(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】難燃性マスターバッチ樹脂組成物、その製造方法及びそれを含む成形体と繊維
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230913BHJP
C08K 5/5333 20060101ALI20230913BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20230913BHJP
C08K 5/5399 20060101ALI20230913BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20230913BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20230913BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20230913BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20230913BHJP
D01F 1/07 20060101ALI20230913BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/5333
C08K5/521
C08K5/5399
C08L67/00
C08L69/00
C08L77/00
C08J3/22 CEZ
D01F1/07
D01F6/92 304H
(21)【出願番号】P 2018213113
(22)【出願日】2018-11-13
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2017236323
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】丹藤 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】上田 俊文
(72)【発明者】
【氏名】山本 和久
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-528839(JP,A)
【文献】特表2018-510932(JP,A)
【文献】特開2015-178611(JP,A)
【文献】特開平05-140432(JP,A)
【文献】特開2016-108471(JP,A)
【文献】特開2013-237773(JP,A)
【文献】特表2016-535126(JP,A)
【文献】国際公開第2016/134369(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08J 3/00- 3/28
C08J99/00
D01F 1/00- 6/96
D01F 9/00- 9/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂である熱可塑性樹脂と、難燃剤を含むマスターバッチ樹脂組成物であって、
前記難燃剤は、示差熱分析法によるガラス転移温度が70~100℃、かつ重量平均分子量が2000~3000の
下記(化2)に示すホスホネートオリゴマー
【化2】
但し、前記一般式(2)において、mは0~30の整数である。
及びリン系化合物(但し、ホスホネートオリゴマーを除く。)を含
み、
前記ベース樹脂100質量部に対して、前記ホスホネートオリゴマーを1~50質量部を含むことを特徴とする難燃性マスターバッチ樹脂組成物。
【請求項2】
前記ホスホネートオリゴマーと前記リン系化合物の質量比は、ホスホネートオリゴマー:リン系化合物=0.5:9.5~9:1である請求項
1に記載の難燃性マスターバッチ樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン系化合物は、リン酸エステル及びリン-窒素系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1
又は2に記載の難燃性マスターバッチ樹脂組成物。
【請求項4】
前記リン酸エステルは、非ハロゲン縮合リン酸エステルである請求項
3に記載の難燃性マスターバッチ樹脂組成物。
【請求項5】
前記ベース樹脂は、ポリエステル、ポリカーボネート、又はナイロンである請求項1~
4のいずれか1項に記載の難燃性マスターバッチ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の難燃性マスターバッチ樹脂組成物の製造方法であって、
樹脂溶融部と、減圧ラインを備えた混練分散部と、押し出し部を連続して接続し、
前記混練分散部に、加熱溶融させたベース樹脂である熱可塑性樹脂と、示差熱分析法によるガラス転移温度が70~100℃、かつ重量平均分子量が2000~3000のホスホネートオリゴマーと、リン系化合物(但し、ホスホネートオリゴマーを除く。)を供給して混合した後、次いで、押し出し部から樹脂組成物を押し出す工程を含む、難燃性マスターバッチ樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記リン系化合物が、常温で液体、又は溶媒に溶解させた溶液である請求項
6に記載の難燃性マスターバッチ樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記リン系化合物が、リン酸エステル及び/又はリン-窒素系化合物であり、リン酸エステル及び/又はリン-窒素系化合物は、JIS Z 8803に基づいて測定した20℃の粘度が3000mPa・s以下である請求項
6又は7に記載の難燃性マスターバッチ樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の難燃性マスターバッチ樹脂組成物と、熱可塑性樹脂とを含む成形体であって、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物を1~30質量部含むことを特徴とする成形体。
【請求項10】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の難燃性マスターバッチ樹脂組成物と、熱可塑性樹脂とを含む繊維であって、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物を1~30質量部含むことを特徴とする繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体に高い難燃性付与することができる難燃性マスターバッチ樹脂組成物、その製造方法及びそれを含む成形体と繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、難燃性の高い熱可塑性樹脂組成物について様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂100重量部と、ポリフェニレンエーテル系樹脂1~30重量部と、窒素含有量とリン含有量の重量比(N/P)が所定の範囲にあるポリリン酸アンモニウム5~25重量部を含有する難燃性樹脂組成物が提案されている。
特許文献2には、熱可塑性ポリエステルと必要に応じて相溶化剤を合計100重量部と、リン系難燃剤と窒素系難燃剤と必要に応じて硼酸金属塩を合計25~125重量部と、繊維状強化材5~200重量部含有する高電圧絶縁材料部品用樹脂組成物が提案されている。
特許文献3には、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂30~99重量部と、リン含有難燃剤とリン-窒素含有難燃剤からなる難燃剤1~70重量部含有する難燃性樹脂組成物が提案されている。
特許文献4には、熱可塑性樹脂に、ポリホスホネート化合物とリン酸エステル系化合物が溶融混合された難燃剤組成物を配合して、難燃性を付与した熱可塑性組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-256157号公報
【文献】特開2010-024324号公報
【文献】特開2003-292754号公報
【文献】特許第5913756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、難燃剤、防炎剤、難燃助剤を多量に配合する必要があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、難燃剤が少ない配合量であっても、成形体に高い難燃性を付与することができる難燃性マスターバッチ樹脂組成物、その製造方法及びそれを含む成形体と繊維を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ベース樹脂である熱可塑性樹脂と、難燃剤を含むマスターバッチ樹脂組成物であって、
前記難燃剤は、示差熱分析法によるガラス転移温度が70~100℃、かつ重量平均分子量が2000~3000の
下記(化2)に示すホスホネートオリゴマー
【化2】
但し、前記一般式(2)において、mは0~30の整数である。
及びリン系化合物(但し、ホスホネートオリゴマーを除く。)を含
み、
前記ベース樹脂100質量部に対して、前記ホスホネートオリゴマーを1~50質量部を含むことを特徴とする難燃性マスターバッチ樹脂組成物に関する。
【0007】
本発明は、また、前記の難燃性マスターバッチ樹脂組成物の製造方法であって、樹脂溶融部と、減圧ラインを備えた混練分散部と、押し出し部を連続して接続し、前記混練分散部に、加熱溶融させたベース樹脂と、示差熱分析法によるガラス転移温度が70~100℃、かつ重量平均分子量が2000~3000のホスホネートオリゴマーと、リン系化合物(但し、ホスホネートオリゴマーを除く。)を供給して混合した後、次いで、押し出し部から樹脂組成物を押し出す工程を含む、難燃性マスターバッチ樹脂組成物の製造方法に関する。
【0008】
本発明は、また、前記の難燃性マスターバッチ樹脂組成物と、熱可塑性樹脂とを含む成形体であって、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物を1~30質量部含むことを特徴とする成形体に関する。
【0009】
本発明は、また、前記の難燃性マスターバッチ樹脂組成物と、熱可塑性樹脂とを含む繊維であって、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物を1~30質量部含むことを特徴とする繊維に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、難燃剤が少ない配合量であっても、成形体及び繊維に高い難燃性を付与することができる難燃性マスターバッチ樹脂組成物、その製造方法及びそれを含む成形体と繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の一実施態様で使用する押出機の模式的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の難燃性マスターバッチ樹脂組成物は、加熱溶融可能なベース樹脂100質量部と、前記難燃剤は、示差熱分析法(DTA法)によるガラス転移温度が70~100℃のホスホネートオリゴマーと、リン系化合物(但し、ホスホネートオリゴマーを除く。)を含む。このように、DTA法によるガラス転移温度が70~100℃のホスホネートオリゴマーとそれ以外のリン系化合物を併用することで、加熱溶融可能なベース樹脂とこれらの難燃剤を直接溶融混練しても、加工性良く、難燃剤が均一混合されたマスターバッチ樹脂組成物を得ることができ、それゆえ、マスターバッチ樹脂組成物の配合量、すなわち難燃剤の配合量が少なくても成形体に十分な難燃性能を付与することができる。以下において、特に指摘がない場合、リン系化合物は、ホスホネートオリゴマー以外のリン系化合物を意味する。なお、ガラス転移温度は、示差熱分析法(DTA法)で測定される。例えば、日立ハイテクサイエンス社製の熱重量測定機(TG/DTA6200)を用いて、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下で測定される。
【0013】
前記ホスホネートオリゴマー(Phosphonate oligomer、ホスホン酸オリゴマーとも称される。)は、難燃効果を有する。前記ホスホネートオリゴマーは、DTA法によるガラス転移温度が70~100℃であることにより、リン系化合物、特に常温(20±5℃)で液体であるリン系化合物(例えば、リン酸エステル等)との混練性が良くなり、リン系化合物と略均一に混合することができる。前記ホスホネートオリゴマーは、好ましくはガラス転移温度が80~95℃であり、より好ましくはガラス転移温度が80~90℃である。
【0014】
前記ホスホネートオリゴマーは、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1)で表される構造を有するホスホネートオリゴマーを用いることができる。
【0015】
【化1】
但し、前記一般式(1)において、R
1及びR
2は、それぞれ、独立して、水素又はメチル基であり、nは1~30の整数である。nは好ましくは3~20の整数であり、より好ましくは5~10の整数である。
【0016】
前記一般式(1)で表される構造を有するホスホネートオリゴマーとしては、例えば、下記一般式(2)で表される構造を有するホスホネートオリゴマー等が挙げられる。
【0017】
【化2】
但し、前記一般式(2)において、mは0~30の整数である。
【0018】
前記一般式(2)で表されるホスホネートオリゴマーとしては、例えば、FRX POLYMERS社製のホスホネートオリゴマー「Nofia(登録商標) OL-1001」(商品名)、「Nofia(登録商標) OL-3001」(商品名)、「Nofia(登録商標) OL-5000」(商品名)等の市販品を用いても良い。
【0019】
前記ホスホネートオリゴマーは、重量平均分子量(Mw)が1000~5000であることが好ましい。より好ましくは2000~3000である。重量平均分子量(Mw)が上記範囲内にあると、リン系化合物、特に常温で液体であるリン系化合物(例えば、リン酸エステル等)またはその水など溶媒に溶解させた溶液との混練性が良くなり、押出機に直接添加したときにもリン系化合物と略均一に混合できる。なお、ホスホネートオリゴマーの重量平均分子量の測定は、テトラヒドロフランを溶媒として用いたポリスチレン基準のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0020】
前記ホスホネートオリゴマーは、固体の状態で提供されても良い。固体の場合は、水等の溶媒に分散させた分散液を提供しても良い。或いは、前記ホスホネートオリゴマーは、液体の状態、例えば、前記ホスホネートオリゴマーを水等の溶媒に溶解させた溶液で提供されても良い。
【0021】
前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物は、前記ベース樹脂100質量部に対して前記ホスホネートオリゴマーを1質量部以上含むことが好ましく、より好ましくは5質量部以上含み、さらに好ましくは10質量部以上含む。また、前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物は、前記ベース樹脂100質量部に対して前記ホスホネートオリゴマーを50質量部以下含むことが好ましく、より好ましくは40質量部以下含み、さらに好ましくは30質量部以下含み、とくに好ましくは20質量部以下含む。前記ホスホネートオリゴマーは、一種を単独で用いても良く、二種以上を組合せて用いても良い。
【0022】
前記リン系化合物は、リン酸エステル及びリン-窒素系化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物であることが好ましい。リン酸エステルとリン-窒素系化合物を併用することも可能であるが、各々単独でも使用することができる。
【0023】
前記リン酸エステルは、主として燃焼時に炭化層を生成し、酸素と熱を遮断する効果を有する。前記リン酸エステルは、特に限定されないが、例えば、非ハロゲンリン酸エステル、非ハロゲン縮合リン酸エステル、含ハロゲンリン酸エステル、含ハロゲン縮合リン酸エステル等を用いることができる。非ハロゲンリン酸エステルとしては、例えば、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート等が挙げられる。非ハロゲン縮合リン酸エステルとしては、例えば、1,3-フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、1,3-フェニレンビス(ジ-2,6-キシレニルホスフェート)等が挙げられる。含ハロゲンリン酸エステルとしては、例えば、トリス(βクロプロピル)ホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(トリブロモネペンチル)ホスフェート等が挙げられる。含ハロゲン縮合リン酸エステルとしては、例えば、ポリオキシアルキレンビスジクロロアルキルホスフェート等が挙げられる。なかでも、非ハロゲン縮合リン酸エステルは、難燃性及び環境安全性の観点から好ましい。
【0024】
前記リン酸エステルは、液体又は固体で提供されるが、本発明においては、液体でベース樹脂に混練されることが好ましい。液体であると、樹脂内に均一に分散されるからである。特に、前記リン酸エステルは、常温で液体であることが好ましい。或いは、常温で固体のリン酸エステルを水等の溶媒に溶解した溶液の状態で用いても良い。前記リン酸エステルは、一種を単独で用いても良く、二種以上を組合せて用いても良い。
【0025】
前記リン酸エステルは、分子量が200~1000であることが好ましい。より好ましくは400~600である。分子量が上記範囲内にあると、ベース樹脂及びホスホネートオリゴマーとの混練性が良くなり、押出機に直接添加したときにもベース樹脂及びホスホネートオリゴマーと略均一に混合できる。
【0026】
前記リン酸エステルは、JIS Z 8803に基づいて測定した20℃の粘度が3000mPa・s以下であることが好ましい。より好ましくは20~2000mPa・sであり、さらに好ましくは50~1500mPa・sであり、さらにより好ましくは100~1000mPa・sであり、とくに好ましくは200~1000mPa・sである。粘度が上記範囲内にあると、ベース樹脂及びホスホネートオリゴマーとの混練性が良くなり、押出機に直接添加したときにもベース樹脂及びホスホネートオリゴマーと略均一に混合できる。
【0027】
前記リン-窒素系化合物は、主として窒素系ガスにより酸素を遮断する効果を有する。前記リン-窒素系化合物としては、ポリリン酸塩、リン酸塩及びホスファゼン類等を使用することができる。前記ポリリン酸塩としては、例えば、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。このうち、ポリリン酸アンモニウムが好ましい。前記ホスファゼン類としては、例えば、直鎖状ホスファゼン化合物、環状ホスファゼン化合物等が挙げられる。
【0028】
リン-窒素系化合物は、水などの溶媒に溶解させた液体または固体で提供されるが、固体の場合は、ベース樹脂に固体のままドライブレンドする方法、溶媒に分散させた分散液でブレンドする方法のいずれであっても良い。前記リン-窒素系化合物は、一種を単独で用いても良く、二種以上を組合せて用いても良い。本発明においては、液体でベース樹脂に混練されることが好ましい。液体であると、樹脂内に均一に分散される。特に常温で液体であるか、またはその水など溶媒に溶解させた溶液でベース樹脂に混練されるのが好ましい。リン-窒素系化合物またはその溶液は、JIS Z 8803に基づいて測定した20℃の粘度が3000mPa・s以下であることが好ましい。より好ましくは20~2000mPa・sであり、さらに好ましくは50~1500mPa・sであり、さらにより好ましくは100~1000mPa・sであり、とくに好ましくは200~1000mPa・sである。粘度が上記範囲内にあると、ベース樹脂及びホスホネートオリゴマーとの混練性が良くなり、押出機に直接添加したときにもベース樹脂及びホスホネートオリゴマーと略均一に混合できる。
【0029】
前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物は、前記ベース樹脂100質量部に対して前記リン系化合物を1質量部以上含むことが好ましく、3質量部以上含むことがより好ましく、5質量部以上含むことがさらに好ましい。また、前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物は、前記ベース樹脂100質量部に対して前記リン系化合物を20質量部以下含むことが好ましく、17質量部以下含むことがより好ましく、15質量部以下含むことがさらに好ましい。前記リン系化合物は、一種を単独で用いても良く、二種以上を組合せて用いても良い。
【0030】
前記ベース樹脂中に前記ホスホネートオリゴマー及び前記リン酸エステルを均一に分散させる観点から、前記ホスホネートオリゴマーと前記リン酸エステルの配合比率(質量比)は、ホスホネートオリゴマー:リン酸エステル=0.5:9.5~9.5:0.5の範囲であることが好ましく、より好ましくは4:6~9:1の範囲である。例えば、コストや樹脂物性を考慮したときは、リン系化合物がリッチになるように、ホスホネートオリゴマー:リン酸エステルが0.5:9.5~6:4であることが好ましい。リン濃度はホスホネートオリゴマーのほうが高いことが好ましい。難燃性を考慮したときは、ホスホネートオリゴマーとリン酸エステルが5:5~9:1になることが好ましく、より好ましくは7:3~8:2の範囲である。ホスホネートオリゴマーはポリカーボネートと類似の構造を有しているので、より難燃性が高くなる。
【0031】
前記リン-窒素系化合物が常温で液体であるか、またはその水など溶媒に溶解させた溶液である場合、前記ホスホネートオリゴマーと前記リン-窒素系化合物の配合比率(質量比)は、ホスホネートオリゴマー:リン-窒素系化合物=0.5:9.5~9.5:0.5の範囲であることが好ましく、より好ましくは4:6~9:1の範囲である。例えば、難燃性を考慮したときは、ホスホネートオリゴマーとリン-窒素系化合物が5:5~9:1になることが好ましいく、より好ましくは7:3~8:2の範囲である。
【0032】
前記ベース樹脂は熱可塑性樹脂であることが好ましい。前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(ナイロン)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、ポリエステル及び熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一つであることがより好ましい。この中でも、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド(ナイロン)がさらに好ましい。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等のポリマー及びその共重合体又はブレンド体等が挙げられる。ポリアミド(ナイロン)としては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン4,6及びその共重合体又はブレンド体等が挙げられる。
【0033】
本発明に用いられるベース樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリブチレンテレフタレート(PBT)を混合した樹脂とすることが好ましい。上記樹脂の混合のように、融点の異なる樹脂、あるいは流動性の異なる樹脂(例えば、メルトマスフローレイト、固有粘度(IV値)などが異なる樹脂)を混合することにより、ホスホネートオリゴマー及びリン系化合物の分散性が向上し、好ましい。PETとPBTの混合比(PET:PBT)は、質量比で1:9~9:1であることが好ましい。より好ましくは3:7~7:3である。
【0034】
前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物において、ホスホネートオリゴマー及びリン系化合物由来のトータルリン濃度は、0.1~5質量%であることが好ましい。より好ましくは1~3質量%である。リン濃度は誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)で測定できる。トータルリン濃度が上記範囲内にあると、所定の難燃性を得ることができる。前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物において、ホスホネートオリゴマー及びリン系化合物由来のトータルリン濃度は、例えば、ベース樹脂がポリエステル系樹脂であれば、1~2質量%であることが好ましく、ベース樹脂がポリオレフィン系樹脂であれば、1~5質量%であることが好ましい。
【0035】
前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物には、前記ベース樹脂、前記ホスホネートオリゴマー及び前記リン系化合物に加えて、相溶化剤が配合されていても良い。前記マスターバッチ樹脂組成物100質量部に対し、前記相溶化剤は1~20質量部配合されているのが好ましい。より好ましい配合量は、3~15質量部である。相溶化剤は、親水基を含む熱可塑性樹脂であることが好ましい。親水基を含む同種の樹脂を用いると、ベース樹脂と前述した難燃剤を液体の状態で添加する(以下、液添ともいう)するときに親和性が高く、より均一に分散することができる。
【0036】
具体的な相溶化剤は、エチレン-アクリル酸エステルコポリマー、エチレン-アクリル酸-マレイン酸コポリマー、エチレン-アクリル酸-マレイン酸メチルコポリマー等の極性基(酸無水基)を含むエチレン系コポリマーが好ましい。極性基を含有するエチレン系コポリマーは、極性基を有することにより、液添される難燃剤との親和性が高くなる、及びベース樹脂よりも融点が比較的低いので、混練しやすいので、好ましい。相溶化剤の融点(DSC法)は、70~110℃であることが好ましい。より好ましい融点は、80~105℃である。特に、エチレン-アクリル酸-マレイン酸コポリマーのように極性基として酸無水基を含むエチレン系コポリマーであると、ベース樹脂及び液添する難燃剤との親和性がより高く、好ましい。
【0037】
本発明のマスターバッチ樹脂組成物の製造方法は、加熱溶融可能なベース樹脂と、難燃剤を溶融混練し、冷却してチップ化される。なお、「チップ」を「ペレット」と称する場合がある。
【0038】
前記製造方法において、まず押出機を使用し、減圧ラインを備えた混練分散部に、押し出し部を連続して接続し、前記混練分散内に、加熱溶融させた樹脂と、ホスホネートオリゴマーと、リン系化合物を供給し、混合した後、次いで、押し出し部から樹脂組成物を押し出すことにより、マスターバッチ樹脂組成物が得られる。さらに相溶化剤を加えるとベース樹脂と難燃剤の混合が効率的となるため好ましい。ホスホネートオリゴマーと、リン系化合物は、必要に応じて水等の溶媒に溶解又は分散しても良い。
【0039】
以下、図面を用いて説明する。
図1は本発明の一実施態様で使用する押出機の模式的説明図である。この押出機1は、原料供給口2と、樹脂溶融部3と、混練分散部4と、減圧ライン5と、押し出し部6と、取り出し部7で構成されている。まず、樹脂溶融部3の原料供給口2から加熱溶融可能なベース樹脂と、必要に応じて溶媒(例えば水)に溶解又は分散させたホスホネートオリゴマー及びリン系化合物を供給する。次に混練分散部4に送り、混練分散部4では複数枚の混練プレートが回転しており、ここでベース樹脂と溶媒に溶解又は溶媒に分散させた難燃剤は均一混合される。次いで減圧ライン5から溶媒(例えば水分)が(水)蒸気の状態で除去される。次いで押し出し部6から樹脂組成物が押し出され、冷却して取り出し部7から取り出され、冷却後カットすればペレット状の樹脂組成物となる。ペレットは例えば直径2mm、高さ2mmの円柱形とする。
【0040】
前記の方法で得られた難燃性マスターバッチ樹脂組成物チップは、成形体用樹脂(熱可塑性樹脂)と混合されて難燃性の成形体を形成する。前記成形体は、前記押出機を使用して、圧縮成形、真空成形、射出成形、トランスファ成形、押出成形、カレンダ成形等、あるいはこれらの成形法の組み合わせにより成形しても良い。前記成形体としては、繊維、フィラメント、フィルム、シート、発泡体、ブロック体、丸棒、ボックス形状、前記成形体において、熱可塑性樹脂は、前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物中のベース樹脂と同様の樹脂であっても良い。具体的には、前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、ポリエステル及び熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも一つであるのが好ましい。この中でも、ポリエステルがさらに好ましい。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等のポリマー及びその共重合体等が挙げられる。
【0041】
前記成形体は、熱可塑性樹脂(成形体用樹脂)100質量部に対して、前記難燃性マスターバッチ樹脂組成物を1~30質量部含むことが好ましく、より好ましくは1.5~25質量部含み、さらに好ましくは2~20質量部、さらにより好ましくは3~15質量部、最も好ましくは4~10質量部である。すなわち、得られる成形体は、例えば、コストや樹脂物性を考慮したときは、難燃剤の主剤の一つであるホスホネートオリゴマーを0.01~2質量%含むことが好ましい。より好ましくは、0.025~1.2質量%であり、さらにより好ましくは、0.1~0.75質量%である。また、得られる成形体は、もう一方の難燃剤の主剤となるリン系化合物は、0.01~2質量%含むことが好ましい。より好ましくは、0.025~1.2質量%含み、さらにより好ましくは、0.1~0.75質量%含む。特に難燃性を考慮する場合は、成形体に対してホスホネートオリゴマーを0.1~8質量%含むことが好ましい。より好ましくは、0.5~7質量%であり、さらにより好ましくは、1~6質量%である。このように、本発明の構成であると、難燃剤の配合量が少なくても十分な難燃性能を得ることができる。また、成形体の形状によって、難燃性マスターバッチ樹脂組成物の添加量を適宜調整することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例で添加量を単に%と表記した場合は、質量%を意味する。
【0043】
(測定方法)
・ 分散性
押出機にベース樹脂及び難燃剤を添加した後の混練の程度を評価し、下記の基準で評価した。
分散性良好:ベース樹脂及び難燃剤が混練しやすく、分散性が良好であり、混練むらが生じない。
分散性普通:ベース樹脂及び難燃剤の混練が可能であり、適宜に分散し、混練むらが少ない。
分散性悪い:ベース樹脂及び難燃剤が混練しにくいため、分散性が悪く、混練むらが生じる。
・ 限界酸素指数(LOI)の測定
JIS L 1091 E法(酸素指数法試験)に準じて、E-2号試験片(不織布)を支持具に取付け測定した。点火器の熱源はプロパンガスとし、限界酸素指数の決定は50mm以上燃焼し続けた時に行った。
・ 燃焼試験
a.UL規格(UL94燃焼試験)に準じて、UL94HF発泡材料水平燃焼試験を行った。なお、前処理は12.4.1による。HF-1及びHF-2は、難燃性が良好であることを意味する。
b.UL規格(UL94燃焼試験)に準じて、UL94V 20mm垂直燃焼試験を行った。なお、前処理は12.4.1による。判定基準は、燃焼定格がよい(燃えにくい)順に記すと、V-0、V-1、V-2、NOT(不適合)となる。
【0044】
(実施例1)マスターバッチ樹脂組成物の製造
マスターバッチ樹脂組成物を以下の順番で製造した。
(1)難燃剤として、以下の化合物を準備した。
難燃剤A1:ホスホネートオリゴマー(DTA法によるガラス転移温度87℃、重量平均分子量2000~3000、リン含有量8.7質量%、FRX POLYMERS社製のホスホネートオリゴマー「Nofia(登録商標) OL-1001」(商品名))
難燃剤B1:リン酸エステル(1,3フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、常温で液体、分子量574、25℃の粘度600mPa・s、リン含有量10.5質量%、大八化学工業株式会社製、商品名「CR-733S」)
(2)ベース樹脂として、ポリエチレンテレフタレートのペレット(直径2mm、高さ2mmの円柱形、融点255℃)60質量部とポリブチレンテレフタレートのペレット(直径2mm、高さ2mmの円柱形、融点224℃)40質量部の混合物を準備した。
(3)
図1に示す押出機の原料供給口2からベース樹脂ペレットを100質量部と、難燃剤A1を10質量部と、難燃剤B1を10質量部供給した。
(4)押出機内における加工温度を280~300℃に設定した。樹脂溶融部3では回転軸に沿って供給物を前に送り、混練分散部4では複数枚の混練プレートが回転しており、ここでベース樹脂、難燃剤A1及び難燃剤B1は均一混合された。分散性が良好であった。
(5)次いで、押し出し部6から樹脂組成物を押出、冷却して取り出し口7から取り出した。
(6)ペレタイザーに導き、ペレット化して、ポリエステル系難燃性マスターバッチ樹脂組成物を得た。
得られた難燃性マスターバッチ樹脂組成物において、リン含有量は1.6質量%であった。
【0045】
(実施例2)マスターバッチ樹脂組成物の製造
図1に示す押出機の原料供給口2からベース樹脂ペレットを100質量部と、難燃剤A1を1質量部と、難燃剤B1を10質量部供給した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステル系難燃性マスターバッチ樹脂組成物を得た。実施例1と同様分散性が良好であった。得られた難燃性マスターバッチ樹脂組成物において、リン含有量は10.2質量%であった。
【0046】
(実施例3)マスターバッチ樹脂組成物の製造
図1に示す押出機の原料供給口2からベース樹脂ペレットを100質量部と、難燃剤A1を10質量部と、難燃剤B2(1,3-フェニレンビス(ジ-2,6-キシレニルホスフェート)、常温で固体、分子量687、リン含有量9.0質量%、大八化学工業株式会社製、商品名「PX-200」)を10質量部供給した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステル系難燃性マスターバッチ樹脂組成物を得た。実施例1と同様分散性が普通であった。得られた難燃性マスターバッチ樹脂組成物において、リン含有量は1.5質量%であった。
【0047】
(実施例4)マスターバッチ樹脂組成物の製造
図1に示す押出機の原料供給口2からベース樹脂ペレットを100質量部と、難燃剤A1を10質量部と、難燃剤B3(ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、常温で液体、分子量693、40℃の粘度2300mPa・s、リン含有量8.8質量%、大八化学工業株式会社製、商品名「CR-741」)を10質量部供給した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステル系難燃性マスターバッチ樹脂組成物を得た。実施例1と同様分散性が普通であった。得られた難燃性マスターバッチ樹脂組成物において、リン含有量は1.5質量%であった。
【0048】
(比較例1)マスターバッチ樹脂組成物の製造
難燃剤A1に代えて、ポリホスホネート(DTA法によるガラス転移温度101℃、重量平均分子量80,000~120,000、リン含有量10.8質量%、FRX POLYMERS社製のポリホスホネート「Nofia(登録商標) HM-1100」(商品名))を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステル系難燃性マスターバッチ樹脂組成物を得た。分散性が悪かった。
【0049】
(実施例5)繊維の製造
(1)実施例1のマスターバッチ樹脂組成物を4質量部と、成形体用樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)100質量部を準備した。
(2)(1)の混合したペレットを溶融紡糸用の押出機の原料供給口から供給し、常法の溶融紡糸機を用いて、押出機で溶融混練した後、溶融紡糸した。その後、公知の延伸機を用いて延伸、カットして、繊度が3.3dtex、繊維長が51mmのポリエチレンテレフタレート繊維を作製した。
【0050】
(実施例6)繊維の製造
(1)実施例1のマスターバッチ樹脂組成物を4質量部と、カーボンブラックを2質量部と、成形体用樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)100質量部を準備した。
(2)(1)の混合したペレットを溶融紡糸用の押出機の原料供給口から供給し、常法の溶融紡糸機を用いて、押出機で溶融混練した後、溶融紡糸した。その後、公知の延伸機を用いて延伸、カットして、繊度が3.3dtex、繊維長が51mmの黒原着のポリエチレンテレフタレート繊維を作製した。
【0051】
(実施例7)繊維の製造
(1)実施例1のマスターバッチ樹脂組成物を5質量部と、カーボンブラックを2質量部と、成形体用樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)100質量部を準備した。
(2)(1)の混合したペレットを溶融紡糸用の押出機の原料供給口から供給し、常法の溶融紡糸機を用いて、押出機で溶融混練した後、溶融紡糸した。その後、公知の延伸機を用いて延伸、カットして、トータル繊度1333.3dtexであり、フィラメントが60本のマルチフィラメントを作製した。
【0052】
(実施例8)繊維の製造
実施例1のマスターバッチ樹脂組成物の配合量を10質量部に変更した以外は、実施例7と同様にして、トータル繊度1333.3dtexであり、フィラメントが60本のマルチフィラメントを作製した。
【0053】
(実施例9)繊維の製造
(1)実施例1のマスターバッチ樹脂組成物を5質量部と、成形体用樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)100質量部を準備した。
(2)(1)の混合したペレットを溶融紡糸用の押出機の原料供給口から供給し、常法の溶融紡糸機を用いて、押出機で溶融混練した後、溶融紡糸した。その後、公知の延伸機を用いて延伸、カットして、トータル繊度83.3dtexであり、フィラメントが48本のマルチフィラメントを作製した。
【0054】
(実施例10)繊維の製造
実施例1のマスターバッチ樹脂組成物の配合量を10質量部に変更した以外は、実施例9と同様にして、トータル繊度83.3dtexであり、フィラメントが48本のマルチフィラメントを作製した。
【0055】
(比較例2)繊維の製造
実施例1のマスターバッチ樹脂組成物に代えて、比較例1のマスターバッチ樹脂組成物を用いた以外は、実施例5と同様にして、繊度が3.3dtex、繊維長が51mmのポリエチレンテレフタレート繊維を作製した。
【0056】
(比較例3)
市販の難燃剤を含まないポリエチレンテレフタレート系繊維(繊度3.3dtex、繊維長51mm)を用意した。
【0057】
実施例5~10及び比較例2~3の繊維を用いて下記のように不織布を作製し、上述したとおりに、限界酸素指数(LOI値とも称される。)の測定及び燃焼試験を行った。その結果を下記表1に示した。
【0058】
(不織布の作製方法)
実施例5~10及び比較例2~3の繊維をそれぞれ100質量%ずつ用い、(有)竹内製作所のニードルパンチ試験機(NL-500)(針品番:FDP-1、針深度、10mm、ピッチ3mm)で。不織布(目付400g/m2、厚さ5mm)を作製した。
【0059】
【0060】
上記表1の結果から分かるように、実施例5及び6のポリエチレンテレフタレート繊維(綿)を用いた不織布のLOI値は36以上であるとともに、UL94規格の難燃性を有することが確認できた。また、実施例7~10のポリエチレンテレフタレート繊維(マルチフィラメント)を用いた不織布のLOI値は22以上であり、難燃性を有していた。
【0061】
(実施例11)マスターバッチ樹脂組成物及び繊維の製造
(1)ベース樹脂ペレットを100質量部(PET/PBT=60/40)と、難燃剤A1を30質量部と、難燃剤B1を10質量部とした以外は、実施例1と同様にマスターバッチ樹脂組成物を製造した。
(2)得られたマスターバッチ樹脂組成物を5質量部と、カーボンブラック2質量部添加黒原着ポリエチレンテレフタレート(PET)100質量部を準備した。
(3)(2)の混合したペレットを溶融紡糸用の押出機の原料供給口から供給し、常法の溶融紡糸機を用いて、押出機で溶融混練した後、溶融紡糸し、延伸し、600dtex,30filamentsの黒マルチフィラメント繊維を作製した。添加物の分散性は良好であり、紡糸性も良好であった。この繊維のLOI値は26.5であった。
【0062】
(実施例12)マスターバッチ樹脂組成物及び繊維の製造
実施例11のマスターバッチ樹脂組成物を10質量部と、カーボンブラック2質量部添加黒原着ポリエチレンテレフタレート(PET)100質量部とした以外は実施例11と同様に実施した。得られた黒マルチフィラメント繊維の添加物の分散性は良好であり、紡糸性も良好であった。この繊維のLOI値は26.9であった。
【0063】
(実施例13)フィルムの製造
実施例11マスターバッチ樹脂組成物を10質量部と、ポリエチレンテレフタレート(PET)100質量部とした以外は実施例11と同様に溶融混練し、Tダイから押し出し、一軸延伸して厚み200μmのPETフィルムを作製した。得られたPETフィルムの添加物の分散性は良好であり、製膜性も良好であった。このフィルムはUL94準用 20mm垂直燃焼試験(V試験)でV-0であった。
【0064】
(実施例14)マスターバッチ樹脂組成物及びフィルムの製造
(1)難燃剤として、難燃剤A1と以下の難燃剤を準備した。
難燃剤B4 :リン酸二水素アンモニウムを含有するリン酸アンモニウム水溶液(25℃の粘度50mPa・s、リン含有量約4質量%、株式会社森川商店製、商品名「8HS」)
(2)
図1に示す押出機の原料供給口2からベース樹脂ペレットを100質量部(ナイロン6)と、難燃剤A1を30質量部と、難燃剤B4を10質量部供給し、押出機内における加工温度を230~250℃に設定した以外は、実施例1と同様の方法でナイロン系難燃性マスターバッチ樹脂組成物を得た。
得られた難燃性マスターバッチ樹脂組成物において、リン含有量は2質量%であった。
(3)得られたマスターバッチ樹脂組成物を20質量部と、ナイロン6(Ny6)100質量部とを添加、溶融混練し、Tダイから押し出し、一軸延伸して厚み200μmのナイロンフィルムを作製した。得られたナイロンフィルムの添加物の分散性は良好であり、製膜性も良好であった。このフィルムはUL94準用 20mm垂直燃焼試験(V試験)でV-2であった。
【0065】
(実施例15)マスターバッチ樹脂組成物及びフィルムの製造
実施例14で得られたマスターバッチ樹脂組成物を30質量部と、ナイロン6(Ny6)100質量部とした以外は、実施例14と同様の方法で厚み200μmのナイロンフィルムを作製した。得られたナイロンフィルムの添加物の分散性は良好であり、製膜性も良好であった。このフィルムはUL94準用 20mm垂直燃焼試験(V試験)でV-0であった。
【0066】
【0067】
以上の実施例から明らかなとおり、本発明の難燃性マスターバッチ樹脂組成物は、汎用性があり、難燃剤が少ない配合量であっても成形体及び繊維に高い難燃性を付与することができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の難燃性マスターバッチ樹脂組成物は、射出成形、押出成形、プレス成形等の様々な成形法に適用でき、繊維、フィルム、シート、丸棒、ボックス形状、平板等の様々な成形体に適用できる。
【符号の説明】
【0069】
1 押出機
2 原料供給口
3 樹脂溶融部
4 混練分散部
5 減圧ライン
6 押し出し部
7 取り出し部