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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/00 20060101AFI20230913BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20230913BHJP
   B60C 15/04 20060101ALI20230913BHJP
   B60C 9/02 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
B60C15/00 M
B60C13/00 H
B60C15/04 C
B60C15/00 K
B60C15/00 C
B60C9/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019091206
(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公開番号】P2020185868
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 雄貴
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-149778(JP,A)
【文献】特開2004-299571(JP,A)
【文献】特開2005-271662(JP,A)
【文献】特開2003-136919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部の各々に断面視でタイヤ径方向外側に向かって凸となる楔形状を有するビードコアが配置され、該一対のビード部間に少なくとも1層のカーカス層が装架され、該カーカス層が前記ビードコアの廻りに巻き上げられて形成される閉鎖領域に前記ビードコアのみが配置された空気入りタイヤにおいて、
前記サイドウォール部から前記ビード部にかけてタイヤ外表面をなす輪郭線が、タイヤ幅方向外側に向かって凸となる円弧部と、該円弧部よりも前記ビード部側に位置する直線部とを有し、
前記ビード部のビードヒールの位置L2からタイヤ最大幅位置L1までのタイヤ径方向の高さAと前記直線部の長さBとが0.35×A≧B≧0.33×Aの関係を満たすと共に、前記高さAと前記ビード部のビードヒールの位置L2から前記直線部のタイヤ径方向内側の端部までのタイヤ径方向の高さHとが0.40×A≧H≧0.28×Aの関係を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記直線部のタイヤ径方向に対する傾斜角度Cが35°以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記円弧部の長さRが前記直線部の長さBの140%以上であり、前記円弧部の中心がタイヤ最大幅位置L1を通るタイヤ幅方向線上に位置していることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記輪郭線が前記直線部よりも前記ビード部側に位置してタイヤ幅方向内側に向かって凸となる他の円弧部を有し、前記円弧部が前記直線部に対して接することにより接続され、前記他の円弧部が前記直線部に対して接することにより接続されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ビードコアはタイヤ周方向に巻き回された少なくとも1本のビードワイヤを含み、該ビードワイヤの複数の周回部分がタイヤ径方向に重なる複数の層を形成し、前記ビードコアの各層を形成する周回部分の本数が該ビードコアの最大幅位置からタイヤ径方向外側に向かって漸減し、前記周回部分が層間で互いにずれた位置に配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記カーカス層が1層であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、軽量化を図りながら耐外傷性を改善することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、軽量化を図るために、サイドウォール部を薄肉化することが行われている。しかしながら、サイドウォール部のゴム厚さを薄くすると耐外傷性が悪化する。また、サイドウォール部のタイヤ外表面をなす輪郭線の形状によっては、タイヤに荷重を掛けた状態で応力が集中し易い部分が存在し、タイヤ本来の性能が得られないことがあると共に、縁石を乗り越す際に当該部分でバーストを生じることがある。
【0003】
また、空気入りタイヤにおいて、ビードコアの側方に配置されるリムクッションゴム層の繰り返し変形により、リムクッションゴム層が摩滅することがある。これに対して、サイドウォール部からビード部にかけてタイヤ外表面をなす輪郭線に直線部分を設けることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、上述した特許文献1の空気入りタイヤでは、タイヤ外表面をなす輪郭線の直線部分に応力が集中し易く、縁石を乗り越す際に当該直線部分に縁石が接触するとバーストを生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/110668号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、軽量化を図りながら耐外傷性を改善することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部の各々に断面視でタイヤ径方向外側に向かって凸となる楔形状を有するビードコアが配置され、該一対のビード部間に少なくとも1層のカーカス層が装架され、該カーカス層が前記ビードコアの廻りに巻き上げられて形成される閉鎖領域に前記ビードコアのみが配置された空気入りタイヤにおいて、前記サイドウォール部から前記ビード部にかけてタイヤ外表面をなす輪郭線が、タイヤ幅方向外側に向かって凸となる円弧部と、該円弧部よりも前記ビード部側に位置する直線部とを有し、前記ビード部のビードヒールの位置L2からタイヤ最大幅位置L1までのタイヤ径方向の高さAと前記直線部の長さBとが0.35×A≧B≧0.33×Aの関係を満たすと共に、前記高さAと前記ビード部のビードヒールの位置L2から前記直線部のタイヤ径方向内側の端部までのタイヤ径方向の高さHとが0.40×A≧H≧0.28×Aの関係を満たすことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、カーカス層がビードコアの廻りに巻き上げられて形成される閉鎖領域にビードコアのみが配置された構造を有するので、タイヤの軽量化を図ることができる。このような空気入りタイヤにおいて、サイドウォール部からビード部にかけてタイヤ外表面をなす輪郭線は、タイヤ幅方向外側に向かって凸となる円弧部と、円弧部よりもビード部側に位置する直線部とを有し、高さAと直線部の長さBとは0.35×A≧B≧0.33×Aの関係を満たすと共に、高さAと直線部の高さHとは0.40×A≧H≧0.28×Aの関係を満たしているので、タイヤがリムに装着された場合に、タイヤ外表面をなす輪郭線の直線部がリムフランジの上部に配置されてリムフランジと輪郭線の直線部との間隔が広がるため、ビードコアの側方に配置されるリムクッションゴム層の繰り返し変形による摩滅を抑制することができる。また、輪郭線の直線部の長さBを可及的に短く設定しているので、タイヤに荷重が掛かった際には応力が輪郭線の円弧部に分散し易くなり、輪郭線の直線部への応力集中を低減することができる。その結果、軽量化を図りながら、リムクッションゴム層の繰り返し変形による摩滅を抑制すると共に、縁石を乗り越す際のバーストを防止して耐外傷性を改善することができる。
【0008】
本発明の空気入りタイヤにおいて、直線部のタイヤ径方向に対する傾斜角度Cは35°以下であることが好ましい。このように直線部の傾斜角度Cを適度に設定することで、リムクッションゴム層の摩滅を効果的に抑制すると共に、サイドウォール部の剛性を十分に確保することができる。
【0009】
円弧部の長さRは直線部の長さBの140%以上であり、円弧部の中心はタイヤ最大幅位置L1を通るタイヤ幅方向線上に位置していることが好ましい。これにより、直線部が過度に長くなることを抑制して円弧部が適度な長さとなるので、リムクッションゴム層の摩滅を効果的に抑制すると共に、サイドウォール部の剛性を十分に確保することができる。
【0010】
輪郭線は直線部よりもビード部側に位置してタイヤ幅方向内側に向かって凸となる他の円弧部を有し、円弧部は直線部に対して接することにより接続され、他の円弧部は直線部に対して接することにより接続されていることが好ましい。これにより、直線部、円弧部及び他の円弧部を含むタイヤ外表面をなす輪郭線が互いに円滑に繋がるので、サイドウォール部に掛かる応力を効果的に分散することができる。
【0011】
ビードコアはタイヤ周方向に巻き回された少なくとも1本のビードワイヤを含み、ビードワイヤの複数の周回部分はタイヤ径方向に重なる複数の層を形成し、ビードコアの各層を形成する周回部分の本数はビードコアの最大幅位置からタイヤ径方向外側に向かって漸減し、周回部分は層間で互いにずれた位置に配置されていることが好ましい。これにより、軽量化、剛性及び耐圧性能に優れたビードコアを得ることができる。
【0012】
カーカス層は1層であることが好ましい。これにより、タイヤの軽量化を図ることができる。
【0013】
本発明における各寸法及びタイヤ外表面をなす輪郭線の形状は、空気入りタイヤを正規リムへ組み付ける前の負荷を与えない状態で規定される。具体的には、空気入りタイヤを正規リムへ装着した状態の形状と同じタイヤ形状となるように保持して、無負荷の状態の形態で規定されるものである。ここで、「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの一例を示す子午線半断面図である。
図2図1の空気入りタイヤの一部を拡大して示す断面図である。
図3】(a)~(d)は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのビード構造の各例を模式的に示す説明図である。
図4】従来例のビード構造を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1及び図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの一例を示すものである。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1では、タイヤ中心線CLを境とするタイヤ幅方向の一方側の半断面のみが描写されているが、この空気入りタイヤはタイヤ中心線CLの両側で対称的な構造を有している。勿論、非対称的な構造を採用することも可能である。
【0017】
一対のビード部3間には、複数本のカーカスコードをラジアル方向に配列してなる少なくとも1層のカーカス層4が装架されている。図示のように、カーカス層4が1層である場合、タイヤの軽量化の観点で好適である。カーカス層4の各端部は、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に巻き上げられており、カーカス層4の端末4eはビードコア5よりもタイヤ径方向外側に配置されている。なお、カーカス層4において、トレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至る部分を本体部4A、各ビード部3においてビードコア5の廻りに巻き上げられて各サイドウォール部2側に向かって延在する部分を巻き上げ部4Bという。
【0018】
ビードコア5は、子午線断面視でタイヤ径方向外側に向かって凸となる楔形状(外径側楔形状)を有している。また、ビードコア5は、タイヤ周方向に巻回された少なくとも1本のビードワイヤと、ビードワイヤを被覆するインシュレーションゴムから構成されている。また、ビードコア5は、ビードワイヤを束ねるように配置されたビードカバーやラッピング糸を含んでいてもよい。
【0019】
上記空気入りタイヤにおいて、カーカス層4はビードコア5の廻りに巻き上げられるものであるが、本発明に係るビードコア5は外径側楔形状を有するため、カーカス層4はビードコア5の周縁に沿って屈曲する。図示の例では、断面形状が略五角形になっているため、その周縁に沿って延在するカーカス層4も略五角形に屈曲している。更に、カーカス層4の巻き上げ部4Bにおけるビードコア5よりもタイヤ径方向外側の部分は、カーカス層4の本体部4Aに接触しながら本体部4Aに沿って各サイドウォール部2側に向かって延在している。その結果、カーカス層4の本体部4Aと巻き上げ部4Bとによって、ビードコア5を囲む閉鎖領域が形成されている。
【0020】
このビードコア5を囲む閉鎖領域には、実質的にビードコア5のみが存在しており、従来の空気入りタイヤにおいて用いられるようなビードフィラー又はそれに類するタイヤ構成部材(ビードコア5のタイヤ径方向外側に配置されてカーカス層4の本体部4Aと巻き上げ部4Bによって包み込まれてビード部3からサイドウォール部2にかけての剛性を高める部材)は配置されない。即ち、ビードコア5を囲む閉鎖領域には、従来の空気入りタイヤに使用されるビードフィラーは用いられない。このようなビードフィラーレス構造によって、タイヤの軽量化を図ることができる。
【0021】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4のタイヤ外周側には、複数層のベルト層6が埋設されている。ベルト層6は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層6において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層6の補強コードとしては、例えばスチールコードが好ましく使用される。
【0022】
ベルト層6のタイヤ外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルト補強層7が配置されている。図1において、タイヤ径方向内側に位置するベルト補強層7はベルト層6の全幅を覆うフルカバー層を構成し、タイヤ径方向外側に位置するベルト補強層7はベルト層6の両端部のみを覆うエッジカバー層を構成している。ベルト補強層7の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0023】
サイドウォール部2からビード部3にわたる領域には、タイヤ外表面に露出するサイドウォールゴム層11が配置されている。また、ビードコア5の側方にはリムクッションゴム層12が配置されている。リムクッションゴム層12は、カーカス層4の端末4eのタイヤ径方向外側の位置から内径側に向かって延在している。
【0024】
サイドウォール部2のタイヤ最大幅位置L1において、カーカス層4のカーカスコードよりもタイヤ幅方向外側部分のゴム厚さt(図2参照)は、1.0mm~2.5mmの範囲であることが好ましい。これにより、サイドウォール部2(サイドウォールゴム層11)のゴムボリュームを小さくしてタイヤの軽量化を図ることができる。ここで、ゴム厚さtが1.0mm未満であるとタイヤ側面の擦れによる摩耗でカーカス層4のカーカスコードが露出する恐れがあり、逆に2.5mmを超えるとタイヤ質量の低減効果が低下する。
【0025】
上記空気入りタイヤにおいて、ビード部3は、ビード部3のタイヤ径方向内側の表面部分をなすビードベース31と、ビード部3のタイヤ径方向外側の表面部分をなすビード背面部32と、ビードベース31とビード背面部32を連結するビードヒール33とを有している。
【0026】
具体的に、ビードベース31は、タイヤ幅方向に対して傾斜して形成されている。ビードベース31のタイヤ幅方向内側の端部はビードトウ3eとして形成されており、ビードトウ3eはビード部3のタイヤ径方向最内側の端部である。ビード背面部32は、子午線断面視でタイヤ径方向に対して略平行に延在している。ビードヒール33は、子午線断面視でタイヤ幅方向外側に向かって凸となる円弧である。また、ビードヒール33は、一端がビードベース31のタイヤ幅方向外側の端部に接続され、他端がビード背面部32のタイヤ径方向内側の端部に接続されている。
【0027】
一方、サイドウォール部2からビード部3にかけてタイヤ外表面をなす輪郭線20は、タイヤ幅方向外側に向かって凸となる円弧部21と、円弧部21よりもビード部3側に位置する直線部22と、直線部22よりもビード部3側に位置してタイヤ幅方向内側に向かって凸となる他の円弧部23とを有している。なお、サイドウォール部2のタイヤ外表面には文字や図形、記号等の装飾的な凹部又は凸部が施されていてもよいが、その場合、輪郭線20はタイヤ外表面上に形成された装飾的な凹部又は凸部を含まない状態の輪郭線として取り扱う。
【0028】
円弧部21の中心は、タイヤ最大幅位置L1を通るタイヤ幅方向線上に位置している。直線部22のタイヤ径方向外側の端部は円弧部21に接続され、直線部22のタイヤ径方向内側の端部は他の円弧部23に接続されている。直線部22は、タイヤ径方向に対して傾斜している。また、円弧部21は直線部22に対して接することにより接続され、他の円弧部23は直線部22に対して接することにより接続されている。他の円弧部23のタイヤ径方向内側の端部は、ビード部3を構成するビード背面部32に接続されている。
【0029】
直線部22は、子午線断面視において、厳密に直線となって形成されていなくてもよい。具体的には、直線部22において、円弧部21との接続位置と、他の円弧部23との接続位置とを結ぶ基準直線に対する距離が1.5mm以下であればよい。つまり、直線部22は、上述した基準直線と直交する方向に3.0mmの範囲内で、屈曲したり湾曲したりしてもよい。
【0030】
上述したように、サイドウォール部2のタイヤ最大幅位置L1付近からビード部3のビードトウ3eに至るまでのタイヤ外表面は、サイドウォール部2の輪郭線20として、円弧部21と直線部22と他の円弧部23とが互いに滑らかに連結されると共に、ビード部3の輪郭線として、ビードベース31とビード背面部32とビードヒール33とが互いに滑らかに連結されることにより形成されている。
【0031】
ビード部3におけるビードヒール33の位置L2からタイヤ最大幅位置L1までのタイヤ径方向の高さを高さAとし、ビード部3におけるビードヒール33の位置L2から直線部22におけるタイヤ径方向内側の端部までのタイヤ径方向の高さを高さHとする(図2参照)。このとき、高さAと直線部22の長さBとは0.35×A≧B≧0.20×Aの関係を満たすと共に、高さAと高さHとは0.40×A≧H≧0.25×Aの関係を満たすように構成されている。なお、ビードヒール33の位置L2は、ビード背面部32をタイヤ径方向内側に延長した線と、ビードベース31をタイヤ幅方向外側に延長した線の交点におけるタイヤ径方向の位置である。
【0032】
上述した空気入りタイヤでは、カーカス層4がビードコア5の廻りに巻き上げられて形成される閉鎖領域にビードコア5のみが配置された構造を有するので、タイヤの軽量化を図ることができる。このような空気入りタイヤにおいて、サイドウォール部2からビード部3にかけてタイヤ外表面をなす輪郭線20は、タイヤ幅方向外側に向かって凸となる円弧部21と、円弧部21よりもビード部3側に位置する直線部22とを有し、高さAと直線部22の長さBとは0.35×A≧B≧0.20×Aの関係を満たすと共に、高さAと直線部22の高さHとは0.40×A≧H≧0.25×Aの関係を満たしているので、タイヤがリムに装着された場合に、直線部22がリムフランジの上部に配置されてリムフランジと直線部22との間隔が広がるため、リムクッションゴム層12の繰り返し変形による摩滅を抑制することができる。また、直線部22の長さBを可及的に短く設定しているので、タイヤに荷重が掛かった際には応力が円弧部21に分散し易くなり、直線部22への応力集中を低減することができる。その結果、軽量化を図りながら、リムクッションゴム層12の繰り返し変形による摩滅を抑制すると共に、縁石を乗り越す際のバーストを防止して耐外傷性を改善することができる。
【0033】
ここで、直線部22の長さBが0.35×Aより大きい場合には、タイヤに荷重が掛かった際に直線部22への応力集中を十分に低減することができず、縁石を乗り越す際のバーストを十分に防止することが難しい。直線部22の長さBが0.20×Aより小さい場合には、縁石を乗り越す際のバーストを十分に防止することが難しい。また、直線部22の高さHが0.40×Aより大きい場合には、円弧部21の長さRを十分に確保することができないため、タイヤに荷重が掛かった際に円弧部21への応力を効果的に分散することができず、縁石を乗り越す際のバーストを十分に防止することが難しい。直線部22の高さHが0.25×Aより小さい場合には、縁石を乗り越す際のバーストを十分に防止することが難しいことに加えて、リムフランジと直線部22との間隔が狭くなるので、リムクッションゴム層12の繰り返し変形による摩滅を十分に抑制することが難しい。
【0034】
上記空気入りタイヤにおいて、直線部22のタイヤ径方向に対する傾斜角度C(図2参照)は、35°以下であることが好ましく、33°以下であることがより好ましい。図示の例では、ビードコア5における後述の頂点Pを通る基準線L3がタイヤ径方向に沿って延在している。このように直線部22の傾斜角度Cを適度に設定することで、リムクッションゴム層12の摩滅を効果的に抑制すると共に、サイドウォール部2の剛性を十分に確保することができる。
【0035】
また、円弧部21の長さRは直線部22の長さBの140%以上であり、円弧部21の中心はタイヤ最大幅位置L1を通るタイヤ幅方向線上に位置していることが好ましい。より好ましくは、円弧部21の長さRが直線部22の長さBの143%以上であるとよい。これにより、直線部22が過度に長くなることを抑制して円弧部21が適度な長さになるので、リムクッションゴム層12の摩滅を効果的に抑制すると共に、サイドウォール部2の剛性を十分に確保することができる。なお、円弧部21の長さRは、円弧部21のタイヤ径方向内側の端部とタイヤ最大幅位置L1との間で測定されるタイヤ外表面上の長さである。直線部22の長さBは、直線部22における円弧部21との接続位置と、他の円弧部23との接続位置とを結ぶ長さである。
【0036】
更に、タイヤ外表面をなす輪郭線20は、直線部22よりもビード部3側に位置してタイヤ幅方向内側に向かって凸となる他の円弧部23を有し、円弧部21は直線部22に対して接することにより接続され、他の円弧部23は直線部22に対して接することにより接続されていることが好ましい。このように輪郭線20を構成することで、円弧部21、直線部22及び他の円弧部23が互いに円滑に繋がるので、サイドウォール部2に掛かる応力を効果的に分散することができる。
【0037】
図3(a)~(d)は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのビード構造の各例を模式的に示すものである。本発明ではビードコア5が外径側楔形状を有していれば、特に限定されるものではないが、例えば、図3(a)~(d)に示すようなビード構造を採用することができる。
【0038】
ビードコア5は、図示のように、タイヤ周方向に巻回された少なくとも1本のビードワイヤからなり、ビードワイヤの複数の周回部分5Aがタイヤ幅方向に並ぶ少なくとも1つの列とタイヤ径方向に重なる複数の層を形成している。本発明では、子午線断面において上記のようにビードワイヤの複数の周回部分5Aが列と層を形成していれば、単一のビードワイヤを連続的に巻回した構造(所謂、一本巻き構造)であっても、複数本のビードワイヤを引き揃えた状態で巻回した構造(所謂、層巻き構造)であってもよい。
【0039】
より具体的に、図3(a)の例では、タイヤ径方向最内側から順に5列の周回部分5Aを含む層、4列の周回部分5Aを含む層、3列の周回部分5Aを含む層、2列の周回部分5Aを含む層、1列の周回部分5Aを含む層の計5層が積層された構造を有する。言い換えれば、この構造は「5+4+3+2+1構造」である。同様に、図3(b)の例は「4+5+4+3+2+1構造」であり、図3(c)の例は「3+4+4+3+2+1構造」であり、図3(d)の例は「3+4+3+2+1構造」である。図3(a)~(d)の各例のビードコア5は、ビードワイヤの周回部分5Aが俵積み状に積層されている。「俵積み」とは、互いに接している3つの周回部分5Aの中心が略正三角形を形成する積み方であり、六方充填配置と呼ばれる充填率の高い積層構造である。
【0040】
このとき、各ビードコア5について、子午線断面におけるビードワイヤの複数の周回部分5Aの共通接線によって形成された多角形をビードコア5の外郭形状(図中の破線)とすると、この外郭形状はタイヤ径方向外側に単一の頂点Pを有すると共に、タイヤ径方向内側にこの頂点Pと対向する位置ではタイヤ幅方向に延びる底辺を有している。特に、図3(a)の例は5+4+3+2+1構造を有するため三角形の外郭形状を有し、図3(b)の例は4+5+4+3+2+1構造であるため五角形の外郭形状を有し、図3(c)の例は3+4+4+3+2+1構造であるため五角形の外郭形状を有し、図3(d)の例は3+4+3+2+1構造であるため五角形の外郭形状を有する。
【0041】
上述したビードコア5全体としては最大幅となる部位からタイヤ径方向外側に向かって徐々に幅が狭まる先細り形状を有している。言い換えれば、ビードコア5の各層を形成する周回部分5Aの本数がビードコア5の最大幅位置からタイヤ径方向外側に向かって漸減している。更に、周回部分5Aは層間で互いにずれた位置に配置されている。このような積層構造にすることで、軽量化、剛性及び耐圧性能に優れたビードコア5を得ることができる。また、ビードコア5の形状として、ビードコア5の安定性を高めるには、ビードコア5の全体の形状をビードコア5のタイヤ幅方向中心に対して線対称にすることが好ましい。この観点からは、図3(a),(b),(d)のような形状が好ましい。
【0042】
これら様々なビードコア5の形状は、上述の様々な観点に基づいて、空気入りタイヤ全体の構造や重視する特性等を考慮して適宜選択することができる。
【実施例
【0043】
タイヤサイズ205/55R16で、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、一対のビード部間に少なくとも1層のカーカス層が装架された空気入りタイヤにおいて、ビードフィラーの有無、ビードコアの構造、タイヤ最大幅位置L1の高さA、直線部の有無、直線部の長さB、直線部の内端の高さH、直線部の傾斜角度C、円弧部の長さR及びカーカス層の枚数を表1のように設定した従来例1,2、比較例1~4及び実施例1~3のタイヤを製作した。
【0044】
表1の「ビードコア構造」の欄については、対応する図面の番号を示した。従来例1,2は、従来の一般的なビードコアを用いた例であり、ビードコアは図4に示すように、俵積み状に積層された4+5+4構造を有する。
【0045】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、タイヤ質量及び耐外傷性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0046】
タイヤ質量:
各試験タイヤについて1本当たりの質量を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどタイヤ質量が軽く、軽量化の観点で優れていることを意味する。
【0047】
耐外傷性:
各試験タイヤをそれぞれリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて、排気量2000ccの試験車両に装着し、空気圧230kPaの条件で、高さ110mmの縁石に対して進入角度45°で乗り上げるという走行試験を実施した。具体的には、初期速度10km/hから徐々に上げていき、タイヤがバーストする速度を測定した。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、耐外傷性が優れていることを意味する。
【0048】
【表1】
【0049】
この表1から判るように、実施例1~3の空気入りタイヤは、従来例1に比して、タイヤ質量が改善されると共に、耐外傷性が維持されていた。
【0050】
一方、従来例2は、タイヤ最大幅位置L1の高さAに対する直線部の長さBを大きく設定したので、耐外傷性の改善効果を十分に得ることができなかった。
【0051】
比較例1~4は、いずれもビードフィラーを有していないのでタイヤ質量が改善された。しかしながら、比較例1~3は、タイヤ最大幅位置L1の高さAに対する直線部の長さBが本発明で規定する関係式を満たしていないので、耐外傷性の改善効果を十分に得ることができなかった。また、比較例4は、タイヤ最大幅位置L1の高さAに対する直線部の長さB、及び、タイヤ最大幅位置L1の高さAに対する直線部の内端の高さHが本発明で規定する関係式を満たしていないので、耐外傷性の改善効果を十分に得ることができなかった。
【符号の説明】
【0052】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
20 輪郭線
21 円弧部
22 直線部
23 他の円弧部
33 ビードヒール
L1 タイヤ最大幅位置
L2 ビードヒールの位置
A,H タイヤ径方向の高さ
B 直線部の長さ
CL タイヤ中心線
図1
図2
図3
図4