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特許7348523スラグ成形体およびスラグ成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】スラグ成形体およびスラグ成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20230913BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20230913BHJP
   A61L 9/014 20060101ALI20230913BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20230913BHJP
   E04B 1/64 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C04B5/00 C
A61L9/01 B
A61L9/014
C01B32/00
E04B1/64 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020002134
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021109801
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】弘中 諭
(72)【発明者】
【氏名】高野 元志
(72)【発明者】
【氏名】東海 貴洋
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-032394(JP,A)
【文献】特開2002-126516(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109467383(CN,A)
【文献】特開2011-050934(JP,A)
【文献】特開2006-306925(JP,A)
【文献】特開平07-265696(JP,A)
【文献】特開2007-075671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02,
C04B40/00-40/06,
C04B103/00-111/94
A61L 9/01,9/014
C01B 32/00
E04B 1/64
F27D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグと、平均粒子径が1mm以下かつBET(Brunnauer-Emmett-Teller)比表面積が30m/g以上の炭素材料と、バインダーと、を含み、
前記炭素材料の含有量は、前記製鋼スラグおよび前記炭素材料の合計質量に対して5質量%以上40質量%以下であり、
前記バインダーは有機バインダーを含んでおり、
前記有機バインダーは、パルプ廃液、糖蜜、澱粉およびデキストリンの少なくともいずれか1種類以上を含み、
前記有機バインダーの含有量は、前記製鋼スラグおよび前記炭素材料の合計質量に対して10質量%以上20質量%以下である、スラグ成形体。
【請求項2】
前記炭素材料は木炭、竹炭およびコークスの少なくともいずれか1種類以上を含む、請求項1に記載のスラグ成形体。
【請求項3】
乾燥時における圧潰強度が0.40kN以上である、請求項1または2に記載のスラグ成形体。
【請求項4】
製鋼スラグと、平均粒子径が1mm以下かつBET(Brunnauer-Emmett-Teller)比表面積が30m/g以上の炭素材料と、バインダーと、を前記炭素材料の含有量が前記製鋼スラグおよび前記炭素材料の合計質量に対して5質量%以上40質量%以下となるように混練することにより混練物を作製する混練工程と、
前記混練物を塊成物に成形する造粒工程と、を含み、
前記バインダーは有機バインダーを含んでおり、
前記有機バインダーは、パルプ廃液、糖蜜、澱粉およびデキストリンの少なくともいずれか1種類以上を含み、
前記有機バインダーの含有量は、前記製鋼スラグおよび前記炭素材料の合計質量に対して10質量%以上20質量%以下である、スラグ成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスラグ成形体およびスラグ成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
竹炭などの炭素材料は、製鋼スラグなどの鉄含有物と組み合わせることにより、植物に養分を供給する施肥剤などに用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、鉄鋼スラグ、クエン酸などの有機物および竹炭などの炭を含有し、水環境で海洋生物へ養分を供給する、養分溶散体について開示されている。また、特許文献2には、鉄と、炭と、焼酎滓またはかんきつ類滓などと、を含有し、水中で鉄キレートを発生する鉄キレート発生材について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-24443号公報
【文献】特開2010-242075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術により形成した、製鋼スラグと炭素材料とを組み合わせた施肥剤などは、水中に設置することを目的としたものである。そのため、製鋼スラグおよび炭素材料を含む成形体の脱臭性および調湿性に関する知見はこれまでない。また、製鋼スラグおよび炭素材料を含む成形体を陸上で扱う場合には、扱いやすさの観点から崩壊しにくい強度を備えていることが求められる。しかし、上述のような従来技術には、製鋼スラグおよび炭素材料を含む成形体の強度について何ら開示されていない。
【0006】
本発明の一態様は、脱臭性および調湿性を備え、さらに植物などの栄養源としても活用できる、崩壊しにくく扱いやすいスラグ成形体を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るスラグ成形体は、製鋼スラグと、平均粒子径が1mm以下かつBET(Brunnauer-Emmett-Teller)比表面積が30m/g以上の炭素材料と、バインダーと、を含み、前記炭素材料の含有量は、前記製鋼スラグおよび前記炭素材料の合計質量に対して40質量%以下である。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るスラグ成形体は、前記炭素材料は、木炭、竹炭およびコークスの少なくともいずれか1種類以上を含んでいる。
【0009】
本発明の一態様に係るスラグ成形体は、前記バインダーは、有機バインダーを含んでいてもよい。
【0010】
本発明の一態様に係るスラグ成形体は、前記炭素材料の含有量は、前記製鋼スラグおよび前記炭素材料の合計質量に対して5質量%以上であってもよい。
【0011】
本発明の一態様に係るスラグ成形体は、施肥剤、調湿剤および脱臭剤としての機能を兼ね備えた混合物であってもよい。
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るスラグ成形体の製造方法は、製鋼スラグと、平均粒子径が1mm以下かつBET(Brunnauer-Emmett-Teller)比表面積が30m/g以上の炭素材料と、バインダーとを、前記炭素材料の含有量が前記製鋼スラグおよび前記炭素材料の合計質量に対して40質量%以下となるように混練することにより混練物を作製する混練工程と、前記混練物を塊成物に成形する造粒工程と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、脱臭性および調湿性を備え、さらに植物などの栄養源としても活用できる、崩壊しにくく扱いやすいスラグ成形体を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るスラグ成形体の脱臭性の評価方法の一例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るスラグ成形体の調湿性の評価方法の一例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係るスラグ成形体の造粒方法の一例を示す図である。
図4】本発明の一実施例に係るスラグ成形体の脱臭性を示す図である。
図5】本発明の一実施例に係るスラグ成形体の調湿性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態〕
以下、本発明の一実施形態に係るスラグ成形体について、図面などを参照して詳細に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をよりよく理解させるものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。
【0016】
<スラグ成形体の概要>
本発明の一実施形態に係るスラグ成形体は、製鋼スラグと、炭素材料と、バインダーと、を含む。上述のスラグ成形体は、脱臭性と、吸湿性および放湿性(以降、「調湿性」と称する)とを有する。
【0017】
(製鋼スラグ)
製鋼スラグは、製鋼工程において発生するスラグであり、例えば、転炉スラグ、予備処理スラグ、二次精錬スラグおよび電気炉スラグなどである。
【0018】
製鋼スラグは、酸化カルシウムおよび二酸化ケイ素を主成分として含み、さらに鉄を10~25質量%程度含む。製鋼スラグはまた、リン、カルシウムおよび鉄など植物の育成にとって必要となる元素も含むため、製鋼スラグを用いたスラグ成形体は、植物の栄養源としても活用できる。したがって、このようなスラグ成形体は、植物への施肥剤としても使用できる。
【0019】
(炭素材料)
炭素材料は、スラグ成形体の脱臭性および調湿性を向上させる成分である。炭素材料は、特に限定されないが、木炭、竹炭およびコークスの少なくともいずれか1種類以上であることが好ましく、竹炭であることがより好ましい。炭素材料として、木炭、竹炭およびコークスの少なくともいずれか1種類以上を用いることにより、炭素材料に形成される細孔の作用によって、上述のスラグ成形体が効果的に脱臭性および調湿性を発揮できる。また、竹炭は、木炭およびコークスと比較して、内部構造が複雑で表面積が非常に大きい。このため、炭素材料として竹炭を用いるスラグ成形体は、一層効果的に脱臭性および調湿性を発揮できる。なお、炭素材料は、単独で用いてもよく、複数の炭素材料を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
炭素材料は、平均粒子径が1mm以下であることが好ましく、平均粒子径が0.5mm以下であることがより好ましい。炭素材料の平均粒子径が1mm以下であることにより、スラグ成形体中に炭素材料が均一に微細分散する。そのため、スラグ成形体の圧潰強度が高くなり、崩壊しにくくハンドリング性のよいスラグ成形体が得られる。
【0021】
また炭素材料は、BET比表面積が30m/g以上であることが好ましく、BET比表面積が45m/g以上であることがより好ましい。炭素材料のBET比表面積が30m/g以上であることにより、脱臭性および調湿性に優れたスラグ成形体が得られる。なお、BET比表面積とはBET(Brunnauer-Emmett-Teller)多点法により求められる粒体および紛体等の比表面積である。炭素材料のBET比表面積は、従来一般的な測定装置により測定されてよい。
【0022】
スラグ成形体中の炭素材料の含有量は、製鋼スラグおよび炭素材料の合計質量に対して40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。炭素材料の含有量が、製鋼スラグおよび炭素材料の合計質量に対して40質量%以下であることにより、スラグ成形体の圧潰強度が高くなり、崩壊しにくくハンドリング性のよいスラグ成形体が得られる。また、炭素材料の含有量が低いほど、スラグ成形体を安価に製造できる。
【0023】
炭素材料の含有量は、製鋼スラグおよび炭素材料の合計質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。炭素材料の含有量が、製鋼スラグおよび炭素材料の合計質量に対して5質量%以上であることにより、十分な脱臭性および調湿性を備えるスラグ形成体が得られる。
【0024】
(バインダー)
バインダーは、製鋼スラグおよび炭素材料を、ペレットまたはブリケットなどの扱いやすいスラグ成形体に成形しやすくする成分である。バインダーは、一般に無機系のバインダー(以降、「無機バインダー」と称する)と、有機系のバインダー(以降、「有機バインダー」と称する)とに大別される。本発明の一実施形態に係るスラグ成形体は、有機バインダーを用いることが好ましい。有機バインダーを用いることにより、無機バインダーを用いる場合に比べバインダーの使用量を低減した場合であっても、十分な強度を有するスラグ成形体が得られる。
【0025】
有機バインダーは、有機物を含むバインダーであり、パルプ廃液、糖蜜、澱粉またはデキストリンなどであってよく、パルプ廃液であることがより好ましい。バインダーとしてパルプ廃液を用いるスラグ成形体は、土壌物性の改良、肥効の促進および土壌微生物の活性化などに優れた効果を発揮するため、土壌の改良材として好ましく用いることができる。
【0026】
バインダーの含有量は特に限定されず、例えば、製鋼スラグおよび炭素材料の合計質量に対して20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよい。バインダーとしてパルプ廃液を用いる場合では、製鋼スラグおよび炭素材料の合計質量に対してパルプ廃液を10質量%含んでいることが好ましい。バインダーの含有量が製鋼スラグおよび炭素材料の合計質量に対して20質量%以下であることにより、十分な強度を有するスラグ成形体が得られる。
【0027】
バインダーは、有機バインダーを単独で用いてよく、複数の有機バインダーを組み合わせて用いてもよい。またバインダーは、有機バインダーと、ベントナイトなどの無機バインダーとを組み合わせて用いてもよい。
【0028】
以上のように、本発明の一実施形態に係るスラグ成形体は、製鋼スラグと、平均粒子径が1mm以下かつBET比表面積が30m/g以上の炭素材料と、バインダーと、を含み、炭素材料の含有量は、製鋼スラグおよび炭素材料の合計質量に対して40質量%以下である。上述のスラグ成形体は、脱臭性と、調湿性とを兼ね備える。また、上述のスラグ成形体は、リン、カルシウムおよび鉄など植物の育成にとって必要となる元素を植物に供給する、施肥剤として用いることができる。さらに、上述のスラグ成形体は、保管時、輸送時およびハンドリング時などに崩壊しにくく、扱いやすい。
【0029】
<スラグ成形体の脱臭性>
本発明の一実施形態に係るスラグ成形体の脱臭性の評価方法について、図1を参照して説明する。
【0030】
図1に示すように、まず、デシケータ1にスラグ成形体2を入れ、減圧する。次に、所望の濃度および種類の悪臭物質ガス3を調整し、デシケータ1に導入する。次に、デシケータ1のガスサンプリング部4からデシケータ1の内部のガスを、経時的に複数回サンプリングする。そして、サンプリングしたガスを分析することによりデシケータ1に含まれる悪臭物質の濃度を測定する。
【0031】
悪臭物質ガス3に含まれる悪臭物質は、特に限定されないが、アンモニア、メチルメルカプタン、硫化水素、硫化メチル、二硫化メチル、トリメチルアミン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ノルマルバレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、イソブタノール、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、トルエン、スチレン、キシレン、プロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸またはイソ吉草酸などの、実際にスラグ成形体により除去を想定する物質であってよく、また複数の悪臭物質を混合した混合物であってよい。
【0032】
サンプリングしたガスに含まれる悪臭物質の濃度の測定方法は、特に限定されず、例えばガスクロマトクラフなどの分析器を用いて測定してよい。
【0033】
<スラグ成形体の調湿性>
本発明の一実施形態に係るスラグ成形体の調湿性は、JIS A1470-1に準じて評価できる。スラグ成形体の調湿性を評価する方法の一例を図2に示す。
【0034】
図2に示すように、まず、恒温恒湿槽を用いて、スラグ成形体を特定の湿度(一例として相対湿度53%)にて恒量となるまで保持する(保持工程)。次に、恒温恒湿槽の湿度を上昇させ(一例として相対湿度75%)、一定期間保持することによりスラグ成形体を吸湿させる(吸湿工程)。次に、吸湿工程にて吸湿したスラグ成形体を保持工程において保持した湿度(一例として相対湿度53%)の環境で一定期間保持することにより、スラグ成形体を放湿させる(放湿工程)。
【0035】
保持工程、吸湿工程および放湿工程では、常時スラグ成形体の質量を測定してもよく、各工程(保持工程、吸湿工程および放湿工程)の終了時点でのスラグ成形体の質量を測定してもよい。保持工程後のスラグ成形体の質量と、吸湿工程後のスラグ成形体の質量と、の差によりスラグ成形体の吸湿量を算出でき、一定質量あたりのスラグ成形体の吸湿性を評価できる。また、吸湿工程後のスラグ成形体の質量と、放湿工程後のスラグ成形体の質量と、の差によりスラグ成形体の放湿量を算出でき、一定質量あたりのスラグ成形体の放湿性を評価できる。
【0036】
<スラグ成形体の圧潰強度>
スラグ成形体の圧潰強度は、特に限定されないが、乾燥時における圧潰強度が0.40kN以上であることが好ましく、0.45kN以上であることがより好ましい。スラグ成形体の乾燥時における圧潰強度が0.40kN以上であることにより、輸送時、貯蔵時または取扱い時にスラグ成形体が崩壊して粉化することを抑制でき、扱いやすいスラグ成形体が得られる。
【0037】
<スラグ成形体の製造方法>
本発明の一実施形態に係るスラグ成形体の製造方法について、図3を参照して説明する。図3の<混練>は、混練機10による混練工程の一例を示す。また、図3の<造粒>は、造粒機20による造粒工程の一例を示す。混練工程および造粒工程については後述する。混練機10は、円筒形の容器11内に製鋼スラグと、炭素材料と、バインダーと、水とを加え、容器11中央の回転軸に接続されたマラー12を回転させることにより、混練物を作製する装置である。造粒機20は、混練物をブリケットなどのスラグ成形体2に成形するブリケットマシンである。
【0038】
スラグ成形体の製造方法は、製鋼スラグと、平均粒子径が1mm以下かつBET比表面積が30m/g以上の炭素材料と、バインダーとを、炭素材料の含有量が製鋼スラグおよび炭素材料の合計質量に対して40質量%以下となるように混練することにより、混練物を作製する(混練工程)。次に、得られた混練物をペレットまたはブリケットなどのスラグ成形体として成形する(造粒工程)。
【0039】
(混練工程)
混練工程では、製鋼スラグと、平均粒子径が1mm以下かつBET比表面積が30m/g以上の炭素材料と、バインダーとを、炭素材料の含有量が、製鋼スラグおよび炭素材料の合計質量に対して40質量%以下となるように混練する。それにより、脱臭性および調湿性を備える脱臭剤および調質剤として用いることができるスラグ成形体が得られる。さらに、このようなスラグ成形体は、リン、カルシウムおよび鉄など植物の育成にとって必要となる元素を植物に供給する、施肥剤としても用いることができる。例えば、スラグ成形体をプランターなどの土中に層状に堆積させることにより、調湿性を有する施肥剤としてスラグ成形体を用いてよい。またスラグ成形体をプランターなどの土の表面に配置することにより、水に植物の育成にとって必要となる元素を溶け出させる、施肥剤としてスラグ成形体を用いてもよい。
【0040】
混練方法は特に限定されず、製鋼スラグと炭素材料とバインダーとを混練できれば特に限定されない。例えば、原料の混合、粉砕および練り合わせを同時に行う混練機10を用いて、製鋼スラグと、炭素材料と、バインダーとを混練してよく、他の混練機を用いて混練してもよい。
【0041】
(造粒工程)
造粒工程は、混練物を塊成物に成形する。混練物を塊成物に成形する方法は、混練物を所望の形状に成形できれば特に限定されず、例えばブリケットマシンまたはパンペレタイザーなどを用いることができる。
【0042】
(その他の工程)
本発明の一実施形態に係るスラグ成形体の製造方法は、さらに、混練工程の前に製鋼スラグを粉砕する工程を含んでよい。製鋼スラグを混練前に粉砕することにより、混練工程に要する時間を短縮できる。また、製鋼スラグを混練前に粉砕することで、製鋼スラグの粒子径を均一にすることが容易となり、これにより混練物の均一性を向上できる。
【0043】
<スラグ成形体の活用方法>
本発明の一実施形態に係るスラグ成形体は、脱臭性および調湿性を兼ね備えた、製鋼スラグと、炭素材料と、バインダーとの混合物である。また、前記スラグ成形体は、植物などの栄養源となるため、施肥剤としても活用できる。さらに、前記スラグ成形体は、保管時、輸送時およびハンドリング時などに崩壊しにくく、扱いやすい。
【0044】
前記スラグ成形体は、上述した活用方法に加えて、住宅の床下材料などの調湿剤および脱臭剤としても用いることができる。また、前記スラグ成形体を、家庭菜園などにおいて、施肥剤、調湿剤兼脱臭剤として用いることもできる。例えば、スラグ成形体を、家庭菜園などにおいて、堆肥などの匂いを抑制する脱臭剤として用いることができる。また、前記スラグ成形体を土の表面に配置することにより、堆肥などの匂いを抑制しつつ、徐々に植物に栄養成分を供給する、施肥剤兼脱臭剤として用いることができる。さらに、前記スラグ成形体を土中に層状に堆積させることにより、調湿剤兼施肥剤として用いることができる。
【0045】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0046】
本発明の一実施例に係るスラグ成形体ついて以下に説明する。実施例1~3および比較例1~5のスラグ成形体などについて、表1を用いて説明する。
【0047】
<実施例1>
(原料)
本発明の実施例1に係るスラグ成形体は、製鋼スラグとして、平均粒子径が1.5mm以下となるように粉砕した製鋼スラグを用い、炭素材料として、平均粒子径が1mm以下の竹炭を用い、バインダーとして、パルプ廃液を用いた。製鋼スラグおよび炭素材料の合計を100質量%とした場合、製鋼スラグは90質量%となるように添加し、炭素材料は10質量%となるように添加した。
【0048】
パルプ廃液の添加量は、製鋼スラグおよび炭素材料の合計質量を100質量%とした場合、パルプ廃液全量として10質量%となるように添加した。なお、パルプ廃液の添加量を固形分換算で示せば、5質量%となる。
【0049】
(スラグ成形体の製造)
スラグ成形体は、製鋼スラグ、炭素材料、バインダーおよび水を加え、混練機(MGS-0L、新東工業株式会社製)を用いて混練することにより混練物を作製した。作製した混練物は、ブリケットマシン(BGS-1V、新東工業株式会社製)を用いてポケットサイズが28×26×6.5mmの大きさの、マセック型のブリケットに成形することによりスラグ成形体を製造した。
【0050】
ブリケットに成形したスラグ成形体は、乾燥させた後、脱臭性、調湿性および圧潰強度を評価した。なお、脱臭性および調湿性の評価に用いたスラグ成形体は、常温、常圧で放置することにより乾燥させたスラグ成形体である。また、圧潰強度の評価に用いたスラグ成形体は、105℃で12時間以上乾燥させたスラグ成形体である。
【0051】
<実施例2および3>
本発明の実施例2に係るスラグ成形体は、製鋼スラグおよび炭素材料の合計を100質量%とした場合、製鋼スラグは80質量%となるように添加し、炭素材料は20質量%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして製造した。本発明の実施例3に係るスラグ成形体は、平均粒子径が0.1mm以下である炭素材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして製造した。
【0052】
<比較例1~5>
比較例1に係るスラグ成形体は、炭素材料を用いないこと以外は、実施例1と同様にして製造した。比較例2では、平均粒子径が20mm程度の製鋼スラグをスラグ成形体の代替として用いた(換言すれば、製鋼スラグを粉砕、混練および造粒せず単独で使用した)。
【0053】
比較例3に係るスラグ成形体は、粒子径が2mm以上5mm以下である炭素材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして製造した。比較例4に係るスラグ成形体は、BET比表面積が15m/g以下である炭素材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして製造した。比較例5に係るスラグ成形体は、製鋼スラグおよび炭素材料の合計を100質量%とした場合、製鋼スラグは55質量%となるように添加し、炭素材料は45質量%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして製造した。
【0054】
表1は、スラグ成形体として製造した実施例1~3および比較例1~5の組成並びに炭素材料の平均粒子径について示す。
【0055】
【表1】
【0056】
<評価方法>
(脱臭性の評価)
まず、デシケータに実施例1~3および比較例1、4に係るスラグ成形体または比較例2に係る製鋼スラグ(以降、「スラグ成形体など」と称する)を入れ、減圧した。悪臭物質としてメチルメルカプタンを用い、空気にメチルメルカプタンを15vol ppm含むメチルメルカプタンガスを作製した。作製したメチルメルカプタンガスを、デシケータ内が略常圧になるまで、デシケータに導入した。メチルメルカプタンガスをデシケータに導入してから1分、10分、20分、30分、60分、90分および120分経過後に、それぞれデシケータ中の気体を採取し、GC/FPDでメチルメルカプタンのガス濃度を分析した。
【0057】
(調湿性の評価)
まず、恒温恒湿槽にスラグ成形体などを入れ、相対湿度53%でスラグ成形体などが恒量となるまで保持した。そして、恒量となったスラグ成形体などの質量を測定した。なお、スラグ成形体などの質量は、電子上皿天秤により測定した。
【0058】
次に、恒温恒湿槽の相対湿度を75%に変更し、スラグ成形体などを24時間保持した。そして、相対湿度が75%の恒温恒湿槽にて24時間保持後のスラグ成形体などの質量を測定した。次に、恒温恒湿槽の相対湿度を53%に変更し、スラグ成形体などを24時間保持した。そして、相対湿度が53%の恒温恒湿槽にて24時間保持後のスラグ成形体などの質量を測定した。
【0059】
スラグ成形体などの吸湿量は、相対湿度を75%にて24時間保持(吸湿工程)後のスラグ成形体などの質量と、相対湿度を53%にて24時間保持(保持工程)後のスラグ成形体などの質量との差を、保持工程後のスラグ成形体などの質量で除すことで評価した。スラグ成形体などの放湿量は、吸湿工程後のスラグ成形体などの質量と、相対湿度を53%にて24時間保持(放湿工程)後のスラグ成形体などの質量との差を、保持工程後のスラグ成形体の質量で除すことで評価した。
【0060】
(圧潰強度の評価)
圧潰強度は、JIS M 8718:2008に準拠して測定した。スラグ成形体の圧潰強度の値は、105℃で12時間以上乾燥させたスラグ成形体を10個測定した平均の値である。
【0061】
(結果)
図4に実施例1~3および比較例1、2、4の脱臭性を評価した結果を示す。図5に実施例1~3および比較例1、2、4の吸湿性を評価した結果を示す。表2に実施例1~3および比較例1、3~5の圧潰強度を測定した結果を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
脱臭性について、図4に示すように、実施例1~3に係るスラグ成形体は、デシケータ内にメチルメルカプタンガスを導入後120分経過することで、メチルメルカプタンの濃度を略半分以下に低減した。したがって、実施例1~3に係るスラグ成形体は、良好な脱臭性を備えることがわかった。なかでも、実施例3に示す、炭素材料の平均粒子径を小さくしたスラグ成形体は、特に良好な脱臭性を示した。これは、スラグ成形体に含まれる炭素材料全体としての表面積が大きくなることにより、メチルメルカプタンのスラグ成形体への吸着量が多くなるためであると考えられる。
【0064】
また、炭素材料を含まない比較例1は、デシケータ内にメチルメルカプタンガスを導入後120分経過した時点で、添加したメチルメルカプタンの1/3程度しか除去できないことがわかった。
【0065】
調湿性については、図5に示すように、実施例1~3に係るスラグ成形体は、吸湿量が5mg/g以上、放湿量が1mg/g以上であり、良好な調湿性を有することがわかった。なかでも、実施例2に示す、炭素材料の添加量を増加させたスラグ成形体は、特に良好な調湿性を有することがわかった。一方、製鋼スラグをそのまま用いた比較例2は、吸湿量および放湿量ともに乏しく、調湿性に乏しいことがわかった。
【0066】
表2に示すように、実施例1~3に係るスラグ成形体は、圧潰強度が0.45kN以上を示し、崩壊しにくくハンドリング性のよいスラグ成形体が得られたことがわかった。
【0067】
また、炭素材料の平均粒子径が1mmよりも大きい比較例3並びに炭素材料の含有量が製鋼スラグおよび前記炭素材料の合計質量に対して40質量%よりも多い比較例5ともに、圧潰強度が低かった。したがってこれらのスラグ成形体は、ハンドリング時に崩壊するなどの虞がある。また、比較例1では、圧潰強度は0.62kNと良好であったが、脱臭性に乏しかった。比較例4では、圧潰強度は0.48kNと良好であったが、脱臭性に乏しかった。
【符号の説明】
【0068】
2 スラグ成形体
図1
図2
図3
図4
図5