(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】撥水性布帛、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/263 20060101AFI20230913BHJP
D06M 13/395 20060101ALI20230913BHJP
D06P 1/38 20060101ALI20230913BHJP
D06P 3/66 20060101ALI20230913BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
D06M15/263
D06M13/395
D06P1/38 Z
D06P3/66 A
D06M101:06
(21)【出願番号】P 2019082952
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591264267
【氏名又は名称】ダイワボウレーヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】三原 達也
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7064083(JP,B2)
【文献】特開2020-178823(JP,A)
【文献】特開平10-331079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715、
D06P1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水性再生セルロース繊維を含む撥水性布帛であって、
前記撥水性再生セルロース繊維は、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含み、繊維表面には架橋剤及び非フッ素系撥水剤が結合しており、
前記撥水性布帛は、反応染料により染色されており、
かつ染色ムラがなく、
前記撥水性布帛は、水との接触角が90°以上であることを特徴とする、撥水性布帛。
【請求項2】
前記非フッ素系撥水剤は、炭化水素系撥水剤である請求項1に記載の撥水性布帛。
【請求項3】
前記カルボキシル基を含有する化合物は、ポリアクリル酸及びアクリル酸-マレイン酸共重合体からなる群から選ばれる1以上である請求項1又は2に記載の撥水性布帛。
【請求項4】
前記撥水性布帛は、前記撥水性再生セルロース繊維を50質量%以上100質量%以下含む請求項1~3のいずれか1項に記載の
撥水性布帛。
【請求項5】
撥水性再生セルロース繊維を含む撥水性布帛の製造方法であって、
カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含む再生セルロース繊維の繊維表面に架橋剤により非フッ素系撥水剤を結合させて撥水性再生セルロース繊維を得る工程、
前記撥水性再生セルロース繊維を含む撥水性布帛を得る工程、
前記撥水性布帛に水及び/又は界面活性剤を含む水溶液を付与して親水化処理する工程と、
前記親水化処理された撥水性布帛を反応染料により染色する工程、
前記染色された布帛を乾燥する工程を含む、ことを特徴とする、撥水性布帛の製造方法。
【請求項6】
前記親水化処理は、染色する工程の直前に行う、請求項5に記載の撥水性布帛の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥は、60℃以上の温度で行う請求項5又は6に記載の撥水性布帛の製造方法。
【請求項8】
前記架橋剤は、イソシアネート系化合物である請求項5~7のいずれかに記載の撥水性布帛の製造方法。
【請求項9】
前記界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上を含む請求項5~8のいずれか1項に記載の撥水性布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性布帛、及びその製造方法に関する。具体的には、本発明は、撥水性再生セルロース繊維を含み、反応染料で染色された撥水性布帛、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーヨン繊維等の再生セルロース繊維は、風合いに優れ、生分解性を有することから、衣料等の様々な繊維製品に用いられている。レーヨン繊維等の再生セルロース繊維は、親水性が高いことから、撥水性を求める用途に用いる場合には、再生セルロース繊維に撥水性を付与して用いることが行われている。例えば、特許文献1では、容器に水とセルロース繊維をいれ、イソシアネートとフッ素系樹脂を投入し、100~180℃に加熱して、フッ素系樹脂をセルロース繊維に架橋結合させることで、セルロース繊維に撥水性を付与することが提案されている。特許文献2では、セルロース繊維材料を水酸基と反応する化合物で処理し、その後フッ素系撥水剤で処理することで、セルロース繊維材料に撥水性を付与することが提案されている。
また、セルロース系繊維に予め疎水化または撥水化処理を施したあと、染色を行った撥水性の染色布帛が開示されている。特許文献3では、疎水化改質されたセルロース系繊維を分散染料で転写染色する技術が開示されている。特許文献4では、撥水加工されたセルロース系繊維布を、ナフトール染色、ビニルスルホンコールドフィックス法、スレン染色法により染色加工する技術が開示されている。特許文献5では、フッ素系撥水剤で加工されたセルロース撥水繊維とセルロース繊維を合わせることで、セルロース繊維のみを染色する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-266241号公報
【文献】特開2003-20570号公報
【文献】特開昭57-128282号公報
【文献】特開昭60-34687号公報
【文献】特開2018-197406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フッ素系撥水剤が架橋されている撥水性セルロース繊維を用いた布帛は、染色浴中に浸漬して染色した場合、染色性がよくないため、染色ムラが出たり、染色堅牢度が低下するという問題があった。また、染色中に撥水剤を脱落させる、あるいはセルロースの親水性を抑える程度の疎水化による染色処理を用いる場合、撥水性能が低下して、所定の撥水性が得られないという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、繊維表面に撥水剤が結合した撥水性再生セルロース繊維を含み、染色ムラがなく、染色堅牢度が高い上、耐久撥水性を有する撥水性布帛及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、撥水性再生セルロース繊維を含む撥水性布帛であって、前記撥水性再生セルロース繊維は、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含み、繊維表面には架橋剤及び非フッ素系撥水剤が結合しており、前記撥水性布帛は、反応染料により染色されており、前記撥水性布帛は、水との接触角が90°以上であることを特徴とする、撥水性布帛に関する。
【0007】
本発明は、また、撥水性再生セルロース繊維を含む撥水性布帛の製造方法であって、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含む再生セルロース繊維の繊維表面に架橋剤により非フッ素系撥水剤を結合させて撥水性再生セルロース繊維を得る工程、前記撥水性再生セルロース繊維を含む撥水性布帛を得る工程、前記撥水性布帛に水及び/又は界面活性剤を含む水溶液を付与して親水化処理する工程、前記親水化処理された布帛を反応染料により染色する工程、前記染色された布帛を乾燥する工程を含む、撥水性布帛の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、繊維表面に撥水剤が結合した撥水性再生セルロース繊維を含み、染色ムラがなく、染色堅牢度が高い上、耐久撥水性を有する撥水性布帛を提供することができる。
また、本発明の製造方法によれば、繊維表面に撥水剤が結合した撥水性再生セルロース繊維を含み、染色ムラがなく、染色堅牢度が高い上、耐久撥水性を有する撥水性布帛を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者は、繊維表面に撥水剤が結合した撥水性再生セルロース繊維を含む撥水性布帛において、染色時の染色ムラをなくし、染色堅牢度を高めるとともに、耐久撥水性を付与することについて鋭意検討した。その結果、レーヨン繊維等の再生セルロース繊維にカルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含ませるとともに、架橋剤及び非フッ素系撥水剤を繊維表面に結合させることにより、非フッ素系撥水剤の繊維表面における定着性が高くなり、該撥水性再生セルロース繊維を布帛に含ませることで、布帛に耐久撥水性を付与し得ることを見出した。また、染色する前に、非フッ素系撥水剤が結合した撥水性再生セルロース繊維を含む布帛に、水又は界面活性剤を含む水溶液を付与することで、繊維表面における非フッ素系撥水剤の撥水基の配向を乱し、一時的親水化することで、反応染料で染色した場合、ムラなく染色でき、かつ染色堅牢度も高まることを見出した。また、布帛が繊維表面における非フッ素系撥水剤の定着性が高い撥水性再生セルロース繊維を含むことから、染色前の親水化処理及び染色工程において、非フッ素系撥水剤が脱落することなく、染色後に乾燥することで、耐久性の高い撥水性が復活することを見出した。
【0010】
前記撥水性再生セルロース繊維は、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含む。以下において、特に指定がない場合、「酸性基を含有する化合物」は、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を意味する。再生セルロース繊維の作製時に、ビスコース原液に酸性基を含有する化合物を混合して調製した紡糸用ビスコース液を紡糸することで、繊維中に酸性基を含有する化合物を練り込むこと、酸性基を含有する化合物を含む水溶液等に再生セルロース繊維を浸漬して繊維中に酸性基を含有する化合物を含浸させること、酸性基を含有する化合物を含む水溶液等を再生セルロース繊維に噴霧や塗布して再生セルロース繊維に酸性基を含有する化合物を付着させること等により、再生セルロース繊維中に酸性基を含有する化合物を含ませることができる。その中でも、練り込みは、酸性基を含有する化合物が繊維の表面及び内部の全体に均一に混合されて分散していることから、好ましい。
【0011】
前記カルボキシル基を含有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、再生セルロース繊維にカルボキシル基を付与しやすい観点から、(メタ)アクリル酸系重合体であることが好ましい。本発明において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸を包含する意味である。(メタ)アクリル酸系重合体は、(メタ)アクリル酸系単量体の単独重合体であってもよく、(メタ)アクリル酸系単量体と他の単量体の共重合体であってもよい。前記カルボキシル基を含有する化合物は、より好ましくは、ポリアクリル酸及びアクリル酸-マレイン酸共重合体からなる群から選ばれる1以上であることが好ましい。
【0012】
前記ポリアクリル酸としては、例えば、ポリアクリル酸の未中和物、すなわち、ポリアクリル酸のカルボキシル基がH型になっているポリアクリル酸のH型を用いることが好ましい。なお、ポリアクリル酸のカルボキシル基のHの部位が部分的にNa等の金属イオン又はイオン性の化合物で置換されてもよい。以下において、特に指定がない場合、ポリアクリル酸はポリアクリル酸の未中和物を意味する。前記ポリアクリル酸としては、主体としてカルボキシル基が主鎖に付いた構造であり、高分子の分子量に対するカルボキシル基の寄与が最大の化合物を用いることができ、例えば理論カルボキシル基の量が72g/mol以上のポリアクリル酸を用いることが好ましい。
【0013】
前記アクリル酸-マレイン酸共重合体は、アクリル酸及びアクリル酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種(以下において、アクリル酸系単量体とも記す。)を含むエチレン性不飽和単量体と、マレイン酸、マレイン酸塩及び無水マレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種(以下において、マレイン酸系単量体とも記す。)を含むエチレン性不飽和単量体の重合体であってもよく、アクリル酸及びアクリル酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、マレイン酸、マレイン酸塩及び無水マレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むエチレン性不飽和単量体の重合体であってもよい。また、繊維にカルボキシル基を付与しやすい観点から、アクリル酸-マレイン酸共重合体は、アクリル酸及びアクリル酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むエチレン性不飽和単量体と、マレイン酸及びマレイン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むエチレン性不飽和単量体の重合体、及び/又は、アクリル酸及びアクリル酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、マレイン酸及びマレイン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むエチレン性不飽和単量体の重合体であることが好ましい。また、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、前記アクリル酸-マレイン酸重合体は、アクリル酸系単量体、マレイン酸系単量体以外の他の単量体を共重合したものであってもよい。前記他の単量体は、例えば、不飽和モノカルボン酸系単量体であってもよい。
【0014】
前記アクリル酸-マレイン酸共重合体は、重量平均分子量が5000以上500000以下であることが好ましく、6000以上250000以下であることがより好ましく、10000以上100000以下であることがさらに好ましく、30000以上80000以下であることが特に好ましい。重量平均分子量が上述した範囲内であると、再生セルロース中に練り込みやすい上、洗濯した場合や染色・洗濯した場合でもカルボキシル基を含有する化合物の脱落や変性が起こりにくい。
【0015】
前記アクリル酸-マレイン酸共重合体は、マレイン酸を5質量%以上95質量%以下含むことが好ましく、20質量%以上80質量%以下含むことがより好ましく、30質量%以上70質量%以下含むことがさらに好ましく、40質量%以上60質量%以下含むことが特に好ましい。アクリル酸-マレイン酸共重合体におけるマレイン酸の含有量が前記範囲であると、再生セルロース繊維にカルボキシル基を付与しやすい。再生セルロース繊維中に、アクリル酸-マレイン酸共重合体を同質量含ませた場合、マレイン酸比率が高いアクリル酸-マレイン酸共重合体を含ませることが、H型カルボキシル基の量も多くなるため好ましい。
【0016】
本発明において、アクリル酸-マレイン酸共重合体中のマレイン酸比率は、アクリル酸-マレイン酸共重合体中の有機物成分がアクリル酸とマレイン酸のみであると仮定し、下記のように測定算出することができる。
(1)試料(アクリル酸-マレイン酸共重合体塩を含む水溶液)4~5mL程度をガラス製のバイアル瓶に入れて、110℃で20時間加熱して乾燥させる。
(2)約50mg程度の乾燥試料を約0.7mL程度の重水に溶解する。
(3)試料の重水溶液に対してFT-NMR装置(日本電子株式会社製、JMTC-300/54/SS)を用いて1H-NMR分析を行い、高分子主鎖中のメチレン基炭素とメチン基炭素の存在比率から、アクリル酸成分(A)とマレイン酸成分(M)の組成比を求める。測定回数は16回とし、平均値を求める。
【0017】
前記スルホン酸基を含む化合物としては、特に限定されないが、例えば、ナフタリンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、フェノールスルホン酸塩、ジヒドロキシジフェニルスルホン、ヒドロキシフェニルスルホンのホルマリン縮合物等を用いることができる。
【0018】
前記撥水性再生セルロース繊維において、前記カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物の含有量は、例えば、セルロース100質量%に対して1質量%以上35質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、4質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。前記撥水性再生セルロース繊維において、前記カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物の含有量がセルロース100質量%に対して1質量%未満では、酸性基による効果が発揮しにくい傾向があり、35質量%を超えると、繊維強度が低下するため細繊化できない恐れがある。
【0019】
前記撥水性再生セルロース繊維において、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基の総量は、好ましくは0.30mmol/g以上1.60mmol/g以下であり、より好ましくは0.35mmol/g以上1.50mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.40mmol/g以上1.40mmol/g以下である。カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基の総量が上述した範囲内であると、酸性基による効果が発揮しやすい。前記撥水性再生セルロース繊維において、酸性基は、上述したとおり、イソシアネート系化合物が結合し、繊維表面が40℃以上110℃以下の低い温度となるような熱処理でも、非フッ素系撥水剤の繊維表面の定着性を向上させるとともに、再生セルロース繊維にアンモニア消臭性及びpH緩衝性を付与する効果を発揮する。本発明において、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基の総量は、後述するとおりに測定算出する。
【0020】
前記非フッ素系撥水剤としては、特に限定されないが、例えば、炭化水素系撥水剤が好ましい。炭化水素系撥水剤としては、例えば、エステル結合を介して存在する炭化水素基の炭素数が12以上の(メタ)アクリル酸エステルを単量体の基本単位として含むポリマーからなる炭化水素系撥水剤を用いることが好ましい。前記炭化水素基の炭素数は、24以下であることがより好ましく、21以下であることがさらに好ましい。前記炭化水素基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和炭化水素であっても不飽和炭化水素であってもよく、更には脂環式又は芳香族の環状を有していてもよい。これらの中でも、直鎖状であるものが好ましく、直鎖状のアルキル基であるものがより好ましい。本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。
【0021】
前記の(メタ)アクリル酸エステル単量体は、前記ポリマーを構成する単量体単位の全量に対して80質量%以上100質量%以下であることが好ましい。また、前記炭化水素系撥水剤の重量平均分子量は10万以上であることが好ましく、50万以上であることがより好ましい。前記炭化水素系撥水剤は、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの共重合体であってもよい。
【0022】
前記炭化水素系撥水剤としては、炭化水素系撥水剤粒子が水中に分散した撥水剤組成物として用いることができる。前記撥水剤組成物は、界面活性剤、有機溶剤を含んでもよい。このような撥水剤組成物としては、例えば、ネオシードNRシリーズ(日華化学株式会社製)等の市販品を用いてもよい。
【0023】
前記撥水性再生セルロース繊維において、前記非フッ素系撥水剤の付着量は、例えば、セルロース100質量%に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上6質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることがさらにより好ましい。前記非フッ素系撥水剤の付着量が上記範囲内であると、撥水性が良好になるとともに、繊維が剛直になりにくい。
【0024】
前記非フッ素系撥水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を適宜に組み合わせて用いても良い。
【0025】
前記架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、前記非フッ素系撥水剤を繊維表面に定着しやすい観点から、イソシアネート系化合物を用いることが好ましい。イソシアネート系化合物としては、例えば、イソシアネート基を有する化合物及びブロックドイソシアネート基を有する化合物等の架橋剤を用いることができる。
【0026】
イソシアネート基を有する化合物としては、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ナフタレンイソシアネート等のモノイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート及びこれらのイソシアヌレート環である三量体や、トリメチロールプロパンアダクト体が挙げられる。
【0027】
ブロックドイソシアネート基を有する化合物としては、上記イソシアネート基を有する化合物をブロック化剤でイソシアネート基を保護した化合物が挙げられる。このとき用いられるブロック化剤としては、2級又は3級アルコール類、活性メチレン化合物、フェノール類、オキシム類、ラクタム類等の有機系ブロック化剤や、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム等の重亜硫酸塩等が挙げられる。ブロックドイソシアネート基は、反応性の高いイソシアネート基がマスキングされており、通常120~180℃の熱処理によりブロックが解離するが、本発明においては、セルロース中にカルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を有するので、繊維表面が40℃以上110℃以下の低温でブロックが解離すると推定される。よって、ブロックドイソシアネート基は、前記撥水性再生セルロース繊維の表面において、ブロックが解離された状態で存在する。
【0028】
前記撥水性再生セルロース繊維において、前記イソシアネート系化合物の付着量は、例えば、セルロース100質量%に対して0.010質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.020質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましく、0.03質量%以上2.0質量%以下であることがさらに好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下であることがさらにより好ましい。前記非フッ素系撥水剤の付着量が上記範囲内であると、撥水性の耐久性(以下において、耐久撥水性とも記す。)が良好になるとともに、繊維が剛直になりにくい。
【0029】
前記イソシアネート系化合物等の架橋剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を適宜に組み合わせて用いても良い。
【0030】
前記非フッ素系撥水剤と前記イソシアネート系化合物の質量比(非フッ素系撥水剤:イソシアネート系化合物)は、特に限定されないが、例えば、撥水性及びその耐久性を向上させる観点から、3:1以上7:1以下であることが好ましく、4:1以上6:1以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明の撥水性布帛は、前記撥水性再生セルロース繊維を含むことで、耐久性の高い撥水性を有することになる。前記撥水性布帛は、織物であってもよく、編物であってもよい。織物や編物の組織は特に限定されない。例えば、編物では、丸編み、横編み、経編み(トリコット)等が、織物では、平織、綾織、繻子織等が、セルロース繊維の柔らかい風合い効果を発揮しやすいことから好ましい。
【0032】
前記撥水性布帛は、前記撥水性再生セルロース繊維のみで構成されていてもよく、他の繊維を含んでもよい。他の繊維としては、例えば、前記撥水性再生セルロース繊維以外の他の再生セルロース繊維、天然繊維、合繊繊維等が挙げられる。他の再生セルロース繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、溶剤紡糸セルロース、ポリノジック等が挙げられる。天然繊維としては、例えば、コットン、麻、ウール、シルク、等が挙げられる。合成繊維としては、例えば、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等が挙げられる。前記合成繊維は、単一繊維であってもよく、複合繊維であってもよい。
【0033】
前記撥水性布帛は、前記撥水性再生セルロース繊維を10質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは20質量%以上含み、さらに好ましくは25質量%以上含む。撥水性再生セルロース繊維の含有率が低いと該繊維による撥水性等の性能が発揮されにくくなる恐れがある。撥水性再生セルロース繊維の含有量の上限は、特に限定されず、布帛の用途等に応じて、適宜決めることができる。柔らかい風合い等が求められる場合は、撥水性再生セルロース繊維100質量%で構成するか、他の繊維として他の再生セルロース繊維及び/又は天然繊維を用いることができる。親水性の他の再生セルロース繊維及び/又は天然繊維との混綿の場合、撥水性再生セルロース繊維50質量%以上90質量%以下、他の再生セルロース繊維及び/又は天然繊維50質量%以上10質量%以下含んでいてもよく、撥水性再生セルロース繊維60質量%以上90質量%以下、他の再生セルロース繊維及び/又は天然繊維40質量%以上10質量%以下含んでいてもよく、撥水性再生セルロース繊維70質量%以上90質量%以下、他の再生セルロース繊維及び/又は天然繊維30質量%以上10質量%以下含んでもよい。ハリ等が求められる場合は、撥水性再生セルロース繊維10質量%以上50質量%以下、合成繊維を50質量%以上90質量%以下含んでもよく、撥水性再生セルロース繊維20質量%以上45質量%以下、合成繊維を55質量%以上80質量%以下含んでもよく、撥水性再生セルロース繊維25質量%以上40質量%以下、合成繊維を60質量%以上75質量%以下含んでもよい。
【0034】
前記撥水性布帛は、反応染料により染色されている。反応染料を用いたことにより、撥水性布帛の染色堅牢度、特に、汗堅牢度が高まる。反応染料については、後で詳細に説明する。
【0035】
前記撥水性布帛は、水との接触角が90°以上であり、好ましくは100°以上であり、より好ましくは110°以上である。水との接触角が上述した範囲内であると、耐久撥水性に優れる。
【0036】
前記撥水性布帛は、撥水性を高める観点から、表面張力が72.75mN/m以下であることが好ましく、より好ましくは58.85mN/m以下であり、さらに好ましくは38.50mN/m以下である。前記撥水性布帛の表面張力の下限は特に限定されないが、例えば、親水化処理の観点から、20mN/m以上であることが好ましく、25mN/m以上であることがより好ましい。
【0037】
前記撥水性布帛の目付は、特に限定されず、用途等に応じて適宜決めることができる。例えば、編物の場合、軽量性等の着用性の観点から、例えば、目付が450g/m2以下であることが好ましく、400g/m2以下であることがより好ましく、300g/m2以下であることがさらに好ましく、200g/m2以下であることが特に好ましい。また、前記撥水性布帛は、特に限定されないが、保温性等の観点から、目付が50g/m2以上であることが好ましい。
【0038】
前記撥水性布帛は、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含む再生セルロース繊維の繊維表面に架橋剤により非フッ素系撥水剤を結合させて撥水性再生セルロース繊維を得る工程、前記撥水性再生セルロース繊維を含む撥水性布帛を得る工程、前記撥水性布帛に水又は界面活性剤を含む水溶液を付与して親水化処理する工程、前記親水化処理された布帛を反応染料により染色する工程、前記染色された布帛を乾燥する工程等にて作製することが好ましい。染色ムラがなく、染色堅牢度が高い上、耐久撥水性に優れる撥水性布帛を得ることができる。
【0039】
前記撥水性再生セルロース繊維は、特に限定されないが、例えば、セルロースを含むビスコース原液(原料ビスコース)に、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を混合して紡糸用ビスコース液を調製し、前記紡糸用ビスコース液をノズルより押し出し、凝固再生させてビスコースレーヨン糸条とし、前記ビスコースレーヨン糸条をイソシアネート系化合物及び非フッ素系撥水剤を含む撥水加工用処理液で処理した後、熱処理することで作製することができる。
【0040】
原料ビスコースは、例えば、セルロースを7質量%以上10質量%以下、水酸化ナトリウムを5質量%以上8質量%以下、二硫化炭素を2質量%以上3.5質量%以下含んでもよい。このとき、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、二酸化チタン等の添加剤を使用することもできる。原料ビスコースの温度は18℃以上23℃以下に保持するのが好ましい。
【0041】
カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物の添加量は、原料ビスコース中のセルロース100質量%に対して1質量%以上35質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。上述した範囲内であると、繊維強度を高くしつつ、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を繊維に効果的に練り込むことができる。
【0042】
前記ビスコースレーヨン糸条は、例えば通常の円形ノズルを用いて製造することができる。紡糸ノズルとしては、目的とする生産量にもよるが、直径0.05mm以上0.12mm以下であり、ホール数が1000以上20000以下である円形ノズルを用いることが好ましい。また、異型断面のノズルを使用してもよい。前記紡糸ノズルを用いて、前記紡糸用ビスコース液を紡糸浴中に押し出して紡糸し、凝固再生させる。紡糸速度は30m/分以上80m/分以下の範囲が好ましい。また、延伸率は39%以上55%以下が好ましい。ここで延伸率とは、延伸前のスライバー速度を100としたとき、延伸後のスライバー速度をどこまで速くしたかを示すものである。倍率で示すと、延伸前が1、延伸後は1.39倍以上1.55倍以下となる。
【0043】
紡糸浴(ミューラー浴)としては、例えば、硫酸を95g/L以上130g/L以下、硫酸亜鉛を10g/L以上17g/L以下、硫酸ナトリウム(芒硝)を290g/L以上370g/L以下含む強酸性浴を用いることが好ましい。より好ましい硫酸濃度は、95g/L以上120g/L以下である。
【0044】
前記のようにして得られたビスコースレーヨン糸条(再生セルロース繊維)を所定の長さにカットし、通常、精練処理を行う。精練工程は、一般的に、熱水処理、水洗、水硫化処理(脱硫)、漂白、酸洗い、及び水洗の順で行うことができる。なお、漂白、及び酸洗いは省略してもよい。
【0045】
必要に応じて、精練工程後のレーヨン繊維糸条を、pH調整処理し、繊維のpHを8.0以下に調整してもよい。pH調整処理は、pHが6.0以下の緩衝液に繊維を浸漬することで行うことができる。浸漬時の浴比は、特に限定されないが、1:10以上1:30以下であることが好ましく、より好ましくは1:15以上1:25以下である。また、浸漬時間は、特に限定されないが、0.5分以上50分以下であることが好ましく、より好ましくは1分以上20分以下である。前記pH調整用緩衝液としては、特に限定されないが、例えば、酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液等一般的な緩衝溶液を使用することが可能であるが、緩衝溶液中にナトリウムを含んでいることが望ましい。pH調整用緩衝液に浸漬した後、水洗を施し、乾燥処理してもよい。
【0046】
前記再生セルロース繊維(撥水加工の前)において、H型カルボキシル基及び/又はH型スルホン酸基の量は、好ましくは0.20mmol以上1.60mmol/g以下であり、より好ましくは0.30mmol/g以上1.50mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.35mmol/g以上1.40mmol/g以下である。また、上記再生セルロース繊維において、塩型カルボキシル基及び/又は塩型スルホン酸基の量は、好ましくは1.0mmol/g以下であり、より好ましくは0.35mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.015mmol/g以上0.20mmol/g以下である。
【0047】
前記再生セルロース繊維(撥水加工の前)において、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基の総量に対するH型カルボキシル基及び/又はH型スルホン酸基の量の割合は、45%以上100%以下であることが好ましく、より好ましくは80%以上98%以下であり、さらに好ましくは90%以上95%以下である。H型カルボキシル基及び/又はH型スルホン酸基の量の割合が上述した範囲内であると、後述する撥水加工工程において、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基とイソシアネート基が結合しやすいうえ、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基が酸触媒として働き、イソシアネート基と水が効率よく反応して生成したアミンが様々な副反応を起こしやすくなり、耐久撥水性を高めることができる。
【0048】
精練工程の後に、撥水加工を行う。まずは、前記ビスコースレーヨン糸条をイソシアネート系化合物等の架橋剤及び非フッ素系撥水剤を含む撥水加工用処理液で処理して、イソシアネート系化合物及び非フッ素系撥水剤を付着させる。撥水加工用処理液による処理方法は特に限定されず、例えば、浸漬、噴霧、シャワー塗布等の加工方法が挙げられる。前記撥水加工用処理液による処理は、イソシアネート系化合物及び非フッ素系撥水剤を繊維へ付着させやすい観点から、前記ビスコースレーヨン糸条の水分率が100質量%以上180質量%以下の条件で行うことが好ましく、水分率が120質量%以上150質量%以下の条件で行うことがより好ましい。
【0049】
前記撥水加工用処理液において、前記非フッ素系撥水剤と前記イソシアネート系化合物は水等の溶媒に分散されている。処理液に占める前記非フッ素系撥水剤の濃度は、特に限定されないが、0.15質量%以上40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.35質量%以上35質量%以下である。処理液の濃度が上記範囲内にあると、非フッ素系撥水剤とイソシアネート系化合物の付着量が調整しやすいこと、及び熱処理時に水等溶媒を蒸発させる際に繊維表面の温度を低温に調整しやすく、好ましい。
【0050】
前記非フッ素系撥水剤の使用量は、要求される撥水性の度合いに応じて適宜調整可能であるが、再生セルロース繊維100質量%に対して、非フッ素系撥水剤(撥水剤として、撥水剤組成物を用いた場合でも、非フッ素系撥水剤のみ)が0.1質量%以上10質量%以下となるように調整することが好ましく、0.2質量%以上8.0質量%以下となるように調整することがより好ましい。非フッ素系撥水剤の付着量が上述した範囲内であると、撥水性を付与しやすいとともに再生セルロース繊維の柔らかさを保持することができる。
【0051】
前記イソシアネート系化合物(例えば、イソシアネート基を有する化合物及びブロックドイソシアネート基を有する化合物等の架橋剤)の使用量は、特に限定されないが、再生セルロース繊維の柔らかさを保持しやすい観点から、再生セルロース繊維100質量%に対して、0.010質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。
【0052】
前記撥水加工用処理液において、特に限定されないが、耐久撥水性を高めるとともに、再生セルロース繊維の柔らかさを保持する観点から、前記非フッ素系撥水剤と前記イソシアネート系化合物の質量比(非フッ素系撥水剤:イソシアネート系化合物)は、例えば、3:1以上7:1以下であることが好ましく、4:1以上6:1以下であることがより好ましい。
【0053】
次に、繊維を熱処理することで、再生セルロース繊維の繊維表面に架橋剤により非フッ素系撥水剤を結合させる。前記熱処理は、繊維表面が40℃以上110℃以下の温度となるような条件で行うことが好ましい。熱処理の温度(実温度)におけるより好ましい実温度の下限は、繊維表面が50℃以上であり、さらに好ましい実温度の下限は、繊維表面が60℃以上である。より好ましい実温度の上限は、繊維表面が100℃未満であり、さらに好ましくは95℃以下であり、さらにより好ましくは90℃以下である。熱処理温度が上述した範囲内であると、イソシアネート系化合物及び非フッ素系撥水剤を繊維に強固に結合させるとともに、繊維が黄変する等の熱による繊維の変質が抑えられる。前記撥水加工用処理液が水分を含む場合は、水を除去するために行う乾燥処理を熱処理とすることができる。
【0054】
撥水加工の後、撥水性が損なわない程度で必要に応じて油剤を付与してもよい。
【0055】
本発明の撥水加工は、前述ではレーヨン糸条の製造工程時に行うことを例に説明したが、レーヨン繊維を含む紡績糸、レーヨンフィラメント糸、レーヨン繊維を含む布帛にした後で撥水加工を行ってよい。
【0056】
前記撥水性再生セルロース繊維は、特に限定されないが、例えば、単繊維繊度が0.3dtex以上8.0dtex以下であることが好ましい。より好ましくは0.6dtex以上6.0dtex以下であり、さらに好ましくは0.7dtex以上3.6dtex以下である。単繊維繊度が0.3dtex未満であると、延伸時に単繊維切れが発生しやすい傾向にある。単繊維繊度が8.0dtexを越えると、繊維の再生状態が不良になりやすく、繊維の色相等が悪くなる場合がある。
【0057】
前記撥水性再生セルロース繊維は、白色度がHw80以上であり、セルロースの風合いを保持する観点から、Hw80以上Hw90以下であることが好ましい。一般の再生セルロース繊維の場合、撥水加工を行う場合、120℃以上、撥水耐久性を向上させるには170℃以上の条件下で架橋剤を反応させる必要があり、高温に晒すことにより白色度が著しく低下する(Hw80未満)。本発明では、特定の酸性基を含む再生セルロースを用いるので、セルロースの劣化を抑制することができ、その結果、白色度がほぼ低下しない傾向にある。
【0058】
前記撥水性再生セルロース繊維は、JIS L 1015に準じて測定される標準時の引張強さ(以下、乾強度ともいう。)は1.5cN/dtex以上3.0cN/dtex以下であることが好ましい。より好ましくは1.7cN/dtex以上2.7cN/dtex以下である。湿潤時の引張強さ(以下、湿強度ともいう。)で0.6cN/dtex以上2.0cN/dtex以下であることが好ましい。より好ましくは0.8cN/dtex以上1.8cN/dtex以下である。
【0059】
前記撥水性再生セルロース繊維は、JIS L 1015に準じて測定される標準時の伸び率(以下、乾伸度ともいう。)は15%以上25%以下であることが好ましい。より好ましくは16%以上24%以下である。湿潤時の伸び率(以下、湿伸度ともいう。)で15%以上40%以下であることが好ましい。より好ましくは18%以上35%以下である。
【0060】
引張強さ及び伸び率が上記範囲内にあると、紡糸性が良好で、且つ製品強度が良好になりやすい。
【0061】
通常、再生セルロース繊維に対して撥水加工を行う場合、120℃以上、撥水耐久性を向上させるには170℃以上の条件下で架橋剤を反応させる必要があり、高温に晒すことにより撥水剤のフィルム化および架橋結合が強固に起こるので、標準時(乾燥状態)では繊維全体の剛直性や強度は増すものの、熱によるセルロースの非晶部分等の劣化によりセルロース自体の強度は低下している。そのため、湿潤時のように、水による膨潤や非晶部分の水素結合の切断等によりセルロース自体の強度が低下するのに加えて、熱による劣化の影響により湿強度が著しく低下する傾向にある。本発明においては、セルロース中にカルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を有しており、100℃以下の低温で所定の撥水加工ができるので、架橋結合により繊維の剛直性や強度が増す一方、セルロース自体への熱によるダメージが少なく、湿強度の低下が少ない傾向にある。
【0062】
前記撥水性再生セルロース繊維は、JIS L 1015に準じて測定される標準時の見掛けヤング率(以下、乾ヤング率(DY)ともいう。)は3500MPa以上8500MPa以下であることが好ましい。より好ましくは4000MPa以上8000MPa以下である。湿潤時の見掛けヤング率(以下、湿ヤング率(WY)ともいう。)は800MPa以上1300MPa以下であることが好ましい。より好ましくは900MPa以上1200MPa以下である。見掛けヤング率が上記範囲内にあると、繊維自体の柔らかさを保持しつつ適度なコシを繊維に付与することができる。
【0063】
見掛けヤング率における湿潤時/標準時(湿乾)の比率がセルロース自体の劣化を抑制しつつ撥水剤を強固に結合させるファクターとして表され、下記式で示される。
湿乾ヤング率比=(WY/DY)×100 (1)
見掛けヤング率は、繊維の初期の引張に対する剛直さを示すのであり、セルロースそのものと、架橋結合による撥水剤の強度が相俟って乾ヤング率(DY)は大きくなる傾向にあるが、湿ヤング率(WY)はセルロースの水による膨潤や非晶部分の水素結合の切断等により初期の引張に対する剛直性が低下するとともに、熱による非晶部分の劣化の影響が相俟って小さくなる傾向にある。よって、本発明のように、セルロースの劣化を抑制することにより、WYの低下が抑制される結果、WY/DYは高くなる傾向にある。WY/DYは、12.0以上であることが好ましい。より好ましくは、12.5以上である。
【0064】
次は、撥水性再生セルロース繊維を含む撥水性布帛を得る。例えば、公知の方法によって、編物又は織物を作製する。例えば、定法により、撥水性再生セルロース繊維を含む紡績糸を作製し、該紡績糸を用いて定法にて編物又は織物を作製することができる。前記紡績糸の番手は、特に限定されないが、英式綿番手で5~100Sの範囲であってもよく、好ましくは10~90Sであり、より好ましくは15~85Sであり、さらに好ましくは20~80Sである。
【0065】
次に、前記撥水性布帛に水又は界面活性剤を含む水溶液を付与して親水化処理する。通常、撥水剤が架橋されている撥水性セルロース繊維を含む布帛は、染色浴中に浸漬して染色した場合、染色ムラが出たり、染色堅牢度が低下したり、撥水性能が低下する。本発明では、非フッ素系撥水剤を用いることから、撥水性布帛に水又は界面活性剤を含む水溶液を付与した場合、繊維の表面における非フッ素系撥水剤の撥水基の配向が乱され、撥水性布帛を一時的に親水化することができる。また、上述したとおり、非フッ素系撥水剤を用い、撥水性再生セルロース繊維が、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物を含むことにより、繊維表面に結合した非フッ素系撥水剤の定着性が高まり、染色堅牢度や撥水性能が低下することもない。
【0066】
親水化処理を水で行う場合、特に限定されないが、例えば、親水化効果を高める観点から、20℃以上70℃以下の水に浸漬することが好ましく、より好ましくは30℃以上60℃以下の水に浸漬する。浸漬時間は、例えば、親水化効果を高める観点から、5分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、20分以上であることがさらに好ましい。また、生産性の観点から、40分以下浸漬することが好ましく、30分以下浸漬することがより好ましい。必要に応じて、高圧の水を用いてもよく、浸漬中に水を撹拌してもよい。浴比は、1:10乃至1:100(撥水性布帛:水)にすることが好ましく、1:15乃至1:80であることがより好ましく、1:20乃至1:70であることがさらに好ましい。水は、精製水であってもよく、水道水であってもよく、工業用水であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0067】
親水化処理を界面活性剤を含む水溶液で行う場合、特に限定されないが、例えば、親水化効果を高める観点から、30℃以上70℃以下の界面活性剤を含む水溶液に浸漬することが好ましく、35℃以上65℃以下の界面活性剤を含む水溶液に浸漬することがより好ましい。浸漬時間は、例えば、親水化効果を高める観点から、5分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましい。また、生産性の観点から、30分以下浸漬することが好ましく、20分以下浸漬することがより好ましい。また、必要に応じて、高圧の界面活性剤を含む水溶液を用いてもよく、浸漬中に界面活性剤を含む水溶液を撹拌してもよい。浴比は、1:10乃至1:100(撥水性布帛:界面活性剤を含む水溶液)にすることが好ましく、1:15乃至1:80であることがより好ましく、1:20乃至1:70であることがさらに好ましい。界面活性剤を含む水溶液を処理した後に、脱水した後、さらに水で処理してもよい。界面活性剤を含む水溶液に用いる水は、精製水であってもよく、水道水であってもよく、工業用水であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0068】
前記界面活性剤は、布帛を親水化し得るものであればよく、特に限定されない。例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることができる。後続の染色工程において、反応染料の浸透性を高める観点から、前記界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、ノニオン性界面活性剤を含むことがより好ましい。
【0069】
前記ノニオン性界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルジエタノールアミン、ヒドロキシアルキルモノエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、アルキルジエタノールアマイド等が挙げられる。中でも、親水化効果及び反応染料の浸透性を高める観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
【0070】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、アルキル基の炭素数は6以上22以下であることが好ましく、8以上20以下であることがより好ましく、10以上18以下であることがさらに好ましい。また、エチレンオキシドの平均付加モル数は1モル以上60モル以下であることが好ましく、3モル以上40モル以下であることがより好ましく、5モル以上20モル以下であることがさらに好ましい。
【0071】
前記アニオン性界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、α-スルホ脂肪酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、高級脂肪酸塩、直鎖又は分岐鎖のアルキル硫酸エステル塩、アルキル基を有するアルカンスルホン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンエーテルカルボン酸塩、アルキルアミドエーテルカルボン酸塩又はアルケニルアミドエーテルカルボン酸塩、アシルアミノカルボン酸塩等のカルボン酸型アニオン性界面活性剤、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルリン酸エステル塩、グリセリン脂肪酸エステルモノリン酸エステル塩等のリン酸エステル型アニオン性界面活性剤等が挙げられる。中でも、親水化効果及び反応染料の浸透性を高める観点から、α-スルホ脂肪酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩及びアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0072】
前記アニオン性界面活性剤の塩の形態としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;モノエタノールアミン塩(モノエタノールアンモニウム)、ジエタノールアミン塩(ジエタノールアンモニウム)、トリエタノールアミン塩(トリエタノールアンモニウム)等のアルカノールアミン塩;アンモニウム塩等が挙げられ、アルカリ金属塩が好ましい。
【0073】
前記カチオン性界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、脂肪族アミン又はその4級アンモニウム塩、脂肪酸アミドアミン塩、アルキルトリアルキレングリコールアンモニウム塩、アシルグアニジン誘導体、モノ-N-長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステル塩等のアミノ酸系カチオン性界面活性剤、アルキルベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
【0074】
両性界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、イミダゾリン型、アルキルアミノスルホン型、アルキルアミノカルボン酸型、アルキルアミドカルボン酸型、アミドアミノ酸型、又はリン酸型等が挙げられる。
【0075】
上述した界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
前記界面活性剤を含む水溶液において、特に限定されないが、界面活性剤の濃度は0.1g/L以上1.0g/L以下であることが好ましく、より好ましくは0.15g/L以上0.8g/L以下である。界面活性剤の濃度が0.1g/L以上であると、親水化効果を発揮しやすい。界面活性剤の濃度は1.0g/L以下であると、撥水性を阻害することがない。
【0077】
親水化処理した後に、脱水等を行うことで、親水化処理された布帛の水分率を100質量%以上250質量%以下になるように調整することが好ましく、150質量%以上200質量%以下になるように調整するより好ましい。水分率が上述した範囲内であると、親水化処理された布帛の一時的親水性が良好に発現し、後続の染色工程において、染色ムラをより効果的になくすことができる。
【0078】
次に、親水化処理された布帛を反応染料で染色する。染色方法は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。例えば、親水化処理された布帛を反応染料と染色助剤を含む染色液で浸漬処理することで、染色を行うことができる。浴比は、例えば、1:10乃至1:50の範囲にすることができる。浸漬時間は、用いる反応染料の種類に応じて適宜決めることができ、例えば、50分以上100分以下行ってもよい。
【0079】
前記反応染料としては、特に限定されないが、例えば、直接性レベルが高く、反応性レベルの中程度から高程度レベルの反応染料、例えば、スミフィックス(住友化学工業株式会社製)、レマゾール(ダイスター株式会社製)、ケイピーゾール(紀和化学工業株式会社製)スミフィックス スプラ(住友化学株式会社製)、レバフィックス(ダイスター株式会社製)、プロシオン(三井BASF染料株式会社製)、シバクロン(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製)、バシレン(三井BASF染料株式会社製)、カヤシオン(日本化薬株式会社製)等の反応染料を用いることができる。これらの反応染料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。反応染料の使用量は、求める色相により適宜決定すればよい。
【0080】
前記染色助剤は、アルカリ性化合物を単独で用いるか、または、中性塩及びアルカリ性化合物を併用して用いることができる。アルカリ性化合物としては、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、重曹等が挙げられる。中性塩としては、食塩、芒硝等が挙げられる。その使用量は反応染料を用いる浸染法の定法に従って使用することができる。
【0081】
浸漬処理が終了したら、公知の染色時と同様、水洗、湯洗を行うことができる。また、必要に応じてソーピングを行ってよい。
【0082】
染色が終了した後、乾燥処理を行う。前記親水化処理にて撥水性布帛中の撥水性セルロース繊維の繊維表面における非フッ素系撥水剤の撥水基が乱されることで一時的親水化されて染色工程にて反応染料で均一に染色され、一方、染色が終了した後に乾燥することで、非フッ素系撥水剤の撥水基が外側を向いて配向し、撥水性が回復する。乾燥は、特に限定されず、通常の染色後の乾燥と同様の条件で行うことができる。例えば、撥水性の洗濯耐久性等を向上する観点から、乾燥は、60℃以上180℃以下の温度で行うことが好ましく、80℃以上170℃以下の温度で行うことがより好ましく、90℃以上160℃以下の温度で行うことがさらに好ましく、100℃以下の温度で行ってよい。また、乾燥時間は、撥水性が回復する時間であれば特に限定されないが、例えば、5秒以上15分以下行ってもよく、5秒以上10分以下行ってもよく、5秒以上5分以下行ってもよい。
【0083】
前記撥水性布帛は、染色前に精錬、漂白処理されてもよい。この場合は、精錬、漂白処理と同時に親水化処理を行ってもよく、精錬、漂白処理後に親水化処理を行ってもよい。染色ムラをより低減する観点から、精錬、漂白処理後に親水化処理を行うことが好ましい。
【0084】
前記撥水性布帛は、衣料や産業基材等に用いることができる。衣料としては、例えば、肌着、下着、シャツ、ジャンパー、セーター、パンツ、トレーニングウエア、タイツ、腹巻、マフラー、帽子、手袋、靴下、耳あて等が挙げられる。産業基材としては、例えば、カーペット、寝具、家具等が挙げられる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0086】
まず、実施例及び比較例で用いた測定方法を説明する。
【0087】
(重量平均分子量の測定)
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、以下の条件で測定し、重量平均分子量(Mw)を求めた。重量平均分子量を算出する際には、GPCで得られたチャート上の分子量300以上の部分を重合体と定義して求めた。
カラム:GF-7MHQ(昭和電工株式会社製)。
移動相:リン酸水素二ナトリウム12水和物34.5g、及び、リン酸二水素ナトリウム2水和物46.2g(いずれも試薬特級)に純水を加えて全量を5,000gとし、その後0.45ミクロンのメンブランフィルターで濾過した水溶液。
検出器:UV 214nm(日本ウォーターズ(株)30 製、モデル481型)。
ポンプ:L-7110(日立(株)製)。
流量:0.5mL/min。
温度:35℃。
検量線:ポリアクリル酸ソーダ標準サンプル(創和科学株式会社製)。
【0088】
(カルボキシル基の総量の測定)
(1)1mol/Lの塩酸水溶液(pH0.1)50mLに試料1.2gを浸漬、撹拌して5分間放置した。その後、再び撹拌して水溶液のpHが2.5になるように調整した。これにより、試料(繊維)におけるカルボキシル基はすべてH型として存在することになる。次に、試料を水洗し、定温送風乾燥機で105℃、2時間乾燥させて、絶乾にした。試料を水洗することにより、繊維に付着している過剰の塩酸がすべて除去されることになる。
(2)ビーカーにイオン交換水100mL、塩化ナトリウム0.4g、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液20mLを入れた。
(3)(1)で作製した試料1gを精秤[W1(g)]し、撹拌子に巻きつかない大きさまで細かく切断して、(2)で準備したビーカーに入れ、スターラーで15分間撹拌した。これにより、試料(繊維)におけるカルボキシル基は全て塩型に変換されることになる。撹拌した試料は吸引ろ過した。ろ過液を60mL採って、指示薬にフェノールフタレインを使用して0.1mol/Lの塩酸水溶液で滴定し、滴定量をX1(mL)とした。
(4)下記式に基づいてカルボキシル基の総量Y(mmol/g)を算出した。このように、水酸化ナトリウムの総量から残余の水酸化ナトリウムの量を差し引くことにより求めた水酸化ナトリウムの量は、試料(繊維)における全体のカルボキシル基の量に対応することになる。
カルボキシル基の総量Y(mmol/g)=[[(0.1×20)-(0.1×X1)]×(120/60)]/W1
【0089】
(H型カルボキシル基の量及び塩型カルボキシル基の量の測定)
(1)試料を水洗し、定温送風乾燥機で105℃、2時間乾燥させて、絶乾にした。
(2)ビーカーにイオン交換水100mL、塩化ナトリウム0.4g、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液20mLを入れた。
(3)試料1gを精秤[W2(g)]し、撹拌子に巻きつかない大きさまで細かく切断して、(2)で準備したビーカーに入れ、スターラーで15分間撹拌した。撹拌した試料は吸引ろ過した。ろ過液を60mL採って、指示薬にフェノールフタレインを使用して0.1mol/Lの塩酸水溶液で滴定し、滴定量をX2(mL)とした。
(4)下記式に基づいてH型カルボキシル基の量Z(mmol/g)、塩型カルボキシル基の量U(mmol/g)、H型カルボキシル基の量の割合(%)及び塩型カルボキシル基の量の割合(%)を算出した。
H型カルボキシル基の量Z(mmol/g)=[{(0.1×20)-(0.1×X2)]×(120/60)]/W2
塩型カルボキシル基の量U(mmol/g)=カルボキシル基の総量Y(mmol/g)-H型カルボキシル基の量Z(mmol/g)
H型カルボキシル基の量の割合(%)={H型カルボキシル基の量Z(mmol/g)}
/{カルボキシル基の総量Y(mmol/g)}×100
塩型カルボキシル基の量の割合(%)={塩型カルボキシル基の量U(mmol/g)}
/{カルボキシル基の総量Y(mmol/g)]×100
【0090】
(布帛の水との接触角)
(1)25mLビュレット(アズワン製)にイオン交換水を入れ、ビュレット台にセットした。
(2)ビュレットの先端と布帛の距離が1cmになるようセットした。
(3)イオン交換水を1滴(0.049mL)滴下し、着水から10秒後に、布帛の水滴との接触角を測定した。測定はn=2で行い、また水滴の左右両方ともの接触角を測定し、それらを平均した。
【0091】
(布帛の表面張力)
(1)下記表1に示すように、エタノールと蒸留水とを混合してエタノール濃度の異なる試薬を調整し、表面張力の標準として用いた。
(2)試薬を濃度の薄いものから順に測定試料の上に滴下した。
(3)30秒静置した後、接触角が90°以上を保っていた場合の試薬の表面張力を、測定試料の表面張力の基準値とした。すなわち、測定試料の表面張力は基準値より小さいことになる。
【0092】
【0093】
(洗濯堅牢度)
JIS L 0844 A-2号に準じて、一般財団法人カケンテストセンターにて測定した。
【0094】
(汗堅牢度)
JIS L 0848に準じて、一般財団法人カケンテストセンターにて測定した。
【0095】
(洗濯処理)
JIS L 0217 103法に規定する方法で洗濯処理を10回行った。
【0096】
(実施例1)
[撥水性再生セルロース繊維の作製]
《紡糸用ビスコース液の調製》
アクリル酸-マレイン酸共重合体塩の水溶液(株式会社日本触媒製の「アクアリック TL400」、重量平均分子量が50000のアクリル酸-マレイン酸共重合体ナトリウムを40質量%含む水溶液、粘度:1990mPa・s、アクリル酸-マレイン酸共重合体ナトリウム中のマレイン酸の含有量が45質量%)を、アクリル酸-マレイン酸共重合体塩がセルロース100質量%に対して5質量%になるように、原料ビスコースへ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。原料ビスコースは、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含んでいた。なお、実施例及び比較例において、粘度は、東京計器株式会社製のB型粘度計を用い、20℃で測定した。また、カルボキシル基を含有する化合物の重量平均分子量は、後述するとおりに測定算出した。
《紡糸工程》
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率50%で紡糸して、繊度1.4dtexのビスコースレーヨンの糸条を得た。第1浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/Lを含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、円形ノズル(孔径0.06mm、ホール数4000)を用いた。
《精練工程》
前記で得られたビスコースレーヨンの糸条を、繊維長38mmにカットし、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。得られた処理綿を再度水洗し、次亜塩素酸ソーダで漂白し、酸洗い後水洗した。その後、圧縮ローラーで繊維を絞り、水分率が130%になるようにした。前記再生セルロース繊維(撥水加工の前)において、カルボキシル基の総量に対するH型カルボキシル基の割合は、94%であり、H型カルボキシル基量は、0.53mmol/gであった。
《撥水加工》
まず、非フッ素系撥水剤として炭化水素系撥水剤組成物(日華化学株式会社製「ネオシードNR-158」)を用い、イソシアネート系化合物としてブロックイソシアネート系架橋剤(日華化学株式会社製「NKアシストNY-30」、固形分濃度40質量%)を用い、撥水剤(撥水剤粒子):架橋剤(固形分)の質量比が5:1になるように混合して撥水加工用処理液を得た。次に、撥水加工用処理液(50℃)中に上記で得られた水分率が130%の繊維を30秒間浸漬した。繊維:撥水加工用処理液の浴比は1:10になるようにした。その後、圧縮ローラーで、繊維に対する撥水剤(固形分)の付着率が1質量%になるように繊維を絞った後、100℃に設定した乾燥機で10分間乾燥処理を施し、繊維Aを得た。このときの実温度は85℃であった。得られた撥水性再生セルロース繊維におけるカルボキシル基の総量は、0.52mmol/gであった。
【0097】
[布帛の作製]
繊維Aを100質量%使用で30番手(30S)の紡績糸を作製した。前記紡績糸を100質量%使用し、定法で筒編み(目付130g/m2)を作製した。
上記で得られた精練、漂白していない布帛(筒編み)を、JAFET標準配合洗剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルファオレフィンスルホン酸ナトリウム配合)を0.1g/L含む水溶液に浸漬して(浴比1:30)5分間撹拌し、その後脱水し、浴比1:30で水洗を2回行い、水分率を約100%になるように調整した。なお、親水化処理した布帛を室温(約23℃)で風乾した後、水との接触角を測定したところ、親水化処理する前の布帛の水との接触角より小さく(接触角は77°であった)、親水化されていることを確認できた。
上記で得られた親水化処理された布帛(水分率約100%)を、反応染色浴(芒硝42g/L、炭酸ソーダ5g/L、反応染料:Sumifix Supra(スミフィックス スプラ) BLUE BRF(青)2.1%owfの組成)に25℃で40分間浸漬した後、温度50℃、時間60分で染色を行った。浴比は1:50であった。その後、0.5g/LのセンカノールC-100にて(浴比1:30)、温度60℃、10分間ソーピングし、その後70℃で10分間湯洗を行った。
次に、染色後の布帛を150℃で10秒間処理して乾燥した。
【0098】
(比較例1)
精練、漂白していない布帛(筒編み)を、親水化処理せずに、そのまま染色工程に用いたこと以外は、実施例1と同様にして布帛を作製した。
【0099】
実施例及び比較例の布帛の洗濯堅牢度、汗堅牢度、接触角(撥水角とも称される。)及び表面張力を上記のように測定し、その結果を下記表2に示した。また、実施例及び比較例の布帛の染色ムラの有無を目視で観察してその結果を下記表2に示した。
【0100】
【0101】
表2の結果から分かるように、実施例では、染色ムラがなく、洗濯堅牢度及び汗堅牢度が高い布帛を得ることができた。また、布帛の撥水性も良好であり、撥水性の洗濯耐久性も良好であった。一方、比較例1では、染色する前に、親水化処理を行っていないことから、染色ムラが発生していた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の布帛は、衣料や産業資材等に用いることができる。