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  • 特許-吹付コンクリートの配合選定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】吹付コンクリートの配合選定方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
E21D11/10 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020156844
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022050745
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 達哉
(72)【発明者】
【氏名】文村 賢一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 伸弘
(72)【発明者】
【氏名】福島 淳平
(72)【発明者】
【氏名】松田 一輝
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-194815(JP,A)
【文献】特開平10-101397(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104404961(CN,A)
【文献】米国特許第05803665(US,A)
【文献】特開2013-119731(JP,A)
【文献】平間昭信、安藤慎一郎、荒木昭俊、魚本健人,使用材料が吹付けコンクリートの強度特性に及ぼす影響,コンクリート工学年次論文集,日本,公益社団法人 日本コンクリート工学会,2000年06月01日,Vol.22、No.2,第1381-1386頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
J-STAGE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験用ベースコンクリートの圧縮強度を測定する第一強度測定工程と、
前記試験用ベースコンクリートと同配合のコンクリートに急結材を添加して圧縮強度を測定する第二強度測定工程と、
前記コンクリートの圧縮強度の値を前記試験用ベースコンクリートの圧縮強度の値で除して強度変化率を算出する変化率算出工程と、
前記強度変化率から吹付コンクリートの設計基準強度を満たすための施工用ベースコンクリートの配合を決定する配合選定工程と、を含む吹付コンクリート配合選定方法であって、
前記配合選定工程では、設計基準強度を前記強度変化率で除して必要圧縮強度を算出する作業と、
前記必要圧縮強度に安全率を乗じて前記施工用ベースコンクリートの配合強度を算出する作業と、
前記配合強度に応じた配合を決定する作業と、を行うことを特徴とする、吹付コンクリート配合選定方法。
【請求項2】
前記第二強度測定工程では、前記コンクリートに前記急結材とともに遅延剤を添加することを特徴とする、請求項1に記載の吹付コンクリート配合選定方法。
【請求項3】
試験用ベースコンクリートから粗骨材を取り除いた配合の試験用モルタルの圧縮強度を測定する第一強度測定工程と、
前記試験用モルタルと同配合のモルタルに急結材を添加して圧縮強度を測定する第二強度測定工程と、
前記モルタルの圧縮強度の値を前記試験用モルタルの圧縮強度の値で除して強度変化率を算出する変化率算出工程と、
前記強度変化率から吹付コンクリートの設計基準強度を満たすための施工用ベースコンクリートの配合を決定する配合選定工程と、を含む吹付コンクリート配合選定方法であって、
前記配合選定工程では、設計基準強度を前記強度変化率で除して必要圧縮強度を算出する作業と、
前記必要圧縮強度に安全率を乗じて前記施工用ベースコンクリートの配合強度を算出する作業と、
前記配合強度に応じた配合を決定する作業と、を行うことを特徴とする、吹付コンクリート配合選定方法。
【請求項4】
前記第二強度測定工程では、前記モルタルに前記急結材とともに遅延剤を添加することを特徴とする、請求項3に記載の吹付コンクリート配合選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付コンクリートの配合選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NATM等の山岳トンネル工法では、掘削により露出した地山面に吹き付けられた吹付コンクリート、地山面に沿って組み立てられた鋼製支保工、地山に打設されたロックボルト等を備えたトンネル支保工により地山の安定性を確保している。吹付コンクリートは、切羽近傍での安定性を確保するために、早期に強度発現するのが望ましい。そのため、吹付コンクリートは、所定の強度を発現するように配合されたベースコンクリートに対して、急結材を添加することで早期に強度発現するように構成されているのが一般的である(例えば特許文献1参照)。
ところが、ベースコンクリートに急結材を添加すると、硬化後の強度がベースコンクリートの強度よりも低下する場合があり、その程度は、急結材の種類等によっても変化する。そのため、吹付コンクリートを配合するにあたっては、過去の実績等に基づいてセメント量を増加するのが一般的である。しかし、必要以上にセメント量を増加すると、不経済になる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-12356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、急結材を添加することによる吹付けコンクリートの強度の変化を把握したうえで、ベースコンクリートの配合を選定することで、経済性の向上を図る吹付コンクリートの配合選定方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の吹付コンクリート配合選定方法は、試験用ベースコンクリートの圧縮強度を測定する第一強度測定工程と、前記試験用ベースコンクリートと同配合のコンクリートに急結材を添加して圧縮強度を測定する第二強度測定工程と、前記コンクリートの圧縮強度の値を前記試験用ベースコンクリートの圧縮強度の値で除して強度変化率を算出する変化率算出工程と、前記強度変化率から吹付コンクリートの設計基準強度を満たすための施工用ベースコンクリートの配合を決定する配合選定工程とを含んでいる。前記配合選定工程では、設計基準強度を前記強度変化率で除して必要圧縮強度を算出する作業と、前記必要圧縮強度に安全率を乗じて前記施工用ベースコンクリートの配合強度を算出する作業と、前記配合強度に応じた配合を決定する作業とを行う。
かかる吹付コンクリート配合選定方法によれば、急結材を添加することによる強度変化率を把握したうえで、ベースコンクリートの配合設計を行うため、所定の設計基準強度を発現する吹付コンクリートを生成することが可能となる。ベースコンクリートの最適配合を選定することができれば、セメントの添加量が過大になることを防止でき、経済性が向上する。
なお、圧縮強度測定用の供試体を作成する観点から、前記第一強度測定工程および前記第二強度測定工程では、前記試験用ベースコンクリートから粗骨材をとり除いた配合のモルタルにより作成した供試体を使用するのが望ましい。
また、前記第二強度測定工程では、前記コンクリートに前記急結材とともに遅延剤を添加することで、急結材により即座に強度発現が開始することを遅らせて、供試体を作成しやすくするのが望ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の吹付コンクリートの配合選定方法によれば、急結材を添加することによる影響を把握したうえで、適切な強度を発現する吹付コンクリートを生成するためのベースコンクリートの配合を選定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る吹付コンクリートの配合選定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態では、吹付コンクリートにおいて、急結材の添加による吹付コンクリートの強度変化率を把握し、設計基準強度を発現する吹付コンクリートを生成するためのベースコンクリート(急結材を含まないコンクリート)の適切な配合を決定するための吹付コンクリートの配合選定方法について説明する。図1に吹付コンクリートの配合選定方法のフローチャートを示す。
本実施形態の吹付コンクリートの配合選定方法は、図1に示すように、第一強度測定工程S1と、第二強度測定工程S2と、変化率算出工程S3と、配合選定工程S4とを有している。
【0009】
第一強度測定工程S1は、試験用ベースコンクリートの圧縮強度を測定する工程である。本実施形態では、第一強度測定工程S1を室内試験により行う。まず、予め設定された配合(例えば、標準的な吹付コンクリートの配合)からなる試験用ベースコンクリートから粗骨材を取り除いた配合の第一モルタルを生成する。次に、この第一モルタルを型枠に流し込み、締固めた後、養生することで供試体を作成する。そして、所定の材齢日数を経過した供試体について圧縮試験を行い、圧縮強度を測定する。
【0010】
第二強度測定工程S2は、試験用ベースコンクリートと同配合のコンクリートに急結材を添加して圧縮強度を測定する工程である。第二強度測定工程S2は、室内試験により行う。まず、試験用ベースコンクリートと同配合のコンクリートから粗骨材を取り除いた配合のモルタルを生成する。次に、このモルタルに急結材と遅延剤を添加して第二モルタルを生成し、この第二モルタルを型枠に流し込み、締固めた後、養生することで供試体を作成する。そして、所定の材齢日数を経過した供試体について圧縮試験を行い、圧縮強度を測定する。遅延剤の添加量は、全結合材量に対して少量とする。本実施形態では、遅延剤の添加量を、第二モルタルの凝結開始のタイミングを1~2分程度にまで遅らせることが可能で、かつ、第二モルタルの強度発現に影響が及び難い量として、全結合材量に対して0.2%とする。
【0011】
変化率算出工程S3は、強度変化率を算出する工程である。強度変化率は、第二モルタル(コンクリート)の圧縮強度の値を第一モルタル(試験用ベースコンクリート)の圧縮強度の値で除する(割る)ことにより算出する。
【0012】
配合選定工程S4は、施工用ベースコンクリートの配合を決定する工程である。施工用ベースコンクリートの配合は、急結材の有無による強度変化率を踏まえたうえで、吹付コンクリートの設計基準強度を満たす配合となるように選定する。すなわち、急結材の添加により低下する強度を補うために、水セメント比を調整する。
まず、ベースコンクリートに必要な圧縮強度を算出する。ベースコンクリートの必要圧縮強度は、式1により算出する。次に、必要圧縮強度に安全率(1.25)を乗じてベースコンクリートの配合強度を算出する(式2)。ベースコンクリートは、配合強度を確保できる配合とする。
必要圧縮強度=設計基準強度/強度変化率 (式1)
配合強度=必要圧縮強度×安全率 (式2)
【0013】
本実施形態の吹付コンクリートの配合選定方法によれば、急結材を添加することによる強度変化率を把握したうえで、ベースコンクリートの配合設計を行うため、所定の設計基準強度を発現する吹付コンクリートを生成することが可能となる。
また、ベースコンクリートの最適配合を選定することができれば、セメントの添加量が過大になることを防止でき、経済性が向上する。
なお、室内試験では、ベースコンクリートから粗骨材を取り除いた配合のモルタル(第一モルタルおよび第二モルタル)を利用するため、供試体を作成する際に粗骨材が邪魔にならない。
また、第二モルタルに遅延剤を添加するため、急結材による強度発現を遅せることができ、供試体を作成しやすくなる。つまり、モルタルを型枠に投入して締め固める時間を確保できる。
【0014】
次に、本実施形態の吹付コンクリートの配合選定方法について、実用性の確認をするために実施した実験結果について説明する。本実験では、本実施形態の吹付コンクリートの配合選定方法によって決定した配合の吹付コンクリートが設計基準強度を確保できることを確認した。実験では、室内試験と実機試験を実施し、両試験の結果を比較した。
表1に、ベースコンクリートの配合を示し、表2にベースコンクリートから求めたモルタルの配合を示す。なお、表3には、本実験で使用した各材料を示す。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
【表3】
【0018】
(1)室内試験
(a)供試体の作成
まず、ミキサーに細骨材、セメント、フライアッシュを投入し、10秒間低速で空練りを行った後、水および減水剤を加えて60秒間高速で練り混ぜて第一モルタルを製造した。なお、練り混ぜ量は1.0Lとした。第二モルタルは、低速回転で練り混ぜている第一モルタルに急結材および遅延剤を添加した後、高速回転で10秒間攪拌することにより製造した。本実験では、急結材としてセメント鉱物系の粉体系急結材を使用した。急結材の添加量は、全結合材量に対して10%とした。また、遅延剤には、変性リグニンスルホン酸化物とオキシカルボン酸化合物の複合体を主成分とした遅延剤を使用した。遅延剤の添加量を全結合材量に対して0.2%とした。
練り混ぜ完了後、直ちにφ50×100mmの鋼製型枠に投入し、φ28mmの鉄棒で締固めを行った。締固めはテーブルバイブレータ上において3層打ちで行った。練り上がりから供試体採取までの時間は90秒とした。
【0019】
(b)圧縮強度測定
圧縮強度測定は、材齢7日と材齢28日において実施した。第一モルタルと第二モルタルの圧縮強度を表4に示す。表4に示すように、第一モルタルと第二モルタルの強度変化率は、材齢7日では0.667、材齢28日では0.670となった。
【0020】
【表4】
【0021】
(2)実機試験
(a)コンクリートの作成
ミキサーに材料を投入して、ベースコンクリートを製造した。吹付コンクリートは、ベースコンクリートに急結材および遅延剤を添加することにより製造した。本実験では、急結材としてセメント鉱物系の粉体系急結材を使用した。急結材の添加量は、全結合材量に対して10%とした。また、遅延剤には、変性リグニンスルホン酸化物とオキシカルボン酸化合物の複合体を主成分とした遅延剤を使用した。遅延剤の添加量を全結合材量に対して0.2%とした。
【0022】
(b)供試体作成
ベースコンクリートの練り混ぜ完了後、直ちにφ50×100mmの鋼製型枠に投入し、φ28mmの鉄棒で締固めを行った。締固めはテーブルバイブレータ上において3層打ちで行った。材齢7日および材齢28日に脱型を行った。
また、吹付コンクリートについては、トンネル壁面に吹き付けた後、材齢7日と材齢28日において、コアを採取した。
【0023】
(c)圧縮強度測定
圧縮強度測定は、ベースコンクリートにより作成した供試体と、トンネル壁面に吹き付けた吹付コンクリートから採取したコアについてそれぞれ実施した。ベースコンクリートと吹付コンクリートの圧縮強度を表5に示す。表5に示すように、ベースモルタルと吹付コンクリートの強度変化率は、材齢7日では0.651、材齢28日では0.695となった。
【0024】
【表5】
【0025】
室内試験と実機試験の結果を比較すると、強度変化率が室内試験では材齢7日が0.667、材齢28日が0.670であったのに対し、実機試験では材齢7日が0.651、材齢28日が0.695であった。したがって、室内試験と実機試験の強度変化率の差は0.05以下であり、同等の結果となった。そのため、本実施形態の吹付コンクリートの配合選定方法に基づいて吹付コンクリートの配合を決定することが可能であることが確認できた。また、室内試験と実機試験の強度変化率の差がわずかであることから、遅延剤を投入することによる影響がほとんどないことが確認できた。したがって、本実施形態の吹付コンクリートの配合選定方法(室内試験)において、急結材とともに遅延剤を投入することで、供試体の作成効率を向上させても問題はないことが確認できた。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
遅延剤の添加量は全結合材量に対して0.2%に限定されるものではなく、例えば0.1%~0.3%の範囲内で設定するなど、使用する遅延剤の性能に応じて、凝結開始時間を遅らせるとともに強度発現に影響が及ばない範囲に適宜決定すればよい。
また、遅延剤は必要に応じて投入すればよく、省略してもよい。
また、供試体は、コンクリートにより作成してもよい。
【符号の説明】
【0027】
S1 第一強度測定工程
S2 第二強度測定工程
S3 変化率算出工程
S4 配合選定工程
図1