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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】帽子
(51)【国際特許分類】
   A42B 1/18 20060101AFI20230913BHJP
   A42B 1/04 20210101ALI20230913BHJP
   A42B 1/00 20210101ALI20230913BHJP
【FI】
A42B1/18
A42B1/04 J
A42B1/00 P
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020009594
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021116486
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】597093115
【氏名又は名称】株式会社シオジリ製帽
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100215393
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 祐資
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】塩尻 英一
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-207319(JP,A)
【文献】登録実用新案第3066562(JP,U)
【文献】特開2010-285733(JP,A)
【文献】登録実用新案第3072311(JP,U)
【文献】登録実用新案第3182132(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42B 1/00- 1/248
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の頭部を覆うクラウンと、
クラウンの下縁全周部から外方に突出して設けられた環状鍔と、
を備えた帽子であって、
環状鍔の上面を伝う雨水を吸収するための雨水吸収材、環状鍔の前側の先端縁及び後側の先端縁に沿った箇所に取り付けられ、
雨水吸収材の外縁が、環状鍔の先端縁に沿って固定される一方、雨水吸収材における他の箇所が、環状鍔に固定されないことによって、雨水吸収材の内縁側から雨水吸収材と環状鍔との間に指を入れることができるようにし
ことを特徴とする帽子。
【請求項2】
雨水吸収材が、
雨水を吸収するための吸水素材と、
吸水素材の上面を覆う上側生地と、
吸水素材の下面を覆う下側生地と
で構成され、
上側生地が、メッシュ素材で形成された
請求項記載の帽子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍔の先端縁から雨水が垂れ落ちにくくした帽子と、この帽子の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
雨天下でゴルフをしているときに、帽子の鍔から雨水が垂れ落ちてくると、集中力が乱されやすい。特に、パッティングは、他のショットよりも集中力が要求されるところ、雨の中でのパッティングでは、集中力を保つことが難しくなる。というのも、パッティングに使用するクラブ(パター)が短く、パッティングの際には、大きく前傾した姿勢(鍔の前側の先端縁から雨水が垂れ落ちやすい姿勢)をとる必要があるからである。
【0003】
このような実状に鑑みてか、これまでには、鍔の先端縁から雨水が垂れ落ちないように工夫を施した各種の帽子が提案されている。例えば、特許文献1~3に示すように、鍔の先端縁又は全体を上方に折り曲げることができるようにした帽子や、特許文献4,5に示すように鍔の上面に傾斜や起伏を設けた帽子や、特許文献6~8に示すように、雨滴を遮る又は側方に案内するための着脱部材を鍔の先端縁に取り付けた帽子や、特許文献9,10に示すように、吸水性を有する素材を鍔の芯材に用いた帽子や、特許文献11に示すように、吸水性を有する素材を鍔の先端側の上面に取り付けた帽子等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭52-092324号公報
【文献】実登第3072311号公報
【文献】実登第3092526号公報
【文献】実開昭53-001418号公報
【文献】特開2000-008218号公報
【文献】特開2001-040519号公報
【文献】特開2005-060908号公報
【文献】特開2005-206982号公報
【文献】実登第3066562号公報
【文献】特開2001-207319号公報
【文献】実登第3182132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、鍔を上方に折り曲げる帽子(特許文献1~3の帽子)は、庇を折り曲げたときの見栄えが悪いことに加えて、鍔に皺が形成されるなどの欠点を有している。また、鍔の上面に傾斜や起伏を設けた帽子(特許文献4,5の帽子)は、鍔のデザインが大幅に制限されることに加えて、鍔の側方から垂れ落ちる雨水が視界に入りやすく、やはり集中力を掻き乱されやすいという欠点を有している。さらに、鍔の先端に着脱部材を取り付けた帽子(特許文献6~8の帽子)は、該別部材を紛失しやすいという欠点を有している。さらにまた、吸水性を有する素材を鍔の芯材に用いた帽子(特許文献9,10の帽子)は、鍔が乾きにくいという欠点を有している。そして、吸水性を有する素材を鍔の先端側の上面に取り付けた帽子(特許文献11の帽子)は、吸水材が乾きにくいという欠点を有している。
【0006】
加えて、雨の中では、帽子の後側から垂れ落ちる雨水も気になる。例えば、上で述べたゴルフのパッティングの例で言えば、帽子のクラウン(着用者の頭部を覆う部分)に落ちた雨水がクラウンの後側からプレイヤーの首筋に垂れ落ちると、プレイヤーの集中力が乱れる。この点、特許文献1~11の帽子は、いずれも、帽子の後側から雨水が垂れ落ちるのを防止できるものとはなっていない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、前側からだけでなく後側からも雨水が垂れ落ちないようにした帽子を提供するものである。また、雨に濡れても容易に乾かすことができる帽子を提供することも、本発明の目的である。さらに、このような特徴を備えた帽子の製造方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、
着用者の頭部を覆うクラウンと、
クラウンの下縁全周部から外方に突出して設けられた環状鍔と、
を備えた帽子であって、
環状鍔の上面を伝う雨水を吸収するための雨水吸収材を、環状鍔の前側の先端縁及び後側の先端縁に沿った箇所に取り付けた
ことを特徴とする帽子
を提供することによって解決される。
【0009】
これにより、帽子の前側から垂れ落ちようとする雨水を、環状鍔の前側の先端縁に取り付けた雨水吸収材(以下において「前側雨水吸収材」と呼ぶことがある。)で吸収するとともに、帽子の後側から垂れ落ちようとする雨水を、環状鍔の後側の先端縁に取り付けた雨水吸水材(以下において「後側雨水吸収材」と呼ぶことがある。)で吸収することが可能になる。このため、帽子の前側からだけでなく後側からも雨水が垂れ落ちないようにすることができる。
【0010】
ただし、水を吸った雨水吸収材は、非常に乾きにくい。このため、本発明の帽子においては、雨水吸収材の外縁を、環状鍔の先端縁に沿って固定する一方、雨水吸収材における他の箇所を、環状鍔に固定しないことによって、雨水吸収材の内縁側から雨水吸収材と環状鍔との間に指を入れることができるようにすることが好ましい。これにより、雨水吸収材の上面と下面とを2本の指でつまむ等して、雨水吸収材に保持されている水分を絞り出すことが可能になる。このため、水を吸った雨水吸収材を乾きやすくすることができる。
【0011】
本発明の帽子においては、
雨水吸収材を、
雨水を吸収するための吸水素材と、
吸水素材の上面を覆う上側生地と、
吸水素材の下面を覆う下側生地と
で構成し、
上側生地を、メッシュ素材で形成する
ことも好ましい。
【0012】
これにより、雨水吸収材を上側生地と下側生地とで保護することが可能になる。また、上側生地をメッシュ素材とすることによって、雨水吸収材の上面側(上側生地)に落ちた雨水を雨水吸収材に吸収させるだけでなく、雨水吸収材から絞り出した水分を排出しやすくすることも可能になる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によって、前側からだけでなく後側からも雨水が垂れ落ちないようにした帽子を提供することが可能になる。また、雨に濡れても容易に乾かすことができる帽子を提供することも可能になる。さらに、このような特徴を備えた帽子の製造方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る帽子を示した斜視図である。
図2】本発明に係る帽子を示した平面図である。
図3】本発明に係る帽子における環状鍔の先端縁近傍を、環状鍔に垂直な平面で切断した状態を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の帽子の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、本発明に係る帽子1を示した斜視図である。図2は、本発明に係る帽子1を示した平面図である。
【0016】
1.本発明の帽子の概要
本発明の帽子1は、図1に示すように、着用者の頭部を覆うクラウン10と、クラウン10の下縁全周部から外方に突出して設けられた環状鍔20とを備えたハット型(鍔が環状を為す)のものとなっている。環状鍔20には、雨水吸収材30が取り付けられている。雨水吸収材30は、環状鍔20の前側の先端縁に沿って取り付けられた前側雨水吸収材30aと、環状鍔20の後側の先端縁に沿って取り付けられた後側雨水吸収材30bとによって構成されている。
【0017】
前側雨水吸収材30aは、環状鍔20の上面を伝って環状鍔20の前側の先端縁から垂れ落ちようとする雨水を吸収するためのものとなっている。一方、後側雨水吸収材30bは、環状鍔20の上面を伝って環状鍔20の後側の先端縁から垂れ落ちようとする雨水を吸収するためのものとなっている。このように、雨水吸収材30を、環状鍔20の前側の先端縁に沿った箇所と、後側の先端縁に沿った箇所とに設けることによって、帽子1の前側から雨水が垂れ落ちないようにするだけでなく、帽子1の後側から雨水が垂れ落ちないようにすることも可能となっている。
【0018】
以下、本発明の帽子1を構成する各部材について、より詳しく説明する。

【0019】
2.雨水吸収材(前側雨水吸収材及び後側雨水吸収材)
前側雨水吸収材30a及び後側雨水吸収材30bは、上記のように、環状鍔20の先端縁に沿って取り付けられるため、帯状に形成される。前側雨水吸収材30aと後側雨水吸収材30bは、互いに連続する状態に設けてもよいが、本実施態様の帽子1においては、分離した状態に設けている。このため、図2に示すように、環状鍔20の先端縁には、雨水吸収材30が設けられていない欠乏区間(同図における曲線A及び曲線Aに重なる区間)が存在している。欠乏区間A,Aからは、殆ど雨が垂れ落ちることがないことに加えて、環状鍔20における欠乏区間A,Aの付近は、帽子1の着用者の視界に入りにくい。このため、欠乏区間A,Aに雨水吸収材30がなくても問題になりにくい。
【0020】
前側雨水吸収材30aは、環状鍔20の先端縁における前側中心点A図2)を含むある程度の範囲に亘って設けられる。前側雨水吸収材30aの長さ(図2における曲線Aの長さ。以下「長さL」と表記する。)は、環状鍔20の先端縁の前側区間の長さ(図2における曲線Cの長さ。以下「長さL」と表記する。)に対する比L/Lが、0.5以上となる範囲で設定すると好ましい。比L/Lは、0.7以上であるとより好ましく、0.9以上であるとさらに好ましい。このように、環状鍔20の先端縁の前側区間Cにおける広い範囲に前側雨水吸収材30aを設けることで、帽子1の着用者の視界に入る広い範囲で雨水が垂れ落ちないようにすることができる。
【0021】
比L/Lは、その上限を特に限定されないが、通常、1以下とされる。ただし、前側雨水吸収材30aを、環状鍔20の後側区間(図2における曲線Cに重なる区間)まで延長して設けることもできる。この場合、比L/Lは、1を超える。しかし、本実施態様の帽子1のように、前側雨水吸収材30aと後側雨水吸収材30bとを分離して設ける場合には、その場合でも、比L/Lは、せいぜい1.1~1.3程度までとされる。
【0022】
後側雨水吸収材30bは、環状鍔20の先端縁における後側中心点B図2)を含むある程度の範囲に亘って設けられる。ただし、環状鍔20の後側区間(図2における曲線Cに重なる区間)は、帽子1の着用者の視界に入らない。このため、後側雨水吸収材30bは、前側雨水吸収材30aよりも短くすることができる。後側雨水吸収材30bの長さ(図2における曲線Bの長さ。以下「長さL」と表記する。)は、環状鍔20の先端縁の後側区間Cの長さ(以下「長さL」と表記する。)に対する比L/Lが、0.2以上となる範囲で設定すると好ましい。比L/Lは、0.4以上であるとより好ましく、0.5以上であるとさらに好ましい。比L/Lは、その上限を特に限定されないが、通常、1以下とされる。
【0023】
前側雨水吸収材30a及び後側雨水吸収材30bは、既に述べたように、通常、帯状とされる。前側雨水吸収材30a及び後側雨水吸収材30bの幅は、一定としてもよい。しかし、前側雨水吸収材30a及び後側雨水吸収材30bの長手方向中央部付近で幅が大きくなり、その長手方向両端部付近で幅が狭くなるようにすることが好ましい。換言すると、前側雨水吸収材30a及び後側雨水吸収材30bのそれぞれを平面視三日月状に形成すると好ましい。本実施態様の帽子1においても、図2に示すように、前側雨水吸収材30a及び後側雨水吸収材30bを、それぞれ平面視三日月状に形成している。
【0024】
これにより、後述するように、前側雨水吸収材30a及び後側雨水吸収材30bの外縁を環状鍔20の先端縁に沿った箇所のみで固定する場合でも、前側雨水吸収材30a及び後側雨水吸収材30bを、環状鍔20から捲れない状態で、環状鍔20に対してしっかりと取り付けることが可能になる。また、環状鍔20の先端縁における雨水が垂れ落ちやすい箇所(環状鍔20の先端縁の前側中心点A付近や後側中心点Bの付近)に、雨水吸収材30を多めに配置し、環状鍔20からの雨水の垂れ落ちを効率的に防ぐことが可能になる。
【0025】
前側雨水吸収材30aの最大幅W図2)は、特に限定されない。しかし、前側雨水吸収材30aの最大幅Wを狭くしすぎると、前側雨水吸収材30aが吸収できる雨水の量が少なくなり、前側雨水吸収材30aに吸収されなかった雨水が環状鍔20の前側区間Cから垂れ落ちるようになるおそれがある。このため、前側雨水吸収材30aの最大幅Wは、通常、1cm以上とされる。前側雨水吸収材30aの最大幅Wは、2cm以上であると好ましく、3cm以上であるとより好ましい。
【0026】
ただし、前側雨水吸収材30aの最大幅Wを広くしすぎると、前側雨水吸収材30aに大量の雨水が吸収されるようになり、その雨水によって環状鍔20が重くなり、帽子1をかぶりにくくなるおそれがある。また、帽子1の見た目が悪くなるおそれもある。このため、前側雨水吸収材30aの最大幅Wは、通常、7cm以下とされる。前側雨水吸収材30aの最大幅Wは、6cmであると好ましく、5cm以下であるとより好ましい。本実施態様の帽子1においては、前側雨水吸収材30aの最大幅Wを、約4cmとしている。
【0027】
また、後側雨水吸収材30bの最大幅W図2)も、前側雨水吸収材30aの最大幅Wと同程度に設定することができる。しかし、後側雨水吸収材30bが取り付けられる環状鍔20の後側区間Cは、前側雨水吸収材30aが取り付けられる環状鍔20の前側区間Cよりも、垂れ落ちる雨水が気になりにくい。このため、後側雨水吸収材30bの最大幅Wは、前側雨水吸収材30aの最大幅Wよりも、狭くすることができる。本実施態様の帽子1においても、後側雨水吸収材30bの最大幅Wを、約3.5cmとしており、前側雨水吸収材30aの最大幅Wよりも約0.5cm狭くしている。
【0028】
雨水吸収材30(前側雨水吸収材30a及び後側雨水吸収材30b)は、通常、吸水性(保水性)を有する吸水生地によって形成される。雨水吸収材30は、単層構造としてもよいが、複層構造とすることもできる。図3は、本実施態様の帽子1における環状鍔20の先端縁近傍を、環状鍔20に垂直な平面で切断した状態を示した拡大断面図である。本実施態様の帽子1においても、図3に示すように、雨水吸収材30を、雨水を吸収するための吸水素材31と、吸水素材31の上面を覆う上側生地32と、吸水素材31の下面を覆う下側生地33とからなる複層構造としている。これにより、雨水吸収材30を、吸水性に優れながらも、強靭で見た目の良いものとすることができる。
【0029】
雨水吸収材30における吸水素材31は、必要な吸水性を有するのであれば、その種類を特に限定されない。吸水素材31としては、保水綿や、高吸水性繊維からなる各種生地を用いることができる。高吸水性繊維としては、例えば、帝人ファイバー株式会社製の吸水性繊維「ベルオアシス(登録商標)」や東洋紡績株式会社製の吸水性繊維「ランシール(登録商標)」等が挙げられる。吸水素材31としては、それを押し潰す等した際に、それに含まれていた水分が絞り出るものを用いることが好ましい。これにより、吸水素材31が限界まで雨水を吸収した状態となっても、その雨水を絞り出すことで、吸水素材31を再び雨水を吸収できる状態に回復させることが可能になる。
【0030】
雨水吸収材30における上側生地32は、通常、メッシュ素材によって形成される。これにより、上側生地32の上面に落ちた雨水を吸水素材31に吸収させるだけでなく、雨水吸収材30を押し潰す等して吸水素材31から絞り出された水分を上側生地32(メッシュ素材)を通じて容易に排出することが可能になる。このため、吸水素材31の吸水能を復活させやすくするだけでなく、吸水素材31が乾きやすくし、雨水吸収材30を衛生的に保つことも可能になる。
【0031】
雨水吸収材30における下側生地33も、上側生地32と同様、透水性を有する生地によって形成することが好ましい。これにより、環状鍔20の上面を環状鍔20の基端側から先端側に伝ってきた雨水を、下側生地33を通じて吸水素材31に吸収させることが可能になる。しかし、環状鍔20の上面よりも吸水素材31の方が上側に位置するため、環状鍔20の上面を伝う雨水は、吸水素材31に容易には吸収されない。このため、下側生地33は、上側生地32よりも目の細かい生地で形成することが好ましい。これにより、下側生地33の下面に触れた雨水を、毛管現象により吸い上げ、吸水素材31に吸収されやすくすることができる。
【0032】
環状鍔20に対する雨水吸収材30の固定方法は、特に限定されない。雨水吸収材30は、縫着や接着等によって、環状鍔20に固定することができる。雨水吸収材30は、その周縁(外縁及び内縁)の略全体を環状鍔20に縫着してもよいし、その下面(環状鍔20側を向く面)の略全体を環状鍔20に接着してもよい。これにより、環状鍔20に対して雨水吸収材30を強固に固定することができる。しかし、その一方で、雨水吸収材30に吸収された雨水を絞り出しにくくなる。
【0033】
このため、本実施態様の帽子1において、雨水吸収材30は、その外縁に沿った箇所のみを、環状鍔20の先端縁に縫着(図3における縫着部Pを参照。)し、他の箇所では環状鍔20に縫着していない。すなわち、前側雨水吸収材30aは、その前縁(図2における曲線Aに重なる縁部)に沿った箇所のみで環状鍔20に縫着しており、後側雨水吸収材30bは、その後縁(図2における曲線Bに重なる縁部)に沿った箇所のみで環状鍔20に縫着している。前側雨水吸収材30aの後縁(図2における曲線Aに重なる縁部)や、後側雨水吸収材30bの後縁(図2における曲線Bに重なる縁部)は、環状鍔20に対して縫着していない。
【0034】
したがって、前側雨水吸収材30aの下面と環状鍔20の上面との間、及び、後側雨水吸収材30bの下面と環状鍔20の上面との間に、ポケット状の隙間が形成されている。前側雨水吸収材30aの下面と環状鍔20の上面との隙間には、前側雨水吸収材30aの内縁(後縁A)側から、指等を入れることができ、後側雨水吸収材30bの下面と環状鍔20の上面との隙間には、後側雨水吸収材30bの内縁(前縁B)側から、指等を入れることができる。よって、前側雨水吸収材30aの上面と下面とを2本の指でつまむ等して、前側雨水吸収材30aを押し潰すことで、前側雨水吸収材30aに保持されている水分を絞り出すことができる。このため、吸水素材31の吸水能をさらに復活させやすくするだけでなく、吸水素材31がさらに乾きやすくして、雨水吸収材30を衛生的に保つことも可能となっている。
【0035】
3.クラウン
既に述べたように、クラウン10は、着用者の頭部を覆うための部分となっている。クラウン10は、着用者の頭部の一部を覆うものであってもよい。例えば、サンバイザーにおけるヘッドバンドのように、着用者の頭部における下側部分のみを覆うもの(頭頂部を覆わないもの)であってもよい。しかし、本実施態様の帽子1においては、着用者の頭部の略全体を日光や雨から保護することができるように、クラウン10を、着用者の頭部全体を覆うもの(半球状のもの)としている。本実施態様の帽子1においては、クラウン10の内面側における下縁に沿った箇所にビン皮(図示省略)を取り付けている。このビン皮は、汗取りバンドとも呼ばれるもので、着用者の頭部の汗が、顔に流れ落ちないように吸い取るための部分となっている。
【0036】
クラウン10は、通常、複数枚の生地を繋ぎ合わせて半球状に形成したものとなっている。クラウン10を構成する生地の枚数や形状は、特に限定されないが、本実施態様の帽子1においては、クラウン10の頂部を形成する略円形の頂部生地と、クラウン10の側周部のうち前側略半分を形成する略矩形状の前側生地と、クラウン10の側周部のうち後側略半分を形成する略矩形状の後側生地とからなる3枚の生地を繋ぎ合わせることによって、クラウン10を形成している。クラウン10を構成する複数枚の生地の繋ぎ合わせは、通常、縫合によって行われる。しかし、クラウン10を構成する生地は、シームレス加工(例えば、超音波による振動で生地同士を摩擦することで熱を発生させ、生地を溶融させて互いに溶着させる加工等)によって繋ぎ合わせることもできる。
【0037】
また、クラウン10は、クラウン10の外面側を形成するクラウン表地と、クラウン10の内面側を形成するクラウン表地等からなる複層構造としてもよい。しかし、本実施態様の帽子1では、クラウン10を1層のみで形成している。これにより、クラウン10を軽量化し、帽子1を、着用しても疲れにくいものとすることができる。
【0038】
クラウン10を形成する素材は、特に限定されない。クラウン10は、透水性を有する素材によって形成することもできる。しかし、本発明の帽子1は、雨の中で着用するとその真価を発揮できるところ、クラウン10を透水性の高い素材で形成すると、クラウン10の外面に落ちた雨水がクラウン10の内部に染み込みやすくなる。このため、クラウン10は、撥水生地や耐水生地や防水生地で形成することが好ましい。ただし、合成樹脂シート等でクラウン10を形成すると、クラウン10の撥水性等を高めることができる一方、通気性も低くなり、帽子1を着用したときに頭部が蒸れやすくなる。このため、クラウン10は、撥水性等を有しながらも、通気性もある程度有する素材で形成することが好ましい。このような素材としては、疎水性のゴムや熱可塑性樹脂の溶液やエマルジョンを噴霧若しくはコーティングした布帛(織布や不織布等)、又は、パディングを施した布帛等が例示される。

【0039】
4.環状鍔
環状鍔20は、図1及び図2に示すように、クラウン10の下縁全周部から外方に突出して設けられている。この環状鍔20は、着用者の顔や首に日光が直射しないように日光を遮る庇としての機能を発揮する部分であるところ、本発明の帽子1では、雨除けとしての機能も発揮する部分となっている。
【0040】
環状鍔20は、その上面を形成する上側生地21と、その下面を形成する下側生地22とで構成している。環状鍔20における上側生地21と下側生地22との間には、剛性を有する芯材(鍔芯)を入れる場合もあるが、本実施態様の帽子1では、合成を有する鍔芯を入れていない。このため、環状鍔20は、柔らかくなっている。したがって、本実施態様の帽子1は、その全体を折り畳んで、ズボンのポケット等にしまうこともできるものとなっている。
【0041】
ただし、上側生地21と下側生地22のみで環状鍔20を形成すると、環状鍔20の保形性が低くなりすぎ、環状鍔20の形態を維持できなくなるおそれがある。このため、本実施態様の帽子1では、可撓性を有しながらもある程度コシのある保形生地23を、上側生地21と下側生地22とに裏貼りしている。これにより、環状鍔20を折り畳むことができるようにしながらも、環状鍔20に保形性を付与することが可能となっている。保形生地23としては、発泡樹脂シートや、熱可塑性樹脂の繊維を集合させて熱融着させた不織布等が例示される。
【0042】
上側生地21の素材は、特に限定されないが、クラウン10と同様、撥水生地や耐水生地や防水生地等を用いることが好ましい。これにより、環状鍔20の上面における、雨水吸収材30で覆われていない箇所に落ちた雨水を、環状鍔20に染み込ませることなく、環状鍔20の上面の傾斜に従って、環状鍔20の基端(内縁)側から先端(外縁)側に伝わせ、雨水吸収材30に吸収させやすくなる。上側生地21に採用し得る撥水生地としては、クラウン10と同様、疎水性のゴムや熱可塑性樹脂の溶液やエマルジョンを噴霧若しくはコーティングした布帛(織布や不織布等)、又は、パディングを施した布帛等が例示される。
【0043】
一方、下側生地22には、上側生地21ほどの撥水性や防水性は要求されない。このため、下側生地22は、透水性を有する生地で形成することもできる。しかし、上述したように、本実施態様の帽子1では、上側生地21と下側生地22とに保形生地23を裏貼りしたところ、透水性を有する素材で下側生地22を形成すると、保形生地23が劣化しやすくなるおそれがある。このため、本実施態様の帽子1では、下側生地22も、上側生地21に用いたものと同じ撥水生地で形成している。

【0044】
5.用途
本発明の帽子は、その用途を特に限定されず、各種の用途で用いることができる。なかでも、雨の中で着用することが多い帽子として好適である。このような帽子としては、ゴルフ帽等、運動時に着用する帽子のほか、通学帽やウォーキング帽や作業帽等が挙げられる。
【符号の説明】
【0045】
1 帽子
10 クラウン
20 環状鍔
21 上側生地
22 下側生地
23 保形生地
30 雨水吸収材
30a 前側雨水吸収材
30b 後側雨水吸収材
31 吸水素材
32 上側生地
33 下側生地
縫着部
縫着部

図1
図2
図3