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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】流動接触分解触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/30 20060101AFI20230912BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20230912BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20230912BHJP
   B01J 37/06 20060101ALI20230912BHJP
   B01J 29/08 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
B01J37/30
B01J37/04 102
B01J37/00 F
B01J37/06
B01J29/08 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020014949
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021121420
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 由佳
(72)【発明者】
【氏名】水野 隆喜
(72)【発明者】
【氏名】三津井 知宏
(72)【発明者】
【氏名】▲黒▼崎 桂
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103120(JP,A)
【文献】特開2004-337758(JP,A)
【文献】特開2014-231034(JP,A)
【文献】特開2018-167213(JP,A)
【文献】特表2008-518760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー成分、ゼオライトおよび炭酸ランタンを触媒基準でLa2O3として5質量%以上含む流動接触分解触媒の製造方法であって、
ゼオライトおよびバインダー成分の塩基性塩化アルミニウムを含むマトリックスと炭酸ランタンとを含む混合スラリーを得る第一工程と、
前記第一工程で得られた混合スラリーを噴霧乾燥することにより流動接触分解触媒の前駆体を得る第二工程と、
前記第二工程で得られた流動接触分解触媒の前駆体を、pHが5.5~7.5の範囲にあり、温度が40~70℃の範囲にある水溶液に懸濁させた後、濾別を行いさらに温水洗浄して洗浄ケーキ1を得る第三工程と、
前記第三工程で得られた洗浄ケーキ1をさらにpHを5~7の範囲に調整した硫酸アンモニウム水溶液に懸濁させた後、濾別を行いさらに温水洗浄して洗浄ケーキ2を得る第四工程と、
前記第四工程で得られた洗浄ケーキ2を、さらに温水中に懸濁させた後、RE2O3前駆体を含む水溶液を添加・撹拌し、濾別を行いさらに温水洗浄後、乾燥して希土類置換流動接触分解触媒を得る第五工程と、
を含み、
前記第三工程の懸濁時に用いる水溶液には、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、および水酸化ナトリウムのうち少なくともひとつが含まれる流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項2】
前記第二工程において、スプレー出口温度が200~250℃の範囲であること、
を特徴とする請求項1に記載の流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項3】
前記第三工程の懸濁時に用いる水溶液には、以下の(ア)~(ウ)のうち少なくともひとつが含まれること、
を特徴とする請求項1または2に記載の流動接触分解触媒の製造方法。
(ア)炭酸ナトリウム
(イ)炭酸水素ナトリウム
(ウ)水酸化ナトリウムと硫酸アンモニウム
【請求項4】
前記第三工程の懸濁液中のアニオン量は、バインダー由来のAl量[Al(バインダー成分)]に対するアニオン量[A]のモル比が、[A]/[Al(バインダー成分)]=0.1~1の範囲である、ただし、[A]にOHやバインダー由来のClは含まないこと、
を特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の流動接触分解触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタル耐性および耐摩耗性が高い流動接触分解触媒に関し、さらに詳しくは塩基性塩化アルミニウムをバインダー成分とし、ゼオライトと、炭酸ランタンを含有する流動接触分解触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の石油供給事情より、残渣油などの重質炭化水素油を接触分解の原料油として用いるケースが増加している。原料油の重質炭化水素油中には、バナジウムやニッケルなどの金属化合物が含まれているため、これらの金属化合物は接触分解反応において種々の悪影響を及ぼすことが知られている。触媒組成物に沈着したバナジウムは活性成分である結晶性アルミノシリケートゼオライトを破壊して触媒活性の低下を起こし、また、ニッケルは脱水素反応を促進するため水素およびコークの生成が多くなる問題があった。
【0003】
これらの問題については、プロセス面からの改良や流動接触分解触媒(以下、単にFCC触媒ともいう)の開発によりある程度解決されて来ている。残渣油などの重質炭化水素油の接触分解に使用して、バナジウムやニッケルに対する耐メタル性が高く、残渣油の分解能に優れ、水素、コークなどの生成量が少なく、ガソリンや灯軽油留分(LCO)の収率の高い触媒が種々提案されている。
【0004】
さらに、特許文献1には、結晶性アルミノシリケートゼオライトおよび炭酸ランタンを含有することを特徴とする炭化水素油流動接触分解用触媒組成物が開示されており、また、特許文献2には、スラリー調整時に予め水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムを含む製造方法が開示されている。さらに特許文献3には、塩基性塩化アルミニウムをバインダー成分として用いた流動接触分解触媒が開示されており、噴霧乾燥後に硫酸化物(硫酸塩)が1~8質量%担持することで硫酸アルミニウムに表面改質し隣り合う塩化アルミニウムの結晶の接触面の結合力を高めることで細孔容積が大きく、しかも、耐摩耗性が高い流動接触分解触媒が得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-337758号公報
【文献】特開2009-000657号公報
【文献】特開2009-207948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、流動接触分解触媒に炭酸ランタンを酸化物換算(La)で5質量%以上含有した場合、耐摩耗性が低下するため、流動接触分解装置では使用できないという問題点があった。
【0007】
本発明の目的は、ゼオライトと炭酸ランタンと塩基性塩化アルミニウムを含有する耐メタル性に優れ、分解活性が高くしかも水素、ガスおよびコークの生成が少なく、ガソリンや灯軽油留分が高収率で得られ、さらに耐摩耗性の高い流動接触分解触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような技術的背景のもと、発明者らは、耐メタル性に優れた流動接触分解触媒(以下、単にFCC触媒ともいう)の改善について鋭意研究した結果、炭酸ランタンを酸化物(La)換算で5質量%以上含有したFCC触媒が従来の酸化ランタンを含有したFCC触媒よりも格段に優れた耐メタル性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
前記課題を解決し上記の目的を実現するため開発した本発明は、下記のとおりのものである。すなわち、本発明は、バインダー成分、ゼオライトおよび炭酸ランタンを触媒基準でLaとして5質量%以上含む流動接触分解触媒の製造方法であって、
ゼオライトおよびバインダー成分の塩基性塩化アルミニウムを含むマトリックスと炭酸ランタンとを含む混合スラリーを得る第一工程と、
前記第一工程で得られた混合スラリーを噴霧乾燥することにより流動接触分解触媒の前駆体を得る第二工程と、
前記第二工程で得られた流動接触分解触媒の前駆体を、pHが5.5~7.5の範囲にあり、温度が40~70℃の範囲にある水溶液に懸濁させた後、濾別を行いさらに温水洗浄して洗浄ケーキ1を得る第三工程と、
前記第三工程で得られた洗浄ケーキ1をさらにpHを5~7の範囲に調整した硫酸アンモニウム水溶液に懸濁させた後、濾別を行いさらに温水洗浄して洗浄ケーキ2を得る第四工程と、
前記第四工程で得られた洗浄ケーキ2を、さらに温水中に懸濁させた後、RE前駆体を含む水溶液を添加・撹拌し、濾別を行いさらに温水洗浄後、乾燥して希土類置換流動接触分解触媒を得る第五工程と、
を含む流動接触分解触媒の製造方法である。
【0010】
なお、本発明に係る上記流動接触分解触媒の製造方法については、
(1)前記第二工程において、スプレー出口温度が200~250℃の範囲であること、
(2)前記第三工程の懸濁時に用いる水溶液には、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムのいずれか1つのナトリウム塩を含むこと、
(3)前記第三工程の懸濁液中のアニオン量は、バインダー由来のAl量[Al(バインダー成分)]に対するアニオン量[A]のモル比が、[A]/[Al(バインダー成分)]=0.1~1の範囲である、ただし、[A]にOHやバインダー由来のClは含まないこと、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、耐メタル性に優れ、分解活性が高くしかも水素、ガスおよびコークの生成が少なく、ガソリンや灯軽油留分が高収率で得られ、更に耐摩耗性の高い流動接触分解触媒の製造方法を提供することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<流動接触分解触媒>
本発明に係わる流動接触分解触媒は、塩基性塩化アルミニウムをバインダー成分とし、ゼオライトおよび炭酸ランタンを触媒基準でLaとして5質量%以上含有するものである。本発明で用いる結晶性アルミノシリケートゼオライト(以下、ゼオライトという)としては、通常の接触分解触媒に使用されるゼオライトが使用可能であり、例えば、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト、ZSM型ゼオライトなどの合成ゼオライトおよび天然ゼオライトなどが挙げられる。これらのゼオライトは通常の接触分解触媒に使用される場合と同様に、水素、アンモニウムおよび多価金属から選ばれるカチオンでイオン交換された形で使用される。Y型ゼオライト、特に超安定化Y型ゼオライト(USY)は耐水熱安定性に優れているので好適である。
【0013】
本発明における炭酸ランタンとしては、一般に市販されている炭酸ランタンを使用することができる。
【0014】
本発明に係わる流動接触分解触媒は、通常の接触分解触媒と同様に多孔性無機酸化物マトリックスが使用される。多孔性無機酸化物マトリックスには、塩基性塩化アルミニウムをバインダーとし、カオリン、ハロイサイト、モンモリナイトなどの粘土鉱物、活性アルミナ、シリカ―アルミナ、シリカ―マグネシア、アルミナ―マグネシア、シリカ―マグネシア―アルミナなどの固体酸を有するマトリックス、二酸化マンガン、カルシウムアルミネート、水酸化アルミニウムなどの金属捕捉剤などを併用して含有することができる。
【0015】
本発明の流動接触分解触媒は、前記ゼオライトと前記炭酸ランタンとが前記多孔性無機酸化物マトリックス中に分散してなることを特徴とするものである。該流動接触分解触媒では、前述のゼオライトは好ましくは、5~50質量%、さらに好ましくは10~40質量%の範囲で含有し、また、前述の炭酸ランタンがLaとしては5質量%以上含有し、好ましくは5~20質量%、さらに好ましくは5~15質量%の範囲で含有し、前述の多孔性無機酸化物マトリックス中に均一に分散していることが望ましい。
【0016】
該ゼオライトの含有量が5質量%未満では、得られる触媒組成物の分解活性が低くなることがあり、一方、50質量%より多い場合には分解活性が高すぎて水素、ガスおよびコークの生成が増加するためにガソリン収率が低くなることがある。また、前記炭酸ランタンの含有量がLaとして5質量%未満では所望の効果が得られず、一方、20質量%より多い場合には触媒組成物の耐摩耗性(Attr.Res.)が低下することがある。また、該流動接触分解触媒では、前述の多孔性無機酸化物マトリックスを30~90質量%、好ましくは30~85質量%の範囲で含んでいることが望ましい。なお、該触媒組成物の各成分の質量%は合計で100質量%となるようにそれぞれの範囲内で決められる。
【0017】
― 流動接触分解触媒の製造方法 -
前述の流動接触分解触媒は、前述の多孔性無機酸化物マトリックス前駆物質として、塩基性塩化アルミニウムに前述のゼオライトを加えて均一に分散させ、得られた混合物スラリーに前述の炭酸ランタンを加えて均一に分散させた混合物スラリーを以下の工程で噴霧乾燥および洗浄することによって製造することができる。
【0018】
<第一工程>
ゼオライトとバインダー成分の塩基性塩化アルミニウムを含むマトリックスと炭酸ランタンを触媒基準でLaとして5質量%以上含む混合スラリーを得る工程を第一工程とする。
ここで得られる混合スラリーは、その後の噴霧乾燥工程に適応するために固形分濃度が25~50質量%の範囲で調整することが好ましい。固形分濃度が、25質量%未満では、触媒の嵩密度の低下や耐摩耗性の悪化があり、50質量%以上では、調合スラリーの粘度上昇により噴霧乾燥が困難になる場合がある。
【0019】
<第二工程>
前記第一工程で得られた混合スラリーを噴霧乾燥することにより流動接触分解触媒の前駆体を得る工程を第二工程とする。
本工程での噴霧乾燥の条件は、スプレー出口温度が200~250℃の範囲であることが好ましい。出口温度が、200℃以下では触媒を洗浄した後に粒子形状を保つことが困難となり、耐摩耗性が悪化し、一方、250℃以上では洗浄した後の粒子形状は保てるものの、乾燥速度が速くなるため触媒粒子に割れなどが発生しやすくなり、かえって耐摩耗性が悪化する場合がある。
【0020】
<第三工程>
前記第二工程で得られた流動接触分解触媒の前駆体を、pH5.5~7.5の範囲、40~70℃の水溶液に懸濁させた後、濾別を行いさらに温水洗浄して洗浄ケーキ1を得る工程を第三工程とする。
本工程で懸濁時に用いる水溶液には、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムのナトリウム塩を含む水溶液であることが好ましく、水溶液のpHが所望の範囲内になるように調整して用いることが好ましい。また、水酸化ナトリウムの場合は、硫酸アンモニウムを同時に用いることが好ましい。
【0021】
水溶液の温度は、40℃より低いと、バインダー成分由来の残存塩素量が増加するため流動接触分解装置を腐食する可能性が高くなり、一方、70℃より高いとバインダー成分の加水分解が起こりやすくなり、耐摩耗性が悪化する場合がある。
【0022】
さらに、洗浄時の前駆体の固形分と水溶液との割は、質量比で固形分/水溶液=1/3~1/15の範囲であることが好ましい。該質量比が、1/3より高くなると固形分濃度が高すぎて、pH調整が困難となり、一方、1/15より低いと固形分濃度が低いため、溶解しやすい物質の溶出量が増加しやすくなり、耐摩耗性が悪化する。
【0023】
ここで用いる水溶液に含まれるアニオン種A(OH基、およびバインダー由来のアニオン種以外)の含有量は、アニオン比=[A]/[Al(バインダー成分)]が、モル比で0.1~1.0の範囲であることが好ましい。該アニオン比が、モル比で0.1未満では、炭酸ランタンの溶出を抑制できず、更にはバインダーの加水分解が促進され耐摩耗性が悪化する。一方、1.0超えではバインダー成分へのアニオン種の堆積やバインダー成分の変質により耐摩耗性が悪化する場合がある。また、最終的な洗浄後の触媒に残存塩が多く残りやすくなり、触媒性能が悪化する場合がある。
【0024】
<第四工程>
前記第三工程で得られた洗浄ケーキ1をさらにアンモニア水でpHを5~7の範囲に調整した硫酸アンモニウム水溶液に懸濁させた後、濾別を行いさらに温水洗浄して洗浄ケーキ2を得る工程を第四工程とする。
【0025】
<第五工程>
前記第四工程で得られた洗浄ケーキ2を、さらに温水中に懸濁させた後、RE前駆体を含む水溶液を添加・撹拌し、濾別を行いさらに温水洗浄後、乾燥して希土類置換した流動接触分解触媒を得る工程を第五工程とする。
【0026】
前記第三、第四および第五工程で用いる温水は50~70℃の温度範囲のものを用いる。
【0027】
本発明の流動接触分解触媒は、従来の炭化水素油流動接触分解法に使用でき、従来の流動接触分解条件が採用可能である。また、本発明の触媒組成物は、任意の従来の炭化水素油供給原料油の流動接触分解に使用できるが、特にニッケルやバナジウムなどを含む重質炭化水素油の流動接触分解に好適に使用される。
【0028】
<化学組成(Al、La、Na、Cl、S)>
本発明の流動接触分解触媒の成分組成のうちアルミニウム、ランタン、ナトリウムは、プラズマ発光分析(ICP)法で、塩素は銀滴定法、硫黄は燃焼法により測定した。
【0029】
<強熱減量LOI>
本発明の流動接触分解触媒の強熱減量(LOI:Loss on ignition)は、1000℃に加熱し、揮発分(水分等)による重量減少を測定した。
【0030】
[物性の評価方法]
第五工程で得た流動接触分解触媒を、600℃で2時間加熱処理したものの物性評価を行った。
<全比表面積SA、マトリックスの比表面積MSA,ゼオライトの比表面積ZSAの測定方法>
全比表面積SAは、素吸着―脱着等温線を基にしてBET(Brunauer-Emmett-Teller)の式にて算出し、マトリックスの比表面積MSAは、t-plot解析にて算出し、ゼオライトの比表面積ZSAは、全比表面積からマトリックスの比表面積を引いて求めた。
【0031】
<触媒の平均粒子径>
本発明の流動接触分解触媒は、各々試料の粒度分布の測定を、堀場製作所(株)製レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA-950V2)にて行うことができる。具体的には、光線透過率が70~95%の範囲となるように試料を溶媒(水)に投入し、循環速度:2.8L/min、超音波印加:3min、反復回数:30で測定した。メディアン径(D50)を平均粒子径として採用し、本発明の流動接触分解触媒の平均粒子径は、40~100μmが好適であり、50~90μmがより一層好ましい。
【0032】
<細孔容積(PV)>
本発明の流動接触分解触媒は、水銀圧入法により測定した4~1000nmの細孔径範囲の細孔容積(PV)が0.05~0.50ml/g、好適には0.10~0.45ml/gの範囲内にあることが好ましい。流動触媒として使用した場合、細孔容積が0.05ml/gを下回ると、十分な接触分解活性が得られないおそれがある。一方で、細孔容積が0.50ml/gを超えるものは触媒強度が低下するおそれがある。
【0033】
<嵩密度(ABD)>
本発明の流動接触分解触媒の嵩密度(ABD)の測定方法は、25mlのシリンダーを用いて、触媒の質量を測定し、単位体積当たりの質量から嵩密度を計算した。嵩密度は0.65g/mlを下限とすることが好ましい。嵩密度が0.65g/mlより低い場合は、触媒が反応塔外に飛散するなどのおそれがある。
【0034】
<Attrition評価結果>
本発明の流動接触分解触媒の耐摩耗性指数(CAI)は小孔を備えた蓋が上下に取り付けられた筒状容器内に所定量(例えば、100g)の流動接触分解触媒を入れた後、下方の小孔から空気を234m/sの速度で送り、12~42時間の間で摩耗して粉化した触媒の重量を測定し、粉化した重量と初期の重量との割合を耐摩耗指数として求めた。
【実施例
【0035】
(実施例1)流動接触分解触媒1の製造
<第一工程>
スチームジャケット付きのチタン製のタンク(容量60L)に、10.14kgの塩化アルミニウム6水和物と38.9kgの純水とを入れて十分に撹拌し、塩化アルミニウム水溶液を得た。この塩化アルミニウム水溶液を撹拌しながら95℃まで加温し、液温を保持したまま、純度99.9%のアルミニウムホイル(アルミ箔)5.67kgを6時間かけて少量ずつ(15.75g/分)投入して、アルミ箔を溶解させた。なお、アルミ箔の溶解時には、大量の水素ガスが発生し、水溶液中の水が水蒸気として蒸発するため、タンク内の水溶液の貯留量が一定になるように95℃の純水を補給した。アルミ箔が完全に溶解した後、この水溶液を35℃まで冷却して、54.7kgの塩基性塩化アルミニウム水溶液を得た。この塩基性塩化アルミニウム水溶液は、pH3.6であり、Alとして23.5質量%の塩基性塩化アルミニウムを含んでいた。このようにして調製した塩基性塩化アルミニウム水溶液3191.5gと水3420.0gとを混合した。次いで、この撹拌混合液に、超安定化Y型ゼオライトをシリカ-アルミナ基準で1500.0gとカオリンを乾燥基準で1600.0gと活性アルミナを乾燥基準で650.0gと炭酸ランタン(La濃度:69.9質量%)を715.3gとを順次添加し、良く撹拌し調合スラリー(混合スラリー)を得た。得られた調合スラリーはコロイドミルを用いて粉砕処理を行い、固形分濃度42質量%、pH4.6だった。
【0036】
<第二工程>
調合スラリーを液滴として、入口温度が480℃、出口温度が240℃に設定された噴霧乾燥器で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が70μmの球状粒子の触媒前駆体1を得た。
【0037】
<第三工程>
触媒前駆体1を乾燥基準で300gと7質量%の炭酸水素ナトリウム溶液とを、撹拌しつつ60℃に維持した純水1500g中にpH6.5に調整しながら加え、5分間撹拌した。吸引濾過した後、濾過残渣に60℃の純水1500gを掛け水して洗浄し、洗浄ケーキ1aを得た。
【0038】
<第四工程>
洗浄ケーキ1aを60℃の純水1500gに再懸濁した水溶液に、硫酸アンモニウム15.2gを加え、さらにpH5~7に調整した水溶液を、60℃で3分間撹拌した。吸引濾過した後、濾過残渣に60℃の純水1500gを掛水して洗浄した。この操作を2回繰り返し、洗浄ケーキ2aを得た。
【0039】
<第五工程>
次いで、洗浄ケーキ2aを60℃の純水1500gに再懸濁し、La換算で21.0質量%の塩化ランタン溶液を33.4g添加し、20分間撹拌した。吸引濾過した後、濾過残渣に60℃の純水1500gを掛け水して洗浄した後、濾過残渣粒子を150℃で一晩乾燥させ、流動接触分解触媒1(平均粒子径が70μmの球状粒子)を得た。
【0040】
(実施例2)流動接触分解触媒2の製造
第三工程として、実施例1の第二工程で得た触媒前駆体1を乾燥基準で300gと10質量%の炭酸ナトリウム水溶液とを、撹拌しつつ60℃に維持した純水1500g中にpH6.5に調整しながら加え、5分間撹拌した。吸引濾過した後、濾過残渣に60℃の純水1500gを掛け水して洗浄し、洗浄ケーキ1bを得た。洗浄ケーキ2bを得る第四工程以降は実施例1と同様に行い流動接触分解触媒2を得た。
【0041】
(実施例3)流動接触分解触媒3の製造
第三工程として、60℃の純水1500gに硫酸アンモニウムを22.8g溶解し、この硫酸アンモニウム溶液を60℃に維持し撹拌中に、実施例1の第二工程で得た触媒前駆体1を乾燥基準で300gと10質量%の水酸化ナトリウム溶液とをpH6.5に調整しながら加え、5分間撹拌した。吸引濾過した後、濾過残渣に60℃の純水1500gを掛け水して洗浄し、洗浄ケーキ1cを得た。洗浄ケーキ2cを得る第四工程以降は実施例1と同様に行い流動接触分解触媒3を得た。
【0042】
(実施例4)流動接触分解触媒4の製造
第二工程として、実施例1の第一工程で得た調合スラリーを液滴として、入口温度が415℃、出口温度が215℃に設定された噴霧乾燥器で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が70μmの球状微粒子の触媒前駆体2を得た。第三工程として、60℃の純水1500gに硫酸アンモニウムを14.4g溶解し、この硫酸アンモニウム溶液を60℃に維持し撹拌中に、触媒前駆体2を乾燥基準で300gと10質量%の水酸化ナトリウム溶液とをpH6.5に調整しながら加え、5分間撹拌した。吸引濾過した後、濾過残渣に60℃の純水1500gを掛け水して洗浄し、洗浄ケーキ1dを得た。洗浄ケーキ2dを得る第四工程以降は実施例1と同様に行い流動接触分解触媒4を得た。
【0043】
(比較例1)流動接触分解触媒5の製造
第三工程として、実施例1の第二工程で得た触媒前駆体1を乾燥基準で300gと15質量%のアンモニウム溶液とを、撹拌しつつ60℃に維持した純水1500g中にpH6.5に調整しながら加え、5分間撹拌した。吸引濾過した後、濾過残渣に60℃の純水1500gを掛け水して洗浄し、洗浄ケーキ1eを得た。洗浄ケーキ2eを得る第四工程以降は実施例1と同様に行い流動接触分解触媒5を得た。
【0044】
実施例5)流動接触分解触媒6の製造
第三工程として、実施例1の第二工程で得た触媒前駆体1を乾燥基準で300gと10質量%の水酸化ナトリウム溶液とを、撹拌しつつ60℃に維持した純水1500g中にpH6.5に調整しながら加え、5分間撹拌した。吸引濾過した後、濾過残渣に60℃の純水1500gを掛け水して洗浄し、洗浄ケーキ1fを得た。洗浄ケーキ2fを得る第四工程以降は実施例1と同様に行い流動接触分解触媒6を得た。
【0045】
(比較例3)流動接触分解触媒7の製造
第三工程として、実施例1の第二工程で得た触媒前駆体1を乾燥基準で300gを撹拌しつつ60℃に維持した純水1500g中に加え、5分間撹拌した。5分撹拌後のpHは4.7だった。吸引濾過にて所定の濾過時間を超過したため、触媒調製を中断した。
以上、流動接触分解触媒1~7の製造条件をまとめて、表1に示す。なお、流動接触分解触媒2~6も流動接触分解触媒1と同様、平均粒子径70μmの球状粒子であった。
【0046】
【表1】
【0047】
上記で調製した流動接触分解触媒1~6について、強熱減量(LOI)、化学組成、嵩密度(ABD)、全比表面積SA、マトリックスの比表面積MSA,ゼオライトの比表面積ZSA、細孔容積(PV)を求めて、表2に示す。
【0048】
<Attrition評価結果>
上記で調製した流動接触分解触媒1~6について、耐摩耗性指数(CAI)を測定し、表2に示す。発明例の流動接触分解触媒1から4および6は、バインダーの加水分解を抑制でき、結合力を保った為、十分な耐摩耗性を有している。一方、比較例の流動接触分解触媒5は、バインダーの加水分解が進行し、結合力が低下し耐摩耗性が悪化する結果であった。
【0049】
【表2】