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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】ガス濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/404 20060101AFI20230912BHJP
   G01N 27/28 20060101ALI20230912BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G01N27/404 341Z
G01N27/28 Q
G01N27/404 341R
G01N27/416 311G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020015163
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021056202
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2019175911
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 直毅
(72)【発明者】
【氏名】亀田 未帆
(72)【発明者】
【氏名】梅島 康秀
(72)【発明者】
【氏名】蔵田 菜緒
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-032186(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0033334(US,A1)
【文献】特開昭55-101248(JP,A)
【文献】特表平2-502401(JP,A)
【文献】特開2001-033421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/404
G01N 27/28
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を保持する電解液室がケースの内部に設けられ、前記電解液室内に電極と多孔質体からなる電解液保持体とを有し、測定雰囲気中のガスの濃度を測定する定電位電解式ガスセンサと、
前記定電位電解式ガスセンサのケースの外周全体を覆うように設けられる均熱ブロックと、
前記均熱ブロックの外周に設けられ、前記均熱ブロックを加熱するヒータと、
前記均熱ブロックに設けられ、前記定電位電解式ガスセンサのケースの周囲温度を検出する温度センサと、
前記定電位電解式ガスセンサ、前記均熱ブロック、前記ヒータが収容されるホルダと、
前記温度センサの検出温度に基づいて前記定電位電解式ガスセンサのケースの周囲温度が目標温度になるように前記ヒータを制御する制御部と、
を備えたことを特徴とするガス濃度測定装置。
【請求項2】
電解液を保持する電解液室がケースの内部に設けられ、前記電解液室内に電極と多孔質体からなる電解液保持体とを有し、測定雰囲気中のガスの濃度を測定する定電位電解式ガスセンサと、
前記定電位電解式ガスセンサのケースの外周全体を覆うように設けられる均熱ブロックと、
前記均熱ブロックの外周に設けられ、前記均熱ブロックを加熱するヒータと、
前記均熱ブロックに設けられ、前記定電位電解式ガスセンサのケースの周囲温度を検出する温度センサと、
前記定電位電解式ガスセンサ、前記均熱ブロック、前記ヒータが収容されるホルダと、
電源投入時に目標温度以上で前記定電位電解式ガスセンサの使用上限温度以下の設定温度で前記ヒータを制御した後、前記温度センサの検出温度に基づいて前記定電位電解式ガスセンサのケースの周囲温度が目標温度になるように前記ヒータを制御する制御部と、
を備えたことを特徴とするガス濃度測定装置。
【請求項3】
前記定電位電解式ガスセンサのケースの前記電極の検知極側には、前記測定雰囲気中のガスを導入するガス導入路と、導入されたガスを排出するガス排出路とを有するガス導入治具が前記ホルダの開口部を介して設けられ、
前記ガス導入治具と前記定電位電解式ガスセンサのケースとの間には、前記ガス導入路から導入されるガスを前記定電位電解式ガスセンサのケースの周囲温度と同等の温度に加熱するための予熱空間が形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のガス濃度測定装置。
【請求項4】
前記ガス導入治具は、前記定電位電解式ガスセンサのケースに対して可動自在に設けられ、前記予熱空間の容積が調整可能であることを特徴とする請求項3に記載のガス濃度測定装置。
【請求項5】
前記予熱空間には、導入されるガスの温度変動を抑制する部材が収容されることを特徴とする請求項3または4に記載のガス濃度測定装置。
【請求項6】
前記電解液保持体は、内部に中空の空間部を有していることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のガス濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定電位電解式ガスセンサを用いて測定雰囲気中のガスの濃度を測定するガス濃度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解液を介した2つの電極間に電位差があるとき、2つの電極間を導体で電気的に接続すると、各電極表面で酸化反応と還元反応がそれぞれ同時進行し、導体に電流が流れる。この電流を検出することでガスの濃度を知る方式のセンサを一般に電気化学式センサと呼んでいる。例えば、ガルバニ電池式酸素センサ、定電位電解式センサ、固体電解質式センサなどが電気化学式センサとして挙げられる。
【0003】
ここでは、本発明に関わる電気化学式センサとして、例えば下記特許文献1に開示されるような定電位電解式ガスセンサについて説明する。定電位電解式ガスセンサは、図5の原理図に示すように、不図示の電解液を介した反応極と参照極間を一定の電位に保つことで、特定のガスに対する酸化または還元反応を選択的に進行させ、その際に生ずる電解電流の大きさでガス濃度を測定する。
【0004】
定電位電解式ガスセンサは、これまでに様々なガス専門メーカーで発売されている。検知対象は、一酸化炭素、硫化水素、半導体材料ガス、ハロゲン、オゾン、窒化酸化物、塩化水素などが挙げられる。高感度な測定が可能(例:CO分解能1ppm)であり、ガス選択性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-263653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
定電位電解式ガスセンサは、化学反応を利用したセンサであり、低濃度領域で高感度の測定が可能である。しかし、定電位電解式ガスセンサは、周囲温度の影響を受けるため、サーミスタにより周囲温度を測定して温度補正を行う必要がある。
【0007】
すなわち、定電位電解式ガスセンサは、温度特性があること、温度補正により誤差が生じることから、分解能1ppm程度の計測が限界であり、それ以下の分解能での計測が難しいという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、従来よりも高分解能でガス濃度の計測が可能なガス濃度測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載されたガス濃度測定装置は、電解液を保持する電解液室がケースの内部に設けられ、前記電解液室内に電極と多孔質体からなる電解液保持体とを有し、測定雰囲気中のガスの濃度を測定する定電位電解式ガスセンサと、
前記定電位電解式ガスセンサのケースの外周全体を覆うように設けられる均熱ブロックと、
前記均熱ブロックの外周に設けられ、前記均熱ブロックを加熱するヒータと、
前記均熱ブロックに設けられ、前記定電位電解式ガスセンサのケースの周囲温度を検出する温度センサと、
前記定電位電解式ガスセンサ、前記均熱ブロック、前記ヒータが収容されるホルダと、
前記温度センサの検出温度に基づいて前記定電位電解式ガスセンサのケースの周囲温度が目標温度になるように前記ヒータを制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2に記載されたガス濃度測定装置は、電解液を保持する電解液室がケースの内部に設けられ、前記電解液室内に電極と多孔質体からなる電解液保持体とを有し、測定雰囲気中のガスの濃度を測定する定電位電解式ガスセンサと、
前記定電位電解式ガスセンサのケースの外周全体を覆うように設けられる均熱ブロックと、
前記均熱ブロックの外周に設けられ、前記均熱ブロックを加熱するヒータと、
前記均熱ブロックに設けられ、前記定電位電解式ガスセンサのケースの周囲温度を検出する温度センサと、
前記定電位電解式ガスセンサ、前記均熱ブロック、前記ヒータが収容されるホルダと、
電源投入時に目標温度以上で前記定電位電解式ガスセンサの使用上限温度以下の設定温度で前記ヒータを制御した後、前記温度センサの検出温度に基づいて前記定電位電解式ガスセンサのケースの周囲温度が目標温度になるように前記ヒータを制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3に記載されたガス濃度測定装置は、請求項1または2のガス濃度測定装置において、
前記定電位電解式ガスセンサのケースの前記電極の検知極側には、前記測定雰囲気中のガスを導入するガス導入路と、導入されたガスを排出するガス排出路とを有するガス導入治具が前記ホルダの開口部を介して設けられ、
前記ガス導入治具と前記定電位電解式ガスセンサのケースとの間には、前記ガス導入路から導入されるガスを前記定電位電解式ガスセンサのケースの周囲温度と同等の温度に加熱するための予熱空間が形成されることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4に記載されたガス濃度測定装置は、請求項3のガス濃度測定装置において、
前記ガス導入治具は、前記定電位電解式ガスセンサのケースに対して可動自在に設けられ、前記予熱空間の容積が調整可能であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5に記載されたガス濃度測定装置は、請求項3または4のガス濃度測定装置において、
前記予熱空間には、導入されるガスの温度変動を抑制する部材が収容されることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項6に記載されたガス濃度測定装置は、請求項1~5の何れかのガス濃度測定装置において、
前記電解液保持体は、内部に中空の空間部を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来のような温度補正が不要となり、センサ感度も向上して従来では計測限界とされてきた1ppm以下の高分解能によるガス濃度の計測も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るガス濃度測定装置の全体構成図である。
図2】本発明に係るガス濃度測定装置の定電位電解式ガスセンサの一例を示す断面図である。
図3】ガス導入治具の他の形態を示すガス濃度測定装置の全体構成図である。
図4】本発明に係るガス濃度測定装置の定電位電解式ガスセンサの周囲温度と分解能の関係の一例を示す図である。
図5】定電位電解式ガスセンサの原理説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態のガス濃度測定装置1は、測定雰囲気中のガス(例えばエチレンガス、一酸化炭素、水素など)の濃度を測定するもので、センサユニット2と制御装置3を備えて概略構成される。以下、各部の構成について説明する。
【0019】
[センサユニットの構成について]
センサユニット2は、本体11の収容部11aに定電位電解式ガスセンサ12を含む各種部品が収容され、収容部11aにはシール部材13を介して蓋部材14が取り付けられ、内部が密閉されている。
【0020】
本体11の収容部11aの底部には、中央に開口15aを有する部品取付板15がスペーサ部材16を介して固定されている。部品取付板15の開口15aの上部には、定電位電解式ガスセンサ12を駆動するための回路基板17がスペーサ部材18を介して取り付けられている。また、部品取付板15には、筒状のホルダ19の底部外周部分がスペーサ部材20を介して取り付けられている。
【0021】
ホルダ19は、耐熱性を有する熱可塑性樹脂(例えばPEEK:ポリエーテルエーテルケトンなど)からなり、上部中央に開口部19aが形成された収容部19bを有する。収容部19bには、定電位電解式ガスセンサ12を中心として、定電位電解式ガスセンサ12、均熱ブロック21、ヒータ22が収容されている。
【0022】
均熱ブロック21は、定電位電解式ガスセンサ12全体を一定温度に保持するもので、例えばアルミニウムなどの金属からなり、定電位電解式ガスセンサ12よりも高く形成され、定電位電解式ガスセンサ12のケースの外周全体を覆うようにホルダ19の収容部19bに収容されている。均熱ブロック21の内面と定電位電解式ガスセンサ12のケースの外周との間はOリングによって密封されている。また、均熱ブロック21には、定電位電解式ガスセンサ12のケースの周囲温度を検出するための温度センサ23が設けられている。
【0023】
ヒータ22は、均熱ブロック21を加熱するもので、例えばフィルム状のフレキシブルヒータ(例えばシリコンラバーヒータ)からなり、均熱ブロック21の外周に巻き付けられた状態でホルダ19の収容部19bに収容されている。
【0024】
ホルダ19の収容部19bに収容された定電位電解式ガスセンサ12のケースの上方(検知極側)には、測定雰囲気中のガスを定電位電解式ガスセンサ12に導入するためのガス導入治具24が設けられている。
【0025】
ガス導入治具24は、熱可塑性樹脂(例えばPP:ポリプロピレンなど)からなり、上部がホルダ19の開口部19aから突出してホルダ19の収容部19bに収容されている。ガス導入治具24は、下部に凹部24aを有し、この凹部24aと定電位電解式ガスセンサ12のケースの上面とで囲まれる空間が予熱空間25を形成している。
【0026】
ガス導入治具24の上部には、測定雰囲気中のガスが循環するように、測定雰囲気からのガスを外部から引き込んで予熱空間25に導入するためのガス導入路26が形成されるとともに、予熱空間25に導入されたガスを測定雰囲気に排出するためのガス排出路27が形成されている。
【0027】
ガス導入路26の先端部分には、測定雰囲気からのガスをガス導入路26に導くためのガス導入管28がセンサユニット2の外部に導出して接続されている。同様に、ガス排出路27の先端部分には、ガス導入路26を介して予熱空間25に導入されたガスを測定雰囲気に排出するためのガス排出管29がセンサユニット2の外部に導出して接続されている。なお、本実施の形態において、ガス導入管28とガス排出管29は、蓋部材14を介してセンサユニット2の外部へ導出されているが、本体11を介して導出する形式としてもよい。
【0028】
なお、予熱空間25は、測定雰囲気から導入されるガスを定電位電解式ガスセンサ12のケースの周囲温度と同等の温度に加熱して温度調整するための空間として機能するものである。
【0029】
ガス導入治具24は、予熱空間25の容積が調整できるように、定電位電解式ガスセンサ12のケース31(図2のケース31)に対して可動オーリング式で可動自在に設けられる構成としてもよい。これにより、定電位電解式ガスセンサ12のケース31に対し、ガス導入治具24を上下移動させれば、予熱空間25の容積を調整することができる。
【0030】
また、予熱空間25には、図3に示すように、導入されるガスの温度変動を抑制するための温度変動抑制部材30を収容する構成としてもよい。温度変動抑制部材30は、熱容量が大きく熱伝導の良い部材であり、例えばジルコニア、アルミナ等のΦ1.5~3mm程度のビーズ(球体)で構成される。なお、温度変動抑制部材30は、導入されるガスの流れを妨げずにガスに触れる表面積が大きい方が好ましい。
【0031】
図2に示す定電位電解式ガスセンサ12は、図5の原理図に基づいて測定雰囲気中のガス濃度を測定するものであり、回路基板17の上方に位置してホルダ19の収容部19bに収容され、ケース31の内部に電解液(図示せず)を貯留する電解液室32が形成される。定電位電解式ガスセンサ12は、電解液室32内に電極(検知極33、参照極34、対極35)と電解液保持体36とを有し、検知極33が電解液保持体36の上面側に配置され、対極35が対向する電解液保持体36の下面側に配置され、検知極33と対極35との間に参照極34が配置される。電解液保持体36は、多孔質体で構成され、内部に中空の空間部37を有している。
【0032】
また、定電位電解式ガスセンサ12において、ケース31の外側に突出しているピン38は、検知極33、参照極34、対極35の3つの電極のそれぞれに接続されたリードピンである。なお、図2では、図面の関係上2つのリードピンのみが記載されているが、実際にはそれぞれの電極に対応した3本のリードピンが配置されている。
【0033】
ケース31は、図2に示すように、内部に電解液室32を有している。この電解液室32には検知極33、参照極34、対極35からなる電極と、電解液保持体36を有している。ケース31は、一体型で構成されるケースでもよいが、図2に示すように、複数の部品が組み合わされることで構成されていてもよい。具体的には、筒状の外ケース41に外ケース41の上下から内側に挿入される上部内キャップ42と下部内キャップ43、さらに上部内キャップ42および下部内キャップ43を覆うように上キャップ44と下キャップ45を組み合わせることで、ケース31が構成されていてもよい。また、ケース31はその内部に、電解液を貯留するため、内部の電解液が流出しないような構造とする必要がある。このため、図2に示すように、各種シール部材46を用いて、密閉させる必要がある。また、ケース31には、電解液室32へ測定対象となるガスを導くための開口47が少なくとも1か所設けられている。この開口47は、ケース31の外部と電解液室32内の間で気体の出入りが可能となるように構成されている。
【0034】
また、検知極33の上方であって、上部内キャップ42と上キャップ44の間に設けられた空間48は、ガスフィルタなどを配置するための空間である。この空間48に配置されるフィルタとしては、検知するガスを選択するガス選択フィルタや、埃や油分など、定電位電解式ガスセンサ12に悪影響を与える物質を除去するためのフィルタなどである。
【0035】
電解液は、測定対象となるガスに応じて変化させる。例えば、一酸化炭素を検知対象とする場合には電解液として硫酸水溶液を用いる。この電解液の種類については、測定対象や想定される測定環境に応じて適宜決定し用いる。従って、本明細書中において特に限定されるものではない。
【0036】
電解液室32は、ケース31の内部に配置され、電解液が封入された空間であって、電極(検知極33、参照極34、対極35)と電解液保持体36が配置されている。電解液はこの電解液室32に封入され、電解液室32から外へと流出しないような構成がされている。仮に、電解液室32から電解液が流出すると、ケース31の外部へ電解液が流出する恐れがある。このため、電解液はシーリング材等によって密閉されている。電解液の増減によって生じる、電解液室32の内部と外部の圧力差を相殺することが可能となる。
【0037】
検知極33、参照極34、対極35からなる電極は、それぞれ電解液を介して導通可能に配置されている。図2の定電位電解式ガスセンサ12では、検知極33に対する参照極34および対極35が、上下に積層されて配置された例である。また、それぞれの電極は、保液濾紙51,52,53や集電体54,55、多孔性ガス拡散層56,57に挟まれるように配置されている。具体的には、図2において、電解液保持体36の上面側に電解液保持体36から順に保液濾紙51、集電体54、検知極33が配置され、下面側に電解液保持体36から順に保液濾紙52、集電体55、対極35が配置されている。なお、検知極33に対峙して参照極34および対極35を並んで配置してもよい。また、定電位電解式ガスセンサ12は、参照極34を省いた2極(検知極33と対極35)の構成であってもよい。
【0038】
電解液保持体36は、多孔質材料からなり、前述の電解液を保持する。電解液保持体36が電解液を保持することで、前述の検知極33と参照極34および対極35は電解液を介して接続される。電解液保持体36を構成する材料としては、多孔質の材料であって、電解液を保持でき、電解液によって劣化しない材料であればよい。セラミックス、ガラス材料等の多孔質材料であってもよいが、望ましくは破損の恐れが少なく、またセラミックス材料に比べて安価なアクリル材料などの樹脂等であってもよい。なお、電解液保持体36は、内部に設けられた空間部37と電解液保持体36の外部との間で、液体の出入りが可能な材料で構成されていることが必要である。
【0039】
図2において、電解液保持体36は、一体の形状で示されているが、複数の部品を組み合わせて構成されてもよい。電解液保持体36は、内部に空間部37を有している構造であり、この空間部37を形成するために複数の部品から電解液保持体36を構成することが、コストや製作工程で有利である。例えば、電解液保持体36を上下分離可能に構成し、上下が分離される個所に参照極34を配置するように構成してもよい。この場合、検知極33と対極35の間に電解液保持体36が配置され、さらに電解液保持体36の略中央に参照極34が配置されるような構成となる。
【0040】
空間部37は、電解液保持体36の内部に設けられた空間である。この空間部37は、電解液の測定環境の変化等に伴う体積変化を、吸収するために設けられた空間である。つまり、例えば電解液が吸湿によって体積が膨張した場合、仮に空間が存在しないと電解液は、体積が膨張した分、電解室外へ流出する恐れがある。これを防ぐために電解液の体積増加分の空間を電解液保持体36の内部に有している。具体的には、一酸化炭素センサの場合、電解質として一般的に40wt%の硫酸を用いた例で考えると、40wt%-硫酸の体積に対して、2から4倍の空間部37の体積があればよい。なお、この空間部37は、前述したように、電解液保持体36が多孔質の材料で構成されているため、電解液保持体36の外部と空間部37の間で電解液(液体)の出入りが可能になるように構成されている。
【0041】
図2の定電位電解式ガスセンサ12によれば、電解液保持体36の内部に空間部37を設けた構成なので、電解液の体積変化、特に吸湿などによる体積の増加による電解液の漏れを防ぐことが可能となる。また、定電位電解式ガスセンサ12を横方向に倒して使用した場合であっても、定電位電解式ガスセンサ12を設置する方向に依存することなく、正確に対象ガスの濃度を測定することが可能である。
【0042】
[制御装置の構成について]
制御装置3は、記憶部3a、制御部3b、表示部3cを備えて概略構成される。記憶部3aは、定電位電解式ガスセンサ12の出力とガス濃度との関係を示す周囲温度ごとの検量線を記憶する。なお、検量線は、制御部3bによりヒータ22を制御して定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度を目標温度(一定温度)に設定したときの定電位電解式ガスセンサ12の出力からガス濃度を目標温度ごとに算出することにより作成される。
【0043】
制御部3bは、温度センサ23の検出信号を取得し、取得した検出信号から現在の定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度を認識し、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度(温度センサ23の検出温度)が目標温度(一定温度)になるように、ヒータ22に印加される電圧をオン/オフ制御(PID制御)する。
【0044】
また、制御部3bは、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度(一定温度)になったときの定電位電解式ガスセンサ12の出力と記憶部3aに記憶された目標温度に対応する検量線に基づいてガス濃度を算出する。
【0045】
さらに、制御部3bは、算出したガス濃度の測定結果を表示画面上に表示するように表示部3cを制御する。
【0046】
なお、制御部3bは、電源投入時に目標温度以上で定電位電解式ガスセンサ12の使用上限温度以下の範囲(例えば45~54℃)内の設定温度でヒータ22に印加される電圧を所定時間(例えば数十秒から数分)オン/オフ制御(PID制御)した後、温度センサ23の検出温度に基づいて定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度になるようにヒータ22に印加される電圧をオン/オフ制御するのが好ましい。この際、上記設定温度は、周囲温度に応じて設定されるものであり、周囲温度が低温であるほど高く設定される。また、定電位電解式ガスセンサ12の使用上限温度とは、素子の性能や構成などによって異なり、測定雰囲気での使用が可能な上限温度を示すものである。
【0047】
具体例として、目標温度が45℃、定電位電解式ガスセンサ12の使用上限温度が60℃の場合、周囲温度が低い環境下で定電位電解式ガスセンサ12を使用するときは、電源投入時に例えば54℃を設定温度としてヒータ22に印加される電圧を例えば30秒だけオン/オフ制御する。これに対し、周囲温度が高く、設定温度に近い環境下で定電位電解式ガスセンサ12を使用するときは、電源投入時に例えば45℃を設定温度としてヒータ22に印加される電圧を例えば30秒だけオン/オフ制御する。そして、定電位電解式ガスセンサ12の素子内部まで十分に温まった後、温度センサ23の検出温度に基づいて定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度の45℃になるようにヒータ22に印加される電圧をオン/オフ制御する。これにより、素早く目標温度での制御が行え、定電位電解式ガスセンサ12の素子から安定した出力が得られ、定電位電解式ガスセンサ12の素子の温度が十分温まらないうちにデータを取得するのを防ぐことができる。
【0048】
表示部3cは、例えば液晶表示器などで構成され、制御部3bにて算出される測定雰囲気中のガス濃度の測定結果を表示画面上に表示する。
【0049】
[ガス濃度測定装置の動作について]
次に、上記のように構成されるガス濃度測定装置1の動作について簡単に説明する。
【0050】
まず、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度を一定温度にするための目標温度を設定する。そして、制御装置3の制御部3bは、電源が投入されると、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度を検出する温度センサ23の検出信号を取得し、取得した検出信号から現在の定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度を認識する。
【0051】
そして、制御装置3の制御部3bは、目標温度以上で定電位電解式ガスセンサ12の使用上限温度以下の範囲(例えば45~54℃)内の設定温度でヒータ22に印加される電圧を所定時間(例えば数十秒から数分)オン/オフ制御(PID制御)する。その後、制御部3bは、認識した現在の定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度に応じてヒータ22に印加される電圧をオン/オフ制御(PID制御)し、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度(一定温度)になるようにヒータ22を制御する。そして、制御装置3の制御部3bは、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度(一定温度)になったときの定電位電解式ガスセンサ12の出力と記憶部3aに記憶された目標温度に対応する検量線に基づいてガス濃度を算出し、算出したガス濃度の値を表示部3cの表示画面上に表示する。
【0052】
[定電位電解式ガスセンサの分解能について]
制御装置3にてヒータ22を制御して目標温度を0℃から10℃間隔で60℃まで変化させたときの定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度(目標温度)に対する分解能について測定を行った。その結果、図4に示すように、定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が0℃~60℃(固体電解質のイオン伝導を利用した固体電解質式ガスセンサで通常使用される温度500~600℃よりも低温領域)において1ppm以下の分解能が得られた。具体的な数値を示すと、図4に示すように、周囲温度0℃では分解能0.33ppm、周囲温度10℃では分解能0.15ppm、周囲温度20℃では分解能0.06ppm、周囲温度30℃では分解能0.025ppm、周囲温度40℃では分解能0.01ppm、周囲温度50℃では分解能0.008ppm、周囲温度60℃では分解能0.007ppmという結果が得られた。
【0053】
なお、目標温度は、所望とする定電位電解式ガスセンサ12の検出精度と定電位電解式ガスセンサ12の耐久性がトレードオフの関係にあり、これらを満足する温度に設定するのが好ましい。
【0054】
[具体例]
次に、本実施の形態のガス濃度測定装置1を用いて測定雰囲気中のガス濃度を測定する場合の具体例について説明する。ここでは、冷蔵庫内の測定雰囲気中で果物(例えば林檎など)が発生するエチレンガスの濃度を測定する場合を例にとって説明する。
【0055】
センサユニット2を冷蔵庫の近傍に配置し、センサユニット2におけるガス導入治具24のガス導入路26とガス排出路27を冷蔵庫の内部と配管接続する。これにより、冷蔵庫の測定雰囲気中のエチレンガスは、例えば吸引により配管を介してガス導入治具24のガス導入路26から予熱空間25に導入され、予熱空間25からガス排出路27を通り、配管を介して冷蔵庫の測定雰囲気に戻るように循環する。この状態で、例えば目標温度を20℃に設定し、センサユニット2の定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度の20℃になるように制御装置3にてヒータ22を制御する。これにより、定電位電解式ガスセンサ12は、目標温度の20℃に予熱された予熱空間25のガスの濃度を検出し、冷蔵庫内の果物が発生するエチレンガスの濃度を0.06ppmの分解能による高感度で測定することができる。
【0056】
このように、本実施の形態によれば、制御装置がヒータを制御して均熱ブロックを温めることにより、センサユニット2が設置される環境温度に左右されずに定電位電解式ガスセンサのケースの周囲温度を一定温度(目標温度)に制御する構成なので、電極および電解液を含めて定電位電解式ガスセンサ全体が一定温度に保持され、従来のような温度補正が不要となり、センサ感度も向上して従来では計測限界とされてきた1ppm以下の高分解能によるガス濃度の計測も可能になる。
【0057】
また、電源投入時に目標温度以上で定電位電解式ガスセンサ12の使用上限温度以下の範囲(例えば45~54℃)内の設定温度でヒータ22に印加される電圧を所定時間(例えば数十秒から数分)オン/オフ制御(PID制御)した後、温度センサ23の検出温度に基づいて定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度が目標温度になるようにヒータ22に印加される電圧をオン/オフ制御すれば、電源投入後に定電位電解式ガスセンサ12の素子内部まで十分に温めた状態から目標温度に素早く制御が行え、定電位電解式ガスセンサ12の出力を早く安定させることができる。
【0058】
センサユニット2において、ガス導入治具24と定電位電解式ガスセンサ12のケース31との間には、ガス導入路26から導入されるガスを定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度と同等の温度に加熱するための予熱空間25が形成されるので、導入されるガスの温度が定電位電解式ガスセンサ12のケース31の周囲温度と同等の温度に保つことができ、定電位電解式ガスセンサ12がガスの温度の影響を受けることなく安定したガス濃度の測定を行うことができる。
【0059】
ガス導入治具24は、定電位電解式ガスセンサ12のケース31に対して着脱自在に設けられ、予熱空間25の容積が調整可能な構成とすれば、測定雰囲気からガス導入路26を介して導入されるガスの温度に応じて予熱空間25の容積を調整してガスの予熱を制御することができる。
【0060】
例えばアルミニウムのビーズ(球体)などの温度変動抑制部材30を予熱空間25に収容する構成とすれば、測定雰囲気からガス導入路26を介して導入されるガスの温度変動を抑制することができる。
【0061】
定電位電解式ガスセンサ12の電解液保持体36が内部に中空の空間部37を有する構成とすれば、電解液の体積変化、特に吸湿などによる体積の増加による電解液の漏れを防ぐことができる。
【0062】
以上、本発明に係るガス濃度測定装置の最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0063】
1 ガス濃度測定装置
2 センサユニット
3 制御装置
3a 記憶部
3b 制御部
3c 表示部
11 本体
11a 収容部
12 定電位電解式ガスセンサ
13 シール部材
14 蓋部材
15 部品取付板
15a 開口
16,18,20 スペーサ部材
17 回路基板
19 ホルダ
19a 開口部
19b 収容部
21 均熱ブロック
22 ヒータ
23 温度センサ
24 ガス導入治具
25 予熱空間
26 ガス導入路
27 ガス排出路
28 ガス導入管
29 ガス排出管
30 温度変動抑制部材
31 ケース
32 電解液室
33 検知極
34 参照極
35 対極
36 電解液保持体
37 空間部
38 ピン
41 外ケース
42 上部内キャップ
43 下部内キャップ
44 上キャップ
45 下キャップ
46 シール部材
47 開口
48 空間
51,52,53 保液濾紙
54,55 集電体
56,57 多孔性ガス拡散層
図1
図2
図3
図4
図5