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特許7348191熱可塑性エラストマー組成物およびその製造方法
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  • 特許-熱可塑性エラストマー組成物およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/06 20060101AFI20230912BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20230912BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20230912BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20230912BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20230912BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230912BHJP
   B62D 25/00 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C08L51/06
C08L23/04
C08L23/10
C08L53/00
C08J3/24 Z CES
B32B27/32 Z
B62D25/00
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020539323
(86)(22)【出願日】2019-08-13
(86)【国際出願番号】 JP2019031875
(87)【国際公開番号】W WO2020045082
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2018161947
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 亘佑
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 雄志
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 勝
(72)【発明者】
【氏名】野口 哲央
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/018171(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08F
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロス共重合体(A)50~85質量%と、ポリエチレン系樹脂(B)15~50質量%とを、(A)成分と(B)成分の合計を基準として含み、
さらに(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、ポリプロピレン系樹脂(C)を1~40質量部含み、
MFR(230℃、10kg荷重)が0.3g/10分以上、10g/10分以下であり、かつ
1.0質量%以上のゲル分を含み、
前記クロス共重合体(A)が、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖が芳香族ポリエン単量体単位を介して結合する構造を有する、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
150℃、周波数1Hz、昇温4℃/分の条件下で測定した貯蔵弾性率E’が1×105~5×106Paの範囲である、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
周波数1Hz、昇温4℃/分の条件下、貯蔵弾性率E’が150℃および190℃で測定可能であり、190℃と150℃の貯蔵弾性率E’の比(E’(190)/E’(150))は、0.3以上である、請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記クロス共重合体(A)が、以下の(1)~(3)の条件を一種以上満足する共重合体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(1)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10~30モル%、芳香族ポリエン単量体単位の含量が0.01モル%以上0.5モル%以下、残部がオレフィン単量体単位の含量である。
(2)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の重量平均分子量が5万以上30万以下、分子量分布(Mw/Mn)が1.8以上6以下である。
(3)クロス共重合体中に含まれるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の含量が60~95質量%の範囲にある。
【請求項5】
前記クロス共重合体(A)が、以下の(1)~(3)の条件を一種以上満足する共重合体であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(1)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10~30モル%、芳香族ポリエン単量体単位の含量が0.01モル%以上0.5モル%以下、残部がエチレン単量体単位の含量である。
(2)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の重量平均分子量が5万以上30万以下、分子量分布(Mw/Mn)が1.8以上6以下である。
(3)クロス共重合体中に含まれるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の含量が70~95質量%の範囲にある。
【請求項6】
前記クロス共重合体(A)が、芳香族ビニル単量体単位の含量が10~30モル%であるオレフィン-芳香族ビニル-芳香族ポリエン共重合体70~95質量%と、芳香族ビニル単量体単位からなる芳香族ビニル重合体を5~30質量%とを含み、前記オレフィン-芳香族ビニル-芳香族ポリエン共重合体と前記芳香族ビニル重合体とが実質的に溶媒分別で分離できない、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
ポリエチレン系樹脂(B)が高密度ポリエチレン(HDPE)である請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
前記ポリプロピレン系樹脂(C)を18~40質量部含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
請求項1または8に記載の熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対してさらに、 可塑剤(D)を1~50質量部、及び/またはスチレン系熱可塑性エラストマー(E)を1~25質量部配合してなる熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体。
【請求項11】
シートである請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
請求項11に記載のシートを含む多層シート。
【請求項13】
入射角60°で測定する鏡面光沢度の、110℃環境下に24時間曝した後の変化が1.0%以下である、請求項10に記載の成形体。
【請求項14】
請求項11に記載のシートまたは請求項12に記載の多層シートを含む表皮材。
【請求項15】
請求項14に記載の表皮材を含む自動車内装部材。
【請求項16】
オレフィン、芳香族ビニル化合物、および芳香族ポリエンの各単量体から配位重合触媒を用いて共重合しオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体を合成する工程と、
得られたオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体に、芳香族ビニル化合物単量体およびアニオン重合開始剤を添加し、アニオン重合することで、クロス共重合体(A)を得る工程と、
前記クロス共重合体(A)、ポリエチレン系樹脂(B)、架橋剤を剪断下で混合し、架橋させる工程を含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項17】
請求項16で得られた熱可塑性エラストマー組成物に対して、ポリプロピレン系樹脂(C)、可塑剤(D)、及び/またはスチレン系熱可塑性エラストマー(E)を配合し、混練する工程をさらに含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐油性、耐傷付性に優れる熱可塑性エラストマー組成物、及びそれを用いた成形体、シート、および表皮材、ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車をはじめとする各種自動車、家具や屋内内装、さらにはロボット等、硬質な各種機械の表面を覆う表皮材には、種々のレベルの軟質性に加え各種の機能性が求められる。例えば、自動車の内装表皮材としては、耐熱性、耐候性、耐寒性、成形加工時の熱履歴も含めたシボ保持性、人間の接触に対する耐傷付性(耐傷付摩耗性)、人間に同伴する化学物質に対する耐油性、耐薬品性が求められる。従来、この様な分野には可塑剤を添加した軟質性塩化ビニル(軟質塩ビ)からなる表皮材シートが用いられてきた。軟質塩ビは軟質性と耐油性、耐傷付性に優れ、価格的に有利な材料である。しかし、軟質塩ビは、焼却時の管理の問題、すなわち、近年大量に含まれる可塑剤による揮発性有機化合物(VOC)や、一部の可塑剤が環境ホルモンとなる懸念、及び重金属安定剤が含まれる等の問題があることから、より環境性に優れる材料が求められている。そこで、TPO(熱可塑性オレフィン系樹脂)やTPS(熱可塑性スチレン系樹脂)からなる表皮材シートが注目されている。TPOやTPSは、耐熱性と軟質性、リサイクル性、環境性が特徴であり、広く用いられるようになってきた。これら材料は軟質成分と耐熱成分とからなるコンパウンドであるが、耐熱成分として用いられるPP(アイソタクティックポリプロピレン)成分により、耐傷付性が十分ではないレベルまで低下してしまうという課題を有している。また、軟質成分として用いられる架橋エチレン-プロピレン系ゴムや架橋または非架橋スチレン系水添ブロック共重合体の耐油性が十分ではなく、過酷な環境下では膨潤、変形を起こす場合がある。PPの添加量を減らすなどして耐傷付性を向上させようとしても、今度は耐熱性、特にシート成形時の表面シボ保持性が低下しシボが消失してしまう課題がある。
【0003】
上記状況を踏まえて、各種用途に応じた要求特性を有する新規熱可塑性エラストマーが数多く提案されている。例えば、特許文献1、2には、スチレン-エチレン共重合体に少量のジビニルベンゼンを共重合し、ジビニルベンゼンユニットのビニル基を介してポリスチレン鎖(クロス鎖)を導入する方法によって得られる、いわゆるクロス共重合体が提案されている。この方法により得られるクロス共重合体は、スチレン-エチレン共重合体鎖をソフトセグメントとし、ポリスチレンをハードセグメントとして有する分岐型構造のブロック共重合体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-102515号公報
【文献】国際公開第2007/139116号
【文献】国際公開第2009/128444号
【文献】特開2010-242015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クロス共重合体は、耐傷付性、軟質性、透明性、成形加工性など優れた特性を有する熱可塑性エラストマーであるが、用途によっては耐熱性や耐油性が不足する場合があり、耐傷付性等の特徴を保持したまま、耐熱性や耐油性を向上させることが難しいという課題がある。この様な課題に対処するため、耐熱性を高めようとPPを添加するとTPOやTPSと同様、耐傷付摩耗性が低下してしまう。そこでPPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂の添加(特許文献3)やTPEE(ポリエステル系軟質樹脂)の添加(特許文献4)により耐熱性の向上が図られている。電子線架橋によりスチレン-エチレン系クロス共重合体シートの耐熱性を向上させることが可能である。クロス共重合体の電子線架橋体を用いた、特にテープ基材や電線被覆材、発泡材については特許文献1に記載がある。例えば、特許文献2にはクロス共重合体と他のポリマー、特に結晶性ポリプロピレンとを動的架橋して得られる組成物が記載されている。
【0006】
しかし、上記の従来技術に係るクロス共重合体を用いた熱可塑性エラストマー組成物では、依然として耐熱性や耐油性が十分であるとは言えないし、耐傷付性も十分には得られていない。特に、自動車等の内装表皮材には、高度な耐熱性、耐油性、耐傷付性が求められ、しかも高温耐油性も求められるため、さらに高性能な熱可塑性エラストマー組成物が求められてきている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、耐熱性、耐油性、耐傷付性に優れる熱可塑性エラストマー組成物、及びそれを用いた成形体、シート、表皮材を提供できる。
【0008】
すなわち本発明の実施形態では以下を提供できる。
【0009】
[1]
クロス共重合体(A)50~85質量%と、ポリエチレン系樹脂(B)15~50質量%とを含み、
MFR(230℃、10kg荷重)が0.3g/10分以上、10g/10分以下であり、かつ
1.0質量%以上のゲル分を含む、
熱可塑性エラストマー組成物。
【0010】
[2]
150℃、周波数1Hz、昇温4℃/分の条件下で測定した貯蔵弾性率E’が1×105~5×106Paの範囲である、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0011】
[3]
150℃、周波数1Hz、昇温4℃/分の条件下、貯蔵弾性率E’が150℃および190℃で測定可能であり、190℃と150℃の貯蔵弾性率E’の比(E’(190)/E’(150))は、0.3以上である、[1]または[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0012】
[4]
前記クロス共重合体(A)が、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖が芳香族ポリエン単量体単位を介して結合する構造を有しており、さらに以下の(1)~(3)の条件を一種以上満足する共重合体である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(1)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10~30モル%、芳香族ポリエン単量体単位の含量が0.01モル%以上0.5モル%以下、残部がオレフィン単量体単位の含量である。
(2)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の重量平均分子量が5万以上30万以下、分子量分布(Mw/Mn)が1.8以上6以下である。
(3)クロス共重合体中に含まれるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の含量が60~95質量%の範囲にある。
【0013】
[5]
前記クロス共重合体(A)が、エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖が芳香族ポリエン単量体単位を介して結合する構造を有しており、さらに以下の(1)~(3)の条件を一種以上満足する共重合体であることを特徴とする[1]~[4]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(1)エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10~30モル%、芳香族ポリエン単量体単位の含量が0.01モル%以上0.5モル%以下、残部がエチレン単量体単位の含量である。
(2)エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の重量平均分子量が5万以上30万以下、分子量分布(Mw/Mn)が1.8以上6以下である。
(3)クロス共重合体中に含まれるエチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の含量が70~95質量%の範囲にある。
【0014】
[6]
前記クロス共重合体(A)が、芳香族ビニル単量体単位の含量が10~30モル%であるオレフィン-芳香族ビニル-芳香族ポリエン共重合体70~95質量%と、芳香族ビニル単量体単位からなる芳香族ビニル重合体を5~30質量%とを含み、前記オレフィン-芳香族ビニル-芳香族ポリエン共重合体と前記芳香族ビニル重合体とが実質的に溶媒分別で分離できない、[1]~[5]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
[7]
ポリエチレン系樹脂(B)が高密度ポリエチレン(HDPE)である[1]~[6]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
[8]
[1]~[7]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対してさらに、ポリプロピレン系樹脂(C)を1~40質量部配合してなる熱可塑性エラストマー組成物。
【0017】
[9]
[1]または[8]に記載の熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対してさらに、 可塑剤(D)を1~50質量部、及び/またはスチレン系熱可塑性エラストマー(E)を1~25質量部配合してなる熱可塑性エラストマー組成物。
【0018】
[10]
[1]~[9]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体。
【0019】
[11]
シートである[10]に記載の成形体。
【0020】
[12]
[11]に記載のシートを含む多層シート。
【0021】
[13]
入射角60°で測定する鏡面光沢度の、110℃環境下に24時間曝した後の変化が1.0%以下である、[10]に記載の成形体。
【0022】
[14]
[11]に記載のシートまたは[12]に記載の多層シートを含む表皮材。
【0023】
[15]
[14]に記載の表皮材を含む自動車内装部材。
【0024】
[16]
クロス共重合体(A)、ポリエチレン系樹脂(B)、架橋剤を剪断下で混合し、架橋させる工程を含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【0025】
[17]
オレフィン、芳香族ビニル化合物、および芳香族ポリエンの各単量体から配位重合触媒を用いて共重合しオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体を合成する工程と、
得られたオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体に、芳香族ビニル化合物単量体およびアニオン重合開始剤を添加し、アニオン重合することで、前記クロス共重合体(A)を得る工程と
をさらに含む、[16]に記載の製造方法。
【0026】
[18]
[16]または[17]で得られた熱可塑性エラストマー組成物に対して、ポリプロピレン系樹脂(C)、可塑剤(D)、及びまたはスチレン系熱可塑性エラストマー(E)を配合し、混練する工程をさらに含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、耐熱性、耐油性、耐傷付性に優れる熱可塑性エラストマー組成物、及びそれを用いた成形体、シート、表皮材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例および比較例に係る熱可塑性エラストマー組成物の貯蔵弾性率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、数値範囲は、別段の定めがない限りはその下限値および上限値を含むものとする。
【0030】
熱可塑性エラストマー組成物は、クロス共重合体(A)と、ポリエチレン系樹脂(B)とを含む。
【0031】
[クロス共重合体(A)]
クロス共重合体(A)としては、ポリマー主鎖と他のポリマー鎖がクロス結合したものであれば任意に使用できる。好ましい実施形態においては、クロス共重合体(A)が、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが結合した構造を有してよい。さらに好ましい実施形態においては、クロス共重合体(A)が、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが、芳香族ポリエン単量体単位を介して結合した構造を有してよい。
【0032】
好ましい実施形態においては、クロス共重合体(A)が下記(1)~(3)の条件を一種以上、より好ましくは二種以上、さらに好ましくはすべて満足する共重合体であってよい。
(1)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10~30モル%、より好ましくは12~28モル%、さらに好ましくは15~25モル%、芳香族ポリエン単量体単位の含量が0.01モル%以上0.5モル%以下、より好ましくは0.01モル%以上0.4モル%以下、さらに好ましくは0.02モル%以上0.1モル%以下、残部がオレフィン単量体単位の含量である。
(2)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の重量平均分子量が5万以上30万以下、分子量分布(Mw/Mn)が1.8以上6以下、より好ましくは1.8以上5以下、さらに好ましくは1.8以上4以下である。
(3)クロス共重合体中に含まれるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の含量が60~95質量%、より好ましくは65~90質量%、さらに好ましくは70~95質量%の範囲にある。
【0033】
当該オレフィン単量体単位としては、炭素数3~20のα-オレフィン、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、ビニルシクロヘキサンや、環状オレフィンすなわちシクロペンテン、ノルボルネン等、各α-オレフィン及び環状オレフィンを使用できる。好ましくは、オレフィンはエチレン単量体を含んでよく、最も好ましくはエチレン単量体である。
【0034】
エチレン単量体単位を使用する場合、好ましくはエチレン単量体単独で用いられるが、エチレンに加えて本発明の効果を阻害しない範囲で、比較的少量の炭素数3~20のα-オレフィン、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、ビニルシクロヘキサンや、環状オレフィンすなわちシクロペンテン、ノルボルネン等、各α-オレフィン系単量体及び環状オレフィン系単量体に由来する単量体単位を共重合してもよい。
【0035】
芳香族ビニル化合物単量体単位としては、スチレン及び各種の置換スチレン、例えばp-メチルスチレン、m-メチルスチレン、o-メチルスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-クロロスチレン、o-クロロスチレン等の各スチレン系単量体に由来する単位が挙げられる。これらの中でも好ましくはスチレン単位、p-メチルスチレン単位、p-クロロスチレン単位であり、特に好ましくはスチレン単位である。これら芳香族ビニル化合物単量体単位は、1種類でもよく、2種類以上の併用であってもよい。
【0036】
芳香族ポリエン単量体単位としては例えば、10以上30以下の炭素数を持ち、複数の二重結合(ビニル基)と単数又は複数の芳香族基を有した芳香族ポリエンを使用できる。例えば、o-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、1,4-ジビニルナフタレン、3,4-ジビニルナフタレン、2,6-ジビニルナフタレン、1,2-ジビニル-3,4-ジメチルベンゼン、1,3-ジビニル-4,5,8-トリブチルナフタレン等、芳香族ポリエン単量体に由来する単位が挙げられ、好ましくはオルトジビニルベンゼン単位、パラジビニルベンゼン単位及びメタジビニルベンゼン単位のいずれか1種又は2種以上の混合物が好適に用いられる。
【0037】
オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体中の含有割合としては、軟質性や耐傷付性を向上する観点から、芳香族ビニル化合物単量体単位が10~30モル%の範囲であるのが好ましい。芳香族ビニル化合物単量体単位が10モル%以上であると、軟質性と耐傷付性が十分に得られる。芳香族ビニル化合物単量体単位が30モル%以下であると、低温での軟質性が十分に得られ、また耐傷付性が向上する。
【0038】
芳香族ポリエン単量体単位の含有割合は0.01~0.5モル%、好ましくは0.02~0.1モル%であってよい。芳香族ポリエン単量体単位が0.01モル%以上であると、力学物性が向上し、0.5モル%以下であると成形加工性が向上する。
【0039】
クロス共重合体(A)中における、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と、芳香族ビニル化合物重合体鎖との含有割合は、軟質性向上の観点から、好ましくはオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖が70~95質量%、芳香族ビニル化合物重合体鎖が5~30質量%としてよい。さらに熱可塑性エラストマー組成物としての物性を向上させる観点からは、オレフィン-芳香族ビニル化合物系共重合体が82~92質量%、芳香族ビニル化合物単量体単位からなる重合体が8~18質量%である。
【0040】
本クロス共重合体及びその製造方法の詳細は、その全体の記載をそれぞれ出典明示によりここに援用する、国際公開第2000/37517号、国際公開第2007/139116号、または特開2009-120792号公報に記載されている。
【0041】
好ましい実施形態では、クロス共重合体(A)が、エチレン、芳香族ビニル化合物、および芳香族ポリエンの各単量体から配位重合触媒を用いて共重合しエチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体を合成し、アニオン重合行程において、エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物単量体の共存下、アニオン重合開始剤を用いて重合する製造方法により得られ、さらに以下の(1)~(3)の条件をすべて満足する共重合体であってよい。
(1)エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10~30モル%、芳香族ポリエン単量体単位の含量が0.01モル%以上0.5モル%以下、残部がエチレン単量体単位の含量である。
(2)エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の重量平均分子量が5万以上30万以下、分子量分布(Mw/Mn)が1.8以上6以下である。
(3)クロス共重合体中に含まれるエチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の含量が60~95質量%の範囲にある。
【0042】
好ましい実施形態においては、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが、芳香族ポリエン単量体単位を介して結合していてよい。このように芳香族ポリエン単量体単位が介在した結合が形成されることは、以下の観察可能な現象で証明できる。以下の説明では、あくまで好ましい一例として、エチレン-スチレン(芳香族ビニル化合物)-ジビニルベンゼン(芳香族ポリエン)共重合体鎖と、ポリスチレン(芳香族ビニル化合物)鎖とが、ジビニルベンゼン単位を介して結合している場合について示す。
【0043】
配位重合工程で得られたエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体マクロモノマーと、本共重合体とスチレン単位の存在下でのアニオン重合を経て得られるクロス共重合体との1H-NMR(プロトンNMR)を測定し、両者のジビニルベンゼン単位のビニル基水素(プロトン)のピーク強度を適当な内部標準ピーク(エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体に由来する適当なピーク)を用いて比較する。ここで、上記したように芳香族ポリエン単量体単位が介在した結合を有するクロス共重合体の場合、そのジビニルベンゼン単位のビニル基水素(プロトン)のピーク強度(面積)が、エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体マクロモノマーのジビニルベンゼン単位の同ピーク強度(面積)と比較して50%未満、好ましくは20%未満となる。これは、アニオン重合(クロス化工程)の際にスチレン単位の重合と同時にジビニルベンゼン単位も共重合し、エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖がジビニルベンゼン単位を介して結合されるために、アニオン重合後のクロス共重合体ではジビニルベンゼン単位のビニル基の水素(プロトン)のピーク強度は大きく減少する。実際にはジビニルベンゼン単位のビニル基の水素(プロトン)のピークはアニオン重合後のクロス共重合体では実質的に消失している。なお上記手法の詳細は公知文献「ジビニルベンゼンユニットを含有するオレフィン系共重合体を用いた分岐型共重合体の合成」、荒井亨、長谷川勝、日本ゴム協会誌、p382、vol.82(2009)に記載されている。
【0044】
別な観点から、クロス共重合体(A)において、エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが芳香族ポリエン単量体単位を介して結合している(一例としてエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖がジビニルベンゼン単位を介して結合している)ことは、以下の観察可能な現象でも証明できる。すなわち上記したように芳香族ポリエン単量体単位が介在した結合を有するクロス共重合体に対しては、適当な溶媒を用いソックスレー抽出を十分な回数行った後においても、含まれるエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖を分別することができない。通常のクロス共重合体に含まれるエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体鎖と同一組成のエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体とポリスチレンは、沸騰アセトンによるソックスレー抽出を行うことで、アセトン不溶部としてエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体に、アセトン可溶部としてポリスチレンに分別できるのが普通である。しかし、芳香族ポリエン単量体単位が介在した結合を有するクロス共重合体に対して同様のソックスレー抽出を行った場合、アセトン可溶部として本クロス共重合体に含まれる比較的少量のポリスチレンホモポリマーが得られるが、大部分の量を占めるアセトン不溶部には、NMR測定を行うことでエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖が共に含まれていることが示され、これらはソックスレー抽出で分別することができないことがわかる。なおこの手法についてもその詳細は上記公知文献「ジビニルベンゼンユニットを含有するオレフィン系共重合体を用いた分岐型共重合体の合成」、荒井亨、長谷川勝、日本ゴム協会誌、p382、vol.82(2009)に記載されている。
【0045】
以上から好ましい実施形態に係るクロス共重合体(A)としては、エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とを有し、エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが芳香族ポリエン単量体単位を介して結合している構造を有し、エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが実質的に溶媒分別で分離できない共重合体であってよい。ここで言う「実質的に」とは、本クロス共重合体に、本発明の効果を阻害しない程度の比較的少量の芳香族ビニル化合物(ポリスチレン)ホモポリマーが含まれていても良いことを意味する。
【0046】
クロス共重合体(A)に含まれる芳香族ビニル化合物重合体鎖の重量平均分子量Mwは任意であるが、一般的には1万~8万の範囲である。クロス共重合体においては主鎖であるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体と結合している芳香族ビニル化合物重合体鎖の分子量は求めることができないので、本明細書では、クロス共重合体の中に比較的少量含まれる、芳香族ビニル化合物重合体ホモポリマーの重量平均分子量Mwをもって、クロス共重合体に含まれる芳香族ビニル化合物重合体鎖の重量平均分子量Mwと定義している。
【0047】
なお、クロス共重合体(A)を1H-NMR測定すると、含まれる芳香族ポリエン(例えばジビニルベンゼン)ユニットは、芳香族ビニル化合物(例えばスチレン)ユニットと比較し著しくその量が少なく、さらにピーク位置が芳香族ビニル化合物(例えばスチレン)ユニットと重なることから、そのピークを直接確認することはできない。そのため、好ましい実施形態に係るクロス共重合体の1H-NMR測定では、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体(エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体)に由来するピークと芳香族ビニル化合物重合体(ポリスチレン)に由来するピークが観察され、これからクロス共重合体のオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体(エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体)に由来するオレフィン単位含量、芳香族ビニル化合物(スチレン)単位含量、及び芳香族ビニル化合物重合体(ポリスチレン)の含量を求めることができる。なおここでは、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体(エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体)中に、0.01モル%以上0.5モル%以下含まれていてよい芳香族ポリエン(ジビニルベンゼン)の含量は、ピーク位置が重なる芳香族ビニル化合物(スチレン)ユニット含量に含めて、前記各含量を求めている。また、クロス共重合体の大部分を占める上記アセトン不溶部には、エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体(エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体)と芳香族ビニル化合物重合体(ポリスチレン)が共に含まれ、これをさらなる分別操作によって分離することができない。それ故、好ましいクロス共重合体において、エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが結合を有している(一例としてエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖とが結合を有している)ことを立証することができる。本クロス共重合体は、エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが結合を有しているにも関わらず、ゲル分が実質的に含まれず、かつ熱可塑性樹脂としての実用的な成形加工性、すなわち特定のMFR値を示すことができる。
【0048】
好ましい実施形態に係るクロス共重合体(A)は、芳香族ビニル単量体単位の含量が10~30モル%であるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体70~95質量%と、芳香族ビニル単量体単位からなる芳香族ビニル重合体5~30質量%とを含み、両者が実質的に溶媒分別で分離できない共重合体であってよい。
【0049】
[ポリエチレン系樹脂(B)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が使用できるポリエチレン系樹脂(B)とは、エチレン単量体単位を50質量%以上含む樹脂であってよい。ポリエチレン系樹脂(B)は、エチレン単独重合体でもよく、エチレンと他のα-オレフィン、例えば、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、もしくはこれらの2種以上の混合物との共重合体であってもよい。ポリエチレン系樹脂(B)は、高密度ポリエチレン(以下「HDPE」)、低密度ポリエチレン(以下「LDPE」)、直鎖状低密度ポリエチレン(以下「LLDPE」)、又はその混合物でもよい。
【0050】
HDPEの有する密度は0.940g/cm3以上であり、好ましくは0.940~0.970g/cm3、さらに好ましくは0.950~0.970g/cm3である。その融点は、好ましくはDSC法(示差走査熱量計)の測定で126~136℃、メルトフローレート(MFR)がJIS K-6922-2:2010に規定される温度190℃、荷重2.16kgの測定条件下において、好ましくは0(実質流れない)~30g/10分であり、さらに好ましくは0.05~10g/10分であってよい。MFRが0.05g/10分以上のものは熱可塑性エラストマー組成物の加工性が優れており、10g/10分以下のものは得られる熱可塑性エラストマー組成物の力学物性が高い。また、数平均分子量が100万以上の、いわゆる超高分子量ポリエチレンも好適に用いることができる。
【0051】
LDPEやLLDPEは、好ましくは、融点がDSC法(示差走査熱量計)の測定で60~125℃、メルトフローレート(MFR)がJIS K-6922-2:2010に規定される温度190℃、荷重2.16kgの測定条件下において、好ましくは0.05~30g/10分であり、さらに好ましくは0.05~10g/10分であってよい。MFRが0.05g/10分以上のものは熱可塑性エラストマー組成物の加工性が優れており、30g/10分以下のものは得られる熱可塑性エラストマー組成物の力学物性が高い。LDPEは、通常は公知の高圧ラジカル重合法により製造され、チューブラー法、オートクレーブ法の何れで製造されたものもよい。LLDPEは、チーグラーナッタ触媒またはメタロセン触媒を用いた配位重合法により、エチレンとコモノマーであるαオレフィンの共重合によって製造可能である。
【0052】
得られる熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性の観点からは、用いるポリエチレン系樹脂(B)としては、HDPEが好ましい。
【0053】
[熱可塑性エラストマー組成物]
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、クロス共重合体(A)50~85質量%と、ポリエチレン系樹脂(B)15~50質量%とを含む。クロス共重合体(A)が50質量%未満では、得られる組成物の軟質性が不足する場合があり、85質量%より多い場合は、耐熱性や耐油性が不足する場合がある。
【0054】
本発明の実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物は、ゲル分が1.0質量%以上である。好ましい実施形態では、ゲル分を沸騰キシレン(140℃)中、8時間後に測定できる。ゲル分が1.0質量%未満では、架橋が不十分であり、耐熱性や耐油性が不足してしまう場合がある。好ましくは同ゲル分は3.0質量%以上60質量%以下である。60質量%以下であると熱可塑性と成形加工性が良好である。
【0055】
本発明の実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物は、そのMFR(JIS K 7210-1:2014に基づき測定)は、0.3g/10分以上、10g/10分以下であるのが好ましい。さらに好ましくは、150℃、周波数1Hz、昇温4℃/分の条件下で測定した貯蔵弾性率E’が1×105~5×106Paの範囲、より好ましくは1×105~2×106Paの範囲であり、かつ沸騰キシレン(140℃)中、8時間後のゲル分が1.0質量%以上である。特に好ましい実施形態では、熱可塑性エラストマー組成物が190℃と150℃でそれぞれ示す貯蔵弾性率E’の比(E’(190)/E’(150))が、0.3以上であってよく、より好ましくは0.3以上1以下であってよい。
【0056】
本発明の実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物のA硬度(JIS K-6253-3:2012に基づき測定)は、好ましくは95以下であり、さらに好ましくは90以下、70以上であってよい。A硬度がこの範囲であることで、以下に示す、さらにポリプロピレン系樹脂を配合した場合であっても、表皮材として適当な軟質性を有することができる。
【0057】
熱可塑性エラストマー組成物のMFR(JIS K7210:2014)は、0.3g/10分未満では、成形加工性が不足し製造に際し経済性が失われてしまう恐れがあり、10g/10分より高いと、耐熱性や耐油性が低下してしまう恐れがある。
【0058】
熱可塑性エラストマー組成物の150℃、周波数1Hz、昇温4℃/分の条件下で測定した貯蔵弾性率E’が1×105未満では、耐熱性が低下してしまう恐れがある。一方、5×106Paより高い場合、熱可塑性が相対的に低下し、成形加工性が悪化してしまう場合がある。また、本発明の実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物の貯蔵弾性率は、150℃および190℃で測定可能であり、かつポリエチレン系樹脂(B)の融点(およそ130℃)以上の温度域でも大きな低下はない。具体的には、190℃と150℃の貯蔵弾性率E’の比(E’(190)/E’(150))は、0.3以上、より好ましくは0.3以上1以下である。これは、典型的な架橋構造の存在を示していると考えられる。
【0059】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、良好な耐油性を示すことができる。具体的には、流動パラフィン、またはオレイン酸に70℃で24時間浸漬させた後の膨潤率が120質量%以下となり得る。
【0060】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、良好な耐熱性を示す。具体的には、シボ付きプレスシートを、110℃で24時間放置後、プレスシートシボ面の60°光沢値(入射角60°での光沢値)を測定し、試験前光沢値と比較した変化量が1.00%以下であるのが好ましい。耐熱性が低い場合、熱によりシボがだれるために、光沢の変化率がより大きな値になってしまう。
【0061】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は良好な耐傷付性を有する。具体的には、鏡面プレスシートの鏡面側に、直径1.0mmボールチップ(超硬性)を有するエリクセン社製引掻き式硬度計「318S」型を使用し、荷重3Nにて3cm以上の傷を引いた際の、傷深さが15μm以下であるのが好ましい。
【0062】
このような本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、いわゆる動的架橋法により得ることができる。動的架橋(動的加硫)とは、各種配合物を溶融状態で架橋剤が反応する温度条件下で強力に混練させる事により剪断、分散と架橋を同時に起こさせる手法である。このような動的架橋処理は、例えば文献A.Y.Coranら、Rub.Chem.and Technol.vol.53.141~(1980)、JSR TECHNICAL REVIEW、No.112/20050、P20-24等に記載がある。動的架橋時の混練機は通常バンバリーミキサー、加圧式ニーダーのような密閉式混練機、一軸や二軸押出機等を用いて行われる。混練温度は通常130~300℃、好ましくは150~200℃である。混練時間は通常1~30分である。
【0063】
動的架橋の際の架橋剤には、有機過酸化物(F)を含めてよい。そうした有機過酸化物(F)としては例えば、フェノール樹脂架橋剤、ジキュミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、ジ-tert-ブチルパーオキサイド等が挙げられる。又架橋助剤としてマレイミド化合物や、ジビニルベンゼン、TAIC(トリメタリルイソシアヌレート)、トリメチロールプロパントリメタクリレートの様な多官能性モノマーを用いることも出来る。
【0064】
或る実施形態では、熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対してさらに、ポリプロピレン系樹脂(C)を1~40質量部配合してもよい。ポリプロピレン系樹脂を1質量部以上配合することで、さらに耐油性や耐熱性を向上させることが可能となる。またポリプロピレン系樹脂を40質量%以下配合することで軟質性を維持できる。
【0065】
或る実施形態では、クロス共重合体(A)とポリエチレン系樹脂(B)を含む熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対してかまたはポリプロピレン系樹脂(C)をさらに配合した熱可塑性樹脂組成物100質量部に対してさらに、可塑剤(D)を1~50質量部、及び/またはスチレン系熱可塑性エラストマー(E)を1~25質量部配合してもよい。可塑剤とスチレン系熱可塑性エラストマーを併用することで、可塑剤(オイルなど)のブリードアウトを防ぎながら軟質性を向上させることができる。
【0066】
可塑剤(D)としては例えば、パラフィン系(流動パラフィンなど)、ナフテン系、アロマ系プロセスオイル、流動パラフィン等の鉱物油系軟化剤、ヒマシ油、アマニ油、オレフィン系ワックス、鉱物系ワックス、各種エステル類等公知のものを使用可能である。
【0067】
スチレン系熱可塑性エラストマー(E)としては例えば、スチレン部分を含んだ熱可塑性エラストマーを使用できる。一例として、クラレ社から販売されている「セプトン」シリーズ(SEP、SEPS、SEEPS、SEBS、SEEPS-OH)などを使用可能である。
【0068】
これらのポリプロピレン系樹脂(C)、可塑剤(D)、及び/またはスチレン系熱可塑性エラストマー(E)を配合して得られる熱可塑性エラストマー組成物もまた、優れたA硬度、耐傷付性を示すことができ、より優れた耐油性や耐熱性を示すことができる。
【0069】
ポリプロピレン系樹脂(C)、可塑剤(D)、及び/またはスチレン系熱可塑性エラストマー(E)を配合する方法は任意である。好ましくは、前記動的架橋方法により得られたクロス共重合体(A)とポリエチレン系樹脂(B)を含む熱可塑性エラストマー組成物に対し、別途、ポリプロピレン系樹脂(C)、可塑剤(D)、及び/またはスチレン系熱可塑性エラストマー(E)を配合して公知の方法で混練して製造する。この際に、架橋剤や架橋助剤を使用し、同様の動的加硫を行っても良いし、これらを用いずに単に混練して組成物を製造しても良い。特にポリプロピレン系樹脂(C)を用いる場合には、ラジカルによるポリプロピレン鎖の切断を避けるために、架橋剤や架橋助剤を用いずに単に混練して組成物を製造することが、最終的に得られる組成物の耐熱性、耐油性の観点からは好ましい。
【0070】
ポリプロピレン系樹脂(C)、可塑剤(D)、及び/またはスチレン系熱可塑性エラストマー(E)を配合するにあたっては、経済的には一台の、サイドフィード付き、二軸押し出し機を使用することもできる。具体的には、クロス共重合体(A)とポリエチレン系樹脂(B)、架橋剤、その他を含む主原料を原料投入口から投入し、実質的に架橋剤が反応を完了する押し出し機領域で動的架橋を行い、実質的に架橋剤が反応を終了した段階でサイドフィードよりポリプロピレン系樹脂(C)、可塑剤(D)、及び/またはスチレン系熱可塑性エラストマー(E)を配合し、以降混練することで、連続的にクロス共重合体(A)とポリエチレン系樹脂(B)を含む熱可塑性エラストマー組成物(動的加硫物)に、ポリプロピレン系樹脂(C)、可塑剤(D)、及び/またはスチレン系熱可塑性エラストマー(E)が配合された、熱可塑性エラストマー組成物を製造することができる。
【0071】
すなわち或る実施形態では、少なくともクロス共重合体(A)、ポリエチレン系樹脂(B)、および架橋剤を剪断下で混合し、さらに架橋する工程を含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供できる。また或る実施形態では、上記で得られた熱可塑性エラストマー組成物に対して、さらにポリプロピレン系樹脂(C)、可塑剤(D)、及び/またはスチレン系熱可塑性エラストマー(E)を配合し、混練する工程を含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法も提供できる。
【0072】
また或る実施形態では、熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体を提供できる。そうした成形体としては例えば、特開2009-102515号公報、国際公開第09/128444号、国際公開第13/018171号、または特開2011-153214号公報に記載されている合成皮革、表皮材、グリップまたは外装部材、発泡体、表皮材、テープ基材、電線被覆材、ガスケット、シート、または導電性シートに好適に用いられる。本発明の実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物を用いたシートは単層であっても良く、あるいは多層であっても良い。多層の場合は、他の樹脂成分からなる層をさらに有する多層であってもよいし、あるいは本熱可塑性エラストマー組成物からなる層のみからなる多層であってもよい。
【0073】
或る実施形態では、熱可塑性エラストマー組成物を含んだ単層または多層シートを有する自動車内装用の表皮材(例えば表皮材シート)が好適に提供できる。そうした表皮材としては、表層に熱可塑性エラストマー組成物のシートを用い、下地(基材)層として発泡ポリプロピレンシートを有するようにできる。この場合、優れた耐熱性、耐油性、耐傷付性に加え、発泡ポリプロピレンシートとの熱接着性が求められるが、本発明の実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物は発泡ポリプロピレンシートとの熱接着性が良好であり好適である。或る実施形態では、上記表皮材を含んだ自動車内装部材も提供できる。本発明の実施形態に係る熱可塑性エラストマーの特性により、人間にとっての異臭が少なく、低光沢であるので窓外から入射する光の反射により運転が妨げられず、かつ人間にとっての触感が快適であるという特徴が得られるため、自動車内装部材としてきわめて有益な効果が得られる。
【0074】
本発明の実施形態に係る単層または多層シートの表面には、さらに風合い、耐傷付性、耐油性を付与するために、公知の表面コート剤処理を行うことができる。このような表面コートには、例えばウレタン表面コート剤がある。
【実施例
【0075】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明を説明するが、これらは何れも例示的なものであって本発明の内容を限定するものではない。実施例、比較例に用いた原料、製法は以下の通りである。
【0076】
クロス共重合体(A)
表1に記載のクロス共重合体1~3を使用した。これらのクロス共重合体は、国際公開第2000/37517号、国際公開第2007/139116号、特開2009-120792号公報に記載の実施例あるいは比較例の製造方法で製造したもので、下記組成は、同様にこれら公報記載の方法で求めた。つまり、クロス共重合体やエチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体中の組成、すなわちエチレン、芳香族ビニル化合物の含量や芳香族ビニル化合物重合体の含量は、1H-NMR(プロトンNMR)により求めた。また、エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体中の芳香族ポリエンの含量は、重合時に仕込んだ芳香族ポリエン量と、配位重合終了後にサンプリングした重合液のガスクロマトグラフ分析から求めた未反応芳香族ポリエン量の差から重合に使用された芳香族ポリエン量を求め、重合により得られた共重合体の量と比較することで算出した。重合液中の分子量はGPC測定により求めた。ポリスチレン鎖の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)は、溶媒分別により分離された、芳香族ビニル化合物重合体のGPC測定により求めた。
【0077】
これらのクロス共重合体においては、ジビニルベンゼン単位のビニル基水素(プロトン)ピーク強度(面積)が、配位重合工程で得られたエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体のジビニルベンゼン単位の同ピーク強度(面積)と比較して20%未満であった。実際にはジビニルベンゼン単位のビニル基の水素(プロトン)ピークはアニオン重合後のクロス共重合体では実質的に消失していた。また、本クロス共重合体に対し、沸騰アセトンを用いソックスレー抽出を行ったが、含まれるエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体鎖(実質的にはエチレン-スチレン共重合体鎖)とポリスチレン鎖を分別することができなかった。なお、クロス共重合体を規定するために、用いられるエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体のスチレン含量、ジビニルベンゼン含量、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、クロス共重合体中のエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体の含量、ポリスチレン鎖の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、及びMFR(JIS K7210-1、200℃、49N)を示す。ASTM-D2765-84で測定したゲル分は、何れのクロス共重合体においても0.1質量%未満(検出下限以下)であった。
【0078】
なお、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)の測定条件は以下のとおりであった。
<GPC測定条件>
装置名:HLC-8220(東ソー社製)
カラム:Shodex GPC KF-404HQを4本直列
温度:40℃
検出:示差屈折率
溶媒:テトラヒドロフラン
検量線:標準ポリスチレン(PS)を用いて作製した。
【0079】
【表1】
【0080】
ポリエチレン系樹脂(B)や、その他の原料は表2に示したとおりである。
【0081】
【表2】
【0082】
表1~2の原料を、表3に示す配合で、以下の条件により動的加硫を行い、実施例1~9の熱可塑性エラストマー組成物を得た。また同様にして、比較例1~4の熱可塑性エラストマー組成物を得た。評価結果を表3a、3bに示す。
【0083】
【表3a】
【0084】
【表3b】
【0085】
(動的架橋)
クロス共重合体(A)とポリエチレン系樹脂(B)と有機過酸化物(F)をヘンシェルミキサーにて1分間混合した。得られた混合物を、二軸押出機(東芝機械社製TEM35B)を用いて、樹脂温度220℃、スクリュー回転数170rpm、滞留時間120秒で混練し、ダイよりストランド状に押し出し、カッティングして熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0086】
(試験片の作成)
シート作製は以下に従った。物性評価用の試料は、鏡面金型(STAVAX製)を用いて、加熱プレス法(200℃、時間5分、圧力50kg/cm2)により成形した厚さ1mm、0.3mmの正方形鏡面プレスシートを用いた。また、片面シボ付きプレスシートとしては、シボ金型を用い、シート片面に同様の加熱プレス法によりシボ模様を付与した、厚さ0.6mmの片面シボ付きプレスシートを用いた。
【0087】
(軟質性)
JIS K6253-3:2012に準拠して、タイプAのデュロメータ硬度を用いて瞬間値の硬度を求めた。試験片として1mm厚正方形鏡面プレスシートを6枚重ねて使用した。なお、A硬度95以下を好ましいレベルとした。
【0088】
(高温耐油性)
厚さ0.6mm、一辺20mmの片面シボ付き鏡面プレスシートを、流動パラフィン、(カネダ社製ハイコールK-350)もしくはオレイン酸(純正化学社製一級)が4g入った60mLプラスチック瓶にシボ面を上にして浸漬させ、70℃で24時間放置後、プレスシートを取り出して重量をはかり、試験前重量と比較してプレスシートの膨潤率を算出した。なお、膨潤率120wt%以下を合格レベルとした。
【0089】
(耐熱性)
厚さ0.6mm、一辺50mmの片面シボ付き鏡面プレスシートを、110℃で24時間放置後、プレスシートシボ面の60°光沢値を測定し、試験前光沢値と比較してプレスシートシボ面の光沢変化値を算出した。なお、光沢変化値1.00%以下を合格レベルとした。
【0090】
(耐傷付性)
厚さ0.6mm、一辺50mmの片面シボ付き鏡面プレスシートの鏡面側に、直径1.0mmボールチップ(超硬性)を有するエリクセン社製引掻き式硬度計「318S」型を使用し、荷重3Nにて3cm以上の傷を引いた。傷の中央部分(プレスシートの中央線と交わる部分)の溝の深さを、表面粗さ測定器(小阪研究所社製サーフコーダET4000AK)を用いて測定した。なお、傷深さ15μm以下を合格レベルとした。
【0091】
(MFR)
JIS7210に準拠して、230℃、荷重10kgにて測定した。なお、0.3g/10分以上、10g/10分以下を合格レベルとした。
【0092】
(ゲル分率)
厚さ0.6mmの片面シボ付き鏡面プレスシートを、幅1mm長さ3mmに裁断し、0.2g分を140℃のキシレン中8時間浸漬し、不溶分を200メッシュ金属網フィルターで濾別し、その乾燥重量から、キシレン不溶ゲル分を質量%として算出した。なお、ゲル分率1.0質量%以上を合格レベル、3.0質量%以上60質量%以下を特に好ましいレベルとした。
【0093】
(貯蔵弾性率E’)
厚さ0.3mmの正方形鏡面プレスシートから測定用サンプル(8mm×50mm)を切り出し、動的粘弾性測定装置(レオメトリックス社製RSA-III)を使用し、周波数1Hz、昇温4℃/分、温度領域30℃~200℃の範囲で測定し、貯蔵弾性率E’を求めた。なお、150℃での貯蔵弾性率E’ 1×105Pa以上、5×106Pa以下を合格レベルとし、1×105Pa以上、2×106Pa以下を優秀レベルとした。また190℃と150℃の貯蔵弾性率E’の比(E’(190)/E’(150))は、0.3以上であれば、典型的な架橋構造の存在を示していると考えられるため、合格レベルとした。
【0094】
クロス共重合体(A)とポリエチレン系樹脂(B)を含み、過酸化物の存在下動的架橋を行った、実施例に係る熱可塑性エラストマー組成物は、いずれも好適なMFR値、貯蔵弾性率、ゲル分を示し、しかも好ましい軟質性を有し、さらに良好な高温耐油性、耐熱性、耐傷付性を示すことがわかる。一方、ポリエチレン系樹脂(B)を使用しない場合は、粘弾性スペクトル測定において、測定温度である150℃に達する前に溶融するなどしてしまい、貯蔵弾性率の測定下限値以下となってしまい、耐熱性、高温耐油性も不足していた(比較例1)。ポリエチレン系樹脂(B)の配合量が多すぎる場合は、軟質性が失われてしまう(比較例2)。ポリエチレン系樹脂(B)の代わりにポリプロピレン系樹脂(C)のみを用い動的架橋を行った場合、得られる組成物はMFR値が大きくなりすぎ、特に高温耐油性が未達である(比較例3)。ポリエチレン系樹脂(B)を用い、架橋剤を用いず動的架橋を行わなかった組成物では、粘弾性スペクトル測定において、測定温度である150℃に達する前に溶融するなどしてしまい、貯蔵弾性率の測定下限値以下となってしまい、ゲル分も小さく、耐熱性、高温耐油性も不足していた(比較例4)。
【0095】
実施例の典型例として実施例1~3と、比較例3とについての貯蔵弾性率の温度変化のグラフを図1に示した。クロス共重合体(A)とポリエチレン系樹脂(B)を含み、過酸化物の存在下動的架橋を行った、本実施例に係る熱可塑性エラストマー組成物の貯蔵弾性率は、ポリエチレン系樹脂(B)の融点(およそ130℃)以上の温度域でも大きな低下はない。具体的には、190℃と150℃の貯蔵弾性率E’の比(E’(190)/E’(150))は、0.3以上、より好ましくは0.3以上1以下である。これは、典型的な架橋構造の存在を示していると考えられる。なお、図1中、縦軸の単位はPaであり、横軸は温度を表し単位は℃である。また、例えば1.E+07と示されているのは、1.0×107という意味である。
【0096】
これに対し、クロス共重合体(A)とポリプロピレン系樹脂(C)を含むがポリエチレン系樹脂(B)は含まず、過酸化物の存在下動的架橋を行った、比較例3に係る熱可塑性エラストマー組成物は、ポリプロピレン系樹脂(C)の融点(およそ170℃)以上の温度で溶融し、貯蔵弾性率E’は急激に低下する。190℃では、測定下限(1×104Pa)以下であり、具体的には、190℃と150℃の貯蔵弾性率の比(E’(190)/E’(150))は、0.01以下であると推定できる。クロス共重合体(A)とポリプロピレン系樹脂(C)のみを含み、過酸化物の存在下動的架橋を行った場合には、ポリプロピレン系樹脂(C)に関わる架橋構造は実質的に少ないことを示していると考えられる。
【0097】
さらに、実施例2で得られた熱可塑性エラストマー組成物を用い、表4に示すポリプロピレン系樹脂、可塑剤、スチレン系熱可塑性エラストマーを配合し混練することで、実施例10~14の熱可塑性エラストマー組成物を得た。また市販のTPV系表皮材、TPS系表皮材、PVC系表皮材の評価結果も比較例5~7として記載した。原料の配合、および評価結果を表5に示す。実施例の熱可塑性エラストマー組成物は、比較例の市販のTPV、TPS表皮材と比較し、同等レベルの耐熱性、耐油性を有しつつ、優れた耐傷付性を示した。実施例の熱可塑性エラストマー組成物は、PVC表皮材と比較し、優れた耐油性と耐熱性を示した。
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
さらに、実施例12で得られた熱可塑性エラストマー組成物を、ダイス温度200℃に設定したTダイ付き押出シート成形機で押出し、同時に繰り出した厚み1.0mmの発泡PPシート(トーレペフ 10010AP67東レ社製)とダイス直後のシボロールで熱融着を行い、実施例15に係るシボ付きの多層シートを得た。この多層シートの厚みは1.5mmであった。得られた多層シートを、ポリプロピレン系樹脂を材料とするインパネ型を用いて、シート表面の温度が110℃の条件で真空成形を行い、インパネ型の自動車内装部材を得た。その評価基準、結果を表6に示す。
【0101】
【表6】
【0102】
(ヒートサイクル試験)
インパネ型の自動車内装部材について、80℃4時間~-30℃2時間を1サイクルとして、10サイクルのヒートサイクル試験を実施した。試験後、インパネ型の自動車内装部材を常温で1時間以上放置した後に、無作為に5箇所指定した部分について、測色色差計(日本電色工業社製ZE-2000)を使用してL*、a*、b*を測定して平均値を基準値とした。試験前L*、a*、b*の平均値と比較して色差ΔEを算出した。なお、色差ΔE2.0以下を合格レベルとした。
【0103】
また、ヒートサイクル試験後のインパネ型の自動車内装部材の外観を目視確認し、変形、クラック、剥がれのないことを確認した。
【0104】
(耐薬品性)
インパネ型の自動車内装部材の表面に、ガラスクリーナー(HONDA社製純正品番08CBC-B010L1)を約0.4g/100cm2の塗布量となるように塗り伸ばした。80℃で48時間放置後、インパネ型の自動車内装部材の外観を目視確認し、変形、クラック、剥がれのないことを確認した。
【0105】
(耐傷付性)
インパネ型の自動車内装部材から直径約120mmの試験片を切り出し、その中央部に直径約6mmの穴を開け、テーバー式スクラッチテスター(テスター産業社製HA-201)を使用して、タングステンカーバイド製のカッターを取り付けて、回転数0.5rpm、荷重3Nの条件で3cm以上の傷を引いた。試験後の試験片について目視確認を行い、以下の評価基準で分類した。なお、4級以上を合格とした。
5級:まったく認められない
4級:わずかに認められるがほとんど目立たない
3級:わずかではあるが明らかに認められる
2級:やや著しい
1級:かなり著しい
【0106】
(耐光性)
インパネ型の自動車内装部材について、JIS B7754に準拠して、キセノン耐候性試験機(東洋精機製作所社製アトラスCi4000)を使用して、ブラックパネル温度89℃、湿度50%RH、放射照度100W/m2、放射露光量75MJ/m2の条件で耐光試験を行った。試験後、インパネ型の自動車内装部材を常温で1時間以上放置した後に、無作為に5箇所指定した部分について、測色色差計(日本電色工業社製ZE-2000)を使用してL*、a*、b*を測定して平均値を基準値とした。試験前L*、a*、b*の平均値と比較して色差ΔEを算出した。なお、色差ΔE2.0以下を合格レベルとした。
図1