(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】残留気体体積測定装置、及び残留気体体積測定方法
(51)【国際特許分類】
G01F 17/00 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
G01F17/00 A
(21)【出願番号】P 2022550430
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2021031106
(87)【国際公開番号】W WO2022059444
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020156089
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000161932
【氏名又は名称】京都電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】中井 秀二
(72)【発明者】
【氏名】松木 崇
(72)【発明者】
【氏名】渡部 信明
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/026764(WO,A1)
【文献】中国実用新案第203758569(CN,U)
【文献】特表2011-501148(JP,A)
【文献】特開平10-62406(JP,A)
【文献】米国特許第4096734(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F17/00-22/02
G01N33/00-33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査容器内の残留気体の体積を測定する残留気体体積測定装置であって、
塩基性の炭酸ガス吸収液が充填される気密容器と、
前記炭酸ガス吸収液が貯留される第一貯留部と、
前記気密容器と第一貯留部とを連通し、前記炭酸ガス吸収液が充填される第一配管と、
前記第一配管に設けられたバルブと、
加圧用水が貯留される第二貯留部と、
前記気密容器と前記第二貯留部とを連通し、前記気密容器側の区間に前記炭酸ガス吸収液が充填され、前記第二貯留部側の区間に前記加圧用水が充填される第二配管と、
前記第二配管の前記加圧用水が充填される区間に配されたポンプとを備え、
前記ポンプは、前記残留気体が前記被検査容器から前記気密容器へ導入される前に、前記バルブが開状態において、前記第二配管内の加圧用水を前記第二貯留部側へ送液し、前記残留気体が前記被検査容器から前記気密容器へ導入された後に、前記バルブが閉状態において、前記第二配管内の加圧用水を前記気密容器側へ送液する残留気体体積測定装置。
【請求項2】
前記気密容器内の圧力を測定する測定手段をさらに備え、
前記ポンプは、前記残留気体が前記被検査容器から前記気密容器へ導入された後に、前記測定手段による測定値が所定の圧力となるまで、前記第二配管内の加圧用水を前記気密容器側へ送液する請求項1に記載の残留気体体積測定装置。
【請求項3】
前記残留気体が前記被検査容器から前記気密容器へ導入された後に、前記ポンプが前記第二配管内の加圧用水を前記気密容器側へ送液する送液量は、前記気密容器から前記ポンプまでの区間における前記第二配管の容積よりも小さい請求項1又は2に記載の残留気体体積測定装置。
【請求項4】
前記気密容器から前記ポンプまでの区間における前記第二配管の容積は、1~5mLである請求項1~3の何れか一項に記載の残留気体体積測定装置。
【請求項5】
前記第二配管は、前記気密容器と前記ポンプとの間の位置において、前記被検査容器に連通する第三配管と接続し、
前記残留気体が前記被検査容器から前記気密容器へ導入された後に、前記ポンプが前記第二配管内の加圧用水を前記気密容器側へ送液する送液量は、前記ポンプから前記第三配管が接続する位置までの区間における前記第二配管の容積よりも小さい請求項1~4の何れか一項に記載の残留気体体積測定装置。
【請求項6】
前記残留気体が前記被検査容器から前記気密容器へ導入された後に、前記ポンプが前記第二配管内の加圧用水を前記気密容器側へ送液する送液量は、前記気密容器内の送液後の圧力が送液前の圧力の130~160%となるように制御される請求項1~5の何れか一項に記載の残留気体体積測定装置。
【請求項7】
塩基性の炭酸ガス吸収液が充填された気密容器に被検査容器内の残留気体を導入して、前記残留気体の体積を測定する残留気体体積測定方法であって、
前記炭酸ガス吸収液が貯留された第一貯留部と前記気密容器とを連通し、前記炭酸ガス吸収液が充填された第一配管において、当該第一配管に設けられたバルブを開状態とする開放工程と、
加圧用水が貯留された第二貯留部と前記気密容器とを連通し、前記気密容器側の区間に前記炭酸ガス吸収液が充填され、前記第二貯留部側の区間に前記加圧用水が充填された第二配管において、当該第二配管の前記加圧用水が充填された区間に配されたポンプにより、前記第二配管内の加圧用水を前記第二貯留部側へ送液する準備工程と、
前記残留気体を被検査容器から前記気密容器へ導入する導入工程と、
前記バルブを閉状態とする閉鎖工程と、
前記気密容器内の圧力を測定する第一測定工程と、
前記ポンプにより、前記第二配管内の加圧用水を前記第二貯留部側へ送液する加圧工程と、
前記加圧工程における送液が完了した後に、前記気密容器内の圧力を測定する第二測定工程と、
前記第一測定工程において測定した圧力と前記第二測定工程において測定した圧力とに基づいて、前記残留気体の体積を算出する算出工程と
を包含する残留気体体積測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査容器内の残留気体の体積を測定する残留気体体積測定装置、及び残留気体体積測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸飲料水、ビール、発泡酒等の容器詰め工程では、管理項目の一つとして、容器内に残留する炭酸ガス以外の気体(以下、「残留気体」と称する。)の体積が測定されている。
【0003】
例えば、炭酸飲料水が充填されている被検査容器の内容物を、水酸化ナトリウム水溶液等の炭酸ガス吸収剤(炭酸ガス吸収液)で満たした気密容器内に導入し、炭酸ガスを除去することで、残留気体の体積を測定する残留気体体積測定装置がある(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の残留気体体積測定装置は、被検査容器の内容物が気密容器へ導入された後に、ポンプによって炭酸ガス吸収剤を気密容器へ追加注入することで、気密容器を加圧する。このときの炭酸ガス吸収剤の注入量、即ち加圧による残留気体の体積変化量と、加圧の前後の気密容器内の圧力とに基づいて、ボイルの法則により被検査容器に導入された残留気体の体積を短時間で高精度に測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の残留気体体積測定装置では、炭酸ガス吸収剤として水酸化ナトリウム水溶液等の強塩基性液が使用されるため、気密容器を加圧するポンプは、動作時に強塩基性下に曝されることで劣化しやすく、また、長期間に亘って使用すると、水酸化ナトリウム等の溶質の析出が、ポンプの故障の原因となるという問題がある。特許文献1の残留気体体積測定装置における測定精度は炭酸ガス吸収剤の注入による残留気体の体積変化量の精度に依存するため、気密容器を加圧するポンプの劣化は、測定精度の低下をもたらす原因となり得る。また、気密容器を加圧するポンプには、高い測定精度を得るために送液量を精密にコントロールできる比較的高価なものが使用される。そのため、劣化、故障したポンプの交換は、コスト面での負担が大きなものとなる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、気密容器を加圧するポンプの劣化を抑えながら、残留気体の体積を高精度に測定することができる残留気体体積測定装置、及び残留気体体積測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る残留気体体積測定装置の特徴構成は、
被検査容器内の残留気体の体積を測定する残留気体体積測定装置であって、
塩基性の炭酸ガス吸収液が充填される気密容器と、
前記炭酸ガス吸収液が貯留される第一貯留部と、
前記気密容器と第一貯留部とを連通し、前記炭酸ガス吸収液が充填される第一配管と、
前記第一配管に設けられたバルブと、
加圧用水が貯留される第二貯留部と、
前記気密容器と前記第二貯留部とを連通し、前記気密容器側の区間に前記炭酸ガス吸収液が充填され、前記第二貯留部側の区間に前記加圧用水が充填される第二配管と、
前記第二配管の前記加圧用水が充填される区間に配されたポンプとを備え、
前記ポンプは、前記残留気体が前記被検査容器から前記気密容器へ導入される前に、前記バルブが開状態において、前記第二配管内の所定量の加圧用水を前記第二貯留部側へ送液し、前記残留気体が前記被検査容器から前記気密容器へ導入された後に、前記バルブが閉状態において、前記第二配管内の前記所定量の加圧用水を前記気密容器側へ送液することにある。
【0008】
本構成の残留気体体積測定装置によれば、塩基性の炭酸ガス吸収液が充填される気密容器と、炭酸ガス吸収液が貯留される第一貯留部と、気密容器と第一貯留部とを連通し、炭酸ガス吸収液が充填される第一配管と、第一配管に設けられたバルブと、加圧用水が貯留される第二貯留部と、気密容器と第二貯留部とを連通し、気密容器側の区間に炭酸ガス吸収液が充填され、第二貯留部側の区間に加圧用水が充填される第二配管と、第二配管の加圧用水が充填される区間に配されたポンプとを備え、ポンプが、残留気体が被検査容器から気密容器へ導入される前に、バルブが開状態において、第二配管内の加圧用水を第二貯留部側へ送液し、残留気体が被検査容器から気密容器へ導入された後に、バルブが閉状態において、第二配管内の所定量の加圧用水を気密容器側へ送液するように構成される。これにより、ポンプは炭酸ガス吸収液に接触することなく加圧用水を送液するだけで、炭酸ガス吸収液が充填された気密容器を加圧することができる。その結果、ポンプが強塩基性下に曝されることがなく、劣化を抑えることができ、また、長期間に亘って使用しても炭酸ガス吸収液の溶質がポンプに析出することがない。
【0009】
また、第二配管において、気密容器側の区間に炭酸ガス吸収液が充填されていることにより、ポンプによって気密容器側へ送液された加圧用水は、気密容器内に直接注入されることがなく、大部分が第二配管内に留まる。そのため、炭酸ガス吸収液との混合による加圧用水の部分モル体積の変動は、ポンプの送液量に対して極めて微小なものとなる。その結果、加圧用水と炭酸ガス吸収液との混合時の部分モル体積の変動によって実効的な影響を受けることなく、加圧による残留気体の体積変化量と、加圧の前後の気密容器内の圧力とに基づいて、残留気体の体積を高精度に測定することができる。
【0010】
本発明に係る残留気体体積測定装置において、
前記気密容器内の圧力を測定する測定手段をさらに備え、
前記ポンプは、前記残留気体が前記被検査容器から前記気密容器へ導入された後に、前記測定手段による測定値が所定の圧力となるまで、前記第二配管内の加圧用水を前記気密容器側へ送液することが好ましい。
【0011】
本構成の残留気体体積測定装置によれば、気密容器内の圧力を測定する測定手段をさらに備え、ポンプが、残留気体が被検査容器から気密容器へ導入された後に、測定手段による測定値が所定の圧力となるまで第二配管内の加圧用水を気密容器側へ送液することにより、気密容器を適切に加圧することができる。その結果、加圧による残留気体の体積変化量と、加圧の前後の気密容器内の圧力とに基づいて、残留気体の体積をより高精度に測定することが可能となる。
【0012】
本発明に係る残留気体体積測定装置において、
前記残留気体が前記被検査容器から前記気密容器へ導入された後に、前記ポンプが前記第二配管内の加圧用水を前記気密容器側へ送液する送液量は、前記気密容器から前記ポンプまでの区間における前記第二配管の容積よりも小さいことが好ましい。
【0013】
本構成の残留気体体積測定装置によれば、残留気体が被検査容器から気密容器へ導入された後に、ポンプが第二配管内の加圧用水を気密容器側へ送液する送液量が、気密容器からポンプまでの区間における第二配管の容積よりも小さいことにより、送液された加圧用水が気密容器内に注入されることがない。そのため、加圧用水と炭酸ガス吸収液との接液面積が小さく抑えられ、接液による混合は、第二配管内の狭い領域で少量のみ生じ、混合による部分モル体積の変動がさらに微小なものとなる。その結果、残留気体の体積をより高精度に測定することができる。
【0014】
本発明に係る残留気体体積測定装置において、
前記気密容器から前記ポンプまでの区間における前記第二配管の容積は、1~5mLであることが好ましい。
【0015】
本構成の残留気体体積測定装置によれば、気密容器からポンプまでの区間における第二配管の容積が1~5mLであることにより、被検査容器の容量が500mL以下である場合に、ポンプによる加圧用水の送液によって、加圧用水を気密容器内に直接注入させることなく、気密容器を適切に加圧することができる。
【0016】
本発明に係る残留気体体積測定装置において、
前記第二配管は、前記気密容器と前記ポンプとの間の位置において、前記被検査容器に連通する第三配管と接続し、
前記残留気体が前記被検査容器から前記気密容器へ導入された後に、前記ポンプが前記第二配管内の加圧用水を前記気密容器側へ送液する送液量は、前記ポンプから前記第三配管が接続する位置までの区間における前記第二配管の容積よりも小さいことが好ましい。
【0017】
本構成の残留気体体積測定装置によれば、気密容器とポンプとの間の位置において第二配管が被検査容器に連通する第三配管と接続し、残留気体が被検査容器から気密容器へ導入された後に、ポンプが第二配管内の加圧用水を気密容器側へ送液する送液量は、ポンプから第三配管が接続する位置までの区間における第二配管の容積よりも小さいことにより、送液された加圧用水が第三配管へ流入することがない。そのため、加圧用水と炭酸ガス吸収液との接液面積が小さく抑えられ、接液による混合は、第二配管内の狭い領域で少量のみ生じ、混合による部分モル体積の変動がさらに微小なものとなる。その結果、残留気体の体積をより高精度に測定することができる。
【0018】
本発明に係る残留気体体積測定装置において、
前記残留気体が前記被検査容器から前記気密容器へ導入された後に、前記ポンプが前記第二配管内の加圧用水を前記気密容器側へ送液する送液量は、前記気密容器内の送液後の圧力が送液前の圧力の130~160%となるように制御されることが好ましい。
【0019】
本構成の残留気体体積測定装置によれば、残留気体が被検査容器から気密容器へ導入された後に、ポンプが第二配管内の加圧用水を気密容器側へ送液する送液量は、気密容器内の送液後の圧力が送液前の圧力の130~160%となるように制御される。このように制御されることで、第二貯留部側への加圧用水の送液量は、気密容器に導入される気体の体積の1/3程度の量となる。これにより、加圧用水を気密容器内に直接注入させることなく、気密容器を適切に加圧することができる。
【0020】
上記課題を解決するための本発明に係る残留気体体積測定方法の特徴構成は、
塩基性の炭酸ガス吸収液が充填された気密容器に被検査容器内の残留気体を導入して、前記残留気体の体積を測定する残留気体体積測定方法であって、
前記炭酸ガス吸収液が貯留された第一貯留部と前記気密容器とを連通し、前記炭酸ガス吸収液が充填された第一配管において、当該第一配管に設けられたバルブを開状態とする開放工程と、
加圧用水が貯留された第二貯留部と前記気密容器とを連通し、前記気密容器側の区間に前記炭酸ガス吸収液が充填され、前記第二貯留部側の区間に前記加圧用水が充填された第二配管において、当該第二配管の前記加圧用水が充填された区間に設けられたポンプにより、前記第二配管内の加圧用水を前記第二貯留部側へ送液する準備工程と、
前記残留気体を被検査容器から前記気密容器へ導入する導入工程と、
前記バルブを閉状態とする閉鎖工程と、
前記気密容器内の圧力を測定する第一測定工程と、
前記ポンプにより、前記第二配管内の加圧用水を前記第二貯留部側へ送液する加圧工程と、
前記加圧工程における送液が完了した後に、前記気密容器内の圧力を測定する第二測定工程と、
前記第一測定工程において測定した圧力と前記第二測定工程において測定した圧力とに基づいて、前記残留気体の体積を算出する算出工程と
を包含することにある。
【0021】
本構成の残留気体体積測定方法によれば、加圧用水が貯留された第二貯留部と気密容器とを連通し、気密容器側の区間に炭酸ガス吸収液が充填され、第二貯留部側の区間に加圧用水が充填された第二配管において、当該第二配管の加圧用水が充填された区間に設けられたポンプにより、第二配管内の加圧用水を第二貯留部側へ送液する準備工程と、ポンプにより第二配管内の加圧用水を第二貯留部側へ送液する加圧工程とを包含することにより、ポンプは炭酸ガス吸収液に触れることなく、加圧用水を送液するだけで、炭酸ガス吸収液が充填された気密容器を加圧することができる。その結果、ポンプが強塩基性下に曝されることがなく、劣化を抑えることができる。
【0022】
また、第二配管において、気密容器側の区間に炭酸ガス吸収液が充填されていることにより、ポンプによって気密容器側へ送液された加圧用水は、気密容器内に直接注入されることがなく、大部分が第二配管内に留まる。そのため、炭酸ガス吸収液との混合による加圧用水の部分モル体積の変動は、ポンプの送液量に対して極めて微小なものとなる。その結果、加圧用水と炭酸ガス吸収液との混合時の部分モル体積の変動によって実効的な影響を受けることなく、加圧による残留気体の体積変化量と、加圧の前後の気密容器内の圧力とに基づいて、残留気体の体積を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明に係る残留気体体積測定装置の構成図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る残留気体体積測定方法のフローチャートである。
【
図3】
図3は、残留気体体積測定方法を実行する前に、配管に加圧用水を充填する手順を説明する図である。
【
図4】
図4は、残留気体体積測定方法を実行する前に、気密容器及び配管に炭酸ガス吸収液を充填する手順を説明する図である。
【
図5】
図5は、残留気体体積測定方法を実行する前に、気密容器及び配管に炭酸ガス吸収液を充填する手順を説明する図である。
【
図6】
図6は、残留気体体積測定方法における準備工程の説明図である。
【
図7】
図7は、残留気体体積測定方法における導入工程の説明図である。
【
図8】
図8は、残留気体体積測定方法における閉鎖工程、及び第一測定工程の説明図である。
【
図9】
図9は、残留気体体積測定方法における加圧工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の残留気体体積測定装置、及び残留気体体積測定方法について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0025】
<残留気体体積測定装置>
図1は、本発明に係る残留気体体積測定装置1の構成図である。残留気体体積測定装置1は、炭酸ガスで加圧された炭酸飲料、ビール、発泡酒等が充填された被検査容器Bを検査対象とし、被検査容器Bの内部に残留する残留気体の体積を測定するために用いられる。残留気体体積測定装置1は、気密容器10、第一貯留部20、第一配管30、第二貯留部40、第二配管50、第三配管60、算出手段70、ポンプP1、及びバルブV1を備え、さらに任意の構成として、振動手段80を備える。残留気体体積測定装置1は、CPU、メモリ、ストレージ等を有するコンピュータである制御手段90により、バルブの開閉、及びポンプの駆動/停止が制御されることで、装置全体としての動作が制御される。
【0026】
気密容器10は、残留気体の体積測定時に被検査容器Bから残留気体が導入される容器であり、残留気体の導入前に水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、及び水酸化カリウム等の塩基性の水溶液である炭酸ガス吸収液が充填される。炭酸ガス吸収液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、炭酸ガスの速やかな吸収のために、気密容器10内の炭酸ガス吸収液における水酸化ナトリウム濃度は、6~8M/Lの範囲に維持されることが好ましい。気密容器10の容積は、200mL以上であることが好ましい。気密容器10の容積が上記の範囲にあれば、容量が500mLの被検査容器Bの残留気体の体積を高精度に測定することできる。気密容器10の容積が200mL未満である場合、容量が500mLの被検査容器Bの残留気体の体積の測定精度が低下する虞がある。気密容器10は、上端部において容器内の圧力を測定する圧力計等の測定手段11、及び上端部から導出され大気中に連通するエア抜き配管12を備える。エア抜き配管12には、エア抜き用のバルブV4が設けられている。
【0027】
第一貯留部20は、炭酸ガス吸収液が貯留されるタンクである。第一貯留部20に貯留された炭酸ガス吸収液は、充填用配管21と、充填用配管21に設けられたポンプP2とによって、気密容器10へ供給される。充填用配管21は、後述するように第三配管60に接続する。
【0028】
第一配管30は、気密容器10の下端部から導出され第一貯留部20に連通する配管であり、バルブV1が設けられている。残留気体の体積測定時に、第一配管30には、炭酸ガス吸収液が充填される。
【0029】
第二貯留部40は、水道水、蒸留水等の加圧用水が貯留されるタンクである。
【0030】
第二配管50は、気密容器10の下端部から導出され第二貯留部40に連通する配管であり、残留気体の体積測定時に、気密容器10側の区間に炭酸ガス吸収液が充填され、第二貯留部40側の区間に加圧用水が充填される。測定時に加圧用水が充填される第二配管50の区間には、残留気体の体積測定時に被検査容器Bの内容物が気密容器10へ導入された後に、気密容器10を加圧するためのポンプP1が配されている。第二配管50において、気密容器10からポンプP1までの区間Lは、気密容器10を加圧するためにポンプP1が送液する加圧用水が気密容器10内へ流入することを抑制するためのバッファ配管として機能する。ここで、残留気体の体積を精度よく測定するには、ポンプP1は、気密容器10に導入された残留気体の体積の1/3程度の量の加圧用水を気密容器10に向けて送液することが好ましい。炭酸飲料等を充填した被検査容器Bにおける残留気体の体積は、被検査容器Bの容量によってある程度規定されるため、区間Lの容積は、バッファ配管として機能するように被検査容器Bの容量に応じて設定される。例えば、被検査容器Bの容量が500mLである場合、区間Lの容積は、1~5mLであることが好ましい。区間Lの容積が上記の範囲にあれば、ポンプP1が送液する加圧用水を気密容器10内へ流入させることなく、容量が500mLの被検査容器Bから気密容器10に導入される残留気体の体積を高精度に測定することができる。大容量の被検査容器Bの残留気体の体積測定では、ポンプP1による送液量も大きくなるため、区間Lの容積が1~5mLの範囲であると、ポンプP1が送液する加圧用水が気密容器10へ流入することもあり得る。この場合であっても、残留気体の体積が、例えば20mL程度であれば、区間Lの容積が上記の範囲にあることにより、気密容器10へ流入する加圧用水の量はポンプP1の送液量の一部に留まる。これにより、加圧用水の部分モル体積の変動は、ポンプP1の送液量、即ち加圧による残留気体の体積変化量に対して極めて微小なものとなり、実用上十分な精度で残留気体の体積を測定することができる。具体的には、区間Lの容積が1mL以上である場合、容量が500mLの被検査容器Bから気密容器10に導入される残留気体の体積を測定する際に、気密容器10内への加圧用水の流入量が比較的大きくなることを抑制できる。これにより、流入した加圧用水の部分モル体積の変動の影響により、残留気体の体積の測定精度が低下することを抑制できる。区間Lの容積が5mL以下である場合、装置サイズが過剰に大きくなることを抑制できる。区間Lの内径は、1~3mmであることが好ましい。区間Lの内径が上記の範囲にあれば、区間Lにおける炭酸ガス吸収液と加圧用水との接液面積が小さく抑えられ、炭酸ガス吸収液と加圧用水との混合による部分モル体積の変動がさらに微小なものとなる。具体的には、区間Lの内径が1mm以上である場合、区間Lをバッファ配管として機能させる適切な容積とするために、区間Lの配管長が過剰に長くなることを抑制できる。区間Lの内径が3mm以下である場合、炭酸ガス吸収液と加圧用水との接液面積が大きくなることを抑制できる。これにより、接液による炭酸ガス吸収液と加圧用水との混合によって部分モル体積の変動の影響が大きくなることを抑制でき、残留気体の体積の測定精度が低下することを抑制できる。
【0031】
残留気体体積測定装置1による残留気体の体積の測定精度は、ポンプP1の送液量の精度に依存する。そのため、ポンプP1としては、送液量を高精度に調節できるものを用いる。例えば、ポンプP1には、ハイセラポンプ(株式会社イワキ製)を用いることができる。ポンプP1は、両方向に送液できるポンプであり、残留気体体積測定装置1における残留気体の体積測定において、残留気体が被検査容器Bから気密容器10へ導入される前に、第二配管50内の加圧用水を第二貯留部40側へ送液することで、区間Lをバッファ配管として適切に機能させる。一方、ポンプP1は、残留気体が被検査容器Bから気密容器10へ導入された後に、第二配管50内の加圧用水を気密容器10側へ送液することで、気密容器10を加圧する。この何れの方向への送液でも、ポンプP1は加圧用水を送液し、炭酸ガス吸収液に接触することがない。そのため、ポンプP1は、動作中に強塩基性下に曝されることがなく、劣化を抑えることができ、また、長期間に亘って使用しても炭酸ガス吸収液の溶質が析出することがない。ポンプP1による気密容器10側への加圧用水の送液量は、測定手段11による測定値をモニタリングして、気密容器10内の送液後の圧力が送液前の圧力の130~160%となるように制御されることが好ましい。このように制御されることで、第二貯留部40側への加圧用水の送液量は、気密容器10に導入される気体の体積の1/3程度の量となる。これにより、加圧用水を気密容器内に直接注入させることなく、気密容器を適切に加圧することができる。
【0032】
第三配管60は、被検査容器Bから気密容器10へ残留気体を導入する配管であり、気密容器10とポンプP1との間の接続部J1において第二配管50に接続する。第三配管60には、被検査容器Bが取り付けられる端部側にバルブV3が設けられ、バルブV3と接続部J1との間に三方バルブであるバルブV2が設けられている。バルブV2とバルブV3との間の接続部J2には、充填用配管21が接続する。
【0033】
算出手段70は、ポンプP1による気密容器10側への加圧用水の送液量、即ち加圧による気密容器10での残留気体の体積変化量と、加圧の前後に測定手段11によって測定された気密容器10内の圧力とに基づいて、ボイルの法則により被検査容器Bに導入された残留気体の体積を算出する手段である。算出手段70は、コンピュータ等において、メモリに記録されているプログラムをCPUが読み出して実行することで、その機能が実現されるよう構成することができる。算出手段70は、具体的には、ポンプP1による気密容器10側への加圧用水の送液量をv01とし、加圧前の気密容器10内の圧力をp01とし、加圧後の気密容器10内の圧力をp02として、下記の式(1)によって残留気体の体積Vを算出する。
【0034】
【0035】
振動手段80は、被検査容器Bを保持するホルダ、及びホルダを振動させるモータ等からなり、モータの駆動により被検査容器Bを振動させることによって気体を発泡させ、発泡した気体を被検査容器B内の圧力で気密容器10内へ導入するための手段である。
【0036】
制御手段90は、CPU、メモリ、ストレージ等を有するコンピュータであり、メモリに記録されているプログラムをCPUが読み出して実行することで、上述した各構成要素を制御する。
【0037】
<残留気体体積測定方法>
残留気体体積測定装置1において実行される残留気体体積測定方法を説明する。残留気体体積測定方法を実行する前に、残留気体体積測定装置1の気密容器10と各配管とには、炭酸ガス吸収液、及び加圧用水が充填される。具体的には、先ず、加圧用水の充填動作として、
図3に示すように、バルブV2が接続部J1側と接続部J2側とを連通するように開かれ、バルブV3が開かれた状態で、ポンプP1が気密容器10側へ加圧用水を送液するように駆動することで、第二配管50における第二貯留部40から接続部J1までの区間、及び第三配管60に加圧用水が充填される。次に、炭酸ガス吸収液の充填動作として、
図4に示すように、バルブV1、V3が閉じられ、バルブV2が接続部J1側と接続部J2側とを連通するように開かれ、バルブV4が開かれた状態で、ポンプP2が接続部J1側へ炭酸ガス吸収液を送液するように駆動することで、充填用配管21、第三配管60における接続部J2から接続部J1までの区間、第二配管50における接続部J1から気密容器10までの区間、気密容器10、及びエア抜き配管12に炭酸ガス吸収液が充填され、続いて、ポンプP2が駆動した状態で、
図5に示すように、バルブV4が閉じられ、バルブV1が開かれることによって、第一配管30に炭酸ガス吸収液が充填される。ここで、
図4に示す炭酸ガス吸収液の充填動作において、第三配管60における接続部J2から接続部J1までの区間に充填されていた加圧用水が炭酸ガス吸収液に置換されることにより、第二配管50では、接続部J1直下の位置に炭酸ガス吸収液と加圧用水との接液面c1が形成され、接液面c1より気密容器10側の区間xに炭酸ガス吸収液が充填され、接液面c1よりポンプP1側の区間yに加圧用水が充填された状態となる。
【0038】
図2は、本発明に係る残留気体体積測定方法のフローチャートである。残留気体体積測定方法では、開放工程(S1)、準備工程(S2)、導入工程(S3~S4)、閉鎖工程(S5)、第一測定工程(S6)、加圧工程(S7)、第二測定工程(S8)、及び算出工程(S9)の各工程を順に実行する。
【0039】
先ず、開放工程(S1)では、
図5に示すように、第一配管30に設けられたバルブV1が開かれる。この状態で、準備工程(S2)が実行される。
図6は、準備工程(S2)の説明図である。準備工程(S2)では、バルブV2~4が閉じられ、ポンプP1が第二貯留部40側へ加圧用水を送液するように駆動することで、第二配管50における接液面c2が接続部J1直下の位置からポンプP1近傍の位置へ移動する。これにより、後述の加圧工程においてポンプP1により気密容器10側へ送液される加圧用水が、気密容器10内へ流入することを抑制する第二配管50のバッファ機能がより効果的になる。
【0040】
図7は、導入工程(S3~S4)の説明図である。導入工程では、振動手段80のホルダに被検査容器Bが取り付けられた後に、第三配管60に設けられたバルブV3が開かれ、バルブV2が接続部J1側と接続部J2側とを連通するように開かれ、振動手段80が被検査容器Bを振動させる(S3)。これによって、被検査容器B内で発泡した気体は、被検査容器B内の圧力で気密容器10内へ導入される。なお、振動手段80による被検査容器Bの振動(S3)は任意であり、気密容器10内への気体の導入がスムーズに行われる場合は省略することも可能である。気密容器10に導入された残留気体は、気密容器10の上端部において気体層として蓄積される。導入工程ではさらに、被検査容器Bからの気体の排出が終了したかを監視する(S4)。気体の排出の監視では、例えば、光学センサー等を用いて第三配管60の通流状態を監視し、気体が通流する状態から液体が通流する状態へ変化することにより、第三配管60を透過する光の強度が低下したことが検知されると(S4:Yes)、検知結果を示す低下信号が制御手段90に送信される。
【0041】
図8は、閉鎖工程(S5)、及び第一測定工程(S6)の説明図である。閉鎖工程(S5)は、被検査容器B内からの残留気体の排出が終了したことを示す低下信号が制御手段90で受信された後に実行される。閉鎖工程(S5)では、バルブV1が閉じられる。この状態で実行される第一測定工程(S6)では、測定手段11によって、気密容器10内の気体層の圧力p01が測定される。測定された圧力p01は、残留気体体積測定装置1のメモリ、ストレージ等に記録され、後述する算出工程(S9)において残留気体の体積の算出に用いられる。
【0042】
図9は、加圧工程(S7)の説明図である。加圧工程(S7)では、ポンプP1が気密容器10側へ加圧用水を送液するように駆動することで、気密容器10を加圧する。加圧工程(S7)におけるポンプP1の送液量v01は、ポンプP1から気密容器10までの区間における第二配管50の容積よりも小さいことが好ましく、ポンプP1から接続部J1までの区間における第二配管50の容積よりも小さいことがより好ましい。送液量v01が、ポンプP1から気密容器10までの区間における第二配管50の容積よりも小さければ、加圧用水が気密容器10に流入することがなく、混合による加圧用水の部分モル体積の変動が微小なものとなるため、残留気体の体積を高精度に測定することができる。送液量v01が、ポンプP1から接続部J1までの区間における第二配管50の容積よりも小さければ、第二配管50における接液面c3が接続部J1よりポンプP1側の位置となるため、送液された加圧用水が第三配管60へ流入することがなく、加圧用水と炭酸ガス吸収液との接液面積がさらに小さく抑えられ、残留気体の体積をより高精度に測定することができる。なお、送液量v01が、ポンプP1から気密容器10までの区間における第二配管50の容積よりも大きい場合、送液された加圧用水が気密容器10内に流入することになるが、予め準備工程(S2)が実行されていることによって第二配管50のバッファ機能が大きくなっているため、気密容器10内へ流入する加圧用水の量は、送液量v01の極一部に留まる。そのため、送液量v01が、ポンプP1から気密容器10までの区間における第二配管50の容積よりも大きい場合であっても、気密容器10での混合による加圧用水の部分モル体積の変動は過大なものとはならず、実用上十分な精度で残留気体の体積を測定することができる。加圧工程(S7)における送液量v01は、残留気体体積測定装置1のメモリ、ストレージ等に記録され、後述する算出工程(S9)において残留気体の体積の算出に用いられる。また、被検査容器Bを取り換えて残留気体体積測定方法を繰り返し実行する場合、残留気体体積測定装置1のメモリ、ストレージ等に記録された送液量v01は、次の被検査容器Bを検査対象とした測定において、準備工程(S2)でのポンプP1の送液量の決定に用いることができる。例えば、最初の被検査容器Bを検査対象とした残留気体の測定における送液量v01が、ポンプP1から気密容器10までの区間における第二配管50の容積よりも小さければ、この送液量v01を、次の被検査容器Bを検査対象とした測定における準備工程(S2)での送液量とすることができる。
【0043】
第二測定工程(S8)は、加圧工程(S7)におけるポンプP1の駆動が停止した後に実行される。第二測定工程(S8)では、加圧工程(S7)におけるポンプP1の送液により加圧された気密容器10内の気体層の圧力p02が、測定手段11によって測定される。測定された圧力p02は、残留気体体積測定装置1のメモリ、ストレージ等に記録され、後述する算出工程(S9)において残留気体の体積の算出に用いられる。
【0044】
算出工程(S9)では、残留気体体積測定装置1のメモリ、ストレージ等に記録された送液量v01、加圧前の気密容器10内の圧力p01、及び加圧後の気密容器10内の圧力p02に基づいて、算出手段70が前述の式(1)によって残留気体の体積Vを算出する。
【0045】
以上の手順により、残留気体体積測定方法が終了する。残留気体体積測定方法の実行により、残留気体体積測定装置1では、ポンプP1は炭酸ガス吸収液に接触することなく加圧用水を送液するだけで、気密容器10を加圧することができる。その結果、ポンプP1が強塩基性下に曝されることがなく、劣化を抑えることができ、また、長期間に亘って使用しても炭酸ガス吸収液の溶質がポンプP1に析出することがない。また、第二配管50において、気密容器10側の区間に炭酸ガス吸収液が充填されていることにより、ポンプP1によって気密容器10側へ送液された加圧用水は、気密容器10内に直接注入されることがなく、大部分が第二配管50内に留まる。そのため、炭酸ガス吸収液との混合による加圧用水の部分モル体積の変動は、ポンプP1の送液量に対して極めて微小なものとなり、残留気体の体積を高精度に測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の残留気体体積測定装置は、炭酸飲料、ビール、及び発泡酒等が充填された容器において、残留気体の体積を測定する用途に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 残留気体体積測定装置
10 気密容器
11 測定手段
20 第一貯留部
30 第一配管
40 第二貯留部
50 第二配管
60 第三配管
P1 ポンプ
V1 バルブ