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特許7347795有機溶剤濃縮装置および有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法
<図1>
  • 特許-有機溶剤濃縮装置および有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法 図1
  • 特許-有機溶剤濃縮装置および有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法 図2
  • 特許-有機溶剤濃縮装置および有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法 図3
  • 特許-有機溶剤濃縮装置および有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法 図4
  • 特許-有機溶剤濃縮装置および有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法 図5
  • 特許-有機溶剤濃縮装置および有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】有機溶剤濃縮装置および有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20230912BHJP
   G01N 5/02 20060101ALI20230912BHJP
   G01N 5/04 20060101ALI20230912BHJP
   B01D 53/06 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01N5/02 Z
G01N5/04 A
B01D53/06 100
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019226067
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021096096
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390020215
【氏名又は名称】株式会社西部技研
(72)【発明者】
【氏名】藤 章裕
(72)【発明者】
【氏名】田中 早紀
(72)【発明者】
【氏名】下茂野 香名江
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-247595(JP,A)
【文献】特開平04-279717(JP,A)
【文献】特開2010-001184(JP,A)
【文献】特開平08-141352(JP,A)
【文献】特開平08-080418(JP,A)
【文献】特開2002-102645(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0258017(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045、99/00
G01N 5/00-9/36
B01D 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
VOC吸着ハニカムロータからくり貫いたくり貫き素子の劣化の進行度の判定において、(A)VOC静的吸着量試験、および(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定に基づき、予め求めた相関式に基づき、(A)VOC静的吸着量試験、もしくは(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のいずれか一方のみを実施し、他方の試験結果を予測するとともに、劣化の進行度を判断する有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法。
【請求項2】
前記相関式を最小二乗法により線形関係として求める、請求項1に記載の有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法。
【請求項3】
前記くり貫き素子はφ5~30mmの円筒型のくり貫き冶具により、前記VOC吸着ハニカムロータ厚み方向全体、あるいは処理入口側および処理出口側の両端又はいずれか一端から前記VOC吸着ハニカムロータ厚み方向中心部に向かって20~100mm抜き取るようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の劣化判定方法により少なくとも一回以上判定し、その判定結果、およびロータ交換推奨値または性能回復措置推奨値から前記有機溶剤濃縮装置のVOC吸着ハニカムロータ交換時期あるいは性能回復措置の時期を予測する有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の劣化判定方法により前記VOC吸着ハニカムロータの劣化の進行度を判定することを特徴とする有機溶剤濃縮装置。
【請求項6】
前記VOC吸着ハニカムロータにおいて、くり貫き素子をカートリッジ式に配置し、前記くり貫き素子を脱着交換可能なようにしたことを特徴とする請求項5に記載の有機溶剤濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤濃縮装置の長期使用等により性能低下につながる、劣化の進行度を判定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模で大気汚染が問題となっているが、トルエン等のVOC(揮発性有機化合物、Volatile Organic Compounds、以下 VOC)もその一つであり、塗装工程や印刷工場等から多く発生する。そのまま排出するとVOCそのものが有害であるばかりでなく、PM2.5の原因物質でもあり重大な健康被害問題につながる可能性がある。
【0003】
低濃度のVOCを含有する排ガスの処理設備(燃焼設備や回収設備)は、処理風量が大きくなると設備が非常に大規模となるばかりでなく、膨大なランニングコストも必要になるという問題がある。これに対して排ガス処理設備の前段機器としてのVOC濃縮装置は、低濃度・大風量のVOC排出ガスを高濃度・低風量に濃縮回収できるので、処理設備全体の設備費およびランニングコストを大幅に削減でき、効率のよいVOC処理を実現することができる。
【0004】
このようなVOC濃縮技術の一つとしてハニカム吸着技術がある。VOC濃縮装置の一つとして、排ガス中のVOCを選択的に吸着し、濃縮するハニカムロータ式VOC濃縮装置がある。図1はVOC濃縮回収フローの一例である。VOC吸着ハニカムロータ1は処理ゾーン2、再生ゾーン3、冷却ゾーン4に区分される。VOC吸着ハニカムロータ1が回転することで、VOCを連続的に吸着除去・濃縮脱着できる。処理ガス中のVOCはVOC吸着ハニカムロータ1の処理ゾーン2を通過する際に、吸着除去される。吸着したハニカムが再生ゾーン3へ回転移行すると、吸着されたVOCは処理風量の1/5~1/15の風量の摂氏200℃(以下、温度は「摂氏」とする)前後の熱風で5~15倍に濃縮脱着され、燃焼処理装置(図示せず)に送られる。再生ゾーン3を通過したハニカムは冷却ゾーン4に移動し、冷却され、再び処理ゾーン2へ移行する。冷却ゾーン4を通過した空気は、再生ヒータ7で加熱されてVOC脱着用の空気として使用される。
【0005】
通常、VOC吸着ハニカムロータは疎水性ゼオライトが担持されており、200℃前後の熱風により再生するため、吸着と再生を繰り返して使用することが可能である。一方、排ガス中のVOC組成は印刷、電子部品製造、半導体製造、液晶製造、塗装ブースや大型研究設備の排ガス処理等に含まれているため多様である。多様なVOCの吸脱着を繰り返すことで、VOC吸着ハニカムロータは長期使用等により劣化が進行し、性能が徐々に低下する。
【0006】
一般的に吸着材の劣化現象には、以下の原因が考えられる。
(a)半融現象による細孔の部分的消失
(b)吸着材表面および細孔内のカーボン、重合物、化合物等による被覆または閉塞
(c)化学反応による結晶細孔の減少
VOC吸着ハニカムロータの性能劣化原因の多くは、(b)による。使用塗料やインク等の成分に重合する成分が含まれている場合はもちろんのこと、特に重合しないVOCでも、長期間の吸脱着の繰り返しによって、徐々に化学反応を起こして固体化・蓄積していき、最終的には脱着不能な物質に変化していく可能性も考えられる。
【0007】
VOC吸着ハニカムロータの劣化原因は、実使用条件(稼働期間や有機溶剤の使用量、腐食ガス含有等)に大きく影響される。VOC吸着ハニカムロータの劣化が進行したまま放置すると、VOC濃縮装置自体の濃縮回収率は低下し、濃縮ガス濃度が低濃度になるため、燃焼装置のランニングコストが高くなる。また、処理後のVOC濃度が上昇し環境基準にも影響する虞がある。また、性能が低下した場合、VOC吸着ハニカムロータを所定の頻度で交換することも可能であるが、交換頻度が高いと、メンテナンスコストが高くなる。
【0008】
VOC吸着ハニカムロータにおいて、運転時の処理出口側のVOC濃度を測定し、除去効率を求めることで性能低下は判断できるが、装置自体の負荷変動や周辺機器の状態の影響を排除できず、純粋にVOC吸着ハニカムロータの性能の劣化を把握することは難しい。また、再生ゾーンの熱風で脱着されない物質(以下、蓄積物)が付着した状態で、運転を続けると圧力損失の上昇の原因となるだけでなく、ハニカムロータの発火の危険性がある。そこで、従来、VOC吸着ハニカムロータの素子の一部をサンプリングし、性能低下の原因や現在の吸着状態を調査して劣化の進行度を判定する方法が知られている(非特許文献1)。
【0009】
同じくハニカムロータを用いた除湿装置においても、特許文献1のように、ロータが劣化していない初期の処理空気入口絶対湿度と減湿量の相関関係と、ロータの劣化が進行した状態での診断時の相関関係を比較することで、ロータの劣化の進行度を連続的に診断するという劣化判断方法があるが、処理の対象が水分で、使用環境がドライルームと本発明の対象とするVOC濃縮装置とは異なっており、VOC濃縮装置における劣化判定方法とは性質の異なるものである。また、ロータの劣化の診断は可能だが、ロータ劣化の原因やロータ自体にどのような現象が起きているか等推測することが難しいという問題もある。
【0010】
劣化したVOC吸着ハニカムロータは交換可能であるが、ロータ自体が比較的高価であるため突発的な予算確保が困難であること、ロータ交換のための排ガス処理施設の停止に伴う生産や製造等の一時停止を招くことが突然の事態として起こることは、現実的に好ましくない。定期的な劣化判定の実施によりVOC吸着ハニカムロータの交換の時期を予め予測することにより、ロータ交換作業にかかる費用の計画的な管理を行うことができる。
【0011】
従来の劣化判定方法の一例を説明する。まず、図2のようにVOC吸着ハニカムロータ1の一部を、円筒型の冶具9を用いてくり貫き、取り出してサンプリングする。そのくり貫き素子10をロータ厚み方向(軸方向)に、図1のVOC吸着ハニカムロータ1の処理ゾーン2における空気流れ方向に沿って、処理入口側11および処理出口側12の二箇所を所定の大きさに切り出して、劣化ハニカム供試体(数十g程度)とする。このとき、ロータ表面には摺動性や強度向上の目的で端面処理が施してあるため、処理入口側および処理出口側のロータ表面両端からロータ厚み方向中心部に向かって10mm以上離れたところから切り出すようにするとよい。なお、処理入口側及び処理出口側の他に、追加でロータ厚み方向の中央部からも劣化ハニカム供試体を切り出してもよい。
【0012】
これらの劣化ハニカム供試体を用いて、下記の項目を調査することにより、劣化の進行度を調査(以下、劣化判定方法)する。
(A)VOC静的吸着量試験
(B)TG/DTA(Thermogravimetry/Differential Thermal Analysis、熱重量・示差熱同時分析。以下、TG/DTA。)
による有機物蓄積量測定
【0013】
(A)VOC静的吸着量試験
処理入口側11および処理出口側12の劣化ハニカム供試体、および比較のための同型の新品ハニカム供試体を、前処理として、ハニカムロータの再生温度付近(例えば200℃)で一定時間加熱した後、アセトンやトルエン等から選ばれる少なくとも1種類のVOCを飽和させたデシケータ内に静置し、飽和状態まで吸着させる。吸着前後のハニカム供試体重量差から、各ハニカム供試体のVOC吸着率を求め、新品ハニカム供試体の吸着率を100%として、それに対する劣化ハニカム供試体の静的吸着比率γ[%]を求める。すなわち、以下の(1)式のようになる。
ads:劣化ハニカム供試体が吸着したVOC重量、Wsample:劣化ハニカム供試体重量、Mads:新品ハニカム供試体が吸着したVOC重量、Mvirgin:新品ハニカム供試体重量、いずれも[g]である。
【0014】
(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定
TG/DTAは、試料を一定速度で加熱した場合の、試料の重量変化及び熱量変化を測定する。試料の吸熱変化(例えば脱水・分解)、発熱変化(例えば燃焼)が起こる温度域と重量変化を観測し、試料が何℃で水等を放出するか、試料が何℃で燃えるか、等の現象を確認できる。ハニカム供試体を所定量(例えば、数十mg程度)調整した後、TG/DTA測定装置に供する。図3は測定結果の一例である。測定結果から、処理入口側11の劣化ハニカム供試体の400℃付近におけるDTAの発熱(燃焼)ピークが確認され、TGの重量減少も確認される。これにより、VOC吸着ハニカムロータにロータの性能を低下させる原因となる蓄積物が蓄積していることを確認することができる。TG重量減少率αTG[%]は再生温度付近の温度T1(例えば200℃)におけるハニカム供試体の試料の重量から、TG/DTA測定によって分析した所定の温度T2(例えば700℃)における燃焼後のハニカム供試体の試料の重量を減じた減少重量を、試料の初期総重量で除した算出式(2)によって算出される。
T1-T2:T1~T2における減少重量、msample:試料の初期総重量、いずれも[g]である。
【0015】
(A)VOC静的吸着量試験に必要な供試体は数十g程度、直径φ60mm程度×数十mm程度の量が必要である。一方、(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定では、数十mg程度とごく少量でよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特許第3753752号公報
【非特許文献】
【0017】
【文献】「VOC吸着濃縮ロータの劣化現象とその評価」、分離技術会年会2018技術・研究発表講演要旨集、p.33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従来の劣化判定方法では(A)VOC静的吸着量試験のため、VOC吸着ハニカムロータ(直径φ0.5~4.5m)からくり貫き素子を直径φ60mm程度でくり貫く必要があった。くり貫いた後のハニカムロータをそのままにすると、リークが生じて性能低下の原因となることから、くり貫き素子と同等サイズの埋戻し素子やコーキング等で埋め戻す作業が必要であり、くり貫きから埋戻しまでに時間や手間がかかるため、VOC濃縮装置を停止する時間が長くなり、その分ユーザーの生産ラインの停止時間も長くなってしまう。ここで、劣化ハニカム供試体として最低限必要な処理入口側および処理出口側の各両端からロータ厚み中心部に向かって、数十mm程度だけをくり貫き、ロータ中心部の一部を残すことも考えられるが、直径φ60mm程度とくり貫きの径が大きいので、コーキングのみで埋めることは困難であり、やはり埋戻し素子が必要となる。
【0019】
また、分析のためにくり貫き素子を必要な大きさに切り出し、(A)VOC静的吸着量試験、および(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定の2通りの分析に時間と手間がかかるため、VOC吸着ハニカムロータの劣化進行度を調査して判定を行うのに時間がかかり、劣化進行度が判明するまでVOC濃縮装置の運転を停止、ひいてはユーザーの生産ラインを停止しせざるを得ないという状況が生じる問題があった。
【0020】
上記の実情に鑑み、本発明はVOC吸着ハニカムロータの劣化判定方法を簡素化することにより、くり貫きから判定までの時間や手間を低減でき、さらにロータ交換の時期や性能回復措置の時期を予測することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
発明者らは従来の劣化判定方法により、長年に渡り百数十検体もの劣化判定調査を行い、データを蓄積してきた。発明者らは、前記の課題を解決するため、多くのデータの蓄積および豊富な劣化判定調査の経験や知見をもとに、データを鋭意分析・検討した結果、(A)VOC静的吸着量試験の静的吸着比率γ、および(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のTG重量減少率αTGには相関関係があること、また、吸着の理論式から前記相関関係を理論的に導出できることを見出した。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる劣化判定方法により、VOC濃縮ロータの劣化判定の調査方法を簡素化でき、分析の手間と時間を削減し、ロータ交換あるいは性能回復措置の時期を予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1はVOC濃縮回収フローの一例である。
図2図2は従来の劣化判定方法において、VOC吸着ハニカムロータの一部のサンプリングおよびくり抜き素子から劣化ハニカム供試体を切り出すことを示す図である。
図3図3はTG/DTAによる有機物蓄積量測定結果の一例である。
図4図4は(A)VOC静的吸着量試験の静的吸着比率γ、および(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のTG重量減少率αTGの相関関係を示すグラフである。
図5図5は本発明の実施例2にかかるカートリッジ式のVOC吸着ハニカムロータを示す図である。
図6図6は本発明の実施例3にかかる静的吸着比率γもしくはTG重量減少率αTGと、VOC吸着ハニカムロータの稼働期間の近似曲線で示される相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の発明者らが見出した、(A)VOC静的吸着量試験の静的吸着比率γ、および(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のTG重量減少率αTGの相関関係について説明する。ここで、前記相関関係は、吸着材としてVOC吸着ハニカムロータに用いられる疎水性ゼオライトの種類や担持量、劣化ハニカム供試体の切り出し位置、吸着されるVOCの種類に関係なく成り立つことを確認している。
【0025】
図4は(A)VOC静的吸着量試験の静的吸着比率γ、および(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のTG重量減少率αTGの相関関係の近似直線を示すグラフである。図4の近似直線は、蓄積してきた百数十検体もの試験データをプロットし、両者の相関関係を最小二乗法により(3)式で表される線形関係(近似直線)として求めたものである。なお、蓄積物重量が0gのとき、すなわちTG重量減少率αTGが0%のとき、静的吸着比率γ=100%とした。なお、ユーザーの処理ガス成分や使用条件等により定数Aの値は異なる。
γ:静的吸着比率[%]、αTG:TG重量減少率[%]、A:定数
【0026】
しかしながら、相関式(3)は経験則に基づいた実験式であり、グラフに数式を外挿的に当てはめたものである。そこで、発明者らは理論的にも前記相関式が成立することを検証した。
【0027】
当業者であれば、以下の方法によって近似式を導出することができる。理論式から近似式を導出する過程において、発明者らは、以下の4つの仮定を前提とした。蓄積物上には吸着が起こらない(仮定1)、VOCはハニカム供試体上に均一に多分子層吸着する(仮定2)、BET理論式における吸着パラメータC(吸着第1層と吸着第2層以降の吸着熱の差を示すパラメータ)は一定とする(仮定3)、蓄積物は1種類とする(仮定4)。
【0028】
以上の仮定に基づき、(A)VOC静的吸着量試験の静的吸着比率γ、および(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のTG重量減少率αTGの相関関係の近似式を導出した。以下、特に記述が無い限り、重量は[g]である。
【0029】
前記の(1)式において、劣化ハニカム供試体重量Wsampleと新品ハニカム供試体重量Mvirginはほぼ等しいと近似すると、(1)'式となる。
また、劣化ハニカム供試体が吸着したVOC重量Wadsは、劣化ハニカム供試体に吸着できないVOC重量Wnotadsを用いて、(4)式のように表現できる。
ads:新品ハニカム供試体が吸着したVOC重量、Wnotads:劣化ハニカム供試体に吸着できないVOC重量
【0030】
ここで、劣化ハニカム供試体に吸着できないVOC重量WnotadsをBET理論式より(5)式に表す。
notads:劣化ハニカム供試体に吸着できない単分子層VOC量、C:吸着相互作用等によるBET理論式における吸着パラメータC(定数)、P:VOC分圧、P:VOC初期飽和蒸気圧
【0031】
一方で、劣化ハニカム供試体に吸着できない単分子吸着量VnotadsをLangmuir式より(6)式に表す。
a:吸着平衡定数、b:飽和吸着量
notadsを用いて、比表面積Snotadsを表すと、(7)式のようになる。
notads:劣化ハニカム供試体に吸着できない比表面積、σVOC:VOCの吸着断面積
劣化ハニカム供試体に吸着できない比表面積Snotadsと蓄積物が付着している比表面積Saccは等しいので、(8)式のようになる。
acc:蓄積物が付着している比表面積
【0032】
(7)式を(8)式に対応させると、(9)式のようになる。
acc:単分子層蓄積物吸着量、σacc:蓄積物の吸着断面積
【0033】
ここで、TG重量減少率αTGを表す(2)式において、T1~T2における減少重量mT1-T2は蓄積物重量maccと同等であるとすると、
と表現される。蓄積物が第一層目だけに吸着していると仮定すると、
(9)式を(2)'式、(10)式を用いて変形すると、(11)式のようになる。
【0034】
(5)式に(11)式を代入し、TG/DTA測定試料の初期総重量msampleおよびPを一定と仮定すると、
D:定数
となり、劣化ハニカム供試体に吸着できないVOC重量WnotadsはTG/DTA測定試料の初期総重量msampleの関数となる。
【0035】
最終的に、(1)式は(1)'式と(4)式と(12)式より、
ここで(13)式において、E=D/Mads×100(定数)とすると、(14)式が導出される。
γ:静的吸着比率[%]、αTG:TG重量減少率[%]、E:定数
このように、(A)VOC静的吸着量試験の静的吸着比率γ、および(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のTG重量減少率αTGの相関関係は理論的にも線形関係で表されることが分かった。
【0036】
ここで、試験データより求めた相関関係を示す相関式(3)と理論的に求めた近似式(14)を比較すると、(3)式における定数Aが(14)式における定数Eに対応している。以上のように、実験的にも理論的にも静的吸着比率γおよびTG重量減少率αTGには線形関係の相関式が成立することが示された。
【0037】
(3)式の相関関係によると、(A)VOC静的吸着量試験、もしくは(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のいずれか一方のみを実施することにより、もう一方の結果を予測することができる。本発明において、劣化判定手法を簡素化できるポイントは、(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のみを実施すれば、(A)VOC静的吸着量試験による静的吸着比率γを予測できるので、(A)VOC静的吸着量試験を省略できることにある。相関式(3)は理論的にも成立することが示されたので、経験に則った劣化判定方法の簡略化だけでなく、理論的にも劣化判定方法をTG/DTA測定のみに移行することが可能となる。(A)VOC静的吸着量試験は供試体の量をある程度必要とするため、くり貫き素子のサンプリング、ハニカム供試体の切り出し、測定の準備・調製、測定自体等に時間と手間がかかる。一方、(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のためのハニカム供試体量はごくわずかで済み、サンプリングも少量で良く、測定のための準備・調製、測定自体にもさほど時間も手間もかからない。
【0038】
VOC吸着ハニカムロータ交換や性能回復措置を推奨する参考値となる静的吸着比率γを設定することにより、前記相関式(3)から相当するTG重量減少率αTGを求め、TG/DTA測定結果のみからロータ交換推奨可否や性能回復措置の時期を判断するようにしてもよい。あるいは、ロータ交換推奨や性能回復措置を推奨する参考値となるTG重量減少率αTGを予め設定してある場合は、(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のみを実施するようにし、目安として必要に応じて相関式(3)から静的吸着比率γを計算して推測するようにしてもよい。
【実施例1】
【0039】
(A)VOC静的吸着量試験には、数十g程度のハニカム供試体量が必要であるため、従来の劣化判定方法はくり貫き素子をVOC吸着ハニカムロータからφ60mm程度でくり貫き、ハニカム供試体の厚みを例えば10mm程度に切り出す必要があった。一方、本発明の劣化判定方法によれば、(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のみ実施すればよいので、ハニカム供試体の試料の重量は数十mg程度もあれば十分である。そこで、ハニカム供試体のくり貫き径はφ数mmで足りるが、ハニカムロータ厚み方向を全てくり貫く場合、径が細すぎると、くり貫き途中で折れやすくなる。このため作業性を考慮して、サンプルのくり貫きはφ15~30mm程度がよい。φ15~30mm程度でくり貫く場合、埋戻し素子でくり貫き部分を埋め戻す必要はなく、コーキング等でくり貫き穴を塞げばよい。このため、従来のサンプリング方法に比べて簡易であり、くり貫きの時間も手間もかからない。ただし、ロータ厚み方向全体を抜き取らなくとも、処理入口側および処理出口側の両端からそれぞれロータ厚み方向中心部に向かって、必要とする部分のみ、例えば厚み方向20~100mm程度だけ抜き取るようにしてもよい。この場合、φ5~20mm程度のコルクポーラー等でくり貫いてもよく、くり貫き方法が簡単になる。また、ロータ厚み方向中央部が残存するので、コーキング等で塞ぐ必要がない。これにより若干偏流は生じるが、影響はごくわずかであり、ロータ全体の通気には問題ない。なお、処理入口側のみ又は処理出口側のみの劣化の進行度を調査する場合は、いずれか一端から必要とする部分のみをくり貫くようにしてもよい。
【実施例2】
【0040】
劣化判定のための分析は定期的に行う必要があり、そのたびに素子をくり貫くのは手間がかかる。VOC吸着ハニカムロータ部分に取り外し(脱着)や取り付け、あるいは交換が容易なように、予めくり貫き素子を耐熱性のある例えば金属性のパイプ等に嵌めたもの(以下、「カートリッジ」という)をVOC吸着ハニカムロータ1に図5のように、空気流で飛ばされない強度で挿入固定しておき、劣化判定の度に引き抜く「カートリッジ式」としてもよい。この場合、カートリッジ13を引き抜いた際に生じる穴はコーキングで埋めるか、あるいは新しいカートリッジと交換しても良い。
【0041】
処理ガス条件等に応じて、劣化調査回数を予測しておき、その回数分あるいはその回数分を超える個数のカートリッジを設けるようにしてもよい。この際、設置位置は図5のようにハニカムロータ半径方向の中央部となるよう、かつ均等に設けるとよい。ただし、これに限るものではない。
【実施例3】
【0042】
以上の劣化判定方法により少なくとも一回以上判定し、処理ガス成分条件、VOC吸着ハニカムロータ稼働期間や劣化判定を実施する時期、判定結果およびロータ交換推奨値または性能回復措置推奨値等から劣化の進行度や傾向を診断することにより、VOC吸着ハニカムロータ交換時期や性能回復措置の時期を予測することができる。性能回復措置として、例えば、ロータを再生温度より高い温度で再生することにより、200℃前後の再生温度でも脱着されない蓄積物を除去して性能を回復させる方法等が挙げられる。
【0043】
発明者らが従来の方法によって長年に渡り実施してきた百数十検体もの劣化判定調査の結果、図6のように、静的吸着比率γもしくはTG重量減少率αTGには、VOC吸着ハニカムロータの稼働期間と近似曲線で示される相関関係が成立することが分かっている。ただし、ユーザーの処理ガス成分や使用条件等により、近似曲線は様々に異なる。
【0044】
VOC吸着ハニカムロータ交換時期や性能回復措置の時期を予測するには、ロータ稼働期間中に処理ガス成分や使用条件がある程度一定である必要があるが、通常大きく条件が変わることはない。ロータ交換推奨値または性能回復措置推奨値となる静的吸着比率γを定めている場合は、相関式(3)により、相当するTG重量減少率αTGが求まるので、(A)VOC静的吸着量試験を実施することなく、(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のみで、前記近似曲線とロータ交換推奨値または性能回復措置推奨値からVOC吸着ハニカムロータ交換時期あるいは性能回復措置の時期を推測することができる。一方、ロータ交換推奨値または性能回復措置推奨値となるTG重量減少率αTGを予め設定してある場合は、(B)TG/DTAによる有機物蓄積量測定のみを実施し、同様に前記近似曲線とロータ交換推奨値からロータ交換推奨時期あるいは性能回復措置の時期を推測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の有機溶剤濃縮装置および有機溶剤濃縮装置の劣化判定方法によれば、TG/DTAによる有機物蓄積量測定のみで、VOC静的吸着量試験を実施することなく静的吸着比率を予測できるので、VOC濃縮ロータの劣化判定方法を簡素化でき、くり貫き作業および劣化判定調査の手間と時間を低減することができ、迅速な劣化判定が可能となる。
【符号の説明】
【0046】
1 VOC吸着ハニカムロータ
2 処理ゾーン
3 再生ゾーン
4 冷却ゾーン
5 プレフィルター
6 処理ファン
7 再生ヒータ
8 再生ファン
9 冶具
10 くり貫き素子
11 処理入口側ハニカム供試体
12 処理出口側ハニカム供試体
13 カートリッジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6