(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】暗色低膨張フィラー
(51)【国際特許分類】
C03C 8/16 20060101AFI20230912BHJP
C03C 8/18 20060101ALI20230912BHJP
C04B 35/478 20060101ALI20230912BHJP
C04B 35/195 20060101ALI20230912BHJP
C04B 35/447 20060101ALI20230912BHJP
C04B 35/01 20060101ALI20230912BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C03C8/16
C03C8/18
C04B35/478
C04B35/195
C04B35/447
C04B35/01 600
C09D17/00
(21)【出願番号】P 2021571991
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(86)【国際出願番号】 US2020034228
(87)【国際公開番号】W WO2020247194
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-02-01
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503468695
【氏名又は名称】フエロ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】アクステル,イーノス エー.
(72)【発明者】
【氏名】マロニー,ジョン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】グリーソン,コーディー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】スリダーラン,スリニバサン
(72)【発明者】
【氏名】サコスケ,ジョージ イー.
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-032153(JP,A)
【文献】特開平10-073740(JP,A)
【文献】特表2014-518834(JP,A)
【文献】国際公開第01/070632(WO,A1)
【文献】特表2016-530194(JP,A)
【文献】特表2005-525286(JP,A)
【文献】特開平04-288389(JP,A)
【文献】特開平03-279261(JP,A)
【文献】特開2018-037340(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104193337(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
C04B 35/01 - 35/499
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 - 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビヒクル、ガラスフリット、着色CTE調整剤、及び選択的に1つ又は複数の顔料を含み、基体に付着されたエナメルを形成するためのガラスフリットシステムであり、
前記着色CTE調整剤は
、
式Sm
1-xSr
xMnO
3-δ(x=0.0~0.5及びδ=0.0~0.25)を有するペロブスカイト系材料、又はSrがBa及び/もしくはCaで部分的に置換されている、前記ペロブスカイト系材料の変性バージョン
;又は
これらの組み合わせ、を含む、ガラスフリットシステム。
【請求項2】
前記CTE調整剤は、式Sm
1-xSr
xMnO
3-δを有する前記ペロブスカイト系材料を含む、請求項1に記載のガラスフリットシステム。
【請求項3】
前記ガラスフリットシステムの総重量に対して:
前記ビヒクルが3.5~80wt%で含まれ、
前記ガラスフリットが18.5~95wt%で含まれ、
前記着色CTE調整剤が0.5~50wt%で含まれ、
前記顔料が1~50wt%で含まれている、
請求項1に記載のガラスフリットシステム。
【請求項4】
フィラー、還元剤、分散剤/界面活性剤、レオロジー調整剤、流動助剤、及び接着促進剤、又は安定剤のうちの1つ又は複数をさらに含む、請求項1に記載のガラスフリットシステム。
【請求項5】
基体を準備する工程と、
ビヒクル、ガラスフリット、着色CTE調整剤、及び顔料を含むガラスフリットシステムを準備する工程と、
前記ガラスフリットシステムを基体に適用する工程と、
前記ガラスフリットシステムを焼成して、これによって前記基体に付着した着色エナメルを形成する工程と、を含み、
着色CTE調整剤は
:
式Sm
1-xSr
xMnO
3-δ(x=0.0~0.5及びδ=0.0~0.25)を有するペロブスカイト系材料、又はSrがBa及び/もしくはCaで部分的に置換されている前記ペロブスカイト系材料の変性バージョン
;又は
これらの組み合わせ;を含む、
エナメル被覆した基体を形成する方法。
【請求項6】
前記CTE調整剤は、式Sm
1-xSr
xMnO
3-δを有する前記ペロブスカイト系材料を含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記ガラスフリットシステムの総重量に対して:
前記ビヒクルは3.5~80wt%で含まれ、
前記ガラスフリットは18.5~95wt%で含まれ、
前記着色CTE調整剤は0.5~50wt%で含まれ、
前記顔料は1~50wt%で含まれている、
請求項
5に記載の方法。
【請求項8】
前記ガラスフリットシステムが、フィラー、還元剤、分散剤/界面活性剤、レオロジー調整剤、流動助剤、及び接着促進剤、又は安定剤のうちの1つ又は複数をさらに含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項9】
前記基体がガラスである、請求項
5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ガラスフリットシステム(glass frit systems)は、様々な基体に適用され、その上で焼成されて、基体の表面に結合されたエナメルを形成する。焼成されたエナメルは、基体の特徴、例えば外観、を変更するために使用することができる。焼成されたエナメルの熱膨張係数(CTE;coefficient of thermal expansion)が基体の熱膨張係数と厳密に一致しない場合、エナメル焼成プロセスの冷却サイクル中に、エナメルと基体の間に重大な界面応力が発生するであろう。この界面応力は、エナメルと基体との間の結合の劣化を引き起こす可能性があり、エナメルにひび割れを生じさせ、エナメルを破砕し、又はエナメルの基体からの剥離を引き起こす可能性がある。
【0002】
フエロコーポレーション(Ferro Corporation)及び他の会社は、他のエナメル特性又は必要な焼成プロファイルへの影響を最小限に抑えながら、エナメルの全体的なCTEの調製を可能にすることを主な目的とする添加剤であるCTE調整剤(CTE modifiers)の使用を長い間行ってきた。これらの添加剤は、基体とエナメルの間のCTEの差を減らすのに役立ち、これによって界面応力を低下させる。この減少したCTEの差は、結果として生じる界面応力の低下により、エナメルと基体の結合の強度及び耐久性を高めることに寄与する。
【0003】
焼成用のガラスフリットシステムは、ガラスフリット、顔料、CTE調整剤を含む調整剤、及びフィラーなどの他の様々な成分から構成することができる。ガラスフリットシステムは、接着性、外観、強度、及び耐久性の点で許容可能な性能特性を提供するように調製される。ガラスフリットシステムの溶融及び流動特性は、通常、ガラスフリット成分によって左右される。しかしながら、調整剤、顔料、及びフィラーは、焼成中にガラス成分と相互作用し、エナメルの特性に影響を与え得る。これらの成分は、エナメルの必要焼成温度を上昇させることが多く、エナメルが形成される基体に悪影響を与え得る。したがって、エナメルの特性に対する成分の悪影響を低減する新しいガラスフリットシステムを調製する新しいアプローチが有益である。
【0004】
一般に、ガラスフリットシステムにおいて使用されるガラスは、エナメル焼成プロセス中に、他の成分をある程度、侵略的に攻撃し、浸出させ、又は溶解させることができる。これは主にガラス粒子の表面に影響を及ぼし、通常はガラス粒子の溶融及び流動特徴を阻害する。ガラスフリットシステム内の成分の溶解速度は、成分の化学的性質、構造、表面積、及び形態(morphology)に依存するだろう。成分の化学的性質が同じであるとすると、比表面積が大きくなり、表面のテクスチャが粗くなると、成分の溶解速度は速くなるだろう。同様に、より高温のエナメル焼成プロセス及び焼成中のより長い均熱時間(soak time)は、成分の溶解をより促進するだろう。したがって、特定の成分の選択、使用量、それらの粒子径分布、及びそれらの形態は、エナメルの全体的な焼成及び性能に影響を与えることができる。
【0005】
多くのガラスフリットシステムは、焼成されたエナメルの色を変更するための顔料を含む。これらの場合、従来の白又はオフホワイトのCTE調整剤(すなわち、「非着色CTE調整剤」)をガラスフリットシステムに組み込むと、エナメルの色の値が2つの方法、第1に、エナメルにおける顔料の割合を希釈することによって、すなわち色相変化を生み出すことによって、第2に、白っぽい粒子によって生み出される光散乱によって、変化することになる。これらの効果は、主にエナメルの明度(lightness)を高める、すなわち、L値を高める。L値は、CIEラボカラーシステムの明度-暗度スケールに相関する。
【0006】
従来のCTE調整剤の添加によるエナメル色に対する明るくする効果及び色相変化効果に対抗するために、ガラスフリットシステム中の顔料の量を増加させなければならない場合がある。しかしながら、ガラスフリットシステムに含まれる顔料の量の増加は、ガラスフリットシステム又は焼成エナメルの様々な特徴に重大な悪影響を与える可能性がある(例えば、流動温度をさらに上昇させる)。
【簡単な説明】
【0007】
一態様によれば、基体に付着されたエナメルを形成するためのガラスフリットシステムは、ビヒクル(vehicle)、ガラスフリット、着色CTE調整剤、及び選択的に1つ又は複数の顔料を含む。着色CTE調整剤は、(i)Al及び/又はTiが、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、及びCuを含む着色イオンのうちの1つ又は複数で部分的に置換されている、式Al2TiO5を有する変性擬ブルッカイト(擬板チタン石)(modified Pseudo-Brookite)系の材料、;(ii)Mg及び/又はAlが該着色イオンのうちの1つ又は複数で部分的に置換されている、式Mg2Al4Si5O18を有する変性コーディエライト系の材料、;(iii)式Sm1-xSrxMnO3-δ(x=0.0~0.5及びδ=0.0~0.25)を有するペロブスカイト(Perovskite)系の材料、又はSrがBa及び/もしくはCaで部分的に置換されているペロブスカイト系の材料の変性バージョン、(iv)MgがCo及び/もしくはZnイオンで置換されている式Mg2P2O7を有する変性ピロリン酸マグネシウム系の材料;又は(v)これらの組み合わせを含む。
【0008】
別の態様によれば、エナメル被覆基体(enameled substrate)を形成する方法は、基体を準備するする(供給する)ステップ;ビヒクル、ガラスフリット、着色CTE調整剤、及び顔料を含むガラスフリットシステムを準備する(供給する)ステップ;ガラスフリットシステムを基体に適用するステップ;及びガラスフリットシステムを焼成して、それによって基体に付着した着色エナメルを形成するステップ、を含む。着色CTE調整剤は、(i)Al及び/又はTiが、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、及びCuを含む着色イオンのうちの1つ又は複数で部分的に置換されている、式Al2TiO5を有する変性ブルッカイト系の材料、;(ii)Mg及び/又はAlが該着色イオンの1つ又は複数で部分的に置換されている、式Mg2Al4Si5O18を有する変性コーディエライト系の材料、;(iii)式Sm1-xSrxMnO3-δ(x=0.0~0.5及びδ=0.0~0.25)を有するペロブスカイト系の材料、又はSrがBa及び/もしくはCaで部分的に置換されているペロブスカイト系の材料の変性バージョン;(iv)MgがCo及び/もしくはZnイオンで置換されている式Mg2P2O7を有する変性ピロリン酸マグネシウム材料;又は(v)これらの組み合わせを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、Sr
.15Sm
.85MnO
3-xの膨張曲線である。
【詳細な説明】
【0010】
様々な基体への装飾のような目的のためにエナメルを調製することは問題を伴う。一般に、エナメル焼成プロセス中の基体の歪みを最小限に抑えるために、所望の基体の軟化点よりも低い軟化点を有するガラスフリットを選択する必要がある。しかしながら、軟化点が低いガラスフリットは、通常、線熱膨張係数(CTE)が高く、耐酸性も低い。これらの問題に対処するためにガラスフリットに添加を行うことができるが、多くの場合、エナメルに要求される所望の特徴のすべてをガラスフリットだけで満たすことはできない。理論的には、エナメルと基体のCTE整合の必要性は、ガラスフリットシステムにCTE調整剤を添加することによって満たすことができる。焼成ガラスエナメルのCTEを低下させるための従来の添加剤の3つの例は、β-ユークリプタイト(LiAlSiO4)、溶融石英(SiO2)、及びコーディエライト(Mg2Al4Si5O18)である。
【0011】
アルミニウムのような金属基体の場合など、いくつかの場合においては、ガラスエナメルのCTEは、典型的には、基体のCTEと整合するように高めなければならない。CTEが大きいシリカの結晶形であるクリストバライトがこのような用途において使用されることがある。
【0012】
CTE調整剤は、典型的には、色が白又はオフホワイトである。この特性は、同時に他のエナメル要件を満たしながら、所望のエナメル色を達成する、特に黒及び他の暗いエナメルが望まれる場合に弊害となる可能性がある。
【0013】
この問題に対処するために、本発明は、1つ又は複数のCTE調整剤の元の組成イオン成分(すなわち、元のイオン又は置換されるイオン)を、好適な金属イオン発色団(chromophores)(すなわち、発色団カチオン(chromophoric cations)又は着色イオン)で完全に又は部分的に置換することによって製造される着色CTE調整剤を提供する。例えば、Cr(III)イオンは、典型的に、Al(III)イオンと同様のイオン半径と配位環境を有し、Al2O3-コランダムのAlサイトへの置換イオンとして部分的に置換されて赤ルビー色のCTE調整剤を形成することができる。同様の置換は、Al2TiO5などのCTE調整剤においても達成することができる。
【0014】
有用なCTE調整剤のいくつかは、天然に存在する酸化物鉱物として生じる。しかしながら、コーディエライト及びチアライト(tialite)などの天然に存在する低CTE鉱物は、典型的には、有用な着色効果を生み出すのに十分な量の発色団カチオンを欠いており、たいていの場合、汚染レベル(すなわち、元のイオンの0.05%未満の置換)にすぎないこのような発色団カチオンを含むだけであり、したがって、ほぼ白色又はオフホワイト色を有するCTE調整剤が得られることになる。X線回折及び化学分析技術の出現により、これらの鉱物の発色団置換バージョンに基づいて、色が飽和した(color-saturated)「クリーンな」着色CTE調整剤を合成することが可能である。CTE調整剤の色の最適化は、典型的には、所望の発色団イオンの量及び組み合わせを増やし、他の不純物及び二次相(すなわち二次結晶構造)を最小限に抑えることによって達成される。
【0015】
得られる焼成エナメルのCTEを調整するために、本発明の着色CTE調整剤は、基体上で焼成されるインク又はペーストなどのガラスフリットシステムに添加することができる。
【0016】
しかしながら、本発明のCTE調整剤は、それらの天然に存在する対応物と比較して高度に着色されており、したがって、従来の非着色CTE調整剤の添加ほど顔料成分によるエナメルへの着色効果を低下させない。多くの場合、エナメルにおいて所望の着色レベルを生じさせるために、着色CTE調整剤の使用によって顔料成分の量を減らすことができる。これにより、通常は焼成ガラスと顔料の間に存在する焼成エナメル内の結晶性-アモルファス粒界が減少することになり、外観及び他のエナメル特性に有益となり得る。さらに、顔料レベルが低下すると、エナメルの流動温度が有利に低下することができる。
【0017】
本発明の着色CTE調整剤は、ガラスフリットシステムにおける白色のCTE調整剤と暗色の(例えば、黒色の)顔料の従来の組み合わせを完全に又は部分的に置き換えて使用することができる。着色CTE調整剤は、Al及び/又はTiサイトが、1つ又は複数の着色イオンで部分的に置換されている、式Al2TiO5(チアライト)を有する変性擬ブルッカイト構造材料を含むことができる。着色イオンは、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、及びCuを含むことができる。着色CTE調整剤は、材料中のMg及び/又はAlイオンが、着色イオンのうちの1つ又は複数で部分的に置換されている、式Mg2Al4Si5O18を有する変性コーディエライト系材料を含むことができる。着色CTE調整剤は、x=0.0~0.5及びδ=0.0~0.25である式Sm1-xSrxMnO3-δを有するペロブスカイト系材料;又は、結晶構造内の着色イオンの置換によって変性されたペロブスカイト系材料を含むことができる。着色CTE調整剤は、Mgイオンを発色団カチオンで部分的に置換した、式Mg2P2O7を有する変性ピロリン酸マグネシウム系材料を含むことができる。着色CTE調整剤は、適切な発色団カチオン置換物を有する変性ZrSiO4材料を含むことができる。着色CTE調整剤は、これらの組み合わせを含むことができる。これらの例は、本発明の可能な着色CTE調整剤の範囲を限定することを意味するものではない。
【0018】
発色団カチオンのイオン半径、適合性、及び電荷を含めて、様々なCTE調整剤における置換物として適切な発色団イオンを選択することに関連し得るいくつかの考慮事項がある。好適な発色団カチオンは、置換されるイオンと同様のイオン半径を有することができる。発色団カチオンは、四面体及び八面体サイトの置換されるイオンと比較して+/-0.2Åのイオン半径を有し、より高い配位サイトの場合は+/-0.3Åのより広い範囲を有することができる。発色団カチオンは、置換に適合性を有することができる、すなわち、サイトの配位環境に存在することができる。また、発色団カチオンは、発色団カチオンが、置換されるイオンに等しい電荷を有するシナリオなどにおいて、CTE調整剤についての電荷バランスを提供することもできる。あるいは、発色団カチオンが、置換されるイオンとは異なる電荷を有する場合、共置換イオン(co-substitution ions)を使用して、発色団カチオン及び共置換イオンの総電荷が置換されるイオンの電荷と等しくなるようにすることもできる。この場合、電荷のバランスをとるために、異なる電荷を有する別のイオンを発色団カチオンで置換することができる。
【0019】
最も単純な場合、Al2O3、Cr2O3、及びFe2O3は同型構造(isostructural)であり、すべてが互いと固溶体を形成することができる。そのため、Cr(III)及びFe(III)は、典型的には、非着色CTE調整剤におけるAl(III)八面体サイトの直接置換物として使用することができる。同様に、スピネルAB2O4構造を有するCTE調整剤は、それらの四面体サイト及び八面体サイトの両方においてイオン置換に非常に適しており、実際、多くのカチオンがいずれかのスピネルサイトを占めることができる。ドープされたルチル構造に基づく顔料は、共置換による電荷バランスをとるいくつかのルートを示し、部分的なCr(III)置換は、同等のSb(V)置換とバランスをとり、平均形式カチオン電荷(average formal cation charge)が4であるCr.03Sb.03Ti.94O2などの固溶体を形成することができる。同様に、CTE調整剤の電荷バランスをとることは、酸化物サイトにおけるFアニオンの部分的な置換によっても達成することができる。最後に、一部の着色CTE調整剤は、さまざまなレベルの酸素空孔を備えて存在可能な構造を有することができる。これらの場合、より高い価数のカチオン共置換の使用を必要としないことができる。
【0020】
着色CTE調整剤の合成は、典型的には、発色団成分を含む原材料の均質混合物(intimate mixture)のか焼(calcination)プロセスを含む。原料には、金属酸化物、又はか焼プロセスにおいて金属酸化物に変換する化合物、例えば、限定はされないが、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属硝酸塩、及び金属石鹸(カルボン酸塩)を含む化合物等、が含まれ得る。金属酸化物という用語は、ここでは一般的にいずれかの元素酸化物を表すために使用される。均質混合物は、多種多様な周知の混合及び粉砕技術によって形成することができる。同様に、均質混合物は、限定はされないが、ボックス窯、トンネル窯、ロータリーキルン、及びマイクロ波炉を含む、多様な窯、炉、及び他の加熱技術でか焼することができる。断続的な粉砕の有無にかかわらず、複数のか焼を使用して、所望の相の形成を促進することができるが、一般的には、工業的経済的目的のために1回のか焼に制限される。
【0021】
か焼された着色CTE調整剤は、焼成された粒子径分布及びエナメル調製に使用されるプロセスに応じて、ガラスフリットシステムに組み込む前に、ふるい分け、又はより細かいサイズに粉砕する必要があってもよいし、なくてもよい。ジェットミル粉砕、アトライターミル(attritor milling)粉砕、ビーズミル粉砕、及びボールミル粉砕を含む、一般的ないずれかの粉砕技術を使用することができる。
【0022】
擬ブルッカイト(擬板チタン石)着色CTE調整剤
チアライト(Al2TiO5)は、擬ブルッカイト(PBrookite)構造(Fe2TiO5)及び14×10-7/℃のCTEを有する鉱物である。チアライトのCTEは、エナメルにおける無着色CTE調整剤として一般的に使用されているコーディエライト(Mg2Al4Si5O18)のCTEと実質的に同じである。Al2TiO5は、1450℃でAlO(OH)とTiO2とをか焼することによって合成することができる白色の化合物である。Al(III)及びTi(IV)の両カチオンは、この構造において八面体サイトを占める。
【0023】
本発明の着色CTE調整剤は、チアライトの変性を含み、遷移金属発色団カチオンの多くが、Al(III)及びTi(IV)イオンと同様のイオン半径を有し、格子内の八面体サイトの配位形態及びサイズ要件と適合するので、遷移金属発色団カチオンは、チアライトにおけるAl(III)及びTi(IV)イオンサイトのうちの1つ又は両方において置換することができる。Al(III)及び/又はTi(IV)イオンとの置換に適した適用可能な発色団カチオンには、Fe(III)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Mn(IV)、Co(II)、Ni(II)、及びCu(II)のイオンが含まれる。いくつかの場合において、Sb(V)、Nb(V)、Mo(VI)、及びW(VI)などの高価数カチオンによるAl(III)及び/又はTi(IV)イオンの共置換が、変性された構造の電荷バランスを維持するために必要となる場合がある。
【0024】
八面体サイトの配位形態及びサイズ要件と適合性のあるより一般的な遷移金属発色団カチオンは、本明細書においてM(II)及びM(III)イオンで示される2+又は3+の正味電荷を有する金属イオンを含むことができる。Al(III)を適切な発色団M(III)カチオンで置換する場合、何らかの電荷のバランスをとることは不要となるだろう。Al2TiO5におけるAl及びTiイオンサイトの両方での置換は、着色CTE調整剤においてより飽和した色を生成することができるが、TiサイトでのM(II)又はM(III)イオンの置換は、電荷バランスを維持するために、より高い価数のカチオンの共置換が必要になる場合がある。
【0025】
着色擬ブルッカイト構造化材料は、式Al2-xMxTiO5又はAl2MxTi1-xO5を有する化合物に基づいて調製することができ、「x」は化学量論的置換量であり、Mは発色団イオン又は複数のイオン(例えば、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Cu)である。AlサイトとTiサイトはどちらも八面体サイトであるため、どちらの場合もいくらかの混合サイト(mixed sight)の占有が予想され、これは混合金属酸化物では珍しいことではないが、置換は主に調製された化学量論によって制御しなければならない。以下の表1は、擬ブルッカイト構造式においてAlの代わりに使用される種々のイオンの式量「x」についての有用な範囲、好ましい範囲、及び最も好ましい範囲を示し、ΣMは複数のカチオン置換の合計を表す。表1において、「x」の下限は0.01、0.1、又はそれ以上とすることができる。
【0026】
【0027】
以下の表2は、調製された擬ブルッカイト構造化材料においてTiの代わりに使用される種々のイオンに適した「x」範囲を示す。着色CTE調整剤製品は、Al2MxTi1-xO5の式を有し、「M」は発色団置換イオン(例えば、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Cu)であり、ΣMは複数のイオン置換の合計を再度表す。M(II)及びM(III)イオンがTi(IV)イオンに置換しているため、使用する各着色イオンについて、電荷バランスをとるために「超価数(hyper-valent)」イオンが必要になる場合がある。超価数イオンは、Nb5+、Mo6+、W6+、P5+、As5+、及びSb5+、好ましくはNb5+、Mo6+、W6+、及びSb5+、最も好ましくはNb5+、Mo6+、及びW6+から選択することができる。表2において、「x」の下限は0.01、0.1、又はそれ以上とすることができる。
【0028】
【0029】
コーディエライト系CTE調整剤
着色CTE調整剤は、ベリル(Beryl)(Al2Be3Si6O18)、コーディエライト(Mg2Al4Si5O18)、及びベニトアイト(Benitoite)(BaTiSi3O9又はBa2Ti2Si6O18)などのメンバーに代表される、コーディエライトファミリーからの変性材料を含むことができる。着色された低CTE調整剤は、様々な化学成分を適切な金属カチオンで部分的又は完全に置換することによって得ることができる。
【0030】
ベリル/コーディエライト/ベニトアイト構造の高い組成柔軟性は、置換によって着色CTE調整剤を生成することを可能にし得る。マグネシウム及びアルミニウムのサイトは、Fe、Cr、Co、Mn、Cu及びNiで置換することができる。コーディエライトの元の式を考慮すると、最大で、金属イオンの約36%(4/11)が3+酸化状態にある。構造タイプを維持するために単位式あたり少なくとも4つのSi原子が必要である場合、コーディエライト構造が最も飽和した色を提供することができない可能性がある。これに関して、構造における着色イオンのレベルは、2つのSi4+イオンを、例えば、1つのFe3+及び1つのP5+イオンで置換して、コーディエライト構造を有する化合物Mg2Fe6P2SiO18を生成することによって高めることができる。この化合物は、コーディエライトと原料酸化物との混合物をか焼することによって、又はより飽和した色を有する所望の構造の化合物を生じさせるように方法をシードすること(seeding)によって生成することができる。
【0031】
以下の表3は、コーディエライトのAlサイトにおいて部分的に置換されている種々のカチオンの式量「x」についての広い範囲を示す。得られた変性コーディエライト材料は、Mg2-xAl4-yMx+ySi5O18の式を有するだろう。「x+y」の下限は、0.01、0.1、又はそれ以上とすることができる。
【0032】
【0033】
ペロブスカイト構造のCTE調整剤
着色CTE調整剤はペロブスカイト系材料、例えばSm0.85Sr0.15MnO3-δ、も含むことができ、δはある程度の酸素空孔を表す。ペロブスカイト系材料は、Sm1-xSrxMnO3-δの式、x=0.0~0.5及びδ=0.0~0.25、又はSrがBa及び/又はCaで部分的に置換されているペロブスカイト系材料の変性バージョンを有することができる。
【0034】
この化合物の色は黒色であり、理論的には、約90℃から600℃まで負のCTE挙動を示すことができる。無着色ペロブスカイトタイプの材料と金属酸化物及び金属炭酸塩原料の均質混合物を加熱することによるこの材料の固相合成により、バーにプレス成形された場合に220~360℃で-66×10
-7/℃のCTEを示す黒色粉末が得られた。膨張曲線を
図1に示し、負のCTE値の範囲を示す。試験されたCTEと理論上のCTEとの相違は、製品に存在した少量の二次相が原因であると思われる。
【0035】
ピロリン酸マグネシウム
着色CTE調整剤は、ピロリン酸マグネシウム(Mg2P2O7)も含むことができ、リン酸ガラスに高度に添加されたときの相変化により、狭い温度ウィンドウにわたって負のCTEを有するので、好適な着色CTE調整剤とすることができる。Co(II)、Zn(II)、及びその他のカチオンによる部分的な置換が可能であり、この相変化を異なる温度範囲に調整可能にすることができる。異なる組成物の混合は、全体的な相転移温度範囲及び負のCTE挙動の範囲を拡張することができ、用途においてこの混合物により多くの有用性を付与することができる。この化合物は、Fe-Bi-Zn-B-Oガラス及びV-Fe-Ti-Zn-P-Oガラスと使用することもできる。
【0036】
Ca0.75Sr0.25Zr4P6O24(NZP)、NaZr2P3O12、Nb2O5、Zr2P2O9、ZrW2O8、及びY2(WO4)3を含む他の構造タイプを有するCTE調整剤は、着色イオンで置換することによって変性されて、本主題による着色CTE調整剤を生成することができる。
【実施例】
【0037】
表4は、擬ブルッカイト構造の着色CTE調整剤の例の組成を示す。例1~11においては、原材料を均質混合し、均質混合物を高温で焼成して、着色CTE調整剤を形成した。比較例1を1450℃で60時間焼成して、相の純粋な材料を生成した。例2及び3のように、AlをFeで部分的に置換することを使用して、合成に必要な焼成温度を1350~1400℃の範囲に下げることができた。例5のように、共置換なしでいずれかの比率でAlをCrに置換しても、擬ブルッカイト構造の形成は得られなかった。Al及びFeが存在する場合、例2及び3からの材料の茶色を中和するためにCr、Mn及びCoを添加することができる。これらの二重に置換された試験は、表4における例6~11として表される。
【0038】
【0039】
参照として、以下の表5は、従来のCTE調整剤とそれらのCTE値を示す。
【0040】
【0041】
ほとんどの従来のCTE調整剤は、わずかにオフホワイトであり、正反射率(specular reflectance)を除外して読み取った場合、L*=85~95を有する。比較例として、3つの合成無着色CTE調整剤(すなわち、L*=85~95を有する)が表5bに含まれる。対照的に、本発明の着色CTE調整剤の多くは、20~65の範囲のL*値を示す。正反射率を除いた条件下で読み取った場合、参照黒色顔料のL*値は約20である。このデータに基づいて、エナメルにおける顔料成分の量は、着色CTE調整剤を使用することで大幅に削減又は排除できると予想される。有用であるためには、着色CTE調整剤は、暗い色の場合はL*<75、明るい色の場合は彩度(Chroma)C*>8を有する必要があり、C*=√(a*2+b*2)、好ましくはL*<70又はC*>10、最も好ましくはL*<65又はC*>12。
【0042】
【0043】
ガラスフリットシステム
ガラスフリットシステムは、ペースト、インク、又はグリーンボディ(例えば、テープ)の形態とすることができ、基体に適用され、その上で焼成されて、基体に付着されるエナメルを形成することができる。ガラスフリットシステムは、ガラスフリット、着色CTE調整剤、顔料、ビヒクル、及び必要に応じて他の成分を含むことができる。
【0044】
1.着色CTE調整剤
得られる焼成エナメルのCTEを調整して、基体のCTEにより厳密に整合させるために、着色CTE調整剤をガラスフリットシステムに組み込むことができる。さらに、着色CTE調整剤はそれ自体が着色されているので、その添加は、従来の無着色CTE調整剤の使用と比較して、エナメルに所望の着色効果を生み出すために必要な顔料の量を減らすことができる。着色CTE調整剤は、固形部の総重量の0.5~50wt%で含まれることができる。
【0045】
2.ガラスフリット
ガラスフリットは特に限定されず、ガラスフリットシステムの18~95wt%で含まることができる。使用されるガラスフリットは重要ではなく、様々な鉛含有ガラス及び鉛フリーガラスを利用することができる。
【0046】
本明細書で使用されるように、用語「ガラスフリット」は、典型的には、溶融材料の急速固化とそれに続く所望の粉末サイズへの粉末化又は粉砕によって製造される溶融前ガラス材料を意味する。ガラスフリットには、一般に、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、シリカ、酸化ホウ素、及び他の金属酸化物が含まれる。
【0047】
一般に、本明細書で有用なガラスフリットには、Pb-Siガラス、Pb-Bガラス、Pb-B-Siガラス、Pb-Bi-Siガラス、Pb-Al-Siガラス、リン酸塩ガラス、又は鉛フリーBi-Siガラス;鉛フリーアルカリ-Siガラス;鉛フリーZn-Siガラス;鉛フリーZn-Bガラス;鉛フリーアルカリ土類-Siガラス;及び鉛フリーZn-B-Siガラスなどの鉛フリーガラスを含む、一般的に分類される様々なガラスが含まれ、これらはすべて、追加的な元素酸化物又はハロゲン化物を含むことができる。上記の組み合わせも可能である。
【0048】
一実施形態において、ガラスフリットは、0~約75重量パーセントの酸化鉛、0~約75重量パーセントの酸化ビスマス、0~約75重量パーセントのシリカ、0~約50重量パーセントの酸化亜鉛、0~約40重量パーセントの酸化ホウ素、0~約15重量パーセントの酸化アルミニウム、0~約15重量パーセントの酸化ジルコニウム、0~約8重量パーセントの酸化チタン、0~約20重量パーセントの酸化リン、0~約15重量パーセントの酸化カルシウム、0~約10重量パーセントの酸化マンガン、0~約7重量パーセントの酸化銅、0~約5重量パーセントの酸化コバルト、0~約15重量パーセントの酸化鉄、0~約20重量パーセントの酸化ナトリウム、0~約20重量パーセントの酸化カリウム、0~約15重量パーセントの酸化リチウム、及び0~約7重量パーセントのフッ化物、並びにガラスフリット組成物において従来使用されている他の酸化物を含むことができる。
【0049】
以下の表6~11は、本発明の実施に有用なガラスフリット組成物を記載する。Li2O+Na2O+K2O+Rb2Oなどの記載項目は、Li2O、Na2O、K2O、RbO2、又は特定の量で存在するそれらのいずれかの組み合わせを意味する。表6に、ビスマス及び亜鉛フリットに適した酸化物の量を示す。
【0050】
【0051】
表7は、ビスマスフリットに適した酸化物の量を示す。
【0052】
【0053】
表8は、鉛フリットに適した酸化物の量を示す。
【0054】
【0055】
表9は、アルカリ-チタン-シリケート(AlkTiSi)フリットに適した酸化物の量を示す。
【0056】
【0057】
表10は、亜鉛フリットに適した酸化物の量を示す。
【0058】
【0059】
表11は、別の鉛フリットに適した酸化物の量を示す。
【0060】
【0061】
いずれかに挙げた実施形態において、フリットは、すべての酸化物成分を含有する必要はなく、様々な組み合わせが可能である。
【0062】
3.ビヒクル(Vehicle)
ビヒクルは、溶媒、バインダ、分散剤、並びに沈降防止剤及び消泡剤などの他の一般的な添加剤を含むことができる。ビヒクルシステムは、ガラスフリットシステムの3.5~80wt%を構成することができる。バインダは樹脂を含むことができ、典型的には、組成物のレオロジー特性、グリーン強度、又はパッケージ安定性に影響を与える。ビヒクルは、エポキシ類、ポリエステル類、アクリル類、セルロース類、ビニル類、天然タンパク質類、スチレン類、ポリアルキル類、カーボネート類、ロジン類、ロジンエステル類、アルキル類、乾性油、並びにデンプン類、グアール類、デキストリン類及びアルギン酸塩類などの多糖類を含むことができる。
【0063】
4.顔料
顔料は特に限定されず、ガラスフリットシステムの1~50wt%で含まれることができる。顔料は、鉛フリー及びカドミウムフリーの組成物とすることができ、金属酸化物顔料、カーボンブラック、混合金属酸化物顔料;金属顔料、及びその他を含む1つ又は複数の顔料を含むことができる。顔料は、コランダムヘマタイト(corundum-hematite)、パイロクロア(pyrochlore)、ルチル、ジルコン、スピネル、及びCPMAハンドブック第4版に概説されている他の鉱物系構造顔料を含むCICP(複合無機カラー顔料(CICP’s;Complex Inorganic Color Pigments))を含むことができる。市販の黒色顔料の例には、CuCr2O4、(Co,Fe)(Fe,Cr)2O4、及び(NiMnCrFe)3O4スピネル顔料が含まれる。
【0064】
5.追加成分
ガラスフリットシステムは、ガラスフリットシステム又は焼成エナメルの特徴を変更するために、必要に応じて、結晶性材料、還元剤、分散剤/界面活性剤、レオロジー調整剤、流動助剤、接着促進剤、安定剤などの様々な添加剤又はフィラーを含むことができる。ガラスエナメルではなく、セラミック釉薬を形成する場合、カオリン又は他のケイ酸塩材料などの他の鉱物を含めることができる。
【0065】
界面活性剤又は分散剤は、ガラスフリットシステムで基体を被覆することを補助すると共に、粒子サイズの最適化と組み合わせて、粒子の合着又は凝集を阻害する。粒子が粒子サイズ縮小操作を受ける場合、分散剤をサイズ縮小中に添加して、粒子が凝集してより大きなかたまりを形成することを抑制することができる。
【0066】
方法
本発明は、その上に焼成エナメルを有する基体を提供することができ、焼成エナメルは、本発明によるガラスフリットシステムを焼成することによって製造される。いずれかの好適な基体を本発明において使用することができる。基体の例には、ガラス、セラミック、金属、又は他の非多孔質基体が含まれる。基体の具体例には、自動車用ガラス基材、建築用又は構造用ガラス、電化製品、及び飲料容器が含まれる。焼成コーティングは、ガラスエナメル又はセラミック釉薬とすることができ、これは、ガラスフリット及びカオリン又は他のケイ酸塩材料などの鉱物を含むことができ、タイルの表面に含まれ得る。
【0067】
本発明のガラスフリットシステムを調製するために、ガラスフリットは、ビヒクル及び着色CTE調整成分、並びに必要に応じて顔料を含む他の成分と組み合わされて、ペースト、インク、又はグリーンボディの形態のガラスフリットシステムを形成する。
【0068】
ガラスフリットシステムが調製されると、いずれかの好適な技術によって基体に適用することができる。ガラスフリットシステムは、スクリーン印刷、デカール塗布、噴霧、ブラッシング、ローラーコーティング、テープキャスティングなどによって塗布することができる。ガラスフリットシステムがペーストの形態であり、ガラス基体に塗布される場合、好ましくはスクリーン印刷とすることができる。
【0069】
ガラスフリットシステムを所望のパターンで基体に適用した後、適用されたガラスフリットシステムを焼成して、基体に付着されたエナメルを形成し、ガラスエナメル又はセラミック釉薬を形成する。焼成温度は一般的にフリットの焼結温度に依存する。典型的には、焼成範囲は約500℃~約1500℃の範囲である。
【0070】
基体は、基体の少なくとも一部に、本明細書に記載のいずれかのガラスフリットシステムを適用することによって着色及び/又は装飾することができる。基体は、例えば、ガラスシートなどのガラス基板、又は自動車用ガラス(例えば、フロントガラス)とすることができる。ガラスフリットシステムは、本明細書に開示されるように、ペーストの形態で適用することができる。
【0071】
ガラスフリットシステムは、基体の表面全体に、又はその一部のみ、例えば周縁部、に適用することができる。該方法は、エナメル被覆基体又はセラミック釉がけ基体を形成することを含み、これによって、基体及び基体に適用されるガラスフリットシステムを加熱して、基体にガラスフリットを焼結させ、ガラスフリットシステムにおけるいずれかの有機材料を焼失させる。
【0072】
該方法は、エナメルが基体上に形成された後、基体及びその上のエナメルを加熱し、曲げることを含むさらなる処理を含むことができる。
【0073】
様々な上記に開示された及び他の特徴及び機能、又はそれらの代替もしくは変形が、他の多くの異なるシステム又は用途に望むように組み合わせることができることが理解されよう。さらに、当業者によってその後に行われる可能性のある現在予見されていない又は予想されていない様々な代替、変更、変形又は改善も以下の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
【0074】
本主題は、以下の項によってさらに規定される。
【0075】
項1
ビヒクル、ガラスフリット、着色CTE調整剤、及び選択的に1つ又は複数の顔料を含む、基体に付着されたエナメルを形成するためのガラスフリットシステムであり、
前記着色CTE調整剤が、
Al及び/もしくはTiが、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、及びCuを含む着色イオンのうちの1つ又は複数で部分的に置換されている、式Al2TiO5を有する変性擬ブルッカイト系材料;
Mg及び/もしくはAlが前記着色イオンの1つもしくは複数で部分的に置換されている、式Mg2Al4Si5O18を有する変性コーディエライト系材料;
式Sm1-xSrxMnO3-δ(x=0.0~0.5及びδ=0.0~0.25)を有するペロブスカイト系材料、又はSrがBa及び/もしくはCaで部分的に置換されている前記ペロブスカイト系材料の変性バージョン;
MgがCo及び/又はZnイオンで置換されている、式Mg2P2O7を有する変性ピロリン酸マグネシウム系材料;又は
これらの組み合わせ、を含む、
ガラスフリットシステム。
【0076】
項2
前記CTE調整剤は前記変性擬ブルッカイト系材料を含み、;
前記変性擬ブルッカイト系材料は、Mが前記着色イオンの1つもしくは複数を含み、xが0.1~2である式Al2-xMxTiO5を有する、又は、Mが前記着色イオンの1つもしくは複数を含み、xが0.01~0.4である式Al2Ti1-xMxO5を有する、
項1に記載のガラスフリットシステム。
【0077】
項3
前記CTE調整剤は、前記変性コーディエライト系材料を含み、
前記変性コーディエライト系材料は、Mが前記着色イオンの1つ又は複数であり、x+yが0.1~3.0である式Mg2-xAl4-yMx+ySi5O18を有する、
項1に記載のガラスフリットシステム。
【0078】
項4
前記CTE調整剤が、式Sm1-xSrxMnO3-δを有する前記ペロブスカイト系材料を含む、
項1に記載のガラスフリットシステム。
【0079】
項5
前記CTE調整剤が、変性ピロリン酸マグネシウム系材料を含む、
項1に記載のガラスフリットシステム。
【0080】
項6
前記ガラスフリットシステムの総重量に対して、:
前記ビヒクルは3.5~80wt%で含まれ、
前記ガラスフリットは18.5~95wt%で含まれ、
前記着色CTE調整剤は0.5~50wt%で含まれ、
前記顔料は1~50wt%で含まれている、
項1に記載のガラスフリットシステム。
【0081】
項7
フィラー、還元剤、分散剤/界面活性剤、レオロジー調整剤、流動助剤、及び接着促進剤、又は安定剤のうちの1つ又は複数をさらに含む、
項1に記載のガラスフリットシステム。
【0082】
項8
基体を準備する工程と、
ビヒクル、ガラスフリット、着色CTE調整剤、及び顔料を含むガラスフリットシステムを準備する工程と、
前記ガラスフリットシステムを前記基体に適用する工程と、
前記ガラスフリットシステムを焼成して、これによって前記基体に付着した着色エナメルを形成する工程と、を含み、
前記着色CTE調整剤が、
Al及び/もしくはTiが、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、及びCuを含む着色イオンのうちの1つもしくは又は複数で部分的に置換されている式Al2TiO5を有する変性擬ブルッカイト系材料;
Mg及び/もしくはAlが前記着色イオンの1つもしくは複数で部分的に置換されている式Mg2Al4Si5O18を有する変性コーディエライト系材料;
式Sm1-xSrxMnO3-δ(x=0.0~0.5及びδ=0.0~0.25)を有するペロブスカイト系材料、又はSrがBa及び/もしくはCaで部分的に置換されている前記ペロブスカイト系材料の変性バージョン;
MgがCo及び/もしくはZnイオンで置換されている式Mg2P2O7を有する変性ピロリン酸マグネシウム材料、又は
これらの組み合わせ;を含む、
エナメル被覆した基体を形成する方法。
【0083】
項9
前記CTE調整剤が前記変性擬ブルッカイト系材料を含み、
前記変性擬ブルッカイト系材料は、Mが1つもしくは複数の着色イオンを含み、xが0.1~2.0である式Al2-xMxTiO5を有し、又はMが前記着色イオンの1つもしくは複数を含み、xが0.01~0.4である式Al2Ti1-xMxO5を有する、
項8に記載の方法。
【0084】
項10
前記CTE調整剤は前記変性コーディエライト系材料を含み、
前記変性コーディエライト系材料は、Mが前記着色イオンの1つ又は複数であり、x+yが0.1~3.0である式Mg2-xAl4-yMx+ySi5O18を有する、
項8に記載の方法。
【0085】
項11
前記CTE調整剤が、式Sm1-xSrxMnO3-δを有する前記ペロブスカイト系材料を含む、
項8に記載の方法。
【0086】
項12
前記CTE調整剤が前記変性ピロリン酸マグネシウム系材料を含む、
項8に記載の方法。
【0087】
項13
前記ガラスフリットシステムの総重量に対して:
前記ビヒクルが3.5~80wt%で含まれ、
前記ガラスフリットが18.5~95wt%で含まれ、
前記着色CTE調整剤が0.5~50wt%で含まれ、
前記顔料が1~50wt%で含まれている、
項8に記載の方法。
【0088】
項14
前記ガラスフリットシステムが、フィラー、還元剤、分散剤/界面活性剤、レオロジー調整剤、流動助剤、及び接着促進剤、もしくは安定剤のうちの1つ又は複数をさらに含む、項8に記載の方法。
【0089】
項15
前記基体がガラスである、
項8に記載の方法。