(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】共振抑制制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 13/02 20060101AFI20230913BHJP
H02P 29/02 20160101ALI20230913BHJP
【FI】
G05B13/02 C
H02P29/02
(21)【出願番号】P 2020034709
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】増井 陽二
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-95903(JP,A)
【文献】国際公開第1997/007590(WO,A1)
【文献】特開平10-53378(JP,A)
【文献】特開2017-182178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
H02P 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象の共振周波数における振動の抑制制御を行う共振抑制制御装置であって、
前記制御対象が有する複数の振動モードに対応して、前記制御対象の出力を入力側に負帰還させる複数のフィードバックループを備え、
前記複数のフィードバックループは、それぞれ、前記複数の振動モードから一部の振動モードを抽出するバンドパスフィルタ、位相補償部及び振幅調整部を有し、
前記バンドパスフィルタ及び前記位相補償部は、微分器として機能
し、
前記バンドパスフィルタ、前記位相補償部及び前記振幅調整部の少なくとも一つは、前記共振周波数に応じて可変であるパラメータを有する、共振抑制制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の共振抑制制御装置において、
前記各振動モードの共振周波数を推定する共振周波数推定部をさらに備え、
前記バンドパスフィルタ、前記位相補償部及び前記振幅調整部の少なくとも一つは、前記共振周波数推定部によって推定された共振周波数に応じて可変であるパラメータを有する、共振抑制制御装置。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の共振抑制制御装置において、
前記バンドパスフィルタは、通過帯域の周波数を前記共振周波数に応じて可変であり、
前記位相補償部は、所定の周波数の位相を前記共振周波数に応じて可変であり、
前記振幅調整部は、所定の周波数のゲインを前記共振周波数に応じて可変である、共振抑制制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御対象の共振周波数における振動を抑制する共振抑制制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
制御対象の共振周波数における振動を抑制する共振抑制制御装置が知られている。このような共振抑制制御装置の一例として、例えば特許文献1には、2以上の振動モードを有する伝達系を制御対象とする共振抑制制御装置が開示されている。
【0003】
前記共振抑制制御装置は、前記制御対象の出力部に現れる出力値を前記制御対象の入力部に負帰還させるフィードバックループを有する。そのフィードバックループ中には、前記制御対象の一部の振動モードを抽出するフィルタと、その振動モードの減衰比を調整する減衰比調整用の微分器とが設けられている。
【0004】
これにより、複数の振動モードが存在した場合でも、抽出した振動モードに対して共振抑制を効果的に行うことができ、外乱抑制特性も良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に開示されている共振抑制制御装置は、フィードバックループ中に、フィルタ及び微分器を有する。しかしながら、このような構成を有する共振抑制制御装置は、装置に実装する際に、逆モデルに相当するプロパな伝達関数に置き換える必要がある。この場合、前記置き換えられた伝達関数の性能と前記逆モデルの性能とに差が生じると、制御対象の振動を十分に抑制できない場合がある。
【0007】
本発明の目的は、複数の振動モードを有する制御対象の各振動モードの共振周波数における振動の抑制制御を行う共振抑制制御装置において、簡単で実装しやすく、且つ、前記複数の振動モードの共振周波数における振動を抑制可能な構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る共振抑制制御装置は、制御対象の共振周波数における振動の抑制制御を行う共振抑制制御装置である。この共振抑制制御装置は、前記制御対象が有する複数の振動モードに対応して、前記制御対象の出力を入力側に負帰還させる複数のフィードバックループを備える。前記複数のフィードバックループは、それぞれ、前記複数の振動モードから一部の振動モードを抽出するバンドパスフィルタ、位相補償部及び振幅調整部を有する。前記バンドパスフィルタ及び前記位相補償部は、微分器として機能する(第1の構成)。
【0009】
このようにバンドパスフィルタ及び位相補償部が微分器として機能することにより、フィードバックループの簡単な構成によって、制御対象の振動モードの共振周波数における振動を抑制することができる。しかも、共振抑制制御装置は、前記フィードバックループを複数有することにより、前記制御対象の複数の振動モードの共振周波数における振動を抑制することができる。
【0010】
したがって、上述の構成により、複数の振動モードを有する制御対象の各振動モードの共振周波数における振動の抑制制御を行う共振抑制制御装置において、簡単で実装しやすく、且つ、前記複数の振動モードの共振周波数における振動を抑制可能な構成が得られる。
【0011】
前記第1の構成において、前記バンドパスフィルタ、前記位相補償部及び前記振幅調整部の少なくとも一つは、前記共振周波数に応じて可変であるパラメータを有する(第2の構成)。
【0012】
これにより、制御対象の振動モードにおける共振周波数が変化した場合でも、その変化に応じて、バンドパスフィルタ、位相補償部及び振幅調整部の少なくとも一つのパラメータを変えることができる。したがって、制御対象の振動モードにおける共振周波数が変化した場合でも、前記制御対象の振動モードにおいて変化した共振周波数で振動を抑制することができる。
【0013】
前記第1または第2の構成において、共振抑制装置は、前記各振動モードの共振周波数を推定する共振周波数推定部をさらに備える。前記バンドパスフィルタ、前記位相補償部及び前記振幅調整部の少なくとも一つは、前記共振周波数推定部によって推定された共振周波数に応じて可変であるパラメータを有する(第3の構成)。
【0014】
これにより、制御対象の各振動モードの共振周波数を推定した結果に応じて、バンドパスフィルタ、位相補償部及び振幅調整部の少なくとも一つのパラメータを変えることができる。したがって、制御対象の各振動モードにおける共振周波数が変化した場合でも、前記制御対象の各振動モードにおいて変化した共振周波数で振動を抑制することができる。
【0015】
前記第2または第3の構成において、前記バンドパスフィルタは、通過帯域の周波数を前記共振周波数に応じて可変である。前記位相補償部は、所定の周波数の位相を前記共振周波数に応じて可変である。前記振幅調整部は、所定の周波数のゲインを前記共振周波数に応じて可変である(第4の構成)。
【0016】
これにより、上述の第2または第3の構成を実現できる。したがって、制御対象の振動モードにおける共振周波数が変化した場合でも、前記制御対象の振動モードにおいて変化した共振周波数で振動を抑制することができる。
【0017】
なお、前記所定の周波数は、フィードバックループで生成され且つバンドパスフィルタを通過した信号の周波数である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態に係る共振抑制制御装置は、前記複数の振動モードに対応する前記制御対象の出力を入力側に負帰還させる複数のフィードバックループを備える。前記複数のフィードバックループは、それぞれ、前記複数の振動モードから一部の振動モードを抽出するバンドパスフィルタ、位相補償部及び振幅調整部を有する。前記バンドパスフィルタ及び前記位相補償部は、微分器として機能する。これにより、複数の振動モードを有する制御対象の各振動モードの共振周波数における振動の抑制制御を行う共振抑制制御装置において、簡単で実装しやすく、且つ、前記複数の振動モードにおける共振周波数で振動を抑制可能な構成が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る制御装置を備えた試験装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図2は、制御装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、可変用のバンドパスフィルタを機能ブロックで示す図である。
【
図4】
図4は、可変用の位相補償部を機能ブロックで示す図である。
【
図5】
図5は、3質点モデルの周波数特性を示す図である。
【
図6】
図6は、制振制御を行わない場合の時間応答の結果を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態1の制振制御を行った場合の時間応答の結果を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態2に係る制御装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図9】
図9は、実施形態2の制振制御を行った場合の時間応答の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
[実施形態1]
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態1に係る共振抑制制御装置を備えた試験装置1の概略構成を機能ブロックで示す図である。この試験装置1は、自動車のモータなどの供試体Mの特性を試験するための試験装置である。なお、試験装置1で試験する供試体Mは、モータ以外の回転体であってもよい。
【0022】
具体的には、試験装置1は、制御装置2(共振抑制制御装置)と、モータ駆動回路3と、電動モータ4と、トルク検出器5とを備える。
【0023】
制御装置2は、入力指令であるモータトルク指令rと後述のフィードバック値とを用いて、モータ駆動回路3に対する駆動指令を生成する。制御装置2は、トルク検出器5の出力値を用いてモータトルク指令rに対して負帰還する複数のフィードバックループ11,12を有する(
図2参照)。なお、制御装置2が前記駆動指令を生成する構成は、従来と同様であるため、制御装置2の詳しい説明は省略する。フィードバックループ11,12の構成については後述する。
【0024】
モータ駆動回路3は、特に図示しないが、複数のスイッチング素子を有する。モータ駆動回路3は、前記駆動指令に基づいて前記複数のスイッチング素子が駆動することにより、電動モータ4の図示しないコイルに電力を供給する。
【0025】
電動モータ4は、図示しない回転子及び固定子を有する。前記固定子のコイルにモータ駆動回路3から電力が供給されることにより、前記回転子が前記固定子に対して回転する。前記回転子は、図示しない中間軸を介して、供試体Mに対し、供試体Mと一体で回転可能に連結されている。これにより、前記回転子の回転によって、電動モータ4から供試体Mにトルクを出力することができる。なお、電動モータ4の構成は、一般的なモータの構成と同様であるため、電動モータ4の詳しい説明は省略する。
【0026】
トルク検出器5は、電動モータ4と供試体Mとを接続する中間軸に設けられている。トルク検出器5は、電動モータ4から出力されたトルクを検出する。トルク検出器5で検出されたトルクの出力値は、制御装置2にフィードバックループ11,12の入力値として入力される。すなわち、トルク検出器5の出力値は、フィードバック制御に用いられる。なお、トルク検出器5の構成は、従来の構成と同様であるため、トルク検出器5の詳しい説明は省略する。
【0027】
上述のような構成を有する試験装置1は、電動モータ4、トルク検出器5及び供試体Mを含む軸系の剛性によって、電動モータ4の回転時に機械共振(単に共振という)が生じる。供試体Mの試験において、前記共振が周波数の測定範囲内で発生した場合、トルク検出器5では、電動モータ4の出力トルクに前記共振の振動成分が加わったトルク(例えば軸トルク)が検出される。そのため、前記共振の振動成分を除去することが望まれる。また、前記軸系に対して外乱が加わった場合には、トルク検出器5で検出される軸トルクの値が大きく変動しやすい。
【0028】
これに対し、本実施形態において、制御装置2は、
図2に示すように、入力指令であるモータトルク指令rに対してトルク検出器5の出力値をフィードバックする複数のフィードバックループ11,12を有する。すなわち、本実施形態の試験装置1は、制御装置2、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含み且つ供試体Mを含まない制御系によって、電動モータ4の駆動を制御する。
【0029】
なお、
図2において、rはモータトルク指令としての目標値であり、yはトルク検出器5の出力値であり、dは外乱である。
【0030】
また、
図2における符号Pは制御対象であり、本実施形態では、制御対象Pは、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含む。なお、制御対象Pには、電動モータ4と供試体Mとを接続する中間軸のうち、電動モータ4からトルク検出器5までの範囲も含む。
【0031】
複数のフィードバックループ11,12は、それぞれ、微分要素を含む微分フィードバック系である。複数のフィードバックループ11,12には、それぞれ、トルク検出器5の出力値が入力される。フィードバックループ11は、バンドパスフィルタ51と、位相補償部52と、振幅調整部53とを有する。フィードバックループ12は、バンドパスフィルタ61と、位相補償部62と、振幅調整部63とを有する。
【0032】
なお、フィードバックループ11のバンドパスフィルタ51は、フィードバックループ12のバンドパスフィルタ61と同様の構成を有する。フィードバックループ11の位相補償部52は、フィードバックループ12の位相補償部62と同様の構成を有する。フィードバックループ11の振幅調整部53は、フィードバックループ12の振幅調整部63と同様の構成を有する。
【0033】
後述するように、フィードバックループ11とフィードバックループ12とは、トルク検出器5の出力値のうち、通過する信号の帯域が異なる。
【0034】
バンドパスフィルタ51,61は、微分要素の一部を構成する。バンドパスフィルタ51,61は、従来の微分器におけるハイパスフィルタと同様の機能を有し、高周波のノイズをカットするローパスフィルタの機能も有する。
【0035】
バンドパスフィルタ51,61は、以下の(1)式によって決まる伝達特性を有する。この伝達特性をブロック図で示すと、
図3に示すようなブロック図である。
なお、Yは出力、Uは入力、ω
Pは中心角周波数、ζは減衰比、sは微分要素である。また、
図3は、連続系で表しているが、実装時には、
図3中の入力側のY及びUは、1サンプリング前の値を用いる。
【0036】
位相補償部52,62は、微分要素の一部を構成する。位相補償部52,62は、従来の微分器における位相調整と同様の機能を有する。位相補償部52,62は、共振によって生じる振動を抑制する信号(振動抑制信号)を生成する際に、位相進み補償及び位相遅れ補償の両方の機能を有する。位相補償部52,62は、位相進み補償または位相遅れ補償として、振動抑制信号の位相を任意の位相に調整できる。
【0037】
このように位相補償部52,62によって振動抑制信号の位相を任意の位相に調整できることにより、むだ時間の位相も考慮する場合には、振動抑制信号の位相を容易に設定できる。
【0038】
位相補償部52,62は、以下の(2)式によって決まる伝達特性を有する。この伝達特性をブロック図で示すと、
図4に示すようなブロック図である。
なお、Yは出力、Uは入力、T1、T2は時定数、sは微分要素である。また、
図4は連続系で表しているが、実装時には、
図4中の入力側のY及びUは、1サンプリング前の値を用いる。
【0039】
バンドパスフィルタ51及び位相補償部52は、フィードバックループ11の微分要素を構成する。バンドパスフィルタ61及び位相補償部62は、フィードバックループ12の微分要素を構成する。
【0040】
振幅調整部53,63は、振動抑制信号のゲインを調整する。すなわち、振幅調整部53,63は、振動抑制信号の振幅を調整する。
【0041】
以上の構成により、フィードバックループ11では、フィードバックする信号の位相及び振幅が調整されることにより、共振によって生じる振動を抑制する振動抑制信号が生成される。同様に、フィードバックループ12でも、フィードバックする信号の位相及び振幅が調整されることにより、共振によって生じる振動を抑制する振動抑制信号が生成される。
【0042】
複数のフィードバックループ11,12は、それぞれ、各振動モードの共振周波数における振動を抑制するように構成されている。複数のフィードバックループ11,12におけるバンドパスフィルタ51,61は、それぞれ異なる振動モードを抽出可能なように、異なる帯域の信号を通過可能に構成されている。
【0043】
また、複数のフィードバックループ11,12において、位相補償部52,62は、該位相補償部52,62と同じフィードバックループ11,12のバンドパスフィルタ51,61によって抽出された振動モードの共振周波数における振動を抑制するように、振動抑制信号の位相を調整する。
【0044】
複数のフィードバックループ11,12において、振幅調整部53,63は、該振幅調整部53,63と同じフィードバックループ11,12のバンドパスフィルタ51,61によって抽出された振動モードの共振周波数における振動を抑制するように、振動抑制信号の振幅を調整する。
【0045】
これにより、複数のフィードバックループ11,12によって、各振動モードの共振周波数での振動を抑制することができる。よって、複数の振動モードを有する制御対象Pの各振動モードの共振周波数における振動を抑制することができる。
【0046】
上述のような本実施形態の効果を以下のとおり確認した。
【0047】
3質点モデルの周波数特性を
図5に示す。実線は、3質点モデルにおけるばね定数が小さい場合の周波数特性を示す線であり、破線は、3質点モデルにおけるばね定数が大きい場合の周波数特性を示す線である。このように、ばね定数が異なることにより、共振周波数及びそのゲインが異なる。
【0048】
シミュレーションモデルとして、0秒から5秒まではばね定数小で、5秒から10秒までの間にばね定数が小から大に線形変化し、10秒から15秒まではばね定数大となるように、3質点モデルを作成した。そして、このモデルにホワイトノイズを入力した場合の時間応答を求めた。なお、上述のような時間変化により、3質点モデルの共振周波数が変化していることは別途確認した。
【0049】
図6は、本実施形態のような制振制御を行っていない場合の時間応答の一例を示すグラフである。この
図6に示すように、本実施形態のような制振制御を行っていない場合には、共振による振動が発生していることが分かる。
【0050】
図7は、本実施形態の制振制御を行った場合の時間応答の一例を示すグラフである。この
図7に示すように、本実施形態の制振制御を行うことにより、
図6に示す結果よりも、共振による振動を抑制できていることが分かる。
【0051】
本実施形態では、制御装置2は、複数の振動モードに対応する制御対象Pの出力を入力側に負帰還させる複数のフィードバックループ11,12を備える。複数のフィードバックループ11,12は、それぞれ、複数の振動モードから一部の振動モードを抽出するバンドパスフィルタ51,61、位相補償部52,62及び振幅調整部53,63を有する。バンドパスフィルタ51,61及び位相補償部52,62は、微分器として機能する。
【0052】
このように、バンドパスフィルタ51,61及び位相補償部52,62が微分器として機能することにより、フィードバックループ11,12の簡単な構成で、制御対象Pの振動モードの共振周波数における振動を抑制することができる。しかも、制御装置2は、フィードバックループ11,12を複数有することにより、制御対象Pの複数の振動モードの共振周波数における振動を抑制することができる。
【0053】
したがって、上述の構成により、複数の振動モードを有する制御対象Pに対して各振動モードの共振周波数で振動抑制制御を行う制御装置2において、簡単で実装しやすく、且つ、複数の振動モードの共振周波数における振動を抑制可能な構成が得られる。
【0054】
[実施形態2]
図8は、実施形態2に係る制御装置102(共振抑制制御装置)の概略構成を示す機能ブロック図である。この実施形態の構成は、各振動モードでの共振周波数を推定し、その推定結果を用いて、複数のフィードバックループ111,112のバンドパスフィルタ151,161、位相補償部152,162及び振幅調整部153,163のそれぞれのパラメータを変更可能である点で、実施形態1の構成と異なる。以下では、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる部分についてのみ説明する。
【0055】
図8に示すように、制御装置102は、複数のフィードバックループ111,112と、共振周波数推定部140とを有する。
【0056】
フィードバックループ111は、実施形態1のフィードバックループ11と同様、バンドパスフィルタ151と、位相補償部152と、振幅調整部153とを有する。フィードバックループ112は、実施形態1のフィードバックループ12と同様、バンドパスフィルタ161と、位相補償部162と、振幅調整部163とを有する。
【0057】
なお、フィードバックループ111のバンドパスフィルタ151は、フィードバックループ112のバンドパスフィルタ161と同様の構成を有する。フィードバックループ111の位相補償部152は、フィードバックループ112の位相補償部162と同様の構成を有する。フィードバックループ111の振幅調整部153は、フィードバックループ112の振幅調整部163と同様の構成を有する。
【0058】
バンドパスフィルタ151,161、位相補償部152,162及び振幅調整部153,163は、後述するように、パラメータが可変である点を除いて、実施形態1のバンドパスフィルタ51、位相補償部52及び振幅調整部53と同様の構成を有する。
【0059】
バンドパスフィルタ151,161、位相補償部152,162及び振幅調整部153,163は、制御対象Pの各振動モードの共振周波数の変化に応じて、パラメータをリアルタイムに変更可能である。すなわち、制御対象Pが、例えば、ロボットアーム、クレーンなどのように動作中に共振周波数が変動する構成を有する場合や、経年劣化、組付け精度の個体差、非線形のバネ特性などにより共振周波数が変わる場合には、複数のフィードバックループ111,112を構成する構成要素は、前記共振周波数の変化に応じて、パラメータをリアルタイムに変更可能である。
【0060】
なお、以下の説明において、リアルタイムに変更可能とは、変化した共振周波数における振動を効果的に抑制できるようなタイミングでパラメータを変更可能であることを意味する。
【0061】
具体的には、バンドパスフィルタ151,161は、通過帯域の周波数を前記共振周波数に応じてリアルタイムに可変である。すなわち、バンドパスフィルタ151,161の伝達特性は、上述の(1)式において、中心角周波数ωpを変更することにより、変化する。なお、バンドパスフィルタ151,161は、(1)式において、前記共振周波数に応じてζを変更可能に構成されていてもよい。
【0062】
位相補償部152,162は、所定の周波数の位相を前記共振周波数に応じてリアルタイムに可変である。位相補償部152の伝達特性は、上述の(2)式において、T1、T2を更新することにより、変化する。これにより、複数のフィードバックループ111,112の位相補償部152,162は、各振動モードの共振周波数で、振動抑制信号の位相を調整することができる。
【0063】
振幅調整部153,163は、所定の周波数のゲインを前記共振周波数に応じてリアルタイムに可変である。振幅調整部153,163は、変化した共振周波数に応じて、調整する振幅のゲインを変更する。
【0064】
なお、前記所定の周波数は、フィードバックループ111,112で生成され且つバンドパスフィルタ151,161を通過した信号の周波数である。
【0065】
共振周波数推定部140は、バンドパスフィルタ151から出力された信号を用いて、共振周波数を推定する。共振周波数推定部140によって推定された共振周波数は、バンドパスフィルタ151、位相補償部152及び振幅調整部153の各パラメータを変化させる際に用いられる。すなわち、バンドパスフィルタ151、位相補償部152及び振幅調整部153は、それぞれ、共振周波数推定部140によって推定された共振周波数に応じて、リアルタイムに可変なパラメータを有する。
【0066】
同様に、共振周波数推定部140は、バンドパスフィルタ161から出力された信号を用いて、共振周波数を推定する。共振周波数推定部140によって推定された共振周波数は、バンドパスフィルタ161、位相補償部162及び振幅調整部163の各パラメータを変化させる際に用いられる。すなわち、バンドパスフィルタ161、位相補償部162及び振幅調整部163は、それぞれ、共振周波数推定部140によって推定された共振周波数に応じて、リアルタイムに可変なパラメータを有する。
【0067】
なお、共振周波数推定部140は、FFT変換等の共振周波数を推定可能な方法であれば、どのような方法によって共振周波数を推定してもよい。
【0068】
これにより、制御対象Pの各振動モードの共振周波数を推定した結果に応じて、バンドパスフィルタ151、位相補償部152及び振幅調整部153の各パラメータを変えることができる。同様に、制御対象Pの各振動モードの共振周波数を推定した結果に応じて、バンドパスフィルタ161、位相補償部162及び振幅調整部163の各パラメータを変えることができる。
【0069】
したがって、制御装置102は、制御対象Pの各振動モードにおける共振周波数が変化した場合でも、制御対象Pの各振動モードにおいて変化した共振周波数で振動を抑制することができる。
【0070】
上述のような本実施形態の効果を以下のとおり確認した。
【0071】
実施形態1と同様の3質点モデルを用いて、実施形態1と同様のシミュレーションモデルを作成した。そして、実施形態1と同様、作成したモデルにホワイトノイズを入力した場合の時間応答を求めた。実施形態1と同様、前記3質点モデルのばね定数の時間変化により、前記3質点モデルの共振周波数が変化していることは別途確認した。
【0072】
図9は、本実施形態の制振制御を行った場合の時間応答の一例を示すグラフである。この
図9に示すように、本実施形態の制振制御を行うことにより、
図6に示す結果よりも、共振による振動を抑制できていることが分かる。しかも、本実施形態の制振制御により、共振周波数の変化に応じて振動を抑制できるため、
図7に示す実施形態1の効果よりも、振動をより効果的に抑制できる。
【0073】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0074】
前記各実施形態では、制御装置2,102は、2つのフィードバックループを有する。しかしながら、制御装置は、3つ以上のフィードバックループを有していてもよい。
【0075】
前記各実施形態において、制御装置2,102は、サーボ制御やフィードフォワード制御などの他の制御を行ってもよい。また、制御装置2,102は、むだ時間制御などを行ってもよい。
【0076】
前記各実施形態では、制御対象Pは、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含む。しかしながら、制御対象は、他の構成を含んでいてもよいし、他の構成を有する軸系を含んでいてもよい。
【0077】
前記各実施形態では、制御装置2,102のフィードバックループ11,12,111,112は、バンドパスフィルタ51,61,151,161と、位相補償部52,62,152,162と、振幅調整部53,63,153,163とを有する。しかしながら、制御装置のフィードバックループは、他の構成を含んでいてもよい。
【0078】
前記実施形態2では、制御装置102は、共振周波数の変化に応じて、バンドパスフィルタ151、位相補償部152及び振幅調整部153の各パラメータを変える。しかしながら、制御装置は、共振周波数の変化に応じて、バンドパスフィルタ、位相補償部及び振幅調整部のうち1つまたは2つのパラメータを変えてもよい。すなわち、制御装置は、共振周波数の変化に応じて、バンドパスフィルタ、位相補償部及び振幅調整部のうち少なくとも1つのパラメータを変えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、制御対象の共振周波数における振動を抑制する共振抑制制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 試験装置
2、102 制御装置(共振抑制制御装置)
3 モータ駆動回路
4 電動モータ
5 トルク検出器
11、12、111、112 フィードバックループ
51、61、151、161 バンドパスフィルタ
52、62、152、162 位相補償部
53、63、153、163 振幅調整部
140 共振周波数推定部
P 制御対象
M 供試体