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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】合成梁の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20230913BHJP
   E04B 1/30 20060101ALI20230913BHJP
   E04B 5/32 20060101ALI20230913BHJP
   E04B 5/38 20060101ALI20230913BHJP
   G06F 30/13 20200101ALI20230913BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20230913BHJP
   G06F 119/14 20200101ALN20230913BHJP
【FI】
G06F30/20
E04B1/30 H ESW
E04B5/32 D
E04B5/38 C
G06F30/13
G01N3/00 Z
G06F119:14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019210811
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021082153
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】有田 政樹
(72)【発明者】
【氏名】北岡 聡
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-168630(JP,A)
【文献】特開2001-195444(JP,A)
【文献】特開2005-294195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/28
E04B 1/30
E04B 5/32
E04B 5/38
G01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正曲げの曲げ剛性と負曲げの曲げ剛性とが互いに異なり、両端がそれぞれ半剛接合され全長にわたって等分布荷重が作用する合成梁の前記端に作用する曲げモーメントである端部曲げモーメント、及び前記合成梁に生じる撓みの最大値を算出する合成梁の評価方法であって、
前記合成梁の前記端における回転剛性を、前記合成梁の単位長さ当たりの曲げ剛性で除した値を無次元化回転剛性とし、
前記合成梁の正曲げの曲げ剛性及び前記合成梁の負曲げの曲げ剛性の比を無次元化曲げ剛性としたときに、
前記端部曲げモーメント及び前記撓みの最大値を、前記無次元化回転剛性及び前記無次元化曲げ剛性に基づいて陽関数により算出する合成梁の評価方法。
【請求項2】
前記両端がそれぞれ剛接合されて全長にわたって等分布荷重が作用するとしたときの前記合成梁の前記端に作用する曲げモーメントを剛接モーメントとし、
前記両端がそれぞれピン接合されて全長にわたって等分布荷重が作用するとしたときの前記合成梁に作用する曲げモーメントの最大値をピン接モーメントとし、
前記両端がそれぞれ半剛接合されて全長にわたって等分布荷重が作用する前記合成梁の前記端に作用する曲げモーメントを半剛接モーメントとし、
前記半剛接モーメントを前記ピン接モーメントで除した値を無次元化接合部モーメントとし、
前記剛接モーメントを前記ピン接モーメントで除した値を無次元化剛接モーメントとしたときに、
前記無次元化曲げ剛性に基づいて前記無次元化剛接モーメントを陽関数により算出し、
算出した前記無次元化剛接モーメント、前記無次元化回転剛性、及び前記無次元化曲げ剛性に基づいて前記無次元化接合部モーメントを陽関数により算出し、
算出した前記無次元化接合部モーメントに基づいて前記端部曲げモーメント及び前記撓みの最大値を陽関数により算出する請求項1に記載の合成梁の評価方法。
【請求項3】
前記無次元化剛接モーメントをβMj,rigid、前記無次元化回転剛性をα、前記無次元化曲げ剛性をαとしたときに、前記無次元化接合部モーメントβMjを、(1)式から(3)式を用いて(4)式により算出する請求項2に記載の合成梁の評価方法。
【数1】
【請求項4】
前記無次元化剛接モーメントβMj,rigidが0.4以下のときには、(4)式において、前記無次元化剛接モーメントβMj,rigidに代えて、前記無次元化剛接モーメントβMj,rigidに基づいて(5)式により算出される無次元化剛接モーメントβMj,rigid,Theoを用いる請求項3に記載の合成梁の評価方法。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成梁の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、両端がそれぞれ半剛接合された合成梁において、正曲げの曲げ剛性と負曲げの曲げ剛性とが互いに異なる場合の合成梁の評価方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1では、合成梁に2点集中荷重が作用する場合に、明細書に示された合成梁の曲げモーメント及び撓みについての方程式(陽関数)を解いて、合成梁の端部曲げモーメント(合成梁の端に作用する曲げモーメント)及び撓みの最大値を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-09410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、合成梁に全長にわたって等分布荷重が作用する場合には、合成梁の曲げモーメント及び撓みについての方程式から合成梁の曲げモーメント及び撓みを算出するには、この方程式が陰関数であるため、これを解くためには収斂(収束)計算を行う必要がある。さらに、例えば複数の合成梁を有する構造体を動的解析するためには、これを陰解法で収斂計算によって解く必要があり、合成梁と構造体の2重の収斂計算が必要となるため、多大な時間が必要である。
さらに、例えば合成梁の断面積を目的関数、撓みや曲げモーメント等の設計条件を制約条件とし、目的関数を最小化する最適化計算を行う場合には、制約条件及び目的関数の最適化に対して2重の収斂計算が必要となるため、多大な時間が必要である。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、合成梁の端部曲げモーメント及び撓みの最大値を収斂計算を行うことなく算出できる合成梁の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の合成梁の評価方法は、正曲げの曲げ剛性と負曲げの曲げ剛性とが互いに異なり、両端がそれぞれ半剛接合され全長にわたって等分布荷重が作用する合成梁の前記端に作用する曲げモーメントである端部曲げモーメント、及び前記合成梁に生じる撓みの最大値を算出する合成梁の評価方法であって、前記合成梁の前記端における回転剛性を、前記合成梁の単位長さ当たりの曲げ剛性で除した値を無次元化回転剛性とし、前記合成梁の正曲げの曲げ剛性及び前記合成梁の負曲げの曲げ剛性の比を無次元化曲げ剛性としたときに、前記端部曲げモーメント及び前記撓みの最大値を、前記無次元化回転剛性及び前記無次元化曲げ剛性に基づいて陽関数により算出することを特徴としている。
【0007】
この発明によれば、発明者らは無次元化された値である無次元化回転剛性及び無次元化曲げ剛性に基づいて端部曲げモーメント及び撓みの最大値を評価することにより、合成梁の仕様によらずに端部曲げモーメント及び撓みの最大値を陽関数により汎用性高く、かつ精度良く算出できることを見出した。
無次元化回転剛性及び無次元化曲げ剛性に基づいて陽関数により合成梁の端部曲げモーメント及び撓みの最大値を算出することにより、合成梁の端部曲げモーメント及び撓みの最大値を収斂計算を行うことなく算出することができる。
【0008】
また、上記の合成梁の評価方法において、前記両端がそれぞれ剛接合されて全長にわたって等分布荷重が作用するとしたときの前記合成梁の前記端に作用する曲げモーメントを剛接モーメントとし、前記両端がそれぞれピン接合されて全長にわたって等分布荷重が作用するとしたときの前記合成梁に作用する曲げモーメントの最大値をピン接モーメントとし、前記両端がそれぞれ半剛接合されて全長にわたって等分布荷重が作用する前記合成梁の前記端に作用する曲げモーメントを半剛接モーメントとし、前記半剛接モーメントを前記ピン接モーメントで除した値を無次元化接合部モーメントとし、前記剛接モーメントを前記ピン接モーメントで除した値を無次元化剛接モーメントとしたときに、前記無次元化曲げ剛性に基づいて前記無次元化剛接モーメントを陽関数により算出し、算出した前記無次元化剛接モーメント、前記無次元化回転剛性、及び前記無次元化曲げ剛性に基づいて前記無次元化接合部モーメントを陽関数により算出し、算出した前記無次元化接合部モーメントに基づいて前記端部曲げモーメント及び前記撓みの最大値を陽関数により算出してもよい。
【0009】
この発明によれば、無次元化曲げ剛性に基づいて無次元化剛接モーメントを陽関数により算出する。さらに、算出した無次元化剛接モーメント、無次元化回転剛性、及び無次元化曲げ剛性に基づいて無次元化接合部モーメントを算出し、算出した無次元化接合部モーメントに基づいて端部曲げモーメント及び撓みの最大値を、それぞれ陽関数により算出する。
こうして、合成梁の端部曲げモーメント及び撓みの最大値を収斂計算を行うことなく算出することができる。
【0010】
また、上記の合成梁の評価方法において、前記無次元化剛接モーメントをβMj,rigid、前記無次元化回転剛性をα、前記無次元化曲げ剛性をαとしたときに、前記無次元化接合部モーメントβMjを、(1)式から(3)式を用いて(4)式により算出してもよい。
【0011】
【数1】
【0012】
この発明によれば、(1)式から(3)式を用いた(4)式により、無次元化接合部モーメントβMjを、収斂計算を行うことなく精度良く算出することができる。
【0013】
また、上記の合成梁の評価方法において、前記無次元化剛接モーメントβMj,rigidが0.4以下のときには、(4)式において、前記無次元化剛接モーメントβMj,rigidに代えて、前記無次元化剛接モーメントβMj,rigidに基づいて(5)式により算出される無次元化剛接モーメントβMj,rigid,Theoを用いてもよい。
【0014】
【数2】
【0015】
この発明によれば、無次元化剛接モーメントβMj,rigidが0.4以下である場合には、無次元化剛接モーメントβMj,rigidが厳密解に対して誤差が大きくなる。この場合であっても、無次元化剛接モーメントβMj,rigidに代えて無次元化剛接モーメントβMj,rigid,Theoを用いることにより、無次元化剛接モーメントをより精度良く算出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の合成梁の評価方法によれば、合成梁の端部曲げモーメント及び撓みの最大値を収斂計算を行うことなく算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態の合成梁の評価方法が適用される合成梁が用いられる建築物の縦断面図である。
図2】同合成梁を境界条件とともに示す模式化した正面図である。
図3】同合成梁における正曲げされる領域及び負曲げされる領域を模式化して示した正面図である。
図4】ケース1からケース5における無次元化回転剛性と無次元化接合部モーメントとの関係を示す図である。
図5】合成梁における無次元化曲げ剛性と無次元化剛接モーメントとの試算結果の関係を示す図である。
図6】無次元化剛接モーメントの近似解と厳密解との関係を示す図である。
図7】無次元化曲げ剛性と係数kとの関係を示す図である。
図8】無次元化曲げ剛性と変数αj,Tとの関係を示す図である。
図9】無次元化接合部モーメントの近似解と厳密解との関係を示す図である。
図10】撓みの最大値の近似解と厳密解との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る合成梁の評価方法の一実施形態を、図1から図10を参照しながら説明する。
【0019】
〔1.両端が半剛接合された合成梁〕
本実施形態の合成梁の評価方法は、例えば、図1に示す建築物1を構成する合成梁11を評価するのに用いられる。
この例では、合成梁11は、床12と、梁(小梁)13と、を備えている。なお、合成梁11の構成はこの例に限定されない。
床12は、いわゆる合成スラブであり、梁13により下方から支持されている。床12は、デッキプレート16と、デッキプレート16上に配置されたRC(Reinforced Concrete)スラブ17と、を備えている。
デッキプレート16の凹凸形状は、水平面に沿う方向であって、梁13が延びる方向とは直交する方向に延びている。
RCスラブ17は、コンクリート18と、鉄筋19と、を備えている。コンクリート18は、上下方向が厚さ方向となる板状に形成されている。コンクリート18は、デッキプレート16により下方から支持されている。
鉄筋19は、水平面に沿って延びていて、コンクリート18内に埋設されている。例えば、鉄筋19は、平面視で格子状に配置されている。
【0020】
梁13はH形鋼で形成され、水平面に沿って延びている。梁13の上フランジには、スタッド21の下端部が固定されている。スタッド21は、デッキプレート16を貫通している。スタッド21の上端部は、コンクリート18内に埋設されている。
梁13の両端は、水平面に沿って延びる大梁24にそれぞれ半剛接合されている。大梁24は、梁13に直交する方向に延びている。梁13と大梁24との半剛接合は、例えばシアプレート25及びボルト26等により行われている。
大梁24の端部は、柱28により下方から支持されている。
【0021】
以下では、このように構成された合成梁11の評価方法について説明する。
【0022】
〔2.両端が半剛接合された合成梁の撓みの微分方程式(厳密解)〕
以下の検討は、全て合成梁の弾性範囲に限定する。
図2に示すように、合成梁を模式化する。
合成梁に沿って右向きに座標x(mm)を規定する。合成梁の左端の位置を、座標xの原点とする。合成梁の長さが、L(mm)であるとする。境界条件(前提条件)として、合成梁は、両端がそれぞれ半剛接合されているとする。合成梁には、全長にわたって下方向きの等分布荷重w(N/mm:ニュートン・パー・ミリメートル)が作用するとする。
合成梁の両端の接合部の回転剛性をS(Nmm/rad:ニュートンミリメートル・パー・ラジアン)、合成梁の端における回転角を、図2に示す正面視における時計回りを正としてθ(rad:ラジアン)とする。
このとき、合成梁の端における曲げモーメントの絶対値(端部の半剛接合部のモーメント。以下、半剛接モーメントという。)M(Nmm)は、(11)式で表される。
【0023】
【数3】
【0024】
合成梁の座標xに沿う曲げモーメントの分布M(x)(Nmm)は、合成梁の梁の下フランジに引張応力が作用するときの曲げモーメントを正とすると、力の釣り合い条件から(12)式で表される。
【0025】
【数4】
【0026】
合成梁の曲率φ(rad/mm)は、合成梁に作用する曲げモーメントM(Nmm)と、合成梁の曲げ剛性EI(Nmm)と、を用いて表せる。合成梁は、コンクリートの作用により、正曲げ(下に凸)の曲げ剛性と負曲げ(上に凸)の曲げ剛性とが互いに異なる。このため、合成梁の正曲げの曲げ剛性をEI(Nmm)とし、合成梁の負曲げの曲げ剛性をEI(Nmm)とする。そして、図3に示すように、座標xが0以上L以下の範囲、及びL以上L以下の範囲で合成梁が負曲げされるとする。ただし、Lは0よりも大きく、LはLよりも大きくLよりも小さい。座標xがL以上L以下の範囲で、合成梁が正曲げされるとする。
このとき、(12)式が0となる時のxの解が、L及びLである。
合成梁の曲率φは、合成梁が正曲げされる領域と、合成梁が負曲げされる領域と、に分けて、(13)式及び(14)式で表される。
【0027】
【数5】
【0028】
(13)式及び(14)式をL及びLについて解くと、(15)式及び(16)式が求まる。
【0029】
【数6】
【0030】
次に、合成梁の回転角θ(x)(rad)を、水平面に対し時計回りの回転を正(+)として説明する。回転角θ(x)は、(13)式及び(14)式の曲率φを座標xで積分し、さらに、座標xが0のときに回転角θがθになる境界条件を考慮して、(19)式を用いて、(20)式から(22)式のように表される。
【0031】
【数7】
【0032】
次に、合成梁に生じる撓みδ(x)(mm)を、鉛直下向きを正(+)として説明する。撓みδ(x)は、(20)式から(22)式の回転角θを座標xで積分し、さらに、座標xが0のときに撓みδ(x)が0になる境界条件を考慮して、(25)式及び(26)式を用いて、(27)式から(29)式のように表される。
【0033】
【数8】
【0034】
以上で求めた(27)式から(29)式は、半剛接モーメントM及び回転角θを含む形で表されているが、このままでは、任意の回転剛性Sに対して、半剛接モーメントM及び回転角θが一義的に決まらない。ここでさらに、座標xが(L/2)のときに回転角θが0radになるという変形の適合条件を用いると、(11)式及び(21)式から、回転剛性Sと回転角θとの関係が、(30)式のように表される。
【0035】
【数9】
【0036】
また、座標xがLのときに撓みδ(x)が0になるという変形の適合条件を用いると、(11)式及び(29)式から、回転剛性Sと回転角θとの関係が、(31)式のように表される。
なお、(30)式は(31)式と等価である。
【0037】
【数10】
【0038】
合成梁に生じる撓みの最大値δmaxは、(28)式における座標xが(L/2)のときの値となる。
前記(30)式又は(31)式を用いて撓みの最大値δmaxを算出するためには、(30)式又は(31)式を用いて収斂計算を行って回転角θを算出し、さらに(28)式を用いて、座標xが(L/2)のときの撓みδ(x)を算出する必要がある。
【0039】
〔3.両端が半剛接合された合成梁の撓みの近似式〕
発明者らは無次元化された値である無次元化回転剛性及び無次元化曲げ剛性に基づいて撓みの最大値δmaxを評価することにより、合成梁の仕様によらずに、端部曲げモーメント及び撓みの最大値δmaxを汎用性高く、かつ収斂計算を行わずに精度良く算出できることを見出した。
以下では、端部曲げモーメント及び撓みの最大値を陽関数により算出できる近似式について説明する。
【0040】
(35)式及び(36)式のように、無次元化曲げ剛性α及び無次元化回転剛性αを規定した。
【0041】
【数11】
【0042】
すなわち、無次元化曲げ剛性αは、合成梁の正曲げの曲げ剛性及び合成梁の負曲げの曲げ剛性の比である。この例では、無次元化曲げ剛性αは、合成梁の負曲げの曲げ剛性EIに対する、合成梁の正曲げの曲げ剛性EIの比である。この場合、無次元化曲げ剛性αは、一般に1以上の値をとる。これは、通常床は梁の鉛直方向上方にあり、床のコンクリートは引張抵抗より圧縮抵抗が大きい。このため、床のコンクリートが引張られる負曲げに比べ、圧縮される正曲げに対して床の抵抗が大きくなるからである。一般的な合成梁の仕様では、無次元化曲げ剛性αは10以下であり、より一般的に用いられる合成梁では無次元化曲げ剛性αは3以下である。
なお、無次元化曲げ剛性αは、合成梁の正曲げの曲げ剛性EIに対する、合成梁の負曲げの曲げ剛性EIの比であるとしてもよい。
無次元化回転剛性αは、合成梁の端における回転剛性を、合成梁の単位長さ当たりの曲げ剛性で除した値である。
【0043】
さらに、ピン接モーメントM、半剛接モーメントM、剛接モーメントMjr、無次元化接合部モーメントβMj、及び無次元化剛接モーメントβMj,rigidを規定した。
ピン接モーメントMは、正曲げの曲げ剛性と負曲げの曲げ剛性とが互いに異なる合成梁において、両端がそれぞれピン接合されて全長にわたって等分布荷重が作用するとしたときの合成梁に作用する曲げモーメントの最大値のことを意味する。ピン接モーメントMは、(37)式で表される。
なお、ピン接モーメントMは、正曲げの曲げ剛性と負曲げの曲げ剛性とが互いに等しい梁において、両端がそれぞれピン接合されて全長にわたって等分布荷重が作用するとしたときの前記梁の端に作用する曲げモーメントに等しい。具体的には、ピン接モーメントMは、(wL/8)の式による値である。
【0044】
【数12】
【0045】
半剛接モーメントMは、上述のように、合成梁の端における曲げモーメントの絶対値であり、より具体的には、正曲げの曲げ剛性と負曲げの曲げ剛性とが互いに異なる合成梁において、両端がそれぞれ半剛接合されて全長にわたって等分布荷重が作用する合成梁の端に作用する曲げモーメントのことを意味する。半剛接モーメントMは、(30)式又は(31)式を用いて収斂計算を行って算出した回転角θを用い、(38)式で表される。
【0046】
【数13】
【0047】
剛接モーメントMjrは、正曲げの曲げ剛性と負曲げの曲げ剛性とが互いに異なる合成梁において、両端がそれぞれ剛接合されて全長にわたって等分布荷重が作用するとしたときの合成梁の端に作用する曲げモーメントのことを意味する。
なお、本実施形態の合成梁は、正曲げの曲げ剛性と負曲げの曲げ剛性とが互いに異なる梁である。説明の便宜上、正曲げの曲げ剛性と負曲げの曲げ剛性とが互いに等しい比較例の梁を仮定する。その比較例の梁において、両端がそれぞれ剛接合されて全長にわたって等分布荷重が作用するとしたとき、剛接モーメントMjrは(wL/12)の式による値である。
無次元化接合部モーメントβMjは、半剛接モーメントMをピン接モーメントMで除した値であり、(39)式で表される。
【0048】
【数14】
【0049】
無次元化剛接モーメントβMj,rigidは、剛接モーメントMjrをピン接モーメントMで除した値であり、(40)式で表される。
【0050】
【数15】
【0051】
前記無次元化回転剛性α、無次元化曲げ剛性α等の指標を評価するために、表1に示すケース1からケース6の仕様の合成梁に対して、無次元化回転剛性α、無次元化曲げ剛性αを変化させて無次元化接合部モーメントβMjを試算した。
なお、ケース1からケース5では合成梁の両端が半剛接合され、ケース6では合成梁の両端が剛接合される。
【0052】
【表1】
【0053】
ケース1では、合成梁の長さLを10.0m(10000mm)、負曲げの曲げ剛性EIを229397kNm、等分布荷重wを28.6kN/m(28.6N/mm)とし、ピン接モーメントMは(37)式から357kNmとした。ケース1では、無次元化回転剛性αを、最小値0.00から最大値50.00まで1.00刻みで、51種類の値に変化させた。すなわち、無次元化回転剛性αを、0.00、1.00、2.00、‥、50.00の値とした。無次元化曲げ剛性αを、最小値1.00から最大値6.00まで0.10刻みで、51種類の値に変化させた。すなわち、無次元化曲げ剛性αを、1.00、1.10、1.20、‥、6.00の値とした。ケース1では、無次元化回転剛性α及び無次元化曲げ剛性αの値を変化させた、(51×51)の式による2601通りの場合を試算した。
【0054】
ケース2では、ケース1において、合成梁の長さLを15.0mとし、ピン接モーメントMは(37)式から803kNmとした。ケース2では、ケース1と同様に無次元化回転剛性α及び無次元化曲げ剛性αを変化させ、2601通りの場合を試算した。
ケース3では、ケース2において、無次元化回転剛性αの刻み、及び無次元化曲げ剛性αの最大値及び刻みを変化させた。すなわち、ケース3では、無次元化回転剛性αを、最小値0.00から最大値50.00まで0.01刻みで、5001種類の値に変化させた。すなわち、無次元化回転剛性αを、0.00、0.01、0.02、‥、50.00の値とした。無次元化曲げ剛性αを、最小値1.00から最大値1.06まで0.01刻みで、7種類の値に変化させた。すなわち、無次元化曲げ剛性αを、1.00、1.01、1.02、‥、1.06の値とした。ケース3では、無次元化回転剛性α及び無次元化曲げ剛性αの値を変化させた、(5001×7)の式による35007通りの場合を試算した。ケース3では、ケース2における無次元化回転剛性α及び無次元化曲げ剛性αの一部の範囲に対して、より詳細に試算した。
【0055】
ケース4では、ケース1において、合成梁の長さLを8.4m、負曲げの曲げ剛性EIを214311kNmとし、ピン接モーメントMは(37)式から252kNmとした。ケース4では、無次元化回転剛性αを、最小値0.00から最大値100.00まで0.50刻みで、201種類の値に変化させた。すなわち、無次元化回転剛性αを、0.00、0.50、1.00、‥、100.00の値とした。無次元化曲げ剛性αを、最小値1.00から最大値1.30まで0.05刻みで、7種類の値に変化させた。すなわち、無次元化曲げ剛性αを、1.00、1.05、1.10、‥、1.30の値とした。ケース4では、無次元化回転剛性α及び無次元化曲げ剛性αの値を変化させた、(201×7)の式による1407通りの場合を試算した。
【0056】
ケース5では、ケース1において、合成梁の長さLを13.8mとし、ピン接モーメントMは(37)式から680kNmとした。ケース5では、無次元化回転剛性αの値はケース4と同様に変化させた。無次元化曲げ剛性αを、最小値1.00から最大値4.00まで0.50刻みで、7種類の値に変化させた。すなわち、無次元化曲げ剛性αを、1.00、1.50、2.00、‥、4.00の値とした。ケース5では、無次元化回転剛性α及び無次元化曲げ剛性αの値を変化させた、(201×7)の式による1407通りの場合を試算した。
ケース1からケース5では、合計で43023通りの場合を試算した。
【0057】
ケース6では、ケース2において、無次元化回転剛性α、及び無次元化曲げ剛性αの最大値を変化させた。ケース6では、無次元化回転剛性αを無限大(∞)、すなわち回転剛性Sを無限大にして、合成梁の両端が剛接合されるとした。無次元化曲げ剛性αを、最小値1.00から最大値51.00まで0.10刻みで、501種類の値に変化させた。すなわち、無次元化曲げ剛性αを、1.00、1.10、1.20、‥、51.00の値とした。
【0058】
図4に、ケース1からケース5における無次元化回転剛性αと無次元化接合部モーメントβMjとの関係を示す。図4において、横軸は無次元化回転剛性αを表し、縦軸は無次元化接合部モーメントβMjを表す。
直線L1は、正曲げの曲げ剛性と負曲げの曲げ剛性とが互いに等しい通常の梁における無次元化剛接モーメントβMj,rigid,uである。通常の梁において、長さをL(mm)、等分布荷重をw(N/mm)とする。この場合、通常の梁において、剛接モーメントMjrは(wL/12)、ピン接モーメントMは(wL/8)であるため、無次元化剛接モーメントβMj,rigid,uは{(wL/12)/(wL/8)}の式により、約0.667の値になる。
【0059】
ケース1の試算結果を、白抜きの正方形印で表す。同様に、ケース2の試算結果を白抜きの三角形印で表し、ケース3の試算結果を白抜きの丸形印で表し、ケース4の試算結果を白抜きの菱形印で表し、ケース5の試算結果をバツ印で表す。
横軸の無次元化回転剛性αが大きくなるのに従い、合成梁の両端の接合が剛接合に近づく。無次元化曲げ剛性αが1に近づくに従い、無次元化接合部モーメントβMjは、ケース1からケース5の上限の包絡線である曲線L2に近づく。
さらに、無次元化回転剛性αが大きくなるのに従い、合成梁の両端の接合が剛接合に近づき、無次元化接合部モーメントβMjは上限値である、直線L1が表す無次元化剛接モーメントβMj,rigidの値に収束する。
曲線L2により表される無次元化接合部モーメントβMjは、関数の形状と、無次元化回転剛性αが0及び無限大となるときの無次元化接合部モーメントβMjの極限を考慮して、(42)式で近似できると考えられる。
【0060】
【数16】
【0061】
(42)式において、kは係数である。変数αj,Tは、無次元化接合部モーメントβMjが無次元化剛接モーメントβMj,rigidの半分の値をとるときの無次元化回転剛性αである。以下では、無次元化剛接モーメントβMj,rigid、係数k、変数αj,Tの同定方法を提案する。
【0062】
〔4.近似式の同定〕
〔4.1.無次元化剛接モーメントの支配変数〕
(30)式において、合成梁の両端が剛接合される場合、回転剛性Sを無限大(無次元化回転剛性αを無限大)とし、さらに方程式を無次元化剛接モーメントβMj,rigid、無次元化曲げ剛性α、ピン接モーメントMを用いて式を表すと、(46)式のようになる。
【0063】
【数17】
【0064】
(46)式は、(47)式及び(48)式のように変形される。さらに、(49)式を用いて、(50)式のように変形される。
【0065】
【数18】
【0066】
以上から、無次元化剛接モーメントβMj,rigidは厳密には、(50)式による3次方程式の解であり、無次元化剛接モーメントβMj,rigidの解は、無次元化曲げ剛性αにのみ依存し、合成梁の長さL、等分布荷重w等には依存しないことがわかった。従って、3次方程式の解法であるカルダノの公式を用いて(50)式の解を求め、そのうちの実数解により、無次元化剛接モーメントβMj,rigidの厳密解を得ることができる。
なお、前記ケース6についての無次元化曲げ剛性αと無次元化剛接モーメントβMj,rigidとの試算結果の関係は、図5に示すようになる。図5において、横軸は無次元化曲げ剛性αを表し、縦軸は無次元化剛接モーメントβMj,rigidを表す。
【0067】
〔4.2.無次元化剛接モーメントの近似式〕
無次元化剛接モーメントβMj,rigidは、厳密には(50)式による3次方程式の実数解として得ることができる。しかし、図5に示すように、無次元化曲げ剛性αが約10以下の範囲では、無次元化剛接モーメントβMj,rigidは、無次元化曲げ剛性αの常用対数の線形式で近似できると考えられる。
前述のように、一般的な合成梁のスラブの厚さであれば無次元化曲げ剛性αは10以下である。このため、図5において、無次元化曲げ剛性αが10以下の範囲を線形式で近似して、無次元化剛接モーメントβMj,rigidを(53)式で近似する。
【0068】
【数19】
【0069】
(53)式では、無次元化曲げ剛性αに基づいて無次元化剛接モーメントβMj,rigidを陽関数により算出している。
(53)式を、図5中に直線L4で示す。無次元化曲げ剛性αが10以下の範囲では、直線L4は試算結果と重なっている。
なお、ケース6について、無次元化剛接モーメントβMj,rigidの(53)式による近似解と、(50)式による厳密解を比較して図6に示す。図6において、横軸は(53)式による無次元化剛接モーメントβMj,rigidの近似解を表し、縦軸は(50)式による無次元化剛接モーメントβMj,rigidの厳密解(無次元化剛接モーメントβMj,rigid,Theo)を表す。無次元化剛接モーメントβMj,rigidの近似解及び厳密解が互いに一致していれば、試算結果のプロットは、直線L6上に配置される。
無次元化剛接モーメントβMj,rigidの近似解と厳密解とは、無次元化剛接モーメントβMj,rigidの近似解が0.4を超えるときには、概ね一致する。しかし、無次元化剛接モーメトβMj,rigidの近似解が0.4以下のときには、無次元化剛接モーメトβMj,rigidを(54)式で補正してもよい。(54)式を、図6中に無次元化剛接モーメントβMj,rigidを横軸、無次元化剛接モーメントβMj,rigid,Theoを縦軸にとり、直線L7で示す。無次元化剛接モーメントβMj,rigid,Theoは、無次元化剛接モーメトβMj,rigidの厳密解と重なっている。
【0070】
【数20】
【0071】
すなわち、無次元化剛接モーメントβMj,rigidの近似解が0.4以下のときには、(42)式において、無次元化剛接モーメントβMj,rigidに代えて、無次元化剛接モーメントβMj,rigidに基づいて(54)式により算出される無次元化剛接モーメントβMj,rigid,Theoを用いてもよい。
次に、係数k及び変数αj,Tの近似式を求める。
各無次元化曲げ剛性αについて、係数kを差分進化法で求めた。求めた係数kと無次元化曲げ剛性αとの関係を、図7に示す。係数kは、無次元化曲げ剛性αに高次で依存しており、(55)式で近似した。
同様に、各無次元化曲げ剛性αについて、変数αj,Tを差分進化法で求めた。求めた変数αj,Tと無次元化曲げ剛性αとの関係を、図8に示す。変数αj,Tは、無次元化曲げ剛性αに高次で依存しており、(56)式で近似した。
【0072】
【数21】
【0073】
(55)式を、図7中に曲線L8で示す。検討範囲において、曲線L8は試算結果をよく近似している。同様に、(56)式を、図8中に曲線L9で示す。検討範囲において、曲線L9は試算結果をよく近似している。
前述のように無次元化剛接モーメントβMj,rigid、係数k、変数αj,Tが無次元化曲げ剛性αにより算出されると、(42)式により無次元化接合部モーメントβMjが算出される。すなわち、算出した無次元化曲げ剛性α、無次元化回転剛性α、及び無次元化剛接モーメントβMj,rigidに基づいて、無次元化接合部モーメントβMjを(42)式の陽関数により算出する。より詳しく説明すると、無次元化接合部モーメントβMjを、(53)式、(55)式、(56)式を用いて(42)式により算出する。または、(53)式の代わりに、(53)式及び(54)式を用いて算出した無次元化剛接モーメントβMj,rigid,Theoを(42)式の無次元化剛接モーメトβMj,rigidに代入して無次元化接合部モーメントβMjを算出してもよい。
【0074】
〔5.近似式を用いた撓みの最大値の計算式〕
次に、導出した撓み関数用いて、合成梁の中央における最大撓み(撓みの最大値)δmaxを、無次元化接合部モーメントβMj及びピン接モーメントMの式に変換する。
まず、合成梁の中央を含む正曲げ領域の撓み関数は、前記(28)式となる。撓みの最大値δmaxは、(28)式におけるx=(L/2)のときの値となる。
ここで、(15)式及び(16)式におけるL及びLは、(60)式及び(61)式のように、無次元化接合部モーメントβMj、ピン接モーメントM、及び半剛接モーメントMの式で表せる。ただし、L及びLは、合成梁の曲げモーメントがゼロとなる点であり、(62)式を満たす。
【0075】
【数22】
【0076】
(28)式を無次元化曲げ剛性α、無次元化回転剛性α、及び無次元化接合部モーメントβMjで表すと、(64)式のようになる。
【0077】
【数23】
【0078】
(60)式を(19)式及び(26)式に代入すると、(66)式及び(67)式のようになる。x=(L/2)を(25)式に代入すると、(68)式のようになる。
【0079】
【数24】
【0080】
(28)式、(66)式から(68)式に基づいて、撓みの最大値δmaxは(70)式で求めることができる。
【0081】
【数25】
【0082】
(70)式は、算出した無次元化曲げ剛性α、無次元化回転剛性α、無次元化接合部モーメントβMj等に基づいて撓みの最大値δmaxを陽関数により算出する。
一方で、前記(12)式に、求めた合成梁の端における曲げモーメントM(半剛接モーメントM)を代入すると、合成梁のモーメント分布の関数が求まる。
合成梁の端に作用する曲げモーメントである端部曲げモーメントは、合成梁のモーメント分布の関数において、x=0,Lを代入した時の値である。具体的には、前記(39)式を変形した(71)式から曲げモーメントMを直接求めることができる。
【0083】
【数26】
【0084】
なお、無次元化接合部モーメントβMj及びピン接モーメントMは、与条件である無次元化回転剛性α、無次元化曲げ剛性α、設計の要求値(与条件)である合成梁の長さL、及び等分布荷重wを用いて、前記(42)式及び(37)式等の陽関数により算出できる。
さらに、(42)式における係数k、変数αj,T、及び無次元化剛接モーメントβMj,rigidは、前記(55)式、(56)式、及び(53)式の陽関数により算出できる。
なお、(53)式によって計算した無次元化剛接モーメントβMj,rigidが0.4以下のときには、(42)式において、無次元化剛接モーメントβMj,rigidに代えて、無次元化剛接モーメントβMj,rigidに基づいて(54)式により算出される無次元化剛接モーメントβMj,rigid,Theoを用いてもよい。
合成梁の中央における最大撓みである撓みの最大値δmaxは、(42)式により算出した無次元化接合部モーメントβMj、及び与条件を(70)式に代入して陽に求めることができる。
【0085】
以上のように、本実施形態の合成梁の評価方法では、端部曲げモーメント及び撓みの最大値δmaxを、無次元化回転剛性α及び無次元化曲げ剛性αに基づいて陽関数により算出する。
【0086】
〔6.近似式の精度検証〕
表1のケース1からケース5について、(42)式による無次元化接合部モーメントβMjの近似解、(53)式、(55)式、(56)式による無次元化接合部モーメントβMjの厳密解を比較して図9に示す。図9において、横軸は無次元化接合部モーメントβMjの厳密解を表し、縦軸は無次元化接合部モーメントβMjの近似解を表す。無次元化接合部モーメントβMjの近似解及び厳密解が互いに一致していれば、試算結果のプロットは、直線L11上に配置される。図9に示された結果から、無次元化接合部モーメントβMjの近似解及び厳密解が、実用上十分な精度で一致していることが分かる。
また、撓みの最大値δmaxについて、無次元化接合部モーメントβMjの近似解を用いた(70)式による近似解と、厳密解とを比較して図10に示す。図10では、ケース6の試算結果も併せて示す。ケース6の試算結果を、白抜きの長方形印で表す。図10に示された結果から、撓みの最大値δmaxの近似解及び厳密解が、実用上十分な精度で一致していることが分かる。
以上説明したように、無次元化回転剛性α及び無次元化曲げ剛性αに基づいて撓みの最大値δmaxを評価することにより、合成梁11の仕様によらずに撓みの最大値δmaxを汎用性高く、かつ精度良く算出できることが分かった。
【0087】
なお、本実施形態の合成梁の評価方法で算出した端部曲げモーメント及び撓みの最大値に基づいて新たな合成梁を設計してもよい。すなわち、本実施形態の合成梁の評価方法を用いて合成梁の設計方法を行ってもよい。
【0088】
以上説明したように、本実施形態の合成梁の評価方法では、発明者らは無次元化回転剛性α及び無次元化曲げ剛性αに基づいて端部曲げモーメント及び撓みの最大値δmaxを評価することにより、合成梁11の仕様によらずに端部曲げモーメント及び撓みの最大値δmaxを陽関数により汎用性高く、かつ精度良く算出できることを見出した。
無次元化回転剛性α及び無次元化曲げ剛性αに基づいて陽関数により合成梁11の端部曲げモーメント及び撓みの最大値δmaxを算出することにより、合成梁11の端部曲げモーメント及び撓みの最大値δmaxを収斂計算を行うことなく算出することができる。
【0089】
また、無次元化曲げ剛性α及び(53)式に基づいて無次元化剛接モーメントβMj,rigidを陽関数により算出し、算出した無次元化剛接モーメントβMj,rigid、無次元化回転剛性α、無次元化曲げ剛性α及び(42)式に基づいて前記無次元化接合部モーメントβMjを陽関数により算出する。さらに、算出した無次元化接合部モーメントβMj及び(70)式等に基づいて端部曲げモーメント及び撓みの最大値δmaxを陽関数により算出する。こうして、合成梁11の端部曲げモーメント及び撓みの最大値δmaxを収斂計算を行うことなく算出することができる。
無次元化接合部モーメントβMjを、(53)式、(55)式、(56)式を用いて(42)式により算出する。このため、これらの式により無次元化接合部モーメントβMjを、収斂計算を行うことなく精度良く算出することができる。
【0090】
無次元化剛接モーメントβMj,rigidが0.4以下のときには、(42)式において、無次元化剛接モーメントβMj,rigidに代えて、無次元化剛接モーメントβMj,rigidに基づいて(54)式により算出される無次元化剛接モーメントβMj,rigid,Theoを用いる。無次元化剛接モーメントβMj,rigidが0.4以下である場合には、無次元化剛接モーメントβMj,rigidが厳密解に対して誤差が大きくなる。この場合であっても、無次元化剛接モーメントβMj,rigidに代えて無次元化剛接モーメントβMj,rigid,Theoを用いることにより、無次元化剛接モーメントをより精度良く算出することができる。
さらに、例えば複数の合成梁を有する構造体の動的解析の収斂計算において、構造体を構成する部材である合成梁の曲げモーメントの算出のための収斂計算が不要となることから、構造体の動的解析に2重の収斂計算を行う必要がなくなり、計算時間を大幅に短縮できる。さらに、例えば合成梁の断面積を目的関数、撓みや曲げモーメント等の設計条件を制約条件とし、目的関数を最小化する最適化計算を行う場合にも、制約条件である撓みや曲げモーメントの算出のための収斂計算が不要となることから、目的関数の最適化に対して2重の収斂計算を行う必要がなくなり、計算時間を大幅に短縮できる。
【0091】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態の合成梁の評価方法では、曲げモーメントM及び撓みの最大値δmaxを、無次元化回転剛性α及び無次元化曲げ剛性αに基づいて陽関数により算出すればよい。
また、その際に、無次元化曲げ剛性αに基づいて無次元化剛接モーメントβMj,rigidを陽関数により算出し、算出した無次元化剛接モーメントβMj,rigid、無次元化回転剛性α、及び無次元化曲げ剛性αに基づいて無次元化接合部モーメントβMjを陽関数により算出し、算出した無次元化接合部モーメントβMjに基づいて曲げモーメントM及び撓みの最大値δmaxを陽関数により算出してもよい。
【符号の説明】
【0092】
11 合成梁
半剛接モーメント
jr 剛接モーメント
ピン接モーメント
α 無次元化回転剛性
α 無次元化曲げ剛性
βMj 無次元化接合部モーメント
βMj,rigid,βMj,rigid,Theo 無次元化剛接モーメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10