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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】薄鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20230913BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20230913BHJP
   B22D 11/20 20060101ALI20230913BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20230913BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
B22D11/16 104Z
B22D11/20 A
B21B1/22 M
B21B3/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019211049
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021079426
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 浩太
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】林 宏太郎
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-178419(JP,A)
【文献】特開2000-107803(JP,A)
【文献】特許第6120482(JP,B2)
【文献】特開2021-079418(JP,A)
【文献】特開平05-277657(JP,A)
【文献】特開2011-080140(JP,A)
【文献】特開2010-126736(JP,A)
【文献】特開2017-087227(JP,A)
【文献】特開2000-219940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00
B21B 1/22
B21B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
双ロール式連続鋳造装置を用いて薄肉鋳片を鋳造し、前記薄肉鋳片を熱間圧延する薄鋼板の製造方法であって、
鋳片のミクロ偏析の傾きをθとし(板垂線との間の角度であって、鋳造方向、圧延方向を正とする。)、
製造する品種について、あらかじめ、θ=0°の鋳片サンプルを圧下率pで熱間圧延して得られた圧延後サンプルのミクロ偏析の傾きωと前記圧下率pとの関係式である下記(2)式から係数aの値を定めておき、
前記係数aを用い、下記(1)式で表すφCの絶対値が、30°≦|φC|≦60°を満足するように、鋳片のミクロ偏析の傾きθと圧下率pとを調整することを特徴とする薄鋼板の製造方法。
ただし、圧下率p(%)は、圧延前の板厚xと圧延後の板厚yとから下記(3)式によって求められる。
φC=θ-a×p (1)
ω=-a×p (2)
p=(x-y)/x×100 (3)
【請求項2】
前記係数aが0.72であることを特徴とする請求項1に記載の薄鋼板の製造方法。
【請求項3】
双ロール式連続鋳造装置における鋳造速度を調整することにより、鋳片のミクロ偏析の傾きθを調整することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用の高張力鋼等の用途において、自動車の衝突安全性と燃費向上の両立のために、より高強度かつ軽量化に向けた鋼板のハイテン化が進展している。そのため、Mn等の合金を多量添加する品種、例えば5%Mn鋼などが用いられている。
【0003】
通常の鋼板の製造においては、連続鋳造法によって厚みが200~300mmの鋳片を鋳造し、鋳片を熱間圧延することにより、所要の厚さを有する鋼板を製造している。このような一般的な方法を用いて上記のような高張力鋼板を製造したとき、鋼板の強度は十分に確保されるものの、鋼板の延性が十分ではない、という問題を有していた。
【0004】
上記のような高張力鋼板は、Mn等の合金を多量添加するため、鋳片のミクロ偏析部に合金成分が濃化して偏析部を形成する。この偏析は圧延後、圧延方向と平行になり、鋼板断面に層状の偏析バンドが形成される。すると、偏析部と非偏析部で異なる組織が形成される。この層状組織を引張試験に供すると二層の境界面に応力集中し、延性が悪化するものと推定される。
【0005】
特許文献1には、機械的強度の高い鋼板を製造するため、結晶粒微細化を狙い、2回熱間圧延を行う発明が開示されている。特許文献2には、10%及び35%圧下での機械的性質が降伏強さ、引張り強さ、破断伸びについて10%以内であるような鋼ストリップを熱間圧延する発明が開示されている。機内圧延による偏析の組織コントロールを利用するものである。
【0006】
省工程・省エネルギーの観点から、最終品に近い薄板を鋳造段階で製造する技術、すなわちニアネットシェイプ連続鋳造の開発が行われている。このうち、薄板系のニアネットシェイプ連続鋳造として有力なものとして、いわゆるストリップ連続鋳造法が知られている。ストリップ連続鋳造法とは、溶湯と鋳型ロール(あるいはベルト)を直接接触させて凝固させ、鋳造厚0.1~10mm程度に連続鋳造するニアネットシェイプ連続鋳造法である(非特許文献1)。以下、ここでは「薄肉鋳片の連続鋳造」と呼ぶ。薄肉鋳片の連続鋳造方法としては、双ロール式連続鋳造方法、単ロール式連続鋳造方法、双ベルト式連続鋳造方法、単ベルト式連続鋳造方法などが知られている。
【0007】
双ロール式連続鋳造装置による薄肉鋳片の連続鋳造においては、図1に示すように、一対の鋳造ロール1を配置し、ロール間の最近接距離(ギャップ最小部20のギャップ)が鋳造する薄肉鋳片5の厚みとなる。鋳造ロール1の両端に固定堰2(サイド堰ともいう。)を押し付けて溶融金属プール部3を形成し、ノズル4から溶融金属プール部3に溶湯を連続的に供給しながら一対の鋳造ロール1を互いに反対方向に回転させる。ロール周面に沿って生成した一対の凝固シェル23をロール間の最近接部位(ギャップ最小部20)で圧着し薄肉鋳片5とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-107803号公報
【文献】特許第6120482号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】第5版鉄鋼便覧 第1巻 製銑・製鋼、第456~457頁
【文献】鉄と鋼、61巻14号(1975)2982~2990頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高強度鋼板を製造するに際し、特許文献1に記載の結晶粒の微細化、あるいは特許文献2に記載の機内圧延による偏析の組織コントロールとは異なる方法で、強度と延性のバランスに優れた薄鋼板を製造することができる、薄鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]双ロール式連続鋳造装置を用いて薄肉鋳片を鋳造し、前記薄肉鋳片を熱間圧延する薄鋼板の製造方法であって、
鋳片のミクロ偏析の傾きをθとし(板垂線との間の角度であって、鋳造方向、圧延方向を正とする。)、
製造する品種について、あらかじめ、θ=0°の鋳片サンプルを圧下率pで熱間圧延して得られた圧延後サンプルのミクロ偏析の傾きωと前記圧下率pとの関係式である下記(2)式から係数aの値を定めておき、
前記係数aを用い、下記(1)式で表すφCの絶対値が、30°≦|φC|≦60°を満足するように、鋳片のミクロ偏析の傾きθと圧下率pとを調整することを特徴とする薄鋼板の製造方法。
ただし、圧下率p(%)は、圧延前の板厚xと圧延後の板厚yとから下記(3)式によって求められる。
φC=θ-a×p (1)
ω=-a×p (2)
p=(x-y)/x×100 (3)
[2]前記係数aが0.72であることを特徴とする上記[1]に記載の薄鋼板の製造方法。
[3]双ロール式連続鋳造装置における鋳造速度を調整することにより、鋳片のミクロ偏析の傾きθを調整することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の薄鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、高強度鋼板を製造するに際し、強度と延性のバランスに優れた薄鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(A)は双ロール式連続鋳造の状況を示す概念図であり、(B)は鋳片断面の拡大図である。
図2】左は圧延前(0%圧延)の鋳片の断面(ミクロ偏析の傾きθ=0°)であり、右は圧下率62%圧延後の鋼板の断面におけるミクロ偏析の傾きωを示す図である。
図3】鋳片(凝固シェル)におけるミクロ偏析の傾きθを示す概念図である。
図4】鋳片(ミクロ偏析の傾きθ=0°)を圧下率pで圧延したときの、圧下率pと圧延後のミクロ偏析の傾きωの関係を示す図である。
図5】ミクロ偏析の傾きφと、鋼板の強度及び延性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
通常の熱延鋼板の製造においては、前述のとおり、連続鋳造法によって厚みが200~300mmの鋳片を鋳造し、鋳片を熱間圧延することにより、所要の厚さを有する鋼板を製造している。Mn等の合金を多量に含有する高張力鋼板では、合金成分を多量に含む偏析部が形成され、鋼板においてミクロ偏析部が鋼板の長手方向に平行に形成される。
【0015】
一方、双ロール式連続鋳造においては、鋳造した鋳片の厚さが10mm以下程度であり、この鋳片を熱間圧延して薄鋼板とするまでの圧下率が、通常の連続鋳造鋳片から熱間圧延した場合と対比して圧倒的に低い圧下率である。その結果として、薄鋼板におけるミクロ偏析の傾きφ(鋼板表面の垂線との角度)が鋼板表面と平行(φ=90°)になるのではなく、φ=0°~60°程度の角度とすることができる。そして、後述するように、薄鋼板におけるミクロ偏析の傾きφを90°よりも小さい角度となるように製造したとき、φが小さくなるほど強度が低下し、併せて延性が向上することが判明し、さらに、φが30~60°において、強度と延性のバランスに優れた品質が実現することが判明した。
【0016】
ここで本発明では、鋼板(鋳片)ミクロ偏析の傾きの角度は、鋼板(鋳片)表面の垂線となす角度が圧延方向(鋳造方向)を正、逆方向を負と定義した(図3参照)。
【0017】
板材のロール圧延において、圧延前の板材にあらかじめ板表面に垂直な垂線を罫書いておき、あるいは鋳片のマクロ偏析が板表面に垂直である鋳片を用い、所定の圧下率で圧下を行うと、圧延の進行とともに順次材料の表面が中心部よりも先に進んだ状態になって、元の垂線は曲がったままロールから出てゆく。その結果、圧延後の板の断面において、表面から表面下1/4厚さまでの領域について見ると、圧延前に設けた罫書き線(偏析線)(板表面に垂直)は、板の垂線との間に傾きωの傾きを有することになる。傾きωは圧下率pによって変化し、圧下率pが大きくなるほど傾きωも大きくなる。一例を図2(板幅方向に垂直な断面のうち、表面から1/4厚み深さまでの領域)に示す。図2の左は「0%圧延」即ち圧延前の鋳片断面を示し、図2の右は62%圧延を行った後の鋳片断面を示す。0%圧延(圧延前)ではθ=0°であったものが、62%圧延後には所定の傾きω(図2の場合は-53°)を有していることがわかる。
【0018】
回転する1対の鋳造ロールを用いる双ロール式連続鋳造装置においては、図1に示すように、1対の鋳造ロール1を回転させ、鋳造ロール1に凝固シェル23を形成しつつ薄肉鋳片5を連続鋳造する。1対の鋳造ロール1は、お互いの表面が上方から下方に向かって距離が近接し、最も接近した部分においてギャップ最小部20を形成する。さらに、鋳造ロール1の両端に接する固定堰2を有し、1対の鋳造ロール1のギャップ最小部20の上部には、鋳造ロールと固定堰2とで囲まれた溶融金属プール部3を形成する。ノズル4を経由して溶融金属プール部3中に金属溶湯を供給すると、鋳造ロールに接する部分で溶湯が凝固し、凝固シェル23が形成される。鋳造ロールを相互に反対方向に回転させることにより、鋳造ロール表面に形成された凝固シェル23は鋳造ロールとともに移動し、ギャップ最小部20で両方の鋳造ロール表面の凝固シェル23が圧着して薄肉鋳片5となり、ギャップ最小部20から下方に薄肉鋳片5が排出される。
【0019】
鋳造ロール1表面の周方向速度が、溶融金属プール部3における凝固シェル23の走行速度となり、同時に薄肉鋳片5の鋳造速度vとなる。溶融金属プール部3の溶鋼にも湯流れが存在し、図3は、凝固シェル23が鋳造方向24に走行する状況を示す概念図である。凝固シェル表面25は鋳造ロール(図示しない)に接している。凝固シェル23と溶鋼プールとの固液界面26において、凝固シェル23の走行速度(鋳造速度v)と溶融金属プール部の溶鋼流速wとの差分が、両者の間の相対速度Vとなる。通常は、凝固シェル23の走行速度(鋳造速度v)が大きくなるほど、相対速度Vも大きくなる。
【0020】
凝固シェル23の固液界面26において、凝固シェル23と溶鋼プールとの間に相対速度Vが存在すると、図3に示すように、形成するデンドライト(ミクロ偏析27)の成長方向に傾きが生じることが知られている。薄肉鋳片(図3の凝固シェル23)において、ミクロ偏析27の方向と、鋼板表面に対する垂線との間の角度を、ミクロ偏析の傾きθとおく。相対速度Vが大きいほど、ミクロ偏析の傾きθも大きくなる。相対速度Vの方向と、ミクロ偏析の傾きの方向とは逆方向であることがわかっている。相対速度Vとミクロ偏析の傾きθとの関係については、岡野らによって明らかにされている。詳細は後述する。
【0021】
従って、双ロール式連続鋳造においては、鋳造速度を変動させることにより、鋳片のミクロ偏析の傾きθを変化させることができる。
【0022】
以上から明らかなように、双ロール式連続鋳造と熱間圧延を用いた薄鋼板の製造においては、圧延前に傾きθ=0°であった鋳片のミクロ偏析を圧延後にミクロ偏析の傾きωになり、熱間圧延の圧延率を調整することにより、傾きωを調整することが可能である。また、双ロール連続鋳造の鋳造速度等の調整により、圧延前のミクロ偏析の傾きθを種々調整することが可能である。
【0023】
そこで本発明では、薄鋼板の製造方法において、双ロール式連続鋳造と熱間圧延を用い、熱間圧延の圧下率を調整するとともに、連続鋳造鋳片のミクロ偏析の傾きθを調整することにより、薄鋼板のミクロ偏析の傾きφを最適範囲に調整し、高Mn鋼などの高張力鋼板の製造に用いたとき、強度と延性のバランスに優れた薄鋼板を製造できるのではないか、と着想した。
【0024】
《熱間圧延によるミクロ偏析傾き制御(θ=0°の鋳片を使用)》
双ロール法の急冷凝固を模擬できる鋳型浸漬実験を行った。鋳片のミクロ偏析の傾きθがほぼ0°の片面凝固サンプルを鋳造し、当該サンプルを熱間圧延し、熱間圧延がミクロ偏析の傾きω(≒φ)に及ぼす影響を調査した。0.3%C-2.0%Si-5%Mn-0.010%P-0.0015%S-0.03%Al成分のハイテン鋼(5%Mn鋼)と高Si鋼を作製した。この鋳片サンプルを900℃で5min加熱した後、熱間圧延を行った。圧延ロール直径は480mm、圧延速度は26m/minである。圧下率を調べるため、あらかじめマイクロメータにて鋳片の板厚xを測定し、熱間圧延後にも板厚yを測定し、下記(3)式によって圧下率pを求めた。また、得られた圧延後サンプルのL断面(鋳造方向と板厚方向に平行、即ち板幅方向に垂直)を切断し、表面から1/4t部のミクロ偏析の傾き20点を測定・平均することでミクロ偏析の傾きωを求めた。結果を表1と図4に示す。両品種とも圧下率pが大きくなるほどミクロ偏析の傾きωは大きくなった。即ち、下記(2)式が成り立ち、高Si鋼の係数aは0.87、5.0%Mn鋼の係数aは0.72とわかった。
ω=-a×p (2)
p=(x-y)/x×100 (3)
【0025】
【表1】
【0026】
《双ロール式連続鋳造と熱間圧延の組み合わせによるミクロ偏析傾き制御》
図1に示すような、鋳造ロール幅600mm、ロール直径600mmの一対の鋳造ロール1を有する双ロール式鋳造装置を用いて、0.3%C-2.0%Si-5%Mn-0.010%P-0.0015%S-0.03%Al成分のハイテン鋼(5%Mn鋼)の鋳造を行った。得られた鋳片について、10~80%の種々の圧下率pで熱間圧延を行い、熱間圧延後の板厚が0.7mmの薄鋼板を製造した。鋳造方向と圧延方向は同一方向としている。
【0027】
連続鋳造後の薄肉鋳片5の厚みは、圧下率pで圧延したときの薄鋼板の板厚が0.7mmとなるよう、圧下率p毎に調整した。薄肉鋳片5の厚みの調整は、鋳造速度v及び鋳造弧角ηの調整によって行った。鋳造速度vが速いほど、また鋳造弧角ηが小さいほど、ギャップ最小部20における凝固シェル厚みが薄くなり、結果として薄肉鋳片5の厚み(凝固シェル厚の2倍)が薄くなる。
【0028】
また、鋳造速度を42~117cm/sの範囲で変化させ、これによって鋳片のミクロ偏析の傾きθを種々変化させた。そのときのミクロ偏析の傾きθをあらかじめ測定した。
【0029】
ミクロ偏析部により溶質を濃化させるため、熱間圧延前の鋳片について2相域焼鈍を行った。675℃で240s保持し、冷却した。その後、900℃で熱間圧延を行った。圧下率を10~80%と変化させた。圧延後の薄鋼鈑中のミクロ組織の傾きφを求めた。
【0030】
ミクロ偏析の傾き(θ、φ)の測定方法を以下に示す。得られたサンプルのL断面(鋳造方向及び厚み方向と平行)を切断し、表面から1/4t部のミクロ偏析の傾き20点を測定・平均することでミクロ偏析の傾き(θ、φ)を求めた。ミクロ偏析の傾きを測る方法として、任意のミクロ偏析の傾きを選び測定した後、隣接するミクロ偏析を測定することを繰り返し、合計20点測定を行った。20点の平均値をミクロ偏析の傾きとした。鋳造方向と圧延方向が同一方向であることから、ミクロ偏析の傾きの正負の方向も、鋳片と鋼板で同一方向である。
【0031】
その後、JIS Z2241に従い、薄鋼板の引張試験を行い、強度、延性を求めた。強度は引張強さ、延性は破断伸びによって評価した。なお、薄鋼板の板厚は前述のとおり0.7mmとした。
製造条件及び製造結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
表2に示す結果に基づき、まず、傾きθ、φと圧下率pとの間の関係を調査した。
【0034】
前記(3)式にa=0.72を代入し、各実施例について(3)式に基づいてωを算出した。次に、θ、ωとφとの相互関係について評価した。その結果、
φ=θ+ω (4)
の関係が成立していることが判明した。この式に(3)式を代入すると、
φ=θ-a×p (5)
が成立する。(5)式が、θ、pとφとの関係を示す実験式である。
【0035】
図5に薄鋼板のミクロ偏析の傾きφと強度・延性の関係を示した。ミクロ偏析の傾きφが小さくなるにつれ、強度は低下し、延性は向上すると確かめられた。また、ミクロ偏析の傾きφが、30°≦φ≦60°のとき、強度延性バランスに優れる鋼板の製造が可能であるとわかった。30°≦φ≦50°であればより好ましい。本発明において強度延性バランスに優れるとは、強度≧900MPa、延性≧14%のときに、合格と判定する。なお、傾きφの正負によらず、φの絶対値が同じであれば同じ効果が得られることから、30°≦|φ|≦60°とすればよい。
【0036】
前記(5)式は実験式であり、(5)式の右辺の値がφに一致するとの実験結果を表している。当該実験結果に基づいて本発明を実施するに際しては、(5)式の右辺の値を示す変数としてφCを導入し、
φC=θ-a×p (1)
なる(1)式を定義する。そして、θとpを調整して、(1)式から算出されるφCについて30°≦|φC|≦60°となるように調整する。
【0037】
即ち、双ロール式連続鋳造を用い、鋳片のミクロ偏析の傾きθを調整するとともに、連続鋳造後の熱間圧延における圧下率pを調整することにより、(1)式に基づいてφCを調整し、強度と延性のバランスに優れた品質を実現することが可能となった。ここにおいて、製造する品種について、あらかじめ()式のaの値を実験により定めておく。
【0038】
《溶鋼流動によるミクロ偏析の傾きθの推定》
通常の連続鋳造鋳片のミクロ偏析の傾きθは、岡野らによって(5)、(6)式に従うことが知られている(非特許文献2参照)。ここで、Vは溶鋼流速(溶鋼と凝固シェルとの間の相対速度)、fは凝固速度である。この式を変形すると(5)’、(6)’式で表せる。また、図3に示すように、凝固シェルと溶鋼との相対速度Vは、鋳造速度vと下降流の溶鋼流速wによって(7)式のように表せる。なお、溶鋼流速(相対速度V)が2~100cm/sの範囲のとき、(5)’、(6)’式は適応できる。また、凝固速度fは鋳造スラブ厚などにも影響されるが、f=0.01~1cm/sである。
このような知見から、薄肉鋳片についても、鋳造条件によっては、本式を用いてミクロ偏析の傾きθを推定することも可能である。
lnV=(θ+9.73・lnf+33.7)/(1.45・lnf+12.5) v<50 (5)
lnV=(θ+4.83・lnf+7.2)/(0.1・lnf+5.4) v≧50 (6)
θ=lnV×(1.45 ・lnf+12.5)-(9.73・lnf+33.7) v<50 (5)’
θ=lnV×(0.1 ・lnf+5.4)-(4.83・lnf+7.2) v≧50 (6)’
V=v-w (7)
【符号の説明】
【0039】
1 鋳造ロール
2 固定堰
3 溶融金属プール部
4 ノズル
5 薄肉鋳片
20 ギャップ最小部
23 凝固シェル
24 鋳造方向
25 凝固シェル表面
26 固液界面
27 ミクロ偏析
v 鋳造速度
w 溶鋼流速
V 相対速度
θ 鋳片のミクロ偏析の傾き
φ 鋼板のミクロ偏析の傾き
ω 鋼板のミクロ偏析の傾き(鋳片のミクロ偏析の傾きが0°のとき)
η 鋳造弧角
図1
図2
図3
図4
図5