(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】コア設計装置、コア設計方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20230913BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20230913BHJP
【FI】
G06F30/10 100
G06F30/20
(21)【出願番号】P 2020006223
(22)【出願日】2020-01-17
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】本間 励
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-179456(JP,A)
【文献】特開2010-067159(JP,A)
【文献】山崎克巳 外4名,IPMモータにおけるキャリア損低減のための形状最適化に関する検討,電子情報通信学会技術研究報告,Vol. 116, No. 212,2016年08月31日,pp. 307-312
【文献】日高勇気 外1名,可変デザイン領域を用いたOn-Off法による回転機のトポロジー最適化,電子情報通信学会技術研究報告,2016年08月31日,Vol. 116, No.212,pp.295 - 300
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
H02K 1/00 - 1/34
G06T 11/00 -11/80
G06T 17/00 -19/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最適化問題のアルゴリズムを用いて、コアの形状の設計に関する計算を行うコア設計装置であって、
前記コアの設計対象領域であるデザイン領域に対し、前記コアの要素のうち、設計対象の要素である設計対象要素として少なくとも1つの設計対象要素の基本形状を設定する設定手段と、
前記設定手段により設定された前記設計対象要素の基本形状を変形および移動させるために前記設計対象要素の基本形状に対して施す写像の最適解を、前記最適化問題のアルゴリズムを用いて計算する最適化計算手段と、を有し、
前記最適化計算手段は、前記写像が施された前記設計対象要素を含む前記コアを有する電気機器を動作させたときの前記電気機器の特性を示す値が、前記最適化問題のアルゴリズムにおいて最大または最小とされるときの前記写像を、前記設計対象要素の基本形状に対して施す写像の最適解として計算することを特徴とするコア設計装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記設計対象要素の内部に、当該設計対象要素以外の前記要素が含まれない形状を、当該設計対象要素の基本形状として設定することを特徴とする請求項1に記載のコア設計装置。
【請求項3】
前記最適化計算手段は、前記設計対象要素の基本形状に対して前記写像を施した結果、前記設計対象要素の一部が、当該設計対象要素と種類が異なる他の所定の要素と重なる場合、当該設計対象要素が当該他の所定の要素と重ならないように、当該写像が施された前記設計対象要素を変更し、当該変更した前記設計対象要素を含む前記コアを有する前記電気機器を動作させたときの前記電気機器の特性を示す値を計算することを特徴とする請求項1または2に記載のコア設計装置。
【請求項4】
前記最適化計算手段は、前記設計対象要素の基本形状に対して前記写像を施した結果、前記設計対象要素の一部が、当該設計対象要素と同一種類の他の前記設計対象要素と重なる場合、当該重なる複数の前記設計対象要素を1つの前記設計対象要素とし、当該1つの前記設計対象要素を含む前記コアを有する前記電気機器を動作させたときの前記電気機器の特性を示す値を計算することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のコア設計装置。
【請求項5】
前記設定手段は、同一の種類の前記設計対象要素の基本形状として、複数の基本形状を設定することを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のコア設計装置。
【請求項6】
前記設定手段は、複数種類の前記設計対象要素の基本形状を設定することを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のコア設計装置。
【請求項7】
前記写像は、線型写像であることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載のコア設計装置。
【請求項8】
前記写像は、位相同型の写像であることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載のコア設計装置。
【請求項9】
前記最適化計算手段は、前記設計対象要素の基本形状に対して施す写像の最適解を、メタヒューリスティクス手法を用いて計算することを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載のコア設計装置。
【請求項10】
前記最適化計算手段は、前記写像が施された前記設計対象要素を含む前記コアを励磁したときに前記コアに生じる磁束密度ベクトルを、数値解析を行うことにより計算し、計算した結果に基づいて、前記電気機器の特性を示す値を計算することを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載のコア設計装置。
【請求項11】
前記最適化計算手段は、前記写像が施された前記設計対象要素を含む前記コアに外力が働くときに前記コアに生じる応力ベクトルを、数値解析を行うことにより計算し、計算した結果に基づいて、前記電気機器の特性を示す値を計算することを特徴とする請求項1~10の何れか1項に記載のコア設計装置。
【請求項12】
前記設計対象要素は、回転電機のロータにおけるフラックスバリアおよび永久磁石の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1~11の何れか1項に記載のコア設計装置。
【請求項13】
最適化問題のアルゴリズムを用いて、コアの形状の設計に関する計算を行うコア設計方法であって、
前記コアの設計対象領域であるデザイン領域に対し、前記コアの要素のうち、設計対象の要素である設計対象要素として少なくとも1つの設計対象要素の基本形状を設定する設定工程と、
前記設定工程により設定された前記設計対象要素の基本形状を変形および移動させるために前記設計対象要素の基本形状に対して施す写像の最適解を、前記最適化問題のアルゴリズムを用いて計算する最適化計算工程と、を有し、
前記最適化計算工程は、前記写像が施された前記設計対象要素を含む前記コアを有する電気機器を動作させたときの前記電気機器の特性を示す値が、前記最適化問題のアルゴリズムにおいて最大または最小とされるときの前記写像を、前記設計対象要素の基本形状に対して施す写像の最適解として計算することを特徴とするコア設計方法。
【請求項14】
請求項1~12の何れか1項に記載のコア設計装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア設計装置、コア設計方法、およびプログラムに関し、特に、コアを設計するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
コアを有する電気機器においては、コアの設計が電気機器の性能に大きな影響を与える。例えば、IPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)のロータの形状は複雑化している。このようなロータにおいては、鉄心に埋め込まれる永久磁石の周辺にフラックスバリアを適切に配置することで磁束を制御することにより、トルク特性の向上、鉄損の低減、応力の緩和を図ることができる。このようなコアの設計は、経験的な指針やパラメータスタディにより行われる場合が多い。
しかしながら、このような手法では、設計者の知見や経験に大きく依存する。そこで、数値解析を用いた最適化技術が開発されている。
【0003】
非特許文献1には、トポロジー最適化により、IPMモータのフラックスバリアを設計することが記載されている。トポロジー最適化は、デザイン領域内で形状を高い自由度で変化させて最適形状を探索する手法の総称である。トポロジー最適化の手法として、On-Off法がある。On-Off法は、デザイン領域内を複数の有限要素に分割し、各有限要素の物性を切り替える手法である。例えば、onとoffの状態をそれぞれ磁性体と空気に対応させる。拘束条件が満足される範囲で目的関数が最小(または最大)になるような、各有限要素のonとoffの状態を、最適化手法により探索する。非特許文献1では、各有限要素に独立にonとoffの状態を与えるのではなく、空間的に滑らかに値が変化する正規化ガウス関数(NGnet(Normalized Gaussian Network))を与え、正規化ガウス関数の出力に応じて、onとoffの状態を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】佐藤 孝洋 他5名、「トポロジー最適化による埋込磁石同期モータの回転子形状最適化」、電気学会論文誌D(産業応用部門誌)、IEEJ Transactions on Industry Applications、Vol.135、No.3、pp.291-298、2015年
【文献】中田高義、高橋則雄著、「電気工学の有限要素法」、第2版、森北出版株式会社、1986年4月
【文献】藤田真史 他9名、「電気学会ベンチマークモータの電磁界解析-IPMモータの特性評価-」、電気学会静止器・回転機合同研究会、SA11-27/RM-11-27、pp.73-78、2011年1月
【文献】社団法人日本塑性加工学会編、「非線形有限要素法 -線形弾性解析から塑性加工解析まで」、株式会社コロナ社、1994年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載の技術では、最適化計算の結果が、正規化ガウス関数を配置するピッチに依存する。正規化ガウス関数を配置するピッチを定めるためには、高度なノウハウが必要である。従って、正規化ガウス関数を配置するピッチを適切に設定することは容易ではない。更に、正規化ガウス関数の数が、決定変数である重み係数の数であるため、形状の分解能を高くすると、解空間が広くなる。従って、非特許文献1に記載の技術には、コアの設計を容易に且つ精度よく行うことができないという課題がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、コアの設計を容易に且つ精度よく行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコア設計装置は、最適化問題のアルゴリズムを用いて、コアの形状の設計に関する計算を行うコア設計装置であって、前記コアの設計対象領域であるデザイン領域に対し、前記コアの要素のうち、設計対象の要素である設計対象要素として少なくとも1つの設計対象要素の基本形状を設定する設定手段と、前記設定手段により設定された前記設計対象要素の基本形状を変形および移動させるために前記設計対象要素の基本形状に対して施す写像の最適解を、前記最適化問題のアルゴリズムを用いて計算する最適化計算手段と、を有し、前記最適化計算手段は、前記写像が施された前記設計対象要素を含む前記コアを有する電気機器を動作させたときの前記電気機器の特性を示す値が、前記最適化問題のアルゴリズムにおいて最大または最小とされるときの前記写像を、前記設計対象要素の基本形状に対して施す写像の最適解として計算することを特徴とする。
【0009】
本発明のコア設計方法は、最適化問題のアルゴリズムを用いて、コアの形状の設計に関する計算を行うコア設計方法であって、前記コアの設計対象領域であるデザイン領域に対し、前記コアの要素のうち、設計対象の要素である設計対象要素として少なくとも1つの設計対象要素の基本形状を設定する設定工程と、前記設定工程により設定された前記設計対象要素の基本形状を変形および移動させるために前記設計対象要素の基本形状に対して施す写像の最適解を、前記最適化問題のアルゴリズムを用いて計算する最適化計算工程と、を有し、前記最適化計算工程は、前記写像が施された前記設計対象要素を含む前記コアを有する電気機器を動作させたときの前記電気機器の特性を示す値が、前記最適化問題のアルゴリズムにおいて最大または最小とされるときの前記写像を、前記設計対象要素の基本形状に対して施す写像の最適解として計算することを特徴とする。
【0010】
本発明のプログラムは、前記コア設計装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コアの設計を容易に且つ精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、コア設計装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、コア設計方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、コアの設計の過程の一例を概念的に示す図である。
【
図5】
図5は、はみ出しの一例を説明する図である。
【
図6】
図6は、設計前のコアと、設計後のコアを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
尚、長さ、位置、大きさ、間隔等、比較対象が同じであることは、厳密に同じである場合の他、発明の主旨を逸脱しない範囲で異なるもの(例えば、設計時に定められる公差の範囲内で異なるもの)も含むものとする。
図1は、コア設計装置100の機能的な構成の一例を示す図である。
図2は、コア設計装置100により行われるコア設計方法の一例を説明するフローチャートである。コア設計装置100のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、および各種のインターフェースを備える情報処理装置、または、専用のハードウェアを用いることにより実現される。
【0014】
コア設計装置100は、最適化問題のアルゴリズムを用いて、コアの形状の設計に関する計算を行う。ここで、コアの要素には、鉄心と、鉄心の内部に配置される有体物(部品や材料)と、鉄心の内部に形成される空間と、鉄心の外周・内周における凹部の空間とが含まれる。鉄心の内部に配置される有体物(部品や材料)は、一部が露出していてもよい。鉄心の内部に配置される有体物(部品や材料)と、鉄心の内部に形成される空間と、鉄心の外周・内周における凹部の空間のうち、少なくとも1つがコアの要素であれば、これらの全てがコアの要素である必要はない。
【0015】
図1において、コア設計装置100は、設定部110と、最適化計算部120と、出力部130と、を有する。
図2のステップS201において、設定部110は、コアの設計対象領域であるデザイン領域の情報と、少なくとも1つの設計対象要素の情報と、設計対象要素以外のコアの要素の情報とを設定する。設計対象要素とは、コアの要素のうち、設計対象となる要素である。
【0016】
図3は、コアの設計の過程の一例を概念的に示す図である。
図3に示す領域は、IPMSMのロータの、IPMSMの中心線に垂直に切った断面を4等分した4つの領域の1つである。これら4つの領域は4回対称の関係を有するものとする。従って、これら4つの領域のうちの1つの領域の設計をすれば、IPMSMのロータの、IPMSMの中心線に垂直に切った断面の全体を設計することができる。
【0017】
ここでは、IPMSMのロータは、鉄心と、鉄心内に配置される永久磁石と、鉄心内に形成されるフラックスバリアとを有するものとする。従って、これら4つの領域のうちの1つの領域において設計した、鉄心、永久磁石、およびフラックスバリアを、IPMSMの中心線を回転軸として、90°、180°、270°回転させることにより、IPMSMのロータの、IPMSMの中心線に垂直に切った断面の全体を設計することができる。尚、フラックスバリアは、空間(空気)であるものとする。ただし、空間ではなく例えば非磁性体でフラックスバリアを構成してもよい。
【0018】
本実施形態では、IPMSMのロータの鉄心内に形成されるフラックスバリアが設計対象要素である場合を例に挙げて説明する。ただし、フラックスバリアに加えて永久磁石が設計対象要素となることを考慮した説明も付記する。このように、IPMSMのロータを設計する場合、例えば、フラックスバリアと永久磁石との少なくとも一方を、設計対象要素とすることができる。
また、本実施形態では、IPMSMの中心線に垂直に切った断面の2次元形状を設計する場合を例に挙げて説明する。
図3において、IPMSMの中心線に垂直に切った断面は、x-y平面になる。
【0019】
図3(a)は、設計対象要素の基本形状が設定される前のコアの要素の一例を示す図である。
図3(a)に示す例では、デザイン領域は、鉄心の領域310の外縁で囲まれる領域であるものとする。
図3(a)に示すように、鉄心の領域310の外縁の形状は、中心角が90°の環状扇形である。設定部110は、鉄心の領域310の外縁で囲まれる領域の座標を、デザイン領域の位置を示す情報として設定する。また、設定部110は、デザイン領域を識別する情報として、デザイン領域の各座標に対して識別情報ID1を設定する。
【0020】
図3(a)に示す例では、設計対象要素以外のコアの要素は、永久磁石であるものとする。従って、設計対象要素以外のコアの要素の領域は、永久磁石の領域320の外縁で囲まれる領域である。
図3に示すように、永久磁石の領域320の外縁の形状は、長方形である。設定部110は、永久磁石の領域320の外縁で囲まれる領域の座標を、設計対象要素以外のコアの要素の位置を示す情報として設定する。また、設定部110は、設計対象要素以外のコアの要素を識別する情報として、設計対象要素以外のコアの要素の領域の各座標に対して識別情報ID2を設定する。尚、設計対象要素以外のコアの要素が複数種類ある場合、設定部110は、設計対象要素の種類ごとに異なる識別情報ID2を設定する。
【0021】
また、設定部110は、設計対象要素を識別する情報として識別情報ID3を設定する。尚、設計対象要素が複数種類ある場合、設定部110は、設計対象要素の種類ごとに異なる識別情報ID3を設定する。
【0022】
以上のような、デザイン領域の位置を示す情報と、設計対象要素以外のコアの要素の位置を示す情報は、例えば、コア設計装置100のインターフェースを介してコア設計装置100に入力される。設計者は、コア設計装置100のユーザインターフェースを操作することにより、デザイン領域の位置を示す情報と、設計対象要素以外のコアの要素の位置を示す情報を示す情報を、コア設計装置100に入力させることができる。また、外部装置が、デザイン領域の位置を示す情報と、設計対象要素以外のコアの要素の位置を示す情報をコア設計装置100に送信し、外部装置がこれらの情報を通信インターフェースで受信することにより、デザイン領域の位置を示す情報と、設計対象要素以外のコアの要素の位置を示す情報をコア設計装置100に入力することができる。
【0023】
また、デザイン領域を識別する識別情報ID1、設計対象要素以外のコアの要素を識別する識別情報ID2、および設計対象要素を識別する識別情報ID3は、例えば、コア設計装置100のインターフェースを介してコア設計装置100に入力される。設計者は、コア設計装置100のユーザインターフェースを操作することにより、これらの識別情報ID1~ID3を、コア設計装置100に入力させることができる。また、外部装置が、これらの識別情報ID1~ID3をコア設計装置100に送信し、外部装置がこれらの識別情報ID1~ID3を通信インターフェースで受信することにより、これらの識別情報ID1~ID3をコア設計装置100に入力することができる。
【0024】
また、デザイン領域を識別する識別情報ID1および設計対象要素以外のコアの要素を識別する識別情報ID2については、デザイン領域の位置を示す情報および設計対象要素以外のコアの要素の位置を示す情報に基づいて、設定部110が自動的に設定してもよい。
【0025】
次に、ステップS202において、設定部110は、ステップS201で設定された設計対象要素の基本形状の情報を設定する。基本形状は、例えば、設計対象要素の形状として想定される形状とすることができる。基本形状は、最終的に計算される形状が過剰に複雑になることを抑制するために、円や長方形のような単純形状とするのが好ましい。基本形状の数は任意であり、1つであっても、2つであっても、3つ以上であってもよい。複数の基本形状が設定される場合、各基本形状は同じ形状であっても異なる形状であってもよい。基本形状の位置・大きさは、基本形状がデザイン領域内に位置していれば、特に限定されない。
【0026】
本実施形態では、設計対象要素がフラックスバリアである場合を例に挙げて説明する。IPMSMのロータにおいて、鉄心の領域がフラックスバリアに囲まれること(鉄心がフラックスバリアの中で浮くようなこと)は起こらない。従って、設計対象要素の基本形状は、当該設計対象要素の内部に、当該設計対象要素と異なる種類の要素が含まれないように設定されるようにするのが好ましい。
【0027】
図3(b)は、設計対象要素の基本形状が設定されたコアの要素の一例を示す図である。
図3(b)に示す例では、設計対象要素の基本形状として2つの基本形状が設定される。設定部110は、設計対象要素の基本形状の領域330a、330bの座標を、設計対象要素の初期位置を示す情報として設定する。設計対象要素の初期位置を示す情報は、2つの基本形状毎に個別に設定される。設定部110は、設計対象要素の基本形状の領域330a、330bの各座標に対して設定されている識別情報ID1を、設計対象要素の領域を識別する識別情報ID3に変更する。
【0028】
以上のような、設計対象要素の基本形状の初期位置を示す情報は、例えば、コア設計装置100のインターフェースを介してコア設計装置100に入力される。例えば、設計部110は、
図3(a)に示すコアの要素の画像を含むGUI(Graphical User Interface)をコンピュータディスプレイに表示する。このGUIでは、コアの要素の画像において、鉄心の領域310のうち、永久磁石の領域320以外の領域を、コア設計装置100のユーザインターフェースの操作により指定することができるものとする。設計者は、このような指定を行うことにより、設計対象要素の基本形状の初期位置を示す情報を、コア設計装置100に入力させることができる。
【0029】
また、外部装置が、設計対象要素の位置を示す情報をコア設計装置100に送信し、外部装置が設計対象要素の位置を示す情報を通信インターフェースで受信することにより、設計対象要素の位置を示す情報をコア設計装置100に入力することができる。
【0030】
次に、ステップS203~S213において、最適化計算部120は、設計対象要素の基本形状を変形および移動させるために設計対象要素の基本形状に対して施す写像の最適解を、最適化問題のアルゴリズムを用いて計算する。本実施形態では、最適化問題のアルゴリズムとして、メタヒューリスティクス手法の一つである遺伝的アルゴリズムを用いる場合を例に挙げて説明する。
【0031】
まず、ステップS203において、最適化計算部120は、設計対象要素の基本形状の領域330a、330bの外縁の各座標に対して施す写像の候補として複数の候補を導出する。以下の説明では、設計対象要素の基本形状の領域330a、330bの外縁の各座標に対して施す写像を、必要に応じて写像と略称する。写像が施される前の設計対象要素の基本形状の領域330a、330bの外縁のxy座標を(x,y)とすると、写像が施された後の設計対象要素の領域の外縁のxy座標を(x',y')は、以下の(1)式で表される。
【0032】
【0033】
本実施形態では、写像が線型写像である場合を例に挙げて説明する。従って、(1)式の行列の成分a、b、c、d、e、fは、実数(数値)になる。線型写像である場合、これらの成分a~fを求めることで、写像が求められる。従って、複数の写像の候補には、それぞれ、成分a~fの値が含まれる。即ち、成分a~fの値の組み合わせの1つが、写像の候補の1つである。(1)式の行列の成分a、b、c、dは、写像を決定づける係数の一例である。(1)式の行列の成分e、fは、写像を決定づける定数の一例である。
最初のステップS203においては、最適化計算部120は、乱数により、複数の写像の候補を導出する。2回目以降のステップS203においては、最適化計算部120は、遺伝的アルゴリズムに従って、既に導出されている写像の候補を更新する。
【0034】
次に、ステップS204において、最適化計算部120は、ステップS203で導出された複数の写像のうち、ステップS204で未選択の写像の候補を選択する。設計対象要素の数が1つである場合には、ステップS204において、ステップS203で導出された複数の写像の候補の中から1つの写像の候補が選択される。設計対象要素の数が複数である場合には、ステップS204において、ステップS203で導出された複数の写像の候補の中から、設計対象要素の数の写像の候補の組み合わせが1つ選択される。
【0035】
次に、ステップS205において、最適化計算部120は、ステップS204で選択した写像の候補に含まれる成分a~fの値を(1)式に与える。
設計対象要素の数が1つである場合には、ステップS204において、1つの写像の候補が選択される。従って、ステップS205において、最適化計算部120は、当該1つの写像に含まれる成分a~fの値を(1)式に与える。よって、(1)式は、1つだけ設定される。
【0036】
そして、最適化計算部120は、設計対象要素の基本形状の領域の外縁の座標(x,y)を(1)式に与えて、写像が施された後の設計対象要素の領域の外縁の座標(x',y')を導出することを、設計対象要素の基本形状の領域の外縁の全ての座標(x,y)について行う。
【0037】
一方、設計対象要素の数が複数である場合には、ステップS204において、設計対象要素の数の写像の候補の組み合わせが選択される。ステップS205において、最適化計算部120は、設計対象要素の数の写像の候補を1つずつ複数の設計対象領域に割り当てる。そして、最適化計算部120は、設計対象要素の数の写像の候補のそれぞれについて、写像の候補に含まれる成分a~fの値を(1)式に与える。よって、(1)式は、設計対象要素の数だけ設定される。
【0038】
そして、最適化計算部120は、設計対象要素の基本形状の領域の外縁の座標(x,y)を、当該設計対象要素に対して割り当てられた写像の候補に含まれる成分a~fが与えられた(1)式に与えて、写像が施された後の当該設計対象要素の領域の外縁の座標(x',y')を導出することを、当該設計対象要素の基本形状の領域の外縁の全ての座標(x,y)について行う。最適化計算部120は、このような導出を、設計対象要素のそれぞれについて行う。
【0039】
図3(b)に示す例では、最適化計算部120は、設計対象要素の基本形状の領域330aの外縁の座標(x,y)を、当該設計対象要素に対して割り当てられた成分a~fが与えられた(1)式に与えて、写像が施された後の設計対象要素の領域の外縁の座標(x',y')を導出することを、設計対象要素の基本形状の領域330aの外縁の全ての座標(x,y)について行う。
【0040】
同様に、最適化計算部120は、設計対象要素の基本形状の領域330bの外縁の座標(x,y)を、当該設計対象要素に対して割り当てられた成分a~fが与えられた(1)式に与えて、写像が施された後の設計対象要素の領域の外縁の座標(x',y')を導出することを、設計対象要素の基本形状の領域330bの外縁の全ての座標(x,y)について行う。
【0041】
図3(c)は、設計対象要素の基本形状に対して写像が施された後のコアの要素の一例を示す図である。
図3(c)に示す例では、設計対象要素の領域は、
図3(b)に示す設計対象要素の基本形状の領域330a、330bに対して線形写像が施された結果、設計対象要素の基本形状の領域330a、330bが、写像後の設計対象要素の領域340a、340bにそれぞれ変更される。
【0042】
そして、最適化計算部120は、写像後の設計対象要素の領域340a、340bの各座標に対して設定されている識別情報がID1である場合、当該識別情報ID1を、設計対象要素の領域を識別する識別情報ID3に変更する。
図3(c)に示す写像後の設計対象要素の領域340a、340bは、写像が施される前は、
図3(b)に示すように、鉄心の領域310である。従って、写像が施される前に領域340a、340bに設定されている識別情報はID1である。従って、写像後の設計対象要素の領域340a、340bの各座標に対して設定されている識別情報がID1からID3に変更される。
【0043】
また、最適化計算部120は、設計対象要素の基本形状の領域330a、330bのうち、写像後の設計対象要素の領域340a、340bと重ならない領域の座標に対して設定されている識別情報をID3からID1に変更する。
図3(b)および
図3(c)に示す例では、設計対象要素の基本形状の領域330a、330bと、写像後の設計対象要素の領域340a、340bとは重ならない。従って、設計対象要素の基本形状の領域330a、330bの各座標に対して設定されている識別情報がID3からID1に変更される。これにより、設計対象要素の基本形状の領域330a、330bは、鉄心310の領域となる。
【0044】
次に、ステップS206において、最適化計算部120は、重なり・はみ出しが生じている設計対象要素があるか否かを判定する。この判定の結果、重なり・はみ出しが生じている設計対象要素が1つもない場合、ステップS207の処理が省略され、後述するステップS208の処理が実行される。一方、重なり・はみ出しが生じている設計対象要素が1つでもある場合、ステップS207の処理が実行される。尚、重なり・はみ出しとは、重なりと、はみ出しとのうち少なくとも何れか一方を指す。
【0045】
ステップS207において、最適化計算部120は、重なり・はみ出しが生じている設計対象要素における重なり・はみ出しが解消されるように、設計対象要素を再変更する。
図4は、重なりの一例を説明する図である。
図4(a)は、同一種類の設計対象要素同士の重なりの一例を概念的に示す図である。
図4(a)の左図に示すように、写像後の複数の同一種類の設計対象要素の領域410a、410bの一部の領域が相互に重なる場合、ステップS207において、最適化計算部120は、
図4(a)の右図に示すように、写像後の複数の設計対象要素の領域410a、410bの外縁で囲まれる1つの領域410cに、写像後の複数の設計対象要素の領域410a、410bを変更する。
【0046】
図4(b)は、異なる種類の設計対象要素同士の重なりの一例を概念的に示す図である。
図4(b)の左図に示すように、写像後の異なる種類の複数の設計対象要素の領域420a、420bの領域が相互に重なる場合、ステップS207において、最適化計算部120は、
図4(b)の右図に示すように、相互に重なる領域を、優先順位が最も高い設計対象要素の領域420aとし、優先順位が低い設計対象要素の領域420bから当該相互に重なる領域を除いた領域420cを、優先順位が低い設計対象要素の領域420bの領域とする。最適化計算部120は、当該相互に重なる領域の各座標に対して、優先順位が最も高い設計対象要素を識別する識別情報ID3のみを設定し、その他の識別情報ID3を消去する。例えば、フラックスバリアに加えて永久磁石も設計対象要素とする場合には、永久磁石の優先順位をフラックスバリアの優先順位よりも高くすることができる。この場合、
図4(b)に示す例では、フラックスバリアの領域が領域420cとなり、永久磁石の領域が420aになる。優先順位は、コアの設計指針や、設計対象要素の属性等により予め設定される。
【0047】
図4(c)は、写像後の設計対象要素と、設計対象要素以外の所定のコアの要素との重なりの第1の例を概念的に示す図である。設計対象要素以外の所定のコアの要素は、形状を変更しない要素であり、予め設定される。ここでは、鉄心の形状は変更可能であるが、永久磁石の形状は変更しないものとする。
図4(c)に示すように、写像後の設計対象要素430aの一部の領域が、設計対象要素以外の所定のコアの要素(永久磁石の領域320)の一部の領域と、設計対象要素以外の所定のコアの要素を跨がずに重なる場合、ステップS207において、最適化計算部120は、
図4(c)の右図に示すように、写像後の設計対象要素の領域430aの領域から、設計対象要素以外の所定のコアの要素と重なる領域を除いた領域430bを、当該設計対象要素の領域とする。また、最適化計算部120は、当該相互に重なる部分の各座標に対して設定された設計対象要素を識別する識別情報ID3を消去する。
【0048】
図4(d)は、写像後の設計対象要素と、設計対象要素以外の所定のコアの要素との重なりの第2の例を概念的に示す図である。
図4(d)に示すように、写像後の設計対象要素440aの一部の領域が、設計対象要素以外の所定のコアの要素(永久磁石の領域320)の一部の領域と、設計対象要素以外の所定のコアの要素を跨がって重なる場合、ステップS207において、最適化計算部120は、
図4(d)の右図に示すように、写像後の設計対象要素の領域440aの領域から、設計対象要素以外の所定のコアの要素と重なる領域を除いた複数の領域440b、440cを、当該設計対象要素の領域とする。また、最適化計算部120は、当該相互に重なる部分の各座標に対して設定された設計対象要素を識別する識別情報ID3を消去する。
設計対象要素の数が増えることを抑制するため、ステップS207において、最適化計算部120は、複数の領域440b、440cのうちの1つのみを選択してもよい。例えば、最適化計算部120は、複数の領域440b、440cのうち最も大きい領域を選択し、その他の領域を消去してもよい。
【0049】
図5は、はみ出しの一例を説明する図である。
図5の左図に示すように、写像後の設計対象要素の領域510aの一部の領域が、デザイン領域(鉄心の領域310)からはみ出す場合、ステップS207において、最適化計算部120は、写像後の設計対象要素の領域510aの領域から、デザイン領域からはみ出している領域を除いた領域510bを、当該設計対象要素の領域とする。
【0050】
写像後の1つの設計対象要素について、
図4に示すような重なりと、
図5に示すようなはみ出しとが同時に生じる場合、最適化計算部120は、
図4を参照しながら説明したようにして当該設計対象要素を変更し、変更後の設計態様要素の領域のうち、デザイン領域からはみ出している領域を、
図5を参照しながら説明したようにして除く。
【0051】
次に、ステップS207において、最適化計算部120は、ステップS205、S207で設計対象領域が変更されたコアを有する電気機器を動作させたときの電気機器の特性を示す値を、数値解析を行うことにより導出する。以下の説明では、電気機器を動作させたときの電気機器の特性を、必要に応じて、電気機器の特性と称する。
電気機器の特性としては、例えば、ロータの平均トルク、コアの鉄損、IPMSMの効率等が挙げられる。このように電気機器の特性は、電気機器を構成する部品の特性を含む概念である。本実施形態では、最適化計算部120は、設計対象領域が変更されたコアを励磁したときにコアに生じる磁束密度ベクトルBを、有限要素法による数値解析を行うことにより計算し、計算した結果に基づいて、ロータの平均トルクを電気機器の特性として導出する。
【0052】
最適化計算部120は、励磁条件を含む電磁場解析条件に従って、マックスウェルの方程式に基づき、有限要素法を用いて、各微小領域(メッシュ)における磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJeを計算する。尚、各微小領域における磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJeを計算することができれば、有限要素法以外の方法(差分法等)を用いて電磁場解析を行ってもよい。
【0053】
磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJeを計算するための基礎方程式は、一般に、以下の(2)式~(5)式で与えられる。
【0054】
【0055】
(2)式~(5)式において、μは、透磁率[H/m]であり、Aは、ベクトルポテンシャル[T・m]であり、σは、導電率[S/m]であり、J0は、励磁電流密度[A/m2]であり、φは、スカラーポテンシャル[V]である。
(2)式および(3)式を連立して解いて、ベクトルポテンシャルAとスカラーポテンシャルφを求めた後、(4)式、(5)式から、磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJeが計算される。
【0056】
有限要素法により電磁場の解析を行う手法は、非特許文献2等に詳細に記載されているように、一般的な手法であるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
最適化計算部120は、各微小領域における磁束密度ベクトルBに基づいて、各微小領域におけるトルクを計算し、計算したトルクに基づいて、平均トルクを導出する。ここでは、トルクFは、例えば、以下の(6)式によりマックスウェル応力であるものとして計算することができる。
【0057】
【0058】
(6)式において、nx、nyは、それぞれ、x軸、y軸方向の単位ベクトルであり、μ0は、真空の透磁率である。∫dΓは、電磁力を求める物体を囲む閉曲線に沿った線積分であることを示す。また、Bは、磁束密度ベクトルの大きさであり、Bx、Byは、それぞれ、磁束密度ベクトルのx軸成分、y軸成分である。
【0059】
次に、ステップS209において、最適化計算部120は、ステップS203で導出された複数の写像の候補を全て選択したか否かを判定する。設計対象要素の数が1つである場合には、ステップS209において、最適化計算部120は、ステップS203で導出された複数の写像の候補を全て選択したか否かを判定する。設計対象要素の数が複数である場合には、ステップS209において、最適化計算部120は、ステップS203で導出された複数の写像の候補の中から選択される、設計対象要素の数の写像の候補の組み合わせとしてとり得る組み合わせの全てが選択されたか否かを判定する。
【0060】
この判定の結果、ステップS203で導出された複数の写像の候補を全て選択していない場合、ステップS204の処理が再び実行される。そして、ステップS204において、未選択の写像の候補が選択される。そして、ステップS205~S207において、未選択の写像の候補により設計対象領域が変更され、ステップS208において、設計対象領域が変更されたコアを有する電気機器の特性を示す値が計算される。
【0061】
以上のようにしてステップS209において、ステップS203で導出された複数の写像の候補が全て選択されたと判定されると、ステップS210の処理が実行される。ステップS210において、最適化計算部120は、ステップS208で計算した電気機器の特性を示す値の中に所定の条件を満たす値があるか否かを判定する。電気機器の特性が、ロータの平均トルクである場合、所定の条件は、ロータの平均トルクの値が、所定値以上であるという条件である。所定値は、例えば、設計対象のIPMSMで要求される値に基づいて定められる。
【0062】
この判定の結果、ステップS208で計算した電気機器の特性を示す値の中に所定の条件を満たす値がある場合、ステップS211の処理が実行される。ステップS211において、最適化計算部120は、所定の条件を満たす電気機器の特性を示す値のうち、当該特性が最もよいことを示す値が得られる写像を、設計対象要素の基本形状に対して施す写像として決定する。電気機器の特性がロータの平均トルクである場合、最適化計算部120は、ロータの平均トルクの値が最も大きくなる写像を、設計対象要素の基本形状に対して施す写像として決定する。そして、後述するステップS214の処理が実行される。
【0063】
ステップS210の判定の結果、ステップS208で計算した電気機器の特性を示す値の中に所定の条件を満たす値がない場合、ステップS212の処理が実行される。ステップS212において、最適化計算部120は、ステップS203~S210の処理の繰り返し回数が所定値を上回ったか否かを判定する。所定値には、遺伝的アルゴリズムにおいて一般的に用いられる値が用いられる。この判定の結果、繰り返し回数が所定値を上回っていない場合には、ステップS203の処理が再び実行される。このようにして行われるステップS203の処理は、2回目以降のステップS203の処理となる。前述したように、2回目以降のステップS203においては、最適化計算部120は、遺伝的アルゴリズムに従って、既に導出している写像の候補を更新する。このようにして更新された写像の候補を用いて前述したステップS204~S210の処理が実行される。
【0064】
ステップS212の判定の結果、ステップS203~S210の処理の繰り返し回数が所定値を上回った場合、ステップS213の処理が実行される。ステップS213において、最適化計算部120は、直前のステップS203で導出された写像の候補を用いてステップS204~S209の繰り返し計算で導出された電気機器の特性の値のうち、該特性が最もよいことを示す値が得られる写像を、設計対象要素の基本形状に対して施す写像として決定する。そして、ステップS214の処理が実行される。
【0065】
ステップS214において、出力部130は、ステップS211またはS213で決定された写像に関する情報を出力する。出力部130は、例えば、ステップS211またはS213で決定された写像が施された設計対象要素の領域の位置、形状、および大きさを特定する情報を出力する。出力の形態は、コンピュータディスプレイへの表示、コア設計装置100の内部または外部の記憶媒体への記憶、および外部装置への送信のうちの少なくとも1つを採用することができる。
【0066】
例えば、
図3(c)に示す写像後の設計対象要素の領域340a、340bが、ステップS211またはS213で決定された写像が設計対象要素の基本形状に対して施されることにより得られるものであるとする。この場合、出力部130は、
図3(c)に示す、鉄心の領域310、永久磁石320の領域、および写像後の設計対象要素の領域340a、340bを表す画像を表示してもよい。
以上が
図2のフローチャートによる処理である。
【0067】
次に、計算例を説明する。
図6は、設計前のコアと、設計後のコアを示す図である。
本計算例では、
図6(a)に示すコアに対してフラックスバリアを追加することを、本実施形態で説明した手法により行った。
図6(a)は、電気学会のベンチマークモデルであるD1モータであり、非特許文献3に記載されているものである。
【0068】
このように本計算例における計算対象要素は、フラックスバリアである。
図6において、フラックスバリアの領域は、白の領域である。鉄心の領域を、濃いグレーの領域である。永久磁石は、薄いグレーの領域である。
デザイン領域は、鉄心の領域の外縁で囲まれている領域とした。
図6(a)において、コアのデザイン領域内の領域であって、永久磁石よりも外周側の領域に、設計対象要素であるフラックスバリアの基本形状として8個の円形状の領域を設定した。
【0069】
また、本計算例では、電気機器の特性として、ピーク値が5.5A、進角が20°の励磁電流でコアを励磁したときの平均トルクを用いた。平均トルクが最大となる線型写像を遺伝的アルゴリズムにより探索した。
図6は、このようにして探索された線型写像を、基本形状のフラックスバリアに対して施した結果を示す。
図6(a)に示すコアでは、ピーク値が5.5A、進角が20°の励磁電流で励磁したときの平均トルクは0.79Nmであった。これに対し、
図6(b)に示すコアでは、当該励磁電流で励磁したときの平均トルクは1.22Nmであった。このように、
図6(b)に示すコアの平均トルクは、
図6(a)に示すコアの平均トルクよりも、約54%向上した。また、
図6(b)に示すように、フラックスバリアは、ある程度固まって分布しており、フラックスバリアが極端に複雑な形状になることを回避できた。
【0070】
以上のように本実施形態では、コア設計装置100は、設計対象要素の基本形状の領域330a、330bを設定し、設計対象要素の基本形状の領域330a、330bに対して施す写像の最適解として、コアを有する電気機器を動作させたときの電気機器の特性を示す値が、最適化問題のアルゴリズムにおいて最大または最小とされるときの写像を計算する。基本形状の数や形状は、高度なノウハウがなくても設定することができる。また、写像が変数であるので解空間が広くなることを抑制することができる。従って、コアの設計を容易に且つ精度よく行うことができる。
【0071】
また、本実施形態では、コア設計装置100は、設計対象要素の基本形状の領域330a、330bの内部に、当該設計対象要素以外の要素が含まれない形状を、当該設計対象要素の基本形状として設定する。従って、設計対象要素の形状が、想定しない形状になることを抑制することができる。また、設計対象要素の形状が複雑になることを抑制することができる。
【0072】
また、本実施形態では、コア設計装置100は、設計対象要素の基本形状の領域に対して写像を施した結果、設計対象要素の領域420a、430a、440aの一部が、当該設計対象要素と種類が異なる他の所定の要素の領域420b、430b、440bと重なる場合、当該設計対象要素が当該他の所定の要素と重ならないように、当該写像が施された設計対象要素の領域420a、430a、440aを領域420c、430b、440b~440c変更する(
図4(b)~(d)を参照)。従って、コアの要素同士が重なる設計になることを抑制することができ、要素の配置が実際に生じ得ない配置になることを抑制することができる。
【0073】
また、本実施形態では、コア設計装置100は、設計対象要素の基本形状の領域に対して写像を施した結果、設計対象要素の領域410aの一部が、当該設計対象要素と同一種類の他の設計対象要素の領域410bと重なる場合、当該重なる複数の設計対象要素の領域410a、410bを1つの設計対象要素410cとする(
図4(a)を参照)。従って、設計対象要素の基本形状の数が、最初に設定した設計対象要素の基本形状の領域330a、330bよりも増えることを抑制することができる。また、設計対象要素の形状が複雑になることを抑制することができる。
【0074】
また、本実施形態では、コア設計装置100は、設計対象要素の基本形状の領域に対して線型写像を施す。従って、変数の数は、基本形状の6倍になる((1)式において行列の成分はa~fの6個になる)。よって、解空間が広くなることをより一層抑制することができる。例えば、永久磁石のx-y平面の形状は、四角形であるので、永久磁石を設計対象要素とする場合、設計対象要素の基本形状を四角形として設計対象要素の基本形状の領域に対して線型写像を施すことにより、四角形の形状を維持したまま形状の最適化を行うことが可能になる。
【0075】
<変形例>
<<第1の変形例>>
本実施形態では、デザイン領域が、鉄心の領域310の外縁で囲まれる領域である場合を例に挙げて説明した。このようにすると、
図6(b)に示すように、フラックスバリアが鉄心の外周部に達する虞がある。ロータにおいてフラックスバリアが鉄心の外周部に達すると、ロータの回転によりロータが受ける遠心力によりロータが壊れる虞がある。そこで、鉄心の領域のうち、鉄心の端部およびその近傍の領域を除く領域を、デザイン領域としてもよい。このようにすれば、複雑な計算を行うことなく、電気機器の仕様を満たさないコアが設計されることを抑制することができる。
【0076】
また、このようにしてデザイン領域を設定することに代えてまたは加えて、以下のようにしてもよい。即ち、最適化計算部120は、電磁場解析と応力解析とを連成した順問題を解くことにより、各微小領域における磁束密度ベクトルおよび応力ベクトルを計算することにより、ロータの回転に伴いロータが受ける遠心力によりコアに生じる応力を解析する。そして、最適化計算部120は、磁束密度ベクトルに基づく電気機器の特性と、応力ベクトルに基づく電気機器の特性との双方に基づいて、写像の最適解を探索する。
【0077】
例えば、最適化計算部120は、応力条件に応じて、コアの各微小領域(メッシュ)に印加される応力ベクトルを、有限要素法を用いて計算する。有限要素法により応力の解析を行う手法は、非特許文献4等に記載されているように、一般的な手法である。尚、各微小領域(メッシュ)における応力ベクトルを数値解析により計算することができれば、有限要素法以外の方法(差分法等)を用いてもよい。
【0078】
本実施形態で説明した電磁場解析(各微小領域における磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJeの計算)に用いる微小領域と、応力解析で用いた微小領域とが異なる場合、最適化計算部120は、例えば、応力解析で用いた各微小領域の応力ベクトルに対して補間処理を行うことにより、電磁場解析で用いる微小領域における応力ベクトルを計算する。
【0079】
電磁場解析(各微小領域における磁束密度ベクトルBと渦電流ベクトルJeの計算)においては、BH曲線として、応力に応じたBH曲線が用いられる。電磁場解析で用いる微小領域における応力ベクトルに対応するBH曲線を用いて電磁場解析が行われる。尚、電磁場解析と応力解析とを連成した順問題は、例えば、特許文献1に記載されている公知の手法で実現することができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0080】
例えば、最適化計算部120は、電磁場解析の結果に基づいて定まる電気機器の特性の値をV1とし、電磁場解析の結果に基づいて定まる電気機器の特性に対する重み係数をW1(>0)とし、応力解析の結果に基づいて定まる電気機器の特性の値V2とし、応力解析の結果に基づいて定まる電気機器の特性に対する重み係数をW2(>0)として、W1×V1+W2×V2の値が最大または最小になるような写像を探索する。尚、電磁場解析の結果から定まる電気機器の特性の値が大きいほど特性がよいことを示し、応力解析の結果から定まる電気機器の特性に対する重み係数の値が小さいほど特性がよいことを示す場合、最適化計算部120は、例えば、-W1×V1+W2×V2が最小になるような写像を探索すればよい。
また、コアの設計の際に考慮する電気機器の特性等によっては、電磁場解析を行わずに、応力解析のみを行ってもよい。
【0081】
<<第2の変形例>>
本実施形態では、線型写像を行う場合を例に挙げて説明した。しかしながら、写像は非線型写像であってもよい。設計対象要素の基本形状に対して非線型写像を施すことにより、形状の表現力を高めることができる。この場合、写像は、位相同型の写像とするのが好ましい。設計対象要素の基本形状の数が、最初に設定した設計対象要素の基本形状の領域よりも増えることを抑制することができるからである。
【0082】
<<第3の変形例>>
本実施形態では、最適化問題のアルゴリズムとして、遺伝的アルゴリズムを用いる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、最適化問題のアルゴリズムは、遺伝的アルゴリズムに限定されない。遺伝的アルゴリズム以外のメタヒューリスティクス手法を用いてもよい。メタヒューリスティクス手法を用いれば、最適解が局所解として計算されることを抑制することができると共に、斬新な形状が得られ易くなるので好ましい。しかしながら、勾配法等のメタヒューリスティクス手法以外の最適化問題のアルゴリズムを用いてもよい。
【0083】
<<第4の変形例>>
本実施形態では、IPMSMのロータを設計する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、設計対象のコアは、IPMSMのロータのコアに限定されない。例えば、かご型誘導モータのロータのコアを設計対象としてもよい。この場合、コアを構成する鉄心に埋め込まれる導体バーを設計対象要素とすることができる。また、ステータのコアを設計対象としてもよい。この場合、例えば、ステータのコアを構成する鉄心のティースの先端部分の凹部の空間を設計対象要素とすることができる。この他、モータ以外の回転電機である発電機のロータ・ステータのコアを設計対象要素としてもよいし、また、変圧器のコアを設計対象としてもよい。
【0084】
<<その他の変形例>>
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0085】
100:コア設計装置、110:設定部、120:最適化計算部、130:出力部、310:鉄心の領域、320:永久磁石の領域、330a~330b:設計対象要素の基本形状の領域、340a~340b:写像後の設計対象要素の領域