(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】アルケンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/354 20060101AFI20230913BHJP
C07C 17/35 20060101ALI20230913BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20230913BHJP
C07C 19/08 20060101ALI20230913BHJP
C09K 13/00 20060101ALI20230913BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20230913BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20230913BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
C07C17/354
C07C17/35
C07C21/18
C07C19/08
C09K13/00
C09K5/04 F
B01J23/44 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021117229
(22)【出願日】2021-07-15
【審査請求日】2022-07-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 友亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 新吾
(72)【発明者】
【氏名】松永 隆行
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-069943(JP,A)
【文献】国際公開第2010/007968(WO,A1)
【文献】特開平04-288028(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125877(WO,A1)
【文献】特表2013-534529(JP,A)
【文献】国際公開第2020/170980(WO,A1)
【文献】特表2011-516671(JP,A)
【文献】特表平10-506889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテン(CF
3
-CF=CH-CF
3
)の製造方法であって、
パーフルオロ-2-ブテン(CF
3
-CF=CF-CF
3
)を、気相で、貴金属又は希少金属を担持した活性炭触媒の存在下で、水素化反応させる工程を含み、
前記貴金属又は希少金属は、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、及びマンガン(Mn)からなる群から選択される少なくとも1種の貴金属又は希少金属である、製造方法。
【請求項2】
CF
3-CF=CH-CF
3;
CF
3-CFH-CFH-CF
3;及び
CF
3-CFH-CFH-CF
2H;を含有し、
エッチングガス
用、冷媒
用、熱移動媒体
用、デポジットガス
用、有機合成用ビルディングブロック
用、又はクリーニングガス
用である、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルケンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、活性炭上に担持されたパラジウム又は白金から成る触媒の存在下で、クロロトリフルオロエチレンを水素と接触させる事を含む、トリフルオロエチレンを調製するための方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、水素置換に依り、水素化されたアルケンを製造する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の構成を包含する。
【0006】
項1.
一般式(1):
【0007】
【0008】
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、フッ素、又はパーフルオロアルキル基を示す。)
で表されるアルケンの製造方法であって、
一般式(2):
【0009】
【0010】
(式中、Xは、ハロゲン原子であり、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、フッ素、又はパーフルオロアルキル基を示す。式中、Xが、塩素原子である時、R1、R2、及びR3の何れか一つ以上は、パーフルオロアルキル基を示す。)
で表されるアルケンを、貴金属又は希少金属を担持した活性炭触媒の存在下で、水素化反応させる工程を含む、製造方法。
【0011】
項2.
前記水素化反応させる工程を、気相で行う、前記項1に記載の製造方法。
【0012】
項3.
前記貴金属又は希少金属は、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、及びマンガン(Mn)からなる群から選択される少なくとも1種の貴金属又は希少金属である、前記項1又は2に記載の製造方法。
【0013】
項4.
CF3-CF=CH-CF3;
CF3-CFH-CFH-CF3;及び
CF3-CFH-CFH-CF2H;を含有する、組成物。
【0014】
項5.
エッチングガス、冷媒、熱移動媒体、デポジットガス、有機合成用ビルディングブロック、又はクリーニングガスとして用いられる、前記項4に記載の組成物。
【発明の効果】
【0015】
本開示に依れば、水素置換に依り、効率良く、水素化されたアルケンを製造する事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0017】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、原料化合物であるアルケンを水素化反応させる工程を、パラジウム担持活性炭触媒の存在下で行う事に依り、効率良く、水素化反応を進める事が出来、水素化されたアルケンを、高い転化率(収率)及び高い選択率で製造出来る事を見出した。
【0018】
本開示は、かかる知見に基づき、更に研究を重ねた結果完成されたものである。
【0019】
本開示は、以下の実施形態を含む。
【0020】
本開示の一般式(1):
【0021】
【0022】
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、フッ素、又はパーフルオロアルキル基を示す。)
で表されるアルケンの製造方法は、
一般式(2):
【0023】
【0024】
(式中、Xは、ハロゲン原子であり、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、フッ素、又はパーフルオロアルキル基を示す。式中、Xが、塩素原子である時、R1、R2、及びR3の何れか一つ以上は、パーフルオロアルキル基を示す。)
で表されるアルケンを、貴金属又は希少金属を担持した活性炭触媒の存在下で、水素化反応させる工程を含む。
【0025】
本開示の製造方法は、好ましくは、前記水素化反応させる工程を、気相で行う。
【0026】
本開示の製造方法は、好ましくは、前記貴金属又は希少金属は、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、及びマンガン(Mn)からなる群から選択される少なくとも1種の貴金属又は希少金属である。
【0027】
本開示の組成物は、
CF3-CF=CH-CF3;
CF3-CFH-CFH-CF3;及び
CF3-CFH-CFH-CF2H;を含有する。
【0028】
本開示の組成物は、好ましくは、エッチングガス、冷媒、熱移動媒体、デポジットガス、有機合成用ビルディングブロック、又はクリーニングガスとして用いられる。
【0029】
本開示は、上記要件を満たす事に依り、効率良く、水素化反応が進み、水素化されたアルケンを、高い転化率(収率)及び高い選択率で製造出来る。
【0030】
本開示において、「転化率」とは、反応器に供給される原料化合物(ハロゲン原子を含むアルケン)のモル量に対する、反応器出口からの流出ガスに含まれる原料化合物以外の化合物(水素化したアルケン等)の合計モル量の割合(mol%)を意味する。
【0031】
本開示において、「選択率」とは、反応器出口からの流出ガスにおける原料化合物以外の化合物(水素化したアルケン等)の合計モル量に対する、当該流出ガスに含まれる目的化合物(水素化したアルケン)の合計モル量の割合(mol%)を意味する。
【0032】
本開示のアルケンの製造方法は、原料化合物であるハロゲン原子を含むアルケンを、効率良く、水素化反応を進める事が出来、水素化されたアルケンを、高い転化率(収率)及び高い選択率で製造できる事が出来る。
【0033】
(1)原料化合物
本開示の原料化合物は、一般式(2):
【0034】
【0035】
(式中、Xは、ハロゲン原子であり、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、フッ素、又はパーフルオロアルキル基を示す。式中、Xが、塩素原子である時、R1、R2、及びR3の何れか一つ以上は、パーフルオロアルキル基を示す。)
で表されるアルケンである。
【0036】
アルケンの式(2)中、Xは、ハロゲン原子であり、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、フッ素、又はパーフルオロアルキル基を示す。
【0037】
アルケンの式(2)中、Xが、塩素原子である時、R1、R2、及びR3の何れか一つ以上は、パーフルオロアルキル基を示す。
【0038】
ハロゲン原子は、好ましくは、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及び塩素原子である。
【0039】
パーフルオロアルキル基は、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基である。パーフルオロアルキル基は、好ましくは、炭素数1~20、より好ましくは、炭素数1~12、更に好ましくは、炭素数1~6、特に好ましくは、炭素数1~4、最も好ましくは、炭素数1~3のパーフルオロアルキル基である。
【0040】
パーフルオロアルキル基は、好ましくは、直鎖状又は分枝鎖状のパーフルオロアルキル基である。パーフルオロアルキル基は、好ましくは、トリフルオロメチル基(CF3-)、及びペンタフルオロエチル基(C2F5-)である。
【0041】
原料化合物の一般式(2)で表されるアルケンは、貴金属又は希少金属を担持した活性炭触媒の存在下で、効率良く、水素化反応が進み、水素化されたアルケンを、高い転化率、収率及び/又は高い選択率で製造出来る点で、好ましくは、炭素数が2~8であり、より好ましくは2~4であり、更に好ましくは4である。
【0042】
原料化合物の一般式(2)で表されるアルケンは、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、フッ素、又はパーフルオロアルキル基を示す。
【0043】
原料化合物の一般式(2)で表されるアルケンは、好ましくは、パーフルオロ-2-ブテン(F3C-CF=CF-CF3)、パーフルオロ-1-ブテン(CF3-CF2-CF=CF2)等である。
【0044】
原料化合物の一般式(2)で表されるアルケンは、単独で用いる事も出来、2種以上を組合せて用いる事も出来る。市販品のアルケンを使用しても良い。
【0045】
(2)水素化反応
本開示の水素化反応させる工程は、触媒として、パラジウム担持活性炭を用いて、一般式(2)で表されるアルケンを水素化反応する。
【0046】
水素化反応させる工程は、原料化合物である一般式(2)で表されるアルケンは、水素化されたアルケンを、高い転化率、収率及び/又は高い選択率で製造出来る点で、好ましくは、炭素数が2~8であり、より好ましくは2~4であり、更に好ましくは4である。
【0047】
水素化反応させる工程は、原料化合物の一般式(2)で表されるアルケンは、アルケンを、パラジウム担持活性炭触媒の存在下で、効率良く、水素化反応が進み、水素化されたアルケンを、高い転化率、収率及び/又は高い選択率で製造出来る点で、好ましくは、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、フッ素、又はパーフルオロアルキル基を示す。
【0048】
原料化合物の一般式(2)で表されるアルケンは、好ましくは、パーフルオロ-2-ブテン(CF3-CF=CF-CF3)であり、水素化される目的化合物の一般式(1)で表されるアルケンは、好ましくは、1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテン(CF3-CF=CH-CF3)((Z/E)-1327myz))である。
【0049】
貴金属又は希少金属を担持した活性炭触媒
(活性炭に担持された貴金属又は希少金属触媒)
本開示の水素化反応させる工程は、触媒として、貴金属又は希少金属を担持した活性炭触媒を用いて、原料化合物の、一般式(2)で表されるアルケンを、水素化反応を行い、目的化合物の、水素化される一般式(1)で表されるアルケン、好ましくは、1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテンを製造する。
【0050】
水素化反応させる工程は、好ましくは、気相で行う。
【0051】
水素化触媒として、貴金属又は希少金属は、好ましくは、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、及びマンガン(Mn)からなる群から選択される少なくとも1種の貴金属又は希少金属である。
【0052】
水素化触媒として、より好ましくは、貴金属又は希少金属がパラジウム(Pd)、担体が活性炭である、パラジウム担持活性炭触媒を用いる事に依り、高い金属表面積を得る事が出来、水素化の反応速度が速いという効果が得られる。
【0053】
活性炭の担体の粒径は、好ましくは、0.1mm~100mm程度である。
【0054】
水素化反応させる工程で用いる触媒の全質量に対するパラジウムの担持量は、0.01質量%~20質量%程度が好ましく、0.1質量%~10質量%程度がより好ましい。
【0055】
触媒の調製方法は、公知の調製方法を広く使用出来る。例えば、活性炭担体上にパラジウム金属が担持された触媒は、活性炭担体を、パラジウム金属を含む溶液に浸漬する事に依り、この溶液を担体に含浸させ、この後、必要に応じて、中和及び焼成等を行う方法に依って得られる。この場合、溶液の濃度、含浸の時間等に依り、担体への貴金属又は希少金属の担持量を調節する。
【0056】
水素の使用量(H
2
/アルケンモル比)
本開示の水素化反応させる工程は、水素化されるアルケンを、高い転化率、収率及び/又は高い選択率で製造する事が出来る点から、水素の使用量は、アルケン1モルに対して、好ましくは、0.1モル~10モル(H2/アルケンモル比:0.1~10)であり、より好ましくは、1モル~5モル(H2/アルケンモル比:1~5)であり、更に好ましくは、1モル~3モル(H2/アルケンモル比:1~3)であり、特に好ましくは、1.1モル(H2/アルケンモル比:1.1)である。
【0057】
水素化反応の反応温度
本開示の水素化反応させる工程は、パラジウム担持活性炭触媒を使用し、反応温度の下限値は、原料化合物から、より効率的に水素化反応を進行させて、転化率をより向上させ、目的化合物を、より高い選択率で得る事が出来る観点から、好ましくは、100℃以上であり、より好ましくは、150℃以上であり、更に好ましくは、200℃以上である。
【0058】
水素化反応させる工程は、水素化反応の上限値は、水素化反応を、より効率的に進行させて、転化率をより向上させ、目的化合物を、より高い選択率で得る事が出来る観点、且つ反応生成物が分解又は重合する事による選択率の低下をより抑制する観点から、好ましくは、800℃以下であり、より好ましくは、600℃以下であり、更に好ましくは、500℃以下であり、特に好ましくは、400℃以下である。
【0059】
水素化反応の反応時間
本開示の水素化反応させる工程は、水素化反応させる反応時間は、例えば気相流通式を採用する場合には、原料化合物の触媒に対する接触時間(W/F)[W:金属触媒の重量(g)、F:原料化合物の流量(cc/sec)]は、水素化反応に依る転化率が特に高く、目的化合物を、より高収率及び高選択率に得る事が出来る観点から、好ましくは、1g・sec./cc~120g・sec./ccであり、より好ましくは、3g・sec./cc~100g・sec./ccであり、更に好ましくは、5g・sec./cc~80g・sec./ccである。上記のW/Fは特に気相流通式反応を採用した場合の反応時間を特定したものである。
【0060】
バッチ式反応を採用する場合も、接触時間を適宜設定する事が出来る。
【0061】
上記接触時間は、原料化合物(基質)及び触媒が接触する時間を意味する。
【0062】
水素化反応の反応圧力
本開示の水素化反応させる工程は、水素化反応させる反応圧力は、水素化反応を、より効率的に進行させる点から、好ましくは、-0.05MPa~2MPaであり、より好ましくは、-0.01MPa~1MPaであり、更に好ましくは、常圧~0.5MPaである。
【0063】
本開示において、圧力について特に表記が無い場合は、圧力はゲージ圧とする。
【0064】
水素化反応の反応容器
本開示の水素化反応させる工程は、原料化合物と触媒とを投入して、水素化反応させる反応器は、上記温度及び圧力に耐え得るものであれば、形状及び構造は特に限定されない。水素化反応させる反応器は、好ましくは、縦型反応器、横型反応器、多管型反応器等である。水素化反応させる反応器の材質は、好ましくは、ガラス、ステンレス、鉄、ニッケル、鉄ニッケル合金等である。
【0065】
気相反応
本開示の水素化反応させる工程は、好ましくは、気相反応に依り、反応器に原料化合物(基質)を連続的に仕込み、反応器から目的化合物を連続的に抜き出す流通式及びバッチ式のいずれの方式によっても実施する事が出来る。
【0066】
目的化合物が反応器に留まって反応が過剰に進行する事を抑制する理由から、好ましくは、流通式で実施する。
【0067】
気相連続流通式
本開示の水素化反応させる工程は、好ましくは、気相で行い、より好ましくは、固定床反応器を用いた気相連続流通式で行う。気相連続流通式で行う場合は、装置、操作等を簡略化できると共に、経済的に有利である。
【0068】
水素化反応させる工程は、水素化反応を行う際の雰囲気は、触媒の劣化を抑制する点から、好ましくは、不活性ガス雰囲気下、フッ化水素ガス雰囲気下等である。不活性ガスは、好ましくは、窒素、ヘリウム、アルゴン等である。不活性ガスの中でも、コストを抑える観点から、好ましくは、窒素を用いる。不活性ガスの濃度は、好ましくは、反応器に導入される気体成分の0モル%~50モル%とする。
【0069】
水素化反応させる工程は、触媒の存在下、気相で行う際に、特に触媒に合わせて反応温度と反応時間(接触時間)とを適宜調整する事で、目的化合物をより高い選択率で得る事が出来る。
【0070】
(3)目的化合物
本開示の目的化合物は、一般式(1):
【0071】
【0072】
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、フッ素、又はパーフルオロアルキル基を示す。)
で表されるアルケン(水素化されたアルケン)である。
【0073】
水素化反応させる工程に依り、原料化合物の、原料化合物は、一般式(2)で表されるは、そのX(ハロゲン原子)が、水素置換されて、水素置換されたアルケンを製造する。
【0074】
アルケンの式(1)中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、フッ素、又はパーフルオロアルキル基を示す。
【0075】
パーフルオロアルキル基は、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基である。パーフルオロアルキル基は、好ましくは、炭素数1~20、より好ましくは、炭素数1~12、更に好ましくは、炭素数1~6、特に好ましくは、炭素数1~4、最も好ましくは、炭素数1~3のパーフルオロアルキル基である。
【0076】
パーフルオロアルキル基は、好ましくは、直鎖状又は分枝鎖状のパーフルオロアルキル基である。パーフルオロアルキル基は、好ましくは、トリフルオロメチル基(CF3-)、及びペンタフルオロエチル基(C2F5-)である。
【0077】
目的化合物の一般式(1)で表されるアルケンは、原料化合物の一般式(2)で表されるアルケン(ハロゲン原子)を、パラジウム担持活性炭触媒の存在下で、効率良く、水素化反応が進み、水素化されたアルケンを、高い転化率、収率及び/又は高い選択率で製造出来る点で、好ましくは、炭素数2化合物(C2化合物)~炭素数8化合物(C8化合物)であり、より好ましくは、(C2化合物~C4化合物であり、更に好ましくは、C4化合物である。
【0078】
目的化合物の一般式(1)で表されるアルケンは、原料化合物の一般式(2)で表されるアルケン(ハロゲン原子)を、アルケンを、パラジウム担持活性炭触媒の存在下で、効率良く、水素化反応が進み、水素化されたアルケンを、高い転化率、収率及び/又は高い選択率で製造出来る点で、好ましくは、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、フッ素、又はパーフルオロアルキル基を示す。
【0079】
目的化合物の一般式(1)で表されるアルケンは、好ましくは、1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテンである。
【0080】
原料化合物の一般式(1)で表されるアルケンは、単独で用いる事も出来、2種以上を組合せて用いる事も出来る。市販品のアルケンを使用しても良い。
【0081】
好ましい水素化反応
本開示の水素化反応させる工程は、好ましくは、パラジウム担持活性炭触媒を使用し、原料化合物のアルケンとして、パーフルオロ-2-ブテンを、水素化し、目的化合物のアルケンとして、1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテンを製造する。
【0082】
水素化反応終了後は、必要に応じて常法に従って、精製処理を行い、目的化合物を得ることができる。
【0083】
(4)アルケンを含む組成物
本開示の組成物は、好ましい態様として、
CF3-CF=CH-CF3(1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテン);
CF3-CFH-CFH-CF3;及び
CF3-CFH-CFH-CF2H;を含有する。
【0084】
組成物は、好ましくは、エッチングガス、冷媒、熱移動媒体、デポジットガス、有機合成用ビルディングブロック、又はクリーニングガスとして用いられる。
【0085】
本開示の製造方法に依り、一般式(1)で表されるアルケンを得る事が出来る。目的化合物の一般式(1)で表されるアルケンと、原料化合物の一般式(2)で表されるアルケンとを含有する組成物の形で得られる事もある。
【0086】
組成物が含むCF3-CFH-CFH-CF3は、例えば、原料化合物のパーフルオロ-2-ブテン由来のアルカン化合物である。
【0087】
組成物が含むCF3-CFH-CFH-CF2Hは、例えば、3H体のアルカン化合物である。
【0088】
組成物においては、組成物の総量を100mol%として、1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテンの含有量は、好ましくは、80mol%以上99.9mol%以下であり、より好ましくは、90mol%以上99.9mol%以下であり、更に好ましくは、95mol%以上99.9mol%以下であり、特に好ましくは、99mol%以上99.9mol%以下である
組成物は、組成物の総量を100mol%として、CF3-CF=CH-CF3の含有量は、好ましくは、80mol%以上であり、CF3-CFH-CFH-CF3及びCF3-CFH-CFH-CF2Hの含有量は、好ましくは、20mol%以下である。
【0089】
本開示の製造方法に依れば、1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテン(水素化されたアルケン)を特に高い選択率で得る事が出来、その結果、組成物中の1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテン以外の成分を少なくする事が可能である。その為、本開示の製造方法に依れば、1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテンを得る為の精製を効率良く行う事が出来る。
【0090】
組成物は、好ましくは、半導体、液晶等の最先端の微細構造を形成する為のエッチングガス、冷媒、熱移動媒体等として用いられる。アルケンを含む組成物は、好ましくは、デポジットガス、有機合成用ビルディングブロック、クリーニングガス等の各種用途に有効利用できる。
【0091】
デポジットガスとは、エッチング耐性ポリマー層を堆積させるガスである。
【0092】
有機合成用ビルディングブロックとは、反応性が高い骨格を有する化合物の前駆体となり得る物質を意味する。1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテンを含む組成物とCF3Si(CH3)3等の含フッ素有機ケイ素化合物とを反応させると、CF3基等のフルオロアルキル基を導入して、洗浄剤や含フッ素医薬中間体と成り得る物質に変換する事が可能である。
【0093】
以上、本開示の実施形態を説明した。
【0094】
本開示の実施態様は、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能である。
【実施例】
【0095】
以下に実施例を挙げ、本開示を具体的に説明する。
【0096】
本開示は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0097】
実施例
原料化合物:パーフルオロ-2-ブテン(F3C-CF=CF-CF3)
目的化合物:1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテン(F3C-CF=CH-CF3)
((Z/E)-1327myz))
ガスクロマトグラフィー:島津製作所社製、製品名「GC-2014」
NMR:JEOL社製、製品名「400YH」
【0098】
反応管としてSUS配管(外径:1/2インチ)を用い、パラジウム担持活性炭触媒を充填した。窒素雰囲気下、200℃で3時間乾燥した後、400℃に昇温した。400℃に昇温した後、反応させる温度まで下げ、窒素で希釈した水素を流通させ、徐々に水素濃度を上げていき、最後は100%水素で触媒の水素化処理を行った。
【0099】
気相流通式反応を行い、圧力は常圧とし、パーフルオロ-2-ブテン(原料化合物)とパラジウム担持活性炭触媒(1%Pd/C)との接触時間(W/F0)を、8g・sec/cc(%)、17g・sec/cc(%)、38g・sec/cc(%)、60g・sec/cc(%)、又は78g・sec/cc(%)と成る様に、反応器に原料化合物を流通させた。
【0100】
水素の使用量は、H2/アルケンモル比:1.1とした。
【0101】
(H2:1.1モル、アルケンモル:1モル)
反応器を、200℃、300℃、又は400℃で加熱して、フッ素原子の水素化反応を開始した。水素化反応を開始してから、1時間後に、除害塔を通った留出分を集めた。
【0102】
その後、ガスクロマトグラフィーを用いてガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)により質量分析を行い、NMRを用いてNMRスペクトルによる構造解析を行った。
【0103】
反応終了後、質量分析及び構造解析の結果から、目的化合物として、1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテンが生成した事が確認出来た。
【0104】
原料化合物のパーフルオロ-2-ブテン(F3C-FC=CF-CF3)由来のアルカン化合物:CF3-CFH-CFH-CF3、3H体のアルカン化合物:CF3-CFH-CFH-CF2Hが生成された。
【0105】
各実施例の結果を以下の表1に示す。
【0106】
表1において、接触時間(W/F)は、流通する原料ガスをどの程度の速度で流すか、即ち、触媒及び原料ガスが接触する時間を意味する。
【0107】
実施例の結果(表1)から、原料化合物のパーフルオロ-2-ブテンを、パラジウム担持活性炭触媒の存在下、水素を添加して、水素化反応を行い、目的化合物として、1,1,1,2,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテンを製造する時には、効率良く水素化反応でき、水素化したアルケンを、高い転化率、収率及び/又は高い選択率で製造することが出来た。パラジウム担持活性炭触媒を用いる事が、特に好ましい実施態様である。
【0108】