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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20230913BHJP
   C03C 3/247 20060101ALI20230913BHJP
   C03C 3/253 20060101ALI20230913BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C03C3/068
C03C3/247
C03C3/253
G02B1/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017235216
(22)【出願日】2017-12-07
(65)【公開番号】P2018108920
(43)【公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-04-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2016254562
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】小栗 史裕
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】増山 淳子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-107810(JP,A)
【文献】特開2013-126935(JP,A)
【文献】特開2013-47168(JP,A)
【文献】特開2012-46410(JP,A)
【文献】特開2015-67536(JP,A)
【文献】特開2013-63888(JP,A)
【文献】特開2016-153355(JP,A)
【文献】特開2007-269584(JP,A)
【文献】特開2005-170782(JP,A)
【文献】特開2016-124726(JP,A)
【文献】特開昭59-146952(JP,A)
【文献】特開2000-128569(JP,A)
【文献】特開平6-24789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
La成分 20.0超~75.0%、
成分 0超~48.0%、
Al成分 0~28.0%、及び
SiO成分 0%超~35.0%、
Bi成分を0~1.0%未満
含有し、
Hfを実質的に含まず、
Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の合計が61.2%以上86.0%以下、
(TiO+WO+Bi)/(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO+Bi)の質量比が0.42以上1.00以下、
(Al+ZrO)/(B+SiO)の質量比が0.31以下、
(Y+Gd+Yb)/Laの質量比が0.43以下であり、
外割りの質量%で、F成分を0超42.0%以下含有し、
屈折率(nd)が1.65以上、アッベ数(νd)が35.0以上である光学ガラス。
【請求項2】
質量%で、
ZnO成分 0~42.0%、
BaO成分 0~46.0%、
Nb成分 0~22.0%、
成分 0~47.0%、
Gd成分 0~31.0%、
Yb成分 0~15.0%、
TiO成分 0~21.0%、及び
WO成分 0~24.0%
である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量%で、
(Y+Gd+Yb)の質量和が0%以上39.0%以下である請求項1から2のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量%で、
RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量和が20.0%以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
質量%で、
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の質量和が0%以上50.0%以下である請求項1から4のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
質量%で、
ZrO成分 0~20.0%、
Ta成分 0~15.0%、
MgO成分 0~15.0%、
CaO成分 0~15.0%、
SrO成分 0~15.0%、
LiO成分 0~17.0%、
NaO成分 0~17.0%、
O成分 0~17.0%、
成分 0~15.0%、
GeO成分 0~10.0%、
Ga成分 0~15.0%、
TeO成分 0~10.0%、
SnO成分 0~3.0%、及び
Sb成分 0~1.0%
を含有する請求項1から5のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
部分分散比(θg,F)が0.515以上である請求項1から6のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項10】
請求項9に記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器や、プロジェクタやプロジェクションテレビ等の画像再生(投影)機器等の各種光学機器の分野では、光学系で用いられるレンズやプリズム等の光学素子の枚数を削減し、光学系全体を軽量化及び小型化する要求が強まっている。
【0003】
光学素子を作製する光学ガラスの中でも特に、光学系全体の軽量化及び小型化を図ることが可能な、高い屈折率(n)を有し、35.0以上60.0以下の高いアッベ数(ν)を有する高屈折率低分散ガラスの需要が非常に高まっている。このような高屈折率低分散ガラスとしては、特許文献1に代表されるようなガラス組成物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-126586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載されたガラスでは、屈折率(n)が小さい問題点があった。そのため、35.0以上60.0以下の高いアッベ数(低分散)を有しながらも、高い屈折率(n)を有する光学ガラスが求められていた。
【0006】
他方で、色収差のうち青色領域の収差(二次スペクトル)の補正において、光学設計で着目される光学特性の指標として、部分分散比(θg,F)が用いられている。部分分散比(θg,F)は、下式(1)により示される。
θg,F=(n-n)/(n-n)・・・・・・(1)
【0007】
ここで、低分散の凸レンズと高分散の凹レンズとを組み合わせて色収差の補正を行う光学系では、低分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の大きい光学材料を用い、高分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の小さい光学材料を用い、これらを組み合わせることで、二次スペクトルを補正できる。
【0008】
しかし、特許文献1に記載されたガラスでは、部分分散比が小さく、二次スペクトルを補正するレンズとして用いるには十分でなかった。すなわち、高い屈折率(n)及び高いアッベ数(ν)を有しながらも、部分分散比(θg,F)の大きい光学ガラスが求められていた。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高屈折率及び低分散を有し、且つ安定性の高い光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供することにある。
また、本発明は、高屈折率及び低分散を有し、且つ色収差の補正に好ましく用いられる光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、B成分、La成分及びF成分にSiO成分及びAlを併用しながらも、各成分の含有量を調整することによって、ガラスにおいて高屈折率及び低分散化が図られながらも、ガラスの安定性が高められることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本発明者は、各成分の含有量を調整することによって、高屈折率及び低分散化が図られながらも、ガラスの部分分散比がより一層高められることも見出した。
具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)質量%で、
La成分 20.0超~75.0%B成分 0超~48.0%、
Al成分 0~28.0%、及び
SiO成分 0~35.0%
含有し、
外割りの質量%で、F成分を0超42.0%以下含有し、屈折率(n)が1.65以上、アッベ数(ν)が35.0以上である光学ガラス。
【0012】
(2)質量%で、
ZnO成分 0~42.0%、
BaO成分 0~46.0%、
Nb成分 0~22.0%、
成分 0~47.0%、
Gd成分 0~31.0%、
Yb成分 0~15.0%、
Bi成分 0~15.0%、
TiO成分 0~21.0%、及び
WO成分 0~24.0%、
である(1)記載の光学ガラス。
【0013】
(3)質量%で、
(Y+Gd+Yb)の質量和が0%以上39.0%以下である(1)から(2)のいずれか記載の光学ガラス。
【0014】
(4)質量%で、
Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の合計が20.0%超86.0%以下である(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0015】
(5)(Y+Gd+Yb)/Laの質量比が0以上1.50以下である(1)から(4)のいずれか記載の光学ガラス。
【0016】
(6)質量%で、
RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量和が20.0%以下である(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
【0017】
(7)質量%で、
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の質量和が0%以上50.0%以下である(1)から(6)のいずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(8)質量%で、
ZrO成分 0~20.0%、
Ta成分 0~15.0%、
MgO成分 0~15.0%、
CaO成分 0~15.0%、
SrO成分 0~15.0%、
LiO成分 0~17.0%、
NaO成分 0~17.0%、
O成分 0~17.0%、
成分 0~15.0%、
GeO成分 0~10.0%、
Ga成分 0~15.0%、
TeO成分 0~10.0%、
SnO成分 0~3.0%、及び
Sb成分 0~1.0%
を含有する(1)から(7)のいずれか記載の光学ガラス。
【0019】
(9)(TiO+WO+Bi)/(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO+Bi)の質量比が0以上3.00以下である(1)から(8)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(10)部分分散比(θg,F)が0.515以上である(1)から(9)のいずれか記載の光学ガラス。
【0021】
(11)(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム。
【0022】
(12)(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【0023】
(13)(11)に記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高屈折率及び低分散を有し、且つ安定性の高い光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供できる。
また、本発明によれば、高屈折率及び低分散を有し、且つ色収差の補正に好ましく用いられる光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本願の実施例のガラスについての屈折率(n)とアッベ数(ν)の関係を示す図である。
図2】本願の実施例のガラスについての部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)の関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の光学ガラスは、酸化物基準の質量%で、La成分を20.0超~75.0%、B成分を0超~48.0%、Al成分を0~20.0%及びSiO成分を0~35.0%含有し、酸化物基準の質量に対する外割りの質量%で、F成分を0%超42.0%以下含有し、1.65以上の屈折率(n)と、35.0以上のアッベ数(ν)とを有する。
成分、La成分及びF成分にSiO成分及びAlを併用しながらも、各成分の含有量を調整することによって、ガラスにおいて高屈折率及び低分散化が図られながらも、ガラスの安定性が高められる。このため、高屈折率及び低分散を有し、且つ安定性の高い光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供できる。
また、各成分の含有量を調整することによって、高屈折率及び低分散化が図られながらも、ガラスの部分分散比がより一層高められる。このため、高屈折率及び低分散を有し、且つ色収差の補正に好ましく用いられる光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供できる。
【0027】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所について適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0028】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」は、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解されて酸化物に変化すると仮定した場合に、当該酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0029】
<必須成分、任意成分について>
成分は、0%超含有することで、ガラス内部で網目構造を形成し、安定なガラス形成を促して耐失透性を高められ、且つアッベ数を大きくできる必須成分である。従って、B成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは6.0%を下限とする。
他方で、B成分の含有量を48.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられ、且つ化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B成分の含有量は、好ましくは48.0%、より好ましくは40.0%未満、さらに好ましくは35.0%未満、さらに好ましくは28.0%、さらに好ましくは25.0%未満を上限とする。
成分は、原料としてHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いることができる。
【0030】
La成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散性を維持する成分である。La成分を20.0%超含有することで、所望の高屈折率を得ることができる必須成分である。従って、La成分の含有量は、好ましくは20.0%超、より好ましくは24.0%、さらに好ましくは27.0%、さらに好ましくは30.0%超、さらに好ましくは35.0%超を下限とする。特に、La成分を40.0%超含有することで、分散を過剰に大きくすることなく屈折率を高めることが出来る。従って、好ましくは40.0%超、さらに好ましくは45.0%超、さらに好ましくは48.0%、さらに好ましくは50.2%を下限とする。
一方、La成分の含有量を75.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高め、ガラスの比重の増加を抑えられ、且つ生産コストを低くすることができる。従って、La成分の含有量は、好ましくは75.0%、より好ましくは70.0%未満、さらに好ましくは65.0%未満、さらに好ましくは62.0%、さらに好ましくは58.0%を上限とする。
La成分は、原料としてLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)等を用いることができる。
【0031】
SiO成分は、0%超含有することで、ガラス融液の粘度の上昇、且つ耐失透性を高められる任意成分である。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは1.5%を下限としてもよい。
他方で、SiO成分の含有量を35.0%以下にすることで、SiO成分を熔融ガラス中に熔解し易くし、高温での熔解を回避することができる。SiO成分の含有量は、好ましくは35.0%、より好ましくは25.0%未満、さらに好ましくは20.0%未満、さらに好ましくは15.0%未満、さらに好ましくは10.0%未満を上限としてもよい。
SiO成分は、原料としてSiO、KSiF、NaSiF等を用いることができる。
【0032】
F成分は、0%超含有することで、ガラスの部分分散比を高め、且つガラス転移点を下げる必須成分である。特に、F成分を含有することで、高い部分分散比を有しながらも、着色の少ない光学ガラスを得られる。従って、F成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは2.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは4.2%超を下限とする。
他方で、F成分の含有量を42.0%以下にすることで、ガラスの比重の上昇を抑えられ、且つガラスを失透し難くできる。従って、F成分の含有量は、好ましくは42.0%、より好ましくは35.0%未満、さらに好ましくは29.0%、さらに好ましくは24.0%、さらに好ましくは19.0%、さらに好ましくは14.0%、さらに好ましくは11.0%を上限とする。
F成分は、原料としてZrF、AlF、NaF、CaF、LaF等を用いることができる。
【0033】
Al成分は、0%超含有する場合に、安定なガラスを形成し易くできる任意成分である。
他方で、Al成分の含有量を28.0%以下にすることで、屈折率の低下、耐失透性の悪化を抑制できる。従って、Al成分の含有量は、好ましくは28.0%、より好ましくは20.0%未満、さらに好ましくは15.0%未満、さらに好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.3%未満、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.6%を上限としてもよい。
Al成分は、原料としてAl、Al(OH)、AlF、等を用いることができる。
【0034】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を改善でき、ガラス転移点を低くでき、且つ失透を低減できる任意成分である。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは1.5%を下限としてもよい。
他方で、ZnO成分の含有量を42.0%以下にすることで、屈折率の低下や失透を低減できる。また、これにより熔融ガラスの粘性が高められるため、ガラスへの脈理の発生を低減できる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは42.0%以下、より好ましくは35.0%未満、さらに好ましくは20.0%未満、さらに好ましくは15.0%未満、さらに好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは7.0%を上限としてもよい。
ZnO成分は、原料としてZnO、ZnF等を用いることができる。
【0035】
BaO成分は、0%超含有することで、ガラスの屈折率や耐失透性を高められ、且つ、ガラス原料の熔融性を高められる任意成分である。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは2.0%、さらに好ましくは5.0%を下限としてもよい。
他方で、BaO成分の含有量を46.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くし、且つガラスの失透を低減することができる。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは46.0%、より好ましくは40.0%未満、さらに好ましくは35.0%未満、さらに好ましくは30.0%未満、さらに好ましくは20.0%未満を上限としてもよい。
BaO成分は、原料としてBaCO、Ba(NO等を用いることができる。
【0036】
Nb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、ガラスの部分分散比を大きくし、且つ耐失透性を高められる任意成分である。そのため、Nb成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限としてもよい。
一方で、Nb成分の含有量を22.0%以下にすることで、Nb成分の過剰な含有によるガラスの耐失透性の低下や、可視光の透過率の低下、高分散化を抑制することが出来る。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは22.0%、より好ましくは16.0%、さらに好ましくは11.0%、さらに好ましくは8.0%を上限としてもよい。
Nb成分は、原料としてNb等を用いることができる。
【0037】
成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。特に、Y成分は、ガラスの比重を小さくできる成分でもある。従って、Y成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは5.0%超を下限としてもよい。
他方で、Y成分の含有量を47.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高められる。従って、Y成分の含有量は、好ましくは47.0%、より好ましくは40.0%未満、さらに好ましくは30.0%未満、さらに好ましくは25.0%未満、さらに好ましくは20.0%未満、さらに好ましくは15.0%未満、さらに好ましくは12.0%を上限としてもよい。
成分は、原料としてY、YF等を用いることができる。
【0038】
Gd成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。従って、Gd成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは2.0%、さらに好ましくは3.0%を下限としてもよい。
他方で、Gd成分の含有量を31.0%以下にすることで、ガラスの比重の上昇を抑え、部分分散比の低下を抑え、且つ、失透を抑えられる。従って、Gd成分の含有量は、好ましくは31.0%、より好ましくは25.0%未満、さらに好ましくは20.0%未満、さらに好ましくは13.0%、さらに好ましくは8.0%を上限としてもよい。
Gd成分は、原料としてGd、GdF等を用いることができる。
【0039】
Yb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及びアッベ数を高められる任意成分である。従って、Yb成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは0.3%を下限としてもよい。
他方で、Yb成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高め、ガラスの長波長側(波長1000nmの近傍)に吸収が生じ難くなるため、ガラスの赤外線に対する耐性を高められる。従って、Yb成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満とする。特に、Yb成分の含有量は、1.0%未満を上限としてもよい。
Yb成分は、原料としてYb等を用いることができる。
【0040】
Bi成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及び部分分散比を高められ、ガラス転移点を低くできる任意成分である。
他方で、Bi成分の含有量を低減することで、アッベ数の低下を抑えられ、且つ可視短波長(500nm以下)の光線透過率の悪化を抑えられる。
従って、Bi成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満を上限としてもよい。
Bi成分は、原料としてBi等を用いることができる。
【0041】
成分、Gd成分及びYb成分の合計量(質量和)は0%以上39.0%以下であることが好ましい。
特に、この質量和を0%超にすることで、ガラスの屈折率及びアッベ数を高められるため、高屈折率低分散ガラスを得易くできる。また、これにより着色を低減できる。従って、Y成分、Gd成分及びYb成分の合計量(質量和)は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは2.0%、さらに好ましくは4.0%を下限としてもよい。
他方で、この質量和を39.0%以下にすることで、耐失透性を高められる。また、Y成分、Gd成分及びYb成分は原料費が高いため、材料コストを抑えることができる。従って、Y成分、Gd成分及びYb成分の合計量(質量和)は、好ましくは39.0%、より好ましくは30.0%未満、さらに好ましくは28.0%、さらに好ましくは26.0%を上限としてもよい。
【0042】
Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、20.0超~86.0%である。
特に、この質量和を20.0%超にすることで、ガラスの屈折率及びアッベ数を高められるため、高屈折率低分散ガラスを得易くできる。また、これにより着色を低減できる。従って、Ln成分の含有量の質量和は、好ましくは20.0%超、より好ましくは30.0%超、さらに好ましくは35.0%超、さらに好ましくは40.0%超、さらに好ましくは45.0%超を下限としてもよい。
他方で、この質量和を86.0%以下にすることで、耐失透性を高められる。従って、Ln成分の含有量の質量和は、好ましくは86.0%、より好ましくは80.0%未満、さらに好ましくは77.0%、さらに好ましくは74.0%を上限としてもよい。
【0043】
La成分の含有量に対するY成分、Gd成分及びYb成分の合計量(質量和)の比率(質量比)は、1.50以下であることが好ましい。これにより、高い屈折率と高い分散を維持しながらも、ガラスの安定性を高め耐失透性が向上する。材料コストを抑えることができる。従って、質量比(Y+Gd+Yb)/Laは、好ましくは1.50、より好ましくは1.00、さらに好ましくは0.80、さらに好ましくは0.65未満を上限としてもよい。
他方で、0超にすることで、ガラスの屈折率を高められ、且つガラスの安定性を高め失透性を改善することができる。質量比(Y+Gd+Yb)/Laは、好ましくは0超、より好ましくは0.05、さらに好ましくは0.10、さらに好ましくは0.15、さらに好ましくは0.20を下限とする。
【0044】
RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の合計量は、20.0%以下が好ましい。これにより、ガラスの屈折率の低下を抑え、且つ耐失透性を高められる。従って、RnO成分の質量和は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%未満、さらに好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満を上限としてもよい。
【0045】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、0%以上50.0%以下が好ましい。これにより、RO成分の過剰な含有による失透を低減でき、且つ屈折率の低下を抑えられる。従って、RO成分の含有量の質量和は、好ましくは50.0%、より好ましくは40.0%未満、さらに好ましくは30.0%未満、さらに好ましくは20.0%未満、さらに好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満を上限としてもよい。
他方で、この和を0%超にすることで、ガラス原料の熔融性やガラスの安定性を高められる。従って、RO成分の合計含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは1.5%を下限としてもよい。
【0046】
TiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、アッベ数を低く調整し、部分分散比を高められ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。そのため、TiO成分の含有量は、好ましくは0%超、好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%超、さらに好ましくは1.5%を下限としてもよい。
一方で、TiO成分の含有量を21.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高められる。また、TiO成分の過剰な含有による失透を抑えられる。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは21.0%、より好ましくは13.0%、さらに好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%未満を上限としてもよい。
TiO成分は、原料としてTiO等を用いることができる。
【0047】
ZrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの高屈折率化及び高分散化に寄与でき、且つガラスの耐失透性を高められる任意成分である。そのため、ZrO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限としてもよい。
一方で、ZrO成分を20.0%以下にすることで、ZrO成分の過剰な含有によるガラスの耐失透性の低下を抑えられる。従って、ZrO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%未満、さらに好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは7.0%を上限としてもよい。
ZrO成分は、原料としてZrO、ZrF等を用いることができる。
【0048】
WO成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、部分分散比を高め、且つガラスの耐失透性を高められる任意成分である。そのため、WO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは0.3%、さらに好ましくは0.5%超を下限としてもよい。
一方で、WO成分の含有量を24.0%以下にすることで、WO成分によるガラスの着色を低減して可視光透過率を高めることができる。従って、WO成分の含有量は、好ましくは24.0%、より好ましくは17.0%、さらに好ましくは14.0%、さらに好ましくは5.0%未満を上限としてもよい。
WO成分は、原料としてWO等を用いることができる。
【0049】
Ta成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、高価なTa成分を15.0%以下に低減することで、ガラスの材料コストが低減されるため、より安価な光学ガラスを作製できる。また、Ta成分の含有量を15.0%以下にすることで、原料の熔解温度が低くなり、原料の熔解に要するエネルギーが低減されるため、光学ガラスの製造コストをも低減できる。従って、Ta成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満を上限とする。特に、より安価な光学ガラスを作製する観点では、Ta成分の含有量は、好ましくは4.0%、より好ましくは3.0%を上限とし、さらに好ましくは1.0%未満とし、最も好ましくは含有しない。
Ta成分は、原料としてTa等を用いることができる。
【0050】
MgO成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の熔融性を高められる任意成分である。
一方で、MgO成分の含有量を15.0%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による、屈折率の低下や耐失透性の低下を抑えられる。従って、MgO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満を上限としてもよい。
MgO成分は、原料としてMgCO、MgF等を用いることができる。
【0051】
CaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高められ、且つ、ガラス原料の熔融性を高められる任意成分である。
一方で、CaO成分の含有量を15.0%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による、屈折率の低下や耐失透性の低下を抑えられる。従って、CaO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満を上限としてもよい。
CaO成分は、原料としてCaCO、CaF等を用いることができる。
【0052】
SrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率や耐失透性を高められ、且つ、ガラス原料の熔融性を高められる任意成分である。
一方で、SrO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くし、且つガラスの失透を低減することができる。従って、SrO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%未満を上限としてもよい。
SrO成分は、原料としてSrCO、SrF等を用いることができる。
【0053】
LiO成分、NaO成分及びKO成分は、少なくともいずれかを0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を改善できる任意成分である。
他方で、LiO成分、NaO成分又はKO成分の含有量を低減することで、ガラスの屈折率の低下を抑えられる。特に、LiO成分の含有量を低減することで、ガラスの部分分散比の低下を抑えられる。従って、LiO成分、NaO成分及びKO成分のうち少なくともいずれかの含有量は、好ましくは17.0%、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満を上限としてもよい。
LiO成分、NaO成分及びKO成分は、原料としてLiCO、LiNO、LiF、NaCO、NaNO、NaF、NaSiF、KCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いることができる。
【0054】
成分は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高められる任意成分である。特に、P成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性の低下を抑えられる。従って、P成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%を上限としてもよい。
成分は、原料としてAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いることができる。
【0055】
GeO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。しかしながら、GeOは原料価格が高いため、その量が多いと材料コストが高くなることで、Gd成分やTa成分を低減することによるコスト低減の効果が減殺される。従って、GeO成分の含有量は、好ましくは15.0%未満、より好ましくは10.0%未満、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは1.0%を上限とし、最も好ましくは含有しない。
GeO成分は、原料としてGeO等を用いることができる。
【0056】
Ga成分は、0%超含有する場合に、ガラスの化学的耐久性を高め、且つガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、Ga成分の各々の含有量を15.0%以下にすることで、これらの過剰な含有によるガラスの耐失透性の低下を抑えられる。従って、Ga成分の各々の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは3.0%を上限としてもいい。
Ga成分は、原料としてGa、Ga(OH)等を用いることができる。
【0057】
TeO成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
しかしながら、TeOは白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を熔融する際、白金と合金化しうる問題がある。従って、TeO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%を上限とし、さらに好ましくは含有しない。
TeO成分は、原料としてTeO等を用いることができる。
【0058】
SnO成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの酸化を低減して熔融ガラスを清澄でき、且つガラスの光線透過率を悪化し難くできる任意成分である。
他方で、SnO成分の含有量を3.0%以下にすることで、熔融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を生じ難くできる。また、SnO成分と熔解設備(特にPt等の貴金属)との合金化が低減されるため、熔解設備の長寿命化を図れる。従って、SnO成分の含有量は、好ましくは3.0%、より好ましくは2.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは含有しない。
SnO成分は、原料としてSnO、SnO、SnF、SnF等を用いることが
できる。
【0059】
Sb成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。
他方で、Sb成分の含有量を1.0%以下にすることで、過度の発泡を生じ難くでき、且つ、熔解設備(特にPt等の貴金属)との合金化を低減できる。従って、Sb成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.5%未満、さらに好ましくは0.3%未満、さらに好ましくは0.1%未満とする。
Sb成分は、原料としてSb、Sb、NaSb・5HO等を用いることができる。
【0060】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0061】
成分の含有量に対する、SiO成分の含有量の比率(質量比)は、0超2.00以下であることが好ましい。粘性増大による成形脈理の抑制の指標となる。ガラスネットワーク形成成分のうち、粘性を高めるSiO成分を多く用いることで成形時の粘性を高め、脈理の発生によるガラスの内部品質の劣化を抑制する。この質量比SiO/Bは、好ましくは0超、より好ましくは0.02超、さらに好ましくは0.05超、さらに好ましくは0.10、さらに好ましくは0.12超を下限とする。
他方で、この比率を2.00以下にすることで、熔融ガラス中に熔解し易くし、高温での熔解を回避することができる。従って、この質量比SiO/Bは、好ましくは2.00、より好ましくは1.50未満、さらに好ましくは1.00未満、さらに好ましくは0.70未満を上限とする。
【0062】
成分の含有量に対する、La成分の含有量の比率(質量比)は、0超20.00以下であることが好ましい。この質量比を0超にすることで屈折率を高めることができる。この質量比La/Bは、好ましくは0超、より好ましくは0.10、さらに好ましくは0.50超、さらに好ましくは1.00超、さらに好ましくは1.50超、さらに好ましくは1.9を下限とする。
他方で、この比率を20.00以下にすることで、ガラスの耐失透性を高め、ガラスの比重の増加を抑えられ、且つ生産コストを低くすることができる。従って、この質量比La/Bは、好ましくは20.00、より好ましくは15.00未満、さらに好ましくは10.00未満、さらに好ましくは8.00、さらに好ましくは5.00未満とする。
【0063】
成分及びSiO成分の含有量の和(質量和)に対する、Al成分及びZrO成分の含有量の和(質量和)の質量比は、3.00以下であることが好ましい。この質量比を3.00以下とすることで、失透性を抑え、アッベ数の低下を抑制できる。中間酸化物の、Al成分、ZrO成分は失透の核形成剤にもなりうるため、網目形成酸化物であるSiO成分、B成分との比率が重要となる。従って、この質量比(Al+ZrO)/(B+SiO)は、好ましくは3.00、より好ましくは1.50未満、さらに好ましくは1.00未満、さらに好ましくは0.50未満、さらに好ましくは0.31を上限とする。
【0064】
TiO成分、WO成分及びBi成分の含有量の和(質量和)は0%以上37.0%以下であることが好ましい。
特に、この質量和を0%超とすることで、ガラスの屈折率を高められるため、高屈折率ガラスを得易くでき且つ、部分分散比を高めることができる。従ってTiO成分、WO成分及びBi成分の含有量の和(質量和)は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは1.5%を下限としてもよい。
他方で、この質量和を37.0%以下にすることで、著しい高分散化を抑制、ガラスの着色を低減でき、且つ耐失透性を高められる。従ってTiO成分、WO成分及びBi成分の含有量の和(質量和)は、好ましくは37.0%、より好ましくは30.0%未満、さらに好ましくは28.0%、さらに好ましくは25.0%未満を上限としてもよい。
【0065】
TiO成分、ZrO成分、Nb成分、Ta成分、WO成分及びBi成分の合計量(質量和)に対する、TiO成分、WO成分及びBi成分の合計量(質量和)の質量比は、0以上3.00以下であることが好ましい。この質量比(TiO+WO+Bi)/(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO+Bi)が、0超であることで、高い屈折率を維持しながらも、部分分散比を高めることができる。従って、質量比(TiO+WO+Bi)/(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO+Bi)は、好ましくは0超、より好ましくは0.05、さらに好ましくは0.10%、さらに好ましくは0.15、さらに好ましくは0.20、さらに好ましくは0.26を下限とする。
他方で、この質量比を3.00以下にすることで、ガラスの着色を低減でき、且つ耐失透性を高められる。従って、質量比(TiO+WO+Bi)/(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO+Bi)は、好ましくは3.00、より好ましくは2.00未満、さらに好ましくは1.50未満、さらに好ましくは1.20、さらに好ましくは1.00未満を上限とする。


<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0066】
本発明の光学ガラスには、他の成分を本発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、GeO成分はガラスの分散性を高めてしまうため、実質的に含まないことが好ましい。
【0067】
また、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く各遷移金属成分、例えばHf、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Mo、Ce、Nd等は、それぞれを単独又は複合して少量含有する場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長の光に対して吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0068】
さらに、PbO等の鉛化合物及びAs等のヒ素化合物、並びに、Th、Cd、Tl、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0069】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗熔融した後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて900~1400℃の温度範囲で1~5時間熔融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1200℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、成形型を用いて成形することにより作製される。ここで、成形型を用いて成形されたガラスを得る手段としては、熔融ガラスを成形型の一端に流下するのと同時に、成形型の他端側から成形されたガラスを引き出す手段や、熔融ガラスを金型に鋳込んで徐冷する手段が挙げられる。
【0070】
[物性]
本発明の光学ガラスは、高屈折率及び低分散(高アッベ数)を有する。
特に、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.65、さらに好ましくは1.70を下限とする。この屈折率の上限は、好ましくは1.90以下、より好ましくは1.85以下、さらに好ましくは1.80以下であってもよい。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは35.0、より好ましくは38.0、さらに好ましくは41.0を下限とする。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは65.0を上限とし、より好ましくは64.0未満、さらに好ましくは63.0未満とする。
本発明の光学ガラスは、このような屈折率及びアッベ数を有するため、光学設計上有用であり、特に高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができ、光学設計の自由度を広げることができる。
【0071】
ここで、本発明の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、(-0.01ν+2.10)≦n≦(-0.01ν+2.35)の関係を満たすことが好ましい。本発明で特定される組成のガラスでは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)がこの関係を満たすものであっても、安定なガラスを得られる。
従って、本発明の光学ガラスでは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、nd≧(-0.01ν+2.10)の関係を満たすことが好ましく、n≧(-0.01ν+2.12)の関係を満たすことがより好ましく、n≧(-0.01ν+2.15)の関係を満たすことがさらに好ましい。
他方で、本発明の光学ガラスでは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、n≦(-0.01ν+2.35)の関係を満たすことが好ましく、n≦(-0.01ν+2.30)の関係を満たすことがより好ましく、n≦(-0.01ν+2.27)の関係を満たすことがさらに好ましい。
【0072】
本発明の光学ガラスは、高い部分分散比(θg,F)を有することが好ましい。
より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは0.515、より好ましくは0.520、さらに好ましくは0.525、さらに好ましくは0.528を下限とする。また、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(ν)との関係において、好ましくは(θg,F)≧(-0.00162×ν+0.6150)の関係を満たす。
このように、本発明の光学ガラスでは、希土類元素成分を多く含有する従来公知のガラスよりも高い部分分散比(θg,F)を有する。そのため、ガラスの高屈折率及び低分散化を図りながらも、この光学ガラスから形成される光学素子を、色収差の補正に好ましく用いることができる。
ここで、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは(-0.00162×ν+0.6150)、より好ましくは(-0.00162×ν+0.6200)、さらに好ましくは(-0.00162×ν+0.6250)を下限とする。他方で、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)の上限は、特に限定されないが、概ね(-0.00162×ν+0.6700)以下、より具体的には(-0.00162×ν+0.6650)以下、さらに具体的には(-0.00162×ν+0.6600)以下であることが多い。本発明で特定される組成のガラスでは、部分分散比(θg,F)及びアッベ数(νd)がこの関係を満たすものであっても、安定なガラスを得られる。
【0073】
本発明の光学ガラスは、可視光透過率、特に可視光のうち短波長側の光の透過率が高く、それにより着色が少ないことが好ましい。
特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率80%を示す波長(λ80)は、好ましくは570nm、より好ましくは560nm、さらに好ましくは555nmを上限とする。
また、本発明の光学ガラスにおける、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す最も短い波長(λ)は、好ましくは400nm、より好ましくは390nmを上限とする。
これらにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍になり、可視光に対するガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスを、レンズ等の光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。
【0074】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えば研磨加工の手段、又は、リヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスに対して研削及び研磨等の機械加工を行ってガラス成形体を作製したり、光学ガラスから作製したプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0075】
このように、本発明の光学ガラスから形成したガラス成形体は、様々な光学素子及び光学設計に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子に用いることが好ましい。ガラスの安定性が高められることで、径の大きなガラス成形体の形成が可能になるため、光学素子の大型化を図りながらも、カメラやプロジェクタ等の光学機器に用いたときに高精細で高精度な結像特性及び投影特性を実現できる。
また、部分分散比が高められることで、光学素子を光学系における色収差の補正に有用に用いられるため、例えば光学素子をカメラに用いた場合は撮影対象物をより正確に表現でき、光学素子をプロジェクタに用いた場合は所望の映像をより高精彩に投影できる。
【実施例
【0076】
本発明の実施例(No.1~No.239)のガラスの組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)、分光透過率が5%及び80%を示す波長(λ、λ80)の値を表1~表31に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0077】
実施例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、1100~1300℃の温度範囲の電気炉で2時間にわたって、ガラス原料の熔解と、熔解したガラス原料への攪拌による泡切れを行った後、800~1100℃に温度を下げてさらに攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0078】
実施例のガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)は、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(ν)は、上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(n)、C線(656.27nm)に対する屈折率(n)の値を用いて、アッベ数(ν)=[(n-1)/(n-n)]の式から算出した。
部分分散比は、C線(波長656.27nm)における屈折率n、F線(波長486.13nm)における屈折率n、g線(波長435.835nm)における屈折率nを測定し、(θg,F)=(n-n)/(n-n)の式により算出した。
【0079】
実施例のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02-2003に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200~800nmの分光透過率を測定し、λ(透過率5%時の波長)及びλ80(透過率80%時の波長)を求めた。


















【0080】
【表1】





【0081】
【表2】





【0082】
【表3】





【0083】
【表4】





【0084】
【表5】





【0085】
【表6】





【0086】
【表7】





【0087】
【表8】





【0088】
【表9】





【0089】
【表10】





【0090】
【表11】





【0091】
【表12】





【0092】
【表13】





【0093】
【表14】





【0094】
【表15】





【0095】
【表16】





【0096】
【表17】





【0097】
【表18】





【0098】
【表19】





【0099】
【表20】





【0100】
【表21】





【0101】
【表22】





【0102】
【表23】





【0103】
【表24】





【0104】
【表25】





【0105】
【表26】





【0106】
【表27】





【0107】
【表28】





【0108】
【表29】





【0109】
【表30】





【0110】
【表31】





【0111】
表に示されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.65、より具体的には1.68以上であるとともに、この屈折率(n)は1.90以下、より具体的には1.85以下であり、所望の範囲内であった。
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が35以上、より具体的には36以上であるとともに、このアッベ数(ν)は60.0以下、より詳細には57.0以下であり、所望の範囲内であった。
【0112】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、(-0.01ν+2.10)≦n≦(-0.01ν+2.35)の関係を満たしており、より詳細には(-0.01ν+2.12)≦n≦(-0.01ν+2.30)2.12満たしていた。そして、本願の実施例のガラスについての屈折率(n)及びアッベ数(ν)の関係は、図1に示されるようになった。
これらの光学ガラスは、いずれも失透していない安定なガラスであった。
このため、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にあり、且つ、安定性の高い光学ガラスを得られることが明らかになった。
【0113】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)が0.515以上、より具体的には0.530以上であり、高い値を有していた。
また、本発明の実施例の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で(θg,F)≧(-0.00162×ν+0.6150)の関係を満たしていた。そして、本願の実施例のガラスについての部分分散比(θg,F)及びアッベ数(νd)の関係は、図2に示されるようになった。
これらのことから、本発明の実施例の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)が大きく、この光学ガラスによって得られる光学素子は色収差の補正に有用であることが明らかになった。
【0114】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ80(透過率80%時の波長)がいずれも570nm以下、より詳細には550nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ(透過率5%時の波長)がいずれも400nm以下、より詳細には370nm以下であった。
【0115】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、高屈折率及び低分散を有し、安定性が高く、且つ色収差の補正に好ましく用いられることが明らかになった。
【0116】
さらに、本発明の実施例で得られた光学ガラスを用いて、リヒートプレス成形を行った後で研削及び研磨を行い、レンズ及びプリズムの形状に加工した。また、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、精密プレス成形用プリフォームを形成し、この精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形加工した。いずれの場合も、加熱軟化後のガラスには乳白化及び失透等の問題は生じず、安定に様々なレンズ及びプリズムの形状に加工することができた。
【0117】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。
図1
図2