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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】立体感を有するデザイン織物
(51)【国際特許分類】
   D03D 25/00 20060101AFI20230912BHJP
   D03D 15/54 20210101ALI20230912BHJP
   D03D 15/547 20210101ALI20230912BHJP
【FI】
D03D25/00 101
D03D15/54
D03D15/547
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019184597
(22)【出願日】2019-10-07
(65)【公開番号】P2021059809
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000148151
【氏名又は名称】株式会社川島織物セルコン
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 芽依子
(72)【発明者】
【氏名】平井 義久
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-323950(JP,A)
【文献】特開平08-209485(JP,A)
【文献】特開2014-173219(JP,A)
【文献】特開2009-174065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18、
D03C1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸及び緯糸のうち一方は非光沢糸からなり、
経糸及び緯糸のうち他方は光沢糸と非光沢糸とを含み、
明度が異なる複数の構成単位の組み合わせによって模様が現わされた織物であって、
前記構成単位のうち、最も明度が低い構成単位と最も明度が高い構成単位との明度の差が3以上25以下であり、
前記最も明度が低い構成単位は、その表面に光沢糸が露出しておらず、
前記最も明度が高い構成単位は、その表面に光沢糸が露出している、織物。
【請求項2】
前記構成単位のうち2番目に明度が高い構成単位は、その表面に光沢糸が露出しており、かつ、
前記最も明度が高い構成単位は、前記2番目に明度が高い構成単位よりも光沢糸の露出度が高い、請求項1に記載の織物。
【請求項3】
前記最も明度が高い構成単位は、その表面において、光沢糸の露出度が60%以上である、請求項1又は2に記載の織物。
【請求項4】
前記経糸が非光沢糸からなり、
前記緯糸が光沢糸と非光沢糸とを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の織物。
【請求項5】
前記最も明度が低い構成単位は、その表面において、緯糸である非光沢糸の露出度が60%以上である、請求項4に記載の織物。
【請求項6】
前記模様において、
前記最も明度が高い構成単位と2番目に明度が高い構成単位とが隣接し、
かつ/または
前記最も明度が低い構成単位と2番目に明度が低い構成単位とが隣接している、
請求項1~5のいずれか1項に記載の織物。
【請求項7】
前記構成単位の数が4以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の織物。
【請求項8】
前記模様が、明度の異なる構成単位を組み合わせることによって立体感を演出したデザイン模様である、請求項1~7のいずれか1項に記載の織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織組織によって立体感が表現されたデザイン織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立体感が表現されたデザイン織物として、嵩高糸や収縮糸を利用して織物の表面に立体的形状を作り出したものが知られている。例えば特許文献1には、ゴブラン織物において、風景や模様等の図柄の一部に立体的形状を施し、図柄のデザインが強調された織物が記載されている。特許文献1の織物は、表面層、中間層、裏面層の3層構造の織物において、中間層に収縮糸や嵩高糸を用いることによって、中間層を収縮あるいは膨張させて、織物に立体形状を作り出すものである。
【0003】
また、特許文献2には、絵柄織物の絵柄の立体感を高めることを目的として、経糸と緯糸のそれぞれに収縮率の異なる複数種類の糸を用いることが記載されている。特許文献2の絵柄織物は、非風通組織部分と風通組織組織部分とを備えており、織物を構成する糸を加熱等によって収縮させたとき、風通部分における膨出の度合いが特に大きくなることによって、図柄の立体感を表現できることが記載されている。また特許文献2は、立体構造をなす膨出図形の中心部分に明度の高い糸を織り込むとともに、膨出図形の周辺部には明度の低い糸を織り込むことによって、立体構造を強調できることを開示している。
特許文献1,2はいずれも、織物の表面に実際に立体的形状を作り出すことによって、立体感を感じさせるデザインを実現するものである。
【0004】
一方で、色彩や光の反射を利用して、平面織物でありながら立体感や奥行きのある模様を演出することも提案されている。例えば特許文献3には、立方体や直方体が浮かび上がって見える立体柄の織物であって、平織組織を基本とし、立方体や直方体の各稜に相当する部分を特定の綾織組織で表現するものが記載されている。特許文献3の織物は、立方体や直方体の各稜に相当する部分に浮き織である綾織を採用することによって光の反射を大きくし、逆に平織部分は沈み込んで見えることによって立体感を演出できることが記載され、糸の種類としてはブライト糸が好ましいとの記載がある。
【0005】
また、特許文献4には、織編物において図柄を表現するために、元の図案を多値化(例えば7値化)し、それぞれの領域に色の濃度が異なる組織をあてはめることによってグラデーションを表現すること、また、元の図案をディザリング処理し、ディザリング処理された黒白ドットのそれぞれに色の濃度の異なる2種類の織編組織を当てはめることで図柄を表現することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-192945号公報
【文献】特開2016-60998号公報
【文献】特開2003-342855号公報
【文献】特開2016-125177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、立体感を有する織物を得る手法として、実際に立体的形状を作り出すこと、明度差によって陰影を表現すること等が公知であった。
しかしながら、表面に立体的形状を有する織物は、趣味性の高いものになりがちで用途は限定的であり、また、複雑で特殊な製造工程を必要とする等、製造における制約が多いこともあった。一方、模様の明度差を利用して立体感を生じさせる織物は、汎用的な製造方法で製造することができたが、模様の大きさや形状によっては見る者に対して「酔い」を感じさせることがあった。(ここで「酔い」とは、圧迫感や違和感、平衡感覚の軽い失調等が混在する感覚のことをいう。)すなわち、明度差を利用して立体感を表現した織物は、必ずしも快適な感覚や居心地のよい環境を提供できるものではなかった。
【0008】
これらの状況に鑑み、本発明は、立体感を有しながらも酔う感覚を生じさせず、デザイン性が高く、快適な感覚、居心地のよい環境を提供することができるデザイン織物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは前述の課題に対して検討を進め、酔うという感覚は、織物の模様において陰影の表現に用いられる明度の差が要因であることを確認した。発明者らはさらに検討を進め、明度差を一定値以下とすることで「酔う」感覚を抑制できることを見出し、それに加えて、明度差を一定の範囲としつつ表面光沢の異なる複数の組織を組み合わせることによって、優れた立体感を演出しながらも酔いが生じず、快適な感覚を与え、美観にも優れる織物を提供できることを見出して、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本願発明は次の構成を有する。
[1]経糸及び緯糸のうち一方は非光沢糸からなり、
経糸及び緯糸のうち他方は光沢糸と非光沢糸とを含み、
明度が異なる複数の構成単位の組み合わせによって模様が現わされた織物であって、
前記構成単位のうち、最も明度が低い構成単位と最も明度が高い構成単位との明度の差が3以上25以下であり、
前記最も明度が低い構成単位は、その表面に光沢糸が露出しておらず、
前記最も明度が高い構成単位は、その表面に光沢糸が露出している、織物。
【0011】
[2]前記構成単位のうち2番目に明度が高い構成単位は、その表面に光沢糸が露出しており、かつ、
前記最も明度が高い構成単位は、前記2番目に明度が高い構成単位よりも、光沢糸の露出度が高い、[1]に記載の織物。
[3]前記最も明度が高い構成単位は、その表面において、光沢糸の露出度が60%以上である、[1]又は[2]に記載の織物。
【0012】
[4]前記経糸が非光沢糸からなり、
前記緯糸が光沢糸と非光沢糸とを含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の織物。
【0013】
[5]前記最も明度が低い構成単位は、その表面において、緯糸である非光沢糸の露出度が60%以上である、[4]に記載の織物。
【0014】
[6]前記模様において、
前記最も明度が高い構成単位と前記2番目に明度が高い構成単位とが隣接し、
かつ/または
前記最も明度が低い構成単位と2番目に明度が低い構成単位とが隣接している、
[1]~[5]のいずれか1項に記載の朱子織物。
【0015】
[7]前記構成単位の数が4以上である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の織物。
[8]前記模様が、明度の異なる構成単位を組み合わせることによって立体感を演出したデザイン模様である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の織物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の織物は、平面織物でありながら立体感を有するデザインが施されており、かつ、酔いが生じず快適で居心地のよい環境を提供することができる。本発明の織物は明度の幅が比較的小さいことから、上品で落ち着いた印象を与えつつ、同時に立体感を感じさせることができる。本発明の織物は、特殊な材料や製造方法、加工方法によることなく製造することが可能であり、合理的なコストで安定して高品質の立体感を有するデザイン織物を提供することができる。また本発明の織物は、特定の模様、図柄あるいは色調に制限されることがなく、立体感を有する任意のデザインを織り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の織物の一例を示す。
図2】フルカラーの図案、及び、当該図案を明度の異なる7つの構成単位に分けた状態を示す。
図3図2に示される各構成単位に割り当てられる組織を示す。
図4】本発明の織物の他の例を示す。
図5】本発明の織物の他の例を示す。
図6】本発明の織物の他の例を示す。
図7】本発明の織物の他の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の織物を説明する。但し、複数の図面に記載された同じ構成には同じ符号を付し、説明を省略することがある。なお、本明細書において、「表面」とは、使用時に目に触れやすい、意図されたデザインが表現されている面を意味し、「裏面」とはその反対側の面を意味する。また、経(経糸)および緯(緯糸)という文言は、織物の製造における通常の意味で用いられており、使用時や施工時には織物を任意の方向に回転させて配置することがありえることは言うまでもない。
【0019】
本願発明の織物は、経糸及び緯糸のうち一方は非光沢糸からなり、経糸及び緯糸のうち他方は光沢糸と非光沢糸とを含む。ここで、本明細書において「光沢糸」とは、無機系酸化物等(例えば二酸化チタン等)である艶消し剤の含有量が0%ないしほぼ0%であり光沢を有するスーパーブライト糸、及び、艶消し剤の含有量が約0.2重量%以下であり光沢を有するブライト糸を含み、またそれらに制限されず、シルク糸やキュプラ糸、アセテート糸等も含む、表面に光沢を有する糸を意味する。一方、「非光沢糸」とは、艶消し剤の含有量が約0.2重量%を超えるセミダル糸及びフルダル糸を含み、またそれらに制限されず、綿糸、麻糸、羊毛糸も含む、表面に光沢を有さない糸を意味する。
【0020】
本発明の織物は、立体感を有するデザイン模様が、明度が異なる複数の構成単位の組み合わせによって織物の表面に現わされており、最も明度が低い構成単位と最も明度が高い構成単位との明度の差が3以上25以下であるという特徴を有する。模様において組み合わされる構成単位の数は、4以上であることが好ましく、6以上であればより好ましく、7以上であればデザインの繊細さと立体感に特に優れた織物となるためとりわけ好ましい。
【0021】
各構成単位はその織組織が互いに異なる。より具体的にいえば、各構成単位は、表面に露出する経糸および緯糸の割合ないし種類が相違しており、その相違によって明度及び/又は光沢の違いが生じている。本発明の織物では、最も明度が低い構成単位と最も明度が高い構成単位との明度の差が3以上25以下であることに加えて、最も明度が低い構成単位はその表面に光沢糸が露出しておらず、最も明度が高い構成単位はその表面に光沢糸が露出しているという特徴を有する。従来、明度の異なる組織の組み合わせ、つまりコントラストによって立体感を演出することが公知であったところ、本願発明では、明度の違いを利用することに加えて光沢の異なる構成単位を用いることによって、明度の幅が小さくても豊かな立体感を表現し、酔いが生じず快適な感覚を与える織物が提供される。
【0022】
図1は、本発明の実施態様の一例である麻の葉模様の織物を示す。図1に示された織物は、経糸として非光沢糸、緯糸として光沢糸および非光沢糸を用いて織成された織物である。以下に図1の織物について詳述する。
【0023】
図2A図1の織物の元図案を示し、図2Bは元図案を明度に応じて7値化し、明度の異なる7つの構成単位によって表現されるよう変換した状態を示す。図2B中に付された(1)から(7)までの数字は、明度が低い方から順番に付されている。なお、織物の模様を構成する構成単位の数は、図2に示す例では7であるが、4以上の任意の数とすることができる。元図案を多値化する際には、例えば、Photoshop(登録商標)等の公知の画像処理ソフトウェアや画像処理手法を用いることができ、特に制限されない。また、元図案の色調を減色化する方法以外に、図案の作成当初から、使用する構成単位の数に応じた色数で図案を作成してもよい。
【0024】
本発明において、明度の異なる構成単位は意図するデザインに応じて配置されればよく、その配置は特に制限されないが、例えば、最も明度が高い構成単位(7)と2番目に明度が高い構成単位(6)とが隣接するように配置されていること、また、最も明度が低い構成単位(1)と2番目に明度が低い構成単位(2)とが隣接するように配置されていれば、なめらかで自然な立体感が表現されるため、より好ましい。
【0025】
図3は、図2Bの(1)~(7)の各構成単位に割り当てる7種類の織組織図の例である。各組織図において、薄灰色のマスは経糸が浮いていることを示し、白のマスは緯糸1丁目(以下、緯糸1と記載することがある)が浮いていること、濃灰色のマスは緯糸2丁目(以下、緯糸2と記載することがある)が浮いていることを表す。糸種類の選択は、本発明の効果を生じる限り特に制限されないが、例えば、経糸として非光沢糸を用い、緯糸1として光沢糸、緯糸2として非光沢糸を用いることによって、3種類の糸によって7種の組織を効率よく織り出すことができる。なお、本明細書において、経糸(緯糸)の露出度とは、織物の表面の構成を図3に示されるような組織図で表現するとき、全マスのうち経糸(緯糸)が占める割合のことを意味する。現実の織物では、織物の内側や裏面に位置する糸が表面から若干視認されることもあるが、これらは露出度の算出には含めない。
【0026】
図3に示される実施態様では、経糸、緯糸1及び緯糸2のうち、緯糸1の明度が最も高く、緯糸2の明度が最も低く、経糸の明度はそれらの中間である。しかしながら、例えば、経糸として緯糸1及び緯糸2よりも明度が高い糸を採用することも可能であり、本発明の効果を得られる限りにおいてこの順番は制限されない。
【0027】
図3を参照して、最も明度が低い構成単位(1)は5枚緯朱子組織であり、その表面は、いずれも非光沢糸である経糸および緯糸2から構成されており、言い換えると、その表面には非光沢糸のみが露出している。また、緯糸2の露出度は80%である。2番目に明度が低い構成単位(2)は5枚変化朱子組織であり、構成単位(1)と同様に、その表面は非光沢糸である経糸および緯糸2から構成されている。構成単位(2)では、緯糸2の露出度は60%である。続いて、3番目に明度が低い構成単位(3)は、5枚経朱子組織であり、緯糸2の露出度は20%である。なお、図3に示された実施態様では、最も明度が低い構成単位(1)における緯糸2の露出度を80%としているが、この値に制限されるものではなく、例えば、最も明度が低い構成単位における緯糸の露出度を60%とし、2番目、3番目に明度が低い構成単位における緯糸の露出度をそれぞれ40%、20%とする等、デザインに応じて変更することができる。緯糸2は経糸よりも明度が低い糸であることから、織物表面における緯糸2の露出度が大きいほど、明度の低い構成単位を得ることができる。
【0028】
また、図3を参照して、最も明度が高い構成単位(7)は10枚緯朱子組織であり、その表面は、非光沢糸である経糸と光沢糸である緯糸1とから構成されている。つまり、構成単位(7)の表面には光沢糸が露出しており、その露出度は90%である。2番目に明度が高い構成単位(6)は5枚緯朱子組織であり、光沢糸の露出度は80%である。また、3番目に明度が高い構成単位(5)及び4番目に明度が高い構成単位(4)は5枚変化朱子組織であり、光沢糸の露出度はそれぞれ、60%、40%である。なお、図3に示された実施態様では、最も明度が高い構成単位での緯糸1の露出度を90%としているが、この値に制限されるものではなく、例えば、最も明度が高い構成単位における緯糸の露出度を80%とし、2番目、3番目、4番目に明度が高い構成単位における緯糸の露出度をそれぞれ60%、40%、20%とする等、デザインに応じて変更することができる。最も明度が高い構成単位において、光沢糸の露出度を60%以上とすることが好ましい。緯糸1は経糸よりも明度が高く、かつ光沢糸であることから、織物表面における緯糸1の露出度を段階的に高くしていくことによって、より明度が高く光沢の大きな構成単位を得ることができる。
【0029】
上述のとおり、図3に示される実施態様では、7種の構成単位のうち、最も明度の低いもの(構成単位(1))から3番目に明度の低いもの(構成単位(3))まで3種の構成単位ではその表面に非光沢糸のみが露出しており、最も明度の高いもの(構成単位(7))から4番目に明度の高いもの(構成単位(4))まで4種の構成単位ではその表面に光沢糸が露出している。しかしながら、この構成は発明の効果を得られる限り特に制限されず、目的とするデザインに応じて変更できる。例えば、構成単位(1)~(4)までを非光沢糸のみが露出するものとしてもよいし、構成単位(7)、(6)の2種のみを光沢糸が露出するものとしてもよい。少なくとも、最も明度の低いもの(構成単位(1))及び2番目に明度の低いもの(構成単位(2))を非光沢糸のみが露出するものとし、かつ、最も明度の高いもの(構成単位(7))及び2番目に明度の高いもの(構成単位(6))を光沢糸が露出するものとすることがより好ましい。
【0030】
本発明の織物において、図3に示す一連の織組織は一例に過ぎず、構成単位の一部又は全部が別の組織であってもよい。例えば、各構成単位を8枚朱子組織からなるものとしてもよいし、一連の織組織の一部として平織組織を用いることもできる。また、経糸として光沢糸及び非光沢糸を併用し、緯糸として非光沢糸を用いることもできる。但し、安定生産性や品質安定性を考慮すると、経糸として非光沢糸のみを用い、緯糸として光沢糸及び非光沢糸を用いることがより好ましい。なお、本発明において、「非光沢糸からなる」あるいは「非光沢糸のみ」という表現は、厳密な意味において100%が非光沢糸である場合のみを意味するものではなく、製造上あるいはその他の理由で、本発明の効果を損なわない程度に少数の光沢糸が非光沢糸の中に混在している場合も含む。
【0031】
図1に示される織物の経糸として用いた非光沢糸は、セミダル糸であるポリエステルウーリー加工糸(繊度84dtex)であるが、糸の繊度や形態、材質は、本発明の効果を得られる限り特に制限されず、目的とするデザインやテクスチャによって適宜選択できる。また、緯糸1として用いた光沢糸は、マルチフィラメントのブライト糸であるポリエステルウーリー加工糸(167dtex)であるが、同じく糸の繊度や形態、材質は、本発明の効果を得られる限り特に制限されない。本発明において、光沢糸としては、繊維断面の形状が円形である丸断面糸のほか、繊維断面が三角形、扁平、多葉状、Y字状等である異形断面ブライト糸を用いることも好ましい。異形断面ブライト糸を用いると、光沢糸が露出する構成単位において、表面光沢が大きくなり、明度が低く光沢糸の露出が無い構成単位との光沢の差が大きくなる。光沢糸として異形断面ブライト糸を用いる場合、明度の差が小さくても立体感が得られやすく、かつ酔い感が抑えられるため好ましい。
【0032】
本発明の織物は、最も明度が低い構成単位と最も明度が高い構成単位との明度の差が3以上25以下であることを特徴とし、明度の差は5~20であればより好ましく、5~15であればさらに好ましい。また、具体的な明度の値は、目的のデザインや色調によって任意に選択でき特に制限されないが、例えば、最も明度が高い部分の明度を80~90程度、最も明度が低い部分の明度を60~80とすることができる。なお、本発明において「明度」とは、JIS Z 8729:2004に基づくL表色系においてLの数値として表される指標を意味しており、市販の測定機器で測定することができる。測定条件の詳細は実施例に詳述される。
【0033】
本発明の織物における糸の密度は特に制限されず、目的のデザインや質感に応じて適宜設定することができる。例えば、経密度は350~1400本/10cmとすることができ、緯密度は150~800本/10cmとすることができる。
【0034】
本発明の織物は、任意のデザイン模様において立体感を発揮するものであり、ストライプやドット等を含む各種の幾何学模様、風景や草花等を表した具象柄、抽象柄、またそれらの組み合わせ等、制限されない。また、織物の全長全幅にわたって模様が現わされたものばかりでなく、地組織上に模様が連続的あるいは分散的に配置されたものであってもよく、任意のデザインとすることができる。図4図7に本発明の織物の別の実施例を示す。
織物の色調も特に制限されるものではなく、モノトーンであってもよく、カラーであってもよく、彩度や色相は任意に設定することができる。
【0035】
本発明の織物の製造は公知の方法によることができ、典型的には、前述の複数の織組織の組み合わせをジャカードデータに変換し、ジャカード織機によって織成することができる。
【0036】
本発明の織物の用途は特に制限されず、建築用インテリア用品、各種の表皮材等の車両用内装材等が挙げられる。建築用インテリア用品としては、壁装材、カーテン等のほか、椅子張り、クッション等の家具やインテリア小物が挙げられる。また、かばんや財布等のファッション小物、衣料品等に利用することもできる。車両用内装材としては、例えば、乗用車、バス、鉄道車両等の車両におけるインテリア部品やシートファブリック等が挙げられる。
【0037】
本発明の織物は、耐久性、安全性、加工容易性等の観点から、織成後に物理的あるいは化学的な各種加工を加えられてもよい。加工としては例えば、バックコーティング、グラビアコート、ラミネート等の樹脂加工、防炎剤や抗菌剤等による各種の薬剤加工が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。また、織物単独で用いられてもよいし、他の繊維構造物(織物、編物、不織布等)、プラスチックや木材等からなる基材、ゴムシート等の任意の他の部材と組み合わせて、または一体化して用いられてもよい。また、本発明の織物に用いる糸は、光沢糸、非光沢糸のいずれにも、また、経糸、緯糸のいずれにも、難燃性や防汚性等の機能性が付与されていてもよい。
【実施例
【0038】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は例示を目的としたものに過ぎない。本発明の範囲は、本実施例に限定されない。
【0039】
実施例で用いた測定および評価方法を以下に示す。
【0040】
<明度・明度差>
織物の最も明度の高い部分、最も明度の低い部分の明度をそれぞれ測定した。測定直径は5mmとし、それぞれ10カ所計測した。明度の高い部分では最も高い数値(バラツキは除外)を明度(明)、明度の低い部分では最も低い値を明度(暗)としてそれぞれ採用し、それらの差分を明度差とした。
なお、計測には、日本電色工業株式会社製ハンディ型分光色差計 NF555を用いて、機器の使用方法に従って色彩測定モードで測定し、明度値(L値)を算出した。
【0041】
<立体感>
観察者が、机上に置いた複数種類の織物サンプル(大きさ:約25cm×約30cm)について、照度800ルクスの環境下で観察し、立体感があると感じた順番に並べ替えた。立体感がもっとも低いと感じられたものを1点とし、2番目に立体感が低いと感じられたものを2点とし、順次1点刻みで点数を付与した。5名の観察者によって付与された点数の平均値を各織物サンプルの立体感を表す点数とした。点数が高いほど立体感に優れると評価され、立体感が5以上であれば良好と判断した。
観察者は、20代女性2名、40代男性1名、50代男性2名の合計5名とした。
【0042】
<酔い感>
観察者が、照度800ルクスの環境下で壁に吊り下げられた複数種類の織物サンプル(大きさ:約70cm×約120cm)を1.5mの距離から観察し、酔いやすいと感じた順番に並べ替えた。最も酔わないと感じられたものを1点、2番目に酔わないと感じられたものを2点、順次1点刻みで点数を付与した。5名の観察者によって付与された点数の平均値を各織物サンプルの酔い感を表す点数とした。点数が低いほど酔い感が少ないと評価され、酔い感が3.5以下であれば良好と判断した。
観察者は20代女性2名、40代男性1名、50代男性2名の合計5名とした。
【0043】
[実施例1~5、比較例1~7]
1.図案の処理~ジャカードデータの作成
256色フルカラーで立体的に表現された麻の葉模様の図案を、Photoshop(登録商標)を用いて明度に応じて7値化(7色化)し、7つの構成単位からなるものとした。7つの構成単位のそれぞれに、図3に示される組織のそれぞれを割り当て、ジャカードデータを作成した。
【0044】
2.織物試料の織成
前記により作成したジャカードデータに基づき、表1に示す糸を用いて、実施例1~5、比較例1~7の各織物サンプルを織成した。経密度はいずれも666本/10cm、緯糸密は530本/10cm(緯糸1,2の合計)とした。経糸、緯糸1及び緯糸2の明度は、実施例1~5及び比較例3~7では緯糸1>経糸>緯糸2とし、比較例1、2では緯糸1≧緯糸2>経糸とした。緯糸2として用いる糸の明度を変えることによって、それぞれの明度差を有する織物が織成されるようにした。なお、表1中、緯糸2の欄に示された色の記載は、数値が大きいほど明度の低い色を示す。緯糸1としては無染色の糸を用いた。
【0045】
【表1】
【0046】
なお、光沢糸の露出度に関して、表2に、緯糸1として光沢糸(ブライト糸)、緯糸2として非光沢糸(セミダル糸)を用いた実施例1~5及び比較例1~4の各構成単位における光沢糸の露出度を示す。表3に、緯糸1、緯糸2ともに光沢糸(ブライト糸)を用いた比較例5の各構成単位における光沢糸の露出度を示す。緯糸1、緯糸2ともに非光沢糸(セミダル糸)を用いた比較例6,7は、いずれの構成単位においても光沢糸の露出度は0%であった。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
<評価>
実施例1~5、比較例1~7の織物サンプルについて、明度、明度差、立体感、酔い感について測定及び評価を行った。結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
表4に示されるとおり、明度差が3以上25以下であり、かつ、最高明度部分では光沢糸が露出し、最低明度部分では光沢色が露出していない実施例1~5の織物サンプルは、立体感に優れるとともに酔い感が少ないことが確認された。
一方、明度差が3未満である比較例1,2は立体感が不十分であり、明度差が25を超える比較例3,4は酔い感が大きくなった。また、最高明度部分及び最低明度部分の両方で光沢糸が露出している比較例5は酔い感が大きく、光沢糸が用いられていない比較例6,7も、酔い感が大きくなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7