側面において、本発明の金属表面処理液を使用して、金属に対して着色を行う工程を含む金属表面処理方法である。
【0025】
本発明の金属表面処理方法は一実施形態において、前記金属に対して着色を行う工程において、前記金属を前記金属表面処理液に10℃~80℃で10秒~20分間浸漬することで前記金属を着色する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、良好な処理効率で金属表面を灰色系の色調に着色することが可能な金属表面処理液及び金属表面処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の金属表面処理液及び金属表面処理方法の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0028】
〔金属表面処理液〕
本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩を含む。テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩を含む金属表面処理液を用いることで、処理対象の金属を当該金属表面処理液に浸漬するだけで、金属表面に皮膜(着色皮膜)を形成することができ、これにより灰色系の色調に着色することができる。このため、金属表面を灰色系の色調に着色する際に、当該金属の表面に酸化膜を形成しておく必要もなく、電解によって着色する必要もなくなり、処理効率が良好となる。また、本発明の実施形態に係る金属表面処理液によれば、金属表面に形成する皮膜(着色皮膜)の密着性も良好となる。
【0029】
(処理対象の金属)
本発明の実施形態に係る金属表面処理液で表面を着色する対象となる金属(処理対象の金属)としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、鉄、鉄合金、亜鉛、亜鉛合金、ニッケル、ニッケル合金、マグネシウム、及びマグネシウム合金からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。処理対象の金属は、当該金属自体であってもよく、例えば、鉄系材料や鉄系部品などの金属基材の表面に形成された、当該金属のメッキであってもよい。
【0030】
(テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩)
テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩は、一酸化テルル、二酸化テルル、三酸化テルル、亜テルル酸、テルル酸、四塩化テルル、テルル化ジメチル、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせであるのが好ましい。一酸化テルル、二酸化テルル、三酸化テルル、亜テルル酸、テルル酸、四塩化テルル、テルル化ジメチルの塩としては、これらの金属塩、又はアンモニウム塩などを用いることができる。
【0031】
本発明の実施形態に係る金属表面処理液におけるテルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩の合計含有量は、処理対象の金属の種類、及び、どの程度の灰色系の色調に着色するかによるが、例えば、テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩の合計含有量は、0.5~100g/Lとすることができる。基本的には、テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩の合計含有量が少ないほど、金属表面を薄い灰色系の色調に着色することができる。また、テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩の合計含有量が多いほど、金属表面を濃い灰色系の色調に着色することができる。テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩の合計含有量は、1~50g/Lであることがより好ましく、2~20g/Lであることがより好ましい。
【0032】
本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、後述のように、無機酸若しくはその塩、有機硫黄化合物若しくはその塩、カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩、オキソ酸若しくはその塩等を含んでもよいが、これらの成分を含まない金属表面処理液の場合、特にアルミニウム、アルミニウム合金などの金属表面を、より美観に優れた灰色系の色調に着色することができる。
【0033】
(無機酸若しくはその塩)
本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、更に、無機酸若しくはその塩を含んでもよい。本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、無機酸若しくはその塩を含んでも、良好な処理効率で前述の処理対象の金属表面を灰色系の色調に着色することができる。また、本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、無機酸若しくはその塩を含むことにより、金属溶解が促進し金属表面のpHが上昇することで着色皮膜が形成される反応が促進されるため、特に銅、銅合金、鉄、鉄合金、亜鉛、亜鉛合金、ニッケル、ニッケル合金、マグネシウム、マグネシウム合金などの金属の表面を、より美観に優れた灰色系の色調に着色することができる。
【0034】
無機酸若しくはその塩が、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせであるのが好ましい。硫酸、硝酸、塩酸、リン酸の塩としては、これらの金属塩、又はアンモニウム塩などを用いることができる。
【0035】
本発明の実施形態に係る金属表面処理液における無機酸若しくはその塩の合計含有量は、1~200g/Lとすることができる。基本的には、無機酸若しくはその塩の合計含有量が少ないほど、金属表面を薄い灰色系の色調に着色することができる。また、無機酸若しくはその塩の合計含有量が多いほど、金属表面を濃い灰色系の色調に着色することができる。無機酸若しくはその塩の合計含有量は、10~150g/Lであることがより好ましく、70~120g/Lであることがより好ましい。
【0036】
(有機硫黄化合物若しくはその塩)
本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、更に、有機硫黄化合物若しくはその塩を含んでもよい。本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、有機硫黄化合物若しくはその塩を含んでも、良好な処理効率で前述の処理対象の金属表面を灰色系の色調に着色することができる。また、本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、有機硫黄化合物若しくはその塩を含むことにより、有機硫黄化合物によって金属溶解が促進し金属表面のpHが上昇することで着色皮膜が形成される反応が促進される。このため、特に銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金などの金属の表面を、より美観に優れた灰色系の色調に着色することができる。
【0037】
有機硫黄化合物若しくはその塩が、チオ尿素、二酸化チオ尿素、チオジグリコール、ジメチルチオ尿素、チオリンゴ酸、ジチオジグリコール酸、ジメチルスルホキシド、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、チオシアン酸、システイン、メチオニン、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせであるのが好ましい。チオ尿素、二酸化チオ尿素、チオジグリコール、ジメチルチオ尿素、チオリンゴ酸、ジチオジグリコール酸、ジメチルスルホキシド、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、チオシアン酸、システイン、メチオニンの塩としては、これらの金属塩、又はアンモニウム塩などを用いることができる。
【0038】
本発明の実施形態に係る金属表面処理液における有機硫黄化合物若しくはその塩の合計含有量は、0.1~50g/Lとすることができる。基本的には、有機硫黄化合物若しくはその塩の合計含有量が少ないほど、金属表面を薄い灰色系の色調に着色することができる。また、有機硫黄化合物若しくはその塩の合計含有量が多いほど、金属表面を濃い灰色系の色調に着色することができる。有機硫黄化合物若しくはその塩の合計含有量は、1~30g/Lであることがより好ましく、5~15g/Lであることがより好ましい。
【0039】
(カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩)
本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、更に、カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩を含んでもよい。本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩を含んでも、良好な処理効率で前述の処理対象の金属表面を灰色系の色調に着色することができる。また、本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩を含むことにより、カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸がテルルとキレートすることで着色反応が抑制され緻密な皮膜が形成されやすくなる。このため、特に銅、銅合金、鉄、鉄合金、亜鉛、亜鉛合金などの金属の表面を、より美観に優れた灰色系の色調に着色することができる。
【0040】
カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、グルコン酸、マロン酸、コハク酸、安息香酸、ピルビン酸、グリオキシル酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせであるのが好ましい。ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、グルコン酸、マロン酸、コハク酸、安息香酸、ピルビン酸、グリオキシル酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸の塩としては、これらの金属塩、又はアンモニウム塩などを用いることができる。
【0041】
本発明の実施形態に係る金属表面処理液におけるカルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩の合計含有量は、0.5~100g/Lとすることができる。基本的には、カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩の合計含有量が少ないほど、金属表面を濃い灰色系の色調に着色することができる。また、カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩の合計含有量が多いほど、金属表面を薄い灰色系の色調に着色することができる。カルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸、又はこれらの塩の合計含有量は、1~50g/Lであることがより好ましく、10~30g/Lであることがより好ましい。
【0042】
(オキソ酸若しくはその塩)
本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、更に、オキソ酸若しくはその塩を含んでもよい。本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、オキソ酸若しくはその塩を含んでも、良好な処理効率で前述の処理対象の金属表面を灰色系の色調に着色することができる。また、本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、オキソ酸若しくはその塩を含むことにより、特に銅、銅合金、鉄、鉄合金、亜鉛、亜鉛合金などの金属の表面を、より美観に優れた灰色系の色調に着色することができる。
【0043】
オキソ酸若しくはその塩が、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、臭素酸、炭酸、ホウ酸、若しくはこれらの塩、又はこれらの組み合わせであるのが好ましい。過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、臭素酸、炭酸、ホウ酸の塩としては、これらの金属塩、又はアンモニウム塩などを用いることができる。
【0044】
本発明の実施形態に係る金属表面処理液におけるオキソ酸若しくはその塩の合計含有量は、0.5~100g/Lとすることができる。基本的には、オキソ酸若しくはその塩の合計含有量が少ないほど、金属表面を薄い灰色系の色調に着色することができる。また、オキソ酸若しくはその塩の合計含有量が多いほど、金属表面を濃い灰色系の色調に着色することができる。オキソ酸若しくはその塩の合計含有量は、1~50g/Lであることがより好ましく、10~30g/Lであることがより好ましい。
【0045】
(水性媒体)
本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、前述の各種成分に、水性媒体を混合したものであってもよい。水性媒体は、水を主成分とする媒体を示す。水性媒体としては、例えば、水を主成分とし、水と混和可能なアルコール等の有機溶媒を含む媒体が挙げられる。水性媒体は、本発明の実施形態に係る金属表面処理液の調製の際、金属表面処理液の保存の際、又は金属表面を着色した後において、当該金属の着色表面の何らかの特性向上のために有利に作用する各種の成分、又は本発明の効果を実質的に阻害しない各種成分を、必要に応じて含むことができる。例えばpH調整剤、保存安定剤等は、そのような成分の具体例である。
【0046】
〔金属表面処理方法〕
次に、本発明の実施形態に係る金属表面処理方法について詳述する。まず、本発明の実施形態に係る金属表面処理液が入った浴槽を準備する。次に、浴槽中の金属表面処理液の温度を制御しながら、処理対象の金属を金属表面処理液に浸漬する。所定時間経過後、浴槽から処理対象の金属を引き上げることで、金属表面が灰色系の色調に着色された金属を得る。このように、本発明の実施形態に係る金属表面処理方法によれば、処理対象の金属を金属表面処理液に浸漬するだけで、灰色系の色調に着色することができる。このため、金属表面を灰色系の色調に着色する際に、当該金属の表面に酸化膜を形成しておく必要もなく、電解によって着色する必要もなくなり、処理効率が良好となる。
【0047】
また、本発明の実施形態に係る金属表面処理方法において、処理対象の金属を金属表面処理液に浸漬する以外に、例えば、金属表面処理液を用いた吹き付け工程によって、処理対象の金属の表面に金属表面処理液を接触させて、処理対象の金属の表面を着色してもよい。
【0048】
金属表面処理液による処理温度は、10~80℃の範囲が好ましく、10~60℃の範囲がより好ましく、30~60℃の範囲が更により好ましい。処理温度が10℃以上であると表面処理の反応速度が増し、80℃以下であると蒸発による金属表面処理液の液面の低下を抑制することができる。
【0049】
金属表面処理液による処理時間は、10秒~20分間の範囲が好ましく、30秒~20分間の範囲がより好ましく、1分~10分間の範囲が更により好ましい。基本的には、処理時間が短いほど、金属表面を薄い灰色系の色調に着色することができる。また、処理時間が長いほど、金属表面を濃い灰色系の色調に着色することができる。
【0050】
金属表面処理を行う際、あらかじめ処理対象の金属の脱脂、活性化、表面調整を行うことで、処理対象の金属の外観、耐食性及び金属表面処理液との反応性を向上させることが可能である。
【0051】
金属表面処理後に、ケイ素、樹脂及びワックスからなる群のうちの1種以上を含有するコーティング剤にて後処理を行っても良い。所望の金属表面の色調に影響を与えない範囲において、これらコーティング剤に特に限定はなく、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート等の樹脂類やケイ酸塩、コロイダルシリカ等を成分とするコーティング剤を用いても良い。これらの樹脂濃度は、0.01~800g/Lが好ましいが、適切な濃度は樹脂の種類により異なる。コーティング剤としては、具体的には、コスマーコート(商品名、関西ペイント(株))、ハイシール272(商品名、日本表面化学(株))、ストロンJSコート(商品名、日本表面化学(株))、トライナーTR-170(商品名、日本表面化学(株))、フィニガード(商品名、Coventya社)等が挙げられる。アクリル樹脂としては、具体的には、ヒロタイト(商品名、日立化成(株))、アロセット(商品名、(株)日本触媒)等があり、オレフィン樹脂については、フローセン(商品名、住友精化(株))、PES(商品名、日本ユニカー(株))、ケミパール(商品名、三井化学(株))、サンファイン(商品名、旭化成(株))等が挙げられる。
【0052】
本発明の実施形態に係る金属表面処理液は、金属表面を、所望の色に着色させる、所望の美観を付与する、又は識別性を付与する等の目的で使用することができる。このような処理対象の金属の形態としては、あらゆるものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、装飾品、ボタンやファスナー等のファスニング部材、車載用部品等を用いることができる。また、当該処理対象の金属の形状についても限定されず、あらゆる形状のものを用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0054】
〔試験例1:アルミニウム、アルミニウム合金の着色試験〕
(実施例1~17、26~33、92、93、参考例18~25、34~35)
試験片(処理対象の金属片)として、JIS A5052(アルミニウム-マグネシウム合金)、ADC12(アルミダイキャスト)を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、表1~3、8に示す液組成の金属表面処理液を入れた浴槽を準備した。金属表面処理液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の金属表面処理液を表1~3、8に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表1~3、8に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0055】
なお、実施例92及び93については、浸漬により皮膜(着色皮膜)を形成した後の試験片を水洗し、コーティング処理を行い、乾燥した。実施例92のコーティング処理にはストロンJSコート(日本表面化学(株)製コーティング剤)、実施例93のコーティング処理にはTR-170(日本表面化学(株)製コーティング剤)を使用した。
【0056】
〔試験例2:銅、銅合金の着色試験〕
(参考例36~55)
試験片(処理対象の金属片)として、JIS C2600P(真鍮)、C1100P(純銅)を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、表4~5に示す液組成の金属表面処理液を入れた浴槽を準備した。金属表面処理液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の金属表面処理液を表4~5に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表4~5に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0057】
〔試験例3:亜鉛、亜鉛合金の着色試験〕
(実施例56~59、65、69~71、75、参考例60~64、66~68、72~74)
試験片(処理対象の金属片)として、JIS ZDC2(亜鉛ダイキャスト)及び亜鉛めっき材を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。当該亜鉛めっき材は、JISで規定されるJIS SPCC(圧延鋼板)を基材として、膜厚8μmのジンケート亜鉛メッキを施したものである。また、当該ジンケート亜鉛メッキの光沢剤として、日本表面化学株式会社製9000ABSを使用した。
次に、表6~7に示す液組成の金属表面処理液を入れた浴槽を準備した。金属表面処理液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の金属表面処理液を表6~7に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表6~7に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0058】
〔試験例4:鉄、鉄合金の着色試験〕
(実施例76~80)
試験片(処理対象の金属片)として、JIS SPCC(圧延鋼板)を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、表7に示す液組成の金属表面処理液を入れた浴槽を準備した。金属表面処理液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の金属表面処理液を表7に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表7に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0059】
〔試験例5:マグネシウム、マグネシウム合金の着色試験〕
(参考例81~86)
試験片(処理対象の金属片)として、JIS AZ31及びJIS AZ91(マグネシウム-亜鉛合金)を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、表8に示す液組成の金属表面処理液を入れた浴槽を準備した。金属表面処理液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の金属表面処理液を表8に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表8に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0060】
〔試験例6:ニッケル、ニッケル合金の着色試験〕
(参考例87~91)
試験片(処理対象の金属片)として、JIS Ni200(純ニッケル)を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、表8に示す液組成の金属表面処理液を入れた浴槽を準備した。金属表面処理液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の金属表面処理液を表8に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表8に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0061】
〔試験例7〕
(比較例1~10)
試験片(処理対象の金属片)として、表9に示す金属を準備し、当該試験片の表面に、脱脂、水洗を順に行った。
次に、表9に示す液組成の金属表面処理液を入れた浴槽を準備した。金属表面処理液の水性媒体は純水を使用した。
次に、浴槽中の金属表面処理液を表9に示す温度に制御した状態で、試験片を浸漬した。表9に示す時間だけ浸漬させた後、試験片を取り出した。次に、試験片の表面を水洗し、続いて乾燥した。
【0062】
〔各種評価〕
実施例1~17、26~33、56~59、65、69~71、75~80、92、93、参考例18~25、34~55、60~64、66~68、72~74、81~91、及び比較例1~10で作製した試験片について、色調評価及び密着性評価を以下の通り行った。
【0063】
(色調評価)
試験片の表面の色調は、目視により評価した。評価基準を以下に示す。
A:均一で美観に優れた処理外観を有するアンティークグレー
B:均一で美観に優れた処理外観を有するAよりも濃いアンティークグレー
C:均一で美観に優れた処理外観を有するAよりも薄いアンティークグレー
D:着色せず
【0064】
(密着性評価)
試験片の表面に、カッターで10×10マス(合計100マス)の切り込みを入れ、セロテープ(登録商標)を貼って剥がした際に、着色皮膜が剥がれなかったマス目の数をカウントした。1マス分のサイズは、縦×横=1mm×1mmであった。
各表には、(着色皮膜が剥がれなかったマス目の数)/100で示しており、着色皮膜が剥がれなかったマス目の数が大きいほど着色皮膜の密着性が高いことを示している。
【0065】
実施例1~17、26~33、56~59、65、69~71、75~80、92、93、参考例18~25、34~55、60~64、66~68、72~74、81~91、及び比較例1~10について、試験条件及び評価結果を表1~9に示す。
なお、表1~8における試験No.18~25、34~55、60~64、66~68、72~74、81~91はそれぞれ参考例である。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
以上の結果から、実施例1~17、26~33、56~59、65、69~71、75~80、92、93、参考例18~25、34~55、60~64、66~68、72~74、81~91のように、テルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩を含む金属表面処理液によれば、良好な処理効率で金属表面を灰色系の色調に着色することができることが確認された。
一方、比較例1~10のように、金属表面処理液がテルル若しくはテルル化合物、又はこれらの塩を含まないと、金属表面を灰色系の色調に着色することができないことが確認された。