(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】冷媒圧縮機及びこれを用いた機器
(51)【国際特許分類】
F25B 1/02 20060101AFI20230912BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20230912BHJP
F04B 39/02 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
F25B1/02 Z
F25B1/00 396A
F25B1/00 396B
F25B1/00 396D
F25B1/00 396G
F25B1/00 396J
F25B1/00 396T
F25B1/00 396Z
F04B39/02 S
(21)【出願番号】P 2020556083
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2019043315
(87)【国際公開番号】W WO2020095905
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018210881
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019080054
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505252724
【氏名又は名称】パナソニック アプライアンシズ リフリジレーション デヴァイシズ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 正則
(72)【発明者】
【氏名】石田 貴規
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-122587(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0089411(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第106833807(CN,A)
【文献】特開2014-196518(JP,A)
【文献】特開2012-107143(JP,A)
【文献】特開2015-021046(JP,A)
【文献】特開2016-069405(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190286(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0073560(US,A1)
【文献】特開2018-053199(JP,A)
【文献】特開2010-127218(JP,A)
【文献】特表2014-513164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/02
F25B 1/00
F04B 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍機油が貯留された密閉容器と、
前記密閉容器に収容され、外部より供給される電力により駆動される電動要素と、
前記密閉容器に収容されて前記冷凍機油に被着され、前記電動要素により駆動されて、外部から供給される冷媒ガスを圧縮する圧縮要素とを備え、
前記冷凍機油は、120℃における粘度が5.0mm
2/s以下の範囲の値に設定され、且つ、冷媒圧縮機内の冷媒ガスとの共存雰囲気下に配置され、
前記冷凍機油に、少なくとも運転時に析出しない濃度に調整され且つフラーレンを含む油膜切調整剤が溶解状態で含まれ
、
前記冷媒ガスは、自然冷媒を含み、且つ、R32を含まない、冷媒圧縮機。
【請求項2】
前記冷凍機油は、エステル油を含む、請求項1に記載の冷媒圧縮機。
【請求項3】
前記油膜切調整剤は、極性を有する有機化合物を含む、請求項1に記載の冷媒圧縮機。
【請求項4】
前記圧縮要素は、互いに摺動する少なくとも一対の摺動部材を有し、
前記一対の摺動部材のうち少なくとも一方の摺動面が、非鉄系材料により構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項5】
前記一対の摺動部材のうち他方の摺動面が、鉄系材料により構成されている、請求項4に記載の冷媒圧縮機。
【請求項6】
前記非鉄系材料は、アルミ合金、マグネシウム合金、及び樹脂材料の少なくともいずれかを含む、請求項4又は5に記載の冷媒圧縮機。
【請求項7】
前記圧縮要素は、互いに摺動する少なくとも一対の摺動部材を有し、
前記一対の摺動部材の各摺動面が、鉄系材料により構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項8】
前記冷凍機油は、前記油膜切調整剤を0.0001重量%以上0.5重量%以下の範囲で含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項9】
前記冷凍機油は、40℃における粘度が100mm
2/s以下の範囲の値に設定されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項10】
前記冷凍機油は、40℃における粘度が4.9mm
2/s以下の範囲の値に設定されている、請求項9に記載の冷媒圧縮機。
【請求項11】
前記自然冷媒は、R600a、R290、R744のうち少なくともいずれか1種、又は2種以上を含む混合冷媒である、請求項
1~10のいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項12】
前記冷凍機油は、鉱油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのうち少なくともいずれかを含む、請求項1~
11のいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項13】
前記電動要素が、複数の運転周波数によりインバータ駆動される、請求項1~
12のいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれか1項に記載の冷媒圧縮機と、冷媒を放熱させる放熱器と、冷媒を減圧する減圧装置と、冷媒を吸熱する吸熱器とを配管により環状に連結した冷媒回路を備える、機器
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調装置(エアーコンディショナー)、冷凍装置、洗濯乾燥機、給湯機等に使用される冷媒圧縮機、及び、これを用いた機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から、化石燃料使用量の削減のために冷媒圧縮機の高効率化が進められている。例えば、特許文献1に開示されるように、冷媒圧縮機のピストンの外周部に環状の給油溝を設けることで、圧縮室からの冷媒の漏れ損失の低減を図った冷媒圧縮機が開発されている。
【0003】
図6は、特許文献1に開示された従来の冷媒圧縮機の概略的な断面図である。
図7は、
図6の冷媒圧縮機の一部を矢印Aから見た正面図である。
図8は、
図6の冷媒圧縮機のピストンとその周辺の要部断面図である。
【0004】
図6~8に示すように、この冷媒圧縮機は、例えば、圧縮要素6と電動要素5とが密閉容器1に収納された構成を有する。圧縮要素6は、いずれも上下方向に延びる主軸部9と偏心軸部10とを有し、軸支部18により軸支されたクランクシャフト8と、偏心軸部10に接続されたピストン19と、シリンダ16が形成されたシリンダブロック15とを有する。シリンダ16には、ピストン19が挿入される円筒形の圧縮室17が形成されている。電動要素5は、主軸部9が圧入固定されて永久磁石(図示せず)が内蔵される回転子4と、巻線を有する固定子3とを有する。密閉容器1の下部には、冷凍機油7が貯留されている。
【0005】
クランクシャフト8には、給油構造8aが設けられている。給油構造8aは、一端が冷凍機油7中で開口した状態で主軸部9内を上下方向に傾斜して延びる通路からなる傾斜ポンプ11と、傾斜ポンプ11の他端に接続されて主軸部9の外表面に形成された周回溝からなる粘性ポンプ12と、偏心軸部10に形成された縦孔部13及び横孔部14とを有する。縦孔部13と横孔部14とは、クランクシャフト8の上部において、密閉容器1の内部空間2に向けて開口している。
【0006】
ピストン19は、連結部材20により偏心軸部10と連結されてシリンダ16に往復摺動自在に挿入されている。ピストン19の外周部には、環状の2本の給油溝21が、ピストン19の全周にわたって形成されている。ピストン19が上死点(例えば、ピストン19の偏心軸部10とは反対側の上端面19aと、シリンダブロック15の偏心軸部10とは反対側の一端とが、シリンダ16の径方向に沿って見たときに重なる、
図8の矢印Bの位置)にある場合、給油溝21は、シリンダブロック15の内周面と、シリンダブロック15の径方向から見て重なる。ピストン19が下死点(例えば、ピストン19の上端面19aと、シリンダブロック15の長手方向途中部分とが、シリンダブロック15の径方向に沿って見たときに重なる、
図8の矢印Cの位置)にある場合、給油溝21は、内部空間2と連通する。
【0007】
冷媒圧縮機の駆動時には、外部からの供給電力により電動要素5の回転子4と共にクランクシャフト8が回転する。偏心軸部10の偏心運動が連結部材20を介してピストン19に伝えられることで、ピストン19が圧縮室17内を上死点と下死点との間で往復運動する。ピストン19は、外部の冷却システム(図示せず)から密閉容器1内に供給される冷媒ガスを圧縮室17内で圧縮する。この圧縮動作を繰り返すことで、冷媒は、冷却システムへ向けて冷媒圧縮機から順次送り出される。
【0008】
密閉容器1内の冷凍機油7は、クランクシャフト8の回転による遠心力で傾斜ポンプ11により上方へ汲み上げられ、粘性ポンプ12を介して各摺動部分へ給油される。また冷凍機油7は、縦孔部13及び横孔部14を介して内部空間2に飛散される。
図7及び8に示すように、このとき、特に予め形成された放出路Dに沿って、縦孔部13及び横孔部14から冷凍機油7がピストン19に向けて飛散する。この冷凍機油7がピストン19の周面とシリンダブロック15の偏心軸部10側の端面とに付着することで、表面張力等により油溜7aが形成される。油溜7aは、環状の給油溝21の全周に形成される。給油溝21に溜まった油溜7aの冷凍機油7により、ピストン19とシリンダ16との間に油膜が形成され、当該隙間のシール性(以下、単にシール性とも称する。)が確保されて冷媒の漏れ損失が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
最近では、冷媒圧縮機の更なる高効率化のため、例えば、冷凍機油の低粘度化と共に、インバータ駆動等による冷媒圧縮機の低速運転化が望まれている。しかしながら、これにより油膜が形成され難くなったり、例えば給油溝のエッジが油膜を切断する起点となって油膜が維持されにくくなったりする(以下、これらの問題を単に油膜切れとも称する。)場合がある。油膜切れが生じると、冷媒圧縮機の冷却能力が低下すると共に効率が低下する問題が生じうる。
【0011】
そこで本発明は、低粘度の冷凍機油が用いられて低速運転される場合でも、ピストンとシリンダとの間の油膜切れによるシール性の低下を防止することにより、冷凍能力及び効率の低下を防止できる冷媒圧縮機及びこれを用いた機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る冷媒圧縮機は、冷凍機油が貯留された密閉容器と、前記密閉容器に収容され、外部より供給される電力により駆動される電動要素と、前記密閉容器に収容されて前記冷凍機油に被着され、前記電動要素により駆動されて、外部から供給される冷媒ガスを圧縮する圧縮要素とを備え、前記冷凍機油に、少なくとも運転時に析出しない濃度に調整された油膜切調整剤が溶解状態で含まれている。
【0013】
上記構成によれば、密閉容器に貯留される冷凍機油に油膜切調整剤が溶解状態で含まれているため、圧縮要素の表面に冷凍機油による油膜を維持し易くできる。これにより、低粘度の冷凍機油が用いられて低速運転される場合でも、圧縮要素の例えばピストンとシリンダとの間の摺動隙間等に、油膜を安定して形成し且つ維持できる。
【0014】
また冷凍機油に、少なくとも運転時に析出しない濃度に調整された油膜切調整剤が溶解状態で含まれているので、例えば、油膜切調整剤の析出物により、ピストンとシリンダとの摺動面が傷を生じることがない。よって、油膜切れによりピストンとシリンダとの間のシール性が低下するのを防止できると共に、冷凍能力及び効率の低下を防止できる。
【0015】
本発明の一態様に係る冷凍装置は、前記冷媒圧縮機と、冷媒を放熱させる放熱器と、冷媒を減圧する減圧装置と、冷媒を吸熱する吸熱器とを配管により環状に連結した冷媒回路を備える。
【0016】
上記構成によれば、上記した冷媒圧縮機を備えることで、冷媒圧縮機に低粘度の冷凍機油が用いられて低速運転される場合でも、油膜切れによりピストンとシリンダとの間のシール性が低下するのを防止できると共に冷凍能力及び効率の低下を防止可能な冷凍装置を提供できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低粘度の冷凍機油が用いられて低速運転される場合でも、ピストンとシリンダとの間の油膜切れによるシール性の低下を防止できるため、冷凍能力及び効率の低下を防止できる冷媒圧縮機及びこれを用いた冷凍装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係る往復動式(レシプロ式)の冷媒圧縮機の概略的な断面図である。
【
図2】
図1の冷媒圧縮機のピストンとその周辺の要部断面図である。
【
図3】
図1の冷媒圧縮機に用いられるフラーレンの模式図である。
【
図4】(a)は、実施例と比較例との冷媒圧縮機の成績係数COPの比較図である。(b)は、実施例と比較例との冷媒圧縮機の入力の比較図である。(c)は、実施例と比較例との冷媒圧縮機の冷凍能力の比較図である。
【
図5】第2実施形態に係る冷凍装置の模式図である。
【
図7】
図6の冷媒圧縮機の一部を矢印Aから見た正面図である。
【
図8】
図6の冷媒圧縮機のピストンとその周辺の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して各実施形態を説明する。
(第1実施形態)
[冷媒圧縮機]
図1は、第1実施形態に係る往復動式(レシプロ式)の冷媒圧縮機100の概略的な断面図である。
図1に示す冷媒圧縮機100は、空調装置、又は、冷凍装置等の機器に備えられる。冷媒圧縮機100は、密閉容器101、電動要素105、及び圧縮要素106を備える。
【0020】
密閉容器101内には、冷媒ガスが充填される。冷媒ガスは、一例として、自然冷媒、HFC(ハイドロフルオロカーボン)系冷媒、又は、HFO(ハイドロフルオロオレフィン)系冷媒又はこれを含む混合冷媒である。
【0021】
自然冷媒としては、R600a、R290、R744のうち少なくともいずれか1種、又は2種以上を含む混合冷媒が挙げられる。本実施形態の冷媒は、温暖化係数の低い自然冷媒として代表的な炭化水素系冷媒であるR600aである。HFC系冷媒としては、例えば、R134a、152a、R407c、R404A、R410A、及びR32のうち少なくともいずれか1種、または2種以上を含む混合冷媒があげられる。
【0022】
HFO系冷媒としては、1,1,2トリフルオロエチレン(R1123)、トランス-1,2,ジフルオロエチレン(R1132(E))、シス-1,2ジフルオロエチレン(R1132(Z))、1,1ジフルオロエチレン(R1132a)、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(HFO-1234yf)のうち少なくともいずれか1種、又は2種以上を含む混合冷媒が挙げられる。HFO系冷媒としては、例えばR1234yfが望ましい。HFO系冷媒は、二重結合と2つの炭素原子とを含む分子構造を有する。
【0023】
また密閉容器101には、冷凍機油107が貯留されている。冷凍機油107は、鉱油、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのうち少なくともいずれかを含む。本実施形態の冷凍機油107は、R600aに対して高い相溶性を有するパラフィン系鉱油を基油として含む。また冷凍機油107は、後述するように、少なくとも運転時に析出しない濃度に調整された油膜切調整剤180を溶解状態で含む。
【0024】
また本実施形態の冷凍機油107は、冷媒圧縮機100が例えば空調装置用である場合、第1の粘度特性として、冷凍機油は、40℃における粘度が100mm2/s以下の範囲の値に設定される。
【0025】
また本実施形態の冷凍機油107は、冷媒圧縮機100が例えば冷凍装置用である場合、第2の粘度特性として、40℃における粘度が4.9mm2/s以下の範囲の値に設定される。また同様の場合、冷凍機油107は、第3の粘度特性として、120℃における粘度が10.0mm2/s以下(より好ましくは5.0mm2/s以下)の範囲の値に設定される。冷媒圧縮機100が例えば冷凍装置用である場合、冷凍機油107は、この第2及び第3の粘度特性のうち少なくとも一方を有していてもよい。例えば冷凍機油107は、第2の粘度特性を有さず、且つ、第3の粘度特性を有していてもよい。
【0026】
ここで上記した40℃における粘度は、ISO 3448:1975に準拠するISO粘度分類に記載の動粘度に相当するものであり、冷凍機油107の粘度グレードは当該分類のISO粘度グレード番号(VG表記)で表すことができる。
【0027】
電動要素105は、密閉容器101に収容されて外部からの供給電力により駆動される。電動要素105は、固定子103と回転子104とを有する。回転子104は、巻線を有し、後述するクランクシャフト108に固定される。固定子103は、永久磁石(図示せず)を内蔵し、回転子104の外周を囲むように配置される。電動要素105は、例えば、例えば20r/sec未満の運転周波数を含む複数の運転周波数によりインバータ駆動される。
【0028】
圧縮要素106は、密閉容器101に収容されて冷凍機油107に被着され、電動要素105により駆動されて、外部から供給される冷媒ガスを圧縮する。具体的に圧縮要素106は、クランクシャフト108、シリンダブロック115、連結部材120、及びピストン119を有する。
【0029】
クランクシャフト108は、一例として鋳鉄により構成される。クランクシャフト108は、上下方向に延びるように配置されている。クランクシャフト108は、長手方向に並んで配置された主軸部109と偏心軸部110とを有する。主軸部109と偏心軸部110とは、いずれも上下方向に延びている。主軸部109には、回転子104が圧入固定される。主軸部109は、主軸受118により軸支される。一例として、偏心軸部110は主軸部109の上方に配置されている。偏心軸部110は、主軸部109に対して偏心して配置されている。
【0030】
クランクシャフト108には、給油構造108aが設けられている。給油構造108aは、一端が冷凍機油107中で開口した状態で主軸部109内を上下方向に傾斜して延びる通路からなる傾斜ポンプ111と、傾斜ポンプ111の他端に接続されて主軸部109の外表面に形成された周回溝からなる粘性ポンプ112と、偏心軸部110に形成された縦孔部113及び横孔部114とを有する。縦孔部113と横孔部114とは、クランクシャフト108の上部において、密閉容器101の内部空間102に向けて開口している。
【0031】
シリンダブロック115は、一例として鋳鉄により構成される。シリンダブロック115の内部には、略円筒形のシリンダ116が形成されている。シリンダ116は、水平方向に延び、ピストン119が往復摺動自在に挿入されている。シリンダ116におけるピストン119とシリンダヘッドとの間の内部空間は、圧縮室117となっている。シリンダブロック115は、主軸受118を有する。偏心軸部110とピストン119とは、連結部材(コンロッド)120により連結されている。
【0032】
ピストン119の外周部には、環状の複数本(ここでは2本)の給油溝121が、ピストン119の全周にわたって形成されている。給油溝121は、ピストン119の上死点では、シリンダブロック115の内周面と、シリンダブロック115の径方向から見て重なる。また給油溝121は、ピストン119の下死点では、その少なくとも一部がシリンダブロック115外で内部空間102と連通すると共に、残余の部分が、シリンダブロック115内に位置する。
【0033】
ここで圧縮要素106は、互いに摺動する少なくとも一対の摺動部材を有し、一対の摺動部材のうち少なくとも一方の摺動面が、非鉄系材料により構成されている。この非鉄系材料は、アルミ合金、マグネシウム合金、及び樹脂材料の少なくともいずれかを含む。本実施形態の圧縮要素106は、複数対の摺動部材を有する。この対をなす摺動部材には、ピストン119とシリンダ116、及び、偏心軸部110と連結部材120が含まれる。各摺動部材は、摺動面以外の部分では、摺動面とは異なる材料により構成されていてもよい。
【0034】
冷媒圧縮機100の駆動時には、外部から供給される商用電源等の電力が、外部のインバータ駆動回路(図示せず)を介して、電動要素105に供給される。これにより電動要素105は、複数の運転周波数によりインバータ駆動される。
【0035】
電動要素105の回転子104によりクランクシャフト108が回転させられることで、偏心軸部110が偏心運動する。連結部材120は、シリンダブロック115の圧縮室117内において、ピストン119を上死点と下死点との間で往復運動させる。これにより、冷却システム(図示せず)から密閉容器101内に導かれた冷媒ガスが圧縮室117内へ吸入されて圧縮される。この圧縮動作を繰り返すことにより、冷媒は圧縮され、冷却システムへ向けて冷媒圧縮機100から順次送り出される。
【0036】
一方、密閉容器101内の冷凍機油107は、クランクシャフト108の回転による遠心力で傾斜ポンプ111により上方へ汲み上げられ、粘性ポンプ112を介して各摺動部分へ給油される。これにより、各摺動部分が冷凍機油107により潤滑される。また冷凍機油107は、縦孔部113及び横孔部114を介して内部空間102に飛散される。
【0037】
図2に示すように、このとき特に、予め形成された放出路M,Nに沿って、縦孔部113及び横孔部114から冷凍機油107が内部空間102に飛散する。これにより飛散した冷凍機油107は、ピストン119の周面とシリンダブロック115の偏心軸部110側の端面とに付着し、表面張力等により油溜107aが形成される。
【0038】
油溜107aは、毛細管現象によって、環状の給油溝121をその全周で満たすように形成される。この環状の給油溝121に溜まった油溜107aの冷凍機油107により油膜が形成され、ピストン119とシリンダ116との間のシール性が維持され、冷媒の漏れ損失が低減される。
【0039】
ここで冷媒圧縮機100では、密閉容器101に貯留される冷凍機油107に油膜切調整剤180が溶解状態で含まれているため、圧縮要素106の摺動部分の表面等に冷凍機油107による油膜を維持し易くできる。これにより、低粘度の冷凍機油107が用いられて低速運転される場合でも、圧縮要素106の例えばピストン119とシリンダ116との間の摺動隙間等に、油膜を安定して形成し且つ維持できる。
【0040】
また冷凍機油107に、少なくとも運転時に析出しない濃度に調整された油膜切調整剤180が溶解状態で含まれているので、例えば、油膜切調整剤180の析出物により、ピストン119とシリンダ116との摺動面が傷を生じることがない。よって、油膜切れによりピストン119とシリンダ116との間のシール性が低下するのを防止できると共に、冷凍能力及び効率の低下を防止できる。
【0041】
即ち、電動要素105と電動要素105を駆動し冷媒を圧縮する圧縮要素106とを収容すると共に、油膜切調整剤180を添加した冷凍機油107を用いて冷媒圧縮機100を構成することで、ピストン119とシリンダ116との間の油膜切れを防止してシール性を維持できる。これにより、圧縮室117からの冷媒の漏れ損失を低減できるので、高効率な冷媒圧縮機100を実現できる。以下、油膜切調整剤180の詳細について説明する。
【0042】
[油膜切調整剤]
油膜切調整剤180は、圧縮要素106の摺動部分の表面等に冷凍機油107の油膜を形成し易くすると共に、油膜切れを防止することにより油膜を維持する。油膜切調整剤180は、冷凍機油107に溶解しており、通常の冷媒圧縮機100の運転条件では析出することがない。これにより、油膜切調整剤180の析出物により、圧縮要素106の摺動部分の表面等が擦られて傷を生じるのが回避されている。
【0043】
油膜切調整剤180は、有機溶媒に可溶である。油膜切調整剤180は、一例として、フラーレン181を含む。ここでは、油膜切調整剤180はフラーレン181のみにより構成されている。
【0044】
図3は、
図1の冷媒圧縮機100に用いられるフラーレン181の模式図である。フラーレン181は、複数の炭素原子が球状のネットワーク構造をなすように結合されて構成されている。フラーレン181は、ダイヤモンド及びグラファイトに続く第三の炭素同素体であって、単一のクラスター(分子)を分離できる。
【0045】
フラーレン181は、その構造特性により、炭素同素体であるにも関わらずベンゼンやトルエン等の有機溶剤に可溶である。これによりフラーレン181は、冷凍機油107に良好に溶解する。また、油膜切調整剤180がフラーレン181を含むことで、冷凍機油107の伸びが改善され、冷凍機油107が低粘度化しても油膜切れを防止することにより油膜を維持し易くなることが分かっている。また後述するように、冷凍機油107に添加されるフラーレン181の添加量の上限が制限されることで、冷凍機油107中でのフラーレン181の析出が防止される。
【0046】
フラーレン181の単一クラスターは、一例として、平均粒径が100pm以上10nm以下の範囲の値(ここでは約1nm)に設定されている。フラーレン181は、断面形状が略円形の微細粒子である。なお、本書で言う平均粒径は、動的光散乱法を用いて、ブラウン運動中の粒子の散乱光を検出して拡散係数を求め、アインシュタイン・ストークス式により導き出した値を指す。
【0047】
本実施形態のフラーレン181は、C60、C70及び高次フラーレンの混合物であるミックスフラーレンである。
図3は、C60の構造を示している。
図3に示すように、C60のクラスターは、60個の炭素原子181aが、12個の5員環181bと20個の6員環181cとからなる切頭正二十面体をなすように結合されることで構成されている。C60は、特に高い分子ベアリング効果を有すると考えられる。C70は、70個の炭素原子181aからなり、C60と同様に分子ベアリング効果を有すると考えられる。
【0048】
なお、ミックスフラーレンは、上記以外のフラーレンを含んでいてもよい。フラーレン181の単一クラスターが含む炭素原子数は、60個未満であってもよい。また油膜切調整剤180は、単一クラスターが含む炭素原子数が異なる複数種のフラーレン181や、平均粒径が異なる複数種類のフラーレン181等を含んでいてもよい。また油膜切調整剤180は、一種類のみのフラーレン181を含んでいてもよい。
【0049】
フラーレン181の製造方法としては、公知の方法を適宜選択可能である。一例として、炭化水素原料を所定の燃焼プロセスで合成することにより、フラーレン181を含むスート(煤)が得られる。このスートを有機溶媒で濾過することにより、C60とC70と高次フラーレンとを含んだフラーレン181(ミックスフラーレンとも称する。)が溶解した溶液を残渣から分離できる。この溶液を精製することで、ミックスフラーレンが得られ、又は各種フラーレンが単離される。
【0050】
[確認試験1]
パラフィン系鉱油に対するフラーレン181の溶解性を確認するための確認試験を以下の手順で行った。室温(25℃)において、直径が100pm以上10nm以下の範囲の値に設定されたC60、C70、及び高次フラーレン(C76、C82等)からなるミックスフラーレンをフラーレン181として用意した。油膜切調整剤180を、このフラーレン181のみから構成した。フラーレン181をパラフィン系鉱油に適量添加し、十分に攪拌することにより、複数の冷凍機油107のサンプルを作製した。その後、各サンプルを一定時間放置して、フラーレン181の沈殿及び析出の有無を確認した。
【0051】
その結果、冷凍機油107が、フラーレン181を0.5重量%以下の範囲で含む場合、各サンプルのいずれでもフラーレン181の沈殿及び析出は確認されなかった。一方、冷凍機油107が、フラーレン181を0.5重量%を超える範囲で含む場合、フラーレン181の沈殿及び析出が発生することが確認された。これにより、今回の試験に供したパラフィン系鉱油は、所定の範囲内でフラーレン181を溶解可能であることが確認された。
【0052】
次に、冷媒圧縮機100内の冷媒-冷凍機油共存雰囲気下において想定される温度-圧力範囲を考慮した条件にて、上記と同様の試験を行った。その結果、冷凍機油107が、フラーレン181を0.05重量%を超える範囲で含むと、フラーレン181の沈殿及び析出が発生することが確認された。
【0053】
以上の試験結果から、パラフィン系鉱油に対するフラーレン181の飽和溶解量は、室温(25℃)では、冷凍機油107がフラーレン181を0.5重量%含む場合の値であることが分かった。この飽和溶解量は、言い換えると、添加された全てのフラーレン181がパラフィン系鉱油中に分散して均一系を形成する溶解現象が成立するフラーレン181の最大添加量である。
【0054】
更に、冷媒圧縮機100内の冷媒-冷凍機油共存雰囲気下において想定される温度-圧力範囲を考慮すると、冷凍機油107がフラーレン181を0.05重量%以下の範囲で含むことが望ましいことが分かった。
【0055】
また別の試験結果から、室温(25℃)では、冷凍機油107がフラーレン181を0.0001重量%未満の範囲で含む場合、フラーレン181を添加した効果が相当に低くなることが分かった。
【0056】
冷媒圧縮機100に用いられる冷媒及び冷凍機油107の油成分の種類や状態、冷媒圧縮機100の使用温度や内圧値等に応じて、冷凍機油107中のフラーレン181の量を適宜設定することが望ましい。一例として、冷凍機油107がフラーレン181を0.0001重量%以上0.5重量%以下の範囲で含むことが望ましく、0.001重量%以上0.05重量%以下の範囲で含むことが更に望ましい。
【0057】
そこで次に、仕様の異なる各種冷凍機油を封入した実施例及び比較例1,2の冷媒圧縮機の性能評価試験を行った。
図4(a)は、実施例と比較例1,2との冷媒圧縮機の成績係数(COP:Coefficient of Performance)の比較図である。成績係数とは、冷凍冷蔵機器等のエネルギー消費効率の目安(指標)として使われる係数であり、冷凍能力(W)を印加入力(W)で除した値である。
図4(b)は、実施例と比較例1,2との冷媒圧縮機の入力の比較図である。
図4(c)は、実施例と比較例1,2との冷媒圧縮機の冷凍能力の比較図である。
図4では、比較例1の評価結果を100とした場合の相対比率により、実施例及び比較例1,2の評価結果を示している。
【0058】
近年の冷媒圧縮機100においては高効率化を図るため、従来よりも低粘度(具体的には40℃における粘度が4.9mm2/s以下)の冷凍機油の検討が進められている。そこで実施例では、40℃における粘度が3.0mm2/sのパラフィン系鉱油に油膜切調整剤180としてフラーレン181を溶解させ、冷凍機油107がフラーレン181を0.001重量%含むように作製した冷凍機油107を用いた。
【0059】
比較例1では、40℃における粘度が4.9mm2/sであるパラフィン系鉱油のみからなる冷凍機油を用いた。比較例2では、40℃における粘度が比較例1よりも低粘度な3.0mm2/sのパラフィン系鉱油のみからなる冷凍機油を用いた。即ち、比較例1,2の冷凍機油には、フラーレン181を添加しなかった。
【0060】
図4(a)~(b)に示されるように、実施例は、比較例1,2に比べて成績係数が高いことが分かった。また実施例は、比較例1,2に比べて入力が低減されることが分かった。また実施例は、比較例2よりも高く且つ比較例1と同等の冷凍能力を有することが分かった。
【0061】
一方、比較例2は、比較例1に比べて成績係数が低く、且つ、比較例1に比べて冷凍能力が著しく低いことが分かった。比較例2は、比較例1に比べて冷凍機油の粘度が低く、圧縮要素における摺動面等の流体潤滑領域の摩擦損失を低減できるため、入力は比較的大きく低減できるが、油膜の形成や維持が困難であることから著しい冷凍能力の低下を招いたものと考えられる。
【0062】
具体的に、冷媒圧縮機では、通常、ピストン119に形成された環状の給油溝121が毛細管現象により冷凍機油107の油膜を保持することで、ピストン119とシリンダ116との間のシール性が発揮され、当該隙間からの冷媒ガスの漏れが抑制される。
【0063】
ここで、冷凍機油を低粘度化(具体的には粘度が4.9mm2/s以下まで低粘度化)すると、冷凍機油に含まれる油成分は、例えば低分子化により分子運動が大きくなり、温度条件が同じでも揮発し易くなる。また、冷凍機油が低粘度化されることで、圧縮要素等の摺動面への冷凍機油の吸着力が低下するおそれがある。
【0064】
これにより比較例2では、シール性が低下し、ピストン119の往復運動時における冷媒の吸入・圧縮過程において、ピストン119とシリンダ116との間から冷媒が漏れ易くなり、冷凍能力の顕著な低下が生じたものと考えられる。
【0065】
これに対して実施例では、40℃における粘度が3.0mm2/sである低粘度の冷凍機油107を使用したにも関わらず冷凍能力の低下が抑制された。この結果により、冷凍機油107に溶解させた油膜切調整剤180によって、低粘度な冷凍機油107においても良好なシール性を安定して維持できることが明らかになった。
【0066】
なお、油膜切調整剤180に含まれるフラーレン181が効果を発揮する理由の詳細については明確に解明されていないが、フラーレンが構造対称性に起因する高い電子受容性に由来するラジカルトラップ効果を有することが提唱されている。このため、フラーレン181を含む冷凍機油107では、例えば、フラーレン181が油成分の分子間引力に作用して当該油成分の分子運動が不活発化し、油成分の揮発が抑制されることが考えられる。
【0067】
また本確認試験1では、冷凍機油107として40℃における粘度が3.0mm2/sのパラフィン系鉱油を用いたが、40℃における粘度が2.2mm2/sのパラフィン系鉱油を用いても、同様の効果が得られることが確認されている。この確認結果から、冷凍機油107の40℃における粘度は少なくとも2.2mm2/s以上が望ましいと考えられる。
【0068】
[確認試験2]
次に、冷媒圧縮機の実機を用いた耐久性試験を行った。本試験では、摺動面がアルミ合金からなる連結部材120と、摺動面が鉄系材料からなる偏心軸部110とを有する冷媒圧縮機を用いた。フラーレン181を50ppm濃度で含む油膜切調整剤180の実施例1と、フラーレン181を100ppm濃度で含む油膜切調整剤180の実施例2とを用意した。また、フラーレンを含まない油膜切調整剤の比較例を用意した。また、実施例1,2及び比較例では、冷凍機油として、40℃における粘度が2.2mm2/sのパラフィン系鉱油を用いた。
【0069】
上記油膜切調整剤を含む冷凍機油を封入した各冷媒圧縮機を、短時間で運転と停止とを繰り返しながら運転する所定の高温高負荷断続運転モードで同様に運転した。これにより、偏心軸部110と連結部材120との各摺動面の摩耗を加速させた。試験後、冷媒圧縮機を解体して、連結部材120の摩耗を確認した。
【0070】
その結果、比較例の連結部材120の摩耗量を100とすると、実施例1及び2の連結部材120の摩耗量は、46.1以上72.4以下の範囲の値であった。このように摺動面がアルミ合金からなる連結部材120を用いたにも関わらず、実施例1及び2では、比較例に比べて連結部材120の摩耗量が大幅に低減されることが確認された。この結果から、本実施形態の冷媒圧縮機100によれば、摺動部材の摺動面にアルミ合金又はこれ以外の非鉄系材料を用いた場合でも、摺動部材の摩耗量を適切に低減できると考えられる。
【0071】
ここで近年、冷媒圧縮機では、高効率化のために冷凍機油として低粘度油が用いられているが、これにより冷媒圧縮機の圧縮要素が有する摺動部材の摺動面の摩耗が増大するおそれがある。このため、例えばリン系等の極圧添加剤を用いることにより、当該摩耗の抑制が図られている。しかしながら、このような添加剤を用いても、一対の摺動部材の少なくとも一方の摺動面が非鉄系材料により構成される場合、十分な摩耗抑制効果を得ることは困難である。
【0072】
これに対して本実施形態の冷媒圧縮機100によれば、低粘度の冷凍機油107を用いた場合であっても、上記したように、一対の摺動部材の摺動面の摩耗量を適切に低減でき、冷媒圧縮機100を高効率で駆動できる。また実施例1,2の結果から、このような良好な効果を得るためには、冷凍機油107の40℃における粘度は少なくとも2.2mm2/s以上が望ましいことが分かった。
【0073】
なお、発明者らが行った別の実験により、冷媒圧縮機の圧縮要素が有する一対の摺動部材のうち、一方の摺動面が、非鉄系材料により構成され、他方の摺動面が、鉄系材料により構成されている場合でも、上記と同様の良好な効果が奏されることが確認された。また、冷媒圧縮機の圧縮要素が有する一対の摺動部材のうち、一対の摺動部材の各摺動面が、鉄系材料により構成されている場合、摺動面を非鉄系材料により構成した場合に比べて摺動面の摩耗量は比較的少なく、冷媒圧縮機100を高効率で駆動できることが確認された。
【0074】
以上の各試験結果から、本実施形態の冷媒圧縮機100によれば、低粘度な冷凍機油107を用いる場合であっても、ピストン119とシリンダ116との間のシール性能を維持し、圧縮室117での冷媒の漏れ損失を低減できる。また、冷媒圧縮機100の圧縮要素106が有する摺動部材の摩耗を低減し、冷媒圧縮機100を安定して駆動できる。よって、冷媒圧縮機100の高い性能を実現できる。
【0075】
また、油膜切調整剤180がフラーレン181を含むことにより、ピストン119とシリンダ116との間の油膜の形成を促進できる。これにより、ピストン119とシリンダ116との間のシール性が油膜の消失により低下するのを防止でき、圧縮室117からの冷媒の漏れ損失を低減できる。よって、冷媒圧縮機100の高い性能を実現できる。
【0076】
また前述の通り、フラーレン181は、構造対称性に起因した高い電子受容性を有し、例えばC60の場合、1個のクラスターで6個の電子を捕捉可能である。従ってフラーレン181には、冷凍機油107や冷媒の酸化の要因であるラジカルを除去し、冷凍機油107及び冷媒の劣化を抑制する効果を期待できる。またフラーレン181は、化学反応により消費されることがない。これにより、長期にわたって冷媒圧縮機100の信頼性を確保できる。
【0077】
従って、例えば冷媒圧縮機100が、室内等に配置される据置型の冷凍装置に備えられる場合、数年間にわたって振動や騒音の発生を抑制しながら冷凍装置を安定して駆動できる。また据置型の冷凍装置の使用環境としては、例えば、長期にわたって冷凍装置がメンテナンスされないまま連続的に駆動される環境が想定される。このような場合でも、冷凍機油107に含まれるフラーレン181は消失しないため、安定して冷凍装置を駆動できる。このように冷媒圧縮機100は、特に据置型の冷凍装置において良好に用いられる。
【0078】
なお、フラーレン181の形状は円球形、又は楕円球形であることから、冷凍機油107に含まれるフラーレン181は、対向する摺動面が相対移動する際に転がることで、転がり摩擦による分子ベアリング効果が発揮される。これにより、摺動部分の摩擦係数が低減され、入力低減を良好に実現できる。よって、例えば冷媒圧縮機100の起動時のトルクを低減でき、冷媒圧縮機100の起動性を大幅に向上できる。
【0079】
更に、冷凍機油107にフラーレン181が均一に分散して溶解しているため、冷媒圧縮機100が運転状態から停止状態に移行した場合でも、冷凍機油107中にフラーレン181が均一に分散した状態が維持される。これにより、冷媒圧縮機100を再起動させた場合、圧縮要素106の摺動部分の表面等における金属接触を緩和でき、長期にわたり冷媒圧縮機100の良好な耐久性を維持できる。
【0080】
また油膜切調整剤180は、極性を有する有機化合物を含むため、ピストン119とシリンダ116との間の油膜の形成を促進できる。よって、低速回転時並びに低粘度の冷凍機油107の使用時におけるピストン119とシリンダ116との間のシール性が、油膜の消失により低下するのを防止できる。従って、圧縮室117からの冷媒の漏れ損失をより低減でき、冷媒圧縮機100の更なる高性能化を実現できる。
【0081】
また、冷媒圧縮機100に用いられる冷凍機油107は、油膜切調整剤180を0.0001重量%以上0.5重量%以下の範囲で含む。これにより、例えば冷媒圧縮機100を冷凍装置用途に使用した場合において、油膜形成を促進できる。また、油膜切調整剤180を過剰に添加することで油膜切調整剤180が析出するのを防止して、圧縮要素106中に存在する細管の詰まりや摺動面の傷の発生を防止できる。
【0082】
また、冷媒圧縮機100に用いられる冷凍機油107は、40℃における粘度が100mm2/s以下の範囲の値に設定される。これにより、例えば冷媒圧縮機100を空調装置用途に使用した場合、空調装置の設置環境下において比較的高温状態で冷媒圧縮機100が駆動されても、冷媒の漏れ損失を低減しながら冷媒圧縮機100の粘性損失を低減でき、冷媒圧縮機100の入力低減を図れる。
【0083】
また、冷媒圧縮機100に用いられる冷凍機油107は、40℃における粘度が4.9mm2/s以下の範囲の値に設定される。これにより、例えば冷媒圧縮機100を冷凍装置用途に使用した場合において、冷媒の漏れ損失を低減しながら冷媒圧縮機100の粘性損失を低減でき、冷媒圧縮機100の入力低減を図れる。
【0084】
また、冷媒圧縮機100に用いられる冷凍機油107は、120℃における粘度が10.0mm2/s以下の範囲の値に設定される。これにより、例えば冷媒圧縮機100を冷凍装置用途に使用した場合において、冷凍装置の設置環境下において比較的高温状態で冷媒圧縮機100が駆動される場合でも、冷媒の漏れ損失を低減しながら冷媒圧縮機100の粘性損失を低減でき、冷媒圧縮機100の入力低減を図れる。
【0085】
また本実施形態では、40℃から120℃に至る温度範囲内において冷凍機油107の粘度が低く保たれるため、幅広い温度範囲において冷媒圧縮機100の粘性損失を安定して低減できる。このため、例えば、高温状態になり易い環境での用途や、環境の温度変化が激しい用途においても、冷媒の漏れ損失を低減しながら冷媒圧縮機100の入力低減を図れる。
【0086】
また冷媒として、R600a、R290、R744のうち少なくともいずれか1種、または2種以上を含む混合冷媒である自然冷媒を用い、冷凍機油107として、鉱油、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのうち少なくともいずれかを用いても、本実施形態と同様の効果が得られると共に、温室効果の少ない冷媒を使用することで、地球温暖化の抑制に貢献できる。
【0087】
また冷媒として、R134a、152a、R407c、R404A、R410A、及びR32のうち少なくともいずれか1種、または2種以上を含む混合冷媒であるHFC系冷媒を用い、冷凍機油107として、鉱油、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのうち少なくともいずれかを用いても、上記と同様の効果が奏され、高信頼性を有し高効率化を図れる冷媒圧縮機100を実現できる。
【0088】
また冷媒として、R1234yf等のHFO系冷媒、又はこれを含む混合冷媒を用い、冷凍機油107として、鉱油、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのうち少なくともいずれかを用いても、上記と同様の効果が奏される。
【0089】
更にこの場合、冷凍機油107にフラーレン181が含まれると、摺動熱等により冷媒が分解した際に生じる酸性物質(例えばフッ酸等)をフラーレン181がトラップして不活性化できる。これにより、冷凍機油107の油成分における全酸価の上昇を低減できると共に、圧縮要素106の摺動部分の表面等が酸性物質により攻撃されるのを低減できる。従って、高信頼性を有し高効率化を図れる冷媒圧縮機100を実現できる。また、可燃性を有さず且つ温室効果の少ない冷媒を使用することで、地球温暖化の抑制に貢献できる。
【0090】
また電動要素105が、複数の運転周波数によりインバータ駆動されることで、各摺動部分への給油量が少なくなる低速運転時や、回転数が増加して摺動部分に掛かる荷重が増加すると共に、摺動部分の発熱により冷凍機油の粘度が低下するような過酷な高速運転時のいずれにおいても、異常摩耗を防止して高い信頼性を維持できる。加えて、インバータ制御により冷媒圧縮機100の運転を最適化することで、省エネルギー化を実現できる。
【0091】
本実施形態の冷凍機油107は、パラフィン系鉱油を含んでいるが、その他の鉱油や、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコールのうち少なくともいずれかを含んでいる場合にも、フラーレン181は良好に溶解する。例えば、カルボニル基(C=O基)又はエーテル基(R-O-R´基)(但し、R,R´は有機基とする。)を有する化合物を含む溶媒に対してフラーレン181は可溶であり、また、エステル油を含む冷凍機油107に対するフラーレン181の飽和溶解量が、パラフィン系鉱油と同様であることが、実験的に確認されている。
【0092】
また本実施形態では、フラーレン181を含む油膜切調整剤180を例示したが、油膜切調整剤180は、フラーレン181のみで構成されていてもよいし、フラーレン181以外の成分を含んでいてもよい。
【0093】
ここで変形例に係る油膜切調整剤180は、極性を有する有機化合物を含む。この成分としては、この有機化合物には、例えば、極性を有する有機高分子が挙げられる。具体的には、例えば、ポリメタクリレート(PMA)系材料、オレフィンコポリマー(OCP)系材料、ポリイソブチレン(PIB)系材料の材料を挙げることができる。以上の変形例に係る油膜切調整剤180を用いた場合にも、上記と同様の効果を期待できる。
【0094】
また本実施形態では、冷媒圧縮機100が低速運転(一例として運転周波数17Hz)される場合に性能が低下するのを防止できる効果を説明したが、商用回転数での速度における運転時や、より大きな回転数による高速運転時においても、同様の効果が得られる。
【0095】
即ち、本実施形態の冷媒圧縮機100は、複数の運転周波数でインバータ駆動されるため、低速運転時においては、各摺動部分への給油量が少なくなるが、油膜切調整剤180の作用により高い性能を維持できる。また高速回転時においては、摺動部分に掛かる荷重が増加すると共に、摺動部分の発熱により冷凍機油の粘度が低下するが、油膜切調整剤180の作用により異常摩耗を防止して高い信頼性を維持できる。加えて、インバータ制御により冷媒圧縮機171の運転を最適化することで、省エネルギー化を実現できる。
【0096】
また、冷媒圧縮機の形式は往復動式(レシプロ式)に限定されず、その他の形式、例えば、ロータリ式やスクロール式等であってもよい。以下、その他の実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0097】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る冷凍装置270の模式図である。以下、冷凍装置270の基本構成の概略を説明する。
図5に示すように、冷凍装置270は、冷媒圧縮機100を用いた機器の一例である。冷凍装置270は、冷蔵庫が備えていてもよい。冷凍装置270は、本体275、区画壁278、及び冷媒回路271を備える。
【0098】
本体275は、内部に連通する開口が形成された断熱性の箱体と、箱体の開口を開閉する扉とを有する。また本体275は、物品が貯蔵される貯蔵空間276と、貯蔵空間276内を冷却する冷媒回路271が配置される機械室277とを有する。貯蔵空間276と機械室277とは、区画壁278により区画されている。貯蔵空間276には、送風機(図示せず)が配置されている。
図5では、箱体の一部を切り欠いて本体275の内部を示している。
【0099】
冷媒回路271は、冷媒圧縮機100、放熱器272、減圧装置273、及び吸熱器274を有する。冷媒圧縮機100、放熱器272、減圧装置273、及び吸熱器274は、配管により環状に接続されている。
【0100】
放熱器272は、冷媒を放熱させる。減圧装置273は、冷媒を減圧する。吸熱器274は、冷媒を吸熱する。吸熱器274は、貯蔵空間276内に配置されて冷却熱を発生させる。
図5中の矢印で示すように、吸熱器274の冷却熱は、送風機によって貯蔵空間276内を循環する。これにより、貯蔵空間276内の空気が撹拌され、貯蔵空間276内が冷却される。
【0101】
以上の構成を有する冷凍装置270によれば、上記した冷媒圧縮機100を備えることで、低粘度の冷凍機油107を用いて低速運転される場合でも、油膜切れによりピストン119とシリンダ116との間のシール性が低下するのを防止できると共に冷凍能力及び効率の低下を防止できる。
【0102】
即ち、冷凍装置270は、冷媒圧縮機100、放熱器272、減圧装置273、及び吸熱器274が配管により環状に接続された冷媒回路271を備えているため、体積効率が向上された冷媒圧縮機100により消費電力を低減できると共に省エネルギー化を実現できる。
【0103】
本発明は、各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を変更、追加、又は削除できる。各実施形態は、互いに任意に組み合わせてもよく、例えば1つの実施形態中の一部の構成を、他の実施形態に適用してもよい。また本発明の範囲は、特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。冷媒圧縮機100を用いた機器は、空調装置又は冷凍装置に限定されず、例えば乾燥洗濯機又は給湯機であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上のように本発明は、低粘度の冷凍機油が用いられて低速運転される場合でも、ピストンとシリンダとの間の油膜切れによるシール性の低下を防止することにより、冷凍能力及び効率の低下を防止可能な冷媒圧縮機及びこれを用いた冷凍装置を提供できる優れた効果を有する。従って、この効果の意義を発揮できる冷媒圧縮機及びこれを用いた冷凍装置に本発明を広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0105】
100 冷媒圧縮機
105 電動要素
106 圧縮要素
107 冷凍機油
180 油膜切調整剤
181 フラーレン
270 冷凍装置
271 冷媒回路
272 放熱器
273 減圧装置
274 吸熱器