(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】電池用非水電解液及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20230912BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230912BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20230912BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/587
H01M10/0525
(21)【出願番号】P 2022140239
(22)【出願日】2022-09-02
(62)【分割の表示】P 2018066693の分割
【原出願日】2018-03-30
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】菅原 敬
(72)【発明者】
【氏名】大西 仁志
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-071998(JP,A)
【文献】特開2008-251223(JP,A)
【文献】特開2014-222624(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078159(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 4/587
H01M 10/0525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、及び非水電解液を備える電池であって、
前記非水電解液が、硫黄原子及び酸素原子を含む添加剤Sを含有し、
前記負極の表面について、X線光電子分光によって硫黄原子のナロースペクトルを測定し、S2p軌道についてピーク分離を行った場合に、166.3eV~169.0eVの領域に観測されるピーク2に対する、168.4eV~171.1eVの領域に観測されるピーク1の面積比が、10~150であり、
前記添加剤Sは、下記化合物(1)と、下記化合物(2)と、からなる電池。
【化1】
〔化合物(1)中、R
11~R
14は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、式(1a)で表される基、又は式(1b)で表される基を表す(但し、R
11~R
14の全てが水素原子である場合を除く)。式(1a)及び式(1b)において、*は、結合位置を表す。
化合物(2)中、R
21~R
26は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~3の炭化水素基、又は炭素数1~3のフッ化炭化水素基を表す。〕
【請求項2】
前記添加剤Sにおける硫黄原子1個に直接結合している酸素原子の数の平均値を、添加剤Sの平均S-O結合数とした場合に、添加剤Sの平均S-O結合数が、3.10~3.90である請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記負極が、負極活物質を含み、
前記負極活物質が、黒鉛を含む請求項1又は請求項2に記載の電池。
【請求項4】
リチウム二次電池である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の電池。
【請求項5】
下記化合物(1)と、下記化合物(2)と、を含有する電池用非水電解液。
【化2】
〔化合物(1)中、R
11~R
14は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、式(1a)で表される基、又は式(1b)で表される基を表す(但し、R
11~R
14の全てが水素原子である場合を除く)。式(1a)及び式(1b)において、*は、結合位置を表す。
化合物(2)中、R
21~R
26は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~3の炭化水素基、又は炭素数1~3のフッ化炭化水素基を表す。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池用非水電解液及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池は、携帯電話やノート型パソコンなどの電子機器、或いは電気自動車や電力貯蔵用の電源として広く試用されている。特に最近では、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載可能な、高容量で高出力かつエネルギー密度の高い電池の要望が急拡大している。
従来より、上記のリチウム二次電池を初めとする電池の非水電解液に、種々の添加剤を含有させることが行われている。
例えば、リチウム二次電池の非水電解液に種々の環状硫酸エステル化合物を含有させて電池性能を改善する試みがなされている(例えば、特許文献1~6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-189042号公報
【文献】特開2003-151623号公報
【文献】特開2003-308875号公報
【文献】特開2004-22523号公報
【文献】特開2005-011762号公報
【文献】国際公開第2012/053644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、保存時における電池抵抗の上昇をより抑制することが求められる場合がある。
本開示の第1態様の目的は、保存時における電池抵抗の上昇が抑制された電池を提供することである。
本開示の第2態様の目的は、保存時における電池抵抗の上昇を抑制できる電池用非水電解液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 正極、負極、及び非水電解液を備える電池であって、
前記非水電解液が、硫黄原子及び酸素原子を含む添加剤Sを含有し、
前記負極の表面について、X線光電子分光によって硫黄原子のナロースペクトルを測定し、S2p軌道についてピーク分離を行った場合に、166.3eV~169.0eVの領域に観測されるピーク2に対する、168.4eV~171.1eVの領域に観測されるピーク1の面積比が、10~150である電池。
【0006】
<2> 前記添加剤Sは、
下記部分構造(S1)と、
下記部分構造(S2)及び下記部分構造(S3)のうちの少なくとも1つと、
を含む<1>に記載の電池。
【0007】
【0008】
部分構造(S1)、部分構造(S2)、及び部分構造(S3)中、*11、*12、*21、*22、*31、及び*32は、それぞれ、炭素原子との結合位置を表す。
【0009】
<3> 前記添加剤Sは、硫黄原子及び酸素原子を含む化合物からなる群から選択される2種以上からなる<1>又は<2>に記載の電池。
【0010】
<4> 前記添加剤Sは、
下記化合物(1)と、
下記化合物(2)、下記化合物(3)、及び下記化合物(4)のうちの少なくとも1つと、
からなる<1>~<3>のいずれか1つに記載の電池。
【0011】
【0012】
化合物(1)中、R11~R14は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、式(1a)で表される基、又は式(1b)で表される基を表す。式(1a)及び式(1b)において、*は、結合位置を表す。
化合物(2)中、R21~R26は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~3の炭化水素基、又は炭素数1~3のフッ化炭化水素基を表す。
化合物(3)中、R31~R34は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~3の炭化水素基、又は炭素数1~3のフッ化炭化水素基を表す。
化合物(4)中、R41~R44は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、式(4a)で表される基、又は式(4b)で表される基を表す。式(4a)及び式(4b)において、*は、結合位置を表す。
【0013】
<5> 前記添加剤Sにおける硫黄原子1個に直接結合している酸素原子の数の平均値を、添加剤Sの平均S-O結合数とした場合、添加剤Sの平均S-O結合数が、3.10~3.90である<1>~<4>のいずれか1つに記載の電池。
<6> 前記負極が、負極活物質を含み、
前記負極活物質が、黒鉛を含む<1>~<5>のいずれか1つに記載の電池。
<7> リチウム二次電池である<1>~<6>のいずれか1つに記載の電池。
【0014】
<8> 下記化合物(1)と、
下記化合物(2)、下記化合物(3)、及び下記化合物(4)のうちの少なくとも1つと、
を含有する電池用非水電解液。
【0015】
【0016】
化合物(1)中、R11~R14は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、式(1a)で表される基、又は式(1b)で表される基を表す。式(1a)及び式(1b)において、*は、結合位置を表す。
化合物(2)中、R21~R26は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~3の炭化水素基、又は炭素数1~3のフッ化炭化水素基を表す。
化合物(3)中、R31~R34は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~3の炭化水素基、又は炭素数1~3のフッ化炭化水素基を表す。
化合物(4)中、R41~R44は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、式(4a)で表される基、又は式(4b)で表される基を表す。式(4a)及び式(4b)において、*は、結合位置を表す。
【発明の効果】
【0017】
本開示の第1態様によれば、保存時における電池抵抗の上昇が抑制された電池が提供される。
本開示の第2態様によれば、保存時における電池抵抗の上昇を抑制できる電池用非水電解液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の第1態様に係る電池の一例である、ラミネート型電池の一例を示す概略斜視図である。
【
図2】
図1に示すラミネート型電池に収容される積層型電極体の、厚さ方向の概略断面図である。
【
図3】本開示の第1態様に係る電池の別の一例である、コイン型電池の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0020】
〔第1態様;電池〕
本開示の第1態様に係る電池は、正極、負極、及び非水電解液を備える電池であって、
非水電解液が、硫黄原子及び酸素原子を含む添加剤Sを含有し、
負極の表面について、X線光電子分光によって硫黄原子のナロースペクトルを測定し、S2p軌道についてピーク分離を行った場合に、166.3eV~169.0eVの領域に観測されるピーク2に対する、168.4eV~171.1eVの領域に観測されるピーク1の面積比(以下、「面積比〔ピーク1/ピーク2〕」ともいう)が、10~150である。
【0021】
第1態様に係る電池によれば、保存時における電池抵抗の上昇が抑制される。
保存時における電池抵抗の上昇が抑制される効果は、特に、低温(例えば-20℃)条件での電池抵抗に関し、顕著である。
【0022】
本明細書において、「保存時における電池抵抗の上昇が抑制される」との概念には、保存時において電池抵抗が上昇するが上昇の度合いが抑制されている状態、保存時において電池抵抗が変化しない状態、及び保存時において電池抵抗がむしろ低減される状態の全てが包含される。
【0023】
第1態様に係る電池において、上記効果が奏される理由は明らかではないが、第1態様に係る電池では、負極表面に、添加剤Sに起因する被膜が形成され、かつ、この被膜が、電池の保存時において抵抗の上昇が少ないか、又は、抵抗が更に低減される性質を有するためと考えられる。
この被膜の性質は、被膜中に、電子状態が異なる2種以上の硫黄原子が特定の割合で含まれていることによって実現されていると考えられる。
【0024】
<面積比〔ピーク1/ピーク2〕>
第1態様に係る電池では、面積比〔ピーク1/ピーク2〕が10~150であることが満足されている。これにより、保存時における電池抵抗の上昇が抑制される。
ピーク1は、負極の表面について、X線光電子分光によって硫黄原子のナロースペクトルを測定し、S2p軌道についてピーク分離を行った場合に、168.4eV~171.1eVの領域に観測されるピークである。
ピーク1は、SO4で表される部分構造(詳細には、下記部分構造(S1))に由来するピークであると考えられる。
ピーク2は、負極の表面について、X線光電子分光によって硫黄原子のナロースペクトルを測定し、S2p軌道についてピーク分離を行った場合に、166.3eV~169.0eVの領域に観測されるピークである。
ピーク2は、SO3で表される部分構造(詳細には、下記部分構造(S2)又は下記部分構造(S3))に由来するピークであると考えられる。
面積比〔ピーク1/ピーク2〕が10~150であることは、負極の表面に、部分構造(S1)と、部分構造(S2)及び部分構造(S3)のうちの少なくとも1つと、の両方を、特定の比率で含む被膜が形成されていることを意味すると考えられる。
【0025】
【0026】
部分構造(S1)、部分構造(S2)、及び部分構造(S3)中、*11、*12、*21、*22、*31、及び*32は、それぞれ、炭素原子との結合位置を表す。
部分構造(S1)は、硫酸エステル構造の一部であり、部分構造(S2)は、ホスホン酸エステル構造の一部であり、部分構造(S3)は、亜硫酸エステル構造の一部である。
【0027】
上述のとおり、第1態様に係る電池において、面積比〔ピーク1/ピーク2〕は、10~150である。
第1態様に係る電池の効果(即ち、保存時における電池抵抗の上昇を抑制する効果)がより効果的に奏する観点から、面積比〔ピーク1/ピーク2〕は、10~100であることが好ましく、10~80であることがより好ましく、10~60であることが更に好ましい。
【0028】
以下、第1態様に係る電池の各要素について説明する。
【0029】
<非水電解液>
第1態様に係る電池に備えられる非水電解液は、硫黄原子及び酸素原子を含む添加剤Sを含有する。
第1態様に係る電池では、負極上に、この添加剤Sに由来する被膜が形成されると考えられる。
【0030】
(添加剤S)
添加剤Sは、硫黄原子及び酸素原子を含む化合物からなる群から選択される1種のみで構成されていてもよいし、硫黄原子及び酸素原子を含む化合物からなる群から選択される2種以上で構成されていてもよい。
いずれの場合においても、面積比〔ピーク1/ピーク2〕が10~150であることを達成し易い観点から、添加剤Sは、部分構造(S1)と、部分構造(S2)及び部分構造(S3)のうちの少なくとも1つと、を含むことが好ましい。
【0031】
面積比〔ピーク1/ピーク2〕が10~150であることを達成し易い観点から、添加剤Sは、硫黄原子及び硫黄原子を含む化合物からなる群から選択される2種以上からなることが好ましい。
【0032】
添加剤Sの含有量(添加剤Sが2種以上の化合物からなる場合は、上記2種以上の化合物の総含有量)は、非水電解液の全量に対し、0.001質量%~10質量%が好ましく、0.001質量%~5質量%がより好ましく、0.001質量%~3質量%であることが更に好ましく、0.01質量%~3質量%であることが更に好ましく、0.1~3質量%であることが更に好ましく、0.1~2質量%であることが更に好ましく、0.1~1質量%であることが特に好ましい。
【0033】
面積比〔ピーク1/ピーク2〕が10~150であることを達成し易い観点から、添加剤Sは、下記化合物(1)と、下記化合物(2)、下記化合物(3)、及び下記化合物(4)のうちの少なくとも1つと、からなることがより好ましい。
【0034】
添加剤Sが、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)、及び化合物(4)のうちの少なくとも1つと、からなる場合の添加剤Sの含有量は、化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)、及び化合物(4)の総含有量に対応する。
添加剤Sの含有量の好ましい範囲については前述のとおりである。
【0035】
添加剤Sが、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)、及び化合物(4)のうちの少なくとも1つと、からなる場合、化合物(1)の含有質量に対する、化合物(2)、化合物(3)、及び化合物(4)の合計含有質量の比(即ち、含有質量比〔(化合物(2)+化合物(3)+化合物(4))/化合物(1)〕)は、0.1~10が好ましく、0.2~5.0がより好ましく、0.3~3.0が更に好ましい。
【0036】
以下、化合物(1)~化合物(4)の各々について説明する。
【0037】
-化合物(1)-
【0038】
【0039】
化合物(1)中、R11~R14は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、式(1a)で表される基、又は式(1b)で表される基を表す。式(1a)及び式(1b)において、*は、結合位置を表す。
【0040】
化合物(1)中、R11~R14で表される炭素数1~6の炭化水素基は、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐及び/又は環構造を有する炭化水素基であってもよい。
R11~R14で表される炭素数1~6の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基が好ましく、アルキル基又はアルケニル基がより好ましく、アルキル基が特に好ましい。
R11~R14で表される炭素数1~6の炭化水素基の炭素数としては、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、1が特に好ましい。
【0041】
化合物(1)の具体例としては、下記化合物(1-1)~下記化合物(1-4)が挙げられるが、化合物(1)は、これらの具体例には限定されない。
これらのうち、化合物(1-1)~化合物(1-3)が特に好ましい。
【0042】
【0043】
非水電解液に含有される添加剤Sが、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)、及び化合物(4)のうちの少なくとも1つと、からなる場合、化合物(1)の含有量は、非水電解液の全量に対し、0.001質量%~10質量%が好ましく、0.001質量%~5質量%がより好ましく、0.001質量%~3質量%であることが更に好ましく、0.01質量%~3質量%であることが更に好ましく、0.1~3質量%であることが更に好ましく、0.1~2質量%であることが更に好ましく、0.1~1質量%であることが特に好ましい。
【0044】
-化合物(2)-
【0045】
【0046】
化合物(2)中、R21~R26は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~3の炭化水素基、又は炭素数1~3のフッ化炭化水素基を表す。
【0047】
化合物(2)中、R21~R26で表される炭素数1~3の炭化水素基は、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐及び/又は環構造を有する炭化水素基であってもよい。
R21~R26で表される炭素数1~3の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基が好ましく、アルキル基又はアルケニル基がより好ましく、アルキル基が特に好ましい。
R21~R26で表される炭素数1~3の炭化水素基の炭素数としては、1又は2が好ましく、1がより好ましい。
【0048】
化合物(2)中、R21~R26で表される炭素数1~3のフッ化炭化水素基は、少なくとも1個のフッ素原子を有していればよく、パーフルオロ炭化水素基に限定されるものではない。
化合物(2)中、R21~R26で表される炭素数1~3のフッ化炭化水素基は、直鎖のフッ化炭化水素基であってもよいし、分岐及び/又は環構造を有するフッ化炭化水素基であってもよい。
R21~R26で表される炭素数1~3のフッ化炭化水素基としては、フッ化アルキル基、フッ化アルケニル基、又はフッ化アルキニル基が好ましく、フッ化アルキル基又はフッ化アルケニル基がより好ましく、フッ化アルキル基が特に好ましい。
R21~R26で表される炭素数1~3のフッ化炭化水素基の炭素数としては、1又は2が好ましく、1がより好ましい。
【0049】
化合物(2)の具体例としては、下記化合物(2-1)~下記化合物(2-21)が挙げられるが、化合物(2)は、これらの具体例には限定されない。
これらのうち、化合物(2-1)が特に好ましい。
【0050】
【0051】
非水電解液が、添加剤Sとして、化合物(1)と化合物(2)との組み合わせを含む場合、化合物(2)の含有量は、非水電解液の全量に対し、0.001質量%~10質量%が好ましく、0.001質量%~5質量%がより好ましく、0.001質量%~3質量%であることが更に好ましく、0.01質量%~3質量%であることが更に好ましく、0.1~3質量%であることが更に好ましく、0.1~2質量%であることが更に好ましく、0.1~1質量%であることが特に好ましい。
【0052】
また、非水電解液が、添加剤Sとして、化合物(1)と化合物(2)との組み合わせを含む場合、化合物(1)に対する化合物(2)の含有質量比(即ち、含有質量比〔化合物(2)/化合物(1)〕)は、0.1~10が好ましく、0.2~5.0がより好ましく、0.3~3.0が更に好ましい。
【0053】
-化合物(3)-
【0054】
【0055】
化合物(3)中、R31~R34は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~3の炭化水素基、又は炭素数1~3のフッ化炭化水素基を表す。
【0056】
化合物(3)中、R31~R34で表される炭素数1~3の炭化水素基の好ましい態様は、化合物(2)中、R21~R26で表される炭素数1~3の炭化水素基の好ましい態様と同様である。
【0057】
化合物(3)の具体例としては、下記化合物(3-1)~下記化合物(3-21)が挙げられるが、化合物(3)は、これらの具体例には限定されない。
これらのうち、化合物(3-1)が特に好ましい。
【0058】
【0059】
非水電解液が、添加剤Sとして、化合物(1)と化合物(3)との組み合わせを含む場合、化合物(3)の含有量は、非水電解液の全量に対し、0.001質量%~10質量%が好ましく、0.001質量%~5質量%がより好ましく、0.001質量%~3質量%であることが更に好ましく、0.01質量%~3質量%であることが更に好ましく、0.1~3質量%であることが更に好ましく、0.1~2質量%であることが更に好ましく、0.1~1質量%であることが特に好ましい。
【0060】
また、非水電解液が、添加剤Sとして、化合物(1)と化合物(3)との組み合わせを含む場合、化合物(1)に対する化合物(3)の含有質量比(即ち、含有質量比〔化合物(3)/化合物(1)〕)は、0.1~10が好ましく、0.2~5.0がより好ましく、0.3~3.0が更に好ましい。
【0061】
-化合物(4)-
【0062】
【0063】
化合物(4)中、R41~R44は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、式(4a)で表される基、又は式(4b)で表される基を表す。式(4a)及び式(4b)において、*は、結合位置を表す。
【0064】
化合物(4)中、R41~R44で表される炭素数1~6の炭化水素基は、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐及び/又は環構造を有する炭化水素基であってもよい。
R41~R44で表される炭素数1~6の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基が好ましく、アルキル基又はアルケニル基がより好ましく、アルキル基が特に好ましい。
R41~R44で表される炭素数1~6の炭化水素基の炭素数としては、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、1が特に好ましい。
【0065】
化合物(4)の具体例としては、下記化合物(4-1)~下記化合物(4-7)が挙げられるが、化合物(4)は、これらの具体例には限定されない。
これらのうち、化合物(4-1)が特に好ましい。
【0066】
【0067】
非水電解液が、添加剤Sとして、化合物(1)と化合物(4)との組み合わせを含む場合、化合物(4)の含有量は、非水電解液の全量に対し、0.001質量%~10質量%が好ましく、0.001質量%~5質量%がより好ましく、0.001質量%~3質量%であることが更に好ましく、0.01質量%~3質量%であることが更に好ましく、0.1~3質量%であることが更に好ましく、0.1~2質量%であることが更に好ましく、0.1~1質量%であることが特に好ましい。
【0068】
また、非水電解液が、添加剤Sとして、化合物(1)と化合物(4)との組み合わせを含む場合、化合物(1)に対する化合物(4)の含有質量比(即ち、含有質量比〔化合物(4)/化合物(1)〕)は、0.1~10が好ましく、0.2~5.0がより好ましく、0.3~3.0が更に好ましい。
【0069】
-平均S-O結合数-
添加剤Sにおける硫黄原子1個に直接結合している酸素原子の数の平均値を、添加剤Sの平均S-O結合数とした場合、添加剤Sの平均S-O結合数は、3.10~3.90であることが好ましい。
添加剤Sの平均S-O結合数が3.10~3.90であると、第1態様の電池による効果(保存時の電池抵抗の上昇を抑制する効果)がより効果的に奏される。
添加剤Sの平均S-O結合数は、3.20~3.80であることがより好ましい。
【0070】
添加剤Sの平均S-O結合数は、以下のようにして求める。
まず、添加剤Sに含まれる化合物ごとに、硫黄原子1個に直接結合している酸素原子の数の平均値(以下、「化合物の平均S-O結合数」とする)を求める。
一分子中に硫黄原子を1個のみ含む化合物においては、化合物の平均S-O結合数は、1個の硫黄原子に直接結合している酸素原子の数と一致する。例えば、硫黄原子を1個のみ含む前述の化合物(1-4)は、化合物の平均S-O結合数が4である。
一分子中に硫黄原子を2個以上含む化合物においては、化合物の平均S-O結合数は、硫黄原子ごとに、硫黄原子1個に直接結合している酸素原子の数を求め、得られた値を単純平均して求める。例えば、直接結合している酸素原子の数が4である硫黄原子1個と、直接結合している酸素原子の数が3である硫黄原子1個と、を含む前述の化合物(1-2)は、化合物の平均S-O結合数が3.5である。また、直接結合している酸素原子の数が4である硫黄原子を2個含む前述の化合物(1-1)は、化合物の平均S-O結合数が4である。
【0071】
添加剤Sの平均S-O結合数は、添加剤Sに含まれる各化合物の平均S-O結合数を、各化合物の硫黄原子基準での含有モル比に基づいて加重平均することによって求める。
詳細には、下記数式1において、Siに、添加剤Sに含まれるi種目(iは1以上の整数を表す)の化合物の平均S-O結合数を代入し、Wiに、添加剤Sにおけるi種目の化合物の硫黄原子基準でのモル分率を代入することにより、下記数式1におけるXとして、添加剤Sに含まれる各化合物の加重平均値(即ち、添加剤Sの平均S-O結合数)を算出することができる。
【0072】
【0073】
例えば、後述の実施例101における添加剤Sについて、添加剤Sの平均S-O結合数は、以下のようにして求める。
実施例101における非水電解液は、添加剤Sとして、非水電解液の全量に対する含有量が0.75質量%である化合物(1-1)と、非水電解液の全量に対する含有量が0.25質量%である化合物(4-1)と、を含む。
化合物(1-1)の分子量は246であり、化合物(4-1)の分子量は108である。化合物(1-1)は、一分子中に硫黄原子を2個含み、化合物(4-1)は、一分子中に硫黄原子を1個含む。
これらのことから、添加剤Sにおける硫黄原子基準でのモル比〔化合物(1-1):化合物(4-1)〕は、下記式により、0.725:0.275と求められる。
添加剤Sにおける硫黄原子基準でのモル比〔化合物(1-1):化合物(4-1)〕
=((0.75/246)×2):(0.25/108)
=0.00610:0.00231
=0.725:0.275
【0074】
ここで、化合物(1-1)は、化合物の平均S-O結合数が4であり、化合物(4-1)は、化合物の平均S-O結合数が3である。
従って、添加剤Sの平均S-O結合数は、下記式により、3.72と求められる(後述の表2参照)。
添加剤Sの平均S-O結合数
=(4×0.725+3×0.275)/(0.725+0.275)
=3.72
【0075】
次に、非水電解液の他の成分について説明する。非水電解液は、一般的には、電解質と非水溶媒とを含有する。
【0076】
(非水溶媒)
非水電解液は、一般的に、非水溶媒を含有する。
非水電解液に含有され得る非水溶媒は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
非水溶媒としては、種々公知のものを適宜選択することができる。
非水溶媒としては、例えば、特開2017-45723号公報の段落0069~0087に記載の非水溶媒を用いることができる。
【0077】
非水溶媒は、環状カーボネート化合物及び鎖状カーボネート化合物を含むことが好ましい。
この場合、非水溶媒に含まれる環状カーボネート化合物及び鎖状カーボネート化合物は、それぞれ、1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0078】
環状カーボネート化合物としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、2,3-ペンチレンカーボネート等が挙げられる。
これらのうち、誘電率が高い、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートが好適である。黒鉛を含む負極活物質を使用した電池の場合は、非水溶媒は、エチレンカーボネートを含むことがより好ましい。
【0079】
鎖状カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、メチルペンチルカーボネート、エチルペンチルカーボネート、ジペンチルカーボネート、メチルヘプチルカーボネート、エチルヘプチルカーボネート、ジヘプチルカーボネート、メチルヘキシルカーボネート、エチルヘキシルカーボネート、ジヘキシルカーボネート、メチルオクチルカーボネート、エチルオクチルカーボネート、ジオクチルカーボネート、等が挙げられる。
【0080】
環状カーボネートと鎖状カーボネートの組み合わせとして、具体的には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートとジメチルカーボネート、プロピレンカーボネートとメチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとメチルエチルカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートとジエチルカーボネートなどが挙げられる。
【0081】
環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物の混合割合は、質量比で表して、環状カーボネート化合物:鎖状カーボネート化合物が、例えば5:95~80:20、好ましくは10:90~70:30、更に好ましくは15:85~55:45である。このような比率にすることによって、非水電解液の粘度上昇を抑制し、電解質の解離度を高めることができるため、電池の充放電特性に関わる非水電解液の伝導度を高めることができる。また、電解質の溶解度をさらに高めることができる。よって、常温または低温での電気伝導性に優れた非水電解液とすることができるため、常温から低温での電池の負荷特性を改善することができる。
【0082】
(電解質)
非水電解液は、一般的に、電解質を含有する。
電解質としては、種々公知の電解質を使用することができ、通常、非水電解液用電解質として使用されているものであれば、いずれをも使用することができる。
【0083】
電解質の具体例としては、(C2H5)4NPF6、(C2H5)4NBF4、(C2H5)4NClO4、(C2H5)4NAsF6、(C2H5)4N2SiF6、(C2H5)4NOSO2CkF(2k+1)(k=1~8の整数)、(C2H5)4NPFn[CkF(2k+1)](6-n)(n=1~5、k=1~8の整数)などのテトラアルキルアンモニウム塩、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、Li2SiF6、LiOSO2CkF(2k+1)(k=1~8の整数)、LiPFn[CkF(2k+1)](6-n)(n=1~5、k=1~8の整数)などのリチウム塩が挙げられる。また、次の一般式で表されるリチウム塩も使用することができる。
【0084】
LiC(SO2R7)(SO2R8)(SO2R9)、LiN(SO2OR10)(SO2OR11)、LiN(SO2R12)(SO2R13)(ここでR7~R13は互いに同一でも異なっていてもよく、フッ素原子又は炭素数1~8のパーフルオロアルキル基である)。これらの電解質は単独で使用してもよく、また2種類以上を混合してもよい。
これらのうち、特にリチウム塩が望ましく、さらには、LiPF6、LiBF4、LiOSO2CkF(2k+1)(k=1~8の整数)、LiClO4、LiAsF6、LiNSO2[CkF(2k+1)]2(k=1~8の整数)、LiPFn[CkF(2k+1)](6-n)(n=1~5、k=1~8の整数)が好ましい。
【0085】
電解質は、通常は、非水電解液中に0.1mol/L~3mol/L、好ましくは0.5mol/L~2mol/Lの濃度で含まれることが好ましい。
【0086】
電解質は、LiPF6を含有することが望ましい。
LiPF6は、解離度が高いため、電解液の伝導度を高めることができ、さらに負極上での非水電解液の還元分解反応を抑制する作用がある。
LiPF6は単独で使用してもよいし、LiPF6とそれ以外の電解質を使用してもよい。それ以外の電解質としては、通常、非水電解液用電解質として使用されるものであれば、いずれも使用することができるが、前述のリチウム塩の具体例のうちLiPF6以外のリチウム塩が好ましい。
具体例としては、LiPF6とLiBF4、LiPF6とLiN[SO2CkF(2k+1)]2(k=1~8の整数)、LiPF6とLiBF4とLiN[SO2CkF(2k+1)](k=1~8の整数)などが例示される。
【0087】
リチウム塩中に占めるLiPF6の比率は、好ましくは1質量%~100質量%、より好ましくは10質量%~100質量%、さらに好ましくは50質量%~100質量%である。このような電解質は、0.1mol/L~3mol/L、好ましくは0.5mol/L~2mol/Lの濃度で非水電解液中に含まれることが好ましい。
【0088】
<負極>
負極は、負極活物質及び負極集電体を含んでもよい。
負極における負極活物質としては、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属もしくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、及び、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれた少なくとも1種(単独で用いてもよいし、これらの2種以上を含む混合物を用いてもよい)を用いることができる。
リチウム(又はリチウムイオン)との合金化が可能な金属もしくは合金としては、シリコン、シリコン合金、スズ、スズ合金などを挙げることができる。また、チタン酸リチウムでもよい。
これらの中でもリチウムイオンをドープ・脱ドープすることが可能な炭素材料が好ましい。このような炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛)、非晶質炭素材料、等が挙げられる。上記炭素材料の形態は、繊維状、球状、ポテト状、フレーク状のいずれの形態であってもよい。
【0089】
上記非晶質炭素材料として具体的には、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチカーボンファイバー(MCF)などが例示される。
上記黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが用いられる。また、黒鉛としては、ホウ素を含有するものなども用いることができる。また、黒鉛としては、金、白金、銀、銅、スズなどの金属で被覆したもの、非晶質炭素で被覆したもの、非晶質炭素と黒鉛を混合したものも使用することができる。
【0090】
これらの炭素材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。
上記炭素材料としては、特にX線解析で測定した(002)面の面間隔d(002)が0.340nm以下の炭素材料が好ましい。また、炭素材料としては、真密度が1.70g/cm3以上である黒鉛又はそれに近い性質を有する高結晶性炭素材料も好ましい。以上のような炭素材料を使用すると、電池のエネルギー密度をより高くすることができる。
【0091】
負極活物質は、黒鉛を含むことが特に好ましい。
これにより、負極表面に添加剤Sに起因する被膜がより形成されやすくなり、面積比〔ピーク1/ピーク2〕が10~150であることが満足されやすい。
【0092】
負極における負極集電体の材質には特に制限はなく、公知のものを任意に用いることができる。
負極集電体の具体例としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられる。中でも、加工しやすさの点から特に銅が好ましい。
【0093】
<正極>
正極は、正極活物質及び正極集電体を含んでもよい。
正極における正極活物質としては、MoS2、TiS2、MnO2、V2O5などの遷移金属酸化物又は遷移金属硫化物、LiCoO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiNiXCo(1-X)O2〔0<X<1〕、α-NaFeO2型結晶構造を有するLi1+αMe1-αO2(Meは、Mn、Ni及びCoを含む遷移金属元素、1.0≦(1+α)/(1-α)≦1.6)、LiNixCoyMnzO2〔x+y+z=1、0<x<1、0<y<1、0<z<1〕(例えば、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2等)、LiFePO4、LiMnPO4などのリチウムと遷移金属とからなる複合酸化物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリアセン、ジメルカプトチアジアゾール、ポリアニリン複合体などの導電性高分子材料等が挙げられる。これらの中でも、特にリチウムと遷移金属とからなる複合酸化物が好ましい。負極がリチウム金属又はリチウム合金である場合は、正極として炭素材料を用いることもできる。また、正極として、リチウムと遷移金属との複合酸化物と、炭素材料と、の混合物を用いることもできる。
正極活物質は、1種類で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。正極活物質は導電性が不充分である場合には、導電性助剤とともに使用して正極を構成することができる。導電性助剤としては、カーボンブラック、アモルファスウィスカー、グラファイトなどの炭素材料を例示することができる。
【0094】
正極における正極集電体の材質には特に制限はなく、公知のものを任意に用いることができる。
正極集電体の具体例としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、タンタルなどの金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパーなどの炭素材料;等が挙げられる。
【0095】
<セパレータ>
本開示の第1態様に係る電池は、負極と正極との間にセパレータを含むことが好ましい。
セパレータは、正極と負極とを電気的に絶縁し且つリチウムイオンを透過する膜であって、多孔性膜や高分子電解質が例示される。
多孔性膜としては微多孔性高分子フィルムが好適に使用され、材質としてポリオレフィン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル等が例示される。
特に、多孔性ポリオレフィンが好ましく、具体的には多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム、又は多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムとの多層フィルムを例示することができる。多孔性ポリオレフィンフィルム上には、熱安定性に優れる他の樹脂がコーティングされてもよい。
高分子電解質としては、リチウム塩を溶解した高分子や、電解液で膨潤させた高分子等が挙げられる。
前述の非水電解液は、高分子を膨潤させて高分子電解質を得る目的で使用してもよい。
【0096】
<電池の構成>
第1態様に係る電池は、上述した構成である限り特に制限はないが、リチウム二次電池であることが特に好ましい。
第1態様に係る電池がリチウム二次電池である場合、リチウム二次電池は、種々公知の形状をとることができ、円筒型、コイン型、角型、ラミネート型、フィルム型その他任意の形状に形成することができる。しかし、電池の基本構造は、形状によらず同じであり、目的に応じて設計変更を施すことができる。
【0097】
リチウム二次電池の例として、ラミネート型電池が挙げられる。
図1は、リチウム二次電池の一例であるラミネート型電池の一例を示す概略斜視図であり、
図2は、
図1に示すラミネート型電池に収容される積層型電極体の厚さ方向の概略断面図である。
図1に示すラミネート型電池は、内部に非水電解液(
図1中では不図示)及び積層型電極体(
図1中では不図示)が収納され、且つ、周縁部が封止されることにより内部が密閉されたラミネート外装体1を備える。ラミネート外装体1としては、例えばアルミニウム製のラミネート外装体が用いられる。
ラミネート外装体1に収容される積層型電極体は、
図2に示されるように、正極板5と負極板6とがセパレータ7を介して交互に積層されてなる積層体と、この積層体の周囲を囲むセパレータ8と、を備える。正極板5、負極板6、セパレータ7、及びセパレータ8には、上述した非水電解液が含浸されている。
上記積層型電極体における複数の正極板5は、いずれも正極タブを介して正極端子2と電気的に接続されており(不図示)、この正極端子2の一部が上記ラミネート外装体1の周端部から外側に突出している(
図1)。ラミネート外装体1の周端部において正極端子2が突出する部分は、絶縁シール4によってシールされている。
同様に、上記積層型電極体における複数の負極板6は、いずれも負極タブを介して負極端子3と電気的に接続されており(不図示)、この負極端子3の一部が上記ラミネート外装体1の周端部から外側に突出している(
図1)。ラミネート外装体1の周端部において負極端子3が突出する部分は、絶縁シール4によってシールされている。
なお、上記一例に係るラミネート型電池では、正極板5の数が5枚、負極板6の数が6枚となっており、正極板5と負極板6とがセパレータ7を介し、両側の最外層がいずれも負極板6となる配置で積層されている。しかし、ラミネート型電池における、正極板の数、負極板の数、及び配置については、この一例には限定されず、種々の変更がなされてもよいことは言うまでもない。
【0098】
リチウム二次電池の別の一例として、コイン型電池も挙げられる。
図3は、リチウム二次電池の別の一例であるコイン型電池の一例を示す概略斜視図である。
図3に示すコイン型電池では、円盤状負極12、非水電解液を注入したセパレータ15、円盤状正極11、必要に応じて、ステンレス、又はアルミニウムなどのスペーサー板17、18が、この順序に積層された状態で、正極缶13(以下、「電池缶」ともいう)と封口板14(以下、「電池缶蓋」ともいう)との間に収納される。正極缶13と封口板14とはガスケット16を介してかしめ密封する。
この一例では、セパレータ15に注入される非水電解液として、上述した非水電解液を用いる。
【0099】
なお、リチウム二次電池は、負極と、正極と、上述した非水電解液と、を含むリチウム二次電池(充放電前のリチウム二次電池)を、充放電させて得られたリチウム二次電池であってもよい。
即ち、リチウム二次電池は、まず、負極と、正極と、上述した非水電解液と、を含む充放電前のリチウム二次電池を作製し、次いで、この充放電前のリチウム二次電池を1回以上充放電させることによって作製されたリチウム二次電池(充放電されたリチウム二次電池)であってもよい。
【0100】
第1態様に係る電池(好ましくはリチウム二次電池)の用途は特に限定されず、種々公知の用途に用いることができる。例えば、ノート型パソコン、モバイルパソコン、携帯電話、ヘッドホンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、電子手帳、電卓、ラジオ、バックアップ電源用途、モーター、自動車、電気自動車、バイク、電動バイク、自転車、電動自転車、照明器具、ゲーム機、時計、電動工具、カメラ等、小型携帯機器、大型機器を問わず広く利用可能なものである。
【0101】
〔第2態様;電池用非水電解液〕
本開示の第2態様に係る電池用非水電解液は、
下記化合物(1)と、
下記化合物(2)、下記化合物(3)、及び下記化合物(4)のうちの少なくとも1つと、
を含有する。
【0102】
【0103】
化合物(1)中、R11~R14は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、式(1a)で表される基、又は式(1b)で表される基を表す。式(1a)及び式(1b)において、*は、結合位置を表す。
化合物(2)中、R21~R26は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~3の炭化水素基、又は炭素数1~3のフッ化炭化水素基を表す。
化合物(3)中、R31~R34は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素数1~3の炭化水素基、又は炭素数1~3のフッ化炭化水素基を表す。
化合物(4)中、R41~R44は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の炭化水素基、式(4a)で表される基、又は式(4b)で表される基を表す。式(4a)及び式(4b)において、*は、結合位置を表す。
【0104】
第2態様に係る電池用非水電解液によれば、保存時における電池抵抗の上昇が抑制される。
保存時における電池抵抗の上昇が抑制される効果は、特に、低温(例えば-20℃)条件での電池抵抗に関し、顕著である。
かかる効果が奏される理由は明らかではないが、第2態様に係る電池用非水電解液を用いた電池では、負極表面に、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)、及び化合物(4)のうちの少なくとも1つと、に起因する被膜が形成され、かつ、この被膜が、電池の保存時において抵抗の上昇が少ないか、又は、抵抗が更に低減される性質を有するためと考えられる。
【0105】
第2態様に係る電池用非水電解液は、前述した第1態様に係る電池における非水電解液として好適である。
但し、第2態様に係る電池用非水電解液は、面積比〔ピーク1/ピーク2〕が10~150である電池に用いられることには制限されない。
【0106】
第2態様に係る電池用非水電解液の好ましい態様は、面積比〔ピーク1/ピーク2〕が10~150である電池に用いられることには制限されないこと以外は、第1態様に係る電池における非水電解液の好ましい態様と同様である。
【実施例】
【0107】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例によって制限されるものではない。
以下において、「添加量」は、最終的に得られる非水電解液の全量に対する含有量を意味し、「wt%」は、質量%を意味する。
【0108】
〔実施例1〕
以下の手順にて、リチウム二次電池であるコイン型電池(試験用電池)を作製した。
<負極の作製>
アモルファスコート天然黒鉛(97質量部)、カルボキシメチルセルロース(1質量部)及びSBRラテックス(2質量部)を水溶媒で混練してペースト状の負極合剤スラリーを調製した。
次に、この負極合剤スラリーを厚さ10μmの帯状銅箔製の負極集電体に塗布し乾燥した後に、ロールプレスで圧縮して負極集電体と負極活物質層からなるシート状の負極を得た。このときの負極活物質層の塗布密度は10mg/cm2であり、充填密度は1.5g/mlであった。
【0109】
<正極の作製>
LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2(90質量部)、アセチレンブラック(5質量部)及びポリフッ化ビニリデン(5質量部)を、N-メチルピロリジノンを溶媒として混練してペースト状の正極合剤スラリーを調製した。
次に、この正極合剤スラリーを厚さ20μmの帯状アルミ箔の正極集電体に塗布し乾燥した後に、ロールプレスで圧縮して正極集電体と正極活物質層とからなるシート状の正極を得た。このときの正極活物質層の塗布密度は30mg/cm2であり、充填密度は2.5g/mlであった。
【0110】
<非水電解液の調製>
非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とメチルエチルカーボネート(EMC)とをそれぞれ30:40:30(質量比)の割合で混合し、混合溶媒を得た。
得られた混合溶媒中に、電解質としてのLiPF6を、最終的に得られる非水電解液中におけるLiPF6の濃度が1.1mol/Lとなるように溶解させた。
上記で得られた溶液に対して、添加剤Sとして、下記化合物(1-1)(添加量0.75質量%)及び下記化合物(2-1)(添加量0.25質量%)を添加し、非水電解液を得た。
【0111】
【0112】
(添加剤Sの平均S-O結合数の算出)
前述した方法により、添加剤Sの平均S-O結合数を算出した。
結果を表1に示す。
【0113】
<コイン型電池の作製>
上述の負極を直径14mmで、上述の正極を直径13mmで、それぞれ円盤状に打ち抜き、コイン状の負極及びコイン状の正極をそれぞれ得た。また、厚さ20μmの微多孔性ポリエチレンフィルムを直径17mmの円盤状に打ち抜き、セパレータを得た。
得られたコイン状の負極、セパレータ、及びコイン状の正極を、この順序でステンレス製の電池缶(2032サイズ)内に積層し、次いで、この電池缶内に、上述の非水電解液20μLを注入し、セパレータと正極と負極とに含漬させた。
次に、正極上にアルミニウム製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)及びバネを乗せ、ポリプロピレン製のガスケットを介して、電池缶蓋をかしめることにより電池を密封した。
以上により、直径20mm、高さ3.2mmの
図3で示す構成を有するコイン型電池(即ち、コイン型のリチウム二次電池)を得た。
【0114】
<負極表面のXPS>
得られたコイン型電池に対し、コンディショニングを施した。
ここで、「コンディショニング」とは、コイン型電池を、恒温槽内で25℃にて、2.75Vと4.2Vとの間で充放電を三回繰り返すことを指す(以下、同様とする)。
コンディショニング後のコイン型電池を分解し、コイン状の負極を取り出した。
取り出した負極の、セパレータに対向していた側の表面について、X線光電子分光(XPS,ESCA)によって硫黄原子のナロースペクトルを測定し、S2p軌道についてピーク分離を行った。
得られた結果に基づき、166.3eV~169.0eVの領域に観測されるピーク2に対する、168.4eV~171.1eVの領域に観測されるピーク1の面積比(面積比〔ピーク1/ピーク2〕)を求めた。
結果を表1に示す。
【0115】
X線光電子分光(XPS,ESCA)の詳細な条件は以下のとおりである。
・装置:AXIS-NOVA(KratoS社製)
・X線源:単色化AlKα(1486.6eV)
・分析領域:700μm×300μm
【0116】
<電池抵抗の評価>
得られたコイン型電池に対し、コンディショニングを施し、コンディショニング後のコイン型電池について、電池抵抗の評価を行った。
以下、「高温保存」とは、コイン型電池を、恒温槽内で、60℃で72時間保存する操作を意味する。
以下、電池抵抗(DCIR)は、25℃及び-20℃の2つの温度条件の各々にて測定した。
【0117】
(高温保存前の電池抵抗(DCIR)の測定)
コンディショニング後のコイン型電池のSOC(State of Charge)を80%に調整し、次いで、以下の方法により、コイン型電池の高温保存前のDCIR(Direct current internal resistance;直流抵抗)を測定した。
上述のSOC80%に調整されたコイン型電池を用い、放電レート0.2CでのCC10s放電、300秒間の休止、放電レート1CでのCC10s放電、300秒間の休止、放電レート2CでのCC10s放電、300秒間の休止、及び、放電レート5CでのCC10s放電をこの順に行った。
なお、CC10s放電とは、定電流(Constant Current)にて10秒間放電することを意味する。
各放電レートと、各放電レートでの放電開始後10秒目の電圧と、の関係に基づき直流抵抗を求め、得られた直流抵抗(Ω)を、コイン型電池の高温保存前の電池抵抗(Ω)とした。
結果を表1に示す。
【0118】
(高温保存後の電池抵抗(DCIR)の測定)
コンディショニング後であってSOCを80%に調整する前のコイン型電池に対し、恒温槽内で25℃にて充電レート0.2Cで4.25VまでCC-CV充電し、次いで高温保存を施す操作を追加したこと以外は前述の高温保存前の電池抵抗の測定と同様にして、高温保存後の電池抵抗(Ω)を測定した。
結果を表1に示す。
ここで、CC-CV充電とは、定電流定電圧(Constant Current - Constant Voltage)を意味する。
【0119】
(高温保存時における電池抵抗の上昇率の測定)
下記式により、高温保存時における電池抵抗の上昇率(表1中では、単に「上昇率(%)」とする)を算出した。結果を表1に示す。
高温保存時における電池抵抗の上昇率(%)
= 〔(高温保存後の電池抵抗(Ω)-高温保存前の電池抵抗(Ω))/高温保存前の電池抵抗(Ω)〕×100
【0120】
上昇率(%)は、正の値となる場合だけでなく、負の値となる場合や0となる場合もある。
上昇率(%)が正の値であることは、高温保存時において、電池抵抗が上昇したことを意味し、上昇率(%)が負の値であることは、高温保存時において、電池抵抗が低減されたことを意味し、上昇率(%)が0であることは、高温保存時において、電池抵抗が変化しなかったことを意味する。
【0121】
〔実施例2及び3〕
非水電解液の調製において、化合物(1-1)の添加量及び化合物(2-1)の添加量を、表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0122】
〔比較例1〕
非水電解液の調製において、化合物(2-1)を用いず、かつ、化合物(1-1)の添加量を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0123】
〔比較例2〕
非水電解液の調製において、化合物(1-1)を用いず、かつ、化合物(2-1)の添加量を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0124】
【0125】
表1に示すように、面積比〔ピーク1/ピーク2〕が10~150である実施例1~3では、高温保存時における電池抵抗の上昇が抑制されることが確認された。
電池抵抗の上昇が抑制される効果は、特に、低温(-20℃)条件での電池抵抗において顕著であった。
【0126】
〔実施例101~103、並びに、比較例101及び比較例102〕
化合物(2-1)を同質量の下記化合物(4-1)に変更したこと以外は実施例1~3並びに比較例1及び2と同様の操作を行った。
なお、比較例101は、前述の比較例1と同じ例である。
結果を表2に示す。
【0127】
【0128】
【0129】
表2に示すように、面積比〔ピーク1/ピーク2〕が10~150である実施例101~103では、高温保存時における電池抵抗の上昇が抑制されることが確認された。
電池抵抗の上昇が抑制される効果は、特に、低温(-20℃)条件での電池抵抗において顕著であった。
【符号の説明】
【0130】
1 ラミネート外装体
2 正極端子
3 負極端子
4 絶縁シール
5 正極板
6 負極板
7、8 セパレータ
11 正極
12 負極
13 正極缶
14 封口板
15 セパレータ
16 ガスケット
17、18 スペーサー板