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特許7348599医薬品容器用ガラス及び医薬品容器用ガラス管
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】医薬品容器用ガラス及び医薬品容器用ガラス管
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
C03C3/091
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022144251
(22)【出願日】2022-09-12
(62)【分割の表示】P 2019549284の分割
【原出願日】2018-10-16
(65)【公開番号】P2022177120
(43)【公開日】2022-11-30
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2017203699
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新井 智
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-286936(JP,A)
【文献】特公昭40-003255(JP,B1)
【文献】特公昭38-005014(JP,B1)
【文献】編集: 山根正之 他 筆者: 大門喜昌、和田正道,3.2 ニュートラルガラス,ガラス工学ハンドブック,日本,朝倉書店,1999年07月05日,P.475-477
【文献】小川博司編,6. 理化学・医療用ガラス,1991 Data Book of Glass Composition ,日本,日本硝子製品工業会,1991年03月25日,P.81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO 67~81%、Al 4超~7%、B 7~14%、NaO+KO 3~12%、CaO+BaO 0~2.4%、Fe 0.5~2%未満、TiO 1~4.5%を含有するとともに、CaO/BaO≦0.46を満たすことを特徴とする医薬品容器用ガラス。
【請求項2】
ヨーロッパ薬局方7.0に準じた加水分解抵抗性試験の粉末試験法において、単位ガラス質量当たりの0.02mol/Lの塩酸の消費量が0.035mL以下であることを特徴とする請求項1に記載の医薬品容器用ガラス。
【請求項3】
作業点が1200℃以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬品容器用ガラス。
【請求項4】
波長450nmの波長における透過率が肉厚1mmのときに15%以下であることを特徴とする請求項1~の何れかに記載の医薬品容器用ガラス。
【請求項5】
ガラス組成として、質量%で、SiO 67~81%、Al 4超~7%、B 7~14%、NaO+KO 3~12%、CaO+BaO 0~2.4%、Fe 0.5~2%未満、TiO 1~4.5%を含有するとともに、CaO/BaO≦0.46を満たすことを特徴とする容器用ガラス。
【請求項6】
請求項1~の何れかに記載の医薬品容器用ガラスからなることを特徴とする医薬品容器用ガラス管。
【請求項7】
請求項に記載の容器用ガラスからなることを特徴とする容器用ガラス管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外線遮蔽能力に優れ、更に化学的耐久性にも優れる医薬品容器用ガラス及び医薬品容器用ガラス管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品を保管する充填容器の材料として種々のガラスが用いられている。医薬品は経口剤と非経口剤の2種類に大別されるが、特に非経口剤については、ガラス容器に充填・保管された薬液を直接患者の血液中へ投与するため、ガラス容器には非常に高い品位が要求される。医薬品容器には、無着色又は着色の二種類の色調があり、そのうち着色容器には、内包される医薬品が光照射によって変質しないようにするために、紫外線を遮蔽する機能が求められる。例えば、ビタミンCを含む薬品は、紫外線によってビタミンCが変質する場合がある。そのような問題の解決法としてガラスを着色することで紫外線を遮蔽する機能を有する医薬品容器用ガラスが開発されている(例えば特許文献1、2)。また、各国薬局方では着色された医薬品容器用ガラスに対して、特定の波長範囲の透過率に対して上限値が規定されている。
【0003】
また医薬品容器は充填された薬液の成分が容器からの溶出物によって変質しないことが求められる。ガラスの成分が薬液中に溶出すると、薬液の性質が変質し、患者の健康、更には生命にまでも影響を及ぼす危険性がある。そのため、各国薬局方では医薬品容器用ガラスのガラス成分の溶出量が規定されている。
【0004】
一般に、医薬品容器用のガラスとしてホウケイ酸ガラスが用いられている。そして、紫外線を遮蔽する機能を有する着色された医薬品容器用ホウケイ酸ガラスのガラス組成は、SiO、Al、B、NaO、KO、CaO、BaO、Fe、TiOと少量の清澄剤を含有する。
【0005】
ところで近年、医薬学の急激な進歩により新たな薬剤が多くの種類が生み出され、医薬品容器に充填される薬剤も変化している。従来は比較的安価な血液凝固剤や麻酔薬等の薬剤が主であったが、最近ではインフルエンザワクチンなどの予防薬、あるいは抗がん剤のような非常に高価な薬剤が充填される場合が多くなっている。これに伴い、バイアルやアンプルを構成する医薬品容器用ホウケイ酸ガラスには、従来以上に高い化学的耐久性(加水分解抵抗性、耐アルカリ性、耐酸性等)が要求されている。そして、着色された医薬品容器用ホウケイ酸ガラスに対しても同様に高い化学耐久性が要求され得る。
【0006】
特許文献1には、上記成分を含有するアンバー着色医薬用ガラスが開示されている。しかし、これらのガラスは、近年要求されている化学的耐久性を満たしているとは言い難い。
【0007】
また、特許文献2には、化学的耐久性が高いガラスは、例えばガラス中に含まれるLiO、NaO、KOのようなアルカリ金属酸化物、あるいはMgO、CaO、SrO、BaOのようなアルカリ土類金属酸化物の含有量を減少させる、またはAl含有量を増加させることが記載されている。しかし、それぞれの含有量を単純に増減するだけでは、近年要求されている化学的耐久性を満たすには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公昭38-5014公報
【文献】特許第2608535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、紫外線遮蔽能力に優れ、更に化学的耐久性にも優れる着色された医薬品容器用ガラス及び医薬品容器用ガラス管を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は種々の検討を行った結果、アルカリ土類金属酸化物の含有量を最適化すること、具体的には、アルカリ土類金属酸化物であるCaOとBaOの合量及び比率を厳密に規制することにより上記課題が解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0011】
すなわち、本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 67~81%、Al 4超~7%、B 7~14%、NaO+KO 3~12%、CaO+BaO 0~1.8%、Fe 0.5~2%未満、TiO 1~5%を含有するとともに、CaO/BaO≦0.5を満たすことを特徴とする。
【0012】
ここで、「NaO+KO」とは、NaO及びKOの含有量の合量を意味する。「CaO+BaO」とは、CaO及びBaOの含有量の合量を意味する。「CaO/BaO≦0.5」とはCaOの含有量をBaOの含有量で割った値が0.5以下であることを意味する。
【0013】
本発明の医薬品容器用ガラスは、Fe及びTiOによって茶褐色すなわちアンバー色を呈し紫外線遮蔽能力に優れる。
【0014】
更に、CaO+BaOとCaO/BaOの値を上記の通り規制したことにより、ガラスからのCaO及びBaOの溶出が低減され、さらに優れた化学的耐久性、特に加水分解抵抗性を得ることができる。
【0015】
加えて、本発明の医薬品容器用ガラスは、NaO+KOを上記の通り規制したことにより、アンプル、バイアル等、容器への加工が容易である。したがって、医薬品容器として要求される良好な加水分解抵抗性と、アンプル、バイアル等、容器への加工の容易さを両立することができる。
【0016】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 70~78%、Al 5~7%、B 8~11%、NaO+KO 6~10%、CaO+BaO 0~1.8%、Fe 0.8~1.2%、TiO 2~5%を含有するとともに、CaO/BaO≦0.3を満たすことが好ましい。
【0017】
このようにすることで、所望の着色を呈し、より優れた化学的耐久性を示す医薬品容器用ガラスを得やすくできる。
【0018】
本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、B 9~11%であることが好ましい。
【0019】
このようにすることで、容器への加工性がより良好なガラスにすることができる。
【0020】
本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、CaO 0~1%、BaO 0.1~2%であることが好ましい。
【0021】
このようにすることで、医薬品容器用途として好ましい優れた加水分解抵抗性を有するガラスにすることができる。
【0022】
本発明の医薬品容器用ガラスは、ヨーロッパ薬局方7.0に準じた加水分解抵抗性試験の粉末試験法において、単位ガラス質量当たりの0.02mol/Lの塩酸の消費量が0.035mL以下であることが好ましい。ここで「ヨーロッパ薬局方7.0に準じた試験による加水分解抵抗性」とは以下の方法により求めるアルカリ溶出量の程度を指す。
(1)ガラス試料をアルミナ乳鉢で粉砕し、篩で300~425μmに分級する。
(2)得られた粉末試料を蒸留水およびエタノールで洗浄し、140℃のオーブンで乾燥する。
(3)乾燥後の粉末試料10gを石英フラスコに入れ、さらに50mLの蒸留水を加えて蓋をし、オートクレーブ内で処理する。処理は、100℃から121℃まで1℃/分で昇温した後、121℃で30分間保持し、100℃まで0.5℃/分で降温する、という処理条件によって行う。
(4)オートクレーブ処理後、石英フラスコ内の溶液を別のビーカーに移し、さらに石英フラスコ内を15mLの蒸留水で洗浄し、その洗浄液もビーカーに加える。
(5)ビーカーにメチルレッド指示薬を加え、0.02mol/L塩酸溶液で滴定する。
(6)中和に要した塩酸消費量をガラス1gあたりの塩酸消費量に換算する。
【0023】
また、「ヨーロッパ薬局方7.0に準じた試験による加水分解抵抗性が少なくともTypeIである」とは、上記試験により求めた塩酸消費量が0.1ml/g以下であることを意味する。
【0024】
本発明の医薬品容器用ガラスは、作業点が1200℃以下であることが好ましい。ここで「作業点」とは、ガラスの粘度が10dPa・sになる温度を意味する。
【0025】
上記構成によれば、ガラス管からアンプルやバイアル等のガラス容器を作製する際の加工温度を低くすることが可能となり、ガラス中のアルカリ成分の蒸発量を著しく低減できる。結果として、ガラス容器中に保管される薬液成分の変質や薬液のpH上昇などを引き起こす事態を回避することができる。
【0026】
本発明の医薬品容器用ガラスは、波長450nmの波長における透過率が肉厚1mmのときに15%以下であることが好ましい。
【0027】
本発明の容器用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 67~81%、Al 4超~7%、B 7~14%、NaO+KO 3~12%、CaO+BaO 0~1.8%、Fe 0.5~2%未満、TiO 1~5%含有するとともに、CaO/BaO≦0.5を満たすことを特徴とする。
【0028】
本発明の医薬品容器用ガラス管は、上記した医薬品容器用ガラスからなることを特徴とする。
【0029】
本発明の容器用管ガラスは、上記した容器用ガラスからなることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0030】
各成分の組成範囲を限定した理由を述べる。尚、以下の説明では、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0031】
SiOはガラスのネットワーク構造を構成する成分の一つである。SiOの含有量が多過ぎると1200℃以下の作業点を実現しにくくなる。SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなり、また熱膨張係数が増大して、耐熱衝撃性が低下しやすくなる。よって、その含有量は65%以上、67%以上、69%以上、70%以上、特に71%以上であることが好ましく、81%以下、78%以下、76%以下、75%以下、特に73%以下であることが好ましい。例えばSiOの範囲は67~73%、特に70~73%であることが望ましい。
【0032】
Alはガラスのネットワーク構造を構成する成分の一つであり、ガラスの加水分解抵抗性を向上させる効果がある。よって、その含有量は3%以上、4%以上、4超%以上、特に5%以上であることが好ましく、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下であることが好ましい。Alの範囲は4超~7%、特に5~7%であることが望ましい。Alの含有量が少な過ぎるとヨーロッパ薬局方7.0に準じた試験による加水分解抵抗性のTypeIの要件を達成しにくくなる。一方、Alの含有量が多くなり過ぎると1200℃以下の作業点を実現しにくくなる。
【0033】
はガラスの粘度を下げる効果がある。Bの含有量が多過ぎると化学的耐久性が低下する。Bの含有量が少な過ぎると1200℃以下の作業点を実現しにくくなる。よって、その含有量は5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、特に9%以上であることが好ましく、16%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12以下、特に11%以下であることが好ましい。Bの含有量は7~14%、特に8~11%であることが望ましい。
【0034】
アルカリ金属酸化物(RO)であるLiO、NaO及びKOは、ガラスの粘度を低下させる効果がある。ただしこれらの成分の合計量が多くなると、ガラスからのアルカリ溶出量が増大し、さらに熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下する。アルカリ金属酸化物の含有量が少な過ぎると1200℃以下の作業点を実現しにくくなる。よって、ROの合計量は3~12%、4~10%、5~9%、6~8%、特に7~8%であることが好ましい。
【0035】
LiOは、既述の通り、ガラスの粘度を低下させ、加工性や溶融性を高める効果がある。LiOの含有量が多過ぎると、ガラスからのアルカリ溶出量が増大し、さらに熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下する。LiOの含有量が少な過ぎると1200℃以下の作業点を実現しにくくなる。しかし、LiOは他のアルカリ金属酸化物よりも原料が高価であり、製造コストを上昇させる。よって、LiOの含有量は0~1%、特に0~0.5%であることが好ましい。
【0036】
NaOはLiOと同様にガラスの粘性を低下させる成分である。NaO含有量が多過ぎると、ガラスからのアルカリ溶出量が増大し、さらに熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下する。NaO含有量が少な過ぎると1200℃以下の作業点を実現しにくくなる。よって、NaOの含有量は0~12%、1~10%、3~8%、4~7%、特に5~6%であることが好ましい。
【0037】
Oは、LiO、NaOと同様にガラスの粘性を低下させる成分である。KO含有量が多過ぎると、ガラスからのアルカリ溶出量が増大し、さらに熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下する。KO含有量が少な過ぎると1200℃以下の作業点を実現しにくくなる。よって、KOの含有量は0~12%、1~10%、1.2~7%、1.5~5%、1.6~3%、特に2~3%であることが好ましい。
【0038】
ガラスの特性と製造コストの2つの観点から検討を行った結果、ガラス中に含まれるアルカリ金属酸化物として好ましいのは、NaOとKOの2成分を共存させることである。ただしNaO+KOの含有量が多過ぎると、ガラスからのアルカリ溶出量が増大し、さらに熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下する。NaO+KOの含有量が少な過ぎると1200℃以下の作業点を実現しにくくなる。よって、NaO+KOの含有量は3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、特に7%以上であることが好ましく、12%以下、10%以下、9%以下、特に8%以下であることが好ましい。NaO+KOの含有量は、3~12%であり、3~9%、6~10%、特に6~9%であることが望ましい。
【0039】
アルカリ土類金属酸化物(R’O)であるMgO、CaO、SrO、BaOは、ガラスの粘度を低下させる効果がある。また、アルカリ溶出量にも影響を与える。アルカリ土類金属酸化物の含有量が多過ぎると、ガラスからのアルカリ溶出量が増大し、さらに熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下する。アルカリ土類金属酸化物の含有量が少な過ぎると1200℃以下の作業点を実現しにくくなる。したがって、アルカリ土類金属酸化物の合計量は0~5%、0.1~4%、0.3~3%、0.5~2%、特に0.9~1.8%であることが好ましい。
【0040】
MgOはガラスの粘度を低下させる効果がある。また、アルカリ溶出量にも影響を与える。MgOの含有量が多過ぎると、ガラスからのアルカリ溶出量が増大し、さらに熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下する。よって、MgOの含有量は0~4%、0~1%、0~0.7%、特に0~0.4%であることが好ましい。
【0041】
CaOはガラスの粘度を低下させる効果がある。また、アルカリ溶出量にも影響を与える。CaOの含有量が多過ぎると、ガラスからのアルカリ溶出量が増大し、さらに熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下する。よって、CaOの含有量は0~4%、0~1%、0~0.7%、特に0~0.4%であることが好ましい。尚、CaOは他のアルカリ土類金属酸化物よりも原料が安価に入手できるため製造コストを低減することができる。
【0042】
SrOはガラスの粘度を低下させる効果がある。また、アルカリ溶出量にも影響を与える。SrOの含有量が多過ぎると、ガラスからのアルカリ溶出量が増大し、さらに熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下する。よって、SrOの含有量は0~1%、特に0~0.5%であることが好ましい。
【0043】
BaOはガラスの粘度を低下させる効果がある。また、アルカリ溶出量にも影響を与える。BaOの含有量が多過ぎると、ガラスからのアルカリ溶出量が増大し、さらに熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下する。BaOの含有量が少な過ぎると1200℃以下の作業点を実現しにくくなる。よって、BaOの含有量は0~5%、0~2%、0.1~1.8%、特に0.6~1.5%であることが好ましい。
【0044】
アルカリ土類金属酸化物にはガラスの耐失透性を向上させる効果があり、その大きさはMgO<CaO<SrO<BaOの順に大きい。従って、アルカリ土類金属酸化物としてBaOを優先的に選択することで最も効果的にガラスの耐失透性を向上させることができる。その結果、ガラスの製造、加工における生産性を向上させることができる。
【0045】
また、アルカリ土類金属酸化物の含有量が同じ場合、ガラス中に含まれる原子の数が多いMgO>CaO>SrO>BaOの順にガラス成分が薬液等に溶出し易い。したがって、BaOを選択することで最もガラス成分の溶出を抑制することができる。
【0046】
ガラスの特性と製造コストの2つの観点から検討を行った結果、ガラス中に含まれるアルカリ土類金属酸化物としては、CaOとBaOが好ましい。CaO+BaOの含有量が多過ぎると、ガラスからのアルカリ溶出量が増大し、さらに熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下する。CaO+BaOの含有量が少な過ぎると1200℃以下の作業点を実現しにくくなる。よって、その含有量は0%以上、0.1%以上、0.3%以上、0.5%以上、特に0.9%以上であることが好ましく、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、特に1.8%であることが好ましい。CaO+BaOの含有量は、0~1.8%であることが望ましい。
【0047】
また、CaOとBaOの含有量はCaO≦BaOであることが好ましく、より好ましくはCaO<BaOである。さらに、特に好ましいCaOおよびBaO含有量の関係は、CaO/BaOすなわちCaO含有量をBaO含有量で割った値で0~0.5、0~0.45、0~0.37、0~0.3、0~0.25、特に0~0.1であることが好ましい。CaO/BaOが大き過ぎると加水分解抵抗性が悪化する。CaO/BaOが小さい程優れた加水分解抵抗性を有するガラスが得られる。
【0048】
Feはガラスの着色に必須の成分である。Feの含有量が多過ぎるとガラスからのFe成分溶出量が増加する。Fe含有量が少な過ぎると、医薬品容器として必要な紫外線遮蔽能力が得られない。よって、Feの含有量は0.1%以上、0.6%以上、0.8%以上、0.85%以上、特に0.9%以上であることが好ましく、3%以下、2%以下、1.4%以下、1.2%以下、特に1.1%以下であることが好ましい。Feの含有量は、0.5~2%未満、特に0.8~1.2%であることが望ましい。
【0049】
TiOはFeと同様にガラスの着色に必須の成分であり、本発明の紫外線遮蔽能力を得るためにはFeとTiOがガラス中に共存していることが好ましい。TiO含有量が多過ぎるとガラスからのTi成分溶出量が増加する。TiO含有量が少な過ぎると、医薬品容器として必要な紫外線遮蔽能力が得られない。よって、TiOの含有量は0.1%以上、1%以上、1.6%以上、2%以上、特に2.1%以上であることが好ましく、5%以下、4.5%以下、4.1%以下、3%以下、特に2.6%以下であることが好ましい。TiO含有量は、1~5%、特に2~5%であることが望ましい。
【0050】
本発明の医薬品容器用ガラスは、清澄剤として、F、Cl、Sb、As、SnO、NaSO等を1種類以上含有しても良い。この場合、標準的な清澄剤の含有量は合計量で5%以下であり、特に1%以下、さらには0.5%以下であることが好ましい。
【0051】
また上記以外の他の成分を含んでもよい。例えば、化学的耐久性、高温粘度等の改良のためにZnO、P、Cr、PbO、La、WO、Nb、Y等をそれぞれ3%まで添加してもよい。
【0052】
本発明を実施する場合、炭素、金属アルミニウム、金属イオウなど、ガラス中の鉄成分を還元する働きを示す成分を含んでも良い。還元剤の含有量は、ガラスの透過率や溶融状態を鑑みて適宜調整可能であるが、含有量の合計量は5%以下であり、好ましくは1%以下、さらには0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下であることが好ましい。また、還元の程度を調整するために、酸化第二鉄や四三酸化鉄のような酸化還元状態の異なる鉄原料を使用しても良い。
【0053】
また、不純物として、H、CO、CO、HO、He、Ne、Ar、N等の成分をそれぞれ0.1%まで含んでもよい。またPt、Rh、Au等の貴金属元素の混入量はそれぞれ500ppm以下、さらには300ppm以下であることが好ましい。
【0054】
本発明の医薬品容器用ガラスは、ヨーロッパ薬局方7.0に準じた加水分解抵抗性試験の粉末試験法において、単位ガラス質量当たりの0.02mol/Lの塩酸の消費量は0.040mL以下、0.038mL未満、0.035mL未満、特に0.033mL以下、最も好ましくは0.030mL以下であることが好ましい。塩酸消費量が0.1mLより大きくなると、アンプルやバイアルなどの容器を作成し、薬液を充填、保存した際、ガラス成分、特にアルカリ成分の溶出が大幅に増加して薬液成分の変質を引き起こす恐れがある。
【0055】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、作業点が好ましくは1250℃以下、1230℃以下、1200℃以下、1190℃以下、特に1180℃以下であることが好ましい。作業点が高温になると、生地管をアンプルあるいはバイアルに加工する際の加工温度もより高温になり、ガラスに含まれるアルカリ成分の蒸発が著しく増加する。蒸発したアルカリ成分は生地管内壁に付着し、その生地管がガラス容器へと加工される。そのようなガラス容器は薬液を充填、保存した際に薬液を変質させる原因となる。また、ホウ素成分含有量が多過ぎるガラスではホウ素の蒸発も起こり、アルカリ成分と同様に生地管内壁に付着し、本来のガラス組成よりも加水分解抵抗性の劣る変質層を形成する原因となる。
【0056】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラスの粘度が102.5dPa・sになる温度が1700℃以下であることが好ましく、より好ましくは1650℃以下、最も好ましくは1600℃以下である。
【0057】
ところで、医薬用着色容器の遮光性に関して、欧州薬局方や米国薬局方では、20nmの波長間隔で測定した場合の光の透過率が、短波長領域(290~450nm)において50%以下であることと規定されている。そのため、本発明の医薬品容器用ガラスは、20nmの波長間隔で測定した場合の光の透過率が、短波長領域(290~450nm)において50%以下であり、好ましくは40%以下、特に好ましくは30%であることが好ましい。このようにすると、欧州薬局方や米国薬局方を満たしやすくなる。
【0058】
特に、本発明の医薬品容器用ガラスは、波長450nmの透過率が肉厚1mmのとき、15%以下であることが好ましい。このようにすると、欧州薬局方や米国薬局方を満たすガラスを容易に得ることができる。
【0059】
このように、本発明の医薬品容器用ガラスは、医薬品容器用途に適するものであるが、加水分解抵抗性や遮光性に優れているため、医薬品容器以外の容器用ガラスとして用いることもできる。
【0060】
本発明の容器用ガラスのガラス組成は、本発明の医薬品容器用ガラスで詳述したガラス組成と共通しており、ここでは説明を割愛する。
【0061】
次に本発明の医薬品容器用ガラス管を製造する方法を説明する。以下の説明はダンナ-法を用いた例である。
【0062】
最初に、上記のガラス組成となるように、ガラス原料を調合してガラスバッチを作製する。次に、このガラスバッチを1550~1700℃の溶融窯に連続投入して溶融、清澄を行った後、得られた溶融ガラスを回転する円筒状耐火物の外表面に巻きつけながら、耐火物先端部から空気を吹き出しつつ引き出すことで、当該先端部からガラスを管状に成形する。
【0063】
得られた管ガラスは、以下の例示に限定されるものではないが、例えば、外径1~100mm、3~70mm、7~55mmとすることができる。また、例えば、肉厚は、0.1~10mm、0.2~5mm、0.4~3mmとすることができる。
【0064】
続いて引き出した管状ガラスを所定の長さに切断することで医薬品容器用ガラス管を得る。このようにして得られたガラス管はバイアルやアンプルの製造に供される。
【0065】
このように、本発明の医薬品容器用ガラス管は、医薬品容器の製造に供することに適するが、医薬品容器以外の容器の製造に供してもよい。
【0066】
尚、本発明の医薬品容器用ガラス管は、ダンナ-法に限らず、従来周知の任意の手法を用いて製造してもよい。例えば、ベロー法あるいはダウンドロー法は本発明の医薬品容器用ガラス管の製造方法として有効である。
【0067】
また、本発明の容器用ガラス管は、本発明の医薬品容器用ガラス管で記載した製造方法を適宜採用可能であり、ここでは説明を割愛する。
【実施例
【0068】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
【0069】
表1~5は本発明の実施例(試料No.1~41、45~50)及び比較例(試料No.42~44)を示している。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
各試料は以下のようにして作製した。
【0076】
まず表に示す組成となるように500gのバッチを調合し、白金坩堝を用いて1650℃で3.5時間溶融した。尚、試料中の泡を減らすため、溶融過程で2回の攪拌を行った。溶融後、金属製のローラーを用いてガラスを急冷し、測定に必要な形状に加工して各種評価に供した。結果を各表に示す。尚、表1~4に示す実施例はガラス中に含まれる鉄原子の内、Fe2+の割合が60%以上になる様に溶融した。また、表5に示す実施例はガラス中に含まれる鉄原子の内、Fe2+の割合が60%未満になる様に溶融した。
【0077】
尚、作業点の測定は、白金球引き上げ法を用い、ガラスの粘度が104.0dPa・sになる温度を求めた。また、ガラスの粘度が102.5dPa・sになる温度についても同様の方法で求めた。
【0078】
加水分解抵抗性試験はヨーロッパ薬局方7.0に準じた方法で行った。詳細な試験手順は以下の通りである。ガラス試料をアルミナ乳鉢でアルミナ乳棒を用いて粉砕し、篩で粒径300~425μmに分級した。得られた粉末をイオン交換水及びアセトンで洗浄し、140℃のオーブンで乾燥させた。乾燥後の粉末試料10gを石英フラスコに入れ、さらに50mLのイオン交換水を加えて蓋をした。試料の入った石英フラスコをオートクレーブ内に設置し処理を行った。処理条件は100℃から121℃まで1℃/分で昇温した後、121℃で30分間保持し、100℃まで0.5℃/分で降温した。石英フラスコ内の溶液を別のビーカーに移し、さらに石英フラスコ内を15mLのイオン交換水で3回洗浄し、その洗浄水もビーカーに加えた。ビーカーにメチルレッド指示薬を加え、0.02mol/L塩酸溶液で滴定した。中和に至るまでに消費した酸の量を読み取り、ガラス1g当たりの酸消費量に換算し、この量を表に記載した。なお、ガラス試料粉末の洗浄を、イオン交換水及びアセトンの代わりに蒸留水及びエタノールで行った場合も、同様の結果が得られる。
【0079】
線熱膨張係数は、熱膨張計(NETZSCH DIL402C)を用いて、長さ20mm、直径5mmの円柱状に加工したガラスを測定した。30℃~380℃の温度範囲のガラスの全長の伸び量から線熱膨張係数を計算した。
【0080】
透過率は分光光度計(SHIMADZU UV―2500)を用いて、肉厚1mmに加工し、表面を鏡面に仕上げたガラスを測定した。測定波長域は200~800nm、スリット幅は5nm、スキャンスピードは中速、サンプリングピッチは1nmとした。尚、表1~5には「波長450nm透過率(肉厚1mm)(%)」の値を示した。波長450nmは、波長290nm~450nmの範囲で最も透過率の値が高くなる波長である。
【0081】
ヨーロッパ薬局方7.0では、波長290nm~450nmの透過率に対して上限値が規定されているが、この上限値は容器の容量に対して設定されており、肉厚1mmのガラスからは容量2mL~20mLの容器が加工されうる。この範囲の容量の容器の場合、対応する透過率の上限値は、2mL~5mLの場合15以下%、5mL~10mLの場合13以下%、10mL~20mLの場合12以下%である。
【0082】
既述の条件で作製された本発明の医薬容器用ガラスは、ヨーロッパ薬局方7.0に規定される波長290nm~450nmの透過率の上限値の内、少なくとも1つ以上を満たしていた。
【0083】
また、比較例である試料No.42~44は、CaO+BaO及び/又はCaO/BaOの値が高いため、加水分解抵抗性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の医薬品容器用ガラスは、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、カートリッジなどの医薬品容器を製造するためのガラスとして好適である。
【0085】
さらに、本発明の容器用ガラスは遮光性に優れるため、内容物が光照射によって変質しにくく、紫外線を遮蔽する機能に優れている。また、加水分解抵抗性に優れる。そのため、内容物を劣化から保護したい場合に特に好適である。例えば、バイオ関連用途や、シャーレ、ビーカー等の実験用器具、化粧品用のびん、飲料用のびん、フードコンテナ等に好適に用いることができる。