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特許7348506DSCメッセージの送信開始方法、DSCメッセージ送信プログラムおよび通信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】DSCメッセージの送信開始方法、DSCメッセージ送信プログラムおよび通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04W 74/08 20090101AFI20230913BHJP
   H04B 1/40 20150101ALI20230913BHJP
   H04W 16/14 20090101ALI20230913BHJP
【FI】
H04W74/08
H04B1/40
H04W16/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019206008
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021082856
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000100746
【氏名又は名称】アイコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100174573
【弁理士】
【氏名又は名称】大坂 知美
(74)【代理人】
【識別番号】100173462
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 一浩
(72)【発明者】
【氏名】中西 隆次
(72)【発明者】
【氏名】徳山 幸浩
(72)【発明者】
【氏名】西口 育宏
【審査官】谷岡 佳彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-164831(JP,A)
【文献】特開2018-006906(JP,A)
【文献】特開2006-295397(JP,A)
【文献】特開昭60-091736(JP,A)
【文献】Digital selective-calling system for use in the maritime mobile service,Recommendation ITU-R M.493-15 (01/2019),2019年02月06日,pp.4-6,9-10,17,48-56[online],[retrieved on 2023.07.26], Retrieved from the Internet:<URL: https://www.itu.int/dms_pubrec/itu-r/rec/m/R-REC-M.493-15-201901-I!!PDF-E.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04B 1/40
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信装置が、デジタル選択呼出(以下、DSC)メッセージの送信開始時に、
プロセスA 前記DSCメッセージの送信周波数における他の通信装置からのDSCメッセージの受信(以下、ビジー)の有無を判定するビジーチェック
プロセスB 他の通信との衝突を回避するための所定時間の待機
プロセスC アンテナチューナにチューニングの開始を指示するための通信
プロセスD アンテナチューナからチューニング完了の信号の受信
プロセスE 受信から送信へのアンテナの切り換え
を実行する場合に、
(1)前記DSCメッセージの送信が指示されたとき、ビジーの有無にかかわらず、プロセスC-Eを実行し、
(2)前記DSCメッセージの送信周波数で受信した信号を2値化した2値化信号が、1/0が1ビット毎に交代するドットパターンでなくなったとき、プロセスA,Bを実行し、
(3)手順(1),(2)の両方が終了後、前記DSCメッセージの送信を開始する
DSCメッセージの送信開始方法。
【請求項2】
前記手順2において、前記プロセスAによりビジーでない旨が判定された場合、前記プロセスAの開始タイミングから前記所定時間が経過するまで前記プロセスBを実行する請求項1に記載の送信開始方法。
【請求項3】
前記手順2において、前記プロセスAのDSCメッセージの受信有無の判定は、前記2値化信号に対して1ビットずつ行う請求項1または請求項2に記載の送信開始方法。
【請求項4】
前記手順2において、前記DSCメッセージの送信周波数で受信した信号を2値化する処理は、前記DSCメッセージの送信周波数よりも高周波数側、低周波数側の受信信号の電圧を比較し、電圧が高い側の値を受信したと判断する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の送信開始方法。
【請求項5】
他の通信装置からのデジタル選択呼出(以下、DSC)メッセージの受信を常時監視しているDSC受信部と、前記DSCメッセージおよび音声信号を送信する送信部と、前記音声信号を受信する受信部と、アンテナの接続を前記送信部または受信部のどちらかに切り換えるアンテナ切換器と、前記アンテナをチューニングするアンテナチューナが接続されるインタフェースと、を備えた通信装置の制御部を、
前記DSCメッセージの送信が指示されたとき、前記DSCメッセージの送信周波数における他の通信装置からのDSCメッセージの受信(以下、ビジー)の有無にかかわらず、前記アンテナチューナにチューニングの開始を指示し(プロセスC)、アンテナチューナからチューニング完了の信号を受信したのち(プロセスD)、前記アンテナの接続を前記受信部から前記送信部へ切り換える(プロセスE)第1手段、
前記DSCメッセージの送信周波数で受信した信号を2値化した2値化信号が、1/0が1ビット毎に交代するドットパターンでなくなったとき、前記ビジーの有無を判定するビジーチェック(プロセスA)、および、他の通信との衝突を回避するため所定時間待機する(プロセスB)第2手段、および、
前記第1手段および第2手段の両方が終了後、前記DSCメッセージの送信を開始する第3手段、
として機能させるDSCメッセージ送信プログラム。
【請求項6】
前記第2手段において、前記プロセスAによりビジーでない旨が判定された場合、前記プロセスAの開始タイミングから前記所定時間が経過するまで前記プロセスBを実行する請求項5に記載のDSCメッセージ送信プログラム。
【請求項7】
前記第2手段において、前記プロセスAのDSCメッセージの受信有無の判定は、前記2値化信号に対して1ビットずつ行う請求項5または請求項6に記載のDSCメッセージ送信プログラム。
【請求項8】
前記第2手段において、前記DSCメッセージの送信周波数で受信した信号を2値化する処理は、前記DSCメッセージの送信周波数よりも高周波数側、低周波数側の受信信号の電圧を比較し、電圧が高い側の値を受信したと判断する請求項5乃至請求項7のいずれかに記載のDSCメッセージ送信プログラム。
【請求項9】
他の通信装置からのデジタル選択呼出(以下、DSC)メッセージの受信を常時監視しているDSC受信部と、
前記DSCメッセージおよび音声信号を送信する送信部と、
前記音声信号を受信する受信部と、
アンテナの接続を前記送信部または受信部のどちらかに切り換えるアンテナ切換器と、
前記アンテナをチューニングするアンテナチューナが接続されるインタフェースと、
請求項5乃至請求項8のいずれかに記載のDSCメッセージ送信プログラムを記憶して実行する制御部と、
を備えた通信装置。
【請求項10】
前記DSCメッセージの送信周波数は、短波帯の周波数である請求項9に記載の通信装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、DSC(デジタル選択呼出)メッセージの送信が指示された場合に、速やかに送信を開始できるDSCメッセージの送信開始方法、DSCメッセージ送信プログラム、および、通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DSCメッセージを送信する場合、混信防止のためにビジーチェック(他船の無線通信装置がDSCメッセージを送信していない事の確認動作)を行う必要がある。例えば、特許文献1には、無線機が、送信するために選択したチャンネルの受信信号をFM検波ICで検波してデジタルデータを生成し、このデジタルデータが、所定のフレーム同期符号を含み、このフレーム同期符号が周期的に受信できる場合には、この選択チャンネルはBUSYであると判断することが開示されている。また、DSCメッセージの送信周波数に合わせて、アンテナとのインピーダンスマッチングをとる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平03-038782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の通信装置では、DSCメッセージの送信前に必要なビジーチェック、アンテナのチューニングなどの複数のプロセスを順次処理していたため、DSCメッセージの送信を開始するまでに長い時間を要していた。
【0005】
また、DSCメッセージは、ドットパターンのあと、「DX」などの10ビット単位のシンボル列で開始される。従来の通信装置は、受信信号が目的のシンボルであるか否かを10ビット単位で判定していたため、1シンボル分の信号(10ビット)を受信するまで目的のシンボルである否か判断することができなかった。
【0006】
また、他船の無線通信装置からの送信信号の有無を確認するために、従来、Sメータースケルチが用いられているが、Sメータースケルチで送信信号を検出するためには、信号強度がノイスレベルよりも大きいことが必要であり、送信信号が小さい場合の正確なビジーチェックができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、DSCメッセージの送信が指示された場合に、速やかに送信を開始できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のDSCメッセージの送信開始方法は、通信装置が、DSCメッセージの送信開始時に以下の手順を実行する。
(1)DSCメッセージの送信が指示されたとき、ビジーの有無にかかわらず、アンテナチューナにチューニングの開始を指示するための通信(プロセスC)、アンテナチューナからチューニング完了の信号の受信(プロセスD)、および、受信から送信へのアンテナの切り換え(プロセスE)を実行する。
(2)DSCメッセージの送信周波数で受信した信号を2値化した2値化信号が、1/0が1ビット毎に交代するドットパターンでなくなったとき、DSCメッセージの送信周波数における他の通信装置からのDSCメッセージの受信の有無を判定するビジーチェック(プロセスA)、他の通信との衝突を回避するための所定時間の待機(プロセスB)を実行する。
(3)手順(1),(2)の両方が終了後、前記DSCメッセージの送信を開始する。
【0009】
本発明のDSCメッセージ送信プログラムは、他の通信装置からのDSCメッセージの受信を常時監視しているDSC受信部と、DSCメッセージおよび音声信号を送信する送信部と、音声信号を受信する受信部と、アンテナの接続を送信部または受信部のどちらかに切り換えるアンテナ切換器と、アンテナをチューニングするアンテナチューナが接続されるインタフェースと、を備えた通信装置の制御部を、以下の第1-3手段として機能させる。
(第1手段)DSCメッセージの送信が指示されたとき、ビジーの有無にかかわらず、アンテナチューナにチューニングの開始を指示し(プロセスC)、アンテナチューナからチューニング完了の信号を受信したのち(プロセスD)、アンテナの接続を受信部から送信部へ切り換える(プロセスE)。
(第2手段)DSCメッセージの送信周波数で受信した信号を2値化した2値化信号が、1/0が1ビット毎に交代するドットパターンでなくなったとき、前記ビジーの有無を判定するビジーチェック(プロセスA)、および、他の通信との衝突を回避するための所定時間の待機(プロセスB)を実行する。
(第3手段)第1手段および第2手段の両方が終了後、DSCメッセージの送信を開始する。
【0010】
本発明の通信装置は、他の通信装置からのDSCメッセージの受信を常時監視しているDSC受信部と、DSCメッセージおよび音声信号を送信する送信部と、音声信号を受信する受信部と、アンテナの接続を送信部または受信部のどちらかに切り換えるアンテナ切換器と、アンテナをチューニングするアンテナチューナが接続されるインタフェースと、上記DSCメッセージ送信プログラムを記憶して実行する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、DSCメッセージの送信が指示された場合に、速やかに送信を開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施形態である通信装置のブロック図である。
図2図2は、通信装置がDSCメッセージの送信を開始するまでの手順を示す図である。
図3図3は、従来の通信装置がDSCメッセージの送信を開始するまでの手順を示す図である。
図4図4は、通常時のDSCメッセージのデコードの手法を示す図である。
図5図5は、DSC送信モード時のビジーチェックの手法を示す図である。
図6図6は、通信装置の制御部の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態である通信装置のブロック図である。実施形態の通信装置1は、船舶搭載用のトランシーバである。通信装置1は、制御部10、送信部11、受信部12、DSC受信部13、アンテナ切換器14、インタフェース15を備えている。送信部11、受信部12は、短波帯の周波数でデジタル音声通信を行う通信回路である。DSC受信部13は、他船の通信装置からDSC(デジタル選択呼出)メッセージ(以下、DSCメッセージ)が送られてくるか否かを常時受信している受信回路である。
【0014】
DSC受信部13は、たとえば国内DSC用周波数である2187.5kHz(DSC専用チャンネル)を常時受信している。DSCメッセージの電波形式はF1Bであり、ビットレートは100bpsである。F1Bは、狭帯域のFSK(周波数シフトキーイング)であり、F1Bで送信される信号は、2つの周波数でマーク(1)およびスペース(0)の2つの値が表わされた信号である。下側の周波数がマーク(1)を表し、上側の周波数がスペース(0)を表している。DSC受信部13は、受信信号から上記2つの周波数を検出することなく、受信信号を強制的に2値化する。すなわち、DSC受信部13は、DSC通信の中心周波数(DSCメッセージの送信周波数)よりも高周波数側、低周波数側の受信レベル(電圧)を比較し、電圧の高い側の値を受信したと判断する。すなわち、DSC受信部13は、低周波数側が高電圧であればマーク(1)、高周波数側が高電圧であればスペース(0)を受信したと判断する。この復調方式により、DSC受信部13は、DSCメッセージがノイズに沈んでいる場合でも、DSCメッセージの信号によるわずかな電圧差があれば信号の復調が可能である。ただし、信号がなくノイズのみを受信している場合でも、DSC受信部13は、中心周波数よりも高周波数側、低周波数側の受信レベルを比較して、なんらかの2値化信号を出力してしまう。DSC受信部13は、100bpsで上記の復調処理を行い、復調処理によって生成された2値化信号(ビット列)を制御部10に入力する。制御部10は、入力された2値化信号をデコードすることにより、他船の通信装置からDSCメッセージを受信しているか否かを判断する。
【0015】
DSC受信部13には専用のアンテナ4が接続されている。送信部11および受信部12には、アンテナ切換器14およびアンテナチューナ3を介してアンテナ2が接続されている。アンテナ切換器14は、制御部10からの指示によってアンテナ2を送信部11、または、受信部12に切り換える。
【0016】
アンテナチューナ3は、送信周波数に応じて、送信部11側とアンテナ2側のインピーダンスのマッチングをとる回路である。制御部10は、インタフェース15を介して、アンテナチューナ3に対してチューニング開始信号を送信し、アンテナ切換器14を送信部11側に切り換え、さらに、送信部11に送信周波数の微弱なキャリアを出力させる。アンテナチューナ3は、このキャリアの反射波が最小になるようにインピーダンスのマッチングをとる。アンテナチューナ3は、インピーダンスマッチングが完了すると、制御部10に調整完了信号を送信する。制御部10は、調整完了信号を受信すると、アンテナ切換器14を再度受信部12側に切り換える。この一連の処理が、アンテナチューニング処理である。
【0017】
通信装置1は、さらに、オーディオ回路16、表示部17、および、操作部18を備えている。オーディオ回路16は、送信部11および受信部12で送受信される音声信号を処理する。オーディオ回路16には、マイク160およびとスピーカ161が接続される。他の無線機との音声通信時、オーディオ回路16は、マイク160から入力された音声信号を送信部11に入力し、受信部12によって受信された音声信号をスピーカ161に出力する。スピーカ161は内蔵であってもよい。表示部17は、液晶画面を備え、各種情報を表示する。操作部18は、DISTRESSボタン180を含む各種の操作ボタンを備えている。操作部18は、これら操作ボタンのいずれかが操作される(押される)と、その操作ボタンに応じた操作信号を制御部10に入力する。ユーザによってDISTRESSボタン180が押され、その操作信号が制御部10に入力されると、制御部10は、DSCメッセージを送信するための処理を開始する。以下、DISTRESSボタン180が押された場合の通信装置1の動作について説明する。
【0018】
図2は、DISTRESSボタン180が押された場合に、通信装置1が、DSCメッセージの送信(以下、単にDSC送信)を開始するまでのタイムチャートである。比較のために示される図3は、従来の通信装置が、DSC送信を開始するまでのタイムチャートである。
【0019】
ユーザは、DSC送信を行う場合、DISTRESSボタン180を3秒間押し続ける必要がある。これは、DISTRESSボタン180が誤って押され、遭難のDSCメッセージが送信されてしまうことを回避するためである。DISTRESSボタン180が3秒間押し続けられると、通信装置1は、DSC送信モードとなり、以下のプロセスを行ったのち、DSC送信を開始する。
【0020】
[プロセスA] ビジーチェック(約240ミリ秒)
他船の通信装置がDSCメッセージの送信を開始していないかを判定する処理
【0021】
[プロセスB] 待機(約460ミリ秒)
通信規格で要求される衝突回避のための待機時間
たとえば、Distress(non alert)の場合、「固定時間(100ミリ秒)+ランダム時間(0~100ミリ秒)」の待機が必要である。
【0022】
[プロセスC] チューニング開始指示(約340ミリ秒)
アンテナチューナ3に対するチューニング開始を指示する通信を含むアンテナチューニング処理の開始
【0023】
[プロセスD] アンテナチューニング(約450ミリ秒)
アンテナチューナ3によるチューニング、制御部10にとっては、アンテナチューナ3からチューニング完了の信号を受信するまでの待機時間
【0024】
[プロセスE] アンテナ切り換え(約100ミリ秒)
フルパワー送信を行うための受信から送信への切り換え
【0025】
DSCメッセージは、ETSI(欧州電気通信標準化機構)のEN300 338-2規格に準拠して送信される。DSCメッセージは、整相シーケンス(ドットパターンを含む)に続いて、メッセージ本体が送信される。整相シーケンスは、200ビットのドットパターン(1/0が1ビット毎に交代するパターン)、および、6回繰り返されるDXシンボルおよびRXシンボルからなる。制御部10は、プロセスAのビジーチェックにおいて、DSC受信部13から入力されている2値化信号が、DXシンボルおよびRXシンボルであるか否かを判定する。
【0026】
図2の例は、通信装置1がDSC送信モードになったとき(T1)、DSC受信部13から制御部10に入力される2値化信号が、ドットパターンである場合を示している。1/0が1ビット毎に交代するドットパターンは、信号を含まないノイズが2値化された場合でもしばしば現れるパターンである。制御部10は、ドットパターンが入力されている間、ビジーであるとしてDSCメッセージの送信を待機する。一方で、制御部10は、DSC送信モードになったとき、ビジーであってもプロセスC-Eを実行する。プロセスC-Eは、上述したように、アンテナチューナ3にチューニングの開始を指示するプロセス、アンテナチューナ3からチューニング完了の信号を受信するまで待機するプロセス、および、アンテナ切換器14を受信部12側から送信部11側に切り換えるプロセスである。これらのプロセスの実行には、おおよそ890ミリ秒の時間が必要である。
【0027】
制御部10は、DSC受信部13から入力される2値化信号がドットパターンでなくなったとき(T2)、すなわち1のビット(または0のビット)が2つ連続して入力されたとき、ビジーチェック(プロセスA)を開始する。ビジーチェックの詳細は、図5で詳述する。ビジーチェックにおいて、制御部10が、入力されている2値化信号がDXシンボルまたはRXシンボルでないと判定した場合、その時点でビジーチェックを終了させる(T3)。制御部10は、ビジーチェック開始時点のT2にさかのぼってプロセスBの待機を行う。プロセスBの終了後、通信装置1は、DSCメッセージの送信を開始する(T4)。これにより、制御部10は、ビジーチェックを終了してから、T4-T3の短時間待機するのみで、DSCメッセージの送信を開始することができる。
【0028】
このように、実施形態の通信装置1では、アンテナ2に関する処理であるプロセスC-Eを、DSC受信部13から入力される2値化信号の判定とは別に並行して実行するため、全プロセスの所要時間を短縮している。さらに、制御部10がビジーオフを判定した場合、ビジーチェック開始の時刻T2にさかのぼって、T2から待機時間を計測することにより、ビジーチェックに要した時間を待機時間の一部とすることができる。
【0029】
図3は、参考に示す従来の手順のタイムチャートである。DSC送信モードになったとき(T11)、制御部10は、ビットパターンの終了を待って(T12)、ビジーチェック(プロセスA)からアンテナ切り換え(プロセスE)までを順次行っているため、ビジーチェック開始からDSCメッセージの送信開始(T13)までに、約1590ミリ秒の時間を要している。
【0030】
図4および図5は、制御部10が行う2値化信号のデコードおよびビジーチェックの手法を示すタイムチャートである。図4は、通常時(DSC送信モードでないとき)の手法を示している。通常時とはDSC送信モードでないときであり、ビジーチェックは実行されない。図5は、DSC送信モード時の手法を示しており、ビジーチェックが実行される。このビジーチェックは、図2におけるプロセスAに対応する。
【0031】
図4において、制御部10は、仮想的な10ビットのシフトレジスタ101を設定し、DSC受信部13から入力された2値化信号を順次シフトレジスタ101に入力する。制御部10は、シフトレジスタ101に入力された10ビットの2値化信号が、ドッドパターンであるか、何らかのシンボルであるかを判定する。制御部10は、入力された2値化信号がドットパターンであると判定されている間、1ビットシフトするごとにシフトレジスタ101内の10ビットがドットパターンであるか否かを判定する。これは、制御部10が、ドットパターンの終了タイミングを速やかに検出するためである。ドットパターンの終了とは、2値化信号のビット列が、1および0の1ビットずつの繰り返しでなくなり、同じ値(1または0)が2ビット続くことである。ドットパターンが終了すると、制御部10は、そのドットパターンが終了したビット(2ビット続いた同じ値の2ビット目)から10ビットずつビット配列を判定し、シンボルをデコードする。なお、図4は、ドッドパターンに続いて、DSC受信部13から正しいDXシンボルおよびRXシンボルが入力された例を示している。
【0032】
図5において、DSC送信モード時であっても、制御部10は、ドットパターンが継続している間は、通常時と同様に、シフトレジスタ101を用いて入力された2値化信号がドットパターンであるかを1ビットシフトするごとに判定する。ドットパターンが終了したとき、すなわち1(または0)が2ビット続いた場合、制御部10は、そのドットパターンが終了したビットから始まる10ビットがDXを意味するシンボルであるかを1ビットずつ判定する。すなわち、制御部10は、ドットパターンが終了したビットから始まる10ビットが、それぞれ「1」,「0」,「1」,「1」,「1」,「1」,「1」,「0」,「0」,「1」であるかを判定する。
【0033】
図5の例では、最初の1ビット(ドットパターンが終了したビット)は、1であり、制御部10による判定は「正」である。続く2ビット目、3ビット目も、それぞれ0および1であり、制御部10による判定は「正」である。しかし、4ビット目は、1であるべきところ0であり、制御部10による判定は「誤」である。判定が「誤」であった場合、制御部10は、その時点でDSCメッセージを受信していないとしてビジーチェックを終了し、ビジーオフとする。
【0034】
0のビットが2つ連続したことによりドットパターンが終了した場合、このドットパターンが終了したビットは0であり、このビットから始まるシンボルがDXである可能性がないため、制御部10は、その時点でビジーオフと判定する。
【0035】
図6は、ユーザによりDISTRESSボタン180が3秒間押され、通信装置1がDSC送信モードになった場合の制御部10の動作を示すフローチャートである。通信装置1がDSC送信モードになると、制御部10は、DSC受信部13から入力される2値化信号をチェックする処理(S11-S13)と並行してアンテナ2のチューニングを行う(S21―S23)。
【0036】
S21で制御部10は、アンテナチューナ3に対してアンテナ2をチューニングする旨の指示信号を出力する(S21)。並行して、制御部10は、送信部11にDSCメッセージの送信周波数のキャリアを微弱な電力で出力するように指示する。アンテナチューナ3は、入力されたキャリアの周波数で最適になるようインピーダンスを調整し、制御部10に対して調整完了信号を送信する。制御部10は、アンテナチューナ3から調整完了信号を受信するまで、S22で待機している。アンテナチューナ3から調整完了信号を受信すると(S22でYES)、制御部10は、アンテナ切換器14を送信部11がフルパワーで送信できるように切り換える(S23)。
【0037】
一方、制御部10は、S11-S13で、DSC受信部13から入力される2値化信号をチェックする。S11では、制御部10は、他船の通信装置からDSCメッセージ本体を受信中であるか判断する(S11)。DSCメッセージ本体を受信中の場合(S11でYES)、制御部10は、そのDSCメッセージの受信が終了するまで待機する。
【0038】
DSCメッセージ本体を受信中でない場合(S11でNO)、制御部10は、DSC受信部13から入力されている2値化信号がドットパターンであるか、すなわちドットパターンを受信中であるかを判断する(S12)。ドットパターンの判定は、図5に示した手法で行われればよい。ドットパターンを受信中の場合(S12でYES)、制御部10は、ドットパターンが終了するまで待機する。ドットパターンが終了した場合、または、ドットパターンを受信していなかった場合(S12でNO)、制御部10は、プロセスAのビジーチェックを実行する(S13)。すなわち、制御部10は、DSC受信部13から入力される2値化信号がDXまたはRXのビット配列になっているかを1ビットずつ判定する(図5参照)。
【0039】
DSC受信部13から入力される2値化信号が、DSCメッセージのDXまたはRXのビット配列になっている間(S13でYES)、制御部10は、S13で待機し、もしDSCメッセージ本体が開始された場合は、S11に戻る。DSC受信部13から入力される2値化信号が、DXまたはRXのビット配列と異なっていた場合(S13でNO)、制御部10は、DSCメッセージを受信していないとしてビジーオフと判定する(S13でNO)。
【0040】
制御部10は、S13のビジーチェックに要した時間をプロセスBの待機時間から減算し(S14)、減算された待機時間だけ待機する(S15、プロセスB)。プロセスBが終了すると(S15でYES)、制御部10は、並行して処理していたプロセスEが終了しているかを判断し(S16)、終了している場合(S16でYES)、DSCメッセージの送信を開始する(S17)。プロセスEが終了していなかった場合(S16でNO)、制御部10は、終了するまで待機して、DSCメッセージの送信を開始する(S17)。
【0041】
なお、S11-S13の処理で10秒以上の時間が経過した場合、制御部10は、送信周波数がビジーか否かにかかわらず、DSCメッセージの送信を開始する。遭難信号の送信をこれ以上遅らせることができないからである。
【0042】
なお、本実施形態では、短波帯(HF)の通信装置を例に挙げて説明しているが、本発明は、中波(MF)、超短波(VHF)の通信装置にも適用可能である。
【0043】
本実施形態において、アンテナチューンが不要または不可の場合には、プロセスD、Eを省略すればよい。
【0044】
「課題を解決するための手段」の欄に記載したDSCメッセージの送信開始方法は、以下の態様の付加または変形が可能である。
【0045】
手順2において、プロセスAによりビジーでない旨が判定された場合、通信装置が、プロセスAの開始タイミングから所定時間が経過するまでの時間だけプロセスBを実行する。
【0046】
手順2において、通信装置が、プロセスAのDSCメッセージの受信有無の判定を、2値化信号に対して1ビットずつ行う。
【0047】
手順2において、DSCメッセージの送信周波数よりも高周波数側、低周波数側の受信信号の電圧を比較し、電圧が高い側の値を受信したと判断する処理で、受信信号を2値化する。
【0048】
「課題を解決するための手段」の欄に記載したDSCメッセージ送信プログラムは、以下の態様の付加または変形が可能である。
【0049】
第2手段において、前記プロセスAによりビジーでない旨が判定された場合、制御部が。プロセスAの開始タイミングから所定時間が経過するまでの時間だけプロセスBを実行する。
【0050】
第2手段において、通信装置が、プロセスAのDSCメッセージの受信有無の判定を、2値化信号に対して1ビットずつ行う。
【0051】
第2手段において、DSCメッセージの送信周波数よりも高周波数側、低周波数側の受信信号の電圧を比較し、電圧が高い側の値を受信したと判断する処理で、受信信号を2値化する。
【0052】
「課題を解決するための手段」の欄に記載した通信装置は、DSCメッセージを短波帯の周波数で送信してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 通信装置(トランシーバ)
3 アンテナチューナ
10 制御部
11 送信部
13 DSC受信部
14 アンテナ切換器
101 シフトレジスタ
180 DISTRESSボタン
図1
図2
図3
図4
図5
図6