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  • 特許-抗菌剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】抗菌剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4709 20060101AFI20230912BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20230912BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230912BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
A61K31/4709 ZMD
A61P17/10
A61P31/00
A61P43/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017088146
(22)【出願日】2017-04-27
(65)【公開番号】P2017200911
(43)【公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-02-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2016089964
(32)【優先日】2016-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113908
【氏名又は名称】マルホ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508319602
【氏名又は名称】学校法人京都薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金山 翔治
(72)【発明者】
【氏名】池田 文昭
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直正
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】中西 聡
【審判官】吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/015453(WO,A1)
【文献】国際公開第99/51588(WO,A1)
【文献】臨床医薬,2015年,Vol.31,p.155-171
【文献】JOURNAL OF MEDICAL MICROBIOLOGY,2016年8月,Vol.65,p.745-750
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/CA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-シクロプロピル-8-メチル-7-[5-メチル-6-(メチルアミノ)-3-ピリジル]-4-オキソ-1,4-ジヒドロ-3-キノリンカルボン酸及び/又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物であって
プロピオニバクテリウム・アクネスに対してPAE(Post antibiotic effect)を発揮すること、及び、プロピオニバクテリウム・アクネスと接触させた後、除去されることを特徴とする、医薬組成物
【請求項2】
化膿性炎症を伴うざ瘡に塗布された後、除去されることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
化膿性炎症を伴うざ瘡が、尋常性ざ瘡、新生児ざ瘡又は集簇性ざ瘡である、請求項に記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-シクロプロピル-8-メチル-7-[5-メチル-6-(メチルアミノ)-3-ピリジル]-4-オキソ-1,4-ジヒドロ-3-キノリンカルボン酸(以下、「化合物A」という)及び/又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、プロピオニバクテリウム属の細菌に対して増殖抑制作用を有することを特徴とする医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロピオニバクテリウム属に属するプロピオニバクテリウム・アクネスは、尋常性ざ瘡等の化膿性炎症を伴うざ瘡の原因菌であり、毛包脂腺管内で増殖することにより疾患が発症する。
従来、化膿性炎症を伴うざ瘡の主な治療法としては、軽度から中等度ではナジフロキサシン等の外用抗菌剤、中等度から重度ではミノサイクリン、ロキシスロマイシン等の経口抗菌剤が繁用されている。
外用抗菌剤に関して、新たな医薬品として、化合物Aを有効成分として含有する製剤の開発も行われている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO99/51588
【文献】WO2007/015453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、主として、化合物Aを含有する医薬組成物であって、プロピオニバクテリウム属の細菌に対して増殖抑制作用を有することを特徴とする医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、化合物Aを有効成分として用いることにより、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(1)化合物A及び/又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、プロピオニバクテリウム属の細菌に対して増殖抑制作用を有することを特徴とする医薬組成物(以下、「本発明組成物」という)。
(2)プロピオニバクテリウム属の細菌が、キノロン系抗生物質に対して感受性を有する菌株である、上記1に記載の本発明組成物。
(3)プロピオニバクテリウム属の細菌が、プロピオニバクテリウム・アクネスである、上記1又は2に記載の本発明組成物。
(4)プロピオニバクテリウム属の細菌への感染により生じる疾患の治療及び/又は予防に用いることを特徴とする、上記1~3のいずれかに記載の本発明組成物。
(5)プロピオニバクテリウム属の細菌への感染により生じる疾患が、プロピオニバクテリウム・アクネスに感染することにより生じる、化膿性炎症を伴うざ瘡である、上記4に記載の医薬組成物。
(6)化膿性炎症を伴うざ瘡が、尋常性ざ瘡、新生児ざ瘡又は集簇性ざ瘡である、上記5に記載の本発明組成物。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、プロピオニバクテリウム・アクネスに対する各種抗菌薬のPost antibiotic effect(PAE)の評価結果を表す。 縦軸は生菌数(log10 CFU/mL)を、横軸は試験物質除去後の時間(hr)を表す。○は薬物無処置群を、●は化合物A処置群を、▲はナジフロキサシン処置群を、■はレボフロキサシン処置群を、それぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
化合物Aは、キノロン系合成抗菌化合物に分類され、細菌のDNA複製に関与するDNAジャイレース及びトポイソメラーゼIVを阻害して抗菌作用を発揮する。
また、化合物Aは、グラム陽性菌、グラム陰性菌、嫌気性菌、クラミジア及び薬剤耐性グラム陽性菌に対して幅広い抗菌スペクトルと強い抗菌活性を有している。
【0009】
化合物Aは、WO99/51588に記載の方法により合成することができる。
【0010】
化合物Aの医薬上許容される塩としては、通常知られているアミノ基等の塩基性基又はヒドロキシル基若しくはカルボキシル基等の酸性基における塩を挙げることができる。
【0011】
塩基性基における塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸等の鉱酸との塩;酒石酸、ギ酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸等の有機カルボン酸との塩;並びにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸などのスルホン酸との塩を挙げることができる。
【0012】
酸性基における塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;並びにリジン、アルギニン、オルニチン等のアミノ酸、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン並びにN,N'-ジベンジルエチレンジアミン等の含窒素有機塩基との塩を挙げることができる。
【0013】
本発明組成物は、プロピオニバクテリウム属の細菌に対して増殖抑制作用を有するものであり、プロピオニバクテリウム属の細菌への感染により生じる疾患の治療及び/又は予防に用いることができる。
【0014】
本発明に係る「増殖抑制作用」とは、細菌の増殖を止める作用(静菌作用)を意味する。
静菌作用とは、細菌の増殖を抑制する作用を意味し、細菌を死滅させる殺菌作用とは明確に区別される。
殺菌作用とは、一定濃度以上の薬剤を被験菌に作用させることで、一定時間後に接種時の生菌数を1/1000以下に減少させる作用を意味する。
【0015】
増殖抑制作用は、有効成分がPAEを有するか否かを一つの指標として確認することができる。
【0016】
PAEとは、「ある抗菌薬が細菌に短時間接触した後に持続してみられる増殖抑制効果」と定義される。即ち、PAEを有する抗菌薬は、血中若しくは組織内からその薬剤が消失した後も、細菌の増殖をある一定期間抑制できることを意味する。
【0017】
本発明に係る「プロピオニバクテリウム属の細菌」としては、例えば、プロピオニバクテリウム・アクネス、プロピオニバクテリウム・アビダム、プロピオニバクテリウム・リンフォフィラム、プロピオニバクテリウム・グラヌローサム、プロピオニバクテリウム・ソエニイ又はプロピオニバクテリウム・プロピオニカムを挙げることができる。それらの中で、特にプロピオニバクテリウム・アクネスが好ましい。
【0018】
本発明に係る「プロピオニバクテリウム属の細菌への感染により生じる疾患」としては、例えば、プロピオニバクテリウム・アクネスに感染することにより生じる、化膿性炎症を伴うざ瘡を挙げることができる。
【0019】
化膿性炎症を伴うざ瘡としては、例えば、尋常性ざ瘡、新生児ざ瘡、集簇性ざ瘡を挙げることができる。それらの中で、特に尋常性ざ瘡が好ましい。
【0020】
本発明組成物の剤型は、特に限定されないが、例えば、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、乳剤、粘着テープ剤、ローション剤を挙げることができる。
【0021】
本発明組成物は、当業者に自明な方法により、構成成分を適宜混合し調製することができる。
【0022】
本発明組成物における、化合物A及び/又はその医薬上許容される塩の含有量は、治療効果を発揮する量であれば特に限定されないが、例えば、製剤中に0.01~20重量%の範囲内が適当であり、0.1~5重量%の範囲内が好ましい。
【0023】
本発明組成物の投与量は、患者の年齢、体重及び症状に応じて適宜選択されるが、通常、薬効を発揮し得る量として、外用剤として投与される場合には、1日30~2000mgを経皮投与すればよい。
【実施例
【0024】
以下に、試験例を掲げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例に示される範囲に限定されるものではない。
【0025】
[試験例1] 各種抗菌薬のPAEの評価
1)試験物質
本試験では、以下の抗菌薬を試験物質として用いた。
・化合物A(力価:99.7%)
・ナジフロキサシン(力価:99.9%)
・レボフロキサシン(力価:96.8%)

2)使用菌株
2012年~2013年に尋常性ざ瘡患者より分離したプロピオニバクテリウム・アクネスを用いた。
使用菌株に対する各試験物質の最小発育阻止濃度(Minimum inhibitory concentration:MIC)(μg/mL)は、以下の通りであり、各試験物質に対して感受性を有することを確認した。
なお、MICの測定は、Clinical and Laboratory Standards Instituteの推奨する微量液体希釈法に準じて行った。
・化合物A(0.03)
・ナジフロキサシン(0.125)
・レボフロキサシン(0.5)

3)培地の調製
(1)ヘミン溶液
Heminを1N・水酸化ナトリウム水溶液に0.1g/2mLで溶解し、精製水を加えて全量を20mLとし、オートクレーブ(121℃、15分間)した。
(2)Vitamin K1 stock solution
Vitamin K1(0.984g/mL)をエタノールに0.2mL/20mLで溶解し、vitamin K1 stock solutionとした。
(3)メナジオン溶液
Vitamin K1 stock solutionを滅菌精製水で1mL/9mLに希釈したものをメナジオン溶液とした。
(4)5%LHB添加Brucella broth
Brucella brothを精製水に28g/Lで溶解し、1mLのヘミン溶液及び1mLのメナジオン溶液を加えてオートクレーブ(121℃、15分間)した。適温に冷却後、馬溶血液を50mL加えた。なお、使用する前には、4時間以上、嫌気条件下で予備還元した。
(5)GAM broth
GAMブイヨンを精製水で59g/Lで溶解し、オートクレーブ(121℃、15分間)した。なお、GAM brothは菌液調製に使用する前に、4時間以上、嫌気条件下で予備還元した。

4)試験薬液の調製
各試験物質を適量の0.1N・水酸化ナトリウム水溶液に溶解させた後、滅菌精製水で希釈して、40×MICの濃度の試験薬液の原液を調製した。
その後、フィルター濾過し、5%LHB添加brucella brothで10倍希釈し、試験薬液を調製した。

5)試験菌液の調製
アネロコロンビアウサギ血液寒天培地を用いて2~5日間、35℃、嫌気条件下で前培養した菌株を滅菌生理食塩液2mLに0.5 McFarland(約1.5×10CFU/mL)となるように懸濁した後、1mLをGAM broth 4mLに加え、試験菌液(約3×10CFU/mL)を調製した。その後、3時間、35℃、嫌気条件下で培養した。

6)測定プレートの調製、菌の播種及び培養
試験薬液を15mLチューブに4.50mLずつ分注した。なお、薬物無処置群については、5%LHB添加brucella brothを用いた。
各チューブに試験菌液を500μLずつ添加した(初発菌濃度:約3×10CFU/mL)。
2時間、35℃、嫌気条件下で静置培養した。
菌懸濁液中に存在する試験物質を除去するため、各チューブをよく懸濁し、1.6mLを2mLチューブに分注し、遠心分離した(10000rpm、1分間、室温)。
上清を約1.55mL取り、残余を1.55mLの生理食塩水で再懸濁し、遠心分離した(10000rpm、1分間、室温)。
上清を約1.55mL取り、残余を1.55mLの5%LHB添加brucella brothで再懸濁し、遠心分離した(10000rpm、1分間、室温)。
上清を約1.55mL取り、残余を1.55mLの5%LHB添加brucella brothで再懸濁した。
96ウェルプレートに再懸濁液を200μLずつ添加した。
測定時間(試験物質除去後、0時間、1時間、12時間、15時間、18時間、21時間、24時間)まで35℃、嫌気条件下で静置培養した。

7)生菌数の定量
各ウェルから100μL取り、滅菌生理食塩液900μLと混合し、10倍~10倍の10倍希釈系列を作製した。希釈した菌液25μLをアネロコロンビアウサギ血液寒天培地の半面に滴下し、コンラージ塗抹した。寒天培地は、35℃で3~5日間、嫌気培養後、発育したコロニー数を測定し生菌数を求めた。
生菌数のカウントは、Clinical Microbiology Procedures Handbook 3rd ed.(ASM、2010 update)に準じ、寒天培地でおおよそ300コロニーとなる倍率と、それ以上の希釈倍率のコロニー数をカウントすることにより行った。

8)結果
評価した試験物質の中で、化合物Aのみが、プロピオニバクテリウム・アクネスに対して明らかなPAEを有しており、増殖抑制作用を有することが確認された。
図1