(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】歯移動器具
(51)【国際特許分類】
A61C 7/10 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
A61C7/10
(21)【出願番号】P 2023071186
(22)【出願日】2023-04-25
【審査請求日】2023-04-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517290578
【氏名又は名称】山口 修二
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179811
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】山口 修二
【審査官】中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】特許第6774693(JP,B1)
【文献】特開2017-176822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/00-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上顎の臼歯又は犬歯を移動させるための歯移動器具であって、
口蓋側の顎骨に埋め込まれるように構成された埋入部材、又は移動させる前記臼歯若しくは前記犬歯を除いた前記臼歯若しくは前記犬歯の少なくとも一部に取り付けられるように構成された固定部と、
口蓋側の歯列に沿って延在し、前記固定部に連結する第一軌道部と、
前記第一軌道部にスライド可能に支持されるスライド部と、
前記第一軌道部が延在する向きに沿って延在し、
かつ前記第一軌道部より正中線側又は歯列側に配置され、前記スライド部及び前記固定部の何れか一方に連結するとともに当該スライド部及び当該固定部の何れか他方にスライド可能に支持される第二軌道部と、
弾性変形可能であって、移動させる前記臼歯又は前記犬歯に取り付けられるように構成された保持部材と前記スライド部とを連結する連結部と、を備える歯移動器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上顎の臼歯又は犬歯を移動させるための歯移動器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上顎の臼歯や犬歯を移動させることが可能な器具として、例えば下記の特許文献1、2の如き歯移動器具が知られている。
【0003】
特許文献1、2の歯移動器具は、口蓋側の顎骨に埋め込まれるように構成された埋入部材等に取り付けられるように構成された固定部と、蓋側の歯列に沿って延在し、前記固定部に連結する軌道部と、軌道部にスライド可能に支持され、移動させる臼歯等に取り付けられる保持部材に連結するスライド部と、スライド部を遠心側に向けて付勢する弾性部と、を備えている。このような歯移動器具によれば、スライド部は、軌道部に案内されつつ弾性部からの弾性力を臼歯等に作用させるため、臼歯等を意図した通りに遠心移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6557887号公報
【文献】特許第6774693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、臼歯等の歯並びを矯正するにあたっては、上記のような遠心移動だけでなく、臼歯等を傾ける(回転させる)ように移動させたいことがある。
【0006】
このような点に鑑み、本発明では、臼歯等を傾けるように移動させることが可能な歯移動器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上顎の臼歯又は犬歯を移動させるための歯移動器具であって、口蓋側の顎骨に埋め込まれるように構成された埋入部材、又は移動させる前記臼歯若しくは前記犬歯を除いた前記臼歯若しくは前記犬歯の少なくとも一部に取り付けられるように構成された固定部と、口蓋側の歯列に沿って延在し、前記固定部に連結する第一軌道部と、前記第一軌道部にスライド可能に支持されるスライド部と、前記第一軌道部が延在する向きに沿って延在し、かつ前記第一軌道部より正中線側又は歯列側に配置され、前記スライド部及び前記固定部の何れか一方に連結するとともに当該スライド部及び当該固定部の何れか他方にスライド可能に支持される第二軌道部と、弾性変形可能であって、移動させる前記臼歯又は前記犬歯に取り付けられるように構成された保持部材と前記スライド部とを連結する連結部と、を備える歯移動器具である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る歯移動器具は、移動させる臼歯等に取り付けられるように構成された保持部材とスライド部とは弾性変形可能な連結部で連結しているため、この臼歯等に対して弾性力を付与することができる。そしてスライド部は、第一軌道部と第二軌道部の2本の軌道部で支持されているため、第一軌道部が延在する向きを中心とするスライド部の回転が規制されている。すなわち本発明に係る歯移動器具によれば、臼歯等に対して、特に第一軌道部が延在する向きを中心に回転するような弾性力を効果的に付与することができるため、臼歯等を傾けるように移動させることができる。またスライド部は、第一軌道部に対してスライド可能であるため、例えば特許文献1、2の如き弾性部を用いてこの弾性部の弾性力をスライド部に付与することにより、臼歯等を遠心移動させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る歯移動器具の一実施形態を概略的に示した図である。
【
図2】
図1における第一軌道部、スライド部、及び第二軌道部の近傍を示した図である。
【
図3】
図1、
図2に示した歯移動器具の変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る歯移動器具の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明における各部材の素材や形状、構成、製造に関する工法等は一例に過ぎず、本発明と同様の効果が得られるものに適宜変更可能である。すなわち、例えば、以下の説明において金属製であるとしたものを他の素材(合成樹脂等)に変更しても、本発明に含まれる。
【0011】
図1は、本実施形態の歯移動器具1を患者の上顎に取り付けた状態で示した図であって、上顎の口蓋に向かって正対した視点で示している。
図1において符合を付した歯は、上顎右側中切歯UR1、上顎右側側切歯UR2、上顎右側犬歯UR3、上顎右側第一小臼歯UR4、上顎右側第二小臼歯UR5、上顎右側第一大臼歯UR6、上顎右側第二大臼歯UR7、上顎左側中切歯UL1、上顎左側側切歯UL2、上顎左側犬歯UL3、上顎左側第一小臼歯UL4、上顎左側第二小臼歯UL5、上顎左側第一大臼歯UL6、及び上顎左側第二大臼歯UL7である。
【0012】
本実施形態の歯移動器具1を説明するにあたり、まず保持部材(右側保持部材51R、左側保持部材51L)とアンカースクリュー(本明細書等における「埋入部材」に相当)について説明する。
【0013】
右側保持部材51Rと左側保持部材51Lは、移動させる上顎の臼歯(第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯)や犬歯に取り付けられるものである。本実施形態の右側保持部材51Rは、上顎右側第一大臼歯UR6の周囲を取り囲むように形作られ、上顎右側第一大臼歯UR6に被せることによってこれに取り付けられるバンド状部分52と、バンド状部分52の側部に設けられ、後述する右側連結部12Rが挿入されてこれを保持する挿入部分53とを備えている。本実施形態のバンド状部分52と挿入部分53は、ともに金属製である。なお、バンド状部分52と挿入部分53を連結するにあたっては、例えば両者を溶接してもよいし、カシメによって連結させてもよい。また3Dプリンタ等を利用して両者を一体的に造形してもよい。なお、3Dプリンタの造形方式は、以下での説明も含めて特段限定されるものではなく、例えば粉末焼結積層造形方式(レーザー・シンタリング)でもよいし、光造形方式でもよいし、インクジェット方式でもよい。
【0014】
そして左側保持部材51Lは、上記のようなバンド状部分52と挿入部分53を有していて、
図1に示すように上顎左側第一大臼歯UL6に取り付けられる。
【0015】
アンカースクリューは、口蓋側の顎骨に埋め込まれる部材である。
図1においてアンカースクリューは、口蓋の正中前方部に埋入されて不図示であるが、例えば特許文献1の
図2において符合53を付して示した部材と同様に、概略雄ねじ状に形成されている。なお、アンカースクリューの頭部には雌ねじ部が設けられていて、この雌ねじ部には、
図1に示した低頭の固定ねじ54が取り付けられる。また本実施形態のアンカースクリューは、合計2本使用されているが、これに限らず、1本でもよいし3本以上でもよい。
【0016】
次に本実施形態の歯移動器具1について説明する。本実施形態の歯移動器具1は、固定ねじ54を締め付けることによってアンカースクリューに拘束される固定部3を備えている。本実施形態の固定部3は、金属製のプレートによって形成されるものであって、近心側には、埋設された2本のアンカースクリューに対応する位置に不図示の孔が2つ設けられ、遠心側は二股に分かれている。固定部3は、近心側の2つの孔に固定ねじ54を挿通させてアンカースクリューに対して締め付けることによって口蓋に取り付けられる。
【0017】
本実施形態の固定部3は、
図1に示すように支持部4を備えている。支持部4は、本実施形態では横断面形状が円形の穴になる金属製の円筒状パイプを所定の長さに切断したものであって、遠心側の二股に分かれた一方に対して溶接することによって固定部3に一体化されている。支持部4として使用するパイプは、特段種類を問わず採用可能であって、例えば横断面形状が多角形状や楕円状になる穴を持つものでもよく、シースと呼ばれる横断面四角形状のアタッチメントを用いてもよい。また、例えば3Dプリンタによって固定部3と支持部4を当初から一体的に形成してもよい。
【0018】
また歯移動器具1は、棒状をなし口蓋側の歯列に沿って延在し、近心側端部5と遠心側端部6を有する一対の第一軌道部を備えている。ここで、上顎右側犬歯UR3、上顎右側第一小臼歯UR4、上顎右側第二小臼歯UR5、上顎右側第一大臼歯UR6、及び上顎右側第二大臼歯UR7の近傍に位置し、これらの歯列に沿って延在するものを右側第一軌道部7Rと称し、上顎左側犬歯UL3、上顎左側第一小臼歯UL4、上顎左側第二小臼歯UL5、上顎左側第一大臼歯UL6、及び上顎左側第二大臼歯UL7の近傍に位置し、これらの歯列に沿って延在するものを左側第一軌道部7Lと称する。なお説明の便宜上、
図2に示すように右側第一軌道部7Rが延在する向きをX方向とする。またX方向を含む平面内でこれに直交する向きをY方向とし、X方向とY方向に直交する向きをZ方向とする。また、X方向を中心としてこれを周回する向きをα方向とし、Y方向を中心としてこれを周回する向きをβ方向とし、Z方向を中心としてこれを周回する向きをγ方向とする。なお、
図2では、上記の6つ方向を片矢印で示しているが、各方向は、矢印の向きの方向だけでなく、矢印に逆向きの方向を含む。
図1に示すように本実施形態の右側第一軌道部7Rと左側第一軌道部7Lは、二股に分かれた固定部3の左右の端部に対してそれぞれの遠心側端部6が連結している。本実施形態の右側第一軌道部7Rと左側第一軌道部7Lは、ともに横断面形状が円形になる金属製のワイヤによって形成されるものであり、これを固定部3に溶接することによって固定部3と一体化している。右側第一軌道部7R等として使用するワイヤは、特段種類を問わず採用可能であって、例えば横断面形状が多角形状や楕円状になるものでもよい。また中実状になるものに限られず、中空状になるものを採用してもよい。なお本実施形態の右側第一軌道部7Rと左側第一軌道部7Lは、横断面形状が同一であるが、相違していてもよい。また、例えば3Dプリンタによって固定部3と右側第一軌道部7R等を当初から一体的に形成してもよい。
【0019】
更に歯移動器具1は、右側第一軌道部7Rに挿入される右側スライド部8Rを備えている。本実施形態の右側スライド部8Rは、金属製であって円筒状をなしていて、右側第一軌道部7Rに対してスライド可能に支持されている。
【0020】
歯移動器具1は、
図1に示すように左側第一軌道部7Lに挿入される左側スライド部8Lも備えている。
【0021】
また歯移動器具1は、右側第一軌道部7Rが延在する向きに沿って延在する第二軌道部9を備えている。本実施形態の第二軌道部9は、横断面形状が右側第一軌道部7R等と同一の円形状になる金属製のワイヤによって形成されるものである。第二軌道部9は、本実施形態では右側スライド部8Rに溶接することによって右側スライド部8Rに連結している。第二軌道部9は、支持部4に挿入されるものであり、これにより第二軌道部9は、支持部4にスライド可能に支持されている。なお第二軌道部9は、支持部4にスライド可能に支持されていればよく、横断面形状は右側第一軌道部7Rと相違していてもよい。なお、第二軌道部9は、支持部4にスライド可能に支持されるものであるが、必要に応じて支持部4に固定できるものであってもよい。
【0022】
更に歯移動器具1は、右側ストッパー部10Rを備えている。本実施形態の右側ストッパー部10Rは金属製であって、右側スライド部8Rの近心側で右側第一軌道部7Rに取り付けられ、右側スライド部8Rの近心側への抜け出しを阻止している。右側ストッパー部10Rは、右側第一軌道部7Rに対してスライド可能であるが、右側ストッパー部10Rに設けられているねじ11を締め込むと、ねじ11の先端部が右側第一軌道部7Rに接触して右側第一軌道部7Rに対してスライド不能となる。
【0023】
歯移動器具1は、左側第一軌道部7Lに取り付けられる左側ストッパー部10Lも備えている。なお左側ストッパー部10Lは、右側ストッパー部10Rと同様の構成になるものである。
【0024】
また歯移動器具1は、弾性変形可能であって、一端部が右側スライド部8Rに連結し、他端部が右側保持部材51Rの挿入部分53に挿入される右側連結部12Rを備えている。本実施形態の右側連結部12Rは、金属製のワイヤにより形成されていて、一端部は右側スライド部8Rに溶接されていて、他端部は挿入部分53に挿入することによって右側保持部材51Rに一体的に保持されている。なお、右側スライド部8Rに挿入部分53の如きものを設け、右側スライド部8Rに溶接されているとした右側連結部12Rの一端部が右側スライド部8Rに着脱可能で且つ一体的に保持されるようにしてもよい。後述するように本実施形態の右側連結部12Rは、
図2に示す状態において、右側保持部材51Rに対してα方向への弾性力が付与されるように構成されている。
【0025】
更に歯移動器具1は、一端部が左側スライド部8Lに連結し、他端部が左側保持部材51Lの挿入部分53に挿入される左側連結部12Lを備えている。左側連結部12Lは、基本的には右側連結部12Rに対して左右対称形状になるように形作られている。なお本実施形態の歯移動器具1は、上述した第二軌道部9を用いるとともに右側連結部12Rを弾性変形可能とすることによって、後述するように上顎右側第一大臼歯UR6を傾ける(回転させる)ように移動させることが可能である。一方、本実施形態の歯移動器具1は、上顎左側第一大臼歯UL6については、後述するコイルスプリング13によって主に遠心移動させるように構成されていて、左側連結部12Lの弾性力は上顎左側第一大臼歯UL6の移動に大きく寄与するものではない。このため左側連結部12Lは、殆ど弾性変形しないものでもよい。
【0026】
更に歯移動器具1は、左側第一軌道部7Lに取り付けられるコイルスプリング13を備えている。コイルスプリング13は圧縮ばねであって、左側第一軌道部7Lに挿入され、左側第一軌道部7Lに取り付けられた左側ストッパー部10Lと左側スライド部8Lの間に押し縮められた状態で取り付けられている。
【0027】
このような構成になる歯移動器具1は、上述した固定ねじ54をアンカースクリューに対して締め付けることによって固定部3を患者の上顎に取り付けることができる。ここで右側スライド部8Rは、右側ストッパー部10Rのねじ11を緩めた状態で右側第一軌道部7Rに対してスライド可能であって、また右側スライド部8Rに連結する第二軌道部9は支持部4に対してスライド可能であるため、上顎右側第一大臼歯UR6に取り付けた右側保持部材51Rの挿入部分53に右側連結部12Rを挿入して右側保持部材51Rと右側スライド部8Rとを連結することができる。また左側スライド部8Lは、図示した状態、或いは必要に応じて左側ストッパー部10Lを近心側に移動させた状態で左側第一軌道部7Lに対してスライド可能であるため、上顎左側第一大臼歯UL6に取り付けた左側保持部材51Lの挿入部分53に左側連結部12Lを挿入して左側保持部材51Lと左側スライド部8Lとを連結することができる。
【0028】
このようにして歯移動器具1を患者の上顎に取り付けた際、右側スライド部8Rは、右側第一軌道部7Rに挿入されてこれに支持され、第二軌道部9は支持部4に挿入されてこれに支持されるため、
図2に示したα方向の回転が規制された状態にある。また上述したように本実施形態の右側連結部12Rは、
図2に示す状態において、右側保持部材51Rに対してα方向への弾性力が付与するように構成されている。すなわち上顎右側第一大臼歯UR6には、右側保持部材51Rを介してα方向への弾性力が作用するため、上顎右側第一大臼歯UR6をα方向へ傾ける(回転させる)ように移動させることができる。
【0029】
ところで特許文献1、2の歯移動器具においても、例えば軌道部の横断面形状を多角形状とし、スライド部もこれに対応する多角筒状とすることによって、軌道部に対してスライド部の回転を規制することが可能であるが、軌道部に対するスライド部の取り付け性や、取り付け後のスライド部の摺動性を考慮すると、軌道部の外形の大きさに対してスライド部の穴の大きさを若干大きくする必要があり、これによりスライド部の回転を十分に規制することが難しくなる。すなわち特許文献1、2の歯移動器具において、右側連結部12Rの如き弾性変形可能なものを採用したとしても、臼歯等をα方向へ傾ける効果を十分に発揮させることは難しい。一方、本実施形態の歯移動器具1によれば、右側第一軌道部7Rと第二軌道部9の横断面形状は円形であってもよく、また右側第一軌道部7Rに対する右側スライド部8Rの取り付け性等を考慮して、右側スライド部8Rの内径を右側第一軌道部7Rの外径よりも若干大きくし、また支持部4の内径を第二軌道部9の外径よりも若干大きくしても、2本の軌道部でもって右側スライド部8Rのα方向の回転を十分に規制することができるため、上顎右側第一大臼歯UR6をα方向へ傾ける効果が十分に発揮される。
【0030】
本実施形態の歯移動器具1において、右側保持部材51Rに付与される右側連結部12Rでの弾性力は、α方向だけでなく、β方向やγ方向に付与できるように構成することが可能である。すなわち歯移動器具1によれば、上顎右側第一大臼歯UR6をβ方向やγ方向にも傾ける(回転させる)ことも可能である。また右側連結部12Rは、右側保持部材51Rに対してY方向やZ方向に弾性力が付与できるように構成することも可能である。更に、右側スライド部8Rが右側第一軌道部7Rに対してスライド不能になるように構成すれば(例えば、右側スライド部8Rの近心側と遠心側に右側ストッパー部10Rを設ける)、右側スライド部8RのX方向への移動が阻止される。すなわちこの状態で右側連結部12Rが右側保持部材51Rに対してX方向に弾性力を付与できるように構成することにより、上顎右側第一大臼歯UR6にX方向への力を作用させることができる。従って歯移動器具1は、上顎右側第一大臼歯UR6を、X方向、Y方向、Z方向にも、更にはこれら3つの方向が組み合わされた方向や、上述したα方向、β方向、γ方向を含めた6つの方向が組み合わされた方向にも移動させることが可能である。特に本実施形態の右側スライド部8Rは、右側第一軌道部7Rと第二軌道部9の両方で支持されていて、特許文献1、2に示された1本の軌道部で支持されるスライド部に比して右側第一軌道部7Rに対する傾きを抑制することが可能であるため、α方向以外の方向についても、上顎右側第一大臼歯UR6を十分に移動させることができる。
【0031】
そして左側スライド部8Lは、コイルスプリング13によって遠心側に向けて付勢されているため、その弾性力は、左側保持部材51Lを介して上顎左側第一大臼歯UL6に作用する。従って上顎左側第一大臼歯UL6を、左側第一軌道部7Lに沿って遠心移動させることができる。
【0032】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば上述した実施形態の構成は、適宜追加、削除が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0033】
例えば上述した歯移動器具1において、支持部4は固定部3に連結し、第二軌道部9は右側スライド部8Rに連結していたが、
図3に示すように、第二軌道部9を固定部3に連結させ、支持部4を第二軌道部9に連結させてもよい。
図1において、第二軌道部9は、右側第一軌道部7Rより正中線側に(歯列/右側第一軌道部7R/第二軌道部9の順に)配置されているが、右側第一軌道部7Rより歯列側に(歯列/第二軌道部9/右側第一軌道部7Rの順に)配置されていてもよい。
【0034】
また固定部3は、上述したアンカースクリューによって患者の上顎に取り付けられるように構成されたものに限られず、例えば移動させる臼歯や犬歯を除いた臼歯や犬歯に対して右側保持部材51Rや左側保持部材51Lに準じたものを装着し、これと固定部3とを連結させるように構成したものでもよい。
【0035】
また上述した右側ストッパー部10Rと右側スライド部8Rの間にコイルスプリング13を設けることにより、上顎右側第一大臼歯UR6をα方向に傾けながらこれを遠心移動させることも可能である。なお上述した実施形態において、第二軌道部9は右側第一軌道部7Rが延在する向きに沿って延在する1本だけであったが、左側第一軌道部7Lに沿って延在する第二軌道部9とこの第二軌道部9を支持する支持部4を追加して、上顎左側第一大臼歯UL6もα方向へ傾けるように移動させてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1:歯移動器具
3:固定部
7R:右側第一軌道部
8R:右側スライド部
9:第二軌道部
12R:右側連結部
51R:右側保持部材
【要約】
【課題】臼歯等を傾けるように移動させることが可能な歯移動器具を提供する。
【解決手段】歯移動器具1は、口蓋側の顎骨に埋め込まれるように構成された埋入部材、又は移動させる臼歯若しくは犬歯を除いた臼歯若しくは犬歯の少なくとも一部に取り付けられるように構成された固定部3と、口蓋側の歯列に沿って延在し、固定部3に連結する第一軌道部7Rと、第一軌道部7Rにスライド可能に支持されるスライド部8Rと、第一軌道部7Rが延在する向きに沿って延在し、スライド部8R及び固定部3の何れか一方に連結するとともにスライド部8R及び固定部3の何れか他方にスライド可能に支持される第二軌道部9と、弾性変形可能であって、移動させる臼歯又は犬歯に取り付けられるように構成された保持部材51Rとスライド部8Rとを連結する連結部12Rと、を備える。
【選択図】
図1