IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エドワーズ株式会社の特許一覧

特許7347964真空ポンプ及び該真空ポンプに備えられた保護部
<>
  • 特許-真空ポンプ及び該真空ポンプに備えられた保護部 図1
  • 特許-真空ポンプ及び該真空ポンプに備えられた保護部 図2
  • 特許-真空ポンプ及び該真空ポンプに備えられた保護部 図3
  • 特許-真空ポンプ及び該真空ポンプに備えられた保護部 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び該真空ポンプに備えられた保護部
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
F04D19/04 E
F04D19/04 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019101785
(22)【出願日】2019-05-30
(65)【公開番号】P2020197129
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105201
【弁理士】
【氏名又は名称】椎名 正利
(72)【発明者】
【氏名】榎本 良弘
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-180265(JP,A)
【文献】特開平05-240188(JP,A)
【文献】実開昭55-025658(JP,U)
【文献】特開2007-170537(JP,A)
【文献】特開平10-252683(JP,A)
【文献】実開昭53-076372(JP,U)
【文献】特開2008-223573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒と、
該外筒内に回転可能に支持されたロータ軸と、
該ロータ軸を回転駆動する回転駆動手段と、
前記ロータ軸に固定された翼列を有する金属製の回転翼と、
該回転翼の翼列の間に設置された固定翼、該固定翼を所定の間隔で保持する固定翼スペーサ、及び前記回転翼の周囲に設置されたステータの内の少なくともいずれか一つで構成される金属製の静止部と、
前記回転翼と前記静止部間に形成された排気流路と、
前記回転翼及び前記静止部の内の少なくとも一部に、前記回転翼と前記静止部が接触したとき金属同士の接触を防止可能な厚みを有する非金属製の保護部と、
前記ロータ軸を空中に浮上支持する磁気軸受と、
該磁気軸受の異常時に前記ロータ軸を接触して保持する保護ベアリングとを備え
前記ロータ軸が前記磁気軸受により所定の可動幅をもって非接触で保持され、前記所定の可動幅より前記保護部が厚く形成され、
かつ、前記所定の可動幅が前記保護ベアリングと前記ロータ軸間に形成されたすきまの範囲内に制限されたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記保護部が、0.1mm以上の厚みで形成されたことを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記保護部が、前記ステータ、及び、前記回転翼の少なくともいずれか一方より突設された突設部の頭部に配設されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記保護部が、前記回転翼及び前記静止部の少なくとも一方の前記排気流路に面する面に形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記保護部が、円筒状部の内周側から突設された前記回転翼と対向する螺旋状の突設部を有し、
前記円筒状部の外周側が前記ステータに対して固定されたことを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記保護部が、フッ素樹脂で形成されたことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記保護部が、フッ素樹脂の粒子と該粒子を固定する樹脂からなる複合材料で形成されたことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の真空ポンプに備えられた非金属で形成されたことを特徴とする保護部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空ポンプ及び該真空ポンプに備えられた保護部に係わり、特に回転部品と固定部品が接触した際にも火花が発生しなくなり、真空容器内での爆発的反応を防止できる真空ポンプ及び該真空ポンプに備えられた保護部に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクスの発展に伴い、メモリや集積回路といった半導体の需要が急激に増大している。
これらの半導体は、きわめて純度の高い半導体基板に不純物をドープして電気的性質を与えたり、エッチングにより半導体基板上に微細な回路を形成したりなどして製造される。
【0003】
そして、これらの作業は空気中の塵等による影響を避けるため高真空状態の真空容器内で行われる必要がある。この真空容器の排気には、一般に真空ポンプが用いられているが、特に残留ガスが少なく、保守が容易等の点から真空ポンプの中の一つであるターボ分子ポンプが多用されている。
【0004】
また、半導体の製造工程では、さまざまなプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、ターボ分子ポンプは真空容器内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスを真空容器内から排気するのにも使用される。
ところで、プロセスガスは、反応性を高めるため高温の状態で真空容器に導入される場合がある。
【0005】
これらのプロセスガスは、排気される際に圧縮されてある圧力になると固体となり排気系に生成物を析出する場合がある。そして、この種のプロセスガスがターボ分子ポンプ内部に付着して堆積する場合がある。
【0006】
この生成物は、下記のメカニズムで重大なトラブルを生じる原因となるおそれがある。
(1)ポンプの稼働中に何らかの不測の要因により回転翼と固定翼とが接触することがある。接触する部位としては、特に排気口付近のネジ付きスペーサ部分で多い。このとき、金属同士の接触により火花が発生する。
(2)(1)をきっかけに、ポンプ内に堆積した反応生成物が爆発的に反応する。
(3)(2)の結果、ポンプ内部、及びこのポンプに接続された真空容器内の圧力が急上昇する
(4)ポンプ又は真空容器の構成部品が破損し、内部のガスが大気中に噴出する
【0007】
半導体や、フラットパネルなどの製造に用いられるガスや、製造過程で出る副産物の中には、人体に有害な物質もあるため、上記が生じると重大事故につながる。
従来、上記のトラブルはほとんど見られなかったが、近年、半導体や、フラットパネルなどの材料の変化に伴い、上記のトラブルが生じるリスクが出てきている。
このリスクに対して従来は想定されておらず、このため対策事例も見られない。従って、本願とは目的が相違するが、従来技術の例として本願と同じく回転翼と固定翼のコーティングに着目した特許文献1と特許文献2を挙げる。
【0008】
特許文献1は、回転翼と固定翼、及び固定翼間に設置されたスペーサにフッ素樹脂コーティングを設けて放射率を向上させた例である。
特許文献2は、回転翼に施したNiメッキの表面にエポキシ樹脂層を設けて放射率を向上させた例である。そして、樹脂層の厚みとして、数十umとすることが推奨されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-325792公報
【文献】特開2006-233978公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、樹脂層は熱伝導率が余り良くないので、樹脂層の厚さを厚くすると熱が放射され難くなる。また、樹脂層は厚くするとコストもその分高くなる。
更に、回転翼側に樹脂層を接着する場合には、樹脂層の厚みを厚くすると密着性を高く接着しておかないと表面から剥がれるおそれが生ずる。
【0011】
従って、熱の放射率を向上させるためには特許文献2で数十umと推奨されているように、金属の表面に薄くコーティングするというのが従来技術の考え方である。
しかし、数十um程度の樹脂層の厚みでは、回転翼と固定翼との接触時に容易に樹脂層は破損し、金属の母材同士が接触する。このため、火花の発生を防ぐことはできず、事故の未然防止を期待できない。
【0012】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、回転部品と固定部品が接触した際にも火花が発生しなくなり、真空容器内での爆発的反応を防止できる真空ポンプ及び該真空ポンプに備えられた保護部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このため本発明(請求項1)は真空ポンプの発明であって、外筒と、該外筒内に回転可能に支持されたロータ軸と、該ロータ軸を回転駆動する回転駆動手段と、前記ロータ軸に固定された翼列を有する金属製の回転翼と、該回転翼の翼列の間に設置された固定翼、該固定翼を所定の間隔で保持する固定翼スペーサ、及び前記回転翼の周囲に設置されたステータの内の少なくともいずれか一つで構成される金属製の静止部と、前記回転翼と前記静止部間に形成された排気流路と、前記回転翼及び前記静止部の内の少なくとも一部に、前記回転翼と前記静止部が接触したとき金属同士の接触を防止可能な厚みを有する非金属製の保護部と、前記ロータ軸を空中に浮上支持する磁気軸受と、該磁気軸受の異常時に前記ロータ軸を接触して保持する保護ベアリングとを備え、前記ロータ軸が前記磁気軸受により所定の可動幅をもって非接触で保持され、前記所定の可動幅より前記保護部が厚く形成され、かつ、前記所定の可動幅が前記保護ベアリングと前記ロータ軸間に形成されたすきまの範囲内に制限されたことを特徴とする。
【0014】
回転翼及び静止部の内の少なくとも一部に、金属同士の接触を防止可能な厚みを有する非金属製の保護部を備える。このため、回転翼と静止部が接触したときであっても、金属同士が露出して接触することがないので、火花が発生するのを防止できる。従って、固体生成物に引火し真空容器内で爆発することもない。
ロータ軸の可動幅より保護部を厚く形成することで、回転翼と静止部の金属同士の距離を、ロータ軸の可動幅より大きくとることができ、金属同士の接触防止効果が高まる。また、回転翼と静止部が接触したとき、容易に削られる材料で保護部を形成しても良いため、保護部の材料選定の幅が広がる。
回転翼と静止部が接触したとき、容易に削られる材料を選定すると、回転翼と静止部が接触したときの衝撃を緩和できるだけでなく、回転翼と静止部の間隔が拡がり、再接触が起こりにくくなるため、異常を検知した後、ポンプが完全に停止するまでに繰返し衝突することを防ぐ効果も期待できる。
【0017】
更に、本発明(請求項)は真空ポンプの発明であって、前記保護部が、0.1mm以上の厚みで形成されたことを特徴とする。
【0018】
0.1mm以上は、回転翼と静止部間が接触したときに、保護部が先に接触し削れることで母材の金属同士が露出して接触するのを避けられる寸法である。保護部は一定の硬度も有しているので、0.1mm以上の厚さとすることで、物体をはじく作用も相まって、一層効果的に母材の金属同士が露出して接触するのを避けられる。
【0019】
更に、本発明(請求項)は真空ポンプの発明であって、前記保護部が、前記ステータ、及び、前記回転翼の少なくともいずれか一方より突設された突設部の頭部に配設されたことを特徴とする。
【0020】
排気流路を挟んで、ステータや回転翼より突設された突設部の頭部に対し部分的に保護部を形成するので、使用される材料も少なく安価に構成できる。
【0021】
更に、本発明(請求項)は真空ポンプの発明であって、前記保護部が、前記回転翼及び前記静止部の少なくとも一方の前記排気流路に面する面に形成されたことを特徴とする。
【0022】
接触が想定される部位以外の排気流路にも保護部でコーティングを施す。保護部の摩擦係数は低いので表面は滑り易く、爆発の原因となる固体生成物が溜まるのを防止できる。即ち、固体生成物が圧縮の中で生成されても静止部の表面に付着せずにガスと共に押し流されていくので、固体生成物はこのエリアに溜まりにくい。このように保護部を配設することで、爆発を防止すると共に、固体生成物の蓄積防止の二重の安全策になる。
【0023】
更に、本発明(請求項)は真空ポンプの発明であって、前記保護部が、円筒状部の内周側から突設された前記回転翼と対向する螺旋状の突設部を有し、前記円筒状部の外周側が前記ステータに対して固定されたことを特徴とする。
【0024】
保護部の内周側には螺旋状の突設部が形成されていることで排気性能が確保される。排気流路に面した部分が非金属であり、回転翼と静止部が接触したときであっても金属同士が接触することがないので火花を発生しない。従って、固体生成物に引火し爆発することもない。
【0025】
更に、本発明(請求項)は真空ポンプの発明であって、前記保護部が、フッ素樹脂で形成されたことを特徴とする。
【0026】
フッ素樹脂は摩擦係数が低いため、回転翼が保護部の表面を滑り易く、衝突時の衝撃を軽減できる。このため、火花の防止効果が向上する。また、保護部からの熱の放射率も高く、保護部が回転翼と静止部間の衝突により容易には割れない程度の硬度を有する点で望ましい材料である。更に、反応生成物の付着を防止し、引火する物質を遠ざける効果も期待できる。
【0027】
更に、本発明(請求項)は真空ポンプの発明であって、前記保護部が、フッ素樹脂の粒子と該粒子を固定する樹脂からなる複合材料で形成されたことを特徴とする。
【0028】
保護部を複合材料で形成した場合には、保護部の硬度が下がりもろくなる性質を生ずる。この場合、接触したときに一定の剛性を維持しつつ、削れながら衝突の衝撃を軽減できる効果が期待できる。
【0029】
更に、本発明(請求項)は保護部の発明であって、請求項1~のいずれか一項に記載の真空ポンプに備えられた非金属で形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように本発明(請求項1)によれば、回転翼及び静止部の内の少なくとも一部に、回転翼と静止部が接触したとき金属同士の接触を防止可能な厚みを有する非金属製の保護部を備えて構成したので、回転翼と静止部が接触したときであっても、金属同士が露出して接触することがない。このため、火花が発生するのを防止できる。従って、固体生成物に引火し真空容器内で爆発することもない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1実施形態であるターボ分子ポンプの構成図
図2】回転翼及びネジ付きスペーサ周りの拡大図
図3】本発明の第2実施形態の構成図
図4】本発明の第3実施形態の構成図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1に本発明の第1の実施形態であるターボ分子ポンプの構成図を示す。
図1において、ターボ分子ポンプ10のポンプ本体100の円筒状の外筒127の上端には吸気口101が形成されている。外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードによる複数の回転翼102a、102b、102c・・・をハブ99の周部に放射状かつ多段に形成した回転体103を備える。
【0033】
この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば、いわゆる5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石が、ロータ軸113の径方向の座標軸であって互いに直交するX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接かつ対応して、コイルを備えた4個の上側径方向変位センサ107が備えられている。この上側径方向変位センサ107はロータ軸113の径方向変位を検出し、図示しない制御装置に送るように構成されている。
【0034】
制御装置においては、上側径方向変位センサ107が検出した変位信号に基づき、PID調節機能を有する補償回路を介して上側径方向電磁石104の励磁を制御し、ロータ軸113の上側の径方向位置を調整する。
ロータ軸113は、高透磁率材(鉄など)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。
【0035】
また、下側径方向電磁石105及び下側径方向変位センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向変位センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
更に、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。
【0036】
そして、軸方向電磁石106A、106Bは、図示しない軸方向変位センサの軸方向変位信号に基づき制御装置のPID調節機能を有する補償回路を介して励磁制御されるようになっている。軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bは、磁力により金属ディスク111をそれぞれ上方と下方とに吸引する。
【0037】
このように、制御装置は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。
モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置によって制御されている。
【0038】
回転翼102a、102b、102c・・・とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123a、123b、123c・・・が配設されている。回転翼102a、102b、102c・・・は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。
【0039】
そして、固定翼123の一端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125a、125b、125c・・・の間に嵌挿された状態で支持されている。
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0040】
固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設され、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間にはステータに相当するネジ付きスペーサ131が配設されている。そして、ベース部129中のネジ付きスペーサ131の下部には排気口133が形成され、外部に連通されている。
【0041】
ネジ付きスペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝132が複数条刻設されている。
ネジ溝132の螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。
【0042】
回転体103のハブ99の下端には径方向かつ水平に張出部88が形成され、この張出部88の周端より回転翼102dが垂下されている。この回転翼102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付きスペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付きスペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。
ベース部129は、ターボ分子ポンプ10の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。
【0043】
ベース部129はターボ分子ポンプ10を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
また、吸気口101から吸引されたガスがモータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向変位センサ108、上側径方向電磁石104、上側径方向変位センサ107などで構成される電装部側に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、この電装部内はパージガスにて所定圧に保たれている。
【0044】
更に、ステータコラム122の上部と下部のロータ軸113周りには、それぞれ環状の玉軸受で構成された保護ベアリング135と保護ベアリング137が配設されている。これらの保護ベアリング135、137は、回転体103の回転異常時や停電時等のように回転体103が何らかの要因で磁気浮上ができなくなったきに、回転体103が安全に非浮上状態に移行し停止できるよう設けられている。
【0045】
図2に、回転翼102d及びネジ付きスペーサ131周りの拡大図を示す。
図2において、ネジ付きスペーサ131のネジ山131a~ネジ山131eの頭部に、非金属製の保護部1a~保護部1eが周状に形成されている。また、回転翼102xの先端に対向する固定翼スペーサ125xの内周面にも保護部1xが周状に形成されている。
【0046】
次に、本発明の第1実施形態の作用について説明する。
ターボ分子ポンプ10は、高速で回転する回転翼102と、固定翼123、ネジ付きスペーサ131、固定翼スペーサ125を含む静止部とのクリアランスがきわめて小さい。そのため、排気ガスの凝固成分などの固体生成物がポンプ本体100の内部に堆積した場合や、クリープ現象により回転体が変形した場合などに、回転翼102と静止部が接触するおそれがある。
【0047】
特に、固体生成物はベース部129付近に多く堆積し易い。このため、図2に示すように、回転翼102dの外周とネジ付きスペーサ131のネジ山131a~ネジ山131eの頭部間のガス流路の狭い部分で、金属同士の接触のおそれが高い。そこで、このガス流路の狭い隙間を隔てたネジ付きスペーサ131のネジ山131a~ネジ山131eの頭部側に、非金属製の保護部1a~保護部1eを周状に形成する。また、同様にガス流路の隙間の狭い回転翼102xの先端に対向する固定翼スペーサ125xの内周面側にも保護部1xを周状に形成する。
【0048】
保護部1は、回転翼102と静止部が接触した際にも、母材の金属材料同士が接触しないために必要十分な厚みの非金属で形成する。この非金属は例えば、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、PPS(ポリフェニレンスルファイド)、ウレタン等である。この内、フッ素樹脂は、摩擦係数が低いため回転翼102が保護部1の表面を滑り易く、衝突時の衝撃を軽減できる。また、保護部1からの熱の放射率も高く、保護部1が回転翼102と静止部間の衝突により容易には割れない程度の硬度を有する点で最も望ましい材料である。更に、反応生成物の付着を防止し、引火する物質を遠ざける効果も期待できる。
【0049】
但し、保護部1は、フッ素樹脂の粒子がエポキシ樹脂、PPS等の耐熱樹脂に分散された複合材料で形成してもよい。
必要十分な保護部1の厚みとは、例えば0.1mm以上である。この厚みは、回転翼102と静止部間が接触したときに、保護部1が先に接触し削れることで母材の金属同士が露出して接触するのを避けられる寸法である。保護部1は一定の硬度も有しているので、0.1mm以上の厚さとすることで、物体をはじく作用も相まって、一層効果的に母材の金属同士が露出して接触するのを避けられる。
【0050】
また、保護部1を複合材料で形成した場合には、保護部1の硬度が下がりもろくなる性質を生ずる。この場合、接触したときに一定の剛性を維持しつつ削れながら衝突の衝撃を軽減できる効果が期待できる。
以上により、回転翼102と静止部が接触したときであっても、金属同士が露出して接触することがないので火花が発生するのを防止できる。従って、固体生成物に引火し真空容器内で爆発することもない。
【0051】
本実施形態では、ネジ付きスペーサ131のネジ山131a~ネジ山131eの頭部と、回転翼102xの先端に対向する固定翼スペーサ125xの内周面部分にだけ部分的に保護部1を形成したので、材料も少なく安価に構成できる。
【0052】
なお、図2ではガス流路の狭い隙間を隔てたネジ付きスペーサ131のネジ山131a~ネジ山131eの頭部側に、非金属製の保護部1a~保護部1eを周状に形成するとして説明をしたが、ネジ山131a~ネジ山131eの頭部に対向する回転翼102dの外周面に保護部を形成してもよい。また、対向するガス流路を隔てた両面に保護部を形成してもよい。
【0053】
同様に、ガス流路の隙間の狭い回転翼102xの先端に対向する固定翼スペーサ125xの内周面側に保護部1xを周状に形成するとして説明をしたが、回転翼102xの先端側に保護部1xを周状に形成してもよい。
保護部1は、例えばロボットで厚み管理をしつつ、スプレーで樹脂を吹きつける等の厚付き塗装で形成する。また、別途、シール状の固定部品として作成し、この固定部品をネジ付きスペーサ131のネジ山131a~ネジ山131eの頭部等に接着するようにしてもよい。
【0054】
更に、図2ではガス流路の狭い隙間を隔てたネジ付きスペーサ131のネジ山131a~ネジ山131eの頭部、及び固定翼スペーサ125xの内周面とに形成をするとして説明をした。しかしながら、固体生成物はこれらの箇所のみに堆積する訳ではなく、これらの箇所より吸気口101側のガス流路の狭い隙間を隔てた回転翼102a、102b、102c・・・、固定翼123a、123b、123c・・・、固定翼スペーサ125a、125b、125c・・・の表面に対しても堆積や付着をする可能性はある。そこで、これらの部位にも上記と同様の保護部1を形成するようにしてもよい。
【0055】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本発明の第2実施形態の構成図を図3に示す。なお、図2と同一要素については説明を省略する。図3においては、ガスの排気流路に沿ってネジ付きスペーサ131のネジ山131a~ネジ山131eの頭部、ネジ溝132の底面と側面、固定翼スペーサ125xを含むネジ付きスペーサ131の一側面全体が保護部1でコーティングされている。
【0056】
次に、本発明の第2実施形態の作用について説明する。
本発明の第2実施形態では、第1実施形態とは異なり、接触が想定される部位以外の排気流路にも保護部3でコーティングを施している。保護部3の摩擦係数は低いので表面は滑り易く、ネジ付きスペーサ131のいずれの部位にも爆発の原因となる固体生成物が溜まるのを防止できる。即ち、固体生成物が圧縮の中で生成されても、ネジ付きスペーサ131の表面に付着せずにガスと共に押し流されていくので、固体生成物はこのエリアに溜まりにくい。このように保護部3を配設することで、爆発を防止すると共に、固体生成物の蓄積防止の二重の安全策になる。
【0057】
保護部3は前述した厚付き塗装で同様に形成するようにしてもよいが、所定の厚みをもたせて型を入れて間に樹脂を流す。即ち、ネジ付きスペーサ131の表面に樹脂を注型して形成するようにしてもよい。
また、別途、注型等により保護部3を固定部品として作成し、この固定部品をステータに対して接着するようにしてもよい。更に、保護部3は図3に示す範囲を超え、吸気口101付近にまで静止部の広範囲にわたり配設するようにしてもよい。更に、保護部3は排気流路に面する回転翼102側に配設してもよい。
【0058】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
本発明の第3実施形態の構成図を図4に示す。なお、図2と同一要素については説明を省略する。図4においては、内径の異なる段差5の形成された円筒状部7の内周壁に、保護部9が接着剤若しくはボルト等により固定されている。保護部9の内周側は、ネジ付きスペーサ131の形状と同様に形成されている。即ち、ガスの排気流路に沿ってネジ山11a~ネジ山11eの頭部、ネジ溝13が刻設されている。一方、保護部9の外周側は、円筒状部7の段差5に合わせて段差が形成されている。保護部9の上部には、固定翼スペーサ125xの部位に相当する壁部11xが突設されている。
【0059】
次に、本発明の第3実施形態の作用について説明する。
円筒状部7の内周壁に、保護部9が段差5を介して確実に固定される。保護部9の内周側には、ネジ溝13が形成されていることで排気性能が確保される。排気流路の静止部側が樹脂なので、第1実施形態、第2実施形態と同様の効果が期待できる。
【0060】
なお、保護部9は別途、樹脂の固定部品として成形する。また、回転翼102、張出部88、回転翼102d側に成形した保護部9を固着するようにしてもよい。また、回転翼102、張出部88、回転翼102dの全体を保護部9の固定部品として成形してもよい。
【0061】
次に、保護部を配設したときの保護ベアリングとの相乗作用について説明する。
保護ベアリング135と保護ベアリング137が配設されていることで、回転体103の回転異常時等でもロータ軸113の変動は一定の範囲内に制限される。この範囲は例えば保護ベアリングの隙間である0.1mmである。
【0062】
保護部1、3、9が設けられていない場合には、この隙間の大きさは変化することはない。このため、ネジ付きスペーサ131と回転翼102の金属同士が衝突すると衝突時の衝撃の大きいままに衝突が繰り返される。このため、保護ベアリング135、137でなかなか衝撃を抑制できないおそれがある。
【0063】
これに対し、保護部1、3、9が設けられた場合には、衝突に伴い樹脂が削れることで例えば0.2mm等隙間が広がり、それ以上接触が起こるのを防ぐことができる。このため、保護ベアリング135、137で衝撃が抑制され易い。
このとき、保護部全体を一様な厚みで形成せず、マス目状に数mmおきに切れ目、または、厚みが薄い部分を設けると、接触時にも、保護部全体が剥がれることなく、接触部とその周辺のみが削られるようにできる。但し、縦方向若しくは横方向にのみ切れ目等を設けるようにしてもよい。
これにより、回転体103を停止させるという保護ベアリング135、137の機能を安定的に向上させることができる。
なお、上記の各実施形態の説明では、ネジ山131a~ネジ山131eをネジ付きスペーサ131の内周面側に配設するとして説明をした。しかしながら、このネジ山131a~ネジ山131eを、ネジ付きスペーサ131の内周面側ではなく、回転翼102dの外周面側に配設しても良い。
また、ネジ付きスペーサ131を円板状とし、ネジ山131a~ネジ山131eをこの円板の平面上に渦巻き状に突設させる。そして、この突設された面を、円板状に形成された回転翼102に対し、排気流路を介して対向するように構成しても良い。
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が当該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0064】
1、3、9 保護部
7 円筒状部
10 ターボ分子ポンプ
11 ネジ山
13 ネジ溝
100 ポンプ本体
102 回転翼
103 回転体
113 ロータ軸
121 モータ
123 固定翼
125 固定翼スペーサ
127 外筒
129 ベース部
131 ネジ付きスペーサ
132 ネジ溝
135、137 保護ベアリング
図1
図2
図3
図4