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  • 特許-溶融亜鉛めっき鋼板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】溶融亜鉛めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230913BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230913BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20230913BHJP
   B21B 45/08 20060101ALN20230913BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20230913BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20230913BHJP
   C21D 1/18 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/58
C23C2/06
B21B45/08 F
C21D9/46 J
C21D9/00 A
C21D1/18 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022510548
(86)(22)【出願日】2021-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2021011993
(87)【国際公開番号】W WO2021193632
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2020057273
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】菊池 庄太
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/003447(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/024825(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/062381(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/031166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板の表面上に配された境界層と、
前記境界層の表面上に配された溶融亜鉛系めっき層と、を備え、
前記鋼板の化学組成が、質量%で、
C :0.18%以上、0.50%以下、
Si:0.10%以上、1.50%以下、
Mn:0.5%以上、2.5%以下、
sol.Al:0.001%以上、0.100%以下、
Ti:0.010%以上、0.100%以下、
S :0.0100%以下、
P :0.100%以下、
N :0.010%以下、
Nb:0%以上、0.05%以下
V :0%以上、0.50%以下、
Cr:0%以上、0.50%以下、
Mo:0%以上、0.50%以下、
B :0%以上、0.010%以下、
Ni:0%以上、2.00%以下、並びに
REM、Ca、CoおよびMgの合計:0%以上、0.0300%以下
を含有し、残部がFe及び不純物であり、
前記鋼板の表層領域において、平均結晶粒径が4.0μm以下であり、かつ結晶粒径の標準偏差が2.0μm以下であり、
前記境界層において、最大Al濃度が0.30mass%以上である
ことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.02%以上、0.05%以下
V :0.005%以上、0.50%以下、
Cr:0.10%以上、0.50%以下、
Mo:0.005%以上、0.50%以下、
B :0.0001%以上、0.010%以下、
Ni:0.01%以上、2.00%以下、並びに、
REM、Ca、CoおよびMgの合計:0.0003%以上、0.0300%以下
からなる群から選択される1種または2種以上を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記化学組成が、質量%で、
C :0.24%以上、0.50%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
本願は、2020年3月27日に、日本に出願された特願2020-057273号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の衝突安全基準の厳格化および燃費向上の観点から、自動車部材の高強度化のニーズが高まっている。自動車部材の高強度化を達成するため、ホットスタンプの適用が拡大している。ホットスタンプとは、オーステナイト単相域となる温度(Ac点)以上に加熱した(例えば900℃程度まで加熱した)ブランクをプレス加工することで、成形と同時に金型で急冷して、焼入れする技術である。この技術によれば、形状凍結性が高く、高強度のプレス成型品を製造することができる。
【0003】
亜鉛系めっき鋼板にホットスタンプを適用した場合には、ホットスタンプ後の成形品の表層に亜鉛成分が残存するため、非めっきの鋼板をホットスタンプして得られた成形品と比較して耐食性の向上効果が得られる。そのため、亜鉛系めっき鋼板へのホットスタンプの適用が拡大している。
【0004】
特許文献1には、亜鉛めっき鋼板をAc変態点以上に加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後、少なくとも2回の熱間プレス成形を行う熱間プレス成形工程と、を有し、前記熱間プレス成形工程におけるいずれの熱間プレス形成も、所定の式を満たすように行うことで製造される、熱間プレス成形鋼部材が開示されている。
【0005】
亜鉛系めっき鋼板をホットスタンプした場合には、ホットスタンプ後の成形品において、スポット溶接時に溶着(銅電極と成形品表面のめっきとが溶融し固着する現象)が発生する場合がある。スポット溶接時に溶着が発生すると、溶接不良が生じたり、銅電極を交換するために製造ラインを停止させる必要があるため、好ましくない。特許文献1では、スポット溶接時の溶着について考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/147228号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑み、スポット溶接性に優れるホットスタンプ成形体を得ることができる、溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。また、本発明は、上記特性を有した上で更に、ホットスタンプ成形体に一般的に要求される強度を有するホットスタンプ成形体を得ることができる、溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、スポット溶接時の溶着が発生する原因について調査した。その結果、本発明者は、スポット溶接時の溶着は、ホットスタンプ成形体の亜鉛系めっき層(ホットスタンプ後の溶融亜鉛系めっき層)内のボイド(空孔)の影響を大きく受けるため、亜鉛系めっき層内のボイドが少ないほど、スポット溶接時の溶着が抑制されることを知見した。本発明者は、亜鉛系めっき層中のボイドの存在によって通電経路が局所的に狭くなり、そこに過電流が流れ、過加熱されることで、電極と亜鉛系めっき層とが溶着し易くなると考えた。
【0009】
また、本発明者は、詳細なメカニズムは不明であるが、ホットスタンプ成形体に形成されるボイドは、ホットスタンプ成形時の母材-溶融亜鉛系めっき層間の熱収縮差およびめっき層内の異相間の熱収縮差に起因すると考えた。ホットスタンプ成形時の熱収縮差を低減する方法について本発明者は検討した。その結果、本発明者は、溶融亜鉛めっき鋼板において、鋼板の表層領域の平均結晶粒径を4.0μm以下とし、かつ結晶粒径の標準偏差を2.0μm以下とし、更に、鋼板と溶融亜鉛系めっき層との間に存在する境界層の最大Al濃度を0.30mass%以上とすることで、ボイド発生を抑制できることを知見した。
【0010】
本発明者は、鋼板の表層領域および境界層を上記のような構成とすることで、溶融亜鉛系めっき層中のボイド形成が抑制されるメカニズムは以下の通りと推測する。鋼板の表層領域の結晶粒の細粒化および整粒化により、境界層に均一にAlが拡散して濃化(Fe-Al合金層が形成)する。線膨張係数がFeとZnとの中間であるAlが境界層に濃化し、母材と溶融亜鉛系めっき層との熱収縮差が緩和されることで、ボイド形成が抑制されると考えられる。
【0011】
また、めっき層内において異なる相、すなわち高Zn濃度のΓ相(Fe濃度が10~30質量%)と高Fe濃度のFe-Zn固溶体(Fe濃度が50~80質量%)との熱収縮差によって、Γ相とFe-Zn固溶体との境界がボイドの発生起点になると考えられる。しかし、境界層にAlが濃化することにより、ホットスタンプ加熱時のFe-Zn合金化反応が抑制され、ボイド発生起点(Γ相とFe-Zn固溶体との境界)の増加が抑制される。これにより、ホットスタンプ成形体の亜鉛系めっき層中に形成されるボイドが減少すると推定される。
【0012】
本発明者は、鋼板の表層領域の結晶粒の細粒化および整粒化するためには、熱間圧延条件を制御することが効果的であることを知見した。本発明者は、熱間圧延の仕上げ圧延において、仕上げ圧延入側に行うデスケーリング時の水圧を制御することで、鋼板の表層領域の温度分布を制御することができ、その結果、鋼板の表層領域の結晶粒を細粒化および整粒化できることを知見した。
【0013】
上記知見に基づいてなされた本発明の要旨は以下の通りである。
[1]本発明の一態様に係る溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板と、前記鋼板の表面上に配された境界層と、前記境界層の表面上に配された溶融亜鉛系めっき層と、を備え、
前記鋼板の化学組成が、質量%で、
C :0.18%以上、0.50%以下、
Si:0.10%以上、1.50%以下、
Mn:0.5%以上、2.5%以下、
sol.Al:0.001%以上、0.100%以下、
Ti:0.010%以上、0.100%以下、
S :0.0100%以下、
P :0.100%以下、
N :0.010%以下、
Nb:0%以上、0.05%以下
V :0%以上、0.50%以下、
Cr:0%以上、0.50%以下、
Mo:0%以上、0.50%以下、
B :0%以上、0.010%以下、
Ni:0%以上、2.00%以下、並びに
REM、Ca、CoおよびMgの合計:0%以上、0.0300%以下
を含有し、残部がFe及び不純物であり、
前記鋼板の表層領域において、平均結晶粒径が4.0μm以下であり、かつ結晶粒径の標準偏差が2.0μm以下であり、
前記境界層において、最大Al濃度が0.30mass%以上である。
[2]上記[1]に記載の溶融亜鉛めっき鋼板は、前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.02%以上、0.05%以下
V :0.005%以上、0.50%以下、
Cr:0.10%以上、0.50%以下、
Mo:0.005%以上、0.50%以下、
B :0.0001%以上、0.010%以下、
Ni:0.01%以上、2.00%以下、並びに
REM、Ca、CoおよびMgの合計:0.0003%以上、0.0300%以下
からなる群から選択される1種または2種以上を含有してもよい。
[3]上記[1]または[2]に記載の溶融亜鉛めっき鋼板は、前記化学組成が、質量%で、C:0.24%以上、0.50%以下を含有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る上記態様によれば、スポット溶接性に優れ、且つホットスタンプ成形体に一般的に要求される強度を有するホットスタンプ成形体を得ることができる、溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板のGDSプロファイルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板について詳細に説明する。本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板と、鋼板上に配された境界層と、境界層上に配された溶融亜鉛系めっき層とを備える。
まず、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板を構成する鋼板について説明する。以下に、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板を構成する鋼板の化学組成の限定理由について説明する。化学組成についての%は全て質量%を示す。
【0017】
本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板を構成する鋼板の化学組成は、質量%で、C:0.18%以上、0.50%以下、Si:0.10%以上、1.50%以下、Mn:0.5%以上、2.5%以下、sol.Al:0.001%以上、0.100%以下、Ti:0.010%以上、0.100%以下、S:0.0100%以下、P:0.100%以下、N:0.010%以下、並びに、残部:Fe及び不純物を含む。以下、各元素について説明する。
【0018】
C:0.18%以上、0.50%以下
炭素(C)は、ホットスタンプ後のホットスタンプ成形体の強度を高める。C含有量が低すぎれば、上記効果が得られない。そのため、C含有量は0.18%以上とする。好ましくは、0.20%以上、0.24%以上、0.25%以上である。一方、C含有量が高すぎれば、溶融亜鉛めっき鋼板の靱性が低下する。したがって、C含有量は0.50%以下とする。好ましくは、0.45%以下、0.40%以下である。
【0019】
Si:0.10%以上、1.50%以下
Siは、ホットスタンプ成形体の疲労特性を向上させる元素である。また、Siは、再結晶焼鈍中に安定的な酸化皮膜を鋼板表面に形成することで、溶融亜鉛めっき性、特にめっき濡れ性を向上する元素でもある。これらの効果を得るため、Si含有量は0.10%以上とする。好ましくは、0.15%以上、0.18%以上である。一方、Si含有量が高すぎると、ホットスタンプ時の加熱中に鋼中のSiが拡散し、鋼板表面に酸化物を形成する。鋼板表面に形成された酸化物は、りん酸塩処理性を低下させる。また、Siは、溶融亜鉛めっき鋼板のAc点を上昇させる元素でもある。溶融亜鉛めっき鋼板のAc点が上昇すると、十分にオーステナイト化するためにホットスタンプ時の加熱温度を高くする必要があり、ホットスタンプ時の加熱温度が、溶融亜鉛系めっき層の蒸発温度を超えてしまう。そのため、Si含有量は1.50%以下とする。好ましくは、1.40%以下、1.20%以下、1.00%以下である。
【0020】
Mn:0.5%以上、2.5%以下
Mnは、鋼の焼入れ性を向上させる元素である。焼入れ性を向上させて、ホットスタンプ成形体において所望の強度を得るために、Mn含有量は0.5%以上とする。好ましくは、1.0%以上、1.5%以上である。一方、Mn含有量を2.5%超としても、焼き入れ性向上の効果が飽和すると共に、鋼が脆化して、鋳造、熱間圧延および冷間圧延時に焼割れが発生し易くなる。そのため、Mn含有量は2.5%以下とする。好ましくは、2.1%以下、2.0%以下である。
【0021】
sol.Al:0.001%以上、0.100%以下
Alは、溶鋼を脱酸して、破壊の起点となる酸化物の生成を抑制する元素である。また、Alは、ZnとFeとの合金化反応を抑制する作用、およびホットスタンプ成形体の耐食性を向上させる作用を有する元素でもある。これらの効果を得るために、sol.Al含有量は0.001%以上とする。好ましくは、0.005%以上である。一方、sol.Al含有量が過剰であると、鋼板のAc点が上昇し、十分にオーステナイト化するために加熱温度を高くする必要があり、ホットスタンプ時の加熱温度が、溶融亜鉛系めっき層の蒸発温度を超えてしまう。そのため、sol.Al含有量は0.100%以下とする。好ましくは、0.090%以下、0.070%以下、0.050%以下である。
なお、本実施形態においてsol.Alとは、酸可溶性Alを意味し、固溶状態で鋼中に存在する固溶Alのことを示す。
【0022】
Ti:0.010%以上、0.100%以下
Tiは、溶融亜鉛めっき後の耐酸化性を高める元素である。また、Tiは、鋼中のNと結合して窒化物(TiN)を形成し、Bが窒化物(BN)になることを抑制することで、鋼板の焼き入れ性を向上させる元素でもある。これらの効果を得るために、Ti含有量は、0.010%以上とする。好ましくは、0.020%以上である。一方、Ti含有量が過剰であると、Ac点が上昇して、ホットスタンプ時の加熱温度が高くなることで、生産性が低下する場合、およびFe-Zn固溶体への固溶体化が促進されて、Γ相を確保することが困難となる場合がある。また、Ti含有量が過剰であると、多量のTi炭化物が形成されて固溶C量が低減されることで、ホットスタンプ成形体の強度が低下する。更に、めっきの濡れ性が低下する場合、およびTi炭化物が過剰に析出して、ホットスタンプ成形体の靭性が劣化する場合がある。そのため、Ti含有量は0.100%以下とする。好ましくは0.070%以下である。
【0023】
S:0.0100%以下
Sは不純物として含まれる元素であり、鋼中に硫化物を形成してホットスタンプ成形体の靭性を劣化させ、耐遅れ破壊特性を低下させる元素である。そのため、S含有量は0.0100%以下とする。好ましくは、0.0050%以下である。S含有量は0%であることが好ましいが、S含有量を過度に低減すると脱Sコストが増加するため、S含有量は0.0001%以上としてもよい。
【0024】
P:0.100%以下
Pは不純物として含まれる元素であり、結晶粒界に偏析して鋼の靭性および耐遅れ破壊特性を劣化させる元素である。そのため、P含有量は0.100%以下とする。好ましくは、0.050%以下である。P含有量は0%であることが好ましいが、P含有量を過度に低減すると脱Pコストが増加するため、P含有量は0.001%以上としてもよい。
【0025】
N:0.010%以下
Nは不純物元素であり、鋼中に粗大な窒化物を形成して鋼の靭性を低下させる元素である。また、Nは、スポット溶接時にブローホールを発生し易くさせる元素でもある。更に、Bが含まれる場合には、NはBと結合することで固溶B量を減少させ、鋼板の焼き入れ性を劣化させる。そのため、N含有量は0.010%以下とする。好ましくは、0.007%以下である。N含有量は0%であることが好ましいが、N含有量を過度に低減すると製造コストが増加するため、N含有量は0.0001%以上としてもよい。
【0026】
本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板を構成する鋼板の化学組成の残部は、Fe及び不純物である。不純物としては、鋼原料もしくはスクラップから及び/又は製鋼過程で不可避的に混入し、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板をホットスタンプして得られるホットスタンプ成形体の特性を阻害しない範囲で許容される元素が例示される。
【0027】
本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板を構成する鋼板は、Feの一部に代えて、任意元素として、以下の元素を含有してもよい。以下の任意元素を含有しない場合の含有量は0%である。
【0028】
Nb:0%以上、0.05%以下
Nbは、炭化物を形成して、ホットスタンプ時に結晶粒を微細化する作用を有する。結晶粒を微細化することにより、鋼の靱性が高まる。この効果を確実に得るためには、Nb含有量は0.02%以上とすることが好ましい。しかし、Nb含有量が高すぎれば、上記効果が飽和する場合、および鋼の焼入れ性が低下する場合がある。したがって、Nb含有量は0.05%以下とする。
【0029】
V:0%以上、0.50%以下
Vは、鋼中に微細に炭窒化物を形成することで、強度を向上させる元素である。この効果を確実に得るためには、V含有量は0.005%以上とすることが好ましい。一方、V含有量が0.50%超であると、スポット溶接時に鋼の靭性が低下して、割れが発生し易くなる。そのため、V含有量は0.50%以下とする。
【0030】
Cr:0%以上、0.50%以下
Crは、鋼の焼き入れ性を向上させる元素である。この効果を確実に得るためには、Cr含有量は0.10%以上とすることが好ましい。一方、Cr含有量が0.50%超では、鋼中にCr炭化物が形成され、ホットスタンプの加熱時にCr炭化物が溶解し難くなり、焼き入れ性が劣化する。そのため、Cr含有量は0.50%以下とする。
【0031】
Mo:0%以上、0.50%以下
Moは、鋼の焼入れ性を高める元素である。この効果を確実に得るためには、Mo含有量は0.005%以上とすることが好ましい。しかし、Mo含有量が高すぎれば、上記効果が飽和する。したがって、Mo含有量は0.50%以下とする。
【0032】
B:0%以上、0.010%以下
Bは、鋼の焼き入れ性を向上させる元素である。この効果を確実に得るためには、B含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。一方、B含有量を0.010%超としても、焼き入れ性向上の効果が飽和する。そのため、B含有量は0.010%以下とする。
【0033】
Ni:0%以上、2.00%以下
Niは、鋼の靭性を向上する効果、ホットスタンプの加熱時に液相Znに起因する脆化を抑制する効果および鋼の焼き入れ性を向上する効果を有する元素である。これらの効果を確実に得るためには、Ni含有量は0.01%以上とすることが好ましい。一方、Ni含有量を2.00%超としても、上記効果が飽和する。そのため、Ni含有量は2.00%以下とする。
【0034】
REM、Ca、CoおよびMgの合計:0%以上、0.0300%以下
REM、Ca、CoおよびMgは、硫化物および酸化物を好ましい形状に制御し、粗大な介在物の形成を抑制することで、スポット溶接時の割れの発生を抑制する元素である。この効果を確実に得るために、REM、Ca、CoおよびMgの含有量の合計は0.0003%以上とすることが好ましい。なお、上記効果を確実に得るためには、REM、Ca、CoおよびMgのいずれか1種でもその含有量が0.0003%以上であればよい。一方、REM、Ca、CoおよびMgの含有量の合計が0.0300%超であると、介在物が過剰に生成してスポット溶接時に割れが発生し易くなる。そのため、REM、Ca、CoおよびMgの含有量の合計は0.0300%以下とする。
【0035】
上述した鋼板の化学組成は、一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。また、sol.Alは、試料を酸で加熱分解した後の濾液を用いてICP-AESによって測定すればよい。溶融亜鉛めっき鋼板の表面に配された溶融亜鉛系めっき層を機械研削により除去してから、化学組成の分析を行えばよい。
【0036】
本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板を構成する鋼板は、上記化学組成を有し、表層領域において、平均結晶粒径が4.0μm以下であり、かつ結晶粒径の標準偏差が2.0μm以下である。以下、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板を構成する鋼板の表層領域について説明する。
【0037】
表層領域:平均結晶粒径が4.0μm以下、結晶粒径の標準偏差が2.0μm以下
本実施形態において表層領域とは、鋼板の表面~鋼板の表面から深さ方向に25μmの位置の領域のことをいう。この表層領域における平均結晶粒径が4.0μm超または結晶粒径の標準偏差が2.0μm超であると、ホットスタンプ時の加熱における溶融亜鉛系めっき層中の亜鉛の蒸発を抑制できず、ホットスタンプ成形体において多量のボイドが形成される。その結果、ホットスタンプ成形体において所望のスポット溶接性を得ることができない。そのため、鋼板の表層領域において、平均結晶粒径は4.0μm以下とし、かつ結晶粒径の標準偏差は2.0μm以下とする。鋼板の表層領域における平均結晶粒径は小さい程好ましいため、3.5μm以下、3.0μm以下としてもよい。また、鋼板の表層領域における結晶粒径の標準偏差は小さい程好ましいため、1.8μm以下、1.5μm以下としてもよい。
【0038】
鋼板の表層領域における平均結晶粒径の下限は特に限定する必要はないが、1.5μmとしてもよい。また、鋼板の表層領域における結晶粒径の標準偏差の下限も特に限定する必要は無いが、1.0μmとしてもよい。
【0039】
表層領域の平均結晶粒径および結晶粒径の標準偏差の測定方法
表層領域の平均結晶粒径および結晶粒径の標準偏差は、EBSP-OIM(Electron Back Scatter Diffraction Pattern-Orientation Image Microscopy)法により測定する。EBSP-OIM法は、走査型電子顕微鏡とEBSP解析装置とを組み合わせた装置及びAMETEK社製のOIM Analysis(登録商標)を用いて行う。
圧延方向に平行な断面における、鋼板の表面~鋼板の表面から深さ方向に25μmの位置の領域において、1200倍の倍率、40μm×30μmの領域で、少なくとも5視野において解析を行う。隣接する測定点の角度差が5°以上の場所を結晶粒界と定義して、結晶粒の円相当径を算出し、これを結晶粒径とみなす。得られた結晶粒の結晶粒径の平均値を算出することで、表層領域における平均結晶粒径を得る。また、得られた結晶粒の結晶粒径から標準偏差を算出することで、表層領域における結晶粒径の標準偏差を得る。
なお、鋼板、境界層および溶融亜鉛系めっき層を後述の方法により特定し、鋼板と特定された領域の表層領域について上述の測定を行えばよい。
【0040】
以下に、鋼板、境界層および溶融亜鉛系めっき層を特定する方法について説明する。
溶融亜鉛めっき鋼板の任意の位置において、表面から深さ方向(板厚方向)に50μmまでFe、ZnおよびAlの濃度(質量%)をGDS(グロー放電発光分析)により測定する。本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板についてGDS測定したとき、図1に示すようなGDSプロファイルを得ることができる。本実施形態では、Fe濃度が85質量%以上である深さ範囲を鋼板と定義し、Zn濃度が90質量%以上である深さ範囲を溶融亜鉛系めっき層と定義する。また、鋼板と溶融亜鉛系めっき層との間の深さ範囲を境界層と定義する。
【0041】
鋼板の金属組織は、ホットスタンプ後に所望の強度およびスポット溶接性を得ることができれば特に限定されないが、面積%で、フェライト:20~90%、ベイナイトおよびマルテンサイト:0~100%、パーライト:10~80%および残留オーステナイト:0~5%からなってもよい。鋼板の金属組織は、以下の方法により測定すればよい。
【0042】
(フェライト及びパーライトの面積率の測定方法)
フェライトおよびパーライトの面積率の測定は、以下の方法で行う。圧延方向に平行な断面を鏡面に仕上げ、室温においてアルカリ性溶液を含まないコロイダルシリカを用いて8分間研磨し、サンプルの表層に導入されたひずみを除去する。サンプル断面の長手方向の任意の位置において、表面から板厚の1/4深さを分析できるように、長さ50μm、表面から板厚の1/8深さ~表面から板厚の3/8深さの領域を、0.1μmの測定間隔で電子後方散乱回折法により測定して結晶方位情報を得る。測定には、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM-7001F)とEBSP検出器(TSL製DVC5型検出器)とで構成された装置を用いる。この際、装置内の真空度は9.6×10-5Pa以下、加速電圧は15kV、照射電流レベルは13、電子線の照射レベルは62とする。さらに、同一視野において反射電子像を撮影する。
【0043】
まず、反射電子像からフェライトとセメンタイトが層状に析出した結晶粒を特定し、当該結晶粒の面積率を算出することで、パーライトの面積率を得る。その後、パーライトと判別された結晶粒を除く結晶粒に対し、得られた結晶方位情報をEBSP解析装置に付属のソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)」に搭載された「Grain Average Misorientation」機能を用いて、Grain Average Misorientation値が1.0°以下の領域をフェライトと判定する。フェライトと判定された領域の面積率を求めることで、フェライトの面積率を得る。
【0044】
(残留オーステナイトの面積率の測定方法)
残留オーステナイトの面積率は、後方散乱電子回折像(EBSP)によって測定する。EBSPによる解析は、上述のフェライトの体積率を測定する際と同一のサンプル採取位置で採取されたサンプルを用い、熱延鋼板の表面から板厚の1/4深さを分析できるように、表面から板厚の1/8深さ~表面から板厚の3/8深さの領域について行う。サンプルは、#600から#1500の炭化珪素ペーパーを使用して研磨した後、粒度1~6μmのダイヤモンドパウダーをアルコール等の希釈液や純水に分散させた液体を使用して鏡面に仕上げた後、測定断面のひずみを十分に除去することを目的に電解研磨によって仕上げられたものとする。なお、電解研磨では、観察面の機械研磨ひずみを除去するため、最小でも20μmを研磨すればよく、最大で50μm研磨すればよい。端部のダレを考慮すると30μm以下が好ましい。
【0045】
EBSPでの測定は、加速電圧を15~25kVとし、少なくとも0.25μm以下の間隔で測定し、板厚方向に150μm以上、圧延方向に250μm以上の範囲における各々の測定点の結晶方位情報を得る。得られた結晶構造のうち、EBSP解析装置に付属のソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)」に搭載された「Phase Map」機能を用いて、結晶構造がfccであるものを残留オーステナイトと判定する。残留オーステナイトと判定された測定点の比率を求めることで、残留オーステナイトの面積率を得る。
【0046】
ここで、測定点数は多いほど好ましいため、測定間隔は狭く、また、測定範囲は広い方が良い。しかし、測定間隔が0.01μm未満の場合、隣接点が電子線の広がり幅に干渉する。そのため、測定間隔は0.01μm以上とする。また、測定範囲は最大でも板厚方向に200μm、板幅方向に400μmとすればよい。また、測定には、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM-7001F)とEBSP検出器(TSL製DVC5型検出器)とで構成された装置を用いる。この際、装置内の真空度は9.6×10-5Pa以下、照射電流レベルは13、電子線の照射レベルは62とする。
【0047】
(ベイナイトおよびマルテンサイトの面積率の測定方法)
本実施形態におけるベイナイトおよびマルテンサイトの面積率の合計は、100%から、フェライト、パーライトの面積率と、前述の方法で測定される残留オーステナイトの体積率との合計を差し引いた値とする。
【0048】
本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板は、上述した鋼板と、鋼板上に配された境界層と、境界層上に配された溶融亜鉛系めっき層とを備える。以下、境界層および溶融亜鉛系めっき層について説明する。
【0049】
境界層:最大Al濃度が0.30mass%以上
本実施形態において境界層とは、上述した鋼板と、後述する溶融亜鉛系めっき層との間に存在する層のことをいう。本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板を構成する境界層は、最大Al濃度が0.30mass%以上である。境界層における最大Al濃度が0.30mass%未満であると、ホットスタンプ成形体において所望のスポット溶接性を得ることができない。そのため、境界層における最大Al濃度は0.30mass%以上とする。好ましくは、0.35mass%以上、0.40mass%以上である。境界層における最大Al濃度は高い程好ましいため、上限は特に規定する必要は無いが、1.00mass%としてもよい。
【0050】
境界層における最大Al濃度の測定方法
境界層における最大Al濃度は、以下の方法により測定する。溶融亜鉛めっき鋼板の任意の5か所において、表面から深さ方向(板厚方向)に50μmまでFe、ZnおよびAlの濃度(質量%)をGDS(グロー放電発光分析)により測定する。各測定箇所において、Fe濃度が85質量%以上である深さ範囲を鋼板と定義し、Zn濃度が90質量%以上である深さ範囲を溶融亜鉛系めっき層と定義し、鋼板と溶融亜鉛系めっき層との間の深さ範囲を境界層と定義したときの、境界層における最大のAl濃度(質量%)を求める。各測定箇所における境界層の最大のAl濃度の平均値を算出することで、境界層における最大Al濃度を得る。
【0051】
溶融亜鉛系めっき層
本実施形態において、溶融亜鉛系めっき層とは、Zn濃度が90質量%以上である層のことをいう。溶融亜鉛系めっき層には、Zn以外の元素として、Alが0.01質量%以上1.00質量%以下含まれる。また、残部として、Feが10質量%以下含まれていてもよい。
【0052】
板厚
本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の板厚は特に限定しないが、車体軽量化の観点から、0.5~3.5mmとすることが好ましい。
【0053】
次に、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
まず、上述した化学組成を有するスラブを1200℃以上に加熱し、1200℃以上の温度域で20分以上保持した後、熱間圧延を行う。810℃以上の温度域で仕上げ圧延を終了し、750℃以下の温度域で巻取る。
【0054】
本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、鋼板の表層領域の細粒化および整粒化、すなわち表層領域における平均結晶粒径を4.0μm以下、かつ結晶粒径の標準偏差を2.0μm以下とするために、仕上げ圧延におけるデスケーリングの水圧を制御する。デスケーリングは、鋼板の上面および下面に対して、ノズルにより水を噴射することで鋼板表面に形成されたスケールを除去する工程である。デスケーリングを複数のノズルにより水を噴射して行う場合は、複数のノズルの水圧のうち最大の水圧が、後述する水圧の範囲内となるように制御する。
【0055】
熱間圧延では、粗圧延および仕上げ圧延が行われる。仕上げ圧延では、複数の仕上げ圧延機により、粗圧延後のスラブが圧延される。本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、粗圧延後且つ仕上げ圧延の第1パス前(F1前)のデスケーリングおよび仕上げ圧延の第1パス後(F1後)のデスケーリングにおける水圧を制御する。デスケーリングの水圧は冷却能と比例する。F1前およびF1後のデスケーリングにおける水圧を制御することで、鋼板の表層領域の温度分布を制御する。これにより、鋼板の表層領域においてオーステナイト粒の成長を抑制して微細化させることができ、また結晶粒径を均一にすることができる。
【0056】
粗圧延後且つ仕上げ圧延の第1パス前(F1前)のデスケーリングでは、水圧は10MPa以上、40MPa以下とする。一般的に、F1前のデスケーリングは、鋼板の表面に形成されたスケールの除去を目的として行われる。F1前のデスケーリングの水圧が10MPa未満では、仕上げ圧延中に剥離したスケールを噛み込み、熱延板の凹凸が顕著になるとともに酸洗及び冷間圧延を経た後も模様として残留し、外観不良を引き起こす。また、F1前のデスケーリングの水圧が10MPa未満であると、鋼板の表層領域において所望の平均結晶粒径および結晶粒径の標準偏差を得ることができない。そのため、F1前のデスケーリングの水圧は10MPa以上とする。
【0057】
上述の通りF1前のデスケーリングは、一般的にスケールの除去を目的として行われるが、F1前のデスケーリングの水圧が高すぎると、鋼板の表層領域において所望の平均結晶粒径および結晶粒径の標準偏差を得ることができない。そのため、F1前のデスケーリングの水圧は40MPa以下とする。
【0058】
粗圧延後且つ仕上げ圧延の第1パス前(F1前)においてデスケーリングを行うだけでは、鋼板を均一に冷却することができず、復熱が生じること等の理由により、鋼板の表層領域における結晶粒径の標準偏差を小さくすることができない。そのため、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、F1前だけでなく、仕上げ圧延の第1パス後(F1後)においてもデスケーリングを行う。F1後のデスケーリングにおける水圧は、2MPa以上、10MPa以下とする。F1後のデスケーリングにおける水圧が2MPa未満、または10MPa超であると、鋼板の表層領域において、所望の結晶粒径の標準偏差を得ることができない。また、F1後のデスケーリングにおける水圧が10MPa超であると、鋼板強度が上昇して、熱間圧延後に巻取りを行うことが困難となる場合がある。
【0059】
粗圧延後且つ仕上げ圧延の第1パス前(F1前)および仕上げ圧延の第1パス後(F1後)にデスケーリングを行った場合、仕上げ圧延の第2パス後(F2後)においてもデスケーリングを行うことが好ましい。F2後においてデスケーリングを行うことで、鋼板の表層領域における結晶粒の標準偏差をより小さくすることができ、結果として溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接性をより向上することができる。F2後にデスケーリングを行う場合は、水圧は2MPa以上、10MPa以下とすることが好ましい。
仕上げ圧延の第3パス以降のデスケーリングについては特に限定されない。
【0060】
仕上げ圧延の終了後は、必要に応じて冷間圧延を行い、溶融亜鉛めっきを施す。熱間圧延と冷間圧延との間に、酸洗を行ってもよい。冷間圧延は、通常の累積圧下率、例えば累積圧下率が30~90%である冷間圧延とすればよい。
【0061】
溶融亜鉛めっきは、連続溶融亜鉛めっきラインを用いて行うとよい。溶融亜鉛系めっき層の付着量は特に限定されず、一般的なものであればよい。例えば、片面あたりのめっき付着量は5~150g/mとすればよい。
【0062】
溶融亜鉛系めっき層を合金化して合金化溶融亜鉛めっき層とすると、犠牲防食作用を発揮するめっき層中の高Zn濃度のΓ相が消失してしまい耐食性が低下する。電気亜鉛めっきでは、合金化を遅延させるための添加元素が必要となり、製造コストが増加するため望ましくない。
【0063】
以上の方法により、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。ホットスタンプ成形体を製造する場合には、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板を以下の条件でホットスタンプすることが好ましい。
【0064】
まず、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板を、加熱温度が「Ac点および800℃」のうち高い方の温度~950℃になるように加熱することが好ましい。また、加熱時間(溶融亜鉛めっき鋼板を加熱炉に入れてから、当該加熱温度で保持して、溶融亜鉛めっき鋼板を加熱炉から出すまでの時間(加熱炉搬入~加熱炉搬出の時間))を60~600秒間とすることが好ましい。なお、Ac点は下記式(1)により表される。
【0065】
加熱温度を「Ac点および800℃」のうち高い方の温度以上および加熱時間を60秒以上とすることで、十分にオーステナイト化することができ、結果として所望の強度を有するホットスタンプ成形体を得ることができる。加熱温度を950℃以下および加熱時間を600秒以下とすることで、過度に合金化することを抑制することができる。加熱時の平均加熱速度は0.1~200℃/sとすればよい。ここでいう平均加熱速度は、加熱開始時の鋼板表面温度と加熱温度との温度差を、加熱開始時から加熱温度に達した時までの時間差で除した値である。「Ac点および800℃」のうち高い方の温度~950℃の温度域における保持では、鋼板温度を変動させてもよく、一定としてもよい。
【0066】
ホットスタンプ前の加熱方法としては、電気炉やガス炉等による加熱、火炎加熱、通電加熱、高周波加熱、誘導加熱等が挙げられる。
【0067】
Ac(℃)=910-203×C0.5-30×Mn+44.7×Si+400×Ti …(1)
式(1)中の元素記号は、当該元素の質量%での含有量を示す。
【0068】
上述の加熱および保持の後、ホットスタンプを行う。ホットスタンプ後には、例えば、250℃以下の温度域まで、20~500℃/sの平均冷却速度で冷却を行うことが好ましい。
【0069】
以上の方法により、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板を用いて製造した、ホットスタンプ成形体を得ることができる。このホットスタンプ成形体は、亜鉛系めっき層(ホットスタンプ後の溶融亜鉛系めっき層)中のボイドの形成が抑制されているためスポット溶接性に優れ、且つホットスタンプ成形体に一般的に要求される強度を有する。
【実施例
【0070】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0071】
表1-1および表1-2に示す化学組成の溶鋼を鋳造して製造したスラブを1200℃以上に加熱して、20分以上保持した後、仕上げ圧延完了温度が810℃以上となるように熱間圧延を行い、更に、冷間圧延を行うことにより鋼板を得た。熱間圧延の仕上げ圧延時には、表2-1および表2-2に示す水圧で鋼板の上下面に水を噴射してデスケーリングを行った。なお、表2-1および表2-2において、「F1前」は粗圧延後且つ仕上げ圧延の第1パス前におけるデスケーリングの水圧(MPa)を示し、「F1後(F1-F2間)」は仕上げ圧延の第1パス後のデスケーリングにおける水圧(MPa)を示し、「F2後(F2-F3間)」は仕上げ圧延の第2パス後のデスケーリングにおける水圧(MPa)を示す。
【0072】
冷間圧延時の累積圧下率は30~90%とした。得られた鋼板に対し、連続溶融亜鉛めっきラインにより溶融亜鉛系めっき層を形成することで、表2-1および表2-2に示す溶融亜鉛めっき鋼板を得た。溶融亜鉛系めっき層の付着量は、片面あたり5~150g/mとした。
【0073】
得られた溶融亜鉛めっき鋼板について、上述の方法により、鋼板の表層領域の平均結晶粒径および結晶粒径の標準偏差、鋼板の金属組織、並びに、境界層の最大Al濃度を測定した。
【0074】
得られた溶融亜鉛めっき鋼板に対し、表2-1および表2-2に示す条件により、表2-1および表2-2に示すホットスタンプ成形体を製造した。なお、ホットスタンプ前の加熱における平均加熱速度は0.1~200℃/sとし、ホットスタンプ後には250℃以下の温度域まで、20~500℃/sの平均冷却速度で冷却した。
【0075】
表中の下線は、本発明の範囲外であること、好ましい製造条件を外れること又は特性値が好ましくないことを示す。
【0076】
得られたホットスタンプ成形体について、以下の方法により、ホットスタンプ成形体を構成する亜鉛系めっき層中のボイドの断面面積率を測定した。
まず、ホットスタンプ成形体の端面から50mm以上離れた任意の位置(この位置から採取できない場合は端部を避けた位置)から表面に垂直な断面(板厚断面)が観察できるようにサンプルを切り出した。サンプルの大きさは、圧延方向に10mm程度観察できる大きさとした。
【0077】
次に、観察断面を研磨して、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて300倍の倍率で撮影後、二値化画像処理によりボイドの断面面積率を算出した。ボイドの断面面積率の算出には、キーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX-5000の内蔵ソフトを用い、輝度によるボイド判別およびボイドの自動面積計測を行った。
【0078】
ホットスタンプ成形体を構成する鋼板と亜鉛系めっき層とは、SEM-EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いて、板厚方向に沿って線分析を行い、Fe濃度の定量分析を行うことで判別した。本実施例では、SEM(日立ハイテクノロジーズ社製のNB5000)、EDS(ブルカーエイエックスエス社製のXFlash(r)6│30)、EDS解析ソフトウェア(ブルカーエイエックスエス社製のESPRIT1.9)を用いた。SEM観察したときに板厚方向で最も深い位置に存在している領域であり、且つ測定ノイズを除いてFe含有量が80質量%超の領域を鋼板と判断し、それ以外の領域を亜鉛系めっき層と判断した。
【0079】
ホットスタンプ成形体の機械特性(引張強さおよびスポット溶接性)は、以下の方法により評価した。
【0080】
引張強さ
ホットスタンプ成形体の引張強さは、ホットスタンプ成形体の任意の位置からJIS Z 2241:2011に記載の5号試験片を作製し、JIS Z 2241:2011に記載の試験方法に従って求めた。引張強さが1500~2500MPaの場合を、ホットスタンプ成形体に一般的に要求される強度を有するため合格と判定した。また、引張強さが1500MPa未満の場合を強度に劣るため、引張強さが2500MPa超の場合を強度が高すぎて靭性および延性に劣るため、不合格と判定した。
【0081】
スポット溶接性
ホットスタンプ成形体について、端面から10mm以内の領域を除く位置から、100mm×30mmの試験片を2枚採取し、これらの試験片を重ね合わせ、下記の条件で電流を変化させてスポット溶接を実施した。
加圧力:400kgf
通電時間:15サイクル
保持時間:9サイクル
電極チップ形状:DR型、先端φ6mm-曲率半径R40mm
【0082】
ナゲット径が4√t(tは試験片の板厚)となる電流をIとし、更に電流を上げながらスポット溶接を行い、溶着が発生する電流(溶着電流I)を求めた。
また、得られた溶着電流Iについて、スポット溶接性を以下の基準で評価した。ただし、I(kA):ナゲット径が4√t(tは試験片の板厚)となる電流であり、I(kA):I×1.4である。良(Good)および可(Fair)と評価された例は、スポット溶接性に優れるとして合格と判定した、一方、不可(Bad)と評価された例は、スポット溶接性に劣るとして不合格と判定した。
良 (Good):I>I×1.15
可 (Fair):I×1.10<I≦I×1.15
不可(Bad):I≦I×1.10
【0083】
【表1-1】
【0084】
【表1-2】
【0085】
【表2-1】
【0086】
【表2-2】
【0087】
表2-1および表2-2を見ると、本発明例は、引張強さが1500~2500MPaであり、ホットスタンプ成形体においてボイドの断面面積率が15.0%以下に低減され、その結果としてスポット溶接性に優れることが分かる。特に、製造No.1~26は、ホットスタンプ成形体においてボイドの断面面積率が13.0%以下に低減され、スポット溶接性がより良好であった。なお、表2-1および表2-2の本発明例については、溶融亜鉛めっき鋼板を構成する鋼板の金属組織は、面積%で、フェライト:20~90%、ベイナイトおよびマルテンサイト:0~100%、パーライト:10~80%および残留オーステナイト:0~5%からなるものであった。
【0088】
一方、表2-2の比較例は、引張強さが1500~2500MPaの範囲外である、および/またはボイドの断面面積率が15.0%超となり、スポット溶接性が劣ったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明に係る上記態様によれば、スポット溶接性に優れ、且つホットスタンプ成形体に一般的に要求される強度を有するホットスタンプ成形体を得ることができる、溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
図1