(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】成形部品の製造方法、成形部品、及び自動車部品
(51)【国際特許分類】
B21D 22/20 20060101AFI20230913BHJP
B21J 15/00 20060101ALI20230913BHJP
B23K 11/00 20060101ALI20230913BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20230913BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20230913BHJP
【FI】
B21D22/20 H
B21D22/20 G
B21J15/00 D
B23K11/00 570
B23K9/00 501C
B23K26/21 N
(21)【出願番号】P 2022545312
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2021018161
(87)【国際公開番号】W WO2022044445
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2020145260
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】中田 匡浩
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/145229(WO,A1)
【文献】特開2008-067774(JP,A)
【文献】国際公開第2018/142534(WO,A1)
【文献】実開昭49-058939(JP,U)
【文献】特開2000-202563(JP,A)
【文献】国際公開第2012/036262(WO,A1)
【文献】特開平10-205510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/20
B21J 15/00
B23K 11/00
B23K 9/00
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通し孔がそれぞれに配された複数の鋼板の少なくとも一部を、前記通し孔を揃えるように重ね合せる工程と、
前記通し孔に接合部材を挿通させる工程と、
前記通し孔に前記接合部材が挿通された前記複数の鋼板を加熱する工程と、
金型を用いて、加熱された前記複数の鋼板を塑性変形させ、且つ前記接合部材を塑性変形させて前記複数の鋼板を接合する工程と、
前記鋼板に接触させた前記金型を用いて前記鋼板を冷却することによって、前記鋼板を焼き入れする工程と
を備える成形部品の製造方法。
【請求項2】
前記複数の鋼板を加熱する前に、前記複数の鋼板の重ね合わせ部を、スポット溶接、レーザ溶接、シーム溶接、及びアーク溶接からなる群から選択される一種以上の手段で溶接する工程をさらに備えることを特徴とする請求項
1に記載の成形部品の製造方法。
【請求項3】
前記焼き入れ後の前記複数の鋼板が、母材部と、前記通し孔の近傍のかしめ部とを有し、
前記焼き入れによって、前記複数の鋼板のうち、最も硬い前記鋼板の前記母材部の硬さを400HV以上730HV以下とすることを特徴とする請求項1
又は2に記載の成形部品の製造方法。
【請求項4】
前記通し孔に前記接合部材を挿通させた後、且つ前記接合部材を塑性変形させる前に、前記接合部材を前記鋼板に固定する工程
をさらに備えることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の成形部品の製造方法。
【請求項5】
前記接合部材が、前記通し孔の円相当径よりも大きい円相当径を有する頭部を有し、
前記頭部と前記鋼板とを接合することにより、前記接合部材を前記鋼板に固定することを特徴とする請求項
4に記載の成形部品の製造方法。
【請求項6】
前記接合部材の軸部が中実であり、
前記接合部材の前記軸部の直径が3.0mm以上12.0mm以下である
ことを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の成形部品の製造方法。
【請求項7】
通し孔がそれぞれに配された複数の鋼板であって、母材部と、前記通し孔の近傍のかしめ部とを有し、前記通し孔を揃えるように重ね合わせられた複数の鋼板と、
前記通し孔に挿通された軸部と、前記軸部の両端に設けられ、前記複数の鋼板を挟持する支持部とを有する接合部材と、
を備え、
前記接合部材の硬さの最大値と最小値との差が60HV以下であり、
前記複数の鋼板それぞれにおいて、前記母材部の硬さから前記かしめ部の硬さの最小値を引いた値が80HVより小さい
成形部品。
【請求項8】
前記複数の鋼板のうち、最も硬い前記鋼板の前記母材部の硬さが400HV以上730HV以下であることを特徴とする請求項
7に記載の成形部品。
【請求項9】
前記複数の鋼板の重ね合わせ部に設けられた、スポット溶接部、レーザ溶接部、シーム溶接部、及びアーク溶接部からなる群から選択される一種以上をさらに備えることを特徴とする請求項
7又は
8に記載の成形部品。
【請求項10】
前記接合部材の前記軸部が中実であり、
前記接合部材の前記軸部の直径が3.0mm以上12.0mm以下である
ことを特徴とする請求項
7~
9のいずれか一項に記載の成形部品。
【請求項11】
請求項
7~
10のいずれか一項に記載の成形部品を備える自動車部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形部品の製造方法、成形部品、及び自動車部品に関する。
本願は、2020年8月31日に、日本に出願された特願2020-145260号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化、及び衝突安全性の向上を目的として、高強度鋼板の適用が進められている。しかしながら、高強度鋼板を自動車部品に適用するにあたっては、曲げ加工の際に大きな荷重が必要となる点、また、スプリングバックが発生しやすいという点が問題となる。
【0003】
このような問題を解決する手段として、ホットスタンプがある。ホットスタンプとは、鋼板を加熱して変形抵抗を低下させ、次いで金型を用いて鋼板を成形すると同時に急冷することによって鋼板に焼入れ処理をする成形方法である。成形された鋼板は、他の部材と溶接されて、自動車部品などの種々の成形部品となる。溶接手段は、例えばスポット溶接等である。
【0004】
また、近年は、パッチワーク工法と称される技術が高強度鋼板に適用されている。これは、成形部品の材料となる複数の鋼板を溶接してから、鋼板をホットスタンプする工法である。
【0005】
パッチワーク工法の利点の一つは、成形後に接合工具(例えばスポット溶接ガン)が入り込めない場所にも接合部を配することができることである。また、接合手段が溶接である場合、パッチワーク工法によれば、スポット溶接部の靭性を向上させ、接合部の強度を向上させることもできる。スポット溶接を用いたパッチワーク工法によれば、母材及びスポット溶接のナゲット部が一旦加熱され、次いで金型で急冷される。これにより、ナゲット部の組織が改質されスポット溶接部の靭性が向上するのである。このとき同時に、スポット溶接のHAZ(熱影響部)軟化部が取り除かれ、接合部の強度が向上する作用も生じる。HAZ軟化部とは、溶接の熱で鋼板の母材の金属組織が焼き戻され軟化した部位である。パッチワーク工法によれば、HAZ軟化部も一旦加熱され、次いで金型で急冷されることにより、HAZ軟化部も再度焼き入れられ母材と同程度の機械特性となるのである。
【0006】
パッチワーク工法に関する技術として、例えば特許文献1には、一の面と他の一の面とをつなぐ稜線部を少なくとも一つ有する成形部材であって、少なくとも前記稜線部に接合される補強部材を備え、該稜線部に前記補強部材との溶接部が設けられることを特徴とする成形部材が開示されている。
【0007】
特許文献2には、2枚以上の鋼板をAc3点以上に加熱する工程;および、該鋼板の炭素当量Ceq、ならびにメカニカルクリンチ接合時の下死点保持時間tと接合開始温度Tが所定の関係式を満たすようにメカニカルクリンチ接合を行う工程;をこの順に含むことを特徴とするメカニカルクリンチ接合部品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際出願第2012/036262号
【文献】国際出願第2017/169588号
【文献】日本国特開平10-205510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高強度鋼板から構成されるスポット溶接継手には、母材鋼板の引張強さが780MPaを超えると十字引張強さ(Cross Tension Strength、CTS)が低下するという課題がある。また、鋼板の引張強さが1500MPaを超えると、十字引張強さのみならず引張せん断強さ(Tensile Shear Strength、TSS)も低下する傾向にある。
【0010】
上述のように、パッチワーク工法によれば、スポット溶接部の靭性を向上させ、接合部の強度を向上させることができる。しかしながら、本発明者らの検討の結果、1800MPa以上の引張強さを有する鋼板から構成されるスポット溶接継手においては、たとえパッチワーク工法を適用したとしても、十分な接合強度(特にCTS)が確保できないことが判明した。例えば、2枚の1800MPa級の鋼板から構成されるスポット溶接継手のCTSは、パッチワーク工法を適用したとしても、2枚の1500MPa級の鋼板から構成されるスポット溶接継手よりも劣る。これは、鋼板に多量に含まれるCの影響を、パッチワーク工法時の焼入れ処理によっても十分に除去できないからであると推定される。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明は、高い強度を有する成形部品の製造方法、成形部品、及び自動車部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の別の態様に係る成形部品の製造方法は、通し孔がそれぞれに配された複数の鋼板の少なくとも一部を、前記通し孔を揃えるように重ね合せる工程と、前記通し孔に接合部材を挿通させる工程と、前記通し孔に前記接合部材が挿通された前記複数の鋼板を加熱する工程と、金型を用いて、加熱された前記複数の鋼板を塑性変形させ、且つ前記接合部材を塑性変形させて前記複数の鋼板を接合する工程と、前記鋼板に接触させた前記金型を用いて前記鋼板を冷却することによって、前記鋼板を焼き入れする工程とを備える。
(2)上記(1)に記載の成形部品の製造方法は、前記複数の鋼板を加熱する前に、前記複数の鋼板の重ね合わせ部を、スポット溶接、レーザ溶接、シーム溶接、及びアーク溶接からなる群から選択される一種以上の手段で溶接する工程をさらに備えてもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の成形部品の製造方法では、前記焼き入れ後の前記複数の鋼板が、母材部と、前記通し孔の近傍のかしめ部とを有し、前記焼き入れによって、前記複数の鋼板のうち、最も硬い前記鋼板の前記母材部の硬さを400HV以上730HV以下としてもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の成形部品の製造方法は、前記通し孔に前記接合部材を挿通させた後、且つ前記接合部材を塑性変形させる前に、前記接合部材を前記鋼板に固定する工程をさらに備えてもよい。
(5)上記(4)に記載の成形部品の製造方法では、前記接合部材が、前記通し孔の円相当径よりも大きい円相当径を有する頭部を有し、前記頭部と前記鋼板とを接合することにより、前記接合部材を前記鋼板に固定してもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の成形部品の製造方法では、前記接合部材の軸部が中実であり、前記接合部材の前記軸部の直径が3.0mm以上12.0mm以下であってもよい。
(7)本発明の別の態様に係る成形部品は、通し孔がそれぞれに配された複数の鋼板であって、母材部と、前記通し孔の近傍のかしめ部とを有し、前記通し孔を揃えるように重ね合わせられた複数の鋼板と、前記通し孔に挿通された軸部と、前記軸部の両端に設けられ、前記複数の鋼板を挟持する支持部とを有する接合部材と、を備え、前記接合部材の硬さの最大値と最小値との差が60HV以下であり、前記複数の鋼板それぞれにおいて、前記母材部の硬さから前記かしめ部の硬さの最小値を引いた値が80HVより小さい。
(8)上記(7)に記載の成形部品では、前記複数の鋼板のうち、最も硬い前記鋼板の前記母材部の硬さが400HV以上730HV以下であることを特徴とする。
(9)上記(7)又は(8)に記載の成形部品は、前記複数の鋼板の重ね合わせ部に設けられた、スポット溶接部、レーザ溶接部、シーム溶接部、及びアーク溶接部からなる群から選択される一種以上をさらに備えてもよい。
(10)上記(7)~(9)のいずれか一項に記載の成形部品では、前記接合部材の前記軸部が中実であり、前記接合部材の前記軸部の直径が3.0mm以上12.0mm以下であってもよい。
(11)本発明の別の態様に係る自動車部品は、上記(7)~(10)のいずれか一項に記載の成形部品を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い強度を有する成形部品の製造方法、成形部品、及び自動車部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一態様に係る成形部品の製造方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の別の態様に係る成形部品の製造方法のフローチャートである。
【
図3】頭部及び突起を有する接合部材の断面図である。
【
図4】頭部及び凸部を有する接合部材の断面図である。
【
図5】本発明の別の態様に係る成形部品の断面図である。
【
図6】母材部の硬さ、及びかしめ部の硬さの最小値を説明する概念図である。
【
図7】接合部材の硬さの測定方法を説明する断面写真である。
【
図8A】本発明の別の態様に係る自動車部品(Bピラー)の斜視図である。
【
図8B】本発明の別の態様に係る自動車部品(Bピラー)の断面図である。
【
図9】本発明の別の態様に係る自動車部品(フロアリンフォース)の断面図である。
【
図10】2つの接合手段を併用した十字引張試験片の平面視での模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、高い強度を有する成形部品を得るために、リベット接合に着目した。リベット接合とは、鋼板に通し孔を形成し、この通し孔に頭部と軸部とを有するリベットを挿通させ、リベットの軸部の先端を室温で塑性変形させ、そしてリベットの頭部及び塑性変形部によって鋼板をかしめる接合法である。
【0016】
リベットを用いて鋼板を接合するためには、複数の鋼板に通し孔を形成する工程、及び通し孔の位置決めをする工程が必要となる。これらの工程は、成形部品の製造工程を複雑化させ、製造コストを増大させる。その一方で、高強度鋼板をリベット接合する利点は報告されていない。以上の理由により、リベットを用いた高強度鋼板の接合技術は報告されていない。
【0017】
一方、本発明者らは、高強度鋼板をリベット接合することにより得られる継手(リベット接合継手)のCTSが、スポット溶接継手のCTSよりも、著しく高いことを知見した。鋼板を機械的に接合するリベット接合によれば、接合部の脆化が生じないので、高強度鋼板から構成される接合継手のCTSを高く保持可能であると考えられる。
【0018】
しかしながら、本発明者らは、室温で塑性変形されたリベットには硬さのばらつきが生じる旨を知見した。この硬さばらつきは、リベットを室温で塑性変形させる際に生じる加工硬化によってもたらされたものであると推定された。本発明者らが、室温で塑性変形させた後の種々のリベットの硬さを評価したところ、これらリベットの硬さの最大値と最小値との差が60HV超であった。このような硬さのばらつきは、リベットの破壊の要因となり、成形部品の接合強度を低下させるおそれがあると懸念された。
【0019】
そこで本発明者らは、リベットを熱間加工によって塑性変形させることを試みた。例えば、特許文献3には、複数のワークをリベットを用いて結合するリベット締め方法であって、複数のワークに挿通したリベットを1対の電極間に挟んで加圧した状態で通電し、通電によるリベット自体の抵抗発熱でリベットを軟化させて、リベットの端部を加締める、ことを特徴とするリベット締め方法が開示されている。
【0020】
しかしながら、特許文献3の技術を高強度鋼板の接合に適用したところ、鋼板の通し孔の近傍部が軟化した。リベットを通電加熱する際に、リベットの周辺(即ち通し孔の近傍部)が加熱されて焼き戻されることにより、通し孔の近傍部の硬さは、鋼板の母材部の硬さより120HV以上低下した。鋼板の軟化は、成形部品の接合強度を損なう恐れがあるので、好ましくない。特許文献3においては、高強度鋼板、特に1800MPa以上の引張強さを有する鋼板の接合は想定されていない。従って、特許文献3に記載の技術においては、リベット周辺部の軟化について一切検討されていない。
【0021】
本発明者らはさらなる検討を重ねた。そして本発明者らは、複数の鋼板を予めリベットなどの接合部材を用いて機械的に接合してから、鋼板をホットスタンプすることにより、高い接合強度を確保可能であることを知見した。また、この方法によって得られた成形部品の硬さを調査したところ、接合部材の硬さのばらつき、及び鋼板の軟化の両方が抑制されていた。さらに本発明者らは、接合部材の塑性変形をホットスタンプの際に生じさせたとしても、同様の効果が得られることも知見した。
【0022】
以上の知見に基づいて得られた、本発明の第1の実施形態に係る成形部品の製造方法は、
図1に示されるように
(S1)通し孔111がそれぞれに配された複数の鋼板11の少なくとも一部を、通し孔111を揃えるように重ね合せる工程と、
(S2)通し孔111に接合部材12を挿通させる工程と、
(S3)接合部材12を塑性変形させて複数の鋼板11を接合する工程と、
(S4)接合された複数の鋼板11を加熱する工程と、
(S5)金型を用いて、加熱された複数の鋼板11を塑性変形させる工程と、
(S6)鋼板11に接触させた金型を用いて鋼板11を冷却することによって、鋼板11を焼き入れする工程と
を備える。これにより得られる成形部品の断面図を
図5に示す。以下に、第1の実施形態に係る成形部品の製造方法について詳細に説明する。
【0023】
(S1)
まず、通し孔111がそれぞれに配された複数の鋼板11の少なくとも一部を、通し孔111を揃えるように重ね合せる。鋼板11を上述の通り位置決めすることによって、複数の通し孔111に接合部材12を挿通させることが可能となる。それぞれの鋼板11における通し孔111の個数は特に限定されない。
【0024】
鋼板11は特に限定されず、成形部品1の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、鋼板11を高強度鋼板とした場合、成形部品1の強度を向上させることができて好ましい。また、本実施形態に係る成形部品の製造方法は、CTS低下を招く脆化を高強度鋼板に生じさせないので、高強度鋼板の接合に適用された場合に、高いCTSを有する成形部品1を提供することができる。例えば、ホットスタンプ後の高強度鋼板の引張強さが1200MPa以上、及び/又はホットスタンプ後の高強度鋼板の硬さが400HV以上である場合、CTSに関し、本実施形態に係る成形部品の製造方法の優位性は、スポット溶接に対して一層顕著となる。より望ましくは、ホットスタンプ後の高強度鋼板の引張強さが1800MPa以上、及び/又はホットスタンプ後の高強度鋼板の硬さが550HV
以上である。ホットスタンプ後の鋼板の引張強さの上限は特に限定されないが、例えば2700MPaとしてもよい。ホットスタンプ後の鋼板の硬さの上限も特に限定されないが、例えば730HVとしてもよい。なお、ここで示す鋼板の硬さは鋼板の中央付近(板厚tに対して0.25t~0.75tの範囲)であり、鋼板の表層には炭素が少ない軟質層があってもよい。鋼板の表層の軟質層は、衝突時など変形を受けたときに鋼板の破断を抑制しつつ、継手強度に悪影響を及ぼさないためである。複数の鋼板11のうち、最も硬い鋼板のみを上述の範囲内としてもよいし、全ての鋼板を上述の範囲内としてもよい。例えば自動車の外装を構成する部品において、高強度鋼板と軟質な鋼板とを組み合わせることができる。また、自動車の骨格部品において、複数の高強度鋼板を組み合わせることができる。
【0025】
ホットスタンプ処理前の鋼板11に種々の表面処理がなされていてもよい。例えば、鋼板11がGAめっき、GIめっき、EGめっき、Zn-Mgめっき、Zn-Alめっき、Zn-Al-Mgめっき、Al-Siめっきが施されていてもよい。ホットスタンプ処理後は、母材金属と合金化されたZn系めっき(Zn-Fe、Zn-Ni-Fe)及びAl系めっき(Al-Fe-Si)等を有してもよい。
【0026】
鋼板11の板厚にも特に限定はなく、例えば0.5mm~3.6mmとしてもよい。複数の鋼板11それぞれの厚さを異ならせてもよい。鋼板11の枚数も特に限定されない。本実施形態に係る成形部品の製造方法の説明においては、鋼板11の枚数を2枚と仮定するが、枚数を3枚以上とすることも妨げられない。鋼板の好適な組み合わせの範囲として例えば、板厚が約0.7mm~2.9mmの鋼板と0.7mm~2.9mmの鋼板との2枚重ねであっても良い。
【0027】
通し孔111の形状は、例えば円形等とすることができる。一方、通し孔111の形状が四角形、五角形、六角形、八角形など多角形であってもよい。これらの多角形の角部に曲率を持たせても良い。また、通し孔111の形状が楕円、又は、円の一部に凸部あるいは凹部がある形状であっても良い。通し孔111を円形状以外の形状とすることにより、通し孔の接合部材を中心として鋼板が回転することを防止したり、接合部のガタつきを軽減したりすることができるので、さらに望ましい。
【0028】
接合部材12を挿通させるための通し孔111は、レーザ切断、金型を用いた打ち抜き、ドリルを用いた穿孔等の任意の手段で形成することができる。
【0029】
通し孔111の大きさは、鋼板11の深さ方向に一定であってもよい。一方、深さ方向に通し孔111の大きさが相違する段形状、またはテーパ形状を、通し孔111に適用してもよい。また、複数の鋼板11の通し孔111の中心軸は、これらが重ね合わせられたときに、厳密に一致していなくても良い。接合部材12が挿通可能となる程度に通し孔111が揃っていれば足りる。
【0030】
複数の鋼板11における通し孔111の直径(通し孔111が円形でない場合は、円相当径)は、同一であってもよいし、相違してしてもよい。通常のリベット接合においては、接合部の隙間を減少させる観点から、通し孔111の直径を一定化することが好ましいと考えられる。一方、本実施形態に係る成形部品の製造方法では、後述するように接合部材12を塑性変形させる手段が冷間加工であっても熱間加工であってもよい。熱間加工が適用される場合、接合部材12を軟化させた状態で塑性変形させるので、たとえ通し孔111の直径が鋼板11毎に同一でなくとも、隙間を十分に減少させることができる。これにより、接合された状態における軸の直径を拡大できるため、引張せん断強さ(Tensile Shear Strength、TSS)の向上に寄与する。また、通し孔111の大きさに差を設けることにより、応力緩和効果や、接合部材12を挿通させる作業の効率化が期待できる。通し孔111の直径の相違の程度は特に限定されないが、例えば、隣接する鋼板11における通し孔111の直径の差が0mm~3.0mmの範囲内であることが好ましい。接合部材12を挿通させる作業の容易化の観点では、接合部材の入り口となる側(接合部材の頭部がある側)とは逆側の鋼板の通し孔の直径を大きくする方が好ましい。これにより、接合部材12の先端が通し孔111の中で詰まることを防止できる。
【0031】
接合部材12を挿通させる通し孔111の構成も特に限定されない。接合部材12を通し孔111に滞りなく通す観点からは、通し孔111の直径が接合部材12の直径より大きいことが好ましい。具体的には、通し孔111の直径の最小値は、挿通する接合部材の軸部の直径の最大値よりも0.1mm~5.0mm大きいことが望ましい。通し孔111の直径の最小値と、軸部の直径の最大値との差が0.1mmより小さいと挿通性が悪化し、5.0mmより大きいと通し孔111の隙間を十分に充填させることが難しくなるためである。通し孔111の直径の最小値と、軸部の直径の最大値との差は、より望ましくは、0.3mm~3.0mmの範囲であり、最適には0.3mm~1.5mmの範囲である。また、複数の被接合材間の通し孔111の中心軸のずれは1.5mm以内が望ましく、0.75mm以下がさらに望ましい。
【0032】
(S2)
次に、通し孔111に接合部材12を挿通させる。接合部材12の構成は特に限定されず、母材となる鋼板11の厚さ及び機械特性、並びに通し孔111の大きさなどに応じて適宜選択することができる。後述されるように、接合部材12の材質も、鋼板11の機械特性、及びホットスタンプ条件に応じて、適宜選択することができる。接合部材12は、例えば、軸部121及び頭部122を有するリベットとすることができる。一方、接合部材12を、頭部122を有しない直棒形状とすることも妨げられない。以下では、接合部材12の一例としてリベットを挙げて本実施形態に係る成形部品の製造方法を説明するが、リベットはあくまでも接合部材12の一例であり、接合部材12がリベットに限定されないことは言うまでもない。
【0033】
リベットの軸部121の直径(軸部121の断面が円形ではない場合は、軸部121の円相当径)は、接合強度を確保する観点から3.0mm以上としてもよい。また、軸部121の径が大きすぎると、リベットのかしめが難しくなる。そのため、軸部121の直径の上限は12.0mm以下としても良い。
リベットの軸部121は、
図3等に例示されているように、中実であってもよい。例えば、リベットをいわゆるブラインドリベットとしてもよいのであるが、接合強度を確保する観点からは、ブラインドリベットよりも中実のリベットの方が好ましい。なお、ブラインドリベットとは、軸部121がその軸方向に沿った貫通孔を有するスリーブと、貫通孔の内部に挿通されたマンドレルとを有する形状であるリベットのことである。
【0034】
軸部121の直径は一定であってもよい。一方、軸部121の先端に向かって、軸部121の直径が減少する形状(いわゆるテーパ形状)をリベットが有してもよい。テーパ部が、軸部121の全体にわたって形成されていても、軸部121の先端付近にのみ形成されていてもよい。テーパ形状を有するリベットは、通し孔111に挿通させやすいので好ましい。なお、本実施形態に係る成形部品の製造方法では、後述するように接合部材12を塑性変形させる手段が冷間加工であっても熱間加工であってもよい。熱間加工が適用される場合、リベット全体が著しく軟化するので、たとえテーパ形状を有するリベットであっても通し孔111の内部に密に充填される。接合部材12が頭部122を持たない場合、接合部材12の直径は、リベットの軸部121の直径と同様に定めることができる。また、軸部121の先端の中央部に位置決め用の凹部が設けられていても良い。
【0035】
軸部121の長さ(リベットの長さから、頭部122の厚さを除いた値)は、鋼板11の合計板厚より大きくする必要がある。好ましくは、軸部121の長さは以下の範囲内とする。
鋼板の合計板厚+軸部の直径×0.3≦軸部の長さ≦鋼板の合計板厚+軸部の直径×2.0
リベットの軸部121の長さを、鋼板11の合計板厚+軸部121の直径×0.3より大きくすることにより、軸部121の先端を変形させた後の変形部123の大きさを確保し、接合強度を一層高めることができる。軸部121の長さを鋼板11の合計板厚+軸部121の直径×2.0以下とすることにより、製造効率を高めることができる。
【0036】
接合部材12が頭部122を持たない場合は、軸部121の長さ(即ち接合部材12の長さ)は、好ましくは以下の範囲内とする。
鋼板の合計板厚+軸部の直径×0.6≦軸部の長さ≦鋼板の合計板厚+軸部の直径×4.0
頭部がない接合部材12を用いて接合する場合、接合部材12の両端を変形させる必要がある。そのため、頭部122が無い接合部材12の長さは、頭部122があるリベットのそれより大きくすることが好ましい。
【0037】
リベットの頭部122の形状は、一般的なフランジ形状とすればよい。例えば頭部122の形状を、半球形(いわゆる丸頭)、円盤形(いわゆる平頭)、又は表面側が平らで根本が円錐形となる形状(いわゆる皿頭)とすることができる。頭部122の平面視での形状は、例えば円形、四角形、又は六角形など多角形とすることができる。軸部121の先端と同様に、頭部122の電極側の中央部に、位置決め用の凹部が設けられていてもよい。また、頭部122の座部(被接合材である鋼板11と接触する面)に、軸部121を取り囲む凹部(いわゆる座部アンダーカット)が設けられていてもよい。このような凹部は、頭部122に弾性を付与し、これによりリベットのかしめ力を一層増大させる。また、頭部122の座部(被接合材と接触する面)に、1つ以上の突起部が設けられていても良い。このような突起部は、リベッティング時に被接合材にめり込むこと、又は被接合材との接合部を形成することにより、リベットのかしめ力を一層増大させる。突起部の形状は、円状、多角形状、軸部121を囲むリング状が挙げられる。
【0038】
リベットは、その頭部122を用いて鋼板11をかしめる。そのため、頭部122の円相当径は、通し孔111の円相当径より大きくすることが好ましい。例えば、頭部122の円相当径が、通し孔111の円相当径より1.5mm以上大きくてもよい。また、頭部122の厚みは0.8mm~5.0mmとすることが好ましい。頭部122の厚みが0.8mm未満だと、接合強度が十分に得られない。一方、頭部122の厚みが5.0mm超であると頭部が大きすぎ、他部品との干渉がおきやすくなる。
【0039】
接合部材12が頭部122を持たない場合、塑性変形された接合部材12の両端(即ち、変形部123)の円相当径は、通し孔111の円相当径より大きい(例えば1.5mm以上大きい)ことが好ましい。また、変形部123の厚みは、0.8mm~5.0mmとすることが好ましい。接合部材12の長さ、又はリベットの軸部121の長さを適宜選択することによって、変形部123の厚みを上述の範囲内とすることができる。
【0040】
接合部材12の材質は、上述のように、鋼板11の機械特性、及びホットスタンプ条件に応じて、適宜選択することができる。例えば鋼板11が高強度鋼板である場合、接合部材12も相応の強度を持つ高強度鋼材とすることが好ましい。
【0041】
接合部材12は、例えば、コイル線材を切断し、次いで切削加工又は冷間鍛造加工することによって製造される。生産性の観点では、冷間鍛造加工が望ましい。接合部材12は加工ままで用いてもよいが、接合部材12の材質が鋼材である場合は、切削加工又は冷間鍛造加工後に焼入れ、焼戻し等の熱処理を接合部材12に行っても良い。
【0042】
接合部材12は表面処理を有しなくてもよい。一方、成形部品1に耐食性が必要な場合は、接合部材12に表面処理がなされていてもよい。例えば接合部材12が、亜鉛系めっき、アルミ系めっき、クロム系めっき、及びニッケル系めっきを有してもよい。特に、成形部品1に耐食性が必要な場合、接合部材12はステンレス製でも良い。
【0043】
(S3)
次に、接合部材12を塑性変形させて複数の鋼板11を接合する。具体的には、接合部材12の端部を塑性変形させて変形部123を形成する。接合部材12が頭部122を有するリベットである場合は、接合部材12の軸部121の先端を塑性変形させる。一方、接合部材12が頭部122を有しない場合は、接合部材12の両端を塑性変形させる。頭部122及び変形部123によって、又は一対の変形部123によって挟持されることにより、複数の鋼板11は機械的に接合される。当然のことながら、頭部122に若干の塑性変形を生じさせてもよい。以下、接合部材12を塑性変形させて複数の鋼板11を接合することを、接合部材12をかしめる、又は鋼板11をかしめると称することがある。接合部材12がリベットである場合、かしめとはリベッティングにあたる。
【0044】
接合部材12をかしめる方法は特に限定されない。接合部材12を室温で塑性変形させる冷間加工をしてもよいし、接合部材12を加熱して軟化させてから塑性変形させる熱間加工をしてもよい。
【0045】
冷間加工は、工程数を減らせる点で好ましい。通常の冷間リベット接合によれば、リベット内に硬さのばらつきが生じうるが、本実施形態に係る成形部品の製造方法では、接合部材12に熱処理が行われるので、硬さのばらつきが抑制される。
【0046】
一方、熱間加工は、塑性変形の際に接合部材12の変形抵抗を減少させられる点で好ましい。接合部材12を加熱する方法は特に限定されない。例えば、接合部材12を通し孔111に挿通させる前に、接合部材12を加熱炉などの加熱手段によって加熱してもよい。一方、接合部材12を通し孔111に挿通させてから、接合部材12を一対の電極で挟持し、通電加熱してもよい。例えば、一対の電極を加圧機能を有する電極(例えばスポット溶接用の電極)とすることは、加熱とかしめとを連続的に実施可能であるので好ましい。
【0047】
(S4)
次に、接合部材12によって接合された複数の鋼板11を加熱する。加熱の手段は限定されず、例えば炉加熱などの通常のホットスタンプにおいて用いられる種々の手段とすればよい。加熱条件も、鋼板11の構成、及び成形部品1の用途に応じて、公知のホットスタンプの加熱条件から適宜選択することができる。例えば、鋼板11の加熱温度はA3点以上、又は830℃以上970℃以下とすればよい。加熱時間は2分以上20分以下とすればよい。
【0048】
(S5)
さらに、金型を用いて、加熱された複数の鋼板11を塑性変形させる。これにより、成形部品1に求められる形状を鋼板11に付与する。塑性変形は、通常のホットスタンプにおける塑性変形とすればよい。従って、塑性変形のために用いられる金型は、通常のホットスタンプ用の金型とすることができる。ただし、接合部材12の頭部122又は変形部123が、鋼板11のプレス成形の妨げとなる場合は、金型に凹部等を設けて、金型と頭部122又は変形部123との干渉を避けることが好ましい。また、金型と頭部122又は変形部123との干渉を避けることが難しい場合は、後述する
図9に例示されるように、部材の底面部などの、金型と面接触する領域であって、鋼板11の中央付近の領域に接合部材12を配してもよい。このような箇所に配された接合部材12は、金型と干渉しにくいからである。その他の場所には、スポット溶接などの別の接合手段を適用してもよい。
【0049】
(S6)
そして、鋼板11に接触させた金型を用いて鋼板11を冷却する。これにより、鋼板11を焼き入れして、成形部品1に必要な機械特性を鋼板11に付与する。ホットスタンプ用の金型は、通常、その内部に冷媒流路を有しており、ホットスタンプの際には冷媒流路に冷媒が流通している。従って、鋼板11を塑性変形させるためにホットスタンプ用の金型を鋼板11に接触させた瞬間から、鋼板11から金型への熱移動が生じる。この熱移動によって、鋼板11が冷却される。冷却条件は特に限定されず、鋼板11の構成、及び成形部品1の用途に応じて、公知のホットスタンプの冷却条件から適宜選択することができる。
【0050】
S4~S6の一連のプロセスにおいて鋼板11が加熱及び冷却されると、鋼板11を接合する接合部材12も、必然的に加熱及び冷却される。少なくとも、鋼板11と接合部材12との間に熱移動が生じるからである。例えば、金型が接合部材12に接していなくとも、金型を用いて鋼板11を冷却すると、接合部材12から鋼板11への熱移動が生じることにより、接合部材12も間接的に冷却される。また、当然のことながら、接合部材12を直接的に加熱及び冷却してもよい。例えば、金型を接合部材12にも接触させて、接合部材12を直接的に冷却してもよい。
【0051】
接合部材12が冷間加工されており、かしめの直後に接合部材12の内部で硬さのばらつきが生じていたとしても、接合部材12の加熱及び冷却を経て、硬さのばらつきは緩和される。また、接合部材12が熱間加工されており、かしめの直後に接合部材12の周囲で鋼板11の軟化が生じていたとしても、鋼板11の加熱及び冷却を経て、鋼板11の軟化部が焼き入れされて、軟化が緩和される。
【0052】
第1の実施形態に係る成形部品の製造方法によれば、機械接合され、且つ、鋼板11の軟化及び接合部材12の硬さばらつきが抑制された成形部品1が得られる。従って、第1の実施形態に係る成形部品の製造方法によれば、溶接によるCTS低下が回避され、鋼板11の軟化による接合強度低下、及び接合部材12の硬さばらつきによる接合強度低下が抑制された、高い強度を有する成形部品1を製造することができる。
【0053】
次に、本発明の第2の実施形態に係る成形部品の製造方法について説明する。第2の実施形態に係る成形部品の製造方法は、
図2に示されるように
(s1)通し孔111がそれぞれに配された複数の鋼板11の少なくとも一部を、通し孔111を揃えるように重ね合せる工程と、
(s2)通し孔111に接合部材12を挿通させる工程と、
(s3)通し孔111に接合部材12が挿通された複数の鋼板11を加熱する工程と、
(s4)金型を用いて、加熱された複数の鋼板11を塑性変形させ、且つ接合部材12を塑性変形させて複数の鋼板11を接合する工程と、
(s5)鋼板11に接触させた金型を用いて鋼板11を冷却することによって、鋼板11を焼き入れする工程と
を備える。以下に、第1の実施形態に係る成形部品の製造方法と対比しながら、第2の実施形態に係る成形部品の製造方法について詳細に説明する。
【0054】
(s1、s2)
まず、通し孔111がそれぞれに配された複数の鋼板11の少なくとも一部を、通し孔111を揃えるように重ね合せる。次いで、通し孔111に接合部材12を挿通させる。重ね合わせ及び挿通は、第1の実施形態に係る成形部品の製造方法と同様に実施すればよい。また、鋼板及び11、通し孔111、及び接合部材12の構成も、第1の実施形態に係る成形部品の製造方法におけるそれらに準じる。
【0055】
(s3)
そして、通し孔111に接合部材12が挿通された複数の鋼板11を加熱する。鋼板11を加熱する段階で接合部材12のかしめが行われていない点において、第2の実施形態は、第1の実施形態とは異なる。ただし、鋼板11の加熱のその他の諸条件に関し、第1の実施形態と第2の実施形態とは同様とすることができる。
【0056】
(s4)
次いで、金型を用いて、加熱された複数の鋼板11を塑性変形させ、且つ接合部材12を塑性変形させて複数の鋼板11を接合する(上述の「かしめ」に相当)。鋼板11の塑性変形と、接合部材12のかしめとを同時に行う点において、第2の実施形態は、第1の実施形態とは異なる。ただし、鋼板11の塑性変形のその他の諸条件に関し、第1の実施形態と第2の実施形態とは同様とすることができる。
金型の形状は、接合部材12の配置などに応じた設計することが好ましい。例えば、金型に凹部を設け、この凹部において金型と接合部材12とが接触するようにしてもよい。これにより、金型を用いた接合部材12の塑性変形を、一層安定的に実施することができる。また、金型と頭部122又は変形部123との干渉が生じる場合は、後述する
図9に例示されるように、部材の底面部などの、金型と面接触する領域であって、鋼板11の中央付近の領域に接合部材12を配してもよい。このような箇所に配された接合部材12は、金型と干渉しにくいからである。その他の場所には、スポット溶接などの別の接合手段を適用してもよい。
【0057】
(s5)
さらに、鋼板11に接触させた金型を用いて鋼板11を冷却することによって、鋼板11を焼き入れする。鋼板11の冷却は、第1の実施形態に係る成形部品の製造方法と同様に実施すればよい。
【0058】
第2の実施形態に係る成形部品の製造方法においては、鋼板11の塑性変形と、接合部材12のかしめとを同時に行う。そのため、第2の実施形態に係る成形部品の製造方法は、工程数を少なくできる点で、第1の実施形態よりも好ましい。一方、第2の実施形態では、鋼板11を加熱する時点、及び鋼板11に金型をセットする時点において、接合部材12は鋼板11に固定されていない。そのため、第2の実施形態に係る成形部品の製造方法では、第1の実施形態よりも、接合部材12が脱落するおそれが高い。なお、いずれの成形部品の製造方法によっても、同様の構成を有する成形部品1を得ることができる。従って、第2の実施形態に係る成形部品の製造方法によっても、溶接によるCTS低下が回避され、鋼板11の軟化による接合強度低下、及び接合部材12の硬さばらつきによる接合強度低下が抑制された、高い強度を有する成形部品1を製造することができる。
【0059】
第1、及び第2の実施形態に係る成形部品の製造方法のいずれも、上記以外の種々の好ましい構成を具備することができる。以下に、好ましい構成について説明する。
【0060】
本実施形態に係る成形部品の製造方法では、接合部材12以外の接合手段を併用して鋼板11を接合してもよい。異なる2種以上の接合手段を組み合わせることにより、成形部品1の接合強度を一層高めることができる。
【0061】
例えば、機械接合よりも溶接の方が、通常は作業効率が高い。そのため、鋼板11の接合を主に溶接によって行い、特に接合強度が必要とされる箇所にのみ接合部材12による機械接合を適用してもよい。具体的には、成形部品の製造方法が、複数の鋼板11を加熱する前に、複数の鋼板11の重ね合わせ部を、例えばスポット溶接、シーム溶接、レーザ溶接、及びアーク溶接(例えばMAG溶接、MIG溶接、CO2溶接、及びプラズマ溶接等)からなる群から選択される一種以上の手段で溶接する工程をさらに備えてもよい。これにより、機械接合部と溶接部との両方を有する成形部品1が得られる。
溶接を行うタイミングは任意であるが、ホットスタンプ前、即ち鋼板11の加熱の前に行うことが好ましい。これにより、溶接金属及び熱影響部に焼入れを行い、溶接部の接合強度を向上させることができる。また、鋼板11を重ね合わせた後、且つ通し孔111に接合部材12を挿通させる前に溶接をすると、部品組立て精度が向上し、さらに複数の鋼板11それぞれの通し孔111同士の位置関係が固定され、接合部材12の挿通が安定化するので、一層好ましい。
【0062】
上述の焼き入れ後の鋼板の機械特性は特に限定されないが、例えば、焼き入れによって、複数の鋼板11のうち、最も硬い鋼板の母材部112の硬さを400HV以上730HV以下としてもよい。ここで、鋼板の母材部112とは、後述するように、焼き入れ後の複数の鋼板11におけるかしめ部113以外の領域のことである。かしめ部113とは、複数の鋼板11において、通し孔111の近傍における接合部材12によってかしめられた領域である。硬さが400HV以上730HV以下の鋼板は、引張強さ1200MPa以上の高強度鋼板に相当する。焼き入れによって、複数の鋼板11のうち、最も硬い鋼板の母材部112の硬さを、より望ましくは550HV以上730HV以下としてもよい。このような鋼板は、引張強さ1800MPa以上の高強度鋼板に相当する。このような鋼板を1枚以上含む成形部品1は、高い強度を有することができる。
なお、通常の溶接(例えばスポット溶接)によって引張強さ1800MPa以上の高強度鋼板を溶接すると、溶接部が脆化して接合強度(特にCTS)が損なわれる。一方、本実施形態に係る成形部品1は、少なくとも1か所以上が機械的に接合され、さらに接合部材の硬さのばらつき及び鋼板の軟化が抑制されているので、高い接合強度が確保されたものとされる。焼き入れによって、最も硬い鋼板の母材部112の硬さを420HV以上、450HV以上、又は500HV以上又は550HV以上としてもよい。焼き入れによって、最も硬い鋼板の母材部112の硬さを700HV以下、650HV以下としてもよい。
【0063】
成形部品の製造方法が、通し孔111に接合部材12を挿通させた後、且つ接合部材12を塑性変形させる前に、接合部材12を鋼板11に固定する工程をさらに備えてもよい。これにより、通し孔111からの接合部材12の脱落を防止可能である。第2実施形態に係る成形部品の製造方法では、通し孔111に接合部材12を挿通させてから、接合部材12を塑性変形させるまでに、複数のプロセスを経る。従って、特に第2実施形態に係る成形部品の製造方法において、接合部材12を鋼板11に固定する利益は大きい。
【0064】
接合部材12を鋼板11に固定する手段は特に限定されず、プロジェクション溶接、圧入などの種々の接合手段を選択することができる。接合部材12が、通し孔111の直径よりも大きい直径を有する頭部122を有する場合(即ち、接合部材12が上述のリベットである場合)、頭部122と、この頭部122に接する鋼板11とを接合することにより、接合部材12を鋼板11に固定することができる。この場合も接合手段は特に限定されないが、例えば
図3に示されるように、頭部122の、鋼板11と向かい合う面に突起1221が設けられている場合、プロジェクション溶接によって接合部材12を鋼板11に固定することができる。
【0065】
例えば
図4に示されるように、頭部122の近傍に、軸部121を取り囲み、その直径が通し孔111の直径よりも大きい凸部1211を設け、凸部1211と頭部122との間に鋼板11を嵌入させてもよい。これにより、接合部材12を鋼板11に機械的に固定することができる。通し孔111に接合部材12を挿通させるときに、パンチなどを用いて接合部材12を押し込めば、凸部1211と頭部122との間に鋼板11を嵌入させることができる。凸部1211と頭部122との間隔は、凸部1211と頭部122との間に嵌入させる鋼板11の厚さよりも大きくすればよい。
【0066】
なお、上述の手順による接合は、成形部品の一部において行われても、成形部品の全体にわたって行われてもよい。即ち、一か所以上において上述の手順による接合が行われる成形部品の製造方法は、本実施形態に係る成形部品の製造方法とみなされる。
【0067】
次に、本発明の第3の実施形態に係る成形部品について説明する。例えば
図5に示されるように、本実施形態に係る成形部品1は、通し孔111がそれぞれに配された複数の鋼板11であって、母材部112と、通し孔111の近傍のかしめ部113とを有し、通し孔111を揃えるように重ね合わせられた複数の鋼板11と、通し孔111に挿通され、複数の鋼板11を接合する接合部材12と、を備え、接合部材12の硬さの最大値と最小値との差が60HV以下であり、複数の鋼板11それぞれにおいて、母材部112の硬さからかしめ部113の硬さの最小値を引いた値が80HVより小さい。
【0068】
以下、本実施形態に係る成形部品1について詳述する。ここで、便宜上、本実施形態に係る成形部品1を説明するにあたり、上述した本実施形態に係る成形部品の製造方法の説明を適宜参照する。ただし、本実施形態に係る成形部品1の製造方法は特に限定されない。以下に述べる諸要件を満たす限り、いかなる製造方法によって得られた成形部品1も、本発明の課題を解決することができるので、本実施形態に係る成形部品1とみなされる。
【0069】
本実施形態に係る成形部品1は、通し孔111がそれぞれに配された複数の鋼板11を有する。即ち、複数の鋼板11それぞれは、1つ以上の通し孔111を有する。また、便宜上、複数の鋼板11において、通し孔111の近傍における接合部材12によってかしめられた領域をかしめ部113と称し、それ以外の領域を母材部112と称する。
【0070】
本実施形態に係る成形部品1では、複数の鋼板11それぞれにおいて、母材部112の硬さからかしめ部113の硬さの最小値を引いた値が80HVより小さい。これは、複数の鋼板11それぞれにおいて、接合部材12の近傍の軟化が80HV未満に抑制されていることを意味する。通常の熱間リベット接合によって得られた成形部品では、リベットの熱によって、複数の鋼板11のかしめ部113が80HV以上軟化する。一方、本実施形態に係る成形部品1では、例えばかしめ後に鋼板11を加熱及び冷却することによりかしめ部113が焼き入れられて、鋼板11の軟化部が取り除かれているのである。母材部112の硬さからかしめ部113の硬さの最小値を引いた値は、70HV以下、65HV以下、又は60HV以下であってもよい。
【0071】
母材部112の硬さH1からかしめ部113の硬さの最小値H2を引いた値は、
・接合部材12の中心軸を実質的に含む面で成形部品1を切断し、
・断面において鋼板11の板厚中心に沿って連続的に硬さを測定し(測定荷重:0.5kgf、0.25mmピッチ)、
・横軸を測定位置とし且つ縦軸を硬さとして測定結果をプロットすることにより鋼板11の硬さ分布グラフを作成し、
・このグラフから母材部112の硬さH1及びかしめ部113の硬さの最小値H2を読み取る
ことによって算出可能である。
図6に、鋼板11の硬さ分布グラフの概念図を示す。通し孔111から十分に離れており、硬さが安定している領域の硬さを、母材部112の硬さH1とみなす。また、通し孔111の近傍における、硬さが最小の領域の硬さを、かしめ部113の硬さの最小値H2とみなす。硬さが最小の領域(
図6のグラフにおける谷底)の位置に関わらず、硬さが最小の領域と、硬さが安定している領域との間の硬度差が80HV未満である鋼板は、母材部112の硬さH1からかしめ部の硬さの最小値H2を引いた値が80HVより小さい鋼板であるとみなされる。成形部品1を構成するすべての鋼板11に関して上述の測定を行った結果、全ての鋼板において硬度差が80HV未満である成形部品は、複数の鋼板それぞれにおいて、母材部112の硬さH1からかしめ部113の硬さの最小値H2を引いた値が80HVより小さい成形部品であるとみなされる。なお、上記方法によってかしめ部113の硬さの最小値H2を特定する際に、かしめ部113の大きさを考慮する必要はない。従って、本実施形態に係る成形部品1において、かしめ部113の大きさは特に限定されない。
【0072】
また、本実施形態に係る成形部品1は、通し孔111に挿通された軸部121と、軸部121の両端に設けられ、複数の鋼板11を挟持する支持部とを有する接合部材12を有する。
【0073】
接合部材12が、
図5に例示されるように頭部122及び軸部121を有するリベットをかしめることによって得られたものである場合、2つの支持部のうち一方は頭部122であり、他方は軸部121の先端を塑性変形させて得られる変形部123である。接合部材12が、頭部122を有しない棒状形状の接合部材をかしめることによって得られたものである場合、2つの支持部の両方が変形部123である。成形部品1において、頭部122と変形部123とは同じ役割を果たしており、両者を区別する必要はない。そのため、頭部122と変形部123との両方を包含する概念として、支持部との用語を用いる。
【0074】
本実施形態に係る成形部品1では、接合部材12の硬さの最大値と最小値との差が60HV以下である。これは、接合部材12において、接合部材12の硬さばらつきが60HV以下に抑制されていることを意味する。通常の冷間リベット接合によって得られた成形部品では、不均一に生じた加工硬化によって、リベット内部の硬さばらつきが60HV超となる。一方、本実施形態に係る成形部品1では、例えばかしめ後に接合部材12を加熱及び冷却することにより、不均一に導入された歪みの影響が取り除かれているのである。接合部材12の硬さの最大値と最小値との差は、55HV以下、50HV以下、又は40HV以下であってもよい。
【0075】
接合部材12の硬さの最大値と最小値との差は、
・接合部材12の中心軸を実質的に含む面で成形部品1を切断し、
・断面において接合部材12の硬さを連続的に測定(測定荷重:0.5kgf、0.50mmピッチ)し、
・測定値の最大値と最小値とを特定する
ことによって算出可能である。ここで、接合部材12の硬さの測定は、例えば
図7に示されるように、一方の支持部の厚さ中心に沿った直線Xと、軸部121を斜めに通る直線Yと、他方の支持部の厚さ中心に沿った直線Zとを通るように連続的に行えばよい。これにより、接合部材12の硬さ分布を十分に把握することができる。
図7に示される経路に沿った接合部材12の連続的な硬さ測定における硬さの最小値と最大値との差が60HV以下である成形部品は、接合部材の硬さの最大値と最小値との差が60HV以下である成形部品であるとみなされる。
【0076】
上述の要件が満たされる限り、本実施形態に係る成形部品1のその他の構成は、特に限定されない。例えば、複数の鋼板11及びその通し孔111、並びに接合部材12の具体的な態様は、第1の実施形態に係る成形部品の製造方法における例に準じて適宜選択することができる。
【0077】
複数の鋼板11のうち、最も硬い鋼板の母材部112の硬さが400HV以上730HV以下であってもよい。このような鋼板は、引張強さ1200MPa以上の高強度鋼板に相当する。複数の鋼板11のうち、最も硬い鋼板の母材部112の硬さは、より望ましくは550HV以上730HV以下であってもよい。このような鋼板は、引張強さ1800MPa以上の高強度鋼板に相当する。このような鋼板を1枚以上含む成形部品1は、高い強度を有することができる。なお、通常の溶接(例えばスポット溶接)によって引張強さ1800MPa以上の高強度鋼板を溶接すると、溶接部が脆化して接合強度(特にCTS)が損なわれる。一方、本実施形態に係る成形部品1は、少なくとも1か所以上が機械的に接合され、さらに接合部材の硬さのばらつき及び鋼板の軟化が抑制されているので、高い接合強度が確保されたものとされる。最も硬い鋼板の母材部112の硬さが420HV以上、450HV以上、又は500HV以上又は550HV以上であってもよい。最も硬い鋼板の母材部112の硬さが700HV以下、650HV以下であってもよい。
【0078】
本実施形態に係る成形部品1では、接合部材12以外の接合手段を併用して鋼板11を接合してもよい。異なる2種以上の接合手段を組み合わせることにより、成形部品1の接合強度を一層高めることができる。例えば成形部品1が、複数の鋼板11の重ね合わせ部に設けられた、スポット溶接部、レーザ溶接部(線状、円状、リング状、C字状、U字状、点状、ジグザク状)、シーム溶接部及びアーク溶接部(例えばMAG溶接、MIG溶接、CO2溶接、及びプラズマ溶接等によって形成された溶接部)からなる群から選択される一種以上をさらに備えてもよい。また、成形部品1が、第1の実施形態に係る成形部品の製造方法において例示された別の接合手段をさらに備えてもよい。
【0079】
なお、上述の構成を有する接合部は、成形部品1の一部にのみ設けられても、成形部品1の全体にわたって設けられてもよい。即ち、一か所以上において上述の要件が満たされる接合部を有する成形部品は、本実施形態に係る成形部品1とみなされる。
【0080】
次に、本発明の別の態様に係る自動車部品について説明する。本実施形態に係る自動車部品は、本実施形態に係る成形部品を有する。これにより、本実施形態に係る自動車部品は、高い強度を有する。ただし、上述された本実施形態に係る成形部品を自動車部品以外の任意の機械部品に適用することも、当然のことながら妨げられない。
【0081】
本実施形態に係る自動車部品とは、例えば、衝突安全性を確保するために重要な部材であるバンパー、及びBピラーである。また、Aピラー、サイドシル、フロアメンバー、フロントサイドメンバーキック部、リアサイドメンバー、フロントサスタワー、トンネルリンフォース、トルクボックス、シート骨格、バッテリーケースのフレームおよびそれらのピラー同士の結合部(Bピラーとサイドシルの結合部、Bピラーとルーフレールの結合部、ルーフクロスメンバーとルーフレールの結合部)を、本実施形態に係る自動車部品としてもよい。
【0082】
図8A及び
図8Bに、本実施形態に係る自動車部品2の一例であるBピラーの斜視図及び断面図を示す。なお、
図8Bは、
図8Aに示されたBピラーのVIIIbにおける断面図である。
図9に、本実施形態に係る自動車部品2の一例であるフロアリンフォースの断面図を示す。この自動車部品2は、接合部材12による接合箇所と、溶接部13による接合箇所との両方を備える。
【実施例】
【0083】
以下の条件で、成形部品を模擬した種々の十字引張試験片を作製した。なお、鋼板の熱処理条件は、通常のホットスタンプの熱履歴を模擬したものである。
・鋼板の枚数:2枚
・鋼板の板厚:いずれも1.6mm
・鋼板の種類:いずれもホットスタンプ処理後の硬さが約600HVとなるホットスタンプ鋼板(引張強さ2000MPa相当)
・鋼板の成分:いずれも0.35%C-0.2%Si-1.2%Mn-Cr、Ti、Nb、B添加
・鋼板の通し孔の直径:7.0mm
・接合部材の種類:以下のリベット1及びリベット2のいずれか
リベット1(ホットスタンプ後の平均硬さが約450HV)
リベット2(ホットスタンプ後の平均硬さが約220HV)
・リベットの形状:軸の直径6.0mm、軸長10.0mm、頭部の直径12.0mm、頭部厚み1.8mm
・鋼板の熱処理:900℃の加熱炉に6分保管し、次いで水冷された金型で鋼板を冷却
・リベット接合工程:以下の冷間かしめ及び熱間かしめのいずれか
加熱前かしめ(鋼板を加熱炉に装入する前に室温で実施)
加熱後かしめ(水冷された金型で鋼板を冷却する際に、金型を用いて実施)
・後処理:試料作成後、十字引張強さ(JIS Z 3137)の評価前に、表面スケール除去を目的としたショットブラストを実施
なお、リベットの軸は中実とした。十字引張試験片の形状は、JIS Z 3137の規定に従うものとした。接合手段(リベット、レーザ溶接部、又はスポット溶接部)が1つだけである試験片においては、接合手段を試験片の中央に配置した。リベットと溶接とを組み合わせた試験片においては、リベット(接合部材12)と溶接部13とを
図10に示すように配置した。2つの接合手段の中心間の距離は10mmとし、また、2つの接合手段の中心が試験片中心から等距離に配置されるようにした。
【0084】
また、比較のために、一部の試験片ではリベット接合に代えて、又はリベット接合に加えて、溶接を行った。溶接条件は表1に示す。なお、溶接は、鋼板を加熱炉に装入する前に実施した。従って、溶接のみが行われた試験片は、パッチワーク工法によって製造された成形部品に相当する。さらに、参考のために、リベットの平均硬さを測定した。平均硬さは、
図7に示される経路に沿って連続的に測定された硬さの平均値である。
【0085】
【0086】
表1に示されるように、接合部材をかしめて鋼板を機械接合する発明例のCTSは、従来のパッチワーク工法による比較例のCTSをはるかに上回っていた。即ち、発明例の試料は、高い強度を有していた。
【0087】
次に、表1に開示された発明例3~6におけるリベットの硬さばらつき、及び鋼板の軟化の程度を評価した。比較のために、以下の手順で通常のリベット接合を模擬した試料を作成し、これらのリベットの硬さばらつき、及び鋼板の軟化の程度も評価した。リベットの硬さばらつき、及び鋼板の軟化の程度の評価方法は、上述した通りとした。
・比較例のリベット接合工程:以下の冷間かしめ及び熱間かしめのいずれか
冷間かしめ(鋼板の冷却が完了後、加熱前かしめと同じ方法で実施)
熱間かしめ(通電かしめにより実施。鋼板の冷却が完了後、通電及び加圧が可能な電極を用いて通電加熱しながら実施。加圧力:450kgf、通電時間:0.4秒、電流値:6.5kAとした)
【0088】
【0089】
表2に示されるように、通常の冷間かしめによって得られた試料では、リベットの硬さばらつきが著しくなった。また、従来の通電かしめによって得られた試料では、リベット近傍における鋼板の軟化が著しかった。一方、鋼板を機械接合してから部品全体にホットスタンプする発明例においては、リベットの硬さばらつき、及び鋼板の軟化が抑制されていた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、高い強度を有する成形部品の製造方法、成形部品、及び自動車部品を提供することができる。従って、本発明は高い産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0091】
1 成形部品
11 鋼板
111 通し孔
112 母材部
113 かしめ部
12 接合部材
121 軸部
1211 凸部
122 頭部
1221 突起
123 変形部
13 溶接部
2 自動車部品
H1 母材部の硬さ
H2 かしめ部の硬さの最小値