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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】水質監視システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20230913BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20230913BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01N21/3577
G01N33/18 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017215501
(22)【出願日】2017-11-08
(65)【公開番号】P2019086427
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-04-13
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 祐子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
【合議体】
【審判長】石井 哲
【審判官】櫃本 研太郎
【審判官】渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-229920(JP,A)
【文献】特開2015-14527(JP,A)
【文献】特開2004-136208(JP,A)
【文献】特開2011-36840(JP,A)
【文献】特開平11-275429(JP,A)
【文献】計測と制御 第40巻 第4号 公益社団法人 計測自動制御学会 (2001年4月 発行) 第279~285頁
【文献】平成25年度 農業農村工学会大会講演会 講演要旨集 公益社団法人 農業農村工学会 (平成25年9月 発行) 第578~579頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
G01N 33/00
G01N 33/18
G01N 33/26-33/32
C02F 1/00
G03B 15/00
G08B 23/00-31/00
H04N 5/222-5/257
H04N 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理プロセスにおける水質を監視する水質監視システムであって、
水処理装置と、
前記水処理装置の水面上方に設けられた観測手段と
種々の既知物質に関するスペクトル情報を予め記録する記憶部を備え、
前記観測手段は、紫外から赤外領域の複数の波長域のスペクトル情報を取得することで、被処理水及び/又は処理水の水面状態に関する情報を得るものであり、
前記被処理水及び/又は前記処理水の水面状態に関する情報は、種々の異物の混入検知に関するものであることを特徴とする、水質監視システム。
【請求項2】
前記観測手段は、前記波長域のスペクトル情報を経時的に取得することを特徴とする、請求項1に記載の水質監視システム。
【請求項3】
前記観測手段は、前記波長域の情報とともに、二次元の位置情報を合わせて取得することを特徴とする、請求項1又は2に記載の水質監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理プロセスにおける水質を監視する水質監視システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水処理場、排水処理場、浄水場等の水処理プロセスでは、下排水処理場への流入水や、浄水場等に流入する導水の水質を監視するための水質監視システムが利用されている。
例えば、特許文献1には、水質監視システムとして、微生物センサーによる毒物検知装置と、この毒物検知装置の出力信号を受けて試料水を連続的に採取する採水装置と、採取された試料水を定量分析する化学分析装置と、この化学分析装置からの信号を受けて毒物の発生源を推定する毒物流出地域判定装置を備える水質監視システムが記載されている。
特許文献1には、毒物検知装置は、固定化微生物膜と溶存酸素電極を組み合わせてなる微生物センサーにより、対象となる被処理水中のフェノール、シアン、重金属などを10~20分で検知するものであること、また、毒物を検知した場合に採水装置を駆動して複数個の試料水容器に一旦収納し、成分分析装置で毒物の特定を行うものであることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-10921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、監視対象を検知してから採水を行い、さらに成分分析装置による定量分析を行うような水質監視システムでは、採水や定量分析に時間を要するため、水質異常に対する対応が遅れる可能性がある。また、定量分析を行う分析装置は、検知する監視対象によって異なる手法の装置を設ける必要があり、システム全体として大掛かりなものになるという問題がある。
また、水処理プロセスにおける水質監視対象は、水中の重金属だけではなく、油、洗剤などの有害物質、さらには固体状物質であるスカムなどがあり、複数の相(水相・油相、固体・液体)及び水中での存在形態が異なるもの(溶解・分散)について一度に検出することが求められている。
【0005】
本発明の課題は、水処理プロセスにおける水質の監視において、採水・分析の手間を軽減し、異物の種類や状態を問わず検知可能な水質監視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、水処理プロセスにおける水質の監視において、紫外から赤外領域の複数の波長域の情報を、それぞれのスペクトルの経時変化として取得することにより、採水・分析をすることなく、さまざまな種類の異物を検知できることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の水質監視システムである。
【0007】
上記課題を解決するための本発明の水質監視システムは、水処理プロセスにおける水質監視システムであって、水処理装置と、前記水処理装置の水面上方に設けられた観測手段とを備え、前記観測手段は、紫外から赤外領域の複数の波長域の情報について、それぞれのスペクトルの経時変化として取得することで、被処理水の水面状態に関する情報を得るという特徴を有する。
本発明の水質監視システムは、紫外から赤外領域の複数の波長域のスペクトルを取得するため、1つの波長による観測では検知できないような種々の物質についても検知が可能であり、被処理水又は処理水の水面状態の変化を確実に捉えることができる。また、スペクトルの経時変化として情報を得るため、水面状態の変化のタイミングを迅速に検知することが可能となる。さらに、被処理水の水路上方から観測することにより、採水も不要となる。
【0008】
また、本発明の水質監視システムの一実施態様としては、被処理水及び/又は処理水の水面状態に関する情報が、異物の混入検知に関するものであるという特徴を有する。
この特徴によれば、採水の手間なく異物混入を検知することができるため、異物除去などの迅速な対応を実現することが可能となる。また、スカムのように目視可能な異物はもちろん、油、洗剤、重金属等のように目視では被処理水又は処理水と区別ができない異物についても検知が可能であるため、さまざまな物質を検知対象として扱うことができる。
【0009】
また、本発明の水質監視システムの一実施態様としては、観測手段は、波長域の情報とともに、二次元の位置情報を合わせて取得するという特徴を有する。
この特徴によれば、観測範囲における水面状態が変化した位置や領域を特定することが可能となる。特に、異物混入の検知では、異物の大きさや、異物が混入している領域などの二次元の情報を得られることから、異物の種類だけでなく、大きさや混入領域等の情報に応じた適切な対応が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、水処理プロセスにおける被処理水の流入時及び/又は処理水の流出時の水質の監視において、採水・分析を必要とせず、また複数種類の計測器を設けることもなく、被処理水の水面状態に関する情報を得ることで、さまざまな異物を検知可能な水質監視システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第一の実施態様に係る水質監視システムの構造を示す概略説明図である。
図2】本発明の第一の実施態様に係る水質監視システムを用いた観測例に使用する観測対象の写真のイメージ図である。
図3】本発明の第一の実施態様に係る水質監視システムを用いた観測例のスペクトルグラフを示す図である。
図4】本発明の第一の実施態様に係る水質監視システムを用いて観測されたスペクトルグラフの解析例である。
図5】本発明の第二の実施態様に係る水質監視システムの構造を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る水質監視システムの実施態様を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載する水質監視システムについては、本発明に係る水質監視システムを説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0013】
本発明に係る水質監視システムは、水処理装置の水面上方に、観測手段を設けるものであり、観測手段は紫外から赤外領域の複数の波長域の情報を、それぞれのスペクトルの経時変化として取得可能なものであることを特徴とする。
【0014】
[第一の実施態様]
図1には、本発明の第一の実施態様に係る水質監視システム100の概略説明図が図示されている。
本実施形態に係る水質監視システム100は、各種の水処理プロセスに係る水質を連続的に監視するためのシステムであり、図1に示すように、水処理装置1における処理水Wの流出水路2の上部に、観測手段3と解析手段4を設けたものである。
【0015】
水処理装置1は、水処理に係る公知の装置であれば特に種類は問わない。例えば、下水処理場、廃水処理場、食品工場、製薬工場等の有機性排水処理設備、メッキ工場等の無機性排水処理設備、浄水場等の上水処理設備等に利用される装置である。より具体的には、沈砂地設備、沈殿池設備、曝気槽、好気反応槽、嫌気反応槽、オキシデーションディッチ槽、凝集槽、沈殿槽、汚泥濃縮設備、汚泥消化設備、貯留タンク、消毒設備等の排水処理設備、着水井、フロック形成池、沈殿池、ろ過池、配水池等の上水処理設備等が挙げられる。なお、本発明の水処理装置1とは、水処理を実施する水処理槽11、水処理槽11に被処理水を流入する流入水路、処理水を流出する流出水路2だけでなく、複数の水処理装置を連結する水路等も含むものである。
【0016】
流出水路2は、上記水処理槽11で処理された処理水Wが流出するための水路であり、観測手段3を備えている。流出水路2に観測手段3を設けることにより、処理水Wの異常を迅速に検知し、次工程への異物の流入を防止することができる。
流出水路2は、上面が開放された水路であり、観測手段3により処理水Wの水面を直接に観測する。なお、流出水路2は、断面矩形や断面円形の水路管であってもよい。また、断面矩形又は断面円形の水路管の場合には、観測手段3を流出水路2の内部に設けて処理水Wの水面を直接に観測しても、流出水路2の一部に観測窓を設け、観測窓を介して処理水Wの水面を観測してもよい。
【0017】
また、観測手段3は、水処理槽11や、水処理槽11に被処理水を流入する流入水路等に設けてもよく、水処理槽、流入水路及び流出水路等に複数のに設けてもよい。流入水路に観測手段3を設ける場合には、水処理槽11に異物が流入することを防止し、水処理槽11における処理を安定化することができる。なお、流入水路は、流出水路2と同様、上面が開放された水路や、断面矩形や断面円形の水路管により形成される。
【0018】
観測手段3は、紫外から赤外領域の複数の波長域の情報を取得し、それぞれのスペクトルの経時変化を観測するものである。これにより、被処理水又は処理水の水面状態の変化に関する情報が得られる。また、複数の波長域の情報を取得できるため、種々の異物を検知することができる。つまり、し渣やスカム等のように目視可能な異物はもちろん、油、洗剤、重金属などのように人の目では処理水Wと区別ができない異物についても検知が可能となり、さまざまな物質を監視及び検知対象として扱うことができる。また、経時変化を連続的に観測することで、被処理水又は処理水の表面状態の変化のタイミングを迅速に検知することが可能となる。
【0019】
本実施形態における観測手段3は、計測部31と記憶部32からなり、計測部31としてハイパースペクトルカメラを設置している。
計測部31のハイパースペクトルカメラは、二次元の位置情報と、数十バンド以上に分光されたスペクトルの情報とを同時取得するものである。これにより、一定の観測範囲における紫外から赤外領域までの複数の波長域の情報(スペクトル)を取得することが可能となる。計測部31では、少なくとも10nm間隔でスペクトルを取得可能であることが望ましく、5nm間隔以下であることがより好ましい。なお、取得するスペクトルは、反射、吸収、透過のいずれであってもよい。
【0020】
記憶部32は、計測部31で得られた測定結果を入力可能に接続したもので、時間ごとの測定結果を蓄積して記憶することで、スペクトルの経時変化に係る情報を得ることができる。また、通常運転時のスペクトル情報や水質に異常が発生した時のスペクトル情報に係るデータベースとしても使用される。
【0021】
なお、計測部31としてハイパースペクトルカメラを用いることで、取得する情報として観測範囲における位置情報が加わり、異物が存在する場所の特定が可能となる。そのため、異物の大きさや、異物が混入している領域などの二次元の情報を得られることから、異物の種類だけでなく、大きさや混入領域等の情報に応じた適切な対応が可能となる。例えば、流入水路や流出水路の一部に異物が混入した場合には、被処理水の流入や処理水の流出をすべて停止するまでもなく、異物が混入した領域のみを排水して異物を除去する等の対応や、異物のみを掬い取る等の対応が可能である。
【0022】
解析手段4は、観測手段3から得られた測定結果に基づき、水質状態を判断するための解析を行うものであり、演算部41、表示部42を備える。
演算部41は、記憶部32に記録された情報を基に解析を行うものである。例えば、解析に必要なプログラムをCPU等のプロセッサにより実行する計算装置である。
また、表示部42は、演算部41における解析結果を画像として表示させるとともに、必要に応じて警告を発するものである。例えば、画像と警告音が出力できるモニターであり、画像検索や警告の条件設定などを行うための入力手段が接続されていることが好ましい。
【0023】
演算部41における解析の例として、平均波長強度解析やNDSI解析が挙げられる。
平均波長強度解析は、特定波長間のスペクトル強度の平均によるもので、以下の式(1)を用いる。
【0024】
[式1]
【0025】
また、NDSI解析は、特定の2波長間の反射率の傾きによるもので、以下の式(2)を用いる。なお、NDSIとは、Normalized Difference Spectral Indexの略である。
【0026】
[式2]
【0027】
図2図4は、ハイパースペクトルカメラによる観測例である。
図2は、観測対象の写真のイメージ図である。観測対象は、活性汚泥を含む処理水Wであり、この処理水Wに異物として洗剤を混入し、静置したものである。これを目視すると、図2に示すように洗剤が混入した部分はやや白くなっており、処理水Wとは区別できる状態である。この処理水Wをハイパースペクトルカメラにより測定した結果を図3に示す。図2中の(A)~(C)は、スペクトルグラフの測定箇所を示す。なお、測定は紫外から赤外領域の反射スペクトルを計測した。
【0028】
図3は、図2の各測定箇所(A)~(C)におけるスペクトルグラフである。図3に示すように、測定箇所(A)と測定箇所(C)を比較すると、目視による差異があると共に、全測定波長において、大きな差異が認められた。一方、測定箇所(B)と測定箇所(C)を比較すると、目視では差異が認識できないが、測定箇所(C)とは異なるスペクトルグラフが示された。これは、洗剤が混入した箇所の周辺において、洗剤が溶解して拡散していることによると考察される。このようにハイパースペクトルカメラを用いることにより、目視により視認できないような物質の混入を検知することができる。
【0029】
また、測定箇所(B)と測定箇所(C)におけるスペクトルグラフを見ると、紫外~可視光領域ではほとんど差がないが、赤外領域のほうで差が見られた。このようにハイパースペクトルカメラを用いることにより、紫外から赤外領域の複数の波長域の情報が得られることから、物質の種類によって分光特性が異なる場合であってもスペクトルグラフの変化を検知することができる。
【0030】
図4は、ハイパースペクトルカメラで得られた測定結果(図3)を演算部41により解析し、表示部42で示す画像のイメージ図である。解析は、平均波長強度解析により行い、図3における破線で囲まれた波長領域を解析に使用した。
図4に示すように、観測範囲における平均波長強度を分布として画像表示することで、異物(洗剤)の混入している箇所が視覚的にも確認しやすくなる。特に、目視により検知できない異物の混入箇所の特定が容易になる。
【0031】
異物の検知では、このスペクトル情報を記憶部32に経時的に記録していくことにより、正確に異物混入のタイミングを検知することが可能となる。
また、他の実施形態として、記憶部32に記憶された通常運転時のスペクトル情報を、演算部41において基準値として設定し、設定した基準値と計測部31で得られる測定結果との差を求め、この差が一定範囲を超えたときに、表示部42を介して警告を発してもよい。
【0032】
その他の実施形態として、記憶部32に種々の既知物質に関するスペクトルグラフのリストを予め記録しておき、測定された検知物質のスペクトルグラフの結果と、予め記録された既知物質のスペクトルグラフのリストとを比較することにより、検知物質の特定や、その濃度を特定することも可能である。
【0033】
また、水質の異常(例えば、異物混入)が検知された場合に、異常に対応するための装置を設けてもよい。異常に対応するための装置としては、例えば、水路への水の供給停止を制御する制御装置、薬剤を添加する薬剤添加装置、希釈水を添加する希釈水供給装置、固形物を回収するための固形物回収装置などが挙げられる。
【0034】
なお、上述した実施態様は水質監視システムの一例を示すものである。本発明に係る水質監視システムは、上述した実施態様のように、異物の混入を検出するための水質監視システムに限られるものではなく、本発明の水質監視システム100を、水処理装置1の正常な処理の監視のために利用してもよい。
【0035】
例えば、本実施態様の水質監視システムは、水処理プロセスにおける汚泥の種類及び状態判別手段として利用することが可能である。汚泥を測定して得られる分光スペクトルは、汚泥の種類及び状態によって異なる傾向を示すと考えられる。特にスペクトル差の大きい特定の2波長間を選択し、NDSI解析を行うことで、汚泥の種類及び状態判別に利用可能となる。
【0036】
[第二の実施態様]
図5には、本発明の第二の実施態様に係る水質監視システム101の概略説明図が図示されている。
本実施形態に係る水質監視システム101は、図5に示すように、水処理装置1における水処理槽11の上部に、観測手段3と解析手段4を設けたものである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の水質監視方法は、水処理プロセスにおける被処理水の流入時及び/又は処理水の流出時の水質管理に利用される。例えば、下水処理場、廃水処理場、浄水場等における各水路での水質異常の検知のために利用される。
【符号の説明】
【0038】
100,101 水質監視システム、1 水処理装置、11 水処理槽、2 流出水路、3 観測手段、4 解析手段、31 計測部、32 記憶部、41 演算部、42 表示部、W 処理水
図1
図2
図3
図4
図5