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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】正極合剤、正極および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20230913BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230913BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230913BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/525
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022073386
(22)【出願日】2022-04-27
(65)【公開番号】P2022173102
(43)【公開日】2022-11-17
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2021079024
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】山崎 穣輝
(72)【発明者】
【氏名】細田 千紘
(72)【発明者】
【氏名】新井 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】下岡 俊晴
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-048917(JP,A)
【文献】特開2011-028898(JP,A)
【文献】特開2019-079710(JP,A)
【文献】国際公開第2017/158961(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111916693(CN,A)
【文献】特開2015-170551(JP,A)
【文献】特開2013-175325(JP,A)
【文献】特開2017-112041(JP,A)
【文献】特開2014-032777(JP,A)
【文献】特開2014-078449(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108987752(CN,A)
【文献】特開2016-046188(JP,A)
【文献】特開2020-057606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニリデンフルオライド(A)、
一般式(C):LiNi1-x
(式中、xは、0.01≦x≦0.7、yは、0.9≦y≦2.0であり、Mは金属原子(但しLiおよびNiを除く)を表す)で表される正極活物質(C)、および、
添加剤(D)を含有する正極合剤であって、
ポリビニリデンフルオライド(A)が、
(A1)ビニリデンフルオライド単位のみを含有する重合体、
(A3)ビニリデンフルオライド単位および極性基含有単量体単位を含有する重合体、
ならびに、
(A4)ビニリデンフルオライド単位、フッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位およびテトラフルオロエチレン単位を除く)および極性基含有単量体単位を含有する重合体
からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記添加剤(D)が
ケトン化合物(1)
機リン化合物(3)、
含硫黄化合物(4)、
アミノカーボネート化合物(5)、および、
カルボン酸(6)(ただし、アミノカーボネート化合物(5)を除く)
からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記ジケトン化合物(1)が、3-メチル-2,4-ペンタンジオン、アセチルアセトンおよび3,5-ヘプタンジオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記有機リン化合物(3)が、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィンおよびトリエチルホスフィンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記含硫黄化合物(4)が、1,3-プロパンスルトンであり、
前記アミノカーボネート化合物(5)が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、および、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記カルボン酸(6)が、酒石酸であり、
前記添加剤(D)の含有量が、前記ポリビニリデンフルオライド(A)および前記正極活物質(C)の合計質量に対して、0.001~5質量%である
ことを特徴とする正極合剤
【請求項2】
ポリビニリデンフルオライド(A)が、
(A3)ビニリデンフルオライド単位および極性基含有単量体単位を含有する重合体、ならびに、
(A4)ビニリデンフルオライド単位、フッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位およびテトラフルオロエチレン単位を除く)および極性基含有単量体単位を含有する重合体
からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の正極合剤。
【請求項3】
ポリビニリデンフルオライド(A4)が含有する前記フッ素化単量体単位が、ヘキサフルオロプロピレン単位、フルオロアルキルビニルエーテル単位、クロロトリフルオロエチレン単位および2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の正極合剤。
【請求項4】
有機溶剤をさらに含有する請求項1または2に記載の正極合剤。
【請求項5】
請求項1または2に記載の正極合剤から形成される正極。
【請求項6】
請求項5に記載の正極を備える二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極合剤、正極および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の正極を形成するために用いる正極合剤には、正極の生産性の観点から、調製後の粘度変化が小さいという特性が求められている。たとえば、特許文献1では、合剤調製してから24時間経過しても、粘度変化が小さい電極合剤として、粉末電極材料、結着剤、及び、有機溶剤を含む電極合剤であって、前記結着剤は、ビニリデンフルオライドに基づく重合単位及びテトラフルオロエチレンに基づく重合単位からなる含フッ素重合体、並びに、ポリビニリデンフルオライドを含有し、前記含フッ素重合体は、ビニリデンフルオライドに基づく重合単位を全重合単位に対して80.0~90.0モル%含み、前記ポリビニリデンフルオライドは、数平均分子量が150000~1400000であることを特徴とする電極合剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/176093号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、二次電池の高容量化、高電圧化のために、Niを高い割合で含有する正極活物質を用いる場合であっても、また、調製から長時間が経過した後であっても、粘度がより一層変化しにくい正極合剤であって、しかも、密度が高い正極を形成でき、初期充放電効率が高い電池を得ることができる正極合剤が望まれている。
【0005】
本開示では、Niを高い割合で含有する正極活物質を含むにも関わらず、調製から長時間が経過した後であっても、粘度が上昇しにくく、密度が高い正極を形成でき、初期充放電効率が高い電池を得ることができる正極合剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によれば、ポリビニリデンフルオライド(A)、
一般式(C):LiNi1-x
(式中、xは、0.01≦x≦0.7、yは、0.9≦y≦2.0であり、Mは金属原子(但しLiおよびNiを除く)を表す)で表される正極活物質(C)、および、添加剤(D)を含有する正極合剤であって、
ポリビニリデンフルオライド(A)が、(A1)ビニリデンフルオライド単位のみを含有する重合体、(A3)ビニリデンフルオライド単位および極性基含有単量体単位を含有する重合体、ならびに、(A4)ビニリデンフルオライド単位、フッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位およびテトラフルオロエチレン単位を除く)および極性基含有単量体単位を含有する重合体からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記添加剤(D)が、一般式(1)で表されるジケトン化合物(1)、一般式(2)で表されるアミン化合物(2)、有機リン化合物(3)、含硫黄化合物(4)、一般式(5)で表されるアミノカーボネート化合物(5)、カルボン酸(6)(ただし、アミノカーボネート化合物(5)を除く)、および、オキサラト錯体化合物(7)からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする正極合剤が提供される。
【0007】
一般式(1):
【化1】
(式中、R11およびR13は、独立に、ヘテロ原子またはカルボニル基を含んでいてもよい1価の炭化水素基を表し、R12は2価の炭化水素基または2価のヘテロ原子を表し、R11、R12およびR13はそれぞれが結合して環を形成してもよい。)
【0008】
一般式(2):
【化2】
(式中、R21は単結合または2価の有機基を表す。X21~X24は、独立に、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、または、スルホニル基を介して窒素原子と結合していてもよいアリール基を表す。X21およびX23はそれぞれが結合して環を形成してもよく、X22およびX24はそれぞれが結合して環を形成してもよい。)
【0009】
一般式(5):
【化3】
(式中、R51は、有機基を表し、R52は単結合またはアルキレン基を表し、X52は-OHまたは-COOZ52(Z52は水素原子またはアルカリ金属)を表し、R53は、単結合またはアルキレン基を表し、X53は、-H、-OHまたは-COOZ53(Z53は水素原子またはアルカリ金属)を表し、bは1または2を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、Niを高い割合で含有する正極活物質を含むにも関わらず、調製から長時間が経過した後であっても、粘度が上昇しにくく、密度が高い正極を形成でき、初期充放電効率が高い電池を得ることができる正極合剤を提供することができる。さらに、この正極合剤は、驚くべきことに同じ線圧でプレスした場合でも、従来の正極合剤よりも正極活物質がより詰まりやすく、密度が高い電極を作製できる。加えて、この正極合剤を用いることにより、初期充放電効率に優れたリチウムイオン二次電池を作製できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本開示の正極合剤は、ポリビニリデンフルオライド(A)、正極活物質(C)、および、添加剤(D)を含有する。
【0013】
ポリビニリデンフルオライド(A)
ポリビニリデンフルオライド(PVdF)(A)は、(A1)ビニリデンフルオライド(VdF)単位のみを含有する重合体、(A3)VdF単位および極性基含有単量体単位を含有する重合体、ならびに、(A4)VdF単位、フッ素化単量体単位(ただし、VdF単位およびテトラフルオロエチレン(TFE)単位を除く)および極性基含有単量体単位を含有する重合体からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0014】
PVdF(A1)は、単量体単位として、VdF単位のみを含有する重合体であるが、PVdF(A1)には、主鎖末端に、重合開始剤、連鎖移動剤などに由来する構造を有する重合体も含まれる。
【0015】
PVdF(A3)および(A4)のVdF単位の含有量は、正極合剤層と集電体との優れた密着性を得ることができることから、全単量体単位に対して、好ましくは84.00~99.999モル%であり、より好ましくは90.0モル%以上であり、さらに好ましくは92.0モル%以上であり、特に好ましくは95.0モル%以上であり、最も好ましくは97.00モル%以上であり、より好ましくは99.99モル%以下、さらに好ましくは99.899モル%以下、尚さらに好ましくは99.70モル%以下、特に好ましくは99.49モル%以下、最も好ましくは99.20モル%以下である。
【0016】
本明細書において、PVdF(A)の組成は、たとえば、19F-NMR測定により測定できる。
【0017】
PVdF(A4)が含有する上記フッ素化単量体単位は、VdF単位およびTFE単位とは異なるフッ素化単量体単位であり、好ましくは、極性基を有しない単量体単位である。上記フッ素化単量体としては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、(パーフルオロアルキル)エチレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン等が挙げられ、なかでも、CTFE、フルオロアルキルビニルエーテル、HFPおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、HFPおよびフルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0018】
フルオロアルキルビニルエーテルとしては、CF=CF-ORf(式中、Rfは、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体などがあげられる。なかでも、PAVEが好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)およびパーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0019】
PVdF(A4)における上記フッ素化単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0.10~8.00モル%であり、より好ましくは0.50~5.00モル%である。
【0020】
PVdF(A3)およびPVdF(A4)は、上記極性基含有単量体単位に含まれる極性基を有し、これによって、正極合剤層と集電体との優れた密着性が得られる。上記極性基としては、極性を有する官能基であれば特に限定されないが、正極合剤層と集電体とのさらに優れた密着性が得られることから、カルボニル基含有基、エポキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、アミノ基、アミド基およびアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、カルボニル基含有基、エポキシ基およびヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、カルボニル基含有基がさらに好ましい。上記ヒドロキシ基には、上記カルボニル基含有基の一部を構成するヒドロキシ基は含まれない。また、上記アミノ基とは、アンモニア、第一級または第二級アミンから水素を除去した1価の官能基である。
【0021】
上記カルボニル基含有基とは、カルボニル基(-C(=O)-)を有する官能基である。上記カルボニル基含有基としては、正極合剤層と集電体とのさらに優れた密着性が得られることから、一般式:-COOR(Rは、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す)で表される基またはカルボン酸無水物基が好ましく、一般式:-COORで表される基がより好ましい。アルキル基およびヒドロキシアルキル基の炭素数としては、好ましくは1~16であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~3である。一般式:-COORで表される基として、具体的には、-COOCHCHOH、-COOCHCH(CH)OH、-COOCH(CH)CHOH、-COOH、-COOCH、-COOC等が挙げられる。一般式:-COORで表される基が、-COOHであるか、-COOHを含む場合、-COOHは、カルボン酸金属塩、カルボン酸アンモニウム塩等のカルボン酸塩であってもよい。
【0022】
上記アミド基としては、一般式:-CO-NRR’(RおよびR’は、独立に、水素原子または置換もしくは非置換のアルキル基を表す。)で表される基、または、一般式:-CO-NR”-(R”は、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基または置換もしくは非置換のフェニル基を表す。)で表される結合が好ましい。
【0023】
本明細書において、PVdF(A)における極性基含有単量体単位の含有量は、たとえば、極性基がカルボン酸等の酸基である場合、酸基の酸-塩基滴定によって測定できる。
【0024】
PVdF(A3)およびPVdF(A4)が含有する上記極性基含有単量体としては、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸;メチリデンマロン酸ジメチル等のアルキリデンマロン酸エステル;ビニルカルボキシメチルエーテル、ビニルカルボキシエチルエーテル等のビニルカルボキシアルキルエーテル;2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート等のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート;アクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリロイルオキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルジカルボン酸エステル;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル等の不飽和二塩基酸のモノエステル;等が挙げられる。なお、本開示において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸のいずれかを意味し、アクリル酸およびメタクリル酸の混合物であってもよい。その他の化合物名中の「(メタ)」も同様に解釈される。
【0025】
PVdF(A3)およびPVdF(A4)が含有する上記極性基含有単量体としては、なかでも、正極合剤層と集電体とのさらに優れた密着性が得られることから、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、アルキリデンマロン酸エステル、ビニルカルボキシアルキルエーテル、カルボキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシアルキルジカルボン酸エステルおよび不飽和二塩基酸のモノエステルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、(メタ)アクリル酸、アルキリデンマロン酸エステル、(メタ)アクリロイルオキシアルキルジカルボン酸エステルおよび不飽和二塩基酸のモノエステルからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0026】
PVdF(A3)およびPVdF(A4)における上記極性基含有単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0.001~8.0モル%であり、より好ましくは0.01~5.0モル%であり、さらに好ましくは0.30~3.0モル%である。
【0027】
PVdF(A3)において、VdF単位および上記極性基含有単量体単位の含有割合は、モル比で、好ましくは(92.00~99.999)/(0.001~8.00)であり、より好ましくは(95.00~99.99)/(0.01~5.00)であり、さらに好ましくは(97.00~99.70)/(0.30~3.00)である。
【0028】
PVdF(A4)において、VdF単位、上記フッ素化単量体単位および上記極性基含有単量体単位の含有割合は、モル比で、好ましくは(84.00~99.899)/(0.10~8.00)/(0.001~8.00)であり、より好ましくは(90.00~99.49)/(0.50~5.00)/(0.01~5.00)であり、さらに好ましくは(92.00~99.20)/(0.50~5.00)/(0.30~3.00)である。
【0029】
PVdF(A3)およびPVdF(A4)は、非フッ素化単量体単位を含有してもよい。上記非フッ素化単量体としては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0030】
PVdF(A)の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは200000~2400000であり、より好ましくは400000以上、さらに好ましくは600000以上であり、より好ましくは2200000以下、さらに好ましくは2000000以下である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
【0031】
PVdF(A)の数平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは70000~1200000であり、より好ましくは140000以上であり、より好ましくは1100000以下である。上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
【0032】
PVdF(A)の融点は、好ましくは100~240℃である。上記融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対する温度として求めることができる。
【0033】
PVdF(A)は、例えば、VdFおよび上記極性基含有単量体や、重合開始剤等の添加剤を適宜混合して、溶液重合や懸濁重合を行う等の従来公知の方法により製造することができる。
【0034】
本開示の正極合剤において、PVdF(A)の含有量は、上記正極合剤に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。PVdF(A)の含有量を上記範囲とすることにより、正極合剤層と集電体とのさらに優れた密着性が得られる。
【0035】
本開示の正極合剤は、PVdF(A)の他に、その他の重合体を含んでいてもよい。その他の重合体としては、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、スチレンゴム、ブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0036】
正極活物質(C)
正極活物質(C)は、一般式(C):LiNi1-x
(式中、xは、0.01≦x≦0.7、yは、0.9≦y≦2.0であり、Mは金属原子(但しLiおよびNiを除く)を表す。)で表される。本開示の正極合剤は、このようにNiを多く含有する正極合剤を含有することから、二次電池の高容量化に有益である。従来の技術では、Niを多く含有する正極合剤を用いると、正極合剤の粘度の上昇を十分に抑制できなかったが、本開示によれば、正極合剤の粘度の上昇を十分に抑制することができるので、二次電池の高容量化と、二次電池の生産性の向上とを両立できる。
【0037】
一般式(C)おいて、Mの金属原子としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Al、Zn、Mg、Ga、Zr、Si等が挙げられる。Mの金属原子としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu等の遷移金属、または、上記遷移金属と、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si等の他の金属との組み合わせが好ましい。
【0038】
正極活物質(C)としては、リチウム遷移金属複合酸化物が挙げられ、LiNi0.80Co0.15Al0.05、LiNi0.82Co0.15Al0.03、LiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、および、LiNi0.90Mn0.05Co0.05からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、LiNi0.82Co0.15Al0.03、LiNi0.6Mn0.2Co0.2、および、LiNi0.8Mn0.1Co0.1からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0039】
正極活物質(C)に加えて異なる正極活物質を組み合わせて用いてもよい。異なる正極活物質として具体的には、LiNiO、LiCoO2、LiMnO、LiMn、LiMnO3、LiMn1.8Al0.24、LiTi12、LiFePO、LiFe(PO、LiFeP7、LiCoPO、Li1.2Fe0.4Mn0.4等が挙げられる。
【0040】
また、正極活物質(C)として、正極活物質(C)の表面に、主体となる正極活物質(C)を構成する物質とは異なる組成の物質が付着したものを用いることもできる。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0041】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解または懸濁させて正極活物質(C)に含浸添加、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解または懸濁させて正極活物質(C)に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により正極活物質(C)表面に付着させることができる。
【0042】
表面付着物質の量としては、正極活物質(C)に対して質量で、好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、さらに好ましくは10ppm以上、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下で用いられる。表面付着物質により、正極活物質(C)表面での非水電解液の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができるが、その付着量が少なすぎる場合その効果は十分に発現せず、多すぎる場合には、リチウムイオンの出入りを阻害するため抵抗が増加する場合がある。
【0043】
正極活物質(C)粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が用いられるが、なかでも一次粒子が凝集して、二次粒子を形成して成り、その二次粒子の形状が球状ないし楕円球状であるものが好ましい。通常、電気化学素子はその充放電に伴い、電極中の活物質が膨張収縮をするため、そのストレスによる活物質の破壊や導電パス切れ等の劣化がおきやすい。そのため一次粒子のみの単一粒子活物質であるよりも、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成したものである方が膨張収縮のストレスを緩和して、劣化を防ぐため好ましい。また、板状等軸配向性の粒子であるよりも球状ないし楕円球状の粒子の方が、電極の成形時の配向が少ないため、充放電時の電極の膨張収縮も少なく、また電極を作成する際の導電剤との混合においても、均一に混合されやすいため好ましい。
【0044】
正極活物質(C)のタップ密度は、通常1.3g/cm以上、好ましくは1.5g/cm以上、さらに好ましくは1.6g/cm以上、最も好ましくは1.7g/cm以上である。正極活物質(C)のタップ密度が上記下限を下回ると、正極活物質(C)層形成時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電剤やPVdF(A)の必要量が増加し、正極合剤層への正極活物質(C)の充填率が制約され、電池容量が制約される場合がある。タップ密度の高い正極活物質(C)を用いることにより、高密度の正極合剤層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく特に上限はないが、大きすぎると、正極合剤層内における非水電解液を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなる場合があるため、通常2.5g/cm以下、好ましくは2.4g/cm以下である。
【0045】
正極活物質(C)のタップ密度は、目開き300μmの篩を通過させて、20cmのタッピングセルに試料を落下させてセル容積を満たした後、粉体密度測定器(例えば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度として定義する。
【0046】
正極活物質(C)の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、最も好ましくは3μm以上で、通常20μm以下、好ましくは18μm以下、より好ましくは16μm以下、最も好ましくは15μm以下である。上記下限を下回ると、高嵩密度品が得られなくなる場合があり、上限を超えると粒子内のリチウムの拡散に時間がかかるため、電池性能の低下をきたしたり、電池の正極作成すなわち正極活物質(C)と導電剤やPVdF(A)等を溶媒でスラリー化し、薄膜状に塗布する際に、スジを引く等の問題を生ずる場合がある。ここで、異なるメジアン径d50をもつ正極活物質(C)を2種類以上混合することで、正極作成時の充填性をさらに向上させることもできる。
【0047】
なお、本開示におけるメジアン径d50は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。粒度分布計としてHORIBA社製LA-920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0048】
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、正極活物質(C)の平均一次粒子径としては、通常0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.08μm以上、最も好ましくは0.1μm以上で、通常3μm以下、好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.6μm以下である。上記上限を超えると球状の二次粒子を形成し難く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下するために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなる場合がある。逆に、上記下限を下回ると、通常、結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題を生ずる場合がある。なお、一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0049】
正極活物質(C)のBET比表面積は、通常0.2m/g以上、好ましくは0.3m/g以上、さらに好ましくは0.4m/g以上で、通常4.0m/g以下、好ましくは2.5m/g以下、さらに好ましくは1.5m/g以下である。BET比表面積がこの範囲よりも小さいと電池性能が低下しやすく、大きいとタップ密度が上がりにくくなり、正極合剤の塗布性に問題が発生しやすい場合がある。
【0050】
BET比表面積は、表面積計(例えば、(株)大倉理研製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0051】
正極活物質(C)の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作成するには種々の方法が考えられるが、例えば、遷移金属硝酸塩、硫酸塩等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作成回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これにLiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法、また、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物等の遷移金属原料物質と、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源と、必要に応じ他の元素の原料物質とを水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これを高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0052】
なお、正極活物質(C)は1種を単独で用いてもよく、異なる組成または異なる粉体物性の2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0053】
本開示の正極合剤において、PVdF(A)と正極活物質(C)との質量比は、より一層密度が高い正極を形成でき、初期充放電効率がより一層高い電池を得られることから、好ましくは0.01/99.99~10/90であり、より好ましくは0.5/99.5~4/96であり、さらに好ましくは1/99~3/97である。
【0054】
添加剤(D)
本開示の正極合剤は、ジケトン化合物(1)、アミン化合物(2)、有機リン化合物(3)、含硫黄化合物(4)、アミノカーボネート化合物(5)、カルボン酸(6)、および、オキサラト錯体化合物(7)からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤(D)を含有する。
【0055】
ジケトン化合物(1)
ジケトン化合物(1)は、一般式(1)で表される。
一般式(1):
【化4】
(式中、R11およびR13は、独立に、ヘテロ原子またはカルボニル基を含んでいてもよい1価の炭化水素基を表し、R12は2価の炭化水素基または2価のヘテロ原子を表し、R11、R12およびR13はそれぞれが結合して環を形成してもよい。)
【0056】
一般式(1)において、R11およびR13の炭化水素基が含み得るヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子またはハロゲン原子が好ましい。R12が含み得る2価のヘテロ原子としては、酸素原子が好ましい。
【0057】
一般式(1)において、R11およびR13としては、独立に、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐鎖状の非フッ素化アルキル基、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐鎖状のフッ素化アルキル基、アリール基、チエニル基、フリル基、R11およびR13が結合して形成されるビニレン基、または、R11およびR13が結合して形成される炭素数2~6の直鎖状もしくは分岐鎖状の非フッ素化アルキレン基が好ましく、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐鎖状の非フッ素化アルキル基または炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐鎖状のフッ素化アルキル基がより好ましい。
【0058】
一般式(1)において、R12としては、炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基または酸素原子が好ましい。
【0059】
また、一般式(1)において、R11およびR12はそれぞれが結合して環を形成してもよい。そのような環としては、R11およびR12、ならびに、これらが結合するカルボニル基とともに形成された炭素数3~7の脂肪族環、または、これらが結合するカルボニル基とともに形成されており、さらに別のカルボニル基を含有する置換もしくは非置換の含酸素複素環が好ましい。
【0060】
ジケトン化合物(1)としては、アセチルアセトン、2-アセチルシクロペンタノン、2-アセチルシクロヘキサノン、1,3-ビス(4-メトキシフェニル)-1,3-プロパンジオン、3-メチル-2,4-ペンタンジオン、1-(4-tert-ブチルフェニル)-3-(4-メトキシフェニル)-1,3-プロパンジオン、1-(4-ブロモフェニル)-1,3-ブタンジオン、3-クロロアセチルアセトン、6-メチル-2,4-ヘプタンジオン、1-(4-クロロフェニル)-4,4,4-トリフルオロ-1,3-ブタンジオン、デヒドロ酢酸、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオン、3,5-ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン、2,2-ジメチル-6,6,7,7,8,8,8-ヘプタフルオロ-3,5-オクタンジオン、2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオン、4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-1,3-ブタンジオン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、1-(4-フルオロフェニル)-4,4,4-トリフルオロ-1,3-ブタンジオン、2-フロイルトリフルオロアセトン、無水マレイン酸、無水コハク酸等が挙げられる。
【0061】
ジケトン化合物(1)としては、なかでも、正極合剤の粘度の上昇を一層抑制できることから、3-メチル-2,4-ペンタンジオン、アセチルアセトン、3,5-ヘプタンジオン、ヘキサフルオロアセチルアセトンおよびトリフルオロアセチルアセトンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0062】
アミン化合物(2)
アミン化合物(2)は、一般式(2)で表される。
一般式(2):
【化5】
(式中、R21は単結合または2価の有機基を表す。X21~X24は、独立に、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアミノアルキル基、または、スルホニル基を介して窒素原子と結合していてもよいアリール基を表す。X21およびX23はそれぞれが結合して環を形成してもよく、X22およびX24はそれぞれが結合して環を形成してもよい。)
【0063】
一般式(2)において、2価の有機基としては、水素原子の一部がアリール基により置換されていてもよい、炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基、または、炭素数5~8のシクロアルキレン基が好ましい。
【0064】
一般式(2)において、X21~X24のアルキル基としては、炭素数1~8の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が好ましい。X21~X24のアミノアルキル基としては、炭素数1~8の直鎖状または分岐鎖状のアミノアルキル基が好ましい。X21~X24のアリール基としては、スルホニル基を介して窒素原子と結合していてもよい、ヒドロキシフェニル基、メチルフェニル基またはトリメチルフェニル基が好ましい。
【0065】
一般式(2)におけるX21~X24としては、水素原子または置換もしくは非置換のアミノアルキル基が好ましく、水素原子または炭素数1~8のアミノアルキル基がより好ましい。
【0066】
また、一般式(2)において、X21およびX23はそれぞれが結合して環を形成してもよく、X22およびX24はそれぞれが結合して環を形成してもよい。そのような環としては、これらが結合する2つの窒素原子およびR21とともに形成される含窒素複素環が好ましい。
【0067】
アミン化合物(2)としては、(R,R)-N-(2-アミノ-1,2-ジフェニルエチル)-p-トルエンスルホンアミド、(S,S)-N-(2-アミノ-1,2-ジフェニルエチル)-p-トルエンスルホンアミド、(1R,2R)-1,2-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)エチレンジアミン、(1S,2S)-1,2-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)エチレンジアミン、(1R,2R)-1,2-ビス(2-ヒドロキシフェニル)エチレンジアミン、(1S,2S)-1,2-ビス(2-ヒドロキシフェニル)エチレンジアミン、N,N’,N’’-トリメチルジエチレントリアミン、(1R,2R)-(-)-1,2-シクロヘキサンジアミン、(1S,2S)-(+)-1,2-シクロヘキサンジアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ジエチレントリアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジフェニルエチレンジアミン、(1S,2S)-(-)-1,2-ジフェニルエチレンジアミン、(1R,2R)-(+)-1,2-ジフェニルエチレンジアミン、(R,R)-(-)-2,3-ジメトキシ-1,4-ビス(ジメチルアミノ)ブタン、(S,S)-(+)-2,3-ジメトキシ-1,4-ビス(ジメチルアミノ)ブタン、(1R,2R)-(-)-N,N’-ジメチルシクロヘキサン-1,2-ジアミン、(1S,2S)-(+)-N,N’-ジメチルシクロヘキサン-1,2-ジアミン、N,N’-ジ-tert-ブチルエチレンジアミン、(1R,2R)-N,N’-ジメチル-N,N’-ビス(3,3-ジメチルブチル)シクロヘキサン-1,2-ジアミン、(1S,2S)-N,N’-ジメチル-N,N’-ビス(3,3-ジメチルブチル)シクロヘキサン-1,2-ジアミン、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。
【0068】
アミン化合物(2)としては、なかでも、正極合剤の粘度の上昇を一層抑制できることから、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、ジエチレントリアミンおよびトリエチレンテトラミンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0069】
有機リン化合物(3)
有機リン化合物(3)は、少なくとも1つの炭素原子-リン原子の結合を含む化合物である。有機リン化合物(3)としては、有機リン化合物(3)(ただし、オキサラト錯体化合物(7)を除く)が好ましく、ホスフィン化合物がより好ましい。
【0070】
有機リン化合物(3)としては、一般式(3-1)または一般式(3-2)で表される化合物が挙げられる。
一般式(3-1):
【化6】
【0071】
一般式(3-2):
【化7】
(式(3-1)および式(3-2)中、aは1または2を表す。R31は、水素原子、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の、置換もしくは非置換の炭化水素基、置換もしくは非置換のメタロセニル基、または、置換もしくは非置換の複素環基を表す。R32およびR33は、独立に、アルキル基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換の複素環基、または、アリール基を表す。aが2の場合、2つずつ存在するR32およびR33は、同一であっても異なっていてもよい。)
【0072】
一般式(3-1)または一般式(3-2)で表される化合物は、ハロゲン化物アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン等のアニオンとともに、塩を形成することもできる。
【0073】
一般式(3-1)および一般式(3-2)において、炭化水素基は、酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を含むこともできる。上記炭化水素基の炭素数は、1~40であってよい。
【0074】
一般式(3-1)および一般式(3-2)において、アルキル基の炭素数は、1~30であってよい。シクロアルキル基の炭素数は3~8であってよい。アリール基としては、アルキル基、アミノ基、ハロゲン原子、ニトリル基、アルコキシ基またはスルホ基で置換されていてもよいフェニル基が好ましい。
【0075】
リン原子を1つ有する有機リン化合物(3)としては、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)-1,3,2-ジアザホスホリジン2-オキシド、(2-ブロモフェニル)ジフェニルホスフィン、ビス(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィン、2-ブテニル(ジ-tert-ブチル)ホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、ジ-tert-ブチル(1-メチル-2,2-ジフェニルシクロプロピル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(1-メチル-2,2-ジフェニルシクロプロピル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(1,1-ジフェニル-1-プロペン-2-イル)ホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィノベンゼン-3-スルホン酸ナトリウム、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、メチル(ジフェニル)ホスフィンオキシド、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、4-(ジメチルアミノ)フェニルジフェニルホスフィン、(R)-N,N-ジメチル-1-[(S)-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルアミン、(S)-N,N-ジメチル-1-[(R)-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルアミン、ジフェニルプロピルホスフィン、(R)-(+)-2-ジフェニルホスフィノ-2’-メトキシ-1,1’-ビナフチル、2-(ジフェニルホスフィノ)安息香酸、4-(ジフェニルホスフィノ)安息香酸、(S)-1-(ジフェニルホスフィノ)-2-[(S)-4-イソプロピルオキサゾリン-2-イル]フェロセン、1-[2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェニル]-3,5-ジフェニル-1H-ピラゾール、ジ-tert-ブチルフェニルホスフィン、2-ジフェニルホスフィノ-2’-(N,N-ジメチルアミノ)ビフェニル、2-(ジフェニルホスフィノ)ベンズアルデヒド、(4-ジメチルアミノフェニル)ジ-tert-ブチルホスフィン、ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン、2-(ジフェニルホスフィノ)ビフェニル、ジ-1-アダマンチルホスフィン、3-(ジフェニルホスフィノ)-1-プロピルアミン、2-(ジフェニルホスフィノ)ベンゾニトリル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’-メチルビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジイソプロポキシビフェニル、2-ジ-tert-ブチルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル、ジシクロヘキシル(2,4,6-トリイソプロピルフェニル)ホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、イソプロピルジフェニルホスフィン、メトキシメチル(ジフェニル)ホスフィンオキシド、メチルジフェニルホスフィン、1-メチル-1-[4-(ジフェニルホスフィノ)ベンジル]ピロリジニウムブロミド、(ペンタフルオロフェニル)ジフェニルホスフィン、1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1’-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン、トリブチルホスフィン、トリ-n-オクチルホスフィン、トリ-n-オクチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(p-トリル)ホスフィン、トリブチルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリ(m-トリル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリ(2-フリル)ホスフィン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩、トリ(2-チエニル)ホスフィン、トリ-tert-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン-3,3’,3”-トリスルホン酸トリナトリウム塩、トリシクロペンチルホスフィン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン、トリス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィン、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボレート、トリシクロヘキシルホスホニウムテトラフルオロボラート、トリス(4-フルオロフェニル)ホスフィン、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジ-tert-ブチル(1,1-ジフェニル-1-プロペン-2-イル)ホスフィン等が挙げられる。
【0076】
リン原子を2つ有する有機リン化合物(3)としては、(2S,3S)-(+)-1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)-2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ブタンジオール、(2R,3R)-(-)-1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)-2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ブタンジオール、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、(S)-(-)-2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、(R)-(+)-2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、1,6-ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘキサン、1,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、トランス-1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エチレン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、(S,S)-1,2-ビス[(tert-ブチル)メチルホスフィノ]エタンビス(ボラン)、(±)-2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)ビフェニル、(2S,3S)-(-)-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテン、1,1’-ビス(ジイソプロピルホスフィノ)フェロセン、1,1’-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン、4,6-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジン、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル、(R,R)-1,2-ビス[(2-メトキシフェニル)フェニルホスフィノ]エタン、(S,S)-1,2-ビス[(2-メトキシフェニル)フェニルホスフィノ]エタン、(R,R’’)-2,2’’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’’-ビフェロセン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、1,2-ビス[ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノ]エタン、(2R,3R)-(-)-2,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-5-エン、(2S,3S)-(+)-2,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-5-エン、1,8-ビス(ジフェニルホスフィノ)ナフタレン、1,3-ビス[(ジ-tert-ブチルホスフィノ)オキシ]ベンゼン、4,5-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテン、(R,R)-(-)-2,3-ビス(tert-ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン、(S,S)-(+)-2,3-ビス(tert-ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン、N,N-ビス[(ジフェニルホスフィノ)メチル]-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミン、(R)-N,N-ジメチル-1-[(S)-1’,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルアミン、(S)-N,N-ジメチル-1-[(R)-1’,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルアミン等が挙げられる。
【0077】
また、有機リン化合物(3)としては、一般式(3-1)で表される化合物が好ましい。さらに、一般式(3-1)において、aが1であって、R31~R33が、独立に、炭素数1~4のアルキル基または置換もしくは非置換のフェニル基である化合物、および、aが2であって、R31が炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、R32~R33が、独立に、置換もしくは非置換のフェニル基である化合物からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0078】
有機リン化合物(3)としては、なかでも、正極合剤の粘度の上昇を一層抑制できることから、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、および、一般式:Ph-P-R31-P-Ph(式中、R31は炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基を表し、Phはフェニル基を表す。)で表されるジホスフィン化合物からなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましい。
【0079】
含硫黄化合物(4)
含硫黄化合物(4)としては、硫黄原子を含有する化合物であれば特に限定されないが、有機硫黄化合物であることが好ましく、たとえば、含硫黄複素環化合物、スルホン酸エステル化合物、硫酸エステル化合物等が挙げられる。含硫黄化合物(4)としては、含硫黄複素環化合物およびスルホン酸エステル化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、含硫黄複素環化合物がより好ましい。
【0080】
スルホン酸エステル化合物としては、メタンスルホン酸エチル等が挙げられる。
【0081】
含硫黄複素環化合物は、硫黄原子を含有する置換または非置換の複素環式化合物であり、非芳香族化合物であっても、芳香族化合物であってもよい。また、単環化合物であっても、多環化合物であっても、縮合環化合物であってもよい。含硫黄複素環化合物の炭素数は、好ましくは1~12である。
【0082】
含硫黄複素環化合物としては、エチレンスルフィド、トリメチレンスルフィド、テトラヒドロチオフェン、ペンタメチレンスルフィド、チオフェン、2-チオフェンカルボン酸、2,5-ジメチルチオフェン、2-メチルテトラヒドロチオフェン、2,2’-ビチオフェン、1,3-プロパンスルトン等が挙げられる。
【0083】
含硫黄複素環化合物としては、炭素数2~6の含硫黄複素環式飽和単環化合物、炭素数4~6の含硫黄複素環式不飽和単環化合物および炭素数8~12の含硫黄複素環式不飽和多環化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0084】
含硫黄複素環化合物としては、なかでも、正極合剤の粘度の上昇を一層抑制できることから、エチレンスルフィド、トリメチレンスルフィド、テトラヒドロチオフェン、ペンタメチレンスルフィド、チオフェン、2,2’-ビチオフェンおよび1,3-プロパンスルトンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0085】
アミノカーボネート化合物(5)
アミノカーボネート化合物(5)は、カルボキシ基を有するアミン化合物であり、上記のカルボキシ基を有するアミン化合物において、カルボキシ基の一部または全部がヒドロキシ基に置換されたヒドロキシアミノカーボネート化合物であってもよい。また、アミノカーボネート化合物(5)は、水和物であってもよい。
【0086】
アミノカーボネート化合物(5)は、一般式(5)で表される。
一般式(5):
【化8】
(式中、R51は、有機基を表し、R52は単結合またはアルキレン基を表し、X52は-OHまたは-COOZ52(Z52は水素原子またはアルカリ金属)を表し、R53は、単結合またはアルキレン基を表し、X53は、-H、-OHまたは-COOZ53(Z53は水素原子またはアルカリ金属)を表し、bは1または2を表す。)
【0087】
一般式(5)において、有機基としては、炭素数1~4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、炭素数4~6の置換もしくは非置換のシクロアルキレン基、酸素原子、窒素原子もしくはアリーレン基を含む置換もしくは非置換のアルキレン基、または、-R54COOZ54(R54は単結合またはアルキレン基、Z54は水素原子またはアルカリ金属)が好ましい。
【0088】
アミノカーボネート化合物(5)としては、1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸、trans-1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸一水和物、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、1,2-ジアミノプロパン-N,N,N’,N’-四酢酸、1,3-ジアミノ-2-プロパノール-N,N,N’,N’-四酢酸、1,6-ジアミノヘキサン-N,N,N’,N’-四酢酸、エチレンジアミン四酢酸二アンモニウム一水和物、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム二水和物、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン四酢酸銅(II)二ナトリウム四水和物、エチレンジアミン四酢酸マグネシウム二ナトリウム水和物、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム二水和物、エチレングリコールビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(GEDTA)、エチレンジアミン-N,N’-二酢酸、エチレンジアミン-N,N’-二酢酸-N,N’-ジプロピオン酸水和物、エチレンジアミン四酢酸水素三ナトリウム水和物、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸(HEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、1,3-プロパンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン-N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’-六酢酸(TTHA)、N,N-ビス(カルボキシメチル)-L-グルタミン酸四ナトリウム(GLDA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)等が挙げられる。
【0089】
アミノカーボネート化合物(5)としては、なかでも、正極合剤の粘度の上昇を一層抑制できることから、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、N,N-ビス(カルボキシメチル)-L-グルタミン酸四ナトリウム(GLDA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸(HEDTA)、エチレングリコールビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(GEDTA)、トリエチレンテトラミン-N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’-六酢酸(TTHA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、および、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0090】
カルボン酸(6)
カルボン酸(6)(ただし、アミノカーボネート化合物(5)を除く)は、-COOZ64(Z64は水素原子またはアルカリ金属)を有する有機酸である。1分子中に1つの-COOZ64を有するモノカルボン酸であってもよいし、1分子中に2以上の-COOZ64を有する多価カルボン酸であってもよい。
【0091】
カルボン酸(6)の炭素数としては、-COOZ64を構成する炭素原子の数も含めて、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~6である。カルボン酸(6)は、窒素原子を含有しないものが好ましい。
【0092】
カルボン酸(6)としては、酢酸、アクリル酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、プロピオン酸、マレイン酸、酪酸、シトラコン酸、酒石酸、リンゴ酸、トリグリコラミン酸等が挙げられる。
【0093】
カルボン酸(6)としては、なかでも、正極合剤の粘度の上昇を一層抑制できることから、酢酸、マレイン酸、ピルビン酸、ギ酸、マロン酸、アクリル酸、シトラコン酸、酒石酸、リンゴ酸およびトリグリコラミン酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0094】
オキサラト錯体化合物(7)
オキサラト錯体化合物(7)としては、少なくとも一つのシュウ酸イオンが配位原子と配位結合して形成される錯体化合物が好ましい。
【0095】
オキサラト錯体化合物(7)としては、一般式(7)で表される化合物が挙げられる。
一般式(7):
【化9】
(式中、Aa+は金属イオン、水素イオンまたはオニウムイオン。aは1~3の整数、bは1~3の整数、pはb/a、n73は1~4の整数、n71は0~8の整数、n72は0または1、Z71は遷移金属、周期律表のIII族、IV族またはV族の元素。
71は、O、S、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のハロゲン化アルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基または炭素数6~20のハロゲン化アリーレン基(アルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基、および、ハロゲン化アリーレン基はその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またn72が1でn73が2~4のときにはn73個のX71はそれぞれが結合していてもよい)。
71は、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン化アリール基(アルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基、および、ハロゲン化アリーレン基はその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またn71が2~8のときにはn71個のL71はそれぞれが結合して環を形成してもよい)または-Z7373
71、Y72およびZ73は、それぞれ独立でO、S、NY74、炭化水素基またはフッ素化炭化水素基。Y73およびY74は、それぞれ独立でH、F、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のアリール基または炭素数6~20のハロゲン化アリール基(アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基およびハロゲン化アリール基はその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、Y73またはY74が複数個存在する場合にはそれぞれが結合して環を形成してもよい)。
【0096】
a+としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、バリウムイオン、セシウムイオン、銀イオン、亜鉛イオン、銅イオン、コバルトイオン、鉄イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、チタンイオン、鉛イオン、クロムイオン、バナジウムイオン、ルテニウムイオン、イットリウムイオン、ランタノイドイオン、アクチノイドイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、水素イオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラメチルホスホニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオン、トリフェニルスルホニウムイオン、トリエチルスルホニウムイオン等が挙げられる。
【0097】
電気化学的なデバイス等の用途に使用する場合、Aa+は、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、水素イオンが好ましく、リチウムイオンが特に好ましい。Aa+のカチオンの価数aは、1~3の整数である。3より大きい場合、結晶格子エネルギーが大きくなるため、溶媒に溶解することが困難になるという問題が起こる。そのため溶解度を必要とする場合は1がより好ましい。アニオンの価数bも同様に1~3の整数であり、特に1が好ましい。カチオンとアニオンの比を表す定数pは、両者の価数の比b/aで必然的に決まる。
【0098】
次に、一般式(7)の配位子の部分について説明する。本明細書において、一般式(7)におけるZ71に結合している有機または無機の部分を配位子と呼ぶ。
【0099】
71は、Al、B、V、Ti、Si、Zr、Ge、Sn、Cu、Y、Zn、Ga、Nb、Ta、Bi、P、As、Sc、HfまたはSbであることが好ましく、Al、BまたはPであることがより好ましい。
【0100】
71は、O、S、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のハロゲン化アルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基または炭素数6~20のハロゲン化アリーレン基を表す。これらのアルキレン基およびアリーレン基はその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよい。具体的には、アルキレン基およびアリーレン基上の水素の代わりに、ハロゲン原子、鎖状または環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、アルキレン基およびアリーレン基上の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。またn72が1でn73が2~4のときには、n73個のX71はそれぞれが結合していてもよい。そのような例としては、エチレンジアミン四酢酸のような配位子を挙げることができる。
【0101】
71は、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン化アリール基または-Z7373(Z73、Y73については後述)を表す。ここでのアルキル基およびアリール基も、X71と同様に、その構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またn71が2~8のときにはn71個のL71はそれぞれが結合して環を形成していてもよい。L71としては、フッ素原子またはシアノ基が好ましい。
【0102】
71、Y72およびZ73は、それぞれ独立で、O、S、NY74、炭化水素基またはフッ素化炭化水素基を表す。Y71およびY72は、O、SまたはNY74であることが好ましく、Oであることがより好ましい。オキサラト錯体化合物(7)の特徴として、同一の配位子内にY71およびY72によるZ71との結合があるため、これらの配位子がZ71とキレート構造を構成している。このキレートの効果により、この化合物の耐熱性、化学的安定性、耐加水分解性が向上している。この配位子中の定数n72は0または1であるが、特に、0の場合はこのキレートリングが五員環になるため、キレート効果が最も強く発揮され安定性が増すため好ましい。
なお、本明細書において、フッ素化炭化水素基は、炭化水素基の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子に置換された基である。
【0103】
73およびY74は、それぞれ独立で、H、F、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のアリール基または炭素数6~20のハロゲン化アリール基であり、これらのアルキル基およびアリール基は、その構造中に置換基またはヘテロ原子を有してもよく、またY73またはY74が複数個存在する場合には、それぞれが結合して環を形成してもよい。
【0104】
また、上述した配位子の数に関係する定数n73は、1~4の整数であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは2である。また、上述した配位子の数に関係する定数n71は、0~8の整数であり、好ましくは0~4の整数であり、より好ましくは0、2または4である。さらに、n73が1のときn71は2、n73が2のときn71は0であることが好ましい。
【0105】
一般式(7)において、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、ハロゲン化アリール基は、分岐や水酸基、エーテル結合等の他の官能基を持つものも含む。
【0106】
オキサラト錯体化合物(7)としては、一般式(7-1):
【化10】
(式中、Aa+、a、b、p、n71、Z71およびL71は上述したとおり)で示される化合物、または、一般式(7-2):
【化11】
(式中、Aa+、a、b、p、n71、Z71およびL71は上述したとおり)で示される化合物であることが好ましい。
【0107】
オキサラト錯体化合物(7)としては、リチウムオキサラトボレート塩類が挙げられ、下記式:
【化12】
で示されるリチウムビス(オキサラト)ボレート(LIBOB)、下記式:
【化13】
で示されるリチウムジフルオロオキサラトボレート(LIDFOB)等が挙げられる。
【0108】
オキサラト錯体化合物(7)としては、また、下記式:
【化14】
で示されるリチウムジフルオロオキサラトホスファナイト(LIDFOP)、下記式:
【化15】
で示されるリチウムテトラフルオロオキサラトホスファナイト(LITFOP)、下記式:
【化16】
で示されるリチウムビス(オキサラト)ジフルオロホスファナイト等が挙げられる。
【0109】
その他、錯体中心元素がホウ素であるジカルボン酸錯体塩の具体例としては、リチウムビス(マロナト)ボレート、リチウムジフルオロ(マロナト)ボレート、リチウムビス(メチルマロナト)ボレート、リチウムジフルオロ(メチルマロナト)ボレート、リチウムビス(ジメチルマロナト)ボレート、リチウムジフルオロ(ジメチルマロナト)ボレート等が挙げられる。
【0110】
錯体中心元素がリンであるジカルボン酸錯体塩の具体例としては、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、リチウムトリス(マロナト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(マロナト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(マロナト)ホスフェート、リチウムトリス(メチルマロナト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(メチルマロナト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(メチルマロナト)ホスフェート、リチウムトリス(ジメチルマロナト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(ジメチルマロナト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(ジメチルマロナト)ホスフェート等が挙げられる。
【0111】
錯体中心元素がアルミニウムであるジカルボン酸錯体塩の具体例としては、LiAl(C、LiAlF(C)等が挙げられる。
【0112】
なかでも、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェートが、正極合剤の粘度の上昇を一層抑制できることから、より好適に用いられる。
オキサラト錯体化合物(7)としては、リチウムビス(オキサラト)ボレートが特に好ましい。
【0113】
本開示の正極合剤において、添加剤(D)の含有量は、PVdF(A)および正極活物質(C)の合計質量に対して、好ましくは0.001~5質量%であり、より好ましくは0.005質量%以上であり、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは3.0質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以下であり、特に好ましくは2.0質量%以下である。添加剤(D)の含有量を上記範囲とすることにより、正極合剤の粘度の上昇を一層抑制することができ、より一層密度が高い正極を形成でき、初期充放電効率がより一層高い電池を得ることができる。
【0114】
有機溶剤
本開示の正極合剤は、有機溶剤を含むことが好ましい。上記有機溶剤としては、たとえば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;さらに、それらの混合溶剤等の低沸点の汎用有機溶剤を挙げることができる。なかでも、上記有機溶剤としては、塗布性に優れている点から、N-メチル-2-ピロリドン、および/または、N,N-ジメチルアセトアミドであることが好ましい。
【0115】
本開示の正極合剤において、上記有機溶剤の含有量は、集電体への塗布性、乾燥後の薄膜形成性等を考慮して決定される。本開示の正極合剤において、PVdF(A)および正極活物質(C)の合計含有量は、好ましくは50~90質量%であり、より好ましくは60~85質量%であり、さらに好ましくは65~80質量%である。また、本開示の正極合剤において、添加剤(C)および有機溶剤の合計含有量は、好ましくは10~50質量%であり、より好ましくは15~40質量%であり、さらに好ましくは20~35質量である。
【0116】
また、PVdF(A)は、上記有機溶剤に対する速やかな溶解を可能とするために、平均粒径1000μm以下、特に350μm以下の、小粒径で使用に供することが望ましい。
【0117】
導電剤
本開示の正極合剤は、導電剤を含むことが好ましい。上記導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック類やグラファイト等の炭素材料、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等が挙げられる。
【0118】
本開示の正極合剤において、PVdF(A)と導電剤との含有割合は、質量比で、5/95~90/10である。
【0119】
本開示の正極合剤を調製する方法としては、たとえば、PVdF(A)を有機溶剤に溶解させた溶液に、正極活物質(C)、添加剤(D)および所望により導電剤を分散、混合させるといった方法が挙げられる。また、PVdF(A)と正極活物質(C)とを先に混合した後、有機溶剤、添加剤(D)および所望により導電剤を添加する方法により、正極合剤を調製してもよいし、PVdF(A)を有機溶剤に溶解させた溶液に、添加剤(D)および所望により導電剤を添加し、混合した後、正極活物質(C)をさらに添加して、混合する方法により、正極合剤を調製してもよい。
【0120】
本開示の正極合剤の粘度は、塗布が容易であり、所望の厚みを有する正極合剤層を得ることも容易であることから、好ましくは1000~80000mPa・sであり、より好ましくは3000~70000mPa・sであり、さらに好ましくは5000~60000mPa・sである。上記粘度は、B型粘度計により、25℃で測定できる。
【0121】
正極
本開示の正極は、上述した正極合剤から形成される。上述した正極合剤を用いて正極を形成する方法としては、例えば、上述した正極合剤を集電体に塗布して、乾燥、プレスすることにより、集電体上に薄い正極合剤層を形成し、薄膜状電極とする方法が挙げられる。すなわち、本開示の正極は、集電体と、上記集電体上に、上述した正極合剤から形成される正極合剤層とを備えることが、好ましい実施態様の1つである。
【0122】
上記集電体としては、例えば、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属網等が挙げられ、なかでも、アルミニウム箔が好ましい。
【0123】
二次電池
本開示の二次電池は、上述した正極を備える。本開示の二次電池は、上述した正極に加えて、負極および非水電解液をさらに備えることが好ましい。
【0124】
上記非水電解液は特に限定されるものではないが、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチルラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の公知の溶媒の1種もしくは2種以上が使用できる。電解質も従来公知のものがいずれも使用でき、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCl、LiBr、CHSOLi、CFSOLi、炭酸セシウム等を用いることができる。
【0125】
本開示の正極合剤は、非水電解液二次電池用として、以上に説明した液状電解質を用いたリチウムイオン二次電池だけでなく、ポリマー電解質リチウム二次電池にも有用である。また、電気二重層キャパシタ用としても有用である。
【0126】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0127】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
ポリビニリデンフルオライド(A)、
一般式(C):LiNi1-x
(式中、xは、0.01≦x≦0.7、yは、0.9≦y≦2.0であり、Mは金属原子(但しLiおよびNiを除く)を表す)で表される正極活物質(C)、および、
添加剤(D)を含有する正極合剤であって、
ポリビニリデンフルオライド(A)が、
(A1)ビニリデンフルオライド単位のみを含有する重合体、
(A3)ビニリデンフルオライド単位および極性基含有単量体単位を含有する重合体、ならびに、
(A4)ビニリデンフルオライド単位、フッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位およびテトラフルオロエチレン単位を除く)および極性基含有単量体単位を含有する重合体
からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記添加剤(D)が、
一般式(1)で表されるジケトン化合物(1)、
一般式(2)で表されるアミン化合物(2)、
有機リン化合物(3)、
含硫黄化合物(4)、
一般式(5)で表されるアミノカーボネート化合物(5)、
カルボン酸(6)(ただし、アミノカーボネート化合物(5)を除く)、および、
オキサラト錯体化合物(7)
からなる群より選択される少なくとも1種である
ことを特徴とする正極合剤が提供される。
【0128】
一般式(1):
【化17】
(式中、R11およびR13は、独立に、ヘテロ原子またはカルボニル基を含んでいてもよい1価の炭化水素基を表し、R12は2価の炭化水素基または2価のヘテロ原子を表し、R11、R12およびR13はそれぞれが結合して環を形成してもよい。)
【0129】
一般式(2):
【化18】
(式中、R21は単結合または2価の有機基を表す。X21~X24は、独立に、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、または、スルホニル基を介して窒素原子と結合していてもよいアリール基を表す。X21およびX23はそれぞれが結合して環を形成してもよく、X22およびX24はそれぞれが結合して環を形成してもよい。)
【0130】
一般式(5):
【化19】
(式中、R51は、有機基を表し、R52は単結合またはアルキレン基を表し、X52は-OHまたは-COOZ52(Z52は水素原子またはアルカリ金属)を表し、R53は、単結合またはアルキレン基を表し、X53は、-H、-OHまたは-COOZ53(Z53は水素原子またはアルカリ金属)を表し、bは1または2を表す。)
<2> 本開示の第2の観点によれば、
ポリビニリデンフルオライド(A)が、
(A3)ビニリデンフルオライド単位および極性基含有単量体単位を含有する重合体、ならびに、
(A4)ビニリデンフルオライド単位、フッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位およびテトラフルオロエチレン単位を除く)および極性基含有単量体単位を含有する重合体
からなる群より選択される少なくとも1種である第1の観点による正極合剤が提供される
<3> 本開示の第3の観点によれば、
ポリビニリデンフルオライド(A4)が含有する前記フッ素化単量体単位が、ヘキサフルオロプロピレン単位、フルオロアルキルビニルエーテル単位、クロロトリフルオロエチレン単位および2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位からなる群より選択される少なくとも1種である第1または第2の観点による正極合剤が提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
添加剤(D)の含有量が、ポリビニリデンフルオライド(A)および正極活物質(C)の合計質量に対して、0.001~5質量%である第1~第3のいずれかの観点による正極合剤が提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
有機溶剤をさらに含有する第1~第4のいずれかの観点による正極合剤が提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
第1~第5のいずれかの観点による正極合剤から形成される正極が提供される。
<7> 本開示の第7の観点によれば、
第6の観点による正極を備える二次電池が提供される。
【実施例
【0131】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0132】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0133】
<PVdF(A-I)の組成>
PVdF(A-I)におけるアクリル酸単位の含有量は、カルボン酸基の酸-塩基滴定によって測定した。具体的には、約0.5gのPVdF(A-I)を、70~80℃の温度でアセトンに溶解させた。5mlの水を、PVdF(A-I)の凝固を回避するように激しい撹拌下に滴々加えた。約-270mVでの中性転移で、酸性度の完全な中和まで0.1Nの濃度を有する水性NaOHでの滴定を実施した。測定した酸当量に基づいて、測定結果から、PVdF(A-I)1g中に含まれるアクリル酸の含有物質量を求め、アクリル酸単位の含有量を算出した。
【0134】
<重量平均分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した。東ソー社製のAS-8010、CO-8020、カラム(GMHHR-Hを3本直列に接続)、および、島津製作所社製RID-10Aを用い、溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)を流速1.0ml/分で流して測定したデータ(リファレンス:ポリスチレン)より算出した。
【0135】
<融点>
示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対する温度として求めた。
【0136】
<粘度>
正極合剤の粘度は、B型粘度計(東機産業社製、TV-10M)を用いて、25℃、ロータNo.M4、回転速度6rpmの条件にて測定し、測定開始から10分経過後の測定値を粘度とした。
【0137】
<粘度変化率>
合剤調製時の粘度(η0)、合剤調製からn時間経過後の粘度(ηn)をそれぞれ測定し、粘度変化率(Xn)を下記の式により求めた。
Xn=ηn/η0×100[%]
粘度変化率(X)が200%以下である正極合剤を用いると、良好な特性を示す正極の作成が可能である。粘度変化率(X)が200%超300%以下である正極合剤を用いると、平滑な表面を有する正極合剤層を形成できないなどの不都合が生じる。粘度変化率(X)が300%を超える正極合剤は塗布が困難である。
【0138】
(正極の密度の測定)
作製した電極を、ロールプレス機により、10t加圧で圧延した。密度は、面積/膜厚/重量を測定して算出した。
【0139】
(リチウムイオン二次電池の作製)
実施例および比較例で作製した片面に正極合剤層を備える正極を、幅50mm、長さ30mmの塗工部(正極合剤層)、および、幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出した。
【0140】
人造黒鉛98質量部に、増粘剤および結着剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)1質量部およびスチレンブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレンブタジエンゴムの濃度50質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、幅52mm、長さ32mmの塗工部(負極材料層)、および、幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出して負極とした。
【0141】
(アルミラミネートセルの作製)
上記の正極と負極を厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルム(セパレータ)を介して正極と負極を対向させ、上記で得られた非水電解液を注入し、上記非水電解液がセパレータ等に充分に浸透した後、封止、エージングを行い、リチウムイオン二次電池(アルミラミネートセル)を作製した。
【0142】
(NCAを使用したリチウムイオン二次電池の電池特性の測定)
得られたアルミラミネートセルについて、下記のように初期充放電効率を調べた。
【0143】
(NCAを使用したリチウムイオン二次電池の初期充放電効率の測定)
25℃において、0.2Cの定電流で4.3Vまで充電後、さらに4.3Vの定電圧で電流値が0.02Cになるまで充電し、充電容量(mAh)とした。その後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電し、放電容量(mAh)を求めた。放電容量を充電容量で除した後、100を乗ずることによって、初期充放電効率(%)を求めた。結果を表1に示す。
初期充放電効率(%)=放電容量(mAh)/充電容量(mAh)×100
【0144】
実施例および比較例では、次の重合体を用いた。
<PVdF(A)>
A-I:アクリル酸単位を含有するPVdF
アクリル酸単位の含有量1.0モル%
重量平均分子量1100000
融点165℃
A-IV:ホモPVdF(VdF単位のみを含有する重合体)
重量平均分子量900000
融点171℃
【0145】
実施例1
PVdF(A-I)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ、濃度が8質量%のPVdF(A-I)溶液を調製した。得られたPVdF(A-I)溶液25g、添加剤(D)としてアセチルアセトンを0.5gおよび導電剤としてアセチレンブラック2gを、撹拌機を用いて混合し、混合液を得た。得られた混合液に、正極活物質(C)(LiNi0.82Co0.15Al0.03(NCA))96gを加え、固形分濃度が71質量%になるようにNMPをさらに加えて、撹拌機を用いて混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤をポリ瓶に全量移し、上記した方法により粘度を測定した。得られた正極合剤について、所定の時間が経過するごとに粘度を測定し、粘度変化率を算出した。調製した正極合剤を幅10cm、長さ45cm、厚さ20μmのアルミ箔からなる電極集電体に均一に塗布し、NMPを完全に揮発させ、正極を作製した。得られた正極を用いて、上記した方法によりリチウムイオン二次電池を作製し、初期充放電効率を評価した。結果を表1に示す。
【0146】
実施例2~10、比較例1~2
PVdF(A)および添加剤(D)を表1に記載の種類および添加量に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤、正極およびリチウムイオン二次電池を得た。得られた正極合剤、正極およびリチウムイオン二次電池について、上記した方法により評価した。結果を表1に示す。
【0147】
【表1】