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特許7347803金型と離型フィルムとの組合せ、離型フィルム、金型、及び成形体の製造方法
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  • 特許-金型と離型フィルムとの組合せ、離型フィルム、金型、及び成形体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】金型と離型フィルムとの組合せ、離型フィルム、金型、及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/42 20060101AFI20230912BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230912BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230912BHJP
   B29C 33/68 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
B29C33/42
B32B27/30 D
B32B27/20 Z
B29C33/68
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020021299
(22)【出願日】2020-02-12
(62)【分割の表示】P 2019052290の分割
【原出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020152101
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-03-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591161623
【氏名又は名称】株式会社コバヤシ
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 圭介
(72)【発明者】
【氏名】田中 奈名恵
(72)【発明者】
【氏名】宮下 顕司
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-066578(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199440(WO,A1)
【文献】特開2014-212239(JP,A)
【文献】国際公開第2015/068808(WO,A1)
【文献】特開2004-017483(JP,A)
【文献】特開2014-188746(JP,A)
【文献】特開2000-210987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 - 33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂の硬化のために、離型フィルムと組み合わせて用いられる金型であって、
前記金型は、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面に凹凸が形成されており、
前記金型の前記面の表面粗さRaが1μm~4μmであり
記硬化において、前記凹凸が、前記離型フィルムを介して、前記熱硬化性樹脂の表面に反映され、且つ、
前記熱硬化性樹脂の硬化によって得られる成形体に、入射角60°での光沢度が3~50である表面を形成するために用いられる、
前記金型。
【請求項2】
前記表面はエポキシ樹脂表面である、請求項1に記載の金型。
【請求項3】
前記金型の金型硬度が50HRC以上である、請求項1又は2に記載の金型。
【請求項4】
前記成形体は、その表面に、レーザマーカによる印字が行われるものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の金型。
【請求項5】
前記印字の文字高さは0.1mm~10mmである、請求項4に記載の金型。
【請求項6】
前記金型と組み合わせて用いられる前記離型フィルムが、
熱可塑性樹脂から形成されている基材層と、
前記基材層の2つの面のうち前記硬化において熱硬化性樹脂側に配置される面に積層されている、粒子を含むフッ素系樹脂から形成されている表面層と、を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の金型。
【請求項7】
前記硬化において、前記粒子に起因する前記離型フィルムの表面形状が、前記熱硬化性樹脂の表面に直接的に反映される、請求項に記載の金型。
【請求項8】
熱硬化性樹脂を硬化させるために用いられる金型内に、離型フィルムを配置する配置工程と、
前記配置工程後に、前記熱硬化性樹脂を前記金型内で、前記離型フィルムに接触した状態で硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程後に、前記金型から、硬化した前記熱硬化性樹脂を離型して成形体を得る離型工程と
を含み、
前記金型は、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面に凹凸が形成されており、
前記金型の前記面の表面粗さRaが1μm~4μmであり、
前記凹凸が、放電加工又はショットブラストによって形成された凹凸であり、
前記硬化工程において、前記凹凸が、前記離型フィルムを介して、前記熱硬化性樹脂の表面に反映され、且つ
前記熱硬化性樹脂の硬化によって得られる成形体に、入射角60°での光沢度が3~50である表面が形成される、
成形体の製造方法。
【請求項9】
熱硬化性樹脂の硬化のために用いられる、金型と離型フィルムとの組合せであって、
前記金型は、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面に凹凸が形成されており、
前記金型の前記面の表面粗さRaが1μm~4μmであり
記硬化において、前記凹凸が、前記離型フィルムを介して、前記熱硬化性樹脂の表面に反映され、且つ、
前記熱硬化性樹脂の硬化によって得られる成形体に、入射角60°での光沢度が3~50である表面を形成するために用いられる、
前記組合せ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型と離型フィルムとの組合せ、離型フィルム、金型、及び成形体の製造方法に関し、より詳しくはトランスファーモールド成形又はコンプレッションモールド成形のために用いられる金型と離型フィルムとの組合せ、当該組合せを構成する離型フィルム及び金型、並びに、当該組合せを用いた成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を樹脂により封止するために、例えばトランスファーモールド成形法及びコンプレッションモールド成形法などの成形手法が用いられる。前記成形手法において、樹脂が金型内で硬化した後に、金型から成形体を容易にはずすためにしばしば離型フィルムが用いられる。これまで、離型フィルム及び金型について種々の提案がされている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、官能基Xを含有するフッ素樹脂(A)と離型成分(B)とを含む組成物から形成された塗膜と、非フッ素化ポリマーから形成された層とを含むことを特徴とする離型フィルムが開示されている。
また、下記特許文献2には、対向する第1、第2の金型で半導体チップが搭載された被成形品をクランプし、前記金型内に充填した樹脂を用いて前記被成形品を封止する樹脂封止金型であって、 前記第1、第2の金型の少なくとも一方には、前記金型内に充填される前記樹脂の前記金型の対向方向の厚みよりも前記金型の表面に近い位置に、第1のヒータが配置されていることを特徴とする樹脂封止金型が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-74201号公報
【文献】特開2012-256925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
成形体の表面を調整することが求められることがある。例えば、前記成形体の表面にはレーザマーカによって印字されることがあり、当該印字の視認性又は読み取り装置による可読性を高めるような表面を形成することが求められることがある。
【0006】
本発明は、前記成形体の表面を調整するための新たな技法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の金型、製造方法、離型フィルム、並びに、金型及び離型フィルムの組合せが、前記成形体の表面調整に適していることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、
熱硬化性樹脂の硬化のために、離型フィルムと組み合わせて用いられる金型であって、
前記金型は、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面に凹凸が形成されており、
前記金型の前記面の表面粗さRaが1μm~4μmであり
記硬化において、前記凹凸が、前記離型フィルムを介して、前記熱硬化性樹脂の表面に反映され、且つ、
前記熱硬化性樹脂の硬化によって得られる成形体に、入射角60°での光沢度が3~50である表面を形成するために用いられる、
前記金型を提供する。
前記表面はエポキシ樹脂表面でありうる。
前記金型の金型硬度が50HRC以上でありうる。
前記成形体は、その表面に、レーザマーカによる印字が行われるものであってよい。
前記印字の文字高さは0.1mm~10mmであってよい。
前記金型と組み合わせて用いられる前記離型フィルムが、
熱可塑性樹脂から形成されている基材層と、
前記基材層の2つの面のうち前記硬化において熱硬化性樹脂側に配置される面に積層されている、粒子を含むフッ素系樹脂から形成されている表面層と、を含みうる。
前記硬化において、前記粒子に起因する前記離型フィルムの表面形状が、前記熱硬化性樹脂の表面に直接的に反映されうる。



【0009】
また、本発明は、
熱硬化性樹脂を硬化させるために用いられる金型内に、離型フィルムを配置する配置工程と、
前記配置工程後に、前記熱硬化性樹脂を前記金型内で、前記離型フィルムに接触した状態で硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程後に、前記金型から、硬化した前記熱硬化性樹脂を離型して成形体を得る離型工程と
を含み、
前記金型は、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面に凹凸が形成されており、
前記金型の前記面の表面粗さRaが1μm~4μmであり、
前記凹凸が、放電加工又はショットブラストによって形成された凹凸であり、
前記硬化工程において、前記凹凸が、前記離型フィルムを介して、前記熱硬化性樹脂の表面に反映され、且つ
前記熱硬化性樹脂の硬化によって得られる成形体に、入射角60°での光沢度が3~50である表面が形成される、
成形体の製造方法も提供する。

【0010】
また、本発明は、
熱硬化性樹脂の硬化のために、金型と組み合わせて用いられる離型フィルムであって、
前記金型は、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面に凹凸が形成されており、
前記金型の前記面の表面粗さRaが1μm~4μmであり、
前記凹凸が、放電加工又はショットブラストによって形成された凹凸であり、
前記硬化において、前記凹凸を、前記離型フィルムを介して、前記熱硬化性樹脂の表面に反映するために用いられ、且つ、
前記熱硬化性樹脂の硬化によって得られる成形体に、入射角60°での光沢度が3~50である表面を形成するために用いられる、
前記離型フィルムも提供する。
前記離型フィルムの引張破断強度は、JIS K7127に従い175℃で測定された場合に、40MPa~200MPaであり、且つ、前記離型フィルムの引張破断伸びが、JIS K7127に従い175℃で測定された場合に、200%~500%でありうる。
前記離型フィルムの厚みが30μm~100μmでありうる。

【0011】
また、本発明は、
熱硬化性樹脂の硬化のために用いられる、金型と離型フィルムとの組合せであって、
前記金型は、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面に凹凸が形成されており、
前記金型の前記面の表面粗さRaが1μm~4μmであり
記硬化において、前記凹凸が、前記離型フィルムを介して、前記熱硬化性樹脂の表面に反映され、且つ、
前記熱硬化性樹脂の硬化によって得られる成形体に、入射角60°での光沢度が3~50である表面を形成するために用いられる、
前記組合せも提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、成形体の表面調整が可能となる。例えば、本発明により、レーザマーカによる印字の視認性及び可読性を高めることができる。
なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】トランスファーモールド成形における本発明の組合せの使用方法の一例を説明するための図である。
図2】本発明の組合せを構成する離型フィルムの積層構造の一例の模式図である。
図3】コンプレッションモールド成形における本発明の組合せの使用方法の一例を説明するための図である。
図4】成形体側表面層の形成を説明するための図である。
図5】レーザマーカによる観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものでない。
【0015】
1.金型と離型フィルムとの組合せ
【0016】
本発明は、熱硬化性樹脂の硬化のために用いられる金型と前記硬化において前記熱硬化性樹脂と前記金型との間に配置される離型フィルムとの組合せを提供する。前記離型フィルムは、熱可塑性樹脂から形成されている基材層と、前記基材層の2つの面のうち前記硬化において熱硬化性樹脂側に配置される面に積層されている表面層とを含み、当該表面層は、粒子を含むフッ素系樹脂から形成されている。前記金型は、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面に、凹凸が形成されている。
【0017】
前記組合せを例えばトランスファーモールド成形法及びコンプレッションモールド成形法などの成形手法において用いることで、成形体の表面状態を調整することができ、例えば、成形体表面に所望の光沢度を付与することができる。例えば、本発明に従う組合せは、入射角60°での光沢度が3~50である表面を有する成形体を製造するために用いられてよい。例えば、本発明に従う組合せは、入射角60°での光沢度が3~15、好ましくは3~10、より好ましくは4~8、さらにより好ましくは4~6である表面(特にはエポキシ樹脂表面)を有する成形体を製造するために用いられてよい。
また、上記組合せを用いることで、例えば成形体表面に施された印字又は模様の視認性又は可読性を高めることができる。例えば、本発明に従う組合せは、レーザマーカによる印字が行われる表面(特にはエポキシ樹脂表面)を有する成形体を製造する為に用いられてよい。前記印字の文字高さは例えば0.1mm~10mm、好ましくは0.2mm~5mmでありうる。前記印字の文字高さは特には0.5mm~3mmであってもよい。本発明の組合せを用いることによって、製造された成形体の表面上のこのような小さい文字の視認性又は可読性を高めることができる。
【0018】
前記離型フィルムは、前記金型の表面の凹凸を成形体表面に反映させるために適しており、且つ、優れた離型性を発揮する。特には表面層に含まれる粒子及びフッ素系樹脂の組合せが、優れた離型性を発揮するために貢献し、且つ、成形体の表面状態の調整に貢献している。
【0019】
以下で、まず前記組合せの使用方法の例を説明し、次に、前記組合せの構成要素である離型フィルム及び金型についてより詳細に説明する。
【0020】
1-1.本発明の組合せの使用方法
【0021】
本発明の組合せは、例えば熱硬化性樹脂の種々の成形方法において用いられてよい。好ましくは、本発明の組合せは、前記熱硬化性樹脂の硬化物の表面に、凹凸を形成するために用いられうる。
例えば、当該成形手法は、例えばトランスファーモールド成形又はコンプレッションモールド成形であり、本発明の組合せはこれら成形方法において使用するために特に適している。特には、本発明の組合せは、これら成形方法において得られる成形体の表面状態を調整するために、好ましくはこれら成形体の表面に凹凸を形成するために用いられうる。
以下で、これら成形方法における本発明の組合せの使用方法の例を説明する。
【0022】
(1)トランスファーモールド成形
【0023】
図1は、トランスファーモールド成形における本発明の組合せの使用方法の一例を説明するための図である。図1(A)に示されるとおり、本発明の組合せを構成する離型フィルム11が、本発明の組合せを構成する上側金型12及び基板14を載せられた下側金型13との間に配置される。基板14上には例えば半導体素子17が搭載されていてよい。上側金型12及び下側金型13は、熱硬化性樹脂15の成形を行うために用いられる。当該成形によって、半導体素子17が、熱硬化性樹脂15の硬化物によって封止される。なお、図1において、1つの半導体素子17が示されているが、1回の成形において封止される半導体素子17の数は1つに限られず、好ましくは複数である。
離型フィルム11は、例えば図2に示される積層構造を有する。離型フィルム11は、基材層101と、基材層101の一方の面に表面層102が積層されており、他方の面に表面層103が積層されている。なお、離型フィルム11の詳細は、以下「1-2.離型フィルム」において説明する。
表面層102は、基材層101の2つの面のうち、前記トランスファーモールド成形において熱硬化性樹脂側に配置される面に積層されている。すなわち、表面層102は、前記トランスファーモールド成形において熱硬化性樹脂15に接触する。表面層102は、粒子を含むフッ素系樹脂から形成されている。
表面層103は、基材層101の2つの面のうち、前記トランスファーモールド成形において上側金型12側に配置される面に積層されている。すなわち、表面層103は、前記前記トランスファーモールド成形において上側金型12に接触する。
上側金型12の表面16に、凹凸が形成されている。すなわち、表面16は、前記トランスファーモールド成形において、離型フィルム11(特にはその表面層103)に接触する。
【0024】
次に、図1(B)に示されるとおり、離型フィルム11(特にはその表面層103)が上側金型12の表面16に張り付いた状態で、上側金型12を基板14及び下側金型13に接触させる。
【0025】
次に、図1(C)に示されるとおり、熱硬化性樹脂15が、上側金型12(特には離型フィルム11)と基板14との間に導入され、その後、熱硬化性樹脂15が加熱によって硬化される。
当該硬化において、上側金型12の表面16に形成された凹凸形状が、離型フィルム11を介して熱硬化性樹脂15の表面に反映され、且つ、離型フィルム11の表面形状(特には表面層102中に含まれる粒子に起因する表面形状)が、熱硬化性樹脂15の表面に反映される。すなわち、上側金型12の表面16に形成された凹凸形状が、熱硬化性樹脂15の表面に間接的に反映され、且つ、離型フィルム11の表面形状(特には表面層102中に含まれる粒子に起因する表面形状)が、熱硬化性樹脂15の表面に直接的に反映される。前記凹凸形状及び前記表面形状が熱硬化性樹脂15の表面に反映された状態で、熱硬化性樹脂15が硬化される。すなわち、当該硬化の結果得られた成形体の表面に、前記凹凸形状及び前記表面形状が反映される。ここで、当該成形体(硬化物)の表面に形成される凹凸は、前記金型の凹凸と異なっていてよい。
以上のとおり、本発明の組合せによって、成形体の表面状態の調整が可能となる。
【0026】
硬化後に図1(D)に示されるとおりに、上側金型12を基板14から離す。離型フィルム11は、特には粒子を含むフッ素系樹脂から形成されていることによって、離型性に優れている。そのため、図1(D)の工程において、硬化した樹脂15からスムーズに離れる。離型性が良好でない場合、例えば図1(E)に示されるように、離型フィルム19が、硬化した樹脂15にくっついてしまうことがある。
【0027】
(2)コンプレッションモールド成形
【0028】
図3は、コンプレッションモールド成形における本発明の組合せの使用方法の一例を説明するための図である。図3(A)に示されるとおり、本発明の組合せを構成する離型フィルム11が、複数の半導体素子27が搭載された基板24が取り付けられた上側金型22と下側金型23との間に配置される。
離型フィルム11は、上記(1)において説明したとおり、基材層101と、基材層101の一方の面に表面層102が積層されており、他方の面に表面層103が積層されている。
表面層102は、基材層101の2つの面のうち、前記コンプレッションモールド成形において熱硬化性樹脂側に配置される面に積層されている。すなわち、表面層102は、前記コンプレッションモールド成形において、後述する熱硬化性樹脂25に接触する。
表面層103は、基材層101の2つの面のうち、前記コンプレッションモールド成形において下側金型23側に配置される面に積層されている。すなわち、表面層103は、前記コンプレッションモールド成形において下側金型23に接触する。
下側金型23の表面26に、凹凸が形成されている。すなわち、表面26は、前記コンプレッションモールド成形において、離型フィルム11(特にその表面層103)に接触する。
【0029】
次に、図3(B)に示されるとおり、離型フィルム11が下側金型23の表面26に張り付いた状態で、下側金型23の窪み内に熱硬化性樹脂25が配置される。
【0030】
次に、図3(C)に示されるとおり、上側金型22を移動させて、基板24を熱硬化性樹脂25に接触させる。その後、熱硬化性樹脂25が加熱によって硬化する。
当該硬化において、下側金型23の表面26に形成された凹凸形状が、離型フィルム11を介して熱硬化性樹脂25の表面に反映され、且つ、離型フィルム11の表面形状(特には表面層102中に含まれる粒子に起因する表面形状)が、熱硬化性樹脂25の表面に反映される。すなわち、下側金型23の表面26に形成された凹凸形状が、熱硬化性樹脂25の表面に間接的に反映され、且つ、離型フィルム11の表面形状(特には表面層102中に含まれる粒子に起因する表面形状)が、熱硬化性樹脂25の表面に直接的に反映される。前記凹凸形状及び前記表面形状が熱硬化性樹脂25の表面に反映された状態で、熱硬化性樹脂25が硬化される。すなわち、当該硬化の結果得られた成形体の表面に、前記凹凸形状及び前記表面形状が反映される。ここで、当該成形体(硬化物)の表面に形成される凹凸は、前記金型の凹凸と異なっていてよい。
以上のとおり、本発明の組合せによって、本発明の組合せによって、成形体の表面状態の調整が可能となる。
【0031】
硬化後に図3(D)に示されるとおりに、上側金型22を下側金型23から離す。離型フィルム11は、特にはその表面層102が粒子を含むフッ素系樹脂から形成されていることによって、離型性に優れている。そのため、図3(D)の工程において、硬化した樹脂25を、下側金型23からスムーズに離型することを可能である。
【0032】
以上のとおり、本発明の組合せは、熱硬化性樹脂の硬化のために用いられる。特には、本発明の組合せは、熱硬化性樹脂を硬化して成形体を得るために用いられうる。当該熱硬化性樹脂は、例えばエポキシ樹脂又はシリコーン樹脂であり、好ましくはエポキシ樹脂である。本発明の組合せは、これらの樹脂の表面状態の調整に特に適している。
【0033】
本発明の組合せが使用される成形における成形温度は、当該成形温度は、熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜選択されてよい。当該成形温度は、例えば100℃~250℃であり、好ましくは120℃~200℃であり、より好ましくは150℃~200℃でありうる。
【0034】
1-2.離型フィルム
【0035】
本発明の組合せを構成する離型フィルムを、図2を参照しながら説明する。図2は、上記で述べたとおり、当該離型フィルムの積層構造の一例の模式図である。
【0036】
図2に示される離型フィルム11は、基材層101と、基材層101の2つの面のうち前記硬化において熱硬化性樹脂側(成形体側)に配置される面に積層されている表面層102(本明細書内において「成形体側表面層」ともいう)を含む。基材層101は、熱可塑性樹脂から形成されている。成形体側表面層102は、粒子を含むフッ素系樹脂から形成されている。離型フィルム11が基材層101及び成形体側表面層102を含むことが、上記「1-1.本発明の組合せの使用方法」において述べたとおりの表面調整を可能とすることに貢献する。また、成形体側表面層102は、粒子を含むフッ素系樹脂から形成されていることによって、硬化した成形体から離れやすい。
【0037】
離型フィルム11は、基材層101の2つの面のうち前記硬化において金型側に配置される面に積層されている表面層103(本明細書内において、「金型側表面層」ともいう)も含む。金型側表面層103は、好ましくはフッ素系樹脂から形成されていてよく、より好ましくは粒子を含むフッ素系樹脂から形成されうる。これにより、熱硬化性樹脂の硬化後に離型フィルム11が金型から離れやすくなる。
【0038】
以上のとおり、離型フィルム11は、成形体側表面層102、基材層101、及び金型側表面層103が、この順に積層されている積層構造を有する。以下で、各層についてより詳細に説明する。
【0039】
[基材層]
【0040】
基材層101は、熱可塑性樹脂から形成されている。当該熱可塑性樹脂は、好ましくは上記熱硬化性樹脂の硬化において採用される成形温度以上の融点、より好ましくは当該成形温度よりも高い融点を有する樹脂でありうる。これにより、前記成形において、前記金型の表面の凹凸が、離型フィルム11を介して前記熱硬化性樹脂の表面に反映されやすくなる。
【0041】
前記熱可塑性樹脂は、好ましくはポリエステル系樹脂である。ポリエステル系樹脂は、主鎖中にエステル結合を有する高分子である。前記ポリエステル系樹脂は、例えば多価アルコールと多塩基酸との重合体でありうる。前記ポリエステル系樹脂は、ポリエステルを主成分とする樹脂であり、例えばポリエステルを当該樹脂質量に対して90質量%以上、好ましくは95質量%以上、好ましくは98質量%以上の割合で含みうる。
前記熱可塑性樹脂は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリブチレンナフタレート(PBN)、及びポリカーボネート(PC)樹脂樹脂から選ばれるいずれか1つ又は2つ以上の混合物であってよい。前記熱可塑性樹脂は、より好ましくはPET樹脂又はPEN樹脂であり、特に好ましくPET樹脂である。PET樹脂は、前記成形において、前記金型の表面の凹凸を前記熱硬化性樹脂の表面に反映するために特に適している。
【0042】
PET樹脂は、汎用PET樹脂であってもよく、又は、易成型PET樹脂であってもよい。汎用PET樹脂のガラス転移温度は、100℃以上でありうる。本明細書内において、ガラス転移温度は示差熱分析(DTA)により測定されるガラス転移温度である。易成型PET樹脂のガラス転移温度は、100℃未満であり、好ましくは60℃~95℃であり、より好ましくは65℃~90℃でありうる。易成型PET樹脂は、PET樹脂に含まれるオリゴマーによる金型又は成形体の汚染を防止するために特に適している。
【0043】
前記汎用PET樹脂から形成される基材層として、例えばテトロン(登録商標)シリーズのフィルムを用いることができるが、これらに限定されない。
【0044】
前記易成型PET樹脂は、例えば共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂であってよい。共重合ポリエチレンテレフタレートは、例えばテレフタル酸とエチレングリコールと共重合成分とを反応させることにより得られてよく、又は、共重合成分のポリマーとポリエチレンテレフタレートとを混合及び溶融し次に分配反応をさせることにより得られてもよい。
前記共重合成分は、例えば酸成分であってよく又はアルコール成分であってもよい。前記酸成分として、芳香族二塩基酸(例えばイソフタル酸、フタル酸、及びナフタレンジカルボン酸など)、脂肪族ジカルボン酸(例えばアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、及びデカンジカルボン酸など)、及び脂環族ジカルボン酸(例えばシクロヘキサンジカルボン酸など)を挙げることができる。前記アルコール成分として、脂肪族ジオール(例えばブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、及びヘキサンジオールなど)及び脂環族ジオール(例えばシクロヘキサンジメタノールなど)を挙げることができる。前記共重合成分として、これらの化合物のうちの1つ又は2つ以上の組合せが用いられてよい。前記酸成分は、特にはイソフタル酸及び/又はセバシン酸でありうる。
【0045】
易成型PET樹脂から形成される基材層として、市販入手可能なものを用いてもよい。例えば、易成型PET樹脂から形成される基材層として、テフレックス(商標)FT、テフレックス(商標)FT3、及びテフレックス(商標)FW2(いずれも帝人フィルムソリューション株式会社製)を用いることができる。また、易成型PET樹脂から形成される基材層として、エンブレットCTK-38(ユニチカ株式会社製)が用いられてよい。また、前記基材層として、CH285J(南亜プラスチック社製)が用いられてもよい。
前記易成型PET樹脂から形成される基材層は、例えば特開平2-305827号公報、特開平3-86729号公報、又は特開平3-110124号公報に記載された方法により製造されてもよい。本発明の一つの好ましい実施態様に従い、前記基材層は、これらの公報のいずれかに記載されるように、面配向係数が好ましくは0.06~0.16、より好ましくは0.07~0.15となるように、易成型PET樹脂を二軸延伸したものであってよい。
【0046】
前記基材層の引張破断強度は、JIS K7127に従い175℃で測定された場合に、好ましくは40MPa~200MPaであり、より好ましくは40MPa~120MPaであり、さらにより好ましくは40MPa~110MPaであり、特に好ましくは45MPa~100MPaでありうる。
前記基材層の引張破断伸びは、JIS K7127に従い175℃で測定された場合に、好ましくは200%~500%であり、より好ましくは250%~450%であり、さらにより好ましくは300%~400%でありうる。
【0047】
前記基材層の厚みは、例えば10μm~80μm、好ましくは15μm~75μm、より好ましくは20μm~70μm、特に好ましくは30μm~60μmでありうる。当該厚みが、金型表面の凹凸形状を成形体表面に反映するために適している。
【0048】
[成形体側表面層]
【0049】
成形体側表面層102は、粒子を含むフッ素系樹脂から形成されている。本発明の好ましい実施態様に従い、前記フッ素系樹脂は塩素を含まない。塩素を含まないことによって、当該層の耐久性及び/又は防汚性が向上する。当該フッ素系樹脂は、例えば反応性官能基含有フッ素系重合体と硬化剤とを含むフッ素系樹脂組成物の硬化物でありうる。
当該フッ素系樹脂は、好ましくは四フッ化エチレン系樹脂を含み、より好ましくは四フッ化エチレン系樹脂を主成分として含む。本明細書内において、前記四フッ化エチレン系樹脂は、以下で述べる反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体と硬化剤との硬化反応により得られる成分をいう。四フッ化エチレン系樹脂が主成分であるとは、当該フッ素系樹脂が四フッ化エチレン系樹脂のみからなること、又は、当該フッ素系樹脂に含まれる成分のうち四フッ化エチレン系樹脂の量が最も多いことを意味する。例えば、当該フッ素系樹脂中の四フッ化エチレン系樹脂の含有割合は、当該フッ素系樹脂の全質量に対して例えば70質量%以上、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは85質量%以上であってよい。当該含有割合は、当該フッ素系樹脂の全質量に対して例えば99質量%以下、特には98質量%以下、より特には97質量%以下でありうる。
【0050】
前記フッ素系樹脂組成物に含まれる前記反応性官能基含有フッ素系重合体は、前記硬化剤によって硬化可能であるフッ素系重合体であってよい。前記反応性官能基と前記硬化剤とは当業者により適宜選択されてよい。
前記反応性官能基は、例えば水酸基、カルボキシル基、-COOCO-で表される基、アミノ基、又はシリル基であってよく、好ましくは水酸基である。これらの基によって、前記硬化物を得るための反応が良好に進行する。
これらの反応性官能基のうち、水酸基が、前記硬化物を得るための反応に特に適している。すなわち、前記反応性官能基含有フッ素系重合体は、好ましくは水酸基含有フッ素系重合体であり、より好ましくは水酸基含有四フッ化エチレン系重合体でありうる。
【0051】
前記反応性官能基含有フッ素系重合体のフッ素含有単位は、好ましくはパーフルオロオレフィンに基づくフッ素含有単位である。当該パーフルオロオレフィンに基づくフッ素含有単位は、より好ましくはテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン、本明細書内以下において「TFE」ともいう)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)から選ばれる1つ、2つ、又は3つに基づくものであってよい。好ましくは、当該パーフルオロオレフィンに基づくフッ素含有単位のうち、TFEに基づくフッ素含有単位が最も多い。
【0052】
前記反応性官能基含有フッ素系重合体の水酸基価(特には水酸基含有フッ素系重合体の水酸基価)は、好ましくは10mgKOH/g~300mgKOH/gであり、より好ましくは10mgKOH/g~200mgKOH/gであり、さらにより好ましくは10mgKOH/g~150mgKOH/gでありうる。前記反応性官能基含有フッ素系重合体の水酸基価が上記数値範囲の下限値以上であることによって、樹脂組成物の硬化性が良好になりうる。また、前記反応性官能基含有フッ素系重合体の水酸基価が上記数値範囲の上限値以下であることが、当該樹脂組成物の硬化物を複数回の成形に適したものとすることに寄与しうる。当該水酸基価は、JIS K 0070に準拠する方法により測定して得られる。
【0053】
前記反応性官能基含有フッ素系重合体の酸価(特には水酸基含有フッ素系重合体の酸価)は、好ましくは0.5mgKOH/g~100mgKOH/gであり、より好ましくは0.5mgKOH/g~50mgKOH/gでありうる。
【0054】
前記反応性官能基含有フッ素系重合体の反応性官能基は、当該反応性官能基を有するモノマーを、フッ素含有モノマー(特には上記パーフルオロオレフィン)と共重合することにより、当該フッ素系重合体に導入されてよい。すなわち、前記反応性官能基含有フッ素系重合体は、反応性官能基含有モノマーに基づく重合単位とフッ素含有モノマー(特には上記パーフルオロオレフィン)に基づく重合単位とを含みうる。
【0055】
前記反応性官能基が水酸基である場合、前記反応性官能基を有するモノマーは、好ましくは水酸基含有ビニルエーテル又は水酸基含有アリルエーテルでありうる。水酸基含有ビニルエーテルとして、例えば2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシ-2-メチルブチルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル、及び6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテルを挙げることができ、水酸基含有水酸基含有アリルエーテルとして、例えば2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、4-ヒドロキシブチルアリルエーテル、及びグリセロールモノアリルエーテルを挙げることができる。代替的には、前記反応性官能基を有するモノマーは、例えばアクリル酸2-ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルであってもよい。前記反応性官能基を有するモノマーとして、これらの化合物のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせが用いられてよい。前記反応性官能基が水酸基である場合、前記反応性官能基を有するモノマーは、前記樹脂組成物の硬化性の観点から、より好ましくは水酸基含有ビニルエーテルであり、特に好ましくは4-ヒドロキシブチルビニルエーテル及び/又は2-ヒドロキシエチルビニルエーテルでありうる。
【0056】
前記反応性官能基がカルボキシル基である場合、前記反応性官能基を有するモノマーは、好ましくは不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、又は不飽和カルボン酸の酸無水物であってよい。
前記反応性官能基がアミノ基である場合、前記反応性官能基を有するモノマーは、例えばアミノビニルエーテル又はアリルアミンであってよい。
前記反応性官能基がシリル基である場合、前記反応性官能基を有するモノマーは、好ましくはシリコーン系ビニルモノマーでありうる。
【0057】
前記フッ素含有モノマーは、好ましくはパーフルオロオレフィンである。パーフルオロオレフィンとして、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)を挙げることができる。好ましくは、前記フッ素含有モノマーはTFEを含む。
【0058】
好ましくは、前記反応性官能基含有フッ素系重合体は、反応性官能基含有モノマーに基づく重合単位及びフッ素含有モノマーに基づく重合単位に加えて、フッ素非含有ビニルモノマーに基づく重合単位も含みうる。当該フッ素非含有ビニルモノマーは、例えばカルボン酸ビニルエステル、アルキルビニルエーテル、及び非フッ素化オレフィンからなる群から選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせでありうる。
カルボン酸ビニルエステルとして、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル、及びパラ-t-ブチル安息香酸ビニルを挙げることができる。
アルキルビニルエーテルとして、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、及びシクロヘキシルビニルエーテルを挙げることができる。
非フッ素化オレフィンとして例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブテンを挙げることができる。
また、前記反応性官能基含有フッ素系重合体は、反応性官能基含有モノマーに基づく重合単位及びパーフルオロオレフィンであるフッ素含有モノマーに基づく重合単位に加えて、例えばビニリデンフルオライド(VdF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ビニルフルオライド(VF)、及びフルオロビニルエーテルなどの、パーフルオロオレフィン以外のフッ素系単量体に基づく重合単位を含んでもよい。
【0059】
前記反応性官能基含有フッ素系重合体は、例えば、TFE/非フッ素化オレフィン/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体、TFE/カルボン酸ビニルエステル/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体、又はTFE/アルキルビニルエーテル/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体でありうる。
より具体的には、前記反応性官能基含有フッ素系重合体は、TFE/イソブチレン/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体、TFE/バーサチック酸ビニル/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体、又はTFE/VdF/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体でありうる。前記反応性官能基含有フッ素系重合体は、特に好ましくは、TFE/イソブチレン/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体又はTFE/バーサチック酸ビニル/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体でありうる。
前記反応性官能基含有フッ素系重合体として、例えばゼッフルGKシリーズの製品を使用することができる。
【0060】
前記フッ素系樹脂組成物に含まれる前記硬化剤は、前記反応性官能基含有フッ素系重合体に含まれる反応性官能基の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。
前記反応性官能基が水酸基である場合、前記硬化剤は、好ましくはイソシアネート系硬化剤、メラミン樹脂、シリケート化合物、及びイソシアネート基含有シラン化合物から選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせでありうる。
前記反応性官能基がカルボキシル基である場合、前記硬化剤は、好ましくはアミノ系硬化剤及びエポキシ系硬化剤から選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせでありうる。
前記反応性官能基がアミノ基である場合、前記硬化剤は、カルボニル基含有硬化剤、エポキシ系硬化剤、及び酸無水物系硬化剤から選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせでありうる。
前記フッ素系樹脂組成物中の前記硬化剤の含有量は、前記反応性官能基含有フッ素系重合体100質量部に対して、例えば15質量部~50質量部、好ましくは20質量部~40質量部、より好ましくは23質量部~35質量部でありうる。これらの数値範囲は、当該フッ素系樹脂組成物の硬化物中の前記硬化剤の含有量についても当てはまる。
前記硬化剤の含有量は、熱分解ガスクロマトグラフ(Py-GC/MS)法により測定されてよい。
【0061】
本発明の1つの実施態様において、前記反応性官能基含有フッ素系重合体に含まれる反応性官能基は水酸基であり且つ前記硬化剤がイソシアネート系硬化剤でありうる。この実施態様において、前記イソシアネート系硬化剤は、好ましくはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系ポリイソシアネートである。
前記フッ素系樹脂組成物中の前記HDI系ポリイソシアネートの含有量は、前記反応性官能基含有フッ素系重合体100質量部に対して、例えば15質量部~50質量部、好ましくは20質量部~40質量部、より好ましくは23質量部~35質量部でありうる。これらの数値範囲は、当該フッ素樹脂組成物の硬化物中の前記HDI系ポリイソシアネートの含有量についても当てはまる。
【0062】
HDI系ポリイソシアネートとして、例えばイソシアヌレート型ポリイソシアネート、アダクト型ポリイソシアネート、及びビウレット型ポリイソシアネートから選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせを用いることができる。本発明において、前記イソシアネート系硬化剤は、好ましくはイソシアヌレート型ポリイソシアネート及び/又はアダクト型ポリイソシアネート、より好ましくはイソシアヌレート型ポリイソシアネートとアダクト型ポリイソシアネートとの組み合わせでありうる。
前記硬化剤としてイソシアヌレート型ポリイソシアネートとアダクト型ポリイソシアネートとの組み合わせが用いられる場合、両者の質量比は例えば10:6~10:10、好ましくは10:7~10:9である。両者の合計量が、前記反応性官能基含有フッ素系重合体100質量部に対して、例えば15質量部~50質量部、好ましくは20質量部~40質量部、より好ましくは25質量部~35質量部でありうる。
これら硬化剤の含有比率は、熱分解ガスクロマトグラフ(Py-GC/MS)法により決定されてよい。
【0063】
前記成形体側表面層を形成するフッ素系樹脂は、粒子を含み、好ましくはレーザー回折式粒度分析測定法に従い測定された平均粒径が1μm~10μm、より好ましくは2μm~9μmである粒子を含む。前記平均粒径は、体積で重みづけされた体積平均径であり、JIS Z8825に従い測定されるものである。当該粒子を含むことによって、成形体の表面に当該粒子に起因する形状を反映することができ、且つ、前記離型フィルムの離型性を高めることができる。また、前記粒子の平均粒径が前記数値範囲の下限値よりも小さい場合、当該粒子に起因する表面形状が、成形体表面に反映されないことがある。また、前記粒子の平均粒径が前記数値範囲の上限値よりも高い場合、離型性の低下又は前記フッ素系樹脂からの前記粒子の脱落が起こりうる。さらに、前記粒子の平均粒径が前記数値範囲の上限値よりも高い場合、例えば当該フッ素系樹脂を基材層に塗工する際にスジが発生し、離型フィルムの製造が困難になりうる。
【0064】
前記粒子は、好ましくは無機粒子又は有機粒子である。無機粒子として、例えば二酸化ケイ素(特には非晶質二酸化ケイ素)、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化アルミニウム、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、及び硫化モリブデンを挙げることができる。有機粒子として、例えば架橋高分子粒子及びシュウ酸カルシウムを挙げることができる。本発明において、前記粒子は好ましくは無機粒子であり、より好ましくは二酸化ケイ素粒子であり、さらにより好ましくは非晶質二酸化ケイ素である。非晶質二酸化ケイ素はゾルゲルタイプのシリカでありうる。非晶質二酸化ケイ素として、例えばサイシリアシリーズの非晶質二酸化ケイ素を用いることができる。
【0065】
前記フッ素系樹脂組成物中の前記粒子の含有量は、前記反応性官能基含有フッ素系重合体100質量部に対して、例えば1質量部~30質量部、好ましくは2質量部~25質量部、より好ましくは3質量部~20質量部でありうる。これらの数値範囲は、当該フッ素樹脂組成物の硬化物中の前記粒子の含有量についても当てはまる。前記含有量が上記数値範囲内にあることが、前記粒子に起因する表面形状が成形体に反映されることに貢献し、及び/又は、前記離型フィルムの離型性の向上に寄与する。
本発明の一つの好ましい実施態様に従い、前記フッ素系樹脂組成物中の前記粒子の含有量は、前記反応性官能基含有フッ素系重合体100質量部に対して、例えば1質量部~17質量部、好ましくは2質量部~16質量部、特に好ましくは3質量部~10質量部でありうる。これらの数値範囲は、当該フッ素樹脂組成物の硬化物中の前記粒子の含有量についても当てはまる。前記含有量が上記数値範囲内にあることによって、成形体表面にレーザマーカによる印字又は模様を施した場合の視認性又は可読性を高めることができる。
前記粒子の含有量は、熱重量分析法(TGA)により測定されてよい。
【0066】
前記フッ素系樹脂組成物は、溶剤を含みうる。溶剤の種類は当業者により適宜選択されてよい。溶剤として、例えば酢酸ブチル、酢酸エチル、及びメチルエチルケトン(MEKともいう)を挙げることができる。例えば、これら3種の混合物が、前記溶剤として用いられうる。この混合物が、前記フッ素系樹脂組成物の調製に適している。
【0067】
前記フッ素系樹脂組成物は、離型促進剤を含みうる。離型促進剤として、例えば、アミノ変性メチルポリシロキサン、エポキシ変性メチルポリシロキサン、カルボキシ変性メチルポリシロキサン、及びカルビノール変性メチルポリシロキサンを挙げることができる。好ましくは、離型促進剤はアミノ変性メチルポリシロキサンである。
離型促進剤は、前記反応性官能基含有フッ素系重合体100質量部に対して、例えば0.01質量部~3質量部、好ましくは0.05質量部~2質量部、より好ましくは0.1質量部~1質量部でありうる。これらの数値範囲は、当該フッ素樹脂組成物の硬化物中の前記離型促進剤の含有量についても当てはまる。
【0068】
前記成形体側表面層の厚みは、例えば1μm~10μmであり、好ましくは2~9μmであり、より好ましくは3μm~8μmでありうる。
【0069】
前記フッ素系樹脂組成物は、以上で説明した成分を当業者に既知の手段により混合及び撹拌することによって製造することができる。前記混合及び撹拌のために、例えばハイスピードミキサー、ホモミキサー、及びペイントシェーカーなどのミキサーを用いることができる。前記混合及び撹拌のために、例えばエッジタービン型の高速ディゾルバーなどのディゾルバーが用いられてもよい。
前記フッ素系樹脂組成物の硬化物は、前記フッ素系樹脂組成物を前記基材層の表面に塗布し、例えば100℃~200℃、好ましくは120℃~180℃で、例えば10秒間~240秒間、好ましくは30秒間~120秒間加熱することにより得られる。当該硬化物が、前記表面層を形成する。塗布される前記フッ素系樹脂組成物の量は、形成されるべき表面層の厚みに応じて、当業者により適宜設定されてよい。
【0070】
成形体側表面層の形状について、図4を参照して説明する。成形体側表面層を形成するフッ素系樹脂組成物は、基材層上に施与される。施与直後は、図4(a)に示されるとおり、当該樹脂組成物は液状であり、当該組成物中に粒子が存在している。当該樹脂組成物を、上記のとおり加熱することによって、当該組成物中の溶剤が揮発し、図4(b)の状態となり、粒子に起因する形状が現れてくる。最終的には、当該組成物の硬化物は、図4(c)に示されるような表面状態を有し、すなわち、粒子に起因する凹凸形状が現れる。図4(d)の模式図に示されるとおり、前記離型フィルムは、基材層401上に、粒子に起因する凹凸を有する成形体側表面層402を有する。以上のとおり、本発明の組合せを構成する離型フィルムは、粒子に起因する凹凸が形成されている成形体側表面層を有する。
【0071】
[金型側表面層]
【0072】
金型側表面層103も、粒子を含むフッ素系樹脂から形成されていてよい。本発明の好ましい実施態様に従い、前記フッ素系樹脂は塩素を含まない。当該フッ素系樹脂は、好ましくは四フッ化エチレン系樹脂を含み、より好ましくは四フッ化エチレン系樹脂を主成分として含む。当該フッ素系樹脂は、例えば反応性官能基含有フッ素系重合体と硬化剤とを含むフッ素系樹脂組成物の硬化物でありうる。
【0073】
前記フッ素系樹脂組成物に含まれる前記反応性官能基含有フッ素系重合体に関して、上記で述べた成形体側表面層102に含まれる反応性官能基含有フッ素系重合体についての説明が全て当てはまるので、当該反応性官能基含有フッ素系重合体についての説明は省略する。
【0074】
前記フッ素系樹脂組成物に含まれる前記硬化剤に関しても、上記で述べた成形体側表面層102に含まれる硬化剤の種類及び含有量についての説明が当てはまるので、当該反応性官能基含有フッ素系重合体についての説明は省略する。
【0075】
前記金型側表面層を形成するフッ素系樹脂は、粒子を含み、好ましくはレーザー回折式粒度分析測定法に従い測定された平均粒径が1μm~10μm、より好ましくは2μm~9μmである粒子を含む。前記平均粒径は、体積で重みづけされた体積平均径であり、JIS Z8825に従い測定されるものである。当該粒子を含むことによって、前記離型フィルムの離型性を高めることができる。また、前記粒子の平均粒径が前記数値範囲の上限値よりも高い場合、離型性の低下又は前記フッ素系樹脂からの前記粒子の脱落が起こりうる。さらに、前記粒子の平均粒径が前記数値範囲の上限値よりも高い場合、例えば当該フッ素系樹脂を基材層に塗工する際にスジが発生し、離型フィルムの製造が困難になりうる。
【0076】
前記粒子は、好ましくは無機粒子又は有機粒子である。無機粒子として、例えば二酸化ケイ素(特には非晶質二酸化ケイ素)、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化アルミニウム、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、及び硫化モリブデンを挙げることができる。有機粒子として、例えば架橋高分子粒子及びシュウ酸カルシウムを挙げることができる。本発明において、前記粒子は好ましくは無機粒子であり、より好ましくは二酸化ケイ素粒子であり、さらにより好ましくは非晶質二酸化ケイ素である。非晶質二酸化ケイ素はゾルゲルタイプのシリカでありうる。非晶質二酸化ケイ素として、例えばサイシリアシリーズの非晶質二酸化ケイ素を用いることができる。
【0077】
前記フッ素系樹脂組成物中の前記粒子の含有量は、前記反応性官能基含有フッ素系重合体100質量部に対して、例えば3質量部~30質量部、好ましくは5質量部~25質量部、より好ましくは10質量部~20質量部でありうる。これらの数値範囲は、当該フッ素樹脂組成物の硬化物中の前記粒子の含有量についても当てはまる。前記含有量が上記数値範囲内にあることが、前記離型フィルムの離型性の向上に寄与する。
前記粒子の含有量は、熱重量分析法(TGA)により測定されてよい。
【0078】
前記フッ素系樹脂組成物は、溶剤を含みうる。溶剤の種類は当業者により適宜選択されてよい。溶剤として、例えば酢酸ブチル、酢酸エチル、及びメチルエチルケトン(MEKともいう)を挙げることができる。例えば、これら3種の混合物が、前記溶剤として用いられうる。この混合物が、前記フッ素系樹脂組成物の調製に適している。
【0079】
前記フッ素系樹脂組成物は、離型促進剤を含みうる。離型促進剤として、例えば、アミノ変性メチルポリシロキサン、エポキシ変性メチルポリシロキサン、カルボキシ変性メチルポリシロキサン、及びカルビノール変性メチルポリシロキサンを挙げることができる。好ましくは、離型促進剤はアミノ変性メチルポリシロキサンである。
離型促進剤は、前記反応性官能基含有フッ素系重合体100質量部に対して、例えば0.01質量部~3質量部、好ましくは0.05質量部~2質量部、より好ましくは0.1質量部~1質量部でありうる。これらの数値範囲は、当該フッ素樹脂組成物の硬化物中の前記離型促進剤の含有量についても当てはまる。
好ましくは、金型側表面層を形成する為に用いられる前記フッ素系樹脂組成物は離型促進剤を含まない。
【0080】
前記金型側表面層の厚みは、例えば1μm~10μmであり、好ましくは2~9μmであり、より好ましくは3μm~8μmでありうる。
【0081】
前記フッ素系樹脂組成物の製造方法は、成形体側表面層102を形成するために用いられるフッ素系樹脂組成物の製造方法についての説明が全て当てはまるので、当該製造方法についての説明は省略する。
【0082】
本技術の一つの好ましい実施態様において、前記成形体側表面層は、前記反応性官能基含有フッ素系重合体(特には水酸基含有四フッ化エチレン系重合体)と前記硬化剤と前記粒子と前記離型促進剤とを含むフッ素系樹脂組成物の硬化物から形成されている。また、前記金型側表面層は、前記反応性官能基含有フッ素系重合体(特には水酸基含有四フッ化エチレン系重合体)と前記硬化剤と前記粒子とを含むフッ素系樹脂組成物の硬化物から形成されている。
より好ましくは、前記成形体側表面層は、水酸基含有四フッ化エチレン系重合体とHDI系ポリイソシアネートと二酸化ケイ素粒子とアミノ変性メチルポリシロキサンとを含むフッ素系樹脂組成物の硬化物から形成されている。また、前記金型側表面層は、水酸基含有四フッ化エチレン系重合体とHDI系ポリイソシアネートと二酸化ケイ素粒子とを含むフッ素系樹脂組成物の硬化物から形成されている。
前記離型フィルムがこのような2つの表面層を有することが、本発明の組合せによる成形体の表面状態の調整を可能とすること及び/又は前記離型フィルムの離型性を向上することに特に寄与する。
【0083】
[離型フィルムの特徴]
【0084】
本発明の好ましい実施態様に従い、前記離型フィルムの引張破断強度は、JIS K7127に従い175℃で測定された場合に、40MPa~200MPaであり、より好ましくは40MPa~120MPaであり、さらにより好ましくは40MPa~110MPaであり、特に好ましくは45MPa~100MPaであり、且つ、前記離型フィルムの引張破断伸びが、JIS K7127に従い175℃で測定された場合に、200%~500%であり、より好ましくは250%~450%であり、さらにより好ましくは300%~400%でありうる。
前記離型フィルムの引張破断強度及び引張破断伸びが上記数値範囲内にあることが、本発明の組合せによる表面形状の調整のために適している。
【0085】
前記離型フィルムのガス(O)透過性は、JIS K7126-1に従い175℃で測定された場合に、例えば5000~50000cc/m・24hr・atmであり、特には5000~30000cc/m・24hr・atmであり、より特には5000~20000cc/m・24hr・atm以下でありうる。前記離型フィルムは、このような低いガス透過性を有する。そのため、前記離型フィルムを用いて成形を行うことで、樹脂から生じるガスによる金型汚染が抑制される。
【0086】
前記離型フィルムの厚みは、例えば30μm~100μmであり、好ましくは35μm~90μmであり、より好ましくは40μm~80μmでありうる。前記離型フィルムの厚みが上記数値範囲内にあることによって、金型表面の凹凸形状が、成形体に反映されやすくなる。
【0087】
前記離型フィルムは、1回の成形に用いられてよく、又は、複数回の成形に用いられてもよい。前記離型フィルムは、例えば2回以上、好ましくは4回以上、より好ましくは5回以上、より好ましくは6回以上、さらにより好ましくは8回以上の成形のために用いられうる。前記離型フィルムは、例えば2回~20回、好ましくは4回~15回、より好ましくは5回~15回、より好ましくは6回~15回、さらにより好ましくは8回~12回の成形のために用いられうる。前記離型フィルムは複数回の離型を通じてその性能を維持し且つ破れにくい。そのため、複数回の成形に前記離型フィルムを用いることができる。これにより、成形コストを削減することができる。
また、ポリエステル系樹脂(特にはPET樹脂)にはオリゴマーが含まれ、当該オリゴマーは成形において(特には当該樹脂を含む離型フィルムを複数回の成形に繰り返し用いた場合に)、金型及び/又は成形体を汚染しうる。しかしながら、前記離型フィルムは、基材層を形成する熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である場合であっても、成形における金型及び/又は成形体の汚染が起こりにくい。前記離型フィルムは、同フィルムを複数回の成形に繰り返し用いた場合であっても、金型及び/又は成形体の汚染が起こりにくい。当該低汚染性は、特にはフッ素系樹脂から形成されている表面層によるものと考えられる。
【0088】
[離型フィルムの製造方法]
前記離型フィルムの製造方法、前記基材層の2つの面にフッ素系樹脂組成物を塗布する塗布工程と、当該塗布工程後に、前記フッ素系樹脂組成物を硬化させる硬化工程とを含む。
塗布工程において用いられる基材層及びフッ素系樹脂組成物については、以上で述べた内容が当てはまるので、これらについての説明は省略する。
前記塗布工程は、所望の層厚を達成するように当業者により適宜行われてよい。例えば、前記フッ素系樹脂組成物は、グラビアロール法、リバースロール法、オフセットグラビア法、キスコート法、リバースキスコート法、ワイヤーバーコート法、スプレーコート法、又は含浸法により前記基材層の2つの面に塗布されうる。これらの方法による塗布を行うための装置は、当業者により適宜選択されてよい。
当該硬化工程は、前記フッ素系樹脂組成物を、例えば100℃~200℃、好ましくは120℃~180℃で、例えば10秒間~240秒間、好ましくは30秒間~120秒間加熱することを含む。当該加熱によって、前記フッ素系樹脂組成物が硬化される。
【0089】
1-3.金型
【0090】
本発明の組合せを構成する金型は、前記熱硬化性樹脂の硬化において前記離型フィルムが接触する金型表面に凹凸が形成されている。当該凹凸が、前記離型フィルムを介して、前記熱硬化性樹脂の表面に反映される。このように、当該凹凸は、前記熱硬化性樹脂の表面に間接的に反映される。そのため、前記熱硬化性樹脂の硬化物の表面に形成される凹凸は、前記金型の凹凸と異なりうる。
【0091】
本発明の一つの実施態様に従い、前記凹凸は、前記成形において前記離型フィルムが接触する前記金型表面の一部に設けられてよい。例えば、前記金型表面のうち、表面調整が行われることが必要とされる成形体表面部分をカバーする領域だけに、前記凹凸が設けられてよい。これにより、金型表面のうち凹凸が形成される面積を減らすことができ、金型の製造コストを削減可能である。
本発明の他の実施態様に従い、前記凹凸は、前記成形において前記離型フィルムが接触する前記金型表面の全体に設けられていてもよい。
【0092】
前記金型の、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面の表面粗さRaが、好ましくは1μm~4μmであり、より好ましくは1.2μm~3.8μmであり、特に好ましくは1.4μm~3.6μmでありうる。前記凹凸を有する金型表面が、上記数値範囲内の表面粗さを有することによって、前記凹凸が、前記離型フィルムを介して前記熱硬化性樹脂の硬化物の表面に反映されやすくなる。前記表面粗さが小さすぎる場合、表面調整が出来なくなりうる。また、前記表面粗さが大きすぎる場合、離型フィルムが金型から離れにくくなることがあり、及び/又は、成形において離型フィルムに破れが生じうる。また、前記表面粗さが大きすぎる場合、金型表面の粗さが不均一になり、成形体の外観に悪影響を及ぼしうる。
本明細書内において、表面粗さRaは、JIS B0601に従い測定される。
【0093】
前記金型表面の凹凸は、例えば放電加工(EDM)又はショットブラストなど当技術分野で既知の手法により形成されてよいが、好ましくは放電加工(EDM)によって形成されうる。放電加工は、上記数値範囲内の表面粗さRaを有する面を形成するために適している。当該放電加工は、例えば上記で述べたような表面粗さを金属表面に付与するために特に適している。当該放電加工は、当技術分野で既知の手法及び装置により行われてよく、所望の凹凸が形成されるように放電加工装置を設定して、放電加工処理を行うことによって、当該凹凸が金型表面に形成されうる。
【0094】
前記金型の材料は、例えば熱硬化性樹脂の種類及び/又は成形体の形状などに応じて、当業者により適宜選択されてよい。前記金型の材料は、例えばトランスファーモールド成形又はコンプレッションモールド成形において通常用いられる材料から選択されてよい。前記金型の材料は、例えばマルテンサイト系ステンレス鋼であり、より具体的にはSUS404Cでありうる。前記金型の硬度は、好ましくは50HRC以上であり、より好ましくは55HRC以上でありうる。前記金型は、当技術分野で既知の手法により製造されてよく、例えばNC切削により製造されうる。
【0095】
前記金型は、好ましくは表面処理されている。当該表面処理の種類は、金型の材料に応じて当業者により適宜選択されてよい。前記金型の材料がマルテンサイト系ステンレス鋼である場合、当該金型は、例えば硬質クロームメッキ処理されうる。
【0096】
2.離型フィルム
【0097】
本発明は、熱硬化性樹脂の硬化のために金型と組み合わせて用いられる離型フィルムも提供する。当該離型フィルムは、上記「1.金型と離型フィルムとの組合せ」において説明した本発明の組合せを構成する離型フィルムであり、当該説明の全てが本発明の離型フィルムにも当てはまる。
【0098】
本発明の離型フィルムを、上記「1.金型と離型フィルムとの組合せ」において説明した金型と組み合わせて熱硬化性樹脂の硬化において用いることで、当該熱硬化性樹脂の硬化物からなる成形体の表面状態を調整することができる。本発明の離型フィルムは、前記金型の表面の凹凸を成形体に反映するために適している。
また、本発明の離型フィルムは、離型性に優れている。前記金型表面のうち、前記硬化において前記離型フィルムと接触する部分には凹凸が設けられているにもかかわらず、当該離型フィルムは、前記金型からスムーズに離れる。
【0099】
3.金型
【0100】
本発明は、熱硬化性樹脂の硬化のために、離型フィルムと組み合わせて用いられる金型も提供する。当該金型は、上記「1.金型と離型フィルムとの組合せ」において説明した本発明の組合せを構成する金型であり、当該説明の全てが本発明の金型にも当てはまる。
【0101】
本発明の金型を、上記「1.金型と離型フィルムとの組合せ」において説明した離型フィルムと組み合わせて熱硬化性樹脂の硬化において用いることで、当該熱硬化性樹脂の硬化物からなる成形体の表面状態を調整することができる。
【0102】
4.成形体の製造方法
【0103】
本発明は、成形体の製造方法を提供する。当該製造方法は、熱硬化性樹脂を硬化させるために用いられる金型内に、離型フィルムを配置する配置工程と、前記配置工程後に、前記熱硬化性樹脂を前記金型内で、前記離型フィルムに接触した状態で硬化させる硬化工程と、前記硬化工程後に、前記金型から、硬化した前記熱硬化性樹脂を離型して成形体を得る離型工程とを含む。
【0104】
本発明の製造方法において用いられる前記金型及び前記離型フィルムは、上記「1.金型と離型フィルムとの組合せ」において説明した本発明の組合せを構成する金型及び離型フィルムであり、当該説明の全てが本発明の製造方法においても当てはまる。前記成形体の製造方法は、例えばトランスファーモールド成形方式に従うものであってよく又はコンプレッションモールド成形方式に従うものであってもよいが、これらに限定されない。
【0105】
前記配置工程において、前記金型内に前記離型フィルムが配置される。前記離型フィルムの前記成形体側表面層が前記熱硬化性樹脂に接触し且つ前記金型側表面層が前記金型の前記凹凸が形成されている表面に接触するように、前記離型フィルムが前記金型内に配置されうる。例えば、上記「1-1.本発明の組合せの使用方法」において説明した図1(A)又は図3(A)に示される状態となるにように、前記配置工程において前記離型フィルムが配置されうる。
【0106】
前記配置工程の後に、前記離型フィルムが、前記金型の前記凹凸が形成されている表面に、例えば吸引によって貼り付けられうる。当該貼り付けに先立ち、前記離型フィルムは加熱により軟化されてもよい。
【0107】
前記硬化工程において、前記熱硬化性樹脂が前記金型内で硬化される。
例えばトランスファーモールド成形において、当該硬化に先立ち、金型内から前記熱硬化性樹脂が漏れ出さないように、閉空間が形成されうる。例えば、図1(B)に示されるとおり、上側金型及び下側金型を閉じて閉空間が形成される。そして、当該閉空間内に、図1(C)に示されるとおり、前記熱硬化性樹脂が導入され、そして、前記熱硬化性樹脂が加熱により硬化されうる。
例えばコンプレッションモールド成形において、当該硬化に先立ち、金型内に熱硬化性樹脂が導入されうる。例えば、図3(B)に示されるとおり、下側金型の窪み内に熱硬化性樹脂が導入されうる。そして、図3(C)に示されるとおり、半導体素子搭載基板を有する上側金型を下側金型に向けて移動させて、これら金型を閉じる。これら金型が閉じられた状態で、前記熱硬化性樹脂が加熱により硬化される。
【0108】
前記硬化工程において、前記熱硬化性樹脂の表面に、前記金型の表面に形成された凹凸形状が間接的に反映され、且つ、前記離型フィルムの表面形状(特には成形体側表面層中に含まれる粒子に起因する表面形状)が、前記熱硬化性樹脂の表面に直接的に反映される。前記凹凸形状及び前記表面形状が前記熱硬化性樹脂の表面に反映された状態で、前記熱硬化性樹脂が硬化される。すなわち、当該硬化の結果得られた成形体の表面に、前記凹凸形状及び前記表面形状が反映される。このようにして、成形体の表面状態が調整される。
【0109】
前記離型工程において、前記金型から、硬化した前記熱硬化性樹脂(成形体)を離型する。例えば、当該成形体から、図1(D)又は図3(D)に示されるとおり、前記凹凸が形成された表面を有する金型を離れる。
【0110】
本発明の製造方法は、前記離型工程後に、上記のとおりに表面状態が調整された前記成形体表面にレーザマーカによる印字を行う印字工程をさらに含んでもよい。本発明に従う製造方法により、レーザマーカによる印字の視認性又は可読性を向上することができる。前記印字の文字高さは例えば0.1mm~10mm、好ましくは0.2mm~5mmでありうる。前記印字の文字高さは特には0.5mm~3mmであってもよい。本発明に従う製造方法により得られる成形体の表面は、このような小さい文字の視認性又は可読性を高めることができる。
【0111】
以上の工程によって、表面状態が調整された成形体が得られる。
【0112】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものでない。
【0113】
実施例1:成形体の表面調整の例
【0114】
(1)離型フィルムの製造
【0115】
以下に述べるとおり、2種類の離型フィルムを製造した。
【0116】
(1-1)離型フィルムの製造
【0117】
基材層として、汎用ポリエチレンテレフタレート樹脂から形成されているフィルム(テトロンG2CW、帝人株式会社、厚み38μm)を用意した。
次に、当該フィルムに塗布するための2種類のフッ素系樹脂組成物(以下、第一フッ素系樹脂組成物及び第二フッ素系樹脂組成物という)を調製した。第一フッ素系樹脂組成物は、金型側表面層を形成するためものである。第二フッ素系樹脂組成物は、成形体側表面層を形成するためのものである。
第一フッ素系樹脂組成物は、水酸基含有四フッ化エチレン系重合体含有組成物100質量部(ゼッフルGK570、ダイキン工業株式会社、このうち65質量%が水酸基含有四フッ化エチレン系重合体である)、非晶質二酸化ケイ素11.47質量部(サイシリア380、富士シリシア化学株式会社)、イソシアヌレート型ポリイソシアネート10質量部(硬化剤、スミジュールN3300、住友バイエルウレタン株式会社)、アダクト型ポリイソシアネート7.79質量部(硬化剤、デュラネートAE700-100)、酢酸ブチル6.18質量部、酢酸エチル44.62質量部、及びMEK89.25質量部を混合及び撹拌することにより調製された。前記非晶質二酸化ケイ素の平均粒径(上記体積平均径である)は、粒度分析測定装置(SALD-2200、株式会社島津製作所)を用いてレーザー回折式粒度分析測定法に従い測定されたときに、8.8μmであった。
第二フッ素系樹脂組成物は、前記第一フッ素系樹脂組成物にさらにアミノ変性メチルポリシロキサン0.31質量部(離型促進剤、信越化学工業株式会社)を追加したこと及び酢酸エチルの量を44.81質量部に変更したこと及びMEKの量を89.63質量部に変更したこと以外は、前記第一フッ素系樹脂組成物と同じである。
【0118】
前記フィルムの一方の面に、前記第一フッ素系樹脂組成物を塗布し、且つ、前記フィルムの他方の面に、前記第二フッ素系樹脂組成物を塗布した。これらの塗布は、キスリバース方式の塗布装置を用いて行われた。前記塗布後に、これらの組成物を150℃にて60秒間加熱することによって硬化して、汎用PET樹脂フィルムの両面にフッ素系樹脂層が積層された離型フィルム(以下、「離型フィルム1」という)を得た。
【0119】
離型フィルム1の厚みは60±5μmであった。離型フィルム1中の基材層の厚みは38μm±10%であった。離型フィルム1の2つの表面層のうち、金型側表面層の厚みは5.5±0.5μmであり、且つ、成形体側表面層の厚みは5.5±0.5μmであった。
【0120】
前記第一フッ素系樹脂組成物の硬化物(金型側表面層)は、前記水酸基含有四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、前記非晶質二酸化ケイ素を17.65質量部含み、前記イソシアヌレート型ポリイソシアネートを15.39質量部含み、且つ、前記アダクト型ポリイソシアネートを11.98質量部含んでいた。
【0121】
前記第二フッ素系樹脂組成物の硬化物(成形体側表面層)は、前記水酸基含有四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、前記非晶質二酸化ケイ素を17.65質量部含み、前記イソシアヌレート型ポリイソシアネートを15.39質量部含み、前記アダクト型ポリイソシアネートを11.98質量部含み、且つ、アミノ変性メチルポリシロキサンを0.48質量部含んでいた。
【0122】
(1-2)離型フィルムの製造
【0123】
上記(1-1)において述べた第二フッ素系樹脂組成物の組成を、以下のとおりに変更したこと以外は上記(1-1)と同じ方法で、離型フィルム(以下、「離型フィルム2」という)を製造した。
すなわち、第二フッ素系樹脂組成物は、水酸基含有四フッ化エチレン系重合体含有組成物100質量部(ゼッフルGK570、ダイキン工業株式会社、このうち65質量%が水酸基含有四フッ化エチレン系重合体である)、非晶質二酸化ケイ素3.42質量部(サイシリア430、富士シリシア化学株式会社)、イソシアヌレート型ポリイソシアネート10質量部(硬化剤、スミジュールN3300、住友バイエルウレタン株式会社)、アダクト型ポリイソシアネート7.79質量部(硬化剤、デュラネートAE700-100)、酢酸ブチル1.84質量部、酢酸エチル41.15質量部、MEK82.30質量部、及びアミノ変性メチルポリシロキサン0.11質量部(離型促進剤、信越化学工業株式会社)を混合及び撹拌することにより調製された。前記非晶質二酸化ケイ素の平均粒径(上記体積平均径である)は、粒度分析測定装置(SALD-2200、株式会社島津製作所)を用いてレーザー回折式粒度分析測定法に従い測定されたときに、4.1μmであった。
【0124】
離型フィルム2の厚みは60±5μmであった。離型フィルム2中の基材層の厚みは38μm±10%であった。離型フィルム2の2つの表面層のうち、金型側表面層の厚みは5.5±0.5μmであり、且つ、成形体側表面層の厚みは3.5±0.5μmであった。
【0125】
前記第一フッ素系樹脂組成物の硬化物(金型側表面層)は、前記水酸基含有四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、前記非晶質二酸化ケイ素を17.65質量部含み、前記イソシアヌレート型ポリイソシアネートを15.39質量部含み、且つ、前記アダクト型ポリイソシアネートを11.98質量部含んでいた。
【0126】
前記第二フッ素系樹脂組成物の硬化物(成形体側表面層)は、前記水酸基含有四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、前記非晶質二酸化ケイ素を5.26質量部含み、前記イソシアヌレート型ポリイソシアネートを15.39質量部含み、前記アダクト型ポリイソシアネートを11.98質量部含み、且つ、アミノ変性メチルポリシロキサンを0.16質量部含んでいた。
【0127】
(2)金型の製造
【0128】
4つの金型を製造した。これら4つの金型はいずれも、上側金型及び下側金型の組合せからなるトランスファーモールド成形用の金型であり、上側金型のキャビティ表面に設けられた凹凸が異なること以外は同じ形状を有した。前記凹凸は、図1(A)の上側金型12の表面16に対応する位置に設けられた。前記凹凸はいずれも、放電加工により形成された。
【0129】
前記4つの金型の前記凹凸が設けられた領域の表面粗さRaは、JIS B0601に従い測定したところ、それぞれ2.0μm、2.5μm、3.0μm、及び3.5μmであった。表面粗さRaが2.0μmである表面を有する金型を以下で「金型1」という。表面粗さRaが2.5μm、3.0μm、及び3.5μmである金型について、同様に、それぞれ「金型2」、「金型3」、及び「金型4」という。
【0130】
これら4つの金型の主な材質はいずれもSUS440Cであった。また、これら4つの金型はいずれも、HRC55以上の硬度を有し、且つ、その表面は硬質クロームメッキされていた。
【0131】
(3)成形体の製造
【0132】
以下表1に示されるとおりの離型フィルム及び金型の組合せを用いて、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、GE100、日立化成株式会社)を成形した。当該成形において8.5MPa又は5.0MPaのトランスファー圧が採用された。当該成形において前記熱硬化性樹脂を硬化させるために採用された成形温度は175℃であった。当該成形により得られた成形体それぞれの表面の入射角60°での光沢度を、光沢度計(PG-IIM、日本電色工業株式会社)により測定した。測定結果も以下表1に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
表1に示されるとおり、離型フィルム1を用いた場合において、金型のRaが増加するにつれて、光沢度が減少した。これらの結果より、金型1~4の凹凸が、離型フィルム1を介して成形体の表面状態に反映されていることが分かる。
離型フィルム2を用いた場合においても、同様に、金型のRaが増加するにつれて、光沢度が減少した。この結果より、金型1~4の凹凸が、離型フィルム2を介して成形体の表面状態に反映されていることが分かる。
【0135】
また、金型1を用いた場合の4つの結果を比較すると、同じ金型であっても、離型フィルムの違いによって成形体の表面の光沢度が異なる。離型フィルム1及び2は、成形体側表面層の組成が異なり、特には表面層中の粒子の含有比率が異なる。これらの結果より、離型フィルムの表面層の形状、特には表面層中の粒子に起因する形状が、成形体の表面状態に反映されていることが分かる。
【0136】
以上の結果より、本発明に従う金型及び離型フィルムの組合せによって、成形体の表面状態を調整することができることが分かる。例えば、当該組み合わせによって、成形体表面の光沢度を調整することができると分かる。
【0137】
また、得られた全ての成形体の表面状態(特には表面の凹凸の状態)が、用いられた金型表面の凹凸と異なっており且つ用いられた離型フィルムの成形体側表面層の表面状態とも異なっていた。この結果より、金型表面の凹凸及び離型フィルムの成形体側表面層の形状の両方が、成形体の表面状態(特には表面の凹凸の状態)の調整に貢献していると考えられる。
【0138】
また、前記成形において、いずれの離型フィルムも成形体からスムーズに離れた。従って、本発明の組合せを構成する離型フィルムは、表面に凹凸を有する成形体の成形後に、当該成形体からスムーズに離れることができると分かる。
【0139】
実施例2:レーザマーカにより印字された成形体表面の評価
【0140】
(1)離型フィルムの製造
【0141】
以下に述べるとおり、3種類の離型フィルムを製造した。
【0142】
(1-1)離型フィルムの製造
【0143】
基材層として、易成型ポリエチレンテレフタレート樹脂から形成されているフィルム(CH285J、南亜プラスチック社、厚み50μm)を用意した。
次に、当該フィルムに塗布するための2種類のフッ素系樹脂組成物(以下、第一フッ素系樹脂組成物及び第二フッ素系樹脂組成物という)を調製した。第一フッ素系樹脂組成物は、金型側表面層を形成するためものである。第二フッ素系樹脂組成物は、成形体側表面層を形成するためのものである。
第一フッ素系樹脂組成物は、水酸基含有四フッ化エチレン系重合体含有組成物100質量部(ゼッフルGK570、ダイキン工業株式会社、このうち65質量%が水酸基含有四フッ化エチレン系重合体である)、非晶質二酸化ケイ素11.47質量部(サイシリア380、富士シリシア化学株式会社)、イソシアヌレート型ポリイソシアネート10質量部(硬化剤、スミジュールN3300、住友バイエルウレタン株式会社)、アダクト型ポリイソシアネート7.79質量部(硬化剤、デュラネートAE700-100)、酢酸ブチル6.18質量部、酢酸エチル44.62質量部、及びMEK89.25質量部を混合及び撹拌することにより調製された。前記非晶質二酸化ケイ素の平均粒径(上記体積平均径である)は、粒度分析測定装置(SALD-2200、株式会社島津製作所)を用いてレーザー回折式粒度分析測定法に従い測定されたときに、8.8μmであった。
第二フッ素系樹脂組成物は、記第一フッ素系樹脂組成物にさらにアミノ変性メチルポリシロキサン0.31質量部(離型促進剤、信越化学工業株式会社)を追加したこと及び酢酸エチルの量を44.81質量部に変更したこと及びMEKの量を89.63質量部に変更したこと以外は、前記第一フッ素系樹脂組成物と同じである。
【0144】
前記フィルムの一方の面に、前記第一フッ素系樹脂組成物を塗布し、且つ、前記フィルムの他方の面に、前記第二フッ素系樹脂組成物を塗布した。これらの塗布は、キスリバース方式の塗布装置を用いて行われた。前記塗布後に、これらの組成物を150℃にて60秒間加熱することによって硬化して、汎用PET樹脂フィルムの両面にフッ素系樹脂層が積層された離型フィルム(以下、「離型フィルム3」という)を得た。
【0145】
離型フィルム3の厚みは70±5μmであった。離型フィルム3中の基材層の厚みは50μm±10%であった。離型フィルム3の2つの表面層のうち、金型側表面層の厚みは5.5±0.5μmであり、且つ、成形体側表面層の厚みは5.5±0.5μmであった。
【0146】
前記第一フッ素系樹脂組成物の硬化物(金型側表面層)は、前記水酸基含有四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、前記非晶質二酸化ケイ素を17.65質量部含み、前記イソシアヌレート型ポリイソシアネートを15.39質量部含み、且つ、前記アダクト型ポリイソシアネートを11.98質量部含んでいた。
【0147】
前記第二フッ素系樹脂組成物の硬化物(成形体側表面層)は、前記水酸基含有四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、前記非晶質二酸化ケイ素を17.65質量部含み、前記イソシアヌレート型ポリイソシアネートを15.39質量部含み、前記アダクト型ポリイソシアネートを11.98質量部含み、且つ、アミノ変性メチルポリシロキサンを0.48質量部含んでいた。
【0148】
(1-2)離型フィルムの製造
【0149】
上記(1-1)において述べた第二フッ素系樹脂組成物の組成を、以下のとおりに変更したこと以外は上記(1-1)の離型フィルム3と同じ方法で、離型フィルム(以下、「離型フィルム4」という)を製造した。
すなわち、第二フッ素系樹脂組成物は、水酸基含有四フッ化エチレン系重合体含有組成物100質量部(ゼッフルGK570、ダイキン工業株式会社、このうち65質量%が水酸基含有四フッ化エチレン系重合体である)、非晶質二酸化ケイ素9.71質量部(サイシリア380、富士シリシア化学株式会社)、イソシアヌレート型ポリイソシアネート10質量部(硬化剤、スミジュールN3300、住友バイエルウレタン株式会社)、アダクト型ポリイソシアネート7.79質量部(硬化剤、デュラネートAE700-100)、酢酸ブチル5.23質量部、酢酸エチル44.03質量部、MEK88.07質量部、及びアミノ変性メチルポリシロキサン0.30質量部(離型促進剤、信越化学工業株式会社)を混合及び撹拌することにより調製された。
【0150】
離型フィルム4の厚みは60±5μmであった。離型フィルム4中の基材層の厚みは50μm±10%であった。離型フィルム4の2つの表面層のうち、金型側表面層の厚みは5.5±0.5μmであり、且つ、成形体側表面層の厚みは5.5±0.5μmであった。
【0151】
前記第一フッ素系樹脂組成物の硬化物(金型側表面層)は、前記水酸基含有四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、前記非晶質二酸化ケイ素を17.65質量部含み、前記イソシアヌレート型ポリイソシアネートを15.39質量部含み、且つ、前記アダクト型ポリイソシアネートを11.97質量部含んでいた。
【0152】
前記第二フッ素系樹脂組成物の硬化物(成形体側表面層)は、前記水酸基含有四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、前記非晶質二酸化ケイ素を14.94質量部含み、前記イソシアヌレート型ポリイソシアネートを15.38質量部含み、前記アダクト型ポリイソシアネートを11.97質量部含み、且つ、アミノ変性メチルポリシロキサンを0.46質量部含んでいた。
【0153】
(1-3)離型フィルムの製造
【0154】
上記(1-1)において述べた第二フッ素系樹脂組成物の組成を、以下のとおりに変更したこと以外は上記(1-1)の離型フィルム3と同じ方法で、離型フィルム(以下、「離型フィルム5」という)を製造した。
すなわち、第二フッ素系樹脂組成物は、水酸基含有四フッ化エチレン系重合体含有組成物100質量部(ゼッフルGK570、ダイキン工業株式会社、このうち65質量%が水酸基含有四フッ化エチレン系樹脂である)、非晶質二酸化ケイ素3.42質量部(サイシリア380、富士シリシア化学株式会社)、イソシアヌレート型ポリイソシアネート10質量部(硬化剤、スミジュールN3300、住友バイエルウレタン株式会社)、アダクト型ポリイソシアネート7.79質量部(硬化剤、デュラネートAE700-100)、酢酸ブチル1.84質量部、酢酸エチル41.15質量部、MEK82.30質量部、及びアミノ変性メチルポリシロキサン0.11質量部(離型促進剤、信越化学工業株式会社)を混合及び撹拌することにより調製された。
【0155】
離型フィルム5の厚みは60±5μmであった。離型フィルム5中の基材層の厚みは50μm±10%であった。離型フィルム5の2つの表面層のうち、金型側表面層の厚みは5.5±0.5μmであり、且つ、成形体側表面層の厚みは3.5±0.5μmであった。
【0156】
前記第一フッ素系樹脂組成物の硬化物(金型側表面層)は、前記水酸基含有四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、前記非晶質二酸化ケイ素を17.65質量部含み、前記イソシアヌレート型ポリイソシアネートを15.39質量部含み、且つ、前記アダクト型ポリイソシアネートを11.98質量部含んでいた。
【0157】
前記第二フッ素系樹脂組成物の硬化物(成形体側表面層)は、前記水酸基含有四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、前記非晶質二酸化ケイ素を5.26質量部含み、前記イソシアヌレート型ポリイソシアネートを15.39質量部含み、前記アダクト型ポリイソシアネートを11.98質量部含み、且つ、アミノ変性メチルポリシロキサンを0.16質量部含んでいた。
【0158】
(2)金型の製造
【0159】
上側金型及び下側金型の組合せからなるコンプレッションモールド用金型(以下、「金型5」という)を製造した。当該金型を構成する前記下側金型の表面に凹凸が形成されていた。前記凹凸は、図3(A)の下型金型23の表面26に対応する位置に設けられた。前記凹凸は放電加工により形成された。前記凹凸が形成されている領域の表面粗さRaは、JIS B0601に従い測定されたときに、1.0μmであった。
【0160】
金型5の主な材質はSUS440Cであった。また、金型5は、HRC55以上の硬度を有し、且つ、その表面は硬質クロームメッキされていた。
【0161】
(3)成形体の製造
【0162】
離型フィルム3~5のいずれか一つと金型5とを用いて、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、GE100、日立化成株式会社)を成形した。当該成形において前記熱硬化性樹脂を硬化させるために採用された成形温度は175℃であった。当該成形により得られた成形体それぞれの表面に、レーザマーカ(MD-S9910型3次元YVOレーザマーカ、株式会社キーエンス)により印字を施した。印字条件は以下のとおりであった:
文字高さ:1mm
Power:3.6W
スイッチ周波数:40KHz
スキャンスピード:700mm/s
【0163】
各成形体表面の印字を、3Dマイクロスコープ(VR-3200型3Dマイクロスコープ、株式会社キーエンス)及び目視により観察した。
【0164】
3Dマイクロスコープによる観察結果を、図5に示す。図5に示されるとおり、離型フィルム3を用いて得られた成形体よりも、離型フィルム4を用いて得られた成形体ほうが、文字の視認性が良好であり、さらに、離型フィルム4を用いて得られた成形体よりも、離型フィルム5を用いて得られた成形体ほうが、文字の視認性が良かった。目視の場合においても、同様の観察結果が得られた。これらの結果により、同じ表面凹凸を有する金型を用いた場合であっても、離型フィルムの成形体側表面層の形状が異なる離型フィルムを用いることによって、成形体の表面状態を調整することができることが分かる。
【0165】
また、以上の結果より、成形体側表面層の粒子含有量を、フッ素系樹脂100質量部に対して、好ましくは16質量部以下、より好ましくは10質量部以下とすることによって、レーザマーカにより印字された文字又は模様の視認性を高めることができると考えられる。
【0166】
なお、本発明は以下の構成を採用することもできる。
[1]
熱硬化性樹脂の硬化のために用いられる金型と、前記硬化において前記熱硬化性樹脂と前記金型との間に配置される離型フィルムとの組合せであって、
前記離型フィルムは、
熱可塑性樹脂から形成されている基材層と、
前記基材層の2つの面のうち前記硬化において熱硬化性樹脂側に配置される面に積層されている、粒子を含むフッ素系樹脂から形成されている表面層と、
を含み、且つ、
前記金型は、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面に、凹凸が形成されている、
前記組合せ。
[2]
前記粒子の平均粒径が、レーザー回折式粒度分析測定法に従い測定されたときに、1μm~10μmである、[1]に記載の組合せ。
[3]
前記金型の、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面の表面粗さRaが、1μm~4μmである、[1]又は[2]に記載の組合せ。
[4]
前記表面層の前記フッ素系樹脂が、四フッ化エチレン系樹脂を含む、請求項[1]~[3]のいずれか一つに記載の組合せ。
[5]
前記表面層の前記フッ素系樹脂が、イソシアネート系硬化剤をさらに含む、[1]~[4]のいずれか一つに記載の組合せ。
[6]
前記粒子が、二酸化ケイ素である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の組合せ。
[7]
前記基材層の前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の組合せ。
[8]
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の組合せ。
[9]
前記熱硬化性樹脂の硬化物の表面に、凹凸を形成するために用いられる、[1]~[8]のいずれか一つに記載の組合せ。
[10]
前記熱硬化性樹脂の硬化物の表面に形成される凹凸が、前記金型の凹凸と異なる、[9]に記載の組合せ。
[11]
前記組合せが、トランスファーモールド成形又はコンプレッションモールド成形のために用いられる、[1]~[10]のいずれか一つに記載の組合せ。
[12]
熱硬化性樹脂の硬化のために、金型と組み合わせて用いられる離型フィルムであって、
前記離型フィルムは、
熱可塑性樹脂から形成されている基材層と、
前記基材層の2つの面のうち前記硬化において熱硬化性樹脂側に配置される面に積層されている、粒子を含むフッ素系樹脂から形成されている表面層と、
を含み、
前記金型は、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面に凹凸が形成されている、
前記離型フィルム。
[13]
熱硬化性樹脂の硬化のために、離型フィルムと組み合わせて用いられる金型であって、
前記金型は、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面に凹凸が形成されており、且つ、
前記離型フィルムは、
熱可塑性樹脂から形成されている基材層と、
前記基材層の2つの面のうち前記硬化において熱硬化性樹脂側に配置される面に積層されている、粒子を含むフッ素系樹脂から形成されている表面層と、
を含む、前記金型。
[14]
熱硬化性樹脂を硬化させるために用いられる金型内に、離型フィルムを配置する配置工程と、
前記配置工程後に、前記熱硬化性樹脂を前記金型内で、前記離型フィルムに接触した状態で硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程後に、前記金型から、硬化した前記熱硬化性樹脂を離型して成形体を得る離型工程と
を含み、
前記離型フィルムは、
熱可塑性樹脂から形成されている基材層と、
前記基材層の2つの面のうち前記硬化において熱硬化性樹脂側に配置される面に積層されている、粒子を含むフッ素系樹脂から形成されている表面層と、
を含み、
前記金型は、前記硬化において前記離型フィルムと接触する面に凹凸が形成されている、
成形体の製造方法。
【符号の説明】
【0167】
11 離型フィルム
12 上側金型
13 下側金型
図1
図2
図3
図4
図5