(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】レーザ加工装置の制御装置、レーザ加工装置、及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/082 20140101AFI20230912BHJP
B23K 26/08 20140101ALI20230912BHJP
B23K 26/382 20140101ALI20230912BHJP
【FI】
B23K26/08 F
B23K26/382
(21)【出願番号】P 2020041933
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】奥平 恭之
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-142082(JP,A)
【文献】特開2005-169481(JP,A)
【文献】国際公開第2014/106919(WO,A1)
【文献】特開2017-131958(JP,A)
【文献】特開2004-164083(JP,A)
【文献】特開2003-188491(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0162825(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーム走査器で走査された
パルスレーザビームによる加工を制御する制御装置であって、
前記ビーム走査器と基板との相対位置を固定した状態で
パルスレーザビームを走査することにより、前記基板の表面の一部の領域で
パルスレーザビームの入射位置を移動させて静止加工を行う機能と、
前記ビーム走査器に対して前記基板を移動させて、前記基板の表面の、次に加工すべき領域に
パルスレーザビームを入射可能にする機能と、
前記ビーム走査器に対して前記基板を移動させている期間に
パルスレーザビームを走査することにより、移動開始前に前記静止加工を行っていた領域、または移動後に前記静止加工を行う領域の少なくとも一方で、
パルスレーザビームの入射位置を移動させて移動加工を行う機能と
、
前記静止加工及び前記移動加工において、パルスレーザビームを前記基板の表面に定義されている複数の被加工点に順番に入射させて穴明け加工を行う機能と
を有
し、
前記基板の表面のうち、1回の前記静止加工で加工される範囲をスキャンエリアと定義したとき、
前記基板の移動が開始し、次に加工すべきスキャンエリアのうち一部が、前記ビーム走査器でパルスレーザビームを走査して加工することができる加工可能範囲に進入すると、前記加工可能範囲に重なっている領域の被加工点にパルスレーザビームを入射させ、前記スキャンエリアのうち前記加工可能範囲と重なる領域が広がると、新たに前記加工可能範囲に進入した領域の被加工点にパルスレーザビームを入射させる制御装置。
【請求項2】
1つのスキャンエリアに含まれる前記複数の被加工点に、少なくとも1ショットずつ順番にレーザビームを入射させるスキャンを1つのスキャンエリアあたり複数回実行し、
前記静止加工のそれぞれにおいて、少なくとも1回のスキャンを行い、前記移動加工のそれぞれにおいて1回のスキャンを行う請求項
1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記ビーム走査器に対する前記基板の移動の開始から終了までの時間を、前記移動加工において行う1回のスキャンに必要な時間に応じて異ならせる請求項
2に記載の制御装置。
【請求項4】
パルスレーザビームを走査するビーム走査器と、
前記ビーム走査器で走査された
パルスレーザビームが入射する位置において、前記ビーム走査器に対して基板を移動させる移動機構と、
前記ビーム走査器及び前記移動機構を制御する制御装置と
を有し、
前記制御装置は、
前記ビーム走査器と前記基板との相対位置を固定した状態で
パルスレーザビームを走査することにより、前記基板の表面の一部の領域で
パルスレーザビームの入射位置を移動させて静止加工を行う機能と、
前記ビーム走査器に対して前記基板を移動させて、前記基板の表面の、次に加工すべき領域に
パルスレーザビームを入射可能にする機能と、
前記ビーム走査器に対して前記基板を移動させている期間に前記ビーム走査器を動作させて、移動開始前に前記静止加工を行っていた領域、または移動後に前記静止加工を行う領域の少なくとも一方で、
パルスレーザビームの入射位置を移動させて移動加工を行う機能と
、
前記静止加工及び前記移動加工において、パルスレーザビームを前記基板の表面に定義されている複数の被加工点に順番に入射させて穴明け加工を行う機能と
を有
し、
前記基板の表面のうち、1回の前記静止加工で加工される範囲をスキャンエリアと定義したとき、
前記基板の移動が開始し、次に加工すべきスキャンエリアのうち一部が、前記ビーム走査器でパルスレーザビームを走査して加工することができる加工可能範囲に進入すると、前記加工可能範囲に重なっている領域の被加工点にパルスレーザビームを入射させ、前記スキャンエリアのうち前記加工可能範囲と重なる領域が広がると、新たに前記加工可能範囲に進入した領域の被加工点にパルスレーザビームを入射させるレーザ加工装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
1つのスキャンエリアに含まれる前記複数の被加工点に、少なくとも1ショットずつ順番に
パルスレーザビームを入射させるスキャンを1つのスキャンエリアあたり複数回実行し、
前記静止加工のそれぞれにおいて、少なくとも1回のスキャンを行い、前記移動加工のそれぞれにおいて1回のスキャンを行う請求項
4に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記ビーム走査器に対する前記基板の移動の開始から終了までの時間を、前記移動加工において行う1回のスキャンに必要な時間に応じて異ならせる請求項
5に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
パルスレーザビームを走査するビーム走査器に対して基板の位置を固定した状態で、前記ビーム走査器で
パルスレーザビームを走査して前記基板に
パルスレーザビームを入射させることにより静止加工を行う工程と、
前記ビーム走査器に対して前記基板を相対的に移動させながら、前記ビーム走査器で
パルスレーザビームを走査して前記基板にレーザビームを入射させることにより移動加工を行う工程と
を交互に実行
し、
前記静止加工及び前記移動加工において、パルスレーザビームを前記基板の表面に定義されている複数の被加工点に順番に入射させて穴明け加工を行い、
前記基板の表面のうち、1回の前記静止加工で加工される範囲をスキャンエリアと定義したとき、
前記基板の移動を開始し、次に加工すべきスキャンエリアのうち一部が、前記ビーム走査器でパルスレーザビームを走査して加工することができる加工可能範囲に進入すると、前記加工可能範囲に重なっている領域の被加工点にパルスレーザビームを入射させ、前記スキャンエリアのうち前記加工可能範囲と重なる領域が広がると、新たに前記加工可能範囲に進入した領域の被加工点にパルスレーザビームを入射させるレーザ加工方法。
【請求項8】
1つのスキャンエリアに含まれる前記複数の被加工点に、少なくとも1ショットずつ順番に
パルスレーザビームを入射させるスキャンを1つのスキャンエリアあたり複数回実行し、
前記静止加工のそれぞれにおいて、少なくとも1回のスキャンを行い、前記移動加工のそれぞれにおいて1回のスキャンを行う請求項
7に記載のレーザ加工方法。
【請求項9】
前記ビーム走査器に対して前記基板を移動させるときの移動の開始から終了までの時間が、前記移動加工において行う1回のスキャンに必要な時間に応じて異なっている請求項
8に記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置の制御装置、レーザ加工装置、及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板等にレーザビームを入射させて穴明け加工を行うレーザ加工装置が公知である(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に開示されたレーザ加工装置は、基板を保持するテーブルを一定速度で移動させながらガルバノミラーでレーザビームを走査し、走査されたレーザビームを基板表面の所定の位置に入射させて穴を形成する。
【0003】
また、基板を静止させた状態でレーザビームを走査し、所定の位置にレーザビームを入射させて穴を形成する加工技術も公知である。この技術では、基板を静止させて加工を行う工程と、基板を移動させる工程とを交互に繰り返すことにより、基板表面の全域の加工を行う。この加工方法は、ステップアンドリピート方式といわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステップアンドリピート方式では、基板の移動中に加工が行われないため、基板の全域を加工するために必要な時間の短縮化を図ることが困難である。特許文献1に開示された加工方法では、基板の移動速度が、加工すべき穴の分布が最も密な領域の加工をするときの移動速度に制限される。このため、穴の分布密度が粗の領域を加工するときには、レーザビームの走査に基板の移動が追い付かず、レーザビームの出力を待機する状況が生じ得る。このため、ステップアンドリピート方式よりも加工時間が長くなってしまう場合もある。
【0006】
本発明の目的は、加工時間の短縮化を図ることが可能なレーザ加工装置の制御装置、レーザ加工装置、及びレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
ビーム走査器で走査されたパルスレーザビームによる加工を制御する制御装置であって、
前記ビーム走査器と基板との相対位置を固定した状態でパルスレーザビームを走査することにより、前記基板の表面の一部の領域でパルスレーザビームの入射位置を移動させて静止加工を行う機能と、
前記ビーム走査器に対して前記基板を移動させて、前記基板の表面の、次に加工すべき領域にパルスレーザビームを入射可能にする機能と、
前記ビーム走査器に対して前記基板を移動させている期間にパルスレーザビームを走査することにより、移動開始前に前記静止加工を行っていた領域、または移動後に前記静止加工を行う領域の少なくとも一方で、パルスレーザビームの入射位置を移動させて移動加工を行う機能と、
前記静止加工及び前記移動加工において、パルスレーザビームを前記基板の表面に定義されている複数の被加工点に順番に入射させて穴明け加工を行う機能と
を有し、
前記基板の表面のうち、1回の前記静止加工で加工される範囲をスキャンエリアと定義したとき、
前記基板の移動が開始し、次に加工すべきスキャンエリアのうち一部が、前記ビーム走査器でパルスレーザビームを走査して加工することができる加工可能範囲に進入すると、前記加工可能範囲に重なっている領域の被加工点にパルスレーザビームを入射させ、前記スキャンエリアのうち前記加工可能範囲と重なる領域が広がると、新たに前記加工可能範囲に進入した領域の被加工点にパルスレーザビームを入射させる制御装置が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によると、
パルスレーザビームを走査するビーム走査器と、
前記ビーム走査器で走査されたパルスレーザビームが入射する位置において、前記ビーム走査器に対して基板を移動させる移動機構と、
前記ビーム走査器及び前記移動機構を制御する制御装置と
を有し、
前記制御装置は、
前記ビーム走査器と前記基板との相対位置を固定した状態でパルスレーザビームを走査することにより、前記基板の表面の一部の領域でパルスレーザビームの入射位置を移動させて静止加工を行う機能と、
前記ビーム走査器に対して前記基板を移動させて、前記基板の表面の、次に加工すべき領域にパルスレーザビームを入射可能にする機能と、
前記ビーム走査器に対して前記基板を移動させている期間に前記ビーム走査器を動作させて、移動開始前に前記静止加工を行っていた領域、または移動後に前記静止加工を行う領域の少なくとも一方で、パルスレーザビームの入射位置を移動させて移動加工を行う機能と、
前記静止加工及び前記移動加工において、パルスレーザビームを前記基板の表面に定義されている複数の被加工点に順番に入射させて穴明け加工を行う機能と
を有し、
前記基板の表面のうち、1回の前記静止加工で加工される範囲をスキャンエリアと定義したとき、
前記基板の移動が開始し、次に加工すべきスキャンエリアのうち一部が、前記ビーム走査器でパルスレーザビームを走査して加工することができる加工可能範囲に進入すると、前記加工可能範囲に重なっている領域の被加工点にパルスレーザビームを入射させ、前記スキャンエリアのうち前記加工可能範囲と重なる領域が広がると、新たに前記加工可能範囲に進入した領域の被加工点にパルスレーザビームを入射させるレーザ加工装置が提供される。
【0009】
本発明のさらに他の観点によると、
パルスレーザビームを走査するビーム走査器に対して基板の位置を固定した状態で、前記ビーム走査器でパルスレーザビームを走査して前記基板にパルスレーザビームを入射させることにより静止加工を行う工程と、
前記ビーム走査器に対して前記基板を相対的に移動させながら、前記ビーム走査器でパルスレーザビームを走査して前記基板にレーザビームを入射させることにより移動加工を行う工程と
を交互に実行し、
前記静止加工及び前記移動加工において、パルスレーザビームを前記基板の表面に定義されている複数の被加工点に順番に入射させて穴明け加工を行い、
前記基板の表面のうち、1回の前記静止加工で加工される範囲をスキャンエリアと定義したとき、
前記基板の移動を開始し、次に加工すべきスキャンエリアのうち一部が、前記ビーム走査器でパルスレーザビームを走査して加工することができる加工可能範囲に進入すると、前記加工可能範囲に重なっている領域の被加工点にパルスレーザビームを入射させ、前記スキャンエリアのうち前記加工可能範囲と重なる領域が広がると、新たに前記加工可能範囲に進入した領域の被加工点にパルスレーザビームを入射させるレーザ加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
静止加工と次の静止加工との間の基板の移動中において移動加工を行うことにより、加工時間の短縮化を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例によるレーザ加工装置の概略図である。
【
図2】
図2Aは、基板の表面に定義されている複数の被加工点の分布の一例を示す図であり、
図2Bは、複数の被加工点の加工順の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例によるレーザ加工方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4A~
図4Dは、移動加工の開始時点から終了時点までの加工可能範囲と、スキャンエリアとの相対位置関係を示す図である。
【
図5】
図5Aは、本実施例によるレーザ加工方法を採用した場合の基板移動とレーザ加工との時間関係を示すタイミングチャートであり、
図5B及び
図5Cは、変形例によるレーザ加工方法を採用した場合の基板移動とレーザ加工との時間関係を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~
図5Cを参照して実施例によるレーザ加工装置及びレーザ加工方法について説明する。
【0013】
図1は、実施例によるレーザ加工装置の概略図である。実施例によるレーザ加工装置は、レーザ光学系10、基板40を保持して移動させる移動機構30、レーザ光学系10及び移動機構30を制御する制御装置20を含む。
【0014】
以下、レーザ光学系10の構成について説明する。レーザ発振器11が制御装置20からの指令により、パルスレーザビームを出力する。レーザ発振器11から出力されたパルスレーザビームは、導光光学系12及びアパーチャ13を通って、音響光学素子(AOD)14に入射する。導光光学系12は、例えばビームエキスパンダ等を含む。音響光学素子14は、制御装置20からの指令により、入射したパルスレーザビームを第1経路15A、第2経路15B、及びビームダンパ19に向かう経路のいずれか1つに振り向ける。
【0015】
第1経路15Aに振り向けられたパルスレーザビームは、ビーム走査器16A及び集光レンズ17Aを通って、加工対象物である基板40に入射する。第2経路15Bに振り向けられたパルスレーザビームは、折り返しミラー18で反射され、ビーム走査器16B及び集光レンズ17Bを通って、加工対象物である他の基板40に入射する。2枚の基板40にそれぞれパルスレーザビームが入射することにより、穴明け加工が行われる。2枚の基板40は、例えばプリント配線基板である。
【0016】
ビーム走査器16A、16Bとして、例えば一対の揺動ミラーを含むガルバノスキャナが用いられる。ビーム走査器16A、16Bは、制御装置20からの指令により、レーザビームを走査し、それぞれ2枚の基板40の表面においてパルスレーザビームの入射位置を移動させる。集光レンズ17A、17Bとして、例えばfθレンズが用いられる。
【0017】
2枚の基板40は移動機構30の可動テーブル31の水平な支持面に支持されている。移動機構30は、制御装置20からの指令により、ビーム走査器16A、16Bに対して2枚の基板40を支持面に平行な二次元方向に移動させる。ビーム走査器16A、16Bに対して基板40を移動させるとは、ビーム走査器16A、16Bへの入射箇所におけるビーム経路(走査される前のビーム経路)に対して基板40を移動させることを意味する。
【0018】
図2Aは、基板40の表面に定義されている複数の被加工点41の分布の一例を示す図である。
図2Aでは、複数の被加工点41のうち一部のみを示している。移動機構30(
図1)に支持された2枚の基板40に定義されている複数の被加工点41の分布は同一である。基板40の外形は、例えば長方形である。
【0019】
長方形の基板40の四隅に、それぞれアライメントマーク42が設けられている。基板40の表面に、複数の被加工点41が定義されている。
図2Aでは、被加工点41を円形の記号で示しているが、実際には、基板40の表面に何らかのマークが付されているわけではなく、複数の被加工点41の位置を定義する位置データが制御装置20に記憶されている。
【0020】
基板40の表面に複数のスキャンエリア45が定義されている。スキャンエリア45の各々の形状は正方形であり、その大きさは、ビーム走査器16A、16B(
図1)の各々を動作させてパルスレーザビームを走査することによって、パルスレーザビームを入射させることができる範囲の大きさとほぼ等しい。基板40上のすべての被加工点41がいずれかのスキャンエリア45内に包含されるように、複数のスキャンエリア45が配置される。複数のスキャンエリア45は部分的に重なる場合があり、被加工点41が分布していない領域にはスキャンエリア45が配置されない場合もある。
【0021】
1つのスキャンエリア45を集光レンズ17A、17B(
図1)の一方の直下に移動させて、そのスキャンエリア45内の複数の被加工点41にパルスレーザビームを順番に入射させることにより、そのスキャンエリア45の加工が行われる。1つのスキャンエリア45の加工が終了すると、移動機構30(
図1)を動作させて、次に加工すべきスキャンエリア45を、集光レンズ17A、17Bの一方の直下に移動させる。
図2Aにおいて、スキャンエリア45の加工順を矢印で示している。
【0022】
図2Bは、複数の被加工点41の加工順の一例を示す図である。複数の被加工点41に通し番号が付されている。ビーム走査器16A、16B(
図1)を動作させて、通し番号の順に、複数の被加工点41にパルスレーザビームを入射させることにより、1つのスキャンエリア45の加工を行う。
図2Bにおいて、複数の被加工点41の加工順を矢印で示している。被加工点41の加工順は、例えば、パルスレーザビームの入射位置の移動経路が最短になるように決められる。加工順の決定には、例えば巡回セールスマン問題を解くアルゴリズムを適用することができる。
【0023】
1つのスキャンエリア45内に存在し、同一条件で加工する複数の被加工点41の集合を「ブロック」という。上記通し番号は、ブロックごとに、複数の被加工点41に対して付される。1つのブロックのすべての被加工点41に順番に同一の照射条件でパルスレーザビームを1ショットずつ入射させる加工を、「スキャン」という。1つのブロックの被加工点41の加工を行うときの照射条件の数を「サイクル数」という。
【0024】
同一条件で加工する複数の被加工点41の全てを1つのブロックに含めてもよいし、同一条件で加工する複数の被加工点41のうち任意の一部の被加工点41を1つのブロックに含めてもよい。
【0025】
例えば、1つの照射条件で1回のスキャンを行う加工では、被加工点41の各々にパルスレーザビームが1回入射する。同一の照射条件で2回のスキャンを行う場合には、1つの被加工点41に、レーザパルスが合計で2回入射する。サイクル数が2回の加工では、第1照射条件でのスキャンと、第1照射条件とは異なる第2照射条件でのスキャンとを行う。第1照射条件と第2照射条件とでは、用いるパルスレーザビームのパルス幅が異なる。例えば、第1サイクルで2回のスキャン、第2サイクルで1回のスキャンを行う加工では、被加工点41の各々に、第1照射条件で2ショット、第2照射条件で1ショットのパルスレーザビームが入射する。
【0026】
スキャンエリア45に含まれる複数の被加工点41の一部を1つのブロックに含める場合に、当該ブロックに含まれない他の複数の被加工点41は、他のスキャンで加工される。1つのブロックに含まれる複数の被加工点41の組み合わせは、複数の基板40(
図4A)で同一にしてもよいし、基板40ごとに異ならせてもよい。
【0027】
図3は、実施例によるレーザ加工方法の手順を示すフローチャートである。以下、第1経路15A(
図1)を伝搬するパルスレーザビームで加工する場合について説明する。第2経路15Bを伝搬するパルスレーザビームでの加工手順も、第1経路15Aを伝搬するパルスレーザビームの加工手順と同一である。
【0028】
基板40を移動機構30(
図1)に支持し、最初に加工すべき未加工のスキャンエリア45を集光レンズ17Aの直下の加工可能位置に配置するための基板40の移動を開始する(ステップS1)。この移動において、制御装置20は、レーザ光学系10のビーム走査器16Aに対して基板40を移動させることにより、未加工のスキャンエリア45を加工可能位置に配置する。少なくとも1つのスキャンエリア45の加工が終了した場合には、次に加工すべき未加工のスキャンエリア45を集光レンズ17Aの直下の加工可能位置に配置するための基板40の移動を開始する。
【0029】
制御装置20は、基板40を移動させている期間に、レーザ発振器11からパルスレーザビームを出力させ、ビーム走査器16Aを制御してパルスレーザビームを走査し、次に加工すべき未加工のスキャンエリア45(
図2A)内の被加工点41の加工を行う(ステップS2)。本明細書において、基板40を移動させながらパルスレーザビームを走査する加工を「移動加工」という。
【0030】
次に、移動加工を行うときのビーム走査器16Aの制御について説明する。ビーム走査器16Aでパルスレーザビームを走査して加工することができる加工可能範囲に原点(基準点)が設定されている。この原点は、ビーム走査器16A(より具体的には、ビーム走査器16Aへのパルスレーザビームの入射位置におけるビーム経路)や集光レンズ17Aに対して固定されている。制御装置20は、ビーム走査器16Aを制御することにより、加工可能範囲の指定した位置にパルスレーザビームを入射させることができる。
【0031】
スキャンエリア45内の被加工点41の位置は、基板40に設けられたアライメントマーク42(
図2A)に対する相対位置として定義されている。制御装置20は、基板40を可動テーブル31に載せて固定した状態で、アライメントマーク42(
図2A)の位置を検出することにより、可動テーブルに31対する基板40の相対位置情報を取得する。制御装置20は、可動テーブル31に対する基板40の相対位置情報と、基板40のアライメントマーク42に対して定義された被加工点41の位置情報とに基づいて、可動テーブル31に対する被加工点41の相対位置を特定する。
【0032】
移動加工中においては、加工可能範囲の原点に対して、可動テーブル31及び基板40が移動している。制御装置20は、パルスレーザビームを基板40に入射させる時点における加工可能範囲の原点に対する可動テーブル31の位置と、可動テーブル31に対する被加工点41の相対位置情報とから、加工可能範囲の原点に対する被加工点41の相対位置を算出する。この算出結果に基づいて、制御装置20がビーム走査器16Aを制御することにより、加工すべき被加工点41にパルスレーザビームを入射させることができる。なお、パルスレーザビームの1つのパルスが入射している期間中も基板40が移動する。このため、制御装置20は、1つのパルスの入射期間中も、被加工点41の位置の変化に応じてビーム走査器16Aを制御してパルスレーザビームの入射位置を移動させる。
【0033】
上述のように、移動加工中には、制御装置20は、移動機構30による基板40の移動を考慮して、ビーム走査器16Aによるパルスレーザビームの入射位置を決定する。パルスレーザビームの入射位置を決定するときに、基板40の移動を考慮する制御は、基板40の移動と、パルスレーザビームの走査とを同期させた制御ということができる。移動加工においては、1つのスキャンエリア45に対して1スキャン分の加工を行う。
【0034】
次に加工すべき未加工のスキャンエリア45が加工可能範囲まで移動したら、制御装置20は基板40の移動を停止させる(ステップS3)。基板40の移動を停止させた後、制御装置20は、基板40を静止させた状態で、レーザ発振器11からパルスレーザビームを出力させ、ビーム走査器16Aを制御してパルスレーザビームを走査することにより、加工可能範囲に配置されているスキャンエリア45内の複数の被加工点41の加工を行う。本明細書において、基板40を静止させた状態で行う加工を「静止加工」という。静止加工時の複数の被加工点41の加工順は、例えば巡回セールス問題を解くアルゴリズムを用いて、パルスレーザビームの入射位置の移動距離が最も短くなるように決められる。
【0035】
制御装置20は、ステップS1からステップS4までの手順を、すべてのスキャンエリア45の加工が終了するまで繰り返す。
【0036】
次に、
図4A~
図4Dを参照して、移動加工中に加工される被加工点41の順番について説明する。移動加工における複数の被加工点41の加工順は、静止加工時における加工順とは異なる。
【0037】
図4A~
図4Dは、移動加工の開始時点から終了時点までの加工可能範囲46と、スキャンエリア45A、45Bとの相対位置関係を示す図である。
図4Aに示すように、1つのスキャンエリア45Aが加工可能範囲46内に配置されており、次に加工すべき未加工のスキャンエリア45Bが加工可能範囲46の外側に配置されている。加工可能範囲46に配置されたスキャンエリア45Aの加工が終了すると、移動加工が開始される。なお、加工順が1番目のスキャンエリア45の移動加工を行うときには、加工可能範囲46内には、どのスキャンエリア45が配置されているかは不定である。このときは、基板40のアライメントが終了した後に、加工順が1番目のスキャンエリア45の移動加工を開始する。
【0038】
制御装置20は、
図4Bに示すように、加工可能範囲46を次に加工すべきスキャンエリア45Bに向かって相対的に移動させる。なお、実際には、加工可能範囲46が固定されており、加工可能範囲46に対して基板40(
図2A)を移動させることにより、スキャンエリア45Bを加工可能範囲46に向けて移動させる。
図4Bにおいて、移動前の加工可能範囲の位置を破線で示している。
【0039】
移動開始からある時間が経過すると、次に加工すべきスキャンエリア45Bの一部の領域が加工可能範囲46と重なる。制御装置20は、スキャンエリア45B内の複数の被加工点41のうち、加工可能範囲46に重なっている領域の被加工点41に順番にパルスレーザビームを入射させる。さらに時間が経過すると、時間の経過に従って
図4C、
図4Dに示すように、加工可能範囲46に重なっているスキャンエリア45B内の領域が広がる。制御装置20は、スキャンエリア45B内の複数の被加工点41のうち、加工可能範囲46に新たに進入した被加工点41に順番にパルスレーザビームを入射させる。
図4C、
図4Dにおいて、加工済の被加工点41を中実の黒丸記号で表し、加工可能範囲46に新たに進入した被加工点41を中空の丸記号で表す。
【0040】
加工可能範囲46に新たに進入した複数の被加工点41の検出は、例えば一定の時間刻み幅で行う。または、現時点で加工可能範囲46内に検出されている被加工点41の全ての加工が終了したら、新たに進入した複数の被加工点41を検出するようにしてもよい。
【0041】
次に、
図5Aを参照して、本実施例によるレーザ加工方法を採用した場合の基板移動とレーザ加工との時間的な関係について説明する。
【0042】
図5Aは、本実施例によるレーザ加工方法を採用した場合の基板移動とレーザ加工との時間関係を示すタイミングチャートである。
図5Aに示した例では、1つのスキャンエリア45において、第1加工条件(第1サイクル)で1回のスキャンを行い、第2加工条件(第2サイクル)で2回のスキャンを行う。
【0043】
基板40(
図2A)の移動を行いながら、i番目のスキャンエリア45(i)の第1サイクルの1回目のスキャンを行うときに、スキャンエリア45(i)の移動加工を行う。この1回のスキャンに必要な時間は、基板40の移動時間とほぼ等しい。第2サイクルでの1回目及び2回目のスキャンは、基板40を静止させた状態で行う。スキャンエリア45(i)に対する第2サイクルの2回のスキャンが終了すると、次に加工すべきスキャンエリア45(i+1)に対して移動加工を行う。
【0044】
被加工点41の個数や分布が、スキャンエリア45(i)とスキャンエリア45(i+1)とで異なっている場合、スキャンエリア45(i)の第1サイクルの1回目のスキャンに必要な時間と、スキャンエリア45(i+1)の第1サイクルの1回目のスキャンに必要な時間とは異なる。制御装置20は、基板40の移動の開始から終了までの時間を、移動加工において行う1回のスキャンに必要な時間に応じて異ならせている。例えば、基板40の移動速度を調整することにより、基板40の移動の開始から終了までの時間を、移動加工において行う1回のスキャンに必要な時間とほぼ等しくしている。
【0045】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
上記実施例では、ステップアンドリピート方式で採用される静止加工に加えて、基板40の移動時にも加工(移動加工)を行っている。このため、加工時間を短縮することができる。また、被加工点41が分布していない領域には、スキャンエリア45を配置しない。したがって、被加工点41が配置されていない領域も、一定速度で加工可能範囲46(
図4A~
図4D)を通過させる場合と比べて、加工時間を短縮することができる。
【0046】
次に、
図5B及び
図5Cを参照して上記実施例の変形例について説明する。
図5B及び
図5Cは、変形例によるインク塗布方法における基板移動とレーザ加工との時間関係を示すタイミングチャートである。
【0047】
図5Bに示した変形例では、基板40の移動速度がすべてのスキャンエリア45に対して同一にされている。この移動速度は、例えば、複数のスキャンエリア45のそれぞれの1回のスキャンに必要な時間のうち最も短い時間に合わせて設定される。例えば、基板40の移動速度は、スキャンエリア45(i)の1回のスキャンに必要な時間に合わせて設定される。このとき、スキャンエリア45(i)以外のスキャンエリア45(i+1)等においては、基板40の移動時間が1回のスキャンに必要な時間より短くなる。その結果、基板40の移動が完了しても、移動加工中のスキャンが終了しない。この場合には、基板40の移動が終了した時点より後の期間Tにおいて、基板40を静止させた状態で未加工の被加工点41を加工する。
【0048】
図5Cに示した変形例では、1つのスキャンエリア45を複数回のスキャンにより加工する場合に、最後のスキャンに移動加工を適用する。例えば、スキャンエリア45(i-1)及び45(i)の加工において、第2サイクルの2回目のスキャンに移動加工を採用する。このように、移動加工は、移動開始前に静止加工を行っていたスキャンエリア45、または移動後に静止加工を行うスキャンエリア45の少なくとも一方で、レーザビームの入射位置を移動させて加工を行えばよい。
【0049】
次に、上記実施例の他の変形例について説明する。
図5A~
図5Cでは、1つのスキャンエリア45に対して第1サイクルの条件で1回のスキャンを行い、第2サイクルの条件で2回のスキャンを行っているが、上記実施例は、1つのスキャンエリア45に対して少なくとも2回のスキャンを行う場合に適用することが可能である。例えば、スキャンエリア45の静止加工のそれぞれにおいて、少なくとも1回のスキャンを行い、移動加工のそれぞれにおいて1回のスキャンを行うようにしてもよい。
【0050】
上記実施例では、加工順が最初のスキャンエリア45の加工を行うときの1回目のスキャンに移動加工を適用したが、加工順が最初のスキャンエリア45に対しては、すべてのスキャンに静止加工を適用してもよい。加工順が2番目以降のスキャンエリア45のそれぞれの1番目のスキャンに移動加工を適用するとよい。
【0051】
上記実施例では、1回のスキャンにおいて複数の被加工点41(
図2A、
図2B)に1ショットずつレーザビームを入射させたが、複数の被加工点41に複数ショットずつ、例えば2ショットずつ、または3ショットずつレーザビームを入射させてもよい。この場合、1つの被加工点41に複数のレーザパルスが入射する期間、レーザビームは走査されずビーム経路が固定される。このように、1回のスキャンにおいて複数の被加工点41(
図2A、
図2B)に、少なくとも1ショットずつレーザビームを入射させればよい。
【0052】
上記実施例及び変形例は例示であり、実施例及び変形例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。実施例及び変形例の同様の構成による同様の作用効果については実施例及び変形例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例及び変形例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0053】
10 レーザ光学系
11 レーザ発振器
12 導光光学系
13 アパーチャ
14 音響光学素子(AOD)
15A 第1経路
15B 第2経路
16A、16B ビーム走査器
17A、17B 集光レンズ
18 折り返しミラー
19 ビームダンパ
20 制御装置
30 移動機構
31 可動テーブル
40 基板
41 被加工点
42 アライメントマーク
45 スキャンエリア
45A 加工済のスキャンエリア
45B 次に加工すべき未加工のスキャンエリア
46 加工可能範囲