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特許7348249VEGF-GRABタンパク質と薬物の結合体及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】VEGF-GRABタンパク質と薬物の結合体及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230912BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230912BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230912BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230912BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230912BHJP
   C07K 14/71 20060101ALI20230912BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230912BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230912BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230912BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230912BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230912BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230912BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230912BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230912BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230912BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230912BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230912BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230912BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230912BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230912BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230912BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/63 Z
C07K19/00
C07K14/71 ZNA
C07K16/00
C07K16/28
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
A61K38/17
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
A61P9/00
A61P27/02
A61P9/10
A61P27/06
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021168113
(22)【出願日】2021-10-13
(62)【分割の表示】P 2020500132の分割
【原出願日】2018-07-02
(65)【公開番号】P2022028654
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】10-2017-0083747
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514291196
【氏名又は名称】コリア アドバンスト インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】キム ホミン
(72)【発明者】
【氏名】イ テヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム ドクギ
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0213769(US,A1)
【文献】国際公開第2015/140638(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/148557(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/034032(WO,A1)
【文献】特表2016-512508(JP,A)
【文献】特表2016-530319(JP,A)
【文献】国際公開第2017/001990(WO,A1)
【文献】Mol. Cancer Ther.,2015年,Vol.14, No.2,pp.470-479
【文献】Cell Cycle,2008年,Vol.7, No.23,pp.3747-3758
【文献】J. Chin. Med. Assoc.,2010年,Vol.73, No.9,pp.449-456
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
VEGFR1(血管内皮細胞増殖因子受容体1)ドメイン2、VEGFR1ドメイン3及び抗体のFc領域を含む、融合タンパク質と薬物の結合体であって、前記薬物が前記融合タンパク質のN-末端に融合されている、前記結合体。
【請求項2】
前記薬物は、抗癌剤又は血管新生関連疾患治療剤である、請求項1に記載の結合体。
【請求項3】
前記薬物は、EGFR(上皮成長因子受容体)又はHER2(ヒト上皮成長因子受容体タイプ2)に結合可能な抗体である、請求項1に記載の結合体。
【請求項4】
前記薬物は、セツキシマブ(cetuximab)又はトラスツズマブ(trastuzumab)である、請求項1に記載の結合体。
【請求項5】
前記薬物は、抗原認識部分である、scFv、dsFv、Fab、Fab’、F(ab’)2及びナノボディー(nanobody)からなる群から選ばれる形態を有する抗体である、請求項1に記載の結合体。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の結合体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項8】
請求項に記載の発現ベクターを含む形質転換体。
【請求項9】
請求項に記載の形質転換体を培養する段階を含む結合体の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の結合体を含む癌又は血管新生関連疾患の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項11】
前記癌は、肝癌、肺癌、膵癌、非小細胞肺癌、結腸癌、骨肉腫、皮膚癌、頭部又は頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直膓癌、胃癌、肛門周囲癌、結腸癌、乳癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病(Hodgkin’s disease)、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性又は急性白血病、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓又は尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS;central nervous system)腫瘍、1次中枢神経系リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経グリオーマ又は下垂体腺腫である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記血管新生関連疾患は、加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性、脈絡膜血管新生、病的近視、糖尿性網膜症、黄斑浮腫、網膜静脈閉塞、未熟児網膜症又は新生血管緑内障である、請求項10に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VEGF-Grabタンパク質と薬物の結合体及びその用途に関し、具体的に、VEGFR1ドメイン2、VEGFR1ドメイン3及び抗体断片が連結された融合タンパク質と薬物との結合体、該結合体を含む癌又は血管新生関連疾患の予防又は治療用医薬組成物、及び癌又は血管新生関連疾患の予防又は治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌細胞が増殖、成長するためには酸素及び栄養を供給する新しい血管が必要であり、新しい血管形成には血管内皮細胞成長因子(VEGF;vascular endothelial growth factor)が中枢的な役割を担うことが知られている。VEGFは、2つのサブユニットで構成された約46KDaの二量体であり、哺乳動物では現在5種類のVEGF(VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D及びPlGF)が突き止められている。前記VEGFは、VEGF受容体(VEGFR)-1、-2、-3と知られた3個の受容体チロシンリン酸化酵素(RTK)に結合し、このようなVEGF受容体は細胞の移動、生存、増殖などを誘発し、他のRTKなどにはない3次元の血管を形成できる信号を伝達するか、或いは血管透過性を調節する機能を有する。
【0003】
VEGF分子の発現は腫瘍細胞で増加し、VEGFの受容体は腫瘍浸潤血管内皮細胞で増加するが、血管新生に関連していない正常細胞ではVEGF及びVEGF受容体の両方とも低く発現するということが明らかになって以来、VEGFは癌治療のターゲットとして用いられている。
【0004】
これによって、癌細胞自体よりは癌細胞に栄養を供給する血管の生成を遮断する新しい抗癌治療法が開発されており、抗-VEGF受容体抗体、可溶性受容体構造体、アンチセンス、VEGFに対するRNAアプタマー及び低分子量VEGF受容体チロシンキナーゼ(RTK)抑制剤などがVEGF信号伝達妨害に利用可能であることが報告された。実際に、抗-VEGF中和抗体はヌードマウスにおいて様々なヒト腫瘍細胞株の成長を抑制することが証明された(Warren et al.J.Clin.Invest.95:1789-1797(1995))。なお、VEGF抑制剤に関する特許文献に、VEGF抑制剤としてのキナゾリン誘導体(米国登録特許9040548)、血管形成媒介細胞増殖性疾病を治療するか、或いは固形腫瘍成長を抑制するためのVEGF受容体及びHGF受容体信号伝達抑制剤(米国登録特許8470850)、VEGFとその受容体との結合を阻害して癌などの疾病の治療に用いられる新血管形成を抑制する物質(韓国公開特許2003-0075947)などの様々なVEGF抑制剤が開示されたことがある。
【0005】
しかしながら、前記従来の血管新生抑制剤は、癌細胞増殖に必要な血管新生を抑制し、癌治療に有用であるという利点はあったが、腫瘍細胞に対する標的機能がないため、癌細胞特異的な抗癌効能を示すことができない他、正常の血管に有害効果も起こした。VEGFに対するヒト化抗体として商品化されたベバシズマブ(Bevacizumab、商品名:アバスチン(AvastinTM))の場合、ジェネンテック(Genentech)社が行った臨床第3相試験において、副作用として腸内過剰出血、喀血、脳出血、鼻出血、せきをする時に吐血などが観察され、その他にも頭痛、血圧上昇、鼻浮腫、蛋白尿、皮膚乾燥、涙過剰、腰痛、皮膚浮腫などが観察されることが報告されたことがある。このような副作用は、従来の血管新生抑制剤に腫瘍細胞に対する標的機能がないことに起因するものと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような背景の下に、本発明者らは癌細胞に対する選択的なターゲッティングによって癌細胞に効果的に伝達される血管新生抑制剤を開発しようと鋭意努力研究した結果、本発明の融合タンパク質と薬物の結合体が癌細胞の血管新生を効率的及び選択的に抑制し、癌の成長を抑制すると同時に抗癌剤による副作用を最小化できることを確認し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一目的は、VEGFR1ドメイン2、VEGFR1ドメイン3及び抗体断片が連結された融合タンパク質と薬物との結合体を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、前記結合体を含む癌又は血管新生関連疾患の予防又は治療用医薬組成物を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、前記結合体を個体に投与する段階を含む、癌又は血管新生関連疾患の予防又は治療方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、前記結合体をコードするポリヌクレオチドを提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、前記発現ベクターを含む形質転換体を提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、前記形質転換体を培養する段階を含む結合体の製造方法を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、VEGFR1ドメイン2、VEGFR1ドメイン3及び抗体断片が連結された融合タンパク質と薬物の結合体の癌又は血管新生関連疾患予防又は治療用途を提供することである。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、VEGFR1ドメイン2、VEGFR1ドメイン3及び抗体断片が連結された融合タンパク質と薬物の結合体の癌又は血管新生関連疾患予防又は治療用医薬品製造用途を提供することである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のVEGF-Grabタンパク質及び薬物を含む結合体は、多重-パラトープVEGFデコイ受容体であり、癌又は血管新生関連疾患治療のための多目的性プラットホームとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】Cet-Grab及びTras-Grabの構造及びSDS-PAGE分析結果を示す図である。
図2】Cet-Grab及びTras-Grabの結合親和力を示す図である。
図3】Cet-Grab及びTras-GrabのVEGF信号伝達経路抑制による血管内皮細胞の移動及びチューブ形成抑制効果を示す図である。
図4】Cet-Grab及びTras-GrabのEGFR経路-媒介細胞増殖信号伝達の遮断による癌細胞死滅誘導効果を示す図である。
図5】Cet-Grab及びTras-Grabのコロニー形成分析結果を示す図である。
図6】異種移植マウスモデルにおいてCet-Grab及びTras-Grabの腫瘍特異的標的化結果を示す図である。
図7】EGFR+A431異種移植マウスモデルにおけるCet-Grab処理計画及びCet-Grabの腫瘍成長抑制効果を示す図である。
図8】Cet-GrabのEGFR信号伝達抑制効果を示す図である。
図9】Cet-Grabの血管形成抑制効果及びVEGFA及びPlGFの濃度変化を示す図である。
図10】HER2+SKOV3異種移植マウスモデルにおけるTras-Grab処理計画を示す図である。
図11】Tras-Grabの腫瘍成長抑制効果を示す図である。
図12】Cet-Grabの濃度依存的細胞毒性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の結合体は、VEGFR1ドメイン2、VEGFR1ドメイン3及びFc抗体断片を含む融合タンパク質と薬物が結合した結合体であり、該結合体は、薬物がターゲッティングする癌細胞に結合すると同時に、VEGFに結合することによってVEGFR-2のリン酸化を抑制し、血管内皮細胞の分化を阻害して癌細胞周辺の血管新生を選択的に抑制することによって癌の成長を抑制することができる。
【0019】
以下では、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
一方、本発明で開示されるそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用可能である。すなわち、本発明で開示された様々な要素のいかなる組み合わせも本発明の範疇に属する。また、以下の具体的な記載によって本出願の範疇が制限されるとは言えない。また、当該技術分野における通常の知識を有する者は通常の実験だけを用いて、本発明に記載された特定様態に対する多数の等価物を認知又は確認することができる。また、それらの等価物は本発明に含まれるように意図される。
【0021】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様は、VEGFR1ドメイン2、VEGFR1ドメイン3及び抗体断片を含む融合タンパク質と薬物との結合体を提供する。
【0022】
本発明の用語「VEGFR1(vascular endothelial growth factor receptor 1;血管内皮細胞増殖因子受容体1)」とは、血管内皮増殖因子(VGEF)の受容体であり、受容体のチロシンリン酸化酵素(thyrosine kinase)を活性化して細胞の分裂、遊走、分化などを刺激することができる。また、VEGFR1ドメイン2及びドメイン3は、VEGFを認識するドメインである。前記VEGFR1ドメイン2及びドメイン3は、種によって活性を示すタンパク質のアミノ酸配列が異なる場合があるため、その由来や配列に限定されず、その野生型又は活性を有する変異体を含むことができる。本発明のVEGFR1ドメイン2は配列番号27のアミノ酸配列を含むか、或いは配列番号28の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含むことができ、VEGFR1ドメイン3は配列番号29のアミノ酸配列を含むか、或いは配列番号30の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含むことができる。
【0023】
本発明の用語「抗体断片」は、抗体の任意の一部分を意味するもので、抗原結合部位であるFab領域(Fragment antigen-binding)と抗原に結合しない部位であるFc領域(Fragment crystallizable region)とに区別される。
【0024】
また、本発明の用語「抗体Fc領域」は、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖可変領域、重鎖不変領域1(CH1)と軽鎖不変領域(CL1)以外の、重鎖不変領域2(CH2)及び重鎖不変領域3(CH3)部分を意味し、重鎖不変領域にヒンジ(hinge)部分を含むこともある。前記抗体Fc領域は、生体内で代謝される生分解性のポリペプチドであるため、薬物のキャリアとして安全に使用される。また、免疫グロブリンFc領域は、免疫グロブリンの全分子に比べて相対的に分子量が少ないため、結合体の製造、精製及び収率面において有利であるだけでなく、アミノ酸配列が抗体別に異なるため、高い非均質性を示すFab部分を除去することによって物質の同質性が大きく増加し、血中抗原性の誘発可能性も低くなるという効果も期待することができる。
【0025】
前記抗体のFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM由来又はそれらの組み合わせ(combination)又はそれらの混成(hybrid)によるFc領域であるか、具体的にヒト血液に最も豊富なIgG又はIgM由来であり、より具体的にヒト由来IgG1であり得るが、これに制限されない。
【0026】
本発明の用語「融合タンパク質」は、VEGFR1ドメイン2、VEGFR1ドメイン3及び抗体断片が結合するように人工的に合成されたタンパク質であり、具体的には、前記VEGFR1ドメイン2、VEGFR1ドメイン3及び抗体断片を含むことができる。また、前記融合タンパク質は、N末端からVEGFR1ドメイン2、VEGFR1ドメイン3及び抗体断片の順序、又はVEGFR1ドメイン3、VEGFR1ドメイン2及び抗体断片の順序に連結され得る。また、前記融合タンパク質においてVEGFR1ドメイン2、VEGFR1ドメイン3及び抗体断片はそれぞれに直接連結されてもよく、リンカーで連結されてもよい。
【0027】
前記リンカーは、融合タンパク質の活性を示させるものであれば、特に次に制限されないが、具体的には、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、セリン、トレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、リシン、アルギニン酸などのアミノ酸を用いて連結させることができ、より具体的には、バリン、ロイシン、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、プロリンなどを複数用いて連結させることができ、さらに具体的には、遺伝子操作の容易性を考慮してグリシン、バリン、ロイシン、アスパラギン酸などのアミノ酸を1個~20個ずつ連結して使用することができる。
【0028】
また、本発明において前記融合タンパク質は、VEGFR1ドメイン2、VEGFR1ドメイン3及び抗体断片が連結された形態でよく、前記抗体断片は抗体のFc領域を含むことができ、具体的に、VEGFR1ドメイン2(R1D2)-VEGFR1ドメイン3(R1D3)-ヒンジ(hinge)-ヒト抗体のFc領域(CH2及びCH3)を含むタンパク質を意味でき、VEGF-Grabと名称してもよい。また、前記VEGF-Grabは、公知のVEGFR1ドメイン2及びVEGFR1ドメイン3を含むことができ、非制限的な例として、水溶性デコイ受容体VEGF-Grab(Lee JE,Mol Cancer Ther.2015,14:470-9.)又はVEGF-Trap(Holash J,Proc Natl Acad Sci U S A.2002,99:11393-8.)を利用することができる。
【0029】
前記融合タンパク質は、VEGFR1(vascular endothelial growth factor receptor 1;血管内皮細胞増殖因子受容体1)のリガンドであるVEGFに結合し、VEGF-A、VEGF-B又はPlGFに結合して活性を抑制する。本発明の前記融合タンパク質は、配列番号22のアミノ酸配列を含むか、配列番号23の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含むことができる。また、本発明の前記融合タンパク質は、配列番号22のアミノ酸配列を含むか、配列番号23の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含むことができる。
【0030】
前記融合タンパク質は、それに含まれる各ドメインの野生型のアミノ酸配列が一つ以上のアミノ酸残基と異なる配列を有するポリペプチドを含むことができる。分子の活性を全体的に変更させないタンパク質及びポリペプチドにおけるアミノ酸交換は、当該分野に公知である。最も一般的に起きる交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thy/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。また、アミノ酸配列上の変異又は修飾によってタンパク質の熱、pHなどに対する構造的安定性が増加したり或いはタンパク質活性が増加したタンパク質を含むことができる。
【0031】
前記融合タンパク質又は前記融合タンパク質を構成するポリペプチドは、当該分野に公知である化学的ペプチド合成方法で製造するか、或いは前記融合タンパク質をコードする遺伝子をPCR(polymerase chain reaction)によって増幅するか又は公知の方法で合成した後、発現ベクターにクローニングして発現させて製造することができる。
【0032】
本発明において前記薬物は、抗癌剤又は血管新生関連疾患治療剤であり得る。
【0033】
本発明の用語「抗癌剤」は、癌を治療するための化学療法に使用する薬剤の総称であり、前記用語「癌」とは、身体組織の自律的な過剰成長によって異常に育った腫瘍、又は腫瘍を形成する病気を意味する。
【0034】
本発明の用語「血管新生」とは、新しい血管が生成される生理学的過程を意味し、本発明において「新生血管生成(angiogenesis)」と同じ意味で使用され得る。また「血管新生関連疾患」は、過剰な血管新生によって発病する疾患であり、腫瘍の成長及び転移をはじめとして糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒否、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬、黄斑変性(macular degeneration)、血友病性関節、アテローム性動脈硬化プラーク内における毛細血管増殖、ケロイド、傷顆粒化、血管接着、リューマチ関節炎、慢性炎症(chronic inflammation)、骨関節炎、自己免疫疾患、クローン病、再発狭窄症、アテローム性動脈硬化、腸管接着、猫引っかき病、潰瘍、肝硬変症、糸球体腎炎、糖尿病性腎臓病症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、器官移植拒否、腎糸球体病症、糖尿病、炎症又は神経退行性疾患などが前記疾患に当たる。
【0035】
本発明において、前記薬物は、HER2(human epidermal growth factor receptor type 2:ヒト上皮成長因子受容体タイプ2)又は上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor;EGFR)に結合可能な抗体でよく、具体的にトラスツズマブ(trastuzumab)又はセツキシマブ(cetuximab)であり得るが、これに制限されるものではない。
【0036】
また、本発明において、前記薬物は、抗原認識部分である、scFv、dsFv、Fab、Fab’、F(ab’)2及びナノボディー(nanobody)からなる群から選ばれる形態を有する抗体でよく、具体的にscFv形態を有する抗体であり得るが、これに制限されるものではない。
【0037】
本発明の用語「抗原認識部分」は、抗体の抗原-結合活性を保有する本発明の抗体の任意の断片を指し、「抗原結合断片」及び「ペプチドの結合断片」などと同じ意味で使われる。
【0038】
前記Fabは、軽鎖及び重鎖の可変領域、軽鎖の不変領域、及び重鎖の最初の不変領域(CH1ドメイン)を有する構造であり、1個の抗原結合部位を有する。Fab’は、重鎖CH1ドメインのC末端に一つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点でFabと異なる。F(ab’)2抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合をなしながら生成される。Fv(variable fragment)は、重鎖可変部位及び軽鎖可変部位だけを有している最小の抗体断片を意味する。二重ジスルフィドFv(dsFv)は、ジスルフィド結合で重鎖可変部位と軽鎖可変部位とが連結されており、単鎖Fv(scFv)は一般に、ペプチドリンカーによって重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域とが共有結合で連結されている。このような抗体断片は、タンパク質加水分解酵素を用いて得ることができ(例えば、全抗体をパパインで制限切断すればとFabが得られ、ペプシンで切断すればF(ab’)2断片が得られる。)、好ましくは、遺伝子組換え技術を用いて作製できる。また、前記ナノボディーは、自然的に発生するする重鎖(heavy chain)抗体の独特の構造及び機能的な特性を有する抗体由来治療タンパク質であり、前記重鎖抗体は、単一可変ドメイン(VH)及び2個の不変ドメイン(CH2及びCH3)を含む。
【0039】
本発明において前記抗癌剤は、トラスツズマブ(trastuzumab)又はセツキシマブ(cetuximab)であり得る。
【0040】
本発明の用語「トラスツズマブ(trastuzumab)」とは、癌細胞に特異的に結合できる抗体であり、抗-HER2モノクローナル抗体を意味する。前記トラスツズマブは、癌細胞表面又は組織から特異的に発現するか、或いは過剰に発現する癌-関連抗原、これに制限されないが、具体的にHER2タンパク質を認識することによって癌細胞に特異的に結合する。前記トラスツズマブは、その商品名であるハーセプチン(HerceptinTM)と同じ意味で使うことができる。
【0041】
本発明の結合体に含まれている薬物は、トラスツズマブのscFv(Single chain variable fragment)であり得る。前記トラスツズマブのscFvは、配列番号20のアミノ酸配列を含むか、或いは配列番号21の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含むことができる。具体的に、前記トラスツズマブのscFvは、配列番号14のアミノ酸配列を含むトラスツズマブの重鎖可変領域及び配列番号16のアミノ酸配列を含むトラスツズマブの軽鎖可変領域が、配列番号18のアミノ酸配列を含むリンカー(linker)によって連結されたものであるか、或いは配列番号15の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含むトラスツズマブの重鎖可変領域及び配列番号17の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含むトラスツズマブの軽鎖可変領域が、配列番号19の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含むリンカー(linker)によって連結されたものであり得るが、これに制限されない。
【0042】
また、前記トラスツズマブのscFvは、HER2受容体に結合し得る。前記用語「HER2(human epidermal growth factor receptor type 2:ヒト上皮成長因子受容体タイプ2)」とは、上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor;EGFR)ファミリーの一種であり、乳癌において最も強力な癌遺伝子(oncoprotein)である。HER2が正常レベルで発現する場合には乳腺組織の成長及び発達に関与するが、HER2が異常に過発現又は増幅すると、調節のバランスが崩れて乳腺組織において攻撃的な癌細胞が形成される。前記トラスツズマブのscFvは、癌細胞で過発現したHER2に結合する。
【0043】
また、本発明の用語「セツキシマブ(cetuximab)」とは、癌細胞に特異的に結合できる抗体であり、抗-EGFRモノクローナル抗体を意味する。前記セツキシマブは、癌細胞表面又は組織から特異的に発現するか、或いは過剰に発現する癌-関連抗原、これに制限されないが、具体的にEGFRタンパク質を認識することによって癌細胞に特異的に結合する。前記セツキシマブは、その商品名であるアービタックス(ErbituxTM)と同じ意味で使うことができる。
【0044】
本発明の結合体に含まれている薬物は、セツキシマブのscFv(Singlechain variable fragment)であり得る。前記セツキシマブのscFvは、配列番号9のアミノ酸配列を含むか、或いは配列番号10の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含むことができる。具体的に、前記セツキシマブのscFvは、配列番号3のアミノ酸配列を含むセツキシマブの重鎖可変領域及び配列番号5のアミノ酸配列を含むセツキシマブの軽鎖可変領域が、配列番号7のアミノ酸配列を含むリンカー(linker)によって連結されたものであるか、或いは配列番号4の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含むセツキシマブの重鎖可変領域及び配列番号6の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含むセツキシマブの軽鎖可変領域が、配列番号8の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含むリンカー(linker)によって連結されたものであり得るが、これに制限されない。
【0045】
また、前記セツキシマブのscFvは、EGFR受容体に結合し得る。前記用語「EGFR」とは、上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor;EGFR)ファミリーの一種であり、EGFRの異常な活性化は、肺癌を含む多くの上皮細胞腫瘍の原因になる。前記EGFRの異常な活性化は、EGFR-チロシンキナーゼの活性化が、持続した細胞の増殖、周辺組への浸透、遠隔転移、血管形成を起こしつつ細胞生存を増加させる。前記セツキシマブのscFvは、癌細胞で過発現したEGFRに結合する。
【0046】
本発明の結合体は、前記薬物のC-末端に前記融合タンパク質のN-末端が直接に又はリンカーを介して連結されたものであり得る。具体的に、前記結合体は、抗-EGFR治療用抗体(セツキシマブ又はトラスツズマブ)scFvのC-末端をVEGF-GrabのN-末端に融合させたものでよく、これはそれぞれ、Cetuximab-VEGF-Grab(Cet-Grab)及びTrastuzumab-VEGF-Grab(Tras-Grab)と命名した。また、前記結合体は多重-パラトープVEGFデコイ受容体という用語に言い換えてもよい。
【0047】
本発明の用語「デコイ受容体(decoy receptor)」とは、特定成長因子又はサイトカインを効率的に認識して結合できるが、一般の受容体複合体を活性化させるか、或いは構造的に信号伝達ができない受容体である。前記デコイ受容体はリガンドと結合し、該リガンドが受容体に結合できないようにすることで、信号伝達の抑制剤の役割を果たす。
【0048】
本発明の多重-パラトープVEGFデコイ受容体であるCetuximab-VEGF-Grab及びTrastuzumab-VEGF-Grabは、親VEGF-Grab及び抗-EGFR抗体(セツキシマブ及びトラスツズマブ)と類似の結合親和力でVEGFファミリー(VEGFA及びPlGF)及びEGFRファミリー(Cet-Grabの場合はEGFR、及びTras-Grabの場合はHER2)と同時に結合し得る。また、Cetuximab-VEGF-Grab及びTrastuzumab-VEGF-Grabは、VEGF信号伝達だけでなく、EGFRファミリーの信号伝達を試験管内及び生体内で効率的に抑制したし、特に腫瘍に特異的に限定して作用して、VEGF-Grabと比して異種移植マウスモデルにおいて抗腫瘍効能を向上させることを確認した。
【0049】
また、本発明の結合体は、配列番号11又は配列番号24のアミノ酸配列を含むか、或いは配列番号12又は配列番号25の塩基配列からコードされるアミノ酸配列を含むことができる。
【0050】
本発明の他の態様は、前記結合体をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0051】
ここで、用語「結合体」の定義は、前述した通りである。
【0052】
本発明の用語「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドが結合した高分子物質であり、遺伝情報をコードしているDNAを意味する。
【0053】
前記結合体をコードするポリヌクレオチド配列は、前記配列番号11又は24のアミノ酸配列から、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば容易に導出可能であり、具体的に、配列番号12又は25の塩基配列であり得るが、これに制限されない。
【0054】
また、本発明において前記結合体、融合タンパク質及び薬物をコードする塩基配列は、各配列番号のアミノ酸をコードする塩基配列だけでなく、前記配列と80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には98%以上、最も具体的には99%以上の相同性を示す塩基配列であり、実質的に前記各タンパク質と同一であるか或いは相応する効能を示すタンパク質をコードする塩基配列であれば如何なるものも含む。また、前記配列と相同性を有する配列であり、実質的に記載された配列番号の結合体タンパク質と同一であるか或いは相応する生物学的活性を有するアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換又は付加されたアミノ酸配列を有する場合も同様、本発明の範疇に含まれることは明らかである。
【0055】
本発明の用語「相同性」とは、タンパク質をコードする塩基配列やアミノ酸配列の類似な程度を意味するが、相同性が十分に高い場合、該当の遺伝子の発現産物は同一又は類似の活性を有することができる。また、相同性は、与えられたアミノ酸配列又は塩基配列と一致する程度によって百分率で表示することができる。本明細書において、与えられたアミノ酸配列又はヌクレオチド配列と同一又は類似の活性を有するその相同性配列が、「%相同性」と表示される。例えば、点数(score)、同一性(identity)及び類似度(similarity)などの媒介変数(parameter)を計算する標準ソフトウェア、具体的にBLAST2.0を利用するか、或いは定義された厳格な条件(stringent condition)下で用いた混成化実験によって配列を比較することによって確認することができ、定義される適切な混成化条件は、当該技術範囲内であるとともに、当業者によく知られた方法(例えば、J.Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989;F.M.Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,New York)によって決定され得る。
【0056】
本発明の結合体、融合タンパク質及び薬物は、前記それぞれのタンパク質と同一であるか或いは相応する生物学的活性を有する限り、記載された配列番号のアミノ酸配列又は前記配列と80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の相同性を示すタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むことができる。
【0057】
また、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、コドンの縮退性(degeneracy)によって、前記タンパク質を発現させようとする生物で好まれるコドンを考慮して、コーディング領域から発現するタンパク質のアミノ酸配列を変化させない範囲内でコーディング領域に様々な修飾がなされ得る。したがって、前記ポリヌクレオチドは、各タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列であれば如何なるものであってもよい。
【0058】
また、公知の配列から調製可能なプローブ、例えば、前記ポリヌクレオチド配列の全部又は一部に対する相補配列と厳格な条件下でハイブリッド化して、前記結合体、融合タンパク質及び薬物の活性を有するタンパク質を暗号化する配列であれば如何なるものを含んでもよい。
【0059】
前記「厳格な条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的混成化を可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(例えば、J.Sambrook et al.、同上)に具体的に記載されている。例えば、相同性の高い遺伝子同士、40%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には、97%以上、特に具体的には99%以上の相同性を有する遺伝子同士をハイブリッド化し、それよりも相同性が低い遺伝子同士をハイブリッド化しない条件、或いは通常のサザンハイブリッド化の洗浄条件である60℃、1XSSC、0.1% SDS、具体的には60℃、0.1XSSC、0.1% SDS、より具体的には68℃、0.1XSSC、0.1% SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件を挙げることができる。
【0060】
混成化は、たとえ混成化の厳格度によって塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2本のポリヌクレオチドが相補的配列を有することを要求する。用語、「相補的」は、互いに混成化が可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するのに使われる。例えば、DNAに関して、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって、本出願はまた、実質的に類似するポリヌクレオチド配列だけでなく、全配列に相補的な単離したポリヌクレオチド断片も含むことができる。
【0061】
具体的に、相同性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値で混成化段階を含む混成化条件を用い、上述した条件を用いて探知することができる。また、前記Tm値は60℃、63℃又は65℃であるが、これに制限されるものではなく、その目的に応じて当業者にとって適宜調節可能である。
【0062】
ポリヌクレオチドを混成化する適度の厳格度は、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野によく知られている(Sambrook et al.,supra,9.50-9.51,11.7-11.8参照)。
【0063】
本発明のさらに他の態様は、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
【0064】
ここで、用語「ポリヌクレオチド」の定義は、前述した通りである。
【0065】
本発明の用語「発現ベクター」とは、適当な宿主細胞に導入され、目的タンパク質を発現させ得る組換えベクターであり、遺伝子挿入物が発現するように作動可能に連結された必須の調節要素を含む遺伝子作製物を指す。
【0066】
前記用語「作動可能に連結された(operably linked)」とは、一般の機能を行うように、核酸発現調節配列と目的とするタンパク質をコードする核酸配列とが機能的に連結されていることを意味する。組換えベクターとの作動的連結は、当該技術分野によく知られた遺伝子組換え技術を用いて製造でき、部位-特異的DNA切断及び連結は、当該技術分野に周知である酵素などを用いて容易にさせ得る。
【0067】
本発明の好適な発現ベクターは、プロモーター、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーのような発現調節エレメントの他にも、膜標的化又は分泌のためのシグナル配列を含むことができる。開始コドン及び終結コドンは一般に、免疫原性標的タンパク質をコードするヌクレオチド配列の一部と見なされ、遺伝子作製物が投与された時、個体において必ず作用を示さなければならず、コーディング配列とインフレーム(in frame)にある必要がある。一般プロモーターは構成的又は誘導性であり得、原核細胞の場合にはlac、tac、T3及びT7プロモーター、真核細胞の場合にはサルウイルス40(SV40)、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、ヒト免疫欠乏ウイルス(HIV)、例えばHIVの長い末端反復部(LTR)プロモーター、モロニーウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターだけでなく、β-アクチンプロモーター、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、ヒトメタロチオネイン由来のプロモーターなどがあるが、これに制限されない。
【0068】
また、前記発現ベクターは、ベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含むことができる。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性又は表面タンパク質の発現のような選択可能表現型を与えるマーカーが用いられ得る。選択剤(selective agent)の処理された環境では選別マーカーを発現する細胞だけが生存するので、形質転換された細胞が選別可能である。また、ベクターが複製可能な発現ベクターである場合、複製が開始される特定核酸配列である複製原点(replication origin)を含むことができる。
【0069】
外来遺伝子を挿入するための組換え発現ベクターとしては、プラスミド、ウイルス、コスミドなどの様々な形態のベクターを使用することができる。組換えベクターの種類は、原核細胞及び真核細胞の各種宿主細胞で所望の遺伝子を発現し、所望のタンパク質を生産する機能を果たす限り、特に制限されないが、具体的に、強力な活性を示すプロモーターと、強い発現力を保有しながら自然状態に類似する形態の外来タンパク質を大量で生産できるベクターを用いることができる。
【0070】
本発明に係る融合タンパク質を発現させるために、様々な宿主とベクターの組み合わせを用いることができる。真核宿主に適した発現ベクターとしては、次に制限されないが、SV40、牛乳頭腫ウイルス、アデノウイルス、アデノ-関連ウイルス(adenoassociated virus)、サイトメガロウイルス及びレトロウイルスから由来した発現調節配列などを含むことができる。細菌宿主に使用可能な発現ベクターとしては、次に制限されないが、pET、pRSET、pBluescript、pGEX2T、pUCベクター、col E1、pCR1、pBR322、pMB9又はそれらの誘導体などを含む大腸菌(Escherichia coli)から得られる細菌性プラスミド、RP4のように、より広い宿主範囲を有するプラスミド、λgt10、λgt11又はNM989などのファージラムダ(phage lambda)誘導体のようなファージDNA、及びM13とフィラメント性一本鎖のDNAファージのようなその他DNAファージなどを含むことができる。酵母細胞には2℃プラスミド又はその誘導体などを用いることができ、昆虫細胞にはpVL941などを用いることができる。
【0071】
本発明のさらに他の態様は、前記発現ベクターを含む形質転換体を提供する。
【0072】
ここで、用語「発現ベクター」の定義は、前述した通りである。
【0073】
本発明の用語「形質転換体」とは、前記発現ベクターを導入可能な宿主の細胞であり得る。具体的に、本発明の形質転換体はヒト以外の形質転換体であり得るが、これに制限されるものではない。
【0074】
前記ベクターの導入に適した宿主細胞は、大腸菌、バチルスサブチリス(Bacillus subtilis)、ストレプトマイセス属(Streptomyces sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)又はスタフィロコカス属(Staphylococcus sp.)のような原核細胞であり得る。また、アスペルギルス属(Aspergillus sp.)のような真菌、ピチアパストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセスセレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミケス属(Schizosaccharomyces sp.)又はアカパンカビ(Neurospora crassa)のような酵母、その他の下等真核細胞、植物又は昆虫の細胞のような高等真核生物の細胞であり得る。また、哺乳動物の細胞でよく、具体的に、サル腎臓細胞7(COS7:monkey kidney cells)細胞、NSO細胞、SP2/0、チャイニーズハムスター卵巣(CHO:chinese hamster ovary)細胞、W138、幼いハムスター腎臓(BHK:baby hamster kidney)細胞、MDCK、骨髄腫細胞株、HuT78細胞又はHEK293細胞などを用いることができるが、これに制限されない。
【0075】
本発明の形質転換方法は、核酸を有機体、細胞、組織又は器官に導入する如何なる方法も含み、当分野に公知の宿主細胞に適した標準技術を選択して行うことができる。具体的に、電気衝撃遺伝子伝達法(electroporation)、原形質融合、リン酸カルシウム(CaPO)沈殿、塩化カルシウム(CaCl)沈殿、シリコンカーバイド繊維を用いた撹拌、アグロバクテリア媒介された形質転換、PEG、硫酸デキストラン、リポフェクタミン及び乾燥/抑制媒介された形質転換方法などが含まれるが、これに制限されない。
【0076】
本発明のさらに他の態様は、前記形質転換体を培養する段階を含む結合体製造方法を提供する。
【0077】
ここで、用語「形質転換体」及び「結合体」の定義は、前述した通りである。
【0078】
前記結合体の製造方法は、本発明の形質転換体を培養する段階を含み、具体的に、前記結合体をコードするポリヌクレオチド配列をベクターに挿入して発現ベクターを製造する段階;前記発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換体を製造する段階;前記形質転換体を培養する段階;及び前記培養された形質転換体から結合体を分離及び精製する段階を含むことができる。
【0079】
より具体的に、前記形質転換体を栄養培地で培養することによって結合体を大量で生産することができ、培地と培養条件は、宿主細胞によって慣用されるものを適当に選択して利用することができる。培養時に細胞の生育とタンパク質の大量生産に合わせて温度、培地のpH及び培養時間などの条件を適切に調節することができる。
【0080】
上記のように組換え的に生産されたペプチド又はタンパク質は、培地又は細胞分解物から回収され得る。膜結合型の場合、適切な界面活性剤溶液(例、トリトン-X100)の使用又は酵素的切断によって膜から遊離することができる。融合タンパク質発現に用いられた細胞は、凍結-解凍純化、音波処理、機械的破壊又は細胞分解剤のような様々な物質的又は化学的手段によって破壊可能であり、通常の生化学分離技術によって分離、精製が可能である(Sambrook et al.,Molecular Cloning: A laborarory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Deuscher, M.,Guide to Protein Purification Methods Enzymology, Vol. 182. Academic Press. Inc.,San Diego,CA(1990))。電気泳動、遠心分離、ゲル濾過、沈殿、透析、クロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、免疫吸着クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなど)、等電点電気泳動(isoelectric focusing)及びその様々な変化及び複合方法などが利用可能であるが、これに制限されない。
【0081】
本発明のさらに他の態様は、前記結合体を含む癌又は血管新生関連疾患の予防又は治療用医薬組成物を提供する。
【0082】
ここで、用語「結合体」、「癌」及び「血管新生」の定義は、前述した通りである。
【0083】
本発明において、前記癌は、本発明で提供する医薬組成物によって症状が緩和、軽減、改善又は治療可能なものであれば特に制限されない。本発明において、癌の種類は特に制限されないが、HER2又はEGFRが過発現する癌であり得る。また、前記癌は、固形癌も血液癌も含み、具体的に、肝癌、肺癌、膵癌、非小細胞肺癌、結腸癌、骨肉腫、皮膚癌、頭部又は頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直膓癌、胃癌、肛門周囲癌、結腸癌、乳癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病(Hodgkin’s disease)、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性又は急性白血病、リンパ球リンパ腫、膀胱癌、腎臓又は尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS;central nervous system)腫瘍、1次中枢神経系リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経グリオーマ、下垂体腺腫などを含むことができ、より具体的には、前記癌のうち、固形癌であり得るが、これに制限されない。
【0084】
また、本発明において、前記血管新生関連疾患は、本発明で提供する医薬組成物によって症状が緩和、軽減、改善又は治療できれば特に次に制限されないが、具体例として、加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性、脈絡膜血管新生、病的近視、糖尿性網膜症、黄斑浮腫、網膜静脈閉塞、未熟児網膜症又は新生血管緑内障を挙げることができるが、これに制限されるものではない。
【0085】
本発明の用語「治療」とは、本発明の医薬組成物の投与によって癌又は血管新生関連疾患が抑制又は遅延される全ての行為を意味する。
【0086】
本発明の用語「予防」とは、本発明の医薬組成物の投与によって癌又は血管新生関連疾患の症状が好転するか或いは有利に変更される全ての行為を意味する。
【0087】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含むことができる。経口投与時には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを使用することができ、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などを混合して使用することができ、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを使用することができる。本発明の薬剤学的組成物の剤形は、上述したような薬剤学的に許容される担体と混合して様々に製造することができる。例えば、経口投与時には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、サスペンション、シロップ、ウエハーなどの形態で製造でき、注射剤の場合には、単位投薬アンプル又は多数回投薬の形態で製造できる。また、前記組成物は典型的に、膜を通過した移動を容易にする界面活性剤を含むことができる。このような界面活性剤は、ステロイドから誘導されたものであるか、或いはN-[1-(2,3-ジオレオイル)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)などのカチオン性脂質、又はコレステロールヘミスクシナート、ホスファチジルグリセロールなどの各種化合物などがある。
【0088】
本発明に係る結合体を含む組成物は、癌細胞、それらの転移又は血管新生関連疾患を治療するために、又は癌の成長を抑制するために薬学的に効果的な量で投与できる。癌種類、血管新生関連疾患種類、患者の年齢、体重、症状の特性及び程度、現在治療法の種類、治療回数、投与形態及び経路などの様々な要因によって変更され、当該分野における専門家によって容易に決定され得る。本発明の組成物は、上述した薬理学的又は生理学的成分を共に投与又は順次に投与でき、また追加の従来の治療剤と併用して投与してもよく、従来の治療剤とは順次又は同時に投与できる。このような投与は、単一又は多重投与であり得る。前記要素を全て考慮して、副作用無しで最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要であり、当業者によって容易に決定され得る。
【0089】
本発明のさらに他の態様は、前記結合体又は前記医薬組成物を個体に投与する段階を含む、癌又は血管新生関連疾患の予防又は治療方法を提供する。具体的に、本発明の癌又は血管新生関連疾患の予防又は治療方法は、ヒト以外の個体に投与する段階を含むことができるが、これに制限されるものではない。
【0090】
ここで、用語「結合体」、「癌」及び「血管新生関連疾患」の定義は、前述した通りである。
【0091】
本発明の用語「個体」とは、本発明の医薬組成物を投与して癌又は血管新生関連疾患が軽減、抑制又は治療され得る状態;或いは癌又は血管新生関連疾患を病んでいる或いはその危険があるヒトを含めてマウス、ラット、家畜などの全ての動物を意味する。
【0092】
本発明の用語「投与」とは、適切な方法で個体に所定の物質を導入することを意味し、本発明の医薬組成物の投与経路は、目的組織に到達可能な如何なる一般経路によっても投与可能である。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、血内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与、職腸内投与が可能であるが、これに制限されない。しかし、経口投与の際、タンパク質は消化されるため、経口用組成物は活性薬剤をコートするか、或いは胃における分解から保護されるように剤形化することが好ましい。また、製薬組成物は、活性物質が標的細胞に移動できる任意の装置によって投与可能である。
【発明の形態】
【0093】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がそれらに限定されるものではない。
【0094】
実施例1:細胞株及び細胞培養
Freestyle293F細胞(R790-07、Gibco(登録商標))、A431細胞(ヒト子宮頸癌、#21555、韓国細胞株銀行)、SKBR3細胞(ヒト乳房腺癌、#30030、韓国細胞株銀行)、SKOV3細胞(ヒト卵巣腺癌、#30077、ATCC)、及びヒト臍帯静脈内皮細胞(血管内皮細胞(HUVEC)s、CC-2519、Lonza)はATCC指針に従って認証され、受令して6ケ月以内に使用した。Freestyle293F細胞(R790-07、Gibco(登録商標))は、Freestyle293F培地(12338018、Gibco(登録商標))を用いて37℃、8% CO条件で125rpmの撹拌器を用いて懸濁培養した。A431細胞は、熱によって不活性化された10% FBS(S001-01、Welgene)及び100μg/mlペニシリン/ストレプトマイシンが添加されたDMEM(LM001-05、Welgene)で培養し、SKBR3細胞とSKOV3細胞は、熱によって不活性化された10% FBS(S001-01、Welgene)及び100μg/mlペニシリン/ストレプトマイシンが添加されたRPMI1640(LM011-05、Welgene)で培養し、血管内皮細胞(HUVEC)は、EBM-2(CC-3156、Lonza)にEGM-2(CC-3162、Lonza)及びペニシリン/ストレプトマイシンを補充した培地を用いて、ゼラチン(G9391、Sigma-Aldrich、PBS中2%)であらかじめコートされたプレートで培養した。いずれの細胞も37℃及び5% CO条件で培養した。
【0095】
実施例2:抗体
本発明で使用された抗体を下表1に記載する。
【表1】
【0096】
実施例3:組換えタンパク質の発現及び精製
セツキシマブ又はトラスツズマブの重鎖及び軽鎖の可変領域が(G4S)3リンカー(Ahmad ZA、Clin Dev Immunol.2012,2012:980250.)によって連結されたセツキシマブ又はトラスツズマブ一本鎖可変断片(scFv)をコードする遺伝子は、VEGF-GrabのN-末端(Lee JE,Mol Cancer Ther.,2015,14:470-9)に連結された(図1A)。VEGF-Grab、scFv-Cetuximab-VEGF-Grab(Cet-Grab)、及びscFv-Trastuzumab-VEGF-Grab(Tras-Grab)を含むベクターは、ポリエチレンイミン(765090、Sigma-Aldrich)を用いてFreestyle293F細胞にトランスフェクションされた。トランスフェクションされた細胞は3日間5mMの酪酸ナトリウム(303410、Sigma-Aldrich)と共に培養された後、遠心分離器で上澄液のみを分離した。VEGF-Grab、Cet-Grab又はTras-Grabを含有する上澄液は、Protein
A Sepharose(GE Healthcare Life Sciences)を用いて精製した。VEGF-Grab、Cet-Grab又はTras-Grabは、200mM、pH2.7のグリシンで溶出した後、1M Tris-HCl(pH8.0)で直ちに中和し、PBSで透析して保管した。
【0097】
実施例4:結合親和度分析
EGFRファミリー細胞外ドメイン(Cet-Grabの場合はEGFR、及びTras-Grabの場合はHER2)、VEGFA又はPlGFに対する多重-パラトープ-VEGFデコイ受容体(Cet-Grab又はTras-Grab)の結合親和力は、BLITZシステム(ForteBio、Pall Life Sciences)を用いてBLI(BLIbiolayer light interferometry)で分析された。ビオチン化されたEGFRファミリーECD(EGFR又はHER2)、VEGFA又はPlGFは、あらかじめ2分間水和させたストレプトアビジン(SA)バイオセンサー(1805020、Fortebio)に結合し、これをPBSで2分間洗浄して未結合のタンパク質を除去した。その後、これを4ulのVEGF-Grab、Cet-Grab、セツキシマブ、Tras-Grab又はトラスツズマブ(25~50nM)とそれぞれ反応させながら2分間隔で結合速度(kon)を測定した。次に、解離速度(koff)を測定するために、2分間PBS緩衝液に反応させた。最終解離定数は、(koff/kon)の比率で計算された。センサグラムは、1:1結合モデルを用いてグローバルフィッティング機能(各色相及びRmaxによってグループ化する。)で分析した。
【0098】
両ターゲットに同時に結合することを分析するためには、ビオチン化させたVEGFファミリー(VEGFA又はPlGF)をSAバイオセンサーに90秒間ロードし、前記VEGFが前-ロードされたバイオセンサーを4ulの100nM多重-パラトープ-VEGFデコイ受容体(Cet-Grab又はTras-Grab)と90秒間反応させた。次いで、結合速度(kon)を測定するために25~50nM EGFRファミリーECD(Cet-Grabの場合はEGFR、及びTras-Grabの場合はHER2)と120秒間反応させた。次に、解離速度(koff)を測定するためにPBSで2分間隔で洗浄した。
【0099】
EGFRファミリーの事前-結合力分析(Cet-Grabの場合はEGFR、及びTras-Grabの場合はHER2)は、図2に示すように、前述と同様の方法又は逆順で行った。
【0100】
実施例5:細胞次元における薬物分布分析
37℃で6時間、50nMのCet-Grab、セツキシマブ又はVEGF-Grab(陰性対照群)と共に培養されたEGFR+A431、及び50nMのTras-Grab、トラスツズマブ又はVEGF-Grabと共に培養されたHER+SKBR3細胞を、PBSで3回洗浄し、4% PFA(P2031、biosesang)で20分間固定した後、0.5%ツイン-20(Tween-20)の添加されたPBS溶液で常温で浸透させた。その後、前記タンパク質の位置を視角化するために、Alexa-488接合抗ヒトIgG抗体を用いて染色した後、DAPIで対照染色した。染色された細胞はCarl Zeiss LSM780共焦点顕微鏡を用いて分析し、蛍光信号(Alexa-488-DAPI)はImage Jソフトウェアを用いて定量化した。
【0101】
実施例6:細胞生存能分析
癌細胞株(A431細胞及びSKBR3細胞)は、96-ウェルプレート(ウェル当たり100μl、2500個の細胞)に分注し、、24時間後、A431細胞は、最大1μMの、1/2倍ずつ希釈したセツキシマブ又はCet-Grabで48時間培養し、SKBR3細胞は、最大1μMの、1/2倍ずつ希釈したトラスツズマブ又はTras-Grabで48時間培養した。その後、各ウェルに10μlのEz-cytox溶液(EZ-3000、DAEILLAB)を添加した後、450nmにおける吸光度を測定した。測定値は、GraphPad PRISM 5ソフトウェアを用いて分析した後、IC50を計算した。
【0102】
実施例7:Cet-Grab又はTras-GrabによるEGFR/HER2/VEGFR2信号伝達抑制分析
EGFRファミリー(EGFR及びHER2)信号伝達を分析するためには、癌細胞株(A431細胞又はSKBR3細胞)を25nMのセツキシマブ又はCet-Grab(A431細胞);又は25nMトラスツズマブ又はTras-Grab(SKBR3細胞)で48時間処理した。VEGFR2信号伝達の分析のためには血管内皮細胞(HUVEC)を25nMのCet-Grab、Tras-Grab又はVEGF-Grabで15分間処理した後、1nM VEGFAで10分間処理した。各薬物が処理された細胞は、脱リン酸化酵素抑制剤(56-25-7、Roche)が含まれたRIPA溶液(BRI-9001 T&I)を用いてタンパク質を分離させた。30μgのタンパク質は10%(EGFR、HER2、VEGFR2、p-EGFR、p-HER2、p-VEGFR2、β-actin)又は12%(ERK、p-ERK)のSDS-PAGEを用いて分離し、ニトロセルロースメンブレン及び適切な抗体を用いてウェスタンブロットを行った(Supplement Table 1)(Lee JE,Mol Cancer Ther.2015,14:470-9)。ヒトIgG Fcドメインを陰性対照とした。
【0103】
実施例8:コロニー形成分析
EGFR+A431細胞は、セツキシマブ、Cet-Grab又はIgG Fcドメイン(陰性対照群)の存在下に37℃で5% CO培養器で21日間培養した。HER2+SKOV3細胞は、トラスツズマブ、Tras-Grab、又はIgG Fcドメイン(陰性対照群)の存在下に前記と同様に培養した。培養されたプレートはPBSで洗浄した後、4% PFAを用いて固定化した後、0.05%クリスタルバイオレット溶液(C0775、Sigma-Aldrich)で20分間室温で染色した。その後、1mm以上のコロニーを定量化して分析した。
【0104】
実施例9:内皮細胞移動分析
血管内皮細胞(HUVEC)は、μ-dishes(Cat #81176、Ibidi)を用いて満タンになるまで培養した。次に、挿入物を除去した後、スキ間を作った(Lee JE,Mol Cancer Ther.,2015,14:470-9)。前記培養物を1nM VEGFA及び表記されたタンパク質(VEGF-Grab、Cet-Grab、又はTras-Grab)25nMがそれぞれ含まれているEBM-2培地(Lonza)で24時間培養し、スキ間内側に移動する細胞を観察した。
【0105】
実施例10:チューブ形成分析
血管内皮細胞(HUVEC)をマトリゲルがコートされた96ウェルプレート(354230、Corning)にウェル当たり6000個ずつ分注した後、VEGF-Grab、Cet-Grab又はTras-Grab(2μg/ml)を処理した。10分後、1nM hVEGFAを添加し、6時間後にチューブの形成を確認した。
【0106】
実施例11:マウス異種移植モデル
胸腺が除去された4週齢のヌードマウス(雌)は、Nara Biotech(Seoul、Korea)から購入した。マウスの背部の右肩に3×10 A431細胞又は5×10 SKOV3細胞を皮下注射した後、腫瘍が~50mmに到達すると、PBS(対照群)又は10mg/kgのVEGF-Grab、Cet-Grab(EGFR+A431異種移植マウスモデルに投与)又はTras-Grab(HER2+SKOV3異種移植マウスモデルに投与)を毎週2回、3週間に腹腔内投与した(n=5)。腫瘍体積は、長さ×幅×高さ×0.5で計算された。投与及び測定が終わるとマウスを麻酔した後、追加の分析のための血液を集め、腫瘍を摘出した。上の実験は、韓国生命工学研究院動物管理及び利用委員会(承認番号:KRIBB-AEC-16001)の承認を受けて行った。
【0107】
実施例12:腫瘍組織の組織学的分析
摘出された腫瘍組織を4℃で一晩中4%パラホルムアルデヒドに固定させ、30%スクロース(S7902、Sigma-Aldrich、PBS)溶液で反応させた後、O.C.T.溶液(4583、Tissue-Tek(登録商標))を用いて凍結した。凍結された組織は低温切片(cryosection)(40μm、Leica)過程を経た後、5%一般血清(Normal serums)でブロッキング、表記された抗体が含まれた溶液で染色、及びDAPIで対照染色した。染色された組織は、共焦点顕微鏡(Carl Zeiss LSM780)で分析した後、ImageJソフトウェアを用いて蛍光強度をDAPIで定量化及び正規化した。
【0108】
実施例13:生体内薬物分布分析(IVISイメージング)
Cet-Grab、Tras-Grab及びVEGF-Grabは、メーカーの指針に従って、Cy5.5高速結合キット(Cy5.5 Fast Conjugation Kit)(ab195226、Abcam)を用いてCy5.5で標識し、バイオ-ゲルp6DG濾過クロマトグラフィー(Bio-Rad)を用いて残余色素を分離した。Cy5.5-結合した(conjugated)Cet-Grab、Tras-Grab又はVEGF-Grab(10mg/kg)は、100mm程度のサイズに育ったA431(VEGF-Grab又はCet-Grab)又はSKOV3(VEGF-Grab又はTras-Grab)腫瘍が移植されている胸腺除去ヌードマウスの腹腔に投与した。投与して24時間後に、マウスはイソフルランで麻酔された後、IVIS-200(Xenogen)を用いてCy5.5チャネルでイメージングされた。12時間後に、マウスを安楽死し、腫瘍及び肝、腎臓、心臓及び脾臓を含む主要臓器を摘出し、摘出された腫瘍と臓器もイメージングした。切除された腫瘍は、追加の組織学的分析のためにPFAで固定化を行った。
【0109】
実施例14:統計分析
全てのデータは、最小3回の独立した実験に基づいてMean±SEMの形態で提示され、両側検定によってグループ間の統計学的有意性を比較した(* P<0.05;**
P<0.01;*** P<0.001)。
【0110】
実施例15:組換えDNAの作製
Cetuximab-VEGF-Grab及びTrastuzumab-VEGF-Grabを生成するために、セツキシマブ(重鎖-(GS)リンカー-軽鎖)の一本鎖可変断片及びトラスツズマブをコードする配列を合成し(Bioneer)、PCRで増幅した後、上述したベクターpCMV-dhfrのEcoRI/NotI部位にクローニングした(Lee JE,Mol Cancer Ther.2015,14:470-9.,Goldstein.)。ヒトEGFR(25L-645S、NM005228.4)の細胞外部ドメインをコードする配列は、PCRで増幅した後、トロンビン切断部位及びproteinAタグを含む修飾されたpCMV-dhfrベクターのBamHI/XbaI部位にクローニングした。
【0111】
実施例16:抗体依存細胞毒性(ADCC)レポーター分析
ADCCレポーター分析はメーカーの指針を参考して、A431細胞で行った(G7010、Promega)。簡略に、A431細胞(ADCC分析溶液/ウェル内7×10)を96ウェルプレートに塗抹した。24時間後、VEGF-Grab、Cet-Grab及びセツキシマブ(最大1μg/ml、Cet-Grab及びセツキシマブの場合は1/3倍に希釈、VEGF-Grabの場合は1/9倍に希釈)を各ウェルに処理した。エフェクター細胞は(5×10、25μl)7:1のE:T比率で各ウェルに添加した。その後、37℃で6時間培養した後、ルシフェラーゼ分析試薬(75μl)を各ウェルに添加して発光を測定した。発光度の測定及び分析は、GraphPad prism5を用いて行った。
【0112】
実験例1:多重-パラトープVEGFデコイ受容体の設計及び特性確認
VEGF Grabと抗-EGFR治療用抗体の融合がVEGF-Grabの腫瘍標的化活性を向上させるか否かを確認するために、本発明者らは、セツキシマブ(抗-EGFR抗体)の一本鎖可変断片(scFv)(配列番号9)又はトラスツズマブ(抗-HER2抗体)のscFv(配列番号20)とVEGF-Grab(配列番号22)とを融合して、Cetuximab-VEGF-Grab(配列番号11)及びTrastuzumab-VEGF-Grab(配列番号24)(以下、Cet-Grab及びTras-Grabと命名する。)という新しい多重-パラトープVEGFデコイ受容体を設計した。
【0113】
まず、セツキシマブ又はトラスツズマブ(VH-(G4S)3リンカー-VL)のscFvドメインをコードする配列(Ahmad ZA、Clin Dev Immunol.2012,2012:980250)を合成し、組換え技術を用いてpcDNA3.1ベクター(Lee JE,Mol Cancer Ther.,2015,14:470-9)内のVEGF-GrabのN-末端に連結させた(図1A)。Cet-Grab及びTras-Grabは、Freestyle293F細胞を用いて生産した後、親和度クロマトグラフィーで精製し、還元条件(R)と非還元(NR)条件でSDS-PAGEでそれぞれ分析した(図1B)。SDS-PAGE分析の結果、精製されたタンパク質の分子量(MW)は、糖鎖化によって計算値(二量体状態でVEGF-Grab、97.2kDa;セツキシマブ、145.8kDa;Cet-Grab、149.2kDa;Tras-Grab、149kDa)よりもやや高かった。
【0114】
実験例2:多重-パラトープVEGFデコイ受容体のVEGF及びEGFRファミリーに対する多重特異性確認
多重-パラトープVEGFデコイ受容体(Cet-Grab又はTras-Grab)の標的タンパク質であるVEGFファミリー(ヒトVEGFA及びPlGF)及びEGFRファミリー(Cet-Grabの場合はヒトEGFR、及びTras-Grabの場合はHER2)に対する結合親和度をBlitz(ForteBio)システムを用いてBLI(biolayer light interferometry)で分析した。
【0115】
その結果、Cet-Grabに対するVEGFA及びPlGFの結合親和力(KD)はそれぞれ、1.04nM、1.59nMで、Tras-Grabに対するVEGFA及びPlGFの結合親和力(KD)はそれぞれ、082nM、1.15nMであり、これは、VEGF-Grabに対する結合親和力(VEGFA、0.74nM;PlGF、0.76nM)に類似する結果を示した。Cet-Grab又はTras-Grabの外部パラトープに対する結合親和度分析結果は、EGFR細胞外ドメイン(ECD)のCet-Grabに対する結合親和力が0.59nMであり、Tras-Grabに対するHER2ECDの結合親和力は4.98nMであることを示した。また、VEGF-Grabは、EGFRファミリー(EGFR ECD及びHER2 ECD)と相互作用しないことを確認し、それらのそれぞれの標的に対する親抗体の結合親和力(EGFR ECDに対するセツキシマブの結合親和力、0.84nM;HER2に対するトラスツズマブの結合親和力、4.7nM)は、Cet-Grab及びTras-Grabの結合親和力と有意に異なっていないことを確認した(図2A)。
【0116】
上記の結果は、VEGF-Grabとセツキシマブ(抗-EGFR抗体)scFv又はトラスツズマブ(抗-HER2抗体)scFvの融合がそれぞれの標的タンパク質である、VEGFファミリー及びEGFRファミリーに対する結合特性に影響を与えない、ことを示す。
【0117】
次に、多重-パラトープVEGFデコイ受容体に対する前記標的の同時結合を確認した。まず、内部-パラトープにVEGFA又はPlGFをそれぞれ事前-結合させた時のCet-Grab及びTras-Grabの外部-パラトープのEGFR ECD及びHER2 ECDのそれぞれに対する結合親和力を評価した。
【0118】
その結果、Cet-Grab及びTras-GrabのEGFRファミリーECDに対する第2結合親和力はやや弱まったが(EGFR ECDに対するCet-Grab/VEGFAの第2結合親和力、7.38nM;EGFR ECDに対するCet-Grab/PlGFの第2結合親和力、12.26nM;HER2 ECDに対するTras-Grab/VEGFAの第2結合親和力、5.04nM;HER2ECDに対するTras-Grab/PlGFの第2結合親和力、14.00nM)、VEGFファミリー及びEGFRファミリーECDに対する同時結合を維持するには十分だった。これと同様に、Cet-Grab又はTras-Grabの外部パラトープに対するEGFR ECD又はHER2 ECDの事前-結合は、それらの内部-パラトープのVEGFA又はPlGFに対する結合親和力に影響を与えなかった(VEGFAに対するCet-Grab/EGFR ECDの結合親和力、1.17nM;PlGFのCet-Grab/EGFR ECDに対する結合親和力、1.11nM;VEGFAのTras-Grab/HER2 ECDに対する結合親和力、2.38nM;PlGFに対するTras-Grab/HER2 ECDの結合親和力、2.76nM)(図2B)。
【0119】
前記結果に基づいて、Cet-Grab及びTras-Grabは親VEGF-Grab及び抗-EGFR治療用抗体(セツキシマブ及びトラスツズマブ)と類似な程度の結合親和力を有する標的タンパク質のそれぞれに対する多重-特異性を有し、それらの標的タンパク質である、VEGFファミリー及びEGFRファミリーに同時に結合できることが分かる。
【0120】
実験例3:多重-パラトープVEGFデコイ受容体のVEGF信号伝達経路抑制を用いた血管内皮細胞の移動及びチューブ形成抑制確認
多重-パラトープVEGFデコイ収容体がVEGFAを遮断して、VEGFAによって誘導された血管内皮細胞の活性化を抑制できる否かを確認するために、まず血管内皮細胞(HUVEC)におけるVEGFAによって誘導されたVEGFR2信号伝達を確認した。
【0121】
その結果、VEGF-Grabと類似に、Cet-Grab及びTras-Grab両方とも、VEGFAによって誘導されるVEGFR2とその下位信号であるERKのリン酸化を抑制した(図3A及び図3B)。
【0122】
また、VEGFAはVEGFR2を活性化させて内皮細胞の増殖、移動及び生存を促進するものと知られているので、VEGFAによって誘導され得る血管内皮細胞(HUVEC)の移動及びチューブ形成能がCet-Grab及びTras-Grabによって抑制されるか否か確認した。
【0123】
その結果、VEGFR2信号伝達を抑制したのと同様に、Cet-GrabとTras-Grabは、有意差のないレベルで、VEGFAによって誘導され得る血管内皮細胞(HUVEC)の移動(図3C及び図3D)及びチューブ形成(図3E及びF)を強力に抑制した。
【0124】
前記結果をまとめると、Cet-Grab及びTras-Grabは両方ともVEGFAに対して類似の結合親和力を有し、これによってVEGF-Grabと類似の抗-VEGF活性を有し、結果として、効果的に血管内皮細胞の活性化を抑制できることを示す。
【0125】
実験例4:多重-パラトープVEGFデコイ受容体によるEGFR経路-媒介細胞増殖信号伝達の遮断確認
Cet-Grab及びTras-GrabにおいてscFvの機能的特性を評価するために、EGFR及びHER2をそれぞれ高いレベルで発現するA431及びSKBR3癌細胞を用いてそれらがEGFRを発現する腫瘍に結合できるか否かを調べた。
【0126】
免疫蛍光染色の結果、Cet-grab及びTras-Grabはそれぞれ、EGFR+A431及びHER2+SKBR3癌細胞に安定的に結合するが、VEGF-Grabは結合できないことを確認した(図4A)。
【0127】
また、セツキシマブ及びトラスツズマブを癌細胞に結合させてEGFR又はHER2にリガンドが結合することを防止し、受容体二量体化を抑制して受容体の自己リン酸化及び活性化を遮断することによって腫瘍細胞成長を効果的に抑制できると知られているところ、Cet-Grab及びTras-Grabの抗-腫瘍活性を調べた。
【0128】
A431及びSKBR3細胞株を用いた細胞生存能分析の結果、Cet-Grab及びTras-Grabがそれぞれ、A431及びSKBR3細胞の増殖を効率的に抑制することを確認した(図4B;Cet-Grabの場合、IC50=27.6nM、セツキシマブの場合、IC50=76.7nM、Tras-Grabの場合、IC50=27.8nM、トラスツズマブの場合、IC50=24.3nM)。また、Cet-Grabの処理は、セツキシマブと同様に、A431細胞でEGFR及びそのダウンストリームであるERKのリン酸化レベルを有意に減少させ(図4C及び図4D)、これと類似に、Tras-Grabは、トラスツズマブと類似のレベルでSKBR3細胞株においてHER2-媒介された増殖信号伝達を著しく減少させた(図4E及び図4R)。コロニー形成分析(Clonogenic assays)も、PBSが処理された癌細胞と比較して、Cet-Grab又はTras-Grabが処理された癌細胞においてコロニー形成が著しく弱化したことを示した(図5)。
【0129】
上記の結果をまとめると、Cet-Grab及びTras-Grabはそれぞれ強力な抗-EGFR及び抗-HER2活性を有するので、EGFR/HER2過発現癌細胞の増殖及び無制限分割を効果的に抑制できることが分かる。
【0130】
実験例5:異種移植マウス腫瘍モデルにおける多重-パラトープVEGFデコイ受容体の腫瘍標的化活性確認
Cet-Grab及びTras-Grabの腫瘍標的化を評価するために、生体内異種移植マウスモデルにおいてCet-Grab及びTras-Grabの分布を直接モニタリングした。具体的に、マウスにEGFR+A431又はHER2+SKOV3癌細胞をマウスに偏位移植させた後、腫瘍サイズが~100mmに達すると、Cy5.5で標識されたCet-Grab又はTras-Grab(10mg/kg)をそれぞれA431及びSKOV3異種移植マウスに腹腔内注射し、Cy5.5蛍光信号を分析してCet-Grab及びTras-Grabの生体内分布をモニターした。また、Cy5.5-標識されたVEGF-GrabをA431及びSKOV3異種移植マウス両方で対照群として用いた。
【0131】
上記実験を行った結果、EGFR+A431腫瘍を有するbalb-c/ヌードマウスにおいて、大部分のCy5.5-Cet-Grabは腫瘍部位(背部の右肩)に特異的に局限されているのに対し、Cy5.5-VEGF-Grabは、身体全体に分布していた(図6A、上部)。したがって、腫瘍を有するマウスの主要臓器に対する評価は、腫瘍部位ではCet-Grabが高く蓄積されたことを示すが、他の臓器ではCet-Grabがほとんど存在しなかった(図6A、下部)。また、腫瘍切片の免疫蛍光分析結果は、Cet-Grabが腫瘍周辺及び腫瘍内領域の両方に均等に分布するのに対し、VEGF-Grabは主に腫瘍周囲領域に局限されていることを示した(図6C)。上記の結果と類似に、大部分のCy5.5-Tras-GrabはHER2+SKOV3腫瘍部位に特異的に局限されていた。
【0132】
上記の結果は、scFvセツキシマブ又はトラスツズマブとVEGF-Grabが融合したVEGFデコイ受容体(Cet-Grab及びTras-Grab)は、親VEGF-Grabに比べて、生体内腫瘍標的化効率を向上させるということを示す(図6B及び図6D)。
【0133】
実験例6:異種移植マウスモデルにおける多重-パラトープVEGFデコイ受容体の向上した抗-腫瘍効果確認
生体内で多重-パラトープVEGFデコイ受容体の抗腫瘍効果を評価した。
【0134】
まず、EGFR+A431細胞異種移植マウスモデルに10mg/kgのCet-Grab又はVEGF-Grabを一週間に2回ずつ3週間処理した結果(図7A)、Cet-Grabを処理した場合は、マウス総重量に影響を与えないとともに(図7B)、腫瘍の体積及び重さがそれぞれ57%及び55%減少したのに対し、VEGF-Grabを処理した場合は、腫瘍の体積及び重さがそれぞれ25.2%及び26.4%減少した(図7C及び図7D)。
【0135】
上記の結果によって、Cet-GrabがVEGF-Grabよりも優れた抗腫瘍効果を示す作用機転を分析するために、切除された腫瘍組織においてEGFR信号伝達と腫瘍血管構造の変化を確認した。
【0136】
細胞株に基づいて確認した結果と同様に、ウェスタンブロット分析及び免疫蛍光染色を用いて確認した結果、全体EGFRレベルが変わっていないにもかかわらず、切除された腫瘍組織におけるEGFRリン酸化は、VEGF-Grabが処理されたマウスと比較して、Cet-Grabが処理されたマウスにおいて有意に減少した。しかも、EGFRの不活性化と共に、ERK1/2のリン酸化がビークル処理されたものと比較して、Cet-Grabが処理されたマウスにおいて著しく減少した。VEGF-GrabはHUVECでVEGF-媒介ERKリン酸化を減衰させることができたが、欠如した抗-EGFR活性によってA431由来腫瘍組織のEGFRリン酸化及び以降のEGFR媒介ERKリン酸化には影響を与えなかった(図8)。
【0137】
また、A431異種移植腫瘍モデルに対するVEGF-Crab及びCet-Grabの処理は、ビークルに比べて、腫瘍に浸透する血管を著しく減少させ、Cet-Grab群(87.2%)における腫瘍血管の厚さ及び持続性は、VEGF-Grab群(63%)に比べてより減少した(図9A)。また、血清と腫瘍組織の両方でVEGF-Grab及びCet-Grabによって隔離可能なVEGFA及びPlGFタンパク質のレベルを測定した結果、VEGF-GrabがCet-Grabに比べて、VEGF及びPlGFに対してやや高い親和力を有するにもかかわらず、腫瘍微細環境でヒトA431癌細胞及び他の細胞からそれぞれ分泌された腫瘍-内領域のヒト及びマウスVEGF(VEGFA及びPlGF)のレベルは、VEGF-Grab処理群よりもCet-Grab処理群で有意に低かった(図9B及び図9C)。しかし、mVEGFの血漿濃度は、VEGF-Grabが処理されたマウスよりもCet-Grabが処理されたマウスでやや高く(図9D)、これは、Cet-GrabがEGFR+A431腫瘍領域に特異的に局限されることにより、潜在的にVEGF信号伝達の全身抑制の副作用を減少させ得る標的化された抗-VEGF活性を可能にするということを示す。
【0138】
Cet-Grabと類似に、Tras-Grabの処理は、HER2+SKOV3異種移植マウスモデルにおいてHER2リン酸化を効果的に抑制し、腫瘍に浸透する血管の数を減少させた(図10)。HER2+SKOV3異種移植マウスモデルにおいてTras-Grabの抗-腫瘍効能は、VEGF-Grab処理群に比べて若干向上したが、A431異種移植モデルにおけるCet-Grabほど著しくなかった。これは、Tras-Grab処理によって生体内でHER2リン酸化が効率的に抑制されるにもかかわらず、HER2+SKOV3異種移植マウスモデルの一部においてERKリン酸化が持続するためと見られる。
【0139】
上記の結果は、HER2+SKOV3腫瘍細胞の先天的又は後天的抵抗性はTras-Grabの効率性を制限でき、これは、Tras-Grab及び成長-促進ダウンストリーム信号伝達を抑制する他の製剤の組み合わせによってさらに改善され得ることを示す。
【0140】
また、セツキシマブの抗癌効能は、抗体依存性細胞毒性(antibody-dependent cellular cytotoxicity:ADCC)及び補体依存性毒性(complement-dependent cytotoxicity:CDC)をはじめとする免疫系の活性化に起因し、前記ADCC及びCDCは免疫作動細胞(immune effector cell)上のFcγIII受容体及びC1qのそれぞれの抗原-抗体複合体、特に抗体の上部CH2ドメイン及びCH1及びCH2ドメイン間のヒンジに対する結合によって主に媒介される。上記の実験においてヒト癌細胞の異種移植モデルとして免疫欠乏マウスを使用したので、生体内ADCCにおいてCet-Grabの効果を直接評価することができなかった。しかし、細胞-基盤ADCCレポーター分析の結果、Cet-Grabはセツキシマブと比して、わずかなADCC活性しか示さなかったが(図11)、これは、Cet-Grabにおいてヒンジ配列がないためと考えられる。
【0141】
上記の結果をまとめると、多重-パラトープVEGFデコイ受容体(Cet-Grab及びTras-Grab)は、生体内異種移植マウス腫瘍モデルにおいてVEGF-Grabと比してより向上した抗-腫瘍活性を示し、これは、EGFR/HER2-過発現腫瘍組織において多重-パラトープVEGFデコイ受容体の特異的局所化に起因したEGFR信号伝達の効果的抑制及び腫瘍-特異的抗-血管新生活性のためといえる。
【0142】
以上の説明から、本発明の属する技術分野における当業者は、本発明がその技術的思想や必須特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施可能であるということが理解できよう。これと関連して、以上で述べた実施例及び実験例はいずれの面においても例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。本発明の範囲は、上述した詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲そしてその等価概念から導出される如何なる変更又は変形された形態も本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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