(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】トルクステアの出現の段階的検出
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230912BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230912BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230912BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20230912BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20230912BHJP
B62D 127/00 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D117:00
B62D127:00
(21)【出願番号】P 2021500305
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(86)【国際出願番号】 FR2019051698
(87)【国際公開番号】W WO2020012106
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-14
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レディエール リュック
(72)【発明者】
【氏名】ミシェリ アンドレ
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-126808(JP,A)
【文献】特開2011-051394(JP,A)
【文献】特開2007-076579(JP,A)
【文献】特開2006-213085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00-6/10
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両においてステアリング戻り機能を段階的に作動および停止するための方法であって、
前記車両は、少なくとも2つの車輪と、ステアリングホイールと、
重み付け戻りトルク(C
RP)をステアリングラックに印加する補助モータと、車輪トルクを前記少なくとも2つの車輪に印加する駆動モータとを備え、
前記方法は、
前記2つの車輪のうちの少なくとも1つの車輪の車輪トルクに応じて
、トルクステア現象の強度を示す第1のゲイン(G
1)を決定する第1の段階(11)を含む、適用ゲイン(G
A)を計算する工程(1)と、
前記戻り機能に関連付けられ
た補助トルク(C
R)を推定する工程(2)と、
前記戻り機能に関連付けられた前記補助トルク(C
R)および前記適用ゲイン(G
A)を掛け合わせる工程(4)と、
を含み、
前記適用ゲイン(G
A)を計算する工程(1)において、前記ステアリングホイールの角度(α
D)および前記少なくとも2つの車輪の回転速度(V
R)の差に応じて第2のゲイン(G
2)を決定する第2の段階(12)を含
み、
前記決定の第2の段階(12)は、前記ステアリングホイールの角度(α
D
)に前記少なくとも2つの車輪の回転速度(V
R
)の差の符号を掛け合わせた符合付きステアリングホイール角度(α
D
)に依存し、
前記第2のゲイン(G
2
)は、前記符合付きステアリングホイール角度(α
D
)が正であるときには、前記符号付きステアリングホイール角度(α
D
)が大きくなるほど連続的に大きくなることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の方法であって、
前記決定の第2の段階(12)は、前記少なくとも2つの車輪の回転速度(V
R)の差の絶対値に
更に依存する、方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
前記第2のゲイン(G
2)は、0~1である、方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法であって、
前記第1のゲイン(G
1)は、0~1である、方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法であって、
前記適用ゲイン(G
A)を計算する工程(1)は、前記第1のゲイン(G
1)および前記第2のゲイン(G
2)を掛け合わせる工程を含む、方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法であって、
前記車両の横加速度(A
lat)と、前後加速度(A
lon)と、ヨーレート(V
L)と、前記ステアリングホイールの角度(α
D)とに応じて、補償ゲイン(G
C)を評価する工程(3)を包含
し、
前記補償ゲイン(G
C
)を評価する工程(3)は、前記横加速度(A
lat
)に応じて
第3のゲイン(G
3
)を決定する第3の段階(33)と、前記前後加速度(A
lon
)に応じて第4のゲイン(G
4
)を決定する第4の段階(34)と、前記ヨーレート(V
L
)の絶対値、若しくは前記ヨーレート(V
L
)と車両速度(V
V
)とから計算される理論的な角度、若しくは前記ヨーレート(V
L
)と車両速度(V
V
)とから計算される理論的な横加速度、および前記ステアリングホイールの角度(α
D
)若しくは前記ステアリングホイールの角度(α
D
)と車両速度(V
V
)とから計算される理論的なヨーレートに応じて第5のゲイン(G
5
)を決定する第5の段階(35)とを包含する、方法。
【請求項7】
請求項
6に記載の方法であって、
前記第5のゲイン(G
5)は、前記ステアリングホイールの角度(α
D)に前記ヨーレート(V
L)の符号を掛け合わせたもの、または前記ステアリングホイールの角度(α
D)と前記車両速度(V
V)とから計算される理論的なヨーレートに前記ヨーレート(V
L)の符号を掛け合わせたものに依存する、方法。
【請求項8】
少なくとも2つの車輪と、ステアリングホイールと、
重み付け戻りトルク(C
RP)をラックに印加する補助モータと、車輪トルクを前記少なくとも2つの車輪に印加する駆動モータとを備える車両のパワーステアリングデバイスであって、請求項1~
7のいずれか1項に記載の、車両においてステアリング戻り機能を段階的に作動および停止するための方法を実装する、パワーステアリングデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリングシステムの分野に関し、より詳細には、車両においてステアリング戻り(steering return)機能を段階的に作動(activate)および停止(deactivate)するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は、一般に、運転手が、車両が追従する軌道を変更できるようなステアリングシステムを含む。軌道を変更するために、運転手は、ステアリングホイールの角度を変化させる。ステアリングホイールは、ステアリングコラムに接続され、ステアリングコラム自体は、ラックに連結されている。ラックは、ステアリングホイールの角度を、車両の操舵輪の方向を変更できるような平行移動に変換する。これにより、車両は、右へ曲がったり(right bend)、左へ曲がったり(left bend)できる。ステアリングホイール角度が実質的にゼロであるとき、操舵輪は、車両の伸長軸と一直線上に並び、そして車両は、直線軌道を追従する。以下の記載においては、ステアリングホイールの角度が負になると、操舵輪は、車両の伸長軸に対して負の角度を形成し、車両は、左へ曲がる。反対に、ステアリングホイール角度が正になると、操舵輪は、車両の伸長軸に対して正の角度を形成し、車両は、右へ曲がる。運転手は、軌道を変更する際に、補助モータによって補助される。補助モータは、補助トルクをラックに送ることによって、ステアリングホイールの方向転換を容易にする。
【0003】
操舵輪は、通常、車両の進行方向に向かって左右にそれぞれ位置する左輪および右輪を含み、駆動輪でもあり得る。すなわち、操舵輪は、車両を推進するために、当該車両のエンジンから送られる駆動トルクの一部または全てを路面に伝えるように構成される。以下、用語「輪」(車輪ともいう)は、被操舵・駆動輪を指す。
【0004】
各車輪は、一方で、駆動トルクの一部を受け、他方で、追従する軌道および路面に関連する摩擦力を受ける。したがって、車輪にかかる力は、車輪ごとに異なり得る。
【0005】
各車輪に差動装置を備えつけ、差動装置によって駆動トルクを異なる分割量で右輪および左輪に印加できるようにして、特に曲がる間に、右輪を左輪と異なる速度で回転させることが長く知られてきた。以下、当該車輪が受け取る駆動トルクの分割量を「車輪トルク」と称す。
【0006】
差動装置には、グリップの喪失、すなわち、スリップが一方の車輪に生じたときに、駆動トルクがすべてこの車輪に伝達し、したがってこの車輪は制御不能になりやすく、同時に他方の車輪は、駆動能力を喪失するという欠点がよく知られている。
【0007】
この欠点を軽減するために、リミテッドスリップデファレンシャル、すなわち、「セルフロックデファレンシャル」がある。リミテッドスリップデファレンシャルは、回転速度が最も低い車輪、すなわち、車両が旋回するときにカーブ(bend)の内側に位置する車輪、または同じ回転速度を有する場合の両輪、または内側の車輪がスリップする場合のカーブの外側に位置する車輪に、駆動トルクを伝達することによって車両の牽引力を向上させることを目的とする。
【0008】
例えば、車両が左へ旋回するとき、すなわち、左輪がカーブの内側に位置するとき、左輪は、右輪よりもゆっくりと進むので、駆動トルクを受け取るのは左輪である。左輪がスリップすると、左輪の速度は、右輪の速度に達するまで上昇する。このとき、駆動トルクが右輪に伝達されて、トルクステア(torque steer)現象、すなわち、右方向へのセルフステアリングの現象が生じる。
【0009】
また、トルクステア現象は、車両が直線軌道を走行していて、車輪が路面に対して互いに異なるグリップを有する場合にも出現する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記トルクステア現象(「トルクステア」とも称す)を補償するために、自動車メーカーは、補償機能(「ステアリング戻り機能」とも称す)を組み込んでいる。これは、補助モータを介して、トルクステア現象によって起こされるステアリングホイールの角度のずれを補償することができる。この機能は、トルクステアステア現象が起きていないときに適用されると、車両の挙動について運転手に違和感を与えるという欠点を有する。
【0011】
車輪にかかる少なくとも1つのトルクを閾値と比較することによって、トルクステア現象の出現を検出し、これにより戻り機能を作動および停止することを可能にする解決策が知られている。
【0012】
したがって、この解決策は、戻り機能を完全に作動または停止する状態機械を提案するが、これは、作動および停止時に、運転手に車両の不自然な挙動を感じさせる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、車両においてステアリング戻り機能を段階的に作動および停止するための方法を提案することによって上記欠点の全てまたは一部を克服することである。当該車両は、少なくとも2つの車輪と、ステアリングホイールと、補助トルクをステアリングラックに印加する補助モータと、車輪トルクを少なくとも2つの車輪に印加する駆動モータとを備える。当該方法は、2つの車輪のうちの少なくとも1つの車輪の車輪トルクに応じて第1のゲインを決定する第1の段階を含む、適用ゲインを計算する工程と、戻り機能に関連付けられた補助トルクを推定する工程と、戻り機能に関連付けられた補助トルクと適用ゲインとを掛け合わせる工程とを含む方法であって、当該方法はまた、適用ゲインを計算する工程において、ステアリングホイールの角度と少なくとも2つの車輪の回転速度の差とに応じて第2のゲインを決定する第2の段階を含むことを特徴とする、方法である。
【0014】
本発明に係る方法によって、トルクステア現象が生じたときのみに、ステアリング戻り機能をステアリングシステムに段階的に適用することが可能になる。これにより、当該方法は、戻り機能が完全にアクティブである状態と、戻り機能が非アクティブである状態との間で、連続した遷移を行う。これにより、運転手は、戻り機能の作動または停止を感じない。
【0015】
段階的な適用は、第1のゲインおよび第2のゲインを含む適用ゲインを計算することによって得られる。各ゲインは、車両のパラメータに依存する。適用ゲインは、連続的に変化する。
【0016】
第1のゲインは、x軸が少なくとも1つの車輪へのトルクを表し、y軸が第1のゲインを表す2次元のグラフによって表される。第1のゲインは、トルクステア現象の強度を表す。
【0017】
第2のゲインは、トルクステア現象の出現を招き得る走行状況に入る確率を表す。
【0018】
次いで、上記適用ゲインは、戻り機能に関連付けられた補助トルクと掛け合わされ、補助モータによって車両ラックに印加される重み付け戻りトルクを決定する。
【0019】
本発明のある特徴によると、決定の第2の段階は、ステアリングホイールの角度に少なくとも2つの車輪の回転速度の差の符号を掛け合わせたものに依存する。
【0020】
本発明のある特徴によると、決定の第2の段階は、少なくとも2つの車輪の回転速度の差の絶対値に依存する。
【0021】
したがって、第2のゲインは、3次元グラフによって表される。
【0022】
本発明のある特徴によると、第2のゲインは、0~1である。
【0023】
本発明のある特徴によると、第1のゲインは、0~1である。
【0024】
本発明のある特徴によると、適用ゲインを計算する工程は、第1のゲインと第2のゲインとを掛け合わせる工程を含む。
【0025】
このように、第1のゲインまたは第2のゲインのうちの1つのゲインの値が0であるとき、適用ゲインは、ゼロであり、したがって、重み付け戻りトルクは、ゼロである、すなわち、トルクステア現象は検出されない。第1のゲインおよび第2のゲインの値が1であるとき、重み付け戻りトルクは、最大である、すなわち、トルクステア現象が車両に生じる。
【0026】
本発明のある特徴によると、車輪トルクは、2つの車輪のうちの少なくとも1つの車輪の回転速度、エンジン速度、およびエンジンによって供給される駆動トルクの関数として決定される。
【0027】
駆動モータによって行われる単位時間あたりの回転数をエンジン速度と称す。
【0028】
本発明のある特徴によると、上記方法は、車両の横加速度、前後加速度、ヨーレート、およびステアリングホイールの角度に応じて、補償ゲインを評価する工程を含む。
【0029】
横加速度は、車両の伸長軸に対して横向きの軸に沿った車両の瞬間的な位置の時間についての2階微分、すなわち、車両がカーブ軌道を走行するときの車両加速度に対応する。
【0030】
前後加速度は、車両の伸長軸に沿った車両の瞬間的な位置の時間についての2階微分、すなわち、車両が直線軌道を走行するときの車両加速度に対応する。
【0031】
ヨーレートは、車両の垂直軸を中心とした回転運動の速度に対応する。
【0032】
補償ゲインは、0~1のゲインである。補償ゲインは、掛け合わせ工程において、適用ゲインおよび戻り機能に関連付けられた補助トルクと掛け合わされる。
【0033】
補償ゲインは、戻り機能の適用を、車両の動的状況、すなわち、アンダーステアリング(understeering)またはオーバーステアリング(oversteering)状況にしたがって調整する。これは、車両の路面グリップの状態を考慮する。
【0034】
例えば、車両が氷などの低グリップ路面上を直線軌道で走行するとき、車輪は、路面を適切にグリップしない。この状況において、駆動トルクは高いが、前後加速度は低い。トルクステア現象は生じにくいので、補償ゲインは低い。
【0035】
路面がアスファルトなどのグリップの高い路面の場合、車輪は、路面を強くグリップする。車両がそのような路面上を直線軌道で走行するとき、前後加速度が大きくなる。トルクステア現象が出現する可能性があるので、補償ゲインは、1に近いかまたは1に等しい。
【0036】
本発明のある特徴によると、補償ゲインを評価する工程は、横加速度に応じて第3のゲインを決定する第3の段階と、前後加速度に応じて第4のゲインを決定する第4の段階と、ヨーレートの絶対値、若しくはヨーレートと車両速度とから計算される理論的な角度、若しくはヨーレートと車両速度とから計算される理論的な横加速度、およびステアリングホイールの角度若しくはステアリングホイールの角度と車両速度とから計算される理論的なヨーレートに応じて第5のゲインを決定する第5の段階とを含む。
【0037】
第3のゲインは、x軸が横加速度を表し、y軸が第3のゲインを表す2次元のグラフによって表される。
【0038】
第4のゲインは、x軸が前後加速度を表し、y軸が第4のゲインを表す2次元のグラフによって表される。
【0039】
第5の決定段階は、ステアリングホイールの角度とヨーレートとの整合性を確認する。
【0040】
本発明のある特徴によると、第5のゲインは、ステアリングホイールの角度にヨーレートの符号を掛け合わせたもの、またはステアリングホイールの角度と車両速度とから計算される理論的なヨーレートにヨーレートの符号を掛け合わせたものに依存する。
【0041】
したがって、第5のゲインは、3次元グラフによって表される。
【0042】
また、本発明は、少なくとも2つの車輪と、ステアリングホイールと、補助トルクをラックに印加する補助モータと、車輪トルクを少なくとも2つの車輪に印加する駆動モータとを備える車両のパワーステアリングデバイスであって、本発明に係る、車両においてステアリング戻り機能を段階的に作動および停止するための方法を実装する、パワーステアリングデバイスに関する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、本発明に係る方法の工程を表す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る第2のゲインを、ステアリングホイールの角度と車両の2つの車輪の回転速度の差の符号および2つの車輪の回転速度の差の絶対値とが掛け合わされたものの関数として表す3次元グラフである。
【
図3】
図3は、本発明に係る第5のゲインを、ステアリングホイール角度と車両のヨーレートの符号およびヨーレートの絶対値とが掛け合わされたものの関数として表す3次元グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、以下の記載によってよりよく理解され得る。以下の記載は、非限定の例によって与えられ、添付の模式図を参照して説明される本発明に係る実施形態に関する。
【0045】
以下の記載において、車両は、ステアリングホイールの角度αDの関数としての、車両によって追従される軌道を運転手が変更することを可能にするステアリングホイールを備えるものとする。ステアリングホイールは、ステアリングコラムに接続され、ステアリングコラム自体は、ラックに連結されている。ラックは、ステアリングホイールの角度αDを平行移動に変換する。この平行移動により、車両の2つの被操舵・駆動輪の方向を変更し、これによって車両は、右へ曲がったり、左へ曲がったりすることが可能になる。
【0046】
運転手は、ステアリングホイールの角度αDを変更しようと運転手が意図する際、補助モータが補助トルクをステアリングラックに入力することによって補助される。
【0047】
図1は、本発明に係る、車両においてステアリング戻り機能を段階的に作動および停止するための方法を例示する。
【0048】
戻り機能によって、車両のある走行状況において出現するトルクステア現象によって起こされるステアリングホイールの角度αDのずれを補償するように補助トルクCRを適用することが可能になる。
【0049】
戻り機能は、推定工程2において、戻り機能に関連付けられた補助トルクCRを決定する。補助トルクCRによって、トルクステア現象によって起こされるステアリングホイールの角度αDのずれを補償することが可能になる。推定工程2は、入力として、車両速度VV、ステアリングホイールの角度αD、およびステアリングホイールの回転速度VDを受け取る。
【0050】
さらに、上記方法は、工程1において適用ゲインGAを決定する。適用ゲインGAを計算する工程1は、第1のゲインG1を決定する第1の段階11および第2のゲインG2を決定する第2の段階12を含む。
【0051】
第1の段階11は、入力として、車両の駆動モータにより供給され、車両の推進を可能にする駆動トルクCMと、エンジン速度ERPM、すなわち、駆動モータによって行われる単位時間あたりの回転数と、2つの車輪の回転速度VRとを受け取る。これにより、第1の段階11は、第1のゲインG1を決定する。第1のゲインG1は、x軸上に車輪トルク、すなわち、車輪によって受け取られる駆動トルクCMの分割量をとり、y軸上に第1のゲインG1をとる2次元のグラフによって表される。第1のゲインG1は、トルクステア現象の強度を表す。第1のゲインG1は、0~1である。
【0052】
第2の段階12は、入力として、2つの車輪の回転速度V
Rとステアリングホイールの角度α
Dとを受け取る。これにより、第2の段階12は、第2のゲインG
2を決定する。第2のゲインG
2は、
図2に例示するような、x軸上に2つの車輪の回転速度の差の絶対値|ΔV
R|(単位は、キロメートル/時間、すなわち、km/h)をとり、次元軸上にステアリングホイールの角度α
Dに2つの車輪の回転速度の差の符号(ΔV
Rの符号)を掛け合わせたものをとる3次元グラフによって表される。以下、符号付きステアリングホイール角度α
D(単位は、度、すなわち、deg)と称す。
【0053】
さらに詳細には、第2のゲインG2は、第1のゾーン21において、車両がトルクステア現象の出現リスクのない走行状況にあるときには、実質的に0に等しい値を有する。
【0054】
このように、車輪間の回転速度差ΔVRが大きく(3km/hより大きい)かつ符号付きステアリングホイール角度αDが負であるときに、トルクステア現象の出現リスクはないと判断される。この第1のゾーン21は、車両が一方向へ曲がる走行状況、例えば、左輪が右輪よりも大きい回転速度VRを有する状態で、車両の進行方向に対して左へ曲がる走行状況を表す。実際に、駆動トルクCMを最も低い回転速度VRを有する車輪、すなわち、この例の場合は右輪に伝達すると、車両が左へ曲がることが促進されることになる。
【0055】
第2のゲインG2は、第2のゾーン22において、符号付きステアリングホイール角度αDが実質的に0に等しいときに、実質的に0に等しい値を有し、符号付きステアリングホイール角度αDが実質的に1に等しいときに、実質的に1に等しい値を有する。第2のゾーン22において、第2のゲインG2は、連続的に大きくなる。第2のゾーン22は、トルクステア現象の出現リスクがある車両走行状況を表す。実際に、符号付きステアリングホイール角度αDが大きくなるほど、すなわち、車両がより曲がった軌道を走行するほど、トルクステア現象の出現リスクがより大きくなる。
【0056】
さらに、第3のゾーン23において、第2のゲインG2は、車輪間の回転速度差ΔVRが小さく(3km/h未満)、かつ符号付きステアリングホイール角度αDが負であるときに、実質的に0に等しい値を有し、車輪間の回転速度差ΔVRが0km/hに等しく、かつ符号付きステアリングホイール角度αDが-90°に等しいときに、最大0.8に増大する値を有する。第3のゾーン23は、トルクステア現象の平均的な出現リスクがある車両走行状況を表す。実際に、車輪間の速度差が小さいほど、トルクステア現象は、より多く出現し得る。
【0057】
第2のゲインG2は、0~1の間で変化し、トルクステア現象の出現を招き得る走行状況に入る確率を表す。
【0058】
適用ゲインGAの計算工程1は、第1のゲインG1と第2のゲインG2とを掛け合わせる工程を含む。
【0059】
このように、第1のゲインG1および/または第2のゲインG2の値が0であるとき、適用ゲインGAは、ゼロである、すなわち、トルクステア現象は検出されない。第1のゲインG1および第2のゲインG2の値が1であるとき、適用ゲインGAは、1に等しい、すなわち、トルクステア現象が車両に生じる。
【0060】
また、上記方法は、補償ゲインGCを評価する工程3において補償ゲインGCを決定する。補償ゲインGCを評価する工程3は、第3のゲインG3を決定する第3の段階33と、第4のゲインG4を決定する第4の段階34と、第5のゲインG5を決定する第5の段階35とを含む。
【0061】
第3の段階33は、入力として、車両の横(lateral)加速度Alatの値を受け取る。これにより、第3の段階33は、第3のゲインG3を決定する。第3のゲインG3は、x軸上に横加速度Alatをとり、y軸上に0~1の間で変化する第3のゲインG3をとる2次元のグラフによって表される。
【0062】
横加速度は、車両がカーブ軌道を走行する際の車両加速度に対応する。
【0063】
第4の段階34は、入力として、車両の前後(longitudinal)加速度Alonの値を受け取る。これにより、第4の段階34は、第4のゲインG4を決定する。第4のゲインG4は、x軸上に前後加速度Alonをとり、y軸上に0~1の間で変化する第4のゲインG4をとる2次元のグラフによって表される。
【0064】
前後加速度Alonは、車両が直線軌道を走行する際の車両加速度に対応する。
【0065】
第5の段階35は、入力として、車両のステアリングホイールの角度α
DとヨーレートV
Lとを受け取る。これにより、第5の段階35は、第5のゲインG
5を決定する。第5のゲインG
5は、
図3に例示するような、x軸上にステアリングホイールの角度α
Dにヨーレートの符号を掛け合わせたもの(符号付きステアリングホイール角度α
Dと称す)をとり、次元軸上に車両ヨーレートの絶対値|V
L|をとる3次元グラフによって表される。ヨーレートV
Lは、車両の垂直軸を中心とした回転運動の速度に対応する。
【0066】
さらに詳細には、第5のゲインG5は、第1のゾーン24において、符号付きステアリングホイール角度αDが負であるときに、実質的に1に等しい値を有し、第2のゾーン25において、符号付きステアリングホイール角度αDが正であるときに、実質的に0に等しい値を有する。
【0067】
第5のゲインG5は、ステアリングホイール角度αDとヨーレートVLとの間の整合性を例示する。
【0068】
補償ゲインGCは、第3のゲインG3と、第4のゲインG4と、第5のゲインG5とを掛け合わせたものである。補償ゲインGCは、0~1である。
【0069】
掛け合わせ工程4において、戻り機能に関連付けられた補助トルクCRを適用ゲインGAおよび補償ゲインGCと掛け合わせて、重み付け戻りトルクCRPを得る。
【0070】
これにより、適用ゲインGAは、戻り機能の適用を、車両に生じるトルクステア現象の強度の関数として調整し、補償ゲインGCは、車両の路面グリップの状態を考慮するために、戻り機能の適用を、車両の動的状況、すなわち、アンダーステアリング(understeering)またはオーバーステアリング(oversteering)状況の関数として調整する。
【0071】
重み付け戻りトルクCRPによって、トルクステア現象が生じたときのみに、ステアリング戻り機能をステアリングシステムに段階的に適用することが可能になる。これにより、上記方法は、戻り機能が完全にアクティブである状態、すなわち、適用ゲインGAおよび補償ゲインGCが1に等しいときと、戻り機能が非アクティブである状態、すなわち、適用ゲインGAおよび/または補償ゲインGCが0に等しいときとの間で、連続した遷移を行う。これにより、運転手は、戻り機能の作動または停止を感じない。
【0072】
当然ながら、本発明は、添付の図面に示した上記実施形態に限定されない。特に、種々の要素の構成の観点から、または技術的な均等物の置き換えによって、本発明の保護の範囲から逸脱せずに、変更が可能である。