(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】壊死性腸炎治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/35 20150101AFI20230913BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230913BHJP
C12N 5/077 20100101ALN20230913BHJP
【FI】
A61K35/35
A61P1/04
C12N5/077
(21)【出願番号】P 2019176811
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018196820
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】松本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】風間 智彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義朗
(72)【発明者】
【氏名】見松 はるか
(72)【発明者】
【氏名】小野田 淳人
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-87141(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158670(WO,A1)
【文献】特開2016-87187(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196503(WO,A1)
【文献】特表2007-504204(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013352(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104120106(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0095511(US,A1)
【文献】国際公開第2004/111211(WO,A1)
【文献】特開2000-83656(JP,A)
【文献】DFAT(脱分化脂肪細胞)を用いた炎症性腸疾患(IBD)への治療検討,日小外会誌,2010年05月,vol.46, no.3,p.425,PD2-08
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61P 1/00- 1/18
C12N 5/00- 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱分化脂肪細胞を有効成分として含有する、壊死性腸炎治療用組成物。
【請求項2】
前記脱分化脂肪細胞が壊死性腸炎患者又は患畜由来の自家細胞である、請求項1に記載の壊死性腸炎治療用組成物。
【請求項3】
腸管の炎症部に投与されるように用いられる、請求項1又は2に記載の壊死性腸炎治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壊死性腸炎治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新生児医療の発展により、出生体重が1500g以下である低体重児又は生後32週未満で産まれる早産児が増加している。これら新生児では、腸管が未熟であることや細菌による感染、腸管での血流障害等によって、新生児壊死性腸炎(necrotizing enterocolitis;NEC)が発生するリスクが高まっている。NECは、主に生後30日未満、特に2週間以内の低体重児又は早産児において発症しやすく、敗血症、低栄養、短腸症候群等を高い確率で合併し、死亡率は30%程度である。また、治癒しても発達遅延や腸管の狭窄等の後遺症が残る虞がある。
【0003】
NECの治療方法としては、一般的に、禁乳、胃内容物の吸引、輸液、抗生剤の投与等が挙げられるが、腸管穿孔の場合には、外科的手術が必要となる。
また、近年、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)がNECの治療に有効であることがNECのモデルラットを用いた試験により示されている(例えば、非特許文献1等参照)。
【0004】
一方、間葉系幹細胞と同様な分化能を有する細胞として脱分化脂肪細胞(dedifferentiated fat cells;DFAT cells)が知られている。DFAT細胞は、脂肪組織を構成する成熟脂肪細胞を単離し、天井培養法を用いることで、自発的に脱分化を開始し、多分化能を獲得した細胞である(例えば、特許文献1、2等参照)。
本発明者らは、これまで、DFAT細胞を用いて、歯周組織再生用材料(例えば、特許文献3等参照)や真皮再建用テンプレート(例えば、特許文献4等参照)を開発している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2004/111211号
【文献】特開2000-83656号公報
【文献】国際公開第2014/196503号
【文献】特開2016-087187号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Drucker NA et al., “Stem cell therapy in necrotizing enterocolitis: Current state and future directions.”, Seminars in Pediatric Surgery, Vol. 27, Issue 1, p57-64, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のNECの治療法は、対症療法が主となっている。一方、NECの治療にMSCを用いる場合には、大量且つ純度の高い幹細胞を速やかに投与する必要があると考えられる。しかしながら、間葉系幹細胞は、採取時の侵襲が大きく、増殖速度が遅く、さらに採取後の細胞には、間葉系幹細胞以外の細胞も多く混在している。そのため、短期間で純度の高い細胞を大量に調製することが困難である。
従って、NECの新規で有効な治療法が求められている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、新規の壊死性腸炎治療用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、DFAT細胞をNECモデルラットに投与することで、優れた治療効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る壊死性腸炎治療用組成物は、DFAT細胞を有効成分として含有する。
前記DFAT細胞が壊死性腸炎患者又は患畜由来の自家細胞であってもよい。
上記第1態様に係る壊死性腸炎治療用組成物は、腸管の炎症部に投与されるように用いられてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記態様の壊死性腸炎治療用組成物によれば、新規で有効な壊死性腸炎治療用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】NECモデルラットの作製方法を示す概略図である。
【
図1B】実施例1におけるNECモデルラットへのDFAT細胞の投与スケジュールを示す概略図である。
【
図2】実施例1におけるDFAT細胞の代わりにビヒクル(重炭酸リンゲル液)を投与したNECモデルラット(Vehicle群)及びDFAT投与群でのラットの生存率を示すグラフである。
【
図3】実施例1における健常ラット(Control群)、Vehicle群及びDFAT投与群から摘出された腸管を示す画像である。
【
図4】実施例1におけるControl群、Vehicle群及びDFAT投与群での腸管の壊死度合いを肉眼で評価した結果を示すグラフである。
【
図5】病理学的重症度スケールがgrade0~3であるラット腸管のヘマトキシリン-エオジン(HE)染色像である。
【
図6】実施例2におけるControl群、Vehicle群及びDFAT投与群の腸管のHE染色像の評価結果を示すグラフである。
【
図7A】実施例2におけるControl群、Vehicle群及びDFAT投与群の腸管の抗活性型カスパーゼ-3抗体による免疫染色像である。
【
図7B】実施例2におけるControl群、Vehicle群及びDFAT投与群の腸管の抗活性型カスパーゼ-3抗体による免疫染色像の評価結果を示すグラフである。
【
図8A】実施例3におけるNECモデルラットから摘出された腸管で発現が上昇したタンパク質(Pathway解析により抽出された、Fatty acid metabolism,Fatty acid degradation,PPAR signaling pathwayのtermに含まれる、発現上昇した13種類のタンパク質)について、sham群、並びに、NECモデルラット(vehicle-mild群、vehicle-severe群及びDFAT投与群)での発現量を示すグラフである。
【
図8B】実施例3におけるNECモデルラットから摘出された腸管で発現が減少したタンパク質Pathway解析により抽出された、Fatty acid metabolism,Fatty acid degradation,PPAR signaling pathwayのtermに含まれる、発現低下した4種類のタンパク質)について、sham群、並びに、NECモデルラット(vehicle-mild群、vehicle-severe群及びDFAT投与群)での発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪壊死性腸炎治療用組成物≫
本実施形態の壊死性腸炎治療用組成物(以下、「NEC治療用組成物」と略記する場合がある)は、DFAT細胞を有効成分として含有する。
なお、ここでいう「DFAT細胞を有効成分として含有する」とは、DFAT細胞をNECの治療効果を奏する成分として含有することを意味する。
【0014】
現在、NECの治療への臨床応用が検討されているMSCは、ES細胞と比べて、腫瘍形成能が低いと考えられており、骨髄、羊水、臍帯血及び脂肪組織等から採取することができる。しかしながら、骨髄からのMSCの採取は侵襲性が高く、MSCは骨髄中の全有核細胞数に対して0.001%以上0.01%以下程度の極微量しか含まれず、加齢とともに増殖力が低下するため、採取対象となるドナーの年齢に増殖力は依存する。羊水からのMSCの採取は、侵襲性は低いが、MSCは羊水中の全有核細胞数に対して1%以上2%以下程度の微量しか含まれず、増殖が遅い。脂肪組織からのMSCの採取は、侵襲性は低いが、MSCは間質血管分画中の全有核細胞数に対して0.3%以上4%以下程度の微量しか含まれないため、細胞治療に必要な108個程度の細胞数を得るためには、通常50mL以上300mL以下の脂肪組織の採取が必要となる。また、脂肪組織のMSCは、骨髄及び羊水中のMSCに対して増殖力は高いが、加齢とともに増殖力が低下するため、採取対象となるドナーの年齢に増殖力は依存する。さらに、細胞組織からMSCを採取する際に、MSC以外の細胞を多く含むため、継代培養を複数回繰り返して純化する必要があり、純化に時間を要する。
これに対して、DFAT細胞は、脂肪組織の約30%を占める成熟脂肪細胞を原料としているため、10mL程度の少量の脂肪組織から細胞数108個程度の細胞治療に十分なDFAT細胞が得られる。従って、採取に伴う侵襲性は、脂肪組織からMSCを採取するより低い。また、脂肪組織から成熟脂肪細胞を単離する際に、その他の細胞が混入しにくいため、培養早期より純度の高いDFAT細胞が得られる。さらに、DFAT細胞の増殖力はMSCと同等であるが、その増殖力や多分化能はMSCと異なり採取対象となるドナーの年齢や基礎疾患の影響を受けずに保たれる。
また、後述する実施例に記載のとおり、DFAT細胞をNECモデルラットに腹腔内投与することで、組織修復効果及びNEC重症度の改善効果が示されており、DFAT細胞の投与はNECの治療効果を期待できる。
【0015】
DFAT細胞は、NEC患者又は患畜由来の自家細胞であってもよく、当該患者又は患畜以外のドナー由来の他家細胞であってもよい。当該患者又は患畜以外のドナーとしては、NEC患者又は患畜と同種の動物であればよく、年齢及び性別は問わない。
NECの治療にNEC患者又は患畜由来の自家細胞を用いる場合、低体重であり、発達が未熟な患者又は患畜であっても、少量の成熟脂肪細胞から大量に自家細胞のDFAT細胞を調製することができる。さらに、DFAT細胞は、上述のとおり増殖力が高いことから、短期間に必要量の細胞数を得ることができ、速やかに患者又は患畜に投与することができる。また、自家細胞であるため、免疫拒絶を受けるリスクがない。
また、当該患者又は患畜以外のドナー由来の他家細胞である場合、免疫拒絶により速やかに排除される可能性があるが、他家細胞であるDFAT細胞が炎症部において抗炎症作用を発現することができるため、十分に治療効果が期待できる。また、他家細胞である場合、外科手術時に廃棄される脂肪組織から採取された成熟脂肪細胞を用いて調製することができ、侵襲度が低い。さらに、これら廃棄される脂肪組織から採取された成熟脂肪細胞を用いて調製されたDFAT細胞からなるバンキングシステムを容易に構築することができ、このバンキングシステムを利用することで、患者又は患畜に適したDFAT細胞を適宜選択して用いることもできる。
【0016】
本実施形態のNEC治療用組成物に含まれるDFAT細胞は、公知の方法、例えば、特許文献2に記載の方法を用いて、動物の脂肪組織から採取された成熟脂肪細胞から調製することができる。具体的には、まず、脂肪組織からコラゲナーゼ処理等により成熟脂肪細胞を単離する。次いで、単離された成熟脂肪細胞を天井培養法によって培養することでDFAT細胞が得られる。調製されたDFAT細胞は、継代培養を少なくとも1回した後、すぐに使用することができる。
【0017】
本実施形態のNEC治療用組成物に含まれるDFAT細胞は、CD31陰性、CD45陰性及びHLA-DR陰性である。CD31、CD45及びHLA-DRは、細胞表面抗原であり、例えばフローサイトメトリー、細胞染色等により検出することができる。そのため、これら細胞表面抗原を検出することで、DFAT細胞の純度を確認することができる。具体的には、例えば、蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーでは、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該細胞表面抗原について「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。細胞染色において、着色する又は蛍光を発する細胞が顕微鏡下にて観察された場合、当該細胞は当該細胞表面抗原について「陽性」と判定される。細胞染色は、抗体を使用する免疫細胞染色であってもよく、抗体を使用しない非免疫細胞染色であってもよい。
上記細胞表面抗原を検出するタイミングとしては、特別な限定はなく、例えば、成熟脂肪細胞からDFAT細胞が調製された直後、継代培養中、製剤化する前等が挙げられる。
【0018】
本実施形態のNEC治療用組成物は、公知の方法を用いて適宜製剤とすることができ、一般的な細胞製剤が含む成分を配合することができる。具体的には、本実施形態のNEC治療用組成物の製剤においては、製剤上の必要に応じて、適宜の薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、吸着剤、甘味剤、希釈剤等の任意成分を配合することができる。
【0019】
本実施形態のNEC治療用組成物の投与方法としては、腸管の炎症部に投与されるように用いられることが好ましい。投与方法として具体的には、例えば、血管内投与(好ましくは静脈内投与)、腹腔内投与、腸管内投与、皮下投与等が挙げられる。中でも、腹腔内投与又は腸管内投与が好ましい。
【0020】
本実施形態のNEC治療用組成物の投与量としては、NECの重症度や、剤型、投与対象の体重等によって変わり得るが、DFAT細胞を、例えば、1回当たり、1.0×105個/kg体重以上1.0×1010個/kg体重以下の範囲で投与することができる。また、本実施形態のNEC治療用組成物の投与は、単回投与でもよく、複数回投与であってもよい。複数回投与である場合は、例えば、2時間以上12時間以下の期間毎、毎日、2日に1回等の頻度で投与することができる。
【0021】
本実施形態のNEC治療用組成物の投与対象としては、哺乳動物であることが好ましい。哺乳動物としては、特別な限定はないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ等が挙げられる。中でも、哺乳動物としては、ヒトが好ましい。
【0022】
また、一実施形態において、本発明は、NEC治療用組成物の製造のための、DFAT細胞の使用を提供することができる。
また、一実施形態において、本発明は、NECの治療のための、DFAT細胞の使用を提供することができる。
また、一実施形態において、本発明は、NEC患者又は患畜に投与して、組織修復又はNEC重症度の改善のために使用される、DFAT細胞を提供することができる。
また、一実施形態において、本発明は、DFAT細胞の治療有効量をNEC患者又は患畜に投与する、NECの治療方法を提供することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
[実施例1]
1.マウスDFAT細胞の調製
マウスDFAT細胞は、特許文献2に記載の方法を用いて、マウス脂肪組織から採取された成熟脂肪細胞から、予め調製した。
【0025】
2.NECモデルラットの作製及びDFAT細胞の投与
NECモデルラットは、参考文献1(Guven A et al., “Hyperbaric oxygen therapy reduces the severity of necrotizing enterocolitis in a neonatal rat model.”, Journal of Pediatric Surgery, Vol. 44, Issue 3, p534-540, 2009.)に記載の方法を用いて、作製することができる(
図1A参照)。
NECモデルラットの作製と並行したDFAT細胞の投与(以下、「DFAT投与群」と称する場合がある)(n=14)は、
図1Bに示すプロトコールに沿って、行った。具体的には、まず、妊娠21日齢のラットを帝王切開して、仔ラットを取り出した。次いで、仔ラットに、低体温刺激(4℃5分間)、低酸素刺激(100%二酸化炭素環境下、10分間)及び酸素投与(100%酸素環境下、5分間)からなるストレス負荷を、1日に2回ずつ4日間にわたって行った。また、生後2時間後及び28時間後に、仔ラットの体重1kgに対して3mg以上4mg以下程度のリポ多糖(Lipopolysaccharide;LPS)(大腸菌O111:B4株由来)を胃内投与した。DFAT細胞は、生後31時間後及び55時間後に、それぞれ1.0×10
6cellsずつ、2回に分けて、腹腔内投与した(
図1B参照)。生後96時間後に開腹した。
また、生後31時間後及び55時間後に、DFAT細胞の代わりに、ビヒクル(重炭酸リンゲル液(エイワイファーマ株式会社製))のみを投与した仔ラットも準備した(以下、「Vehicle群」と称する場合がある)(n=14)。
さらに、上記ストレス及びリポ多糖を投与せずに生育した健常仔ラットも準備した(以下、「Control群」と称する場合がある)(n=6)。
【0026】
生後96時間後(4日後)までの生存率の推移を
図2に示す。
図2から、DFAT投与群では、生後4日後までの生存率が60%程度であったのに対して、Vehicle群では30%程度であり、生存率が有意に高かった。
【0027】
3.肉眼での観察
生後4日後の各群の仔ラットの腸管を摘出して、肉眼で観察した(
図3参照)。
図3から、DFAT投与群では、Control群と同様に、腸管は正常であったのに対して、Vehicle群では腸管の壊死が観察された(
図3中、「Vehicle群」の矢頭参照)。
また、以下の評価基準に従って、各群のラットの腸管の状態を評価した。DFAT投与群及びVehicle群では、準備した14匹中、9匹について評価を行った。Control群では、準備した6匹中、6匹とも評価対象とした。結果を
図4に示す。
【0028】
(評価基準)
スコア0:正常腸管
スコア1:軽度出血
スコア2:中等度出血、又は腸管壁が褐色~黒色に変化
スコア3:重度出血、又は腸管穿孔
【0029】
図4から、DFAT投与群では、評価対象である9匹中、スコア0の仔ラットは7匹であった。これに対して、Vehicle群では、評価対象である9匹中、スコア0である仔ラットは3匹であり、スコア1以上の仔ラットが評価対象の3分の2を占めていた。
【0030】
[実施例2]
1.NECモデルラットの作製及びDFATの投与
実施例1と同様の方法を用いて、DFAT投与群、Vehicle群及びControl群を各10匹ずつ準備した。
【0031】
2.病理学的評価
(1)HE染色
摘出した腸管から組織片を作製し、HE染色を行い、腸管の壊死の重症度を評価した。各群のHE染色像について、参考文献1に記載の評価基準(具体的には、以下参照)に従い、評価した(
図5参照)。結果を
図6に示す。なお、DFAT投与群では、準備した10匹中、8匹について評価を行った。Vehicle群では、準備した10匹中、9匹について評価を行った。Control群では、準備した10匹中、10匹とも評価対象とした。
【0032】
(評価基準)
grade0:正常
grade1:絨毛中心の分離が観察される、他の異常はない
grade2:絨毛中心の分離、粘膜下層の浮腫及び上皮脱落が観察される
grade3:上皮の露出、絨毛の欠損、全層の壊死又は穿孔が観察される
【0033】
図6から、DFAT投与群では、評価対象である8匹中、grade0の仔ラットが5匹であり、grade3である仔ラットは観察されなかった。一方、Vehicle群では、評価対象である9匹中、grade0の仔ラットは観察されず、grade3である仔ラットが5匹であり、評価対象の2分の1以上を占めていた。
【0034】
(2)抗活性型カスパーゼ-3抗体による免疫染色
摘出した腸管から組織片を作製し、抗活性型カスパーゼ-3抗体による免疫染色を行い、アポトーシスした細胞を染色した。各群の免疫染色像の代表例を
図7Aに示す。各群の免疫染色像について、参考文献1に記載の評価基準(具体的には、以下参照)に従い、評価した。結果を
図7Bに示す。なお、DFAT投与群及びControl群では、準備した10匹中、10匹とも評価対象とした。Vehicle群では、準備した10匹中、8匹について評価を行った。
【0035】
(評価基準)
grade0:正常
grade1:絨毛先端にアポトーシス核がある
grade2:すべての繊毛先端にアポトーシス核がある、クリプトは保たれている
grade3:移行部がアポトーシス核で分離している
【0036】
図7A及び
図7Bから、DFAT投与群では、評価対象である10匹中、grade0の仔ラットが8匹であり、評価対象の5分の4を占めていた。一方、Vehicle群では、評価対象である8匹中、grade0の仔ラットが観察されず、grade1である仔ラットが1匹、grade2である仔ラットが5匹、grade3である仔ラットが2匹であった。
【0037】
[実施例3]
1.NECモデルラットの作製及びDFATの投与
実施例1と同様の方法を用いて、DFAT投与群を準備した(n=3)。
また、生後31時間後及び55時間後に、DFAT細胞の代わりに、ビヒクル(重炭酸リンゲル液(エイワイファーマ株式会社製))のみを投与した仔ラットも準備した(以下、「vehicle-mild群」又は「mild群」と称する場合がある)(n=3)。
また、生後31時間後及び55時間後に、DFAT細胞の代わりに、ビヒクル(重炭酸リンゲル液(エイワイファーマ株式会社製))のみを投与した仔ラットも準備した(以下、「vehicle-severe群」又は「severe群」と称する場合がある)(n=3)。
さらに、上記ストレス及びリポ多糖を投与せずに生育した健常仔ラットも準備した(以下、「sham(見せかけ)群」と称する場合がある)(n=3)。
【0038】
2.プロテオーム解析
1.で準備した各ラット群の腸管を摘出しタンパク抽出を行い、タンパク質の網羅的解析であるLC-MS/MSを用いて、プロテオーム解析を行なった。その結果、腸管において検出されたタンパク質1426種類のうち、NECモデルラットにおいて発現が上昇したタンパク質は335種類であり、発現が減少したタンパク質は101種類であり、NECモデルラットにおいて発現が変動したタンパク質は合計436種類であった。発現の上昇及び減少の選定条件は以下のとおりとした。
【0039】
(条件)
発現上昇:sham群に対するmild群の発現量の比 mild/sham>1.5、且つ、
sham群に対するsevere群の発現量の比 severe/sham>2.0
(sham群が検出限界以下の場合には、
mild群及びsevere群の両方で検出されるタンパク質であって、
mild群に対するsevere群の発現量の比 severe/mild>2.0/1.5)
発現減少:sham群に対するmild群の発現量の比 mild/sham<1/1.5、
sham群に対するsevere群の発現量の比 severe/sham<1/2.0、且つ、
mild群に対するsevere群の発現量の比 severe/mild<1.5/2.0
【0040】
これらNECモデルラットにおいて発現が変動したタンパク質436種類について、KEGGのPathwayデータベース(https://www.genome.jp/kegg/pathway.html;検索日2019年6月1日)を用いて、Pathway解析を行なった。解析条件は以下のとおりである。結果を以下の表1に示す。
【0041】
(解析条件)
p<0.05;
Fold Enrichment>2;
Symbols number>3;
Cluster enrichment score>2
【0042】
【0043】
発現が上昇したタンパク質(上記Pathway解析により抽出された、Fatty acid metabolism、Fatty acid degradation、PPAR signaling pathwayのtermに含まれる、発現上昇した13種類のタンパク質)の各ラット群での発現量を示すグラフを
図8Aに、NECモデルラットにおいて発現が減少したタンパク質(上記Pathway解析により抽出された、Fatty acid metabolism、Fatty acid degradation、PPAR signaling pathwayのtermに含まれる、発現低下した4種類のタンパク質)の各ラット群での発現量を示すグラフを
図8Bに示す。
図8A及び
図8Bにおいて、いずれもsham群での各タンパク質の発現量を1とした場合の各群での相対値を示す。発現の上昇及び減少の改善の選定条件は以下のとおりとした。
【0044】
(条件)
発現上昇:NECモデルラットにおいて発現が上昇し、且つDFAT投与により発現が改善したタンパク質は335種類のうち、
severe群に対するDFAT投与群の発現量の比 DFAT/severe<1/2.0、且つ、
mild群に対するDFAT投与群の発現量の比 DFAT/mild<1/1.5
発現減少:NECモデルラットにおいて発現が減少し、且つDFAT投与により発現が改善したタンパク質は101種類のうち、
severe群に対するDFAT投与群の発現量の比 DFAT/severe>2.0、且つ、
mild群に対するDFAT投与群の発現量の比 DFAT/mild>1.5
【0045】
NECモデルラットにおいて発現が変動したタンパク質436種類のうち、DFAT投与群において発現の上昇が改善されたタンパク質は86種類、発現の減少が改善されたタンパク質は7種類であり、NECモデルラットにおいてDFAT投与により発現の変動が改善したタンパク質は合計93種類であった。
【0046】
これらNECモデルラットにおいてDFAT投与により発現の変動が改善したタンパク質93種類について、KEGGのPathwayデータベース(https://www.genome.jp/kegg/pathway.html;検索日2019年2019年6月1日)を用いて、Pathway解析を行なった。解析条件は以下のとおりである。結果を以下の表2に示す。
【0047】
(解析条件)
p<0.05;
Fold Enrichment>2;
Symbols number>3;
Cluster enrichment score>2
【0048】
【0049】
表1に示すPathway解析から、NECモデルラットでは、Acat1(アセチル補酵素A C-アセチルトランスフェラーゼ 1)等に代表される脂肪酸代謝関連タンパク質群(Fatty acid metabolism、Fatty acid degradation、PPAR signaling pathway)が最も顕著に発現変動を示すことが明らかとなった。
さらに、
図8A、
図8B及び表2から、NECモデルラットで発現が変動したタンパク質において、DFATの投与により、Acadm(中鎖アシル補酵素A脱水素酵素)、Aldh7a1(アルデヒド脱水素酵素 7a1)、Acox1(アセチル補酵素Aオキシダーゼ 1)、Echs1(エノイル補酵素Aヒドラターゼ 1)等の脂肪酸分解を担うタンパク質群(Fatty acid degradation)の発現異常が改善されることが明らかとなった。
これらの結果から、脂肪酸代謝関連タンパク質がNECの治療標的となり得ることが示唆された。同時に、DFATの投与により、脂肪酸代謝関連タンパク質の発現異常が改善される可能性が示された。
【0050】
以上のことから、DFAT細胞は、NECの治療に有効であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本実施形態のNEC治療用組成物によれば、NECを治療することができる。