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特許7347924難消化性グルカン配合菓子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】難消化性グルカン配合菓子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 3/42 20060101AFI20230912BHJP
   A23G 4/10 20060101ALI20230912BHJP
   A23L 21/10 20160101ALI20230912BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20230912BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20230912BHJP
【FI】
A23G3/42
A23G4/10
A23L21/10
A23L27/00 Z
A23L27/20 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018200064
(22)【出願日】2018-10-24
(65)【公開番号】P2020065484
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-10-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅村 征一郎
(72)【発明者】
【氏名】黒羽 真以
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-104357(JP,A)
【文献】国際公開第2014/145276(WO,A1)
【文献】特開2015-107090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 3/42
A23G 4/10
A23L 21/10
A23L 27/00
A23L 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DE70~100の澱粉分解物の、活性炭を触媒とする加熱縮合物からなる難消化性グルカンであって、食物繊維含量が35~60質量%であり、かつ、重量平均分子量が700~1250である、難消化性グルカンおよび食物繊維含量が36.2~57.1質量%であるその糖質分解酵素処理物並びに食物繊維含量が50.1~70.4質量%であり、かつ、固形分当たりの単糖含量が15質量%以下であるそれらの分画処理物(但し、分画処理は単糖を除去する分画処理である)並びにそれらの還元処理物のいずれかまたは組合せを配合してなる菓子。
【請求項2】
難消化性グルカンおよびその糖質分解酵素処理物並びにそれらの分画処理物並びにそれらの還元処理物の含有量(固形分換算)が、菓子全体に対して1~70質量%である、請求項1に記載の菓子。
【請求項3】
原材料として甘味成分を含んでなる、請求項1または2に記載の菓子。
【請求項4】
原材料として香料を含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の菓子。
【請求項5】
キャンディ、グミ、チューインガム、キャラメル、ゼリーおよびタブレットからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の菓子。
【請求項6】
キャンディである、請求項1~5のいずれか一項に記載の菓子。
【請求項7】
DE70~100の澱粉分解物の、活性炭を触媒とする加熱縮合物からなる難消化性グルカンであって、食物繊維含量が35~60質量%であり、かつ、重量平均分子量が700~1250である、難消化性グルカンおよび食物繊維含量が36.2~57.1質量%であるその糖質分解酵素処理物並びに食物繊維含量が50.1~70.4質量%であり、かつ、固形分当たりの単糖含量が15質量%以下であるそれらの分画処理物(但し、分画処理は単糖を除去する分画処理である)並びにそれらの還元処理物のいずれかまたは組合せを菓子に配合する工程を含んでなる、菓子の製造方法。
【請求項8】
DE70~100の澱粉分解物の、活性炭を触媒とする加熱縮合物からなる難消化性グルカンであって、食物繊維含量が35~60質量%であり、かつ、重量平均分子量が700~1250である、難消化性グルカンおよび食物繊維含量が36.2~57.1質量%であるその糖質分解酵素処理物並びに食物繊維含量が50.1~70.4質量%であり、かつ、固形分当たりの単糖含量が15質量%以下であるそれらの分画処理物(但し、分画処理は単糖を除去する分画処理である)並びにそれらの還元処理物のいずれかまたは組合せを有効成分として含んでなる、菓子の呈味向上剤。
【請求項9】
前記菓子が、原材料として甘味成分および/または香料を含むものである、請求項8に記載の呈味向上剤。
【請求項10】
前記菓子が、キャンディ、グミ、チューインガム、キャラメル、ゼリーおよびタブレットからなる群から選択される、請求項8または9に記載の呈味向上剤。
【請求項11】
DE70~100の澱粉分解物の、活性炭を触媒とする加熱縮合物からなる難消化性グルカンであって、食物繊維含量が35~60質量%であり、かつ、重量平均分子量が700~1250である、難消化性グルカンおよび食物繊維含量が36.2~57.1質量%であるその糖質分解酵素処理物並びに食物繊維含量が50.1~70.4質量%であり、かつ、固形分当たりの単糖含量が15質量%以下であるそれらの分画処理物(但し、分画処理は単糖を除去する分画処理である)並びにそれらの還元処理物のいずれかまたは組合せを菓子に配合する工程を含んでなる、菓子の呈味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難消化性グルカンが配合された菓子およびその製造方法に関する。本発明はまた、難消化性グルカンを有効成分とする菓子の呈味向上剤および難消化性グルカンを用いた菓子の呈味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
難消化性グルカンは、DE70~100の澱粉分解物を加熱縮合することで得られる糖縮合物であり、水溶性食物繊維として有用な素材である。その製造方法として、活性炭を触媒として糖縮合物を製造する製法が特許文献1に開示されている。
【0003】
難消化性グルカンは、水溶性食物繊維素材であり、種々の生理機能を有していることが知られている。また、特定の食品に添加した場合に、その物性や風味を改良できることが知られている。例えば、特許文献2には、難消化性グルカンを脂肪代替用組成物として利用する技術が記載されている。特許文献3には、難消化性グルカンにより食品のタンパク質凝固を抑制する技術が記載されている。特許文献4には、難消化性グルカンを配合することで弾力、硬さ、歯切れに優れたグミキャンディを製造する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-76044号公報
【文献】特開2015-208297号公報
【文献】特開2016-077228号公報
【文献】特開2017-079670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、呈味が向上した菓子およびその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、菓子の呈味向上剤および呈味向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは今般、DE70~100の澱粉分解物を加熱縮合して得られた特定性状の加熱縮合物からなる難消化性グルカンを菓子に配合することで顕著な呈味向上効果が得られることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる難消化性グルカンであって、食物繊維含量が30~65質量%であり、かつ、重量平均分子量が700~1250である、難消化性グルカン(以下、「本発明の難消化性グルカン」ということがある)およびその糖質分解酵素処理物並びにそれらの分画処理物並びにそれらの還元処理物のいずれかまたは組合せを配合してなる菓子(以下、「本発明の菓子」ということがある)。
[2]難消化性グルカンおよびその糖質分解酵素処理物並びにそれらの分画処理物並びにそれらの還元処理物の含有量(固形分換算)が、菓子全体に対して1~70質量%である、上記[1]に記載の菓子。
[3]原材料として甘味成分を含んでなる、上記[1]または[2]に記載の菓子。
[4]原材料として香料を含んでなる、上記[1]~[3]のいずれかに記載の菓子。
[5]キャンディ、グミ、チューインガム、キャラメル、ゼリーおよびタブレットからなる群から選択される、上記[1]~[4]のいずれかに記載の菓子
[6]キャンディである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の菓子。
[7]DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる難消化性グルカンであって、食物繊維含量が30~65質量%であり、かつ、重量平均分子量が700~1250である、難消化性グルカンおよびその糖質分解酵素処理物並びにそれらの分画処理物並びにそれらの還元処理物のいずれかまたは組合せを菓子に配合する工程を含んでなる、菓子の製造方法。
[8]DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる難消化性グルカンであって、食物繊維含量が30~65質量%であり、かつ、重量平均分子量が700~1250である、難消化性グルカンおよびその糖質分解酵素処理物並びにそれらの分画処理物並びにそれらの還元処理物のいずれかまたは組合せを有効成分として含んでなる、菓子の呈味向上剤。
[9]前記菓子が、原材料として甘味成分および/または香料を含むものである、上記[8]に記載の呈味向上剤。
[10]前記菓子が、キャンディ、グミ、チューインガム、キャラメル、ゼリーおよびタブレットからなる群から選択される、上記[8]または[9]に記載の呈味向上剤。
[11]DE70~100の澱粉分解物の加熱縮合物からなる難消化性グルカンであって、食物繊維含量が30~65質量%であり、かつ、重量平均分子量が700~1250である、難消化性グルカンおよびその糖質分解酵素処理物並びにそれらの分画処理物並びにそれらの還元処理物のいずれかまたは組合せを菓子に配合する工程を含んでなる、菓子の呈味向上方法。
【0008】
本発明の菓子は、特定性状の加熱縮合物からなる難消化性グルカンが配合されてなるものであり、甘さ立ち、香り立ちおよび味のキレの向上が認められるという特徴を有する。すなわち、本発明の菓子は、呈味向上とともに、難消化性グルカンによるカロリー低減効果を期待できる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0009】
本発明において「難消化性グルカン」は、難消化性のグルカン(グルコースポリマー)を意味する。本発明の難消化性グルカンは、DE70~100の澱粉分解物を加熱処理により縮合反応させた加熱縮合物からなるものである。
【0010】
難消化性グルカンの原料となる澱粉分解物としては、DEが70~100である澱粉分解物を使用することができる。澱粉分解物は、例えば、澱粉を酸で加水分解したものでも、酵素で加水分解したものでもよい。澱粉分解物のDEが70を下回ると、原料の分子量が大きくなるため食物繊維含量が30~65質量%となるように加熱縮合反応を行うと、分子量が所定の範囲を超えてしまい、本発明の効果をよりよく発揮させることができない。ここで、「DE(Dextrose Equivalent)」とは、澱粉分解物の分解度合いの指標であり、試料中の還元糖をブドウ糖として固形分に対する百分率で示した値である。澱粉分解物のDEは、例えばレーンエイノン法で測定することができる。難消化性グルカンの原料となる澱粉分解物は、DEが75~100であることが好ましく、80~100であることがより好ましい。
【0011】
本発明に用いられる「DE70~100の澱粉分解物」は、DEが所定の範囲を満たす澱粉分解物であればよく、例えば、マルトオリゴ糖、水飴、粉飴、グルコース等が挙げられる。その性状も特に制限はなく、結晶品(無水ぶどう糖結晶、含水ぶどう糖結晶等)、液状品(液状ぶどう糖、水飴等)、非結晶粉末品(粉飴等)のいずれでも良いが、ハンドリングや製造コストを考慮すると液状品を用いることが好ましい。特に、グルコースの精製工程で生じる副産物である「ハイドロール」と呼ばれるグルコースシラップの使用は、リサイクルや原料コスト削減の観点から極めて有利である。
【0012】
本発明において「加熱縮合」は、澱粉分解物を加熱条件下において縮合させることをいい、加熱縮合方法は当業者に周知である。加熱縮合における加熱条件は、縮合反応により本発明の難消化性グルカンが得られれば特に制限はなく、当業者であれば技術常識に基づいて加熱条件を適宜決定することができる。例えば、加熱温度を高くすれば得られる難消化性グルカンの食物繊維含量は高くなり、分子量も大きくなり、また、加熱時間を長くすれば同様に得られる難消化性グルカンの食物繊維含量は高くなり、分子量も大きくなる。加熱条件としては、例えば、100℃~260℃で1~180分間、より好ましくは、140℃~220℃で1~120分間加熱処理することで本発明の難消化性グルカンを製造することができる。
【0013】
加熱縮合処理に用いる加熱機器としては、例えば、棚式熱風乾燥機、薄膜式蒸発器、フラッシュエバポレーター、減圧乾燥機、熱風乾燥機、スチームジャケットスクリューコンベヤー、ドラムドライヤー、エクストルーダー、ウォームシャフト反応機、ニーダーなどが挙げられる。また、加熱縮合処理は常圧条件下で行ってもよく、減圧条件下で反応を行っても良い。減圧条件下で行った場合、反応生成物の着色度が低下する点で有利である。
【0014】
本発明において加熱縮合処理は、無触媒条件下で行ってもよいが、縮合反応の反応効率の点から触媒存在下で行うことが好ましい。前記触媒としては糖縮合反応を触媒するものであれば特に制限はないが、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、酢酸等の有機酸、珪藻土、活性白土、酸性白土、ベントナイト、カオリナイト、タルク等の鉱物性物質および水蒸気炭、塩化亜鉛炭、スルホン化活性炭、酸化活性炭等の活性炭を用いることができる。得られる水溶性食物繊維素材の着色や安全性、更には味・臭いを考慮すると、触媒として活性炭を用いることが好ましい。前記各触媒は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0015】
本発明の難消化性グルカンは、食物繊維含量が30~65質量%であり、かつ、重量平均分子量が700~1250であることを特徴とする。特徴的な味質と呈味向上効果をよりよく発揮させる観点から、食物繊維含量は35~60質量%とすることが好ましく、重量平均分子量は750~1200とすることが好ましい。なお、食物繊維含量は、平成28年11月17日消食表第706号(食品表示基準について)に記載されている高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)により測定することができる。また、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)法により測定することができる。
【0016】
本発明の難消化性グルカンは糖質分解酵素処理されたものであってもよい。ここで、難消化性グルカンの「糖質分解酵素処理物」とは、難消化性グルカンにα-アミラーゼやグルコアミラーゼなどの糖質加水分解酵素を作用させたものをいう。後記実施例の通り、本発明の難消化性グルカンを糖質分解酵素で酵素処理しても苦味には影響を及ぼさない。また、酵素処理によりグルコース等の単糖が生じるため、苦味に加え適度な甘味が難消化性グルカンに付与されることでより深みのある味質となり、呈味向上効果をより高めることができる。
【0017】
本発明において「糖質分解酵素」は、糖質に作用し加水分解反応を触媒する酵素を意味し、例えば、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ(アミログルコシダーゼ)、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、α-グルコシダーゼ、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、β-グルコシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-マンノシダーゼ、β-フルクトシダーゼ、セロビアーゼ、ゲンチオビアーゼが挙げられる。糖質分解酵素は、単独で用いてもよく、複数の酵素を組み合わせて用いてもよい。難消化性グルカンへの分解作用からα-アミラーゼおよびグルコアミラーゼが好ましく、両酵素のいずれかを単独で作用させてもよいが、α-アミラーゼおよびグルコアミラーゼを共に作用させるのが特に好ましい。
【0018】
本発明において糖質分解酵素処理の条件は、酵素処理により難消化性グルカンの易消化性部分が消化される条件であれば特に制限はなく、当業者であれば酵素処理条件を適宜決定することができるが、酵素処理により固形分当たりグルコース含量が1質量%以上、より好ましくは2質量%以上増加するように処理するのが好ましく、例えば、20~120℃で30分間~48時間、より好ましくは、50~100℃で30分間~48時間酵素処理することができる。
【0019】
本発明において「分画処理物」は、難消化性グルカンおよび/またはその糖質分解酵素処理物を、膜分離やゲルろ過クロマトグラフィーなどの分画手段で分画処理し、特定重合度の糖質を除去したものをいう。後記実施例の通り、本発明の難消化性グルカンを分画処理しても苦味には影響を及ぼさない。また、分画処理によりグルコース等の甘味の強い単糖成分を除去できるため、後を引く苦味をより強めることができ、呈味向上効果をより高めることができる。加えて、食物繊維含量を高めることで食物繊維としての価値や食物繊維由来の生理機能を高めることができる。
【0020】
本発明において「分画処理物」は、難消化性グルカンおよび/またはその糖質分解酵素処理物を、単糖含量が固形分当たり15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下となるように分画処理して得ることができる。加熱縮合反応により得られた難消化性グルカンをそのまま分画処理してもよく、あるいは、前記難消化性グルカンを酵素処理した後に分画処理してもよい。
【0021】
本発明において「分画処理」は、固形分当たりの単糖含量を15質量%以下にすることができる処理であれば特に制限はなく、その分離方法は当業者に周知の手段を利用することができる。例えば、膜分離、ゲルろ過クロマトグラフィー、カーボン-セライトカラムクロマトグラフィー、強酸性陽イオン交換カラムクロマトグラフィー、エタノール沈殿、溶媒沈殿など当業者に周知の糖質の精製手段を分画処理に使用することができる。
【0022】
本発明においてはまた、本発明の難消化性グルカンおよびその糖質分解酵素処理物並びにそれらの分画処理物(以下、「本発明の難消化性グルカン等」ということがある)を、さらに還元処理に付して還元処理物としてもよい。すなわち、本発明の難消化性グルカン等には、上記還元処理物も含まれるものとする。本発明において「還元処理」は、糖の還元末端のグルコシル基のアルデヒド基を水酸基に還元する処理をいう。還元処理方法は当業者に周知であり、例えば、ヒドリド還元剤を用いる方法、プロトン性溶媒中の金属を用いる方法、電解還元方法、接触水素化反応方法が挙げられる。本発明においては、少量の糖アルコールを調製する場合にはヒドリド還元剤を用いる方法が簡便で、かつ、特殊な装置を必要とせず好都合であり、一方で、工業的に大規模に実施する場合には、経済性に優れ、副生成物も少ないという点から、接触水素化反応を用いる方法が好ましい。「接触水素化反応」とは、触媒の存在下、不飽和有機化合物の二重結合部に水素を添加する反応であり、一般に水添反応ともいわれている。還元処理を実施することにより、本発明の難消化性グルカン等の着色を低減したり、酸・アルカリに対する安定性を高めたり、加熱による褐変反応やアミノ酸、タンパク質とのメイラード反応を抑制したりすることができる。
【0023】
本発明の難消化性グルカン等は、必要に応じて活性炭により脱色したものや、イオン交換樹脂によりイオン性成分を除去したものを濃縮し、濃縮液とすることができる。保存性やその後の用途においては、脱色、イオン除去したものを微生物の繁殖が問題とならない程度の水分活性となるまで濃縮することが好適である。あるいは、用途によっては、利用しやすいように乾燥させて、粉末とすることもできる。乾燥は、通常、凍結乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥などの公知の方法により実施できる。乾燥物は、必要により粉砕することが望ましい。すなわち、本発明の難消化性グルカンの態様は、その用途に応じて好適な性状を選択することができる。
【0024】
本発明の難消化性グルカン等の製造は、加熱縮合物の食物繊維含量や重量平均分子量が所定の範囲内になるまでDE70~100の澱粉分解物を加熱縮合すること以外は、常法に従って行うことができる。加熱縮合反応の条件や手順は前記に従って実施することができる。
【0025】
本発明の難消化性グルカン等は、口に入れた直後から苦味が感じられ、また苦味の持続性があるため口の中で苦味が長く残る特徴的な味を有しており、また複雑で厚みが深い味を有している。すなわち、本発明の難消化性グルカン等は、苦味と深みをもった特徴的な風味を有しており、当該風味に起因し、菓子に特に良好な風味を付与できるものと考えられる。さらに、本発明の難消化性グルカン等は、既に報告のある難消化性グルカンや、難消化性デキストリンおよびポリデキストロースといった既存の水溶性食物繊維(糖縮合物)と比べ平均分子量が小さいという特徴も有しており、当該特徴に起因し香りがマスキングされ難いため、菓子の香りの立ちを向上できるものと考えられる。また、本発明の難消化性グルカン等は、低分子画分が比較的多いため菓子の甘さの立ちを向上させ、さらには当該物質が有する苦味により味のキレを向上させると考えられる。後述の実施例においては、キャンディにおける効果のみ確認しているが、本発明の難消化性グルカン等の上記特徴を考慮すれば、キャンディ以外の菓子においても同様の効果が発揮されることは明らかである。また、本発明の難消化性グルカン等に関して、後述の実施例において菓子へ配合し、その効果を確認したのは食物繊維含量が52.3質量%、重量平均分子量が1035の難消化性グルカンであるが、食物繊維含量が30~65質量%であり、かつ、重量平均分子量が700~1250である難消化性グルカンおよびその糖質分解酵素処理物並びにそれらの分画処理物が製造できること、そして本発明の難消化性グルカン等が深みのある苦味を有していることは後述の実施例において示される通りである。従って、特定性状の加熱縮合物からなる難消化性グルカン等であれば菓子の呈味を向上させることができることは明らかである。
【0026】
すなわち、本発明の難消化性グルカン等は、呈味向上を目的として菓子に配合することができる。本発明によれば、本発明の難消化性グルカンおよびその糖質分解酵素処理物並びにそれらの分画処理物並びにそれらの還元処理物のいずれかまたは組合せ、あるいは、本発明の呈味向上剤を配合してなる菓子が提供される。本発明によればまた、本発明の難消化性グルカンおよびその糖質分解酵素処理物並びにそれらの分画処理物並びにそれらの還元処理物のいずれかまたは組合せ、あるいは、本発明の呈味向上剤を原材料に添加することを含んでなる、呈味が向上した菓子の製造方法が提供される。呈味が向上した菓子の製造は、後記実施例に示される通り、本発明の難消化性グルカン等や本発明の呈味向上剤を原材料に添加すること以外は、常法に従って行うことができる。
【0027】
本発明の難消化性グルカン等を適用できる菓子としては、例えば、キャンディ、グミ、チューインガム、キャラメル、ゼリーおよびタブレットが挙げられる。ここで、「キャンディ」は、砂糖や水あめ等の甘味成分を主原料とする飴菓子を意味し、ハードキャンディおよびソフトキャンディを含む。
【0028】
本発明の菓子における難消化性グルカン等の含有量(固形分換算)は、菓子全体に対して1~70質量%(好ましくは5~40質量%、より好ましくは20~40質量%)とすることができる。
【0029】
本発明の菓子に配合することができる原材料としては、本発明の難消化性グルカン等以外に、菓子の原材料として使用されている成分および素材を配合することができ、例えば、甘味成分(砂糖、水あめ、糖アルコール、高甘味度甘味料、ステビア、甘草等)、香料(果実フレーバー、ハーブフレーバー、バニラフレーバー、コーヒーフレーバー、ミルクフレーバー、スパイスフレーバー等)、酸味料、色素、油脂、保存料、調味料、乳化剤、増粘剤、安定剤、膨張剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本発明の菓子における甘味成分の含有量(固形分換算)は、菓子全体に対して0.5~99.5質量%(好ましくは80~97.5質量%、より好ましくは80~90質量%)とすることができる。
【0031】
本発明の菓子における香料の含有量(固形分換算)は、菓子全体に対して0.1~4.0質量%(好ましくは0.3~2.5質量%、より好ましくは0.5~2.0質量%)とすることができる。本発明の菓子がキャンディである場合、香料の含有量(固形分換算)は、キャンディ全体に対して0.1~2.0質量%(好ましくは0.3~1.5質量%、より好ましくは0.5~1.0質量%)とすることができる。
【0032】
本発明の別の面によれば、本発明の難消化性グルカン等を有効成分とする菓子の呈味向上剤と、本発明の難消化性グルカン等、あるいは、本発明の呈味向上剤を原材料に添加する工程を含んでなる菓子の呈味向上方法が提供される。本発明の呈味向上方法は、本発明の難消化性グルカン等や本発明の呈味向上剤を原材料に添加すること以外は、常法に従って行うことができ、本発明の菓子の製造方法に従って実施することができる。
【0033】
ここで「呈味向上」とは、菓子により提供される甘味、塩味、酸味、苦味およびうま味の基本味と、辛味、渋味、刺激味、味の厚み、後味のキレ、コク、香り立ちなどの基本味の周辺の感覚のうち1種または2種以上を向上することを意味し、特に、甘味、後味のキレ、香り立ちのうち1種または2種以上を向上することを意味する。また、「向上」とは前の状態よりもすぐれた状態になることを意味し、通常の状態や良好な状態をよりよくすることに加え、好ましくない状態や悪化した状態を少なくとも回復させることを含む意味で用いられる。
【0034】
本発明の難消化性グルカン等は、水溶性食物繊維成分を有するものである。ここで、食物繊維の中でも水溶性食物繊維は、便通改善効果、食後血糖上昇抑制効果、食後中性脂肪の上昇抑制効果等の生理機能を有することが報告されており、特定保健用食品を含むさまざまな機能性食品が販売されている。また、水溶性食物繊維は低カロリーであることから、カロリーの低減を目的にした低カロリー食品に使用すること可能である。さらに、低カロリー食品においてはボディ感の付与が必要となることが多いが、水溶性食物繊維は高粘性である為、低カロリー食品にボディ感を付与する効果も有する。このため、既存の水溶性食物繊維と同様に、本発明の難消化性グルカン等を低カロリー素材として一部原料の代替素材等として菓子に配合することができる。また、増粘効果や、脂肪代替効果、乳化効果等の物性改善効果を期待して菓子に配合してもよい。さらに、本発明の菓子の摂取により整腸作用、血糖上昇抑制作用、脂質代謝改善作用などの水溶性食物繊維が有する生理機能の発揮も期待される。
【実施例
【0035】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、本明細書において特に記載の無い場合は「%」は質量%を意味し、また「固形分」当たりの割合や「固形分」の含有割合(濃度)に言及した場合には、固形成分の質量に基づいて定められた割合を意味するものとする。
【0036】
下記例で示される各種測定方法および分析方法は以下の通り行った。
DE(還元糖量)の測定
DEは、レーンエイノン法(澱粉糖関連工業分析法(株式会社食品化学新聞社)(平成3年11月1日発行)5~6頁)に従って測定した。
【0037】
食物繊維含量の測定
平成28年11月17日消食表第706号(食品表示基準について)に記載されている高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)により測定する。具体的には以下のように行った。
【0038】
まず、サンプル1gを精密に測り、0.08mol/Lリン酸緩衝液50mLを加え、pH6.0±0.5であることを確認した。これに熱安定性α-アミラーゼ(Sigma社:EC3.2.1.1 Bacillus licheniformis由来)溶液0.1mLを加え、沸騰水中に入れ、5分ごとに撹拌しながら30分間放置した。冷却後、水酸化ナトリウム溶液(1.1→100)を加えてpHを7.5±0.1に調整した。プロテアーゼ(Sigma社:EC.3.4.21.62 Bacillus licheniformis由来)溶液0.1mLを加えて、60±2℃の水浴中で振とうしながら30分間反応させた。冷却後、0.325mol/L塩酸を加え、pHを4.3±0.3に調整した。アミログルコシダーゼ(Sigma社:EC3.2.13 Aspergillus niger由来)溶液0.1mLを加え、60±2℃の水浴中で振とうしながら30分間反応させた。以上の酵素処理終了後、直ちに沸騰水浴中で10分間加熱した後、冷却し、グリセリン(10→100)を内部標準物質として5mL加え、水で100mLとし酵素処理液とした。次に、酵素処理液50mLをイオン交換樹脂(OH型:H型=1:1)50mLが充填されたカラム(ガラス管20mm×300mm)に通液速度50mL/時で通液し、さらに水を通して流出液の全量を200mLとした。この溶液をロータリー・エバポレーターで濃縮し、全量を水で20mLとした。孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、検液とした。
【0039】
次に、検液20μLにつき、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を行い、検液のグリセリンおよび食物繊維画分のピーク面積値を測定した。
【0040】
HPLCの分析条件は以下の通りであった。
検出器:示差屈折計
カラム:ULTRON PS-80N(φ8.0×300mm、島津ジーエルシー社製)を二本連結
カラム温度:80℃
移動相:純水
流速:0.5mL/分
【0041】
食物繊維成分含量は以下の式から算出した。
食物繊維成分含量(%)=[食物繊維成分のピーク面積/グリセリンのピーク面積]×f1×[内部標準グリセリン質量(mg)/秤取資料質量(mg)]×100
(上記式中、f1はグリセリンとブドウ糖のピーク面積の感度比(0.82)である。)
【0042】
重量平均分子量の測定
各試料を固形分10%(w/v)となるよう純水と混合し、1%(w/v)活性炭を添加し、煮沸後、0.45μmメンブレンフィルターろ過した。ろ液をイオン交換樹脂(製品名:MB4、オルガノ社製)処理後、0.45μmメンブレンフィルターろ過した。ろ液を終濃度50mM 硝酸ナトリウムとなるよう調整し、分子量分析を行なった。較正曲線のスタンダードは、グルコース(和光純薬工業社製)、マルトトリオース(和光純薬工業社製)、プルランスタンダードP-5およびP-10(昭和電工社製)を用いた。
【0043】
分析条件は以下の通りであった。
カラム:Shodex OHpak SB- 803 HQ+KB-802.5HQ(φ8.0×300mm、昭和電工社製)
温度:70℃
溶媒:50mM硝酸ナトリウム、0.3mL/分
解析ソフト:Agilent OpenLAB CDS Ezchrom Edition (version.A.04.07.,Agilent Technology)
打込量:Brix5×10μL
【0044】
糖組成の測定
各サンプルを5%(w/v)となるよう純水で溶解し、イオン交換樹脂(製品名:MB4、オルガノ社製)処理後、0.45μmメンブレンフィルターでろ過して分析を行なった。
カラム:ULTRON PS-80N.L(信和化工社製)(二本連結)
カラム温度:50℃
移動相:超純水
流速:0.5mL
検出器:示差屈折率検出器
サンプル注入量:5%溶液10μL
【0045】
参考例1:苦味を有する難消化性グルカンの検討
(1)難消化性グルカンの検討
固形分濃度70%の澱粉分解物(DE87)1000gに活性炭(フタムラ化学社製)21gを添加混合後、加熱反応機(テクノベル社製)に投入し、所定の温度で約5分間加熱して糖縮合物(難消化性グルカン)を得た。反応後の難消化性グルカンは室温まで冷却し、濾過処理で活性炭を完全に除去し、活性炭による脱色濾過およびイオン交換樹脂による脱塩を行った後、エバポレーターで濃縮した。
【0046】
得られた各サンプルについて食物繊維含量と重量平均分子量および苦みに関する官能評価を実施した。苦みの官能評価は以下のように行った。すなわち、官能評価は、パネラー3人がBrix30に調整したサンプル水溶液を飲用し、明らかな苦みを有する場合をA、苦みを有さない場合をBとするアンケート調査とした。苦みの感受性(閾値)は個人差がある為、過半数のパネラーが苦み有りと判定した場合にAと判定した。
【0047】
結果は表1に示される通りであった。
【表1】
【0048】
表1から明らかなように、DE87の澱粉分解物を加熱縮合反応させることで得られた糖縮合物である難消化性グルカンのうち、食物繊維含量37.2~56.9質量%および重量平均分子量798~1153のサンプルが特有の苦味を有することが判明した。また、低分子量ほど甘みを有する傾向であった。
【0049】
(2)難消化性グルカンの酵素処理物の検討
上記試験で得られた各サンプルを固形分20%水溶液とし、サンプルの固形分1gあたりの酵素添加量が各々1.0Uとなるようにα-アミラーゼ(クライスターゼT5N、天野エンザイム社製)およびグルコアミラーゼ(デキストロザイムDXJ、ノボザイム社製)を添加し、60℃で48時間反応させた。なお、α-アミラーゼの活性度は旧JIS K7001-1972に定められている細菌α-アミラーゼ活性測定法、グルコアミラーゼの活性度はJIS K7001-1990に定められているグルコアミラーゼ活性測定法による。煮沸により酵素を失活させた後、濾過処理で活性炭を完全に除去して難消化性グルカンの酵素処理物を得た。得られた難消化性グルカン酵素処理物を活性炭による脱色濾過およびイオン交換樹脂による脱塩を行った後、エバポレーターで濃縮した。
【0050】
得られた各サンプルについて食物繊維含量と重量平均分子量および苦みに関する官能評価を実施した。結果は表2に示される通りであった。
【表2】
【0051】
表2から明らかなように、DE87の澱粉分解物を加熱縮合反応させることで得られた糖縮合物である難消化性グルカンの酵素処理物のうち、食物繊維含量36.2~57.1質量%および重量平均分子量579~936のサンプルが特有の苦味を有していた。すなわち、苦味を有する本発明の難消化性グルカンを酵素処理しても酵素処理前と同様に苦味を有することが判明した。また酵素処理前と比べ、酵素処理によって増加した消化性糖の甘みが付与されていた。
【0052】
(3)難消化性グルカンの分画処理物の検討
上記(2)において得られた難消化性グルカン酵素処理物(加熱温度175℃)の試料(以下、「試料1」という)を分画原料とし、イオン交換樹脂を用いた分画処理にて単糖を除去したサンプルを調整した。
【0053】
分画原料(試料1)および分画処理後のサンプルを糖組成(HPLC)分析、食物繊維含量、重量平均分子量および官能検査に供した。結果は表3に示される通りであった。
【表3】
【0054】
表3から明らかなように、分画されたサンプルは単糖が減少されたことによって食物繊維含量と重量平均分子量は増加したが、分画原料と同様に苦味は有していた。また、グルコース由来の甘さが少なくなり、分画原料よりも後を引く苦みが強くなっていた。
【0055】
参考例2:糖縮合物基質の澱粉分解物DEの検討
(1)澱粉分解物DEの検討・その1
表4に示したDEの澱粉分解物100g(固形分)に30gの活性炭(フタムラ化学社製)を添加混合後、加熱反応機(ADVANTEC社製)に投入し、160℃で10分間加熱して糖縮合物(難消化性グルカン)を得た。反応後の難消化性グルカンは室温まで冷却し、濾過処理で活性炭を完全に除去し、活性炭による脱色濾過およびイオン交換樹脂による脱塩を行った後、エバポレーターで濃縮した。
【0056】
得られたサンプルについて食物繊維含量と重量平均分子量および苦みを対象とした官能評価を実施した。結果は表4に示される通りであった。
【表4】
【0057】
(2)澱粉分解物DEの検討・その2
DE45の澱粉分解物を用い、加熱温度を表5に記載の通りとした以外は、上記(1)と同様に難消化性グルカンの調製および評価を実施した。その結果は表5に示される通りであった。
【表5】
【0058】
(3)考察
表4から明らかなように、DE70~DE100の澱粉分解物を用いて食物繊維含量30~65質量%および重量平均分子量700~1250となるように糖縮合反応させた難消化性グルカンは、苦味を有することが示された。一方で、表5から明らかなように、DE45の澱粉分解物を用いて糖縮合反応を行った場合、食物繊維含量30~65質量%となるように糖縮合反応を行うと重量平均分子量が1250を超えてしまい、苦味を有する難消化性グルカンが得られないことが判明した。
【0059】
製造例1:難消化性グルカンとその分析
(1)難消化性グルカンの準備
<難消化性グルカンA>
市販の難消化性グルカン(フィットファイバー#80、日本食品化工社製)を実施例1以降に用いた。なお、当該市販品は、固形分濃度72%の液状品である。この難消化性グルカンは、「難消化性グルカンA」と表記する。
【0060】
<難消化性グルカンB>
固形分濃度70%の水あめ(DE87(レーンエイノン法で測定)、日本食品化工社製)1000gに活性炭(フタムラ化学社製)21gを添加混合後、加熱反応機(テクノベル社製)に投入し、175℃で約5分間加熱して糖縮合物組成物サンプルを得た。得られたサンプルを固形分30%水溶液とした後、活性炭を濾過で完全に除去し、可溶性糖質(糖質画分)を得た。得られた糖質画分を活性炭による脱色濾過、イオン交換樹脂による精製を行った後、固形分濃度72%まで濃縮した。得られた難消化性グルカンを実施例1以降に用いた。この難消化性グルカンは、「難消化性グルカンB」と表記する。
【0061】
(2)難消化性グルカンの分析
上記(1)で得られた難消化性グルカンAおよび難消化性グルカンBについて、食物繊維含量および重量平均分子量を前記の通りの手法で測定した。
【0062】
難消化性グルカンAおよび難消化性グルカンBの食物繊維含量および重量平均分子量は表6に示される通りであった。
【表6】
【0063】
実施例1:キャンディの製造と官能評価(1)
水飴(ハイマルトースMC-55、日本食品化工社製)、難消化性グルカン、グラニュー糖および水をステンレス鍋に入れ混合し、火にかけて150℃まで加熱した。その後、鍋底を冷却し、130℃となった時点で香料を添加し、100℃設定のホットプレート上で冷却した(水分含量は約5%)。100℃まで冷却した後、スタンピング成型することでキャンディを調製した。各原料の配合(質量部)は、表7に示される通りであった。
【0064】
【表7】
【0065】
得られたキャンディについて、「甘さの立ち」、「香りの立ち」、「味のキレ」、「おいしさ」の4評価項目を下記基準に沿って官能評価した。また、いずれの評価項目においても、難消化性グルカン無添加区のキャンディ(難消化性グルカンの代わりに水あめを使用したキャンディ)の評価点を0点として評価した。官能評価は7名のパネラーで実施し、その平均点およびコメントは表8に示される通りであった。
【0066】
甘味の立ち:トップの甘味が強いものを高評価点として、-5点~+5点の11段階で評価した。
香りの立ち:香りの強いものを高評価点として、-5点~+5点の11段階で評価した。
味のキレ:味のキレが高いものを高評価点として、-5点~+5点の11段階で評価した。
おいしさ:嗜好性が高いものを高評価点として、-5点~+5点の11段階で評価した。
【0067】
【表8】
【0068】
表8に示される通り、難消化性グルカンAを配合したキャンディ(試験区1-1)はいずれの評価項目においても無添加区を下回る評価結果となったが、難消化性グルカンBを配合したキャンディ(試験区1-2)はいずれの評価項目においても試験区1-1や無添加区を上回る評価結果となった。すなわち、特定の食物繊維含量および重量平均分子量を有する難消化性グルカンはキャンディの風味を向上させる効果を有することが判明した。
【0069】
実施例2:キャンディの製造と官能評価(2)
難消化性グルカンの代わりにポリデキストロース(ライテスIII(粉末品)、デュポン社製)および難消化性デキストリン(ファイバーソル2(粉末品)、松谷化学工業社製)を配合した試験区を設けた以外は実施例1と同様にキャンディを調製した。各原料の配合(質量部)は、表9に示される通りであった。
【0070】
【表9】
【0071】
得られたキャンディについて、実施例1と同様に官能評価を実施した。その結果は表10に示される通りであった。
【表10】
【0072】
表10に示される通り、従来品の食物繊維を配合したキャンディ(試験区2-2および2-3)はいずれの評価項目においても無添加区を下回る評価結果となったが、難消化性グルカンBを配合したキャンディ(試験区2-1)はいずれの評価項目においても無添加区や試験区2-2および2-3を上回る評価結果となった。すなわち、特定の食物繊維含量および重量平均分子量を有する難消化性グルカンはキャンディの風味を向上させる効果を有することが判明した。
【0073】
実施例3:キャンディの製造と官能評価(3)
各種配合量で難消化性グルカンBを配合し、香料の配合量を倍にした以外は実施例1と同様にキャンディを調製した。各原料の配合(質量部)は、表11に示される通りであった。
【0074】
【表11】
【0075】
得られたキャンディについて、実施例1と同様に官能評価を実施した。その結果は表12に示される通りであった。
【表12】
【0076】
表12に示される通り、難消化性グルカンBを配合したキャンディ(試験区3-1、3-2および3-3)はいずれの評価項目においても無添加区を上回る評価結果となった。特に、難消化性グルカンBを8.1質量%以上配合したキャンディ(試験区3-2および3-3)はいずれの評価項目においても高い評価結果となった。
【0077】
実施例4:キャンディの製造と官能評価(4)
難消化性グルカン、還元水飴および水をステンレス鍋に入れ混合し、火にかけて150℃まで加熱した。その後、100℃設定のホットプレート上で冷却した(水分含量は約5%)。100℃まで冷却した後、スタンピング成型することでキャンディを調製した。各原料の配合(質量部)は、表13に示される通りであった。
【0078】
【表13】
【0079】
得られたキャンディについて、実施例1と同様に官能評価を実施した。その結果、難消化性グルカンAを添加したキャンディ(試験区4-1)よりも難消化性グルカンBを添加したキャンディ(試験区4-2)の方が「甘さの立ち」、「味のキレ」、「おいしさ」の3評価項目において良好な結果が得られた。