(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】作業車両、動力機械の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/42 20100101AFI20230912BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20230912BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20230912BHJP
F02D 29/04 20060101ALI20230912BHJP
F04B 49/06 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
F16H61/42
E02F9/22 H
F02D29/00 B
F02D29/04 H
F04B49/06 321Z
(21)【出願番号】P 2018216736
(22)【出願日】2018-11-19
【審査請求日】2021-10-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】竹野 陽
(72)【発明者】
【氏名】山脇 翔太
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072264(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/116853(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/42
61/472
E02F 9/22
F04B 49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
前記駆動源の駆動力によって駆動される油圧ポンプと、
前記駆動源の駆動力の一部を前記油圧ポンプに伝達する動力取出装置と、
静油圧式無段変速機を含み、入力軸が前記動力取出装置に接続され、出力軸が負荷に接続され、前記入力軸に入力される駆動力を前記出力軸に伝達する動力伝達装置と、
前記駆動源の駆動力の大きさを指示するための操作装置と
を備える動力機械の制御装置であって、
前記操作装置の操作量に基づいて、前記静油圧式無段変速機の目標圧力である目標回路圧を特定する目標回路圧特定部と、
前記静油圧式無段変速機の圧力の計測値である実回路圧を取得する計測値取得部と、
前記目標回路圧と前記実回路圧とに基づいて前記油圧ポンプに消費させるトルクであるブレーキトルクを決定するブレーキトルク決定部と、
前記ブレーキトルクに基づいて前記油圧ポンプを制御するポンプ制御部と
を備える動力機械の制御装置。
【請求項2】
前記操作装置の操作量と前記出力軸の回転数とに基づいて、前記動力伝達装置の要求出力トルクを決定する要求出力トルク決定部を備え、
前記目標回路圧特定部は、前記要求出力トルクに基づいて前記目標回路圧を特定する
請求項1に記載の動力機械の制御装置。
【請求項3】
前記動力伝達装置の要求出力トルクに所定の係数を乗算したオフセットトルクを決定するオフセットトルク決定部と、
前記目標回路圧と前記実回路圧との差に基づくフィードバック制御により補填トルクを決定する補填トルク決定部と
を備え、
前記ブレーキトルク決定部は、前記オフセットトルクと前記補填トルクの和に基づいて前記ブレーキトルクを決定する
請求項2に記載の動力機械の制御装置。
【請求項4】
駆動源と、
前記駆動源の駆動力によって駆動される走行装置と、
前記駆動源の駆動力によって駆動される油圧ポンプと、
前記駆動源の駆動力の一部を前記油圧ポンプに伝達する動力取出装置と、
静油圧式無段変速機を含み、入力軸が前記動力取出装置に接続され、出力軸が前記走行装置に接続され、前記入力軸に入力される駆動力を前記出力軸に伝達する動力伝達装置と、
前記駆動源の駆動力の大きさを指示するための操作装置と
請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載の制御装置と
を備える作業車両。
【請求項5】
駆動源と、
前記駆動源の駆動力によって駆動される走行装置と、
前記駆動源の駆動力によって駆動される油圧ポンプと、
前記駆動源の駆動力の一部を前記油圧ポンプに伝達する動力取出装置と、
静油圧式無段変速機を含み、入力軸が前記動力取出装置に接続され、出力軸が前記走行装置に接続され、前記入力軸に入力される駆動力を前記出力軸に伝達する動力伝達装置と、
前記駆動源の駆動力の大きさを指示するための操作装置と
を備える動力機械の制御方法であって、
前記操作装置の操作量に基づいて、前記静油圧式無段変速機の目標圧力である目標回路圧を特定するステップと、
前記静油圧式無段変速機の圧力の計測値である実回路圧を取得するステップと、
前記目標回路圧と前記実回路圧とに基づいて前記油圧ポンプに消費させるトルクであるブレーキトルクを決定するステップと、
前記ブレーキトルクに基づいて前記油圧ポンプを制御するステップと
を備える動力機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両、動力機械の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機を搭載するホイールローダなどの作業車両が知られている。無段変速機の例としては、HST(Hydraulic Static Transmission)およびHMT(Hydraulic Mechanical Transmission)が挙げられる。特許文献1には、無段変速機を搭載する作業車両の制動時に、PTO(Power Take Off)に接続された油圧ポンプの回転によって制動力を得ることで、エンジンの回転数が過剰になることを防ぐ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1に開示された技術によれば、制御装置は、電動モータで制動力を精度よく制御する一方で、エンジンへの回生によってエンジン回転が上昇し過回転に至らないよう、エンジンに接続された油圧ポンプの駆動により回生パワーを吸収する。しかしながら、引用文献1に開示された技術で適切に制動を行うためには、トルクを適切に制御可能な電動モータや、電動モータを駆動するためのインバータなどの電気的ハードウェアを備える必要がある。そのため、動力系統が油圧コンポーネントからなる場合には、精度よく作業車両の制動を制御することが困難である。
本発明の目的は、電気的ハードウェアの有無に関わらず、制動力を精度よく制御することができる作業車両、動力機械の制御装置および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、動力機械の制御装置は、駆動源と、前記駆動源の駆動力によって駆動される油圧ポンプと、前記駆動源の駆動力の一部を前記油圧ポンプに伝達する動力取出装置と、静油圧式無段変速機を含み、入力軸が前記動力取出装置に接続され、出力軸が負荷に接続され、前記入力軸に入力される駆動力を前記出力軸に伝達する動力伝達装置と、前記駆動源の駆動力の大きさを指示するための操作装置とを備える動力機械の制御装置であって、前記静油圧式無段変速機の目標圧力である目標回路圧を特定する目標回路圧特定部と、前記静油圧式無段変速機の圧力の計測値である実回路圧を取得する計測値取得部と、前記目標回路圧と前記実回路圧とに基づいて前記油圧ポンプに消費させるトルクであるブレーキトルクを決定するブレーキトルク決定部と、前記ブレーキトルクに基づいて前記油圧ポンプを制御するポンプ制御部とを備える。
【発明の効果】
【0006】
上記態様のうち少なくとも1つの態様によれば、制御装置は、動力装置が電気的ハードウェアを備えるか否かに関わらず、動力装置の制動力を精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係る作業車両の側面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る運転室の内部の構成を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る作業車両の動力系統を示す模式図である。
【
図4】第1の実施形態に係る作業車両の制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図5】第1の実施形態に係る作業車両の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〈第1の実施形態〉
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係る作業車両の側面図である。
第1の実施形態に係る作業車両100は、ホイールローダである。作業車両100は、車体110、作業機120、前輪部130、後輪部140、運転室150を備える。作業車両100は、動力機械の一例である。
【0009】
車体110は、前車体111、後車体112、およびステアリングシリンダ113を備える。前車体111と後車体112とは車体110の上下方向に伸びるステアリング軸回りに回動可能に取り付けられている。前輪部130は、前車体111の下部に設けられ、後輪部140は、後車体112の下部に設けられる。
ステアリングシリンダ113は、油圧シリンダである。ステアリングシリンダ113の基端部は後車体112に取り付けられ、先端部は前車体111に取り付けられる。ステアリングシリンダ113は、作動油によって伸縮することで、前車体111と後車体112とのなす角度を規定する。つまり、ステアリングシリンダ113の伸縮により、前輪部130の舵角が規定される。
【0010】
作業機120は、土砂等の作業対象物の掘削および運搬に用いられる。作業機120は、車体110の前部に設けられる。作業機120は、ブーム121、バケット122、ベルクランク123、リフトシリンダ124、バケットシリンダ125を備える。
【0011】
ブーム121の基端部は、前車体111の前部にピンを介して取り付けられる。
バケット122は、作業対象物を掘削するための刃と、掘削した作業対象物を運搬するための容器とを備える。バケット122の基端部は、ブーム121の先端部にピンを介して取り付けられる。
ベルクランク123は、バケットシリンダ125の動力をバケット122に伝達する。ベルクランク123の第1端は、バケット122の底部にリンク機構を介して取り付けられる。ベルクランク123の第2端は、バケットシリンダ125の先端部にピンを介して取り付けられる。
【0012】
リフトシリンダ124は、油圧シリンダである。リフトシリンダ124の基端部は前車体111の前部に取り付けられる。リフトシリンダ124の先端部はブーム121に取り付けられる。リフトシリンダ124が作動油によって伸縮することによって、ブーム121が上げ方向または下げ方向に駆動する。
バケットシリンダ125は、油圧シリンダである。バケットシリンダ125の基端部は、前車体111の前部に取り付けられる。バケットシリンダ125の先端部は、ベルクランク123を介してバケット122に取り付けられている。バケットシリンダ125が、作動油によって伸縮することによって、バケット122がチルト方向またはダンプ方向に揺動する。
【0013】
運転室150は、オペレータが搭乗し、作業車両100の操作を行うためのスペースである。運転室150は、後車体112の上部に設けられる。
図2は、第1の実施形態に係る運転室の内部の構成を示す図である。運転室150の内部には、シート151、アクセルペダル152、ブレーキペダル153、ステアリングハンドル154、前後切替スイッチ155、シフトスイッチ156、ブームレバー157、バケットレバー158が設けられる。
【0014】
アクセルペダル152は、作業車両100に生じさせる走行の駆動力(牽引力)を設定するために操作される。バケットレバー158の操作量が大きいほど、目標駆動力(目標牽引力)が高く設定される。
ブレーキペダル153は、作業車両100に生じさせる走行の制動力を設定するために操作される。ブレーキペダル153の操作量が大きいほど、強い制動力が設定される。
ステアリングハンドル154は、作業車両100の舵角を設定するために操作される。
前後切替スイッチ155は、作業車両100の進行方向を設定するために操作される。作業車両の進行方向は、前進(F:Forward)、後進(R:Rear)、または中立(N:Neutral)のいずれかである。
シフトスイッチ156は、動力伝達装置の速度範囲を設定するために操作される。シフトスイッチ156の操作によって、例えば、1速、2速、3速、および4速の中から1つの速度範囲が選択される。
ブームレバー157は、ブーム121の上げ操作または下げ操作の移動量を設定するために操作される。ブームレバー157は、前方へ傾けられることにより下げ操作を受け付け、後方へ傾けられることにより上げ操作を受け付ける。
バケットレバー158は、バケット122のダンプ操作またはチルト操作の移動量を設定するために操作される。バケットレバー158は、前方へ傾けられることによりダンプ操作を受け付け、後方へ傾けられることによりチルト操作を受け付ける。
【0015】
《動力系統》
図3は、第1の実施形態に係る作業車両の動力系統を示す模式図である。
作業車両100は、エンジン210、PTO220(Power Take Off:動力取出装置)、変速機230、フロントアクスル240、リアアクスル250、可変容量ポンプ260、固定容量ポンプ270を備える。
【0016】
エンジン210は、例えばディーゼルエンジンである。エンジン210には、燃料噴射装置211およびエンジン回転計212が設けられる。燃料噴射装置211は、エンジン210のシリンダ内に噴射する燃料量を調整することで、エンジン210の駆動力を制御する。エンジン回転計212は、エンジン210の回転数を計測する。
【0017】
PTO220は、エンジン210の駆動力の一部を、可変容量ポンプ260および固定容量ポンプ270に伝達する。つまり、PTO220は、エンジン210の駆動力を、変速機230、可変容量ポンプ260および固定容量ポンプ270に分配する。
【0018】
変速機230は、HST231(静油圧式無段変速機)を備える無段変速機である。変速機230は、HST231のみによって変速制御を行うものであってもよいし、HST231と遊星歯車機構との組み合わせによって変速制御を行うHMT(油圧機械式無段変速機)であってもよい。変速機230は、入力軸に入力される駆動力を変速して出力軸から出力する。変速機230の入力軸はPTO220に接続され、出力軸はフロントアクスル240およびリアアクスル250に接続される。つまり、変速機230は、PTO220によって分配されたエンジン210の駆動力をフロントアクスル240およびリアアクスル250に伝達する。変速機230には、入力軸回転計232および出力軸回転計233が設けられる。入力軸回転計232は、変速機230の入力軸の回転数を計測する。出力軸回転計233は、変速機230の出力軸の回転数を計測する。変速機230のHST231には、HST圧力計234が設けられる。HST圧力計234は、HST231の圧力を計測する。
【0019】
フロントアクスル240は、変速機230が出力する駆動力を前輪部130に伝達する。これにより、前輪部130が回転する。
リアアクスル250は、変速機230が出力する駆動力を後輪部140に伝達する。これにより、後輪部140が回転する。
フロントアクスル240およびリアアクスル250は、走行装置の一例である。
【0020】
可変容量ポンプ260は、エンジン210からの駆動力によって駆動される。可変容量ポンプ260の吐出容量は、例えば可変容量ポンプ260内に設けられた斜板の傾転角の制御により変更される。可変容量ポンプ260から吐出された作動油は、コントロールバルブ261を介してステアリングシリンダ113、リフトシリンダ124、およびバケットシリンダ125に供給される。また可変容量ポンプ260から吐出された作動油は、ブレーキバルブ265およびリリーフバルブ266を介して排出される。
コントロールバルブ261は、可変容量ポンプ260から吐出された作動油の流量を制御し、作動油をステアリングシリンダ113とリフトシリンダ124とバケットシリンダ125とに分配する。ブレーキバルブ265は、リリーフバルブ266へ供給する作動油の流量を制御する。リリーフバルブ266は、作動油の圧力が所定のリリーフ圧を超えたときに圧力を開放し、作動油を排出させる。
可変容量ポンプ260には、第1ポンプ圧計262およびポンプ容量計263が設けられる。第1ポンプ圧計262は、可変容量ポンプ260からの作動油の吐出圧を計測する。ポンプ容量計263は、可変容量ポンプ260の斜板角等に基づいて可変容量ポンプ260の容量を計測する。
リフトシリンダ124には、シリンダ圧力計264が設けられる。シリンダ圧力計264は、リフトシリンダ124の圧力を計測する。
可変容量ポンプ260はPTO220から動力を分配される装置の一例である。他の実施形態においては、可変容量ポンプ260が複数のポンプから構成されてもよいし、可変容量ポンプ260に代えてまたは加えて、図示されない油圧駆動ファンなどの他の供給先を備えていてもよい。
【0021】
固定容量ポンプ270は、エンジン210からの駆動力によって駆動される。固定容量ポンプ270から吐出された作動油は変速機230内の図示しないクラッチに供給される。固定容量ポンプ270には、第2ポンプ圧計271が設けられる。第2ポンプ圧計271は、固定容量ポンプ270からの作動油の吐出圧を計測する。固定容量ポンプ270はPTO220から動力を分配される装置の一例である。固定容量ポンプ270は、複数のポンプから構成されてもよいし、図示されない潤滑回路などの供給先があってもよい。
【0022】
《制御装置》
作業車両100は、作業車両100を制御するための制御装置300を備える。
制御装置300は、運転室150内の各操作装置(アクセルペダル152、ブレーキペダル153、ステアリングハンドル154、前後切替スイッチ155、シフトスイッチ156、ブームレバー157、バケットレバー158)の操作量に応じて、燃料噴射装置211、変速機230、可変容量ポンプ260、コントロールバルブ261、ブレーキバルブ265に制御信号を出力する。
【0023】
図4は、第1の実施形態に係る作業車両の制御装置の構成を示す概略ブロック図である。制御装置300は、プロセッサ310、メインメモリ330、ストレージ350、インタフェース370を備えるコンピュータである。
【0024】
ストレージ350は、一時的でない有形の記憶媒体である。ストレージ350の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ350は、制御装置300のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース370または通信回線を介して制御装置300に接続される外部メディアであってもよい。ストレージ350は、作業車両100を制御するためのプログラムを記憶する。
【0025】
プログラムは、制御装置300に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータは、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0026】
プログラムが通信回線によって制御装置300に配信される場合、配信を受けた制御装置300が当該プログラムをメインメモリ330に展開し、上記処理を実行してもよい。
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、当該プログラムは、前述した機能をストレージ350に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0027】
プロセッサ310は、プログラムを実行することで、操作量取得部311、計測値取得部312、車両状態算出部313、要求PTOトルク決定部314、要求出力トルク決定部315、走行負荷推定部316、目標回転数決定部317、加速トルク特定部318、目標エンジントルク決定部319、エンジン制御部320、ブレーキ制御判定部321、目標HST圧特定部322(目標回路圧特定部)、オフセットトルク決定部323、補填トルク決定部324、アシストトルク決定部325、ブレーキトルク決定部326ブレーキトルク決定部326、目標速度比決定部327、変速機制御部328、ポンプ制御部329を備える。
【0028】
操作量取得部311は、アクセルペダル152、ブレーキペダル153、ステアリングハンドル154、前後切替スイッチ155、シフトスイッチ156、ブームレバー157、バケットレバー158のそれぞれから操作量を取得する。以下、アクセルペダル152の操作量をアクセル操作量、ブレーキペダル153の操作量をブレーキ操作量、ステアリングハンドル154の操作量をステアリング操作量、前後切替スイッチ155の操作位置に応じた値をFNR操作量、シフトスイッチ156の操作位置に応じた値をシフト操作量、ブームレバー157の操作量をブーム操作量、バケットレバー158の操作量をバケット操作量という。
【0029】
計測値取得部312は、燃料噴射装置211、エンジン回転計212、入力軸回転計232、出力軸回転計233、HST圧力計234、第1ポンプ圧計262、ポンプ容量計263、シリンダ圧力計264、および第2ポンプ圧計271から計測値を取得する。すなわち、計測値取得部312は、エンジン210の燃料噴射量、エンジン210の回転数、変速機230の入力軸の回転数、変速機230の出力軸の回転数、HST231の圧力、可変容量ポンプ260のポンプ圧、可変容量ポンプ260の容量、リフトシリンダ124の圧力、および固定容量ポンプ270のポンプ圧のそれぞれの計測値を取得する。
【0030】
車両状態算出部313は、計測値取得部312が取得した計測値に基づいて、エンジン210の出力トルク、エンジン210の上限トルク、エンジン210の角加速度、PTO220で可変容量ポンプ260および固定容量ポンプ270へ分配されるトルク(PTOトルク)、変速機230の入出力速度比、変速機230の出力軸の角加速度、作業車両100の走行速度を算出する。エンジン210の出力トルクとは、燃料噴射量に基づいて算出されるエンジン210が実際に発揮するトルクである。エンジン210の上限トルクとは、エンジン210が発揮可能な最大のトルクである。
【0031】
要求PTOトルク決定部314は、操作量取得部311が取得したステアリング操作量、ブーム操作量、およびバケット操作量と、計測値取得部312が取得した可変容量ポンプ260のポンプ圧、可変容量ポンプ260の容量、および固定容量ポンプ270のポンプ圧の計測値とに基づいて、PTO220から可変容量ポンプ260および固定容量ポンプ270へ分配されるトルクの要求値(要求PTOトルク)を決定する。例えば、要求PTOトルク決定部314は、操作量と要求流量との関係を規定するPTO変換関数に基づいて、ステアリング操作量から可変容量ポンプ260の要求流量を求める。また例えば、要求PTOトルク決定部314は、PTO変換関数に基づいて、ブーム操作量およびバケット操作量から可変容量ポンプ260の要求流量を求める。そして、要求PTOトルク決定部314は、可変容量ポンプ260のポンプ圧、可変容量ポンプ260の容量、および固定容量ポンプ270のポンプ圧の計測値と、特定した可変容量ポンプ260の要求流量に基づいて、要求PTOトルクを決定する。
【0032】
要求出力トルク決定部315は、操作量取得部311が取得したアクセル操作量、ブレーキ操作量、シフト操作量、およびFNR操作量と、車両状態算出部313が算出した走行速度とに基づいて、変速機230の出力軸のトルクの要求値(要求出力トルク)を決定する。例えば、要求出力トルク決定部315は、走行速度と要求出力トルクとの関係を規定する走行変換関数に基づいて、車両状態算出部313が算出した走行速度から要求出力トルクを決定する。このとき、要求出力トルク決定部315は、走行変換関数の特性を、アクセル操作量、ブレーキ操作量、シフト操作量、およびFNR操作量に基づいて決定する。
具体的には、要求出力トルク決定部315は、複数の速度範囲に対応する複数の走行変換関数のうち、シフト操作量によって特定される速度範囲に対応する走行変換関数を特定する。要求出力トルク決定部315は、アクセル操作がある場合、アクセル操作量に係る倍率に基づいて特定した走行変換関数を変形する。要求出力トルク決定部315は、ブレーキ操作がある場合、ブレーキ操作量に係る倍率に基づいて特定した走行変換関数を変形する。要求出力トルク決定部315は、FNR操作量に基づいて、要求出力トルクの符号を決定する。なお、要求出力トルクと走行速度の符号が一致しない場合(要求出力トルクと走行速度の積の符号が負である場合)、変速機230によって制動側のトルクが発揮される。
走行変換関数によれば、走行速度が所定速度を超えるとき、要求出力トルクが制動側の値となる。そのため、要求出力トルク決定部315は、車両状態算出部313が算出した走行速度が、シフト操作量とアクセル操作量とブレーキ操作量とによって特定される速度範囲の上限を超える場合、要求出力トルクが制動側の値(走行速度と逆の符号)となる。
【0033】
走行負荷推定部316は、車両状態算出部313が算出したエンジン210の出力トルクTeng、エンジン210の角加速度αeng、PTOトルクTPTO、変速機230の入出力速度比i、変速機230の出力軸の角加速度αoutに基づいて、走行に係る走行負荷トルクTloadを推定する。
走行負荷トルクTloadは、以下の式(1)に基づいて算出することができる。
【0034】
【0035】
Iengは、エンジン210の慣性モーメントである。Ivは、作業車両100の慣性モーメントである。ηtは、変速機230のトルク効率である。Nは、変速機230の出力軸から前輪部130および後輪部140までの間におけるアクスル減速比である。慣性モーメントIeng、慣性モーメントIv、トルク効率ηt、およびアクスル減速比Nは定数である。
【0036】
なお、式(1)は、エンジン210の出力トルクTengと変速機230の出力トルクToutとの関係を示す式(2)と、変速機230の出力トルクToutと作業車両100の加速度αoutとの関係を示す式(3)と、から導出することができる。なお、他の実施形態においては、走行負荷トルクTloadは、式(1)以外の式に基づいて算出されてもよい。例えば、式(2)に代えて、HST231が計測したHST231の圧力と、HST231の可変容量ポンプの容量指令または当該可変容量ポンプに設けられるポンプ容量計が計測したポンプ容量と、出力トルクToutとの関係を示す式を用いて、走行負荷トルクTloadを特定する式を導出してもよい。また、他の実施形態において、変速機230が電気モータを備える場合、電気モータのトルク指令や電圧・電流から推定した電気モータ出力トルクを用いて、走行負荷トルクTloadを特定する式を導出してもよい。
【0037】
【0038】
目標回転数決定部317は、要求出力トルクと走行速度から算出される要求走行パワーと要求PTOトルクとエンジン210の回転数の計測値から算出される要求PTO出力との和である要求エンジン出力とに基づいて、エンジン210の制御に用いられる目標エンジン回転数を決定する。目標回転数決定部317は、予め設計等により定められた、要求エンジン出力とエンジン回転数との関係を規定する回転数変換関数に基づいて、目標エンジン回転数を決定する。回転数変換関数は、例えば、要求エンジン出力を発揮可能かつエンジン加速度を阻害しない範囲で、なるべくエンジン210の回転を低回転側に抑える設計とするものであってよい。
また目標回転数決定部317は、要求PTOトルク決定部314で算出した、可変容量ポンプ260の要求流量を実現するために必要なエンジンの回転数(PTO必要回転数)を決定する。目標回転数決定部317は、予め設計等により定められた、可変容量ポンプ260の要求流量とエンジン回転数との関係を規定する回転数変換関数に基づいて、PTO必要回転数を決定する。目標回転数決定部317は、目標エンジン回転数がPTO必要回転数を下回る場合、目標エンジン回転数をPTO必要回転数に決定する。
【0039】
加速トルク特定部318は、計測値取得部312が取得したエンジン210の回転数の計測値と目標回転数決定部320が決定した目標エンジン回転数とに基づいて、エンジン210を目標エンジン回転数で回転させるために必要な目標加速トルクを算出する。すなわち、加速トルク特定部318は、エンジン210の回転数の計測値と目標エンジン回転数との差の回転数にから目標エンジン加速度を決定し、目標エンジン加速度にエンジン210の慣性モーメントを乗算することで、目標加速トルクを算出する。
【0040】
目標エンジントルク決定部319は、車両状態算出部313が算出したPTOトルク、エンジン210の上限トルク、および変速機230の入出力速度比と、要求出力トルク決定部315が決定した要求出力トルクと、エンジン210の回転数の計測値とに基づいて、エンジン210が出力すべきトルクである目標エンジントルクを決定する。目標エンジントルク決定部319は、要求出力トルクに変速機230の入出力速度比を乗算することで、要求出力トルクを得るために必要となるエンジン210のトルクである要求入力トルクを算出する。目標エンジントルク決定部319は、PTOトルクと要求入力トルクとの和と、エンジントルクの最大値のうち小さい方を、目標エンジントルクに決定する。
【0041】
エンジン制御部320は、燃料噴射装置211に、エンジントルク指令を出力する。具体的には、エンジン制御部320は、目標エンジントルク決定部319が決定した目標エンジントルクを示すエンジントルク指令を出力する。エンジン制御部320は、駆動源制御部の一例である。
【0042】
ブレーキ制御判定部321は、可変容量ポンプ260の駆動によってブレーキ力を得るPTOブレーキ制御を行うか否かを判定する。具体的には、ブレーキ制御判定部321は、要求出力トルク決定部315が決定した要求出力トルクが制動側の値である場合に、PTOブレーキ制御を行うと判定する。
他の実施形態においては、ブレーキ制御判定部321は、要求出力トルクの符号が制動側で、かつ絶対値がある閾値を超えた場合にPTOブレーキ制御を行うと判定してもよい。
【0043】
目標HST圧特定部322は、要求出力トルク決定部315が決定した要求出力トルクに対応するHST231の圧力を、HST231の制御目標である目標HST圧(目標回路圧)に決定する。変速機230の出力トルクとHST231の圧力との関係は、変速機230の設計によって定められる出力軸とHSTモータとの間におけるギヤ比の関係と、そのときのHSTモータの容量により決定される。
【0044】
オフセットトルク決定部323は、要求入力トルクに所定の係数を乗算することで、PTOブレーキ制御に用いるオフセットトルクを決定する。要求入力トルクは、要求出力トルク決定部315で決定した要求出力トルクに変速機230の入出力速度比を乗算することで算出される。なお、オフセットトルク決定部323は、目標エンジントルク決定部319が算出した要求入力トルクを用いてオフセットトルクを決定してもよい。オフセットトルクの決定に用いる係数は、-1より大きく0以下の値である。PTOブレーキ制御は要求出力トルクが負の値である場合に実行されるため、オフセットトルクは正の値となる。このオフセットトルクは、経験的または実験的に必要になると予想されるPTOブレーキトルクを概算したフィードフォワード補正項になる。
【0045】
補填トルク決定部324は、計測値取得部312が取得したHST231の圧力の計測値である実HST圧(実回路圧)と、目標HST圧特定部が特定した目標HST圧との差に基づくPI(Proportional Integral)制御により、PTOブレーキ制御に用いる補填トルクを決定する。なお、他の実施形態に係る補填トルク決定部324は、実HST圧と目標HST圧とに基づく他のフィードバック制御によって補填トルクを決定してもよい。この補填トルクは、制動力を目標通り精度よく制御するためのフィードバック補正項になる。
【0046】
アシストトルク決定部325は、計測値取得部312が取得したエンジン210の回転数の計測値に基づいて、エンジン210の回転加速をアシストするためのアシストトルクを決定する。例えば、アシストトルク決定部325は、エンジンの目標回転数とアシスト保障回転数とのうち小さい方と、エンジン210の回転数の計測値との差に基づくP制御により、エンジン210の回転数がアシスト保障回転数より低いときにエンジン210の回転加速をアシストするための低回転アシストトルクを決定する。アシスト保障回転数は、走行や作業機のパワーを確保する目的で、エンジン回転数が一定回転以下に落ち込まないために設定される。
またアシストトルク決定部325は、要求PTOトルク決定部314が算出した可変容量ポンプ260の要求流量を実現するために必要なエンジンの回転数と、エンジン210の回転数の計測値との差に基づくP制御により、作業機120の駆動に作動油が必要なときにエンジン210の回転加速をアシストするための作業機アシストトルクを決定する。アシストトルク決定部325が決定するアシストトルクは、0以上の値である。このアシストトルクはエンジン回転を素早く高める必要がある場合にエンジン回転加速をアシストするための補正項になる。
【0047】
ブレーキトルク決定部326は、オフセットトルクと補填トルクとアシストトルクとに基づいて、PTOブレーキ制御において可変容量ポンプ260に消費させるブレーキトルクを決定する。具体的には、ブレーキトルク決定部326は、オフセットトルクと補填トルクとを加算し、アシストトルクを減算することで、ブレーキトルクを決定する。
【0048】
目標速度比決定部327は、変速機230の入力軸の回転数の計測値、変速機230の出力軸の回転数の計測値、走行負荷推定部316が推定した走行負荷トルク、要求出力トルク決定部315が決定した目標出力トルク、および加速トルク特定部318が特定した目標エンジン加速度に基づいて、変速機230の目標入出力速度比を決定する。具体的には、目標速度比決定部327は、変速機230の出力軸の回転数、走行負荷トルク、および目標出力トルクに基づいて、所定の制御周期に係る時間の経過後における変速機230の出力軸の回転数を推定し、それを出力軸の目標回転数として設定する。目標速度比決定部327は、変速機230の入力軸の回転数および目標エンジン加速度に基づいて、所定の制御周期に係る時間の経過後における変速機230の入力軸の回転数を推定し、それを入力軸の目標回転数として設定する。目標速度比決定部327は、出力軸の目標回転数を入力軸の目標回転数で除算することで、目標入出力速度比を決定する。
【0049】
変速機制御部328は、目標速度比決定部327が決定した目標入出力速度比を実現するために、変速機230の制御指令を出力する。変速機制御部328は、例えば変速機230が備えるHST231の容量指令を出力する。
【0050】
ポンプ制御部329は、要求PTOトルク決定部314が決定した要求PTOトルクと、ブレーキトルク決定部326が決定したブレーキトルクの和となる吸収トルクを実現するために、可変容量ポンプ260の制御指令を出力する。またポンプ制御部329は、PTOブレーキ制御を行う場合に、ブレーキトルクを実現するために、ブレーキバルブ265の制御指令を出力する。
【0051】
《作業車両の制御方法》
図5は、第1の実施形態に係る作業車両の制御方法を示すフローチャートである。
まず、操作量取得部311は、アクセルペダル152、ブレーキペダル153、ステアリングハンドル154、前後切替スイッチ155、シフトスイッチ156、ブームレバー157、バケットレバー158のそれぞれから操作量を取得する(ステップS1)。また、計測値取得部312は、燃料噴射装置211、エンジン回転計212、入力軸回転計232、出力軸回転計233、HST圧力計234、第1ポンプ圧計262、ポンプ容量計263、シリンダ圧力計264、および第2ポンプ圧計271から計測値を取得する(ステップS2)。
【0052】
次に、車両状態算出部313は、ステップS2で取得した計測値に基づいて、エンジン210の出力トルク、エンジン210の上限トルク、エンジン210の角加速度、PTOトルク、変速機230の入出力速度比、変速機230の出力軸の角加速度、作業車両100の走行速度を算出する(ステップS3)。
【0053】
要求PTOトルク決定部314は、ステップS1で取得したステアリング操作量、ブーム操作量、およびバケット操作量と、ステップS2で取得した可変容量ポンプ260のポンプ圧および容量、ならびに固定容量ポンプ270のポンプ圧の計測値とに基づいて、要求PTOトルクを決定する(ステップS4)。要求出力トルク決定部315は、ステップS1で取得した走行に関する操作量と、ステップS3で算出した走行速度とに基づいて、要求出力トルクを決定する(ステップS5)。走行負荷推定部316は、ステップS3で算出した車両状態の値に基づいて、走行負荷トルクを推定する(ステップS6)。
【0054】
目標回転数決定部317は、要求出力トルクと走行速度から算出される要求走行パワーと、要求PTOトルクとエンジン210の回転数の計測値から算出される要求PTO出力との和である要求エンジン出力に基づいて、目標エンジン回転数を決定する(ステップS7)。加速トルク特定部318は、エンジン210の回転数の計測値とステップS7で決定した目標エンジン回転数とに基づいて目標加速トルクを算出する(ステップS8)。目標エンジントルク決定部319は、要求出力トルクと、ステップS3で算出したPTOトルク、エンジンの上限トルク、および変速機230の入出力速度比と、ステップS2で取得したエンジン210の回転数の計測値とに基づいて目標エンジントルクを決定する(ステップS9)。エンジン制御部320は、ステップS9で決定した目標エンジントルクを示すエンジントルク指令を出力する(ステップS10)。
【0055】
次に、ブレーキ制御判定部321は、ステップS5で決定した要求出力トルクが制動側の値であるか否かを判定する(ステップS11)。要求出力トルクが駆動側の値である場合(ステップS11:NO)、ブレーキ制御判定部321は、PTOブレーキ制御が必要ないと判定する。
【0056】
要求出力トルクが制動側の値である場合(ステップS11:YES)、ブレーキ制御判定部321は、PTOブレーキ制御が必要であると判定する。要求出力トルクが制動側の値である場合(ステップS11:YES)、目標HST圧特定部322は、ステップS5で決定した要求出力トルクに基づいて、HST231の制御目標である目標HST圧を決定する(ステップS12)。オフセットトルク決定部323は、要求入力トルクに所定の係数を乗算することでオフセットトルクを決定する(ステップS13)。
【0057】
補填トルク決定部324は、計測値取得部312が取得したHST231の圧力の計測値である実HST圧と、目標HST圧特定部が特定した目標HST圧との差に基づくPI制御により補填トルクを決定する(ステップS14)。実HST圧が目標HST圧より小さい場合、補填トルクは正の値となる。実HST圧が目標HST圧より大きい場合、補填トルクは負の値となる。
アシストトルク決定部325は、エンジンの目標回転数とアシスト保障回転数とのうち小さい方と、エンジン210の回転数の計測値との差に基づくP制御により低回転アシストトルクを決定する(ステップS15)。またアシストトルク決定部325は、オペレータが要求する作業機スピードを素早く実現するために必要なエンジンの回転数とエンジン210の回転数の計測値との差に基づくP制御により作業機アシストトルクを決定する(ステップS16)。
【0058】
ブレーキトルク決定部326は、オフセットトルクと補填トルクとを加算したトルク値から、低回転アシストトルクおよび作業機アシストトルクを減算することで、ブレーキトルクを決定する(ステップS17)。
【0059】
目標速度比決定部327は、変速機230の入力軸の回転数の計測値、変速機230の出力軸の回転数の計測値、負荷トルク、目標出力トルク、および目標エンジン加速度に基づいて目標入出力速度比を決定する(ステップS18)。変速機制御部328は、目標入出力速度比を実現するための変速機230の制御指令を出力する(ステップS19)。
【0060】
ポンプ制御部329は、ステップS4で決定した要求PTOトルクとステップS17で決定したブレーキトルクの和となる吸収トルクを実現するために必要な可変容量ポンプ260の容量を特定し、当該容量を指示する制御指令を可変容量ポンプ260に出力する(ステップS20)。
また、ポンプ制御部329は、ステップS11の判定結果に基づいて、PTOブレーキ制御を行うか否かを判定する(ステップS21)。ステップS11において、ブレーキ制御判定部321は、要求出力トルクが制動側の値である場合にPTOブレーキ制御を行うと判定する。
PTOブレーキ制御を行う場合(ステップS21:YES)、ポンプ制御部329は、ブレーキバルブ265にブレーキトルクに応じた開度を指示する制御指令を出力する(ステップS22)。これにより、作業車両100の制動時にリリーフバルブ266から作動油が排出される。したがって、PTO220から可変容量ポンプ260へ分配されるトルクのうち、作業機120の制御およびステアリングの制御に用いられないトルクは、熱として消費される。
【0061】
制御装置300は、上述の制御処理を、所定の制御周期ごとに実行する。
【0062】
《作用・効果》
このように、第1の実施形態に係る制御装置300によれば、HST231の目標HST圧と実HST圧とに基づいて可変容量ポンプ260に消費させるトルクであるブレーキトルクを決定し、当該ブレーキトルクに基づいて可変容量ポンプ260を制御する。これにより、制御装置300は、HST圧によって変速機230の出力軸のトルクをフィードバックすることで、作業車両100の動力系統が電気的ハードウェアを備えなくても、作業車両100の制動力を精度よく制御することができる。
【0063】
また、第1の実施形態に係る制御装置300によれば、操作装置の操作量と作業車両100の走行速度とに基づいて要求出力トルクを特定し、当該要求出力トルクに基づいて目標HST圧を決定する。これにより、制御装置300は、オペレータの操作量に応じた制動力を作業車両100に発揮させることができる。
【0064】
また、第1の実施形態に係る制御装置300によれば、要求出力トルクに速度比および所定の係数を乗算することで得られるオフセットトルクと、目標HST圧と実HST圧との差に基づくフィードバック制御により得られる補填トルクの和に基づいてブレーキトルクを決定する。制御装置300は、オフセットトルクにより 制動開始直後の制動の追従性を高めることができ、または制動力の高い応答性と安定性を両立させることができ、補填トルクにより最終的な制動力の精度を高めることができる。さらに第1の実施形態に係る制御装置300は、駆動源の回転数に基づいてアシストトルクを決定し、オフセットトルクと補填トルクの和からアシストトルクを減算することでブレーキトルクを決定する。これにより、制御装置300は、さらに制動力の一部をエンジン210の回転加速のアシストに利用することができる。
なお、他の実施形態においては、制御装置300は、オフセットトルクおよびアシストトルクの少なくとも一方を用いずにブレーキトルクを決定してもよい。
【0065】
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。
【0066】
また、第1の実施形態に係る作業車両100は、ホイールローダであるが、これに限られない。例えば他の実施形態に係る作業車両100は、ブルドーザおよびトラクタなどの他の作業車両100であってもよい。また他の実施形態においては、制御装置300が作業車両以外の動力機械に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0067】
100…作業車両 110…車体 111…前車体 112…後車体 113…ステアリングシリンダ 120…作業機 121…ブーム 122…バケット 123…ベルクランク 124…リフトシリンダ 125…バケットシリンダ 130…前輪部 150…運転室 151…シート 152…アクセルペダル 153…ブレーキペダル 154…ステアリングハンドル 155…前後切替スイッチ 156…シフトスイッチ 157…ブームレバー 158…バケットレバー 140…後輪部 210…エンジン 211…燃料噴射装置 212…エンジン回転計 220…PTO 230…変速機 231…HST 233…出力軸回転計 234…HST圧力計 240…フロントアクスル 250…リアアクスル 260…可変容量ポンプ 261…コントロールバルブ 262…第1ポンプ圧計 263…ポンプ容量計 265…ブレーキバルブ 266…リリーフバルブ 270…固定容量ポンプ 271…第2ポンプ圧計 300…制御装置 310…プロセッサ 330…メインメモリ 350…ストレージ 370…インタフェース 311…操作量取得部 312…計測値取得部 313…車両状態算出部 314…要求PTOトルク決定部 315…要求出力トルク決定部 316…走行負荷推定部 317…目標回転数決定部 318…加速トルク特定部 319…目標エンジントルク決定部 320…エンジン制御部 321…ブレーキ制御判定部 322…目標HST圧特定部 323…オフセットトルク決定部 324…補填トルク決定部 325…アシストトルク決定部 326…ブレーキトルク決定部 327…目標速度比決定部 328…変速機制御部 329…ポンプ制御部