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特許7348709包装体、金属部材の保存または運搬方法、および金属/樹脂複合構造体の製造方法
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  • 特許-包装体、金属部材の保存または運搬方法、および金属/樹脂複合構造体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】包装体、金属部材の保存または運搬方法、および金属/樹脂複合構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 81/22 20060101AFI20230913BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230913BHJP
   C23C 22/66 20060101ALI20230913BHJP
   C23C 22/68 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
B65D81/22
B32B15/08 A
C23C22/66
C23C22/68
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017084821
(22)【出願日】2017-04-21
(65)【公開番号】P2018177360
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-01-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】奥村 浩士
(72)【発明者】
【氏名】富田 嘉彦
【合議体】
【審判長】一ノ瀬 覚
【審判官】稲葉 大紀
【審判官】西本 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-176272(JP,A)
【文献】国際公開第2010/140384(WO,A1)
【文献】特開2010-52751(JP,A)
【文献】特開昭60-228264(JP,A)
【文献】特開2011-240620(JP,A)
【文献】特開2010-284899(JP,A)
【文献】特開2014-128939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/22-81/26
B32B 15/08
C23C 22/66-22/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材と、前記金属部材を包装する包装袋と、を備え、前記金属部材を保存または運搬するために用いられる包装体であって、
23℃における前記包装体内部の容積絶対湿度が1g/m以上16g/m以下である包装体であって、
前記金属部材の前記微細凹凸形状の間隔周期が5nm以上10μm以下であり、
前記金属部材は前記微細凹凸形状の表面に酸素含有被膜を有し、
前記金属部材がアルミニウム系金属を含み、
前記酸素含有被膜がAl(OH)およびAlO(OH)から選択される少なくとも一種のアルミニウム化合物を含む包装体。
【請求項2】
請求項1に記載の包装体において、
前記包装袋がポリオレフィン系樹脂を含む包装体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の包装体において、
JIS Z0208に準拠して、温度40℃、相対湿度90%RHの条件で測定される前記包装袋の水蒸気透過率が3g/(24hr・m)以下である包装体。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の包装体において、
前記包装体内にさらに調湿剤を含む包装体。
【請求項5】
請求項に記載の包装体において、
前記調湿剤がシリカゲル、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムから選択される一種または二種以上を含む包装体。
【請求項6】
表面の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材を保存または運搬するための保存または運搬方法であって、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の包装体を準備する工程と、
前記包装体を保存または運搬する工程と、
を含む金属部材の保存または運搬方法。
【請求項7】
金属部材と、前記金属部材に接合された樹脂部材とを備える金属/樹脂複合構造体を製造するための製造方法であって、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の包装体を準備する工程と、
前記包装体から、表面の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する前記金属部材を取り出し、次いで、取り出した前記金属部材に前記樹脂部材を接合させる工程と、
を含む金属/樹脂複合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装体、金属部材の保存または運搬方法、および金属/樹脂複合構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種部品の軽量化の観点から、金属部品の代替品として樹脂部品が使用されている。しかし、全ての金属部品を樹脂部品で代替することは難しい場合も多い。そのため、金属と樹脂とを接合一体化する技術開発がおこなわれている。金属と樹脂を接合一体化する技術として、例えば、金属部材の表面に微細凹凸形状を形成させた後に、樹脂部材を金属部材の微細凹凸形状を含む面に接合させる方法が知られている。
【0003】
金属部材の表面に微細凹凸形状を形成する方法として、例えば、薬液エッチング法、陽極酸化法、レーザー加工法等が知られている。これらの中でも、薬液エッチング法は金属部材を薬液槽に浸漬するだけで効率よくエッチング処理できることから、経済性に優れている。薬液エッチング法としては、ヒドラジン等の水溶性還元剤を用いる方法(例えば、特許文献1)、酸系エッチング剤を用いる方法(例えば、特許文献2)、アルカリ系エッチング剤を用いる方法(例えば、特許文献3)、温水を用いる方法(特許文献4)等の様々な方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-216425号公報
【文献】国際公開第2015/008847号
【文献】特開2013-52671号公報
【文献】特開2008-162115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、例えば、表面に微細凹凸形状を有する金属部材は長期保存性に劣る場合があることが明らかになった。すなわち、表面に微細凹凸形状を有する金属部材を一般的な環境条件下で保管した場合、保管期間が長くなるにつれて、保管後の金属部材と樹脂部材との金属/樹脂複合構造体の接合強度が低下してしまう場合があることが明らかになった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、表面に微細凹凸形状を有する金属部材の保存または運搬中における金属部材の樹脂部材との接合力の低下を抑制することが可能な金属部材の保存用または運搬用の包装体、および金属部材の保存または運搬方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、表面に微細凹凸形状を有する金属部材の保存または運搬中における金属部材の樹脂部材との接合力の低下を抑制する方法について鋭意検討した。その結果、表面の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材を包装袋内に包装し、さらに包装袋内の容積絶対湿度を特定の範囲に調整することにより、表面に微細凹凸形状を有する金属部材の保存または運搬中における金属部材の樹脂部材との接合力の低下を抑制することができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
本発明によれば、以下に示す包装体、金属部材の保存または運搬方法、および金属/樹脂複合構造体の製造方法が提供される。
【0009】
[1]
表面の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材と、前記金属部材を包装する包装袋と、を備え、前記金属部材を保存または運搬するために用いられる包装体であって、
23℃における前記包装体内部の容積絶対湿度が1g/m以上16g/m以下である包装体であって、
前記金属部材の前記微細凹凸形状の間隔周期が5nm以上10μm以下であり、
前記金属部材は前記微細凹凸形状の表面に酸素含有被膜を有し、
前記金属部材がアルミニウム系金属を含み、
前記酸素含有被膜がAl(OH)およびAlO(OH)から選択される少なくとも一種のアルミニウム化合物を含む包装体。
[2]
[1]に記載の包装体において、
前記包装袋がポリオレフィン系樹脂を含む包装体。
[3]
[1]または[2]に記載の包装体において、
JIS Z0208に準拠して、温度40℃、相対湿度90%RHの条件で測定される前記包装袋の水蒸気透過率が3g/(24hr・m)以下である包装体。
[4]
[1]乃至[]のいずれか一つに記載の包装体において、
前記包装体内にさらに調湿剤を含む包装体。
[5]
]に記載の包装体において、
前記調湿剤がシリカゲル、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムから選択される一種または二種以上を含む包装体。
[6]
表面の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材を保存または運搬するための保存または運搬方法であって、
[1]乃至[]のいずれか一つに記載の包装体を準備する工程と、
前記包装体を保存または運搬する工程と、
を含む金属部材の保存または運搬方法。
[7]
金属部材と、前記金属部材に接合された樹脂部材とを備える金属/樹脂複合構造体を製造するための製造方法であって、
[1]乃至[]のいずれか一項に記載の包装体を準備する工程と、
前記包装体から、表面の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する前記金属部材を取り出し、次いで、取り出した前記金属部材に前記樹脂部材を接合させる工程と、
を含む金属/樹脂複合構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面に微細凹凸形状を有する金属部材の保存または運搬中における金属部材の樹脂部材との接合力の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る実施形態の金属/樹脂複合構造体の構造の一例を模式的に示した外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。文中の数字範囲を示す「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0013】
図1は、本発明に係る実施形態の金属/樹脂複合構造体106の構造の一例を模式的に示した外観図である。
本実施形態に係る包装体は、表面110の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材103と、金属部材103を包装する包装袋と、を備え、金属部材103を保存または運搬するために用いられる包装体であって、23℃における上記包装体内部の容積絶対湿度が1g/m以上19g/m以下である。
また、本実施形態に係る金属部材103の保存または運搬方法は、上記包装体を準備する工程と、上記包装体を保存または運搬する工程と、を含む。すなわち、金属部材103を上記包装体の形態で保存または運搬する。
また、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106の製造方法は、金属部材103と、金属部材103に接合された樹脂部材105とを備える金属/樹脂複合構造体106を製造するための製造方法であって、本実施形態に係る包装体を準備する工程と、上記包装体から、表面110の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材103を取り出し、次いで、取り出した金属部材103に樹脂部材105を接合させる工程と、を含む。
【0014】
1.表面の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材
以下、本実施形態に係る表面110の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材103(以下の説明では、金属部材103と略称する場合がある。)について説明する。
金属部材103は、例えば、金属を任意の形状に加工した後に表面粗化し、表面110の少なくとも一部に微細凹凸形状を形成することによって得られる。なお、任意の形状に加工する工程は表面粗化終了後であってもよい。
【0015】
金属部材103を構成する金属の種類は特に制限されないが、例えば、アルミニウム系金属(アルミニウム、アルミニウム合金等)、鉄系金属(鉄、鉄合金、鉄鋼材、ステンレス鋼等)、マグネシウム系金属(マグネシウム、マグネシウム合金等)、銅系金属(銅、銅合金等)、チタン系金属(チタン、チタン合金)等を挙げることができる。これらの金属は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。上記金属は用途に応じて最適の金属が選択される。
これらの中でも、軽量かつ高強度の点から、アルミニウム系金属が好ましい。
【0016】
アルミニウム系金属としては、例えば、アルミニウム(アルミニウム単体)およびアルミニウム合金等が挙げられ、アルミニウム合金が好ましい。アルミニウム合金としては特に限定されないが、例えば、JIS H4000に規定された1000番系、2000番系、3000番系、5000番系、6000番系、7000番系アルミニウム合金等が挙げられ、より具体的には合金番号1050、1100、2014、2024、3003、5052、6061、6063、7075等のアルミニウム合金が挙げられる。これらのアルミニウム合金は、得られる金属/樹脂複合構造体の用途に応じて適宜選択される。
【0017】
金属部材103の形状は、樹脂部材105と接合できる形状であれば特に限定されず、例えば、平板状、曲板状、棒状、筒状、塊状等とすることができる。また、これらの組み合わせからなる構造体であってもよい。これらの形状は、例えば、金属を切断、プレス等による塑性加工、打ち抜き加工、切削、研磨、放電加工等の除肉加工によって形成される。
また、樹脂部材105が接合する金属部材103の接合部表面104および周辺の形状は、特に限定されないが、平面、曲面等が挙げられる。
【0018】
本実施形態に係る金属部材103は、表面110の少なくとも一部に微細凹凸形状を有するが、樹脂部材105と接する部位(接合部表面104とも呼ぶ。)に微細凹凸形状を有することが好ましい。
本実施形態に係る金属部材103の表面110に存在する微細凹凸形状の間隔周期は、好ましくは5nm以上10μm以下である。本実施形態における間隔周期とは、後述する酸素含有被膜を金属部材の表面に含む場合は、上記酸素含有被膜を含めて形成された微細凹凸形状の間隔周期を示す。
このような間隔周期を満たすことによって、本実施形態に係る樹脂部材105を構成する樹脂が、金属部材103表面の上記微細凹凸形状により入り込みやすくなるため、金属部材103と樹脂部材105との接合強度をより向上させることができる。
上記間隔周期が上記下限値以上であると、上記微細凹凸形状の凹部に樹脂部材105が十分に進入することができ、その結果、金属部材103と樹脂部材105との接合強度をより向上させることができる。また、上記間隔周期が上記上限値以下であると、得られる金属/樹脂複合構造体106の金属―樹脂界面に隙間が生じるのをより抑制できる。その結果、金属―樹脂界面の隙間から水分等の不純物が浸入することを抑制できるため、金属/樹脂複合構造体106を高温、高湿下で用いた際、強度が低下することをより抑制できる。
【0019】
本実施形態に係る金属部材103としては、具体的には、少なくとも樹脂部材105の接合部表面104に間隔周期が5nm以上500nm未満の微細凹凸形状が観測される表面処理金属部材(m1);金属部材103の表面110に間隔周期が500nm未満の超微細凹凸形状が観測されず、かつ、間隔周期が0.5μm以上10μm以下の微細凹凸形状が観測される表面処理金属部材(m2)等を挙げることができる。
【0020】
本実施形態に係る金属部材103において、上記間隔周期は5nm以上10μm以下であることが好ましく、5nm以上5μm以下であることがより好ましく、5nm以上1μm以下であることがさらに好ましく、5nm以上500nm以下であることが特に好ましい。
間隔周期が上記範囲内であると、金属部材103を高湿度条件下、裸状態(包装袋無し)で保管した場合、樹脂部材105との接合力の低下が特に起こり易い。そのため、微細凹凸形状の間隔周期が上記範囲内である金属部材103を本実施形態に係る包装体の形態で保管または運搬する場合、金属部材103の樹脂部材105との接合力の低下を抑制する効果をより効果的に得ることができる。
すなわち、本実施形態において、金属部材103の樹脂部材105との接合力の低下を抑制する効果は、金属部材103の微細凹凸形状の間隔周期が5nm以上500nm以下のときに特に効果的に得ることができる。
【0021】
ここで、微細凹凸形状の間隔周期は凸部から隣接する凸部までの距離の平均値であり、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡で撮影した写真、あるいは表面粗さ測定装置を用いて求めることができる。
具体的には、間隔周期が500nm未満の微細凹凸形状については電子顕微鏡により測定することができ、間隔周期が500nmを超える微細凹凸形状についてはレーザー顕微鏡または表面粗さ測定装置を用いて測定することができる。なお、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡で撮影した写真から間隔周期を求める場合は、具体的には、金属部材103の表面110および/又は接合部表面104を撮影する。その写真から、任意の凸部を50個選択し、それらの凸部から隣接する凸部までの距離をそれぞれ測定する。凸部から隣接する凸部までの距離の全てを積算して50で除したものを間隔周期とする。
【0022】
金属部材の表面に上記微細凹凸形状を形成する方法としては、例えば、特開2001-348684号に開示されているような、無機酸、第二鉄イオン、第二銅イオンおよびマンガンイオンを含む水溶液によってエッチングする置換晶析法;国際公開第2009/31632号に開示されているような、水和ヒドラジン、アンモニア、および水溶性アミン化合物から選ばれる1種以上の水溶液に金属部材を浸漬する方法(以下、NMT法と呼ぶ場合がある)、特開2008-162115号公報に開示されているような温水を用いる方法(以下、ベーマイト法と呼ぶ場合がある)等が挙げられる。金属部材の表面に上記微細凹凸形状を形成する方法は特に限定されないが、好ましくはNMT法またはベーマイト法である。
【0023】
間隔周期が5nm以上10μm以下の範囲にある微細凹凸形状を有する金属部材103を、本実施形態に係る包装体の形態で保管した場合に、金属部材103の樹脂部材105との接合力の低下を抑制する効果をより効果的に得ることができる理由については明らかではない。しかし、本発明者らは、高湿度環境条件下に微細凹凸形状を有する金属部材を放置した場合、環境中の水分子が微細凹凸形状に吸着し、ベーマイト等の酸素含有金属被膜と水分子との間で何らかの化学反応が起きることによって、微細凹凸形状の孔形状が部分的に平坦形状に変化してしまう、あるいは酸素含有金属被膜と金属基材(素地)との間の結合強度が弱まってしまうからだと推察している。この推察は包装袋の中に除湿剤を共存させ、低湿度環境にすると接合強度の低下がより一層抑制できる現象とも上手く整合している。
【0024】
本実施形態に係る金属部材103は、微細凹凸形状の表面に酸素含有被膜を有することが好ましい。酸素含有被膜は、例えば、金属部材103を構成する金属元素と酸素を含有する化合物の被膜である。
本実施形態に係る金属部材103を構成する金属がアルミニウム系金属の場合、酸素含有被膜としては、基材(素地)であるアルミニウム系金属との密着性が良好であれば特に制限されるものではないが、好ましくは酸素含有被膜がAl(OH)およびAlO(OH)から選択される少なくとも一種のアルミニウム化合物を含む被膜である。
微細凹凸形状の表面にAl(OH)およびAlO(OH)から選択される少なくとも一種のアルミニウム化合物を含む被膜が存在すると、金属部材103を高湿度条件下、裸状態(包装袋無し)で保管した場合、樹脂部材105との接合力の低下が特に起こり易い。そのため、微細凹凸形状の表面にAl(OH)およびAlO(OH)から選択される少なくとも一種のアルミニウム化合物を含む被膜を有する金属部材103を本実施形態に係る包装体の形態で保管または運搬する場合、金属部材103の樹脂部材105との接合力の低下を抑制する効果をより効果的に得ることができる。
酸素含有被膜層の厚みは特に限定されないが、例えば、10nm以上300nm以下である。なお、金属表面に形成される酸素含有被膜の存在は、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面プロファイル観察、オージェ電子分光による深さ方向分析等によって確認することができる。
【0025】
2.金属部材の保存用または運搬用の包装体
本実施形態に係る包装体は、表面110の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材103と、金属部材103を包装する包装袋と、を備え、金属部材103を保存または運搬するために用いられる包装体であって、23℃における上記包装体内部の容積絶対湿度が1g/m以上19g/m以下である。
また、本実施形態に係る金属部材103の保存または運搬方法は、上記包装体を準備する工程と、上記包装体を保存または運搬する工程と、を含む。すなわち、金属部材103を上記包装体の形態で保存または運搬する。
【0026】
金属部材103は、必要により所定のサイズと形状に再加工された後、包装袋で個別に包装または複数個をまとめて包装し、必要により密閉され、包装袋内部を所定の湿度に調整した包装体として保存または運搬される。包装体内部の湿度を1g/m以上19g/m以下に保つことによって、表面110に微細凹凸形状を有する金属部材103の保存または運搬中における金属部材103の樹脂部材105との接合力の低下を抑制することが可能となる。包装袋は、密閉性を確保する視点から、再封可能なジッパーシールが具備されていることが好ましい。該ジッパーは軽量性、シール性、リサイクル性等の視点から樹脂製が好ましく、またジッパー部には開閉を容易にするためのオープンタブが備えられてもよい。なおジッパーシールと同様な機能を持つシール方法、例えば、ヒートシールや、粘着テープで封止される機構であってもよい。
【0027】
本実施形態に係る包装袋は、包装体内部の湿度や包装体内部に含まれる水分量を好適な範囲に維持するために、高い水蒸気バリア性を有することが好ましい。このため、包装袋の水蒸気透過率は3g/(24hr・m)以下であることが好ましく、2g/(24hr・m)以下であることがより好ましく、1g/(24hr・m)未満であることが特に好ましい。水蒸気透過率は、例えば、包装袋の材質の変更や包装袋の厚みの変更等によって調整することができる。例えば、ポリエチレン系の包装袋である場合、高密度ポリエチレンにすること、あるいはフィルムの厚みを厚くすることによって水蒸気透過率を低くすることができる。なお、本実施形態において、水蒸気透過率とは、JIS Z0208に準拠して、温度40℃、相対湿度90%RHの条件で測定された値である。
【0028】
本実施形態に係る包装袋を構成するフィルムは、水蒸気バリア性が良好である点等から、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・α-オレフィン共重合体、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等のポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリイミド;エチレン酢酸ビニル共重合体もしくはその鹸化物;ポリビニルアルコール等の公知の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でもポリオレフィン系樹脂が好ましい。
本実施形態に係る包装袋を構成するフィルムに含まれるポリオレフィン系樹脂は、単独重合体であってもよいし、複数の共重合体成分の共重合体であってもよい。ポリオレフィン系樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリエチレン(高密度ポリエチレンおよび低密度ポリエチレンを含む)、ポリプロピレン、エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等が挙げられる。
本実施形態に係る包装袋の厚みは特に限定されないが、袋の強度、取り扱い性、および水蒸気バリア性等の観点から、例えば20μm以上200μm以下、好ましくは20μm以上150μm以下である。
【0029】
また、本実施形態に係る包装袋を構成するフィルムは、ガスバリア性および水蒸気バリア性を向上させる観点から、樹脂層と無機物層との積層構造になっていてもよい。
この場合、無機物層が腐食するのを防ぐため、無機物層の端部は樹脂層内に封入され、外部に露出していないことが好ましい。
無機物層を構成する無機物は、例えば、バリア性を有する薄膜を形成できる金属、金属酸化物、金属窒化物、金属弗化物、金属酸窒化物等が挙げられる。
無機物層を構成する無機物としては、例えば、バリア性やコスト等のバランスに優れていることから、酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、およびアルミニウムからなる群から選択される一種または二種以上の無機物が好ましい。
樹脂層としては、例えば、前述した熱可塑性樹脂を含む樹脂層が挙げられる。
【0030】
本実施形態に係る包装袋を構成するフィルムは、ヒートシール性を備えていてもよい。ヒートシール性を備える場合は、本実施形態に係る包装袋を構成するフィルムのヒートシール温度(溶融温度)は、保存または運搬中に溶融し難い点、およびヒートシールが容易である点から、80~160℃であることが好ましい。本実施形態に係る包装袋を構成するフィルムに含まれる熱可塑性樹脂としては、良好な水蒸気バリア性とヒートシール性とのバランスの観点から、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等がより好ましい。
【0031】
本実施形態に係る包装体内部の23℃における容積絶対湿度は1g/m以上19g/m以下であるが、3g/m以上18g/m以下であることがより好ましく、3g/m以上17g/m以下であることが特に好ましい。包装体内部の23℃における容積絶対湿度が上記範囲内であると、表面110に微細凹凸形状を有する金属部材103の保存または運搬中における金属部材103の樹脂部材105との接合力の低下を効果的に抑制することができる。
【0032】
包装体内部の容積絶対湿度を上記範囲内にする方法としては、例えば、23℃における容積絶対湿度が1g/m以上19g/m以下の範囲を満たす環境下で、金属部材103を、本実施形態に係る包装袋に装入し、次いで、包装袋の開口部を後述する方法でシールする方法が簡便であるため好ましい。
金属部材103を包装袋に装入する際の環境の23℃における容積絶対湿度が19g/mを超える場合は、後述する調湿剤を包装袋に封入することが好ましい。これにより、調湿剤に包装体内の余分な水分を吸収させることができるので、包装体内の23℃における容積絶対湿度を所望の範囲内すなわち1g/m以上19g/m以下の範囲に調整することができる。
【0033】
本実施形態に係る包装体内部の23℃における容積絶対湿度は、公知の方法によって測定することができる。水蒸気圧を飽和蒸気圧で除することによって得られる相対湿度値から、湿り空気線図を利用して絶対湿度に換算する方法や、絶対湿度計を用いる方法が例示できる。絶対湿度計を用いる場合は、例えばハンディデジタル温湿度計「TRH-CH」(神栄テクノロジー社製)を包装体内部に差し込むことによって、包装体内部の絶対湿度を測定することができる。
【0034】
本実施形態に係る包装体内に金属部材103とともに調湿剤を装入する場合、該調湿剤としては、例えば、シリカゲル、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。これらの調湿剤は一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記調湿剤は、包装体内部の湿度を好適な範囲に保つために、包装体内に入れる前に、予め所定の温度および湿度下で保持する等して、水分量を調整しておくことが好ましい。例えば、温度が好ましくは15~30℃、より好ましくは20~25℃、相対湿度が好ましくは10~45%RH、より好ましくは15~35%RHの条件下で、好ましくは24時間以上、より好ましくは48時間以上保持する等によって水分量が調整された調湿剤を使用することが好ましい。
また包装体内に入れる調湿剤の量は、包装体内部空間の大きさ、包装体に包装される金属部材の量に応じて適宜選択することができる。
【0036】
3.金属/樹脂複合構造体の製造方法
図1は、本発明に係る実施形態の金属/樹脂複合構造体106の構造の一例を模式的に示した外観図である。
本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106の製造方法は、金属部材103と、金属部材103に接合された樹脂部材105とを備える金属/樹脂複合構造体106を製造するための製造方法であって、本実施形態に係る包装体を準備する工程と、上記包装体から、表面110の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材103を取り出し、次いで、取り出した金属部材103に樹脂部材105を接合させる工程と、を含む。
【0037】
本実施形態に係る樹脂部材105は特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂組成物により構成される。熱可塑性樹脂組成物は、例えば、樹脂成分として熱可塑性樹脂(P)と、必要に応じて充填材(Q)と、を含む。さらに、熱可塑性樹脂組成物は必要に応じてその他の配合剤を含む。なお、便宜上、樹脂部材105が熱可塑性樹脂(P)のみからなる場合であっても、樹脂部材105は熱可塑性樹脂組成物により構成されると記載する。
【0038】
(熱可塑性樹脂(P))
熱可塑性樹脂(P)としては特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル樹脂等のポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等の芳香族ポリエーテルケトン、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アイオノマー、ABS、ACS、AES、AS、ASA、MBS、エチレン-塩化ビニルコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、エチレン-ビニルアルコールコポリマー、非晶性コポリエステル樹脂、ノルボルネン樹脂、フッ素プラスチック、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、変性ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリアセタール樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は一種単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0039】
(充填材(Q))
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、金属部材103と樹脂部材105との線膨張係数差の調整や樹脂部材105の機械的強度の向上、ヒートサイクル特性の向上等の観点から、充填材(Q)をさらに含んでもよい。
【0040】
充填材(Q)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維等の有機繊維、炭素粒子、粘土、タルク、シリカ、ミネラル、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、セルロース繊維等が挙げられる。これらの充填材は一種単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。これらのうち、好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、ミネラルから選択される一種または二種以上である。
【0041】
(その他の配合剤)
熱可塑性樹脂組成物は、個々の機能を付与する目的でその他の配合剤を含んでもよい。
上記配合剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃性改質剤等が挙げられる。
【0042】
(熱可塑性樹脂組成物の製造方法)
熱可塑性樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、一般的に公知の方法により製造することができる。例えば、以下の方法が挙げられる。まず、熱可塑性樹脂(P)と、必要に応じて充填材(Q)と、さらに必要に応じてその他の配合剤とを、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機等の混合装置を用いて、混合または溶融混合することにより、熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0043】
(金属部材に樹脂部材を接合させる工程)
つづいて、金属部材103に樹脂部材105を接合させる工程について説明する。
金属部材103に樹脂部材105を接合させる方法は特に限定されないが、例えば、金属部材103の微細凹凸形状を含む接合部表面104に、熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより、金属部材103に樹脂部材105を接合させることができる。
【0044】
本実施形態において、上記射出成形にあわせて、射出発泡成形や、金型を急速に加熱冷却する高速ヒートサイクル成形(RHCM、ヒート&クール成形)を併用してもよい。
射出発泡成形の方法として、化学発泡剤を樹脂に添加する方法や、射出成形機のシリンダー部に直接、窒素ガスや炭酸ガスを注入する方法、あるいは、窒素ガスや炭酸ガスを超臨界状態で射出成形機のシリンダー部に注入するMuCell射出発泡成形法があるが、いずれの方法でも樹脂部材105が発泡体である金属/樹脂複合構造体106を得ることができる。また、いずれの方法でも、金型の制御方法として、カウンタープレッシャーを使用したり、成形品の形状によってはコアバックを利用したりすることも可能である。
【0045】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 表面の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材と、前記金属部材を包装する包装袋と、を備え、前記金属部材を保存または運搬するために用いられる包装体であって、
23℃における前記包装体内部の容積絶対湿度が1g/m 以上19g/m 以下である包装体。
2. 1.に記載の包装体において、
前記金属部材の前記微細凹凸形状の間隔周期が5nm以上10μm以下である包装体。
3. 1.または2.に記載の包装体において、
前記金属部材がアルミニウム系金属、鉄系金属、マグネシウム系金属、銅系金属およびチタン系金属から選ばれる一種または二種以上の金属を含む包装体。
4. 1.乃至3.のいずれか一つに記載の包装体において、
前記金属部材は前記微細凹凸形状の表面に酸素含有被膜を有する包装体。
5. 4.に記載の包装体において、
前記金属部材がアルミニウム系金属を含み、
前記酸素含有被膜がAl(OH) およびAlO(OH)から選択される少なくとも一種のアルミニウム化合物を含む包装体。
6. 1.乃至5.のいずれか一つに記載の包装体において、
前記包装袋がポリオレフィン系樹脂を含む包装体。
7. 1.乃至6.のいずれか一つに記載の包装体において、
JIS Z0208に準拠して、温度40℃、相対湿度90%RHの条件で測定される前記包装袋の水蒸気透過率が3g/(24hr・m )以下である包装体。
8. 1.乃至7.のいずれか一つに記載の包装体において、
前記包装体内にさらに調湿剤を含む包装体。
9. 8.に記載の包装体において、
前記調湿剤がシリカゲル、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムから選択される一種または二種以上を含む包装体。
10. 表面の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する金属部材を保存または運搬するための保存または運搬方法であって、
1.乃至9.のいずれか一つに記載の包装体を準備する工程と、
前記包装体を保存または運搬する工程と、
を含む金属部材の保存または運搬方法。
11. 金属部材と、前記金属部材に接合された樹脂部材とを備える金属/樹脂複合構造体を製造するための製造方法であって、
1.乃至9.のいずれか一つに記載の包装体を準備する工程と、
前記包装体から、表面の少なくとも一部に微細凹凸形状を有する前記金属部材を取り出し、次いで、取り出した前記金属部材に前記樹脂部材を接合させる工程と、
を含む金属/樹脂複合構造体の製造方法。
【実施例
【0046】
以下、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。実施例・比較例における評価方法と射出成形法は以下の通りである。
【0047】
(接合強度の評価方法)
引張試験機「モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)」を使用し、引張試験機に専用の治具を取り付け、室温(23℃)にて、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件にて測定をおこなった。破断荷重(N)を金属/樹脂接合部分の面積で除することにより接合強度(MPa)を得た。
【0048】
(金属部材表面の微細凹凸形状の間隔周期の測定方法)
間隔周期はレーザー顕微鏡(KEYENCE社製VK-X100)または走査型電子顕微鏡(JEOL社製JSM-6701F)用いて測定した。なお、顕微鏡写真から間隔周期を求める場合は、具体的には、金属部材103の微細凹凸形状を含む表面を撮影する。得られた写真から、任意の凸部を50個選択し、それらの凸部から隣接する凸部までの距離をそれぞれ測定する。凸部から隣接する凸部までの距離の全てを積算して50で除したものを間隔周期とする。
【0049】
(射出成形法)
日本製鋼所社製の射出成形機JSW J55AD-30Hに小型ダンベル金属インサート金型を装着し、160℃に加熱した金型内に、後述する表面粗化アルミニウム系金属部材を設置した。次いで、その金型内に、樹脂組成物(P)としてポリブチレンテレフタレート樹脂(ポリプラスチック社製PBT樹脂;ジェラネックス930HL)を、シリンダー温度270℃、射出一次圧90MPa、保圧80MPa、金型温度170℃の条件にて射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体106を得た。得られた金属/樹脂複合構造体106を用いて引張試験を実施し、金属部材と樹脂部材との接合強度を測定した。
【0050】
次に、実施例および比較例で用いた、3種類の表面粗化アルミニウム系金属部材について説明する。
【0051】
〔調製例1〕(NMT法による金属部材αの調製)
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板(厚み:2.0mm)を、長さ45mm、幅18mmに切断した。このアルミニウム板に特開2005-119005号公報の実施例1に記載の処理をおこなった。具体的には、市販のアルミニウム脱脂剤「NE-6(メルテックス社製)」を15%濃度で水に溶かし75℃とした。この水溶液が入ったアルミニウム脱脂槽に上記アルミニウム板を5分間浸漬し水洗し、40℃の1%塩酸水溶液が入った槽に1分浸漬し水洗した。つづいて、40℃の1%水酸化ナトリウム水溶液が入った槽に1分浸漬し水洗した。次いで40℃の1%塩酸水溶液を入れた槽に1分浸漬し水洗し、60℃の2.5%濃度の1水和ヒドラジン水溶液を入れた第1ヒドラジン処理槽に1分浸漬し、40℃の0.5%濃度の1水和ヒドラジン水溶液を入れた第2ヒドラジン処理槽に0.5分浸漬し水洗した。これを40℃で15分間、60℃で5分程度温風乾燥させることにより、表面粗化アルミニウム系金属部材αを得た。
【0052】
得られた金属部材αの表面に形成された微細凹凸形状の間隔周期は、レーザー顕微鏡(KEYENCE社製VK-X100)にて測定したところ45nmであった。また、エッチング処理前後の金属部材の質量比から求めたエッチング率は0.3重量%であった。また、TEM断面解析によれば金属部材における微細凹凸形状の表面にベーマイト(AlO(OH))を主成分とする酸素含有被膜が形成されていることが確認された。結果を表1にまとめた。
【0053】
〔調製例2〕(ベーマイト法による金属部材βの調製)
JIS H4000に規定された合金番号6063のアルミニウム合金板(厚み:2.0mm)を、長さ45mm、幅18mmに切断した。このアルミニウム合金板を、60℃の市販アルミニウム合金用脱脂剤NE-6(メルテック株式会社製)の5質量%水溶液に5分浸漬した後、水洗した。次いで、40℃の1質量%塩酸水溶液槽への1分浸漬、水洗、40℃の1.5質量%苛性ソーダ水溶液槽への4分浸漬、水洗、40℃の硝酸水溶液への3分浸漬、水洗操作を順次実施することによって前処理を完了した。このようにして得られた前処理済みのアルミニウム合金板を、60℃に設定されたイオン交換水の槽に8分間浸漬することによって表面粗化処理を行った。これを40℃で15分間、60℃で5分程度温風乾燥させることにより、表面粗化アルミニウム系金属部材βを得た。
【0054】
得られた金属部材βの表面に形成された微細凹凸形状の間隔周期は、レーザー顕微鏡(KEYENCE社製VK-X100)にて測定したところ、70nmであった。また、エッチング率は0.2重量%であった。また、TEM断面解析によれば金属部材における微細凹凸形状の表面にベーマイト(AlO(OH))を主成分とする酸素含有被膜が形成されていることが確認された。結果を表1にまとめた。
【0055】
【表1】
【0056】
〔実施例1α〕
温風乾燥直後の金属部材αの5枚分を、チャック付きポリエチレン(生産日本社製、ユニパック(登録商標)L-4,チャック下×袋幅×厚み=480mm×340mm×0.04mm,水蒸気透過率は0.9g/(24hr・m))の袋内に、金属部材αが互いに重ならないように装入して樹脂製ジッパーでシールして包装体を得た。
装入直後の包装袋内の23℃における容積絶対湿度は16g/mであった。また、包装前の金属部材αの一枚について上記射出成形方法にしたがって金属/樹脂複合構造体を製造し、上記評価方法にしたがって接合強度を測定した。その結果、接合強度は27MPaであった。また試験後の破壊面は母材破壊であった。
次いで、得られた包装体を、温度40℃、相対湿度90%の恒温恒湿槽(容積絶対湿度として41g/mに相当)に4週間保管した。ここで、1週間保管後、2週間保管後、3週間保管後および4週間保管後に、金属部材αを一枚ずつ取り出して、室温(25℃)、相対湿度60%の環境下に約30分間静置した。次いで、前述の射出成形法で金属/樹脂複合構造体をそれぞれ製造し、当該金属/樹脂複合構造体の接合強度を上記評価方法にしたがってそれぞれ測定した。得られた結果を表2に示す。
なお、表2において、数値は接合強度の測定値(MPa)を示し、数値の後に示すアルファベット記号;Iは、接合強度試験後の破壊面が界面破壊であることを示し、記号;Mは母材破壊であることを示し、記号I/Mは界面破壊と母材破壊が混在していることを示す。
【0057】
〔実施例2α〕
包装体の内部に調湿剤であるシリカゲル(アズワン社製のシリカゲルAS0030の30g入りパック)を1パック装入した以外は実施例1αと同様にして保管試験を行い、接合強度を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0058】
〔比較例1α〕
包装袋を用いない(裸の状態)以外は実施例1αと同様にして保管試験を行い、接合強度を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0059】
〔実施例1β〕
金属部材αの代わりに金属部材βを用いた以外は実施例1αと同様にして保管試験を行い、接合強度を測定した。得られた結果を表2に示す。
なお、金属部材βを装入直後の包装袋内の23℃における容積絶対湿度は15g/mであった。また、包装前の金属部材βの一枚について上記射出成形方法にしたがって金属/樹脂複合構造体を製造し、上記評価方法にしたがって接合強度を測定した。その結果、接合強度は31MPaであった。また試験後の破壊面は界面破壊であった。
【0060】
〔実施例2β〕
包装体の内部に調湿剤であるシリカゲル(アズワン社製のシリカゲルAS0030の30g入りパック)を1パック装入した以外は実施例1βと同様にして保管試験を行い、接合強度を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0061】
〔比較例1β〕
包装袋を用いない(裸の状態)以外は実施例1βと同様にして保管試験を行い、接合強度を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2から理解できるように、表面粗化アルミニウム系金属部材を、23℃における包装体内部の容積絶対湿度が1g/m以上19g/m以下である包装体の形態で保存した実施例1α、実施例1β、実施例2αおよび実施例2βにおいては、金属/樹脂複合構造体(接合体)の接合力の低下が抑制された。すなわち、金属部材αおよび金属部材βにおいて、裸状態(包装袋無し)の保管(比較例1αおよび比較例1β)では保管期間1~3週間程度で接合強度は大きく低下する傾向を示すが、23℃における包装体内部の容積絶対湿度が1g/m以上19g/m以下である包装体中あるいは更にシリカゲルを共存させた低湿状態の包装体中で金属部材αおよび金属部材βを保管した場合には接合強度の低下がより抑制されることが理解できる。
【符号の説明】
【0064】
103 金属部材
104 接合部表面
105 樹脂部材
106 金属/樹脂複合構造体
110 表面
図1