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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】建築用接合金具
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/26 20060101AFI20230913BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
E04B1/26 G
E04B1/58 508L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021151284
(22)【出願日】2021-09-16
(65)【公開番号】P2023043580
(43)【公開日】2023-03-29
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】596036692
【氏名又は名称】株式会社タツミ
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】山田 塁史
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-079542(JP,A)
【文献】特開平09-137512(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157168(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00 - 1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の柱または横架材と、端部を突合せ状態にして接合する他方の横架材とにそれぞれ連結して双方を接合する建築用接合金具であって、
一方の前記柱または前記横架材に固定具により固定する連結用基板部に、端部を突合せ状態にして接合する他方の前記横架材の仕口部に配設され且つこの仕口部を介して挿通する連結具により他方の前記横架材に連結する連結用突設板部が突設されている構成とされ、
他方の前記横架材の端部の前記仕口部に配設され前記連結具により連結される前記連結用突設板部には、前記連結具が貫通する孔状または切り欠き状の連結孔が上下方向に複数設けられている連結孔列が、この連結用突設板部の突設方向に間隔をおいて複数列設けられていて、
前記横架材の仕口部に配設される前記連結用突設板部が上下複数本で複数列挿通される前記連結具で連結されているこの横架材が受ける上下方向のせん断力によって、前記連結用基板部に対して前記連結用突設板部が上下方向に変形することを促進させる変形促進開口部が、前記突設方向の基端側から列順を付した場合の第1列目の前記連結孔列と前記連結用基板部との間の上下方向に間隔をおいて複数設けられているとともに、
基端側の前記第1列目の前記連結孔列に沿った位置、またはこの第1列目の連結孔列と先端側の第2列目またはそれ以降の前記連結孔列との間に、他方の前記横架材が受けるせん断力によって変形することを促進させる複数列連結対応用の連結孔位置追加変形促進開口部が設けられていることを特徴とする建築用接合金具。
【請求項2】
前記複数列連結対応用の前記連結孔位置追加変形促進開口部は、基端側の前記第1列目の前記連結孔列に沿った位置の少なくとも上部端部位置に設けられていることを特徴とする請求項1記載の建築用接合金具。
【請求項3】
前記複数列連結対応用の前記連結孔位置追加変形促進開口部は、前記基端側の第1列目の前記連結孔列に沿った位置、およびこの基端側の第1列目の前記連結孔列と前記先端側の第2列目以降の前記連結孔列との間の上下方向に間隔をおいて複数設けられていることを特徴とする請求項1、2のいずれか1項に記載の建築用接合金具。
【請求項4】
前記基端側の第1列目の前記連結孔列と前記連結用基板部との間の上下方向に複数設けられている前記変形促進開口部間の先端側位置に、他方の前記横架材が受けるせん断力によって変形することを促進させる変形促進開口部間先端側追加開口部が、前記連結孔位置追加変形促進開口部とは別にまたはこの連結孔位置追加変形促進開口部と兼用させて、前記上下方向に間隔をおいて複数設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の建築用接合金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の柱または横架材(梁)に、端部を突合せ状態にして他方の横架材(梁)を接合する建築用接合金具であって、たとえば、一方の柱または梁の接合側表面に連結用基板部を固定具(貫通させる止着ボルト)により固定し、端部を突合せ状態に接合する他方の梁の端部の仕口部に前記連結用基板部に突設した連結用突設板部を挿入配設し、これに仕口部を介して連結具(ドリフトピン)を貫通させて連結し、一方の柱または梁と他方の梁とを接合する建築用接合金具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、一方の柱と他方の横架材(梁)とを接合する場合、建築用接合金具が多用されている。この接合金具は、たとえば金属製の連結用基板部に平面視T状またはU状あるいはコ状に1体または2体以上の連結用突設板部を突設した金具で、たとえばこの連結用基板部を一方の柱の接合側表面に固定具(柱を貫通させる止着ボルト)で固定し、この連結用基板部から突設している連結用突設板部を他方の梁の端部の仕口部の上下貫通スリットに挿入配設し、この連結用突設板部に設けた連結孔およびこれと連通状態の梁の端部の仕口部に設けた貫通孔に連結具(ドリフトピン)を貫通して連結し、一方の柱と他方の梁とを強固に接合する接合金具である。
【0003】
従来、このような建築用接合金具には様々な構成のものが提案されているが、接合強度を上げても木材強度の影響が大きくなり、たとえば梁に上下方向から大きなせん断力が加わると、梁の端部の仕口部の前記ドリフトピンを貫通させて連結している前記貫通孔から亀裂(割裂)が生じる場合があるが、この割裂は、木材の個体差による強度的ばらつきにより発生するタイミングがまちまちとなりやすい。
【0004】
たとえば、上階や屋根に想定以上の大きな荷重がかかったり、たとえば想定以上の大きな積雪荷重が加わったり、地震などにより大きな衝撃が加わったりすると、この建築用接合金具で強固に接合されていても梁が受けるせん断力に耐え切れずこの梁の端部の連結具が貫通しているこの貫通孔などから割裂が生じるおそれがあり、またこの割裂の発生するタイミングもまちまちとなりやすい。
【0005】
このようなせん断力に対する接合部の最大荷重や引っ張り力に対する接合部の最大荷重は、木材の強度性能が大きく影響することになるが、たとえ強度性能の高い木材を選定したとしても、木材は建築で使用される構造材の中でも比較的に脆性的な破壊が生じやすく、且つ個体差があり、さらには温度、湿度などの環境諸条件によっても強度性能が変化するため、強度上の安定性は低い。すなわち、接合部の最大荷重が木材の強度性能に左右されてしまうと、接合部耐力は不安定となるため、接合部が損傷・破壊しないように接合部耐力を管理することは容易ではないから、強度上のばらつきを考慮した低減係数により接合部耐力を低く設定しなければならなかった。
【0006】
そこで、従来、連結用突設板部に、先端側の連結具(ドリフトピン)を打つ位置(上下方向に複数設ける連結孔列)よりも基端側すなわち柱に固定する連結用基板部に近い基端側の上下方向に、あえてせん断力により変形を促進する変形促進開口部を間隔をおいて複数形成して、この金属製の接合金具(連結用突設板部の板面方向が上下方向となっているため本来上下方向からのせん断力に対しての接合部の最大荷重値が大きくせん断性能の高い金属製の接合金具)を変形させることによって接合部耐力を安定させるようにしたものが提案されている。
【0007】
すなわち、たとえば梁の上部から下方へ向かって想定以上の大きなせん断力が加わったときに、この木材(梁)が損傷する前にこの複数の変形促進開口部により接合金具の下方への変形を促進させる構成とし、この変形が始まる荷重値を前記木材の割裂が生じる接合部の最大荷重値より低くして、接合部でのせん断力に対する最大荷重値をコントロールして、木材の個体差などによりその最大荷重値にばらつきがあったとしても接合部の強度性能を安定させることができ、これにより接合部耐力が安定することになり、この接合部耐力を決めるばらつきによる低減係数が大きくなる(低減係数は0~1の間で設定され、これが1に近くなり接合部耐力が大きくなる)接合金具が提案されている。
【0008】
さらに説明すれば、接合部において脆性的な破壊が起きるということは、靭性が低く荷重に対するエネルギー吸収性能が下がっているということであり、そのためこのような場合、想定外の荷重が加わった際に突如破壊するおそれが比較的高い状態になっていることから好ましくない。つまり、強度性能を確保するだけでなくこれとともに変形性能(靭性)を確保することも構造上重要である。木材はその個体差により破壊が生じる変形量は、まちまちであり、脆性破壊を比較的生じやすいので、靭性を持たせて荷重に対するエネルギー吸収性能を安定的に発揮させることは至極難しい。
【0009】
これに対し金属製の接合金具は、材質的に比較的靭性が高く変形量も比較的安定していることから、この接合金具に前記変形促進開口部を複数形成して変形を促進させることにより、接合部の靭性を確保できることが期待され提案されている。
【0010】
しかしながら、単にこのように複数の開口部を変形促進開口部として連結用突設板部の上下方向に設けた構成とするだけでは、容易に変形し易くなることからせん断力に対する接合部の最大荷重値を意図的に安定させることはできるが、その接合部耐力の調整設定は容易ではない。すなわちこの変形促進開口部を単に大きく形成したり数を増やして総開口面積を大きくすれば、一挙に剛性低下をきたし接合部耐力を決める接合部降伏耐力を下げ過ぎてしまうことがある。
【0011】
またこの変形促進開口部の変形が卓越してくると接合金具全体が柱側へ少なからず回転することとなり、そのため連結具に2次応力(偶力)が生じこれが割裂を誘発し接合部に耐力低下が生じるおそれがあり、ひいては耐力をある程度維持しつつ変形する性能が失われることもある。これは連結具で連結している位置が連結用基板部から離れていればいるほど顕著となる。そのためこのように単に変形促進開口部を複数設けることだけでは、接合部の構造上の耐力の安定を図ることは容易ではなくそれゆえ実用性に乏しい。
【0012】
さらに言えば、逆に単に変形促進開口部の総開口面積を少なくして強度性能を上げ過ぎてしまうと、せん断力が加わった際前述のように木材は個体差などにより強度性能が不安定なため突如木材が破壊されてしまうこととなり、この開口面積の調整だけでは接合部の最大荷重値をばらつかないように調整設定することは難しい。すなわち変形促進開口部の総開口面積の調整だけでは、剛性を維持しつつ意図する崩壊形式を誘起することは困難であるため、接合部の最大荷重値や接合部の降伏耐力がばらつかないように調整することは容易ではない。そのためこのような変形促進開口部を形成した接合金具が広範に実現されていないと思われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような現状に鑑み、前記問題を解決したもので、連結用突設板部に連結具を貫通させる連結孔を上下方向に複数設けた連結孔列を突設方向に複数列設けて、この上下複数およびさらにこの複数列の連結孔に多数の連結具を貫通して連結し、この連結用突設板部と横架材との連結強度を高めて接合部の接合強度を高めるとともに、変形促進開口部を上下方向に複数設け、さらにこの複数列の連結具で連結強度を高めた金具の上下方向の変形を促進させ、この変形促進開口部の変形が卓越することによって接合金具全体が回転したときに生じる2次応力をも変形吸収する連結孔位置追加変形促進開口部もこの連結孔列の上部端部または連結孔列の連結孔間や連結孔列間に設けた構成とすることで、この簡易な開口部配置構成により接合金具の連結強度を高く維持した上で、木材の破壊よりもさきに接合金具全体を先行変形させることが容易にでき、また前記2次応力を吸収できることで、木材の損傷・破壊に先行して荷重をある程度支持しつつ接合金具全体を変形させ続けることができ、ゆえに接合部の最大荷重値や靭性が不安定とならずこの接合部の性能を向上させることが容易となる極めて実用性に優れた建築用接合金具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0015】
一方の柱1または横架材2と、端部を突合せ状態にして接合する横架材2とにそれぞれ連結して双方を接合する建築用接合金具であって、一方の前記柱1または前記横架材2に固定具3により固定する連結用基板部4に、端部を突合せ状態にして接合する他方の前記横架材2の仕口部5に配設され且つこの仕口部5を介して挿通する連結具6により他方の前記横架材2に連結する連結用突設板部7が突設されている構成とされ、他方の前記横架材2の端部の前記仕口部5に配設され前記連結具6により連結される前記連結用突設板部7には、前記連結具6が貫通する孔状または切り欠き状の連結孔8が上下方向に複数設けられている連結孔列9が、この連結用突設板部7の突設方向に間隔をおいて複数列設けられていて、他方の前記横架材2の仕口部5に配設される前記連結用突設板部7が上下複数本で複数列挿通される前記連結具6で連結されているこの横架材2が受ける上下方向のせん断力によって、前記連結用基板部4に対して前記連結用突設板部7が上下方向に変形することを促進させる変形促進開口部10が、前記突設方向の基端側から列順を付した場合の第1列目の前記連結孔列9と前記連結用基板部4との間の上下方向に間隔をおいて複数設けられているとともに、基端側の前記第1列目の前記連結孔列9に沿った位置、またはこの第1列目の連結孔列9と先端側の第2列目またはそれ以降の前記連結孔列9との間に、他方の前記横架材2が受けるせん断力によって変形することを促進させる複数列連結対応用の連結孔位置追加変形促進開口部11が設けられていることを特徴とする建築用接合金具に係るものである。
【0016】
また前記複数列連結対応用の前記連結孔位置追加変形促進開口部11は、基端側の前記第1列目の前記連結孔列9に沿った位置の少なくとも上部端部位置に設けられていることを特徴とする請求項1記載の建築用接合金具に係るものである。
【0017】
また前記複数列連結対応用の前記連結孔位置追加変形促進開口部11は、前記基端側の第1列目の前記連結孔列9に沿った位置、およびこの基端側の第1列目の前記連結孔列9と前記先端側の第2列目以降の前記連結孔列9との間の上下方向に間隔をおいて複数設けられていることを特徴とする請求項1、2のいずれか1項に記載の建築用接合金具に係るものである。
【0018】
また前記基端側の第1列目の前記連結孔列9と前記連結用基板部4との間の上下方向に複数設けられている前記変形促進開口部10間の先端側位置に、他方の前記横架材2が受けるせん断力によって変形することを促進させる変形促進開口部間先端側追加開口部12が、前記連結孔位置追加変形促進開口部11とは別にまたはこの連結孔位置追加変形促進開口部11と兼用させて、前記上下方向に間隔をおいて複数設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の建築用接合金具に係るものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は上述のように構成したから、連結用突設板部に連結具を貫通させる連結孔を上下方向に複数設けた連結孔列を突設方向に複数列設けて、この上下複数およびさらにこの複数列の連結孔に多数の連結具を貫通して連結し、この連結用突設板部と横架材との連結強度を高めて接合部の接合強度を高めるとともに、変形促進開口部を上下方向に複数設け、さらにこの複数列の連結具で連結強度を高めた金具の上下方向の変形を促進させ、この変形促進開口部の変形が卓越することによって接合金具全体が回転したときに生じる2次応力をも変形吸収する連結孔位置追加変形促進開口部もこの連結孔列の上部端部または連結孔列の連結孔間や連結孔列間に設けた構成とすることで、この簡易な開口部配置構成により接合金具の連結強度を高く維持した上で、木材の破壊よりもさきに接合金具全体を先行変形させることが容易にでき、また前記2次応力を吸収できることで、木材の損傷・破壊に先行して荷重をある程度支持しつつ接合金具全体を変形させ続けることができ、ゆえに接合部の最大荷重値や靭性が不安定とならずこの接合部の性能を向上させることが容易となる極めて実用性に優れた建築用接合金具となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施例の斜視図である。
図2】本実施例の側面図である。
図3】本実施例の平面図である。
図4】本実施例の正面図である。
図5】本実施例の使用状態の説明斜視図である。
図6】本実施例の使用状態の説明側面図である。
図7】本実施例のせん断力および2次応力が加わった場合に変形の様子を破線で示した説明側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の最適な実施形態を図面に基づいて本発明の作用を示し簡単に説明する。
【0022】
一方の柱1または横架材2(梁)と、他方の横架材2(梁)とを接合する際、この一方の柱1または横架材2に、固定具3(貫通させる止着ボルト)により連結用基板部4を固定するとともに、端部を突合せ状態にして接合する他方の横架材2(梁)の仕口部5に配設し連結具6(ドリフトピン)を挿通してこの他方の横架材2に連結用突設板部7を連結し両者を接合する。
【0023】
この横架材2の端部の前記仕口部5に配設し前記連結具6により連結する本接合金具の前記連結用突設板部7には、この連結具6が貫通する孔状または切り欠き状の連結孔8を上下方向に複数設けた連結孔列9を、他方の横架材2の長さ方向(連結用突設板部7の突設方向)に間隔をおいて複数列設けている。なお、上下方向に並ぶ(列)とは、その開口中心が上下方向に直線状に並ぶ場合のみならず、多少左右にずれていてもその孔や開口部や切り欠き部が上下方向にほぼ並ぶように配置されている状態を意味するもので、列状に配置されている状態を指すことばである。
【0024】
前記横架材2の端部の仕口部5には、これに対応してこの連結孔8と連通する貫通孔13も上下方向に複数、前記突設方向に間隔をおいて複数列設けている。
【0025】
したがって、一方の柱1または横架材2(梁)の連結側表面に固定した連結用基板部4から突設している連結用突設板部7は、上下複数本で複数列の貫通孔13を介してこれと連通状態の連結孔8に連結具6(ドリフトピン)を挿通することで他方の横架材2の仕口部5に連結する構成としている。
【0026】
本発明では、この他方の横架材2にたとえば上部から下方へのせん断力が加わると、突設方向(横架材2の長さ方向)の基端側の上下方向に並ぶ第1列目の前記連結孔列9と前記連結用基板部4との間の上下方向に複数設けた変形促進開口部10が上下方向に変形してこの接合金具(連結用突設板部7)が下方に塑性変形する。
【0027】
たとえば方形状の開口部は下方へ傾斜変形した平行四辺形状にまた丸孔状の開口部は下方に長い楕円状にまた縦長スリット状の開口部はさらに長孔状に変形するなどして、木材(横架材2)が脆弱的破壊することなくこれに先行してこの変形促進開口部10が変形することで、接合金具全体が鉛直方向に変形し、木材の個体差による影響により大きく左右される最大荷重値や靭性を安定させることができ、構造性能的ばらつきが少なくなる。
【0028】
しかも、本発明は、さらに基端側の上下方向に並ぶ第1列目の前記連結孔列9に沿った位置にも、またはこの基端側の上下方向に並ぶ第1列目の連結孔列9と先端側の上下方向に並ぶ第2列目またはそれ以降の前記連結孔列9との間にも、前記横架材2が受けるせん断力によって変形することを促進させる複数列連結対応用の連結孔位置追加変形促進開口部11を設けているため、すなわち変形促進機能を果たす開口部を前記変形促進開口部10を含めて2列以上突設方向に間隔をおいて設けているため、2列以上の連結具6による複数列連結構成により接合部の耐力すなわち接合部の最大荷重値が、安易に低くなり過ぎないよう高く維持できる上に、せん断力が加わった際段階的に変形促進機能が発揮され、さらにこの2列目以降の連結具6での接合金具全体の回転に伴う2次応力(連結具8で生じる水平方向の偶力)もこの変形促進開口部10に加えて増設した連結孔位置追加変形促進開口部11の変形促進作用により吸収できることとなる。
【0029】
すなわち、変形促進させる機構を複数列としたため、それぞれの列が段階的に変形するから、単独列の場合に比して変形促進機能が高まり、変形性能(靭性)を維持しつつ剛性も確保される。言い換えると、連結具6を上下複数2列以上で連結するため連結強度が高まるとともに、変形促進機能を発揮する開口部列も複数列設け、1列目の上下方向に設けた変形促進開口部10でのみ変形促進させるのでなく、この変形促進開口部10に加えて2列目として連結孔位置追加変形促進開口部11を設けて段階的に変形促進させる構成とすることで、剛性を確保しつつ、せん断力に対して段階的に変形促進機能を発揮させて下方に塑性変形させ、しかも接合金具全体が回転することで連結具6に生じる2次応力(偶力)をも吸収でき、このせん断力による2次応力によって木材に割裂が誘発され突如損傷することも遅らせることができることとなる。
【0030】
さらに言えば、本発明は、上下方向の複数の変形促進開口部10に加えて連結孔位置追加変形促進開口部11を並設増設した構成としたことで、剛性低下をきたさずに、これらの変形促進作用により、木材の破壊に先行して接合金具を塑性変形させることができ、さらに前述のとおり連結具6で生じる2次応力を吸収して木材の破壊を遅らせることができることとなり、それゆえ接合部でのせん断方向の耐力性能および靭性が一層向上・安定化する構成となる。
【0031】
したがって、本発明は、複数列の連結具6で連結する構成として接合強度を確保した上で、さらなる連結孔位置追加変形促進開口部11の変形促進作用により最大荷重値のばらつきを抑制することができ2次応力をも吸収する構成のため靭性も確保されることにより接合部耐力および靭性を安定化することが容易となる。
【実施例1】
【0032】
本発明の具体的な実施例1について図面に基づいて説明する。
【0033】
本実施例では、柱1と、これに端部を突合せ直交状態に接合する横架材2(梁)とを接合する建築用接合金具(梁受け接合金物)に本発明を適用したものであって、柱1の連結側表面に固定具3(この柱1を外側から貫通させた止着ボルトにナット締めして固定する手段)により固定する連結用基板部4に、端部を突合せ直交状態に接合する前記横架材2(梁)の仕口部5(上下貫通スリット)に挿入配設し連結具6(ドリフトピン)を横方向から複数本打ち込み連結してこの横架材2に連結する連結用突設板部7を突設した平面視T状の金属製の建築用接合金具に構成している。
【0034】
また本実施例では、この横架材2の端部の前記仕口部5(上下貫通スリット)に挿入配設し前記連結具6(ドリフトピン)により連結する本金具の前記連結用突設板部7には、この連結具6(ドリフトピン)が貫通する孔状および端部では切り欠き状の連結孔8を上下方向に複数設けた連結孔列9を横架材2の長さ方向、すなわち柱1から離反する方向である突設方向に間隔をおいて2列設けた構成としている。
【0035】
またこの基板部4に突設している前記連結用突設板部7に上下方向に間隔をおいて複数、さらに突設方向に間隔をおいて複数列設けた連結孔8に、これと連通する仕口部5の貫通孔13を介してこの横架材2の長さ方向と直交する横方向から前記連結具6(ドリフトピン)を上下複数本2列挿通してこの横架材2に連結する構成としている。
【0036】
具体的には突設方向の基端側の上下方向に並ぶ第1列目の連結孔8は、上下方向に間隔をおいて4カ所の丸孔を設け、このうちの2カ所を連結具6を挿通する連結孔8として設けた(使用する)構成とするとともに、これより先端側の上下方向に並ぶ第2列目の連結孔8は、上下端部に切り欠き部と丸孔を含めて6カ所上下方向に間隔をおいて設け、そのうちの間隔をおいた3カ所を連結孔8として設けた(使用する)構成とし、この第1列目2カ所、第2列目3カ所合計5カ所の連結孔8に連結具6をそれぞれ挿通して横架材2と連結する構成としている。
【0037】
また本実施例では、この横架材2が上部から下方にせん断力を受けた際、下方向に変形する(降伏する)ことを促進させる変形促進開口部10を、前記基端側の上下方向に並ぶ第1列目の連結孔列9と前記連結用基板部4との間の上下方向に間隔をおいて複数設けた構成としている。
【0038】
具体的には、本実施例では縦長方形状とほぼ正方形状の開口部を上下方向に等間隔をおいて交互に列状に形成した(配置した)構成としている。
【0039】
そして、さらに本実施例では、前記基端側の上下方向に並ぶ第1列目の連結孔列9に沿った位置、この上下方向に並ぶ第1列目の連結孔列9とこれより先端側の上下方向に並ぶ第2列目の連結孔列9との間、およびこの先端側の上下方向に並ぶ第2列目の連結孔列9に沿った位置にも、前記横架材2が受けるせん断力によって変形することを促進させる複数列連結対応用の連結孔位置追加変形促進開口部11を設けた構成としている。すなわち、1列目の変形促進開口部10に加えて2列目として前記第1列目の連結孔列9に沿った位置、3列目として前記連結孔列9間、および4列目として前記第2列目の連結孔列9に沿った位置に、連結孔位置追加変形促進開口部11を設けて合計4列の変形促進機能を果たす開口部を設けた構成としている。
【0040】
また、この本実施例の2列目の複数列連結対応用の前記連結孔位置追加変形促進開口部11は、上下方向に並ぶ前記基端側の第1列目の連結孔列9に沿った位置の上部端部位置、下部端部位置および連結孔8間に設けている。
【0041】
具体的には、前記第1列目の上下方向2カ所の連結孔8の上下端部位置にやや縦長方形状でこの連結孔8よりはやや大きめの開口部を、前記連結孔位置追加変形促進開口部11として形成するとともに、この連結孔8間にも連結孔8と同じ丸孔状の開口部を前記連結孔位置追加変形促進開口部11として形成している。
【0042】
またこの本実施例の3列目の複数列連結対応用の連結孔位置追加変形促進開口部11は、前記基端側の上下方向に並ぶ第1列目の連結孔列9と前記先端側の上下方向に並ぶ第2列目の連結孔列9との間の上下方向に間隔をおいて複数設けた構成としている。
【0043】
具体的には、その突設方向に間隔をおいて並設した2列の連結孔列9間の上下方向に間隔をおいて縦長スリット状の開口部(上下方向に縦長状の長孔)を2カ所形成して、これも変形促進機能を果たす開口部の3列目となる前記連結孔位置追加変形促進開口部11として形成している。
【0044】
したがって、柱1の連結側表面に固定した基板部4から突設している連結用突設板部7は、上下複数本で柱1から離反する方向に2列の連結孔8に挿通した多数本の連結具6(ドリフトピン)で横架材2に連結する構成としているため、連結強度が強固となるとともに、この横架材2にたとえば上部から下方へのせん断力が加わると、基端側の上下方向に並ぶ第1列目の連結孔列9と前記連結用基板部4との間の上下方向に複数設けた1列目の変形促進開口部10が変形して本接合金具が上下方向に塑性変形することを促進し、さらに本接合金具が回転しようとすることで特に柱1から離れた連結具6に2次応力が生じるが、これも2列目、3列目、4列目となる連結孔位置追加変形促進開口部11が段階的に変形することで効率良く吸収できることとなり、2次応力による木材の破壊を遅らせることで接合部を鉛直方向に変形し続けることができるように構成している。
【0045】
したがって、2列止めする連結具6により連結強度を高く維持した上で、この変形促進作用によりせん断力に対する最大荷重値を、木材に頼る不安定な最大荷重値よりも容易に安定させることができ、しかも、前述のように基端側の上下方向に並ぶ第1列目の連結孔列9に沿った位置、本実施例ではさらにこの第1列目の連結孔列9と先端側の第2列目の連結孔列9との間などにも、複数列連結対応用の連結孔位置追加変形促進開口部11を設けて、前記横架材2が受けるせん断力によって段階的に変形することを促進させ、さらには回転による2次応力を吸収するため、前述のように2列目の連結具6(ドリフトピン)により連結強度すなわち最大荷重値を高く維持できる上に、剛性が低くなり過ぎない適正な接合部降伏耐力に容易に調整設定でき、さらにこの第2列目の連結具6での更なる2次応力をも良好にこの連結孔位置追加変形促進開口部11の変形促進作用により吸収できることとなり、せん断力による2次応力によって木材に割裂が誘発されて損傷することも抑制でき、それゆえ接合部でのせん断方向の耐力性能および靭性を一層向上・安定化することができることとなる。
【0046】
すなわち、前述したように、複数列の連結具6で連結した構成として連結強度を確保した上で、さらなる連結孔位置追加変形促進開口部11の変形促進作用により最大荷重値のばらつきを抑制しつつ2次応力をも吸収する構成のため接合部耐力および靭性を安定化させることも容易となる。
【0047】
したがって、この簡易な開口部配置構成により金具の連結強度を高く維持した上で、木材の個体差などの影響により決まる不安定な最大荷重値よりもばらつきを抑制することが容易にでき、また前記2次応力を吸収できることで、木材の損傷・破壊に先行して本接合金具を終局に至るまで接合部を鉛直方向に変形させ続けることができ、ゆえに最大荷重値が不安定とならず接合部のせん断方向の耐力性能および靭性を向上・安定化させることができ、接合部の安全管理が容易となる
【0048】
また本実施例では、さらに前記基端側の第1列目の連結孔列9と連結用基板部4との間の上下方向に複数設けられている変形促進開口部10間の先端側位置にも、前記横架材2が受けるせん断力によって変形することを促進させる変形促進開口部間先端側追加開口部12を、上下方向に間隔をおいて複数設けた構成としている。
【0049】
具体的には、本実施例では、上下1列状に前記変形促進開口部10を設け、その先端側に(柱1から離れる側に)これと千鳥状に前記変形促進開口部間先端側追加開口部12を設けて、連結具6を複数列にして高い連結強度を維持し、さらには前記変形促進開口部10による変形促進作用と併せて段階的に変形促進機能を発揮させて変形させ、連結具6を2列にしたことによりさらに柱1から離れた位置の連結具6での2次応力(柱1からさらに離れるため転倒モーメントが大きくなり大きな2次応力となるがこれ)も吸収できるように構成し、一層木材の破壊を遅らせることで鉛直方向に変形し続けることとなるように構成している。
【0050】
このように千鳥状に設けることで、前述のように変形促進機能が一層段階的に発揮されるとともに剛性も確保できる構成となる。また、このようにして連結具6の位置と変形促進機能を果たす開口部とを近づけることで、せん断力による変形、2次応力(偶力)による引張りによっての変形も良好となる。
【0051】
なお、本実施例では、この変形促進開口部10ともに千鳥状に設けた前記変形促進開口部間先端側追加開口部12は、前記連結孔位置追加変形促進開口部11とは別に開口形成した構成ではなく、基端側の上下方向に並ぶ第1列目の連結孔列9に沿った位置すなわちこの連結孔8間に設けた連結孔位置追加変形促進開口部11を兼ねた構成としている。
【0052】
また本実施例では、これら開口部および孔(切り欠き部を含む)の配置を上下対称に設けた構成とし、上下逆に取り付けても同様な配置となり同様な作用効果を果たすように設計した実施例である。なお、このように連結孔8の間の同じ径の連結孔位置追加変形促進開口部11を連結孔8と使用してもよく、同様の作用効果を発揮することとなる。
【0053】
またさらに説明すると、本実施例では、せん断変形促進しながら引っ張り変形機能を果たすように各開口部を設定しているが、変形を促進させる一方で剛性も確保しなければならないため、変形促進機能を果たす1列目の開口部である前記変形促進開口部10の数は、連結具6の本数(本実施例では5本)と同数とし、上下方向中心に対して上下対称にして、縦長方形状開口部とほぼ正方形開口部とが交互に間隔をおいて合計5つ列状に並んだ配置とし、その上下間隔は開口横幅の50~100%とし、この開口部形状は、開口横幅を第1列目の連結孔8から連結用基板部4までの距離の25~40%とし、この開口横幅と開口縦幅の比を1:1~2の範囲内とし、この開口縦幅合計すなわち開口高さ合計と本接合金具全高の比を1:1.4~1.6の範囲内としている。
【0054】
また、この1列目の変形促進開口部10が連結用基板部4に近すぎると、この連結用基板部4が変形してしまい、剛性低下や本金具回転による偶力が大きくなるおそれがあるため、一定の距離を保つ必要がある。そのため柱1に固定する連結用基板部4の連結用突設板部7側表面からの離れ寸法は、開口横幅の100~150%の範囲内としている。
【0055】
また変形促進機能を果たす2列目の開口部である前記連結孔位置追加変形促進開口部11は、前述のように第1列目の連結孔列9に沿って設けているが、この上下方向に並ぶ連結孔8の間にほぼ同じ孔径の丸孔(連結具6の径の+0~2mm)を設けて連結孔位置追加変形促進開口部11とするとともに、この上下端部にもこれよりやや大きめの丸孔またはやや縦長の開口部(連結孔8の開口面積の150~250%の開口面積)を設けて、連結孔位置追加変形促進開口部11とし、2列目を構成している。
【0056】
またこの連結孔8間の連結孔位置追加変形促進開口部11は、基端側縁から前記変形促進開口部10の先端側横縁までの距離が、この連結孔8に使用する連結具6の径の50~100%となる位置に配置している。
【0057】
また本実施例では、この連結孔8間の連結孔位置追加変形促進開口部11を、前記1列目の変形促進開口部10と千鳥状に配置される前記変形促進開口部間先端側追加開口部12としている(変形促進開口部間先端側追加開口部12を連結孔位置追加変形促進開口部11と兼用させた構成としている)。
【0058】
また変形促進機能を果たす3列目の開口部である前記連結孔位置追加変形促進開口部11は、前述のように、前記基端側の上下方向に並ぶ第1列目の連結孔列9とこれより先端側の上下方向に並ぶ第2列目の連結孔列9との間の上下方向に複数設けているが、長孔状の開口部を上下方向に間隔をおいて2つ設けた構成としている。この長孔状の3列目の連結孔位置追加変形促進開口部11の上下方向の位置は、この中心位置が、前記第1列目の丸孔状の連結孔8とこの間のこれと同形状の前記連結孔位置追加変形促進開口部11との離間間隔の中心位置とほぼ一致するように配置し、且つこの上下方向端部位置が、この丸孔状の連結孔位置追加変形促進開口部11および連結孔8の中心から孔縁位置の間となるように配置している。
【0059】
またこの長孔状の連結孔位置追加変形促進開口部11の基端側縁から前記連結孔列8の2列目の変形促進機能を果たす開口部(連結孔位置追加変形促進開口部11)の先端側孔縁との間隔(離れ寸法)は、連結具6の径の40~70%となるように配置している。
【0060】
またこの長孔状の連結孔位置追加変形促進開口部11の横幅は、連結具6の径の50~100%としている。
【0061】
またこのようにして設けた3列の変形促進機能を果たす開口部に加えてさらに変形促進機能としては弱いが4列目として前記第2列目の連結孔列9に沿った位置に、上下方向に間隔をおいて連結孔位置追加変形促進開口部11を設けている。この4列目は、2列目と同様に第2列目の連結孔列9に沿う位置すなわち第2列目の連結孔8間に設けた同形丸孔状の開口部と、下端部に設けた切り欠き部とを連結孔位置追加変形促進開口部11として、上下方向に間隔をおいて設けた構成としている。
【0062】
したがって、この4列目の開口部の機能は弱いが2列目、特に3列目の連結孔位置追加変形促進開口部11により、柱から離れた第2列目の連結具6の近くで変形促進機能および特に顕著に生じる可能性のある2次応力を吸収する機能を果たし、前記作用効果が一層良好となるように構成している。なお、5列目の連結孔位置追加変形促進開口部11を設けた場合には、この4列目の連結孔位置追加変形促進開口部11も変形促進機能および二次応力の吸収機能を発揮することになる。
【0063】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、たとえば、連結用突設板部7の形状などに応じてこれに設ける各開口部の形状・数など各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0064】
1 柱
2 横架材
3 固定具
4 連結用基板部
5 仕口部
6 連結具
7 連結用突設板部
8 連結孔
9 連結孔列
10 変形促進開口部
11 連結孔位置追加変形促進開口部
12 変形促進開口部間先端側追加開口部
13 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7