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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】エンジンの冷却構造
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/14 20060101AFI20230912BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
F02F1/14 Z
F02F1/14 A
F01P3/02 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019207704
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021080857
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】松本 大典
(72)【発明者】
【氏名】村中 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】田畑 大介
(72)【発明者】
【氏名】高原 正輝
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-110618(JP,A)
【文献】特開2016-003600(JP,A)
【文献】特開2011-231704(JP,A)
【文献】特開2018-096207(JP,A)
【文献】特開2008-208744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00~ 1/22
F01P 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒が所定方向に一列に並んだ気筒列と、この気筒列の周囲を取り囲むように形成されたウォータージャケットと、を備えたシリンダブロックと、
前記気筒列の周囲を取り囲む筒型形状を成し、前記ウォータージャケット内に配置されて冷却水の水流をコントロールするウォータージャケットスペーサと、を備えたエンジンの冷却構造であって、
前記ウォータージャケットスペーサは、気筒列方向における一端部及び他端部で分割されており前記一端部において互いに連結される第1末端部と、前記他端部において互いに連結される第2末端部とを有しており
前記シリンダブロックは、前記ウォータージャケットスペーサの前記一端部に対応する位置に、前記ウォータージャケット内に冷却液を供給する供給口を備え、
前記ウォータージャケットスペーサの前記各第1末端部及び前記各第2末端部のうち、各第1末端部のみが、気筒軸方向において前記供給口の長さよりも長い範囲に亘って互いに重なり合っている、ことを特徴とするエンジンの冷却構造。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの冷却構造において、
気筒列方向における前記ウォータージャケットスペーサの前記一端部と同じ側で前記シリンダブロックに取り付けられ、冷却水を前記供給口に向かって圧送するウォータポンプを備えている、ことを特徴とするエンジンの冷却構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエンジンの冷却構造において、
前記ウォータージャケットスペーサの前記各第1末端部には、互いに係合することにより各第1末端部の相対的な変位を規制する規制部が設けられている、ことを特徴とするエンジンの冷却構造。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジンの冷却構造において、
前記各第1末端部は、気筒軸方向における前記規制部の位置以外の部分が互いに重なりあっている、ことを特徴とするエンジンの冷却構造。
【請求項5】
請求項4に記載のエンジンの冷却構造において、
前記ウォータージャケットは、前記シリンダブロックにおけるシリンダヘッド側から反シリンダヘッド側に向かって流路幅が漸次狭くなる形状を有しており、
前記規制部は、前記各第1末端部のうち、気筒軸方向における前記ウォータージャケットスペーサの中間部よりも前記シリンダヘッド側に偏った位置に設けられている、ことを特徴とするエンジンの冷却構造。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載のエンジンの冷却構造において、
前記ウォータージャケットスペーサの内壁面のうち、前記供給口に対応する位置に膨張部材が備えられている、ことを特徴とするエンジンの冷却構造。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載のエンジンの冷却構造において、
前記供給口は、気筒列方向及び気筒軸方向の双方に直交する直交方向において、気筒軸を境に対称な位置に各々備えられている、ことを特徴とするエンジンの冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォータージャケット内に、冷却水の水流をコントロールするためのウォータージャケットスペーサが配置されたエンジンの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
多気筒エンジン(内燃機関)のシリンダブロックには、複数の気筒(気筒列)の周囲を包囲するように、冷却水の流通経路となるウォータージャケットが設けられる。ウォータージャケットの内部には、気筒を狙いの温度に設定するために、冷却水の水流をコントロールするウォータージャケットスペーサが配置される。
【0003】
ウォータージャケットスペーサは、各気筒に対応する部分が連なった筒型形状を有し、全体が一体に成型されたものが一般的である。しかし、近年では、機能性の確保や生産面の事情から、例えば特許文献1に開示されるように、互いに独立した2つのパーツから構成された分割構造のウォータージャケットスペーサも見られる。特許文献1に開示されるウォータージャケットスペーサは、気筒列方向における両端部分で分割された構成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-131963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1に開示されるエンジンでは、シリンダブロックにおける気筒列方向の一端部分に冷却水供給口が設けられており、次のような問題が考えられる。すなわち、当該エンジンでは、冷却水供給口を通じてウォータージャケットに供給される冷却水の水圧が、ウォータージャケットスペーサを構成する2つのパーツの連結部分の近傍に作用し、当該水圧により2つのパーツの間に隙間が形成されてウォータージャケットスペーサの内側に冷却水が流入することが考えられる。このような場合には、ウォータージャケット内において狙った水流を得ることができず、気筒の冷却効果に影響が出ることが考えられる。このような現象は、冷却水供給口の近傍にウォータポンプが配置される場合に特に顕著になる。
【0006】
従って、分割構造を有するウォータージャケットスペーサがウォータージャケットに備えられる場合には、そのような不都合を回避するための対策が必要となるが、特許文献1には、この点についての開示や示唆は見られない。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、分割構造を有するウォータージャケットスペーサがウォータージャケット内に備えられたエンジンにおいて、ウォータージャケットスペーサの内側に意図せぬ水流が形成されることを抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、複数の気筒が所定方向に一列に並んだ気筒列と、この気筒列の周囲を取り囲むように形成されたウォータージャケットと、を備えたシリンダブロックと、前記気筒列の周囲を取り囲む筒型形状を成し、前記ウォータージャケット内に配置されて冷却水の水流をコントロールするウォータージャケットスペーサと、を備えたエンジンの冷却構造であって、前記ウォータージャケットスペーサは、気筒列方向における一端部及び他端部で分割されており前記一端部において互いに連結される第1末端部と、前記他端部において互いに連結される第2末端部とを有しており、前記シリンダブロックは、前記ウォータージャケットスペーサの前記一端部に対応する位置に、前記ウォータージャケット内に冷却液を供給する供給口を備え、前記ウォータージャケットスペーサの前記各第1末端部及び前記各第2末端部のうち、各第1末端部のみが、気筒軸方向において前記供給口の長さよりも長い範囲に亘って互いに重なり合っているものである。
【0009】
この冷却構造によれば、ウォータージャケットスペーサの各第1末端部が供給口の長さよりも長い範囲に亘って互いに重なり合っているため、供給口から供給される冷却水の水圧がウォータージャケットスペーサの前記一端部に作用しても、両末端部が離間や変形をし難くい。つまり、両末端部の間に隙間が形成され難い。そのため、当該隙間が形成されて、ウォータージャケットスペーサの内側に意図せぬ水流が形成されることを抑制することが可能となる。また、この構造によれば、第1、第2の末端部のうち、冷却水の水圧により隙間が形成され易い各第1末端部のみが互いに重なり合った合理的な構造が達成される。
【0010】
特に、気筒列方向における前記ウォータージャケットスペーサの前記一端部と同じ側で前記シリンダブロックに取り付けられ、冷却水を前記供給口に向かって圧送するウォータポンプがエンジンに備えられている場合には、供給口から供給される冷却水の水圧が相対的に高くなるため、両第1末端部の間に前記隙間が形成されることが懸念される。しかし、各第1末端部が互いに重なり合っている上記構造によれば、両第1末端部の間に隙間が形成されることが効果的に抑制される。
【0011】
上記各態様の冷却構造において、前記ウォータージャケットスペーサの前記各第1末端部には、互いに係合することにより各第1末端部の相対的な変位を規制する規制部が設けられているのが好適である。
【0012】
この構造によれば、各第1末端部がより離間し難くなるため、冷却水の水圧によって両末端部の間に隙間が形成されることがより高度に抑制される。
【0013】
この冷却構造においては、前記各第1末端部は、気筒軸方向における前記規制部以外の部分が互いに重なりあっているのが好適である。
【0014】
この構成によれば、各第1末端部のうち規制部以外の部分、すなわち冷却水の水圧を受けたときに特に離間し易くなる部分が重なっているので、合理的な構造で両第1末端部の間に隙間が形成されることを抑制することが可能となる。
【0015】
この冷却構造において、前記ウォータージャケットは、前記シリンダブロックにおけるシリンダヘッド側から反シリンダヘッド側に向かって流路幅が漸次狭くなる形状を有しており、前記規制部は、前記各第1末端部のうち、気筒軸方向における前記ウォータージャケットスペーサの中間部よりも前記シリンダヘッド側に偏った位置に設けられている。
【0016】
この構成によると、ウォータージャケットのうちスペース的に余裕がある部分に規制部が位置するため、規制部が構造的な制約を受け難くい。そのため、各第1末端部の相対的な変位をより確実に規制可能な規制部を、余裕をもって設けることが可能となる。しかも、各第1末端部のうち反シリンダヘッド側の領域は、当該第1末端部が互いに重なり合っているため、冷却水の水圧によって当該領域に隙間が形成されることも抑制される。
【0017】
上記各態様の冷却構造において、前記ウォータージャケットスペーサの内壁面のうち、前記供給口に対応する位置に膨張部材が備えられているのが好適である。
【0018】
この構造によると、シリンダボア壁とウォータージャケットスペーサとの間に介在する膨張部材の膨張圧により両第1末端部が変位し難くなる。そのため、冷却水の水圧によって両第1末端部の間に隙間が形成されることがより確実に抑制される。
【0019】
なお、前記供給口が、気筒列方向及び気筒軸方向の双方に直交する直交方向において、気筒軸を境に対称な位置に各々備えられている場合には、両第1末端部に対してこれらを離間させるように水圧が作用する。そのため、上述した各態様の冷却構造は、前記供給口が前記直交方向において、気筒軸を境に対称な位置に各々備えられているような場合に特に有用なものとなる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明のエンジンの冷却構造によれば、分割構造を有するウォータージャケットスペーサが備えられたエンジンにおいて、ウォータージャケットスペーサの内側に意図せぬ水流が形成されることを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る冷却構造が適用されたエンジンの正面図である。
図2】シリンダブロックとウォータージャケットスペーサとを併せて示す分解斜視図である。
図3】シリンダブロック単体の正面図(-X側から視た図)である。
図4】シリンダブロックのYZ平面の断面図(図2のIV-IV線の位置での断面図)である。
図5】気筒列方向の一端側(-X側)から視たウォータージャケットスペーサの斜視図である。
図6】気筒列方向の一端側(-X側)から視たウォータージャケットスペーサの分解斜視図である。
図7】気筒列方向の他端側(+X側)から視たウォータージャケットスペーサの分解斜視図である。
図8】第1連結部の構成を示すウォータージャケットスペーサの要部分解斜視図である。
図9】ウォータージャケットスペーサの正面図(-X側から視た正面図)である。
図10】ウォータージャケットスペーサの断面図(図9のX-X線断面図)である。
図11】ウォータージャケットスペーサの断面図(図9のXI-XI線断面図)である。
図12】ウォータージャケットスペーサの断面図(図9のXII-XII線断面図)である。
図13】ウォータージャケットスペーサの断面図(図9のXIII-XIII線断面図)である。
図14】第2連結部の構成を示すウォータージャケットスペーサの要部分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0025】
[エンジンの全体構成]
図1は、本発明に係る冷却構造が適用されたエンジン1の正面図である。エンジン1は、走行用の動力源として車両に搭載されるエンジンであって、例えば4サイクルの多気筒型ディーゼルエンジンである。
【0026】
エンジン1は、複数の気筒(シリンダボア)を内部に備えたシリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面に取り付けられたシリンダヘッド3と、前記気筒内に収容されたピストン4(図4)と、を含むエンジン本体10を備えている。エンジン1は、縦置き又は横置きで車両に搭載される。縦置きの場合、図1に付記する方向表示において、Y方向は車幅方向に相当する左右方向、Z方向は上下方向(+Z=上、-Z=下)となる。
【0027】
エンジン1は、エンジン本体10内に冷却水(冷却液)を強制循環させるためのウォータポンプ11を備える。ウォータポンプ11は、冷却水を圧送するインペラを備えたインペラ式ポンプである。ウォータポンプ11は、エンジン本体10が発生する駆動力で駆動される。すなわち、エンジン本体10のクランクシャフトに取り付けられたクランクプーリ12、及び、このクランクプーリ12に架け渡されたストレッチベルト13を介して、前記クランクシャフトの駆動力がウォータポンプ11に伝達される。
【0028】
図1には、エンジン本体10内へ冷却水を導入する冷却水入口ポート部14と、エンジン本体10内の冷却水の流通経路を通過した後の冷却水の出口となる冷却水出口ポート部16とが示されている。冷却水入口ポート部14及び冷却水出口ポート部16は、エンジン本体10に取り付けられた配管部材からなる。ウォータポンプ11は、前記流通経路の途中に組み入れられている。なお、冷却水は、エンジン本体10内の前記流通経路の他、図略の暖房用ヒータユニットや、放熱用のラジエータ等を経由する循環経路を循環する。
【0029】
[エンジン(シリンダブロック)の冷却構造]
図2は、エンジン本体10における冷却水の流通経路のうち、シリンダブロック2の部分の流通経路を示す分解斜視図であり、同図には、シリンダブロック2と、このシリンダブロック2に組み付けられるウォータージャケットスペーサ5とが示されている。また、図3は、シリンダブロック2の単体の正面図である。
【0030】
図2に示すように、シリンダブロック2は、6個の気筒(シリンダボア)21がX方向(所定方向)に一列に並んだ気筒列21Lと、この気筒列21Lの周囲を取り囲むように配置された溝からなるウォータージャケット22とを備えている。なお、X方向は、エンジン1が縦置きされる場合は車両の前後方向となる。ウォータージャケットスペーサ5は、ウォータージャケット22の内部に配置される。
【0031】
シリンダブロック2は、X方向に長い略直方体のブロックである。シリンダブロック2の-X側の側面には、ウォータポンプ11が取り付けられるとともに、図3に示すように、ウォータージャケット22への冷却水の入口となる2つのブロック側入口15(本発明の「供給口」に相当する)が設けられている。各ブロック側入口15は、図1に示した冷却水入口ポート部14にウォータポンプ11を介して連通している。つまり、冷却水は、冷却水入口ポート部14からシリンダブロック2内に入り、ウォータポンプ11の圧送力により、各ブロック側入口15からウォータージャケット22内に入る。そして、図2中の矢印FLで示すように、冷却水は、シリンダブロック2の-X側側面から+X側側面に向けてウォータージャケット22内を流通する。すなわち、ウォータージャケット22は、冷却水を気筒列21Lの一端側(-X側)から他端側(+X側)へ向かうように流通させる流通経路である。
【0032】
シリンダブロック2の上面(+Z面)には、気筒列21Lの各気筒21の上面開口を塞ぐようにシリンダヘッド3が取り付けられる。当該シリンダヘッド3には、各気筒21へ吸気を供給する吸気ポート及び吸気バルブと、各気筒21から燃焼ガスを排出する排気ポート及び排気バルブとが設けられる。
【0033】
図2には、気筒列21Lの配列ライン(X方向のライン)に対して、前記吸気弁が配置される側として「吸気側」と、前記排気弁が配置される側として「排気側」との表示が記されている。ウォータージャケット22は、気筒列21Lの吸気側に配置された吸気側ジャケット22INと、排気側に配置された排気側ジャケット22EXとを含む。
【0034】
シリンダブロック2の-X側の側面に形成される2つのブロック側入口15は、図3に示すように、気筒軸21X(気筒21の仮想中心軸)を境に互いに左右対称な位置に設けられている。これにより、冷却水は、吸気側ジャケット22INと排気側ジャケット22EXとにほぼ均等に分かれてウォータージャケット22内を流通する。
【0035】
シリンダブロック2は、各気筒21を区画する筒状の内ブロック(シリンダボア壁23という)と、このシリンダボア壁23の周囲を取り囲むように設けられた外ブロック24とを含む。隣接する気筒21を区画するシリンダボア壁23同士は一体的に連結されており、従って、シリンダブロック2は、サイアミーズ型の気筒列21Lを備えたシリンダブロックと言える。各気筒21を区画するシリンダボア壁23には、ピストン4が実際に摺接する内面となるシリンダライナ26(図4)が配置されている。
【0036】
ウォータージャケット22の内側の壁面は、シリンダボア壁23の外壁面からなり、ウォータージャケット22の外側の壁面は、外ブロック24の内壁面からなる。つまり、シリンダボア壁23の外壁面と外ブロック24の内壁面との間の空間が、冷却水が流通するウォータージャケット22の空間である。
【0037】
シリンダボア壁23の肉厚は、隣り合う気筒21間の壁であるボア間壁25の部分を除いて略一定である。従って、シリンダボア壁23の外壁面は、上面視において、X方向に並ぶ6個の気筒21の輪郭に沿った凹凸曲面形状を有している。すなわち当該外壁面は、ボア間壁25の領域付近では内側に窪んだ凹曲面を、一対のボア間壁25の間の領域では外側に膨らむ凸曲面の形状を有している。外ブロック24の内壁面も、シリンダボア壁23の外壁面の凹凸曲面形状に対応した凹凸曲面形状を有している。従って、ウォータージャケット22の延伸方向(X方向)において、シリンダボア壁23の外壁面と外ブロック24の内壁面との隙間(ウォータージャケット22の溝幅)は概ね一定である。よって、ウォータージャケット22は、上面視において、前記凹凸曲面形状に対応した形状を有しており、ウォータージャケットスペーサ5もまた、この凹凸曲面形状に対応した形状を有している。
【0038】
図4は、シリンダブロック2のYZ平面の断面図であり、具体的には、図2中のIV-IV線の位置における断面図である。
【0039】
図4に示すように、ウォータージャケット22は上下方向(Z方向)に細長いU字型の溝形状を有しており、その流路幅(Y方向の幅)は、シリンダヘッド3側から反シリンダヘッド3側に向かって漸次狭くなるように形成されている。
【0040】
ウォータージャケットスペーサ5は、上面視において、シリンダボア壁23(気筒列21L)を取り囲む筒型形状に形成されている。図4に示すように、ウォータージャケットスペーサ5は、ウォータージャケット22の空間に挿入され、冷却水の流通経路をボア側経路22Aと反ボア側経路22Bとの2つの領域に区分している。ボア側経路22Aは、気筒21の径方向において、気筒21に近い側の経路である。反ボア側経路22Bは、ボア側経路22Aの外側に位置し、気筒21から遠い側の経路である。
【0041】
ウォータージャケットスペーサ5は、ウォータージャケット22内における冷却水の水流をコントロールする役目を果たす。例えば、ウォータージャケットスペーサ5は、反ボア側経路22Bに冷却水の主流が形成されるように、ウォータージャケット22内における冷却水の水流を分流する。つまり、反ボア側経路22Bにおいては冷却水の水流を積極的に形成(主流の形成)する一方で、ボア側経路22Aにおいては水流を積極的には形成しないように、ウォータージャケットスペーサ5は水流をコントロールする。これにより、気筒21が冷え過ぎて冷損を発生させることが抑制される。
【0042】
[ウォータージャケットスペーサの詳細構造]
図5は、ウォータージャケットスペーサ5の斜視図である。ウォータージャケットスペーサ5は、合成樹脂からなり、気筒列21Lの周囲を取り囲むことが可能な筒型形状を有している。ウォータージャケットスペーサ5は、その上端(+Z端)に上端フランジ31を、下端(-Z端)に下端フランジ32を各々備えている。これらフランジ31、32は、ウォータージャケット22内でのウォータージャケットスペーサ5の姿勢維持、所望の水流の形成等に寄与する。上端フランジ31のうち、矢印FLで示す冷却水の流通方向下流端には、切り欠き部33が設けられている。この切り欠き部33を通して、冷却水がシリンダヘッド3内のウォータージャケットへ導かれる。
【0043】
ウォータージャケットスペーサ5の上端であって気筒列21Lの各ボア間壁25に対応する位置には、上端フランジ31から上向きに突出する上端突起31aが設けられている。また、ウォータージャケットスペーサ5の下端であって気筒列21Lの各ボア間壁25に対応する位置には、下端フランジ32から下向きに突出する下端突起32a(図6図7)が設けられている。上端突起31aは、シリンダブロック2とシリンダヘッド3との間に介設される図略のガスケットに下側から当接し、下端突起32aは、ウォータージャケット22の内底面に当接する。これにより、図4に示すように、ウォータージャケット22内においてウォータージャケットスペーサ5が上下方向(Z方向)に位置決めされている。
【0044】
ウォータージャケットスペーサ5は、さらにその内周面に膨張部材36を備えている。具体的には、ウォータージャケットスペーサ5の上下方向の中間部よりも下側の領域には、後記連結部5A、5Bの位置を除くほぼ全周に亘って膨張部材36が設けられている。
【0045】
膨張部材36は、外的要因により膨張し、ウォータージャケット22の空間においてウォータージャケットスペーサ5を気筒列方向(X方向)及び気筒列方向と直交する横幅方向(Y方向)に位置決めする。当例では、膨張部材36は、セルロース系スポンジからなり、エンジン組立時には収縮状態にあり、冷却水が浸潤(外的要因)することにより膨張する。この膨張により、ウォータージャケットスペーサ5が下端フランジ32を介して外ブロック24の内壁面に押し当てられて位置決めされる。その結果、図4に示すように、ボア側経路22Aの経路幅d1(ウォータージャケットスペーサ5の内周面とシリンダボア壁23の外壁面との隙間)及び反ボア側経路22Bの経路幅d2(ウォータージャケットスペーサ5の外周面と外ブロック24の内壁面との隙間)が所定寸法に設定される。当例では、d2>d1となるように、ウォータージャケットスペーサ5が位置決めされることにより、上記の通り、反ボア側経路22Bにおいて冷却水の水流が積極的に形成(主流が形成)される。なお、膨張部材36としては、当例のように冷却水の浸潤により膨張する部材の他に、熱(外的要因)に反応して膨張する部材を適用することも可能である。
【0046】
図6は、気筒列方向(X方向)の一端側(-X側)から視たウォータージャケットスペーサ5の分解斜視図であり、図7は、気筒列方向の他端側(+X側)から視たウォータージャケットスペーサ5の分解斜視図である。
【0047】
図6及び図7に示すように、ウォータージャケットスペーサ5は、気筒列方向(X方向)のラインに沿った半割れ構造(分割構造)を有しており、+Y側の吸気側スペーサ5INと、-Y側の排気側スペーサ5EXとを含む。吸気側スペーサ5INは、ウォータージャケット22の吸気側ジャケット22IN内に配置される部分であり、排気側スペーサ5EXは排気側ジャケット22EX内に配置される部分である。
【0048】
吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXは、気筒列方向における一端(-X端)同士及び他端(+X端)同士が連結されることにより一体化されている。すなわち、ウォータージャケットスペーサ5は、気筒列方向における一端部と他端部とに、吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXとの連結部(第1連結部5A、第2連結部5B)を有する。
【0049】
第1連結部5Aは、吸気側スペーサ5INの一端側(-X側)の末端部41Aと、排気側スペーサ5EXの一端側(-X側)の末端部42Aとが連結された部分である。第1連結部5Aには、吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXとを連結するとともに、この連結状態において、気筒列方向(X方向)、上下方向(気筒軸方向/Z方向)、及び、気筒列方向と上下方向との双方に直交する前記横幅方向(Y方向)における末端部41A、42Aの相対的な変位を規制する規制部が設けられている。具体的には、第1連結部5Aには、末端部41A、42Aの気筒列方向の相対変位を規制する第1上側規制部51Aと、末端部41A、42Aの上下方向及び横幅方向の相対変位を規制する第1下側規制部52Aとを含む。この実施形態では、末端部41A、42Aが本発明に係る「末端部」と「第1末端部」に相当し、第1上側規制部51A及び第1下側規制部52Aが、本発明の「規制部」に相当する。
【0050】
図8は、第1連結部5Aを示すウォータージャケットスペーサ5の要部分解斜視図であり、図9は、ウォータージャケットスペーサ5の正面図(-X側から視た正面図)である。また、図10図13は、ウォータージャケットスペーサ5のXY平面の断面図であり、具体的には、図9中のX-X線、XI-XI線、XII-XII線、及びXIII-XIII線に沿った断面図である。なお、図10図13については、膨張部材36の図示を省略している。
【0051】
第1上側規制部51A及び第1下側規制部52Aは、上下方向(Z方向)におけるウォータージャケットスペーサ5のほぼ中間部よりも上側、すなわちシリンダヘッド3側に偏った位置に設けられている。第1上側規制部51Aは、ウォータージャケットスペーサ5の上端部分に設けられ、第1下側規制部52Aは、第1上側規制部51Aの下側に隣接して設けられている。
【0052】
第1上側規制部51Aは、図8に示すように、吸気側スペーサ5INの末端部41Aから-Y方向に延びる板状突片55と、排気側スペーサ5EXの外壁面501に沿って設けられた規制壁部56とを含む。
【0053】
板状突片55は、Z方向を短辺、Y方向を長辺とする長方形であって、排気側スペーサ5EXの外壁面501に沿って接するように、吸気側スペーサ5INの末端部41Aからやや外側(-X側)にオフセットされて設けられるとともに、全体がやや湾曲した形状を有している。一方、規制壁部56は、外壁面501との間に板状突片55の厚み分の隙間を隔てて設けられている。規制壁部56も外壁面501に沿って湾曲している。なお、規制壁部56は、外壁面501に設けられる後記凸条部64の上面に立設されるとともに、当該凸条部64と外壁面501と上端フランジ31とを連結する縦壁部502に繋がっている。
【0054】
この構成により、吸気側スペーサ5INの末端部41Aと排気側スペーサ5EXの末端部42Aとが付き合わされると、図9及び図10に示すように、板状突片55の一部が排気側スペーサ5EXの外壁面501と規制壁部56との間に嵌入される。この状態では、外壁面501及び規制壁部56によって板状突片55がX方向の両側から拘束される。これにより、吸気側スペーサ5INの末端部41Aと排気側スペーサ5EXの末端部42Aとの気筒列方向(X方向)の相対変位が規制される。
【0055】
第1下側規制部52Aは、図8に示すように、吸気側スペーサ5INの末端部41Aから-Y方向に延びる係合片部62と、排気側スペーサ5EXの外壁面501に設けられた被係合部63とを含む。
【0056】
係合片部62は、先端(-Y端)に爪部62aを備えた概略長方形の板状の突片であり、前記板状突片55と同様に、吸気側スペーサ5INの末端部41Aからやや外側(-X側)にオフセットして設けられる。係合片部62の上下縁部(+Z側縁部及び-Z側縁部)には上下方向に各々凹む上下一対の凹部62bが形成されている。これにより、係合片部62の先端部と基端部との間の部分がくびれた形状となっている。
【0057】
被係合部63は、排気側スペーサ5EXの末端部42Aから-Y側に互いに平行に延びる上下一対の凸条部64を含む。これら凸条部64の間隔(Z方向の間隔)は、係合片部62の縦幅(Z方向の幅)とほぼ同等又はそれよりも若干広い間隔に設定されている。各凸条部64の対向面には各々係合凸部65が向かい合わせに突設されている。各係合凸部65には、+Y側から-Y側に向かって徐々に-X側に迫り出すように傾斜したスロープ65aが形成されている。また、各係合凸部65の対向面のうち-Y側の端部には、当該対向面から各々Z方向に延びる延設部66が連設されている。
【0058】
この構成により、吸気側スペーサ5INの末端部41Aと排気側スペーサ5EXの末端部42Aとが付き合わされると、係合片部62が被係合部63の両凸条部64の間に挿入されるとともに、当該係合片部62がスロープ65aに沿って案内されつつ-X側に撓み変形する。そして、爪部62aが各係合凸部65を乗り越えて係合片部62が弾性復帰することにより、当該係合片部62が爪部62aを介して係合凸部65及び延設部66に係合するとともに、係合片部62の各凹部62bに各係合凸部65が介在した状態となる。
【0059】
この状態では、図9図11及び図12に示すように、吸気側スペーサ5INの末端部41Aと排気側スペーサ5EXの末端部42Aとが突き合わされた状態で、係合片部62が係合凸部65及び延設部66に係合する。そのため、吸気側スペーサ5INの末端部41Aと排気側スペーサ5EXの末端部42Aとの横幅方向(Y方向)の相対的な変位が規制される。この場合、係合片部62の凹部62bに係合凸部65が介在していることにより当該横幅方向の相対変位の規制効果が高められている。また、各凸条部64が上下両側(Z方向両側)から係合片部62に当接することにより、当該係合片部62が上下両側から拘束される。そのため、吸気側スペーサ5INの末端部41Aと排気側スペーサ5EXの末端部42Aとの上下方向(Z方向)の相対的な変位が規制される。
【0060】
第1連結部5Aのうち、第1上側規制部51A及び第1下側規制部52Aが設けられている箇所の下側(-Z側)には、図5図8及び図9に示すように、吸気側スペーサ5INの末端部41Aと排気側スペーサ5EXの末端部42Aとが互いに重なる重合部70が設けられている。具体的には、排気側スペーサ5EXの末端部42Aに、両末端部41A、42Aの突き当たり位置からさらに+Y方向に突出して上下方向に延びる板状の延設部72が設けられる一方、吸気側スペーサ5INの末端部41Aに、前記延設部72に対応した形状の段差部71が設けられている。
【0061】
この構成により、吸気側スペーサ5INの末端部41Aと排気側スペーサ5EXの末端部42Aとが付き合わされると、図13示すように、延設部72と段差部71とが重なり、両末端部41A、42Aが隙間無く連結される。
【0062】
当例では、図9に示すように、ウォータージャケット22に冷却水を導入するための2つのブロック側入口15が、第1上側規制部51A及び第1下側規制部52Aよりも下側の位置でウォータージャケットスペーサ5の-X側端部に対向している。しかも、これらの冷却水入口14はウォータポンプ11の近傍であって、上記の通り、気筒軸21Xを境に互いに左右対称な位置に備えられている。このことにより、吸気側スペーサ5IN及び排気側スペーサ5EXには、これらを離間させるような比較的高い水圧(ブロック側入口15から吐出される冷却水の水圧)が作用する。しかし、ウォータージャケットスペーサ5の第1連結部5Aに上記のような重合部70が設けられていることで、吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXとが水圧を受けて多少変形して離間しても、両末端部41A、42Aの間に隙間が形成されないようになっている。そのため、両末端部41A、42Aの間からウォータージャケットスペーサ5の内側に冷却水が流れ込むことが防止される。このような効果をより確実に享受するために、図9に示すように、重合部70の上下方向(Z方向)の長さL1とブロック側入口15の上下方向の長さ(入口径)L2との関係がL1>L2となるように、当該重合部70の長さL1が設定されている。
【0063】
図14は、第1連結部5Aとは反対側(+X側)の連結部である第2連結部5Bを示すウォータージャケットスペーサ5の要部分解斜視図である。
【0064】
第2連結部5Bは、吸気側スペーサ5INの他端側(+X側)の末端部41Bと、排気側スペーサ5EXの他端側(+X側)の末端部42Bとが連結された部分である。第2連結部5Bの構成は、第1連結部5Aの構成と基本的に同じである。すなわち、第2連結部5Bは、吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXとを連結するとともに、この連結状態において、末端部41B、42Bの気筒列方向(X方向)の相対変位を規制する第2上側規制部51Bと、末端部41B、42Bの上下方向(Z方向)及び横幅方向(Y方向)の相対変位を規制する第2下側規制部52Bとを含む。
【0065】
第2上側規制部51Bは、前記第1上側規制部51Aと同様に、吸気側スペーサ5INの末端部41Bから-Y方向に延びる板状突片55と、排気側スペーサ5EXの外壁面501に沿って設けられた規制壁部56とを含む。そして、板状突片55の一部が排気側スペーサ5EXの外壁面501と規制壁部56との間に嵌入されることにより、吸気側スペーサ5INの末端部41Bと排気側スペーサ5EXの末端部42Bとの気筒列方向(X方向)の相対変位が規制される。
【0066】
また、第2下側規制部52Bは、第1下側規制部52Aと同様に、吸気側スペーサ5INの末端部41Bから-Y方向に延びる係合片部62と、排気側スペーサ5EXの外壁面501に設けられた被係合部63とを含む。そして、係合片部62が被係合部63に係合することにより、吸気側スペーサ5INの末端部41Bと排気側スペーサ5EXの末端部42Bとの上下方向(Z方向)及び横幅方向(Z方向)の相対的な変位が規制される。
【0067】
なお、第2連結部5Bには、第1連結部5Aのような重合部70は設けられていない。これは、ウォータージャケットスペーサ5の+X側端部には、ブロック側入口15が対向しておらず、当該ブロック側入口15から吐出される冷却水の水圧が吸気側スペーサ5INの末端部41B及び排気側スペーサ5EXの末端部42Bに直接作用することが無いからである。なお、この実施形態では、末端部41B、42Bが本発明に係る「第2末端部」に相当する。
【0068】
[作用効果]
上記エンジン1の冷却構造において、ウォータージャケットスペーサ5は、気筒列方向の一端(-X端)及び他端(+X端)で互いに連結される吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXとから構成されるものである。これら吸気側スペーサ5IN及び排気側スペーサ5EXは、上記の通り、気筒列方向(X方向)、上下方向(Z方向)及び横幅方向(Y方向)の互い直交する3方向の相対変位が規制された状態で連結される。そのため、吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXがずれ難く、両スペーサ5IN、EXの連結状態、すなわちウォータージャケットスペーサ5の組立状態が安定的に維持される。
【0069】
従って、エンジン組立時に、吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXとがずれてウォータージャケット22への挿入が困難となったり、吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXとがずれた状態でウォータージャケット22に挿入されることによって狙いの水流(冷却水の流れ)を得ることができない、ひいては所望の冷却効果を得ることができないといった不都合を招くことが抑制される。
【0070】
また、このウォータージャケットスペーサ5は、上記相対変位を規制する部分である上側規制部51A、51B及び下側規制部52A、52Bが、Z方向におけるウォータージャケットスペーサ5のほぼ中間部よりも上側(+Z側)に偏って設けられている。つまり、ウォータージャケット22の空間のうち比較的余裕のある領域に上側規制部51A、51B及び下側規制部52A、52Bが配置されるようにウォータージャケットスペーサ5が構成されている。そのため、このようなウォータージャケットスペーサ5の構成によれば、吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXとを隙間無く連結できかつ上記各方向(X方向、Y方向及びZ方向)の変位を確実に規制することが可能な上側規制部51A、51B及び下側規制部52A、52Bを、余裕をもって設けることができるという利点がある。
【0071】
特に、第1下側規制部52A及び第2下側規制部52Bは、上下方向(Z方向)及び横幅方向(Z方向)の2方向の変位を各々規制するので、上下方向の変位を規制するための規制部と横幅方向の変位を規制する規制部とを別個独立に設ける場合に比べて規制部が集約される。そのため、上記のようにウォータージャケット22の空間のうち余裕のある上側の限られた領域内に規制部(第1下側規制部52A及び第2下側規制部52B)を設ける上で有利な構成と言える。
【0072】
しかも、ウォータージャケットスペーサ5の第1連結部5A(-X側の連結部)のうち両規制部51A、51Bよりも下側の部分、つまり、ブロック側入口15が対向する部分については上記の通り吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXとの重合部70が設けられているので、第1下側規制部52Aのように、吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXとを係止する部分は無いが、末端部41A、42Aの間に隙間が形成されることが抑制される。すなわち、ブロック側入口15から吐出される冷却水の水圧によって吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXとが多少離間したとしても、延設部72と段差部71とが重なっていることで、末端部41A、42Aの間に隙間が形成されることが抑制される。従って、第1連結部5Aのうち第1上側規制部51A及び第1下側規制部52Aよりも下側の部分からウォータージャケットスペーサ5の内側に冷却水が侵入して意図せぬ水流が形成されること、ひいては所望の冷却効果を得ることができないといった不都合を招くことが効果的に抑制される。
【0073】
この場合、上記の通りウォータージャケットスペーサ5の内周面(ブロック側入口15に対向する位置)には膨張部材36が設けられており、この膨張部材36の膨張圧によりウォータージャケットスペーサ5が外ブロック24の内壁面に押し当てられている。そのため、吸気側スペーサ5INの末端部41Aと排気側スペーサ5EXの末端部42Aとが相対的に変位し難くい。従って、この点でも、ブロック側入口15から吐出される冷却水の水圧によって吸気側スペーサ5INの末端部41Aと排気側スペーサ5EXの末端部42Aとの間に隙間が形成されることが抑制される。
【0074】
[変形例等]
以上説明したエンジン1の冷却構造は、本発明に係るエンジンの冷却構造の好ましい実施形態の例示であって、その具体的な構成は本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば以下のような構成を採用することもできる。
【0075】
(1)実施形態では、ウォータージャケットスペーサ5は、気筒列方向(X方向)のラインに沿った半割れ構造を有している。すなわち、ウォータージャケットスペーサ5は、吸気側スペーサ5INと排気側スペーサ5EXとから構成されている。しかし、本発明は、このような完全な分割構造に限らず、ウォータージャケットスペーサの一端部のみが分割され、当該一端部において、ウォータージャケットスペーサの周方向における末端部同士が連結されるような、一部が分割構造のウォータージャケットスペーサを備えるエンジンにも適用可能であり、その場合も上記実施形態と同様の作用効果を享受可能である。
【0076】
(2)実施形態では、前記重合部70は、排気側スペーサ5EXの末端部42Aの延設部72と、吸気側スペーサ5INの末端部41Aの段差部71とが互いに重なり合うように構成されている。しかし、重合部70の具体的な構成は、吸気側スペーサ5INの末端部41Aと、排気側スペーサ5EXの末端部42Aとが互いに重なり合う構成であれば、実施形態の構成に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0077】
(3)実施形態では、各規制部51A、51B、52A,52Bは、ウォータージャケットスペーサ5の上下方向の中間部よりも上側に設けられている。しかし、各規制部51A、51B、52A,52Bの位置はこれに限定されるものではなく、適宜変更可能である。その場合、第1連結部5Aにおいては、上下方向(Z方向)における規制部(第1上側規制部51A及び第1下側規制部52A)以外の部分に重合部70が設けられているのが好ましい。
【0078】
(4)実施形態では、ウォータージャケットスペーサ5の内周面(内壁面)のほぼ全周に亘って膨張部材36が設けられているが、例えば、ウォータージャケットスペーサ5のうち-X側端部に対応する位置、すなわちブロック側入口15に対応する位置にのみ膨張部材36が設けられていてもよい。この場合も、ウォータージャケットスペーサ5の-X側端部において、膨張部材36の膨張圧によりウォータージャケットスペーサ5が外ブロック24の内壁面に押し当てられることで、吸気側スペーサ5INの末端部41Aと排気側スペーサ5EXの末端部41Bとの相対変位が抑制される。そのため、実施形態と同様の作用効果が期待できる。
【符号の説明】
【0079】
1 エンジン
2 シリンダブロック
5 ウォータージャケットスペーサ
5IN 吸気側スペーサ
5EX 排気側スペーサ
5A 第1連結部
5B 第2連結部
14 給水入口ポート部
15 ブロック側入口(供給口)
21 気筒
21L 気筒列
22 ウォータージャケット
36 膨張部材
41A 末端部(第1末端部)
41B 末端部(第2末端部)
42A 末端部(第1末端部)
42B 末端部(第2末端部)
51A 第1上側規制部(規制部)
51B 第2上側規制部
52A 第1下側規制部(規制部)
52B 第2下側規制部
70 重合部
71 段差部
72 延設部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14