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特許7347907乾性潤滑被膜形成用の塗料組成物、乾性潤滑被膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】乾性潤滑被膜形成用の塗料組成物、乾性潤滑被膜
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20230912BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230912BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20230912BHJP
   C10M 107/28 20060101ALN20230912BHJP
   C10M 147/02 20060101ALN20230912BHJP
   C10M 155/02 20060101ALN20230912BHJP
   C10N 50/02 20060101ALN20230912BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
C10M169/04
C09D7/65
C09D133/00
C10M107/28
C10M147/02
C10M155/02
C10N50:02
C10N40:00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023048420
(22)【出願日】2023-03-24
【審査請求日】2023-05-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591213173
【氏名又は名称】住鉱潤滑剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】日紫喜 治彦
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第132716(EP,A1)
【文献】特表2020-533475(JP,A)
【文献】特表2009-512819(JP,A)
【文献】特開平10-219182(JP,A)
【文献】特開平6-184588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾性潤滑被膜を形成するための塗料組成物であって、
アクリル樹脂をバインダーとして含み、
前記バインダー中にポリテトラフルオロエチレンが分散してなり、かつ添加剤成分として有機変性シリコーンオイルを含み、
前記有機変性シリコーンオイルの含有量が、全固形分に対して4.5質量%~35質量%であり、
前記バインダーに対する前記ポリテトラフルオロエチレンの含有比率(P/B)が1.0を超えて2.0未満である、
塗料組成物。
【請求項2】
前記有機変性シリコーンオイルは、ポリエーテル変性シリコーンオイルを含む、
請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレンの含有量が、全固形分に対して32質量%~64質量%である、
請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項4】
パッキンの表面に塗布して用いられ、該表面に乾性潤滑被膜を形成する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
部材の表面に塗布され潤滑剤層を形成する乾性潤滑被膜であって、
アクリル樹脂を含むバインダーと、
ポリテトラフルオロエチレンと、
有機変性シリコーンオイルと、を含有し、
前記有機変性シリコーンオイルを1質量%~30質量%の割合で含み、
前記バインダーに対する前記ポリテトラフルオロエチレンの含有比率(P/B)が1.0を超えて2.0未満である、
乾性潤滑被膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾性潤滑被膜形成用の塗料組成物、並びにその乾性潤滑被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、OA機器、家電、自動車、産業機械等の初期なじみ対策、焼き付き性向上等を目的として、固体潤滑剤を樹脂中に分散含有させた乾性潤滑被膜が使用されている。乾性潤滑被膜は、固体潤滑剤とバインダー樹脂とを含む組成物を、金属部材の表面、あるいはゴムや樹脂部材の表面に適切な膜厚で塗布し、乾燥又は加熱硬化させることにより被膜化して形成されるものである。
【0003】
使用用途の一例として、例えば産業機械部品への適用があり、詳しくはパッキンでは、摺動性や耐張り付き性を向上させる目的で乾性潤滑被膜をパッキン表面に形成させる。
【0004】
さて、乾性潤滑被膜の用途として、例えばパッキンの表面に形成する態様においては、摺動性や耐張り付き性を向上させるとともに、流体の漏れを防止するためのシール性も重要な項目となる。
【0005】
しかしながら、従来の技術(例えば、特許文献1、2)では、乾性潤滑被膜の摩擦摩耗特性改善について検討しているまでであり、シール性との因果関係については検討が不足している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許2903709号公報
【文献】特許4911213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シール性を向上させるには、形成する乾性潤滑被膜の表面粗さを下げる必要がある。つまり、表面粗さが低いことが、シール性が良好である指標となる。
【0008】
表面粗さを低下させる手段として、例えば乾性潤滑被膜中の樹脂含有量を多くする方法があるが、樹脂量が多くなると相対的に被膜中の固体潤滑剤量が減少するため、摩擦係数が上昇してしまう。よって、乾性潤滑被膜としては好ましいものとはいえない。
【0009】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、良好な低摩擦性を維持しつつ、シール性が向上した乾性潤滑被膜を形成させることができる塗料組成物、及びその乾性潤滑被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。乾性潤滑被膜を構成する成分の添加剤成分として有機変性シリコーンオイルを用い、そのシリコーンオイルを特定の配合量で配合させることで、良好な低摩擦性を維持しつつシール性が向上した被膜となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、乾性潤滑被膜を形成するための塗料組成物であって、アクリル樹脂をバインダーとして含み、前記バインダー中にポリテトラフルオロエチレンが分散してなり、かつ添加剤成分として有機変性シリコーンオイルを含み、前記有機変性シリコーンオイルの含有量が、全固形分に対して4.5質量%~35質量%であり、前記バインダーに対する前記ポリテトラフルオロエチレンの含有比率(P/B)が1.0を超えて2.0未満である、塗料組成物である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記有機変性シリコーンオイルは、ポリエーテル変性シリコーンオイルを含む、塗料組成物である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記ポリテトラフルオロエチレンの含有量が、全固形分に対して32質量%~64質量%である、塗料組成物である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、パッキンの表面に塗布して用いられ、該表面に乾性潤滑被膜を形成する、塗料組成物である。
【0015】
(5)本発明の第5の発明は、部材の表面に塗布され潤滑剤層を形成する乾性潤滑被膜であって、アクリル樹脂を含むバインダーと、ポリテトラフルオロエチレンと、有機変性シリコーンオイルと、を含有し、前記有機変性シリコーンオイルを1質量%~30質量%の割合で含み、前記バインダーに対する前記ポリテトラフルオロエチレンの含有比率(P/B)が1.0を超えて2.0未満である、乾性潤滑被膜である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、良好な低摩擦性を維持しつつ、シール性がより向上した乾性潤滑被膜を形成することができる。また、耐張り付き性にも優れた乾性潤滑被膜であり、パッキン等の部材の表面に適用して好適である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0018】
≪1.乾性潤滑被膜形成用の塗料組成物≫
本実施の形態に係る塗料組成物は、乾性潤滑被膜を形成するための塗料組成物(乾性潤滑被膜形成用の塗料組成物)である。例えば、パッキン等の部材の表面(被塗部)に当該塗料組成物を均一に塗布することで、塗料組成物に含まれる有機溶剤が揮発して、基材表面において潤滑剤層を構成する乾性潤滑被膜が形成される。
【0019】
具体的に、本実施の形態に係る塗料組成物は、アクリル樹脂をバインダーとして含み、そのバインダー中にポリテトラフルオロエチレンが分散してなり、かつ添加剤成分として有機変性シリコーンオイルが含有されていることを特徴としている。
【0020】
なお、塗料組成物は、バインダー樹脂、固体潤滑剤等の固形成分(有効成分)が、揮発成分である有機溶剤に溶解及び分散して構成されており、上述したように、塗料組成物を部材表面に塗布して有機溶剤が揮発除去することで、乾性潤滑被膜を形成する。したがって、塗料組成物を構成する固形分の組成は、形成される乾性潤滑被膜の組成に対応する。
【0021】
<1-1.塗料組成物の組成>
[バインダー樹脂]
本実施の形態に係る塗料組成物は、バインダーとしてアクリル樹脂を含有する。
【0022】
アクリル樹脂は、特に限定されないが、当該塗料組成物を塗布する部材の適用範囲や部材の種類の適用性を広くする観点から、ラッカー型のアクリル樹脂であることが好ましい。ラッカー型のアクリル樹脂を用いることにより、揮発成分である有機溶媒が蒸発除去されることで容易に乾性潤滑被膜を形成させることが可能となるため、例えば加熱硬化型のバインダー樹脂等よりも部材の選択性が広くなる。
【0023】
なお、バインダー樹脂としては、その効果を損なわない範囲において、アクリル樹脂に加えて他の樹脂を含有させることができる。
【0024】
[固体潤滑剤]
本実施の形態に係る塗料組成物は、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含有する。PTFEを含有することにより、形成される乾性潤滑被膜の摩擦係数を小さくすることができ、摺動性に優れたものとなる。
【0025】
ポリテトラフルオロエチレンの含有量は、特に限定されないが、全固形分に対して20質量%~80質量%の範囲であることが好ましく、32質量%~64質量%の範囲であることがより好ましい。
【0026】
また、固体潤滑剤として、ポリテトラフルオロエチレンのほか、二硫化モリブデン(MoS)、グラファイト、二硫化タングステン(WS)、窒化ホウ素(BN)、グラフェン等を併用してもよい。
【0027】
[バインダー樹脂に対するPTFEの含有比率(P/B)]
本実施の形態に係る塗料組成物においては、上述したバインダー樹脂(B)に対するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(P)の含有比率(P/B)が1.0を超えて2.0未満である。P/Bがこのような特定の範囲であることにより、乾性潤滑被膜に良好な低摩擦性を付与する。また、後述する添加剤成分である有機変性シリコーンオイルを特定の含有量で含有させるとともに、P/Bを上述した範囲とすることで、形成される乾性潤滑被膜の表面粗さを低下させてシール性を向上させることができる。
【0028】
P/Bが1.0以下であると、相対的にPTFEの含有量が少なくなり、摩擦係数が大きくなってしまう。一方で、P/Bが2.0以上であると、乾性潤滑被膜の表面粗さが大きくなってシール性が低下する。
【0029】
なお、P/Bは、1.2以上1.8以下であることが好ましく、1.4以上1.7以下であることがより好ましい。
【0030】
[添加剤]
(シリコーンオイル)
本実施の形態に係る塗料組成物では、添加剤として、有機変性シリコーンオイルを含有することを特徴としている。このように、塗料組成物において、有機変性シリコーンオイルを全固形分に対して特定の割合で含まれることで、形成される乾性潤滑被膜の潤滑性を向上させるとともに、その被膜の表面粗さを低下させることができシール性が向上する。
【0031】
シリコーンオイルは、上述したように有機変性されたシリコーンオイルである。ストレートシリコーンオイルでは、バインダーのアクリル樹脂と相溶せずに、被膜形成時にシリコーンオイルが析出して良好な被膜が形成されない可能性がある。
【0032】
有機変性シリコーンオイルとしては、特に限定されないが、例えばストレートシリコーンオイルであるジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を水素原子、フェニル基、炭素数2以上のアルキル基、水酸基、アルケニル基、ハロゲン化アルキル基、フェニルアルキル基、アミノ基含有基、エポキシ基含有基、カルボキシル基含有基、(メタ)アクリル基含有基、メルカプト基含有基、カルビノール基含有基、ポリエーテル基等で置換した有機変性シリコーンオイルが挙げられる。その中でも、バインダーのアクリル樹脂との相溶性の観点から、ポリエーテル変性シリコーンオイルを用いることが特に好ましい。
【0033】
本実施の形態に係る塗料組成物においては、有機変性シリコーンオイルを、全固形分に対して4.5質量%~35質量%の割合で含有する。有機変性シリコーンオイルの含有量が全固形分に対して4.5質量%以上であることにより、形成される乾性潤滑被膜の表面粗さを低下させシール性を向上させることができる。また、その乾性潤滑被膜の低摩擦性も向上する。なお、有機変性シリコーンオイルの含有量が多すぎると、良好な被膜が形成されないことがある。
【0034】
また、有機変性シリコーンオイルの含有量は、全固形分に対して8質量%~30質量%の割合で含有することが好ましく、10質量%~25質量%の割合で含有することがより好ましい。有機変性シリコーンオイルの含有量が好ましくはこのような範囲であることで、シール性がより向上するとともに、低摩擦性もより一層に向上する。
【0035】
なお、形成される乾性潤滑被膜中の有機変性シリコーンオイルの含有割合も、同様にして、4.5質量%~35質量%の範囲となる。
【0036】
[有機溶剤]
上述したように、塗料組成物は、上述したバインダー樹脂と、固体潤滑剤と、その他添加剤を含む固形成分を、有機溶剤に溶解して構成される。なお、当該塗料組成物を、被塗物(部材)の表面に塗布して乾燥や焼成等の処理を施すと、有機溶剤が揮発して、固形成分からなる乾性潤滑被膜が形成される。
【0037】
有機溶剤としては、特に限定されず、使用するバインダー樹脂(アクリル樹脂)に対する溶解性、乾燥性等を考慮して選定することが好ましい。具体的には、例えば、酢酸エチル、酢酸nブチル、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン等の有機溶剤が挙げられる。有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0038】
<1-2.塗料組成物の製造方法>
本実施の形態に係る塗料組成物については、特に限定されず、従来公知の方法により製造することができる。
【0039】
具体的には、固形成分であるバインダー樹脂(アクリル樹脂)と、固体潤滑剤であるPTFEと、添加剤成分である有機変性シリコーンオイルと、揮発成分である有機溶剤とを、所定の割合となるように配合させ混練することによって製造することができる。このとき、有機溶剤により均一溶解させたバインダー樹脂中に、PTFEが均一に分散した状態とすることが重要となる。
【0040】
例えば、まず、所定の配合量となるように各成分を秤量する。次に、撹拌容器内に有機溶剤を投入し、その後、バインダー樹脂、固体潤滑剤(PTFE)、及び有機変性シリコーンオイルを投入して、これらの成分が均一に溶解するまで、ディゾルバー型撹拌機等の回転型撹拌機により撹拌する。その後、サンドミル型、三本ロール型等の分散機を用いて、バインダー樹脂中にPTFEを均一に分散させる分散処理を施す。なお、分散後に有機溶剤を添加することで希釈して塗料組成物としてもよい。
【0041】
≪2.乾性潤滑被膜≫
上述したように、本実施の形態に係る塗料組成物は、乾性潤滑被膜を形成するための塗料組成物であり、アクリル樹脂をバインダーとして含み、そのバインダー中にポリテトラフルオロエチレンが分散してなり、かつ添加剤成分として有機変性シリコーンオイルが含有されていることを特徴としている。また、有機変性シリコーンオイルの含有量が、全固形分に対して4.5質量%~35質量%である。また、バインダーに対するポリテトラフルオロエチレンの含有比率(P/B)が1.0を超えて2.0未満である。
【0042】
このような特徴的な組成を有する塗料組成物によれば、部材の表面に塗布して有機溶剤を揮発させることで、良好な低摩擦性を維持しつつ、シール性が向上した乾性潤滑被膜を形成させることができる。また、その乾性潤滑被膜では、耐張り付き性にも優れており、例えばパッキン等の産業機械部品の表面に好適に用いることができる。
【0043】
具体的に、上述した塗料組成物により形成される乾性潤滑被膜は、アクリル樹脂を含むバインダーと、ポリテトラフルオロエチレンと、有機変性シリコーンオイルと、を含有し、有機変性シリコーンオイルを1質量%~30質量%の割合で含み、バインダーに対する前記ポリテトラフルオロエチレンの含有比率(P/B)が1.0を超えて2.0未満である、ことを特徴とする。
【実施例
【0044】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
≪実施例、比較例≫
乾性潤滑被膜形成用の塗料組成物を作製し、得られた塗料組成物を被塗物に塗布して硬化させることで乾性潤滑被膜を形成し、その乾性潤滑被膜について下記のとおりの試験を行って特性を評価した。
【0046】
[乾性潤滑被膜形成用塗料組成物の作製]
実施例1~5、比較例1~5において、それぞれ、下記表1に示す質量配合比となるように秤量して混合した。また、これらの有効成分が溶解する有機溶剤(酢酸nブチル)を添加し、ディスパーマットを用いて混錬して塗料組成物を作製した。さらに、塗料組成物中の固体潤滑剤を均一に分散させるために、サンドミルを用いて分散処理を施した。なお、各試験例の塗料組成物には、分散剤を添加剤として含有させた。
【0047】
[乾性潤滑被膜の形成(テストピースの作製)]
次に、金属板(SPCC-SB,サイズ100mm×50mm×1mm)を被塗物として用い、その表面に、作製した塗料組成物をエアースプレーにより均一に塗装した。続いて、塗膜を形成した試験片を温度25℃、時間60分の条件で乾燥して、乾性潤滑被膜を形成させた。乾燥後の乾性潤滑被膜の膜厚は10μmであった。
【0048】
[評価結果]
(被膜形成の評価)
エアースプレーを用いて乾性潤滑被膜を塗布形成した際において、ハジキ等の塗料欠陥の有無を確認した。
【0049】
その結果、塗料組成物に含有させた添加剤であるシリコーンオイルの含有量(被膜中のシリコーンオイル含有量)が少ないほど被膜欠陥は少ない結果となった。
【0050】
また、ストレートシリコーンオイルを用いた比較例6では、オイルが析出してしまい被膜が形成されなかった。そのため、比較例6ではその他の評価は実施していない。
【0051】
(表面粗さの評価)
接触型表面粗さ計(テーラーホブソン社製)を使用して、実施例1~5、比較例1~5にて形成された乾性潤滑被膜の表面粗さ(Ra)を測定した。
【0052】
その結果、塗料組成物に含有させた添加剤であるシリコーンオイルの含有量(被膜中のシリコーンオイル含有量)が多いほど表面粗さが小さいことが確認された。また、塗料組成物中のアルカリ樹脂の含有量(被膜中のアクリル樹脂含有量)が多いほど表面粗さが小さい結果となることが確認された。このように表面粗さが小さいことは、乾性潤滑被膜を形成した部材のシール性が良好であることを意味する。
【0053】
(潤滑性の評価)
実施例1~5、比較例1~5にて形成された乾性潤滑被膜の動摩擦係数を、下記のようにして測定した。
測定機器:トライボギア(新東科学社製)
測定温度:25℃
荷重 :1000g
相手材 :10mmφ SUJ-1 Ball
【0054】
その結果、塗料組成物に含有させた添加剤であるシリコーンオイルの含有量(被膜中のシリコーンオイル含有量)が多いほど摩擦係数が小さいことが確認された。また、塗料組成物に含有させたポリテトラフルオロエチレンの含有量(被膜中のポリテトラフルオロエチレン含有量)が多いほど摩擦係数が小さい結果となることが確認された。
【0055】
(耐張り付き性の評価)
実施例1~5、比較例1~5にて形成された乾性潤滑被膜の耐張り付き性を、下記のようにして測定した。
手法:治具を両面テープにて被膜に張り付け、プッシュプルゲージを用いて治具が剥がれる力を計測。
張り付き面積:78.5mm
両面テープ:ニチバンナイスタック(普通)
【0056】
その結果、塗料組成物に含有させた添加剤であるシリコーンオイルの含有量(被膜中のシリコーンオイル含有量)が多いほど引き剥がせられる力が小さかった。つまり、被膜中のシリコーンオイル含有量が多いほど耐張り付き性が良好であることが確認された。
【0057】
【表1】
【0058】
以上のように、添加剤成分として有機変性シリコーンオイルを用い、そのシリコーンオイルを特定の配合量で配合させることで、良好な低摩擦性を維持しつつシール性が向上した乾性潤滑被膜を形成できることがわかった。

【要約】
【課題】良好な低摩擦性を維持しつつ、シール性が向上した乾性潤滑被膜を形成させることができる塗料組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は、乾性潤滑被膜を形成するための塗料組成物であって、アクリル樹脂をバインダーとして含み、バインダー中にポリテトラフルオロエチレンが分散してなり、かつ添加剤成分として有機変性シリコーンオイルを含み、有機変性シリコーンオイルの含有量が、全固形分に対して4.5質量%~35質量%であり、バインダーに対する前記ポリテトラフルオロエチレンの含有比率(P/B)が1.0を超えて2.0未満である。
【選択図】なし