(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】打込み計画作成装置および打込み計画作成方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
E04G21/02 103A
E04G21/02 ESW
(21)【出願番号】P 2020096420
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】武田 均
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-209801(JP,A)
【文献】特開2017-036607(JP,A)
【文献】特開2003-160926(JP,A)
【文献】特開2011-202383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
E04G 21/06
G06Q 50/08
E02B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート打設における打込み計画を作成する打込み計画作成装置であって、
前記打込み計画は、施工対象物を分割した施工ブロックにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロック単位での打込み順序であり、
連続して打込みを行う施工ブロックのまとまりである候補ブロック群を前記施工対象物に対して順番に設定するブロック群設定部と、
前記候補ブロック群内の打込み順序を決定する群内順序決定部と、を備え、
前記候補ブロック群は、当該候補ブロック群の基準となる前記施工ブロックである着目ブロックに隣接する打重ねブロック、および前記打重ねブロックの周辺に位置する拡張ブロックで構成され、
前記ブロック群設定部は、一つ前の前記候補ブロック群内の打込み順序が決定された時点で、打込み済みの前記施工ブロックの中から、隣接する前記施工ブロックに対する打込みが未完了かつ打込み完了時刻が最も早い打込み済みの施工ブロックを選択し、選択された施工ブロックを新たな前記着目ブロックとして前記候補ブロック群を新たに設定する、
ことを特徴とする打込み計画作成装置。
【請求項2】
前記拡張ブロックは、前記着目ブロックの一つ下の段の前記施工ブロックであって、前記打重ねブロックよりも外側に位置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の打込み計画作成装置。
【請求項3】
コンピュータが、コンクリート打設における打込み計画を作成する打込み計画作成方法であって、
前記打込み計画は、施工対象物を分割した施工ブロックにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロック単位での打込み順序であり、
前記コンピュータは、
連続して打込みを行う施工ブロックのまとまりである候補ブロック群を前記施工対象物に対して順番に設定するブロック群設定ステップと、
前記候補ブロック群内の打込み順序を決定する群内順序決定ステップと、を
実行し、
前記ブロック群設定ステップと前記群内順序決定ステップとを繰り返し実行することで、前記施工対象物を構成する前記施工ブロックの打込み順序を決定するものであり、
前記候補ブロック群は、当該候補ブロック群の基準となる前記施工ブロックである着目ブロックに隣接する打重ねブロック、および前記打重ねブロックの周辺に位置する拡張ブロックで構成され、
前記ブロック群設定ステップでは、一つ前の前記候補ブロック群内の打込み順序が決定された時点で、打込み済みの前記施工ブロックの中から、隣接する前記施工ブロックに対する打込みが未完了かつ打込み完了時刻が最も早い打込み済みの施工ブロックを選択し、選択された施工ブロックを新たな前記着目ブロックとして前記候補ブロック群を新たに設定する、
ことを特徴とする打込み計画作成方法。
【請求項4】
前記拡張ブロックは、前記着目ブロックの一つ下の段の前記施工ブロックであって、前記打重ねブロックよりも外側に位置する、
ことを特徴とする請求項3に記載の打込み計画作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの打込み計画作成装置および打込み計画作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、コンクリート工事の施工者は、打込み計画を手作業で作成し、その計画に沿ってコンクリートの打込みを行う。施工対象物が高さのある部材の場合、数層(例えば、一つの層が数十cm程度)に分けてコンクリートの打込みを行うので、打込み計画は、「打重ね計画」などと呼ばれる場合がある。コンクリート工事において、コンクリートを打重ねる時間の間隔(打重ね時間間隔)は、重要な管理項目である。打重ねに時間を要した場合、コールドジョイント等の初期欠陥の発生を招き、所定の品質を確保できなくなる。
【0003】
従来、コンクリート工事における打重ね時間間隔を管理するための技術として、例えば以下のものが提案されている。
特許文献1には、型枠の上方に配置された形状センサを用いて打重ね面の形状に関する情報を取得することにより、型枠によって目視困難な場所におけるコンクリートの打込み状況を確認することが記載されている。
また、特許文献2には、コンクリート打設現場の上方側から撮影した映像をメッシュ状に細分化し、打込み完了時からの経過時間に応じてメッシュを段階毎に色分けすることが記載されている。これにより、打重ね時間間隔を視覚的に把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-114638号公報
【文献】特開2011-202383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1,2に記載された技術は、何れもコンクリートの打込みを行っている最中に打重ね時間間隔を管理するための技術であるので、依然として打込み計画を手作業で作成する必要があった。そのため、施工対象物の形状が複雑な場合には、打込み計画の作成に多くの時間を費やしてしまうという問題があった。また、作成した打込み計画が最適かどうかの判断は、施工者の裁量によるところが大きいので、打込み計画が最適であるか否かを客観的に評価することが難しいという問題があった。
【0006】
このような観点から、本発明は、コンクリートの好適な打込み計画を作成することができる打込み計画作成装置および打込み計画作成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る打込み計画作成装置は、コンクリート打設における打込み計画を作成する打込み計画作成装置である。前記打込み計画は、施工対象物を分割した施工ブロックにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロック単位での打込み順序である。
この打込み計画作成装置は、連続して打込みを行う施工ブロックのまとまりである候補ブロック群を前記施工対象物に対して順番に設定するブロック群設定部と、前記候補ブロック群内の打込み順序を決定する群内順序決定部とを備える。
前記候補ブロック群は、当該候補ブロック群の基準となる前記施工ブロックである着目ブロックに隣接する打重ねブロック、および前記打重ねブロックの周辺に位置する拡張ブロックで構成される。
前記ブロック群設定部は、一つ前の前記候補ブロック群内の打込み順序が決定された時点で、打込み済みの前記施工ブロックの中から、隣接する前記施工ブロックに対する打込みが未完了かつ打込み完了時刻が最も早い打込み済みの施工ブロックを選択し、選択された施工ブロックを新たな前記着目ブロックとして前記候補ブロック群を新たに設定する。
【0008】
本発明に係る打込み計画作成方法は、コンピュータが、コンクリート打設における打込み計画を作成する打込み計画作成方法である。前記打込み計画は、施工対象物を分割した施工ブロックにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロック単位での打込み順序である。
このコンピュータは、連続して打込みを行う施工ブロックのまとまりである候補ブロック群を前記施工対象物に対して順番に設定するブロック群設定ステップと、前記候補ブロック群内の打込み順序を決定する群内順序決定ステップとを実行する。前記ブロック群設定ステップと前記群内順序決定ステップとを繰り返し実行することで、前記施工対象物を構成する前記施工ブロックの打込み順序を決定する。
前記候補ブロック群は、当該候補ブロック群の基準となる前記施工ブロックである着目ブロックに隣接する打重ねブロック、および前記打重ねブロックの周辺に位置する拡張ブロックで構成される。
前記ブロック群設定ステップでは、一つ前の前記候補ブロック群内の打込み順序が決定された時点で、打込み済みの前記施工ブロックの中から、隣接する前記施工ブロックに対する打込みが未完了かつ打込み完了時刻が最も早い打込み済みの施工ブロックを選択し、選択された施工ブロックを新たな前記着目ブロックとして前記候補ブロック群を新たに設定する。
【0009】
前記拡張ブロックは、前記着目ブロックの一つ下の段の前記施工ブロックであって、前記打重ねブロックよりも外側に位置するのがよい。
【0010】
本発明に係る打込み計画作成装置および打込み計画作成方法においては、着目ブロックの打重ねブロックが早期に打込み完了となるように候補ブロック群を設定する。すなわち、打重ねブロックの打込み制約条件がより早期に整うように、着目ブロックの打重ねに直接関係のない施工ブロックについても候補ブロック群に含めている。そのため、着目ブロックに対する打重ねブロックだけを候補ブロックとした場合と比べて、最大打重ね時間の短縮に有効である。その結果、コンクリートの好適な打込み計画を作成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンクリートの好適な打込み計画を作成することができる打込み計画作成装置および打込み計画作成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る打込み計画作成装置の概略構成図である。
【
図2】コンクリート工事を行う施工対象物の例示であり、(a)は施工対象物であるコンクリート構造物の施工が完成した状態のイメージ図であり、(b)はコンクリート構造物を正面から観た状態を示している。
【
図3】施工ブロックの打重ねを説明するための図である。
【
図4】候補ブロック群を説明するための図であり、(a)は候補ブロック群の斜視図であり、(b)は候補ブロック群の平面図である。
【
図5】相互結合型ニューラルネットワークのイメージ図である。
【
図6】ホップフィールド型ニューラルネットワークのイメージ図である。
【
図7】ブロック番号と打込み順序とによる階層型ネットワークの例示である。
【
図8】施工ブロックの連結性を説明するための図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る打込み計画の作成方法を示すフローチャートの例示である。
【
図10】シミュレーションで用いた構造物の概略図であり、(a)は1層目の構造を示し、(b)は2層目の構造を示し、(c)は3層目の構造を示している。
【
図11】シミュレーション結果を説明するための図であり、(a)は候補ブロックを拡張しない場合のシミュレーション結果を示し、(b)は候補ブロックを拡張した場合のシミュレーション結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0014】
<実施形態に係る打込み計画作成装置の構成>
図1を参照して、実施形態に係る打込み計画作成装置100の構成について説明する。
図1は、実施形態に係る打込み計画作成装置100の概略構成図である。打込み計画作成装置100は、コンクリート打設における打込み計画を作成する装置である。打込み計画作成装置100は、コンクリートを打設する様々な場面で使用することができ、施工対象物の種類、形状、サイズや、コンクリートを打設する工法などは特に限定されるものではない。打込み計画は、コンクリートの打込みを行う順番を示すものであり、例えば、施工対象物の部分(例えば、ブロック)を識別する情報と打ち込む順番とを対応付けたものである。
【0015】
図2を参照して、コンクリート工事を行う施工対象物について説明する。
図2は、コンクリート工事を行う施工対象物の例示であり、(a)は施工対象物であるコンクリート構造物Aの施工が完成した状態のイメージ図であり、(b)はコンクリート構造物Aを正面から観た状態を示している。本実施形態では、
図2(a)に示すように、施工対象物として、横、奥行き、高さの方向に広がりのるコンクリート構造物Aを想定し、打込み計画作成装置100がコンクリート構造物Aの打込み計画を作成する。なお、コンクリート構造物Aは、横、奥行き、高さの何れかの方向の長さが卓越したもの(柱や梁など長尺な形状の構造物)や、横、奥行き、高さの何れか二方向の長さが卓越したもの(壁体や床体など面状の構造物)であってもよい。
【0016】
コンクリート構造物Aは、複数の領域に分割されており、分割された最小単位の領域を「施工ブロックB」と呼ぶことにする。施工ブロックBは、施工を管理する最小単位の領域である。施工ブロックBは、隣接する施工ブロックBとの境界が型枠、金網、目地材などによって物理的に決められた領域であってもよいし、隣接する施工ブロックBとの境界が物理的に決められていない仮想の領域であってもよい。以下では、特定の施工ブロックBを示して説明する場合に、「施工ブロックB(k,l,m)」と表記する場合がある。「k,l,m」は、施工ブロックBを識別するための識別情報であり、ここでは「k」が横方向の並び順を示し、「l」が奥行き方向の並び順を示し、「m」が高さ方向の並び順を示している。なお、一つの施工ブロックB(k,l,m)のサイズは、例えばコンクリート打設の施工条件(特に、コンクリートの打込みに使用されるポンプ車の性能など)によって決めることができる。
【0017】
図1に示す打込み計画作成装置100は、仮想的な三次元空間を用いてコンクリート構造物Aの打込み計画をシミュレーションによって作成する。打込み計画のシミュレーションでは、コンクリート構造物Aを抽象化(モデル化)した施工モデルC(
図1参照)を使用して打込み計画を作成する。施工モデルCは、コンクリート構造物Aと同様に施工ブロックB(k,l,m)に対応して分割されている。
【0018】
図1に示すように、実施形態に係る打込み計画作成装置100は、記憶部30と、制御部40とを備える。打込み計画作成装置100は、例えば、打込み計画の作成を担当する者(以下では、「作成者」と呼ぶ)が操作するパーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)や当該パーソナルコンピュータと通信可能に接続されたアプリケーションサーバである。ここでの作成者は、例えば、コンクリート工事の施工者である。
【0019】
記憶部30は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成される。制御部40は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。制御部40がプログラム実行処理により実現する場合、記憶部30には、制御部40の機能を実現するためのプログラムが格納される。なお、打込み計画作成装置100が、図示しない外部の記憶手段から記憶部30に記憶される情報を必要に応じて取得してもよい。
【0020】
記憶部30には、打込み計画の作成に必要な情報(ここでは、打込み条件情報31と、施工モデルC)が記憶されている。打込み条件情報31には、コンクリートポンプ車が備えるポンプの性能に関する情報、打重ね時間間隔に関する情報などが含まれる。また、複数のコンクリートポンプ車を用いてコンクリートの打込みを行う場合、打込み条件情報31には、コンクリートを打ち込む打込み口の数などが含まれる。施工モデルCは、施工対象物を抽象化(モデル化)したものである。施工モデルCは、施工対象物と同様に施工ブロックB(k,l,m)に対応して分割されている。施工モデルCには、各々の施工ブロックB(k,l,m)の位置関係やサイズが設定される。
【0021】
制御部40は、主に、条件設定部41と、打込み順序作成部42と、順序評価部45と、を備える。なお、
図1に示す制御部40の各機能は、説明の便宜上分けたものであり、当該機能の分け方は本発明の一例に過ぎない。
【0022】
条件設定部41は、打込み条件情報31や施工モデルCの登録を受け付け、記憶部30にこれらの情報を格納する。
【0023】
打込み順序作成部42は、施工モデルCを用いて打込み計画を作成する。打込み順序作成部42は、ブロック群設定部43と、群内順序決定部44とを備える。
ブロック群設定部43は、連続して打込みを行う施工ブロックBのまとまりである候補ブロック群Q(
図4参照)を施工モデルC(施工対象物)に対して順番に設定する。
群内順序決定部44は、施工モデルC(施工対象物)に対して設定された候補ブロック群Q内の打込み順序を決定する。
【0024】
図4に候補ブロック群Qの一例を示す。
図4は、候補ブロック群Qを説明するための図であり、(a)は候補ブロック群Qの斜視図であり、(b)は候補ブロック群Qの平面図である。
図4に示す候補ブロック群Qは、候補ブロック群Qの基準となる施工ブロックBaの周辺における幾何学的な位置関係によって定義される。以下では、候補ブロック群Qの基準となる施工ブロックBaのことを「着目ブロックBa」と表現する場合がある。ブロック群設定部43は、例えば候補ブロック群Qを設定する時点において、隣接する施工ブロックBaの少なくとも一つの打込みが未完了であり、かつ、打込み完了時刻が最も早い打込み済みの施工ブロックBを着目ブロックBaとして選択する。
【0025】
図3を参照して、施工ブロックBの打重ねを説明する。
図3は、施工ブロックBの打重ねを説明するための図である。
図3に示すように、着目ブロックBaの打重ねを完了するためには、着目ブロックBaの前に位置する施工ブロックBb1、後ろに位置する施工ブロックBa2、左に位置する施工ブロックBa3、右に位置する施工ブロックBa4、直上に位置する施工ブロックBa5の全てを打込む必要がある。なお、空中への打設はできないので、着目ブロックBaの直下には他の施工ブロックB(または土台など)があることが前提となり、ここでは着目ブロックBaの直下の施工ブロックBを問題にしないことにする。以下の説明では、これらの施工ブロックBb1~Bb5を、着目ブロックBaに対する「打重ねブロックBb」と呼ぶ場合がある。言い換えると、ブロック群設定部43は、打重ねが完了しておらず(打重ねブロックBbの何れかの打込みが完了しておらず)、かつ、打込み完了時刻が最も早い打込み済みの施工ブロックBを着目ブロックBaとして選択する。
【0026】
図4に示すように、本実施形態における候補ブロック群Qは、着目ブロックBaに隣接する打重ねブロックBbと、打重ねブロックBbの下層周辺に位置する拡張ブロックBcとで構成される。なお、本実施形態では着目ブロックBa自身並びに着目ブロックBaおよび打重ねブロックBb1~Bb4の直下の施工ブロックBは、候補ブロック群Qに含まれないことにする。これらの施工ブロックBは、後述する打込みの制約条件によって既に打込みが完了していることを前提としているためである。なお、打重ねブロックBb1~Bb4の直下の施工ブロックBを候補ブロック群Qに含めてもよい。本実施形態における候補ブロック群Qは、五つの打重ねブロックBbと八つの拡張ブロックBcとで構成される。なお、
図5に示す拡張ブロックBcの配置はあくまで例示であり、他の配置にすることもできる。打重ねブロックBbおよび拡張ブロックBcを区別せずに候補ブロック群Qを構成する施工ブロックBaを説明する場合に「候補ブロックP」と呼ぶ場合がある。つまり、本実施形態における候補ブロック群Qは、十三個の候補ブロックPで構成される。
【0027】
着目ブロックBaに対する打重ねブロックBb(
図4では5ブロック)だけを候補ブロックPとした場合、着目ブロックBaの最短打重ねを志向することになる。しかしながら、そのような候補ブロックPの設定方法では全ての施工ブロックBの打込み順序が確定したときに、最大打重ね時間が必ずしも短くならない場合がある。そのため、本実施形態では
図4に示すように、着目ブロックBaの打重ねブロックBbが早期に打込み完了となるように、すなわち打重ねブロックBbの打込み制約条件がより早期に整うように、着目ブロックBaの打重ねに直接関係のない施工ブロックB(拡張ブロックBc)を追加することで候補ブロックPを拡張している(「5+8」で全13ブロック)。この追加された八つの拡張ブロックBcは、着目ブロックBaの最短打重ねに関してはノイズとなるが、最大打重ね時間の短縮には有効である。
【0028】
群内順序決定部44は、候補ブロック群Q内の打込み順序を決定する。群内順序決定部44による順序の決定方法は特に限定されず、種々の方法を用いることができる。群内順序決定部44は、決められた規則に従って施工ブロックBの打込み順序を決定してもよいし、ランダムで施工ブロックBの打込み順序を決定してもよい。また、群内順序決定部44は、施工ブロックBの打込みが予め設定した制約条件に適合しているか否かを判定する機能を有する。打込みの制約条件は、任意のものであってよく、その内容は限定されるものではない。群内順序決定部44は、例えば、施工ブロックBの打込みが実現可能であるか否かを判定する。
【0029】
打込み順序作成部42は、例えば以下のようにして全ての施工ブロックBの打込みが完了するまで、打込み順序を探索する。
(1) 打込み完了時刻により着目ブロックBaを選択する。
(2) 打込みが完了していない候補ブロックPの中から1箇所選択して、打込み制約条件に適合しているかどうかを判定する。打込み可能であれば選択された施工ブロックBを打込み済とする。
(3) 工程(2)の操作を順次、候補ブロック群Q内の全ての候補ブロックPの打込みが完了するまで繰り返す。
(4) 全ての候補ブロックPの打込みが完了した場合、次の着目ブロックBaを探索して、工程(2),(3)の処理を行う。つまり、候補ブロック群Qの打込みが終わるまで次の着目ブロックBaの処理には移行しない。
ここで、本実施形態では打込み制約条件として、高さ方向に二段突出した形では打込みができないものとした。例えば、
図3における着目ブロックBaの直上の打重ねブロックBb5を打込むためには、
図3の着目ブロックBaとその前後左右の打重ねブロックBb1~Bb4が打込み済みでなければならない。
【0030】
図1に示す順序評価部45は、打込み順序作成部42によって作成された打込み順序を評価する。打込み順序を評価する方法は、特に限定されずに種々の方法を用いることができる。順序評価部45は、例えば打重ね時間によって打込み順序を評価する。本実施形態では、打重ね時間の評価を簡潔に表現するために、相互結合型ニューラルネットワークの計算手法を応用する。
【0031】
相互結合型ニューラルネットワークの計算手法を用いた打重ね時間の評価について説明する。まず、想定打込み範囲をいくつかの施工ブロック(以下の説明では、単に「ブロック」と表記する場合がある)に区分する。施工ブロックの打込み順序は、幾何学的な制約がなければどこから始めてもどのような順序を辿ってもよい。施工ブロックを「○(白抜きの円)」で表し、経路を線で表す場合、例えば施工ブロックが3箇所の例では、
図5に示すような3つのユニットで構成される相互結合型ニューラルネットワークとなる。
図5は、相互結合型ニューラルネットワークのイメージ図である。経路の候補は2つを組合わせした全ての施工ブロック間で可能であり、両方向の向きが可能である。ただし、各施工ブロックは一度しか通過せず、一度に1つの施工ブロックにしか打ち込まれない(打込み口が1箇所の場合)。
【0032】
図6に示すように、相互結合型ニューラルネットワークをブロックと順序というマトリクス状の階層型ネットワークで表現するとホップフィールド型ニューラルネットワークとなる。
図6は、ホップフィールド型ニューラルネットワークのイメージ図である。このマトリクス状のネットワークにおいても各施工ブロックが相互に結合していることになり、情報の流れはもとの相互結合型ニューラルネットワークと同じとみなすことができる。
図6中の「○(白抜きの円)」はユニットと呼ばれる情報処理部を表す。ユニットは、ニューラルネットワークで使用される用語であり、他のユニットの出力を受けて何らかの値(例えば、「-1~+1」)を返す(出力する)関数の名称として一般的に使用される。各打込み順序において施工ブロックに対応するユニットは全て同じ数(3ブロック)だけある。全ての施工ブロックを打込むので、縦も横も同数の3ユニットになる(imax=jmax)。図において各打込み順序列を層と呼ぶ。このネットワークでは、隣り合う層のユニットは結合しているが同じ層内のユニットや連続しない層のユニットは結合していない。本実施形態においては、このようなマトリクスを用いて打重ね時間を表現する場合について説明する。
【0033】
以下では、定式化について説明する。
図7に示すように、縦にブロック番号「i」、横に打込み順序「j」をとり、上述の通りマトリクスを作成する。このマトリクスは、どの層も同じユニット数で(縦方向にブロック数だけユニットを用意し、また横方向にブロック数だけ層を用意する)、情報の流れが左から右に限定された階層型ネットワークである。
【0034】
ユニットの出力は、対応するブロック番号のブロックが打ち込まれているとき「1(xij = 1)」を出力し、打ち込まれていないとき「0(xij = 0)」を出力する。ユニット間の重みは、出力側ユニット「i(j-1)」に相当するブロックの打込みに要する時間とした(wi(j-1)→i(j) = wi( j-1))。
前層の各ユニットの出力に対して各ユニットと着目ユニットとの経路の重みを乗じたものの総和を打込み開始から順次計算する。総和をとる層の深さによって各施工ブロックの打込み開始時刻と打込み完了時刻は、式(1)および式(2)で表される。
【0035】
【0036】
打ち重ね時間間隔は、着目ブロックの打込み完了時刻と打重ねブロックの打込み完了時刻との差として式(3)で評価される。ここで、
図8に示すように、ブロックの幾何学的な連結性から、着目ブロックに対して打重ねの関係になる施工ブロック(打重ねブロック)とならない施工ブロックとを判別する指標として式(4)を導入した。一つの着目ブロックに対する打重ねブロックの数は、最大で5ブロックである。ここで、対象ブロックとは、着目ブロックと対になり、打重ね時間を計算する相手先の施工ブロックである。
【0037】
【0038】
<本発明の実施形態に係る打込み計画の作成方法について>
図9を参照して(適宜、
図1ないし
図8を参照)、実施形態に係る打込み計画作成装置100を用いた打込み計画の作成方法について説明する。
図9は、実施形態に係る打込み計画の作成方法を示すフローチャートの例示である。打込み計画は、例えば、施工対象物を分割した施工ブロックBにコンクリートを打ち込む順番を設定した施工ブロックB単位での打込み順序である。
【0039】
最初に、作成者は、条件設定部41を介して、施工条件やコンクリート構造物Aを抽象化した施工モデルCなどを打込み計画作成装置100に設定する(ステップS101)。なお、条件設定部41は、作成者の入力操作によらずに、または作成者が入力した他の情報からこれらの情報を算出してもよい。
【0040】
作成者は、例えば、施工ブロックB(k,l,m)を抽象化した仮想ブロックD(k,l,m)を三次元の仮想空間上に配置する。具体的には、施工ブロックB(k,l,m)の位置を三次元の仮想空間に設定される直交座標系の座標値(X,Y,Z)として仮想ブロックD(k,l,m)に設定する。ここで、「X」は、例えば施工ブロックB(k,l,m)の横方向の位置に対応しており、「Y」は、例えば施工ブロックB(k,l,m)の奥行き方向の位置に対応しており、「Z」は、例えば施工ブロックB(k,l,m)の高さ方向の位置に対応している。これにより、施工ブロックB(k,l,m)の相対的な位置関係が、仮想ブロックD(k,l,m)に設定された座標値によって三次元の仮想空間上で再現される。以下の説明で施工ブロックBといった場合には、抽象化した仮想ブロックDのことである。
【0041】
また、作成者は、例えば、一つの施工ブロックB(k,l,m)を作成するのに要する時間(つまり、一つの施工ブロックB(k,l,m)の打込みに要する時間)を設定する。この時間は、例えば、施工ブロックB(k,l,m)のサイズやポンプ性能から算出されてもよい。
また、作成者は、例えば、コンクリートを打ち込む打込み口の数(ポンプ車を用いてコンクリートの打込みを行う場合ではポンプ車の台数に相当)を設定する。
また、作成者は、例えば、打込みを開始する一番目の施工ブロックB(開始ブロック)を設定する。作成者は、例えば地面に接した施工ブロックB(つまり空中への打込みにならない施工ブロックB)の中から任意に一つを開始ブロックとして設定する。なお、打込み口の数が複数である場合、その数に応じた開始ブロックを設定する。
【0042】
次に、作成者は、打込み計画作成装置100に対して打込み順序の計算の開始を指示する。これにより、打込み計画作成装置100は、ステップS102以降の処理を実行する。なお、打込み計画作成装置100は、ステップS101での設定が済み次第に打込み順序の計算を開始してもよい。
【0043】
打込み順序作成部42は、ステップS101で設定した一番目の施工ブロックB(開始ブロック)の打込みを実行する(ステップS102)。具体的には、打込み順序作成部42は、一番目の施工ブロックB(開始ブロック)に対して例えばコンクリートを打ち込む順番が一番であることを示す情報を設定するなどして、開始ブロックを打込み済にする。これにより、当該施工ブロックB(開始ブロック)の打込みが完了する。
【0044】
次に、ブロック群設定部43は、着目ブロックBa(
図4参照)の探索を行う(ステップS103)。着目ブロックBaは、打込みが完了している施工ブロックB(打込み済みブロック)の内、打重ねが未完了であって打込み完了時刻が最も早い施工ブロックBである。打重ねが未完了とは、打込みが完了している施工ブロックBに隣接する施工ブロックBの少なくとも何れか一つの打込みが完了していない状態である。つまり、施工ブロックBに隣接する全ての施工ブロックBの打込みが完了した場合に、当該施工ブロックBの打重ねが完了した状態となる。ブロック群設定部43は、前述した条件に該当する施工ブロックBを着目ブロックBaとして選択する。
【0045】
選択できる着目ブロックBaがあって一つの施工ブロックBを着目ブロックBaとして選択した場合(ステップS104で“Yes”)、群内順序決定部44は、ステップS105~ステップS110の処理を繰り返し行い、候補ブロック群Q(
図4参照)に含まれる施工ブロックB(つまり、候補ブロックP(
図4参照))の打込み順序を決定する。なお、
図9に示す候補ブロックPの打込み順序を決定する処理はあくまで一例であって、候補ブロックPの打込み順序を決定する処理はここで説明するものに限定されない。
【0046】
群内順序決定部44は、次に打ち込む候補ブロックP(
図4参照)の探索を行う(ステップS105)。群内順序決定部44は、未打込みの候補ブロックPの中から1箇所を選択する。候補ブロックPを選択する方法は特に限定されない。選択できる候補ブロックPがあった場合(ステップS106で“Yes”)、群内順序決定部44は、選択した候補ブロックPが打込み制約条件に適合するか否かを判定する(ステップS107)。
【0047】
打込み制約条件に適合しない場合(ステップS107で“No”)、群内順序決定部44は、他の候補ブロックPの探索を行い(ステップS109)、探索した他の候補ブロックPを新たに選択する(ステップS105)。一方、打込み制約条件に適合する場合(ステップS107で“Yes”)、群内順序決定部44は、コンクリートを打ち込む順番を示す情報を設定するなどして、選択した候補ブロックPを打込み済みにする(ステップS108)。その後、群内順序決定部44は、次の候補ブロックPの探索を行い(ステップS110)、探索した次の候補ブロックPを新たに選択する(ステップS105)。
【0048】
候補ブロック群Q内に選択できる候補ブロックPがない(なくなったときも含む)場合(ステップS106で“No”)、ブロック群設定部43は、次の着目ブロックBaを選択し、新たな着目ブロックBaでの処理に移行する(ステップS111)。具体的には、ブロック群設定部43が新たな着目ブロックBa(
図4参照)の探索を行う(ステップS103)。そして、群内順序決定部44が、ステップS105~ステップS110の処理を繰り返し行い、新たに選択した着目ブロックBaに基づく候補ブロック群Q(
図4参照)に含まれる候補ブロックPの打込み順序を決定する。
【0049】
選択できる着目ブロックBaがない(なくなったときも含む)場合(ステップS104で“No”)、全ての施工ブロックBの打込み順序が決定されているので、順序評価部45は、作成された打込み順序における最大打重ね時間を計算する(ステップS112)。作成者は、計算された最大打重ね時間に基づいて、打込み順序を再度作成するか判断する。作成者は、例えば最大打重ね時間が許容する範囲に収まっている場合には、作成した打込み順序で施工を行い、また、許容する範囲に収まっていない場合には、施工条件などを変更して打込み順序を再度作成する。なお、最大打重ね時間の許容範囲は、コールドジョイントが発生しない時間であり、例えば、公益社団法人土木学会が発行する「コンクリート標準示方書」に記載される許容打重ね時間間隔を超えない時間である。
【0050】
以上のように、実施形態に係る打込み計画作成装置100は、
図4に示すように、着目ブロックBaの打重ねブロックBbが早期に打込み完了となるように候補ブロック群Qを設定する。すなわち、打重ねブロックBbの打込み制約条件がより早期に整うように、着目ブロックBaの打重ねに直接関係のない施工ブロックB(拡張ブロックBc)についても候補ブロック群Qに含めている。そのため、着目ブロックBaに対する打重ねブロックBb(
図4では5ブロック)だけを候補ブロックPとした場合と比べて、最大打重ね時間の短縮に有効である。その結果、コンクリートの好適な打込み計画を作成することができる。
【0051】
図10および
図11を参照して、実施形態に係る打込み計画作成装置100の効果について補足する。発明者は、候補ブロックPを拡張しない場合(候補ブロック群Qが打重ねブロックBbのみで構成される場合)と候補ブロックPを拡張した場合(候補ブロック群Qが打重ねブロックBbおよび拡張ブロックBcで構成される場合)とでそれぞれシミュレーションを実行し、その結果を比較検討した。シミュレーションでは、壁スラブで構成される構造物(
図10参照)を3層で打込む場合を想定した。
【0052】
図10は、シミュレーションで用いた構造物の概略図であり、
図10(a)は、1層目の構造を示し、
図10(b)は、2層目の構造を示し、
図10(c)は、3層目の構造を示している。
図10中の四角形は各施工ブロックBであり、四角形内の数字はブロック番号を示している。空中には打込みを行えないので、
図10(a)に示す1層目の21ブロックが当該シミュレーショにおける開始ブロックの候補となる。1層目と2層目には、打込みを行わない4つの領域が存在する。
【0053】
図11を参照して、シミュレーション結果について説明する。
図11は、シミュレーション結果を説明するための図であり、
図11(a)は、候補ブロックPを拡張しない場合のシミュレーション結果を示し、
図11(b)は、候補ブロックPを拡張した場合のシミュレーション結果を示している。
【0054】
図11(a),(b)は、ともに1層目の構造に対応しており、四角形内の数字は当該施工ブロックBから打込みを開始した場合の最大打重ね時間を示している。例えば、
図11(a)の候補ブロックPを拡張しない場合では、ブロック番号「1」の施工ブロックBから打込みを開始した場合に最大打重ね時間は「120分」であり、ブロック番号「2」の施工ブロックBから打込みを開始した場合に最大打重ね時間は「130分」である。ここで、
図11(a)に示す候補ブロックPを拡張しない場合において、各施工ブロックBから打込みを開始したときの最大打重ね時間の平均は「153.3分」であった。一方、
図11(b)に示す候補ブロックPを拡張した場合において、各施工ブロックBから打込みを開始したときの最大打重ね時間の平均は「148.1分」であった。
【0055】
図11(a),(b)を比較検証した結果、
図11(b)に示す候補ブロックPを拡張した場合には必ずしも最大打重ね時間が短くなるわけではないが、各施工ブロックBから打込みを開始したときの最大打重ね時間の平均値は短く抑えられている。また、
図11(b)に示す候補ブロックPを拡張した場合には、中央付近から打ち始めたときに最大打重ね時間が減少する傾向がある(つまり、最大打重ね時間のピークを抑える傾向がある)。例えば、ブロック番号「11」の施工ブロックBから打込みを開始した場合では、
図11(a)に示す候補ブロックPを拡張しないときの最大打重ね時間が「220分」であったのに対して、
図11(b)に示す候補ブロックPを拡張したときの最大打重ね時間が「200分」であった。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
【符号の説明】
【0057】
30 記憶部
31 打込み条件情報
40 制御部
41 条件設定部
42 打込み順序作成部
43 ブロック群設定部
44 群内順序決定部
45 順序評価部
100 打込み計画作成装置
B 施工ブロック
Ba 着目ブロック
Bb 打重ねブロック
Bc 拡張ブロック
P 候補ブロック
Q 候補ブロック群