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特許7348675α-及びβ-1,4-グリコシド結合を全て切断する酵素の用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】α-及びβ-1,4-グリコシド結合を全て切断する酵素の用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/24 20060101AFI20230913BHJP
   C12N 9/26 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 9/38 20060101ALI20230913BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20230913BHJP
   C12P 19/02 20060101ALI20230913BHJP
   C12P 19/04 20060101ALI20230913BHJP
   C12P 19/18 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C12N9/24 ZNA
C12N9/26 Z
C12N9/38
C12N15/56
C12P19/02
C12P19/04 Z
C12P19/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021569130
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(86)【国際出願番号】 KR2020006649
(87)【国際公開番号】W WO2020235946
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0059565
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】314000442
【氏名又は名称】高麗大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145, Anam-ro Seongbuk-gu Seoul 02841, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】キム,ギョンホン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドヒョン
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-236480(JP,A)
【文献】"Vibrio sp. EJY3 chromosome 1,complete sequence", CP003241,2014年1月30日掲載, 2023年2月3日検索,National Center for BiotechnologyInformation, [online],https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/CP003241.1?report=genbank&from=2520455&to=2522278
【文献】Journal of Bacteriology, 2012, Vol.194,No.10, pp.2773-2774
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含むα-L-フコシダーゼ(α-L-fucosidase);及び
ラクトース及び重合度(degrees of polymerizations)2~4のマルトオリゴ糖からなる群より選択された一つ以上の基質を含むことを特徴とする、単糖類又はマルトオリゴ糖生産用組成物であって、
ラクトースはα-L-フコシダーゼによって単糖類であるグルコース及びガラクトースに分解され、
重合度2~4のマルトオリゴ糖はα-L-フコシダーゼによって分解され、基質で用いられるマルトオリゴ糖より高い重合度のマルトオリゴ糖が生成する、
組成物
【請求項2】
α-L-フコシダーゼは、α-1,4グルコシダーゼ及びβ-1,4ガラクトシダーゼ活性とトランスグリコシル化活性を有することを特徴とする、請求項1に記載の単糖類又はマルトオリゴ糖生産用組成物。
【請求項3】
α-L-フコシダーゼは、ビブリオ属(Vibrio sp.)菌株EJY3から分離したものであることを特徴とする、請求項1に記載の単糖類又はマルトオリゴ糖生産用組成物。
【請求項4】
α-L-フコシダーゼは、前記α-L-フコシダーゼをコーディングする遺伝子を含む組換えベクターに形質転換された宿主細胞又はその培養物から得たものであることを特徴とする、請求項1に記載の単糖類又はマルトオリゴ糖生産用組成物。
【請求項5】
遺伝子は、SEQ ID NO:2の塩基配列を含むことを特徴とする、請求項4に記載の単糖類又はマルトオリゴ糖生産用組成物。
【請求項6】
ラクトース及び重合度(degrees of polymerizations)2~4のマルトオリゴ糖からなる群より選択された一つ以上の基質とSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含むα-L-フコシダーゼ(α-L-fucosidase)を反応させる段階;及び
前記反応の生成物から単糖類及び基質で用いられるマルトオリゴ糖より高い重合度のマルトオリゴ糖を回収する段階を含むことを特徴とする、単糖類又はマルトオリゴ糖の生産方法であって、
ラクトースはα-L-フコシダーゼによって単糖類であるグルコース及びガラクトースに分解され、
重合度2~4のマルトオリゴ糖はα-L-フコシダーゼによって分解され、基質で用いられるマルトオリゴ糖より高い重合度のマルトオリゴ糖が生成する、
生産方法
【請求項7】
反応は、30~40℃、pH6~8、30分~48時間の条件で行うことを特徴とする、請求項に記載の単糖類又はマルトオリゴ糖の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-及びβ-1,4-グリコシド結合を全て切断する酵素の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
α-L-フコシダーゼ(3.2.1.51)は、相異なる類型のフコシル化されたオリゴ糖及びフコグリココンジュゲートの非還元末端からα-連結されたL-フコシル残基の加水分解を触媒し得るエキソグリコシル加水分解酵素である。酵素が触媒作用をする反応の種類と基質に対する特異性によってフコシダーゼは、フコース及びガラクトースの間のα-1,2結合を切断するα-1,2-L-フコシダーゼ(EC 3.2.1.63)、フコース及びN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の間のα-1,3結合を切断するα-1,3-フコシダーゼ(3.2.1.111)、及びフコースとガラクトースの間のα-1,2結合及びフコースとGlcNAcの間のα-1,3/4/6結合のような多様な範疇の結合を切断し得る特異性が低いα-L-フコシダーゼ(EC 3.2.1.51)に分類する。炭水化物-活性酵素(Carbohydrate-Active EnZymes(CAZy))データベースの分類によると(http://www.cazy.org/Glycoside-Hydrolases.html)、α-L-フコシダーゼは、互いに加水分解反応の触媒に用いられたメカニズムが相異なるGHファミリ29(GH29)及び95(GH95)に属する。GH95のα-L-フコシダーゼは、特に、直接置換(反転)メカニズムを通じて多様なオリゴ糖と糖タンパク質の糖鎖から発見されるα-1,2フコシル結合を加水分解する。反対に、GH29のα-L-フコシダーゼにより媒介される加水分解反応は、生成された産物で基質アノマー中心の配列が維持される位置で古典的なコシュランド二重-置換メカニズムを通じて行われる。特に、GH29の保有酵素は、加水分解反応だけでなく、トランスグリコシル化、すなわち、切断されたグリコシド残基の最終受容体が水と他のヒドロキシ基-保有分子の反応を触媒することができる。最近、GH29は、基質特異性及び配列相同性に基礎して二つのサブファミリ、GHサブファミリ29A及び29Bに分類した。GHサブファミリ29Aは、α-L-フコシダーゼを含み、p-ニトロフェニル-α-L-フコピラノシド(p-nitrophenyl-α-L-fucopyranoside;pNP-α-L-Fuc)のような合成基質に作用することができ、フコシルオリゴ糖に対する加水分解能力が制限的である。GHファミリ29Bは、α-L-フコシダーゼを含み、非還元性末端に分枝型ガラクトース残基を有するα-1,3/4フコシル結合に対してより位置特異的であり、pNP-α-L-Fucを実質的に加水分解できない。
【0003】
α-L-フコシダーゼは、細菌、真菌、植物、海洋無脊椎動物及び哺乳動物を含む広範囲な生物体から分離された。最近、α-L-フコシダーゼは、クローニングされてビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、バクテロイデス(Bacteroides)及びラクトバチルス(Lactobacillus)を含んでいくつかの腸内細菌から特性が糾明された。また、一部の腸内微生物によるα-L-フコシダーゼ及びフコシルグリカンの分解の間の関係が報告された。現在まで、すべての報告されたα-L-フコシダーゼは、オリゴ糖又はそれらのコンジュゲートの末端フコシル結合の除去を触媒するが、非-フコシル化された基質を加水分解する能力は報告されたことがなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、二重グリコシド加水分解活性を有するビブリオ属(Vibrio sp.)由来の新規なフコシダーゼの用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含むα-L-フコシダーゼ(α-L-fucosidase);及びラクトース及び重合度(degrees of polymerizations)2以上のマルトオリゴ糖からなる群より選択された一つ以上の基質を含む単糖類又はマルトオリゴ糖生産用組成物を提供する。
【0006】
また、本発明は、単糖類又はマルトオリゴ糖を生産するためのSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含むα-L-フコシダーゼ(α-L-fucosidase)の用途を提供する。
【0007】
また、本発明は、ラクトース及び重合度(degrees of polymerizations)2以上のマルトオリゴ糖からなる群より選択された一つ以上の基質とSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含むα-L-フコシダーゼ(α-L-fucosidase)を反応させる段階;及び
【0008】
前記反応の生成物から単糖類及び基質で用いられるマルトオリゴ糖より高い重合度のマルトオリゴ糖を回収する段階を含む単糖類又はマルトオリゴ糖の生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のα-L-フコシダーゼは、α-1,4-グルコシダーゼ及びβ-1,4-ガラクトシダーゼ活性を有するため、非-フコシル化された糖質から単糖類であるグルコース及び/又はガラクトースを生産し、前記酵素は、トランスグリコシル化活性を有するため、基質で用いられるマルトオリゴ糖より高い重合度を有するマルトオリゴ糖を生産して、食品産業において高付加価値の新素材開発に適用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】SDS-PAGEを用いたVeFUCの発現を示す。レーン1は、タンパク質マーカー、レーン2は、His-tag親和性クロマトグラフィーにより精製されたVeFUCである。
【0011】
図2】VeFUCの酵素活性を示す。反応は、基質としてpNP-α-L-fuc、pNP-α-D-Glc、pNP-β-D-Glc、pNP-α-D-Gal、pNP-β-D-Galを用いて303Kで60分間行った。データは、3繰り返しの平均±標準偏差を示す。
【0012】
図3】VeFUCの基質特異性を示す。VeFUCをラクトース、ラミナリビオース、スクロース、マルトース及びセロビオースを含んでバイオマス-由来基質とともに303Kで30分間インキュベーションして得た反応産物のTLC分析結果である。グルコース(Glc)及びガラクトース(Gal)は、反応産物のためのマーカーで用いられた(Std、標準物質;-、基質単独;+、基質とVeFUCの反応結果)。
【0013】
図4】酵素反応のためのpH及び温度の効果を示す。相違するpHで(A)pNP-α-L-fuc、(B)ラクトース及び(C)マルトースと反応したVeFUCの相対活性;相違する温度で(D)pNP-α-L-fuc、(E)ラクトース及び(F)マルトースと反応したVeFUCの相対活性;(G)pNP-α-L-fuc、(H)ラクトース及び(I)マルトースを用いたVeFUCの熱的安定性を決定するために、異なる温度で60分間予備-インキュベーションされたVeFUCの相対活性の測定結果である。データは、3繰り返しの平均±標準偏差を示す。
【0014】
図5】基質としてラクトース(A)及びマルトース(B)を用いたVeFUC酵素反応産物のTLC(左側)及びHPLC(右側)の分析結果を示す。反応は、20mM Tris-HCl(pH7.0)で313Kで120分間行った。グルコース(Glc)及びガラクトース(Gal)は、反応産物のためのマーカーで用いた(Std、標準物質;-、基質単独;+、基質とVeFUCの反応結果)。
【0015】
図6】VeFUCのトランスグリコシル化活性を示す。マルトース(DP2)、マルトトリオース(DP3)及びマルトテトラオース(DP4)とVeFUCの酵素反応産物は、MALDI-TOF/MSにより分析された。反応は、10mM Tris-HCl(pH7.0)で313Kで60分間行った。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成を具体的に説明する。
【0017】
本発明は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含むα-L-フコシダーゼ(α-L-fucosidase);及びラクトース及び重合度(degrees of polymerizations)2以上のマルトオリゴ糖からなる群より選択された一つ以上の基質を含む単糖類又はマルトオリゴ糖生産用組成物に関する。
【0018】
また、本発明は、単糖類又はマルトオリゴ糖を生産するためのSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含むα-L-フコシダーゼ(α-L-fucosidase)の用途を提供する。
【0019】
また、本発明は、ラクトース及び重合度(degrees of polymerizations)2以上のマルトオリゴ糖からなる群より選択された一つ以上の基質とSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含むα-L-フコシダーゼ(α-L-fucosidase)を反応させる段階;及び
【0020】
前記反応の生成物から単糖類及び基質で用いられるマルトオリゴ糖より高い重合度のマルトオリゴ糖を回収する段階を含む単糖類又はマルトオリゴ糖の生産方法を提供する。
【0021】
本発明者らが海洋細菌ビブリオ属(Vibrio sp.)菌株EJY3由来のα-L-フコシダーゼ、VeFUCをクローニングし、発現させて特性を糾明した結果、α-L-フコシダーゼは、α-1,4グルコシダーゼ及びβ-1,4ガラクトシダーゼ活性により非-フコシル化された基質を単糖類のグルコース及び/又はガラクトースに加水分解し得ることを最初に報告した。それだけでなく、前記酵素は、トランスグリコシル化活性を有しているため、基質より高い重合度のオリゴ糖を生成し得る。
【0022】
本発明の一具体例によると、前記α-L-フコシダーゼは、合成基質又は天然二糖類に対する加水分解活性を測定した結果、合成基質、例えば、pNP-α-L-Fuc、pNP-α-D-Glc、pNP-β-D-Glc、pNP-α-D-Gal及びpNP-β-D-GalのうちpNP-α-L-Fuc、pNP-α-D-Glc、pNP-β-D-Galに対して高い相対活性を示すが、pNP-α-D-Gal及びpNP-β-D-Glcに対しては活性を示さなかった。また、多様な類型のグリコシド結合を有する二糖類を基質として用いた場合、ラクトース(β-1,4-グリコシド結合)及びマルトース(α-1,4-グリコシド結合)は、VeFUCにより加水分解されるが、D-グルコースの2個の単位で構成されたα-1,2-グリコシド結合を有するスクロース、β-1,3-グリコシド結合を有するラミナリビオース及びβ-1,4-グリコシド結合のセロビオースを加水分解しなかった。したがって、前記α-L-フコシダーゼは、α-フコシダーゼ、α-1,4-グルコシダーゼ及びβ-1,4-ガラクトシダーゼ活性を有するが、α-ガラクトシダーゼ及びβ-グルコシダーゼ活性を有しないことが分かる。
【0023】
前記結果から、本発明のα-L-フコシダーゼは、基質として非還元末端の結合様式でβ-1,4-グリコシド結合を有するラクトースとα-1,4-グリコシド結合を有するマルトースを使用できることが分かる。
【0024】
また、酢酸ナトリウム、Tris-HCl、グリシン-NaOHなどのような緩衝溶液内の前記α-L-フコシダーゼの最適pHは、緩衝溶液の種類によって変わり得るが、約pH4~8で60%以上の酵素活性を示し、具体的に、約pH6~8で最も高い活性を示す。本発明の一具体例によると、pNP-α-L-Fuc、マルトース及びラクトースに対するVeFUCの最も高い活性は、それぞれ10mM酢酸ナトリウム緩衝液でpH6.0、10mM Tris-HCl緩衝液でpH7.0及び10mM酢酸ナトリウム緩衝液でpH6.0で得た。
【0025】
前記α-L-フコシダーゼの酵素活性に対する最適温度は、30~40℃であり、より具体的に、約30℃である。熱的安定性試験結果、α-L-フコシダーゼは、約30℃以下の温度で安定したが、約30℃より高い温度で相対活性は減少する。したがって、室温でも十分に酵素反応が可能なので、温度を高めるためのエネルギー消費がなくとも経済的に工程を行うことができるという長所がある。また、既存酵素に比べて相対的に低い温度での熱処理でも酵素を不活性化させ得る。
【0026】
前記α-L-フコシダーゼは、ビブリオ属(Vibrio sp.)菌株EJY3に由来したものであってもよいが、これに特に制限するものではない。
【0027】
また、α-L-フコシダーゼは、酵素のコーディング領域の前及び後の領域だけではなく、個別コーディング分節間の介在配列が含まれたポリペプチドを生産するのに連関されたDNA分節、すなわち、コーディング遺伝子を通じて転写及び翻訳され得る。例えば、SEQ ID NO:2に記載した配列から転写及び翻訳され得るが、これに特に制限されるものではない。また、前記酵素の一つ以上の置換、欠損、転位、添加などの変異タンパク質として前記単糖類又はマルトオリゴ糖の加水分解活性を有するタンパク質も本発明の酵素の権利範囲に含まれ、好ましくは、SEQ ID NO:1に開示されたアミノ酸配列と配列相同性が80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上及び99%以上であるアミノ酸配列を含む。
【0028】
前記α-L-フコシダーゼは、ビブリオ属(Vibrio sp.)菌株EJY3培養物の上澄液から分離及び精製することができ、遺伝工学的組換え技術を用いてビブリオ属(Vibrio sp.)菌株EJY3以外の菌株又は人工的な化学的合成法などによって生産及び分離し得る。
【0029】
組換え技術を用いる場合、通常的な組換えタンパク質発現の容易さのために用いられる因子、例えば、抗生剤抵抗性遺伝子、親和性カラムクロマトグラフィーに用いられ得るレポータータンパク質又はペプチドを用いることができ、このような技術は、本願発明が属する技術分野の当業者であれば容易に実施可能な範疇に該当する。例えば、前記α-L-フコシダーゼをコーディングする遺伝子、すなわち、SEQ ID NO:2に記載した塩基配列を含む組換えベクターに形質転換された宿主細胞又はその培養物から収得され得る。前記宿主細胞で大腸菌を用いるが、これに制限するものではない。
【0030】
上述したように、本発明のα-L-フコシダーゼは、ラクトース及びマルトースを基質で用いて加水分解反応を通じて単糖類を分解産物として得ることができる。前記単糖類は、グルコース及び/又はガラクトースであってもよい。本発明の一具体例によると、ラクトースを基質で用いる場合、グルコース及びガラクトースが分解産物として生成される。マルトースを基質で用いる場合、α-グルコシダーゼ及びトランスグリコシル化活性によりグルコースと基質より高い重合度のマルトオリゴ糖が生成される。
【0031】
本発明の一具体例によると、前記α-L-フコシダーゼのトランスグリコシル化活性を調査するために、マルトース(DP2)、マルトトリオース(DP3)、マルトテトラオース(DP)を基質として反応させた結果、各基質に対して高い重合度を有するマルトオリゴ糖が生成され、マルトースの場合、グルコースに加水分解し、DP3、DP4、DP5のマルトオリゴ糖が生成される。アルトトリオース及びマルトテトラオースを基質で用いる場合、それぞれDP8及びDP9までのマルトオリゴ糖が生成される。
【0032】
したがって、前記α-L-フコシダーゼは、ラクトース及び重合度(degreesof polymerizations)2以上のマルトオリゴ糖を基質で用いることができる。好ましくは、前記マルトオリゴ糖は、重合度2~4のマルトオリゴ糖であってもよい。また、基質で重合度2~4のマルトオリゴ糖を用いる場合、分解産物は、基質より高い重合度のマルトオリゴ糖が生成され得る。
【0033】
前記α-L-フコシダーゼと基質の反応は、30~40℃、pH6~8、30分~48時間の条件で反応させて生産され得る。より具体的に、30~35℃、pH6~8、30分~2時間の条件で反応させて生産され得る。
【0034】
前記α-L-フコシダーゼの分解産物は、吸着クロマトグラフィーであるシリカゲルクロマトグラフィー及びゲル透過クロマトグラフィーであるバイオゲルP2クロマトグラフィーを順次に実施して約95%の高純度の単糖類又はマルトオリゴ糖を分離精製することができる。
【0035】
本明細書で「タンパク質」及び「ポリペプチド」は、本願で相互交換可能に用いられる。
【0036】
本発明でポリペプチドがまた他の配列に対して特定割合(例えば、80%、85%、90%、95%又は99%)の配列相同性を有するということは、前記二つの配列を整列させるとき、前記配列の比較時に前記割合のアミノ酸残基が同一であることを意味する。前記整列及び百分率相同性又は同一性は、当業界で公知となった任意の適当なソフトウェアプログラム、例えば、文献[CURRENT PROT°COLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausubelなど(eds)1987 Supplement 30 section 7.7.18)]に記載されたものなどを用いて決定し得る。好ましいプログラムとしては、GCG Pileupプログラム、FASTA(Pearsonなど1988 Proc.Natl Acad.Sci USA 85:2444-2448)、及びBLAST(BLAST Manual、Altschulなど、Natl.Cent.Biotechnol.Inf.、Natl Lib.Med.(NCIB NLM NIH)、Bethesda、MD及びAltschulなど1997 NAR 25:3389-3402)がある。また他の好ましい整列プログラムは、ALIGN Plus(Scientific and Educational Software、PA)であって、好ましくは、基本媒介変数を用いるものである。使用可能なまた他の配列ソフトウェアプログラムは、Sequence Software Package Version 6.0(Genetics Computer Group、University of Wisconsin、Madison、WI)で利用可能なTFASTA Data Searching Programである。
【0037】
本発明で細胞、核酸、タンパク質又はベクターと関連して用いられるとき、用語「組換え」は、前記細胞、核酸、タンパク質又はベクターが異種核酸又はタンパク質の導入又は本来的核酸又はタンパク質の変更によって変形されたか、又は前記細胞がこのように変形された細胞に由来したことを示す。すなわち、例えば、組換え細胞は、前記細胞の本来的(非組換え)形態内では発見されない遺伝子を発現するか、又は、或いは発現時に非正常的に発現するか又は全く発現されない本来的遺伝子を発現する。
【0038】
本明細書で「核酸」は、一本鎖は二本鎖のDNA、RNA及びこれらの化学的変形体を包括する。「核酸」及び「ポリヌクレオチド」は、本願で相互交換可能に用いられ得る。遺伝暗号が縮退されているため、特定アミノ酸をエンコードするために一つ以上のコドンを用いることができ、本発明は、特定アミノ酸配列をエンコードするポリヌクレオチドを包括する。
【0039】
核酸配列を細胞内に挿入する用語「導入」は、「トランスフェクション(transfection)」又は「形質転換」又は「形質導入(transduction)」を意味し、核酸配列の真核又は原核細胞内への統合に対する言及が含まれ、このとき、前記核酸配列は、細胞のゲノム(例えば、染色体、プラスミド、色素体又はミトコンドリアDNA)内に統合され、自律レプリコンに転換されるか、又は一時的に発現される。
【0040】
以下、本発明による実施例を通じて本発明をより詳しく説明するが、本発明の範囲が下記提示された実施例によって制限されるものではない。
<発明を実施するための形態>
【0041】
<実施例1>VeFUCクローニング、発現及び特性の糾明
【0042】
(VeFUCのクローニング及び発現)
【0043】
VeFUCを暗号化する遺伝子のクローニングのためにビブリオ属(Vibrio sp.)菌株EJY3のゲノムDNAを次のように製造した:ビブリオ属(Vibrio sp.)菌株EJY3を23g/L Instant Ocean Sea Salt(Aquarium Systems、Mentor、OH、USA)、50mM Tris-HCl(pH7.4)、2g/Lグルコース、1g/L酵母抽出物及び0.5g/Lアンモニウムクロリドで構成された最小培地で303K及び200rpmで18時間の間培養した。ゲノムDNAは、製造社のプロトコルによってDNeasy Blood & Tissue Kit(Qiagen、Valencia、CA、USA)を用いて培養物から抽出した。標的遺伝子、VEJY3_11310(UniProt accession no.H2IHW9.1)は、次のプライマーを用いてPCRにより増幅した。下線部分は、BamHI及びXhoI制限酵素部位である;
【0044】
5'-GCGGGATCCATGACCAAGCCCACAGCAGGTG-3'(正方向:SEQ ID NO:3);
【0045】
5'-GCGCTCGAGGTGGTGGTGGTGGTGGTGCGCCAAGCGGGGGCCCAACTG-3'(逆方向:SEQ ID NO:4)
【0046】
6個のヒスチジンを暗号化する配列を逆方向プライマーに添加してHisTrapcolumn(GE Healthcare、Piscataway、NJ、USA)を用いて組換えタンパク質を精製した。PCR産物にBamHI及びXhoI制限酵素を処理し、その後、pET-21a plasmid(Novagen、Darmstadt、Germany)にライゲーションしてpET21a-VeFUCプラスミドを構築した。
【0047】
(VeFUCの発現及び精製)
【0048】
pET21a-VeFUCプラスミドが搭載された組換え大腸菌(E.coli)BL21(DE3)を310K及び200rpmで100mgL-1のアンピシリンを含むLuria-Bertani(LB)ブロスで、600nmで測定された培養ブロスの吸光度が0.6に到逹するまで成長させた。酵素の過発現は、289Kで16時間の間1mM isopropyl-β-d-thiogalactopyranoside(IPTG)(Sigma、St.Louis、MO)により誘導された。4,000 X gで15分間遠心分離して細胞を回収し、超音波で破壊した後、16,000 X gで1時間の間遠心分離した。無細胞粗酵素(crude enzyme)は、Ni-nitrilotriacetic acid(NTA) affinity chromatography(Qiagen、Valencia、CA、USA)を用いて精製した。溶出は、300mMイミダゾールとともに1mLの溶出バッファーで行った。精製された組換えタンパク質は、Amicon ultracentrifugal filter unit(molecular weight cutoff value of 50,000、Millipore、Billerica、MA、USA)を用いて濃縮した。濃縮された酵素溶液は、bicinchoninic acid(BCA)タンパク質分析(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)及び12%(w/v)SDS-PAGEゲル電気泳動で分析して標的タンパク質の濃度、サイズ及び純度を測定した。
【0049】
(VeFUCの酵素活性の測定)
【0050】
VeFUCの酵素活性を測定するために、4nmolのVeFUCを100μlの10mM合成基質、例えば、p-nitrophenyl-α-L-fucopyranoside(pNP-α-L-Fuc、α-フコシダーゼ分析用基質)、p-nitrophenyl-α-D-glucopyranoside(pNP-α-DGlc、α-グルコシダーゼ分析用基質)、p-nitrophenyl-β-D-glucopyranoside(pNP-β-D-Glc、β-グルコシダーゼ分析用基質)、p-nitrophenyl-α-D-galactopyranoside(pNP-α-D-Gal、α-ガラクトシダーゼ分析用基質)、p-nitrophenyl-β-D-galactopyranoside(pNP-β-D-Gal、β-ガラクトシダーゼ分析用基質)(全てSigma-Aldrichから購入)とともに303Kで60分間インキュベーションした。500μlの1M炭酸ナトリウムを添加して反応を終結し、反応混合物の吸光度は、405nmで分光光度法によって定量した。1ユニット(U)のVeFUCは、上述した酵素反応条件下で1分当たり1μmolのp-nitrophenyl(pNP)を生産するために必要な酵素の量で定義した。
【0051】
また、VeFUCの酵素活性を試すために、スクロース(α-1,2グリコシド結合を有するD-グルコース及びD-フルクトース単位で形成される)、マルトース(α-1,4グリコシド結合を有する二つのD-グルコースで形成される)(全てSigmaから購入)、ラミナリビオース(β-1,3グリコシド結合で二つのD-グルコースで形成される)(Megazyme、Wicklow、Ireland)、ラクトース(β-1,4グリコシド結合を有するD-ガラクトース及びD-グルコース単位で形成される)及びセロビオース(β-1,4グリコシド結合を有するD-グルコースの二つの単位で形成される)を含んでバイオマス-由来の二糖類を試した。酵素反応のために、4nmolのVeFUCを30mMの各基質を含む100μlの10mM Tris-HCl buffer(pH7.0)と300Kで60分間インキュベーションした。
【0052】
pNP-α-L-Fucに対するVeFUCのキネティックパラメーターを測定するために、上述した同一の条件下で0.109~0.875mM範囲のpNP-α-L-Fucの濃度別酵素反応を行った。VeFUCの酵素キネティックパラメーター、Vmax、K及びkcatは、Lineweaver-Burkプロットから測定された。
【0053】
(TLC及びHPLCによる酵素反応産物の分析)
【0054】
VeFUCの酵素反応産物を分析するために、TLC及びHPLCを用いた。TLC分析のために、1μlの反応混合物をシリカゲル60プレート(Merck、Darmstadt、Germany)にローディングし、このとき、n-ブタノール/酢酸/水(3:2:2の体積比)で構成された移動相を用い、エタノールのうち10%(v/v)硫酸溶液を用いて403Kで5分間TLCプレートを加熱して可視化した。
【0055】
また、反応産物は、Bio-Rad Aminex HPX-87Hカラム及びrefractive index detector(Agilent Technologies、Wilmington、DE、USA)が装着されたAgilent 1100 HPLC system(Agilent)で分析した。HPLC分析は、移動相で5mM硫酸を用いて338Kで0.5mL/minの流速で行った。
【0056】
(MALDI-TOF MS(matrix-assisted laser desorption ionization-tandem time of flight mass spectrometry)による酵素反応産物の分析)
【0057】
VeFUCのトラスグリコシル化活性を測定するために、4nmolのVeFUCを基質として30mMのマルトース、マルトトリオース(α-1,4グリコシド結合を有する3個のD-グルコース単位で形成される)、又はマルトテトラオース(α-1,4グリコシド結合を有する4個のD-グルコース単位で形成される)とインキュベーションした。反応混合物は、ultrafleXtreme MALDI-TOF/TOF MS system(Bruker Daltonics)を用いてMALDI-TOF/TOF MSにより分析された。サンプルの製造のために、反応産物を水に溶かし、1μlの可溶化された反応産物をステンレススチールターゲットプレートに点滴してから、0.3μlの10mM NaCl及び50%(v/v)アセトニトリル中の50g/Lの2,5-ジヒドロキシ安息香酸0.5μlを添加した。スポットは、真空下で速く乾燥させて均一に結晶化されるようにした。サンプルは、上述したようにMALDI-TOF/TOF MSにより分析された。原始MSデータは、FlexAnalysis software(version 3.3;Bruker Daltonics)を用いて加工した。全てのMSピークは、デコンボリューションし、サンプルから全ての中性質量のリストが生成された。存在比は、質量スペクトラムのピーク強度で示した。
【0058】
(VeFUC酵素の特性糾明)
【0059】
VeFUC活性のための最適pHを測定するために、4nmolのVeFUCを多様なpHの緩衝溶液(10mM酢酸ナトリウム(pH4.0~6.0)、10mM Tris-HCl(pH6.0~9.0)及び10mM glycine-NaOH(pH9.0~10.0))で10mM pNP-α-L-Fuc、10mMラクトース及び10mMマルトースのそれぞれと303Kで10分間インキュベーションした。
【0060】
VeFUCの酵素活性のための最適温度を測定するために、4nmolのVeFUCを10mM酢酸ナトリウム(pH6.0)で10mM pNP-α-L-Fuc、10mMラクトース及び10mM Tris-HCl緩衝液(pH7.0)でそれぞれ10mMマルトースと293K~343Kの温度範囲で30分間インキュベーションした。
【0061】
VeFUCの熱的安定性を測定するために、4nmolのVeFUCを10mM酢酸ナトリウム(pH6.0)で10mM pNP-α-L-Fuc、10mMラクトース及び10mM Tris-HCl緩衝溶液(pH7.0)でそれぞれ10mMマルトースとの酵素反応前に293K~343Kの多様な温度範囲で1時間の間予めインキュベーションした。反応混合物を沸いている水で1分間インキュベーションすることで酵素反応を終結した。反応混合物は、HPLCで分析した。
【0062】
<実験例1>VeFUCの酵素活性及び基質特異性
【0063】
ビブリオ属(Vibrio sp.)菌株EJY3由来のVeFUC、α-L-フコシダーゼの酵素活性を特性糾明した。そのために、大腸菌(E.coli)BL21(DE)菌株でVeFUCを発現させ、VeFUCの分子量は、それらの理論的な質量値、69.9kDaに相応した(図1)。合成基質、天然二糖類を含んで基質別に酵素分析を行った結果、VeFUCは、独特で、且つ従来報告されたことのない活性を示す新規なα-L-フコシダーゼであると確認された。
【0064】
VeFUCの酵素活性を測定するために、合成基質、例えば、pNP-α-L-Fuc、pNP-α-D-Glc、pNP-β-D-Glc、pNP-α-D-Gal及びpNP-β-D-Galを酵素反応に用いた。この部類の化合物は、通常、グリコシダーゼ活性及び特異性の分析に用いられ、p-ニトロフェニル(p-nitrophenyl、pNP)基は、優れた離脱基として作用し、分光法により容易に定量化され得る。VeFUCは、pNP-α-L-Fucに対して最も高い活性を示し、また、pNP-α-D-Glcを加水分解して41.5%の相対活性を示し、pNP-β-D-Galに対しては、65.3%の相対活性を示した(図2)。しかし、VeFUCは、pNP-α-D-Gal及びpNP-β-D-Glcに対して活性を示さなかった。
【0065】
pNP-α-L-Fucに対するVeFUCのキネティックパラメーターを測定するために、基質濃度を異にして10mM酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH6.0)で313Kで酵素反応を行った。VeFUCのキネティックパラメーターは、Lineweaver-Burk plotを用いて測定した。pNP-α-L-Fucに対するVeFUCのVmax、K及びkcat値は、それぞれ24.8±0.9Umg―1protein、6.34±0.48mM及び4.81±1.8s-1であった。VeFUCに対する触媒定数は、他の特性が糾明された細菌性フコシダーゼの正常範囲内にあった(表1)。
【0066】
【表1】
【表2】
【0067】
また、多様な類型のグリコシド結合を有する10mMのいくつかの二糖類と酵素反応を行った。二糖類グループのうちラクトース(β-1,4-グリコシド結合)及びマルトース(α-1,4-グリコシド結合)は、VeFUCにより加水分解された(図3)。しかし、VeFUCは、D-グルコースの2個の単位で構成されたα-1,2-グリコシド結合を有するスクロース、β-1,3-グリコシド結合を有するラミナリビオース及びβ-1,4-グリコシド結合のセロビオースを加水分解しなかった。これら結果は、VeFUCがα-フコシダーゼ、α-1,4-グルコシダーゼ及びβ-1,4-ガラクトシダーゼ活性を有するが、α-ガラクトシダーゼ及びβ-グルコシダーゼ活性を有しないことを示唆する。
【0068】
<実験例2>VeFUCの特性糾明
【0069】
VeFUCの酵素活性に対するpH及び温度の効果を試すために、10mM pNP-α-L-Fuc、10mMラクトース及び10mMマルトースを4nmolのVeFUCと多様なpH(pH4.0-10.0)及び温度(293-343K)でインキュベーションした。
【0070】
pNP-α-L-Fuc、マルトース及びラクトースに対するVeFUCの最も高い活性は、それぞれ10mM酢酸ナトリウム緩衝溶液でpH6.0、10mM Tris-HCl緩衝溶液でpH7.0及び10mM酢酸ナトリウム緩衝溶液でpH6.0として得た(図4の(a)-(c))。VeFUC酵素活性に対する最適温度は、全ての基質に対して約313Kとなることが測定された(図4の(d)-(f))。熱的安定性試験での結果によると、VeFUCは、60分間予備-インキュベーションした後、303K以下の温度で安定したが、303Kより高い温度で予備-インキュベーションした後に相対活性は減少した(図4の(g)-(i))。
【0071】
<実験例3>VeFUCの作用モード
【0072】
最適化された反応条件でラクトース及びマルトースとインキュベーションされたVeFUCの反応産物をTLC及びHPLCにより分析した。ラクトースを基質で用いる場合、グルコース及びガラクトースが生成された(図5の(a))。これら結果は、VeFUCがβ-ガラクトシダーゼ活性によりラクトースのβ-1,4-グリコシド結合を加水分解することを示唆する。マルトースを基質で用いる場合、α-グルコシダーゼ及びトランスグリコシル化活性によってそれぞれグルコースと基質より高い重合度が形成された(図5の(b))。今まで、VeFUCは、α-1,4グルコシダーゼ及びβ-1,4ガラクトシダーゼ活性によりフコシル化されないα-及びβ-グリコシド結合を加水分解し得る二重触媒活性を示す最初の酵素である。
【0073】
VeFUCのトランスグリコシル化活性を調査するために、マルトース(DP2)、マルトトリオース(DP3)又はマルトテトラオース(DP4)とインキュベーションされたVeFUCの反応混合物をMALDI-TOF/TOF MSにより分析した。基質としてDP2、DP3及びDP4をそれぞれ用いた全ての反応混合物で基質より高い重合度を有するオリゴ糖が検出された(図6)。基質でマルトースを用いて得た反応産物は、VeFUCが一次的にマルトースをグルコース(DP1、176.9m/z)に加水分解し、DP5(DP3、527.1m/z;DP4、689.2m/z;DP5、851.3m/z)までの範囲に至るオリゴ糖を形成することを示した。マルトトリオース及びマルトテトラオースを基質で用いる場合、VeFUCは、それぞれDP8及びDP9までのオリゴ糖を形成した(図6)。
【0074】
細菌及び真核生物から発見された多くの代表的なGH29α-L-フコシダーゼは、相異なる効率でトランスフコシル化反応を触媒する能力を有することを示した。今まで、大部分のトランスフコシル化は、フコシルドナーとしてpNP-α-L-Fucを用いた。特に、VeFUCは、α-1,4-オリゴ糖に対して高いトランスグリコシル化活性を示した(図6)。この結果によると、基質の非還元末端から放出されたグルコースは、α-1,4位置選択性を有する基質に伝達される。したがって、基質であるマルトースは、ドナー及び受容体(自己-縮合)の双方として提供し得るので、基質より高い重合度を有するオリゴ糖を形成することができる。VeFUCのトランスグリコシル化活性から生成されたマルトオリゴ糖は、弱い甘味、相対的に低い浸透圧、高い水分-保有能力及び適当な粘度、そして結晶化を抑制してパンの老化(staling)を遅延させる能力によって食品産業において潜在的適用が可能な高付加価値の機能性オリゴ糖である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、高い重合度を有するマルトオリゴ糖を効率的に生産して食品産業において高付加価値の新素材開発に適用し得る。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図4I
図5
図6
【配列表】
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