(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】細胞培養基材
(51)【国際特許分類】
C12M 3/04 20060101AFI20230912BHJP
C12N 5/00 20060101ALI20230912BHJP
C08F 220/26 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C12M3/04 A
C12N5/00
C08F220/26
(21)【出願番号】P 2021524052
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2019049581
(87)【国際公開番号】W WO2020130032
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018238596
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安齊 崇王
(72)【発明者】
【氏名】平原 一郎
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/159153(WO,A1)
【文献】Patel, A. K. et al.,"A defined synthetic substrate for serum-free culture of human stem cell derived cardiomyocytes with,Biomaterials,2015年,Vol. 61,pp. 257-265
【文献】Hutcheon, G. A. et al.,"Water absorption and surface properties of novel poly(ethylmethacrylate) polymer systems for use in,Biomaterials,2001年,Vol. 22,pp. 667-676
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00- 7/08
C08F 10/00-246/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材の少なくとも一方の面に、
40モル%を超えて100モル%未満の下記式(1)で表されるフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(1)および0モル%を超えて60モル%未満のカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の構成単位(2)を有する共重合体(前記構成単位(1)および前記構成単位(2)の合計は100モル%である)を含む被覆層を有
し、
前記エチレン性不飽和単量体は、下記式(2)で表されるカルボキシアルキル(メタ)アクリレートである、細胞培養基材:
【化1】
ただし、R
1は、水素原子またはメチル基であり、R
2は、下記式(1-1)または下記式(1-2):
【化2】
ただし、R
3は、炭素原子数1~3のアルキレン基である;で表される基である、
【化3】
ただし、R
4
は、水素原子またはメチル基であり、R
5
は、炭素原子数2~3のアルキレン基である。
【請求項2】
前記共重合体が、60~95モル%の前記構成単位(1)および5~40モル%の前記構成単位(2)を有する共重合体(前記構成単位(1)および前記構成単位(2)の合計は100モル%である)である、請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項3】
前記共重合体が、前記構成単位(1)および前記構成単位(2)から構成される、請求項1または2に記載の細胞培養基材。
【請求項4】
前記高分子基材は、親水性高分子基材である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の細胞培養基材。
【請求項5】
前記高分子基材が、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホンおよびポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の細胞培養基材。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の細胞培養基材を有する、バイオリアクター。
【請求項7】
請求項
6に記載のバイオリアクターを用いて細胞を培養する、細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞接着性に優れる細胞培養基材ならびに当該細胞培養基材を用いるバイオリアクターおよび細胞の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療や創薬の開発に際し、細胞培養技術が用いられている。特に幹細胞の使用に注目が集まっており、ドナー細胞から増殖した幹細胞を用いることにより、損傷や欠陥のある組織を修復・置換する技術が盛んに研究されている。ヒトを含め動物の細胞のほとんどは、浮遊状態では生存できず、何かに接着した状態で生存する接着(足場依存)性細胞である。このため、接着(足場依存)性細胞を高密度に培養して、生体組織と類似した培養組織を得るための機能的な培養基材の開発が様々行われている。
【0003】
細胞培養基材としては、従来、プラスチックやガラスの容器が使用されてきたが、これらの細胞容器の表面にプラズマ処理などを施すことが報告されている。当該処理がなされた基材は、細胞との接着性に優れ、細胞の増殖および機能維持を行うことができる。
【0004】
一方、細胞培養基材(細胞培養容器)の構造は、従来の平面な皿(プレート)構造以外に、バッグ内に培養足場として多孔体を挿入した構造、中空糸(ホローファイバー)構造、スポンジ構造、綿状(ガラスウール)構造、複数のディッシュを積層した構造など、多様化が進んでいる。このように構造が多様化・複雑化した培養容器に対しては、プラズマ処理を行うことが困難もしくは不可能である。
【0005】
中空糸型バイオリアクターを用いた細胞培養技術において、プラズマ処理以外の方法による中空糸膜への細胞接着性向上が検討されている。例えば、特許文献1では、血小板溶解物、血漿、フィブロネクチン等の細胞接着因子で中空糸膜を表面処理することにより、中空糸膜への細胞接着性が向上することが開示されているが、細胞接着因子は高価である。
【0006】
一方、細胞接着を促す高分子を用いたコーティングが開示されている。例えば、非特許文献1には、テトラヒドロフルフリルアクリレートのホモポリマー(PTHFA;ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート)を用いて、ポリスチレン製の細胞培養基材を表面処理することで、細胞培養基材への細胞接着性が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Colloids and Surfaces B: Biointerfaces 145 (2016) 586-596.
【発明の概要】
【0009】
バイオリアクターに使用される中空糸膜は、通常、培地交換を行うために、親水化処理が施されている。そこで、本発明者らは、非特許文献1に記載されたPTHFAを用いて親水性高分子基材を表面処理し、細胞接着性が向上するか検討した。その結果、細胞接着性は向上したものの、さらなる向上の余地があることが判った。したがって、バイオリアクター用中空糸膜のような親水性細胞培養基材について、細胞接着性のさらなる向上が求められている。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(PTHFA)を用いて表面処理した場合に比べて、高分子基材(特に親水性高分子基材)に対して優れた細胞接着性を付与できる手段を提供することを目的とする。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、特定の構造を有するフルフリル(メタ)アクリレートに由来する構成単位およびカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構成単位を、特定の組成(モル比)で含む共重合体を用いて細胞培養基材(高分子基材)表面を被覆することによって、上記課題を解決できることを知得した。本発明は、上記知見に基づいて完成した。
【0012】
すなわち、上記諸目的は、高分子基材の少なくとも一方の面に、40モル%を超えて100モル%未満の下記式(1)で表されるフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(1)および0モル%を超えて60モル%未満のカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の構成単位(2)を有する共重合体(構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である)を含む被覆層を有する、細胞培養基材によって達成できる。
【0013】
【0014】
ただし、R1は、水素原子またはメチル基であり、R2は、下記式(1-1)または下記式(1-2):
【0015】
【0016】
ただし、R3は、炭素原子数1~3のアルキレン基である;で表される基である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明のバイオリアクター(中空糸型バイオリアクター)の一実施形態を示す部分側面図である。
【
図2】
図2は、
図1のバイオリアクターの一部切欠側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の細胞培養基材は、高分子基材の少なくとも一方の面に、40モル%を超えて100モル%未満の下記式(1)で表されるフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(1)および0モル%を超えて60モル%未満のカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の構成単位(2)を有する共重合体(構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である)を含む被覆層を有する、細胞培養基材である:
【0019】
【0020】
ただし、R1は、水素原子またはメチル基であり、R2は、下記式(1-1)または下記式(1-2):
【0021】
【0022】
ただし、R3は、炭素原子数1~3のアルキレン基である;で表される基である。
【0023】
本発明によれば、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(PTHFA)を用いて表面処理した場合に比べて、高分子基材(特に親水性高分子基材)に対して優れた細胞接着性を付与することができる。
【0024】
本明細書において、上記式(1)で表されるフルフリル(メタ)アクリレートを単に「フルフリル(メタ)アクリレート」と、また、上記式(1)で表されるフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位を単に「構成単位(1)」とも称する。また、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体を単に「エチレン性不飽和単量体」と、また、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の構成単位を単に「構成単位(2)」とも称する。さらに、構成単位(1)および構成単位(2)を有する共重合体を単に「共重合体」または「本発明に係る共重合体」とも称する。
【0025】
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの双方を包含する。同様にして、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルの双方を包含する。
【0026】
また、本明細書において、「親水性」とは、対象物表面の水に対する接触角が50°以下、好ましくは40°以下であることをいう。なお、本明細書において、接触角は、接触角計(測定方法;JIS R 3257:1999(静滴法)準拠)により測定される値を採用するものとする。
【0027】
本発明の細胞培養基材は、上記共重合体を含む被覆層が高分子基材の少なくとも一方の面に形成されてなることを特徴とする。上記共重合体を用いて形成される被覆層は、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(PTHFA)を用いて形成される被覆層に比べて、優れた細胞接着性を有する。ここで、本発明の構成による上記作用効果の発揮のメカニズムは以下のように推測される。なお、本発明は下記推測に限定されるものではない。
【0028】
上述したように、中空糸型バイオリアクターを用いた細胞培養技術において、中空糸膜への細胞接着性の向上が求められている。バイオリアクターに使用される中空糸膜は、通常、培地交換を行うために、親水化処理が施されている。一方、非特許文献1には、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(PTHFA)を用いて、ポリスチレン製の細胞培養基材を表面処理することで、細胞培養基材への細胞接着性が向上することが開示されている。そこで、本発明者らは、PTHFAを用いて親水性高分子基材を表面処理し、細胞接着性が向上するか検討した。その結果、細胞接着性は向上したものの、さらなる向上の余地があることがわかった(下記比較例1、3)。
【0029】
そこで、本発明者らは、PTHFAに比べて、高分子基材(特に親水性高分子基材)に対して優れた細胞接着性を付与できる重合体について鋭意検討した。その結果、上記構成単位(1)および構成単位(2)を特定割合で含む共重合体を用いて高分子基材の表面処理を行うことで、PTHFAを用いて表面処理した場合に比べて、高分子基材への細胞接着性が顕著に向上することを見出した。
【0030】
当該共重合体を用いて高分子基材を表面処理すると、高分子基材上に、適度な疎水性を有する(例えば、水に対する接触角が約60~70°である表面を有する)被覆層が形成される。当該被覆層を有する高分子基材を用いて細胞を培養すると、培地に含まれる細胞接着因子(細胞接着性タンパク質)が当該被覆層に良好に吸着し、これを介して細胞が接着しやすくなると推測される。また、構成単位(2)中に含まれるカルボン酸基は、細胞伸展(増殖)や細胞接着のシグナルの活性化または誘導を引き起こして、細胞の伸展(増殖)や接着を促進すると考えられる。これらの作用により、高分子基材に対して、優れた細胞接着性さらには細胞伸展(増殖)性を付与することができると考えられる。
【0031】
一方で、本発明者らは、驚くべきことに、共重合体中の構成単位(2)の含有量(割合)が60モル%以上の場合には、PTHFAの場合に比べても細胞接着性が低下することをも見出した(下記比較例2)。この原因は不明であるが、共重合体中の構成単位(2)の含有量(割合)が60モル%以上である場合には、上記細胞接着因子よりも、これ以外の成分(細胞接着性を有さないか、または、細胞接着性が低い成分;例えば培地に含まれるアルブミン等)の被覆層(被膜)上への接着が支配的となり、被覆層(被膜)上に細胞接着因子の接着量が少なくなるためであると推測される。
【0032】
なお、例えば、カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシアルキル(メタ)アクリレートのホモポリマーは細胞接着性を低下させる。この点を考慮すると、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体を用いて形成される共重合体が、PTHFAに比べて優れた細胞接着性を発現できるという本発明者らの発見は、非常に驚くべきものである。
【0033】
以下、本発明の好ましい実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0034】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0035】
<細胞培養基材>
本発明の細胞培養基材は、高分子基材の少なくとも一方の面に、上記共重合体を含む被覆層が形成されてなる。
【0036】
高分子基材(特に親水性高分子基材)の表面に、本発明に係る共重合体を含む被覆層を形成すると、PTHFAを含む被覆層を形成した場合に比べて、優れた細胞接着性を発現することができる。また、本発明に係る共重合体を含む被覆層を有する細胞培養基材は、細胞伸展性(細胞増殖性)にも優れる。加えて、本発明に係る共重合体を含む被覆層は、共重合体を溶媒に溶解し、この溶液を高分子基材表面に塗布することによって簡便に形成できる。このため、本発明に係る共重合体を使用することにより、細胞培養基材(細胞培養容器)の形状・設計によらず、基材表面に細胞接着性(さらには細胞増殖性)を有する被覆層を形成できる。
【0037】
[共重合体]
本発明に係る共重合体は、40モル%を超えて100モル%未満の下記式(1)で表されるフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(1)および0モル%を超えて60モル%未満のカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の構成単位(2)を有する。ここで、構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である。当該共重合体を用いることで、PTHFAを用いた場合に比べて、高分子基材(特に親水性高分子基材)に優れた細胞接着性(さらには細胞増殖性)を付与することができる。加えて、当該共重合体の溶液を高分子基材表面に塗布することによって、様々な形状の基材に対しても被覆層を簡便に形成できる。このため、本発明に係る共重合体であれば、様々な形状・設計の細胞培養基材(細胞培養容器)対して、細胞接着性(さらには細胞増殖性)に優れた被覆層を形成できる。
【0038】
細胞接着性(さらには細胞増殖性)のさらなる向上の観点から、好ましくは、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対して、構成単位(1)は50~98モル%であり、かつ構成単位(2)は2~50モル%である。より好ましくは、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対して、構成単位(1)は60~95モル%であり、かつ構成単位(2)は5~40モル%である。さらにより好ましくは、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対して、構成単位(1)は70~93モル%であり、かつ構成単位(2)は7~30モル%である。特に好ましくは、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対して、構成単位(1)は80~90モル%であり、かつ構成単位(2)は10~20モル%である。最も好ましくは、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対して、構成単位(1)は85~90モル%であり、かつ構成単位(2)は10~15モル%である。
【0039】
すなわち、本発明の好ましい形態によると、共重合体は、50~98モル%の構成単位(1)および2~50モル%の構成単位(2)を有する共重合体(構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である)である。本発明のより好ましい形態によると、共重合体は、60~95モル%の構成単位(1)および5~40モル%の構成単位(2)を有する共重合体(構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である)である。本発明のさらにより好ましい形態によると、共重合体は、70~93モル%の構成単位(1)および7~30モル%の構成単位(2)を有する共重合体(構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である)である。本発明の特に好ましい形態によると、共重合体は、80~90モル%の構成単位(1)および10~20モル%の構成単位(2)を有する共重合体(構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である)である。本発明の最も好ましい形態によると、共重合体は、85~90モル%の構成単位(1)および10~15モル%の構成単位(2)を有する共重合体(構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である)である。
【0040】
本発明に係る共重合体は、構成単位(1)および構成単位(2)を必須に含むが、構成単位(1)および構成単位(2)に加えて、他のモノマーに由来する構成単位をさらに有していてもよい。ここで、他のモノマーは、細胞接着性を阻害しないものであれば特に制限されない。具体的には、他のモノマーとしては、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、メタアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、エチレン、プロピレン、N-ビニルアセトアミド、N-イソプロペニルアセトアミド、N-(メタ)アクリロイルモルホリン等がある。これらの他のモノマーは、1種単独であっても、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。共重合体が他のモノマーに由来する構成単位をさらに有する場合の他のモノマーに由来する構成単位の組成は、細胞接着性を阻害しないものであれば特に制限されないが、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対して、0モル%を超えて10モル%未満であることが好ましく、3~8モル%程度であることがより好ましい。
【0041】
ただし、細胞接着性(さらには細胞増殖性)のさらなる向上の観点から、共重合体は、他のモノマーに由来する構成単位を含まない、すなわち、構成単位(1)および構成単位(2)のみから構成されることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、共重合体は、構成単位(1)および構成単位(2)から構成される。
【0042】
したがって、本発明のより好ましい形態によると、共重合体は、50~98モル%の構成単位(1)および2~50モル%の構成単位(2)からなる共重合体(構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である)である。本発明のさらに好ましい形態によると、共重合体は、60~95モル%の構成単位(1)および5~40モル%の構成単位(2)からなる共重合体(構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である)である。本発明のさらにより好ましい形態によると、共重合体は、70~93モル%の構成単位(1)および7~30モル%の構成単位(2)からなる共重合体(構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である)である。本発明の特に好ましい形態によると、共重合体は、80~90モル%の構成単位(1)および10~20モル%の構成単位(2)からなる共重合体(構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である)である。本発明の最も好ましい形態によると、共重合体は、85~90モル%の構成単位(1)および10~15モル%の構成単位(2)からなる共重合体(構成単位(1)および構成単位(2)の合計は100モル%である)である。
【0043】
なお、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対する構成単位(1)の含有量(モル%)は、共重合体の合成に使用するフルフリル(メタ)アクリレートおよびカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体の合計量に対するフルフリル(メタ)アクリレートの含有量(モル%)と実質的に同等である。また、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対する構成単位(2)の含有量(モル%)は、共重合体の合成に使用するフルフリル(メタ)アクリレートおよびカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体の合計量に対するカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体の含有量(モル%)と実質的に同等である。
【0044】
本発明に係る共重合体において、各構成単位の配置は特に制限されない。本発明に係る共重合体は、ブロック状(ブロック共重合体)でもよいし、ランダム状(ランダム共重合体)でもよいし、交互状(交互共重合体)でもよい。
【0045】
≪構成単位(1)≫
構成単位(1)は、下記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来である。なお、共重合体を構成する構成単位(1)は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。すなわち、構成単位(1)は、1種単独の下記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位のみから構成されても、あるいは下記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の2種以上の構成単位から構成されてもよい。なお、後者の場合、各構成単位は、ブロック状に存在しても、ランダム状に存在してもよい。また、構成単位(1)が下記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の2種以上の構成単位から構成される場合には、上記構成単位(1)の組成は、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対する、フルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位の合計の割合(モル比(モル%))である。
【0046】
【0047】
【0048】
上記式(1)中、R1は、水素原子またはメチル基である。
【0049】
R2は、上記式(1-1)または式(1-2)で表される基である。これらのうち、細胞接着性(さらには細胞増殖性)のさらなる向上などの観点から、R2は、上記式(1-1)で表される基であると好ましい。上記式(1-1)および(1-2)中、R3は、炭素原子数1~3のアルキレン基である。ここで、炭素原子数1~3のアルキレン基としては、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-CH2CH2-)、トリメチレン基(-CH2CH2CH2-)、およびプロピレン基(-CH(CH3)CH2-または-CH2CH(CH3)-)がある。中でも、細胞接着性(さらには細胞増殖性)のさらなる向上の観点から、R3は、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-CH2CH2-)が好ましく、メチレン基(-CH2-)がより好ましい。
【0050】
すなわち、フルフリル(メタ)アクリレートとしては、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、フルフリルアクリレート、フルフリルメタクリレート、5-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]テトラヒドロフラン、5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]テトラヒドロフラン、5-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]フラン、5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フラン等がある。これらは、1種単独であっても、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。中でも、細胞接着性(さらには細胞増殖性)のさらなる向上の観点から、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートであることが好ましく、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)であることがより好ましい。
【0051】
≪構成単位(2)≫
構成単位(2)は、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来である。なお、共重合体を構成する構成単位(2)は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。すなわち、構成単位(2)は、1種単独のカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の構成単位のみから構成されても、あるいはカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の2種以上の構成単位から構成されてもよい。なお、後者の場合、各構成単位は、ブロック状に存在しても、ランダム状に存在してもよい。また、構成単位(2)がカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の2種以上の構成単位から構成される場合には、上記構成単位(2)の組成は、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対する、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の構成単位の合計の割合(モル比(モル%))である。
【0052】
構成単位(2)を形成するカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体は、1分子内において、それぞれ1以上のカルボン酸基(-COOH)およびエチレン性不飽和基を有する化合物であれば特に制限されない。ここで、「エチレン性不飽和基」とは、エチレン(CH2=CH2)の水素原子が置換されてなる基をいい、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、ビニルエーテル基等が挙げられる。なお、これらの基は、エチレン性不飽和単量体の1分子内に1種のみ含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0053】
なかでも、エチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基であると好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、エチレン性不飽和単量体は、(メタ)アクリロイル基を有する。よって、エチレン性不飽和単量体は、1分子内において、1以上のカルボン酸基および1以上のアクリロイル基またはメタクリロイル基をそれぞれ有する化合物であると好ましい。エチレン性不飽和単量体に含まれるカルボン酸基および(メタ)アクリロイル基の数の上限は特に制限されないが、細胞接着性(さらには細胞増殖性)の観点から、1分子中におけるカルボン酸基の数は、3以下であると好ましく、2以下であるとより好ましく、1であると特に好ましい。また、上記式(1)で表されるフルフリル(メタ)アクリレートとの共重合体の調製の容易さや、細胞接着性(さらには細胞増殖性)の制御の観点から、1分子中における(メタ)アクリロイル基の数は3以下であると好ましく、2以下であるとより好ましい。特に、各構成単位の組成(モル比)を制御して、細胞接着性(さらには細胞増殖性)のさらなる向上の観点から、1分子中における(メタ)アクリロイル基の数は1であると特に好ましい。
【0054】
細胞接着性(さらには細胞増殖性)のさらなる向上の観点から、構成単位(2)は、下記式(2)で表されるカルボキシアルキル(メタ)アクリレート由来であることが好ましい。すなわち、エチレン性不飽和単量体は、下記式(2)で表されるカルボキシアルキル(メタ)アクリレートであると好ましい。なお、共重合体を構成する構成単位(2)は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。すなわち、構成単位(2)は、1種単独の下記式(2)で表されるカルボキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位のみから構成されても、あるいは下記式(2)で表されるカルボキシアルキル(メタ)アクリレート由来の2種以上の構成単位から構成されてもよい。なお、後者の場合、各構成単位は、ブロック状に存在しても、ランダム状に存在してもよい。また、構成単位(2)が下記式(2)で表されるカルボキシアルキル(メタ)アクリレート由来の2種以上の構成単位から構成される場合には、上記構成単位(2)の組成は、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対する、カルボキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の合計の割合(モル比(モル%))である。
【0055】
【0056】
上記式(2)中、R4は、水素原子またはメチル基であり、好ましくは水素原子である。R5は、炭素原子数2~3のアルキレン基である。ここで、炭素原子数2~3のアルキレン基としては、エチレン基(-CH2CH2-)、トリメチレン基(-CH2CH2CH2-)、およびプロピレン基(-CH(CH3)CH2-または-CH2CH(CH3)-)がある。これらのうち、細胞接着性(さらには細胞増殖性)のさらなる向上などの観点から、R5は、エチレン基(-CH2CH2-)、トリメチレン基(-CH2CH2CH2-)が好ましく、エチレン基(-CH2CH2-)がより好ましい。
【0057】
すなわち、カルボキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシプロピルアクリレート、カルボキシイソプロピルアクリレート、カルボキシエチルメタクリレート、カルボキシプロピルメタクリレート、カルボキシイソプロピルメタクリレート等がある。これらは、1種単独であっても、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。これらのうち、細胞接着性(さらには細胞増殖性)のさらなる向上などの観点から、カルボキシエチル(メタ)アクリレートであることが好ましく、カルボキシエチルアクリレート(CEA)であることがより好ましい。
【0058】
上記共重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、好ましくは5,000~200,000である。上記範囲内であれば、共重合体の溶媒に対する溶解性が向上し、基材への塗布を均一に行いやすくなる。共重合体の重量平均分子量は、塗膜形成性を向上させるという観点から、より好ましくは10,000~100,000であり、特に好ましくは14,000~50,000である。
【0059】
本明細書において、「重量平均分子量(Mw)」は、標準物質としてポリスチレンを、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)をそれぞれ使用するゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。具体的には、共重合体をテトラヒドロフラン(THF)に10mg/mlの濃度となるように溶解し、試料を調製する。このようにして調製された試料について、GPCシステムLC-20((株)島津製作所製)にGPCカラムLF-804(昭和電工(株)製)を取り付け、移動相としてTHFを流し、標準物質としてポリスチレンを用いて、共重合体のGPCを測定する。標準ポリスチレンで較正曲線を作製した後、この曲線に基づいて共重合体の重量平均分子量(Mw)を算出する。
【0060】
本発明に係る共重合体は、特に制限されず、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合、リビングラジカル重合法、マクロ開始剤を用いた重合法、重縮合法等など、従来公知の重合法を適用して作製可能である。具体的には、例えば、本発明に係る共重合体がブロック共重合体である場合には、リビングラジカル重合法またはマクロ開始剤を用いた重合法が好ましく使用される。リビングラジカル重合法としては、特に制限されないが、例えば特開平11-263819号公報、特開2002-145971号公報、特開2006-316169号公報等に記載される方法、ならびに原子移動ラジカル重合(ATRP)法などが、同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。
【0061】
または、例えば、本発明に係る共重合体がランダム共重合体である場合には、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレートと、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体(好ましくは、上記式(2)のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート)と、必要であればこれらと共重合し得る単量体(他のモノマー、共重合性単量体;以下同様)の一種または二種以上とを重合溶媒中で重合開始剤と共に撹拌して、単量体溶液を調製し、上記単量体溶液を加熱することにより、共重合させる方法が好ましく使用される。上記方法において、単量体溶液の調製で使用できる重合溶媒は、上記使用される単量体を溶解できるものであれば特に制限されない。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、ポリエチレングリコール類などの水性溶媒;トルエン、キシレン、テトラリン等の芳香族系溶媒;およびクロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒などが挙げられる。これらのうち、単量体の溶解しやすさなどを考慮すると、メタノールまたはエタノールが好ましい。また、単量体溶液中の単量体濃度は、特に制限されないが、単量体溶液中の単量体濃度は、通常15~60重量%であり、より好ましくは20~50重量%であり、特に好ましくは25~45重量%である。なお、上記単量体濃度は、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレートと、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体(好ましくは、上記式(2)のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート)と、使用する際にはこれらと共重合し得る単量体(他のモノマー、共重合性単量体)との合計濃度を意味する。
【0062】
重合開始剤は特に制限されず、公知のものを使用すればよい。好ましくは、重合安定性に優れる点で、ラジカル重合開始剤であり、具体的には、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素、t-ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジスルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)]ハイドレート、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-アミルパーオキシネオデカノエート、t-アミルパーオキシピバレート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(セカンダリーブチル)パーオキシジカーボネート、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物が挙げられる。また、例えば、上記ラジカル重合開始剤に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。重合開始剤の配合量は、単量体合計量1molに対して、0.5~5mmolが好ましい。このような重合開始剤の配合量であれば、各単量体の共重合が効率よく進行する。
【0063】
上記重合開始剤は、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレートおよびカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体(好ましくは、上記式(2)のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート)、ならびに使用する際にはこれらと共重合し得る単量体(他のモノマー、共重合性単量体)と、重合溶媒とそのまま混合されてもよいが、予め他の溶媒に溶解した溶液の形態で単量体および重合溶媒と混合されてもよい。後者の場合、他の溶媒としては、重合開始剤を溶解できるものであれば特に制限されないが、上記重合溶媒と同様の溶媒が例示できる。また、他の溶媒は、上記重合溶媒と同じであってもまたは異なってもよいが、重合の制御のしやすさなどを考慮すると、上記重合溶媒と同じ溶媒であることが好ましい。また、この場合の他の溶媒における重合開始剤の濃度は、特に制限されないが、混合のしやすさなどを考慮すると、重合開始剤の添加量が、他の溶媒100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~5重量部である。
【0064】
また、重合開始剤を溶液の形態で使用する場合には、単量体(フルフリル(メタ)アクリレート、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体および任意で用いられる共重合性単量体)を重合溶媒に溶解した溶液を、重合開始剤溶液の添加前に予め脱気処理を行ってもよい。脱気処理は、例えば、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスにて、上記溶液を0.5~5時間程度バブリングすればよい。脱気処理の際は、上記溶液を30℃~80℃程度、好ましくは下記の重合工程における重合温度に調温してもよい。
【0065】
次に、上記単量体溶液を加熱することにより、各単量体を共重合する。ここで、共重合方法は、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合方法が採用でき、好ましくは製造が容易なラジカル重合を使用する。
【0066】
重合条件は、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレートおよびカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体(好ましくは、上記式(2)のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート)、ならびに使用する際にはこれらと共重合し得る単量体(他のモノマー、共重合性単量体))が共重合できる条件であれば特に制限されない。具体的には、共重合温度は、好ましくは30~80℃であり、より好ましくは40℃~55℃である。また、共重合時間は、好ましくは1~24時間であり、好ましくは5~12時間である。上記したような条件であれば、各単量体の共重合が効率よく進行する。また、重合工程におけるゲル化を有効に抑制・防止すると共に、高い製造効率を達成できる。
【0067】
また、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、およびその他の添加剤を、重合の際に適宜使用してもよい。
【0068】
重合反応を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、大気雰囲気下、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気等で行うこともできる。また、重合反応中は、反応液を攪拌してもよい。
【0069】
重合後の重合体は、再沈澱法(析出法)、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することができる。
【0070】
精製後の重合体は、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、または加熱乾燥等、任意の方法によって乾燥することもできるが、重合体の物性に与える影響が小さいという観点から、凍結乾燥または減圧乾燥が好ましい。
【0071】
[高分子基材]
本発明では、高分子基材の少なくとも一方の面に、上記共重合体を含む被覆層が形成される。ここで、被覆層は、高分子基材の細胞が接触する(例えば、細胞を含む液を流す、細胞を培養する)側の面に少なくとも形成される。また、被覆層は高分子基材表面全体に形成される必要はない。被覆層は、細胞が接触する(例えば、細胞を含む液を流す、細胞を培養する)高分子基材表面部分(一部)に形成されればよいが、細胞接着性(さらには細胞増殖性)のさらなる向上の観点から、被覆層が、細胞が接触する(例えば、細胞を含む液を流す、細胞を培養する)側の高分子基材表面全体に形成されることが好ましい。
【0072】
高分子基材を構成する材料は、特に制限されず、例えば、ポリアミド(PA)、ポリアラミド(PAA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリールエーテルスルホン(PAES)、ポリスルホン(PSU)、ポリアリールスルホン(PASU)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテル、ポリウレタン(PUR)、ポリエーテルイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン等の疎水性ポリマー;ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグリコールモノエステル(polyglycolmonoester)、水溶性セルロース誘導体、ポリソルベート、ポリエチレン-ポリプロピレンオキサイド共重合体等の親水性ポリマーなどが挙げられる。疎水性ポリマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。親水性ポリマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0073】
本発明の一実施形態において、高分子基材は、ポリアミド(PA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリールエーテルスルホン(PAES)およびポリビニルピロリドン(PVP)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。かような高分子基材は、バイオリアクターの中空糸膜として好適に使用される。
【0074】
本発明に係る高分子基材は、上記疎水性ポリマーおよび上記親水性ポリマーの混合物であってもよく、例えば、ポリアミド(PA)、ポリアリールエーテルスルホン(PAES)およびポリビニルピロリドン(PVP)の混合物であってもよい。かような高分子基材は、バイオリアクターの中空糸膜として特に好適に使用される。高分子基材が疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーの混合物である場合において、例えば、疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーの合計量に対して、疎水性ポリマーの含有量が65~95重量%であり、親水性ポリマーの含有量が5~35重量%であってもよい。
【0075】
高分子基材の構造は、限定されず、平面構造に加えて、多孔体を挿入した構造、中空糸構造、多孔質膜構造、スポンジ構造、綿状(ガラスウール)構造など様々な構造(形状)に設計することが可能である。後述するように、本発明の細胞培養基材は、バイオリアクター、特に中空糸型バイオリアクターに好適に使用できる。このため、高分子基材は中空糸を有することが好ましく、複数の中空糸から構成される多孔質膜(中空糸膜)であることがより好ましい。
【0076】
中空糸の内径(直径)は、特に制限されないが、好ましくは50~1,000μm、より好ましくは100~500μm、特に好ましくは150~350μm程度である。また、中空糸の外径(直径)は、特に制限されないが、好ましくは100~1,200μm、より好ましくは150~700μm、特に好ましくは200~500μm程度である。中空糸の長さは、特に制限されないが、好ましくは50~900mm、より好ましくは100~700mm、特に好ましくは150~500mm程度である。中空糸膜を構成する中空糸の数は、特に制限されないが、例えば、約1,000~100,000本、より好ましくは3,000~50,000本、特に好ましくは5,000~25,000本程度である。一実施形態においては、高分子基材は、平均長約295mm、平均内径215μm、平均外径315μmの中空糸約9000本から構成される。ここで、被覆層は、中空糸膜の内面または外面に形成されてもよいが、内面(内腔)表面に形成されることが好ましい。
【0077】
中空糸の外側層は一定の表面粗さを有する開孔構造を有していてもよい。細孔の開口(直径)は、特に制限されないが、約0.5~約3μmの範囲であり、中空糸の外側表面の細孔数は1平方ミリメートル(1mm2)当たり約10,000から約150,000の範囲であってもよい。ここで、中空糸の外側層の厚みは、特に制限されないが、例えば、約1~約10μmの範囲である。中空糸は、外側に次の層(第2層)を有していてもよく、この際、次の層(第2層)は、約1~約15μmの厚さのスポンジ構造を有することが好ましい。このような構造を有する第2層は、前記外側層の支持体として機能できる。また、本形態において、中空糸は、上記第2層の外側にさらに次の層(第3層)を有していてもよく、この際、さらなる次の層(第3層)は、指状構造を有することが好ましい。このような構造を有する第3層であれば、機械的安定性が得られる。また、分子の膜移動抵抗が低くなるような高い空隙容量を提供できる。本形態において、使用中は、指状空隙は流体で満たされ、該流体によって、拡散および対流における抵抗は、空隙容量が小さいスポンジ充填(sponge-filled)構造を有するマトリックスの場合よりも、低くなる。この第3層は、好ましくは約20~約60μmの厚さを有する。
【0078】
中空糸および多孔質膜の製造方法は、特に制限されず、公知の製造方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。例えば、中空糸は、延伸法または固液相分離法により壁に微細孔が形成されてなることが好ましい。
【0079】
バイオリアクターに使用される中空糸膜は、通常、中空糸膜内外での培地交換を行うために、親水化処理が施されている。しかし、かような親水性高分子基材を用いて細胞を培養した場合、培地に含まれる細胞接着因子(細胞接着性タンパク質)が基材に吸着しにくいため、細胞接着性に乏しい。そこで、上記共重合体を用いて親水性高分子基材の表面処理を行うと、基材表面が適度に疎水化し(例えば、水に対する接触角が60~70°程度となり)、細胞接着因子が吸着しやすくなる。また、共重合体に含まれるカルボキシル基は、細胞伸展(増殖)や細胞接着のシグナルの活性化または誘導を介して細胞の伸展(増殖)や接着を促進すると推測される。さらに、親水性高分子基材上に上記共重合体を被覆すると、形成される被覆層表面にカルボキシル基が配向しやすくなるため、細胞の接着や伸展(増殖)がさらに促進される。したがって、親水性高分子基材の表面を上記共重合体で被覆すると、細胞接着性さらには細胞伸展(増殖)性が向上すると考えられる。すなわち、本発明の一実施形態において、高分子基材は、親水性高分子基材である。
【0080】
親水性高分子基材の製造方法は、特に制限されず、例えば、(i)上記親水性ポリマーを用いて、または上記疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーの混合物を用いて、従来公知の方法で高分子基材を製造する方法、(ii)上記疎水性ポリマーを用いて、または上記疎水性ポリマーおよび上記親水性ポリマーの混合物を用いて、従来公知の方法で高分子基材を製造した後、プラズマ処理、コロナ処理、プライマー処理等の公知の手段を用いて高分子基材表面を親水化させる方法等が挙げられる。
【0081】
あるいは、本発明に係る高分子基材は、疎水性高分子基材(例えば、水に対する接触角が80°以上である表面を有する高分子基材)であってもよい。疎水性高分子基材を用いて細胞を培養した場合、培地に多く含まれるアルブミンが基材に吸着する。アルブミンは細胞接着部位を有さないため、アルブミンで覆われた基材に対し、細胞は接着しにくくなる。そこで、上記共重合体を用いて疎水性高分子基材の表面処理を行うと、基材表面が適度に親水化し(例えば、水に対する接触角が60~70°程度となり)、細胞接着因子が吸着しやすくなる。また、共重合体に含まれるカルボキシル基は、細胞伸展(増殖)や細胞接着のシグナルの活性化または誘導を介して細胞の伸展(増殖)や接着を促進すると推測される。したがって、疎水性高分子基材の表面を上記共重合体で被覆すると、細胞接着性さらには細胞伸展(増殖)性が向上すると考えられる。
【0082】
疎水性高分子基材の製造方法は、特に制限されず、例えば、上記の疎水性ポリマーを原料として用いて、従来公知の方法で高分子基材を製造することができる。
【0083】
高分子基材としては、市販品を使用してもよく、例えば、バクスター株式会社製ポリフラックス(登録商標)、ディーアイシーコベストロポリマー株式会社製デスモパン(登録商標)等が挙げられる。
【0084】
[被覆層の形成方法]
高分子基材表面に本発明に係る共重合体を含む被覆層を形成する方法は特に制限されない。例えば、高分子基材の表面が平面な皿(プレート)構造を有する場合には、本発明に係る共重合体を溶解させた共重合体含有溶液を所定の面に塗布(例えば、ウェルに添加)した後、乾燥する方法が使用できる。また、例えば、高分子基材が中空糸または多孔質膜である場合には、本発明に係る共重合体を溶解させた共重合体含有溶液を中空糸の細胞接触部に接触させた(例えば、中空糸内表面(内腔)または外表面に流通させた)後、乾燥する方法が使用できる。なお、高分子基材が複数の中空糸からなる多孔質膜である場合には、共重合体含有溶液による被覆は、1本の中空糸に対して行った後中空糸を束ねても、または複数の中空糸を束ねて多孔質膜を作製した後に行ってもよい。
【0085】
ここで、本発明に係る共重合体を溶解させる溶媒は、本発明に係る共重合体を溶解できるものであれば特に制限されない。共重合体の溶解性などの観点から、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、ポリエチレングリコール類などの水性溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン等のフラン系溶媒などが挙げられる。上記溶媒は、1種単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。なかでも、本発明に係る共重合体のさらなる溶解性の向上を考慮すると、溶媒が水とアルコールとの混合溶媒であると好ましい。当該混合溶媒に用いられるアルコールは、共重合体の溶解性の向上という観点から、炭素数1~4の低級アルコールであると好ましく、なかでも、メタノール、エタノールが好ましく、エタノールが特に好ましい。すなわち、溶媒は、水およびエタノールから構成されることが好ましい。ここで、水およびエタノールの混合比は、特に制限されないが、例えば、水:エタノールの混合比(体積比)が、1:1~50であることが好ましく、1:5~15であることがより好ましい。また、共重合体含有溶液中の共重合体の濃度は、特に制限されない。基材への塗布しやすさ、コートむらの低減効果などを考慮すると、好ましくは0.0001~5重量%、より好ましくは0.001~2重量%である。
【0086】
また、共重合体の被覆方法は、特に制限されないが、充填、ディップコーティング(浸漬法)、噴霧、スピンコーティング、滴下、ドクターブレード、刷毛塗り、ロールコーター、エアーナイフコート、カーテンコート、ワイヤーバーコート、グラビアコート、混合溶液含浸スポンジコート等、従来公知の方法を適用することができる。
【0087】
また、共重合体の塗膜の形成条件は、特に制限されない。例えば、共重合体含有溶液と高分子基材との接触時間(例えば、共重合体含有溶液の中空糸内腔または外表面に流通させる時間)は、塗膜(ゆえに被覆層)の形成しやすさ、コートむらの低減効果などを考慮すると、1~5分が好ましく、1~3分がより好ましい。また、共重合体含有溶液と高分子基材との接触温度(例えば、共重合体含有溶液の中空糸内腔または外表面に流通させる温度)は、塗膜(ゆえに被覆層)の形成しやすさ、コートむらの低減効果などを考慮すると、5~40℃が好ましく、15~30℃がより好ましい。
【0088】
共重合体含有溶液の高分子基材表面への塗布量は、特に制限されないが、乾燥後の被覆層の厚みが後述する範囲となるような量であることが好ましい。なお、1回の接触(塗布)にて上記厚みが得られない場合には、所望の厚みが得られるまで、接触(塗布)工程(または塗布工程および下記乾燥工程)を繰り返してもよい。
【0089】
次に、高分子基材と共重合体含有溶液との接触後に、塗膜を乾燥させることによって、本発明に係る共重合体による被覆層(被膜)が高分子基材表面に形成される。ここで、乾燥条件は、本発明に係る共重合体による被覆層(被膜)形成できる条件であれば特に制限されない。具体的には、乾燥温度は、5~50℃が好ましく、15~40℃がより好ましい。上記乾燥工程は、単一の条件で行われても、または異なる条件で段階的に行ってもよい。また、乾燥時間は、特に制限されないが、例えば1~60時間程度である。また、高分子基材が多孔質膜(中空糸膜)である場合には、5~40℃、より好ましくは15~30℃のガスを中空糸の共重合体含有溶液塗布面に連続してまたは段階的に流通させることによって、塗膜を乾燥させてもよい。ここで、ガスの種類は、塗膜(被覆層)に何ら影響を及ぼさず、塗膜を乾燥できるものであれば特に制限されない。具体的には、空気、および窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスなどが挙げられる。また、ガスの流通量は、塗膜を十分乾燥できる量であれば特に制限されないが、ガスの流通量が好ましく5~150L/分であり、より好ましく30~100L/分となるような量である。
【0090】
このような方法によれば、本発明に係る共重合体を含む被覆層を、高分子基材上に効率よく形成できる。なお、接着させる細胞のタイプに応じて、高分子基材を、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン等の細胞接着因子によってさらに処理してもよい。このような処理により、細胞の基材表面への接着や細胞の成長をさらに促進できる。なお、高分子基材が複数の中空糸からなる多孔質膜である場合には、細胞接着因子による処理は、1本の中空糸に対して行った後中空糸を束ねても、または複数の中空糸を束ねて多孔質膜を作製した後に行ってもよい。また、細胞接着因子による処理は、本発明に係る共重合体を含む被覆層を形成した後であっても、または本発明に係る共重合体を含む被覆層を形成する前であっても、または本発明に係る共重合体を含む被覆層を形成するのと同時であってもよい。
【0091】
本発明において、高分子基材上に形成される被覆層の厚み(乾燥膜厚)は、0.005~20μmであることが好ましい。
【0092】
<バイオリアクター>
本発明の細胞培養基材は、細胞接着性(さらには細胞増殖性)に優れる。このため、本発明の細胞培養基材は、バイオリアクターに好適に使用できる。すなわち、本発明は、本発明の細胞培養基材を有するバイオリアクターを提供する。ここで、バイオリアクターは、平面型バイオリアクターであっても中空糸型バイオリアクターであってもよいが、中空糸型バイオリアクターが特に好ましい。このため、以下では、好ましい実施形態として、中空糸型バイオリアクターについて説明するが、本発明のバイオリアクターは平面型バイオリアクターであってもよく、この場合でも下記実施の形態を適宜変更することによって適用できる。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0093】
本発明の細胞培養基材が好適に使用できるバイオリアクターは、特に制限されないが、本発明の細胞培養基材およびバイオリアクターを、例えば、特表2010-523118号公報(特許第5524824号)(WO 2008/124229 A2)、特表2013-524854号公報(特許第6039547号)(WO 2011/140231 A1)、特表2013-507143号公報(特許第5819835号)(WO 2011/045644 A1)、特開2013-176377号公報(WO 2008/109674)、特表2015-526093号公報(WO 2014/031666 A1)、特表2016-537001号公報(WO 2015/073918 A1)、および特表2017-509344号公報(WO 2015/148704 A1)などに記載される細胞培養/増殖システム;さらにはテルモBCT株式会社製のQuantum細胞増殖システムに適用することができる。従来、細胞培養では、インキュベーター、安全キャビネット、クリーンルーム等の設備が別々に必要であるが、上記したような培養システムはこれらの機能を全て備えているため、設備を非常に簡略化できる。また、上記したようなシステムを用いて細胞培養中の温度やガスを制御することで、機能的にクローズドなシステムを確保でき、細胞培養をクローズドな環境でかつ自動的に行うことができる。
【0094】
以下に、本発明のバイオリアクターの一実施形態を図面を参照しながら説明するが、本発明は下記形態に限定されない。
【0095】
図1は、本発明のバイオリアクター(中空糸型バイオリアクター)の一実施形態を示す部分側面図である。また、
図2は、
図1のバイオリアクターの一部切欠側面図である。
図1および
図2において、バイオリアクター1は、本発明の細胞培養基材2が細胞培養チャンバー3内に収納されてなる。細胞培養チャンバー3は、4つの開口部すなわち4つのポート(入口ポート4、出口ポート6、入口ポート8、出口ポート10)を有する。ここで、細胞を含む培地が、入口ポート4を介して、細胞培養チャンバー3内の細胞培養基材2の中空糸の毛細管内側(IC)空間に流されて、出口ポート6から排出される。これにより、細胞が効率よく中空糸内腔表面に接着(付着)・培養する。一方、培地やガス(酸素、二酸化炭素等)は、入口ポート8を介して、細胞培養チャンバー3内の細胞培養基材2の中空糸の毛細管外側(EC)と接触するように流され、出口ポート10から排出される。これにより、細胞培養チャンバー3内で培地成分等の小分子が中空糸内に流入するまたは不要成分が中空糸内から排出され、中空糸表面に接着した細胞が培養される。また、所定時間培養した後は、トリプシンを含む液(例えば、PBS)を、入口ポート4を介して細胞培養チャンバー3内の細胞培養基材2の中空糸の毛細管内側(IC)空間に導入し、所定時間(例えば、5~10分程度)保持する。次に、培地やPBS等の等張液を、入口ポート4を介して細胞培養チャンバー3内の細胞培養基材2の中空糸の毛細管内側(IC)空間に流して細胞にせん断力を付加することによって、細胞を中空糸内壁から剥離し、バイオリアクターから細胞を、出口ポート6を介して回収する。なお、上記形態では、細胞が中空糸の毛細管内側(IC)に接着したが、本発明は上記形態に限定されず、細胞を含む培地を入口ポート8から出口ポート10に流して、細胞を効率よく中空糸外表面に接着(付着)させ、培地を入口ポート4から出口ポート6に中空糸内腔に流して、細胞を培養させてもよい。また、入口ポート4から出口ポート6への流体の流れは、入口ポート8から出口ポート10への流体の流れに対して、並流方向または逆流方向のいずれであってもよい。
【0096】
[バイオリアクターの用途]
上述したように、本発明のバイオリアクターは、細胞接着性(さらには細胞増殖性)に優れる細胞培養基材を備えている。ここで、本発明のバイオリアクターで培養できる細胞は、接着(足場依存)性細胞、非接着性細胞、またはこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよいが、細胞接着性に優れる細胞培養基材を備えていることから、本発明のバイオリアクターは、接着(足場依存)性細胞の培養に特に好適に使用できる。ここで、接着(足場依存)性細胞としては、間葉系幹細胞(MSC)等の幹細胞、線維芽細胞などの、動物の細胞などがある。上述したように、幹細胞が再生医療や創薬の開発にあたって注目が集めている。このため、本発明のバイオリアクターは、幹細胞の培養に好適に使用できる。すなわち、本発明は、本発明のバイオリアクターを用いて細胞を培養する、細胞の培養方法を提供する。ここで、細胞の培養方法は、特に制限されず、通常の培養方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。
【実施例】
【0097】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
【0098】
<重合体の製造>
[製造例1:重合体1の合成]
20ml容量のガラス製耐圧試験管に、テトラヒドロフルフリルアクリレート1.95g(0.0125mol)、カルボキシエチルアクリレート0.2g(0.0014mol)、エタノール3gを加えた後、窒素ガスを10秒間バブリングした。次いで、重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)0.004g(0.013mmol)を加えた後、45℃に設定したヒートブロックで6時間加熱した。重合液をヘキサン50mlに加え、析出したポリマー成分を回収、減圧乾燥し、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)とカルボキシエチルアクリレート(CEA)との共重合体(THFA:CEA=90:10(構成単位モル比)、以下、重合体1)を得た。重合体1の重量平均分子量は49,500であった。
【0099】
[製造例2:重合体2の合成]
20ml容量のガラス製耐圧試験管に、テトラヒドロフルフリルアクリレート1.65g(0.0106mol)、カルボキシエチルアクリレート0.38g(0.0026mol)、エタノール3gを加えた後、窒素ガスを10秒間バブリングした。次いで、重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)0.004g(0.013mmol)を加えた後、45℃に設定したヒートブロックで6時間加熱した。重合液をヘキサン50mlに加え、析出したポリマー成分を回収、減圧乾燥し、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)とカルボキシエチルアクリレート(CEA)との共重合体(THFA:CEA=80:20(構成単位モル比)、以下、重合体2)を得た。重合体2の重量平均分子量は46,000であった。
【0100】
[製造例3:重合体3の合成]
20ml容量のガラス製耐圧試験管にテトラヒドロフルフリルアクリレート1.24g(0.0079mol)、カルボキシエチルメタアクリレート0.76g(0.0053mol)メタノール3gを加えた後、窒素ガスを10秒間バブリングした。次いで、重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)0.004g(0.013mmol)を加えた後、45℃に設定したヒートブロックで6時間加熱した。重合液をヘキサン50mlに加え、析出したポリマー成分を回収、減圧乾燥し、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)とカルボキシエチルアクリレート(CEA)との共重合体(THFA:CEA=60:40(構成単位モル比)、以下、重合体3)を得た。重合体3の重量平均分子量は15,000であった。
【0101】
[製造例4:重合体4の合成]
20ml容量のガラス製耐圧試験管にテトラヒドロフルフリルアクリレート2.00g(0.0128mol)、メタノール3gを加えた後、窒素ガスを10秒間バブリングした。次いで、重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)0.004g(0.013mmol)を加えた後、45℃に設定したヒートブロックで6時間加熱した。重合液をヘキサン50mlに加え、析出したポリマー成分を回収、減圧乾燥し、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)の単独重合体(THFA:CEA=100:0(構成単位モル比)、以下、重合体4)を得た。重合体4の重量平均分子量は55,000であった。
【0102】
[製造例5:重合体5の合成]
20ml容量のガラス製耐圧試験管にテトラヒドロフルフリルアクリレート0.81g(0.0052mol)、カルボキシエチルメタアクリレート1.11g(0.0077mol)メタノール3gを加えた後、窒素ガスを10秒間バブリングした。次いで、重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)0.004g(0.013mmol)を加えた後、45℃に設定したヒートブロックで6時間加熱した。重合液をヘキサン50mlに加え、析出したポリマー成分を回収、減圧乾燥し、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)とカルボキシエチルアクリレート(CEA)との共重合体(THFA:CEA=40:60(構成単位モル比)、以下、重合体5)を得た。重合体5の重量平均分子量は14,500であった。
【0103】
<基材へのコーティング>
(実施例1)
上記製造例1で得た重合体1を水/エタノール(体積比1/9)混合溶媒に溶解させ、重合体濃度1重量%の重合体溶液を調製した。市販の親水化ポリエーテルスルホン膜(親水性PES膜、ポアサイズ0.1μm、メンブレンソリューションズ社製、表面の水に対する接触角は20°である)を上記ポリマー溶液に浸漬し、静置した。親水性PES膜を引き揚げ、室温で50時間乾燥し、被覆層を有する細胞培養フィルム1を得た。
【0104】
(実施例2~3、比較例1~2)
実施例1において、重合体1の代わりに重合体2~5をそれぞれ使用したこと以外は実施例1と同様にして、親水性PES膜上に被覆層を形成し、細胞培養フィルム2~5を得た。
【0105】
(比較例3)
市販の親水化ポリエーテルスルホン膜(親水性PES膜、ポアサイズ0.1μm、メンブレンソリューションズ社製、表面の水に対する接触角は20°である)を細胞培養フィルム6とした。
【0106】
各細胞培養フィルムについて上記方法により被覆層表面の水に対する接触角を測定した結果を下記表1に示す。
【0107】
<細胞接着活性測定>
細胞として、ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(ロンザ、ウォーカーズビル、メリーランド州、アメリカ合衆国)を使用した。ドナーは22歳男性で、CD13、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、SD166≧90%、CD14、CD31、CD45≦5%のものを使用した。
【0108】
上記細胞培養フィルム1~6を配置した96穴組織培養用ポリスチレンディッシュに細胞を播種したのち、37℃にて、加湿、5% CO2存在下で、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2(プロモセル、ベッドフォード、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)で1日培養した。培養終了後、10%WST-1(Premix WST-1 Cell Proliferation Assay System、タカラバイオ、滋賀、日本)を含むMesenchymal Stem Cell Growth Medium 2に交換して、加湿、常圧下(37℃、5%CO2)で4時間インキュベートしたのち、マイクロプレートリーダーで吸光度(450nm、対照600nm)を測定して、細胞接着活性とした。
【0109】
各細胞培養フィルムの細胞接着活性結果を下記表1に示す。
【0110】
【0111】
上記表1に示すように、THFA由来の構成単位およびCEA由来の構成単位を本発明の含量範囲で有する共重合体を用いて作製された細胞培養フィルム1~3は、PTHFAを用いて作製された細胞培養フィルム4に比べて、優れた細胞接着活性を示した。一方、THFA由来の構成単位およびCEA由来の構成単位を含むが、本発明の含量範囲を満たさない共重合体を用いて製造された細胞培養フィルム5は、細胞接着活性に乏しかった。上記結果から、本発明に係る共重合体を用いて表面処理を行うと、PTHFAを用いて表面処理を行った場合に比べて、親水性PES膜に対して優れた細胞接着性を付与できることが判った。
【符号の説明】
【0112】
1…バイオリアクター、
2…細胞培養基材、
3…細胞培養チャンバー、
4,8…入口ポート、
6,10…出口ポート。