(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】水中油型乳化組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20230912BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20230912BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20230912BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20230912BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20230912BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20230912BHJP
A61K 8/39 20060101ALI20230912BHJP
A61K 8/891 20060101ALI20230912BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20230912BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/06
A61K8/25
A61K8/31
A61K8/34
A61K8/37
A61K8/39
A61K8/891
A61K8/92
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2020051114
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 美幸
(72)【発明者】
【氏名】山科 拓也
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-182348(JP,A)
【文献】特開2004-262887(JP,A)
【文献】特開2013-103892(JP,A)
【文献】特開2002-003356(JP,A)
【文献】国際公開第2019/059023(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/203717(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
B01J 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び下記成分(B)を配合して、
水の含有割合が0~0.5質量%(0質量%を含む)である非水混合液(I)を調製する工程1と、
前記非水混合液(I)、下記成分(C)及び下記成分(D)を配合して混合液(II)を調製する工程2と、
前記混合液(II)を乳化する工程3を有し、
前記非水混合液(I)中の、前記成分(A)に対する前記成分(B)の質量比[成分(B)/成分(A)]が0.05~12.5であり、
前記混合液(II)中の、前記成分(C)と前記成分(D)の合計量に対する前記成分(C)の質量割合[成分(C)/{成分(C)+成分(D)}]が0.20~0.99であり、
前記混合液(II)中の、前記混合液(II)に対する、前記成分(C)と前記成分(D)の合計量の質量割合[{成分(C)+成分(D)}/混合液(II)]が0.50以上である、水中油型乳化組成物の製造方法。
成分(A):オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩及び/又はタルクである粉体
成分(B):シリコーン油、炭化水素油、エステル油、及び植物油からなる群より選択される1以上であり、IOB値が0~0.45である油性成分
成分(C):エタノール
成分(D):水
【請求項2】
前記工程1において、さらにデカイソステアリン酸ポリグリセリル-10を配合して前記非水混合液(I)を調製する、請求項1に記載の水中油型乳化組成物の製造方法。
【請求項3】
水中油型乳化組成物を製造する方法であって、前記水中油型乳化組成物中のデカイソステアリン酸ポリグリセリル-10以外の界面活性剤の配合割合が
0~0.1質量%(0質量%を含む)である、請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボディローション、清涼化粧料、デオドラント剤などの液状の化粧料について、液中に目視可能なサイズの粒子を分散することにより、特異な外観を呈し、消費者にとって新たな審美的な価値が生じて需要が大いに喚起されることが期待される。
化粧料に用いられる粒子としてはスクラブ剤があり、これのサイズの大きなものを用いることが考えられる。また、大きなサイズの粒子としては、例えば、アルギン酸カルシウムカプセルが知られている。
【0003】
しかし、大きなサイズのスクラブ剤は、肌に塗布した時に刺激があり、さらに塗布後に肌に残り不快感を与える問題がある。アルギン酸カルシウムカプセルも塗布後に凝集物が肌に残り不快感を与える問題がある。
【0004】
一方、油滴が粉体によって安定化され、界面活性剤を含有しないか、少量のみしか含有しない、いわゆるピッカリングエマルションが知られている(例えば、特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-95638号公報
【文献】特開2000-95639号公報
【文献】特開2018-188497号公報
【文献】特開2019-202962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~4に開示されているピッカリングエマルション粒子は、粉体を水に分散させた後に油性成分を添加、攪拌する方法によって形成されており、このような方法では、体積粒子径が100μm以下のピッカリングエマルション粒子しか得られないという問題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、比較的大きいピッカリングエマルション粒子を形成することができる、水中油型乳化組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、成分(A):オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩及び/又はタルクである粉体、成分(B):シリコーン油、炭化水素油、エステル油、及び植物油からなる群より選択される1以上であり、IOB値が0~0.45である油性成分、成分(C):エタノール、並びに成分(D):水について、成分(A)~(D)を特定の順序、特定の質量比で混合することにより、水中油型乳化組成物において比較的大きいピッカリングエマルション粒子が得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記成分(A)及び下記成分(B)を配合して、実質的に水を含有しない非水混合液(I)を調製する工程1と、
上記非水混合液(I)、下記成分(C)及び下記成分(D)を配合し、混合液(II)を調製する工程2と、
上記混合液(II)を乳化する工程3を有し、
上記非水混合液(I)中の、下記成分(A)に対する下記成分(B)の質量比[成分(B)/成分(A)]が0.05~12.5であり、
上記混合液(II)中の、下記成分(C)と下記成分(D)の合計量に対する下記成分(C)の質量割合[成分(C)/{成分(C)+成分(D)}]が0.20~0.99であり、
上記混合液(II)中の、上記混合液(II)に対する、下記成分(C)と下記成分(D)の合計量の質量割合[{成分(C)+成分(D)}/混合液(II)]が0.50以上である、水中油型乳化組成物の製造方法を提供する。
成分(A):オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩及び/又はタルクである粉体
成分(B):シリコーン油、炭化水素油、エステル油、及び植物油からなる群より選択される1以上であり、IOB値が0~0.45である油性成分
成分(C):エタノール
成分(D):水
【0010】
本発明の製造方法は、工程1において、さらにデカイソステアリン酸ポリグリセリル-10を配合するものであってもよい。
【0011】
本発明の製造方法において、上記水中油型乳化組成物中のデカイソステアリン酸ポリグリセリル-10以外の界面活性剤の配合割合は、0.1質量%以下が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、比較的大きいピッカリングエマルション粒子が形成された水中油型乳化組成物を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[水中油型乳化組成物の製造方法]
本発明の製造方法は、オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩及び/又はタルクである粉体;シリコーン油、炭化水素油、エステル油、及び植物油からなる群より選択される1以上であり、IOB値が0~0.45である油性成分;エタノール;及び水から、比較的大きなピッカリングエマルション粒子が形成された水中油型乳化組成物を得ることができる、水中油型乳化組成物の製造方法である。なお、本明細書において、オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩及び/又はタルクである粉体を「成分(A)」、シリコーン油、炭化水素油、エステル油、及び植物油からなる群より選択される1以上であり、IOB値が0~0.45である油性成分を「成分(B)」、エタノールを「成分(C)」、水を「成分(D)」とそれぞれ称する場合がある。すなわち、本発明の製造方法は、上記成分(A)、上記成分(B)、上記成分(C)、及び上記成分(D)を用いて水中油型乳化組成物を得る、水中油型乳化組成物の製造方法である。また、本明細書において、本発明の製造方法により製造された水中油型乳化組成物を「本発明の水中油型乳化組成物」と称する場合がある。
【0014】
本発明の水中油型乳化組成物の製造方法は、油性成分である上記成分(B)、及び粉体である上記成分(A)を、上記成分(A)に対する上記成分(B)の質量比[成分(B)/成分(A)]0.05~12.5において混合して、実質的に水を含有しない非水混合液(I)を調製する工程1と、
上記非水混合液(I)、エタノールである上記成分(C)、及び水である上記成分(D)を混合して混合液(II)を調製する工程であって、該混合液(II)中の、上記成分(C)と上記成分(D)の合計量に対する成分(C)の質量割合[成分(C)/{成分(C)+成分(D)}]が0.20~0.99であり、上記混合液(II)中の、混合液(II)に対する、上記成分(C)と上記成分(D)の合計量の質量割合{成分(C)+成分(D)}/混合液(II)]が0.50以上である工程2と、
上記混合液(II)を乳化する工程3を有する。
【0015】
<工程1>
工程1は、少なくとも成分(A)及び成分(B)を混合して、実質的に水を含有しない非水混合液(I)を調製する工程である。実質的に水を含まないとは、非水混合液中の水の含有割合が、例えば0.5質量%以下、好ましくは0.3質量%以下ということである。
【0016】
これらの混合は、例えば、一般的な撹拌器具又は撹拌装置(ホモミキサー、パドルミキサーなど)を用いた攪拌によって行うことができる。撹拌時間は、特に制限されず、撹拌器具又は撹拌装置の種類、各成分の種類、量等に応じて、適宜設定することができる。
【0017】
(成分(A))
成分(A)は、オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩及び/又はタルクである粉体である。成分(A)は、水中油型乳化組成物において粉体を配合することによる効果(使用後の肌への摩擦の低い感触の付与、粉感の低減、適度な保湿感の付与など)を奏しつつ、成分(B)~(D)と組み合わせて用いることでピッカリングエマルションを形成することができる。成分(A)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0018】
上記オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩としては、オクテニルコハク酸デンプンエステルのアルミニウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄塩などが挙げられる。中でも、アルミニウム塩(オクテニルコハク酸デンプンアルミニウム)が好ましい。上記オクテニルコハク酸デンプンアルミニウムは、オクテニルコハク酸デンプンAl又はオクテニルコハク酸トウモロコシデンプンアルミニウムと表記される場合がある。また、上記オクテニルコハク酸デンプンアルミニウムは、INCI名で、ALUMINUM STARCH OCTENYLSUCCINATEと表記される場合がある。
【0019】
本発明の製造方法において、成分(A)は粉体である。オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩は、比較的高温(例えば、60℃以上)に加温することで、親水化・ゲル化(所謂、α化や糊化)し粉体状態でなくなり、増粘剤として使用されることがある。本発明の水中油型乳化組成物では、粉体の状態で含まれることが特徴である。このため、工程1を含む製造工程は、60℃未満(より好ましくは55℃未満)において行われることが好ましい。
【0020】
上記タルクとしては、特に限定されず、化粧料組成物に一般的に用いられているタルクを使用することができる。上記タルクは、INCI名で、TALCと表記される。
【0021】
上記タルクの吸油量は、特に限定されないが、18~50ml/100gが好ましい。また、上記タルクの平均粒径D50は、特に限定されないが、0.5~25.0μmが好ましい。
【0022】
なお、本明細書において、タルクの吸油量はJIS K5101に記載の測定方法に準拠して測定される値である。また、本明細書において、タルクの平均粒径D50はレーザー回折法により測定される値である。
【0023】
成分(A)は市販品を用いることもできる。オクテニルコハク酸デンプンエステル金属塩の市販品としては、例えば、商品名「DRY-FLO PURE」、商品名「DRY-FLO PC」(以上、Nouryon社製)、商品名「オクティエ」(日澱化学株式会社製)などが挙げられる。タルクの市販品としては、商品名「タルクMS」(日本タルク株式会社製)などが挙げられる。
【0024】
(成分(B))
成分(B)は、シリコーン油、炭化水素油、エステル油、及び植物油からなる群より選択される1以上であり、IOB値が0~0.45である油性成分である。成分(B)の配合により、水中油型乳化組成物の使用において、成分(A)に由来する粉感(乾燥感や引っかかる感触)を低減でき、摩擦感低減効果を付与することができる。成分(B)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0025】
成分(B)がIOB値が0~0.45であって、疎水性であることにより、ピッカリングエマルションの粒子径が比較的大きく形成される。IOB(Inorganicity Organicity Balance)値は、無機性値(Inorganicity)を有機性値(Organicity)で除した値である。各油性成分のIOB値は、例えば甲田善生著、「有機概念図-基礎と応用-」、三共出版、1984年発行(p11~17)に基づいて求めることができる。
【0026】
上記シリコーン油としては、例えば、メチルポリシロキサン(ジメチコン)、高重合メチルポリシロキサンなどのジメチルシリコーン油;メチルフェニルポリシロキサンなどのメチルフェニルシリコーン油などが挙げられる。
【0027】
上記炭化水素油としては、例えば、イソパラフィン、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、スクワラン、合成スクワラン、植物性スクワラン、流動イソパラフィン、流動パラフィン、水添ポリイソブテン、イソドデカンなどが挙げられる。
【0028】
上記エステル油としては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸セチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸イソプロピル、2-エチルヘキサン酸セチル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、イソノナン酸イソノニル、アジピン酸ジイソプロピル、テトラオクタン酸ペンタエリスリチル、リンゴ酸ジイソステアリル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルなどが挙げられる。中でも、肌への安全性により優れる観点から、イソノナン酸イソノニル、2-エチルヘキサン酸セチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシルが好ましい。
【0029】
上記植物油としては、例えば、マカデミアナッツ油、オリーブ油、パーム油、シア脂(シアバター)、ヒマワリ油、ホホバ油、アルガンオイルなどが挙げられる。
【0030】
成分(B)は、25℃において液状であることが好ましい。成分(B)のブルックフィールド型回転粘度計を用いて25℃で測定された粘度ηは、30000mPa・s以下(例えば、0.1~30000mPa・s)が好ましく、より好ましくは1.0~10000mPa・sである。
【0031】
工程1において、上記非水混合液(I)中の、上記成分(A)に対する上記成分(B)の質量比[成分(B)/成分(A)]は、0.05~12.5であり、好ましくは0.50~10.0である。上記質量比が0.05以上であると、エマルション粒子外周部の油相側の粉体が十分となって粒子の曲率が小さくなりやすいのでピッカリングエマルション粒子が比較的大きくなりやすい。上記質量比が12.5以下であると、エマルション形成に寄与しない粉体がエマルション粒子から遊離しにくくなりやすいので水中油型乳化組成物が白濁しにくくなる。
【0032】
工程1において、上記非水記混合液(I)に対する上記成分(A)と上記成分(B)の合計量の質量割合[{成分(A)+成分(B)}/混合液(I)]は0.60~1.0が好ましく、より好ましくは0.80~1.0である。上記質量割合が上記範囲内であると、成分(A)と成分(B)とを均一に混合しやすく、また、乳化の際に成分(A)による界面の安定化が妨げられず、ピッカリングエマルションの形成が阻害されにくくなる。
【0033】
非水混合液(I)のブルックフィールド型回転粘度計を用いて25℃で測定された粘度ηは、50000mPa・s以下(例えば、0.1~50000mPa・s)が好ましく、より好ましくは1.0~15000mPa・sである。非水混合液(I)の粘度が50000mPa・s以下であると、工程1に続く工程2において、非水混合液(I)が、成分(C)、成分(D)に分散しやすくなる。
【0034】
なお、工程1の非水混合液(I)中の、上記成分(A)及び上記成分(B)の配合割合は、後記の、本発明の水中油型乳化組成物中の成分(A)及び成分(B)の含有割合になるように調整されることが好ましい。
【0035】
<工程2>
工程2は、少なくとも、工程1で調製された上記非水混合液(I)、上記成分(C)、及び上記成分(D)を混合して、混合液(II)を調製する工程である。混合は、上記非水混合液(I)を、上記成分(C)及び/又は上記成分(D)に添加して行うことが好ましい。
【0036】
これらの混合は、例えば、一般的な撹拌器具又は撹拌装置(ホモミキサー、パドルミキサーなど)を用いた攪拌によって行うことができる。撹拌時間は、特に制限されず、撹拌器具又は撹拌装置の種類、各成分の種類、量等に応じて、適宜設定することができる。
【0037】
(成分(C))
成分(C)はエタノールである。上記成分(C)を用いることにより、ピッカリングエマルションにおける水相の極性が低下してエマルション粒子が安定化するので、比較的大きなピッカリングエマルション粒子であっても合一することなく安定化するので油滴となりにくくなる。また、水中油型乳化組成物の使用後の肌において速乾性やさっぱりとした使用感を付与できる。
【0038】
(成分(D))
成分(D)は水であり、特に限定されないが、精製水が好ましい。
【0039】
工程2において、上記混合液(II)中の、上記成分(C)と上記成分(D)の合計量に対する上記成分(C)の質量割合[成分(C)/{成分(C)+成分(D)}]は、0.20~0.99であり、好ましくは0.30~0.90、より好ましくは0.40~0.80である。上記質量割合が上記範囲内であると、水相と油相の極性のバランスにより、成分(A)の界面からの脱離やピッカリングエマルション粒子の合一を抑制でき、比較的大きなピッカリングエマルション粒子であっても安定化される。
【0040】
工程2において、上記混合液(II)中の、上記混合液(II)に対する、上記成分(C)と上記成分(D)の合計量の質量割合[{成分(C)+成分(D)}/混合液(II)]は0.50以上であり、より好ましくは0.50~0.9995であり、さらに好ましくは0.70~0.9995である。上記質量割合が0.50以上であると、水相の量が十分となるので、混合液(II)中において、非水混合液(I)が均一に分散しやすく、乳化の際にも比較的大きなピッカリングエマルション粒子が形成されやすくなる。
【0041】
工程2においては、非水混合液(I)と、予め混合された成分(C)及び成分(D)とを配合、混合することによって、混合液(II)を調製してもよい。このようにすることによって、予め極性が調整された水相中に非水混合液(I)を分散させることができるので、比較的大きなピッカリングエマルション粒子が形成されやすく、また、ピッカリングエマルション粒子が安定化されやすくなる。
【0042】
また、工程2においては、非水混合液(I)と、成分(D)とを配合、混合してから、さらに成分(C)を配合、混合することによって、混合液(II)を調製してもよい。このようにすることによって、最終的に極性が調整される水相中に非水混合液(I)を分散させることができるので、比較的大きなピッカリングエマルション粒子が形成されやすく、また、ピッカリングエマルション粒子が安定化されやすくなる。
【0043】
なお、工程2の混合液(II)において配合される成分(C)及び成分(D)の配合割合は、後記の、本発明の水中油型乳化組成物中の成分(C)及び成分(D)の含有割合になるように調整されることが好ましい。
【0044】
<工程3>
工程3は、上記混合液(II)を乳化して組成物(III)を製造する工程である。乳化は、例えば、一般的な撹拌器具又は撹拌装置(ホモミキサー、パドルミキサーなど)を用いて混合液(II)を攪拌することによって行うことができる。
【0045】
本発明の水中油型乳化組成物は、上記組成物(III)であってもよいし、後記の工程4において、上記組成物(III)に、さらに下記の多価アルコール、水溶性高分子、及びその他の成分、並びに、成分(C)や成分(D)などを配合したものであってもよい。
【0046】
本発明の製造方法は、デカイソステアリン酸ポリグリセリル-10を配合するものであってもよい。デカイソステアリン酸ポリグリセリル-10は、工程1~3のいずれにおいて配合されてもよいが、工程1において配合されることが好ましい。デカイソステアリン酸ポリグリセリル-10(INCI名:Polyglyceryl-10 Decaisostearate)は、1分子当たり2個の水酸基と10個のエステル基に由来する親水性部分と、イソステアリル基に由来する親油性部分を有し、親水性部分により成分(A)に付着して、親油性部分により成分(A)の疎水性を高める。そのため、デカイソステアリン酸ポリグリセリル-10の配合により、成分(A)がエマルション粒子から遊離しにくくなるので、水中油型乳化組成物の白濁が減少する。また、より大きなサイズのピッカリングエマルション粒子を形成できる。デカイソステアリン酸ポリグリセリル-10は、後記の、本発明の水中油型乳化組成物中の含有割合になるように配合されることが好ましい。
【0047】
また、本発明の製造方法は、多価アルコール及び/又は水溶性高分子を配合するものであってよい。多価アルコール及び/又は水溶性高分子は、工程1~3のいずれにおいて配合されてもよいが、工程2において配合されることが好ましい。
【0048】
上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-デカンジオール、濃グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどが挙げられる。
【0049】
上記水溶性高分子としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キサンタンガムなどが挙げられる。
【0050】
多価アルコール及び/又は水溶性高分子は、後記の、本発明の水中油型乳化組成物中の含有割合になるように配合されることが好ましい。
【0051】
また、本発明の製造方法は、化粧品や医薬部外品に通常用いられるその他の成分が配合されてもよい。そのような成分は、工程1~3のいずれにおいて配合されてもよい。
【0052】
その他の成分としては、例えば、清涼剤、殺菌剤、香料、抗炎症剤(グリチルリチン酸及びその塩等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、色素、顔料、ビタミン類、アミノ酸類、収斂剤、美白剤、動植物抽出物、制汗剤、消臭剤などが挙げられる。
【0053】
上記清涼剤としては、例えば、低級アルコール、メントール、メントール誘導体(例えば、メンチルグリセリルエーテル、メンチルラクテート、メントール配糖体など)、カンフル、イシリン、ハッカ油、ペパーミント油、ユーカリプタスオイルなどが挙げられる。
【0054】
上記殺菌剤としては、例えば、体臭の原因となる物質を生成する皮膚常在菌の増殖を抑制する薬剤である。上記殺菌剤としては、例えば、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、フェノール、トリクロロカルバニリド、グルコン酸クロルヘキシジン、トリクロサン、トリクロカルバン、ピロクトンオラミン、ジンクピリチオン、サリチル酸、ソルビン酸、塩化リゾチームなどが挙げられる。
【0055】
その他の成分は、後記の、本発明の水中油型乳化組成物中の含有割合になるように配合されることが好ましい。
【0056】
また、本発明の製造方法では、上記のデカイソステアリン酸ポリグリセリル-10以外に、界面活性剤(ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤)が配合されてもよいが、上記界面活性剤の配合割合は、大きなサイズのピッカリングエマルション粒子を安定化させる観点から、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、0.1質量%以下であることが好ましい。
【0057】
<工程4>
工程3において一度形成されたピッカリングエマルションの安定性が高いことから、本発明の製造方法では、多価アルコール、水溶性高分子、及びその他の成分など、並びに、成分(C)や成分(D)を、さらに上記組成物(III)に配合する工程4を設けることができる。そして、工程4における配合によって、本発明の水中油型乳化組成物の使用感などが調製されてもよい。工程4における多価アルコール、水溶性高分子、及びその他の成分など、並びに、成分(C)や成分(D)の配合は、後記の、本発明の水中油型乳化組成物の含有割合となる範囲内において行われることが好ましい。
【0058】
[本発明の水中油型乳化組成物]
本発明の水中油型乳化組成物中の各成分の含有割合は以下のようになることが好ましい。
【0059】
本発明の水中油型乳化組成物中の上記成分(A)の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、0.05~10.0質量%が好ましく、より好ましくは0.1~5.0質量%である。上記含有割合が0.05質量%以上であると、比較的大きなピッカリングエマルション粒子が形成されやすくなり、上記含有割合が10.0質量%以下であると、水中油型乳化組成物が白濁しにくくなる。
【0060】
本発明の水中油型乳化組成物中の上記成分(B)の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、0.01~30.0質量%が好ましく、より好ましくは0.02~25.0質量%である。上記含有割合が0.01質量%以上であると、水中油型乳化組成物の使用につき肌にすべすべ感(肌を擦る際に摩擦が小さく感じられ、なおかつ、粉体の感触(乾燥感および粉による引っかかる感触)が抑制された感触)を付与することができる。上記含有割合が30.0質量%以下であると、エマルション粒子同士の合一による油滴が生じにくくなるので、水中油型乳化組成物について美観が損なわれやすくなる。
【0061】
本発明の水中油型乳化組成物中の上記成分(C)の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、20.0~95.0質量%が好ましく、より好ましくは30.0~70.0質量%である。上記含有割合が上記範囲内であると、ピッカリングエマルションにおける水相の極性が低下してエマルション粒子が安定化するので、比較的大きなピッカリングエマルション粒子であっても合一することなく安定化するので油滴となりにくくなる。
【0062】
本発明の水中油型乳化組成物中の上記成分(D)の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、0.5~85.0質量%が好ましく、より好ましくは1.0~82.0質量%である。上記含有割合が上記範囲内であると、水相の極性が低下し過ぎないので、比較的大きなピッカリングエマルション粒子が生じやすく、また、水相の極性低下により比較的大きなピッカリングエマルション粒子であっても合一することなく安定化するので油浮きを防止しやすくなる。
【0063】
上記デカイソステアリン酸ポリグリセリル-10を含有する場合の、本発明の水中油型乳化組成物中の上記デカイソステアリン酸ポリグリセリル-10の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、0.0005~1.0質量%が好ましく、より好ましくは0.001~0.5質量%、さらに好ましくは0.001~0.3質量%である。上記含有割合が上記範囲内であると、ピッカリングエマルション粒子から成分(A)が遊離することを減少させることができるので、水中油型乳化組成物が一層白濁しにくくなる。また、より大きなサイズのピッカリングエマルション粒子が形成される。
【0064】
上記多価アルコールを含有する場合の、本発明の水中油型乳化組成物中の上記多価アルコールの含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、0.1~30.0質量%が好ましい。上記含有割合が上記範囲内であると、水相の粘度が高くなり過ぎず、比較的大きなピッカリングエマルション粒子の形成を阻害しにくくなる。
【0065】
上記水溶性高分子を含有する場合の、本発明の水中油型乳化組成物中の上記水溶性高分子の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、0.001~1.0質量%が好ましい。上記含有割合が上記範囲内であると、水相の粘度が高くなり過ぎず、比較的大きなピッカリングエマルション粒子の形成を阻害しにくくなる。
【0066】
上記その他の成分を含有する場合の、本発明の水中油型乳化組成物中の上記その他の成分の合計量の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、0.01~1.5質量%が好ましく、より好ましくは0.05~1.2質量%である。
【0067】
本発明の水中油型乳化組成物中の、デカイソステアリン酸ポリグリセリル-10以外の界面活性剤の含有割合は、本発明の水中油型乳化組成物100質量%に対して、0.1質量%以下が好ましい。
【0068】
本発明の水中油型乳化組成物中の製造方法は、成分(A)及び油性成分成分(B)を特定の配合割合で予め混合して得た非水混合液(I)と、成分(C)及び成分(D)とを、特定の配合割合で混合して得た混合液(II)を、さらに乳化することによって、比較的大きな水中油型のピッカリングエマルション粒子を形成することができる。非水混合液(I)は、粉体を含有する高粘度の油相なので、混合液(II)中において大きな油滴を形成しやすい。その結果、本発明の水中油型乳化組成物中のピッカリングエマルション粒子は比較的大きくなる。成分(A)と成分(B)とを予め混合して非水混合液(I)とすることによって、ピッカリングエマルション粒子外周部において成分(A)が油相側に存在しやすくなるものと考えられるが、成分(A)に対する成分(B)の質量比[成分(B)/成分(A)]を0.05~12.5となるように配合することにより、その傾向を強めることができる。また、混合液(II)中の、混合液(II)に対する、成分(C)と成分(D)の合計量の質量割合[{成分(C)+成分(D)}/混合液(II)]を0.50以上となるように配合することにより、水相中に非水混合液(I)が均一に分散しやすくなり、乳化の際に比較的大きなピッカリングエマルション粒子が形成されやすくなる。また、水相(マトリックス)を成分(D)のみとすると、ピッカリングエマルション粒子が合一して油滴となり油浮きしやすくなるが、成分(C)と成分(D)の合計量に対する成分(C)の質量割合[成分(C)/{成分(C)+成分(D)}]を0.20~0.99となるように配合することにより、水相の極性を調整できるのでピッカリングエマルションを安定化することができる。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。なお、表に記載の配合割合は、各成分の配合割合(すなわち、各原料中の有効成分の配合割合。所謂純分)であり、特記しない限り「質量%」で表す。
【0070】
実施例1~19、21~27、比較例1~4
成分(A)~(D)、デカイソステアリン酸ポリグリセリル-10、及びその他の成分(清涼剤、殺虫剤、香料)について、表に記した含有割合となる配合量において、実施例及び比較例の各水中油型乳化組成物を調製した。
まず、成分(A)と成分(B)と、必要に応じてデカイソステアリン酸ポリグリセリル-10、又はその他の成分とを、均一に混合して非水混合液(I)を得、次に、その非水混合液(I)を、分散媒として予め成分(C)と成分(D)とを混合して用意した水エタノール混合液に加えて均一に混合して混合液(II)を得、さらに、その混合液(II)をパドルミキサーを用い1000rpm、10分間の条件で撹拌し、乳化して評価用のサンプルを得た。なお、上記調製は25℃の環境下で行った。
【0071】
実施例20
成分(A)~(D)について、表に記した含有割合となる配合量において、実施例の各水中油型乳化組成物を調製した。
まず、成分(A)と成分(B)とを均一に混合して非水混合液(I)を得、次に、その非水混合液(I)を、水(成分(D))に加えて均一に混合してからエタノール(成分(C))を加えてさらに均一に混合して混合液(II)を得、さらに、その混合液(II)を乳化して評価用のサンプルを得た。
【0072】
比較例5
成分(A)~(D)について、表に記した含有割合となる配合量において、実施例の各水中油型乳化組成物を調製した。
まず、成分(A)と、エタノール(成分(C))と、水(成分(D))とを均一に混合してスラリーを得、次に、そのスラリーに成分(B)を徐々に加えつつ均一に混合して混合液を得、さらに、その混合液を乳化して評価用のサンプルを得た。
【0073】
(評価)
実施例及び比較例で得られた各評価用のサンプルについて以下の通り評価した。評価結果は表に記載した。
【0074】
(1)カプセル(ピッカリングエマルション粒子)の調製可否
均一分散した評価用のサンプル1mLを12穴マルチウェルプレートに滴下し、マイクロスコープ(オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X800、株式会社キーエンス製)を用いて拡大倍数40倍にて、1穴中のピッカリングエマルション粒子を観察した。エマルション外周部の外接円と、その外接円の50%の直径を有する同心円との間の領域に、エマルション外周部が全て包含されるピッカリングエマルション粒子を、外接円の直径が大きいものから順に10個を選択し、評価対象とした。
[調整可否の判定基準]
○(良好):10個全てについて、ピッカリングエマルション粒子の外接円の直径が200μm以上である。
×(不良):10個中の1個以上について、ピッカリングエマルション粒子の外接円の直径が200μm未満である。
【0075】
(2)分散性
実施例及び比較例で得られた各評価用のサンプルについて目視により確認した。
[分散性の判定基準]
○(良好):粒子が全体的に均一に分散していた。
△(やや不良):一部に粒子が合一した塊が見られた。
×(不良):全体が合一して1つの塊となっていた、又は、粒子が全体的に凝集して分散していなかった。
【0076】
(3)油浮き
実施例及び比較例で得られた各評価用のサンプルをガラス容器に投入し、25℃で30分間静置した後、目視にて観察し、油相形成について下記評価基準で判定した。
[油浮き]
○(良好):上層に油滴が存在しない。
×(不良):上層に油滴が存在する。
【表1】
【0077】
【0078】
実施例1~27の結果から、本発明の製造方法により、安定的に、比較的大きなピッカリングエマルション粒子を有する水中油型乳化組成物を調製できることが示された。なお、実施例25は実施例19と比べてより大きなピッカリングエマルション粒子が形成された。また、実施例26は実施例1と比べてより大きなピッカリングエマルション粒子が形成された。さらに、実施例27は実施例2と比べてより大きなピッカリングエマルション粒子が形成された。このように、デカイソステアリン酸ポリグリセリル-10をさらに配合した場合には、より大きなピッカリングエマルション粒子が形成された。一方、比較例1、2のように、成分(A)に対する成分(B)の質量比が本発明の範囲外である場合には、ピッカリングエマルション粒子が小さいか、油浮きが生じた。また、比較例3のように、水相に成分(D)を配合しない場合には、ピッカリングエマルション粒子が小さかった。また、比較例4のように、水相の成分(C)の配合割合が少ない場合には、ピッカリングエマルション粒子の分散が不均一であった。また、比較例5のように、本発明とは異なる順序により各成分を配合、混合した場合には、ピッカリングエマルション粒子が小さかった。