IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社鷺宮製作所の特許一覧

<>
  • 特許-温度式膨張弁及び冷凍サイクルシステム 図1
  • 特許-温度式膨張弁及び冷凍サイクルシステム 図2
  • 特許-温度式膨張弁及び冷凍サイクルシステム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】温度式膨張弁及び冷凍サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
   F25B 41/335 20210101AFI20230912BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20230912BHJP
   H05K 7/20 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
F25B41/335 E
F25B1/00 304S
H05K7/20 Q
H05K7/20 U
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019137825
(22)【出願日】2019-07-26
(65)【公開番号】P2021021527
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2021-03-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 裕正
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐一
(72)【発明者】
【氏名】當山 雄一郎
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】槙原 進
【審判官】水野 治彦
(56)【参考文献】
【文献】特許第3758074(JP,B2)
【文献】特開平5-172275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 41/335
F25B 1/00
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、凝縮器と、蒸発器と、前記凝縮器と前記蒸発器との間に設けられた絞り装置と、を含む冷凍サイクルシステムにおける前記絞り装置として用いられる感温部を備えた温度式膨張弁において、
冷却対象であるとともに前記蒸発器に接触して併設される発熱体の使用温度範囲にて、蒸発器出口冷媒が湿り蒸気となり、蒸発器出口が常に過熱度がつかない状態となるように、前記感温部に所定量かつ所定種別のガスが封入されることで、前記発熱体の前記使用温度範囲の全域において二次圧力に対する弁開き始め温度が冷媒飽和温度より低く設定されていることを特徴とする温度式膨張弁。
【請求項2】
前記発熱体の熱負荷変動時に弁が公称能力時の開度となった場合でも、前記蒸発器出口における冷媒が常に湿り蒸気となるように、弁が公称能力時の開度となる温度を、冷媒飽和温度よりも低く設定されていることを特徴とする請求項1に記載の温度式膨張弁。
【請求項3】
前記発熱体の熱負荷変動時に弁が全開になった場合でも、前記蒸発器出口における冷媒が常に湿り蒸気となるように、弁全開となる温度が、冷媒飽和温度よりも低く設定されていることを特徴とする請求項1に記載の温度式膨張弁。
【請求項4】
内部均圧式であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の温度式膨張弁。
【請求項5】
前記蒸発器出口における冷媒が常に湿り蒸気となるように、二次圧力に対する弁開き始め温度が、冷媒飽和温度よりも前記蒸発器の圧力損失分の冷媒飽和相当温度だけ低く設定されていることを特徴とする請求項4に記載の温度式膨張弁。
【請求項6】
圧縮機と、凝縮器と、蒸発器と、前記凝縮器と前記蒸発器との間に設けられた絞り装置とを含む冷凍サイクルシステムであって、請求項1乃至のいずれか一項に記載の温度式膨張弁が、前記絞り装置として用いられていることを特徴とする冷凍サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却装置等の冷凍サイクルシステムにおいて蒸発器の冷却能力を制御する温度式膨張弁及び冷凍サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば情報処理分野において、サーバ等の大量に発熱するシステムを冷却することが行われている。この際、発熱素子を許容温度内の一定温度に維持する必要があるため、冷却装置の蒸発器の冷却能力を制御する必要がある。このような冷却装置として、温度式膨張弁により冷却能力を制御するものが、例えば特許第3758074号公報(特許文献1)に開示されている。この特許文献1のものは、蒸発器(コールドプレート)の後段に加熱部を設け、加熱部の下流に感温筒を取り付けて過熱度を制御することにより、蒸発器出口における冷媒状態を湿り蒸気となるようにするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3758074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の従来の技術では、冷却装置のシステムに加熱部と加熱制御部とを設ける必要があり、システム構成が煩雑になるという問題がある。
【0005】
本発明は、簡単な構成で、蒸発器出口での冷媒状態を安定して湿り蒸気となるように制御できる温度式膨張弁及び冷凍サイクルシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の温度式膨張弁は、圧縮機と、凝縮器と、蒸発器と、前記凝縮器と前記蒸発器との間に設けられた絞り装置と、を含む冷凍サイクルシステムにおける前記絞り装置として用いられる感温部を備えた温度式膨張弁において、冷却対象であるとともに前記蒸発器に接触して併設される発熱体の使用温度範囲にて、蒸発器出口冷媒が湿り蒸気となり、蒸発器出口が常に過熱度がつかない状態となるように、前記感温部に所定量かつ所定種別のガスが封入されることで、前記発熱体の前記使用温度範囲の全域において二次圧力に対する弁開き始め温度が冷媒飽和温度より低く設定されていることを特徴とする。
【0007】
このような本発明の温度式膨張弁によれば、感温部で検知される温度が高いほど冷媒流量が増加するように設定されており、冷却対象である発熱体の使用温度範囲にて、蒸発器出口冷媒が湿り蒸気となり、蒸発器出口が常に過熱度がつかない状態となるように、二次圧力に対する弁開き始め温度が冷媒飽和温度より低く(すなわち冷媒の液相の範囲に)設定されている。したがって、この温度式膨張弁を用いた冷凍サイクルシステムにより冷凍装置を構成すると、蒸発器出口の冷媒状態が安定して湿り蒸気となり、発熱体を均一に冷却できて発熱体の温度分布を均一に保つことができる。
【0008】
この際、前記発熱体の熱負荷変動時に弁が公称能力時の開度となった場合でも、前記蒸発器出口における冷媒が常に湿り蒸気となるように、弁が公称能力時の開度となる温度を、冷媒飽和温度よりも低く設定されていることを特徴とする温度式膨張弁が好ましい。
【0009】
また、前記発熱体の熱負荷変動時に弁が全開になった場合でも、前記蒸発器出口における冷媒が常に湿り蒸気となるように、弁全開となる温度が、冷媒飽和温度よりも低く設定されていることを特徴とする温度式膨張弁が好ましい。
【0010】
また、この際、内部均圧式であることを特徴とする温度式膨張弁が好ましい。
【0011】
また、前記蒸発器出口における冷媒が常に湿り蒸気となるように、二次圧力に対する弁開き始め温度が、冷媒飽和温度よりも前記蒸発器の圧力損失分の冷媒飽和相当温度だけ低く設定されていることを特徴とする温度式膨張弁が好ましい。
【0013】
また、本発明の冷凍サイクルシステムは、圧縮機と、凝縮器と、蒸発器と、前記凝縮器と前記蒸発器との間に設けられた絞り装置とを含む冷凍サイクルシステムであって、前記いずれかの温度式膨張弁が、前記絞り装置として用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の温度式膨張弁及び冷凍サイクルシステムによれば、簡単な構成で、蒸発器出口での冷媒状態を安定して湿り蒸気となるように制御でき、冷却装置において発熱体を均一に冷却できて発熱体の温度分布を均一に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態の温度式膨張弁を用いた冷却装置の冷凍サイクルシステムの要部を示す図である。
図2】実施形態の温度式膨張弁における空気特性を示す図である。
図3】従来の温度式膨張弁における空気特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の温度式膨張弁及び冷凍サイクルシステムの実施形態について図面を参照して説明する。図1は実施形態の温度式膨張弁を用いた冷却装置の冷凍サイクルシステムの要部を示す図である。図1において、10は温度式膨張弁、20は圧縮機、30は凝縮器、40は蒸発器、50はアキュムレータであり、これらは配管で環状に接続することにより冷凍サイクルシステムを構成している。温度式膨張弁10は、弁本体部1、ダイヤフラム装置2、例えば従来の感温筒と同様な感温部3、及びキャピラリチューブ4を有している。弁本体部1の一次側継手管1aは凝縮器30の出口側配管30aに接続され、二次側継手管1bは蒸発器40の入口側配管40aに接続されている。そして、蒸発器40は冷却対象である発熱体100に接触して併設され、この蒸発器40の出口側配管40bに感温部3(感温筒)が取り付けられている。なお、発熱体100は、例えばメモリやCPU等の発熱素子などであり、この発熱体100の発熱体熱負荷の挙動は既知である。なお、以下の説明で、「温度式膨張弁」を適宜「膨張弁」とも表現する。
【0017】
圧縮機20は冷凍サイクルシステムを流れる冷媒を圧縮し、圧縮された冷媒は凝縮器30で凝縮液化され、一次側継手管1aを通して弁本体部1に流入される。弁本体部1は流入される冷媒を減圧(膨張)して二次側継手管1bから蒸発器40に流入させる。蒸発器40は冷媒の一部を蒸発気化し、気液混合状態の冷媒がアキュムレータ50に流入し、このアキュムレータ50から気相冷媒が圧縮機20に循環される。そして、蒸発器40は、冷媒の一部を蒸発気化することで、発熱体100から熱を吸収する。これにより発熱体100が冷却される。また、感温部3には、吸着チャージによりガスが封入されており、この感温部3はキャピラリチューブ4によりダイヤフラム装置2に連結されている。
【0018】
温度式膨張弁10の機械的な構成としては、広く知られている一般的なものを採用することができる。例えば、ダイヤフラム装置2は、キャピラリチューブ4によって感温部3に接続された受圧室と均圧室とを、ダイヤフラムにより区画するよう構成されている。なお、この実施形態の温度式膨張弁10は内部均圧式であるが、外部均圧式の場合は均圧室は蒸発器40の出口側配管40bに導通される。弁本体部1は、ダイヤフラムに連結された弁体により、一次側継手管1aと二次側継手管1bとの間に形成された弁ポートの弁開度を調整するよう構成されている。そして、感温部3による感知温度に応じて変化する受圧室の内圧に応じて冷媒を流す弁ポートの弁開度を変化させ、蒸発器40へ供給する冷媒の流量制御を行う。
【0019】
また、実施形態の温度式膨張弁10は以下のように設定されている。図2は実施形態の温度式膨張弁10における空気特性の概略図、図3は従来の温度式膨張弁における空気特性の概略図の一例であり、これらの空気特性は、感温部3で検知される感温部温度「T」と二次側継手管1bの圧力である二次圧力「P」に対して、弁が全開となる「全開特性」のライン、「公称能力弁開特性」のライン、弁の開き始めを示す「静止過熱度(SSH)」のラインを図示したものである。
【0020】
図2に示すように、実施形態の温度式膨張弁10においては、発熱体100における使用温度範囲は予め決められている。そして、この使用温度範囲において、「静止過熱度」(SSH)が、冷媒飽和線よりも左側(液相側)に設定されている。すなわち、この使用温度範囲において、二次圧力に対する弁開き始め温度が冷媒飽和温度(冷媒飽和線上の温度)より低く設定されている。また、「公称能力弁開特性」のラインと「全開特性」のラインも、同様に、使用温度範囲において冷媒飽和線よりも左側(液相側)に設定されている。したがって、蒸発器40の出口の冷媒状態が安定して湿り蒸気となるため、発熱体100の温度分布を均一に保つことができ、発熱体100の部分劣化が回避できる。
【0021】
実施形態の温度式膨張弁10は内部均圧式であるが、外部均圧式の温度式膨張弁や、蒸発器の圧力損失が殆どない場合の内部均圧式の温度式膨張弁では、上記のように、二次圧力に対する弁開き始め温度を冷媒飽和温度より低く設定する、という構成でよい。なお、蒸発器(膨張弁から蒸発器出口までの間)の圧力損失が大きい場合の内部均圧式の温度式膨張弁では、二次圧力に対する弁開き始め温度を冷媒飽和温度よりも圧力損失分の冷媒飽和相当温度だけ低く設定する、という構成をさらに備えていればよい。これは、蒸発器の圧力損失が大きい場合、圧力損失分だけ、蒸発器40の出口配管の内圧が二次圧力(膨張弁出口圧力)より下がるため、蒸発器40の出口配管内の冷媒状態が、過熱蒸気となる可能性があるため、これを回避するためである。
【0022】
したがって、このように弁開き始め温度を設定することで、圧力損失の大きい蒸発器40で内部均圧式の温度式膨張弁であっても、蒸発器40の出口の冷媒状態が安定して湿り蒸気となるため、発熱体100の温度分布を均一に保つことができ、発熱体100の部分劣化が回避できる。圧力損失の大きい蒸発器40であっても、上述の様に、外部均圧方式の温度式膨張弁では圧力損失の影響を受けない為、内部均圧式の温度式膨張弁のように圧力損失分の冷媒飽和相当温度分だけ弁開き始め温度をさらに低く設定すること(SSHラインの左側へのシフト)は不要である。
【0023】
なお、従来の温度式膨張弁では過熱度制御を行うため、図3に示すように、「静止過熱度(SSH)」のラインを冷媒飽和線より右側(気相側)に設定している。「公称能力弁開特性」のラインと「全開特性」のラインも、同様に冷媒飽和線より右側(気相側)に設定している。このため、蒸発器の出口の冷媒状態を湿り蒸気とすることができず、発熱体の温度分布を均一に保つことができない。これに対して、本発明では、温度式膨張弁が前記のように設定されているので、発熱体の温度分布を均一に保つことができる。
【0024】
また、感温部3は吸着チャージにより構成されているので、前記のようなSSHライン等を冷媒飽和線よりも左側(液相側)にする設定が容易にできる。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述し、その他の実施形態についても詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0026】
1 弁本体部
2 ダイヤフラム装置
3 感温部
4 キャピラリチューブ
10 温度式膨張弁
20 圧縮機
30 凝縮器
40 蒸発器
40a 入口側配管
40b 出口側配管
50 アキュムレータ
100 発熱体
図1
図2
図3