IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本印刷株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人横浜国立大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧 ▶ 独立行政法人情報通信研究機構の特許一覧 ▶ 法元 盛久の特許一覧

<>
  • 特許-個体識別装置及び個体識別方法 図1
  • 特許-個体識別装置及び個体識別方法 図2
  • 特許-個体識別装置及び個体識別方法 図3
  • 特許-個体識別装置及び個体識別方法 図4
  • 特許-個体識別装置及び個体識別方法 図5
  • 特許-個体識別装置及び個体識別方法 図6
  • 特許-個体識別装置及び個体識別方法 図7
  • 特許-個体識別装置及び個体識別方法 図8
  • 特許-個体識別装置及び個体識別方法 図9
  • 特許-個体識別装置及び個体識別方法 図10
  • 特許-個体識別装置及び個体識別方法 図11
  • 特許-個体識別装置及び個体識別方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】個体識別装置及び個体識別方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20230913BHJP
   G07D 7/128 20160101ALI20230913BHJP
   G07D 7/2033 20160101ALI20230913BHJP
【FI】
G06T7/00 300D
G07D7/128
G07D7/2033
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019007457
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2020119055
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-01-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)電子情報通信学会技術研究報告,信学技報,Vol.118,No.3,第11頁~第16頁,一般社団法人電子情報通信学会,平成30年4月6日発行 (2)学会名:電子情報通信学会 ハードウェアセキュリティ研究会,開催場所:国立大学法人九州大学医学部 百年講堂(福岡県福岡市東区馬出3丁目1番1号),開催日:平成30年4月13日 (3)The 8▲th▼ Japan-Korea Workshop on Digital Holography and Information Photonics予稿集,第36頁,一般社団法人日本光学会・Optical Society of Korea,平成30年12月18日発行 (4)The 8▲th▼ Japan-Korea Workshop on Digital Holography and Information Photonics(DHIP 2018),開催場所:大阪大学中ノ島センター(大阪府大阪市北区中之島4-3-53),開催日:平成30年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】519016479
【氏名又は名称】法元 盛久
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100181490
【弁理士】
【氏名又は名称】金森 靖宏
(72)【発明者】
【氏名】上羽 陽介
(72)【発明者】
【氏名】西尾 俊平
(72)【発明者】
【氏名】大八木 康之
(72)【発明者】
【氏名】松本 勉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】竪 直也
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 誠
(72)【発明者】
【氏名】法元 盛久
【審査官】佐田 宏史
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-240628(JP,A)
【文献】特開2006-078909(JP,A)
【文献】特開2000-149087(JP,A)
【文献】国際公開第2013/185936(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0293739(US,A1)
【文献】山越 学、松本 勉,“IDカード表面のレーザスペックルパターンを用いた人工物メトリクス”,情報処理学会論文誌,日本,一般社団法人情報処理学会,2011年09月15日,Vol.52, No.9,pp.2624-2630
【文献】吉田 直樹、外7名,“白色干渉計を用いた光学的3Dナノ人工物メトリクス”,電子情報通信学会技術研究報告,日本,電子情報通信学会,2018年04月06日,Vol.118, No.3,pp.11-16
【文献】Chia-Hung Yehet al.,"Robust Laser Speckle Authentication System Through Data Mining Techniques",IEEE Transactions on Industrial Informatics,米国,IEEE,2015年02月05日,Vol.11, No.2,pp.505-512
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00,7/00-7/90
G06V 10/00-10/98
G07D 7/128,7/2033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の個体のそれぞれに固有の個体識別構造体のテンプレート干渉画像を格納するテンプレート画像格納部と、
識別対象である被識別個体の個体識別構造体の干渉画像を取得する干渉画像取得部と、
前記干渉画像取得部により取得された前記干渉画像及び前記テンプレート画像格納部に格納されている複数の前記テンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像を比較することで、前記干渉画像と前記テンプレート干渉画像との類似度を比較結果として求める画像比較部と、
前記画像比較部による比較結果に基づき、所定の閾値を指標として前記識別対象である前記被識別個体を識別する個体識別部と
を備え、
前記干渉画像取得部は、光源から出射される光を前記個体識別構造体の表面に集光させるレンズと、前記レンズにて集光される光の一部を透過させ、当該光の残部を反射させる半透鏡と、前記半透鏡にて反射される光を反射させる反射鏡とを有し、前記個体識別構造体の表面にて反射した光と前記反射鏡にて反射した光とを干渉させる干渉対物レンズを含む個体識別装置。
【請求項2】
前記干渉画像取得部は、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた位置において前記干渉画像を取得する
請求項1に記載の個体識別装置。
【請求項3】
前記干渉画像取得部は、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた複数の位置のそれぞれにおいて前記干渉画像を取得し、
前記画像比較部は、前記複数の干渉画像のそれぞれと、前記複数のテンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像とを比較し、前記類似度の最大値を前記比較結果として求める
請求項1又は2に記載の個体識別装置。
【請求項4】
前記干渉画像取得部は、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた複数の位置のそれぞれにおいて前記干渉画像を取得し、
前記画像比較部は、前記複数の干渉画像のそれぞれと、前記複数のテンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像とを比較し、前記類似度の平均値を前記比較結果として求める
請求項1又は2に記載の個体識別装置。
【請求項5】
前記個体識別部は、前記比較結果としての前記類似度が前記閾値を超えている場合に、前記被識別個体を前記複数の個体のいずれか一つと一致すると判断し、前記類似度が前記閾値以下である場合に、前記被識別個体は前記複数の個体のいずれとも一致しないと判断する
請求項1~4のいずれかに記載の個体識別装置。
【請求項6】
前記テンプレート画像格納部は、前記複数の個体のそれぞれに固有のIDデータと前記テンプレート干渉画像とを関連付けて格納しており、
前記被識別個体は、IDデータを有しており、
前記画像比較部は、前記干渉画像と、前記被識別個体の前記IDデータに基づいて前記テンプレート画像格納部から取得された一つの前記テンプレート干渉画像とを比較する
請求項1~5のいずれかに記載の個体識別装置。
【請求項7】
前記干渉画像取得部は、干渉顕微鏡である
請求項1~6のいずれかに記載の個体識別装置。
【請求項8】
前記干渉顕微鏡は、前記光源として白色光源、赤外光源、単色光源又はレーザ光源を有する
請求項7に記載の個体識別装置。
【請求項9】
複数の個体のそれぞれに固有の個体識別構造体のテンプレート干渉画像を格納するテンプレート画像格納部と、
識別対象である被識別個体の個体識別構造体の干渉画像を取得する干渉画像取得部と、
前記干渉画像取得部により取得された前記干渉画像及び前記テンプレート画像格納部に格納されている複数の前記テンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像を比較することで、前記干渉画像と前記テンプレート干渉画像との類似度を比較結果として求める画像比較部と、
前記画像比較部による比較結果に基づき、所定の閾値を指標として前記識別対象である前記被識別個体を識別する個体識別部と
を備え、
前記干渉画像取得部は、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた複数の位置のそれぞれにおいて前記干渉画像を取得し、
前記画像比較部は、前記複数の干渉画像のそれぞれと、前記複数のテンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像とを比較し、前記類似度の最大値を前記比較結果として求める個体識別装置。
【請求項10】
複数の個体のそれぞれに固有の個体識別構造体のテンプレート干渉画像を格納するテンプレート画像格納部と、
識別対象である被識別個体の個体識別構造体の干渉画像を取得する干渉画像取得部と、
前記干渉画像取得部により取得された前記干渉画像及び前記テンプレート画像格納部に格納されている複数の前記テンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像を比較することで、前記干渉画像と前記テンプレート干渉画像との類似度を比較結果として求める画像比較部と、
前記画像比較部による比較結果に基づき、所定の閾値を指標として前記識別対象である前記被識別個体を識別する個体識別部と
を備え、
前記干渉画像取得部は、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた複数の位置のそれぞれにおいて前記干渉画像を取得し、
前記画像比較部は、前記複数の干渉画像のそれぞれと、前記複数のテンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像とを比較し、前記類似度の平均値を前記比較結果として求める個体識別装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の個体識別装置を用いて識別対象である被識別個体を識別する方法であって、
前記干渉画像取得部により前記被識別個体の個体識別構造体の干渉画像を取得する干渉画像取得工程と、
前記画像比較部により複数の個体のそれぞれに固有の個体識別構造体のテンプレート干渉画像及び前記取得された前記干渉画像を比較することで、前記干渉画像と前記テンプレート干渉画像との類似度を比較結果として求める画像比較工程と、
前記個体識別部により前記比較結果に基づき、所定の閾値を指標として前記識別対象である前記被識別個体を識別する個体識別工程と
を含む個体識別方法。
【請求項12】
前記干渉画像取得工程において、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた位置において前記干渉画像を取得する
請求項11に記載の個体識別方法。
【請求項13】
前記干渉画像取得工程において、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた複数の位置のそれぞれにおいて前記干渉画像を取得し、
前記画像比較工程において、前記複数の干渉画像のそれぞれと、前記複数のテンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像とを比較し、前記類似度の最大値を前記比較結果として求める
請求項11又は12に記載の個体識別方法。
【請求項14】
前記干渉画像取得工程において、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた複数の位置のそれぞれにおいて前記干渉画像を取得し、
前記画像比較工程において、前記複数の干渉画像のそれぞれと、前記複数のテンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像とを比較し、前記類似度の平均値を前記比較結果として求める
請求項11又は12に記載の個体識別方法。
【請求項15】
前記個体識別工程において、前記比較結果としての前記類似度が前記閾値を超えている場合に、前記被識別個体を前記複数の個体のいずれか一つと一致すると判断し、前記類似度が前記閾値以下である場合に、前記被識別個体は前記複数の個体のいずれとも一致しないと判断する
請求項11~14のいずれかに記載の個体識別方法。
【請求項16】
前記複数の個体のそれぞれの前記テンプレート干渉画像には、各個体に固有のIDデータが関連付けられており、
前記被識別個体は、IDデータを有しており、
前記画像比較工程において、前記干渉画像と、前記被識別個体の前記IDデータに基づいて取得された一つの前記テンプレート干渉画像とを比較する
請求項11~15のいずれかに記載の個体識別方法。
【請求項17】
前記干渉画像取得工程において、干渉顕微鏡を用いて前記干渉画像を取得する
請求項11~16のいずれかに記載の個体識別方法。
【請求項18】
前記干渉顕微鏡は、光源として白色光源、赤外光源、単色光源又はレーザ光源を有する
請求項17に記載の個体識別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、個体識別装置及び個体識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各人に固有のバイオメトリック情報を利用して個人の識別を行うバイオメトリクス技術が様々な技術分野で実用化されている。バイオメトリック情報は、指紋、静脈等の身体的特徴、音声、筆跡等の行動的特徴等を含む情報であって、携帯電話や銀行キャッシュカードの利用者認証、コンピュータへのログイン権限の認証等に利用されている。近年、このようなバイオメトリック情報と同様の固有情報を有する人工物を、当該固有情報を利用して認証する人工物メトリクス技術の開発が進められている。
【0003】
人工物メトリクス技術は、証書、クレジットカード等の人工物を用いた取引の場面で、安全性や信頼性を高める手段として有望視されている技術である。従来、人工物メトリクス技術に関し、クレジットカード等の媒体に組み込まれた、粒状物の光反射パターン、磁性ファイバの磁気パターン、ランダム記録された磁気パターン、磁気ストライプのランダム磁気パターン、メモリセルのランダム電荷量パターン、導電性ファイバの共振パターン等の再現性の極めて低い人工パターンを固有情報として利用する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、各個体に固有の微細凹凸パターンからなる認証構造体の画像に基づき、当該画像を用いたブロックマッチング処理により個体を認証することで真贋判定を行う真贋判定装置が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/072793号
【文献】特許第6081227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の各種人工パターンは、人工物の認証用の固有情報として利用され得るものであるが、極めて微小なチップにすることが困難であって、ICカード等に組み込むことが困難であるという問題がある。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の真贋判定装置においては、真贋判定のために走査型電子顕微鏡、走査プローブ顕微鏡、近接場光学顕微鏡等によって撮像された画像を用いる必要があり、真贋判定装置の小型化が実用化の障害となっているという問題がある。
【0008】
このような課題に鑑みて、本開示は、各個体に固有の個体識別構造体を用いた個体識別が可能な個体認証装置及び個体認証方法を提供することを一目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の一実施形態として、複数の個体のそれぞれに固有の個体識別構造体のテンプレート干渉画像を格納するテンプレート画像格納部と、識別対象である被識別個体の個体識別構造体の干渉画像を取得する干渉画像取得部と、前記干渉画像取得部により取得された前記干渉画像及び前記テンプレート画像格納部に格納されている複数の前記テンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像を比較することで、前記干渉画像と前記テンプレート画像との類似度を比較結果として求める画像比較部と、前記画像比較部による比較結果に基づき、所定の閾値を指標として前記識別対象である前記被識別個体を識別する個体識別部とを備える個体識別装置が提供される。
【0010】
前記干渉画像取得部は、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた位置において前記干渉画像を取得することができる。前記干渉画像取得部は、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた複数の位置のそれぞれにおいて前記干渉画像を取得し、前記画像比較部は、前記複数の干渉画像のそれぞれと、前記複数のテンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像とを比較し、前記類似度の最大値を前記比較結果として求めてもよいし、前記干渉画像取得部は、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた複数の位置のそれぞれにおいて前記干渉画像を取得し、前記画像比較部は、前記複数の干渉画像のそれぞれと、前記複数のテンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像とを比較し、前記類似度の平均値を前記比較結果として求めてもよい。
【0011】
前記個体識別部は、前記比較結果としての前記類似度が前記閾値を超えている場合に、前記被識別個体を前記複数の個体のいずれか一つと一致すると判断し、前記類似度が前記閾値以下である場合に、前記被識別個体は前記複数の個体のいずれとも一致しないと判断すればよい。
【0012】
前記テンプレート画像格納部は、前記複数の個体のそれぞれに固有のIDデータと前記テンプレート干渉画像とを関連付けて格納しており、前記被識別個体は、IDデータを有しており、前記画像比較部は、前記干渉画像と、前記被識別個体の前記IDデータに基づいて前記テンプレート画像格納部から取得された一つの前記テンプレート干渉画像とを比較することができる。
【0013】
前記画像取得部として、干渉顕微鏡を用いることができ、前記干渉顕微鏡として、光源として白色光源、赤外光源、単色光源又はレーザ光源を有するものを用いることができる。
【0014】
また、本開示の一実施形態として、識別対象である被識別個体の個体識別構造体の干渉画像を取得する干渉画像取得工程と、複数の個体のそれぞれに固有の個体識別構造体のテンプレート干渉画像及び前記取得された前記干渉画像を比較することで、前記干渉画像と前記テンプレート画像との類似度を比較結果として求める画像比較工程と、前記比較結果に基づき、所定の閾値を指標として前記識別対象である前記被識別個体を識別する個体識別工程とを含む個体識別方法が提供される。
【0015】
前記干渉画像取得工程において、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた位置において前記干渉画像を取得すればよく、前記干渉画像取得工程において、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた複数の位置のそれぞれにおいて前記干渉画像を取得し、前記画像比較工程において、前記複数の干渉画像のそれぞれと、前記複数のテンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像とを比較し、前記類似度の最大値を前記比較結果として求めてもよいし、前記干渉画像取得工程において、前記干渉画像における干渉縞のコントラストが最大となる焦点位置からずれた複数の位置のそれぞれにおいて前記干渉画像を取得し、前記画像比較工程において、前記複数の干渉画像のそれぞれと、前記複数のテンプレート干渉画像のうちの少なくとも一つの前記テンプレート干渉画像とを比較し、前記類似度の平均値を前記比較結果として求めてもよい。
【0016】
前記個体識別工程において、前記比較結果としての前記類似度が前記閾値を超えている場合に、前記被識別個体を前記複数の個体のいずれか一つと一致すると判断し、前記類似度が前記閾値以下である場合に、前記被識別個体は前記複数の個体のいずれとも一致しないと判断することができる。
【0017】
前記複数の個体のそれぞれの前記テンプレート干渉画像には、各個体に固有のIDデータが関連付けられており、前記被識別個体は、IDデータを有しており、前記画像比較工程において、前記干渉画像と、前記被識別個体の前記IDデータに基づいて取得された一つの前記テンプレート干渉画像とを比較することができる。
【0018】
前記干渉画像取得工程において、干渉顕微鏡を用いて前記干渉画像を取得すればよく、前記干渉顕微鏡として、光源として白色光源、赤外光源、単色光源又はレーザ光源を有するものを用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、各個体に固有の個体識別構造体を用いた個体識別が可能な個体認証装置及び個体認証方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る個体識別装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、本開示の一実施形態における干渉対物レンズを示す概略構成図である。
図3図3は、本開示の一実施形態におけるテンプレート画像データベースに格納されているテーブルの一例を示す概略図である。
図4図4は、本開示の一実施形態において閾値を求める際に作成される誤一致率(FMR,False Matching Rate)と誤不一致率(FNMR,False Non-Matching Rate)とのグラフである。
図5図5は、本開示の一実施形態における個体識別構造体の概略構成を示す切断端面図である。
図6図6は、本開示の一実施形態における個体識別構造体の製造方法における各工程を断面図にて示す工程フロー図である。
図7図7は、本開示の一実施形態における個体識別可能な物品(固体)の概略構成を示す平面図(図7(A))及び裏面図(図7(B))である。
図8図8は、本開示の一実施形態に係る個体識別装置を用いて物品(個体)を識別する方法の手順を示すフローチャートである。
図9図9は、試験例1において、各高さ位置における設定可能閾値範囲を算出した結果を示すグラフである。
図10図10は、実施例において求めた誤り率(誤不一致率(FNMR)及び誤一致率(FMR))と閾値との関係を示すグラフである。
図11図11は、試験例1において高さ位置h0にて撮像した個体識別構造体の微細凹凸構造の干渉画像である。
図12図12は、試験例1において高さ位置h14にて撮像した個体識別構造体の微細凹凸構造の干渉画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る個体識別装置の概略構成を示すブロック図であり、図2は、本実施形態における干渉対物レンズを示す概略構成図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る個体識別装置1は、制御部2と、各種プログラム等を記憶する主記憶部3と、制御部2により生成されたデータ等を記憶する補助記憶部4と、複数の物品(個体)のそれぞれに固有の個体識別構造体のテンプレート干渉画像データを各物品に付されているIDデータに関連付けて格納するテンプレート画像データベース6と、識別対象である物品が備える、固有の微細凹凸構造12を有する個体識別構造体10(図5参照)の干渉画像を取得する画像取得部5とを備える。なお、個体識別装置1において、画像取得部5は、他の構成要素(制御部2、主記憶部3、補助記憶部4、テンプレート画像データベース6)と物理的に別個の構成であってもよい。また、個体識別装置1は、各種情報を表示可能なディスプレイを備えていてもよい。
【0023】
制御部2は、テンプレート画像データベース6等に格納された各種データや、補助記憶部4に記憶された各種データ等を読み出し、主記憶部3に記憶された各種プログラムの指示に従って、種々の演算処理等を行う。
【0024】
主記憶部3には、テンプレート画像データベース6に格納されているテンプレート干渉画像と画像取得部5により取得された干渉画像とのマッチングを行うためのプログラム、テンプレート干渉画像と干渉画像とからそれらの類似度を算出するためのプログラム、算出された類似度及び閾値から、識別対象である物品(個体)に固有の微細凹凸構造12を有する個体識別構造体10がテンプレート画像データベース6に登録されている物品(個体)が備えるものであるか否か(すなわち、識別対象である物品(個体)がテンプレート画像データベース6に登録されているか否か)を判定するためのプログラム等の各種の制御プログラム等が記憶されている。
【0025】
補助記憶部4には、画像取得部5により取得された干渉画像、制御部2により算出された類似度、識別対象である物品(個体)を識別するために用いられる閾値等の各種データが記憶される。
【0026】
画像取得部5としては、各物品(個体)に固有の微細凹凸構造12を有する個体識別構造体10の干渉画像を取得可能な撮像装置を用いることができ、例えば、光源(図示省略)と、干渉対物レンズ50(図2参照)と、CCD(Charge Coupled Device)等の画像素子を有するカメラ(図示省略)とを少なくとも備える干渉顕微鏡等を用いることができる。光源としては、白熱電球、ハロゲンランプ、キセノンランプ、LED光源、スーパーコンティニウム光源等の広帯域光源、波長266nm~10600nmに中心波長を有するレーザ光源等を用いることができる。光源を波長域により分類すると、可視光領域の光を主に発する白色光源、赤外光領域の光を主に発する赤外光源、可視光領域における特定波長域の光を主に発する単色光源等を例示することができる。
【0027】
図2に示すように、干渉対物レンズ50としては、光源から出射される光を試料(本実施形態においては個体識別構造体10の微細凹凸構造12)の表面に集光させるレンズ51と、レンズ51にて集光される光の一部を透過させ、他部を反射させる半透鏡52と、レンズ51及び半透鏡52の間に配置され、半透鏡52にて反射される光を反射させる反射鏡53とを備えるミロー型干渉対物レンズ等を用いることができる。なお、干渉対物レンズ50としてミロー型干渉対物レンズを例に挙げたが、これに限定されるものではなく、マイケルソン型干渉対物レンズ等であってもよい。
【0028】
図2に示す干渉対物レンズ50においては、レンズ51にて集光され、半透鏡52を透過して試料の表面にて反射した光と、半透鏡52にて反射して反射鏡53にて反射した光とを干渉させることができる。これにより、干渉顕微鏡のCCDカメラにおいて、試料(個体識別構造体10の微細凹凸構造12)の表面の干渉画像が取得される。
【0029】
本実施形態において、画像取得部5は、個体識別構造体10の微細凹凸構造12の表面から上下方向(±Z方向)にシフトさせた位置に干渉対物レンズ50の焦点距離を合わせて干渉画像を取得するように構成される。画像取得部5は、いわゆるピントのずれた干渉画像を取得することになる。このようなピントのずれた干渉画像を取得することで、高精度に個体を識別することができる。なお、後述するように、本実施形態においては、複数の個体識別構造体のサンプルを用いて類似度を求め、誤一致率(FMR,False Matching Rate)と誤不一致率(FNMR,False Non-Matching Rate)とのグラフ(図4参照)を作成し、当該グラフから求められる、所定の誤り率における設定可能閾値範囲TD内において任意に閾値を設定し、当該閾値に基づいて物品(個体)を識別する。したがって、当該設定可能閾値の範囲が広ければ、物品(個体)を高精度に識別可能な閾値を容易に設定可能であるということができる。後述する実施例からも明らかなように、この設定可能閾値の範囲は、ピントのあった干渉画像を用いるよりも、ピントのずれた干渉画像を用いたほうが広く設定され得る。したがって、本実施形態における画像取得部5がピントのずれた干渉画像を取得することで、高い精度で物品(個体)を識別することができる。
【0030】
画像取得部5が干渉画像を取得する際の干渉対物レンズ50のシフト量(個体識別構造体10の微細凹凸構造12の表面に焦点距離が合っている状態からの±Z方向における干渉対物レンズ50のシフト量)は、特に限定されるものではなく、上記設定可能閾値範囲TDを可能な限り広くすることができるように適宜設定されればよく、当該シフト量は実験的に求められ得る。なお、本実施形態において、個体識別構造体10の微細凹凸構造12の表面に焦点距離が合っている状態とは、個体識別構造体10における微細凹凸構造12の形成されていない平坦面(非パターン領域14)の干渉画像の干渉縞のコントラストが最も大きくなる(干渉画像の輝度値が最も高くなる)状態を意味し、そのときの干渉対物レンズ50の位置(Z方向における位置)を「ピントの合っている位置」ということができる。
【0031】
補助記憶部4に記憶される閾値は、例えば、以下のようにして求められ得る。
まず、複数の個体識別構造体をサンプルS1~SM(Mは2以上の整数である。)として準備する。準備する個体識別構造体の数が多いほどに高精度に閾値を設定することができるが、個体識別構造体の数は特に限定されるものではない。
【0032】
次に、各個体識別構造体の微細凹凸構造の干渉画像を画像取得部5により取得する。このとき、個体識別構造体を下方に、画像取得部5の干渉対物レンズ50を上方に位置させて、当該干渉対物レンズ50を上下方向(±Z方向)に移動させて、個体識別構造体における微細凹凸構造の形成されていない平坦面を基準点とし、その基準点で輝度値が最も高くなる干渉対物レンズ50の高さ位置で微細凹凸構造の干渉画像I0を取得する。その高さ位置(基準点)から下方向(-Z方向)に干渉対物レンズ50を移動させ、各高さ位置における微細凹凸構造の干渉画像I-1,I-2…I-Nを取得する。なお、Nは2以上の任意の整数であればよく、例えば40~400程度であればよい。同様にして、基準点から上方向(+Z方向)に干渉対物レンズ50を移動させ、各高さ位置における微細凹凸構造の干渉画像I+1,I+2…I+Nを取得する。
【0033】
このようにしてすべての個体識別構造体の微細凹凸構造の各高さ位置における干渉画像を取得する。そして、各高さ位置において、すべての微細凹凸構造の干渉画像のうちから任意に選択された一の干渉画像と、すべての干渉画像とのブロックマッチング処理を行い、干渉画像A,B間の類似度RZNCCを下記式(1)によりピアソンの相関係数を用いて算出する。
【0034】
【数1】
式(1)中、A(i, j)は「干渉画像Aの各ピクセルの輝度値」を表し、AAVEは「干渉画像Aの各ピクセルの輝度値の算術平均値」を表し、B(i, j)は「干渉画像Bの各ピクセルの輝度値」を表し、BAVEは「干渉画像Bの各ピクセルの輝度値の算術平均値」を表す。
【0035】
上記のようにして求めた類似度RZNCCを用いて、任意に設定した閾値における誤一致率(FMR,False Matching Rate)と誤不一致率(FNMR,False Non-Matching Rate)とを算出する。このようにして算出した誤一致率(FMR)及び誤不一致率(FNMR)から図4に示すようなグラフを作成する。このグラフから、干渉対物レンズ50の高さ位置ごとに、本実施形態に係る個体識別装置1の用途等によって求められる識別精度に応じた誤り率における設定可能閾値範囲TDを求める。例えば、求められる識別精度に応じた誤り率の範囲が10-3以下であれば、当該誤り率10-3以下における設定可能閾値範囲TDを求めればよい。このようにして求めた、干渉対物レンズ50の各高さ位置における設定可能閾値範囲TDのうち、例えば最も広い設定可能閾値範囲TDにおいて閾値を設定すればよい。通常、閾値は、誤一致率(FMR)のグラフと誤不一致率(FNMR)のグラフとの交点(EER,Equal Error Rate)の近傍に設定され得る。設定された閾値は、干渉対物レンズ50の高さ位置の情報とともに補助記憶部4に記憶される。補助記憶部4に記憶される高さ位置の情報は、本実施形態に係る個体識別装置1を用いた物品(個体)を識別する方法において当該物品(個体)の個体識別構造体10の微細凹凸構造12の干渉画像を取得する際の撮像条件(干渉対物レンズ50の高さ位置)として利用される。すなわち、閾値が設定されると、それと同時に、本実施形態に係る個体識別装置1の画像取得部5における干渉画像の撮像条件が設定されることになる。なお、閾値は、設定可能閾値範囲TDが最も広くなる高さ位置において設定される必要はなく、設定可能閾値範囲TDが所定の幅を有しているのであれば、その高さ位置において、誤一致率(FMR)のグラフと誤不一致率(FNMR)のグラフとの交点(EER)近傍を閾値として設定してもよい。
【0036】
本実施形態においては、干渉顕微鏡を用い、ピントのずれた高さ位置に干渉対物レンズをセットして個体識別構造体の微細凹凸構造の干渉画像を取得し、当該干渉画像を利用して個体を識別するための閾値を決定する。この閾値を決定するための設定可能閾値範囲TDは、所定の誤り率における誤一致率(FMR)に対応する類似度と誤不一致率(FNMR)に対応する類似度との差分により表され、後述する実施例から明らかなように、画像取得部として電子顕微鏡やレーザ顕微鏡を用いた場合に算出される設定可能閾値範囲とほぼ同等の広さを有する。また、本実施形態における設定可能閾値範囲TDは、電子顕微鏡やレーザ顕微鏡を用いた場合に算出される設定可能閾値範囲に比して右側(類似度の大きい側)にシフトしている(図4図10参照)。換言すると、所定の誤り率における誤一致率(FMR)に対応する類似度と誤不一致率(FNMR)に対応する類似度とが、電子顕微鏡やレーザ顕微鏡を用いた場合におけるそれらの類似度よりも大きい値を示すということができる。すなわち、本実施形態においては、閾値として相対的に大きな値が設定され得る。本実施形態における設定可能閾値範囲TDが、相対的に類似度の大きい側にシフトしているということは、閾値の変化量に対して誤不一致率(FNMR)の変化量が相対的に大きいことを意味している。すなわち、閾値をわずかに小さく設定するだけでも誤不一致率(FNMR)を大幅に小さくすることができる。例えば、自動改札機などのような、ICカードによる本人認証チェックを行うことでゲートの開閉を制御する個体識別装置においては、誤不一致率(FNMR)が大きいと、ICカードを有する本人であるにも関わらずゲートが開かないといった事態を引き起こしかねない。大量の人が利用することが想定されている自動改札機などにおいては、ゲートが開かない事態が多発するとそれにより渋滞を引き起こしてしまう。このような場合に、本実施形態に係る個体識別装置1によれば、誤不一致率(FNMR)が小さくなるように閾値を設定することができるため、本人であることを示す物品(個体)を極めて高い精度で識別することができる。
【0037】
テンプレート画像データベース6には、複数の物品(個体)のそれぞれに固有の微細凹凸構造12を有する個体識別構造体10の干渉画像がテンプレート干渉画像として、各物品(個体)のIDデータと関連付けられて格納される。例えば、テンプレート画像データベース6には、各物品(個体)の固有のIDナンバーと、テンプレート干渉画像とが関連付けられたテーブルが格納される(図3参照)。なお、上記のように閾値を求めたときの干渉対物レンズ50の高さ位置において、画像取得部5を用いて各物品(個体)に固有の微細凹凸構造12を有する個体識別構造体10の干渉画像を予め取得し、各物品(個体)の固有のIDナンバーと関連付けられた当該干渉画像が、テンプレート干渉画像としてテンプレート画像データベース6に格納される。
【0038】
ここで、物品(個体)に固有の微細凹凸構造12を有する個体識別構造体10について説明する。図5は、本実施形態における個体識別構造体の概略構成を示す切断端面図である。
【0039】
本実施形態における個体識別構造体10は、第1面11A及び第1面11Aに対向する第2面11Bを有する基部11と、基部11の第1面11Aに形成されてなる微細凹凸構造12とを有する。基部11の第1面11Aには、パターン領域13とその周りを取り囲む非パターン領域14とが設定され、パターン領域13内に微細凹凸構造12が形成されている。
【0040】
微細凹凸構造12は、基部11を構成する基板上に電子線リソグラフィ等により形成された凸状レジストパターンを倒壊させてなる倒壊パターンをマスクとして当該基板をエッチング(ドライエッチング等)することにより形成される。この微細凹凸構造12は、半導体製造等の技術分野において一般的に用いられるフォトリソグラフィ装置における露光光の解像限界以下のパターン間隔を有する。
【0041】
上述した個体識別構造体10は、例えば以下のようにして製造され得る。図6は、本実施形態における個体識別構造体の製造方法における各工程を断面図にて示す工程フロー図である。
【0042】
第1面111A及びそれに対向する第2面111Bを有する基板111を準備し、当該基板111の第1面111Aのパターン領域13上にエネルギー線感応型レジストを塗布してレジスト層30を形成する(図6(A)参照)。基板111としては、例えば、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコン、ガリウム砒素、窒化ガリウム等の半導体材料により構成される半導体基板;石英ガラス、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス材料により構成されるガラス基板;クロム、タンタル、アルミニウム、ニッケル、チタン、銅、鉄、コバルト、スズ、ベリリウム、金、銀、白金、パラジウム、アマルガム等の金属材料により構成される金属基板又は金属箔;ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂材料により構成される樹脂基板又は樹脂フィルム;これらの材料の中から任意に選択される2種以上の材料の複合体により構成される複合基板等が挙げられる。
【0043】
エネルギー線感応型レジストとしては、電子線、X線、紫外線等の所望のエネルギー線の照射により反応し得るネガ型又はポジ型の公知のレジスト材料が用いられ、例えば、ネガ型としては住友化学社製のNEB-22等、ポジ型としては日本ゼオン社製のZEP520A等が挙げられる。レジスト層30の厚みは、レジスト材料の物理的強度、レジストパターンの形状、寸法、ピッチ等に応じて適宜設定され得るものであり、例えば、10~500nm程度に設定され得る。
【0044】
レジスト層30における微細凹凸構造12の形成予定部位にエネルギー線を照射してレジストパターンの潜像31を形成する(図6(B)参照)。エネルギー線としては、レジスト材料の種類に応じて適宜選択される。
【0045】
レジスト層30に現像処理を施してレジストパターン32を形成し(図6(C)参照)、当該レジストパターン32に外力を付与することで、レジストパターン32が変形したレジスト変形部41を少なくとも一部に有するレジスト構造体40を形成する(図6(D)参照)。
【0046】
外力を付与する前のレジストパターン32は、平面視略円形、略矩形等のピラー状パターン、ラインアンドスペース状パターン、又はこれらのパターンの組み合わせ等であり、外力が付与されることで、レジストパターン32が不規則(ランダム)に変形(傾斜、倒壊、滑り等の変形)したレジスト変形部41を少なくとも一部に有するレジスト構造体40を形成することができる。レジスト変形部41においては、レジストパターン32の最小間隔が10nm以下であるのが好ましく、5nm以下であるのが特に好ましい。
【0047】
レジストパターン32に付与される外力としては、例えば、現像処理後に行われるリンス処理の乾燥工程におけるリンス処理液の表面張力、荷電粒子線照射による帯電で発生する静電気力、流体噴射による流体圧力、超音波振動の振動圧等が挙げられ、これらの外力のうちの少なくとも1種がレジストパターン32に付与される。これらの外力がレジストパターン32に付与されることで、レジストパターン32を容易に変形させることができ、人為的に再現することが極めて困難なパターンのランダム性及び微細性を有するレジスト構造体40を形成することができる。
【0048】
レジスト構造体40をマスクとして基板111の第1面111Aをエッチング(例えば、反応性イオンエッチング、反応性ガスエッチング等のドライエッチング;イオンミリングのような物理エッチング等)することで、基板111の第1面111Aに微細凹凸構造12を形成する(図6(E)参照)。なお、基板111のエッチングレートとレジスト構造体40のエッチングレートとを適宜設定することにより、種々の形状、寸法の微細凹凸構造12を形成することができ、当該微細凹凸構造12におけるパターンの最小間隔を好ましくは10nm以下、特に好ましくは5nm以下にすることができる。このようにして、個体識別構造体10が製造され得る。
【0049】
上述した個体識別構造体10は、所定の基体に組み込まれることで個体識別可能な物品(個体)として用いることができる。図7は、本実施形態における個体識別可能な物品(固体)の概略構成を示す平面図(図7(A))及び裏面図(図7(B))である。なお、本実施形態において、物品(個体)100としてクレジットカードを例に挙げて説明するが、これに限定されるものではなく、例えば、各種個人認証カード、パスポート、運転免許書、各種証券、各種保証書等が挙げられる。
【0050】
本実施形態における物品(個体)100としてのクレジットカードは、樹脂等の適宜の素材よりなる平板状の基体101を備え、基体101の第1面101A及び第2面101Bのそれぞれに所定の機能を有する構造が複数設けられている。基体101の第1面101Aには、IDデータやセキュリティ情報等の各種情報が記憶されてなるICチップ102と、個体識別構造体10とが組み込まれている。基体101の第2面101Bには、各種情報が記憶されてなる磁気ストライプ103が設けられている。
【0051】
上述した個体識別装置1を用いて物品(個体)を識別する方法について説明する。
図8は、本実施形態に係る個体識別装置1を用いて物品(個体)を識別する方法の手順を示すフローチャートである。なお、以下においては、識別対象たる物品(個体)として、図7に示すクレジットカード100を例に挙げて説明する。
【0052】
まず、個体識別装置1の制御部2は、画像取得部5を制御することにより、個体識別構造体10の微細凹凸構造12の干渉画像を取得し、クレジットカード100の基体101の第1面101Aに組み込まれているICチップ102からIDデータを取得する(S01)。干渉画像は、画像取得部5の干渉対物レンズ50の焦点距離(ピント)をずらした状態、より具体的には、補助記憶部4に記憶されている閾値を求めたときにおける干渉対物レンズ50の高さ位置と同一の高さ位置に干渉対物レンズ50をセットして取得される。なお、IDデータは、個体識別装置1が有するICチップリーダ(図示せず)により取得されればよい。制御部2は、このようにして取得された干渉画像及びIDデータを補助記憶部4に記憶する(S02)。
【0053】
続いて、制御部2は、補助記憶部4に記憶されたIDデータに基づき、テンプレート画像データベース6からテンプレート干渉画像を読み出し、補助記憶部4に記憶する(S03)。具体的には、IDデータに基づき、テーブル(図3参照)を参照することでテンプレート干渉画像が読み出される。なお、テンプレート画像データベース6には、IDデータに関連付けられたクレジットカード会員に関する情報が格納されていてもよいし、クレジットカード会員に関する情報は、別個のデータベースに格納されていてもよい。
【0054】
次に、制御部2は、補助記憶部4に記憶された干渉画像(S01にて画像取得部5により取得された干渉画像)と、テンプレート画像データベース6から読み出されたテンプレート干渉画像とをブロックマッチングにより比較し、両者の類似度を算出する(S04)。ブロックマッチング処理は、SAD(Sum of Absolute Differences)、SSD(Sum of Squared Differences)、NCC(Normalized Cross Correlation)、ZNCC(Zero-mean Normalized Cross Correlation)、POC(Phase-Only Correlation)等の手法を用いて行われ得る。
【0055】
続いて、制御部2は、上記のように算出された類似度(S04)が、補助記憶部4に記憶されている閾値以上であるか否かを判断する(S05)。類似度が閾値以上である場合(S05,YES)、制御部2は、識別対象である個体識別構造体10を有するクレジットカード100を、テンプレート画像データベース6に登録されている物品(個体)と一致するものであると判定し、その旨の情報を補助記憶部4に記憶する(S06)。そして、一連の個体識別処理を終了する。一方、類似度が閾値未満である場合(S05,NO)、制御部2は、識別対象である個体識別構造体10を有するクレジットカード100を、テンプレート画像データベース6に登録されている物品(個体)と一致しないものであると判定し、その旨の情報を補助記憶部4に記憶する(S06)。そして、一連の個体識別処理を終了する。
【0056】
上述したように、本実施形態に係る個体識別装置1によれば、クレジットカード等の物品(個体)に組み込まれた個体識別構造体10の微細凹凸構造12の干渉画像から高精度に個体を識別することができる。
【0057】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0058】
上記実施形態において、物品(個体)100の識別をする際に、干渉対物レンズ50を所定の高さ位置(閾値を求めたときの高さ位置)にセットして干渉画像を取得し、当該干渉画像とテンプレート干渉画像とを比較しているが、この態様に限定されるものではない。例えば、複数の高さ位置(閾値を求めたときの高さ位置と、それとは異なる高さ位置(例えば、閾値を求めたときの高さ位置よりも+Z方向にシフトした位置及び/又は-Z方向にシフトした位置))のそれぞれにおいて干渉画像が取得されてもよい。この場合において、複数の高さ位置のそれぞれにおいて取得された干渉画像と、テンプレート干渉画像とのブロックマッチングにより、それぞれの類似度を求め、それらの類似度の最大値が閾値以上であるか否かを判定してもよいし、それらの類似度の平均値が閾値以上であるか否かを判定してもよい。
【実施例
【0059】
以下、製造例、試験例、実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の製造例、試験例、実施例等に何ら限定されるものではない。
【0060】
〔製造例1〕個体識別構造体の製造
第1面111A及びそれに対向する第2面111Bを有するシリコン基板111(30μm×30μm)を準備し、基板111の第1面111A上にエネルギー線感応型レジスト(住友化学社製,NEB-22)を塗布してレジスト層30を形成した(図6(A)参照)。
【0061】
第1面111A上の中央に位置するパターン領域13(20μm×20μm)状におけるレジスト層30に電子線を照射して幅120nm、ピッチ200nmのピラー状レジストパターンの潜像31を形成し(図6(B)参照)、レジスト層30に現像処理を施すことで、ピラー状レジストパターン32が変形したレジスト変形部41を少なくとも一部に有するレジスト構造体40を形成した(図6(D)参照)。
【0062】
レジスト構造体40をマスクとして基板111の第1面111Aをドライエッチングして、基板111の第1面111Aに微細凹凸構造12を形成し、個体識別構造体10を製造した(図6(E)参照)。このようにして、14個の個体識別構造体10を製造した。
【0063】
〔試験例1〕干渉対物レンズの高さ位置の設定
製造例1にて製造した14個の個体識別構造体(サンプルS1~S14)のうちから任意に選択した4個のサンプルS1~S4のそれぞれにつき、白色干渉顕微鏡(Zygo社製,製品名:Zygo NewView 6300)を用いて非パターン領域14の干渉画像の干渉縞のコントラストが最も大きくなる(干渉画像の輝度値が最も高くなる)状態における干渉対物レンズの高さ位置h0を求めた。その高さ位置h0と、高さ位置h0から1段階につき82nm間隔で+Z方向及び-Z方向のそれぞれに40段階シフトさせた高さ位置h1~h40,h-1~h-40のそれぞれとにおいて、4個の個体識別構造体のそれぞれにつき14枚ずつの干渉画像I-40-S1/1~I-40-S1/14・・・I40-S1/1~I40-S1/14;I-40-S2/1~I-40-S2/14・・・I40-S2/1~I40-S2/14;I-40-S3/1~I-40-S3/14・・・I40-S3/1~I40-S4/14;I-40-S4/1~I-40-S4/14・・・I40-S4/1~I40-S4/14を取得した。
【0064】
また、同様にして1個のサンプルS5について、各高さ位置h-40~h40において13枚ずつの干渉画像I-40-S5/1~I-40-S5/13・・・I40-S5/1~I40-S5/13を取得した。さらに、同様にして9個のサンプルS6~S14について、各高さ位置h-40~h40において4枚ずつの干渉画像I-40-S6/1~I-40-S6/4・・・I40-S6/1~I40-S6/4;・・・;I-40-S14/1~I-40-S14/4・・・I40-S14/1~I40-S14/4を取得した。
【0065】
各サンプルSM(M=1~14)の各高さ位置h-40~h40における干渉画像同士のブロックマッチング処理を行って各干渉画像間の類似度を上記数式(1)により算出し、誤不一致率(FNMR)が0.07となる閾値を求めた。
【0066】
また、あるサンプルの各高さ位置における干渉画像と、異なるサンプルの同一高さ位置における干渉画像とのブロックマッチング処理を行った。例えば、サンプルS1の高さ位置h40における1枚目の干渉画像I40-S1/1と、サンプルS2の高さ位置h40における1枚目の干渉画像I40-S2/1とのブロックマッチング処理を行った。そして、各干渉画像間の類似度を上記数式(1)により算出し、誤一致率(FMR)が0.07となる閾値を求めた。
【0067】
各高さ位置h-40~h40において、誤不一致率(FNMR)0.07のときの閾値と誤一致率(FMR)0.07のときの閾値との差分を算出し、設定可能閾値範囲TDを求めた。各高さ位置h-40~h40における設定可能閾値範囲TDの算出結果を図9のグラフに示す。なお、誤不一致率(FNMR)及び誤一致率(FMR)がともに0.07のときには、高さ位置h0における設定可能閾値範囲TDが0となるため、図9に示すグラフによれば、高さ位置h0との比較において高さ位置をシフトさせることによる優位性を評価することができ、より好適な高さ位置を求めることができる。
【0068】
図9のグラフに示すように、基準点h0、すなわち各個体識別構造体の微細凹凸構造にピントがあっている状態における干渉画像I0よりも、当該基準点h0から±Z方向に干渉対物レンズをシフトさせた高さ位置において取得した干渉画像を用いることで、設定可能閾値範囲TDがより広くなることが明らかとなった。また、この試験例においては、基準点h0から+Z方向に14段階シフトした高さ位置h14において、設定可能閾値範囲TDが最大になることが明らかとなった。この試験例の結果から、ピントがずれた状態における干渉画像を用いることで、より高い精度で物品(個体)を識別可能であると推察される。
【0069】
〔実施例1〕
高さ位置h0において、試験例1にて取得した干渉画像(図11参照)を用いてブロックマッチング処理を行って、各干渉画像間の類似度を上記数式(1)により算出し、誤り率(誤不一致率(FNMR)及び誤一致率(FMR))を求めた。閾値と誤り率との関係を図10に示す。
【0070】
〔実施例2〕
高さ位置h14において、試験例1にて取得した干渉画像(図12参照)を用いてブロックマッチング処理を行って、各干渉画像間の類似度を上記数式(1)により算出し、誤り率(誤不一致率(FNMR)及び誤一致率(FMR))を求めた。閾値と誤り率との関係を図10にあわせて示す。
【0071】
〔比較例1〕
白色干渉顕微鏡に代えて走査型電子顕微鏡(SEM,日立ハイテクノロシーズ社製,製品名:SU8000)を用い、各個体識別構造体の微細凹凸構造にピントを合わせてSEM画像を取得した。当該SEM画像を用いてブロックマッチング処理を行って、各SEM画像間の類似度を上記数式(1)により算出し、誤り率(誤不一致率(FNMR)及び誤一致率(FMR))を求めた。閾値と誤り率との関係を図10にあわせて示す。
【0072】
〔比較例2〕
白色干渉顕微鏡に代えてレーザ顕微鏡(オリンパス社製,製品名:LEXT OLS4000)を用い、各個体識別構造体の微細凹凸構造にピントを合わせて顕微鏡画像を取得した。当該顕微鏡画像を用いてブロックマッチング処理を行って、各顕微鏡画像間の類似度を上記数式(1)により算出し、誤り率(誤不一致率(FNMR)及び誤一致率(FMR))を求めた。閾値と誤り率との関係を図10にあわせて示す。
【0073】
図10に示すように、実施例2(白色干渉顕微鏡においてピントをずらして取得した干渉画像を用いた例)は、実施例1(白色干渉顕微鏡においてピントを合わせて取得した干渉画像を用いた例)よりも広い設定可能閾値範囲TDを有し、より高い精度で物品(個体)を識別可能であることが確認された。
【0074】
また、実施例2は、比較例1(SEMを用いて取得したSEM画像を用いた例)及び比較例2(レーザ顕微鏡を用いて取得した顕微鏡画像を用いた例)と同等の設定可能閾値範囲TDを有し、同精度で物品(個体)を識別可能であることが確認された。さらに、実施例2の設定可能閾値範囲TDは、比較例1及び比較例2の設定可能閾値範囲TDよりも右側に位置していた。すなわち、実施例2においては、相対的に閾値を大きい値に設定することが可能である。実施例2における設定可能閾値範囲TDが、相対的に類似度の大きい側(図10に示すグラフの右側)にシフトしているということは、閾値(類似度)の変化量に対して誤不一致率(FNMR)の変化量が相対的に大きいことを意味している。すなわち、閾値をわずかに小さく設定するだけでも誤不一致率(FNMR)を大幅に小さくすることができる。例えば、自動改札機などのような、ICカードによる本人認証チェックを行うことでゲートの開閉を制御するために用いられる個体識別装置においては、誤不一致率(FNMR)が大きいと、ICカードを有する本人であるにも関わらずゲートが開かないといった事態を引き起こしかねない。大量の人の利用が想定されている自動改札機などにおいては、ゲートが開かない事態が多発するとそれにより渋滞を引き起こしてしまう。このような場合であっても、誤不一致率(FNMR)が極めて小さくなるように閾値が設定され得るため、本人であることを示す物品(個体)を極めて高い精度で識別することができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、人工物の固有の特徴を用いる個体識別を行う必要のある技術分野において有用である。
【符号の説明】
【0076】
1…個体識別装置
2…制御部
3…主記憶部
4…補助記憶部
5…画像取得部
50…干渉対物レンズ
6…テンプレート画像データベース
10…個体識別構造体
12…微細凹凸構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12