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特許7348460吸収性物品用表面シート、その製造方法及び吸収性物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】吸収性物品用表面シート、その製造方法及び吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/511 20060101AFI20230913BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20230913BHJP
   D04H 1/498 20120101ALI20230913BHJP
   D04H 1/4374 20120101ALI20230913BHJP
   D06M 13/02 20060101ALI20230913BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
A61F13/511 300
D04H1/425
D04H1/498
D04H1/4374
D06M13/02
A61F13/511 400
A61F13/15 340
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019082950
(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020178823
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591264267
【氏名又は名称】ダイワボウレーヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】三原 達也
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-344443(JP,A)
【文献】特開2015-206142(JP,A)
【文献】特開昭62-033804(JP,A)
【文献】特開平11-093055(JP,A)
【文献】特開2017-210704(JP,A)
【文献】特表2019-508603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/511
D04H 1/425
D04H 1/498
D04H 1/4374
D06M 13/02
A61F 13/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水流交絡不織布で構成された吸収性物品用表面シートであって、
前記水流交絡不織布は、セルロース繊維100質量%からなり、使用時に肌側に配置される第一繊維層と、第一繊維層に接して配置されている第二繊維層と含み、
第一繊維層は、撥水性セルロース繊維を90質量%以上含有し、第二繊維層は、親水性セルロース繊維を90質量%以上含有し、第一繊維層を構成する繊維と第二繊維層を構成する繊維は部分的に交絡しており、
前記撥水性セルロース繊維は、撥水性再生セルロース繊維であり、前記撥水性再生セルロース繊維は、繊維中に練り込まれたカルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含み、繊維表面に架橋剤及び非フッ素系撥水剤が結合されており、
前記親水性セルロース繊維は、単繊維繊度が0.5dtex以上3.5dtex以下であることを特徴とする、吸収性物品用表面シート。
【請求項2】
前記非フッ素系撥水剤は、炭化水素系撥水剤である請求項1に記載の吸収性物品用表面シート。
【請求項3】
前記カルボキシル基を含有する化合物は、ポリアクリル酸及びアクリル酸-マレイン酸共重合体からなる群から選ばれる1以上である請求項に記載の吸収性物品用表面シート。
【請求項4】
前記撥水性セルロース繊維は、白色度がHw80以上である請求項1~のいずれか1項に記載の撥水性吸収性物品用表面シート。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に吸収性物品用表面シートの製造方法であって、
撥水性セルロース繊維を90質量%以上含有する第一繊維層と、親水性セルロース繊維を90質量%以上含有する第二繊維層を積層する工程、
得られた積層体の片面又は両面に水流を噴射して、第一繊維層を構成する繊維、第二繊維層を構成する繊維、及び第一繊維層を構成する繊維と第二繊維層を構成する繊維を部分的に交絡させる水流交絡工程を含むことを特徴とする、吸収性物品用表面シートの製造方法。
【請求項6】
前記水流交絡工程において、積層体の第二繊維層の面に水流を噴射した後に、積層体の第一繊維層の面に水流を噴射する請求項に記載の吸収性物品用表面シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の吸収性物品用表面シートを含み、第一繊維層が使用者の肌側に配置されることを特徴とする、吸収性物品。
【請求項8】
前記吸収性物品用表面シートがトップシートとして配置されている請求項に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維100質量%からなる水流交絡不織布で構成された吸収性物品用表面シート、その製造方法及び吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキンや紙オムツ等の吸収性物品のトップシート等の表面シートには、従来から、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維等の撥水性を有する合成繊維の表面に親水処理を施した不織布が広く用いられていた。近年、生分解性を持った環境配慮素材の需要が強まってきていることから、セルロース繊維を用いることが提案されている。例えば、特許文献1には、第1の層が合成繊維または疎水性のセルロース繊維を含み、第2の層が人造セルロース繊維を含む衛生製品が提案されている。また、特許文献2には、表面親水合成繊維と、表面疎水セルロース繊維を含む吸収性物品用不織布が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-507977号公報
【文献】特開2017-179643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の不織布は依然として合成繊維を含むという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、セルロース繊維100質量%からなり、柔らかい風合い及び液透過性を有し、液拡散性が良好であり、かつ液戻りが少ない吸収性物品用表面シート、その製造方法及び吸収性物品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水流交絡不織布で構成された吸収性物品用表面シートであって、前記水流交絡不織布は、セルロース繊維100質量%からなり、使用時に肌側に配置される第一繊維層と、第一繊維層に接して配置されている第二繊維層と含み、第一繊維層は、撥水性セルロース繊維を90質量%以上含有し、第二繊維層は、親水性セルロース繊維を90質量%以上含有し、第一繊維層を構成する繊維と第二繊維層を構成する繊維は部分的に交絡しており、前記撥水性セルロース繊維は、繊維表面に架橋剤及び非フッ素系撥水剤が結合しており、前記親水性セルロース繊維は、単繊維繊度が0.5dtex以上3.5dtex以下であることを特徴とする吸収性物品用表面シートに関する。
【0007】
本発明は、また、前記の吸収性物品用表面シートの製造方法であって、撥水性セルロース繊維を90質量%以上含有する第一繊維層と、親水性セルロース繊維を90質量%以上含有する第二繊維層を積層する工程、得られた積層体の片面又は両面に水流を噴射して、第一繊維層を構成する繊維同士、第二繊維層を構成する繊維同士、及び第一繊維層を構成する繊維と第二繊維層を構成する繊維を部分的に水流交絡させる工程を含むことを特徴とする、吸収性物品用表面シートの製造方法に関する。
【0008】
本発明は、また、前記の吸収性物品用表面シートを含み、第一繊維層が肌側に配するように使用することを特徴とする、吸収性物品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セルロース繊維100質量%からなり、柔らかい風合い及び液透過性を有し、液拡散性が良好であり、かつ液戻りが少ない吸収性物品用表面シート及びそれを含む吸収性物品を提供することができる。
また、本発明の製造方法によれば、セルロース繊維100質量%からなり、柔らかい風合い及び液透過性を有し、液拡散性が良好であり、かつ液戻りが少ない吸収性物品用表面シートを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、セルロース繊維100質量%からなる吸収性物品用表面シートの液透過性及び拡散性を良好にし、液戻りを低減することについて鋭意検討した。その結果、使用時に肌側に配置される第一繊維層と、第一繊維層に接して配置されている第二繊維層と含み、第一繊維層は撥水性セルロース繊維を90質量%以上含有し、第二繊維層は親水性セルロース繊維を90質量%以上含有し、第一繊維層を構成する繊維と第二繊維層を構成する繊維は部分的に交絡している水流交絡不織布で吸収性物品用表面シートを構成し、前記撥水性セルロース繊維として、繊維表面に架橋剤及び非フッ素系撥水剤が結合しているセルロース繊維を用い、前記親水性セルロース繊維として、単繊維繊度が0.5dtex以上3.5dtex以下であるセルロース繊維を用いることで、セルロース繊維100質量%からなる柔らかい風合いを有しつつ、液透過性を有し、液拡散性が良好であり、かつ液戻りが少ない吸収性物品用表面シートが得られることを見出した。
【0011】
本発明において、親水性セルロース繊維とは、JIS L 1097 7.1.3(沈降法)に準じて行う沈降試験において、沈降時間が60秒以下であることを意味し、撥水性セルロール繊維とは、JIS L 1097 7.1.3(沈降法)に準じて行う沈降試験において、沈降時間が60秒を超えることを意味する。以下において、特に指摘がない場合、沈降時間は、JIS L 1097 7.1.3(沈降法)に準じて行う沈降試験にて測定した沈降時間を意味する。
【0012】
前記吸収性物品用表面シートは、セルロース繊維100質量%からなる水流交絡不織布で構成されている。これにより、風合いが柔らかくなるとともに、生分解性を有するため廃棄しやすく環境にやさしい。また、セルロース繊維が吸水性に優れることから、吸湿効果を発揮しやすく、蒸れ感を低減することができる。
【0013】
前記水流交絡不織布は、使用時に肌側に配置される第一繊維層と、第一繊維層に接して配置されている第二繊維層と含み、第一繊維層は撥水性セルロース繊維を90質量%以上含有し、第二繊維層は親水性セルロース繊維を90質量%以上含有し、第一繊維層を構成する繊維と第二繊維層を構成する繊維は部分的に交絡している。このような構成にすることで、第一繊維層が経血や尿等の液体と接したとき、液体が徐々に吸収されて第一繊維層を透過し、透過した液体が第二繊維層において拡散され、第二繊維層に拡散した液体の液戻りが抑制される。
【0014】
第一繊維層は、具体的には、撥水性セルロース繊維90質量%以上100質量%以下、及び親水性セルロース繊維0質量%以上10質量%以下で構成されてもよく、撥水性セルロース繊維95質量%以上100質量%以下、及び親水性セルロース繊維0質量%以上5質量%以下で構成されてもよい。液戻り率をより低減する観点から、第一繊維層は、撥水性セルロース繊維100質量%からなることが好ましい。
【0015】
前記撥水性セルロース繊維は、繊維表面に架橋剤及び非フッ素系撥水剤が結合されている。前記撥水性セルロース繊維は、沈降時間が60秒を超えればよいが、撥水性に優れる観点から、2分以上であることが好ましく、3分以上であることがより好ましく、5分以上であることがさらに好ましい。
【0016】
前記撥水性セルロース繊維としては、天然セルロース繊維及び再生セルロース繊維等のセルロース繊維の繊維表面に架橋剤及び非フッ素系撥水剤が結合されているものを適宜に用いることができる。天然セルロース繊維としては、例えば、コットン、麻、パルプ等が挙げられる。再生セルロース繊維としては、例えば、レーヨン、ポリノジック等のビスコース法により再生されるセルロース繊維、キュプラ等の銅アンモニア法により再生されるセルロース繊維、及びリヨセル等の溶剤紡糸法により再生される精製セルロース繊維等が挙げられる。中でも、入手しやすく、結晶化度が低く、公定水分率及び保水性が大きく、吸放湿性が高く、蒸れ感をより低減する観点から、前記撥水性セルロース繊維は、ビスコース法により再生されるセルロース繊維の繊維表面に架橋剤及び非フッ素系撥水剤が結合されている撥水性再生セルロース繊維であることが好ましい。
【0017】
前記レーヨン繊維等の再生セルロース繊維は、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含むことがより好ましい。レーヨン繊維等の再生セルロース繊維にカルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含ませるとともに、架橋剤及び非フッ素系撥水剤を繊維表面に結合させることにより、非フッ素系撥水剤の繊維表面における定着性が高くなり、撥水性がより良好になる。以下において、特に指定がない場合、「酸性基を含有する化合物」は、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を意味する。再生セルロース繊維の作製時に、ビスコース原液に酸性基を含有する化合物を混合して調製した紡糸用ビスコース液を紡糸することで、繊維中に酸性基を含有する化合物を練り込むこと、酸性基を含有する化合物を含む水溶液等に再生セルロース繊維を浸漬して繊維中に酸性基を含有する化合物を含浸させること、酸性基を含有する化合物を含む水溶液等を再生セルロース繊維に噴霧や塗布して再生セルロース繊維に酸性基を含有する化合物を付着させること等により、再生セルロース繊維中に酸性基を含有する化合物を含ませることができる。その中でも、練り込みは、酸性基を含有する化合物が繊維の表面及び内部の全体に均一に混合されて分散していること、及び酸性基を含有する化合物が繊維から脱落しにくいことから、好ましい。
【0018】
前記カルボキシル基を含有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、再生セルロース繊維にカルボキシル基を付与しやすい観点から、(メタ)アクリル酸系重合体であることが好ましい。本発明において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸を包含する意味である。(メタ)アクリル酸系重合体は、(メタ)アクリル酸系単量体の単独重合体であってもよく、(メタ)アクリル酸系単量体と他の単量体の共重合体であってもよい。前記カルボキシル基を含有する化合物は、より好ましくは、ポリアクリル酸及びアクリル酸-マレイン酸共重合体からなる群から選ばれる1以上である。
【0019】
前記ポリアクリル酸としては、例えば、ポリアクリル酸の未中和物、すなわち、ポリアクリル酸のカルボキシル基がH型になっているポリアクリル酸のH型を用いることが好ましい。なお、ポリアクリル酸のカルボキシル基のHの部位が部分的にNa等の金属イオン又はイオン性の化合物で置換されてもよい。以下において、特に指定がない場合、ポリアクリル酸はポリアクリル酸の未中和物を意味する。前記ポリアクリル酸としては、主体としてカルボキシル基が主鎖に付いた構造であり、高分子の分子量に対するカルボキシル基の寄与が最大の化合物を用いることができ、例えば理論カルボキシル基の量が72g/mol以上のポリアクリル酸を用いることが好ましい。
【0020】
前記アクリル酸-マレイン酸共重合体は、アクリル酸及びアクリル酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種(以下において、アクリル酸系単量体とも記す。)を含むエチレン性不飽和単量体と、マレイン酸、マレイン酸塩及び無水マレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種(以下において、マレイン酸系単量体とも記す。)を含むエチレン性不飽和単量体の重合体であってもよく、アクリル酸及びアクリル酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、マレイン酸、マレイン酸塩及び無水マレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むエチレン性不飽和単量体の重合体であってもよい。また、繊維にカルボキシル基を付与しやすい観点から、アクリル酸-マレイン酸共重合体は、アクリル酸及びアクリル酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むエチレン性不飽和単量体と、マレイン酸及びマレイン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むエチレン性不飽和単量体の重合体、及び/又は、アクリル酸及びアクリル酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、マレイン酸及びマレイン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むエチレン性不飽和単量体の重合体であることが好ましい。また、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、前記アクリル酸-マレイン酸重合体は、アクリル酸系単量体、マレイン酸系単量体以外の他の単量体を共重合したものであってもよい。前記他の単量体は、例えば、不飽和モノカルボン酸系単量体であってもよい。
【0021】
前記アクリル酸-マレイン酸共重合体は、重量平均分子量が5000以上500000以下であることが好ましく、6000以上250000以下であることがより好ましく、10000以上100000以下であることがさらに好ましく、30000以上80000以下であることが特に好ましい。重量平均分子量が上述した範囲内であると、再生セルロース中に練り込みやすい上、洗濯した場合や染色・洗濯した場合でもカルボキシル基を含有する化合物の脱落や変性が起こりにくい。
【0022】
前記アクリル酸-マレイン酸共重合体は、マレイン酸を5質量%以上95質量%以下含むことが好ましく、20質量%以上80質量%以下含むことがより好ましく、30質量%以上70質量%以下含むことがさらに好ましく、40質量%以上60質量%以下含むことが特に好ましい。アクリル酸-マレイン酸共重合体におけるマレイン酸の含有量が前記範囲であると、再生セルロース繊維にカルボキシル基を付与しやすい。再生セルロース繊維中に、アクリル酸-マレイン酸共重合体を同質量含ませた場合、マレイン酸比率が高いアクリル酸-マレイン酸共重合体を含ませることが、H型カルボキシル基の量も多くなるため好ましい。
【0023】
本発明において、アクリル酸-マレイン酸共重合体中のマレイン酸比率は、アクリル酸-マレイン酸共重合体中の有機物成分がアクリル酸とマレイン酸のみであると仮定し、下記のように測定算出することができる。
(1)試料(アクリル酸-マレイン酸共重合体塩を含む水溶液)4~5mL程度をガラス製のバイアル瓶に入れて、110℃で20時間加熱して乾燥させる。
(2)約50mg程度の乾燥試料を約0.7mL程度の重水に溶解する。
(3)試料の重水溶液に対してFT-NMR装置(日本電子株式会社製、JMTC-300/54/SS)を用いて1H-NMR分析を行い、高分子主鎖中のメチレン基炭素とメチン基炭素の存在比率から、アクリル酸成分(A)とマレイン酸成分(M)の組成比を求める。測定回数は16回とし、平均値を求める。
【0024】
前記スルホン酸基を含む化合物としては、特に限定されないが、例えば、ナフタリンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、フェノールスルホン酸塩、ジヒドロキシジフェニルスルホン、ヒドロキシフェニルスルホンのホルマリン縮合物等を用いることができる。
【0025】
前記再生セルロース繊維において、前記カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物の含有量は、例えば、セルロース100質量%に対して1質量%以上35質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、4質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。前記再生セルロース繊維において、前記カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物の含有量がセルロース100質量%に対して1質量%未満では、酸性基による効果が発揮しにくい傾向があり、35質量%を超えると、繊維強度が低下するため細繊化できない恐れがある。
【0026】
前記再生セルロース繊維において、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基の総量は、好ましくは0.30mmol/g以上1.60mmol/g以下であり、より好ましくは0.35mmol/g以上1.50mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.40mmol/g以上1.40mmol/g以下である。カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基の総量が上述した範囲内であると、酸性基による効果が発揮しやすい。前記再生セルロース繊維において、酸性基は、後述するように、イソシアネート系化合物と結合し、繊維表面が40℃以上110℃以下の低い温度となるような熱処理でも、非フッ素系撥水剤の繊維表面の定着性を向上させるとともに、再生セルロース繊維にアンモニア消臭性及びpH緩衝性を付与する効果を発揮する。本発明において、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基の総量は、後述するとおりに測定算出する。
【0027】
前記非フッ素系撥水剤としては、特に限定されないが、例えば、炭化水素系撥水剤が好ましい。炭化水素系撥水剤としては、例えば、エステル結合を介して存在する炭化水素基の炭素数が12以上の(メタ)アクリル酸エステルを単量体の基本単位として含むポリマーからなる炭化水素系撥水剤を用いることが好ましい。前記炭化水素基の炭素数は、24以下であることがより好ましく、21以下であることがさらに好ましい。前記炭化水素基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和炭化水素であっても不飽和炭化水素であってもよく、更には脂環式又は芳香族の環状を有していてもよい。これらの中でも、直鎖状であるものが好ましく、直鎖状のアルキル基であるものがより好ましい。本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。
【0028】
前記の(メタ)アクリル酸エステル単量体は、前記ポリマーを構成する単量体単位の全量に対して80質量%以上100質量%以下であることが好ましい。また、前記炭化水素系撥水剤の重量平均分子量は10万以上であることが好ましく、50万以上であることがより好ましい。前記炭化水素系撥水剤は、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの共重合体であってもよい。
【0029】
前記炭化水素系撥水剤としては、炭化水素系撥水剤粒子が水中に分散した撥水剤組成物として用いることができる。前記撥水剤組成物は、界面活性剤、有機溶剤を含んでもよい。このような撥水剤組成物としては、例えば、ネオシードNRシリーズ(日華化学株式会社製)等の市販品を用いてもよい。
【0030】
前記撥水性再生セルロース繊維等の撥水性セルロース繊維において、前記非フッ素系撥水剤の付着量は、例えば、セルロース100質量%に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上6質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることがさらにより好ましい。前記非フッ素系撥水剤の付着量が上記範囲内であると、撥水性が良好になるとともに、繊維が剛直になりにくい。
【0031】
前記非フッ素系撥水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を適宜に組み合わせて用いても良い。
【0032】
前記架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、前記非フッ素系撥水剤を繊維表面に定着しやすい観点から、イソシアネート系化合物を用いることが好ましい。イソシアネート系化合物としては、例えば、イソシアネート基を有する化合物及びブロックドイソシアネート基を有する化合物等の架橋剤を用いることができる。
【0033】
イソシアネート基を有する化合物としては、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ナフタレンイソシアネート等のモノイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート及びこれらのイソシアヌレート環である三量体や、トリメチロールプロパンアダクト体が挙げられる。
【0034】
ブロックドイソシアネート基を有する化合物としては、上記イソシアネート基を有する化合物をブロック化剤でイソシアネート基を保護した化合物が挙げられる。このとき用いられるブロック化剤としては、2級又は3級アルコール類、活性メチレン化合物、フェノール類、オキシム類、ラクタム類等の有機系ブロック化剤や、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム等の重亜硫酸塩等が挙げられる。ブロックドイソシアネート基は、反応性の高いイソシアネート基がマスキングされており、通常120~180℃の熱処理によりブロックが解離するが、本発明においては、セルロース中にカルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を有するので、繊維表面が40℃以上110℃以下の低温でブロックが解離すると推定される。よって、ブロックドイソシアネート基は、前記撥水性再生セルロース繊維の表面において、ブロックが解離された状態で存在する。
【0035】
前記撥水性再生セルロース繊維等の撥水性セルロース繊維において、前記イソシアネート系化合物の付着量は、例えば、セルロース100質量%に対して0.010質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.020質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましく、0.03質量%以上2.0質量%以下であることがさらに好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下であることがさらにより好ましい。前記非フッ素系撥水剤の付着量が上記範囲内であると、撥水性の耐久性(以下において、耐久撥水性とも記す。)が良好になるとともに、繊維が剛直になりにくい。
【0036】
前記イソシアネート系化合物等の架橋剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を適宜に組み合わせて用いても良い。
【0037】
前記非フッ素系撥水剤と前記イソシアネート系化合物の質量比(非フッ素系撥水剤:イソシアネート系化合物)は、特に限定されないが、例えば、撥水性及びその耐久性を向上させる観点から、3:1以上7:1以下であることが好ましく、4:1以上6:1以下であることがより好ましい。
【0038】
前記撥水性再生セルロース繊維は、特に限定されないが、例えば、セルロースを含むビスコース原液(原料ビスコース)に、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を混合して紡糸用ビスコース液を調製し、前記紡糸用ビスコース液をノズルより押し出し、凝固再生させてビスコースレーヨン糸条とし、前記ビスコースレーヨン糸条をイソシアネート系化合物及び非フッ素系撥水剤を含む撥水加工用処理液で処理した後、熱処理することで作製することができる。
【0039】
原料ビスコースは、例えば、セルロースを7質量%以上10質量%以下、水酸化ナトリウムを5質量%以上8質量%以下、二硫化炭素を2質量%以上3.5質量%以下含んでもよい。このとき、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、二酸化チタン等の添加剤を使用することもできる。原料ビスコースの温度は18℃以上23℃以下に保持するのが好ましい。
【0040】
カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物の添加量は、原料ビスコース中のセルロース100質量%に対して1質量%以上35質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。上述した範囲内であると、繊維強度を高くしつつ、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を繊維に効果的に練り込むことができる。
【0041】
前記ビスコースレーヨン糸条は、例えば通常の円形ノズルを用いて製造することができる。紡糸ノズルとしては、目的とする生産量にもよるが、直径0.05mm以上0.12mm以下であり、ホール数が1000以上20000以下である円形ノズルを用いることが好ましい。また、異型断面のノズルを使用してもよい。前記紡糸ノズルを用いて、前記紡糸用ビスコース液を紡糸浴中に押し出して紡糸し、凝固再生させる。紡糸速度は30m/分以上80m/分以下の範囲が好ましい。また、延伸率は39%以上55%以下が好ましい。ここで延伸率とは、延伸前のスライバー速度を100としたとき、延伸後のスライバー速度をどこまで速くしたかを示すものである。倍率で示すと、延伸前が1、延伸後は1.39倍以上1.55倍以下となる。
【0042】
紡糸浴(ミューラー浴)としては、例えば、硫酸を95g/L以上130g/L以下、硫酸亜鉛を10g/L以上17g/L以下、硫酸ナトリウム(芒硝)を290g/L以上370g/L以下含む強酸性浴を用いることが好ましい。より好ましい硫酸濃度は、95g/L以上120g/L以下である。
【0043】
前記のようにして得られたビスコースレーヨン糸条(再生セルロース繊維)を所定の長さにカットし、通常、精練処理を行う。精練工程は、一般的に、熱水処理、水洗、水硫化処理(脱硫)、漂白、酸洗い、及び水洗の順で行うことができる。なお、漂白、及び酸洗いは省略してもよい。
【0044】
必要に応じて、精練工程後のレーヨン繊維糸条を、pH調整処理し、繊維のpHを7.0以下に調整してもよい。pH調整処理は、pHが6.0以下の緩衝液に繊維を浸漬することで行うことができる。浸漬時の浴比は、特に限定されないが、1:10以上1:30以下であることが好ましく、より好ましくは1:15以上1:25以下である。また、浸漬時間は、特に限定されないが、0.5分以上50分以下であることが好ましく、より好ましくは1分以上20分以下である。前記pH調整用緩衝液としては、特に限定されないが、例えば、酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液等一般的な緩衝溶液を使用することが可能であるが、緩衝溶液中にナトリウムを含んでいることが望ましい。pH調整用緩衝液に浸漬した後、水洗を施し、乾燥処理してもよい。
【0045】
前記再生セルロース繊維(撥水加工の前)において、H型カルボキシル基及び/又はH型スルホン酸基の量は、好ましくは0.20mmol以上1.60mmol/g以下であり、より好ましくは0.30mmol/g以上1.50mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.35mmol/g以上1.40mmol/g以下である。また、上記再生セルロース繊維において、塩型カルボキシル基及び/又は塩型スルホン酸基の量は、好ましくは1.0mmol/g以下であり、より好ましくは0.35mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.015mmol/g以上0.20mmol/g以下である。
【0046】
前記再生セルロース繊維(撥水加工の前)において、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基の総量に対するH型カルボキシル基及び/又はH型スルホン酸基の量の割合は、45%以上100%以下であることが好ましく、より好ましくは80%以上98%以下であり、さらに好ましくは90%以上95%以下である。H型カルボキシル基及び/又はH型スルホン酸基の量の割合が上述した範囲内であると、後述する撥水加工工程において、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基とイソシアネート基が結合しやすいうえ、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基が酸触媒として働き、イソシアネート基と水が効率よく反応して生成したアミンが様々な副反応を起こしやすくなり、耐久撥水性を高めることができる。
【0047】
精練工程の後に、撥水加工を行う。まずは、前記ビスコースレーヨン糸条をイソシアネート系化合物等の架橋剤及び非フッ素系撥水剤を含む撥水加工用処理液で処理して、イソシアネート系化合物及び非フッ素系撥水剤を付着させる。撥水加工用処理液による処理方法は特に限定されず、例えば、浸漬、噴霧、シャワー塗布等の加工方法が挙げられる。前記撥水加工用処理液による処理は、イソシアネート系化合物及び非フッ素系撥水剤を繊維へ付着させやすい観点から、前記ビスコースレーヨン糸条の水分率が100質量%以上180質量%以下の条件で行うことが好ましく、水分率が120質量%以上150質量%以下の条件で行うことがより好ましい。
【0048】
前記撥水加工用処理液において、前記非フッ素系撥水剤と前記イソシアネート系化合物は水等の溶媒に分散されている。処理液に占める前記非フッ素系撥水剤の濃度は、特に限定されないが、0.15質量%以上40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.35質量%以上35質量%以下である。処理液の濃度が上記範囲内にあると、非フッ素系撥水剤とイソシアネート系化合物の付着量が調整しやすいこと、及び熱処理時に水等溶媒を蒸発させる際に繊維表面の温度を低温に調整しやすく、好ましい。
【0049】
前記非フッ素系撥水剤の使用量は、要求される撥水性の度合いに応じて適宜調整可能であるが、再生セルロース繊維100質量%に対して、非フッ素系撥水剤(撥水剤として、撥水剤組成物を用いた場合でも、非フッ素系撥水剤のみ)が0.1質量%以上10質量%以下となるように調整することが好ましく、0.2質量%以上8.0質量%以下となるように調整することがより好ましい。非フッ素系撥水剤の付着量が上述した範囲内であると、撥水性を付与しやすいとともに再生セルロース繊維の柔らかさを保持することができる。
【0050】
前記イソシアネート系化合物(例えば、イソシアネート基を有する化合物及びブロックドイソシアネート基を有する化合物等の架橋剤)の使用量は、特に限定されないが、再生セルロース繊維の柔らかさを保持しやすい観点から、再生セルロース繊維100質量%に対して、0.010質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
前記撥水加工用処理液において、特に限定されないが、耐久撥水性を高めるとともに、再生セルロース繊維の柔らかさを保持する観点から、前記非フッ素系撥水剤と前記イソシアネート系化合物の質量比(非フッ素系撥水剤:イソシアネート系化合物)は、例えば、3:1以上7:1以下であることが好ましく、4:1以上6:1以下であることがより好ましい。
【0052】
次に、繊維を熱処理することで、再生セルロース繊維の繊維表面に架橋剤により非フッ素系撥水剤を結合させる。前記熱処理は、繊維表面が40℃以上110℃以下の温度となるような条件で行うことが好ましい。熱処理の温度(実温度)におけるより好ましい実温度の下限は、繊維表面が50℃以上であり、さらに好ましい実温度の下限は、繊維表面が60℃以上である。より好ましい実温度の上限は、繊維表面が100℃未満であり、さらに好ましくは95℃以下であり、さらにより好ましくは90℃以下である。熱処理温度が上述した範囲内であると、イソシアネート系化合物及び非フッ素系撥水剤を繊維に強固に結合させるとともに、繊維が黄変する等の熱による繊維の変質が抑えられる。前記撥水加工用処理液が水分を含む場合は、水を除去するために行う乾燥処理を熱処理とすることができる。
【0053】
撥水加工の後、撥水性が損なわない程度で必要に応じて油剤を付与してもよい。
【0054】
天然セルロース繊維の場合も、再生セルロース繊維の場合と同様、精錬工程後に撥水加工を行い、その後、撥水性が損なわない程度で必要に応じて油剤を付与してもよい。或いは、市販の天然セルロース繊維を用い、再生セルロース繊維の場合と同様、撥水加工を行い、その後、撥水性が損なわない程度で必要に応じて油剤を付与してもよい。
【0055】
前記撥水性再生セルロース繊維は、特に限定されないが、例えば、単繊維繊度が0.3dtex以上8.0dtex以下であることが好ましい。より好ましくは0.6dtex以上6.0dtex以下であり、さらに好ましくは0.7dtex以上3.6dtex以下である。単繊維繊度が0.3dtex未満であると、延伸時に単繊維切れが発生しやすい傾向にある。単繊維繊度が8.0dtexを越えると、繊維の再生状態が不良になりやすく、繊維の色相等が悪くなる場合がある。
【0056】
前記撥水性再生セルロース繊維は、白色度がHw80以上であり、セルロースの風合いを保持する観点から、Hw80以上Hw90以下であることが好ましい。一般の再生セルロース繊維の場合、撥水加工を行う場合、120℃以上、撥水耐久性を向上させるには170℃以上の条件下で架橋剤を反応させる必要があり、高温に晒すことにより白色度が著しく低下する(Hw80未満)。本発明では、特定の酸性基を含む再生セルロースを用いるので、セルロースの劣化を抑制することができ、その結果、白色度がほぼ低下しない傾向にある。
【0057】
前記撥水性再生セルロース繊維は、JIS L 1015に準じて測定される標準時の引張強さ(以下、乾強度ともいう。)は1.5cN/dtex以上3.0cN/dtex以下であることが好ましい。より好ましくは1.7cN/dtex以上2.7cN/dtex以下である。湿潤時の引張強さ(以下、湿強度ともいう。)で0.6cN/dtex以上2.0cN/dtex以下であることが好ましい。より好ましくは0.8cN/dtex以上1.8cN/dtex以下である。
【0058】
前記撥水性再生セルロース繊維は、JIS L 1015に準じて測定される標準時の伸び率(以下、乾伸度ともいう。)は15%以上25%以下であることが好ましい。より好ましくは16%以上24%以下である。湿潤時の伸び率(以下、湿伸度ともいう。)で15%以上40%以下であることが好ましい。より好ましくは18%以上35%以下である。
【0059】
引張強さ及び伸び率が上記範囲内にあると、紡糸性が良好で、且つ製品強度が良好になりやすい。
【0060】
通常、再生セルロース繊維に対して撥水加工を行う場合、120℃以上、撥水耐久性を向上させるには170℃以上の条件下で架橋剤を反応させる必要があり、高温に晒すことにより撥水剤のフィルム化および架橋結合が強固に起こるので、標準時(乾燥状態)では繊維全体の剛直性や強度は増すものの、熱によるセルロースの非晶部分等の劣化によりセルロース自体の強度は低下している。そのため、湿潤時のように、水による膨潤や非晶部分の水素結合の切断等によりセルロース自体の強度が低下するのに加えて、熱による劣化の影響により湿強度が著しく低下する傾向にある。本発明においては、セルロース中にカルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を有しており、100℃以下の低温で所定の撥水加工ができるので、架橋結合により繊維の剛直性や強度が増す一方、セルロース自体への熱によるダメージが少なく、湿強度の低下が少ない傾向にある。
【0061】
前記撥水性再生セルロース繊維は、JIS L 1015に準じて測定される標準時の見掛けヤング率(以下、乾ヤング率(DY)ともいう。)は3500MPa以上8500MPa以下であることが好ましい。より好ましくは4000MPa以上8000MPa以下である。湿潤時の見掛けヤング率(以下、湿ヤング率(WY)ともいう。)は800MPa以上1300MPa以下であることが好ましい。より好ましくは900MPa以上1200MPa以下である。見掛けヤング率が上記範囲内にあると、繊維自体の柔らかさを保持しつつ適度なコシを繊維に付与することができる。
【0062】
見掛けヤング率における湿潤時/標準時(湿乾)の比率がセルロース自体の劣化を抑制しつつ撥水剤を強固に結合させるファクターとして表され、下記式で示される。
湿乾ヤング率比=(WY/DY)×100 (1)
見掛けヤング率は、繊維の初期の引張に対する剛直さを示すのであり、セルロースそのものと、架橋結合による撥水剤の強度が相俟って乾ヤング率(DY)は大きくなる傾向にあるが、湿ヤング率(WY)はセルロースの水による膨潤や非晶部分の水素結合の切断等により初期の引張に対する剛直性が低下するとともに、熱による非晶部分の劣化の影響が相俟って小さくなる傾向にある。よって、本発明のように、セルロースの劣化を抑制することにより、WYの低下が抑制される結果、WY/DYは高くなる傾向にある。WY/DYは、12.0以上であることが好ましい。より好ましくは、12.5以上である。
【0063】
前記親水性セルロース繊維は、沈降時間が60秒以下であればよいが、親水性に優れる観点から、50秒以下であることが好ましく、40秒以下であることがより好ましく、30秒以下であることがさらに好ましい。
【0064】
前記親水性セルロース繊維としては、天然セルロース繊維、再生セルロース繊維、及び精製セルロース繊維等を適宜に用いることができる。天然セルロース繊維としては、例えば、コットン、シルク、ウール、麻、パルプ等が挙げられる。再生セルロース繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ等が挙げられる。精製セルロース繊維としては、テンセル、リヨセル等が挙げられる。中でも、入手しやすさ及び蒸れ感をより低減する観点から、前記親水性セルロース繊維は、再生セルロース繊維であることが好ましい。
【0065】
第一繊維層を構成する繊維は、特に限定されないが、例えば、いずれも単繊維繊度が0.5dtex以上6.0dtex以下であることが好ましい。触感を滑らかにする観点から、単繊維繊度は5.0dtex以下であることが好ましく、単繊維4.0dtex以下であることがより好ましい。液透過性を高める観点から、単繊維繊度が0.6dtex以上であることが好ましく、0.8dtex以上であることがより好ましい。
【0066】
第一繊維層を構成する繊維は、特に限定されず、繊維長は1mm以上100mm以下であることが好ましい。特に、カードウェブの場合、カード通過性を考慮すると、繊維長は25mm以上100mm以下であることが好ましく、より好ましくは30mm以上80mm以下であり、さらに好ましく30mm以上60mm以下である。
【0067】
第一繊維層としては繊維ウェブを用いることができる。前記繊維ウェブとしては、パラレルウェブ、セミランダムウェブ、ランダムウェブ、クロスウェブ、及びクリスクロスウェブ等のカードウェブ、エアレイドウェブ、ウェットレイドウェブ等が挙げられる。吸収性物品用表面シートは嵩高性や柔軟性、繊維間にある程度空隙が存在する、適度な空隙率を有していることが求められるため、繊維ウェブはカードウェブであることが好ましい。
【0068】
第一繊維層は、特に限定されないが、構成繊維同士の交絡性を高める観点から、目付が5g/m2以上30g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは7g/m2以上25g/m2以下であり、さらに好ましくは10g/m2以上20g/m2以下である。
【0069】
第二繊維層は、具体的には、親水性セルロース繊維を90質量%以上100質量%以下、及び撥水性セルロース繊維0質量%以上10質量%以下からなってもよく、親水性セルロース繊維を95質量%以上100質量%以下、及び撥水性セルロース繊維0質量%以上5質量%以下からなってもよい。第二繊維層は、液拡散性により優れる観点から、親水性セルロース繊維100質量%からなることが好ましい。親水性セルロース繊維及び撥水性セルロース繊維は、特に限定されず、第一繊維層で説明した親水性セルロース繊維及び撥水性セルロース繊維を適宜用いることができる。
【0070】
第二繊維層において、前記親水性セルロース繊維は、単繊維繊度が0.5dtex以上3.5dtex以下である。これにより、第一繊維層を透過した液体が第二繊維層で拡散しやすく、液拡散性が向上する上、液透過性も良好になる。好ましくは、第二繊維層を構成する繊維は、いずれも、単繊維繊度が0.5dtex以上3.5dtex以下である。第二繊維層を構成する全ての繊維の単繊維繊度が上述した範囲内であると、液拡散性がより向上する。液拡散性をより向上する観点から、第二繊維層を構成する繊維は、いずれも、単繊維繊度が3.3dtex以下であることがより好ましく、2.0dtex以下であることがさらに好ましく、1.5dtex以下であることがさらにより好ましく、1.1dtex以下であることが特に好ましい。液透過性をより向上する観点から、単繊維繊度が0.6dtex以上であることがより好ましい。
【0071】
第二繊維層を構成する繊維は、特に限定されず、繊維長は1mm以上100mm以下であることが好ましい。特に、カードウェブの場合、カード通過性を考慮すると、繊維長は25mm以上100mm以下であることが好ましく、より好ましくは30mm以上80mm以下であり、さらに好ましく30mm以上60mm以下である。
【0072】
第二繊維層としては繊維ウェブを用いることができる。前記繊維ウェブとしては、パラレルウェブ、セミランダムウェブ、ランダムウェブ、クロスウェブ、及びクリスクロスウェブ等のカードウェブ、エアレイドウェブ、ウェットレイドウェブ等が挙げられる。吸収性物品用表面シートは嵩高性や柔軟性、繊維間にある程度空隙が存在する、適度な空隙率を有していることが求められるため、繊維ウェブはカードウェブであることが好ましい。
【0073】
第二繊維層は、特に限定されないが、構成繊維同士の交絡性を高める観点から、目付が5g/m2以上30g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは7g/m2以上25g/m2以下であり、さらに好ましくは10g/m2以上20g/m2以下である。
【0074】
第一繊維層を構成する繊維と、第二繊維層を構成する繊維は、部分的に交絡している。ここで、「部分的に交絡している」とは、第一繊維層を構成する繊維と、第二繊維層を構成する繊維が、水流交絡不織布の厚み方向における第一繊維層と第二繊維層の界面において部分的に交絡していることを意味する。これにより、液透過性及び液拡散性が高まる。また、水流交絡不織布は、第一繊維層及び第二繊維層の積層構造を有することで、第一繊維層及び第二繊維層のそれぞれの繊維構成による効果を好適に発揮するとともに、第一繊維層及び第二繊維層の構成繊維が二つの層の界面において部分的に交絡していることで、第一繊維層及び第二繊維層の繊維構成による相乗効果も好適に発揮することができる。
【0075】
前記水流交絡不織布は、例えば、撥水性セルロース繊維を90質量%以上含有する第一繊維層と、親水性セルロース繊維を90質量%以上含有する第二繊維層を積層して得られた積層体に水流を噴射して、第一繊維層を構成する繊維同士、第二繊維層を構成する繊維同士、及び第一繊維層を構成する繊維と第二繊維層を構成する繊維を部分的に交絡させることで作製することができる。
【0076】
水流交絡処理は、第一繊維層を構成する繊維同士、第二繊維層を構成する繊維同士、及び第一繊維層を構成する繊維と第二繊維層を構成する繊維を部分的に交絡することができればよく、具体的な条件等は特に限定されない。
【0077】
水流交絡処理は、例えば、積層体を、支持体の上に載置し、積層体の片面又は両面に、水流を噴射して実施することができる。前記支持体の形態について、特に制限はなく、公知の支持体を用いればよいが、例えば、経糸の線径が0.05mm以上1.5mm以下、緯糸の線径が0.05mm以上1.5mm以下、メッシュ数が5以上110以下メッシュの平織りネットを用いることができる。孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが、0.5mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1.0MPa以上10.0MPa以下の水流を、積層体の片面又は両面にそれぞれ1回以上4回以下噴射することができる。水圧が1.0MPa未満であると、繊維同士の交絡が不十分となり、得られた不織布において毛羽抜けが生じやすくなるおそれがある。水圧が10.0MPaを越えると、繊維同士の交絡が強固になりすぎて、不織布の風合いが低下する恐れがある。水圧は、より好ましくは1.5MPa以上9.0MPa以下であり、さらに好ましくは2.0MPa以上7.0MPa以下であり、さらにより好ましくは2.0MPa以上6.0MPa以下である。ノズルと積層体間の距離は、例えば、5mm以上30mm以下であってもよく、7mm以上20mm以下であってもよい。
【0078】
具体的には、交絡の均一性を高める観点から、まず、積層体を支持体の上に載置し、積層体の第二繊維層の面から、水圧1.0MPa以上10.0MPa以下の水流を、1回以上4回以下噴射することで、第一繊維層の構成繊維同士、及び第二繊維層の構成繊維同士をそれぞれ交絡させるとともに、第一繊維層の構成繊維と第に繊維層の構成繊維を部分的に交絡させる。その後、必要に応じて、積層体の第一繊維層の面から、水圧1.0MPa以上10.0MPa以下の水流を、1回以上4回以下噴射してもよい。その後、さらに必要に応じて、積層体の第二繊維層の面から、水圧1.0MPa以上10.0MPa以下の水流を、1回以上4回以下噴射してもよい。
【0079】
次に、水流交絡により得た水流交絡不織布を乾燥処理する。乾燥処理は、接触式の乾燥機(例えば、アイロン式、ロール式など)や非接触式の乾燥機(例えば、熱風式など)を用いて実施することができる。例えば、乾燥は、60℃以上180℃以下の温度で行うことが好ましく、100℃以上170℃以下の温度で行うことがより好ましく、130℃以上160℃以下の温度で行うことがさらに好ましい。また、乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、5秒以上5分以下行ってもよく、5秒以上1分以下行ってもよく、5秒以上20秒以下行ってもよい。
【0080】
前記水流交絡不織布は、液透過性を示す吸水速度が30.0秒以下であることが好ましく、25.0秒以下であることがより好ましく、20.0秒以下であることがさらに好ましい。吸水速度は、後述するとおりに測定する。
【0081】
前記水流交絡不織布は、液拡散性を示す拡散面積が40.0cm2以上であることが好ましく、45.0cm2以上であることがより好ましく、50.0cm2以上であることがさらに好ましい。拡散面積は、後述するとおりに測定する。
【0082】
前記水流交絡不織布は、液戻り率が12.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることがさらに好ましい。液戻り率は、後述するとおりに測定する。
【0083】
前記吸収性物品用表面シートは、吸収性物品のトップシートに好適に用いることができる。また、トップシートの直下に位置する、いわゆるセカンドシートにも好適に用いることができる。前記吸収性物品用表面シートをトップシート及び/又はセカンドシート、特にトップシートに用いることで、吸収性物品の使用者に対し、快適な使用感を与えることができる。
【0084】
前記吸収性物品用表面シートは、具体的には、生理用ナプキン、幼児用紙オムツ、成人用紙オムツ、ほ乳類を始めとする動物用の紙オムツ、パンティーライナー(おりものシート)、失禁用ライナー等の各種吸収性物品の表面シート(トップシート及び/又はセカンドシート)として好ましく使用できる。
【0085】
本発明の吸収性物品としては、前記吸収性物品用表面シートを含み、使用者の肌側に第一繊維層が配置されているものであればよく、特に限定されない。例えば、生理用ナプキン、幼児用紙オムツ、成人用紙オムツ、ほ乳類を始めとする動物用の紙オムツ、パンティーライナー(おりものシート)、失禁用ライナー等が挙げられる。
【実施例
【0086】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0087】
まず、実施例及び比較例で用いた測定方法を説明する。
【0088】
(重量平均分子量の測定)
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、以下の条件で測定し、重量平均分子量(Mw)を求めた。重量平均分子量を算出する際には、GPCで得られたチャート上の分子量300以上の部分を重合体と定義して求めた。
カラム:GF-7MHQ(昭和電工株式会社製)。
移動相:リン酸水素二ナトリウム12水和物34.5g、及び、リン酸二水素ナトリウム2水和物46.2g(いずれも試薬特級)に純水を加えて全量を5,000gとし、その後0.45ミクロンのメンブランフィルターで濾過した水溶液。
検出器:UV 214nm(日本ウォーターズ(株)30 製、モデル481型)。
ポンプ:L-7110(日立(株)製)。
流量:0.5mL/min。
温度:35℃。
検量線:ポリアクリル酸ソーダ標準サンプル(創和科学株式会社製)。
【0089】
(カルボキシル基の総量の測定)
(1)1mol/Lの塩酸水溶液(pH0.1)50mLに試料1.2gを浸漬、撹拌して5分間放置した。その後、再び撹拌して水溶液のpHが2.5になるように調整した。これにより、試料(繊維)におけるカルボキシル基はすべてH型として存在することになる。次に、試料を水洗し、定温送風乾燥機で105℃、2時間乾燥させて、絶乾にした。試料を水洗することにより、繊維に付着している過剰の塩酸がすべて除去されることになる。
(2)ビーカーにイオン交換水100mL、塩化ナトリウム0.4g、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液20mLを入れた。
(3)(1)で作製した試料1gを精秤[W1(g)]し、撹拌子に巻きつかない大きさまで細かく切断して、(2)で準備したビーカーに入れ、スターラーで15分間撹拌した。これにより、試料(繊維)におけるカルボキシル基は全て塩型に変換されることになる。撹拌した試料は吸引ろ過した。ろ過液を60mL採って、指示薬にフェノールフタレインを使用して0.1mol/Lの塩酸水溶液で滴定し、滴定量をX1(mL)とした。
(4)下記式に基づいてカルボキシル基の総量Y(mmol/g)を算出した。このように、水酸化ナトリウムの総量から残余の水酸化ナトリウムの量を差し引くことにより求めた水酸化ナトリウムの量は、試料(繊維)における全体のカルボキシル基の量に対応することになる。
カルボキシル基の総量Y(mmol/g)=[[(0.1×20)-(0.1×X1)]×(120/60)]/W1
【0090】
(H型カルボキシル基の量及び塩型カルボキシル基の量の測定)
(1)試料を水洗し、定温送風乾燥機で105℃、2時間乾燥させて、絶乾にした。
(2)ビーカーにイオン交換水100mL、塩化ナトリウム0.4g、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液20mLを入れた。
(3)試料1gを精秤[W2(g)]し、撹拌子に巻きつかない大きさまで細かく切断して、(2)で準備したビーカーに入れ、スターラーで15分間撹拌した。撹拌した試料は吸引ろ過した。ろ過液を60mL採って、指示薬にフェノールフタレインを使用して0.1mol/Lの塩酸水溶液で滴定し、滴定量をX2(mL)とした。
(4)下記式に基づいてH型カルボキシル基の量Z(mmol/g)、塩型カルボキシル基の量U(mmol/g)、H型カルボキシル基の量の割合(%)及び塩型カルボキシル基の量の割合(%)を算出した。
H型カルボキシル基の量Z(mmol/g)=[{(0.1×20)-(0.1×X2)]×(120/60)]/W2
塩型カルボキシル基の量U(mmol/g)=カルボキシル基の総量Y(mmol/g)-H型カルボキシル基の量Z(mmol/g)
H型カルボキシル基の量の割合(%)={H型カルボキシル基の量Z(mmol/g)]
/{カルボキシル基の総量Y(mmol/g)]×100
塩型カルボキシル基の量の割合(%)={塩型カルボキシル基の量U(mmol/g)]
/{カルボキシル基の総量Y(mmol/g)]×100
【0091】
(繊維の白色度)
繊維の白色度は、JIS Z 8722に準じ、コニカミノルタ株式会社製「色彩色差計CR-410」を用いて測定した。定義されているXYZ表色系(Yxy表色系)Y,x,yを用い、下記式より白色度を算出した。
白色度=(1-x-y)×Y/1.18×y
【0092】
(沈降時間)
JIS L 1907 7.1.3(沈降法)に準じて、下記の手順でセルロース繊維の沈降時間を測定した。
(1)繊維を5g採取して手で軽く解繊してサンプル繊維とした。
(2)サンプル繊維を1Lの水の上に浮かべた。
(3)サンプル繊維が湿潤し、サンプル繊維すべてが沈降するまでの時間を測定し、沈降時間とした。
【0093】
(液拡散性)
水流交絡不織布の第一繊維層面上1cmのところから、色付き水(水50mLに青色素を0.05g溶解した)0.5mLを落とし、完全に透過させた。水滴が透過した跡が円状になっているため、円に内接するように四角を書き、その面積を測定し、拡散面積とした。拡散面積が大きいほど、液拡散性が良好である。
【0094】
(液透過性)
市販のオムツからトップシートをはがして、その上に水流交絡不織布を第一繊維層側が肌側となるように置き、その上に、透明な円筒(高さ10cm、内径1.9cm、外径2.2cm)を載せた後、円筒内に色付き水(水50mLに青色素を0.05g溶解した)を10g入れて、色付き水が水流交絡不織布を完全に透過し、水流交絡不織布の表面から観察されないまでの時間を測定し、吸水速度とした。吸水速度が速いほど、液透過性が良好である。
【0095】
(液戻り率)
液透過性の試験後、10枚重ねのろ紙(東洋濾紙株式会社製、商品名ADVANTEC(登録商標)No.2、10cm×10cm)を秤量し(W0)、水流交絡不織布の上に置き、その上に1kgの重り(形状:正方形、10cm×10cm)をのせ5分間加重をかけた。その後、10枚重ねのろ紙を秤量(W1)し、下記式で液戻り率を算出した。なお、W0及びW1の単位はgである。
液戻り率(%)=(W1-W0)/10(g)×100
【0096】
[撥水性再生セルロース繊維の製造例1]
《紡糸用ビスコース液の調製》
アクリル酸-マレイン酸共重合体塩の水溶液(株式会社日本触媒製の「アクアリック TL400」、重量平均分子量が50000のアクリル酸-マレイン酸共重合体ナトリウムを40質量%含む水溶液、粘度:1990mPa・s、アクリル酸-マレイン酸共重合体ナトリウム中のマレイン酸の含有量が45質量%)を、アクリル酸-マレイン酸共重合体塩がセルロース100質量%に対して5質量%になるように、原料ビスコースへ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。原料ビスコースは、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含んでいた。なお、実施例及び比較例において、粘度は、東京計器株式会社製のB型粘度計を用い、20℃で測定した。また、カルボキシル基を含有する化合物の重量平均分子量は、後述するとおりに測定算出した。
《紡糸工程》
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率50%で紡糸して、繊度1.4dtexのビスコースレーヨンの糸条を得た。第1浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/Lを含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、円形ノズル(孔径0.06mm、ホール数4000)を用いた。
《精練工程》
前記で得られたビスコースレーヨンの糸条を、繊維長40mmにカットし、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。得られた処理綿を再度水洗し、次亜塩素酸ソーダで漂白し、酸洗い後水洗した。その後、圧縮ローラーで繊維を絞り、水分率が130%になるようにした。前記再生セルロース繊維(撥水加工の前)において、カルボキシル基の総量に対するH型カルボキシル基の割合は、94%であり、H型カルボキシル基量は、0.53mmol/gであった。
《撥水加工》
まず、非フッ素系撥水剤として炭化水素系撥水剤組成物(日華化学株式会社製「ネオシードNR-158」)を用い、イソシアネート系化合物としてブロックイソシアネート系架橋剤(日華化学株式会社製「NKアシストNY-30」、固形分濃度40質量%)を用い、撥水剤(撥水剤粒子):架橋剤(固形分)の質量比が5:1になるように混合して撥水加工用処理液を得た。次に、撥水加工用処理液(50℃)中に上記で得られた水分率が130%の繊維を30秒間浸漬した。繊維:撥水加工用処理液の浴比は1:10になるようにした。その後、圧縮ローラーで、繊維に対する撥水剤(固形分)の付着率が1質量%になるように繊維を絞った後、100℃に設定した乾燥機で10分間乾燥処理を施し、繊維Aを得た。このときの実温度は85℃であった。得られた撥水性再生セルロース繊維におけるカルボキシル基の総量は、0.52mmol/gであった。
【0097】
実施例及び比較例で用いたセルロース繊維は、下記のとおりである。
(1)撥水性セルロース繊維1:繊維A(撥水性再生セルロース繊維)、単繊維繊度1.7dtex、繊維長40mm、沈降時間5分より長い、白色度Hw84、乾強度20.4cN/dtex、湿強度1.13cN/dtex、乾伸度20.4%、湿伸度26.7%、標準見かけヤング率7040MPa、湿潤見かけヤング率1034MPa、湿乾ヤング率比14.7、
(2)親水性セルロース繊維1:レーヨン繊維、単繊維繊度1.7dtex、繊維長40mm、沈降時間20.94秒
(3)親水性セルロース繊維3:レーヨン繊維、単繊維繊度1.4dtex、繊維長40mm、沈降時間20.31秒
(4)親水性セルロース繊維3:レーヨン繊維、単繊維繊度0.9dtex、繊維長40mm、沈降時間13.82秒
【0098】
(実施例1~3)
撥水性セルロース繊維1を用いて、セミランダムカード機で目付が20g/m2の繊維ウェブを作製して第一繊維層として用いた。
表1に示す親水性セルロース繊維を用いて、セミランダムカード機で目付が20g/m2の繊維ウェブを作製して第二繊維層として用いた。
第二繊維層の上に第一繊維層を積層し、得られた積層体に対して水流交絡処理を実施した。水流交絡処理は、積層体を、線径0.132mmのモノフィラメントからなる90メッシュ平織りの支持体に載せて、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、第二繊維層の面から3MPaの柱状水流を1回噴射し、次いで、第一繊維層の面から5MPaの柱状水流を1回噴射し、さらに第二繊維層の面から5MPaの柱状水流を1回噴射して実施した。このときの支持体の速度は、4m/分であり、ノズルと積層体との間の距離は10mmであった。
水流交絡した後、積層体の第一繊維層の面に150℃のアイロンを10秒間当てることで乾燥させて、水流交絡不織布を得た。
【0099】
(比較例1~2)
下記表1に示す親水性セルロースを用いて、セミランダムカード機で目付が40g/m2の繊維ウェブを作製した。
該繊維ウェブの第一の面から3MPaの柱状水流を1回噴射し、次いで、第二の面から5MPaの柱状水流を1回噴射し、さらに第一の面ら5MPaの柱状水流を1回噴射した以外は、実施例1と同様にして水流交絡処理を行った。
水流交絡した後、繊維ウェブの第一の面に150℃のアイロンを10秒間当てることで乾燥させて、水流交絡不織布を得た。
【0100】
(比較例3~4)
撥水性セルロース繊維1を50質量部、下記表2に示す親水性セルロース50質量部を混綿して、セミランダムカード機で目付が40g/m2の繊維ウェブを作製した以外は、比較例1と同様にして水流交絡不織布を作製した。
【0101】
(比較例5)
撥水性セルロース繊維1を用いて、セミランダムカード機で目付が20g/m2の繊維ウェブを作製し、該繊維ウェブを用いた以外は、比較例1と同様にして第一の水流交絡不織布を得た。
親水性セルロース繊維3を用いて、セミランダムカード機で目付が20g/m2の繊維ウェブを作製し、該繊維ウェブを用いた以外は、比較例1と同様にして第二の水流交絡不織布を得た。
第二の水流交絡不織布の上に第一の水流交絡不織布を積層して積層水流交絡不織布を得た。
【0102】
実施例及び比較例の水流交絡不織布の液拡散性、液透過性及び液戻り率を上述したとおりに測定し、その結果を下記表1及び表2に示した。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
表1から分かるように、実施例1~3では、液透過性を有し、液拡散性が良好であり、液戻り率が低減した水流交絡不織布(吸収性物品用表面シート)が得られた。また、実施例1~3の水流交絡不織布は、セルロース繊維100質量%からなることで、柔らかい風合いを有するとともに、環境にも優しい。
【0106】
一方、表2から分かるように、比較例1~2の親水性セルロース繊維からなる水流交絡不織布は、液拡散性に劣り、液戻り率も大きかった。また、比較例3~4の撥水性セルロース繊維及び親水性セルロース繊維を混綿した水流交絡不織布も、液拡散性が劣り、液戻り率も大きかった。撥水性セルロース繊維1からなる水流交絡不織布と親水性セルロース繊維3からなる水流交絡不織布を積層した比較例5の積層不織布では、水が不織布上にとどまり、吸水もしなかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の吸収性物品用表面シートは、生理用ナプキン、幼児用紙オムツ、成人用紙オムツ、ほ乳類を始めとする動物用の紙オムツ、パンティーライナー(おりものシート)、失禁用ライナー等の各種吸収性物品の表面シート(トップシート及び/又はセカンドシート)として好適に使用できる。