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特許7348600ナトリウムイオン二次電池正極活物質、ナトリウムイオン二次電池用正極材料、ナトリウムイオン二次電池用正極、及び、ナトリウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン二次電池正極活物質、ナトリウムイオン二次電池用正極材料、ナトリウムイオン二次電池用正極、及び、ナトリウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20230913BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20230913BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230913BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20230913BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/054
H01M4/62 Z
H01M4/136
C01B25/45 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022212849
(22)【出願日】2022-12-29
(62)【分割の表示】P 2019515158の分割
【原出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2023040136
(43)【公開日】2023-03-22
【審査請求日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】P 2017088227
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-534509(JP,A)
【文献】特開2016-173962(JP,A)
【文献】特開2015-170464(JP,A)
【文献】国際公開第2013/133369(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/072315(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/126589(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 10/054
H01M 4/62
H01M 4/136
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Na(Ni1-a(MはCr、Mn及びCoからなる群より選ばれた少なくとも一種の遷移金属元素であり、0.6≦x≦1.9、0.3≦y≦2.7、0≦a≦0.9、6≦z<7.5を満たす)で表される結晶からなることを特徴とするナトリウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
一般式Na(Ni1-a(MはCr、Mn及びCoからなる群より選ばれた少なくとも一種の遷移金属元素であり、0.6≦x≦4、0.3≦y≦2.7、0.1≦a≦0.9、6≦z<7.5を満たす)で表される結晶からなることを特徴とするナトリウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記結晶が三斜晶空間群P1またはP-1に帰属される構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載のナトリウムイオン二次電池正極活物質。
【請求項4】
前記結晶が単斜晶空間群P21/cまたはCmに帰属される構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載のナトリウムイオン二次電池正極活物質。
【請求項5】
前記結晶が斜方晶空間群Pccaに帰属される構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載のナトリウムイオン二次電池正極活物質。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池用正極活物質を含有することを特徴とするナトリウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項7】
ナトリウムイオン伝導性固体電解質を含有することを特徴とする請求項6に記載のナトリウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項8】
前記ナトリウムイオン伝導性固体電解質が、ベータアルミナまたはNASICON結晶を含むことを特徴とする請求項7のナトリウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項9】
質量%で、前記ナトリウムイオン二次電池用正極活物質 30~100%、前記ナトリウムイオン伝導性固体電解質 0~70%、導電助剤 0~20%を含有することを特徴とする請求項7または8に記載のナトリウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池用正極材料を用いたことを特徴とするナトリウムイオン二次電池用正極。
【請求項11】
請求項10に記載のナトリウムイオン二次電池用正極を備えたことを特徴とするナトリウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電子機器や電気自動車等に用いられるナトリウムイオン電池用正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電子端末や電気自動車等に不可欠な、高容量で軽量な電源としての地位を確立しており、その正極活物質として、一般式LiFePOで表されるオリビン型結晶を含む活物質が注目されている。しかし、リチウムは世界的な原材料の高騰などの問題が懸念されているため、その代替としてナトリウムを使用した、NaFeP結晶等のナトリウムイオン二次電池の研究が近年行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、NaFeP結晶等のFe系結晶は作動電圧が概ね3V以下と低いという課題があった。他方で、NaNi(PO(P)結晶やNaNiPO結晶等のNi系正極活物質が知られており、これらのNi系正極活物質は作動電圧が5Vと高いためエネルギー密度を高めることができる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5673836号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of the Ceramic Society of Japan 120 [8] 344-346 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のNi系正極活物質は、初回充電におけるNi2+→Ni3+の酸化反応において、活物質から酸素脱離が進行しやすいため、放電の際にNi3+→Ni2+の還元反応が起こらず、結果として放電容量が低くなるという課題を有していた。また、上記のNi系正極活物質は全固体電池に適用した場合、当該活物質と固体電解質との間でNaイオン伝導パスの形成が困難であるため、結果的に放電容量が低いという課題を有していた。
【0007】
以上に鑑み、本発明は、放電容量に優れたNi系のナトリウムイオン二次電電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討した結果、Ni成分を含有する特定組成の正極活物質により上記の課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0009】
即ち、本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、一般式Na(Ni1-a(MはFe、Cr、Mn及びCoからなる群より選ばれた少なくとも一種の遷移金属元素であり、0.6≦x≦4、0.3≦y≦2.7、0≦a≦0.9、6≦z<7.5を満たす)で表される結晶からなることを特徴とする。上記結晶であれば、骨格を形成するリン酸が主にピロリン酸(P)またはメタリン酸(PO)となるため、初回充電におけるNi2+→Ni3+の酸化反応において、活物質から酸素脱離が進行しにくい。よって、放電の際にNi3+→Ni2+の還元反応が起こりやすく、結果として放電容量が高くなりやすい。また、上記の活物質を全固体電池に適用した場合、当該活物質と固体電解質との間でNaイオン伝導パスが形成されやすくなるため、放電容量が向上しやすくなる。
【0010】
なお、本発明の正極活物質は基本的に結晶のみから構成されており、非晶質を含まない構造を有している。このようにすれば、充放電に伴う酸化還元電位が高電位で一定になりやすく、エネルギー密度が向上しやすくなるという利点がある。
【0011】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、結晶が三斜晶空間群P1またはP-1に帰属される構造を有することが好ましい。
【0012】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、結晶が単斜晶空間群P21/cまたはCmに帰属される構造を有することが好ましい。
【0013】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、結晶が斜方晶空間群Pccaに帰属される構造を有することが好ましい。
【0014】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料は、上記のナトリウムイオン二次電池用正極活物質を含有することを特徴とする。
【0015】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料は、ナトリウムイオン伝導性固体電解質を含有してもよい。
【0016】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料において、ナトリウムイオン伝導性固体電解質が、ベータアルミナまたはNASICON結晶を含むことが好ましい。
【0017】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料は、質量%で、ナトリウムイオン二次電池用正極活物質 30~100%、ナトリウムイオン伝導性固体電解質 0~70%、導電助剤 0~20%を含有することが好ましい。
【0018】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極は、上記のナトリウムイオン二次電池用正極材料を用いたことを特徴とする。
【0019】
本発明のナトリウムイオン二次電池は、上記のナトリウムイオン二次電池用正極を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、放電容量に優れたNi系のナトリウムイオン二次電電池用正極活物質を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(ナトリウムイオン二次電池用正極活物質)
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、一般式Na(Ni1-a(MはFe、Cr、Mn及びCoからなる群より選ばれた少なくとも一種の遷移金属元素であり、0.6≦x≦4、0.3≦y≦2.7、0≦a≦0.9、6≦z<7.5を満たす)で表される結晶からなることを特徴とする。結晶組成をこのように規定した理由を以下に説明する。
【0022】
Naは、充放電の際に正極活物質と負極活物質との間を移動するナトリウムイオンの供給源となる。xの範囲は0.6≦x≦4であり、0.7≦x≦2、特に1≦x≦1.9であることが好ましい。xが小さすぎると、充放電に関与するNaイオンが少なくなるため、放電容量が低下しやすくなる。一方、xが大きすぎると、NaPO等の充放電に関与しない結晶が析出するため、放電容量が低下しやすくなる。
【0023】
遷移金属であるNi及びMは、充放電の際に価数が変化してレドックス反応を起こすことにより、ナトリウムイオンの吸蔵及び放出の駆動力として作用する。yの範囲は0.3≦y≦2.7であり、0.4≦y≦2、特に0.7≦y≦1.3であることが好ましい。yが小さすぎると、充放電に関与する遷移金属元素が少なくなるため、放電容量が低下しやすくなる。一方、yが大きすぎると、充放電に関与しないNiO結晶等が析出するため放電容量が低下しやすくなる。
【0024】
aの範囲は0≦a≦0.9であり、0≦a≦0.5、0≦z≦0.3、特にa=0であることが好ましい。aが小さいほど酸化還元電位が高くなるため、電池の作動電圧が高くなる傾向がある。
【0025】
MはFe、Cr、Mn及びCoからなる群より選ばれた少なくとも一種の遷移金属元素であるが、なかでもCo、Mnは作動電圧が高いため好ましい。またFeは充放電において高い構造安定化を有するため、サイクル特性が向上するため好ましい。
【0026】
Ozは3次元網目構造を形成するため、正極活物質の構造を安定化させる効果を有する。zの範囲は6≦z<7.5であり、6.3≦z≦7.3、特に6.7≦z≦7であることが好ましい。zが小さすぎると、充放電に関与しないリン酸成分が増加するため放電容量が低下しやすくなる。一方、zが大きすぎると、結晶構造を形成する骨格成分がオルトリン酸(PO)主体となるため、充放電に伴うNiの酸化還元反応において、酸素脱離が生じやすく、結果として放電容量が低下しやすくなる。
【0027】
なお、x/yは0.4~10、1.35~2、特に1.4~1.9であることが好ましい。x/yが小さすぎるまたは大きすぎると、放電容量が低下する傾向にある。
【0028】
一般式Na(Ni1-aで表される結晶は、三斜晶、単斜晶、斜方晶のいずれかの結晶構造を有することが好ましい。より詳細には、一般式Na(Ni1-aで表される結晶は、三斜晶空間群P1またはP-1に帰属される構造、単斜晶空間群P21/cまたはCmに帰属される構造、あるいは斜方晶空間群Pccaに帰属される構造を有することが好ましい。特に構造安定性に優れる三斜晶空間群P1またはP-1に帰属される構造が放電容量に優れるため好ましい。結晶の具体例としては、以下のものが挙げられる(括弧内に、Pの係数が2となるように規格化した一般式とともに、結晶構造及び理論容量を示す。)。
【0029】
NaNi(PO(P(=Na1.33Ni1.677.33、単斜晶P21/c、理論容量116mAh/g)
Na3.64Ni2.18(P(=Na1.82Ni1.09、三斜晶P-1、理論容量104mAh/g)
Na3.12Ni2.44(P(=Na1.56Ni1.22、三斜晶P-1、理論容量116mAh/g)
Na5.6Ni28(=Na1.4NiP、三斜晶P-1、理論容量103mAh/g)
NaNiP(三斜晶P-1、理論容量96mAh/g)
NaNi16(=Na1.2Ni0.86.4、理論容量90mAh/g)
NaNi(PO(=Na0.67Ni0.67、斜方晶Pcca、理論容量84mAh/g)
NaNi(PO(=Na1.33Ni0.33、三斜晶P-1、理論容量43mAh/g)
【0030】
なかでも、Na3.64Ni2.18(P、Na3.12Ni2.44(P、NaNiPが放電容量に優れるため好ましく、特にNa3.64Ni2.18(Pが高容量であるため好ましい。
【0031】
本発明の正極活物質は、導電性炭素により被覆、あるいは導電性炭素と複合化されていてもよい。このようにすれば、電子伝導度性が高くなり、高速充放電特性が向上しやすくなる。導電性炭素としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、グラファイト等のカーボン粉末、炭素繊維等を用いることができる。なかでも、電子伝導性が高いアセチレンブラックが好ましい。
【0032】
正極活物質を導電性炭素で被覆する方法として、正極活物質と、導電性炭素源である有機化合物と混合した後、不活性または還元雰囲気で焼成し、有機化合物を炭化させる方法が挙げられる。有機化合物としては、熱処理の過程で炭素として残留する有機化合物であればどのような原料を用いても構わないが、グルコース、クエン酸、アスコルビン酸、フェノール樹脂、界面活性剤等の使用が好ましく、特に正極活物質表面に吸着しやすい界面活性剤が好ましい。界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれでもよいが、特に、正極活物質表面への吸着性に優れた非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0033】
正極活物質と導電性炭素の混合割合は、質量比で80~99.5:0.5~20であることが好ましく、85~98:2~15であることがより好ましい。導電性炭素の含有量が少なすぎると、電子伝導性に劣る傾向がある。一方、導電性炭素の含有量が多すぎると、相対的に正極活物質の含有量が少なくなるため、放電容量が低下する傾向がある。
【0034】
なお、正極活物質表面が導電性炭素により被覆されている場合、導電性炭素被膜の厚さは1~100nm、特に5~80nmであることが好ましい。導電性炭素被膜の厚さが小さすぎると、充放電の過程で導電性炭素被膜が消滅して電池特性が低下しやすくなる。一方、導電性炭素被膜の厚さが大きすぎると、放電容量の低下や電圧降下等が生じやすくなる。
【0035】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、ラマン分光法における1550~1650cm-1のピーク強度Gに対する1300~1400cm-1のピーク強度Dの比(D/G)が1以下、特に0.8以下であり、かつ、ピーク強度Gに対する800~1100cm-1のピーク強度Fの比(F/G)が0.5以下、特に0.1以下であることが好ましい。これらのピーク強度比が上記範囲を満たすことにより、正極活物質の電子伝導性が高くなる傾向がある。
【0036】
ナトリウムイオン二次電池用正極活物質の形状は特に限定されないが、粉末状であるとナトリウムイオンの吸蔵及び放出のサイトが多くなるため好ましい。その場合、平均粒子径は0.1~20μm、0.3~15μm、0.5~10μm、特に0.6~5μmであることが好ましい。また、最大粒子径は150μm以下、100μm以下、75μm以下、特に55μm以下であることが好ましい。平均粒子径または最大粒子径が大きすぎると、充放電時においてナトリウムイオンの吸蔵及び放出のサイトが少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。一方、平均粒子径が小さすぎると、ペースト化した際に粉末の分散状態が悪化して、均一な電極を製造することが困難になる傾向がある。
【0037】
ここで、平均粒子径と最大粒子径は、それぞれ一次粒子のメジアン径でD50(50%体積累積径)とD99(99%体積累積径)を示し、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された値をいう。
【0038】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、例えば固相反応法により作製することができる。なお必要に応じて、得られた正極活物質に対し導電性炭素を添加して、粉砕しながら混合することで導電性を付与してもよい。粉砕しながら混合する方法としては、乳鉢、らいかい機、ボールミル、アトライター、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、ビーズミル等の一般的な粉砕機を用いる方法が挙げられる。なかでも、遊星型ボールミルを使用することが好ましい。遊星型ボールミルは、ポットが自転回転しながら台盤が公転回転し、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる。よって、正極活物質中に導電性炭素を均質に分散させ電子伝導性を向上させることが可能となる。
【0039】
また、正極活物質と、導電性炭素源である有機化合物とを混合した後、不活性または還元雰囲気で焼成し、有機化合物を炭化させることにより、正極活物質を導電性炭素で被覆してもよい。
【0040】
(ナトリウムイオン二次電池用正極材料)
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質に対し、導電助剤や結着剤等を混合することにより、ナトリウムイオン二次電池用正極材料が得られる。
【0041】
導電助剤としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、グラファイト等の粉末状または繊維状の導電性炭素等が挙げられる。なかでも、少量の添加で導電性を向上できるアセチレンブラックが好ましい。
【0042】
結着剤は、正極材料を構成する材料同士を結着させ、充放電に伴う体積変化によって正極活物質が正極から脱離するのを防止するために添加される成分である。結着剤の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素系ゴム、スチレン-ブタンジエンゴム(SBR)等の熱可塑性直鎖状高分子;熱硬化性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;カルボキシメチルセルロース(カルボキシメチルセルロースナトリウム等のカルボキシメチルセルロース塩も含む。以下同様。)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン及びその共重合体等の水溶性高分子が挙げられる。なかでも、結着性に優れる点から、熱硬化性樹脂、セルロース誘導体、水溶性溶性高分子が好ましく、工業的に広範囲に用いられる熱硬化性ポリイミドまたはカルボキシメチルセルロースがより好ましい。特に、安価であり、かつ、電極形成用ペースト作製時に有機溶媒を必要としない低環境負荷のカルボキメチルセルロースが最も好ましい。これらの結着剤は一種のみを使用してもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は充放電に伴う作動電位が比較的高いため(例えば5V)、充放電により分解を伴わない固体電解質を用いた固体型ナトリウムイオン二次電池に使用することが好適である。本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質を固体型ナトリウムイオン二次電池に使用する場合は、ナトリウムイオン二次電池用正極材料の構成成分としてナトリウムイオン伝導性固体電解質を添加することが好ましい。ナトリウムイオン伝導性固体電解質は、全固体型二次電池において、正極と負極との間のナトリウムイオン伝導を担う成分である。ナトリウムイオン伝導性固体電解質はベータアルミナまたはNASICON結晶であることが、ナトリウムイオン伝導性に優れるため好ましい。ベータアルミナは、βアルミナ(理論組成式:NaO・11Al)とβ’’アルミナ(理論組成式:NaO・5.3Al)の2種類の結晶型が存在する。β’’アルミナは準安定物質であるため、通常、LiOやMgOを安定化剤として添加したものが用いられる。βアルミナよりもβ’’アルミナの方がナトリウムイオン伝導度が高いため、β’’アルミナ単独、またはβ’’アルミナとβアルミナの混合物を用いることが好ましく、LiO安定化β’’アルミナ(Na1.6Li0.34Al10.6617)またはMgO安定化β’’アルミナ((Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O))を用いることがより好ましい。
【0044】
NASICON結晶としては、NaZrSiPO12、Na3.2Zr1.3Si2.20.810.5、NaZr1.6Ti0.4SiPO12、NaHfSiPO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.21.812、NaZr1.7Nb0.24SiPO12、Na3.6Ti0.20.8Si2.8、NaZr1.880.12SiPO12、NaYSi12、Na3.12Zr1.880.12SiPO12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.112.912等が好ましく、特にNa3.12Zr1.880.12SiPO12がナトリウムイオン伝導性に優れるため好ましい。
【0045】
ナトリウムイオン伝導性固体電解質の平均粒子径D50は0.3~25μm、0.5~20μm、特に1.2~15μmであることが好ましい。ナトリウムイオン伝導性固体電解質の平均粒子径D50が小さすぎると、正極活物質と均一に混合することが困難となるだけでなく、吸湿したり炭酸塩化するためイオン伝導が低下しやすくなる。結果的に、内部抵抗が高くなり、充放電電圧及び放電容量が低下する傾向にある。一方、ナトリウムイオン伝導性固体電解質の平均粒子径D50が大きすぎると、正極層形成のための焼結時において正極活物質の軟化流動を著しく阻害するため、得られる正極層の平滑性に劣って機械的強度が低下したり、内部抵抗が大きくなる傾向がある。
【0046】
正極材料の構成は、用いる電解質の種類に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、水系や非水系の液系電解質を用いたナトリウムイオン二次電池においては、質量%で、正極活物質 70~95%、導電助剤 1~15%、結着剤 3~15%を含有することが好ましく、正極活物質 80~95%、導電助剤 2~10%、結着剤 3~10%を含有することが好ましい。正極活物質の含有量が少なすぎるとナトリウムイオン二次電池の放電容量が低下しやすくなり、多すぎると、導電助剤や結着剤の含有量が相対的に少なくなることから、電子伝導性やサイクル特性が低下しやすくなる。導電助剤の含有量が少なすぎると電子伝導性に劣り、多すぎると正極材料の構成成分同士の結着性が低下して内部抵抗が高くなるため、充放電電圧や放電容量が低下する傾向にある。結着剤の含有量が少なすぎると正極材料の構成材料同士の結着性が低下し、サイクル特性が低下しやすくなり、多すぎると電子伝導性が低下するため急速充放電特性が低下しやすくなる。
【0047】
電解質にナトリウムイオン伝導性固体電解質を用いた固体型ナトリウムイオン二次電池である場合、質量%で、正極活物質 30~100%、固体電解質 0~70%、導電助剤 0~20%を含有することが好ましく、正極活物質 34.5~94.5%、固体電解質5~65%、導電助剤0.5~15%を含有することがより好ましく、正極活物質 40~92%、固体電解質 7~50%、導電助剤 1~10%を含有することがさらに好ましい。正極活物質の含有量が少なすぎるとナトリウムイオン二次電池の放電容量が低下しやすくなる。導電助剤または固体電解質の含有量が多すぎると、正極材料の構成成分同士の結着性が低下して内部抵抗が高くなるため、充放電電圧や放電容量が低下する傾向にある。
【0048】
正極材料の構成成分の混合は、自転公転ミキサー、タンブラー混合機等の混合器や、乳鉢、らいかい機、ボールミル、アトライター、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、ビーズミル等の一般的な粉砕機を用いることができる。特に、遊星型ボールミルを使用することで構成材料同士を均質に分散することが可能となる。
【0049】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料は、アルミニウム、銅、金等の金属箔からなる集電体上に塗布し、乾燥させることによりナトリウムイオン二次電池用正極として使用される。あるいは、本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料をシート状に成形した後、スパッタやメッキ等により金属被膜からなる集電体を形成してもよい。
【0050】
(ナトリウムイオン二次電池)
本発明のナトリウムイオン二次電池は、上記のナトリウムイオン二次電池用正極の他に、対極である負極と電解質を備えている。
【0051】
負極は、充放電に伴いナトリウムイオンを吸蔵及び放出できる負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば金属Na、金属Sn、金属Bi、金属Zn、Sn-Cu合金、Bi-Cu合金等の金属系材料、ハードカーボン等のカーボン材料、元素としてTi及び/またはNbを含有する酸化物材料等を用いることができる。なかでも、元素としてTi及び/またはNbを含有する酸化物材料が高い安全性を有しており、また資源的に豊富であることから好ましい。特に、充放電に伴う酸化還元電位が1.5V(vs.Na/Na)以下であるNaTiO(PO、NaTi(POで表される結晶相を含有する酸化物材料を用いることが好ましい。この場合、ナトリウムイオン二次電池の作動電圧が高くなり、繰り返し充放電した際における金属Naデンドライトの析出を抑制することができる。
【0052】
電解質としては、水系電解質、非水系電解質、固体電解質等を用いることができる。非水系電解質または固体電解質は電位窓が広いため、充放電時における電解質の分解に伴うガスの発生がほとんど生じることがなく、ナトリウムイオン二次電池の安全性を高めることが可能である。なかでも、不燃性である固体電解質が好ましい。
【0053】
水系電解質は、水に可溶な電解質塩を含む。電解質塩としては、例えばNaNO、NaSO、NaOH、NaCl、CHCOONa等が挙げられる。これらの電解質塩は単独で使用してもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。電解質塩濃度は、一般的には0.1M~飽和濃度の範囲内で適宜調整される。
【0054】
なお、水系電解質を用いる場合、本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質のレドックス電位は、水の電位窓の範囲内に限り使用することができる。
【0055】
非水系電解質は、非水系溶媒である有機溶媒及び/またはイオン液体と、当該非水系溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水系溶媒としての有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、γ-ブチロラクトン(GBL)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeHF)、1,3-ジオキソラン、スルホラン、アセトニトリル(AN)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等が挙げられる。これらの非水系溶媒は単独で使用してもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。なかでも、低温特性に優れるプロピレンカーボネートが好ましい。
【0056】
イオン液体もまた、使用する電解質塩を溶解することができれば特に限定されず、具体的には、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:TMPA-TFSI]、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:PP13-TFSI]、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:P13-TFSI]、N-メチル-N-ブチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:P14-TFSI]、等の脂肪族4級アンモニウム塩;1-メチル-3-エチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート[略称:EMIBF4]、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:EMITFSI]、1-アリル-3-エチルイミダゾリウムブロマイド[略称:AEImBr]、1-アリル-3-エチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート[略称:AEImBF4]、1-アリル-3-エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:AEImTFSI]、1,3-ジアリルイミダゾリウムブロマイド[略称:AAImBr]、1,3-ジアリルイミダゾリウムテトラフルオロボラート[略称:AAImBF4]、1,3-ジアリルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:AAImTFSI]等のアルキルイミダゾリウム4級塩等が挙げられる。
【0057】
電解質塩としては、PF 、BF 、(CFSON-(ビストリフルオロメタンスルホニルアミド;通称TFSI)、CFSO-(通称TFS)、(CSO(ビスペンタフルオロエタンスルホニルアミド;通称BETI)、ClO 、AsF 、SbF 、ビスオキサラトホウ酸(B(C ;通称BOB)、ジフルオロ(トリフルオロ-2-オキシド-2-トリフルオロ-メチルプロピオナト(2-)-0,0)ホウ酸(BFOCOOC(CF 、通称B(HHIB))等のナトリウム塩が挙げられる。これらの電解質塩は単独で使用してもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。特に、安価であるPF 、BF のナトリウム塩が好ましい。電解質塩濃度は、一般的には0.5~3Mの範囲内で適宜調整される。
【0058】
なお、非水系電解質は、ビニレンカーボネート(VC)、ビニレンアセテート(VA)、ビニレンブチレート、ビニレンヘキサネート、ビニレンクロトネート、カテコールカーボネート等の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤は、活物質表面に保護膜を形成する役割を有する。添加剤の濃度は、非水系電解質100質量部に対して0.1~3質量部、特に0.5~1質量部であることが好ましい。
【0059】
固体電解質としては既述のものを使用することができる。固体電解質は、水系電解質や非水系電解質に比べ電位窓が広いため、分解に伴うガスの発生がほとんどなく、ナトリウムイオン二次電池の安全性を高めることができる。
【0060】
水系電解質または非水系電解質を用いた電解液系のナトリウムイオン二次電池の場合は、電極間にセパレータを設けることが好ましい。セパレータは絶縁性を有する材質からなり、具体的にはポリオレフィン、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン等のポリマーから得られる多孔質フィルムまたは不織布、繊維状ガラスを含んだガラス不織布、繊維状ガラスを編んだガラスクロス、フィルム状ガラス等を用いることができる。
【実施例
【0061】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
表1、2は、実施例(No.1~4、6~8)及び比較例(No.5)を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
電解液系ナトリウムイオン二次電池
(1)正極活物質の作製
表1のNo.1~5に記載の組成となるように、炭酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、酸化ニッケル、オルトリン酸を秤量し、原料バッチを調製した。遊星ボールミルを用いて原料バッチをエタノール中で混合した後、100℃で乾燥させた。乾燥後の原料バッチを電気炉中にて900℃で6時間仮焼成することで脱ガスした。仮焼成した原料バッチを500kgf/cmの圧力で加圧成形後、大気雰囲気中、800℃で12時間焼成し、固相反応させた。得られた固相反応体に対し、φ20mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を12時間行い、空気分級することで平均粒子径D50が2μmの粉末状固相反応体を得た。
【0066】
上記で得られた粉末状固相反応体100質量部に対して、カーボン源として非イオン性界面活性剤であるポリエチレンオキシドノニルフェニルエーテル(HLB値:13.3、質量平均分子量:660)を21.4質量部(炭素換算12質量部に相当)及びエタノール10質量部とを十分に混合した後、100℃で約1時間乾燥させた。その後、窒素雰囲気下で650℃、1時間焼成を行うことにより、非イオン性界面活性剤の炭化を行い、表面が炭素で被覆された正極活物質粉末を得た。
【0067】
得られた正極活物質粉末について粉末X線回折測定およびRietveld解析を行うことにより結晶構造の同定を行った。
【0068】
(2)電解液系電池用正極の作製
上記で得られた正極活物質粉末に対し、導電助剤としてアセチレンブラック(Timcal社製Super C65)、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、正極活物質粉末:導電助剤:結着剤=90:5:5(質量比)となるように秤量し、N-メチルピロリドンに分散した後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化し、正極材料を得た。
【0069】
次に、得られた正極材料を、隙間125μmのドクターブレードを用いて、正極集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔上にコートし、70℃の乾燥機で真空乾燥後、一対の回転ローラー間に通してプレスすることにより電極シートを得た。この電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに打ち抜き、温度150℃にて8時間、減圧下で乾燥させて円形の正極を得た。
【0070】
(3)試験電池の作製
上記で得られた正極を、アルミニウム箔面を下に向けてコインセルの下蓋の上に載置し、その上に70℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜からなるセパレータ、対極である金属ナトリウム、さらにコインセルの上蓋を積層し、試験電池を作製した。電解液としては、1M NaPF溶液/EC:DEC=1:1(EC=エチレンカーボネート、DEC=ジエチルカーボネート)を用いた。なお試験電池の組み立ては露点温度-70℃以下の環境で行った。
【0071】
(4)充放電試験
30℃で開回路電圧から5.2VまでCC(定電流)充電を行い、単位質量当たりの正極活物質へ充電された電気量(初回充電容量)を求めた。次に、5.2Vから2VまでCC放電を行い、単位質量当たりの正極活物質から放電された電気量(初回放電容量)を求めた。なお、Cレートは0.1Cとした。結果を表1に示す。
【0072】
表1に示すように、実施例であるNo.1~4では放電容量が32~38mAh/gであったのに対し、比較例であるNo.5では放電容量が21mAh/gと劣っていた。
【0073】
全固体ナトリウムイオン二次電池
(1)正極活物質の作製
表1のNo.1~3、5については、上記で作製した正極活物質粉末を使用した。表2のNo.6~8については、表2に記載の組成となるように、炭酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、オルトリン酸から適宜選択して秤量し、原料バッチを調製したこと以外は、No.1~3、5と同様にして正極活物質粉末を作製した。
(2)ナトリウムイオン伝導性固体電解質の作製
組成式Na1.6Li0.34Al10.6617で表されるバルク状のLiO安定化β’’アルミナ(Ionotec社製)を乾式研磨して、厚み0.2mmに加工することにより固体電解質シートを得た。また、バルク状のLiO安定化β’’アルミナを遊星ボールミルを用いて粉砕し、目開き10μmの篩に通過させることで、別途、固体電解質粉末(平均粒子径D50=1.5μm)を作製した。
【0074】
(3)試験電池の作製
上記で得られた正極活物質粉末、固体電解質粉末、導電助剤としてアセチレンブラック(Timcal社製Super C65)をそれぞれ72:25:3の割合で秤量し、メノウ乳鉢と乳棒を用いて30分間混合した。得られた混合粉末100質量部に対し15質量部のポリプロピレンカーボネートを添加し、さらにN-メチルピロリドンを30質量部添加して、自転・公転ミキサーを用いて十分に撹拌し、スラリー化した。
【0075】
得られたスラリーを、上記で得られた固体電解質シートの一方の表面に、面積1cm、厚さ70μmで塗布し、70℃で3時間乾燥させた。その後、窒素中350℃で1時間保持し仮焼成した。さらに、熱間等方圧加圧装置を用いて、Ar中650℃、10分間、50MPaの条件で焼成することにより、固体電解質シート表面に正極材料の焼結体(正極層)を形成した。
【0076】
正極層を構成する材料について粉末X線回折パターンを確認したところ、表1及び2に記載の結晶由来の回折線が確認された。なお、いずれの正極層においても、使用した各固体電解質粉末に由来する結晶性回折線が確認された。
【0077】
次に、正極層の表面にスパッタ装置(サンユー電子株式会社製 SC-701AT)を用いて厚さ300nmの金電極からなる集電体を形成した。さらに、露点-70℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを、固体電解質層における正極層が形成された表面と反対側の表面に圧着した。得られた積層体をコインセルの下蓋の上に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0078】
(4)充放電試験
作製した試験電池について、60℃で開回路電圧から5.2VまでのCC(定電流)充電を行い、単位質量当たりの正極活物質へ充電された電気量(初回充電容量)を求めた。次に、5.2Vから2VまでCC放電を行い、単位質量当たりの正極活物質から放電された電気量(初回放電容量)を求めた。なお本試験では、Cレートは0.01Cとした。結果を表1及び2に示す。
【0079】
表1及び2に示すように、実施例であるNo.1~3、6~8では放電容量が28~51mAh/gであったのに対し、比較例であるNo.5では放電容量が13mAh/gと劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、携帯型電子機器、電気自動車、電気工具、バックアップ用非常電源等に使用されるナトリウムイオン二次電池に好適である。